JP6079522B2 - 鋼板冷却装置及び鋼板冷却方法 - Google Patents

鋼板冷却装置及び鋼板冷却方法 Download PDF

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Description

本発明は、水ミストを用いた鋼板冷却装置及び鋼板冷却方法に関する。特に、本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際の、鋼板温度が300〜500℃の領域での冷却における、冷却状態を均一に制御することができる鋼板冷却装置及び鋼板冷却方法である。
連続式の溶融亜鉛めっき設備において、BH鋼板(焼付硬化型鋼板)等の降伏点伸びを有する鋼板をめっき原板として用い、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、ストレッチャーストレインや腰折れ等の欠陥が製品に発生する場合がある。
腰折れ防止技術として、特許文献1には、腰折れが発生する以前に予め歪を与える技術が示されている。その他、溶融亜鉛めっき鋼板を成形加工するときにストレッチャーストレインが発生することを防止する技術として、例えば、めっき後の調質圧延や、材質設計に関する技術が数多く公開されている。
上記溶融亜鉛めっき設備では、鋼板は溶融亜鉛浴に浸漬された後に引き上げられ、ガスワイピングによって付着量を制御された後に、そのまま冷却されるか、或いは加熱合金化処理を行った後に冷却される。めっき後の冷却方法としては、一般的に、水ミスト冷却やガス冷却が用いられる。短い設備長で効率よく冷却するために、冷却能力の高い水ミスト冷却が選択される場合が多い。一般的に製造される溶融亜鉛めっき鋼板は、板幅が1000mmを超え、最大板幅は1900mmに迫ることもある。このような溶融亜鉛めっき鋼板には幅方向での品質均一性が必要とされる。通常、鋼板では、上記のような加熱・冷却等の温度変化により、材質・形状の変化が起こる場合が多くある。板幅方向での加熱・冷却の均一性は重要な要件であるが、その制御は容易ではない。特に、340BH鋼板のように、500℃以下で降伏点伸びが発生する鋼板では、溶融亜鉛めっき後の冷却過程でストレッチャーストレインが発生する可能性が高く、板幅方向での温度制御が特に重要である。
特許文献2には、水量を多くして鋼板を均一に冷却する技術に関し、ミスト冷却ボックス下部からの水滴漏れ防止を目的として、ミスト冷却ボックスの最下部の給気パッドを、高圧と低圧の2種類を隣接させ、水受けパンを所定位置に配置し、給気パッドからの上昇気流の風速を20m/s以上とする冷却方法が開示されている。
特開2004−107682号公報 特開2000−73125号公報
特許文献2等に開示されるような従来の技術では、溶融亜鉛めっき設備において、鋼板に溶融亜鉛めっきを施す際に生じる、めっき後の冷却過程でのストレッチャーストレインの発生を適切に防止できない場合がある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、溶融亜鉛めっき設備において、鋼板を溶融亜鉛めっきする場合に、従来よりも効果的にストレッチャーストレイン等の欠陥の発生を防止することができる鋼板冷却装置及び鋼板冷却方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特許文献2等の従来の方法では、ノズルヘッダの背後に設置している排気部から一様に排気しているために、水ミストが凝集してなる液滴が鋼板中央部に付着して、局所的な過冷却が発生することがわかった。そして、本発明者らは、この過冷却がストレッチャーストレイン等の欠陥の発生原因であることを見出し、さらに、鋼板冷却装置内の水ミストの粒径を調整すれば、上記過冷却による問題が解消することを見出すことで、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1)上下に開口を有し、内部を鋼板が上向き又は下向きに走行するボックスと、前記ボックスにおいて、鋼板表面に対向する面に形成され、前記ボックス内の排気を行うための1つ以上の排気部と、前記排気部と前記鋼板の間に設置され、走行する前記鋼板に水ミストを噴射するノズルを複数有し、前記鋼板幅方向に延びるノズルヘッダと、前記ボックスの下側開口からの水漏れを防止するシール機構と、前記ボックス内における、前記鋼板幅方向の位置が異なる複数の測定箇所での、前記水ミストの平均粒径値に基づいて、前記排気部からの排気量を制御する排気量制御部と、を備えることを特徴とする鋼板冷却装置。
(2)前記1つ以上の排気部は、前記鋼板幅方向に並ぶ3つ以上の排気部であることを特徴とする(1)に記載の鋼板冷却装置。
(3)前記排気量制御部は、前記粒径測定部が測定した複数の平均粒径値から算出される粒径偏差が30%以内になるように、前記排気部からの排気量を制御することを特徴とする(1)又は(2)に記載の鋼板冷却装置。
(4)前記1つ以上の排気部は、前記鋼板の長手方向に並ぶ2つ以上の排気部を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の鋼板冷却装置。
(5)冷却装置内の排気を行いながら、走行する鋼板に水ミストを噴射して鋼板を冷却する鋼板冷却方法であって、前記鋼板幅方向の位置が異なる複数の測定箇所で前記水ミストの平均粒径値の測定を行い、測定結果をもとに粒径偏差が小さくなるように、排気量を調整しながら鋼板を冷却することを特徴とする鋼板冷却方法。
(6)前記粒径偏差が30%以下になるように前記排気量を調整することを特徴とする(5)に記載の鋼板冷却方法。
本発明によれば、連続溶融亜鉛めっき設備において、鋼板を溶融亜鉛めっきする場合に、従来よりも効果的にストレッチャーストレインの発生を防止することができる。
溶融亜鉛めっき設備における、鋼板冷却装置周辺を模式的に示す図である。 本発明の鋼板冷却装置の内部を模式的に示す図である。 本発明の鋼板冷却装置を模式的に示す断面図(AA断面)である。 水ミストが鋼板を冷却する様子を模式的に示す図である。 従来の鋼板冷却装置の内部を模式的に示す図である。 水ミストの冷却特性を、鋼板温度と冷却能力との関係で示す図である。 従来の鋼板冷却装置を出た後の鋼板の幅方向の温度ムラを示す図である。 幅方向ミスト粒径偏差と鋼板幅方向温度差との関係の一例を示す図である。 平均粒径値(図中のミスト粒径Φ)と遷移沸騰温度T(MHF点)との関係の一例を示す図である。 本発明の鋼板冷却装置を出た後の鋼板の幅方向の温度ムラを示す図である。 実施例におけるノズル噴射孔の配置を示す図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
先ず、本発明の鋼板冷却装置を好ましく適用できる溶融亜鉛めっき設備について説明する。図1は、溶融亜鉛めっき設備における、鋼板冷却装置周辺を模式的に示す図である。溶融亜鉛めっき設備1は、鋼板冷却装置周辺に、鋼板冷却装置10と、溶融亜鉛めっき浴11と、シンクロール12と、合金化処理帯13と、ガスワイピングノズル14と、浴中サポートロール15と、浴上サポートロール16と、走査型放射温度計17を有する。
鋼板冷却装置周辺での、溶融亜鉛めっき設備1の動作は次の通りである。焼鈍炉(図示せず)から出た鋼板Sは、溶融亜鉛めっき浴11内を進行し、シンクロール12によって、その進行方向が上方になる。溶融亜鉛めっき浴11内を上方に進行する鋼板Sは、浴中サポートロール15のロール間を通るため、大きく振動等することなく走行できる。浴中サポートロール15を通った鋼板Sは、さらに上方に進行し、溶融亜鉛めっき浴11から出る。溶融亜鉛めっき浴11から出た鋼板Sの表面には、溶融亜鉛めっき液が付着している。その後、溶融亜鉛めっき浴11から出た鋼板Sは、さらに上方に進行して、ガスワイピングノズル14を通り、鋼板Sの表面に付着した溶融亜鉛めっき液の付着量が調整される。上記付着量が調整された後、鋼板Sは、さらに上方に進行する。この際、鋼板Sは浴上サポートロール16のロール間を通るため、大きく振動等することなくスムーズに走行できる。浴上サポートロール16を通った鋼板Sは、さらに上方に進行し、合金化処理帯13を通り、合金化処理される。合金化処理された鋼板Sは、合金化処理帯13から出て、さらに上方に進行し、鋼板冷却装置10内で冷却される。
また、本発明の鋼板冷却装置10を上記溶融亜鉛めっき設備1に適用する場合には、鋼板冷却装置10を出た鋼板Sの表面の温度を、走査型放射温度計17等の温度測定部によって測定できることが好ましい。
上記溶融亜鉛めっき設備において、鋼板Sがスムーズに走行できる場合には。浴中サポートロール15、浴上サポートロール16はなくてもよい。また、合金化処理を行わない場合には、合金化処理帯13はなくてもよい。
本発明の鋼板冷却装置は、溶融亜鉛めっき設備内に上記のように配置される。図2は、本発明の鋼板冷却装置の内部を模式的に示す図である。図3は、本発明の鋼板冷却装置を模式的に示す断面図(AA断面)である。以下、図2、3を用いて、本発明の鋼板冷却装置を説明する。
図2、3に記載の通り、本発明の鋼板冷却装置10は、ボックス100と、排気部101と、ノズルヘッダ102と、シール機構103と、粒径測定部104と、排気量制御部105と、排気ファン106とを有する(図2、3は左右対称のため、排気部101、粒径測定部104、排気量制御部105等に関しては、左半分を省略)。
ボックス100は、上下に開口を有し、鋼板冷却装置10の外形を形成する。ボックス100の配置方法は特に限定されないが、通常、鋼板Sが下側の開口から進入し上側の開口から出るように、鋼板冷却装置10は溶融亜鉛めっき設備に配置される。
排気部101は、上記ボックス100内の排気を行う。排気部101は、排気を行えるものであればよく、例えば、図2、3に示す鋼板冷却装置10では、排気部101は排気口であり、各排気口は配管等の連結部を介して排気ファン106に接続されている。なお、排気部101の排気量は、後述する排気量制御部105で調整可能である。
本発明において、排気部101の位置や数は特に限定されないが、図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、鋼板Sの一の面と対向するボックス100の側面に排気部101が複数形成される。図示しないが鋼板Sの他の面と対向するボックス100の側面にも同様に排気部101が形成されている。
また、図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、排気部101は、鋼板Sの幅方向及び長手方向に並ぶように複数設けられる。特に、図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、鋼板Sの幅方向において、排気部101は、鋼板幅方向中央と対向する位置、鋼板幅方向の一端に対向する位置、鋼板幅方向の他端に対向する位置に3箇所並んで設けられる。そして、鋼板の長手方向において、鋼板幅方向に並ぶ3つの排気部101が、上下に並ぶように複数形成されている。
ノズルヘッダ102は、上記鋼板Sと排気部101との間に設置される。図2、3に示す鋼板冷却装置10では、鋼板幅方向に延びるノズルヘッダ102が、上下方向(鋼板走行方向)に並ぶように複数設けられる。上下方向に並ぶノズルヘッダ102の間隔は50〜300mmである。
ノズルヘッダ102は、水ミストを噴射するノズル1020を有する。ノズル1020は、ノズルヘッダ102上に、鋼板幅方向に並んで複数個設けられている。ノズル1020の噴射口は鋼板Sの表面に対向している。なお、本発明において水ミストとは気体中に分散させた水粒子と定義する。
シール機構103は、ボックス100の下側開口に設けられ、水漏れを防止する。シール機構103としては従来公知のものを利用できる。例えば、鋼板表面に圧力溜まりを形成する静圧パッド、鋼板近傍で上昇流を形成するガスノズル等が挙げられる。また、水受けパン(図示せず)もボックス100の下側開口に設け、ボックス100の内壁等に付着して下方に流下する液滴を回収してもよい。
粒径測定部104は、鋼板幅方向の位置が異なる複数の測定箇所で水ミストの平均粒径値を測定する。複数の測定箇所で平均粒径値の測定ができ、複数の測定箇所の少なくとも2つが、鋼板幅方向の位置が異なる測定箇所であればよい。なお、複数とは2箇所以上であればよい。上記の通り、平均粒径値とは鋼板冷却装置10内における測定箇所毎の水ミストの平均粒径値であり、鋼板冷却装置10内の水ミスト全体の平均粒径値ではない。なお、粒径測定部1041は鋼板冷却装置10内の水ミストの平均粒径値分布を導出してもよい。
また、粒径測定部104は、上記測定箇所の水ミストの平均粒径値を測定できるものであればよく、例えば、図2に示すように、サンプリング部1040と粒径アナライザー1041から構成される。
なお、ボックス100内の複数個所での平均粒径値や、ボックス100内の平均粒径分布を予め得ており、その結果を利用する場合には、上記粒径測定部104はなくてもよい。
図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、粒径測定部104は、鋼板の幅方向及び長手方向に並ぶように、複数設けられる。特に、図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、鋼板の幅方向において、粒径測定部104は鋼板幅方向中央と対向する位置、鋼板の一端に対向する位置、鋼板の他端に対向する位置に3箇所設けられる。そして、鋼板幅方向に並ぶ上記粒径測定部104の3つが、鋼板長手方向において、上下に並ぶように形成される。
また、図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、鋼板長手方向における、粒径測定部104の位置は、上下に並ぶ2つのノズルヘッダ102の間である。図2、3では、上下に並ぶ4つのノズルヘッダ102毎に1つの粒径測定部104が設けられるが、各ノズルヘッダ102間に粒径測定部104が配置されてもよい。
排気量制御部105は、上記粒径測定部104が測定した平均粒径値に基づいて、排気部101での排気量を制御する。例えば、粒径測定部104で測定した平均粒径値を、排気量制御部105が受信して、鋼板冷却装置10内での平均粒径値のムラ(粒径偏差)が小さくなるように、排気量制御部105が、各排気部101での排気量を制御する。鋼板冷却装置10内での平均粒径値の粒径偏差を小さくできる排気量の制御は、実験やシミュレーションで得られた情報をもとに行えばよい。
本発明では、排気量制御部105は、鋼板の幅方向中央と端の平均粒径値の粒径偏差を小さくするように、排気量を制御できることが好ましい。また、排気量制御部105は、平均粒径値が高い箇所の水ミストの粒径を小さくするように制御することが好ましい。また、排気量制御部105は、鋼板の長手方向下側(鋼板Sが入る側)と上側(鋼板Sが出る側)とで、それぞれに応じて、排気量を制御できることが好ましい。
また、図2に示す鋼板冷却装置10は、各排気部101と排気ファン106との間にダンパ1050、中間ダンパ1051を有し、これらを用いて各排気部101での排気量を調整する。具体的には、ダンパ1050を用いて、各排気部101での排気量を制御し、中間ダンパ1051を用いて、各中間ダンパ1051と連結する各ダンパ1050に割り当てられる、総排気量に対する排気量割合を調整する(図2とは異なり、中間ダンパが複数のダンパと連結する場合には、中間ダンパは、各中間ダンパに連結した複数のダンパ毎に割り当てられる排気量を調整する)。なお、排気部101が、複数の排気口と各排気口に設けられた排気ファンとから構成される場合には、各排気ファンの動作を、平均粒径値に基づいて適宜制御する方法で調整してもよい。
また、排気量制御部105で排気量を調整するにあたっては、ミスト液滴の排出性を向上させるために、ノズルから噴出する空気量に対して十分な排気量(1.5倍以上)にすることが望ましい。しかし、排気量を必要以上に上げると、ミスト液滴及びガスの抜けは向上するが、冷却能力が低下するので設備長が長くなるという弊害がある。このため、設備長が長くなり過ぎないように排気量を決める必要がある。
排気部間仕切り板107は、図3に示す通り、鋼板幅方向に並ぶ排気部101間に設けられる板である。排気部仕切り板107は鋼板長手方向に延び、排気部仕切り板107の幅方向は鋼板幅方向に対して略垂直な方向である(図3では垂直方向)。そして、鋼板長手方向に並ぶノズルヘッダ102と、排気部101が形成されたボックス100の側面との間の空間を仕切るように、排気部仕切り板107は鋼板冷却装置10内に配置される。図2には排気部仕切り板107を示していないが、鋼板長手方向に並ぶ全ての排気部101が鋼板幅方向に隣り合う排気部101と、排気仕切り板107によって仕切られていることが好ましい。
次いで、本発明の鋼板冷却装置の動作及び効果について説明する。
本発明の鋼板冷却装置10の動作は以下の通りである。先ず、鋼板Sが、ボックス100の下側の開口から鋼板冷却装置10内に入り、上向きに走行する。走行する鋼板Sは、ノズル1020から噴射される水ミストと接触することで、冷却される。具体的には、以下のようにして、水ミストが鋼板Sを冷却する。
水ミストは、鋼板Sの表面に向けて、ノズル1020から噴射される。ノズル1020は鋼板幅方向に並んで複数個設けられているため、水ミストは、鋼板S全体とムラ無く接触する。この接触により、鋼板Sと接触した水ミストは、鋼板Sの有する熱を吸収して蒸発するか又は鋼板Sの熱を吸収した後蒸発せずに跳ね返る(図4の破線矢印)。このようにして、水ミストは鋼板Sを冷却する。また、跳ね返った水ミストは、ボックス100内の気体とともに、排気部101からボックス100外へ排出される。このとき、各排気部101からの排気量は、粒径測定部104が測定した平均粒径値に基づいて調整されている。
本発明の効果を説明する前に、従来の鋼板冷却装置の問題点について説明する。図5は、従来の鋼板冷却装置の内部を模式的に示す図である。図5に示す装置は、粒径測定部や排気量制御部を備えない点で本発明の鋼板冷却装置と異なる。また、図5に示す装置は、排気部101の数が図2及び3に示す鋼板冷却装置とは異なる。図5に示す装置では、鋼板Sを挟んで対向する2つの排気部101が排気を行う。その他の構成は、図2及び3に示す装置と同様であるため説明を省略する。従来の鋼板冷却装置10では、鋼板冷却装置10内の平均粒径値を考慮することなく、排気部101から排気を行う。従来の鋼板冷却装置には以下の問題がある。
水ミスト冷却の冷却特性として、図6に示すような水の沸騰現象が関係する(図6は水ミストの冷却特性を、鋼板温度と冷却能力との関係で示す図である)。図6に示すように、水ミスト冷却は膜沸騰領域内であれば、鋼板温度に関わらずほぼ一定の冷却能力になる。しかし、鋼板温度が低下して遷移沸騰領域になると、鋼板温度が低温であるほど冷却能力が大きくなる発散型の冷却形態となり、板幅方向温度差が拡大しやすくなる。特に冷却前の鋼板に加熱ムラがあると、冷却前の板幅方向温度偏差が冷却後は数倍にも拡大することになる。したがって、水ミスト冷却は膜沸騰領域内で行うことが望ましい。遷移沸騰に移行する遷移温度は水量、水ミストの粒径、水温等の様々な条件によって変化する。水ミストの場合、遷移温度は200〜500℃であり、この温度域は、冷却対象となる鋼板の温度の温度域と重複する。このため、水ミストによる冷却では水量制御が非常に重要になる。具体的には、ノズルから噴射されている水量の割合(各ノズルの設定水量を100%としたときの割合)を鋼板幅方向で±10%以内にすればよいとされている。このように、幅方向の水量の割合を±10%以内にコントロールして温度ムラをなくすことで、水量のばらつきにより生じる温度ムラが原因で発生するストレッチャーストレインと呼ばれる欠陥を抑制しようとしている。
従来、水量の調整を行えば、ストレッチャーストレイン等の品質欠陥を生じないと考えられていた。しかし、ノズル1020から噴射される水の水量が鋼板幅方向で±10%以内の範囲で調整できているにもかかわらず、鋼板冷却装置を出た後の鋼板の幅方向の温度ムラを放射温度計で監視すると、図7に示すような幅方向に不均一(概ね温度差50℃以上)が発生する。この温度ムラはストレッチャーストレイン等の品質欠陥を発生させる場合がある。
幅方向温度偏差発生原因(上記温度ムラの原因)について鋭意検討を重ねた結果、この原因は、ノズルから噴射された水ミストが速やかに排出されずにボックス内に留まり、一部が凝集することで水量が増加したような状態となり、遷移沸騰となって局部的な過冷却が発生する点にあることが見出された。さらに水滴が溜まりやすい箇所について調査を進めると、ノズルヘッダと鋼板の間に存在する水ミストの平均粒径値と、過冷却位置に相関があることが判明した(図7の幅方向中央の420μm(水ミストの平均粒径値)、中央より端側の210μm(水ミストの平均粒径値))。
上下に配置されるノズルヘッダ間の間隔が非常に狭いと(本発明のようなタイプの鋼板冷却装置においては、上下に並ぶノズルヘッダ間の間隔は非常に狭い)、ノズルから噴出したミスト及びガスがノズルヘッダ間から排出されにくくなり、その結果、排出されなかった水ミストが凝集して平均粒径値が増加すると考えられる。特に幅方向の端より中央の方が、平均粒径値が高くなる傾向にある。ノズルヘッダの中央部にあるノズルから出た水ミストは、その周囲のノズルから出た水ミストによって囲まれており、ノズルヘッダの間以外に抜け道がないためと考えられる。このように、鋼板冷却装置内での、水ミストの平均粒径値の粒径偏差が品質欠陥の発生原因になり、この粒径偏差を小さくすればストレッチャーストレイン等の欠陥発生を抑えられることが見出された。
ここで、平均粒径値を小さくするとは、例えば、以下の方法で、「小さくする」の程度を決定できる。平均粒径値が最も高い箇所と平均粒径値が最も低い箇所での平均粒径値の差(粒径偏差)を、幅方向の平均粒径を100%としたときの割合(幅方向ミスト粒径偏差)で表し、この割合を横軸、鋼板の幅方向温度差(鋼板の幅方向での最高温度−鋼板の幅方向での最低温度)を縦軸とするグラフを作成し、幅方向の温度差が急激に上昇しない範囲になるように粒径偏差を小さくすればよい。ノズルヘッダ間の間隔が一般的な鋼板冷却装置を、通常の鋼板温度の条件で用いる場合、図8のようになる。図8のような場合には、粒径偏差が30%以下になることが好ましい。
また、平均粒径値(図中のミスト粒径Φ)と遷移沸騰温度T(MHF点)の関係を調査した結果を図9に示す。ミスト粒径Φはザウター平均値を表している。ミスト粒径Φはレーザー回折法で計測した。平均粒径値が増加するにつれて、MHF点Tも増加することが分かった。これはMHF点以下でミスト粒径Φが増加すると、水ミスト粒子一粒あたりの冷却能力が増加するためであると考えられる。前述のとおり、MHF点以下では遷移沸騰域に入り鋼板を均一に冷却できないため、MHF点以下の温度域では本発明の冷却装置は好ましく使用できない。さらに本発明の冷却装置は鋼板温度が300〜500℃の領域での冷却を想定している。そのため、上記の方法で図9のようなグラフを作成した場合に、500℃以上のMHFを示す300μmより大きなミスト粒径Φは不適である。ちなみに300μm以下であればミスト粒径Φの下限は限定しない。また、図9に示す通り、ミスト粒径Φが250μmであれば、MHF点が300℃以下のためより好ましい。
以上の知見をもとに完成された本発明は、以下の効果を奏する。
本発明の鋼板冷却装置10は、粒径測定部104及び排気量制御部105を有する。粒径測定部104は、鋼板幅方向の位置が異なる複数の測定箇所で、水ミストの平均粒径値を測定できる。そして、排気量制御部105を用いれば、粒径測定部104が測定した平均粒径値を用いて、鋼板冷却装置内における水ミストの平均粒径値ムラを小さくするように排気部101からの排気量を調整できる。このため、上記のような調整を行えば、鋼板Sの冷却中でも鋼板冷却装置内の水ミストの平均粒径値ムラが小さくなり、ストレッチャーストレイン等の品質欠陥が起こりにくくなる。なお、ボックス100内の複数個所での平均粒径値や、ボックス100内の平均粒径分布を予め得ており、この予め得たデータを利用して、排気量制御部105で排気量を制御しても同様の効果が得られる。
また、本発明の鋼板冷却装置10において、排気部101が複数形成されることで、複数の位置で排気量の調整ができるようになり、鋼板冷却装置10内の複数個所での水ミストの平均粒径値の調整が容易になる。その結果、鋼板冷却装置10内の上記平均粒径値ムラを生じにくいように調整することが容易となる。特に、鋼板Sの両表面と対抗するボックス100の側面にそれぞれ排気部101を複数設ければ、上記平均粒径値ムラを特に小さくしやすい。
本発明では、排気部101は鋼板の幅方向に複数並んで設けられることが好ましい。図7に示す通り、鋼板の幅方向で特に平均粒径値ムラが生じやすい。排気部101が鋼板の幅方向に複数設けられることで、平均粒径値が大きい箇所、小さい箇所での排気量調整が容易になり、この平均粒径値ムラをより解消しやすい。特に、図2及び3に示すように、鋼板Sの幅方向において、排気部101は、鋼板幅方向中央と対向する位置、鋼板幅方向の一端に対向する位置、鋼板幅方向の他端に対向する位置に3箇所設けられることが、上記の効果を高める上で特に好ましい。また、鋼板幅方向に並ぶのみならず、長手方向にも並ぶことで、鋼板冷却装置10内の平均粒径値を細かく調整しやすくなり、鋼板冷却装置10内の平均粒径値ムラをより小さくできる。図2、3に示すような鋼板冷却装置を用いれば、図10に示す通り、図7の従来例と比較して、平均粒径値ムラが小さくなる。
図2及び3に示す鋼板冷却装置10では、粒径測定部104は、鋼板の幅方向及び長手方向に並ぶように、複数設けられる。平均粒径値の測定箇所が多ければ、鋼板冷却装置内の平均粒径値の分布をより正確に把握できるため好ましい。
本発明では、上記の通り、鋼板の幅方向で平均粒径値ムラが生じやすく、この平均粒径値ムラがストレッチャーストレイン等の欠陥発生に影響を与える。排気量制御部105が鋼板の幅方向中央と端の平均粒径値の粒径偏差を小さくするように、排気量を制御できることで、鋼板幅方向に生じる平均粒径値ムラも容易に抑えられる。
また、平均粒径値のムラにおいて、平均粒径値の大きい状態が欠陥等の問題につながる場合が多い。排気量制御部105が、鋼板冷却装置10内の平均粒径値ムラに対して、平均粒径値の大きい箇所をより小さい平均粒径値に調整できることで、平均粒径値が大きい部分で生じる問題も容易に抑えられる。
また、本発明の完成過程において、鋼板の長手方向上側から排出した水滴径と下側から排出した水滴径では後者の方が大きいことが見出された。これは排気口で排出されなかった水滴が落下し凝集してしまったためと考えられる。凝集した水滴は冷却ムラ発生の原因となるため、速やかに排出する必要がある。排気量制御部105が、鋼板の長手方向下側(鋼板Sが入る側)と上側(鋼板Sが出る側)とで、それぞれに応じて、排気量を制御できれば、鋼板長手方向における上記冷却ムラの問題も容易に抑えられる。
また、鋼板冷却装置10が排気部仕切り板107を有する場合には、鋼板幅方向に並ぶ排気部101間が仕切られているため、より高い精度で排気量制を制御できるので好ましい。特に、鋼板長手方向に並ぶ全ての排気部101が鋼板幅方向に隣り合う排気部101と、排気部仕切り板107によって仕切られていれば、排気量制御の精度がさらに高まるので好ましい。
本発明の鋼板冷却装置10が、走査型放射温度計17を備える溶融亜鉛めっき設備1に適用されれば、鋼板Sの温度ムラを評価でき、この温度ムラから鋼板冷却装置10内の平均粒径値ムラを確認できる。したがって、走査型放射温度計等を用いて、鋼板冷却装置10内の平均粒径値ムラを確認しながら溶融亜鉛めっき鋼板の製造を行うことで、より好ましい製造条件(鋼板冷却装置10内の平均粒径値ムラが小さい条件)に調整しやすい。
なお、生産される鋼板サイズとしては、幅2m以下の範囲で、本発明の上記効果を十分に奏する。また、鋼板温度が300〜500℃の領域での冷却でも、本発明を好ましく利用することができる。
C:0.0008〜0.0040mass%、Si:0.2mass%以下、Mn:2.0mass%以下、P:0.070mass%以下、S:0.020mass%以下、残部Fe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、板厚0.65mmで引張強さTSが340MPaの鋼板を素材鋼板とし、連続式溶融亜鉛めっき設備で溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。連続式溶融亜鉛めっき設備では、鋼板を連続焼鈍した後、浴温470℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、ガスワイピングで亜鉛付着量を45g/mとなるように調整した後、520℃まで加熱して合金化処理し、その後水ミスト冷却帯で300℃まで冷却した。オフライン冷却実験では、遷移沸騰は発生しない水量条件としてある。
排気設備は幅方向に3分割した排気口を設け、さらに各排気口にサンプリング部及び粒径アナライザーを設け、各排気口に設置したダンパの開度が平均粒径値に応じて変更できるようにした。水ミストの平均粒径値は、シリコン油を塗布した板を鋼板冷却装置内に挿入して、サンプリング部で粒子を捕集し、画像解析法で測定した。また、中間ダンパについては鋼板冷却装置を出た鋼板の温度偏差に応じて、手動でダンパ開度を調整した。なお、排気ファンはダンパの連結部に一台設け、風量は3600m/hrの一定出力で運転した。
本発明例では、鋼板冷却装置の出側位置に赤外線サーモグラフィーを設置した。また、冷媒として水と空気を混合させた水ミストを用い、フラットスプレー型ノズルを鋼板幅方向に200mm間隔で9箇所に設け、各冷媒噴射ノズルからの水ミスト噴射量を冷却水流量調整弁による冷却水量の調整によって制御できるようにした。一方、水ミスト用の冷却エアは常時一定圧力(各配管ヘッダ部分で200kPa)で噴射するようにした。なお、ノズルは鋼板進行方向に200mm間隔で40列、隣接する冷媒噴射ノズルが幅方向で50mmずつずれるように、鋼板からノズル噴射口までは200mmで配置されている。より具体的には図11に示す通りである(図11では幅方向に間隔200mmで並ぶ9個のノズルのうち4個分を示す)。
なお、個々の冷媒噴射ノズルに流量計を設置するのが困難な場合は、冷媒噴射ノズル群を鋼板進行方向で複数列単位の複数ゾーンに分けてゾーン毎の冷却水量を測定し、個別のノズルについては、冷媒噴射ノズル直前の流量と流量調整弁開度、配管圧力の関係を予め把握しておき、流量調整弁開度と配管圧力を常時監視することで、適正条件に管理することができる。ノズルヘッダ配置や、排気口の分割数、ダンパ開度などの条件については、表1及び表2に記載する。表1は排気口を幅方向分割した場合、表2は排気口を幅方向及び長手方向に分割した場合を示す。
Figure 0006079522
Figure 0006079522
比較例では、従来の装置の効果を確認するために、排気量制御部を用いない条件で鋼板冷却装置を使用した。比較例では、ミスト液滴の排出が悪いために局所的な過冷却が発生し、その後のプレス加工時にストレッチャーストレインが発生したのに対して、本発明例では、ほぼ均一な温度分布が実現し、ストレッチャーストレインが発生しない鋼板を製造可能となった。
1 溶融亜鉛めっき設備
10 鋼板冷却装置
100 ボックス
101 排気部
102 ノズルヘッダ
1020 ノズル
103 シール機構
104 粒径測定部
1040 サンプリング部
1041 粒径アナライザー
105 排気量制御部
1050 ダンパ
1051 中間ダンパ
106 排気ファン
11 溶融亜鉛めっき浴
12 シンクロール
13 合金化処理帯
14 ガスワイピングノズル
15 浴中サポートロール
16 浴上サポートロール
17 走査型放射温度計

Claims (6)

  1. 上下に開口を有し、内部を300〜500℃の鋼板が上向き又は下向きに走行するボックスと、
    前記ボックスにおいて、鋼板表面に対向する面に形成され、前記ボックス内の排気を行うための1つ以上の排気部と、
    前記排気部と前記鋼板の間に設置され、走行する前記鋼板に水ミストを噴射するノズルを複数有し、前記鋼板幅方向に延びるノズルヘッダと、
    前記ボックスの下側開口からの水漏れを防止するシール機構と、
    鋼板幅方向中央と対向する位置、鋼板の一端と対向する位置、鋼板の他端と対向する位置の少なくとも3箇所の測定箇所で、前記ノズルヘッダと前記鋼板との間で水ミストの平均粒径値を測定する粒径測定部と、
    前記ボックス内における、前記少なくとも3箇所での、前記水ミストの平均粒径値に基づいて、前記排気部からの排気量を制御して、水ミストの平均粒径を302μm以下、粒径偏差を42.4%以下に調整できる排気量制御部と、を備えることを特徴とする鋼板冷却装置。
  2. 前記1つ以上の排気部は、前記鋼板幅方向に並ぶ3つ以上の排気部であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板冷却装置。
  3. 前記排気量制御部は、前記粒径測定部が測定した複数の平均粒径値から算出される粒径偏差が30%以内になるように、前記排気部からの排気量を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板冷却装置。
  4. 前記1つ以上の排気部は、前記鋼板の長手方向に並ぶ2つ以上の排気部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼板冷却装置。
  5. 冷却装置内の排気を行いながら、走行する300〜500℃の鋼板に、鋼板幅方向に延びるノズルヘッダが有する複数のノズルから水ミストを噴射して鋼板を冷却する鋼板冷却方法であって、
    鋼板幅方向中央と対向する位置、鋼板の一端と対向する位置、鋼板の他端と対向する位置の少なくとも3箇所の測定箇所で前記ノズルヘッダと前記鋼板との間において前記水ミストの平均粒径値の測定を行い、測定結果をもとに、水ミストの平均粒径が302μm以下になるように、かつ粒径偏差が42.4%以下になるように、排気量を調整しながら鋼板を冷却することを特徴とする鋼板冷却方法。
  6. 前記粒径偏差が30%以下になるように前記排気量を調整することを特徴とする請求項5に記載の鋼板冷却方法。
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