JP6063714B2 - 膨張型鋼管杭及び杭構造の作成方法 - Google Patents

膨張型鋼管杭及び杭構造の作成方法 Download PDF

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Description

この発明は、住宅等の小規模構造物基礎用の径方向に膨張可能な膨張型鋼管杭及び杭構造の作成方法に関する。
住宅等の小規模構造物を軟弱な地盤上に建設する際、支持地盤の支持力の増加と建築物基礎の沈下を抑制するために、支持地盤に打ち込んだ杭によって建築物基礎を支持する工法が採用されている。小規模構造物の支持杭としては、大規模建築物の支持杭のように地盤の支持層まで貫入させるものでない貫入長が比較的短く小口径の鋼管杭が使用され、所定のピッチで複数打設した鋼管杭によって小規模構造物の基礎が支持される。
例えば、特許文献1には、鋼管杭の先端に三角錐形状のビットを付帯させた杭を使用した住宅基礎杭が記載されている。さらに、特許文献1には、上記鋼管杭によって、打ち込みの際の垂直貫入が容易になるほか、鋼管杭の先端開口を塞ぐビット全体で先端支持力が得られることが記載されている。
特開2011−236718号公報
住宅のような小規模構造物のために鋼管杭を打ち込む場合、工事規模が小さく施工用地も狭いことから小型の施工機械が使用されるため、上述のように貫入長が比較的短く小口径の杭が使用される。このため、先端支持力を増強した特許文献1に記載の鋼管杭を使用した場合でも、地盤との周面摩擦力+先端支持力からなる各杭の支持力は低くなるため、各杭長を長くして周面支持力を増大させるか、又は杭の打設本数を多くすることによって、杭全体から得られる支持力を確保することが行われる。しかしながら、杭長の延長及び杭数の増量はいずれも施工手間を増大させるため、コストを増大させるという問題がある。
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、杭1本あたりの支持力を増大させることを可能にする膨張型鋼管杭及び杭構造の作成方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、この発明に係る膨張型鋼管杭は、小規模構造物の支持地盤に打込まれる膨張型鋼管杭であって、両端が塞がれた筒状の金属製本体と、本体の軸方向に延び且つ本体の周壁を内方へくぼませるようにして形成された少なくとも1つの溝部と、本体の一方の端部に形成され且つ本体の外部を内部に連通する注入穴とを備え、本体は、本体の内部が加圧されることによって、溝部を伸ばして本体の径を拡大するように膨張可能である。
また、溝部は、軸方向に互いに間隔をあけて本体に配置された複数の部分溝部を有し、本体は、本体の内部が加圧されることによって、部分溝部を伸ばして本体の径を拡大するように膨張可能であってもよい。
さらに、部分溝部は、溝部及び本体を周方向に囲んで拘束する筒状体によって溝部が分割されて形成されてもよい。
溝部は、複数形成され、これら複数の溝部は、本体の周壁の周方向に位置をずらして配置されてもよい。さらに、複数の溝部は、本体の周壁の周方向に等間隔に配置されてもよい。
上記膨張型鋼管杭は、本体の注入穴側の端部に螺合することによって連結可能な杭高さ調節用筒状体をさらに備えてもよい。
また、この発明に係る杭構造の作成方法は、上述の膨張型鋼管杭を圧入することによって、膨張型鋼管杭の本体を小規模構造物の支持地盤内に貫入するステップと、本体の貫入後、注入穴を介して本体の内部に流体を注入することにより本体の内部を加圧して、本体の内側から溝部を伸ばし本体を膨径させることによって、膨張型鋼管により周囲の地盤を押圧させるステップとを含む。
この発明に係る膨張型鋼管杭及び杭構造の作成方法によれば、杭の地盤への貫入後に杭径方向に膨張することができるため、地盤との間の周面摩擦力を増大させ、杭の支持力を増大させることが可能となる。
この発明の実施の形態1に係る膨張型鋼管杭の側面図である。 図1のII‐II線に沿った断面図である。 図1の膨張型鋼管杭の貫入手順を示す概略図である。 図1の膨張型鋼管杭の貫入後の膨張工程を示す側面図である。 図4の膨張工程における膨張型鋼管杭の断面の変化を、図2と同様の断面で示す図である。 この発明の実施の形態2に係る膨張型鋼管杭の構成及びこの膨張型鋼管杭の貫入後の膨張工程を示す側面図である。 膨張型鋼管杭の実施例1及び2、並びに比較例の支持力を比較したグラフである。 実施の形態1及び2に係る膨張型鋼管杭の変形例の断面を図2と同様にして示す断面図である。 実施の形態1及び2に係る膨張型鋼管杭の別の変形例の断面を図2と同様にして示す断面図である。 実施の形態1及び2に係る膨張型鋼管杭のさらに別の変形例の断面を図2と同様にして示す断面図である。 図10の膨張型鋼管杭の変形例を図1と同様にして示す側面図である。
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1に係る膨張型鋼管杭10の構成を説明する。
図1は膨張型鋼管杭10の側面図を示し、図2は膨張型鋼管杭10の断面図を示す。
図1及び図2をあわせて参照すると、膨張型鋼管杭10は、鋼管からなる筒状の本体11と、本体11の一方の端部に被せられた有底円筒状の先端キャップ13と、本体11の他方の端部に被せられた有底円筒状の注水キャップ12とを備えている。
先端キャップ13は、本体11と同様に鋼製である。先端キャップ13の開口端部13aは溶接等の接合手段によって本体11に固定されており、開口端部13aと本体11の周面との間は、溶接等の接合手段によって気密に封止されている。
注水キャップ12は、本体11と同様に鋼製である。注水キャップ12の開口端部12cは溶接等の接合手段によって本体11に固定されており、開口端部12cと本体11の周面との間は、溶接等の接合手段によって気密に封止されている。そして、注水キャップ12の円筒状の周壁には、この周壁を貫通する注水穴12aと排水穴12bとが形成されている。さらに、注水キャップ12の円筒状の周壁の表面には、周方向に沿って螺旋状に延びる雄ねじを有する雄ねじ部12dが形成されている。
ここで、注水穴12aは、注入穴を構成している。
図2に示すように、本体11は、筒状の周壁11aを有しており、周壁11aは、円筒状の周壁を周方向に離れた4つの位置で鋼管径方向内側に向かってくぼませた断面形状を有している。つまり、周壁11aは、本体11の外周面の一部を形成する円弧状断面をした4つの外周壁部11ba、11bb、11bc及び11bdと、外周壁部11ba、11bb、11bc及び11bd同士の間に位置して鋼管径方向内側に向かってくぼんだ4つの陥凹壁部11ca、11cb、11cc及び11cdとによって構成されている。陥凹壁部11ca〜11cdは、互いに同形状であり且つ略U字状である断面形状を有し、本体11の中心軸Cを中心とする周方向に等間隔に配置されている、つまり、陥凹壁部11ca〜11cdは互いに、本体11の中心軸Cを中心として中心角を90°とする回転対称の関係となっている。これにより、外周壁部11ba〜11bdも、互いに同形状である断面形状を有している。
また、陥凹壁部11ca〜11cdはそれぞれ、本体11及び周壁11aの中心軸Cに沿って延在するように形成されている。それにより、陥凹壁部11ca、11cb、11cc及び11cdはそれぞれ、中心軸Cに沿って延在する軸方向溝11da、11db、11dc及び11ddを形成する。そして、軸方向溝11da〜11ddは、4つの溝部11d(図1参照)を構成する。
よって、周壁11aの内側には、四つ葉のクローバー状の断面形状を有する1つの内部空間11eが形成される。
内部空間11eは、周壁11aと、周壁11aの両端を閉鎖する注水キャップ12及び先端キャップ13(図1参照)とによって、気密に封止された空間として形成されており、注水穴12a及び排水穴12bを介してのみ外部に連通する。
上述のような周壁11aを有する本体11は、工場での鋼管としてのロール成形時に、軸方向溝11da〜11ddも一緒に形成されるようにすることが可能である。
次に、この発明の実施の形態1に係る膨張型鋼管杭10の打込方法を説明する。
図3を参照すると、膨張型鋼管杭10を小規模構造物、特に住宅の基礎杭として用いる場合、膨張型鋼管杭10の外径が200mm程度までと小径であるため大型の機械を必要とせず、建柱車1が使用される。
図3の工程(a)〜(d)を経て、膨張型鋼管杭10が支持地盤に貫入される。
工程(a)では、膨張型鋼管杭10の建込み工程が実施され、まず、建柱車1のブーム2から下げられたリーダ3が、膨張型鋼管杭10の打ち込み位置にセットされる。このとき、リーダ3は、ブーム2から鉛直方向と平行に吊り下げられて地盤上で先端が支持されている。次いで、膨張型鋼管杭10が、リーダ3にセットされている油圧式ロータリーパーカッション4の先端の棒状のヤットコ5に直立状態で取り付けられる。このとき、膨張型鋼管杭10は、先端キャップ13(図1参照)側を下方の地盤の方向にし、注水キャップ12(図1参照)がヤットコ5に取り付けられる。
なお、リーダ3は、油圧式ロータリーパーカッション4をその延在方向に沿って移動させることができる。油圧式ロータリーパーカッション4は、膨張型鋼管杭10と共にヤットコ5をその中心軸を中心に回転させ、ヤットコ5は、膨張型鋼管杭10を支持地盤に貫入するとき、油圧式ロータリーパーカッション4が土に埋もれずに地面から上方に位置するように維持するためのものである。
工程(b)では、膨張型鋼管杭10の鉛直度の確認及び調整が行われる。
工程(c)では、鉛直度の確認後、油圧式ロータリーパーカッション4が作動され、膨張型鋼管杭10がその中心軸を中心に回転される。同時に、リーダ3の移動装置が作動され、油圧式ロータリーパーカッション4が鉛直下方向に向かって押し下げられる。これにより、膨張型鋼管杭10が、回転しつつ鉛直方向に沿って押し下げられて先端キャップ13(図1参照)側から地盤に圧入され、地盤の中に貫入していく。このとき、膨張型鋼管杭10は、予め削孔されていない地盤に圧入されるため、先端キャップ13の先端で地盤内の土砂を周囲に押しのけながら、地盤内を下方に進む。
工程(d)では、膨張型鋼管杭10が所定の長さだけ地盤に貫入されると、リーダ3の移動装置及び油圧式ロータリーパーカッション4が停止され、膨張型鋼管杭10の貫入が完了する。このとき、膨張型鋼管杭10の注水キャップ12(図1参照)は、地盤よりも上方に位置している。
次に、図4を参照すると、紙面上で左側に示されるように貫入完了後の膨張型鋼管杭10の注水キャップ12に対して、高圧注水装置30の注水アタッチメント31が外側から取り付けられる。高圧注水装置30では、注水アタッチメント31から延びる注水ホース32の端部に図示しない注水機が接続されている。高圧注水装置30では、注水機が、注水アタッチメント31を介して、注水キャップ12の注水穴12aから膨張型鋼管杭10の内部空間11e(図2参照)内に高圧水(流体)を注水すると共に、排水穴12bから内部空間11e内の空気及び水を回収し、内部空間11e内の水圧を所定の圧力に維持する。なお、内部空間11eに注入する流体は、水の他の液体、気体等の流体でもよい。
そして、高圧注水装置30を使用して膨張型鋼管杭10の内部空間11e(図2参照)内に所定の水圧を付与することによって、膨張型鋼管杭10の本体11が径方向外側に膨張するように変形し、図4の紙面上で中央に示される膨張型鋼管杭10のようになる。つまり、本体11は、周壁11aの外周壁部11ba〜11bd(図2参照)が互いに離れるように鋼管径方向外側に向かって広げられつつ、陥凹壁部11ca〜11cdの軸方向溝11da〜11dd(4つの溝部11d)(図2参照)によるくぼみが径方向外側に向かって押し広げられるようにして変形する。なお、注水キャップ12及び先端キャップ13は、本体11と重なっているうえ本体11よりも大きい部材厚で形成されているため、水圧の作用によって変形しないようになっている。
ここで、図5を参照すると、膨張型鋼管杭10の本体11の膨張過程における断面変化の詳細が示されている。
膨張型鋼管杭10の貫入完了時、本体11の周壁11aの外周壁部11ba〜11bdは、周囲の地盤によって囲まれた状態にある。貫入の際、膨張型鋼管杭10では、先端キャップ13(図4参照)が、その先端で地盤の土を周囲に押しのけつつ地盤中を下方に進む。このため、地盤が粘性土の場合は、塑性変形を受けた土が外周壁部11ba〜11bdの周囲を囲み、砂質土又は礫混じりの砂質土の場合、押しのけられた一部が膨張型鋼管杭10の軸方向溝11da〜11dd内に入り込み、その他が外周壁部11ba〜11bdの周囲を取り囲む。
膨張型鋼管杭10の内部空間11e内に高圧水40が注入されると、膨張型鋼管杭10の本体11では、内部空間11eを広げるように水圧が作用するため、外周壁部11ba〜11bd同士を互いに離し且つ内径を拡大するように周壁11aが広がる。これに伴い、陥凹壁部11ca〜11cdもそれぞれ、外周壁部11ba〜11bdによって軸方向溝11da〜11ddの溝幅を拡げるように引っ張られると共に内側から押し伸ばされて窪みをほぼ消失し、そして外周壁部11ba〜11bdと共に径方向外側に膨らむように変形して略円形状の断面を形成する。これにより、本体11において、外径が拡大され且つ地盤と対向する外周面11a1’の面積を増加させた新たな略円形状断面の周壁11a’が形成される。
よって、本体11は、周壁11aの周りの土砂を周囲に押しのけながら周壁11aの外径を拡大するように膨張する。
膨張型鋼管杭10の膨張完了後、内部空間11e内への注水が停止され、その後、高圧注水装置30(図4参照)によって内部空間11e内に空気が供給され、さらに供給された空気圧の作用によって、内部空間11e内に残留する水が、注水キャップ12の排水穴12b(図4参照)から高圧注水装置30に回収される。残留水の排水後、注水アタッチメント31(図4参照)が取り外され、膨張型鋼管杭10の膨張過程が終了する。
図4を参照すると、紙面上で右側に示されるように、注水アタッチメント31の取り外し後、膨張型鋼管杭10の注水キャップ12の雄ねじ部12dに、膨張型鋼管杭10の上端高さ調節用の調整キャップ15が取り付けられる。調整キャップ15は、有底円筒状の形状を有してして、円筒の内側に雌ねじが形成されている。調整キャップ15は、その雌ねじを注水キャップ12の雄ねじ部12dに螺合させ、回転されることによって上昇又は下降する。このため、調整キャップ15を回転することによって、膨張型鋼管杭10の上端高さが所定の高さになるように位置合わせされ、膨張型鋼管杭10の打ち込みが完了する。
ここで、調整キャップ15は、杭高さ調節用筒状体を構成している。
そして、住宅を建設する場合、調整キャップ15の上端まで地盤上に基礎用の砕石が敷きれて締め固められ、膨張型鋼管杭10及び砕石の上にこれらを支持体として住宅が建てられる。
上述のように、膨張型鋼管杭10において、本体11が周壁11aの外径を拡大するように膨張することによって、周囲の地盤の土との接触面積が増加し、地盤との周面摩擦力が増加する。さらに、本体11の膨張時、粘性土地盤の場合、周壁11aは、周囲の粘性土を塑性変形させつつ押し広げ、砂質土若しくは礫混じりの砂質土地盤の場合、周囲の砂質土若しくは礫混じりの砂質土を押し広げるため、いずれも場合も密になった粘性土又は砂質土若しくは礫混じりの砂質土と、その外周面11a1’全体とを密着状態で接触させ、これによっても、地盤との周面摩擦力を増加させる。
このように、この発明の実施の形態1に係る膨張型鋼管杭10は、小規模構造物用の鋼管杭である。膨張型鋼管杭10は、両端が塞がれた筒状の金属製の本体11と、本体11の軸方向に延び且つ本体11の周壁11aの一部である陥凹壁部11ca〜11cdを内方へくぼませるようにして形成された軸方向溝11da〜11ddと、本体11の一方の端部に形成され且つ本体11の外部を内部に連通する注水穴12aとを備える。本体11は、本体11の内部空間11eが加圧されることによって、軸方向溝11da〜11ddを伸ばして本体11の径を拡大するように膨張することが可能である。
これにより、本体11の膨張前の膨張型鋼管杭10を地盤に貫入後、本体11を膨張させることによって、本体11の周壁11aにおける地盤の土と対向する周面の面積が増加すると共に、周面の面積を増加させた周壁11aが地盤に押し付けられ、密な状態の地盤の土と密着状態となる。よって、膨張型鋼管杭10は、単に地盤に貫入する場合よりも地盤に対する周面摩擦力を増加させて支持力を増大させることができる。さらに、膨張型鋼管杭10の本体11は、両端が塞がれているため、先端における地盤との接触面積が増加し、それにより先端支持力も増大させることができる。
また、膨張型鋼管杭10に形成された複数の軸方向溝11da〜11ddは、本体11の周壁11aの周方向に位置をずらして配置されている。さらに、軸方向溝11da〜11ddは、本体11の周壁11aの周方向に等間隔に配置されている。本体11を拡径方向に膨張させるのに複数の軸方向溝11da〜11ddを用いることによって、本体11の拡径率を高めることができる。さらに、軸方向溝11da〜11ddそれぞれの深さを減少させても、本体11を十分に拡径させることができ、それにより、本体11の径を小さくすることができる。また、軸方向溝11da〜11ddが周壁11aの周方向に等間隔に配置されるため、膨張時に本体11を中心軸Cに垂直な径方向に均等に膨張させることができる。
また、上記膨張型鋼管杭10は、本体11の注水穴12a側の端部に螺合することによって連結可能な杭高さ調節用の調整キャップ15を備えている。これによって、膨張型鋼管杭10の上端の高さ調節が、調整キャップ15をねじ締結又は緩める方向に回転させるだけで可能になる。そして、複数の膨張型鋼管杭10を打ち込んだ際でも、各膨張型鋼管杭10同士の間での上端高さの関係を容易に調節して、各膨張型鋼管杭10に住宅等から均等な上載荷重が作用するようにすることができる。
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る膨張型鋼管杭20は、実施の形態1に係る膨張型鋼管杭10の本体11に対して、本体11及び4つの溝部11d(軸方向溝11da〜11dd)を外側から囲む円筒状のスリーブ14を設けたものである。
なお、以下の実施の形態において、前出した図における参照符号と同一の符号は、同一または同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
図6を参照すると、紙面上で左側に示されるように膨張型鋼管杭20は、実施の形態1の膨張型鋼管杭10と同様にして、本体11、注水キャップ12及び先端キャップ13を備えている。
さらに、膨張型鋼管杭20は、本体11の周壁11aにおける外周壁部11ba〜11bd(図2参照)の外周面に整合する内周面を有する円筒状のスリーブ14を備えている。スリーブ14は、互いに対して並びに注水キャップ12及び先端キャップ13に対して、本体11の軸方向に間隔をあけて複数設けられており、周壁11a及び4つの溝部11d(軸方向溝11da〜11dd:図2参照)を外側から囲むようにして配置され、溶接等の手段によって固定されている。よって、周壁11a及び4つの溝部11dは、スリーブ14が設けられた部位では拘束されて外方に広がることができず、4つの溝部11dはそれぞれ、スリーブ14間、又は、スリーブ14と注水キャップ12若しくは先端キャップ13との間において外方に広がることができる部分的な溝部にスリーブ14によって分割される。そして、スリーブ14間、スリーブ14と注水キャップ12との間、及び、スリーブ14と先端キャップ13との間のそれぞれにおける4つの溝部は、分割溝部11d1を構成する。
ここで、スリーブ14は筒状体を構成し、分割溝部11d1は部分溝部を構成する。
紙面上で左側に示される地盤に貫入された膨張型鋼管杭20に対して、内部に高圧水を注入すると、紙面上で右側に示されるように膨張型鋼管杭20の本体11では、スリーブ14、注水キャップ12及び先端キャップ13の設けられていない部位21(以下、膨張部と呼ぶ)の分割溝部11d1が伸ばされ、径方向に拡大するように膨張する。また、スリーブ14、注水キャップ12及び先端キャップ13は、本体11と重なっているうえ本体11よりも大きい部材厚で形成されているため、これらが設けられている本体11の部位は拘束されており水圧の作用によって変形しない。よって、本体11では、膨張した膨張部21の間でスリーブ14が節のような形態をなしている。
上述のように、膨張型鋼管杭20において、本体11の膨張部21が外径を拡大するように膨張することによって、地盤との周面摩擦力が増加する。さらに、膨張後に膨張部21とこれよりも径が小さいスリーブ14とが交互に存在することによって、膨張部21及びスリーブ14の間の断面の変化部が、鉛直方向の移動抵抗となり、つまりアンカー効果を奏し膨張型鋼管杭20の支持力を増大させる。
また、この発明の実施の形態2に係る膨張型鋼管杭20のその他の構成及び打込方法は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
そして、実施の形態2における膨張型鋼管杭20によれば、上記実施の形態1の膨張型鋼管杭10と同様な効果が得られる。
また、実施の形態2の膨張型鋼管杭20では、溝部11dは、軸方向に互いに間隔をあけて本体11に配置された複数の分割溝部11d1を有し、本体11は、本体11の内部空間11eが加圧されることによって、分割溝部11d1を伸ばして本体11の径を拡大するように膨張可能である。さらに、分割溝部11d1は、溝部11d及び本体11を周方向に囲んで拘束するスリーブ14によって溝部11dが分割されて形成される。これにより、膨張型鋼管杭20の膨張時、分割溝部11d1において径方向に膨張した膨張部21と外径が変化しないスリーブ14の部位とが形成され、両者によって形成される凹凸が奏するアンカー効果が、実施の形態1の膨張型鋼管杭10よりも支持力を増加させることができる。また、本体11の外側にスリーブ14を設けるだけで膨張型鋼管杭20を形成することができるため、製造が容易である。
(実施例)
以下、実施の形態1及び2に係る膨張型鋼管杭10及び20の実施例と、単管からなる鋼管杭の比較例とを比較する。
実施例1は、実施の形態1に係る膨張型鋼管杭10の実施例であり、膨張前の外径が36.0mm、管の壁厚2.0mmのZAM鋼管(一般構造用圧延鋼材、鋼材規格:JIS G 3101 SS400)の膨張型鋼管101を鋼管杭として使用しており、膨張型鋼管101は、膨張させると外径54.0mmに拡大する。さらに、膨張型鋼管101は、地盤に1.1m貫入される。
実施例2は、実施の形態2に係る膨張型鋼管杭20の実施例であり、膨張前の外径が36.0mm、管の壁厚2.0mm、スリーブの中心間隔が0.5mのZAM鋼管(一般構造用圧延鋼材、鋼材規格:JIS G 3101 SS400)の膨張型鋼管201を鋼管杭として使用しており、膨張型鋼管201の膨張部は、膨張させると外径54.0mmに拡大する。なお、スリーブも鋼管と同じ鋼材から形成されている。さらに、膨張型鋼管201は、地盤に1.1m貫入され、地盤中に2つの膨張部及び1つの膨張部の一部と、2つのスリーブが貫入される。
比較例は、外径48.6mm、管の壁厚2.4mmのZAM鋼管(一般構造用炭素鋼鋼管、鋼材規格:JIS G 3444 STK500)の単管301を鋼管杭として使用している。単管301も地盤に1.1m貫入される。
図7を参照すると、粘性土地盤へ貫入深さ1.1mで打ち込んだ後の膨張型鋼管101、膨張型鋼管201及び単管301それぞれに対して、地盤から突出する上端に載荷した荷重と、鉛直下方向への変位(沈下量)との関係が示されている。なお、図7では、横軸に荷重(単位:N[ニュートン])をとり、縦軸に変位(単位:mm)をとっている。
比較例の単管301では、150N以上で沈下量が急激に増大しており、単管301の極限支持力は、150Nとなる。
実施例1の膨張型鋼管101では1130N以上で沈下量が急激に増大しており、膨張型鋼管101の極限支持力は、1130Nとなる。よって、膨張型鋼管101の極限支持力は、単管301の7倍以上となっている。
実施例2の膨張型鋼管201では1860N以上で沈下量が急激に増大しており、膨張型鋼管201の極限支持力は、1860Nとなる。よって、膨張型鋼管201の極限支持力は、単管301の12倍以上となっている。
比較例の単管を鋼管杭として使用する工法として、RES−P工法がある。このRES−P工法も、粘性度地盤を基礎とする小規模構造物を対象としたものであり、地上3階建以下、高さ13m以下、軒高9m以下、延べ床面積1500m以下、基礎の長期設計荷重度が50kN/m以下の全てを満たす建築物を対象としている。
実施例1及び2の膨張型鋼管101及び201も、RES−P工法が対象とする建築物の基礎に適用することができ、その場合、比較例の単管301を使用する場合よりも、地盤への貫入長を短くすることができると共に、打込本数を減少させることができる。さらに、地盤への貫入時、実施例1及び2の膨張型鋼管101及び201の外径が、比較例の単管301の外径よりも小さいため、実施例1及び2の膨張型鋼管101及び201の方が地盤への貫入が容易である。
また、実施の形態1及び2の膨張型鋼管杭10及び20では、本体11に4つの溝部11dである4列の軸方向溝11da〜11ddが軸方向に沿って形成されていたが、これに限定されるものでなく、3列以下で形成されても5列以上で形成されてもよい。
例えば、図8の膨張型鋼管杭300に示されるように、筒状の本体311の周壁311aに、互いに対向する2つの陥凹壁部311ca及び311cbを形成することによって、陥凹壁部311ca及び311cbに隣接し且つ互いに対向する同形状の円弧状断面をした外周壁部311ba及び311bbを形成し、それにより対向する2つの軸方向溝311da及び311dbを形成するようにしてもよい。
又は、図9の膨張型鋼管杭400に示されるように、筒状の本体411の周壁411aにおいて、本体411の中心軸Cを中心として中心角120°の回転対称な3つ位置に、3つの陥凹壁部411ca、411cb及び411ccを形成することによって、陥凹壁部411ca、411cb及び411ccに隣接する同形状の円弧状断面をした外周壁部411ba、411bb及び411bcを形成してもよい。それにより、互いに回転対称な関係にある3つの軸方向溝411da、411db及び411dcが形成される。そして、周壁411aはその内側に、三つ葉のクローバー状の断面をした内部空間411eを形成する。
又は、図10の膨張型鋼管杭500に示されるように、筒状の本体511の周壁511aにおいて、周方向全体にわたって複数の陥凹壁部511cを連続して形成してもよい。このとき、周壁511aの周方向全体にわたって、陥凹壁部511c同士の間で鋼管径方向外側に向かって尖るように突出する複数の外周壁部511bが形成される共に、互いに周方向で隣り合う複数の軸方向溝511dが形成される。軸方向溝511dは、本体511の中心軸Cに沿って延在している。或いは、図11に示すように、軸方向溝511dのそれぞれに、本体511の外周を螺旋状に旋回するように延在させてもよい。このとき、外周壁部511bもそれぞれ、本体511の外周を螺旋状に旋回し、膨張型鋼管杭500はスパイラル管状の形状を有する。
そして、軸方向溝の数を多くすることによって、陥凹壁部及び外周壁部の鋼管外周方向の幅が小さくなるため、膨張時に陥凹壁部及び外周壁部を均等に変形させやすくなり、膨張型鋼管杭を径方向に均等に膨張させることが容易になる。さらに、軸方向溝の数を多くすることによって、陥凹壁部の面積が増加するため、膨張型鋼管杭の膨張時の拡径率を高めることができる。
なお、図2、8、9及び10に示される断面形状を有する鋼管はいずれも、ロール成形によって製造することができるため、大量生産が可能であると共にコストを抑えることができる。さらに、これらの鋼管を、図11に示すように螺旋状の軸方向溝を有するように製造する場合も、ロール成形による製造が可能である。
また、実施の形態1及び2の膨張型鋼管杭10及び20並びに変形例の膨張型鋼管杭300〜500において、本体11,311,411,511で溝部を形成する陥凹壁部の断面形状を略U字状の形状にしていたが、これに限定されるものでない。陥凹壁部の断面形状は、三角形、四角形等の多角形であってもよく、又は円弧状であってもよい。
また、実施の形態1及び2の膨張型鋼管杭10及び20では、先端キャップ13の外形が円柱状であったが、これに限定されるものでなく、先端に向かって先細になる円錐状、角錐状、円錐台状、若しくは角錐台状であってもよく、又は、先端に向かって先細になるスパイラル(ドリル)状であってもよい。
また、実施の形態1及び2の膨張型鋼管杭10及び20は、小規模構造物の基礎杭として用いられていたが、これに限定されるものでなく、簡易土留めの支柱、斜面に打ち込むことによる地盤強化(すべり防止)材、傾斜面に設けられるウッドデッキ等の張出台の基礎用支柱などに用いてもよい。
また、実施の形態1及び2の膨張型鋼管杭10及び20では、溝部11d及び分割溝部11d1の窪みが消失するまで拡径したが、これに限定されるものでなく、溝部11d及び分割溝部11d1の窪みが残っていてもよい。この場合も、膨張型鋼管杭10及び20は、密になった地盤と接触すると共に地盤との接触面積を増加させるため、周面摩擦力による支持力を増大させることができる。
10,20 膨張型鋼管杭、11 本体、11a 周壁、11ba〜11bd 外周壁部、11ca〜11cd 陥凹壁部、11d 溝部、11da〜11dd 軸方向溝、11d1 分割溝部(部分溝部)、11e 内部空間、12a 注水穴(注入穴)、14 スリーブ(筒状体)。

Claims (7)

  1. 小規模構造物の支持地盤に打込まれる膨張型鋼管杭であって、
    両端が塞がれた筒状の金属製本体と、
    前記本体の軸方向に延び且つ前記本体の周壁を内方へくぼませるようにして形成された少なくとも1つの溝部と、
    前記本体の一方の端部に形成され且つ前記本体の外部を内部に連通する注入穴と
    を備え、
    前記本体は、前記本体の内部が加圧されることによって、前記溝部を伸ばして前記本体の径を拡大するように膨張可能である膨張型鋼管杭。
  2. 前記溝部は、軸方向に互いに間隔をあけて前記本体に配置された複数の部分溝部を有し、
    前記本体は、前記本体の内部が加圧されることによって、前記部分溝部を伸ばして前記本体の径を拡大するように膨張可能である請求項1に記載の膨張型鋼管杭。
  3. 前記部分溝部は、前記溝部及び前記本体を周方向に囲んで拘束する筒状体によって前記溝部が分割されて形成される請求項2に記載の膨張型鋼管杭。
  4. 前記溝部は、複数形成され、
    前記複数の溝部は、前記本体の周壁の周方向に位置をずらして配置される請求項1〜3のいずれか一項に記載の膨張型鋼管杭。
  5. 前記複数の溝部は、前記本体の周壁の周方向に等間隔に配置されている請求項4に記載の膨張型鋼管杭。
  6. 前記本体の前記注入穴側の端部に螺合することによって連結可能な杭高さ調節用筒状体をさらに備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の膨張型鋼管杭。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の膨張型鋼管杭圧入することによって、前記膨張型鋼管杭の前記本体を前記小規模構造物の前記支持地盤内に貫入するステップと、
    前記本体の貫入後、前記注入穴を介して前記本体の内部に流体を注入することにより前記本体の内部を加圧して、前記本体の内側から前記溝部を伸ばし前記本体を膨径させることによって、前記膨張型鋼管により周囲の地盤を押圧させるステップと
    を含む
    杭構造の作成方法。
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