JP6059469B2 - 石炭灰用固化材及びそれを用いた固化物の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、石炭にはその種類や産地によってホウ素や重金属等の環境汚染の要因となり得る物質が含まれている場合がある。これらの物質は、石炭の燃焼に伴う化学反応により、鉄イオン(Fe3+)や銅(Cu2+)等のような水溶性の陽イオンを形成するものと、オキシアニオン(例えば、ホウ酸イオン(B(OH)4 −)、クロム酸イオン(CrO4 2−)、セレン酸イオン(SeO4 2−)、モリブデン酸イオン(MoO4 2−)、ヒ酸イオン(AsO3 2−)等)のような水溶性の陰イオンを形成するものとがあり、さらに鉛のように、陽イオン(Pb2+)と陰イオン(PbO2 2−)の両方を形成するものもある。
これら重金属及びその他の物質を含む陽イオン及び陰イオン(以下併せて「重金属等イオン」ともいう。)は、その多くが石炭灰に付着しているため、石炭灰を各種の用途に使用する場合には、環境保全のために、重金属等イオンのうち規制対象となっているものについて溶出・拡散しないよう対策を講ずる必要がある。
しかし、重金属等イオンの付着量が多い石炭灰については、そのままの状態でモルタルやコンクリートの原料に使用すると、重金属等イオンがモルタルやコンクリート内から外部へ溶出する恐れがある。さりとて、石炭灰から重金属等イオンを取り除いてから使用することは、処理コストが高額となるため現実的ではない。このように、重金属等イオンの付着量が多い石炭灰には経済性に見合った利用方法がなく、その多くが産業廃棄物として廃棄処分されている。
例えば、特許文献1には、石炭灰に生石灰や消石灰等を加えて混合し、得られた粉体混合物に高圧力を加えて所定の形状に圧縮成形した後、高温高圧下で水蒸気加熱して水熱合成させ、さらに高温下で乾燥させることにより重金属等が溶出し難い固化体を製造する方法が開示されている。そして、製造された固化体は、舗装材等の建設材料等として使用できるとされている。
また、かかる成形物を固化させるには、オートクレーブを用いて110〜200℃の高温高圧下で2〜24時間程度の水蒸気加熱を行なって水熱合成反応を起こさせるが、その際、成形物の内部まで水蒸気を浸透させる必要があるため、成形物の体積が大きい場合には、製造効率が極めて悪く、さらに固化不良を生ずる恐れがある。
そして、かかる固化体の製造方法の実施には、大型の圧縮成形装置やオートクレーブ等の高額でかつエネルギーコストの高い設備が必要であるという問題もある。
また、混練の際に配合する石炭灰用固化材、石炭灰及び水の配合量を適宜調節することにより、ペースト状物の粘度を任意に変更することができるため扱い易く、また、必要に応じて砂や砂利等を配合することにより、よりモルタルやコンクリートに近似した性状を付与することが可能である。
したがって、本発明の製造方法によって得られる固化物は、道路舗装用の平板及び縁石、U字形側溝、駐車場の車止めブロック、人口漁礁、テトラポッド(消波ブロック)等の建築・土木材料等として広範な用途に利用することが可能である。
また、本発明の製造方法によって得られる固化物は、一般的な灰色のコンクリート製品よりも色が薄く白色に近いので、見た目にも美しく、また、各種顔料等を配合することにより、任意の色彩や風合いを付与してより審美性を高めることができる。
本発明の石炭灰用固化材は、Ca (OH)2及びCaCO3の少なくとも一方とAl(OH)3との混合物の焼成物を含むが、かかる混合物は、Ca(OH)2とAl(OH)3の混合物、CaCO3とAl(OH)3の混合物、又はCa(OH)2、CaCO3及びAl(OH)3の三者の混合物のいずれであってもよく、さらに、本発明の石炭灰用固化材の効果を阻害しない範囲であれば、Ca(OH)2、CaCO3及びAl(OH)3以外の他の物質を含んでいても差し支えない。
さらに、前記焼成物の焼成温度は、特に制限されないが、例えば600℃以上とすれば、石炭灰等と混合して固化物を製造した際に、圧縮強度が高く、かつ重金属等イオンの溶出抑制効果が高い固化物を得ることができるため好ましく、より好ましくは800〜1200℃である。
なお、本発明の石炭灰用固化材は、前記焼成物以外の物質を含んでいてもよく、例えば、他の固化材や他の重金属等イオンの吸着材を含んでいても差し支えない。
ここで使用する石炭灰は、火力発電所の石炭燃焼ボイラ等で石炭を燃焼させた際に生じる砂粒状又はれき状の灰であり、フライアッシュ又はクリンカアッシュとも呼ばれる。日本工業規格には、コンクリート用フライアッシュ、クリンカアッシュ等の規格が定められているが、本発明で使用可能な石炭灰はこれらに限られず、規格外のものも広く使用することができ、また、石炭の種類、産地及び成分等によって限定されるものではない。
また、水の配合量についても特に制限されないが、例えば、水の配合量を、石炭灰用固化材に含まれる前記焼成物と石炭灰の質量の合計に対して0.6〜1.2(質量比)とすれば、ペースト状物を、コンクリートやモルタルのように扱い易い粘度に調製することができ、また、強度が高い固化物を製造できるため好ましい。
前記の各原料を混練する方法としては、調製するペースト状物が少量であれば、いわゆるトロ舟と練りクワ等のコンクリートやモルタルを手練りする際に使用する道具等を用いて混練すれば良い。また、ペースト状物が多量であれば、一般的なコンクリートミキサーやモルタルミキサーを使用して混練すれば良い。
調製したペースト状物は、セメントやモルタルのように適度な粘度と流動性を有するため、任意の形状の型枠に流し込んで成形することができ、また、コテやヘラ等を使って他の物品や構造物上に塗り付けて成形したり、他の物品や構造物の隙間や割れ目に注入して成形したりすることができる。
前記ペースト状物を型枠に流し込んで成形する場合には、一般的なコンクリートを同じように、型枠の隅々まで流入させることができるので、複雑な形状にも成形することが可能であり、また、大きな型枠に流し込んで成形することもできる。
このように、任意の形状に成形されたペースト状物は、常温でそのまま静置することで水密な状態に固化させることができる。しかし、水蒸気の存在下で60℃以上の温度で加熱して水蒸気養生することにより、より早く固化させることができ、また、強度が高い固化物を製造することができるため好ましい。
また、固化物は水密な状態に固化するため、例えば、石炭灰に付着している重金属等イオンは固化物内に封じ込められ、さらに、本発明の石炭灰用固化材に含まれる化合物(CaO 、Ca(OH)2、Ca12Al14O33、CaAl4O7、CaAl2O4、Ca5Al6O14及びCa9Al6O18等)のいくつかが重金属等イオンを吸着し不溶化することにより、固化物からの重金属等イオンの溶出が抑制されるものと推定される。なお、これらの推定は本発明を限定するものではない。
Ca/Alモル比=5のCa(OH)2/Al(OH)3の混合物を10℃/minの昇温速度で100℃〜1000℃まで昇温し、熱質量分析装置(製品名TG 8101D、リガク社製)を用いて質量変化を測定した。その結果を図1に示す。図示のように、100〜250℃付近まではほぼ一定の質量を示し、その後、250〜270℃の間で急激に質量が減少した後、270〜390℃の間でほぼ一定の質量を示した。さらに、390〜440℃の間で急激に質量が減少した後、440〜660℃の間でゆるやかに質量が減少した。その後、660〜1000℃の間ではほぼ一定の質量を示した。
前記TG分析で質量がほぼ一定となった温度(350℃、500℃、800℃及び1000℃)でCa(OH)2/Al(OH)3混合物を焼成し、そのXRD分析により生成する結晶性化合物を同定した。その結果を図2に示す。図示のように、焼成温度350℃ではCa(OH)2に由来するシャープなピークが検出され、500℃ではCa(OH)2に由来するがブロードなピークが検出された。したがって、350℃では結晶性のCa(OH)2が存在し、加熱に伴い500℃では結晶性Ca(OH)2が非晶質化したことになる。さらに、焼成温度800℃では非晶性Ca(OH)2の他に、わずかではあるがCaO由来のピークが検出された。さらに高い焼成温度1000℃ではCaO由来のピーク強度が大きくなると同時にCa12Al14O33に由来するピークが明瞭に検出された。
Ca/Alモル比を0.5〜15の間で変化させたCa(OH)2/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成したものについてX線回折装置(製品名D8 ADVANCE TXS、BRUKER AXS社製)を用いてXRD分析を行った。その結果を、図3に示す。図示のように、Ca/Alモル比=0.5及び1.0では、結晶性化合物としてCaOの他に、Ca12Al14O33が検出され、さらに、低濃度ながらCaAl4O7及びCaAl2O4も検出された。Ca/Alモル比2以上では、CaO及びCa12Al14O33に帰属されるピークが検出されたが、Ca/Alモル比の増加に伴いCaOのピーク強度は増加し、Ca12Al14O33のピーク強度は低下した。このことから、Ca/Alモル比の増加に伴いCaOの生成量が増加し、Ca12Al14O33の生成量は低下したと考えられる。
Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を10℃/minの昇温速度で100℃〜1000℃まで昇温し、前述と同じ装置で質量変化を測定した。その結果を図4に示す。図示のように、100〜250℃付近まではほぼ一定の質量を示し、その後、250〜270℃の間で急激に質量が減少した後、270〜600℃の間で徐々に質量が減少し、600〜770℃の間で急激に質量が減少し、それ以降(770〜1000℃)ではほぼ一定の質量を示した。
前述したTG分析結果をもとに、質量がほぼ一定となった温度でCaCO3/Al(OH)3混合物を焼成し、前述の装置を用い、XRD分析を行った。その結果を図5に示す。図示のように、焼成温度350℃では原料中に存在するCaCO3に由来するシャープなピークが検出され、800℃ではシャープなCaOのピークと、ピーク強度が低くブロードなCa(OH)2に由来するピークが検出された。このことから、少なくとも350〜800℃の間で、CaCO3の熱分解(CaCO3→CaO+CO2)が起きたことが推定される。Ca(OH)2はCaOが空気中の湿分を吸収して生成したと推定される(CaO+H2O→Ca(OH)2)。さらに、高い焼成温度1000℃ではCaOに由来するシャープなピークのほかにCa9Al6O18やCa5Al6O14に由来する強度の低いピークが観測された。この場合、結晶性化合物としてCaOが主成分で、Ca5Al6O14及びCa9Al6O18が低濃度で含まれることになる。なお、前記推定は、本発明を制限及び限定しない。
Ca/Alモル比を変化させたCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成したものについて、前述の装置を用いて、XRD分析した。その結果を図6に示す。図示のように、Ca/Alモル比=0.5では、結晶性化合物としてCaOに加え、微量の Ca5Al6O14,CaAl4O7及びCaAl2O4が検出された。Ca/Alモル比=1.0では、CaOに加え、微量の Ca5Al6O14及びCaAl2O4が検出された。Ca/Alモル比1.5以上では、 CaOとCa9Al6O18に加え、微量のCa5Al6O14が検出された。Ca/Alモル比の増加に伴いCaOに由来するピークの強度は増加の傾向を示したが、Ca9Al6O18に由来するピークの強度はCa/Alモル比の増加により増加し、Ca/Alモル比=3で最も高くなり、さらにCa/Alモル比が増加するとピーク強度は低下し、Ca/Alモル比=10以上ではCa9Al6O18に由来するピークは観測されなかった。これらのことから、Ca/Alモル比の増加に伴いCaO生成量は増加し、Ca9Al6O18生成量はCa/Alモル比=3で最大となり、さらにCa/Alモル比を増加させるとCa9Al6O18生成量は低下し、Ca/Alモル比=10以上では消失したと推定される。ただし、本発明は前記推定により限定及び制限されない。
ホウ酸(H3BO3)水溶液(B濃度=11mg/L)50mLに、各種焼成物0.5gを添加し、よく混合したのち、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するホウ素濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期ホウ素濃度(=11mg/L)と各種焼成物添加後の残存ホウ素濃度の差を各種焼成物のホウ素吸着量(mg/g-焼成物)とした。
酸化クロム(CrO3)を溶解した水溶液(Cr濃度=51mg/L)50mLに各種焼成物0.5gを添加し、よく混合したのち、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=51mg/L)と各種焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、各種焼成物のCr6+吸着量(mg/g-焼成物)とした。
塩化クロム(CrCl3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mLに各種焼成物0.5gを添加し、よく混合したのち、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=52mg/L)と各種焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、各種焼成物のCr3+吸着量(mg/g-焼成物)とした。各種焼成物作成時の原料中のCa/Alモル比がCr3+吸着量に及ぼす影響を図11に示す。
表1に示すように、所定量の1mmol/Lの各種化合物(吸着対象イオンの発生源)の水溶液にCa(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物(焼成温度:1000℃)を所定量添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存する各種化合物由来の各種イオンの濃度をICPプラズマ発光法により測定した。各種イオンの初期濃度とCa(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物の添加後に残存した各種イオンの濃度の差を、かかる焼成物の各種イオン吸着量(mg/g-焼成物)とした。表1に示すとおり、かかる焼成物は、ホウ素及びクロム以外のイオンも吸着することがわかった。なお、表1において、最大吸着量は、溶液中の各種イオンが全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
表2に示すように、所定量の1mmol/Lの各種化合物(吸着対象イオンの発生源)の水溶液にCaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物(焼成温度:1000℃)を所定量添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存する各種化合物由来の各種イオンの濃度をICPプラズマ発光法により測定した。各種イオンの初期濃度とCaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物の添加後に残存した各種イオンの濃度の差を、かかる焼成物の各種イオン吸着量(mg/g-焼成物)とした。表2に示すとおり、かかる焼成物は、ホウ素及びクロム以外のイオンも吸着することがわかった。なお、表2において、最大吸着量は、溶液中の各種イオンが全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
表3に示すとおりCa/Alモル比を0.5〜10の間で変化させた5種類のCaCO3/Al(OH)3混合物を、それぞれ1000℃で焼成して5種類の焼成物を得た。次いで、得られた各焼成物と石炭灰(JIS A6201 2種適合品)と水とを、表3に示す各配合量(質量比)によって配合し、混練して5種類のペースト状物を調製した。次に、各ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、5種類の固化物の試験体を製造した。
なお、試験体ごとに水の配合量が異なるのは、ペースト状物の調製時に、混練し易く扱い易い粘度に仕上げるために、ペースト状物の状態を確認しながら水を徐々に加えつつ混練したため、結果的に水の配合量に差異が生じることになったことによる。
次に、各固化物の試験体について、JIS A1108に準拠し、圧縮強度試験機(JTトーシ社製、ABM200S)を用いて圧縮強度を(N/mm2)を測定した。測定結果を表3に示す。
Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を、表4に示す異なる温度で焼成して4種類の焼成物を得た。次いで、得られた各焼成物と石炭灰(JIS A6201 2種適合品)と水とを、表4に示す各配合量(質量比)によって配合し、混練して4種類のペースト状物を調製した。次に、各ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、4種類の固化物の試験体を製造した。
なお、試験体ごとに水の配合量が異なるのは、前記のとおりペースト状物の調製時の加水方法に依るが、特に本試験において、焼成物の焼成温度が高くなるほど水の配合量が大幅に増えているのは、焼成温度が高くなるほど水和成分がより多く生成することによると考えられる。
次に、各固化物の試験体について前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表4に示す。
1.CaCO3/Al(OH)3混合物の焼成物を配合した固化物
Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して得た焼成物と、石炭灰(JIS A6201 2種適合品)及び水とを、表5の試験体5-a、5-b、5-c及び5-dの各欄に示す配合量(質量比)によって配合し、混練して4種類のペースト状物を調製した。次に、各ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、4種類の固化物の試験体を製造した。
各固化物の試験体について前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表5の試験体5-a、5-b、5-c及び5-dの各欄に示す。
アルミナセメント(AGCセラミックス社製、アサヒ アルミナセメント1号(AC-1))と石炭灰(JIS
A6201 2種適合品)と水とを、表5の試験体5-e、5-f、5-g及び5-hの各欄に示す配合量(質量比)によって配合し、混練して4種類のペースト状物を調製した。次に、各ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、4種類の固化物の試験体を製造した。
各固化物の試験体について、前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表5の試験体5-e、5-f、5-g及び5-hの各欄に示す。
ポルトランドセメントと石炭灰(JIS A6201 2種適合品)と水とを、表5の試験体5-i、5-j、5-k及び5-lの各欄に示す配合量(質量比)によって配合し、混練して4種類のペースト状物を調製した。次に、各ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、4種類の固化物の試験体を製造した。
各固化物の試験体について、前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表5の試験体5-i、5-j、5-k及び5-lの各欄に示す。
なお、図12は表5の記載内容をグラフで表したものである。
表5に示す固化物の試験体5-c、5-g、5-kについて、前記のX線回析装置を用いてXRD分析を行った。その結果を図13に示す。なお、試験体5-c、5-g、5-kはそれぞれ図13中の(a)、(b)、(c)に該当する。
図示のとおり、CaCO3/Al(OH)3混合物の焼成物を配合した固化物((a)、5-c)からは、Ca(OH)2及びCa3Al2(SiO4)(OH)8が検出されたが、アルミナセメントを配合した固化物((b)、5-g)とポルトランドセメントを配合した固化物((c)、5-k)からは、これらの化合物は検出されなかった。したがって、CaCO3/Al(OH)3混合物の焼成物が、アルミナセメントやポルトランドセメントよりも圧縮強度の高い固化物を形成し得るのは、例えば、CaCO3/Al(OH)3混合物の焼成物と石炭灰と水とを混練することにより、この焼成物に含まれるCaOが水と反応してCa(OH)2となり、これがAlを含む化合物及び石炭灰に含まれるSiO2と化学反応してCa3Al2(SiO4)(OH)8等が生成するためであるると推定される。なお、かかる推定は本発明を限定するものではない。
Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して得た焼成物と、砂(JIS R5201 セメント強さ試験用標準砂、(社)セメント協会)及び水とを、100:100:124(質量比)の配合量によって配合し混練してペースト状物を調製した。次に、ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、固化物の試験体を製造した。
得られた固化物の試験体について、前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定したところ、圧縮強度は0.1N/mm2と低く、脆く崩れやすい状態であった。
Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して得た焼成物と、3種類の石炭灰(JIS A6201 1種、2種及び4種適合品)及び水とを、それぞれ100:100:149(質量比)の割合で配合し混練して3種類のペースト状物を調製した。次に、それぞれのペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、3種類の固化物の試験体を製造した。
なお、使用した3種類の石炭灰は、それぞれ粒径等が異なり、コンクリートに配合した場合には、固化後の圧縮強度が、一般に1種が最も高くなり、2種、4種の順に低下するとされている。
次に、得られた固化物の試験体について、前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表6に示す。
Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して得た焼成物と、石炭灰(JIS A6201 2種適合品)及び水とを、それぞれ100:100:154(質量比)の割合で配合し混練してペースト状物を調製した。次に、得られたペースト状物を4個の成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、これらのペースト状物が入った成形容器を下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごとそれぞれ40℃、60℃、75℃及び90℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、表7に示す7-aから7-dの4種類の固化物の試験体を製造した。
下記の方法により、重金属等を含むオキソ酸塩を付着させた石炭灰等を配合して各種固化物を製造し、これらの固化物からの重金属等イオンの溶出量を測定した。
1.重金属等を含むオキソ酸塩を付着させた石炭灰の調製
石炭灰(JIS
A6201 2種適合品)に、CrO3、H3BO3、Na2HAsO4・7H2O及びNa2SeO4を溶解させた各種オキソ酸塩の混合水溶液を噴霧して乾燥することにより、各種オキソ酸塩を付着させた石炭灰を調製した。オキソ酸塩の付着量は、表9に示すとおり0.1〜50mmol/100g-石炭灰の間で変化させ、付着量の異なる4種類の石炭灰を得た。
得られた4種類の石炭灰と、Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して得た焼成物及び水とを、表9の試験体9-b、9-d、9-f及び9-hの各欄に示す配合量(質量比)によって配合し、混練して4種類のペースト状物を調製した。また、オキソ酸塩を付着させていない石炭灰(JIS A6201 2種適合品)と、Ca/Alモル比=5のCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して得た焼成物及び水とを、表9の試験体9-j欄に示す配合量(質量比)によって配合し混練してペースト状物を調製した。
これら5種類のペースト状物をそれぞれ成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、5種類の固化物の試験体を製造した。
得られた5種類の固化物をそれぞれ粉砕し、篩にかけて粒径2mm以下の粉砕物を得た。次いで、各粉砕物100gをそれぞれ脱イオン水1L中に懸濁させ、6時間振とうさせた後ろ過し、ろ液中に含まれるB、As及びSeの各濃度を、ICP発光分析装置(セイコーナノテクノロジー社製、品番SPS3100)を用いて測定した。また、Cr(六価クロム)の濃度を、工場排水試験方法(JIS K0102)に示された吸光光度法により、吸光光度計(日立製作所社製、品番U-2000)を用いて測定した。測定結果を表9の試験体9-b、9-d、9-f、9-h及び9-jの各欄に示す。
また、前記4種類のオキソ酸塩を付着させた石炭灰と、オキソ酸塩を付着させていない石炭灰について、各石炭灰100gをそれぞれ脱イオン水1L中に懸濁させ、6時間振とうさせた後ろ過し、ろ液中に含まれるB、As、Se及びCr(六価クロム)の各濃度を、前記と同じ方法により測定した。測定結果を表9の試験体9-a、9-c、9-e、9-g及び9-iの各欄に示す。
下記の方法により、重金属等を含むオキソ酸塩を付着させた石炭灰とセメントとを配合して2種類の固化物を製造し、これらの固化物からの重金属等イオンの溶出量を測定した。
1.重金属等を含むオキソ酸塩を付着させた石炭灰の調製
前記試験例(19)と同じ方法により、石炭灰に各種オキソ酸塩(CrO3、H3BO3、Na2HAsO4・7H2O及びNa2SeO4)を10mmol/100g-石炭灰の割合で付着させた石炭灰を調製した。
得られたオキソ酸塩を付着させた石炭灰と、アルミナセメント又はポルトランドセメントと水とを、それぞれ表10の試験体10-a及び10-bの各欄に示す配合量(質量比)によって配合し、混練して2種類のペースト状物を調製した。次に、これらのペースト状物をそれぞれ成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、2種類の固化物の試験体を製造した。
得られた2種類の固化物をそれぞれ粉砕し、篩にかけて粒径2mm以下の粉砕物を得た。次いで、各粉砕物100gをそれぞれ脱イオン水1L中に懸濁させ、6時間振とうさせた後ろ過し、ろ液中に含まれるB、As、Se及びCr(六価クロム)の各濃度を、前記試験例(19)と同じ方法により測定した。測定結果を表10の試験体10-a及び10-bの各欄に示す。
なお、表10には、前記試験例(19)で得られた試験体9-c及び9-dの測定結果も併せて記載した。
このように効果上の差異が生ずる理由は、CaCO3/Al(OH)3混合物の焼成物を配合した固化物は、各種セメントと同様に、水密な状態の固化物を形成して重金属等イオンを固化物内に封じ込めることができるだけでなく、各種セメントと異なり、重金属等イオンを吸着し不溶化させる特性を有することによると推定される。なお、かかる推定は本発明を限定するものではない。
Ca/Alモル比=5のCa(OH)2/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成して焼成物を得た。次いで、得られた焼成物と石炭灰(JIS A6201 2種適合品)と水とを、100:100:160(質量比)の配合量によって配合し混練してペースト状物を調製した。次に、ペースト状物を成形用容器(直径50mm×高さ100mmの円筒形状)に流し入れた後、下部に水を入れたデシケータ中に密閉し、デシケータごと75℃に加熱した電気加熱器に入れ、水蒸気存在下で3日間静置することにより水蒸気養生し、固化物の試験体を製造した。
得られた固化物の試験体について前記試験例(12)と同じ方法で圧縮強度を測定したところ、圧縮強度は6.9N/mm2と高い数値を示した。
試験例(1)〜(6)より、Ca (OH)2又はCaCO3とAl(OH)3との混合物の焼成物を含む本発明の石炭灰用固化材は、CaO
、Ca(OH)2、Ca12Al14O33、CaAl4O7、CaAl2O4、Ca5Al6O14及びCa9Al6O18等の化合物を含有していることが理解できる。
また、試験例(7)〜(11)より、Ca (OH)2又はCaCO3とAl(OH)3との混合物の焼成物を含む石炭灰用固化材は、重金属及びその他の物質を含む陽イオン及び陰イオンを吸着し不溶化する特性を有することが理解できる。さらに、かかる特性は、前記混合物の焼成物において、CaとAlのモル比(Ca/Al)が2〜5の範囲であればより優れており、また、前記焼成物の焼成温度が600℃以上であればより優れていることが理解できる。
さらに、前記石炭灰用固化材を配合した固化物は、アルミナセメントやポルトランドセメントを配合した固化物よりも圧縮強度が高く、特に、前記石炭灰用固化材の配合量を、その石炭灰用固化材に含まれる前記焼成物の質量がその焼成物と石炭灰の質量の合計に対して30〜60質量%となるように調整して製造した固化物は、アルミナセメントやポルトランドセメントを配合した固化物よりも、圧縮強度が格段に高いことが理解できる。
また、試験例(18)より、CaCO3とAl(OH)3との混合物の焼成物を含む石炭灰用固化材によれば、固化物を製造する際に、室温(約25℃)で静置して固化させることが可能であり、さらに、60℃以上の温度で水蒸気養生して固化させると、圧縮強度のより高い固化物を短期間で製造できることが理解できる。
また、前記石炭灰用固化材を配合した固化物の重金属等イオンの溶出抑制効果は、アルミナセメント又はポルトランドセメントを配合した固化物よりも格段に高いことが理解できる。
Claims (5)
- Ca(OH)2及びCaCO3の少なくとも一方とAl(OH)3との混合物を800〜1200℃で焼成して得たCaとAlのモル比(Ca/Al)が1〜10の範囲である焼成物を含み、ケイ酸カルシウムを含まないことを特徴とする石炭灰用固化材。
- 請求項1に記載の石炭灰用固化材と、石炭灰、水、及び必要に応じて砂、砂利又は顔料を、該石炭灰用固化材に含まれる前記焼成物の質量が該焼成物と前記石炭灰の質量の合計に対して30〜60質量%となるように、かつ前記水の質量が前記焼成物と前記石炭灰の質量の合計に対して0.6〜1.2(質量比)となるように配合し、混練してペースト状物とし、該ペースト状物を所定の形状に成形して固化させることを特徴とする固化物の製造方法。
- 前記ペースト状物を60℃以上の温度で水蒸気養生して固化させることを特徴とする請求項2に記載の固化物の製造方法。
- 前記固化物の圧縮強度を3.6N/mm 2 以上にすることを特徴とする請求項2又は3に記載の固化物の製造方法。
- 前記石炭灰に含まれるクロムイオン(Cr 3+ )、カドミウムイオン(Cd 2+ )、鉄イオン(Fe 3+ )、銅イオン(Cu 2+ )、及び鉛イオン(Pb 2+ )から成る群から選択される少なくとも一つの陽イオン、又は、前記石炭灰に含まれるホウ酸イオンB(OH) 4 − 、クロム酸イオン(CrO 4 2- )、亜ヒ酸イオン(AsO 2 − )、セレン酸イオン(SeO 4 2- )、タングステン酸イオン(WO 4 2- )、及びモリブデン酸イオン(MoO 4 2- )から成る群から選択される少なくとも一つの陰イオンを不溶化することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の固化物の製造方法。
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