JP6052540B2 - Atg7変異体を用いたオートファジーの抑制方法 - Google Patents

Atg7変異体を用いたオートファジーの抑制方法 Download PDF

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本発明は、ATG7変異体を用いたオートファジー抑制剤及びオートファジーの抑制方法などに関する。
細胞には、細胞内にできた異常な蛋白質、小器官、不溶物質、細胞外からの侵入物(細菌やウイルス)などを分解するシステムとしてオートファジーがあり、哺乳類が生存するために必須の機能を担っている。
これまでに、マウスの遺伝学的解析などから、オートファジーが細胞の生理的機能に重要な役割を果たしていることが分かっている(非特許文献1)。また近年のヒトのゲノムワイドの遺伝学解析や、遺伝子変異マウスを用いた解析から、癌、クローン病(炎症性腸疾患の一つ)、神経変成疾患、心筋症、糖尿病、感染症、腎臓病などとオートファジーとの関連が明らかとなっている(非特許文献2)。クローン病では、オートファジー関連因子ATG16Lやオートファジーの活性を制御するIRGMなどの遺伝子異常が見つかっている(非特許文献3)。そのため、これらの疾患の誘発におけるオートファジーの役割を明らかにすることは、これらの疾患の病因の解明や、治療戦略の提案に必要であると考えられている。
オートファジーでは、脂質二重層からなるオートファゴソームという小器官がリソゾームという小器官と融合したオートファゴリソゾームの中で、標的分子が分解される。オートファゴソームの形成には、二種類の分子結合体が必要であり、一つは、LC3B(ATG8とも呼ばれる)にフォスファチジルエタノールアミン(PE)が結合したLC3B−PE結合体(LC3B−II)、もう一つは、ATG12がATG5と結合したATG12−ATG5結合体である。これらの分子の結合反応の鍵酵素であるE1様酵素がATG7である。
野生型ATG7は、活性中心である572番目(ヒトATG7の場合)のシステイン残基を介して基質であるLC3BやATG12のC末端とチオエステル結合を形成する(図1)。このチオエステル結合は、高エネルギー状態であり、不安定な結合であるため、LC3BやATG12はすみやかにE2様酵素であるATG3やATG10にそれぞれ受け渡され、LC3B−PE結合反応やATG12−ATG5結合反応が起こる。
ATG7:C572S変異体は、前記572番目のアミノ酸残基(システイン残基)がセリン残基に置換された変異型ポリペプチドである。ATG7:C572S変異体は、活性中心のセリン残基を介して基質であるLC3BやATG12とO−エステル結合を形成する。このO−エステル結合は、野生型ATG7で形成されたチオエステル結合に比べて結合状態が安定なため、LC3BやATG12は、野生型ATG7の場合ほど容易には解離しないことが報告されている(非特許文献4)。しかしながら、細胞内でのATG7:C572S変異体の発現がオートファゴソーム形成にどのような影響を及ぼすかについては知られていない。
従来より、オートファジーの抑制方法として、薬剤を用いる方法、ATG4B、ATG5などの変異体を用いる遺伝子工学的方法などが知られている(非特許文献5)。例えば、ATG4BC74A変異体(ATG4Bのプロテアーゼ活性を欠損させた変異型ポリペプチド)は、LC3B−PE結合体(LC3B−II)から、LC3Bの乖離・再利用を阻害することで、オートファジーを抑制することが知られている(非特許文献6)。即ち、ATG4BC74A変異体は、オートファゴソーム形成に必要な二つの経路であるLC3B−PE結合体の形成とATG12−ATG5結合体の形成のうち、LC3B−PE結合体の形成のみを抑制することでオートファジーを抑制する。また、ATG5K130R変異体は、上記二つの経路のうち、一次的にはATG12−ATG5結合体の形成を抑制するが、ATG12はLC3B−PE結合体の形成にも関与しているため、間接的にLC3B−PE結合体の形成も抑制し、オートファジーを抑制する(非特許文献7)。
Ichimura and Komatsu, Exp Anim Vol. 60, 329-345, 2011 N. Mizushima et al., Nature Vol. 451, 1069-1075, 2008 Khor et al., Nature Vol. 474, 307-317, 2011 I. Tanida JBC 276, 1367-1379, 2001 Mizushima et al., Cell Vol. 140, 313-326, 2010 Fujita N., Mol. Biol. Cell Vol.19, 4651-4659, 2008 J.-O. Pyo et al., Journal of Biological Chemistry Vol. 280, No. 21, 20722-20729, 2005
従来から知られているオートファジーの抑制方法として、薬剤を用いる方法では、薬剤の作用の特異性が低く、オートファジー以外の細胞プロセスにも影響し得るという問題があり、現在のところ、オートファジーを特異的に抑制する薬剤は開発されていない。また、遺伝子工学的方法によればオートファジー経路のより特異的な阻害が可能であるが、上記のようなATG4C74AやATG5K130Rを利用した場合には、LC3B−PE結合体の形成とATG12−ATG5結合体の形成のうちいずれか一方を標的とするものである。LC3B−PE結合体とATG12−ATG5結合体は隔離膜形成・伸長、LC3B−PE結合体は隔離膜伸長から完全に内容物を内包した形のオートファゴソーム形成に必須であり、それぞれが連携して機能しないとオートファジーは進行しない。そのため、ATG4BやATG5変異体を用いる方法ではオートファジーを抑制する効果は必ずしも十分ではなかった。
本発明の目的は、ATG7を標的として特異的かつ効率的にオートファジーを抑制するための手段を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、野生型ATG7を発現する細胞において、ATG7:C572S変異体の発現を誘導すると、LC3B−I(フリーのLC3B)からLC3B−II(LC3B−PE結合体)への移行が抑制されること、及びATG12−ATG5結合体の形成が抑制されることを見出した。さらに、ATG7:C572S変異体の発現を誘導するとオートファゴソーム形成が抑制されることも見出した。これらの知見は、ATG7:C572S変異体がATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体として機能すること、そしてATG8結合系におけるLC3Bの結合反応とATG12結合系におけるATG12の結合反応をそれぞれ阻害することによりオートファゴソーム形成を抑制し、その結果オートファジーを効率的に抑制することを示す。本発明者らは、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有してなる、オートファジー抑制剤。
[2]ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体が、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、野生型ATG7ポリペプチドにおける活性中心であるシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異体である、[1]に記載の剤。
[3]他のアミノ酸残基がセリン残基である、[2]に記載の剤。
[4]野生型ATG7ポリペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の剤。
[5]ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を単離された細胞内に導入することにより、当該細胞内の野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することを含む、オートファジーの抑制方法。
[6]ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体が、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、野生型ATG7ポリペプチドにおける活性中心であるシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異体である、[5]に記載の方法。
[7]他のアミノ酸残基がセリン残基である、[6]に記載の方法。
[8]野生型ATG7ポリペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する、[5]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]細胞が哺乳動物細胞である、[5]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10][5]〜[9]のいずれかに記載の方法によりオートファジーが抑制された細胞。
[11]ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有してなる、オートファジーを利用する病原菌による感染症の予防又は治療剤。
本発明によれば、オートファゴソーム形成に必要な2つの基質の結合反応に特異的に働くATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を利用するため、高い特異性で従来公知の方法よりも効率的にオートファジーを抑制することができる。
ATG結合システムの機構。野生型ATG7は、基質であるLC3B(ATG8)又はATG12のカルボキシル末端とチオエステル結合を形成する。次に、LC3B及びATG12はそれぞれATG3及びATG10と結合する。LC3Bとフォスファチジルエタノールアミン(PE)が結合したLC3B−PE結合体と、ATG12とATG5が結合したATG12−ATG5結合体の複合体がオートファゴソーム形成には必要である。ATG7はその二つの結合システムのE1様酵素として重要な働きを担っている。LC3B−PE結合体は、ATG4によって細胞内の脂質膜から切断されることで、LC3Bが細胞質に遊離し、再びATG7の基質となる。ATG7は活性中心であるシステイン残基(572番目、ヒトATG7の場合)のチオール(-SH)基を介して、基質であるLC3BやATG12とチオエステル結合を形成する。 ATG7:C572S変異体によるオートファジーの結合反応の抑制の機構。ATG7:C572S変異体は、ATG7とLC3Bとの結合反応及びATG7とATG12との結合反応を阻害することにより、オートファジーを抑制する。 ATG7:C572S変異体によるオートファジーの抑制を示す生化学実験データ。ATG7:C572S変異体の発現によるATG結合反応の抑制をウェスタンブロッティング法により確認した。ATG7:C572S変異体の発現の誘導から24、48及び72時間後の細胞抽出液を用いて解析した。最上段では、ATG7:C572S変異体に結合したmyc標識を認識する抗myc抗体を用いてATG7:C572S変異体の発現を検出した。二段目では、抗ATG7抗体を用いてATG7及びATG7:C572S変異体の発現を検出した。三段目では、LC3Bの発現を確認した。LC3B−IにPEが結合するとLC3B−IIになる。LC3B−ATG7:C572SはLC3BとATG7:C572S変異体のO-エステル結合体である。ATG7:C572S変異体の発現によりLC3B−IIの発現量が減少した。特にATG7:C572S変異体の発現を誘導してから72時間後には、LC3B−IIの発現量は著しく減少した。FBS(ウシ胎児血清(fetal bovine serum))を細胞培養液から除くことによりオートファジーの活性が上昇することが知られている。FBSを除いた場合でもATG7:C572S変異体の発現によりLC3B−IIの発現量の増加が抑制された。四段目では、ATG12の発現を確認した。ATG12とATG5の結合体の発現量が、ATG7:C572S変異体の発現により減少した。ATG12−ATG5結合体形成の抑制にともない、ATG12とATG7:C572S変異体との結合体(ATG12−ATG7:C572S)の発現量及びフリーのATG12の発現量が増加した。五段目では、オートファジーの基質の一つであるp62の発現を検出した。p62の発現量の増加はオートファジーが抑制されていることを示している。 ATG7:C572S変異体によるオートファゴソーム形成の抑制を示す細胞免疫染色の実験結果。リソゾーム分解の阻害剤であるchroloquine又はE64dとpepstatin Aを用いて、12時間、細胞を処理することにより、オートファゴソームの分解を抑制して、一定時間に生成したオートフォゴソームの形成を調べた。DAPI染色により細胞の核を観察し、LC3B蛋白質の染色によりオートファゴソームを観察した。強く染色されたドットが、一定時間に形成されたオートファゴソームを示す。ATG7:C572S変異体の発現を誘導すると、細胞内に観察されるオートファゴソーム(ドット)の数が著しく減少した。この結果は、ATG7:C572S変異体によりオートファゴソーム形成が抑制されていることを示している。
1.オートファジー抑制剤
本発明は、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有してなる、オートファジー抑制剤を提供する。
本明細書中、オートファジーとは、真核生物において、細胞内のタンパク質、小器官、細胞外からの侵入物(細菌やウイルス)などを分解するシステムの1つであって、標的を脂質二重層が取り囲むことによるオートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソゾームの融合によるオートファゴリソゾームの形成、及びオートファゴリソゾーム中での標的の分解を含むシステムをいい、マクロオートファジーともいう。本発明のオートファジー抑制剤は、オートファゴソームの形成を阻害することができるため、オートファジーを抑制することができる。
本発明において、ATG7ポリペプチドは、任意の真核生物のATG7ポリペプチドであり得る。真核生物としては、例えば、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、酵母等を挙げることができるが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくは実験動物(例えば、マウス)又は霊長類(例えば、ヒト)であり、より好ましくはヒトである。
ATG7ポリペプチドは、ATG7遺伝子によってコードされているタンパク質であり、そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は公知である。例えば、ヒトATG7のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれGenBankアクセッション番号AAC69630.1(1999年8月2日更新)(配列番号2)及びAF094516(1999年8月2日更新)(配列番号1)として登録されている。また、マウスATG7のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれGenBankアクセッション番号AAH58597.1(2006年7月15日更新)(配列番号4)及びBC058597.1(2006年7月15日更新)(配列番号3)として登録されている。
本発明のオートファジー抑制剤は、野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することにより、オートファジーを抑制することができる。本明細書中、「野生型ATG7ポリペプチドの活性」とは、フリーのLC3B(LC3B−Iともいう)をE2様酵素であるATG3に受け渡してLC3B−PE結合体(LC3B−IIともいう)の形成を促進する活性及び/又はフリーのATG12をATG5に受け渡してATG12−ATG5結合体の形成を促進する活性をいう。LC3B−IIの形成を促進する活性は、例えば、Fujita N., Mol. Biol. Cell Vol.19, 4651-4659, 2008に記載の手順に従い、細胞内のLC3B−I及びLC3B−IIを定量し、(LC3B−IIレベル)/(LC3B−Iレベル)の比を算出することにより、評価することができる。またATG12−ATG5結合体の形成を促進する活性は、例えば、Tanida I. et al., J. Biol. Chem. Vol. 276, No. 3, 1701-1706, 2001に記載の手順に従い、細胞内のフリーのATG12及びATG12−ATG5結合体を定量し、(ATG12−ATG5結合体レベル)/(ATG12レベル)の比を算出することにより、評価することができる。
本明細書中、「野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害する」とは、LC3B−IIの形成を促進する活性及び/又はATG12−ATG5結合体の形成を促進する活性を低下させることをいう。LC3B−IIの形成を促進する活性について「活性を低下させる」とは、被験細胞における(LC3B−IIレベル)/(LC3B−Iレベル)の比が、処理後24時間以上経過した後に、無処理のコントロール細胞における比の、90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下、最も好ましくは20%以下にまで低下することを意味する。ATG12−ATG5結合体の形成を促進する活性について「活性を低下させる」とは、被験細胞における(ATG12−ATG5結合体レベル)/(ATG12レベル)の比が、処理後24時間以上経過した後に、無処理のコントロール細胞における比の、90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下、最も好ましくは40%以下にまで低下することを意味する。
本発明において、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体とは、野生型ATG7ポリペプチドへの変異の導入により、細胞内において野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することが可能となったものをいう。当該ドミナントネガティブ変異体は、野生型ATG7ポリペプチドと競合することで、間接的に野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することができ、その結果オートファジーを抑制することができる。当該ドミナントネガティブ変異体は、野生型ATG7ポリペプチドをコードする核酸に、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により変異を導入し、得られた核酸を適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、当該細胞を培養して得られる培養物から組換えポリペプチドを回収することにより調製することができる。変異としては、例えば、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質(例えば、LC3B、ATG12など)とO−エステル結合を形成するような、野生型ATG7ポリペプチドの活性中心であるシステイン残基の他のアミノ酸残基への置換が挙げられる。他のアミノ酸残基は、好ましくはセリン残基である。野生型ATG7ポリペプチドの活性中心であるシステイン残基がセリン残基に置換された変異体は、従来オートファジーを抑制する機能は知られておらず、本発明において初めてドミナントネガティブ変異体であることを見出したものである。
本明細書中、「野生型ATG7ポリペプチドの活性中心であるシステイン残基」とは、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質であるLC3B又はATG12のC末端とチオエステル結合を形成するシステイン残基をいう。当該システイン残基は、真核生物において高度に保存されている。当該システイン残基は、例えば、ヒトATG7(配列番号2)においてはN末端から572番目のアミノ酸残基であり、マウスATG7(配列番号4)においてはN末端から567番目のアミノ酸残基である。
本発明におけるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体は、野生型ATG7ポリペプチドの活性中心であるシステイン残基が他のアミノ酸残基、好ましくはセリン残基に置換されており、細胞内において野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することが可能である限り、当該システイン残基の置換以外に1以上のアミノ酸残基の欠失、置換及び/又は付加を有してもよい。欠失、置換又は付加されるアミノ酸残基の数は、当該変異体が細胞内において野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することが可能である限り限定されないが、例えば、約1〜30個、好ましくは約1〜20個、より好ましくは約1〜10個、さらにより好ましくは約1〜5個、最も好ましくは1または2個である。アミノ酸残基の欠失、置換又は付加が施される部位も、当該変異体が細胞内において野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することが可能である限り特に限定されない。
本発明におけるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、572番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基、好ましくはセリン残基に置換されているアミノ酸配列を有するポリペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列において、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、567番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基、好ましくはセリン残基に置換されているアミノ酸配列を有するポリペプチドなどが挙げられる。
本発明におけるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体は、野生型ATG7ポリペプチドに由来するアミノ酸配列に加え、1又は2個以上(例えば1〜500個、好ましくは1〜100個程度、より好ましくは1〜15個程度)の付加的なアミノ酸を含んでいてもよい。付加されるアミノ酸配列は、特に限定されないが、例えば、ポリペプチドの検出や精製等を容易にならしめるためのタグを挙げることが出来る。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を例示することができる。アミノ酸配列が付加される位置は、当該変異体が細胞内において野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することが可能である限り特に限定されないが、好ましくは、ポリペプチドのN末端又はC末端である。
本発明におけるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体は、好ましくは単離又は精製されている。「単離又は精製」とは、天然に存在する状態から目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製された当該変異体の純度(全ポリペプチド重量に対する、当該変異体の重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば実質的に100%)である。
本発明のオートファジー抑制剤は、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有するものであってもよい。当該核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、当該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列としては、例えば、ヒトATG7ポリペプチドをコードする配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、当該ポリペプチドのアミノ酸配列における572番目のシステイン残基の他のアミノ酸、好ましくはセリン残基への置換をもたらす変異を有するヌクレオチド配列、マウスATG7ポリペプチドをコードする配列番号3で表されるヌクレオチド配列において、当該ポリペプチドのアミノ酸配列における567番目のシステイン残基の他のアミノ酸、好ましくはセリン残基への置換をもたらす変異を有するヌクレオチド配列などが挙げられる。
ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、公知の配列情報や本明細書の配列表に記載された配列情報を利用することにより適当なプライマーを設計し、当該変異体をコードするDNAクローンやcDNA等を鋳型として用い、PCRによって直接増幅することができる。また、野生型ATG7ポリペプチドをコードするDNAクローンやcDNA等に、自体公知の方法により、野生型ATG7ポリペプチドの活性中心であるシステイン残基の他のアミノ酸、好ましくはセリンへの置換をもたらす変異を導入し、鋳型として用いてもよい。或いは、配列情報に基づいて、ポリヌクレオチド合成装置により当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を合成してもよい。
ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、好ましくは、宿主となる細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに組み込まれた形態である。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスベクター、プラスミドベクターなどが挙げられ、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターは、誘導性プロモーター(このプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列の発現は、補因子、調節タンパク質などにより誘導される)、抑制可能なプロモーター(このプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列の発現は、補因子、調節タンパク質などにより抑制される)及び構成的プロモーターのいずれであってもよく、例えばSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが挙げられる。プロモーターとして誘導性プロモーター又は抑制可能なプロモーターを使用すれば、オートファジーを所望の時期に抑制することができるため、好ましい場合がある。誘導性プロモーター又は抑制可能なプロモーターとしては、公知のもの(例えば、テトラサイクリン応答因子を含むプロモーターなど)を使用することができる。
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含む発現ベクターは、好ましくは単離又は精製されている。
本発明のオートファジー抑制剤がATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を含有する場合、該変異体の細胞内への導入効率を高めるために、本発明のオートファジー抑制剤は更にポリペプチド導入用試薬を含むことができる。該試薬としては、プロフェクト(ナカライテスク社製)、プロベクチン(IMGENEX社製)などを用いることができる。
また、本発明のオートファジー抑制剤がATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有する場合、該核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明のオートファジー抑制剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。該核酸がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに組み込まれている場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、該核酸がプラスミドベクターに組み込まれている場合は、リポフェクチン、リポフェクタミン、DOGS(トランスフェクタム;ジオクトアデシルアミドグリシルスペルミン)、DOPE(1,2−ジオールエオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)、DOTAP(1,2−ジオールエオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン)、DDAB(ジメチルジオクトアデシルアンモニウム臭化物)、DHDEAB(N,N−ジ−n−ヘキサアデシル−N,N−ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、HDEAB(N−n−ヘキサアデシル−N,N−ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)などの陽イオン性脂質を用いることができる。
2.オートファジーを利用する病原菌による感染症の予防又は治療剤
本発明はまた、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有してなる、オートファジーを利用する病原菌による感染症の予防又は治療剤(以下、本発明の予防又は治療剤ともいう)を提供する。ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、特異的かつ効率的にオートファジーを抑制することができるため、本発明の予防又は治療剤を、オートファジーを利用する病原菌による感染症を有する対象に投与すれば、当該疾患の予防又は治療が可能である。
本発明の予防又は治療剤におけるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体及び当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、それぞれ「1.オートファジー抑制剤」に記載されたATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体及び当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸と同様である。
オートファジーを利用する病原菌による感染症としては、特に限定されないが、例えば、エルシニア感染症が挙げられる。エルシニア感染症は、下痢や食中毒様症状を主徴とする、エルシニア属の細菌(例えばYersinia pseudotuberculosis、Yersinia pestis、Yersinia enterocoliticaなど)による感染症である。エルシニア属の細菌は、オートファゴソームを利用して細胞内で増殖することが知られており、オートファジーの抑制により増殖を抑制できることが報告されている(Moreau et al., Cellular Microbiology, Vol. 12(8), 1108-1123, 2010)。従って、本発明の予防又は治療剤によれば、特異的かつ効率的にオートファジーを抑制することができるため、エルシニア感染症を効果的に予防又は治療することが可能である。
本発明の予防又は治療剤は、常套手段に従って医薬組成物として製剤化することができる。本発明の予防又は治療剤は、そのまま液剤として、又は適当な剤形の医薬組成物として、対象に対して経口的又は非経口的に投与することができる。本発明の予防又は治療剤は、通常、非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、気道内等の全身投与、或いは標的細胞付近への局所投与等が挙げられる。
本発明の予防又は治療剤の投与対象は、哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくは実験動物(例えば、マウス)又は霊長類(例えば、ヒト)であり、より好ましくはヒトである。
本発明の予防又は治療剤の投与量は、その有効成分であるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸の種類、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって適宜設定することができる。
本発明の予防又は治療剤を医薬組成物として投与する場合、当該医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体を含むことができる。薬学的に許容され得る担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤などが添加され得る。賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトールなどの糖類、でんぷん類、結晶セルロースなどのセルロース類などの有機系賦形剤、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機系賦形剤などが、結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D−マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが、滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩などの脂肪酸塩、タルク、珪酸塩類などが、溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが、崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、化学修飾されたセルロースやデンプン類などが、溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが、懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが、等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン、尿素などが、安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、その他のアミノ酸類などが、無痛化剤としては、ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカインなどが、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが、抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが、矯味矯臭剤としては、医薬分野などにおいて通常に使用される甘味料、香料などが、着色剤としては、医薬分野などにおいて通常に使用される着色料が挙げられる。このような医薬組成物は、経口又は非経口投与に適する剤形として提供される。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈剤に成分溶解させた液剤、成分を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に成分を懸濁させた懸濁液剤、成分を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入等)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤が挙げられ、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。これらの製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び薬学的に許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存してもよい。
医薬組成物中には有効量のATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸が含まれる。その含有量は、通常、医薬組成物全体の約0.1〜100重量%、好ましくは約1〜99重量%、さらに好ましくは約10〜90重量%程度である。
3.オートファジーの抑制方法
本発明はまた、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を単離された細胞内に導入することにより、当該細胞内の野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することを含む、オートファジーの抑制方法を提供する。
本発明の方法におけるATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体及び当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、それぞれ「1.オートファジー抑制剤」に記載されたATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体及び当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸と同様である。
本発明の方法における細胞としては、任意の真核生物細胞が使用され得る。真核生物細胞としては、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、哺乳動物細胞(ヒト細胞(293等)、サル細胞(COS-7等)、チャイニーズハムスター細胞(CHO細胞等)等)等が挙げられるが、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくはヒト細胞である。
ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体の細胞への導入は、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systems)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)及びChariot Kit(Active Motif)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に添加して、細胞を当該培地中で37℃にて1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体のcDNAとPTD配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。一方、プラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。
誘導性プロモーター又は抑制可能なプロモーターを含む発現ベクターを使用する場合、単離された細胞内に当該発現ベクターを導入した後、当該プロモーターからの発現を誘導するか又は発現抑制を解除する条件下で当該細胞を更に培養する。培養条件は、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を細胞内で発現させる条件であれば特に限定されず、細胞の種類、プロモーターの種類などによって変わり得るが、当業者は適切な条件を容易に設定することができる。例えば、ヒト細胞においてドキシサイクリン(テトラサイクリン類似化合物; TAKARA, Cat No. 631311)によって発現を制御できるテトラサイクリン応答性プロモーター(TAKARA, Cat. No. 631059)を用いた場合、ドキシサイクリンを含まない培養液(DMEM(Wako, Cat. No. 041-29775)にウシ血清(FBS)を0−10%添加)で培養することにより、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を細胞内で発現させることができる。
本発明の方法により、単離された細胞におけるオートファジーを特異的に抑制することができる。本発明の方法によりオートファジーが抑制された細胞は、オートファジーの生理的機能、及びクローン病などの疾患におけるオートファジーの役割などを解析するために好適に用いることができる。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。また本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
実施例1
ATG7:C572S変異体の発現を制御可能なTetOff細胞の作製
1)ヒト大腸癌細胞株DLD-1(ATCC Cat. No. CCL-221TM)にpTet-Off plasmid vector(TAKARA, Cat. No. 631017)をLipofectamin 2000(Life technologies,Cat. No. 11668-019 )を用いてトランスフェクションし、テトラサイクリン制御性トランス活性化因子(tTA)を安定的に発現する細胞を作製した。
2)tTA発現DLD-1細胞に、pTRE-Tight(TAKARA, Cat. No. 631059)のマルチプルクローニングサイト(MCS, multiple cloning site)にATG7:C572Sを導入したPlasmid vectorをLipofectamin2000(Life technologies, Cat. No. 11668-019)を用いてトランスフェクションした。
3)トランスフェクション後、生き残った細胞の中から、テトラサイクリン類似化合物であるドキシサイクリン非存在下で培養したときにATG7:C572Sを発現し、ドキシサイクリン(TAKARA, Cat No. 631311)存在下ではATG7:C572Sを発現しない細胞をウェスタンブロッティング法により選び出し、ATG7:C572Sを発現するTetOff細胞を作製した。
実施例2
ATG7:C572S変異体によるオートファジーの結合反応の抑制
実施例1で作製したTetOff細胞(以下、TetOff細胞)では、テトラサイクリン類似化合物であるドキシサイクリン依存性にATG7:C572S変異体の発現を制御することができる。TetOff細胞を、ドキシサイクリン(0.5μg/mL;TAKARA, Cat No. 631311)を含有する培地(DMEM(Wako, Cat. No. 041-29775))にFetal bovine serum(Biowest Cat. No. S1820-050)を5%添加した培地で、37℃、二酸化炭素濃度5%にて培養した後、ドキシサイクリンを含まない培地(DMEM(Wako, Cat. No. 041-29775))にFetal bovine serum(Biowest Cat. No. S1820-050)を5%添加した培地で、37℃、二酸化炭素濃度5%にて培養することにより、ATG7:C572S変異体の発現を誘導した(図3中、ATG7:C572S induction +)。コントロールとして、ドキシサイクリンを含む培地で同様に培養することによりATG7:C572S変異体の発現を抑制した(図3中、ATG7:C572S induction -)。またオートファジーをより活性化させる場合には、FBSを含まない培地で培養した。またオートファゴソームの分解を阻害する場合には、pepstatin A(濃度5 μM;Wako, 334-43971)とE64d(濃度5 μM;Wako, 330-43211)を培地に添加した。
ATG7:C572S変異体の発現の誘導から24、48又は72時間後に細胞抽出液を以下の手順で調製した:100 mm dish(BioLite ディッシュ, ThermoScientific Biology Cat. No. 130182)に1-2x106個にて培養した細胞を5 mlのPBSで二回洗い、1 mlのPBSを加えて、セルスクレーパーを用いて細胞を集めて、1.5 mlエッペンチューブに回収後、遠心し(8000 rpm、1分)、沈殿した細胞を細胞溶解液(50 mM TrisHCl(pH 8.0), 150 mM NaCl, 5 mM MgCl2, 1 mM EDTA(pH 8.0), 0.5% Triton-X100にプロテアーゼインヒビターカクテル(ロッシュ、complete mini 04 693 159 001)を添加)に溶解した後、遠心(15000 rpm、15分)し、上清を細胞抽出液とした。
この細胞抽出液を用いて定法に従いウェスタンブロッティング法により解析した。使用した抗体は、以下の通りである:抗myc抗体(c-Mycモノクローナル抗体、ナカライテスク、Cat. No. 14362-34)、抗ATG7抗体(APG7抗体(H-300), SantaCruze biotechnology, sc33211)、抗LC3B抗体(LC3B(D11)XP(登録商標) Rabbit mAb, Cell Signaling Technology, Cat. No. 3868S)、抗ATG12抗体(ATG12抗体、Cell Signaling Technology, Cat. No. 2010)、抗p62抗体(BD Biosciences Cat. No. 610832)及び抗β-Actin抗体(Sigma-Aldrich Cat. No. A5316)。
結果を図3に示す。ATG7:C572S変異体の発現を誘導すると、LC3B−I(フリーのLC3B)からLC3B−II(結合体)への移行が抑制された。LC3B−Iは、図2におけるフリーのLC3B−Iに相当し、LC3B−IIは、LC3B−PE結合体に相当する。
同様に、ATG7:C572S変異体の発現を誘導すると、ATG12がATG5と結合して形成されるATG12−ATG5結合体の形成が抑制された。
またATG7:C572S変異体の発現を誘導すると、オートファジーの基質の一つであるp62の量の増加も認められた。
これらの結果は、ATG7:C572S変異体が、ATG8結合系におけるLC3Bの結合反応とATG12結合系におけるATG12の結合反応をそれぞれ阻害を阻害することにより、オートファジーを抑制することを示す。
更に、細胞内のオートファゴソーム形成を細胞免疫染色により調べた。6ウェルディッシュ(BioLiteマルチディッシュ6ウェル、Thermo Scientific Biology Cat. No. 130184)の底にカバーガラス(松浪;C218181)を置き、細胞を培養し、カバーガラスに付着した細胞を10%ホルマリン溶液(Wako、ホルマリン、064-00406をPBSで10倍希釈)を用いて固定後、0.1% Triton-X100を含むPBSにより処理し、細胞をPBSにより洗浄後、抗LC3B抗体(LC3B(D11)XP(登録商標) Rabbit mAb, Cell Signaling Technology, Cat. No. 3868S)を含むPBS溶液(抗体濃度100100分の1)により染色した。その後、Alexa Fuor(登録商標) 594 anti-rabbit IgG(Molecular Probes(登録商標) Invitrogen detection technologies Cat. No. A-11012)により抗LC3B抗体を標識した。核はDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole; Sigma-Aldrich, D9542)により染色し、蛍光顕微鏡により観察した(Olympus、インテリジェント顕微鏡BX63)。
結果を図4に示す。リソソーム分解阻害剤であるchroloquine(東京化成工業株式会社、C2301)又はE64d(Wako, 330-43211)とpepstatin A(Wako, 334-43971)を用いてオートファゴソームの分解を抑制したところ、ATG7:C572S変異体の発現を誘導しない条件(Uninduced)ではオートファゴソームの形成が認められたのに対し、ATG7:C572S変異体の発現を誘導する条件(Induced)ではオートファゴソームの形成は抑制された。
これらの結果から、ATG7:C572S変異体を発現させることにより、オートファゴソーム形成を抑制し、オートファジーを阻害できることが示された。
本発明によれば、オートファジーの生理的機能、及びクローン病などの疾患におけるオートファジーの役割などを解析するための手段を提供することができる。従って本発明は、オートファジー関連疾患の発症機序の解明に基づく新たな治療戦略の開発に貢献することができる。

Claims (6)

  1. ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有してなる、オートファジー抑制剤であって、ここで、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体が、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、野生型ATG7ポリペプチドにおける活性中心であるシステイン残基がセリン残基に置換された変異体である、オートファジー抑制剤
  2. 野生型ATG7ポリペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する、請求項1記載の剤。
  3. ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を単離された細胞内に導入することにより、当該細胞内の野生型ATG7ポリペプチドの活性を阻害することを含む、オートファジーの抑制方法であって、ここで、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体が、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、野生型ATG7ポリペプチドにおける活性中心であるシステイン残基がセリン残基に置換された変異体である、オートファジーの抑制方法
  4. 野生型ATG7ポリペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する、請求項3記載の方法。
  5. 細胞が哺乳動物細胞である、請求項3又は4に記載の方法。
  6. ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体又は当該変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有してなる、オートファジーを利用する病原菌による感染症の予防又は治療剤であって、ここで、ATG7ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体が、野生型ATG7ポリペプチドの天然の基質とO−エステル結合を形成するように、野生型ATG7ポリペプチドにおける活性中心であるシステイン残基がセリン残基に置換された変異体である、オートファジーを利用する病原菌による感染症の予防又は治療剤
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