以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.コークス炉の全体構成]
まず、図1、図2を参照して、コークス炉の全体構成について説明する。図1は、室炉式のコークス炉1の炉長方向Xの縦断面図であり、図2は、室炉式のコークス炉1の炉団長方向Yの縦断面図である。
図1及び図2に示すように、室炉式のコークス炉1は、炉体下部に設けられるソールフリュー2と、該ソールフリュー2の上部に設けられる蓄熱室3と、該蓄熱室3の上部に設けられる炭化室4及び燃焼室5と、該炭化室4及び燃焼室5の上部に設けられる炉頂部6とを備える。また、図示はしないが、コークス炉1は、炉頂部6上に炉団長方向Yに走行可能に配置されて各炭化室4に石炭を装入する装入車や、各炭化室4からコークスを押し出すための押出機なども備えている。
炭化室4及び燃焼室5は、炉長方向Xに延びる縦長の略直方体状の空間であり、かかる炭化室4と燃焼室5は、炉団長方向Yに交互に設けられる。炭化室4は、石炭を乾留してコークスを生成するための空間である。炭化室4の上部の炉頂部6には、炉長方向Xに所定間隔で複数の装入口7が形成されるとともに、端部に1本又は2本の上昇管8が形成される。不図示の装入車により装入口7から炭化室4内に石炭が装入される。燃焼室5は、燃料ガスを燃焼させるための空間である。該燃焼室5の熱が炭化室4に伝わることで、炭化室4内で石炭が乾留される。この燃焼室5の上部の炉頂部6には、炉長方向Xに所定間隔で複数のフリュー孔9が形成されている。該フリュー孔9は、燃焼室5に連通しており、最上段にはフリュー孔蓋が設置される。かかるフリュー孔9を設けることで、燃焼室5の燃焼状態を、炉頂から目視で観察することができるようになる。
上記ソールフリュー2、蓄熱室3、炭化室4、燃焼室5及び炉頂部6は、コークス炉1の炉体を構成し、当該炉体は、数百〜千数百にも及ぶ異形状の煉瓦(珪石煉瓦、粘土煉瓦及び断熱煉瓦等の炉体耐火物)を、高さ方向に例えば100段程度も組み合わせた複雑な構造を有する。
また、図1に示すように、コークス炉1の窯口部10は、炭化室4及び燃焼室5の炉長方向Xの両端部の炉壁に形成された縦長矩形の開口(即ち、窯口)及びその周辺部分である。窯口部10は、炭化室4内で製造されたコークスを炉内から外部に排出する用途や、炭化室4内にコークスの押出機を装入するために用いられる。一側の窯口部10から炭化室4内に押出機を装入し、他側の窯口部10からコークスが押し出される。
本実施形態では、上記のコークス炉1の窯口部10のシール構造を特徴としている。以下に、窯口部10のシール構造について詳細に説明する。
[2.コークス炉窯口部の構造]
次に、図3、図4を参照して、本発明の第1実施形態に係るコークス炉1の窯口部10の構造について詳述する。図3、図4はそれぞれ、本実施形態に係るコークス炉1の窯口部10を示す斜視図、水平断面図である。
図3、図4に示すように、コークス炉1の窯口部10は、炉体耐火物11、金属製の炉枠12、押さえ金物13、バックステー14、炉蓋15などの複数の構成部材からなる。
窯口部10の炉体耐火物11は、コークス炉1の燃焼室5の炉長方向Xの端部の炉壁を構成する耐火物(煉瓦)であり、炭化室4の炉長方向Xの端部に形成される開口(即ち、窯口)を取り囲む。一般に、窯口部10の炉体耐火物11は、当該炉壁の最外側に位置する粘土煉瓦110を含み、その内側に存在する珪石煉瓦111(燃焼室5を区画する煉瓦)を含まない。しかし、かかる定義に限定されず、本発明の炉体耐火物は、コークス炉窯口の炉枠周辺に設置される任意の耐火物を含んでもよい。
本実施形態では、多数の粘土煉瓦110を水平方向(炉団長方向Y)及び鉛直方向Zに積み上げることにより、窯口部10の炉体耐火物11(燃焼室5の端部の炉壁に相当する。)が形成される。図4に示す例では、炉体耐火物11の各層は、炉団長方向Yに分割された3つの粘土煉瓦110からなり、このうち中央の粘土煉瓦110には、モルタル注入孔110aが形成されている。かかるモルタル注入孔110aから、耐火モルタル(図示せず。)を注入して、煉瓦110、111間の目地部で乾燥及び固化させることで、複数の粘土煉瓦110及び珪石煉瓦111が相互に接合される。
炉枠12は、コークス炉1の窯口部10に設置される縦長枠形状の金属製のフレームである。この炉枠12は、炭化室4の炉長方向Xの端部に形成される窯口を取り囲むように設置され、当該窯口の周囲の炉体耐火物11を補強し、その破損や崩落を防止する機能を有する。当該炉枠12は、金属製の鋳物、例えば、鋳鉄製の金物からなり、窯口の周囲の炉体耐火物11の縁部に沿って取り付けられる。炉体耐火物11と炉枠12の接合部においては、炉体耐火物11の接合面と炉枠12の接合面が相互に対応する形状となっており、極力、炉体耐火物11と炉枠12との間に隙間が生じないようになっているが、前述した理由から両者を完全に隙間なく接合することはきわめて難しい。
押さえ金物13は、金属製の支持部材であり、窯口部10の炉体耐火物11を炉長方向Xに押さえる機能を有する。押さえ金物13は、例えば、鋳鉄等の平板状の鋳物からなり、窯口部10の炉体耐火物11の炉長方向Xの端面に取り付けられ、その背面からバックステー14により支持される。バックステー14は、H形鋼からなり、押さえ金物13を介して、炉長方向Xの端部の炉体耐火物11を支持する機能を有する。
炉蓋15は、上記炉枠12に取り付けられて、窯口部10の窯口を開閉可能に塞ぐ機能を有する。炉蓋15は、炭化室4の端部の窯口から炉内に挿入される炉蓋耐火物150と、当該炉蓋耐火物150を支持する押さえ装置151とからなる。炉蓋耐火物150は、不定形耐火物、例えば耐火キャスタブルなどを用いて成形される。押さえ装置151は、炉枠12に対して着脱可能に取り付けられ、炉蓋耐火物150を支持する。押さえ装置151を、炉枠12の前面に当接させることにより、炉蓋15と炉枠12の間に形成される隙間がシールされる。
[3.窯口部のシール構造]
次に、図3〜図5を参照して、本実施形態に係る窯口部10の炉枠12と炉体耐火物11の間のシール構造について詳述する。図5は、本実施形態に係る窯口部10の炉枠12と炉体耐火物11の間のシール構造を示す拡大水平断面図である。
[3.1.シール構造の全体構成]
まず、シール構造の全体構成について説明する。上記のように、コークス炉1の窯口部10では、炭化室4の端部の窯口の周囲の炉体耐火物11に、金属製の炉枠12が設置され、その内側空間を炉蓋15で塞ぐ構造である。かかる窯口構造においては、炉体耐火物11と炉枠12との間に、通常、隙間20が形成される。つまり、金属製の炉枠12の表面は平坦面であるが、複数の粘土煉瓦110からなる炉体耐火物11の表面には凹凸があるので、炉枠12の表面と炉体耐火物11の凹凸面との間に、どうしても隙間20が生じる。
このため、当該隙間20を通って漏洩するガスをシールする構造が必要となる。ところが、コークス炉1の操業時に当該隙間20の周辺は、少なくとも200°以上の高温になるため、ゴムなどの有機系材質のシール部材は使用できず、セラミック等の無機系材質のシール部材を使用する必要がある。
図3〜図5に示すように、本実施形態に係る窯口部10のシール構造では、炉体耐火物11と炉枠12の間に、一対のセラミックファイバーロープ21、22(以下、単に「ロープ21、22」という場合もある。)を挟み込む。セラミックファイバーロープ21、22は、セラミックファイバーを主材料として製造されるロープであり、高温耐熱性とある程度の硬さを有する。なお、セラミックファイバーは、無機繊維の代表例であるが、本発明のロープは、セラミックファイバー以外の任意の無機繊維を主材料として製造されてもよい。
ロープ21、22の直径φは、炉体耐火物11の表面の凹凸や隙間20の幅w等に応じて調整される。ロープ21、22は、窯口の全周囲に渡って連続的に設置されて、上記炉体耐火物11と炉枠12の間に挟み込まれる。また、一対のロープ21、22は、隙間20内において所定の間隔を空けて離隔配置されている。これにより、炉体耐火物11に炉枠12を2箇所で安定的に位置決めすることができる。
以下では、上記一対のロープ21のうち、炉内側(炭化室4内のガスに触れる側)に配置されるものを炉内側ロープ21、炉外側(コークス炉外の外気に触れる側)に配置されるものを炉外側ロープ22と称する。なお、本実施形態では、隙間20内に2本のロープ21、22を設置しているが、3本以上のロープを設置してもよい。1本のロープのみを設置する場合、炉枠12を炉体耐火物11に設置する際に、当該ロープによる炉枠12の位置決め精度が低下するので、好ましくない。そこで、本実施形態においては、後述する熱膨張シート25の炉外側と炉内側のそれぞれの側にロープを1本以上(合計2本以上)設置する。
上記のセラミックファイバーロープ21、22を炉体耐火物11と炉枠12との間に挟み込むことにより、ロープ21、22が押し潰されて横方向(隙間20の長手方向)に拡がり、炉体耐火物11に対して炉枠12が位置決めされ、隙間20の幅wが設定される。つまり、ロープ21、22の直径φや硬さを調整することで、炉枠12を炉体耐火物11に設置して、炉枠12を炉体耐火物11の間でロープ21、22を挟み込んだときに、ロープ21、22の潰れ具合に応じて、隙間20の幅wが決定される。
また、上記のセラミックファイバーロープ21、22を炉体耐火物11及び炉枠12の表面に圧着することで、該ロープ21、22を、隙間20を塞ぐパッキンとしても機能させて、炭化室4内のガスが隙間20を通じて炉外へ漏洩することを抑制できる。
さらに、隙間20のうちロープ21、22の外側部分には、それぞれモルタル23、24が充填され、ガス漏洩の抑制を更に確実なものにしている。具体的には、隙間20のうち炉内側ロープ21よりも炉内側(炭化室4に近い側)の空間部分にはモルタル23(以下、炉内側モルタル23と称する。)が充填されている。一方、隙間20のうち炉外側ロープ22よりも炉外側(炭化室4から遠い側)の空間部分にはモルタル24(以下、炉外側モルタル24と称する。)が充填されている。これらのモルタル23、24は、隙間20をシールする機能を有する。
ところが、前述したように、セラミックファイバーロープ21、22及びモルタル23、24のみでは、隙間20を完全にシールして、ガス漏洩を確実に抑制することは難しい。つまり、上記のように炉体耐火物11に対して炉枠12を適切に位置決めするためには、ある程度硬いロープ21、22を使用する必要がある。しかし、硬いロープ21、22を用いた場合、複数の粘土煉瓦110を積み上げて築造された炉体耐火物11の表面の凹凸に対して、ロープ21、22が柔軟に追従できないため、ロープ21、22と炉体耐火物11の表面との間に部分的に隙間が生じ、ガスが漏洩してしまう。さらに、無機繊維質のロープ21、22自身の内部に生じる空隙や、ロープ21、22の経年劣化による空隙が生じ、これら空隙を通じてガスが漏洩する恐れもある。
また、隙間20におけるロープ21、22の外側部分にモルタル23、24を充填したとしても、使用年数の経過とともに、炉枠12や炉体耐火物11の熱膨張や個々の粘土煉瓦110のずれにより、モルタル23、24に亀裂が生じ、ガスが漏洩してしまうこともある。さらにはモルタル充填時に、炉体の熱によりモルタルが固化するため、隙間20内にモルタルを適切に注入することが困難であり、不完全に充填・固化したモルタル23、24内の空隙がガスの流路となり、漏洩が生じてしまう可能性もある。
そこで、本実施形態に係るシール構造では、シール部材として、熱膨張シート25を隙間20内に追加設置することを特徴としている。上記セラミックファイバーロープ21、22は、炉枠12の位置決め用途と、隙間20のシール用途とを兼用する部材であるのに対し、熱膨張シート25は、隙間20のシール用途の専用部材となる。
熱膨張シート25は、常温よりも高い所定温度(例えば200°)以上の環境下で急激に膨張する熱膨張性を有するものであればよいが、好ましい形態は、セラミックファイバー等の無機繊維からなるシートに膨張黒鉛を添加し分散させたものである。膨張黒鉛は、異方性が非常に高いため、一方向に確実に膨張させることができ、本実施形態に係る熱膨張シート25は、隙間20の幅方向に膨張するように膨張黒鉛が配合されたものを用いればよい。本実施形態に係る熱膨張シート25の基材は、セラミックファイバーからなるが、セラミックファイバー以外の無機繊維を熱膨張シート25の基材としてもよい。以下では、この好ましい形態である膨張黒鉛を添加させた熱膨張シート25を例に説明する。
この熱膨張シート25は、隙間20における上記一対のロープ21、22の間の中央部分に設置され、窯口の全周囲に渡って連続的に設置される。このために、熱膨張シート25は帯状に裁断されており、隙間20内に設置された際に、両側のロープ21、22に接触しないようになっている。薄い熱膨張シート25を一対のロープ21、22間に配置することで、炉枠12を炉体耐火物11に取り付けて位置決めする際に、熱膨張シート25の破損を防止できる。
そして、上記薄い熱膨張シート25は、隙間20の幅方向に膨張するように隙間20内に設置される。つまり、熱膨張シート25の厚み方向(即ち、膨張黒鉛の積層方向)が隙間20の幅方向に一致するような設置方向で、1枚の熱膨張シート25が隙間20内に配置される。
これにより、コークス炉1の稼働後に、窯口部10が高温になった場合には、熱膨張シート25は、その熱により隙間20の幅方向に膨張して、炉体耐火物11と炉枠12の間の隙間20を的確に閉塞する。この際、熱膨張シート25は、膨張黒鉛を含有しており、膨張性能が高いので、隙間20の幅方向全体を的確に閉塞でき、空隙を生ずることなく隙間20全体を確実にシールできる。もちろん、熱膨張シート25が膨張しても、シート内部に発生した空隙を通って、ガスが漏洩するため、必ずしも稼働初期から熱膨張シート25によりガス漏洩を完全に抑制できるとは限らない。しかし、膨張後の熱膨張シート25内に生じた空隙が微細空隙であれば、石炭乾留時に発生するタール分を含むガスが熱膨張シート25内を通過する際に、当該タール分が熱膨張シート25のファイバーに沈積する。このため、コークス炉1の立ち上げ後数カ月以内で、タール分により熱膨張シート25内部のガス経路(微細空隙)が閉塞されて、熱膨張シート25内部のガス流通は遮断されるので、ガス漏洩は発生しなくなる。
このように、本実施形態では、炉枠12と炉体耐火物11との間に形成される隙間20内において、一対のロープ21、22の間に熱膨張シート25を設置する。これにより、コークス炉1の稼働後に、熱膨張シート25が隙間20の幅方向に熱膨張して当該隙間20を閉塞するので、当該隙間20を長期間に渡って安定的にシールして、ガス漏洩を抑制することができる。この点、本実施形態に係る熱膨張シート25の膨張方向が隙間20の幅方向であるのに対し、前述の特許文献2に記載の複数枚の熱膨張性シートの膨張方向が隙間の長手方向であり、両者の膨張方向は全く相違しており、シール性も異なる。
[3.2.シール構造の施行手順]
次に、図6A〜Dを参照して、本実施形態に係るシール構造の施行手順について詳細に説明する。図6A〜Dは、本実施形態に係るシール構造の施行工程を示す模式図である。
まず、図6Aに示すように、炉枠12を炉体耐火物11に取り付ける前に、炉枠12の表面に2本のセラミックファイバーロープ21、22を、例えば粘着テープ(図示せず。)などの接着手段を用いて取り付けておく。この際、ロープ21、22は、炉枠12を炉体耐火物11に適切に位置決めできるような位置に所定間隔を空けて取り付けられる。また、炉枠12の表面におけるロープ21、22の間の位置に、帯状の熱膨張シート25が取り付けられる。この際、熱膨張シート25を、炉枠12の表面に接着剤や充填剤等の粘着手段で貼り付けておけばよい。
図6Aに示すように、炉体耐火物11に対する炉枠12の設置前には、熱膨張シート25の厚みtは、上記位置決め用のロープ21、22の直径φよりも小さい。そして、ロープ21、22は、潰れておらず、円形断面のままである。
次いで、図6Bに示すように、炉枠12を炉体耐火物11に取り付ける。これにより、セラミックファイバーロープ21、22は、炉体耐火物11と炉枠12との間に挟み込まれ、押し潰されて横方向に拡がる。これにより、離隔配置された2本のロープ21、22で炉枠12が支持されて、炉体耐火物11に対して炉枠12が高精度で位置決めされるとともに、ロープ21、22の潰れ具合に応じて、炉枠12と炉体耐火物11の間の隙間20の幅wを調整できる。
かかる炉枠12の設置時には、熱膨張シート25は、常温環境下でまだ膨張していない薄いシートであるので、炉枠12の設置作業の作業性を低下させることがない。つまり、熱膨張シート25の厚みtは、上記ロープ21、22の直径φよりも小さく、かつ、当該ロープ21、22により調整される最終的な隙間20の幅wよりも小さい。このため、炉枠12の設置時に、熱膨張シート25が、炉体耐火物11に対して接触しないので、熱膨張シート25の破損を防止できる。このように、上記ロープ21、22を利用して炉枠12を位置決めして、隙間20を形成しつつ、炉枠12を炉体耐火物11に取り付ければ、炉体耐火物11と炉枠12の間の隙間20に薄い熱膨張シート25を簡単に設置できる。なお、熱膨張シート25の取付作業性を向上する観点からは、表面に凹凸のある炉体耐火物11よりも、表面が平坦な炉枠12に対してロープ21、22と熱膨張シート25を貼り付けておくことが好ましい。
次いで、図6Cに示すように、隙間20のうち炉内側ロープ21よりも炉内側の空間部分に、モルタルを施工して固化させ、シール部材としての炉内側モルタル23を形成する。同様に、隙間20のうち炉外側ロープ22よりも炉外側の空間部分に、モルタルを施工して固化させ、シール部材としての炉外側モルタル24を形成する。炉内側モルタル23は、隙間20のシール機能を発揮するのみならず、炭化室4内の高温の石炭の輻射熱から炉内側ロープ21を保護する機能を有する。従って、輻射熱による炉内側ロープ21の劣化を防止する観点からは、できるだけ炉内側モルタル23を設置することが好ましい。一方、炉外側モルタル24は必須ではないが、より確実に隙間20をシールするためには、炉外側モルタル24を設置した方がよい。
その後、図6Dに示すように、コークス炉1の稼働後には、炉内の熱により、熱膨張シート25が膨張して、隙間20を閉塞する。この際、熱膨張シート25の膨張方向は、隙間20の幅方向であり、膨張後の熱膨張シート25の厚みt’は、隙間20の幅wと同程度となる。これにより、セラミックファイバーロープ21、22やモルタル23、24で隙間20を完全にシールできない場合であっても、熱膨張シート25により隙間20を確実にシールして、ガス漏洩を防止できる。
[3.3.熱膨張シートの構成]
次に、本実施形態に係る熱膨張シート25の構成や製法等について詳細に説明する。
上記のように、本実施形態では、炉体耐火物11と炉枠12との間に形成される隙間20のシール部材として、熱膨張シート25を設置する。この熱膨張シート25は、耐熱性を有するセラミックファイバーシート中に、例えば200°以上で急激に膨張する、所謂「膨張黒鉛」を含有させた膨張黒鉛シートからなる。この熱膨張シート25を隙間20に設置しておくことで、もし高温のガスが隙間20を流れてきたときは、熱膨張シート25を急速に膨張させることで、隙間20を閉塞して、ガス流出を遮断することができる。
本実施形態に係る熱膨張シート25としては、例えば、従来では建材用途などで用いられてきた市販の膨張黒鉛シート(商品名:「フィブロック」、積水化学工業社製)を使用することができる。この膨張黒鉛シートは、セラミックファイバーと少量の膨張黒鉛を溶媒中に分散させ、紙すきの要領にて所定厚みのシートに成形したものであり、使用用途により若干量の結合剤を使用することで、冷間作業時に必要な強度を保持している。
なお、黒鉛は、炭素の結晶型の一つであり、平面六角型の形で炭素原子が結合した層が積み重なった構造を有する。この六角形平面内での炭素−炭素結合は、ダイヤモンドと同程度の強い結合を示すが、層間の結合は弱い結合(ファンデルワールス結合)となっている。この黒鉛を硫酸又は硝酸等で処理し、黒鉛の層間にイオンや分子などを注入して、膨張黒鉛が製造される。膨張黒鉛を急熱すると、上記層間に挿入された物質が燃焼・ガス化し、層間結合を切りながら膨張するが、その時ガスの放出が爆発的に発生し、層と層の間を押し広げると、黒鉛が層の積層方向に膨張する。
このように、膨張黒鉛シートは、シートを構成する黒鉛の積層方向(シートの厚み方向)のみに急激に膨張する性質を有する。従って、膨張黒鉛シートからなる熱膨張シート25を上記隙間20に設置する場合、熱膨張シート25の厚み方向を隙間20の幅方向に合わせて配置すればよい。これにより、熱膨張シート25が隙間20の幅方向に膨張したときに、隙間20の幅方向全体を確実に閉塞してシール可能となる。
本実施形態に係る熱膨張シート25としては、例えば、事前に硫酸浸漬処理を施した、粒子径0.1〜2mm程度の膨張黒鉛を用いた膨張黒鉛シートを用いればよい。また、この熱膨張シート25の膨張率は、シートの基材材料(無機繊維)中に分散させる膨張黒鉛の量によりコントロールすることができる。
図7は、熱膨張シート25の基材材料中に占める膨張黒鉛の添加量と、熱膨張シート25の膨張率との関係を示す。図7に示すように、膨張黒鉛の添加量を増加すれば、熱膨張シート25の膨張率も増加する。例えば、膨張黒鉛の添加量が10質量%であるときには、熱膨張シート25の膨張率は20倍程度である。
本実施形態に係る熱膨張シート25を製造する際、セラミックファイバーシート中に0.5質量%以上、15質量%以下の膨張黒鉛を添加した膨張黒鉛シートを用いることが好ましい。
この理由は、膨張黒鉛の添加量が0.5質量%未満である場合には、昇温時の膨張黒鉛の膨張が熱膨張シート25の膨張に明確に現れないからである。膨張黒鉛の添加量が0.5質量%以上であれば、熱膨張シート25の膨張率が1倍超となり、熱膨張シート25は多少なりとも膨張することが可能である。一方、膨張黒鉛の添加量が15質量%以上である場合には、シートの膨張量も大きいが、ファイバーシートとしての柔軟性を発揮しにくく、熱膨張シート25の施工性が低下する。このため、シート材料に有機結合剤を多く加えることになるが、その場合、実稼働開始前のコークス炉の空焚きでの昇熱乾燥中に(通常3ヶ月以上を要する)、有機結合剤のガスが発生し、異臭等による作業環境悪化の原因になる。また、コークス窯出し前の乾留末期における炉内減圧時に、シールしきれずに大気が炉内に吸入漏れしてしまった場合、膨張黒鉛はその空隙が多い故に、容易に酸化してCO又はCO2として消失するため、その空隙充填性が問題になることも考えられる。このような理由から、熱膨張シート25中に不必要に多くの膨張黒鉛を添加すべきでなく、膨張黒鉛の添加量は、多くても15質量%以下、望むらくは10質量%以下とすることが好ましい。
また、熱膨張シート25は、前述したガス漏洩時に熱膨張シート25により隙間20を閉塞すれば良いことから、膨張能力としては、この隙間20の幅以上になるような過剰な膨張能力を有していても構わない。過剰膨張能力を有していても、隙間20の幅が固定されていることから、熱膨張シート25は隙間20の幅の制約を受けて、この幅を超えて膨張することはない。
また、膨張前の熱膨張シート25の幅が隙間20の幅以上に大きいと、施工時に圧縮や磨耗を受けて、熱膨張シート25が破壊されてしまう。特に、最も大事な膨張する方向側の面が破壊されてしまうため、これを防止する必要がある。そのため、設置時の熱膨張シート25の厚み(製造時に局部的な寸法のバラツキが存在するため、当該厚みは最大厚みのことを言う)は、隙間20の幅よりも小さくする。
また、膨張前の熱膨張シート25の幅が、隙間20の幅よりも僅かに小さい程度では、施工時に破壊されないようにするために取り扱いに多くの注意が必要となるため、熱膨張シート25の厚みは、隙間20の幅の90%以下とすることが好ましい。
そのため、熱膨張シート25の厚みを隙間20の幅の90%以下とする場合は、膨張の余裕代も考慮して、熱膨張シート25の膨張率(膨張能力)は、少なくとも1.2倍から2.0倍程度以上を確保することが好ましい。図7の関係からすれば、この膨張率を確保するためには、膨張黒鉛の添加量は、少なくとも3〜5質量%以上であることが好ましい。また、施工時の熱膨張シート25の初期強度を考慮すると、シート材料中に有機結合剤を2〜3質量%添加することが好ましい。
また、膨張前の熱膨張シート25が厚いほど、膨張後の熱膨張シート25の密度が増し、熱膨張シート25の繊維間の空隙が小さくなるため、ガス漏洩しにくいという利点がある。しかし、熱膨張シート25が厚すぎると、前述したように実際の施工時において炉枠12と炉体耐火物11を位置合わせする際に、突出した熱膨張シート25の表面が炉体耐火物11と接触するため、炉枠12や熱膨張シート25の設置作業をしにくいという問題が発生する。一方、熱膨張シート25が薄いと、炉枠12や熱膨張シート25の設置作業はしやすいが、熱膨張シート25が膨張したときに、隙間20内を充填することはできても、熱膨張シート25の密度が低下して、熱膨張シート25自身の繊維間の空隙が大きくなるため、熱膨張シート25の内部を通じてガスが漏洩しやすくなってしまう。
従って、熱間で熱膨張シート25を膨張させて効果的に隙間20を閉塞し、かつ冷間での熱膨張シート25の施工の容易さを確保するためには、膨張前の熱膨張シート25の厚みtを、隙間20の幅wよりも適度に小さくすることが好ましい。例えば、膨張前の熱膨張シート25の厚みtを隙間20の幅wよりも1mm以上小さくして、冷間での施工時において隙間20に占める熱膨張シート25の調整代(即ち、熱膨張シート25の表面と炉体耐火物11の表面との間の間隙d)を1mm以上に確保することが好ましい(d=w−t)。
本願発明者が鋭意研究したところ、膨張前の熱膨張シート25の厚みtを隙間20の幅wの30%以上、90%以下(t=0.3〜0.9×w)とすることが好ましく、さらに、tをwの50%以上、90%以下(t=0.5〜0.9×w)とすることがより好ましいことが分かった。
tがwの90%以下であれば、炉体耐火物11に対する炉枠12の設置作業時に、両側のロープ21、22でガードされた熱膨張シート25の表面が炉体耐火物11に接触せず、熱膨張シート25が破損したり剥離したりすることが無いので、作業性を向上できる。これに対し、tがwの90%超であれば、炉枠12の設置時に熱膨張シート25の表面が炉体耐火物11に接触して、熱膨張シート25が破損したり剥離したりするため、作業性が低下してしまう。
また、tがwの30%以上であれば、隙間20内で熱膨張シート25が膨張したときに、その膨張率は約3.3倍以下となる。この場合、膨張後の熱膨張シート25中に繊維間の空隙が発生するが、当該空隙は微細である。従って、コークス炉1の稼働開始当初は、膨張した熱膨張シート25中をガスが流通するものの、稼働後にある程度の時間が経過すれば、ガス中のタール分が上記熱膨張シート25の微細空隙に徐々に付着して、当該微細空隙が埋まる。この結果、膨張した熱膨張シート25のシール性が向上し、操業上要求される程度にまでガス漏洩を十分に抑制できるようになる。
さらに、tがwの50%以上であれば、隙間20内で膨張する熱膨張シート25の膨張率は2倍以下となる。この場合、コークス炉1の稼働開始当初から、熱膨張シート25により適切にガスをシールできるとともに、さらに時間が経過すれば、ガス中のタール分の付着により、熱膨張シート25のシール性が更に向上し、より効果的にガス漏洩を抑制できるようになる。
これに対し、tがwの30%未満である場合、熱膨張シート25の膨張率が約3.3倍超となり、膨張後の熱膨張シート25の密度が低下するため、当該熱膨張シート25中の空隙が大きくなる。このため、膨張後の熱膨張シート25中をガスが流通したとしても、当該空隙に対するタール分の付着による閉塞効果が低下するので、熱膨張シート25によるシール性が低下してしまう。熱膨張シート25中に厚み5mm程度の空隙が存在した場合、この空隙がガスの流通路となり、何年にも渡ってガスが漏洩する場合があり、また1mm程度の空隙であっても、その空隙に集中してガス漏洩する場合には、タール分が付着しにくい。よって、シール性を確保す得る観点からは、熱膨張シート25中に目視可能なレベルの空隙は残さないようにすべきである。
[4.第2の実施形態]
次に、図8を参照して、本発明の第2の実施形態に係る窯口部10のシール構造について説明する。図8は、第2の実施形態に係る窯口部10の炉枠12と保護板16の間に形成される隙間20のシール構造を示す模式図である。なお、第1の実施形態では、窯口部10の炉体耐火物11と炉枠12の間に形成される隙間20がシール対象であったが、第2の実施形態では、窯口部10の炉体耐火物11を押さえ込む保護板16と炉枠12の間に形成される隙間20がシール対象である。
図8に示すように、第2の実施形態に係る窯口部10には、第1の実施形態に係る押さえ金物13に代えて、保護板16が設置されている。この保護板16は、鋳物等からなる金属製の押さえ部材であり、上記複数の粘土煉瓦110等からなる炉体耐火物11を押さえ込んで保護する機能を有する。かかる保護板16は、背面側からバックステー14により支持された状態で、炉体耐火物11の炉長方向Xの端部に取り付けられる。また、炉枠12は、当該保護板16の炉団長方向Yの端部に取り付けられる。
このように第2の実施形態に係る窯口部10では、炉枠12は、保護板16を介して炉体耐火物11に取り付けられている。そして、炉枠12と保護板16の間に隙間20が形成され、保護板16と炉体耐火物11の間には、隙間26が形成される。隙間20、26の幅は、炉枠12と保護板16と炉体耐火物11の位置関係により調整される。なお、図8の例では、炉枠12と保護板16との間に形成される隙間20の断面形状は、略L字形であるが、隙間20の形状は、炉枠12と保護板16との接合部の形状に応じて任意に変更されうる。
上記のように第2の実施形態においても、窯口部10の構成部材間に隙間20、26が生じるので、隙間20、26を通って漏洩するガスをシールする構造が必要となる。そこで、炉枠12と保護板16との間に形成される隙間20には、上記第1の実施形態と同様に、セラミックファイバーロープ21、22、モルタル23、24、及び熱膨張シート25が設置される。これら3つのシール部材により隙間20をシールして、当該隙間20を通じたガス漏洩を抑制できる。また、保護板16と炉体耐火物11の間に形成される隙間26には、セラミックファイバーロープ27と、その炉内側のモルタル28が設置される。これら2つのシール部材により隙間26をシールして、当該隙間26を通じたガス漏洩を抑制できる。
なお、第2の実施形態では、金属製の炉枠12を金属製の保護板16に対して接合する構造であるので、第1の実施形態のように表面に凹凸を有する炉体耐火物11に対して炉枠12を接合する場合と比べて、ロープ21、22が両者に密着しやすく、ガス漏洩はしにくい。しかし、モルタル23、24やロープ21、22が経年劣化した場合などにはガス漏洩が発生することがあるので、熱膨張シート25を用いて隙間20を確実にシールすることが好ましい。また、仮に施工時にモルタル23、24やロープ21、22の設置時に隙間が生じていても、ガス漏洩時に熱膨張シート25が膨張することにより、ガス漏洩を最小限に抑えることができる。
また、第2の実施形態に係る保護板タイプの窯口構造においては、上記のようにガス漏洩しにくい構造であるので、必ずしも炉外側モルタル24を隙間20に充填施工する必要はない。一方、上記第1の実施形態に係る押さえ金物タイプの窯口構造においては、隙間20を通じてガス漏洩しやすい構造であるので、ガス漏洩を確実に防止するために、炉外側モルタル24を隙間20に充填施工した方が好ましい。
一方、炉内側モルタル23に関しては、第1及び第2の実施形態とも、炭化室4内の高温の輻射熱から炉内側ロープ21を保護するために、炉内側モルタル23を充填施工しておくことが好ましい。炉内側ロープ21の設置部分は、定常的に300℃以上の還元性ガスに晒されたり、操業タイミングによっては酸化雰囲気になったり、炉内の1000℃以上に加熱されたコークスの輻射熱にまともに晒されたりする。従って、上記輻射熱から炉内側ロープ21を保護するための充填材としては、上記モルタル以外にも、例えば、約1000℃以上の耐熱温度を有する無機系酸化物粉体原料からなる接着剤又はコーティング材などを使用することができる。
[5.まとめ]
以上、本発明の第1及び第2の実施形態に係るコークス炉窯口部のシール構造について詳述した。本実施形態によれば、炉枠12と炉体耐火物11との間、又は炉枠12と保護板16との間に形成される隙間20において、一対のセラミックファイバーロープ21、22間の中央部分に、帯状の熱膨張シート25(膨張黒鉛含有のセラミックファイバーシート)を設置する。そして。膨張前の熱膨張シート25の厚みtは隙間20の幅wやロープ21、22の直径φよりも小さい。
これにより、炉枠12を炉体耐火物11や保護板16等の炉体構成部材に設置するときに、両側のロープ21、22の間に位置する熱膨張シート25が、炉体構成部材に接触して剥離したり破損したりすることがない。従って、シール部材として熱膨張シート25を追加設置したとしても、当該熱膨張シート25が炉枠12の位置決め作業の邪魔になることがないので、炉枠12の設置作業性を向上できる。
一方、コークス炉1の稼働後に、炉体耐火物11の目地切れ、亀裂、煉瓦のずれ等により発生する隙間20を高温のガスが流通するときには、熱膨張シート25が隙間20の幅方向に膨張して、隙間20の幅方向全体を閉塞する。従って、膨張した熱膨張シート25により、窯口部10の隙間20を長期間に渡り安定的にシールし、ガス漏洩を抑制することができる。
この際、膨張した熱膨張シート25中に発生した空隙を通って、ガスが流通する可能性もあるので、必ずしもコークス炉1の稼働初期からガス漏洩を完全に防止できるとは限らない。しかし、熱膨張シート25の膨張率が低く、当該熱膨張シート25中に生じた空隙が微細空隙であれば、石炭乾留時に発生したタール分を含むガスが熱膨張シート25中を流通する際に、当該タール分が熱膨張シート25の繊維に付着・沈積する。このため、稼働後数か月以内に、タール分が熱膨張シート25中のガス流通路を閉塞し、ガス漏洩は発生しなくなる。
従って、本実施形態に係るシール構造によれば、窯口部10の隙間20を、長期間に渡り安定的にシールし、ガス漏洩を抑制することができる。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本発明の効果を実証するために行った試験を示したものに過ぎず、本発明が以下の実施例の試験条件に限定されるものではない。
コークス炉窯口部のシール構造の施工作業性と仕上状況、シール性能を評価するための試験を行った。この試験条件と評価結果を表1に示す。
まず、実炉試験の前に行ったモデル試験の条件と評価結果を説明する。モデル試験では、コークス炉の実炉の窯口構造と同様の構造を有するモデル施工体(高さ約500mm)を乾燥炉内に築炉し、施工する際の作業性(簡便性)と、シール部位の仕上状況を確認した。その後、炉体耐火物11に炉枠12を押し付けた状態で、モデル施工体を250℃まで昇温させ、2時間経過したのち、炉枠12と炉体耐火物11との接合部位(即ち、隙間20)の状態を目視評価した。
この目視評価では、隙間20における熱膨張シート25の充填性(空隙の有無や大きさ)を評価した。熱膨張シート25と炉枠12の間、あるいは熱膨張シート25と炉体耐火物11との間に空隙が生じており、膨張した熱膨張シート25が均一に充填されていない場合や、部分的に厚い空隙が生じている場合には、実炉で稼働開始しても、膨張した熱膨張シート25中の繊維に対してタールが付着することが困難である。
そこで、上記目視評価では、隙間20内が熱膨張シート25で充填されて空隙が見当たらない場合を、「◎」と評価した。また、1mm以内の空隙が生じているが、1カ月程度でタール付着によるガス漏洩抑制効果が発生すると考えられる場合を、「○」と評価した。さらに、3mm程度の空隙が生じており、タール付着によるガス漏洩抑制効果が発生するまで約1年程度かかると考えられる場合を、「△」と評価した。また、5mm以上の空隙が生じており、1年を超えても当該ガス漏洩抑制効果が発生しないと考えられる場合を、「×」と評価した。
表1に示す比較例1は、従来のシール構造(特許文献3を参照。)に対応しており、隙間20内にロープ21、22とモルタル23、24のみを設置し、熱膨張シート25を設置しない場合である。この比較例1では、隙間20の内部に空隙が存在し、隙間20におけるシール部材の充填性や、高温下におけるシール性に問題があった。
比較例2は、上記熱膨張シート25の代わりに、隙間20の幅wよりも厚いファイバーブランケット(ブランケット厚みは、隙間20の幅wの1.2倍)を設置した場合である。この比較例2では、施工時の炉枠12の位置合わせが難しく、ファイバーブランケットを損傷させずにセットするために時間がかかるという問題が発生し、施工の作業性が悪かった。
比較例3は、隙間20の幅wと同じ厚みの熱膨張シート25(厚さt=12mm)を設置した場合である。この比較例3では、施工時の炉枠12の位置合わせが難しく、熱膨張シート25を損傷させずにセットするために時間がかかるという問題が発生し、施工の作業性が悪かった。
比較例4は、従来のシール構造(特許文献2を参照。)に対応しており、熱膨張シート25の膨張方向(シート厚み方向)が隙間20の幅方向に対して垂直な方向(隙間20の長手方向)になるように、熱膨張シート25を配置した場合である。この比較例4では、熱膨張シート25が隙間20の長手方向に膨張するため、隙間20の幅方向全体を閉塞できず、隙間20内にガス流通路となる5mm以上の空隙が残存するという問題が発生した。従って、比較例4は、1年超経過しても、シール付着によるガス漏洩抑制効果が得られず、シール性に欠けるものであるといえる。
これに対し、実施例1〜6では、膨張後の熱膨張シート25の充填性、高温下のシール性のみならず、膨張前の熱膨張シート25等の施工時の作業性や仕上状況も良い評価が得られた。
実施例1〜3では、冷間での膨張前の熱膨張シート25の厚みtを、隙間20の幅wで除算した比率k(k=t/w)は、50〜90%であった。この比率kは、隙間20の幅wに対する膨張前の熱膨張シート25の厚みtの比率であり、以下では、「シート厚比率k」と称する。このシート厚比率kを50〜90%に調整することで、隙間20内で熱膨張シート25を低い膨張率で熱膨張させて、膨張後の熱膨張シート25の密度を確保することができる。また、熱膨張シート25の膨張能力としては、隙間20の幅wの1.2倍以上(オープンスペースでの250℃の膨張時のシート寸法)となるように安全代を確保している(安全代を1.2倍以上としているのは実施例4〜6も同様)。従って、実施例1〜3では、隙間20の幅方向全体が高密度の熱膨張シート25で充填され、膨張後の熱膨張シート25の内部や周辺に空隙が見当たらず、非常に優れたシール性を発揮できることが確認された。従って、シート厚比率kを50%以上とすることで、コークス炉1の稼働当初から、非常に優れたシール性を達成でき、ガス漏洩を確実に抑制できるといえる。
なお、実施例2では、炉外側モルタル24を設置しなかったが、実施例1と同等のシール性が得られることが確認された。従って、隙間20のシール性の観点からは、炉外側モルタル24は必須ではないことが確認されたといえる。
また、実施例4では、シート厚比率kは30%であり、膨張後の熱膨張シート25中に1mm以内の微細空隙が発生していた。しかし、熱膨張シート25中のガス流通が進行すれば、当該微細空隙はガス中のタール分で閉塞されるため、稼働開始後1カ月程度でタール付着によるガス漏洩抑制効果が発揮され、ガス漏洩を抑制可能になると考えられる。従って、実施例4のようにシート厚比率kを30%以上とすることで、コークス炉1の稼働当初は、多少のガス漏洩は生じるものの、その後1カ月程度で熱膨張シート25が十分なシール性を達成でき、ガス漏洩を抑制できるといえる。
また、実施例5では、シート厚比率kは20%であり、膨張後の熱膨張シート25中に3mm程度の空隙が発生していた。この場合、タール付着によるガス漏洩抑制効果が発揮されるまで約1年程度かかると考えられる。このため、実施例5では、実施例1〜4よりもシール性が劣るものの、コークス炉1を1年程度に渡って継続使用すれば、タール付着によるガス漏洩抑制効果が得られる。従って、実施例5は、当該効果が得られない比較例1や比較例4よりも優れたシール性を発揮するといえる。
また、実施例6は、シート厚比率kは90%であるが、炉内側モルタル23を設置しない場合である。この場合、本モデル試験でのシール性は問題なかったが、コークス炉1を長期間使用したときに、炉内側ロープ21が炭化室4内の高温の石炭からの輻射熱に晒されて、劣化することが予測されるため、シール性の評価を△とした。
さらに、上記実施例1〜6はいずれも、シート厚比率kが90%以下であり、膨張前の熱膨張シート25の厚みtが隙間の幅wよりも、例えば1mm程度以上小さい。これにより、窯口部10の施工時において、炉枠12と炉体耐火物11を位置合わせする際に、熱膨張シート25の表面が炉体耐火物11に接触しないので、設置作業がしやすく、作業性に優れていた。また、熱膨張シート25が破損しないので、施工後の隙間20内の仕上状況も良好であった。これに対し、シート厚比率kを90%超としたとき、例えば、比較例3のようにkを120%としたときには、施工時に熱膨張シート25の表面が炉体耐火物11に接触することで、熱膨張シート25が剥離又は破損するため、位置合わせ作業がし難く、仕上状況も悪化するという問題があった。上記の結果から、シート厚比率kを90%以下とすることで、炉体耐火物11に対する炉枠12の位置合わせ作業を好適に実施でき、隙間20内のシール部材の仕上状況も良好になるという効果があるといえる。
以上のモデル試験結果に基づき、より厳しい条件下での評価を行うため、保護板16を有さないタイプの窯口構造(図3参照。)のコークス炉1の実炉において、表1に示した実施例1〜3の条件にて、セラミックファイバーロープ21、22、熱膨張シート25及びモルタル23、24を用いてシール構造を施工した。
この施工では、まず、膨張黒鉛を含有するセラミックファイバーシートを短冊状に裁断して、熱膨張シート25を製造した。次いで、当該熱膨張シート25と、その両側のセラミックファイバーロープ21、22を、炉枠12の表面に貼り付けた。その後、炉枠12を炉体耐火物11の間にロープ21、22及び熱膨張シート25を挟み込むようにして、炉枠12を炉体耐火物11の表面に対して圧着して取り付けた。
ここで、窯口部10の炉体耐火物11の粘土煉瓦110は、高さ方向Zに積み上げられているが、煉瓦個々の精度や施工時の仕上げ精度により、窯口部10の炉体耐火物11の表面は高さ方向Zで数mmの凹凸が生じている。また、炉枠12も高さ5m以上であるため、同程度の反りがある。さらに、窯口部10の炉体耐火物11は、バックステー14により押さえ込まれているが、炉枠12とは一体となっていない。以上の理由により、炉体耐火物11と炉枠12との間に直径20mm程度のセラミックファイバーロープ21、22を挟み込んでシールしても、ロープ21、22と炉体耐火物11の間に、場所によっては10mmから25mm程度の間隙が生じることが予想された。
熱膨張シート25は、施工しやすいように幅50mm、長さ1m、厚みtは10mm以下に裁断したものを適用し、直径15mmのセラミックファイバーロープ21、22と共に熱膨張シート25を炉枠12に対して固定した状態で、築炉施工完了後の炉体耐火物11に圧着した。セラミックファイバーロープ21、22は、粘着テープ(ガムテープ)で炉枠12の表面に固定し、熱膨張シート25は、無機系モルタルで炉枠12の表面に貼り付けた。
この施工では、クレーンで炉枠12を吊り上げて炉体耐火物11に圧着して設置した。この炉枠12の設置後の隙間20の幅wは、狭い場所で11mm、広い場所で20mmであった。従って、膨張前の熱膨張シート25の厚みt(例えばt=10mm)は、隙間20の幅wの90%から50%に相当しており、シート厚比率k=50〜90%であった。この条件では、隙間20内において熱膨張シート25が膨張したときの膨張率は、隙間20の幅wの制約のため、1.1倍から2倍となる。
従って、炉枠12の設置作業時には、膨張前の熱膨張シート25の表面と炉体耐火物11の表面との間には、調整代として、1mm以上の間隙d(=w−t)があった。このため、炉枠12の設置作業時に、熱膨張シート25が炉体耐火物11の表面に接触せず、施工上何ら問題なく仕上げることが可能であった。
また、熱膨張シート25単独でのシール性能を確認するため、コークス炉1の昇熱期間中には炉外側モルタル24を施工しなかったが、特にガス漏洩は発生せず、必ずしも炉外側モルタル24は必要ないことを確認することができた。また、炉内側モルタル23としては、Al2O3−SiO2系の粉末にデキストリン等のバインダーを添加したものを用いたが、このモルタルは、耐熱温度1000℃以上の一般的な耐火煉瓦の接着に使用する一般的な材質である。
コークス炉1のうち約100箇所の窯口部10について、上記実施例1〜3の熱膨張シート25等を用いて炉枠12と炉体耐火物11の隙間20をシール施工した。この結果、コークス炉1の乾燥昇熱期間中から稼働開始以降、従来の窯口部の隙間で発生していたようなガス漏洩問題は発生せず、コークス炉1は順調に稼働することが確認された。
なお、窯口部10の保護板16を有するタイプのコークス炉1(図8参照。)は、今回実施した保護板16を有さないタイプのコークス炉(図5参照。)よりも構造的にガス漏洩しにくいため、本実施例に係るシール構造を前者のコークス炉に適用した場合であっても、同等以上のガス漏洩防止効果が得られるものと考えられる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。