以下、実施形態の永久磁石について説明する。この実施形態の永久磁石は、
組成式:RpFeqMrCusCo100-p-q-r-s …(1)
(式中、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはZr、TiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素であり、p、q、rおよびsはそれぞれ原子%で、10≦p≦13.5、28≦q≦40、0.88≦r≦7.2、3.5≦s≦13.5を満足する数である)
で表される組成と、セル相とセル壁相とを備える金属組織とを具備する。セル相はTh2Zn17型結晶相を有する。セル壁相はセル相を取り囲むように存在する。実施形態の永久磁石において、セル相内のFe濃度(C1)は28原子%以上45原子%以下の範囲であり、かつセル相内のFe濃度(C1)とセル壁相内のFe濃度(C2)との差(C1−C2)は10原子%を超えている。
組成式(1)において、元素Rとしてはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素が使用される。元素Rはいずれも永久磁石に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与するものである。元素Rとしては、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)およびプラセオジム(Pr)から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特にSmを使用することが望ましい。元素Rの50原子%以上をSmとすることで、永久磁石の性能、とりわけ保磁力を再現性よく高めることができる。さらに、元素Rの70原子%以上がSmであることが望ましい。
元素Rの含有量pは10原子%以上13.5原子%以下の範囲とする。元素Rの含有量pが10原子%未満であると、多量のα−Fe相が析出するなどして十分な保磁力を得ることができない。一方、元素Rの含有量が13.5原子%を超えると、飽和磁化の低下が著しくなる。元素Rの含有量pは10.2〜13原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは10.5〜12.5原子%の範囲である。
鉄(Fe)は、主として永久磁石の磁化を担う元素である。Feを多量に含有させることによって、永久磁石の飽和磁化を高めることができる。ただし、Feをあまり過剰に含有させると、α−Fe相が析出したり、また後述する所望の2相分離組織が得られにくくなるため、保磁力が低下するおそれがある。このため、Feの含有量qは28原子%以上40原子%以下の範囲とする。Feの含有量qは29〜38原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは30〜36原子%の範囲である。
元素Mとしては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)から選ばれる少なくとも1種の元素が用いられる。元素Mを配合することによって、高いFe濃度の組成で大きな保磁力を発現させることができる。元素Mの含有量rは0.88原子%以上7.2原子%以下の範囲とする。元素Mの含有量rを0.88原子%以上とすることによって、高Fe濃度の組成を有する永久磁石に大きな保磁力を発現させることができる。一方、元素Mの含有量rが7.2原子%を超えると、磁化の低下が著しくなる。元素Mの含有量rは1.3〜4.3原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは1.5〜2.6原子%の範囲である。
元素MはTi、Zr、Hfのいずれであってもよいが、少なくともZrを含むことが好ましい。特に、元素Mの50原子%以上をZrとすることによって、永久磁石の保磁力を高める効果をさらに向上させることができる。一方、元素Mの中でHfはとりわけ高価であるため、Hfを使用する場合においても、その使用量は少なくすることが好ましい。Hfの含有量は元素Mの20原子%未満とすることが好ましい。
銅(Cu)は、永久磁石に高い保磁力を発現させるための元素である。Cuの配合量sは3.5原子%以上13.5原子%以下の範囲とする。Cuの配合量sが3.5原子%未満であると、高い保磁力を得ることが困難になる。一方、Cuの配合量sが13.5原子%を超えると、磁化の低下が著しくなる。Cuの配合量sは3.9〜9原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは4.2〜7.2原子%の範囲である。
コバルト(Co)は、永久磁石の磁化を担うと共に、高い保磁力を発現させるために必要な元素である。さらに、Coを多く含有させるとキュリー温度が高くなり、永久磁石の熱安定性が向上する。Coの含有量が少なすぎると、これらの効果を十分に得ることができない。ただし、Coの含有量が過剰になると、相対的にFeの含有割合が下がって磁化が低下する。従って、Coの含有量は元素R、元素MおよびCuの含有量を考慮した上で、Feの含有量が上記範囲を満足するように設定される。
Coの一部は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)およびタングステン(W)から選ばれる少なくとも1種の元素Aで置換してもよい。これらの置換元素Aは磁気特性、例えば保磁力の向上に寄与する。ただし、元素AによるCoの過剰な置換は磁化の低下を招くおそれがあるため、元素Aによる置換量はCoの20原子%以下とすることが好ましい。
この実施形態の永久磁石において、セル相内のFe濃度(C1)は28〜45原子%の範囲であり、かつセル相内のFe濃度(C1)とセル壁相内のFe濃度(C2)との差(C1−C2)は10原子%を超えている。ここで、Sm2Co17型磁石の保磁力発現機構は、一般的に磁壁ピニング型であることが知られており、熱処理により生成するナノ相分離組織が保磁力の起源となっている。ナノ相分離組織(2相分離組織)は、Th2Zn17型結晶相(Th2Zn17型構造を有する結晶相/2−17相)を有するセル相と、セル相の周囲を取り囲むような形で形成され、CaCu5型結晶相(CaCu5型構造を有する結晶相/1−5相)とを有するセル壁相とを備えている。すなわち、Sm2Co17型磁石はセル相がセル壁相で区切られたナノ相分離構造を有している。
2−17相(セル相)を区切るように形成された1−5相(セル壁相)の磁壁エネルギーは、2−17相の磁壁エネルギーに比べて大きく、この磁壁エネルギーの差が磁壁移動の障壁となる。つまり、磁壁エネルギーの大きい1−5相がピンニングサイトとして働くことによって、磁壁ピニング型の保磁力が発現すると言われている。このような観点から、Sm2Co17型磁石の保磁力を高めるためには、セル相とセル壁相との磁壁エネルギーの差を増大させる必要がある。従来、磁壁エネルギーの差を増大させるためには、セル相のCu濃度とセル壁相のCu濃度との間に差を生じさせることが有効であると考えられてきた。
しかしながら、Sm2Co17型磁石のFe濃度が高くなると、高い保磁力が発現しにくくなる傾向にある。その原因としては、例えばピンニングサイトである1−5相が生成しにくくなることが挙げられる。これは、Fe濃度が高くなるとCuや元素Mの濃度が高い異相(Cu−Mリッチ相)が生成しやすくなり、2相分離組織の前駆体相である主相(TbCu7型結晶相/1−7相)中のCu濃度が低下することで、主相のセル相とセル壁相への相分離が進行しにくくなるためと考えられる。
また、Sm2Co17型磁石の保磁力が小さくなる原因としては、Fe濃度が高くなるとセル相とセル壁相との磁壁エネルギーの差が小さくなり、セル壁相による磁壁のピン止め効果が低下することも考えられる。磁壁エネルギーの差は、セル相とセル壁相の構成元素の比に起因し、特にCuがセル壁相に濃縮されることでポテンシャル井戸が形成されることが重要であると考えられてきた。このため、上述したようにセル相とセル壁相との間にある程度のCu濃度差を生じさせることが有効であると考えられてきた。ただし、この点は従来のSm2Co17型磁石にはよく言えることであったが、Fe濃度が高い組成域ではその限りではないことが本発明者等の研究により明らかとなった。
これまでに報告されているFe濃度が20原子%程度のSm2Co17型磁石において、セル壁相とセル相とのCu濃度差は10〜20原子%程度である。一方、本発明者等が調査した結果、Fe濃度が28原子%以上の組成を有するSm2Co17型磁石においても、同程度のCu濃度差が確認されている。それにも関らず、高Fe濃度を有するSm2Co17型磁石では十分な保磁力が得られていない。これらの磁石の微細組織を注意深く観察したところ、高Fe濃度を有する磁石ではセル相とセル壁相とのFe濃度差が従来の磁石に比べて小さいか、もしくは同程度であることが明らかとなった。このことは、Cuがセル壁相に濃化する一方で、Feのセル相への拡散が不十分であることを示唆している。
この実施形態の永久磁石においては、セル相内のFe濃度(C1)を28〜45原子%の範囲とすると共に、セル相内のFe濃度(C1)とセル壁相内のFe濃度(C2)との間に、10原子%を超える差を生じさせている。本発明者等の研究によれば、Fe濃度が高い組成域ではセル相とセル壁相との間のFe濃度差も磁壁エネルギーの差に影響を及ぼすことが明らかとなった。そして、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)が10原子%を超える場合に、セル相とセル壁相との磁壁エネルギーの差が大きくなる。従って、高Fe濃度を有するSm2Co17型磁石の保磁力を高めることが可能となる。
さらに、セル相にFeが濃化するということは、CuとFeとの相互拡散が十分に進行していることを意味する。従って、セル相とセル壁相との間のFe濃度差を高めることで、セル相とセル壁相との間のCu濃度差も拡大する。これによっても、セル相とセル壁相との磁壁エネルギーの差が大きくなるため、高Fe濃度を有するSm2Co17型磁石の保磁力を高めることができる。なお、従来からCuとFeとが相互拡散すると考えられていたものの、セル相とセル壁相との間のFe濃度差が磁壁エネルギーの差、ひいては保磁力に影響を及ぼすことは、本発明者等が新たに見出したものである。
セル相内のFe濃度(C1)は、永久磁石の磁化を高めるために28原子%以上とされている。セル相とセル壁相との間のFe濃度差を拡大する上で、セル相内のFe濃度(C1)は28.5原子%以上であることが好ましく、さらに好ましくは29原子%以上である。このようなセル相のFe濃度(C1)は、セル相にFeを十分に拡散させることで実現することができる。また、セル相とセル壁相との間のFe濃度差は12原子%以上であることが好ましく、さらに好ましくは14原子%以上である。
セル壁相のFe濃度(C2)は、セル相のFe濃度(C1)との間で10原子%を超える差が生じるように調整される。また、セル壁相のCu濃度はセル相のCu濃度の1.2倍以上であることが好ましく、さらに好ましくは2倍以上である。これらによって、セル壁相を磁壁のピンニングサイトとして十分に機能させることができる。セル壁相の代表例としては1−5相が挙げられるが、これに限定されるものではない。セル相とセル壁相との間に十分なFe濃度差やCu濃度差が生じていれば、セル壁相が磁壁のピンニングサイトとして機能するため、セル壁相はそのような相であればよい。1−5相以外のセル壁相としては、高温相(相分離前の組織)である1−7相や、1−7相の2相分離の初期段階に生じる1−5相の前駆体相等が挙げられる。
ところで、組成式(1)で表される組成を有する焼結体からなる永久磁石において、FeとCuとの相互拡散を十分に進行させて、上述したセル相とセル壁相との間のFe濃度差を実現するためには、焼結体の密度を高めて、拡散可能面積を増大させることが有効である。ただし、Fe濃度が高いSm−Co系磁性粉末(合金粉末)は焼結性が低く、高い焼結体密度を得ることが難しい。合金粉末のFe濃度が高くなると、Cuや元素Mの濃度が高い異相が生成しやすくなり、この異相が焼結性を悪化させていると考えられる。このため、FeとCuとの相互拡散を進行させるためには、異相の生成を抑制し、Fe濃度が高い磁性粉末(合金粉末)の焼結性を向上させることが重要となる。ここで言う異相としては、ZrやCuがリッチなSm等の元素RとCoやFe等の遷移金属元素との比が2対7である2−7相、1対13である1−13相等が挙げられる。
Sm−Co系磁性粉末(合金粉末)の焼結は、一般的にArガス等の不活性ガス雰囲気中や真空雰囲気中で行なわれる。不活性ガス雰囲気中で焼結した場合、蒸気圧が高いSm等の蒸発を抑制することができ、組成ずれが生じにくいという利点がある。しかし、不活性ガス雰囲気中では、異相の生成を回避することが難しい。また、Arガス等の不活性ガスがポア中に残存することでポアが消滅しにくく、焼結体を高密度化することが難しい。一方、真空雰囲気中で焼結した場合には、異相の生成が抑えられることが明らかとなった。ただし、真空雰囲気中では蒸気圧が高いSm等の蒸発量が多くなり、焼結体の組成を永久磁石として適切な合金組成に制御することが難しい。
このような点に対して、真空雰囲気中で前処理工程(仮焼結工程)を実施した後、Arガス等の不活性ガス雰囲気中で最終的な焼結工程(本焼結工程)を行うことが有効である。このような真空雰囲気中での前処理工程と不活性ガス雰囲気中での本焼結工程とを有する焼結工程を適用することによって、Cuや元素Mの濃度が高い異相の生成を抑制しつつ、蒸気圧が高いSm等の蒸発を抑制することができる。従って、Fe濃度が高い磁性粉末(合金粉末)を用いた際に、高密度で組成ずれの少ない焼結体を得ることが可能となる。高密度で組成ずれの少ない焼結体を得ることで、その後の溶体化処理工程や時効処理工程でFeとCuとの相互拡散を十分に進行させることができる。よって、セル相とセル壁相との間のFe濃度差を拡大することが可能となる。
ここで、20原子%程度のFe濃度を有する磁性粉末(合金粉末)を焼結する場合には、仮焼結工程の温度を本焼結工程の温度よりある程度低くすることが高密度化に有効である。これに対して、28原子%以上のFe濃度を有する磁性粉末(合金粉末)を焼結する場合には、本焼結工程の温度になるべく近い温度まで真空雰囲気を維持することが好ましい。さらに、本焼結温度まで真空雰囲気を保つことも有効である。このような場合においても、本焼結温度に達すると同時に不活性ガスに切り替えることで、焼結中のSm等の蒸発を抑えることができる。高Fe濃度の組成域において、本焼結温度に近い温度まで真空雰囲気を維持することが好ましい理由は、なるべく高温まで真空雰囲気を維持することで、異相の生成をより有効に抑制できるためと考えられる。なお、磁性粉末(合金粉末)の焼結工程における具体的な条件は、後に詳述する。
上述した高密度の焼結体に溶体化処理および時効処理を施すことで、セル相とセル壁相との間のFe濃度差を再現性よく拡大することができる。これによって、Fe濃度が高い組成を有するSm−Co系磁石の保磁力を高めることが可能となる。すなわち、この実施形態の永久磁石は、28原子%以上のFe濃度に基づいて磁化の向上を図りつつ、セル相とセル壁相との間のFe濃度差に基づいて保磁力を高めたものであり、Sm−Co系磁石で高保磁力と高磁化とを両立させものである。実施形態の永久磁石の保磁力は800kA/m以上であることが好ましく、残留磁化は1.15T以上であることが好ましい。
Sm−Co系磁性粉末(合金粉末)の焼結体の密度は、実用的に8.2×103kg/m3以上であることが好ましい。このような焼結体の密度を実現することによって、溶体化処理工程や時効処理工程でFeとCuとの相互拡散を十分に進行させ、セル相とセル壁相との間のFe濃度差を拡大することができる。実施形態の永久磁石は、組成式(1)で表される組成と、セル相とセル壁相とを有する金属組織とを備える焼結体を具備し、かつ焼結体の密度が8.2×103kg/m3以上である焼結磁石であることが好ましい。
この実施形態の永久磁石において、セル状組織を有する金属組織の観察は、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて行うことができる。TEM観察は100k〜200k倍の倍率で行うことが好ましい。磁場配向させた焼結体からなる永久磁石においては、セル相である2−17相のc軸を含む断面をTEM観察することが好ましい。セル壁相はセル相の1.2倍以上のCu濃度を有する領域である。セル相およびセル壁相におけるFeやCu等の各元素の組成分析は、例えばエネルギー分散型X線分光法(TEM−Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:TEM−EDX)により行われる。TEM−EDX観察は、焼結体の内部に対して行う。
焼結体内部の測定とは、以下に示す通りである。まず、最大の面積を有する面における最長の辺の中央部において、辺に垂直(曲線の場合は中央部の接線と垂直)に切断した断面の表面部と内部とで組成を測定する。測定箇所は、上記断面において各辺の1/2の位置を始点として、辺に対し垂直に内側に向けて端部まで引いた基準線1と、各角部の中央を始点として角部の内角の角度の1/2の位置で内側に向けて端部まで引いた基準線2とを設け、これら基準線1、2の始点から基準線の長さの1%の位置を表面部、40%の位置を内部と定義する。なお、角部が面取り等で曲率を有する場合には、隣り合う辺を延長した交点を辺の端部(角部の中央)とする。この場合、測定箇所は交点からではなく、基準線と接した部分からの位置とする。
測定箇所を以上のようにすることによって、例えば断面が四角形の場合、基準線は基準線1および基準線2でそれぞれ4本の合計8本となり、測定箇所は表面部および内部でそれぞれ8箇所となる。この実施形態においては、表面部および内部でそれぞれ8箇所全てが上記した組成範囲内であることが好ましいが、少なくとも表面部および内部でそれぞれ4箇所以上が上記した組成範囲内となればよい。この場合、1本の基準線での表面部および内部の関係を規定するものではない。このように規定される焼結体内部の観察面を研磨して平滑にした後、TEM観察を行う。TEM−EDXの観察箇所は、セル相およびセル壁相内の任意の20点とし、これら各点での測定値から最大値と最小値を除いた測定値の平均値を求め、この平均値を各元素の濃度とする。
この実施形態の永久磁石は、例えば以下のようにして作製される。まず、所定量の元素を含む合金粉末を作製する。合金粉末は、アーク溶解法や高周波溶解法による溶湯を鋳造して得られた合金インゴットを粉砕して調製される。また、合金粉末はストリップキャスト法でフレーク状の合金薄帯を作製した後に粉砕して調製してもよい。ストリップキャスト法では、合金溶湯を周速0.1〜20m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に厚さ1mm以下の薄帯を得ることが好ましい。冷却ロールの周速が0.1m/秒未満であると薄帯中に組成のばらつきが生じやすく、周速が20m/秒を超えると結晶粒が単磁区サイズ以下に微細化し、良好な磁気特性が得られない。冷却ロールの周速は0.3〜15m/秒の範囲がより好ましく、さらに好ましくは0.5〜12m/秒の範囲である。
合金粉末の他の調製方法としては、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法等が挙げられ、これらの方法で調製した合金粉末を用いてもよい。このようにして得られた合金粉末または粉砕前の合金に対し、必要に応じて熱処理を施して均質化してもよい。フレークやインゴットの粉砕はジェットミルやボールミル等を用いて実施される。粉砕は合金粉末の酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気中や有機溶媒中で行うことが好ましい。
次に、電磁石等の中に設置した金型内に合金粉末を充填し、磁場を印加しながら加圧成型することによって、結晶軸を配向させた圧縮成形体を作製する。この圧縮成形体を適切な条件下で焼結することによって、高密度を有する焼結体を得ることができる。圧縮成形体の焼結工程は、前述したように真空雰囲気中での前処理工程と不活性ガス雰囲気中での本焼結工程とを有することが好ましい。本焼結温度TSは1215℃以下であることが好ましい。Fe濃度が高いと融点の低下が予測されるため、本焼結温度TSが高すぎるとSm等の蒸発が生じやすくなる。本焼結温度TSは1205℃以下がより好ましく、さらに好ましくは1195℃以下である。ただし、焼結体を高密度化するために、本焼結温度TSは1170℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは1180℃以上である。
不活性ガス雰囲気中での本焼結工程において、上記した本焼結温度TSによる焼結時間は0.5〜15時間とすることが好ましい。これによって、緻密な焼結体が得られる。焼結時間が0.5時間未満の場合、焼結体の密度に不均一性が生じる。また、焼結時間が15時間を超えると、合金粉末中のSm等が蒸発することによって、良好な磁気特性を得ることができないおそれがある。より好ましい焼結時間は1〜10時間であり、さらに好ましくは1〜4時間である。本焼結工程はArガス等の不活性ガス雰囲気中で実施する。
前述したように、Fe濃度が高い合金粉末の圧縮成形体を高密度な焼結体とするためには、本焼結工程の前に真空雰囲気中で前処理工程を実施することが好ましい。さらに、本焼結温度に近い温度まで真空雰囲気を維持することが好ましい。具体的には、焼結体の密度を8.2×103kg/m3以上とする上で、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気への切替温度(前処理温度)T[℃]を、本焼結温度TS[℃]より50℃低い温度(TS−50℃)以上で本焼結温度TS以下の温度範囲(TS−50℃≦T≦TS)とすることが好ましい。雰囲気切替温度Tが本焼結温度TSより50℃を超えて低い温度(T<TS−50℃)になると、焼結体を十分に高密度化することができないおそれがあると共に、圧縮成形体に存在した異相、あるいは焼結時の昇温時に生成した異相が、本焼結後においても残存してしまい、磁化が低下するおそれがある。
雰囲気切替温度Tが本焼結温度TSより低すぎると、真空雰囲気中での前処理工程で異相の発生を抑制する効果を十分に得ることができない。このため、焼結体を高密度化することができず、磁化および保磁力が共に低下する。雰囲気切替温度Tは、本焼結温度TSより40℃低い温度(TS−40℃)以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは本焼結温度TSより30℃低い温度(TS−30℃)以上である。ただし、真空雰囲気中での処理温度Tが本焼結温度TSを超えると、Sm等が蒸発して磁気特性が低下するため、雰囲気切替温度Tは本焼結温度TS以下に設定する。真空雰囲気から不活性ガス雰囲気への切り替えは、本焼結温度TSに到達すると同時に実施してもよい。
前処理工程における真空雰囲気(真空度)は9×10-2Pa以下とすることが好ましい。前処理工程の真空度が9×10-2Paを超えると、Sm等の元素Rの酸化物が過剰に形成されるおそれがある。さらに、前処理工程の真空度を9×10-2Pa以下とすることによって、セル相とセル壁相との間のFe濃度差を大きくする効果をより明確に得ることができる。前処理工程の真空度は5×10-2Pa以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは1×10-2Pa以下である。
さらに、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気に切り替える際に、真空雰囲気中で所定時間保持することも有効である。これによって、焼結体の高密度化をより一層促進することができると共に、セル相とセル壁相との間のFe濃度差の拡大効果を向上させることができる。真空雰囲気中での保持時間は、合金粉末(磁性粉末)の組成、特にSm等の元素Rの組成に基づいて設定することが好ましい。具体的には、真空雰囲気中での保持時間は、合金粉末(磁性粉末)中の元素Rの濃度(p1[原子%])に基づいて、下記の式(2)を満足する時間Y[分]以上に設定することが好ましい。
Y=−5p1+62 …(2)
真空雰囲気中で時間Y以上保持した後に、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気に切り替えて本焼結工程を実施することで、Fe濃度が高くかつSm等の元素Rの濃度が低い合金粉末を用いた場合に、焼結体をより効果的に高密度化することができる。時間Yは本焼結時間より短いことが好ましい。時間Yがあまり長いと、Sm等の元素Rの蒸発量が増加するおそれがある。なお、元素Rの濃度p1が高い組成域では、Yの値がマイナスになることがある。Yの値がマイナスとなるような組成域では比較的高密度が得られやすいが、そのような場合でも真空雰囲気中で1分以上保持することで、焼結体を安定して高密度化することができる。雰囲気切替温度Tが本焼結温度TS未満である場合には、雰囲気切替温度Tで所定時間保持すればよい。雰囲気切替温度Tを本焼結温度TSと等しい温度に設定する場合には、本焼結温度TS未満の温度で所定時間保持した後に、本焼結温度TSまで昇温して雰囲気を切り替えればよい。
焼結体の作製に用いる合金粉末(磁性粉末)中の元素Rの濃度p1の測定は、ジェットミルやボールミルで微粉砕された状態の粉末に対して実施することが好ましい。元素Rの濃度p1の測定は、微粉砕する前の状態である、粗粉砕された状態の粉末に対して実施してもよい。元素Rの濃度p1は、誘導結合発光プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光分析法により求めることができる。ICP発光分光分析法による測定は対象粉末に対して10回実施し、それらの測定値から最大値と最小値を除いた測定値の平均値を、元素Rの濃度p1とする。組成が異なる原料粉を2種類以上混合して用いる場合には、各原料粉の組成から求められる元素Rの濃度ではなく、2種類以上の原料粉を混合した後に元素Rの濃度p1を測定する。
不活性ガス雰囲気中での本焼結工程は、上述したように真空雰囲気中での前処理工程に引き続いて実施される。この場合、本焼結温度TSに到達すると同時に真空雰囲気から不活性ガス雰囲気に切り替えたり、本焼結温度TSより50℃低い温度(TS−50℃)以上の雰囲気切替温度Tに到達した際に真空雰囲気から不活性ガス雰囲気に切り替えたり、あるいは雰囲気切替温度Tで所定時間保持した後に真空雰囲気から不活性ガス雰囲気に切り替えればよい。真空雰囲気中での前処理工程と不活性ガス雰囲気中での本焼結工程とを別工程として実施してもよい。この場合、真空雰囲気中で雰囲気切替温度(前処理温度)Tまで昇温し、必要に応じて所定時間保持した後に冷却する。次いで、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気に切り替えた後、本焼結温度TSまで昇温して本焼結工程を実施する。
次に、得られた焼結体に溶体化処理および時効処理を施して結晶組織を制御する。溶体化処理は相分離組織の前駆体である1−7相を得るために、1100〜1190℃の範囲の温度で0.5〜8時間熱処理することが好ましい。1100℃未満の温度および1190℃を超える温度では、溶体化処理後の試料中の1−7相の割合が小さく、良好な磁気特性が得られない。溶体化処理温度は1120〜1180℃の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは1120℃〜1170℃の範囲である。
溶体化処理時間が0.5時間未満の場合、構成相が不均一になりやすく、さらに十分な密度が得られないおそれがある。8時間を超えて溶体化処理を行うと、焼結体中のSm等の元素Rが蒸発する等して、良好な磁気特性が得られないおそれがある。溶体化処理時間は1〜8時間の範囲がより好ましく、さらに好ましくは1〜4時間の範囲である。溶体化処理は酸化防止のために、真空中やArガス等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
次に、溶体化処理後の焼結体に時効処理を施す。時効処理は結晶組織を制御して磁石の保磁力を高める処理である。時効処理は、700〜900℃の温度で0.5〜80時間保持した後、0.2〜2℃/分の冷却速度で400〜650℃の温度まで徐冷し、引き続いて室温まで冷却することが好ましい。時効処理は、二段階の熱処理により実施してもよい。すなわち、上記した熱処理を一段目とし、400〜650℃の温度まで徐冷した後に、引き続いて二段目の熱処理を行う。二段目の熱処理温度で一定時間保持した後、炉冷により室温まで冷却する。時効処理は酸化防止のために、真空中やArガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
時効処理温度が700℃未満または900℃を超える場合には、均質なセル相とセル壁相との混合組織を得ることができず、永久磁石の磁気特性が低下するおそれがある。時効処理温度は750〜880℃であることがより好ましく、さらに好ましくは780〜850℃である。時効処理時間が0.5時間未満の場合には、1−7相からセル壁相の析出が十分に完了しないおそれがある。一方、保持時間が80時間を超える場合には、セル壁相の厚さが厚くなることでセル相の体積分率が低下したり、また結晶粒が粗大化することで、良好な磁気特性が得られないおそれがある。時効処理時間は4〜60時間であることがより好ましく、さらに好ましくは8〜40時間である。
また、時効熱処理後の冷却速度が0.2℃/分未満の場合には、セル壁相の厚さが厚くなることでセル相の体積分率が低下したり、また結晶粒が粗大化することで、良好な磁気特性が得られないおそれがある。時効熱処理後の冷却速度が2℃/分を超えると、均質なセル相とセル壁相との混合組織を得ることができず、永久磁石の磁気特性が低下するおそれがある。時効熱処理後の冷却速度は0.4〜1.5℃/分の範囲とすることより好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.3℃/分の範囲である。
なお、時効処理は二段階の熱処理に限らず、より多段階の熱処理としてもよく、さらに多段の冷却を実施することも有効である。また、時効処理の前処理として、時効処理よりも低い温度でかつ短時間の予備的な時効処理(予備時効処理)を施すことも有効である。これによって、磁化曲線の角型性の改善が期待される。具体的には、予備時効処理の温度を650〜790℃、処理時間を0.5〜4時間、時効処理後の徐冷速度を0.5〜1.5℃/分とすることで、永久磁石の角型性の改善が期待される。
この実施形態の永久磁石は、各種モータや発電機に使用することができる。また、可変磁束モータや可変磁束発電機の固定磁石や可変磁石として使用することも可能である。この実施形態の永久磁石を用いることによって、各種のモータや発電機が構成される。この実施形態の永久磁石を可変磁束モータに適用する場合、可変磁束モータの構成やドライブシステムには、特開2008−29148号公報や特開2008−43172号公報に開示されている技術を適用することができる。
次に、実施形態の永久磁石を適用したモータと発電機について、図面を参照して説明する。図1は実施形態の永久磁石を適用した永久磁石モータを示している。図1に示す永久磁石モータ1において、ステータ(固定子)2内にはロータ(回転子)3が配置されている。ロータ3の鉄心4中には、実施形態の永久磁石5が配置されている。実施形態の永久磁石の特性等に基づいて、永久磁石モータ1の高効率化、小型化、低コスト化等を図ることができる。
図2は実施形態の永久磁石を適用した可変磁束モータを示している。図2に示す可変磁束モータ11において、ステータ(固定子)12内にはロータ(回転子)13が配置されている。ロータ13の鉄心14中には、実施形態の永久磁石が固定磁石15および可変磁石16として配置されている。可変磁石16の磁束密度(磁束量)は可変することが可能とされている。可変磁石16はその磁化方向がQ軸方向と直交するため、Q軸電流の影響を受けず、D軸電流により磁化することができる。ロータ13には磁化巻線(図示せず)が設けられている。この磁化巻線に磁化回路から電流を流すことによって、その磁界が直接に可変磁石16に作用する構造となっている。
実施形態の永久磁石によれば、固定磁石15に好適な保磁力を得ることができる。実施形態の永久磁石を可変磁石16に適用する場合には、前述した製造方法の各種条件(時効処理条件等)を変更することによって、例えば保磁力を100〜500kA/mの範囲に制御すればよい。なお、図2に示す可変磁束モータ11においては、固定磁石15および可変磁石16のいずれにも実施形態の永久磁石を用いることができるが、いずれか一方の磁石に実施形態の永久磁石を用いてもよい。可変磁束モータ11は、大きなトルクを小さい装置サイズで出力可能であるため、モータの高出力・小型化が求められるハイブリッド車や電気自動車等のモータに好適である。
図3は実施形態の永久磁石を適用した発電機を示している。図3に示す発電機21は、実施形態の永久磁石を用いたステータ(固定子)22を備えている。ステータ(固定子)22の内側に配置されたロータ(回転子)23は、発電機21の一端に設けられたタービン24とシャフト25を介して接続されている。タービン24は、例えば外部から供給される流体により回転する。なお、流体により回転するタービン24に代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフト25を回転させることも可能である。ステータ22とロータ23には、各種公知の構成を採用することができる。
シャフト25はロータ23に対してタービン24とは反対側に配置された整流子(図示せず)と接触しており、ロータ23の回転により発生した起電力が発電機21の出力として相分離母線および主変圧器(図示せず)を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。発電機21は、通常の発電機および可変磁束発電機のいずれであってもよい。なお、ロータ23にはタービン2からの静電気や発電に伴う軸電流による帯電が発生する。このため、発電機21はロータ23の帯電を放電させるためのブラシ26を備えている。
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
(実施例1、2)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中でアーク溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを1180℃で4時間熱処理した後、粗粉砕とジェットミルによる微粉砕とを実施して、永久磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。合金粉末を磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が9.0×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1160℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1195℃まで昇温し、その温度で2時間保持して本焼結を行った。実施例1、2における真空中での前処理温度(雰囲気切替温度)Tは、本焼結温度TSである1195℃より35℃低い1160℃とした。焼結条件を表2に示す。
本焼結工程に引き続いて、焼結体を1145℃で4時間保持して溶体化処理を行った。次いで、溶体化処理後の焼結体を750℃で2時間保持した後に室温まで徐冷し、さらに815℃で30時間保持した。このような条件下で時効処理を行った焼結体を400℃まで徐冷した後、室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。磁石の組成分析はICP法により実施した。また、前述した方法にしたがって、焼結体の密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)を測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力と残留磁化を測定した。これらの結果を表3に示す。
なお、ICP法による組成分析は、以下の手順により行った。まず、乳鉢で粉砕した試料を一定量はかり取り、石英製ビーカに入れる。混酸(硝酸と塩酸を含む)を入れ、ホットプレート上で140℃程度に加熱し、試料を完全に溶解させる。放冷した後、PFA製メスフラスコに移して定容し、試料溶液とする。このような試料溶液に対して、ICP発光分光分析装置を用いて検量線法により含有成分の定量を行う。ICP発光分光分析装置は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のSPS4000(商品名)を用いた。
(実施例3)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを1175℃で2時間熱処理した後、粗粉砕とジェットミルによる微粉砕とを実施して、永久磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。合金粉末を磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が9.0×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1185℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1195℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。引き続いて、焼結体を1140℃で6時間保持して溶体化処理を行った。
次いで、溶体化処理後の焼結体を760℃で1.5時間保持した後に室温まで徐冷した。続いて、800℃で45時間保持した後に400℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例4)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを1180℃で1時間熱処理した後、粗粉砕とジェットミルによる微粉砕とを実施して、永久磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。合金粉末を磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.0×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1180℃まで昇温し、その温度で20分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1205℃まで昇温し、その温度で2時間保持して本焼結を行った。引き続いて、焼結体を1150℃で8時間保持して溶体化処理を行った。
次いで、溶体化処理後の焼結体を730℃で3時間保持した後に室温まで徐冷した。続いて、810℃で35時間保持した後に450℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例5)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを1180℃で1時間熱処理した後、粗粉砕とジェットミルによる微粉砕とを実施して、永久磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。合金粉末を磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1180℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。引き続いて、焼結体を1140℃で4時間保持して溶体化処理を行った。
次いで、溶体化処理後の焼結体を750℃で2時間保持した後に室温まで徐冷した。続いて、820℃で46時間保持した後に350℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例6)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1190℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例7)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1155℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例8)
実施例2と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が2.8×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1160℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1195℃まで昇温し、その温度で2時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例2と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例9)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が1.9×10-2Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1180℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例10)
実施例1と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が9.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1160℃まで昇温し、その温度で15分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1195℃まで昇温し、その温度で2時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例1と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例11)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1180℃まで昇温し、その温度で10分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(実施例12)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1180℃まで昇温し、その温度で10分間保持した後に、室温まで冷却した。次いで、室温状態のチャンバ内にArガスを導入して1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(比較例1)
表1に示す組成を有する焼結磁石を、実施例1と同一の製造方法を適用した作製した。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(比較例2)
表1に示す組成を有する焼結磁石を、実施例5と同一の製造方法を適用した作製した。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(比較例3)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1110℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
(比較例4)
実施例5と同組成の合金粉末を、磁界中でプレス成型して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空度が8.5×10-3Paとなるまで真空排気した。この状態でチャンバ内の温度を1135℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気としたチャンバ内の温度を1198℃まで昇温し、その温度で3時間保持して本焼結を行った。次いで、実施例5と同一条件で溶体化処理と時効処理を行うことによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石の焼結体密度、セル相のFe濃度(C1)、セル相とセル壁相との間のFe濃度差(C1−C2)、保磁力、残留磁化を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表3に示す。
表3から明らかなように、実施例1〜12の焼結磁石はいずれも高密度を有すると共に、セル相とセル壁相との間のFe濃度差が大きく、それらの結果として高磁化および高保磁力を有していることが分かる。比較例1の焼結磁石はFe濃度が低いため、高密度が得られているものの磁化が低い。比較例2の焼結磁石はSm濃度が低いため、磁化および保磁力が共に低い。比較例3、4の焼結磁石はFe濃度が高いものの、焼結体密度が低く、セル相とセル壁相との間のFe濃度差が小さいため、磁化および保磁力が共に低い。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。