JP6047689B1 - 血液凝固剤溶液、血液凝固剤溶液の製造方法、および液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物e2pの製造方法 - Google Patents

血液凝固剤溶液、血液凝固剤溶液の製造方法、および液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物e2pの製造方法 Download PDF

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Abstract

ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットからのタンパク質抽出液からSmsp-2とSmsp-3とが除去され、さらにカルシウムイオンが除去された、規格化リン酸化率が36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなる組成物であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物である液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pが有効成分として含まれ、この液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液との溶液からなる血液凝固剤溶液。この血液凝固剤溶液の製造方法、および液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを製造する。

Description

本発明は、血液凝固剤溶液、血液凝固剤溶液の製造方法、および液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法に関し、特に脳血管障害(Cerebral Vascular Disorder: CVD)、脳血管疾患を治療するため医療の最先端分野で利用できる血液凝固剤溶液、血液凝固剤溶液の製造方法、および液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法に関するものである。以下、本明細書中では、本発明における血液塞栓性タンパク質固有組成物(lesp intrinsic composition)E2Pを、以下、「lespic E2P」とも称す。
平成22年人口動態統計月報年計(概数)によると、年齢不詳を含む総数で、死亡率が第1位、第2位、第3位、そして第4位は、それぞれ、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、そして肺炎である。脳血管障害(Cerebral Vascular Disorder: CVD)、または脳血管疾患は、脳梗塞、脳出血、およびクモ膜下出血に代表される脳の病気の総称である。こうした上位の死亡率の原因である脳血管障害あるいは脳血管疾病の早期治療、および予防は重要である。特に、死亡に至らなくとも、脳血管疾患は、重度身体運動機能障害症状のうち、最も高額な医療費・介護費が発生する、いわゆる「寝たきり」と総称される状態となる原因の第1位である。脳動脈瘤、脳動脈奇形、および硬膜動静脈婁に対する脳血管内治療としては、カテーテルを通して血管、もしくは血管奇形を閉塞する治療が行われている。血液中で凝固機能を持つ血管内液体塞栓物質を標的血管に注入し、患部血流を塞栓する方法も行われている。血管内液体塞栓物質が血管内に拡散し、血液を凝固させ、析出塊を形成し、標的個所の血管の塞栓を起こすことにより脳血管障害や脳血管疾病を治療し、致命的な合併症を予防することが可能である。
脳外科的開頭術式と比較すると、カテーテルを利用して血管奇形を治療する方法は、患者に対する体力的負担を非常に低減でき、また、術式完了までに要する時間、および患者の社会復帰までの時間が大変短いという利点を持つ。他方で、血管内液体塞栓物質を取り扱うためには、施術者たる医師は、最初に、液体塞栓物質を製造販売している企業による指定を受けた医療機関において技術指導を受け、患者に対し液体塞栓物質を安全に処方できる資格を得ることが前提である。かようなカテーテル術式は、脳外科分野での先端技術として定着しつつある。しかし、液体塞栓物質取扱資格を取得していても、脳血管患部の状態は非常に多様であるので、液体塞栓物質を使用可能な病態は限られている。液体塞栓物質の不適切な使用は、最も危険な場合には、患部脳血管の破裂による出血に至る場合もあるので、施術者は使用に対し慎重にならざるを得ず、同時に、患者とその家族等関係者に対し、十分な説明をする義務を負う。
2014年現在、厚生労働省により処方許可の認定を受けている血管内液体塞栓物質としては、Onyx液体塞栓システムがある。Onyx液体塞栓システムは、元来、脳動脈奇形(Cerebral arteriovenous malformation; bAVM)の治療のために開発された医療部材である。bAVMとは、脳動脈が静脈との異常吻合を起こす症状であり、脳血管疾患のひとつの典型的な症例である。異常吻合部はナイダス(nidus)と呼ばれ、ナイダスでは、異常な枝数に分岐した脳動脈が静脈と絡合し、血液滲出や血流圧による破裂出血を引き起こし易い状態となる。bAVMの年間出血率は2-3%であり、そのうち、脳内出血発症は58%という報告がある。さらに、bAVMが出血により発見された後の最初の1年間の出血率は6-18%であり比較的危険度が高い。bAVMの異常吻合部(nidus)を危険状態のまま放置せず、出血率を低減できる液体塞栓物質が、Onyx液体塞栓システムとして脳血管医療業界に流通している。
他の典型的な脳血管疾患症例は、脳動脈瘤(cerebral aneurysm)である。脳動脈瘤は脳動脈血管壁が瘤状に隆起し、破裂の危険を伴う病態であり、大きさ3mmから5mmで発症と認定される場合が比較的多い。動脈瘤はクモ膜下出血の最大の原因とされるが、動脈瘤発症機構に対しては多様な見解があり、先天的もしくは高血圧等の後天的循環系障害が要因となり動脈瘤発症に至るという考えが主流である。動脈瘤が破裂しクモ膜下出血が引起こされると、およそ50%の患者は直後に死亡するか、あるいは重篤な状態となる。頭部内透過検査により動脈瘤が発見された場合、その治療のためにマイクロカテーテルを用いる術式として、コイル塞栓術がある。コイル塞栓術では、2014年現在、厚生労働省から術式使用を許可認定されている非常に柔軟なプラチナ線を用いる。プラチナ線をカテーテル先端から血管瘤状部に挿入し、異物に対する血液反応としての凝固を引起こし、瘤状部血流を封じる。
動脈瘤の大きさによって選択し、長さの異なる数cmから最長30cm程度のプラチナ線が用いられる。瘤状部と血管部が連結する部分はネックと呼ばれ、留置されたコイル塊の脱落危険度の低い程度にネック形状が比較的狭窄な場合、すなわち、血管部と瘤状部との連絡孔断面が明瞭なくびれ形状を有する場合には、プラチナ線挿入・瘤状部内血液凝固の時点で術式完了の判断も可能である。ネック形状によって(後述のワイドネックの場合)、ステントと呼ばれる円筒状メッシュを親血管に挿入し、コイル塊の脱落を未然に防ぐという付帯術式を要する場合もある。コイルの親血管への脱落が起こると、正常な血流を阻害するため、結果として、遠位部に広範囲な脳梗塞を引き起こし、重篤な後遺症を引きおこす可能性がある。同時に、クモ膜下出血に至らずとも脳動脈瘤が脳神経を圧迫することによる神経障害を併発する可能性が残る。
既存技術における諸問題について、以下説明する。
上記のbAVMおよび脳動脈瘤に対し、カテーテルを用いる塞栓術式は、次のような問題を抱えている。bAVMに対するOnyx塞栓術には、Onyxを構成する成分に起因する複数の理由により、患者への使用上、著しく危険な特性がある。最大の理由はOnyxの有効成分が、合成有機高分子であるエチレンビニルアルコール(EVOH)コポリマー(EVALともいう)であり、かつ、生体内にこれを注入するための溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を採用しているという点である。Onyx塞栓術においては、多くの場合、大腿部血管から脳動脈内患部付近に挿入されたマイクロカテーテル先端から、Onyxの有効成分であるEVOHのDMSO溶液が患部付近に注入される。このとき、DMSOは血中水分により徐々に希釈され、水不溶性のEVOHコポリマー小塊が血管内に沈殿する結果として、標的血管塞栓が起こる。
しかしながら、DMSOは、血管攣縮作用だけでなく、血球の破壊や、神経痙攣作用を含む毒性を有する(例えば、非特許文献1参照)。カテーテルを用いる塞栓術式では、カテーテル先端部を可能な限り患部に近づけ、標的部位のみを確実に塞栓することは、術式成功のための必須事項ではあるが、Onyxを構成する有効成分とその溶媒の性質により、急速に患部に注入することはできず、薬剤を徐々に注入することとなる。このことは、Onyx注入後には直ちに沈殿形成はせず、血管直径および血流路湾曲率に依存して、標的以外の部位に沈殿形成する可能性があることを意味する。完全に凝固沈殿していないEVOHコポリマー小塊に対し、カテーテル先端がEVOHコポリマー小塊内に埋没したまま長時間が経過すると、EVOHコポリマー小塊は、カーテル先端と患部血管内壁を接着してしまう。この場合、施術者がカテーテル先端を小塊から引き抜こうとすれば、小塊にかかる過度の力により患部血管が破裂・内出血が発生し、患者が重篤な状態になるか、または、死亡する可能性もある。
従って、標的部位とその周囲に術式を施すためには、Onyx有効成分の凝固沈殿までにかかる時間や、EVOHコポリマー小塊の血管内移動距離などを、頭部内透過装置を用いて監視しながら、bAVMのナイダスを標的に注意深く注入する必要がある。このように、Onyx液体塞栓剤を用いる塞栓術では、施術者の経験や感覚に依存しているのが現状である。また、ナイダスの大きさや、周囲脳の機能的重要性(知覚および運動機能など)、導出動脈の型に基づく点数により、術式を施せない、または、Onyx製造元および厚生労働省が術式実施を推奨しない症例もある。患者へのOnyx液体塞栓剤の1日当たりの使用量は、3.0mL以上とならないようにする制限もある。左記許容量を超える場合には、患者に対し、複数回のマイクロカテーテル塞栓術を施術しなければならない。
さらに、厚生労働省の定める施術指導要領により、Onyx塞栓術後、Onyxにより固められたbAVM患部は、その後の開頭手術により外科的に除去されなければならない。これは、EVOHコポリマー小塊の脳内長期在留と発症疾病との相関を明示する実験・集計データが存在しないことを理由とする患者への安全措置であるとされている。
厚生労働省未認可ではあるが、n−ブチルシアノアクリレート(nBCA)は、Onyx開発以前より利用されている血管内液体塞栓物質である。しかし、nBCAの固化速度はOnyx塞栓材料のそれよりも非常に高速であり、カテーテル先端と血管内壁とを瞬時に、かつ、強力に接着してしまうため、カテーテルとして、その施術は極めて高いリスクを負うこととなる。厚生労働省が、今後、nBCAを血管内液体塞栓物質として認可する見込みはほとんど無い。
脳動脈瘤に対して用いられるコイル塞栓術では、施術後に塞栓物質が脱落し、血流内に入らないことを保証する必要がある。血管から隆起した瘤状部への傾斜がなだらかなワイドネックと呼ばれる形状を持つネックに対しては、コイル塞栓術の適用は困難である。ワイドネックの程度により、最初にステントを挿入し瘤状部と血管の間を仕切り、ステントと動脈瘤の隙間からプラチナ線を瘤内に挿入するという術式が採られる。しかし、これにはステントが引き起こす血栓を防ぐために、術式後も、患者に対し、副作用を示す抗血小板剤等を定期投与しなければならず、患者のクオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life(QOL))を著しく損ねることとなる。ステントに変わり、バルーンと呼ばれる血管内腔への迷入を予防するためのカテーテル術式もあるが、バルーンを収縮させればその効果は消失するため、その効果は一時的である。
脳動脈瘤に対して治療が必要であると考えられる大きさは、大抵の場合、直径5mmから7mmに膨らんでいる。よって、十分な塞栓を得るためには、プラチナ線を通常5本から10本程度必要とされる症例も存在する。マイクロカテーテル術式用プラチナ線の流通価格を考慮すると、150-600万円の支出となり国家が提供する医療保険制度における大きな負担となっている。さらに、プラチナ線およびステントは生体に吸収されない金属製であるため、患者の生涯を通じ脳内に在留することとなり、これにより引き起こされる2次疾病のリスクを完全に除去することはできない。
本発明者らは、ヒゲナガカワトビケラの幼虫に由来するタンパク質から得られるフィブロインH鎖の画分を含むドープを用いてなるシルクナノファイバー、およびシルクドープに水溶性高分子ドープおよび/または界面活性剤を添加してなるシルクタンパク質複合ドープを用いてなるシルク複合ナノファイバー、ならびにこれらのシルクタンパク質ドープおよびシルクタンパク質複合ドープを、それぞれ用いてエレクトロスピニングによりシルクナノファイバーおよびシルク複合ナノファイバーを製造するための技術を提案している(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1については、その詳細は後述する。
ヒゲナガカワトビケラの幼虫(特に、5齢幼虫)のシルクネットをメタノールに浸漬後、乾燥し、粉末化したものに、還元剤ジチオスレイトールおよびSDSを含むトリス緩衝液中に浸漬してタンパク質を抽出し(第1抽出)、遠心分離後、第1抽出後の不溶画分から、EDTAを含む第1抽出における上記緩衝液を用いてタンパク質を可溶化し(第2抽出)、可溶化されたタンパク質を得る方法が記載され、第2抽出後に得られたタンパク質をSDS-PAGEによる分析、抗ホスホセリン抗体を用いたウェスタンブロッティングおよびSEM-EDX分析を行ったところ、それぞれpSerを含むSmsp-1およびSmsp-4を有し、カルシウムイオンが除去されているキレート化剤可溶性画分(E2P)であることが知られている(例えば、非特許文献2−5参照)。しかし、これらの非特許文献2−5には、タンパク質の抽出に影響を与える抽出液組成と抽出条件の詳細(例えば、詳細な成分、組成物濃度、抽出液pH、抽出温度・圧力、抽出時間等)や、pSerの含有量や、第1抽出において尿素または臭化リチウムを所定の濃度で有する抽出液を使用することや、Smsp-1とSmsp-4との重量比(モル比)や、血液塞栓効果と密接な関係のある「規格化リン酸化率(後述する)」等が明記されていない。なお、非特許文献5には、「尿素」が記載されているが、これは、抽出されたタンパク質を分析するためのクロマトグラフィー法実験において用いる移動相組成として記載されているに過ぎない。従って、以下述べるように、当業者といえども、この非特許文献2−5に記載された条件のみから血液塞栓性を発現する所定のpSer含有量(mol%)を有し、特定の規格化リン酸化率を有するSmsp-1およびSmsp-4からなる血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを得ることは不可能であると考える。
上記した非特許文献2−5記載以外の成分とは、原料であるヒゲナガカワトビケラ幼虫由来シルク様繊維固体から、タンパク質の溶離を促進する成分である濃度9Mの尿素、および、乾燥・粉末化後にもシルク様繊維固体に残存するタンパク質分解酵素(一般にプロテアーゼと呼ばれる)活性を抑制する成分であるロイペプチン、ペプスタチン、および、Gly-Tyr-Gly(前2者は、一般にプロテアーゼ阻害剤と総称される)であり、実験用試薬として市販されている物質である。本発明者らの先行研究により、ヒゲナガカワトビケラ幼虫体内の絹糸腺には、非常に強力なタンパク質分解活性を示すプロテアーゼが存在することが判明している。このプロテアーゼ活性は、実験室飼育により回収したシルク様繊維をメタノールに浸し、乾燥、さらに、粉末化した後にも、lespic E2Pタンパク質抽出操作における回収率を低下させるのに十分量が残存するという好適ではない状況をもたらす。これは、このE2Pタンパク質が残存プロテアーゼ活性により部分的分解を受けると、後の透析操作において、分解されてこのE2Pタンパク質断片が透析チューブより外液により拡散するという現象に起因する。
上記プロテアーゼ阻害剤のうち、ロイペプチンとペプスタチンは残存プロテアーゼの活性中心と不可逆結合し、Gly-Tyr-Gly は自らの Tyr-Gly ペプチド結合がプロテアーゼに加水分解されることにより、さらに、濃度9M尿素は、活性型プロテアーゼの立体構造を形成する駆動力である水素結合を破壊することにより、残存プロテアーゼ活性を失活させるという好ましい効果をもたらす。濃度9M尿素はまた、lespic E2Pタンパク質をプロテアーゼ活性から保護しつつ、このE2Pタンパク質分子間凝集の駆動力の一部でもある水素結合を破壊し、このE2Pタンパク質溶解を助長する。濃度9M尿素と共存するプロテアーゼ阻害剤がその効果を発揮する濃度は、ロイペプチンとペプスタチンについては200マイクロモル(micro M)以上、Gly-Tyr-Gly については1-5mM以上である。
生化学・酵素学の一般常識を適用するなら、原料であるヒゲナガカワトビケラ幼虫由来のシルク様繊維固体を、メタノール浸漬、乾燥後に粉末化するような処理を適用すると、プロテアーゼを含め、いかなる酵素も失活を免れない、とする見方が主体であるが、ヒゲナガカワトビケラ幼虫由来シルク様繊維固体では、例外的にプロテアーゼ活性が残存する。もしも、本発明者以外の第3者が、残存プロテアーゼ活性を抑制せずに、かつ、抽出液組成物および各成分濃度の記載がない非特許文献2−5の手法をもとに、生化学実験において常用される濃度・組成を想像しつつ、トリス緩衝液、還元剤(ジチオスレイトール、DDTと略す)、キレート剤(EDTA)の組成において「lespic E2P」を抽出しようとすると、本願明細書において後述する「原料質量の半分程度」のこのE2P収率を得ることはできない。さらに、本発明における「lespic E2P」を可溶化する必須成分であるキレート剤濃度は、少なくとも5mMであり、一般的に常用されるEDTA等のキレート剤濃度(0.2-0.5mM)の10 倍以上である(すなわち、2-5mM以上である)。さらに、DTTの濃度10 mMは一般常用時の濃度0.5 mMの20倍である。
次に、主に、EDTA共存化での抽出、すなわち、「血液塞栓性タンパク質E2P」を効率的に製造する抽出条件について記載する。本発明者らの先行研究により、E2Pがカルシウム共存下で凝集能力を示す要因として、E2Pの成分タンパク質であるSmsp-1およびSmsp-4が存在することは事実であり、また、非特許文献2−5において、本発明者ら自ら公知としてきた。しかしながら、重要なことは、Smsp-1およびSmsp-4をカルシウム共存下で抽出するということ自体は「塞栓効果」発揮のための必要条件であって、十分条件ではないということである。非特許文献2−5においては、凝集現象を検証するために、ゲル浸透クロマトグラフィー法を用いているが、これは、凝集したSmsp-1およびSmsp-4が移動層からの相分離、すなわち、沈殿形成をせず、かつ、凝集に伴う分子サイズ増大により、クロマトグラム上の溶離位置を高分子両側にシフトせしめることを実験的に示すという記載内容である。
従って、本発明者以外の者が、「血液塞栓性タンパク質固有組成物液体E2P(lespic E2P)」を得ようとする場合、次の重要な情報が不足することとなる。(1)非特許文献2−5記載以外の成分の製造上好適な効果と、それらの濃度および組成、(2)凝集時の瞬時不溶化を保証するSmsp-1およびSmsp-4の分子構造上の完全性、である。これら以外にも、本発明の効果を得ようとすると、非特許文献2−5記載事項のみからでは不足する情報もあるので、その点については後述する。ここでは、不足する情報(2) について詳しく述べる。Smsp-1およびSmsp-4にカルシウムイオン誘起型凝集能力を付与する化学的実体は、ホスホセリン(pSer)であることは、非特許文献2−5記載されている。しかしながら、非特許文献2−5記載では「(2)凝集時の瞬時不溶化を保証する」ために必要な最小限のpSer含有量、および必要最小限のpSer含有量を保証する製造方法について、全く触れていない。
また、pSerを、pH9.0を超えた塩基性条件に暴露すると、これが分解し、デヒドロアラニンという別の物質に変化する。この変化は、pSerのホスホリル基(リン酸基とも呼ばれる)が脱離することで引き起こされる。pH9.0を超える塩基性、かつ、75℃を超える温度、および蒸気圧以上の条件では、ホスホリル基脱離はさらに助長される。このことと直接関連し、かつ、「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」製造上、致命的である情報不足も非特許文献2−5に存在する。それらは、(3)Smsp-1分子構造におけるpSerの存在は直接証拠を示す実験結果が得られていることに対し、Smsp-4分子内のpSerの存在は、直接証拠がなく、抗pSer抗体を用いる免疫染色という間接的な証拠しかない、また、(4)Smsp-1およびSmsp-4のpSer含量が不明であり、上記pSerについて知られている化学的性質をよく理解した上で「塞栓性」を獲得している血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを得ることが必須である、という2点である。これら(1)−(4)の情報不足は、むろん、本願出願日以前には公知ではなく、本発明者のみが知る情報である。従って、新規な上記情報を含む本願明細書記載の製造方法以外では、「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」を製造することはできない。
さらに、非特許文献2−5には、「タンパク質E2P」中のpSer含量については、何ら記載も示唆もない。そのため、本願明細書記載の製造方法により得られる「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」のpSer含量を調べるために、当該E2P標品から、Smsp-1およびSmsp-4を個別に単離し、さらに、「ホスホアミノ酸分析法」という公知の手法により、Smsp-1およびSmsp-4のpSer含量を定量した。これらの手法は本願明細書中で、「実施例」の一部として記載するが、ここでは、その原理と結果について述べる。この結果とは、「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」が、実施例記載の動物実験において、実際に「塞栓効果」を発揮するために必要なpSer含量であり、「塞栓効果」を保証する上で重要な指標である。一般に、pSerは、セリン(Ser)キナーゼと総称される酵素群の作用により、アデノシン−3−リン酸(ATPと一般に表記される)からホスホリリル基がSer残基に転移された結果生じる。従って、Smsp-1およびSmsp-4のそれぞれに対し、Ser残基総量に対するpSer残基のmolベース百分率(mol%)がSerのリン酸化率を示す指標であり、この指標により、タンパク質内のSer総量に対するpSer含量が規格化される。すなわち、異種タンパク質間でのリン酸化率を比較するための指標として用いることができる。
従って、Smsp-1およびSmsp-4が異なるSer含有量を持っていたとしても、それぞれのSer含量に対してpSer含量を規格化して比較することが可能である。これを「規格化リン酸化率」と定義する。実際、本願明細書記載の製造方法により得られたlespic E2P標品は、Smsp-1では、規格化リン酸化率37±3%であり、他方、Smsp-4では規格化リン酸化率28±2%であること、また、Smsp-1とSmsp-4とからなる組成物の規格化リン酸化率は36±3%であることが判明した。このE2P標品は、実施例記載の動物実験において、実際に「塞栓性」を示したという事実に基づき、これらのSmsp-1かつSmsp-4の規格化リン酸化率をもって「塞栓性」効果が保証され、これが「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」たる十分条件となる。本発明者以外の者が、非特許文献2−5記載の情報のみから「E2P」を製造しようとしても、上記(1)−(4)項に記載した情報不足により、上記のような規格化リン酸化率を有する「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」を製造するということは極めて困難であると信じる。
血管瘤形成血管治療用器具に係る発明が知られている(例えば、特許文献2参照、段落[0022]等)。この特許文献の段落[0022]には、血栓形成促進部11、12に利用される各種の合成繊維および天然繊維が例示され、血液成分(凝固因子)が付着可能なものであれば何でも良いとし、そのうちの1つの例として絹繊維等が記載されており、繊維自体に血液成分(凝固成分)が付着可能なものであれば制限はないとされている。また、この特許文献では、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート等から形成される合成繊維、セルロース繊維、綿、リンター、カポック、亜麻、大麻、ラミー、絹、羊毛等の天然繊維等が好適であるとされている。この特許文献の場合、あくまでも繊維自体であるので、水不溶性の固体である。上記絹繊維等は、血管瘤形成血管治療用器具を構成する血栓形成促進部に構造的に利用されるものに過ぎず、この器具の構成部材に水不溶性の絹繊維が利用できると記載されているだけで、絹から分離された絹中の特定な成分が利用できるとは記載も示唆もない。また、この絹繊維等と、体液(例えば、人体の血液)と等張な緩衝液との緩衝溶液と共に使用することについては、記載も示唆もない。ヒゲナガカワトビケラからのシルク繊維ネット由来の液体シルクタンパク質と、体液と等張な緩衝液溶液との緩衝溶液を利用することにより血栓形成促進効果が達成されるという技術的事項は記載も示唆もない。絹繊維や絹織物と血液との作用は、液体であるシルクタンパク質含有緩衝液の溶液と血液との作用、すなわち、液体シルクタンパク質の緩衝液溶液と血中に存在する無機イオン等の成分と確実に反応し、直ちに凝集固化・塞栓に至るような作用とは技術的に全く別異のものである。
また、インナー・グラフト・カバーとアウター・グラフト・カバーとの間のスペースに入った血液の血栓形成は、流動用管腔内における圧力の血管壁への伝達を停止または大幅に低減することができること、そのスペース内の血液は、血液が停滞するとすぐに、凝固して血栓を形成することができること、その凝固プロセスは、インナー・グラフト・カバーとアウター・グラフト・カバーとの間のスペースに固体の血栓形成剤を配置することにより加速させることができることが知られている(例えば、特許文献3参照、段落[0064]等)。また、適切な血栓形成剤は、これらに限定するものではないが、塩、シルク、アルブミン、およびフィブリンを含むことができること、さらに、それらの物質は、粉末の形態で上述のスペース内に配置することができ、またはインナー・グラフト・カバーおよびアウター・グラフト・カバーの内面にコーティングすることもできることが記載されているに過ぎない。さらに、アウター・グラフト・カバーが膨らまされた後にそれらの開口を密封するため、上述のスペース内へ至る開口を血栓形成剤で処理することができること、例えば、インナー・グラフト・カバーのあるセクションを、織り込みまたは編み込みされた多孔性の絹織物から作ることができることが記載されているに過ぎない。
さらに、患者の血管系の治療のためのデバイス10の透過シェル40の実施形態は、複数の層を含み得ること、第1のまたは外層は、血小板の凝集または付着、すなわち血塊および血栓を形成する傾向を最小限にするように、生物活性および血液適合性の低い材料から構築され得ること、任意で、外層は、本願で述べるか、または当該技術分野において既知であるヘパリンあるいは他の抗血栓形成剤等の、抗血栓形成剤でコーティングされるか、または抗血栓形成剤を含み得ること、第1の層に対して配備状態である血管障害に向けて配置される1つ以上の内層は、より大きな生物活性を有し、ならびに/または凝血を促進し、したがって血管障害内の血塊およびデバイスの閉塞質量の形成を強化する、材料から構築され得ること、生物活性を有し、および/または凝血を促進するように示されている一部の材料は、絹、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、メチルセルロース、ゼラチン、小腸粘膜下組織(SLS)、ポリ−N−アセチルグルコサミン、およびそれらの共重合体または複合材料を含むことが知られている(例えば、特許文献4参照、段落[0116]等)。
一般に、シルク、絹、絹糸、あるいは、絹織物といった用語は、カイコ (Bombyx mori) 幼虫体内の絹糸腺と呼ばれる生合成・貯蔵組織から吐糸された繊維自体、もしくは、それを紡織した織物を指す。ここでは「絹」と統一的に表記するが、この絹とは、主成分としてフィブロインおよびセリシンという2種のタンパク質の組成物からなる繊維状物質である。カイコの体内絹糸腺から直接取り出されたタンパク質組成物もしばしば「絹」と呼ばれる。吐糸された絹、すなわち、固体状の絹を「溶液」にしようとする場合、人体内の血流に注入することが、およそ憚れるような、組織毒性の強いタンパク質変成物質を用いねばならない。したがって、特許文献2−4には明記されていないが、これら特許文献の主張する「絹」とは、カイコにより吐糸された繊維、すなわち、固体物質を指すことは自明である。
以下に、上記特許文献2−4と本発明との「塞栓効果」の起源が明瞭に異なる点を説明する。本発明における「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」は、ヒゲナガカワトビケラ幼虫(学名 Stenopsyche marmorata)が水中吐糸・凝固したシルク様繊維を原料とするものである。ここでいう「シルク様繊維」とは、カイコの「絹」と区別するために用いる用語である。シルク様繊維から本願明細書記載の手法により可溶化および回収された「lespic E2P」は、タンパク質変性剤を必要としない条件において「水溶性」である。しかし、「水溶性」であること自体は、本発明において、この「液体物質」が「塞栓性効果」を発現するための必要条件であって十分条件ではない。十分条件とは、本発明における「液体物質」が血液中に存在する何らかの成分と接触することにより「自発的凝集」が誘起され、その後、「凝集物」もしくは「凝集塊」が血流遮断に至らしめる有効成分を持つことである。
ここで、強調すべき点は、上記の血流遮断現象、すなわち本発明において記載するところの「液体物質による塞栓効果」は、特許文献2−4記載の「固体物質」が引き起こす事象、すなわち、血液が本来持つ「異物固体表面」に対する凝集性応答 (凝集カスケード機構)とは何の関わりもなく、相互に独立した現象であるということである。換言すれば、本発明における「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」は、公知の血液凝集カスケード機構を全く利用していない新規な機構を有するものであるということである。本来、人体を流れる血液は、「異物固体表面」に対してはカスケード機構を経る凝集性応答を示すが、これに対し、血流に注入された「液体物質」に含まれる溶質たる物質が「自発的凝集」をせずに溶液状態が保持する場合には、カスケード機構は誘起されず、代わりに、免疫機構が誘起され、溶質たる物質が免疫系細胞により異物として認識される場合には、溶質たる物質に対する抗体が産生される。これは免疫応答機構として認知されている当業者にとって普遍的知識である。
さらに違いを述べると、特許文献2−4記載の「固体物質(絹等の固体物質)」は、いずれも、カスケード機構の一部として知られている血液凝固因子を刺激する成分(異物固体物質)として記載されていることに対し、本発明における「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」は、血液凝固因子を刺激することなく、血中カルシウムイオンと直ちに反応して「自発的凝集」を引き起こし、「塞栓効果」を発揮するものである。作用機構が全く異なる。このことに加え、「血液塞栓性タンパク質E2P」の「自発的凝集」と「塞栓効果」とは、マイクロカテーテル先端からの血流注入時に、ほぼ瞬時に起こるため、免疫応答機構をも誘起しない。これは、「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」とともに凝集塊を形成する成分の中に、もともと血中に存在している血球等の成分が多量に含まれるために「異物」として認識されにくいことに起因する。
特許文献2−4と本発明との「塞栓効果」の起源が明瞭に異なる理由および根拠は、以上の諸点に基づくが、「血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P」が「塞栓効果」を発揮するための、十分条件となる事項、すなわち、本発明における「液体物質」が血液中に存在する何らかの成分と接触することにより「自発的凝集」が誘起され、その後、「凝集物」もしくは「凝集塊」が血流遮断に至らしめる、という有効成分たる機能はこの「E2P」の製造過程により保証される。本発明におけるこの「E2P」が「塞栓性」効果を獲得するための製造条件は、本発明者らによる基礎研究から明らかになっている。かかる点は、格別に顕著な効果であると信じる。
特開2011−196001号公報 特開2008−73538号公報 特表2013−500141号公報 特表2011−519632号公報
John C. Chaloupka, Fernando Vinuela, Harry V. Vinters, John Robert, Technical feasibility and histopathologic studies of ethylene vinyl copolymer (EVAL) using a swine endovascular embolization model, AJNR Am J Neuroradiol 15(6), 1107-1115 (1994). 繊維学会予稿集,2014年,Vol.69, No.1(CD-ROM),2H02 高分子学会予稿集(CD-ROM),20144年,Vol.63, No.1,p.3323-3324, 1Pe141 Sessile Organisms,2014年,Vo.31, No.2,p.28-29 Journal of Biological Macromolecules,2014年,Vol.14, No.2,p.117,1p-05
本発明で得られる血管内液体塞栓性タンパク質と、マイクロカテーテル術式用既存液体塞栓材料、コイル塞栓術用のプラチナ線、および、近年開発が進んでいるゼラチン球状子(マイクロスフィア)の特徴を明らかにするため、それぞれの性質および性能の比較を表1にまとめた。厚生労働省により使用認可を受けているものの、Onyxおよびプラチナ線が抱えている諸問題、ならびに、患者および施術者側からみた不利な点は次の項目のように表現できるであろう。(1)高度なカテーテル操作技術の必要性は、診療報酬点数の上昇に伴う医療費用負担増に繋がること、(2)bAVMの治療に関しては、現時点で完全に閉塞することができない以上、結果として患者の死亡のリスクを完全に予防できないこと、(3)施術部の脳内長期在留に伴うリスクは、Onyxが有効成分としてのEVOHと生体拒絶反応を誘起する溶媒DMSOから構成されていること、およびプラチナ線、および、ステント類金具が、生体にとり必ずしも安全でない人工物であるために生じていること、ならびに、(4)Onyxおよびプラチナ線の高価な部材費用が、医療保険制度における多大な国税負担となっていること、の以上4点に集約される。直径100-500μmのゼラチン球状小粒子やポリビニールアルコールを主成分とする同様の球状小粒子はマイクロスフィアと総称されるが、これらの部材も治療効果が永続しないことが問題点であり、また、物質の正常組織への迷入は、重篤な合併症を引き起こすことについては他の部材と同様である。
本発明で得られる血管内液体塞栓性タンパク質は、淡水中でシルク繊維を吐糸する水生昆虫類幼虫が生産するタンパク質である。我々の身の回りにある天然タンパク質のうち、高分子量タンパク質の紡糸を経て形成されるシルク繊維としては、カイコ、クモ、二枚貝、および、水生昆虫類幼虫が例示できる。これらのうち、繊維産業の基盤として養蚕技術と製糸工程を経ることで工業化された素材は、室温・気中の環境下でカイコが生産するシルク繊維である。一方、水生昆虫類幼虫は、室温・気中とは異なり、生体内環境と等価な淡水中においてシルク繊維を吐糸する。水生昆虫類幼虫は、河川低床の岩石間隙にシルク繊維ネット(巣網とも称す)を張り巡らせ、河川水流に対し自身を保定し、同時に、シルク繊維ネットに絡まり付着する有機物小粒子を口腔から体内消化管に取込み成長のための栄養とする。水生昆虫類幼虫は、さらに、蛹に変態する直前の5周齢(5齢ともいう)において、周囲の岩石小粒をシルク繊維ネットに接着して収集し、自身を収容する筒状容器(ケースあるいは巣糸ともいう)を構築するという行動をする。ケース内に自身を収容した幼虫は、その中で蛹に変態し、やがて羽化を経て成虫となる。成長段階においてそれよりも前の3−4周令のそれとは異なり、ケース形成時の幼虫シルク繊維は、より高い粘着・接着性を示すため、ケース構築時にはシルク繊維ネットと岩石小粒とを密に固めるためのセメントとして機能する。水生昆虫類幼虫が吐糸して絹糸を作るので水中でのセメントとしての新しい応用が期待できる。水生昆虫類幼虫のこうしたシルク・セメントタンパク質は、水中での接着機能を持つため、先端医療分野において利活用できる可能性を秘めている。
水生昆虫類幼虫のうち、特に大型サイズの種類は、トビケラ目(毛翅目, Trichoptera)である。トビケラ目水生昆虫のなかでも、ヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)5周令幼虫(これ以降、「S. marmorata」または「本種」と記す)の体長は、3.5-4.0cm程度であり、生息域周囲の毛翅目種幼虫のなかでは最大である。このことに加え、本種の生息密度は、晩春から初夏にかけて最大となり、長野県内の一級河川を例に挙げると、1.0m四方あたり最大約500個体という記録もあるほどに豊富な生物資源である。さらに、本種は、食品区分「肉類」として農林水産省に認可され、「ざざむし」等の製品名とともに加工食品として製造販売されている。従って、本種の生産するシルクタンパク質は生物体内環境において、無毒性かつ高い安全性を併せ持つと期待され、先端医療技術としての脳内血管疾患に対するマイクロカテーテル術式において要求される性能を保持する物質である。
[課題解決のための必要事項]
発明者らの基礎研究結果によると、本種のシルクタンパク質を構成する主要なアミノ酸は、グリシン、アラニン、セリン等の疎水性アミノ酸である。この特徴は、カイコのシルクフィブロインタンパク質と同様のアミノ酸組成であることが注目される。本種のシルクタンパク質が持つ特徴は、上記アミノ酸の他にも、チロシンおよびプロリンの含量の高さであり、カイコシルクでは組成比5%に満たないアミノ酸を、その倍の10%程度含む。さらに、上記のセリンの側鎖水酸基の多くがホスホリル化を受けているという点が最大の特徴である。ホスホリル化を受けたセリン残基をホスホセリンという(以降、「pSer」と記す)。セリン側鎖上ホスホリル基は、水中で1価または2価のマイナスイオンとなり、2価のプラスイオンであるカルシウムイオン等との静電結合を経て、シルクタンパク質分子は互いに凝集をして、水不溶性のシルク繊維に変化する。これは、カイコのシルク繊維形成機構とは全く異なり、本種のシルクタンパク質固有のタンパク質化学的性質なのである。本種のシルクタンパク質のアミノ酸組成については後述する(実施例6)。
本発明者らは、本種体内の絹糸腺から取り出したタンパク質から得られるフィブロインH鎖の画分を有機溶媒に溶解し、従来公知のエレクトロスピニング紡糸することでシルクナノファイバーを製造することに成功した(例えば、特許文献1参照)。すなわち、この特許文献1に記載の技術は、ヒゲナガカワトビケラの幼虫に由来するタンパク質から得られるフィブロインH鎖の画分を含むドープを用いてなるシルクナノファイバー、およびシルクドープに水溶性高分子ドープおよび/または界面活性剤を添加してなるシルクタンパク質複合ドープを用いてなるシルク複合ナノファイバー、ならびにこれらのシルクタンパク質ドープおよびシルクタンパク質複合ドープを、それぞれ用いてエレクトロスピニングによりシルクナノファイバーおよびシルク複合ナノファイバーを製造するための技術である。
しかしながら、特許文献1のヒゲナガカワトビケラの幼虫に由来するタンパク質から得られるフィブロインH鎖の画分を含むドープ自体は、本発明を満たし、さらに、表1に纏めたように、脳血管内使用において要求される性能に対し、必ずしも好適とは判断できない複数の要因を含む。これらの要因の詳細は、実施例において後述するが、ここでは、特許文献1により製造されるタンパク質画分と、本発明の製造法により得られる新規なタンパク質との差異における要点について記述する。幼虫体内の絹糸腺から、特許文献1記載の製造法を経て得られるタンパク質画分には4種のタンパク質が含まれる。それらは、Smsp-1、Smsp-2、Smsp-3、およびSmsp-4である。本発明者らのその後の生化学研究により、タンパク質分子内にpSerを含むものは、Smsp-1とSmsp-4だけであることが判明した。このことは、カルシウムイオンとの結合により引き起こされる本種からのシルクタンパク質の繊維化における有効成分は、上記2種のタンパク質Smsp-1とSmsp-4のみであることを意味する。さらに、本発明者らは分子生物学的研究も進めた。本種の絹糸腺内において活発に発現しているシルクタンパク質遺伝子から作られるmRNAを集め、次世代シーケンシング手法を用いたトランスクリプトーム網羅的解析を行った結果、Smsp-2およびSmsp-3の2種のタンパク質発現量およびmRNA出現頻度は、Smsp-1およびSmsp-4よりも明らかに低く、本種の成長段階に依存して変化することが示唆された。このことは、Smsp-2およびSmsp-3は、絹糸腺内タンパク質の繊維化において必須成分ではないことを意味している。
Figure 0006047689
表1中、Smsp-1およびSmsp-4は、それぞれ、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を意味する。
従って、本発明における血管内液体塞栓物質としての本種シルクタンパク質の製造方法、および、それが提供する機能は、特許文献1記載の製造法により得られる機能とは全く異なる。すなわち、絹糸腺内タンパク質の繊維化における必須成分であるSmsp-1(以下、「lesp-400kDa(Smsp-1)」と称す) とSmsp-4(以下、「lesp-14kDa(Smsp-4)」と称す)だけを確実に、かつ、効率的に製造できる手段を見出す必要がある。本発明の課題は、上記問題を解決することにあり、水生昆虫類幼虫に由来し、血液と接触することで塞栓機能(封栓機能)を持つ血管内液体塞栓物質(液体塞栓性タンパク質)、およびその製造方法、ならびにこの塞栓機能を持つ機能性タンパク質による動脈あるいは静脈血管の血管内液体塞栓物質を提供することにある。そのためには、繊維化の有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)以外のタンパク質を可能な限り含まず、かつ、カルシウムイオンを完全に取り除いた状態で製造できる手段を発明・提供せねばならない。特許文献1記載の製造法により得られる物質は、有効成分以外のタンパク質を含み、もしも、これらが脳血管内に注入された場合、本発明が提供する性能以外の副作用、すなわち、余剰の免疫反応、あるいは、有効成分の血中カルシウムイオンとの凝集固化を阻害する等の好適でない現象を除外できる保証は無い。
さらに詳しくは、本発明では、特許文献1記載の製造法のように本種体内絹糸腺を原料としていない。本発明に関わる製造法では、本種が吐糸したシルク繊維ネットを原料とし、かつ、溶媒が体液(本発明において「体液」とは、人体の血液を含めたヒト、ウマ、およびブタ等の恒温動物の血液である)濃度と等価な水溶液であり、かつ生体毒性を示さない有効成分、すなわち、カルシウムイオンを含まないlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)の等張緩衝溶液のみを本発明に関わる新規な血管内液体塞栓物質としてカテーテルで標的血管に注入することで血管を塞栓させることができる。lesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)の等張緩衝溶液は、高濃度のlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)を含む場合であっても、標的血管内に、一気に、かつ、患者の身体的負担なしに注入することができ、標的血管の遠位のみならず近位をも、施術者の意図のとおりに閉塞させるための塞栓剤として優れた機能を持つ。かくして、等張緩衝溶液におけるlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との濃度を適切に調液することで、閉塞状態を保つ血管の数を増加させることが可能である。塞栓剤として用いる場合のlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)からなる固有組成物E2Pの濃度は、例えば、以下述べる恒温動物の血中カルシウム濃度により影響を受けて決まる。例えば、ヒト、ウマ、および、ブタなどの恒温動物の血中カルシウムイオン濃度は2.5-4.0mMの間で変化するので、このカルシウムイオン濃度に応じて、このE2Pを上記緩衝液に溶解して用いれば良い。例えば、このE2Pを以下の実施例14記載の緩衝液に溶解し、その緩衝液の濃度を2-20mg/mL、例えば10mg/mLとすれば、塞栓効果を達成できることが確認されている。この濃度範囲を外れると塞栓効果の点からは好ましくない傾向がある。また、この濃度以上では緩衝液により不溶物が残存する場合がある。このE2P緩衝溶液を血液凝固剤溶液として用いる際に、マイクロカテーテルを用いて血管内への注入を円滑に行うためには、不溶物がない方が好ましい。
施術者および患者のみならず、医療保険制度を提供する国家行政の立場からも、脳内血管に適用する理想的な液体塞栓物質とは、(1)有効成分がタンパク質などの生体適合性を有し、かつ、安価な有機高分子であること、(2)溶媒が体液と等張な緩衝液であること、(3)もともと血中に存在する無機イオン等の成分と確実に反応し、直ちに凝集固化・塞栓に至ること、(4)凝集固化時にカテーテル先端とは接着せず、かつ患部血管内壁と強く接着し塞栓部が血管内に脱落しないこと、かつもしも仮に脱落が生じても患部以外の他の血流系に影響せず、かつ疾病状態を悪化させず、かつ、再施術等の最少の部材資源および人的労力により安全に状態改善が可能であること、(5)塞栓剤注入時に施術者に操作上の違和感を感じさせずに、速やかかつ円滑な施術が可能であること、および(6)施術時に頻用される血液造影剤共存下で使用可能であること、の全てを満たす物質である。本発明に関わる液体塞栓物質または液体塞栓剤は、以上(1)−(6)のうちの基本的性能たる(1)−(5)を実現し、既存の液体塞栓物質と比較し、新規な性能を提供するものである。
本発明の血液凝固剤溶液は、ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットのタンパク質由来のSmsp-1およびSmsp-4を有し、36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率を有する組成物であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物である液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであり、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P有効成分として含んでなり、この液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液(恒温動物の血液)と等張な緩衝液との溶液からなることを特徴とする。
本発明の血液凝固剤溶液の製造方法は、ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットのタンパク質由来のSmsp-1およびSmsp-4を有し、36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率を有する組成物であり、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物である液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを得、この有効成分としての前記液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液(恒温動物の血液)と等張な緩衝液との溶液からなる血液凝固剤溶液を得ることを特徴とする。
本発明の血液凝固剤溶液の製造方法はまた、ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットを糸状粉末とし、第1段階として、この粉末をpH 6を超えpH 9未満の抽出用緩衝液であって、尿素または臭化リチウムを含む抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、遠心上清を採取し、抽出残渣を得、次いで、第2段階で、第1段階で得られた抽出残渣を、カルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した第1段階抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、得られた抽出液からキレート剤と結合したカルシウムイオンを除いた後、36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率を有するSmsp-1およびSmsp-4であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在するSmsp-1およびSmsp-4を有する液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを得、血液凝固を促進加速させる前記液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを有効成分とし、この液体の血液塞栓性タンパク質と、リン酸イオンを含まない、体液(恒温動物の血液)と等張な緩衝液とからなる血液凝固剤溶液を製造することを特徴とする。
前記血液凝固剤溶液の製造方法において、前記第1段階および第2段階におけるインキュベート温度が40-60℃、時間が30-60分であることを特徴とする。
本発明の液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法は、ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットを糸状粉末とし、第1段階として、この粉末をpH 6を超えpH 9未満の抽出用緩衝液であって、尿素または臭化リチウムを含む抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、遠心上清を採取し、抽出残渣を得、次いで、第2段階で、第1段階で得られた抽出残渣を、カルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した第1段階抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、得られた抽出液からキレート剤と結合したカルシウムイオンを除いた後、規格化リン酸化率が36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)であるSmsp-1およびSmsp-4であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在するSmsp-1およびSmsp-4を有する液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを製造することを特徴とする。
前記タンパク質固有組成物E2Pの製造方法において、前記第1段階および第2段階におけるインキュベート温度が40-60℃、時間が30-60分であることを特徴とする。
前記タンパク質固有組成物E2Pの製造方法において、前記第1段階における抽出用緩衝液が、尿素または臭化リチウムを含むTris HCl、SDS、およびDTTからなる緩衝液であり、前記第2段階における抽出用緩衝液が、この第1段階抽出用緩衝液にカルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した緩衝液であることを特徴とする。
なお、前記したように、本発明に関わる液体塞栓物質溶液または液体塞栓剤溶液は、水生昆虫類幼虫、例えば、本種S.marmorata幼虫が水中で吐糸してなるシルク繊維ネットから分離して取り出すことができる。本種幼虫体内の絹糸腺を原料とするシルクタンパク質S. marmorata silk gland protein (Smsp-1)を精製するための先行技術は公開されている。そこで、本発明では、[0040]および[0043]に記載した要求事項を満たせるように、本種を実験室内の比較的清浄な環境において飼育し、この工程を経て回収されるシルク繊維ネットを処理した後、最後の工程で、種々のキレート剤(ジアミノ化合物系キレート剤、例えば、エチレンジアミン、プロパンジアミンなど;アミノカルボン酸系キレート剤(カルボキシル基対イオンは例に限定されない)、例えば、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム(EDTA)、ニトリオ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,3−プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA-OH)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ジカルボキシメチルグルタミン酸(CMGA)など;クラウンエーテル系キレート剤、例えば、12−クラウン−4,15−クラウン−5,18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジアザ−18−クラウン−6など;ビピリジン系キレート剤、例えば、n,n’−ビピリジン(n’=2,3,4)、フェナントロリンなど;ポルフィリン系化合物;カルシウムイオン結合能を示す環状ペプチドなど)を添加した緩衝液を用いることで、カルシウムイオンと結合しているlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を単離する方法を試み、その結果、シルク繊維ネットを原料として直接lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を可溶化し、可溶化されたlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の比率が画分質量の95%以上を占める新規物質の製造に成功した。かくして得られたlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を含むタンパク質画分をlespic E2Pと呼ぶ。
水生昆虫であるヒゲナガカワトビケラ幼虫に由来する血管内液体塞栓物質であるタンパク質固有組成物E2Pは、血液あるいは溶液に含まれるカルシウムイオンと反応すると直ちに凝固する。また、このE2Pは血液中のカルシウムイオンと反応して凝固する機能があり、標的血管に注入すると瞬時にして塞栓する働きがあるため、マイクロカテーテル技術で脳血管の異常すなわち、脳動脈瘤および、脳動脈奇形(bAVM)、硬膜動静脈婁の部位に適用する場合では、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の固有の構造特性たるpSerを含む周期的アミノ酸配列が持つ効能により、血液を凝固させる機能を持つ血管内液体塞栓物質として作用するため、これらの脳血管内治療あるいは有効な予防手段となる。
水生昆虫由来の機能性タンパク質は、毒性が少なく、生体に優しく、血液と反応して凝固、あるいは血管の異常部位を塞栓する機能を持つ血管内液体塞栓物質である。頭蓋内では、脳動静脈奇形のほかに、硬膜動静脈瘻、また、動脈瘤にも使用できる可能性、ならびに、脳腫瘍の栄養血管の塞栓術、鼻出血の親血管閉塞にも使用が可能である。当該発明の血管内液状塞栓物質は、上記記載の当該分野における先端的な治療あるいは予防に加えて、頭蓋分野以外では、子宮筋腫の治療、肝臓がんの治療(塞栓療法)、多発外傷の際の血管閉塞等についても効率的、かつ、広範囲に応用が可能である。
本発明における血管内液体塞栓物質であるE2Pは、水溶液系の天然高分子タンパク質であり、カルシウムを含む血液あるいは溶液と反応すると瞬時に溶液を凝固させる析出塊を生じ、標的個所の血管を塞栓させる働きがある。生体あるいは血管内に注入しても、毒性が無いため、生体には安全であり、患者を危険な状態に陥ることは無く、本発明における血管塞栓物質は、例えば脳血管障害あるいは脳血管疾病の治療の効果を飛躍的に高めることができる。
SDS−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)法により血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pのタンパク質成分を分析し、電気泳動後のゲルのクマシーブリリアントブルー染色の結果を示す写真。 血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の血管塞栓性能を、ブタ浅頚動脈へのカテーテル注入による実証した結果を示す写真。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明で得られる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pに係わる実施の形態によれば、液体の血液塞栓性シルクタンパク質固有組成物E2Pは、水生昆虫のシルク繊維ネット、好ましくは水生昆虫における酸化酵素活性が上昇する前の水生昆虫5週齢幼虫のシルク繊維ネットから抽出される、カルシウムイオンを含まないものであり、カルシウムイオンが除去されたpSerを含むlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなるタンパク質であり、カルシウムと結合することで血管を塞栓する機能を有し、前記水生昆虫が、例えば、ヒゲナガカワトビケラ幼虫等からなる毛翅類、および近縁種である双翅目から選ばれる。そして、この液体塞栓性タンパク質E2Pは、標的血管部位の血液凝固を促進加速させる。
本発明の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法に係わる実施の形態によれば、この製造方法は、水生昆虫が吐糸するシルク繊維ネット、好ましくは水生昆虫における酸化酵素活性が上昇する前に、水生昆虫5週齢幼虫が吐糸するシルク繊維ネットをアルコール(例えば、メタノール)に浸漬し、取り出したシルク繊維ネットを乾燥後、糸状粉末にし、第1段階として、この粉末をpH 6を超えpH 9未満の抽出用緩衝液であって、尿素または臭化リチウムを含む抽出用緩衝液、例えば、5-9Mの尿素または7-10Mの臭化リチウムを含むTris HCl、SDS、およびDTTからなる抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、Smsp-2およびSmsp-3を含む遠心上清を採取し、抽出残渣を得、次いで第2段階で、第1段階で得られた抽出残渣を、カルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した第1段階抽出用液に浸してインキュベートし、得られた抽出液から緩衝液成分、およびキレート剤と結合したカルシウムイオンを除いた後、凍結乾燥し、規格化リン酸化率が36 ± 3 %であるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなる組成物であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物である液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、pSerを含むlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなタンパク質E2Pを製造することからなる。上記アルコールは、試料中に含まれる目的物質以外の付着物(脂肪、炭水化物等)を除去するために使用するものであるので、メタノール以外にエタノール、プロパノール、ブタノール等であれば、いずれでも使用できる。目的物質以外の付着物を効果的に除去するうえで、メタノール、エタノールが好ましい。シルク繊維ネットが、水生昆虫における酸化酵素活性が上昇する前に、水生昆虫5週齢幼虫から得られるシルク繊維ネットであることが好ましい。上記尿素、臭化リチウムの濃度範囲内で収率は上昇したが(例えば、実施例3)、その濃度範囲を外れると上記した製造方法での目的物である血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを収率良く製造することはできなかった。例えば、その収率が10%以下まで低下することもあった。
前記第1段階および第2段階におけるインキュベートは、例えば、一般的に温度:40-60℃、最適には温度:60℃、そして一般的に時間:30-60分、最適には時間:30分で実施する。この範囲は、抽出液組成とその成分の性質を含め、さらに時間・経済性を考慮した条件である。この範囲を外れると目的物である規格化リン酸化率が36 ± 3 %であるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなるlespic E2Pを得ることはでき難くなる傾向がある。温度が40℃未満、例えば25-37℃であると、ヒゲナガカワトビケラ(S. marmorata)シルク様繊維に残存しているプロテアーゼ活性が良く働く温度であるため、好ましくない結果をもたらすと共に、さらに低温であると、添加する尿素析出の頻度が増したり、低温(例えば、4℃)で長時間(例えば、8時間)インキュベートするとlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)が一部溶け出すことがあったりするので、好ましくない。60℃を超えると、一般タンパク質、特に酵素にとっては過酷な条件であり、ほとんどの酵素は失活を免れ得ない。上記残存プロテアーゼ活性も例外ではなく、60℃を超えると、これが失活するので、血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P製造においては、むしろ好適となる。この点、本発明における製造法が、一般生化学における常識とは真逆条件で発明されているという特徴を表している。ただし、75℃に近づくにつれて、pSerが分解してデヒドロアラニンに変化する頻度が高くなり、このことで、得られる血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの血液塞栓効果が弱まる恐れがあるために、本発明においては製造上の温度条件を40-60℃とした。また、時間は経済性を考慮すれば上記範囲内が好ましく、30分未満であると目的物が得られなくなる傾向がある。
本発明の血液凝固剤溶液に係わる実施の形態によれば、この血液凝固剤溶液は、前記液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pからなるものであって、標的血管部位の血液凝固を促進加速させるタンパク質E2Pを有効成分として含む溶液であり、規格化リン酸化率が36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなる組成物であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物からなる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pが有効成分として含まれ、この液体の血液塞栓性タンパク質E2Pと、リン酸イオンを含まない、恒温動物の血液のような体液と等張な緩衝液との溶液からなる。また、血液凝固剤溶液は、lesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との組成物(混合物)を有効成分として含むものであり、標的血管部位の血液凝固を促進加速させる。lesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との組成物であることで、血液凝固機能が増強する。
血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを血液凝固剤として使用する場合、例えば、このE2Pを体液と等張な緩衝液に溶解して、カテーテルを通して、その先端から、血液を凝固させたい部位(標的部位の血流)に向かって、標的血管内に注入し、患部血流を塞栓する。標的血管内に注入すると瞬時に血液が凝固し、血管を塞栓することができる。この等張な緩衝液としては、タンパク質の溶解に通常用いられる既知緩衝液を用いることができるが、リン酸イオンを含むものは使用できない。このような緩衝液は、例えば、Tris HCl、HCl-KCl、有機酸とそのナトリウムまたはカリウム塩(例えば、酢酸−酢酸ナトリウム、ホウ酸−ホウ酸ナトリウム、フタル酸−フタル酸カリウム等)、有機塩基−無機酸塩(例えば、グリシン−HCl、イミダゾール−HCl等)HEPES、およびMOPS等の緩衝能を提供することができる成分、ならびにNaCl、KClおよびCsCl等の中性無機塩を含むものである。これらは、生体適合性・安全性を加味して適宜選択し、組み合わせて用いればよい。また、投与量に制限はないが、一般に、ヒト、ウマ、および、ブタ等の恒温動物の血中カルシウムイオン濃度は2.5-4.0mMの間で変化するので、このカルシウム濃度に応じてE2Pを上記緩衝液に溶解して用いればよい。例えば、E2Pを[0098]記載の緩衝液に溶解し、その濃度を2-20mg/mL、例えば10mg/mLとして用いることができる。
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明する。本発明に関わる原料を提供する水生昆虫は、体長、すなわち、絹糸腺の容積に依存して、これが吐糸して得られるシルク繊維ネットの量は変化する。実施例では、絹糸腺容積が比較的高く、故に、より多量のシルク繊維ネットを回収できるヒゲナガカワトビケラ(S. marmorata)を好適種として用いているが、本発明の機能を提供できる水生昆虫は、本種S. marmorataに限定されるものではない。本発明の機能を提供できる水生昆虫類は、毛翅類、およびその近縁種である双翅目全般を含む。以下の実施例に記載した分析法の原理と測定条件は次の通りであった。
ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE):操作は全て室温下で行った。公知の泳動装置、電源、泳動用緩衝液、濃縮ゲル緩衝液、および分離ゲル緩衝液を用い、ポリアクリルアミド濃度は14-16%とした。ゲルに試料を添加した後、12-14mAの定電流泳動を行った。泳動後のゲルを取り出した後、従来公知のタンパク質染色試薬であるクマシーブリリアントブルー溶液内に2時間ゲルを振盪浸漬し、その後、公知の10%酢酸水溶液を用いてバックグランドの脱染色を行い、蒸留水中でゲルを保存した。
Matrix Assisted Laser Desorption Ionization/Time of Flight(MALDI-TOF)型質量分析:従来公知の装置、操作、および試薬類を用いて実施された。SDS-PAGEのゲル内で分離されたlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のバンドをゲル小片として切出し、公知の手法によりゲル内においてlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を、タンパク質分解酵素トリプシンを用いて消化し、ペプチド断片とした。lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の消化断片をそれぞれ個別にゲル小片から回収した。これらをペプチド断片と略記する。このペプチド断片を公知の溶媒に溶解し、質量分析装置内においてレーザー照射時にペプチド断片のイオン化を助長する試薬(マトリックスという)を適量混合し、装置付属の試料板上に数μL滴下乾燥した。
試料板を分析装置に装填し、検出イオン種(ポーラリティという)、グリッド電圧、およびレーザーパルス時間等は公知の条件とし、ペプチド断片試料の質量スペクトルを得た。この分析においては、ペプチド断片試料内の複数のペプチド種に対応する種々の質量シグナル(m/zという)が検出される。質量スペクトル内の種々のm/zは、ペプチド断片のアミノ酸配列に対応しており、これらの種々のm/zは、本発明者らにより、S. marmorata 5齢幼虫絹糸腺内で遺伝子転写が活発に行われていることを意味するmRNAを原料とする転写遺伝子網羅的解析(トランスクリプトームまたは次世代シーケンシングともいう)により構築したデータベースと照合される。このデータベースは、公知の手法であるS. marmorata 5齢幼虫のトランスクリプトームにより得られた複数の塩基配列データを、公知の手段により、特定の遺伝子の全長もしくは部分的塩基配列を再構築し、さらに、その塩基配列がコードするアミノ酸配列を収録したものである。個々の遺伝子の全長または部分的塩基配列をコンティグという。このデータベース照合により、質量分析スペクトルにおける種々のペプチド断片のm/z、すわなち、SDS-PAGEのタンパク質バンドと、それらに対応するコンティグ=遺伝子塩基配列とそれがコードするアミノ酸配列とが決定される。かくして、SDS-PAGEのタンパク質バンドは、S. marmorata 5齢幼虫のシルクタンパク質遺伝子産物たるlesp-400kDa(Smsp-1)、Smsp-2、Smsp-3、またはlesp-14kDa(Smsp-4)のいずれかとして同定される。
ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography, GPC):公知の送液ポンプ、カラムオーブン、画分自動収集器等を含む装置一式、および、タンパク質溶離検出装置を用いた。検出器としてフォトダイオードアレイモニターを用いることで、カラムから溶離したタンパク質の吸収スペクトル(230-400nm)を得る。この吸収スペクトルは、上記波長間の光吸収源であるタンパク質のフェニルアラニン残基、チロシン残基、およびトリプトファン残基の存在比率に依存して特有の波形を示す。カラムから連続的に溶離する試料の吸収スペクトル波形と、別実験により既知のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のスペクトル波形との同一性を照合することにより、カラムから溶離したタンパク質種、すなわち、試料に含まれるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を同定可能である。カラムとしてShodex KW803を用い、溶離用緩衝液(溶離液または移動相ともいう)は実験の目的により、後述のものを使用した。溶離液の流速は0.5mL/minとした。カラムオーブン温度は40℃とした。
lespic E2Pの製造方法:
S. marmorataの5齢幼虫をガラス製の筒状飼育容器(直径13mm、長さ95mm)に入れて3-5日間流水飼育し、ガラス飼育容器内に吐糸されたシルク繊維ネットを回収し、蒸留水を用いてきれいに洗浄し、メタノールに浸漬した。シルク繊維ネットをメタノールでも洗浄し、その後、減圧乾燥した。試料のメタノール洗浄により、シルク繊維ネットに付着する微生物等を除去できる。なお、回収するシルク繊維ネットに夾雑物が混入しないように、虫飼育中のS. marmorata 5齢幼虫には、一切の給餌をせず、摂食させなかった。
減圧乾燥したS. marmorata 5齢幼虫由来のシルク繊維ネットを、蒸留水中、鋏で切断し、細かな糸状粉末にした後、第1段階では、50mM Tris HCl(pH 8.0)、1% SDS、10mM DTT(ジチオスレイトール)を含む抽出用緩衝液に糸状粉末を浸して温度60℃で30分間のインキュベートの後、遠心上清を採取した。この操作を2回繰り返すことで抽出液を調製した。Smsp-2およびSmsp-3はこの抽出画分に含まれるので、この操作により、シルク繊維ネット粉末からSmsp-2およびSmsp-3を完全に取り除くことができた。温度4℃で8時間程の低温長時間抽出操作を行うと、シルク繊維ネット粉末に含まれるカルシウムイオンがSDSのスルホン酸基と徐々に反応し、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)も一部溶け出す。本発明に関わる有効成分を効率的に取り出すために、第1段階でシルク繊維ネット粉末にlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)とを残し、かつ、Smsp-2、Smsp-3を取り除くための最適な抽出条件は、温度60℃で30分間のインキュベートである。
上記記載の抽出用緩衝液を使ってインキュベートして、遠心上清を採取した後の抽出残渣(第1段階で解け残ったもの)を3回洗浄した。さらに、蒸留水で3回洗浄した。これは次の操作のための試料の前処理である。第2段階では、第1段階の抽出用緩衝液に、カルシウムと結合する5mM EDTAを加えたものを使用した。EDTAはキレート剤のなかでもとりわけ安価であるため本発明機能の大量製造に好適である。そのため、本発明の実施例においては主たるキレート剤としてEDTAを使用したが、本発明で使用されるキレート剤がこのEDTAに限定されるものではなく、後述するような、上記したカルシウムと結合するキレート剤であればよい。第1段階抽出残渣を、第1段階の抽出用緩衝液にEDTA添加した第2段階抽出用緩衝液に浸して温度60℃で30分間のインキュベートした後、遠心上清を採取した。この操作を3回繰り返して抽出液とした。第2段階で得た抽出液を蒸留水に対して3回透析して緩衝液成分、およびキレート剤と結合したカルシウムイオンを全て除いた後、凍結乾燥した。かくして得られた画分がlespic E2Pである。160mgのS. marmorata 5齢幼虫シルク繊維ネットを用いて製造できるlespic E2Pの回収量は、74mgであり、収率は、46%であった。かくして得られたlespic E2Pの規格化リン酸化率は36 ± 3 %であった。
本発明に関わるlespic E2P製造での第2段階における50mM Tris HCl(pH 8.0)という条件は、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を凝集させずに可溶化するために最適なpH値(一般に、水素イオン濃度指数ともいう)である。lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)はいずれもpSerを含むため、pH 6.0等の弱酸性条件ではカルシウムイオンがなくとも、pSerのプロトン化を経てlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)は凝集沈殿した。もしくは、pH 9.0以上の塩基性条件における温度60℃インキュベートは、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)分子からホスホリル基を脱離させ、同時に、pSer残基の一部をデヒドロアラニン残基へと変化させ、後のpSer検出を困難にするだけでなく、本発明が提供する機能、すなわち、カルシウムイオンと反応してlespic E2Pが凝集沈殿するという仕組みにおいて非好適となる。かくして、lespic E2P製造におけるpH条件は、通常、pH 6.0を超え、pH 9.0未満であり、最適なpH条件は、pH 8.0であることが見出された。かくして、pSerのプロトン化を経てlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を凝集沈殿させずに可溶化するpH、また、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)分子からホスホリル基を脱離させることなく、pSer残基の一部をデヒドロアラニン残基へと変化させず、後のpSer検出を容易にするpHを、例えば6.0を超え、9.0未満であるpHとすれば、カルシウムイオンと反応して凝集沈殿する作用を有する規格化リン酸化率が36 ± 3 %であるlespic E2Pが得られた。
実施例1における第1段階と同じ抽出用緩衝液に9Mの尿素を添加し、この緩衝液を用い、温度:37、40、50、60、65℃で、時間:25、30、50、60、70分間でインキュベートし、また、実施例1における第2段階と同じ抽出用緩衝液を用い、温度および時間を上記と同様な条にしてインキュベートした。また、第2段階と同じ抽出用緩衝液を用いて、同様な条件条件でインキュベートした。
その結果、温度:40-60℃、時間:30-60分間で所望とする目的物(規格化リン酸化率が36 ± 3 %であるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなるlespic E2P)が得られることが確認できたが、温度が40℃未満であり、また、60℃を超えると、そして時間が30分未満であり、また、60分を超えると、上記したように、目的物を得ることはでき難くなる傾向があった。
lespic E2Pの収率を向上させる技術:
lespic E2Pの収率を向上させるための次のような技術的な工夫を凝らした。収率を上げるための必須成分は、5-9Mの尿素または7-10Mの臭化リチウムの添加が効果的であった。しかし、こうした条件下での処理であっても、収率は最大50%程度までしか上昇しなかった。これは、S. marmorata 5周齢幼虫の生理状態が、蛹への変態準備に入る時に、lespic E2Pとして可溶化される有効成分であるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の性質を変化させ、第2段階の抽出に用いる液体へと溶けにくくなるためである。本発明者らが実施した基礎的な研究結果によると、この現象には、ある酸化酵素活性上昇が関与することが分かっている。従って、lespic E2P収率向上のための好適手段は、この酵素活性が上昇するに先だって、S. marmorata 5周齢幼虫を捕集後、実験室飼育によりシルク繊維ネットを回収することである。このシルク繊維ネットを処理する際に、本発明の製造方法に従って5-9 M 尿素や 7-10 M 臭化リチウムを用いた場合には、収率が50%以上に向上し、製造効率はより良好、かつ、より安定となった。S. marmorata 5周齢幼虫シルク繊維ネットを含め、天然由来の原料はえてしてそのロットにより製造効率は不安定であるのが通常であるが、上記の成分をこのような範囲で添加し、本発明記載の製造法を用いることで、血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの収率は50%以上に向上するだけでなく、繰り返し操作することによっても結果が再現され、40%以下に低下することはなかった。これにより、lespic E2Pの収率を、50%から、さらに増加させることが可能である。酸化酵素活性の上昇に関しては、S. marmorata 以外の水生昆虫も同様であり、その測定法は従来公知の方法であればよい。本実施例のような濃度の尿素や臭化リチウムを添加した場合に得られたlespic E2Pは規格化リン酸化率36 ± 3 %を有していた。なお、上記したように尿素や臭化リチウムを添加しなければ、キレート剤が効果的な量共存していても、E2P収率は、10%以下まで低下し、酷いときには、実験室飼育で得られたシルク繊維ネットから、目的とするE2Pの収率は全くと言っていいほど回収できないこともある。
実施例3記載の操作を繰り返した。この場合、lespic E2Pの収率向上のための副成分として 0-9 M の尿素、0-10 M 臭化リチウムを添加して行った。その結果、5-9 M 尿素、および、7-10 M 臭化リチウムの場合、収率は 50-60 % 程度であった。しかし、2-4 M 尿素、および、4-6 M 臭化リチウムの場合には、収率は35 %であり、0-2 M 尿素、および、0-3 M 臭化リチウムの場合収率は 5-10 %であった。従って、5-9 M 尿素、および、7-10 M 臭化リチウムの場合に収率は向上したが、その範囲を外れると、収率は減少する傾向がみられた。
lespic E2P含有のタンパク質成分lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の検証(1):SDS-PAGEによる同定:
SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)法によりlespic E2Pのタンパク質成分を分析した。SDS-PAGEは公知の手法で分析できるが、アクリルアミドの最適濃度は14-16%であり、特にSmsp-4のバンドが明瞭に観察できる最適条件を試行錯誤で探索したところ解明されたものである。電気泳動後のゲルを公知の手法たるクマシーブリリアントブルーを用いて染色を行った結果、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の既知分子量に相当するタンパク質のバンド2本のみが観察された(図1)。これらのバンドのそれぞれに対応するタンパク質種、すなわち、本発明に関わる有効成分であるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の更なる同定のため、質量分析を行い、その結果を実施例6に示す。
lespic E2P含有のタンパク質成分lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の検証(2):質量分析による同定:
実施例5記載の2本のバンドを従来公知の方法による質量分析を行った。すなわち、ゲル内で酵素トリプシンを用いて消化する方法を採用した。lesp-400kDa(Smsp-1)バンド、およびlesp-14kDa(Smsp-4)バンドのゲル小片から、それぞれ、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のトリプシン消化断片を回収した。それぞれのタンパク質断片を試料とし、既知の手法たるMatrix Assisted Laser Desorption Ionization/Time of Flight(MALDI-TOF)型の質量スペクトルを得た。イオン化のためのマトリックスとして公知のα−シアノ桂皮酸を用いた。この分析結果と、本発明者らが次世代シーケンシング手法を用いた幼虫絹糸腺トランスクリプトーム網羅的解析結果により構築した再構成済コンティグデータベースに収録されているタンパク質断片アミノ酸配列データを互いに照合した結果、実施例3における高分子量側のバンドがlesp-400kDa(Smsp-1)であり、低分子量側のバンドがlesp-14kDa(Smsp-4)であると同定した。lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のアミノ酸組成は以下の表2(朝倉哲朗編, Biotechnology of Silk;p. 115, Table 6.1, 2013参照)記載の組成と一致した。かくして、本発明で得られたlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のアミノ酸組成は、表2の通りであった。しかし、この表2記載の抽出方法と本発明の製造方法とは異なるが、得られるタンパク質は同じである。ただし、この文献記載の抽出方法で得られる抽出物(=タンパク質組成物)を溶液にしようとすると、組織毒性のある変性剤を使用しなければならず、結果として「液体塞栓材料」として利用することはできない。
本発明のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)は、lespic E2P の組成物であるのに対し、以下の朝倉編の文献記載の Smsp-1およびSmsp-4は、単に、絹糸腺抽出物に含まれるタンパク質成分である。後者は、上記したように、lespic E2Pの成分として用いることはできない。タンパク質としての実体はほぼ等しいが、後者の場合、規格化リン酸化率が不明であること、および、体液と等張の緩衝液に溶解しないという二つの理由により、液体塞栓物質としての利用は不可能です。lesp-400kDa(Smsp-1)の部分アミノ酸配列は文献(Long-range periodic sequence of the cement/silk protein of Stenopsyche marmorata: purification and biochemical characterization, Kousaku Ohkawa, Yumi Miura, Takaomi Nomura, Ryoichi Arai, Koji Abe, Masuhiro Tsukada, Kimio Hirabayashi, Volume 29, Issue 4, 2013, pages 357-367)に記載されており、また、公開データベース (UniProt) にも登載されているため、誰でもこの情報にアクセスできる。
Figure 0006047689
以下の表3には、各タンパク質lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のシークエンスが記載されている。この表3の情報に加え、文献[lesp-400kDa(Smsp-1)の部分アミノ酸配列については、Long-range periodic sequence of the cement/silk protein of Stenopsyche marmorata: purification and biochemical characterization, Kousaku Ohkawa, Yumi Miura, Takaomi Nomura, Ryoichi Arai, Koji Abe, Masuhiro Tsukada, Kimio Hirabayashi, Volume 29, Issue 4, 2013, pages 357-367およびSmsp-4 の全長アミノ酸配列については、Molecular cloning, gene expression analysis, and recombinant protein expression of novel silk proteins from larvae of a retreat-maker caddisfly, Stenopsyche marmorata, Xue Bai, Mayo Sakaguchi, Yuko Yamaguchi, Shiori Ishihara, Masuhiro Tsukada, Kimio Hirabayashi, Kousaku Ohkawa, Takaomi Nomura, Ryoichi Arai, Biochemical and Biophysical Research Communications, Volume 464, Issue 3, 2015, Pages 814-819]の情報を追記することで、本願明細書を見るだけで、当業者はより詳細なアミノ酸配列を入手することができるようになる。未知のタンパク質が、既知のどのタンパク質に相当するか、という定義は、一般に、ホモロジーとか E値を指標にして判断される。このとき、アミノ酸組成だけでは不完全である。ホモロジーやE値といった指標は、常用既知のものであり、当業者はデータベースを利用して簡単に得ることができる。このとき、可能であれば、既知全長アミノ酸配列、もしも、全長アミノ酸配列が入手不能、またはlesp-400kDa(Smsp-1)のように遺伝子サイズ(タンパク質分子量)が巨大すぎて分析困難という場合には、部分アミノ酸配列が用いられる。これらをリファレンスシーケンス (参照用アミノ酸配列) と一般に言う。未知タンパク質のアミノ酸配列は、多くの場合、対応する遺伝子の塩基配列からデコードされたものが用いられる。未知タンパク質に対し、データベース上のリファレンスシーケンスを参照する操作はインターネット上で簡単に行う事ができ、この操作によりホモロジーおよびE値が算出される。もしも、当業者がヒゲナガカワトビケラ以外の水生昆虫からE2P相当の画分を取得し、その成分タンパク質を分離、遺伝子を獲得すれば、上記の公知常用の操作により、lesp-400kDa(Smsp-1)またはlesp-14kDa(Smsp-4)をレファレンスシーケンスとして、当業者の獲得したタンパク質がlesp-400kDa(Smsp-1)またはlesp-14kDa(Smsp-4)に対するホモロジーおよびE値を得ることができ、これにより、タンパク質種の同定が可能である。現時点では、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のアミノ酸配列はUniProtデータベース上に登載されているので、もちろん、リファレンスシーケンスとして利用することが可能である。これは第三者が誰でも実施することができる。
ここで、もしも、当業者取得のタンパク質とlespic E2P成分たるlesp-400kDa(Smsp-1) あるいはlesp-14kDa(Smsp-4)との間の同一性に関する指標、すなわち、ホモロジーおよびE値が高く、タンパク質分子として、相同もしくは同一である、と見なせる場合であっても、これは、血液塞栓性液体物質であることの必要条件であって、十分条件ではない。例示すると、S. marmorataの場合、Smsp-1と単に呼ばれるタンパク質が、液体塞栓性を獲得する規格化リン酸化率を持つに至ることが、十分条件であることは既に記載した。Smsp-4については、本発明者らが既にその全長遺伝子を獲得し、さらに、その大量発現方法も公知とした([0077]記載の文献参照)。ここでいう大量発現方法とは、公知のベクターと呼ばれる組み替え遺伝子運搬体に、Smsp-4遺伝子を挿入し、これを宿主と呼ばれる微生物に挿入し、宿主のタンパク質生合成機構を利用してSmsp-4を多量に作らせ、これを回収する手法である。大量発現方法は公知であり、主に分子生物学基礎研究において常用される。大量発現方法により得られるSmsp-4は、しかしながら、血液塞栓性液体物質lespic E2Pの成分として用いることは不可能である。
その理由は、大量発現方法により得られるSmsp-4の規格化リン酸化率が0 mol%、すなわち、pSerを全く含まないからである。一般に、pSerというアミノ酸に対応する遺伝子暗号(トリプレットコドンともいう)は存在しない。pSerは、Smsp-4遺伝子転写産物たるmRNAにおいてコードされるSerが、細胞内リボゾーム上でSmsp-4として翻訳されたのち、キナーゼ等酵素の作用により、Smsp-4一次構造のSer残基がリン酸化を受けて pSerに変わる。この仕組みは、Smsp-1においても当てはまる。かような仕組みは、一般に「翻訳後修飾」と呼ばれ、多数の生化学・分子生物学教科書に記載される普遍的な知識である。
ここで、重要な点を説明する。Smsp-1またはSmsp-4に対する遺伝子塩基配列またはタンパク質アミノ酸配列(一次構造)の相同性または同一性が高い、異種水生昆虫由来のタンパク質があっても、それは、lespic活性、すなわち、血液塞栓作用をもつための十分条件にはならない、とは、上記の翻訳後修飾とその度合いが保証されないという理由による。すなわち、本願発明におけるlespic E2Pの場合、まさその固有成分である Smsp-1およびSmsp-4が、翻訳後修飾を受けることにより、lespic活性を保証するに足りるpSer含量を持つに至り、結果として規格化リン酸化率で示されるpSer特定割合 (mol%) により特徴づけられて初めて十分条件となるからである。相同性または同一性で示される指標は、あくまで、翻訳後修飾に関する情報を欠く、データベース上の情報たる遺伝子塩基配列およびタンパク質アミノ酸配列に基づくものである。換言すれば、データベー上のSmsp-1およびSmsp-4は、単にタンパク質の呼び名であり、lespic E2Pの固有成分たるlesp-400kDa (Smsp-1)およびlesp-14kDa (Smsp-4)と、データベース上のタンパク質呼称に過ぎない規格化リン酸化率 = 0 mol%のSmsp-1およびSmsp-4とは、本発明者は明確に区別している。本願発明において、前者は発明特定事項に相当するが、これに対し、後者は公知である。
したがって、当業者が S. marmorata 以外の類縁水生昆虫から lespic E2P を取得したと主張しても、上記データベース情報にもとづき Smsp-1 もしくは Smsp-4 に対する相同性・同一性を示すことのみでは、主張の必要条件に過ぎず、これに加え、公知の手段であるホスホアミノ酸分析に基づき、規格化リン酸化率をもとめ、それが lespic E2P 相当の pSer 含量を持つこと、かつ、これに基づき、血液塞栓性効果の有無について [Ca2+] / [pSer] などの相対値からこれを精査し、さらに、実施例で示す動物実験を行って初めて、当業者の主張はその妥当性を持つ、すなわち、血液塞栓性 lespic 活性の十分条件を提示するに至る。
本発明における lespic E2P およびその固有成分である lesp-400kDa (Smsp-1) およびlesp-14kDa (Smsp-4) に対する相同性・同一性とは、それらの遺伝子またはアミノ酸配列情報、すなわち、レファレンスシーケンスに対するホモロジーおよびE値に基づく指標だけでは、必要条件に過ぎず、pSer 含量または規格化リン酸化率という、翻訳後修飾に基づく指標を併せて提示することにより、初めて十分条件たりえるのである。他方で、当業者は、十分条件を示すための一連の作業を、既知手段、および、本願発明者らが公知とした手法を併用することで、過度の努力なく実施することができる。
本願発明らは、次の手段により、lesp-400kDa(Smsp-1)がSmsp-1を母体とし、かつ、lesp-14kDa(Smsp-4)がSmsp-4を母体とした翻訳後修飾体であることを実証した。すなわち、lesp-14kDa(Smsp-4)のトリプシン消化産物に含まれる3種のフラグメントは、S. marmorata絹糸腺mRNAを用いて本発明者らが作成したcDNAライブラリからスクリーニングされたlesp-14kDa(Smsp-4)遺伝子塩基配列がコードするアミノ酸配列と、分析信頼度99%以上の精度で一致した。この結果からもlespic E2Pに含まれる低分子量バンドがSmsp-4を原料とし、これがリン酸化を受けて生じる lesp-14kDa (Smsp-4)であることが証明された。
表3に、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の質量分析データを示す。表3の左端のカラムであるConfidence(%)は、質量分析により検出されたペプチド断片が、それぞれのタンパク質に帰属される信頼度である。lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)はともに、Confidence 95%以上のペプチド断片が少なくとも一つ見つかっているので、このデータが証拠となり、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の母体分子が、それぞれ、Smsp-1およびSmsp-4であると同定できたと結論することができる。
Figure 0006047689
表中のSmsp-1およびSmsp-4は、それぞれ、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を意味する。
上記を含め本発明におけるlesp-400kDa(Smsp-1) およびlesp-14kDa(Smsp-4)のアミノ酸配列は、本願明細書に添付するアミノ酸配列表に示す。このlesp-14kDa(Smsp-4)のアミノ酸配列は、Biochemical and Biophysical Research Communications 464(2015)814-819に記載の方法に基づいて測定された。一般に、タンパク質のアミノ酸配列を決定する手法には「生化学的分析」および「分子生物学的分析」の2種がある。「生化学的分析」では、粗抽出液から目的のタンパク質を精製し、その後、アミノ酸配列分析機器(プロテインシーケンサともいう)を用いてN-末端から1残基づつ逐次的にアミノ酸配列を決定する分析法である。「分子生物学的分析」では、最初に、目的タンパク質の N-末端配列10数残基を予め決定し、次いで、それらの配列をコードする塩基配列を持つDNA断片を合成、その後、これをプローブとして用い、cDNA ライブラリの中から、目的タンパク質をコードするDNAクローンをスクリーニングする。スクリーニングにより取り出したcDNAの塩基配列を決定し、その塩基配列をもとにアミノ酸配列にデコードする。以上の2手法は既に確立され、基礎研究において常用される公知のものである。「分子生物学的分析」は、あるタンパク質の遺伝子とそれがコードするアミノ酸配列を求めるために有用な手段ではあるが、これが適用できる遺伝子のサイズ、すなわち、目的タンパク質の分子量には限度があり、一般に、数kDaから200 kDa 程度の分子量を持つタンパク質を調べるために用いられる。タンパク質分子量が200 kDa以上の巨大なものとなると、「分子生物学的分析」では全アミノ酸配列を求めることは困難となり、部分分割されたcDNA断片に対する調査結果をつなぎ合わせることが必要となる。しかし、つなぎ合わせる箇所を特定する手法は、確率統計数学に基礎原理をおくことになり、したがって、科学的妥当性を保持するのは容易でない。Smsp-1の分子量は400kDaであり、本願出願時点ではこの全長遺伝子を取得する手段はないが、Smsp-1を特徴づける約490残基のアミノ酸配列が得られており、これは公開データベースにも登載されているため、誰でも入手可能な情報である。
lespic E2P含有のタンパク質成分lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の検証(3):ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法に基づくlesp-400kDa(Smsp-1)/lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比:
lespic E2P(規格化リン酸化率36 ± 3 %)15mgを以下の緩衝液に溶解し、これを試料とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によりlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)とをそれぞれ単離・回収した。ここでいう「緩衝液」の組成とは、50mM リン酸カリウム(pH 8.0)、0.15M 塩化カリウム、9.0M 尿素、5mM EDTA、0.5mM DTTであり、リン酸イオンとEDTAがカルシウムイオンとpSerとの相互作用を、塩化カリウムが静電相互作用を、また、尿素が水素結合相互作用を抑制するという、タンパク質分子間に働く相互作用全てを消去できる諸成分を含むため、かくして、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の分離が可能となる。GPC法は既知の手法であるが、lesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との良好な分離のため、本発明者らは、カラムとしてShodex KW803(内径8mm、カラム長30cm)、操作流速0.5mL/min、さらに、カラムオーブン温度40℃を使用した。この条件が最適条件であった。上記では、lesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)とをそれぞれ単離するために、あえてリン酸緩衝液を移動層として用いたが、lesp-400kDa(Smsp-1)、lesp-14kDa(Smsp-4)を血液凝固剤として用いるときにはリン酸緩衝液は使用できない。
タンパク質の溶離過程をフォトダイオードアレイ型のオンライン検出器を用いて検討した。すなわち、lesp-400kDa(Smsp-1)に含まれるチロシン残基に基づく吸収スペクトル上の特徴(230-400nm)、および、lesp-14kDa(Smsp-4)に含まれるトリプトファン残基およびチロシン残基共存時のスペクトル上の特徴をもとに、2種のタンパク質を判別した。その結果、lesp-400kDa(Smsp-1)は保持時間12-14minに、また、lesp-14kDa(Smsp-4)は保持時間18-20minに溶離し分離に成功した。それぞれのタンパク質溶液を回収後、透析および凍結乾燥を経て、固体状のlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)を製造した。公知の電子天秤を用いてlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)固体の、それぞれの重量を測定し、これらの重量比を調べた結果、Smsp-1の重量比の方がはるかに高く、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)は、ほぼ9:1であった。そのため、lespic E2Pの構造は、lesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)とがほぼ9:1からなる組成物(混合物)であることが確かめられた。この組成物が血液凝固剤として有用であった。上記分離操作には手間とコストが掛かるが、分離したものを血液凝固剤として用いることはできる。
上記したlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の分子量(それぞれ、400kDaおよび14kDa)と、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の重量比(9:1)とから、既知の方法により両者のモル比を計算したところ、24:76であった。タンパク質組成物の場合は、モル比で表記することは当業者が殆ど行わないことであり、むしろ産業上の利用性を考慮すれば、重量比で表記する方が常識的であると思われるが、念のためにモル比を計算した。
アミノ酸分析用lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の精製:
実施例7に記載したGPC法における操作条件を用いてlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を分離し、それぞれを固体として回収した。その後、lesp-14kDa(Smsp-4)固体を、溶離用緩衝液1(溶離用緩衝液1の組成:20mM Tris HCl(pH 8.0)、9.0M 尿素、2mM 塩化カルシウム二水和物、および、0.5mM DTTを含む。)に溶解し、溶離用緩衝液1を用いて平衡化したカラムに注入した。この時の操作流速およびカラムオーブン温度は実施例7と同様である。この溶離用緩衝液2mMは塩化カルシウム二水和物を含むため、凝集したlesp-14kDa(Smsp-4)の保持時間15-16 minとなった。SDS-PAGEによる分析の結果、保持時15-16 minの画分には、14 kDaのポリペプチドのみが存在することが判明した。かくして、カルシウムイオンに応答して凝集するタンパク質として Smsp-4が精製された。この結果は、Smsp-4がpSerを含むことを強く示唆するものであるが、pSerを対象とした分析ではなく、従って直接的な証拠にならない。このことに加え、精製されたlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)に含まれるセリン(Ser)残基のうち、どれくらいの割合がpSerに変化すると「血液塞栓」効果が発揮されるのかという検証が必要である。この目的のため、ホスホアミノ酸分析により、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)におけるpSer 含量を実証した。
ホスホアミノ酸分析によるpSer含量の定量:
実施例8において回収したlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を試料とし、文献(Long-range periodic sequence of the cement/silk protein of Stenopsyche marmorata: purification and biochemical characterization, Kousaku Ohkawa, Yumi Miura, Takaomi Nomura, Ryoichi Arai, Koji Abe, Masuhiro Tsukada, Kimio Hirabayashi, Volume 29, Issue 4, 2013, pages 357-367)に記載の手法に従い、減圧溶封したガラスアンプル内で5.7 M HCl中、105℃、2時間加水分解処理を行い、その後、ガラスアンプルを開管し減圧乾固した。上記文献記載の分析装置・分析操作を行い、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の試料重量あたりに含まれるpSerのモル百分率を求めた。なお、上記文献には、Stenopsyche marmorata幼虫絹糸腺から精製されたlesp-400kDa(Smsp-1)がpSerを含むことを示すためのホスホアミノ酸分析手法が記載されているが、定性分析結果のみが示されているのみであり、本発明における「血液塞栓」効果を立証するための、pSer定量結果は一切記載されていない。
lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)加水分解物を試料とし、各4回以上ホスホアミノ酸分析操作を行った。その結果、lesp-400kDa(Smsp-1)のpSer含量は75 ± 1 nano mol/mgとなった。ここで、nanoは10のマイナス9乗を示し、/mgは加水分解した試料重量あたりを意味する。lesp-14kDa(Smsp-4)ではpSer含量は6.1 ± 0.4 nano mol/mgであった。lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の分子量は、それぞれ、400 kDaおよび14 kDaであり、pSerの元となるSer残基に対する割合も異なる。ここでいう「割合」とは、タンパク質が含む全アミノ酸に対すSer残基の百分率を意味する。したがって、試料重量あたりのpSer含量は、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)個別のpSer含量としての特徴を示すものであるため、「血液塞栓」効果の起源となる指標としては、Smsp-1およびSmsp-4それぞれSer残基全量に対するホスホリル化(リン酸化ともいう)割合を示す値の方がより好ましい。その理由は、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)個別のホスホリル化割合が対応するタンパク質のSer残基含量に対して規格化されているからである。この値を「規格化リン酸化率」と定義する。規格化リン酸化率を求めるためには、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)それぞれのSer残基含量を定量する必要がある。この定量法は、ホスホアミノ酸分析に対して、通常アミノ酸分析と呼ばれる公知の手段である。
通常アミノ酸分析によるSer残基含量の定量:
実施例8において回収したlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を試料とし、上記文献記載の手法に従い、減圧溶封したガラスアンプル内で5.7 M HCl中、105℃、24時間加水分解処理を行い、その後、ガラスアンプルを開管し減圧乾固した。ホスホアミノ酸分析では加水分解処理時間を2時間とした。通常アミノ酸分析では公知常用されるのは24時間であるが、上記処理によりpSer全量がSer残基へと変化した。なお、通常アミノ酸分析自体は公知の手法であり、タンパク質試料のアミノ酸組成 (アミノ酸配列ではないことに留意) を求める実験に常用される。lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)加水分解物を試料とし、各4回以上通常アミノ酸分析操作を行った。その結果、Smsp-1のSer残基含量は205 ± 15 nano mol/mgとなった。この値は、1 mgのlesp-400kDa(Smsp-1)が平均205 ± 15 nano molのSer残基を含むということを意味する。lesp-14kDa(Smsp-4)ではSer残基含量は22 ± 0.1 nano mol/mgであった。
lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率と血液塞栓効果との関係:
通常アミノ酸分析から求まるSer残基含量を分母、かつ、ホスホアミノ酸分析から求まるpSer含量を分子とする百分率が規格化リン酸化率となる。lesp-400kDa(Smsp-1)の場合は、100 x ((75 ± 1 nano mol/mg)/(205 ± 15 nano mol/mg)=37 ± 3 %であり、同様な計算をlesp-14kDa(Smsp-4)について行うと、100 x (6.1 ± 0.4 nano mol/m)/22 ± 0.1 nano mol/mg)=28 ± 2となる。これらの値は、本発明において製造したlespic E2Pが「血液塞栓性」を発揮するのに必要な特徴を示すものである。本発明において製造したlespic E2Pは、後述の実施例に示すように、動物実験において血液塞栓性をもつことが実証されているため、これ以降、血液塞栓性E2Pと表記する。
本発明者らが実施した公知ではない先行研究によると、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を含む血液塞栓性E2P濃度5 mg/mL溶液はカルシウムイオン濃度0.2 mM(200 nano mol Ca2+/mL) の条件では、目視上、直ちには凝集・沈殿形成をしない。実施例7において示したように、血液塞栓性E2Pはlesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)重量比 (質量比と同義) = 9 : 1の組成物である。従って、組成物としての血液塞栓性E2Pの規格化リン酸化率は、次式により求まる((9 x (37 ± 3 %))+ (1 x (28 ± 2 %))/10 = 36 ± 3 %。また、組成物としての血液塞栓性E2PのpSer含量は、次式により求まる((9 x (75 ± 1 nano mol/mg)) + (1 x (6.1 ± 0.4 nano mol/mg)))/10 = 68 ± 1 nano mol/mg。
この組成物としての血液塞栓性E2PのpSer含量値を、血液塞栓性E2P濃度5 mg /mL条件に対して適用すると、pSer濃度([pSer res]と表記する)は、[pSer res] = 5 mg/mL x 68 ± 1 nano mol/mg = 340 nano mol/mLとなり、濃度0.2 mMの塩化カルシウム二水和物溶液のカルシウムイオン濃度([Ca2+]と表記する)は[Ca2+] = 200 nano mol/mLとなる。したがって、上記の「血液塞栓性E2P濃度5mg/mL溶液は、カルシウムイオン濃度0.2 mM(200 nano mol/mL)の条件では、目視上、直ちには凝集・沈殿形成をしない。」という事実は、[Ca2+]/[pSer res] = 0.59(有効数字2桁)を考慮すると、pSer がCa2+に対して過剰であることが原因であると結論可能である。さらに、血液塞栓性E2P濃度5 mg/mL条件に対して、[Ca2+] = 2.0 mM、すなわち、[Ca2+] = 2000 nano mol/mL を適用すると、[Ca2+] / [pSer res] = 5.9となり、Ca2+はpSerに対し5.9倍過剰であるということに対応する。さらに、この[Ca2+] = 2.0 mMという条件は、人体の血中カルシウム濃度の範囲下限近くに対応するので、血液塞栓性E2Pがその効果を発揮するための条件が成立している。
健康な人体の血中カルシウム濃度が[Ca2+] = 0.2 mMとなることは事実上あり得ない。また、[Ca2+] = 2.0 mMという条件は、人体の血中カルシウム濃度範囲の下限近くに対応するということを併せて考慮すると、本発明記載の製造方法を経て得られる血液塞栓性E2Pの規格化リン酸化率およびpSer含量値は、その効果を保証するものであることが立証される。例示すると、血液塞栓性E2PのpSer含量値が、もしも、仮に205 ± 15 nano mol/mgであったとする。これは、血液塞栓性E2Pに含まれる全てのSer残基がpSer となっている状態、すなわち、規格化リン酸化率100%に対応する。この条件に、血液塞栓性E2P濃度5 mg/mL、かつ、[Ca2+] = 2.0 mM = 2000 nano mol/mLを適用すると、[Ca2+]/[pSer res] = 2.0となり、この条件でもCa2+はpSerに対し2倍過剰であるので、凝集・沈殿形成は起こり得る。すわなち、血液塞栓性E2Pはその効果を発揮する。
血液塞栓性 E2Pの脱リン酸化処理による効能低下:
本発明記載の製造方法を経て得られる血液塞栓性E2P(規格化リン酸化率36 ± 3 %) を公知の緩衝液系に濃度5 mg/mLで溶解した。ここに、市販の脱リン酸化酵素(フォスファターゼなど)を数マイクログラム添加した。なお、上記の「公知の緩衝液系」とは、無機リン酸塩成分を含まず、かつ、脱リン酸化酵素を失活する成分を含まないことが条件である。脱リン酸化酵素は、血液塞栓性E2Pが含むpSerを脱リン酸し、Ser残基に変える働きをする。かような処理により、血液塞栓性E2Pの規格化リン酸化率は低下する。脱リン酸化反応条件を例示すると、血液塞栓性E2P濃度5 mg/mL、公知の緩衝液系として10 mMトリス緩衝液(pH 8.0)、脱リン酸化酵素として市販プロテインフォスファターゼ濃度10 マイクログラム/mL として、37℃で8時間インキュベートする。その後、上記の酵素反応混合物に塩化カルシウム二水和物水溶液を添加し[Ca2+] = 2.0 mM としても、E2Pの凝集・沈殿形成は直ちには起こらなかった。これは、脱リン酸化処理により、血液塞栓性E2Pの効能が低下し、マイクロカテーテル術式のための血液塞栓材料たる条件のひとつ「血流への注入時に瞬時に凝集・沈殿形成する」を満たさなくなったことを意味している。
上記の脱リン酸化処理済みE2Pを試料としてpSer含量の定量および規格化リン酸化率を概算した。なお、ここでいう「脱リン酸化処理済みE2P」とは、もともとの血液塞栓性E2Pが、脱リン酸化処理により、血液塞栓効果が好適なものではなくなったため、かような記載とした。また「pSer含量および規格化リン酸化率を準定量した」とは、脱リン酸化処理における酵素反応混合物を加水分解用の試料としたため、添加した酵素の質量分画(E2P 5 mg/mL)に対し脱リン酸化酵素10 マイクログラム /mL、すなわち、百分率で0.2%だけ、通常アミノ酸分析およびホスホアミノ酸分析における分析値が不確定となるためである。この不確定さは、分析値全体の0.2 % = 0.002倍に過ぎないので、有効数字桁数範囲外となり事実上無視することが可能である。
脱リン酸化処理済みE2Pを試料としてpSer含量定量および規格化リン酸化率を概算の結果、上記に例示した脱リン酸化処理条件では、規格化リン酸化率は8.1 ± 0.7%およびpSer含量は15.3 ± 0.6 nano mol/mgまで低下していることが明らかになった。これらの数値を、E2P濃度5 mg/mLかつ[Ca2+] = 2.0 mM、すなわち、[Ca2+] = 2000 nano mol/mLに適用すると、[Ca2+]/[pSer res] = 49.4となり、[Ca2+]が[pSer res]に対し、49.4倍過剰であっても、瞬時の凝集・沈殿形成は生じないという結論となる。従って、血液塞栓性E2Pがその効果を発揮できる必要条件としては、[Ca2+]/[pSer res] = 1.0 以上、すなわち、pSerに対し、Ca2+が過剰な状態となっていることが挙げられる。これは、人体の血中カルシウム濃度下限に近い状態に対するpSer含量の除とする相対量である。
他方で、血液塞栓性E2Pがその効果を発揮できる十分条件は、上記[Ca2+]/[pSer res] ではなく、血液塞栓性E2PのpSer含量(相対量でなく絶対量)、または、規格化リン酸化率であると結論することができる。本願明細書記載の製造法では、血液塞栓性E2P(規格化リン酸化率36 ± 3 %)を得ることができ、また、実施例11記載の事実に基づき、血液塞栓性E2Pはそれ以上の規格化リン酸化率を持っていても、血中カルシウム濃度下限値付近である[Ca2+] = 2.0 mM条件でも、血液塞栓効果を発揮する。他方で、実施例12記載において例示した脱リン酸化処理後、規格化リン酸化率8.1 ± 0.7%(pSer含量15.3 ± 0.6 nano mol/mg)では効能が失われる。血液塞栓性E2Pが効能を失うpSer含量の閾値は、15.3 ± 0.6 nano mol/mg(規格化リン酸化率 8.1 ± 0.7%)から68 ± 1 nano mol/mg(規格化リン酸化率 36 ± 3 %)の間に存在する。
上記の血液塞栓性E2Pが効能を失うpSer含量の閾値は、例えば、実施例12に例示の実験における脱リン酸化処理のインキュベート時間を8時間未満となるよう段階的に変化させ、[Ca2+] = 2.0 mM低下時に瞬時の凝集・沈殿形成が見られなくなるときのpSer 含量を求めることで、決定することが可能である。しかし、実際の血液は、無機リン酸塩を含み、これが血液塞栓性E2Pの効果を阻害する方向にも働くため、実験的に決定したpSer含量の閾値をやや上回るE2Pを仮に製造できたとしても、これが動物実験において、予想に反し瞬時の凝集・沈殿形成を引き起こさないという可能性があるということも否定はできない。従って、現時点では、後述の動物実験において血液塞栓性を示した本願明細書記載の製造法により得られる血液塞栓性E2P(規格化リン酸化率 36 ± 3%)が、その効能を保証するpSer含量を有すると結論することしかできず、また、そのようにすべきである。なぜなら、本願明細書記載の製造法は、血液塞栓性E2Pの効能を保証し、その効能がpSer含量に依存することは自明であり、この値を低下させるような処理を発明するという行為は、創造的な意味合いを全く持たないからである。
lespic E2P含有のタンパク質成分lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)間の凝集作用の検証(1):ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による実証:
本実証実験、すなわち、GPC法による実証においては、公知の緩衝液を使用する代わりに、最適な溶離用緩衝液として、本発明に関わる新規組成を持つ溶離用緩衝液1を見出した。溶離用緩衝液1の組成は、20mM Tris HCl(pH 8.0)、9.0M 尿素、2mM 塩化カルシウム二水和物、および、0.5mM DTTを含む。この溶離用緩衝液1を用いて検証することにした。溶離用緩衝液1に含まれる2mM 塩化カルシウム二水和物はpSerを所定mol%含むlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)とを凝集させる。ただし、凝集沈殿をすると、溶液状態が必須条件であるGPCでの分析が実施不能となるため、lesp-400kDa(Smsp-1)、lesp-14kDa(Smsp-4)凝集体の沈殿を抑制するため、緩衝液系に9.0M 尿素を添加した。以上が、当該緩衝液成分の効用である。この溶離用緩衝液1にlespic E2P 15mgを溶解し、[0066]記載の好適条件においてGPC操作を実施した。SDS-PAGE法により保持時間毎のタンパク質組成を調べた結果、lesp-14kDa(Smsp-4)の保持時間は15-16minとなった。2mM 塩化カルシウム二水和物非存在下での実施例7では、lesp-14kDa(Smsp-4)の保持時間は18-20minであったので、以上の結果は、lesp-14kDa(Smsp-4)の分子サイズが2mM 塩化カルシウム二水和物存在下で上昇したことを意味する。すなわち、カルシウムイオンを介したlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との凝集が誘起されたことが本実施例13において実証された。本実施例で使用したlespic E2Pは、上記したようにして製造した規格化リン酸化率36 ± 3%を有するものであった。なおpSer を規格化リン酸化率で 8.1 ± 0.7 mol% 含む実施例12の「脱リン酸化処理済みE2P」について、実施例13に記載の操作を実施し、カルシウムイオンを介したlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との凝集が誘起されたかを検討した。その結果、脱リン酸化処理済みE2Pでは、凝集が誘起されておらず、Smsp-4の保持時間は18-20minであった。この結果は、規格化リン酸化率を低下させる処理を施した「脱リン酸化処理済みE2P」では、pSer含量の絶対値が足らないために、カルシウムイオン存在化でも凝集することができないことを示している。
lespic E2P含有のタンパク質成分lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)間の凝集作用の検証(2):沈殿形成の目視による実証:
lespic E2P(規格化リン酸化率 36 ± 3%)2mgを、例えば、150mM NaClおよび20mM Tris HCl(pH 8.0)を含む緩衝液0.5mLに溶解した。この例の緩衝液に含まれる、いわゆる「緩衝能」を提供する成分、および中性無機塩は、カルシウムイオンとpSerとの間の相互作用を阻害し、故に、カルシウムイオン添加時のlesp-400kDa(Smsp-1)とlesp-14kDa(Smsp-4)との迅速な凝集・沈殿、すなわち、本発明により提供される機能を妨げる物質およびその濃度を除き、上記の例に限定されるものではない。上記例のような緩衝液は、一般に、タンパク質の溶解にしばしば用いられ、新規性は無いが、このようなごく普通の緩衝液系に可溶なlespic E2Pの性質は、[0043]記載の要求事項たる(2)溶媒が体液と等張な緩衝液であること、を満しており、lespic E2Pの物質新規性を示す証拠となる。なぜなら、S. marmorata 5齢幼虫の体内絹糸腺を原料とし、既に特許査定された当該発明者らの特許文献1記載の手法を経て製造されるタンパク質画分は、9M程度の尿素が共存する緩衝液系にしか溶解しないからである。かような高濃度尿素溶液に、仮に、脳内血管塞栓の有効成分を含んでいたとしても、カテーテル先端からの血管内注入後、有効成分の凝集固化を尿素が阻害するだけでなく、尿素の有する極めて強力なタンパク質変性作用により、注入部位周囲の血管内壁細胞の機能不全、あるいは、著しい程度の血球破壊を誘発し、結果として、患者を重篤な状態にする危険性があるからである。従って、特許文献1により製造されるタンパク質画分は、本発明において主張する血液凝固機能を提供しない。
上記記載のlespic E2Pを溶解した緩衝溶液に対し、最終濃度が2.5mMとなるよう塩化カルシウム二水和物水溶液を添加したところ、目視により、lespic E2P溶液が沈殿することが確認できた。当該緩衝液は人体の血液とほぼ等張であり、かつ、人体や実験用動物の血中カルシウム濃度をほぼ同じ条件において、反応直後、瞬時にして、lespic E2Pに含まれる主成分lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)が有するpSerとカルシウムイオンとが反応し、両者が結合することで、沈殿形成が確認されたことは、lespic E2Pが[0043]に記載したとおりの要求事項たる(3)、すなわち、もともと血中に存在する無機イオン等の成分と確実に反応し、直ちに凝集固化・塞栓が生じたことを示唆するものである。これは後述する動物実験においても検証されている。
lespic E2Pの有効成分であるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)がシルク繊維ネットのカルシウム成分を取り除くことにより可溶化され、かくしてlespic E2Pが製造されることの検証:走査型電子顕微鏡下でのエネルギー分散X線を用いる元素分析:
本発明に関わるlespic E2P製造方法において、[0065]に記載したシルク繊維ネットの粉末、[0066]に記載した第1段階抽出後に溶け残った残渣(E1P残渣という)、および[0067]に記載した第2段階抽出後に溶け残った残渣(E2P残渣という)を試料として用いた。これらを公知の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, SEM)用試料台にカーボンテープを用いて貼付け、装置に装填し、次に、公知の手法によりエネルギー分散X線元素分析(Energy Dispersion X-ray spectral elemental analysis, EDX)を実施した。リン元素(P、実施例17において後述)およびカルシウム元素(Ca)について上記3種の試料の元素マッピングを行った結果、シルク繊維ネット粉末およびE1P残渣におけるCaシグナルのEDX画像は、対応するSEMの画像と一致した。しかし、E2P残渣では、Caシグナルが検出されず、EDX画像が得られなかった。以上の結果は、EDTAを用いる第2段階の抽出により、E1P残渣に含まれるカルシウムイオンが除去されることで、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)が可溶化されてlespic E2Pが製造されることの証拠である。E2P残渣については、酸化酵素によりタンパク質分子間に化学結合が形成されており、緩衝液に溶解しないため、血液凝固剤としては使用できない。
さらに、上記3種の試料それぞれについて、SEM視野内試料部分の10×10μmをひとつのスポットとして7スポットを選択し、EDXスペクトルを取得し、平均試料スペクトルを算出した。さらに、SEM視野内バックグランド(カーボンテープ)部分の10×10μmをひとつのスポットとし2スポットを選択し、同様に、EDXスペクトルを取得し、平均バックグランドスペクトルを算出した。平均試料スペクトルから平均バックグランドスペクトルを差引き、試料スペクトルを計算した。この試料スペクトルは、横軸に電子遷移エネルギー、および、縦軸に電子数(任意スケール)のグラフであり、電子遷移エネルギーに相当するスペクトルピークから、試料に含まれる元素の重量比を定量可能である。かような分析を行った結果、シルク繊維ネット粉末およびE1P残渣にはCa相当のピークが観測されたが、一方、E2P残渣にはCa相当のピークは観察されず、代わりに、Na相当のスペクトルピークが観察された。
この結果は、lespic E2P製造方法における第2段階抽出で用いるEDTAがE1P残渣のカルシウムイオンを取り除いた結果、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)が可溶化されるのと同時に、E2P残渣にはカルシウムイオンの代わりに、抽出液に含まれるNaイオンが取り込まれることを意味する。かくして、EDTAはE1P残渣のカルシウムイオンを完全に取り除き、さらに、E2P残渣がNaを取り込むことにより、一度可溶化されたlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)はもはやE2P残渣に結合することなく、結果として、効率的にlespic E2Pが製造されていることが実証された。かくして製造されたlespic E2Pは、規格化リン酸化率36 ± 3%を有するものであった。
lespic E2Pの有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)がpSerを含むことの検証(1):免疫染色による実証:
[0058]記載の方法により、lespic E2PのSDS-PAGEを行った後、クマシーブリリアントブルーによるタンパク質バンドの染色を行わずに、ゲル内に展開されたタンパク質、すなわち、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を、一般にエレクトロブロットと呼ばれる公知の手法により、市販のポリフッ化ビニリデン膜に転写した。その後、市販の抗pSer抗体を用いて、一般に免疫染色(またはウェスタンブロットという)と呼ばれる公知の手法により、抗pSer抗体と結合するタンパク質を調べた。免疫染色の操作は市販の染色キットを用いて行った。その結果、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)はともに、抗pSer抗体と結合することが確かめられた。かくして、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)がともに、抗pSer抗体のエピトープ(一般に、抗原認識部位ともいう)たるpSerを含むことが実証された。かくして製造されたlespic E2P(lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)は、規格化リン酸化率36 ± 3%を有するものであった。
lespic E2Pの有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)がpSerを含むことの検証(2):ホスホアミノ酸分析による実証:
lespic E2P(規格化リン酸化率 36 ± 3%)試料3mgを公知の手法、すなわち、真空溶封したガラス容器内、5.7M HCl水溶液を用いて、105℃において2時間加水分解した。試料を減圧乾固してHClを除き、その後、公知の手法、すなわち、市販のイオン交換カラムを用いるホスホアミノ酸分析を行った(例えば、Kousaku Ohkawa, Yumi Miur, Takaomi Nomura, Ryoichi Arai, Koji Abe, Masuhiro Tsukada & Kimio Hirabayashi, Long-range periodic sequence of the cement/silk protein of Stenopsyche marmorata: purification and biochemical characterization, Biofouling 29(4), 357-367 (2013)参照)。標準試料として、pSer、ホスホスレオニン(pThr)、およびホスホチロシン(pTyr)の当量混合物を用いて分析を行い、pSer、pThr、およびpTyrのクロマトグラム上の保持時間と、lespic E2Pの加水分解産物に含まれるホスホアミノ酸の保持時間を比較した。その結果、lespic E2Pの加水分解産物には、pSerのみが含まれていることが確かめられた。さらに、lespic E2P試料重量あたりのリン元素重量の割合を、ホスホアミノ酸分析において検出されたpSerのモル数から計算し、実施例16、すなわち、[0109]記載のEDXによるリン元素(P)の重量比と比較した結果、±0.05wt%の精度において一致した。かくして、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)がともに、pSerのみを含み、その他のホスホアミノ酸、すなわち、pThrおよびpTyrは含まないことが実証された。
以上記載のとおり、本発明の新規物質lespic E2Pが、凝固沈殿の有効成分として、pSerを分子内に有するlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)のみを含み、pSerとカルシウムイオンとの相互作用により水溶液中で直ちに凝集するという性能を発揮できることが実証された。これにより、lespic E2Pが液体血管塞栓材料としての理想的な性質、すわなち、[0043]に記載した(1)−(3)を満たすことが立証された。以下は、E2Pを実際の血液成分、動物組織、および動物血管に適用する場合の実施例である。
lespic E2Pの血液凝固性能の検証:脱フィブリン血液を用いる実証:
市販の病理検査用ウマ脱フィブリン血液を供試し、血液凝固機能を検討した。ウマ脱フィブリン血液とは、採血したウマ血液をガラス棒等で穏やかに撹拌し、血液の異物反応たるフィブリンタンパク質の重合を刺激することで、これらを取り除いて凝固できなくする処理を加えた血液標品のことを指す。一般に、ヒト、ウマ、および、ブタ等の恒温動物の血中カルシウムイオン濃度は2.5-4.0mMの間で変化する。ウマ脱フィブリン血液の場合、これを製造する過程で起こる血液の異物反応に伴い、血中の血小板由来のカルシウムイオンは、トロンビン等のカルシウム結合タンパク質の作用により、脱フィブリン処理を施さない血液よりも若干低濃度となっている。
lespic E2P(規格化リン酸化率 36 ± 3%)を[0104]記載の緩衝液に溶解し緩衝溶液とし、その濃度は10mg/mLとした。この溶液を、上記の性質を持つウマ脱フィブリン血液から、公知の手法、すなわち、遠心分離により血球類を取り除き、その遠心上清0.1mLに対し、10μL添加した。すると、赤色透明のウマ脱フィブリン血液遠心上清は直ちに高い粘度を示すようになった。これに、濃度2.5mMとなるように塩化カルシウム二水和部物溶液を添加したところ、lespic E2Pを添加したウマ脱フィブリン血液遠心上清は直ちに流動性を失い、ゲル状の固体へと変化した。このゲル状固体内部には、凝集沈殿した不溶物が目視確認できた。この観察結果により、血漿成分共存下においても、lespic E2Pの有効成分、すなわち、lesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)はともに、ウマ脱フィブリン血液遠心上清中に残存するカルシウムイオンと結合して凝集し、さらに、脱フィブリン処理前の血中カルシウム濃度と等価な条件にすると、凝固沈殿することが実証された。
lespic E2Pの有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の組織適合性の検証:ブタ皮下組織注入による実証:
[0104]記載のlespic E2P(規格化リン酸化率 36 ± 3%) 3mgを含む緩衝溶液0.5mLを用いた。従来技術により全身麻酔した動物実験用ブタ(体重30kg;三元ブタ)大腿部から腰骨付近の腹部皮下2.0-2.5cmに、間隔をあけて計3箇所にlespic E2P 3mgを含む緩衝溶液0.5mLを注入した(これら3箇所を実験区という)。この動物実験用ブタを2週間飼育した。その後、実験区の皮下組織摘出前に、表皮注入部外観を目視で観察した結果、実験区と周辺組織の間には有意な差は見られず、治癒過程における異常は観察されなかった。この結果は、lespic E2Pが生体に対する組織反応性が極めて低いことを意味している。
上記縫合部の観察の後、公知の手法により麻酔したうえで、上記3箇所の皮下組織を摘出した。その後、公知の手法、すなわち、エオジン−ヘマトキリン染色、およびマッソン−トリクローム染色を施した皮下組織標本を作成した。これらの皮下組織標本を、公知の手段により光学顕微鏡観察をした。実験区における、組織所見上、皮下脂肪組織の再生過程において普遍的に観察される肉芽組織を形成しており、さらに、線維芽細胞がコラーゲンを生産していることを示す著明な繊維化、および、免疫反応を示すリンパ球集合化(浸潤ともいう)を認めた。ここでいうところの免疫反応(異物反応ともいう)とは、上記の溝形成時に破壊された細胞から滲出したタンパク質に対する軽微な炎症反応のことであり、さらに、炎症の範囲も限定されており、炎症周囲の組織への波及や破壊は起こっていなかった。
上記の事実は、lespic E2P由来のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)はともに組織毒性を持っていないことを意味する。これらのことに加え、上記の皮下標本組織観察においては、2つの実験区および1つの対象区ともに、顕著な差は見られなかった。以上の観察結果から、lespic E2P由来のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)がともに、皮下組織の正常な治癒過程を阻害せず、実験区および対象区ともに、炎症期から増殖期に移行する途中の通常の創傷治癒過程を見ているものであると結論できる。
lespic E2Pの有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の血管塞栓性能の検証:ブタ浅頚動脈へのカテーテル注入による実証:
血管撮影装置(シーメンス製Artis Zee Floor型)を用い、人間に施行する方法と同様の脳血管撮影法をブタ(上記と同様の三元ブタ)に採用した。なお、この装置は、2014年現在、脳血管撮影装置としては、ほぼ最新型、かつ、最も優れた解像度を有している。上記の血管撮影装置を装備した手術台に、[0114]記載と同一の全身麻酔済動物実験用ブタを固定した後、右大腿動脈よりカテーテル(Boston Scientific社製マイクロカテーテルExcelsiorTM 1018TM、150cm×6cm)を進め、左の浅頚動脈(血管直径約2-3mm)内にマイクロカテーテルを留置した。本発明による新規物質のlespic E2P 3mgを含む[0104]記載の緩衝溶液0.5mLをマイクロカテーテル先端から注入し、直後にヨード系造影剤を用いて再度血管撮影し、lespic E2P緩衝溶液の血管閉塞性能を調べた。
その結果、lespic E2P(規格化リン酸化率 36 ± 3%)緩衝溶液の注入直後、マイクロカテーテル先端を留置した動脈部分(血管直径約2-3mm)、および、その地点から分岐する血管直径約1mmの血管の計3箇所の血流点が瞬時に塞栓された(図2)。図2における注入直後の写真中の矢印箇所が塞栓された箇所を示す。lespic E2Pの有効成分たるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)が、浅頚動脈内血流に含まれるカルシウムイオンと結合し、凝固沈殿し、その結果、動脈血管を塞栓したことがわかる。
上記塞栓操作を加えたブタを2週間飼育した後、[0117]記載と同じ血液撮影装置およびヨード系造影剤を用いて、塞栓部位の血流を調べたところ、2週間前のカテーテル留置部付近の比較的太い血管(血管直径約2mm)、およびそこから分岐しているより細い血管(血管直径約1mm)の2箇所では塞栓状態を保ったままであった。この結果は、(1)注入するlespic E2P緩衝液のlespic E2P濃度をさらに増加する(例えば、20mg/mL程度まで)こと、(2)lespic E2Pを注入した直後に5mM程度のカルシウムイオン溶液を連続注入すること、および(3)上記(1)および(2)の操作を複数回繰返すことにより、塞栓部の血管軸方向の厚みをさらに増すことにより改善できる。かくして、塞栓状態をより長期に保つための条件として、塞栓部血管軸方向の厚みが血管直径以上となるように、本発明に関わるlespic E2P緩衝溶液をマイクカテーテル先端から注入し、標的部位を塞栓することがより好適である。このカルシウムイオン濃度は、2-5mM程度に保たれていれば、lespic E2Pの凝集沈殿に好ましくない影響がでることはない。
さらに本実施例20では、[0043]に記載した理想的な液体塞栓物質に求められる性質、すわなち、(5)塞栓剤注入時に施術者に操作上の違和感を感じさせずに、速やかかつ円滑な施術が可能であること、の検証も行った。本実施例でのカテーテル注入を実際に施術したところ、注入時の抵抗、連続した注入時の不具合、および、カテーテル先端と標的血管内壁との接着、および、カテーテル引抜き時の不具合等の注入操作に関する技術的問題は皆無であった。
上記のように、本発明に関わるlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)を含むlespic E2P緩衝溶液(lesp-400kDa(Smsp-1)またはlesp-14kDa(Smsp-4)を含む場合も)は、[0043]に記載した理想的な液体塞栓物質に求められる性質、(1)−(5)を満たしている。従って。本実施例においては、本発明に関わるlespic E2P緩衝溶液とその塞栓状態に対する仔細な観察から、この新規物質たるlespic E2Pが既存の液体塞栓物質の仕様上の問題を含んでいないことが立証された。従って、本発明が提供する機能は、上記した既存技術における諸問題に記載したカテーテル術式における血管内液体塞栓物質の抱える諸問題を完全に解消するものである。
以下、本発明の関連事項について記載する。
(1)ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットからのタンパク質抽出液からSmsp-2とSmsp-3とが除去され、さらにカルシウムイオンが除去されてなる、規格化リン酸化率が、36 ± 3 %のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなる組成物であり、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物からなる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pが有効成分として含まれ、この液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液との溶液からなる血液凝固剤溶液を、カテーテルを通して標的血管内に注入し、標的部位の血流(患部血流)を塞栓することを特徴とする標的部位の血流の塞栓方法。
(2)標的血管内の標的部位の血流(患部血流)の塞栓に用いるための物質であって、その物質が、ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットからのタンパク質抽出液からSmsp-2とSmsp-3とが除去され、さらにカルシウムイオンが除去されてなる、規格化リン酸化率が、36 ± 3 %のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなる組成物であり、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物からなる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pが有効成分として含まれ、この液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液に溶解してなる溶液からなる血液凝固剤溶液であることを特徴とする物質。
(3)標的血管内の標的部位の血流(患部血流)の塞栓に使用するための薬剤の製造のための物質であって、その物質が、ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットからのタンパク質抽出液からSmsp-2とSmsp-3とが除去され、さらにカルシウムイオンが除去されてなる、規格化リン酸化率が、36 ± 3 %のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)からなる組成物であり、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物からなる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pが有効成分として含まれ、この液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液との溶液からなる血液凝固剤溶液である薬剤の製造のため物質の使用。
本発明によれば、水生昆虫由来のシルク繊維ネットから得られた液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法ならびにこの液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを含む血液凝固剤溶液およびその血液凝固剤溶液の製造方法を提供できるので、脳血管障害、脳血管疾患等を治療するため医療の最先端分野で利用できる。

Claims (7)

  1. ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットのタンパク質由来のSmsp-1およびSmsp-4を有し、36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率を有する組成物であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物である液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであり、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2P有効成分として含んでなり、この液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液との溶液からなることを特徴とする血液凝固剤溶液。
  2. ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットのタンパク質由来のSmsp-1およびSmsp-4を有し、36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率を有する組成物であり、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在する組成物である液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pであって、血液凝固を促進加速させる液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを得、この有効成分としての前記液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pと、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液との溶液からなる血液凝固剤溶液を得ることを特徴とする血液凝固剤溶液の製造方法。
  3. ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットを糸状粉末とし、第1段階として、この粉末をpH 6を超えpH 9未満の抽出用緩衝液であって、尿素または臭化リチウムを含む抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、遠心上清を採取し、抽出残渣を得、次いで、第2段階で、第1段階で得られた抽出残渣を、カルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した第1段階抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、得られた抽出液からキレート剤と結合したカルシウムイオンを除いた後、36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)の規格化リン酸化率を有するSmsp-1およびSmsp-4であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在するSmsp-1およびSmsp-4を有する液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを得、血液凝固を促進加速させる前記液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを有効成分とし、この液体の血液塞栓性タンパク質と、リン酸イオンを含まない、体液と等張な緩衝液とからなる血液凝固剤溶液を製造することを特徴とする血液凝固剤溶液の製造方法。
  4. 前記第1段階および第2段階におけるインキュベート温度が40-60℃、時間が30-60分であることを特徴とする請求項に記載の血液凝固剤溶液の製造方法。
  5. ヒゲナガカワトビケラの5齢幼虫のシルク繊維ネットを糸状粉末とし、第1段階として、この粉末をpH 6を超えpH 9未満の抽出用緩衝液であって、尿素または臭化リチウムを含む抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、遠心上清を採取し、抽出残渣を得、次いで、第2段階で、第1段階で得られた抽出残渣を、カルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した第1段階抽出用緩衝液に浸してインキュベートし、得られた抽出液からキレート剤と結合したカルシウムイオンを除いた後、規格化リン酸化率が36 ± 3 % のlesp-400kDa(Smsp-1)およびlesp-14kDa(Smsp-4)であるSmsp-1およびSmsp-4であって、lesp-400kDa(Smsp-1):lesp-14kDa(Smsp-4)の重量比が9:1で存在するSmsp-1およびSmsp-4を有する液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pを製造することを特徴とする液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法。
  6. 前記第1段階および第2段階におけるインキュベート温度が40-60℃、時間が30-60分であることを特徴とする請求項に記載の液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法。
  7. 前記第1段階における抽出用緩衝液が、尿素または臭化リチウムを含むTris HCl、SDS、およびDTTからなる緩衝液であり、前記第2段階における抽出用緩衝液が、この第1段階抽出用緩衝液にカルシウムイオンと結合するキレート剤を添加した緩衝液であることを特徴とする請求項または記載の液体の血液塞栓性タンパク質固有組成物E2Pの製造方法。
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