以下、添付図面に従って本発明のレーザダイシング装置及び方法並びにウェーハ処理方法の好ましい実施の形態について説明する。
[レーザダイシング装置]
図1は、本発明に係るレーザダイシング装置の一実施形態を示す概略構成図である。また、図2は、本発明に係るレーザダイシング装置によってウェーハに改質層を形成している断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施の形態のレーザダイシング装置10は、主として、ウェーハWを保持するウェーハテーブル20と、ウェーハテーブル20に保持されたウェーハWにレーザ光を入射するレーザ照射装置60と、レーザ照射装置60の集光レンズ66のレンズ面66A(レーザ光出射面)とウェーハテーブル20のテーブル板22のテーブル面22B(レーザ光入射面)との間の間隙のみに界面張力によって保持され、空気よりも屈折率の大きな屈折液Aで形成された液膜26Aと、レーザ反射防止板50と、で構成される。
まず、本実施の形態のレーザダイシング装置10で加工対象とするウェーハWについて説明する。
本実施の形態のレーザダイシング装置10で加工対象とするウェーハWは、表面に複数のデバイス(例えばMEMS素子等)が形成されたウェーハWであり、ダイシングフレームFにマウントされた状態で加工処理される。
図3は、ダイシングフレームFにマウントされた状態のウェーハWを示す斜視図である。
図3に示すように、ウェーハWは、ダイシングテープTを介してダイシングフレームFにマウントされる。ダイシングフレームFは、枠状に形成され、その内部にダイシングテープTが貼り付けられる。ウェーハWは、その裏面をダイシングテープTに貼着されて、ダイシングフレームFにマウントされる。
ここで、このダイシングフレームFに貼り付けられるダイシングテープTは、延性を有する素材で形成されるとともに、レーザ照射装置60から出射されるレーザ光を透過可能な素材で形成される。本例では、延性を有し、透明な素材で形成される。なお、通気性を有することが更に好ましい。
ダイシングフレームFにマウントされたウェーハWは、そのダイシングテープTが貼着された面(裏面)をウェーハテーブル20に保持される。
ウェーハテーブル20は、図1に示すように、主として、テーブル板22と、そのテーブル板22を保持するテーブル板保持フレーム24とで構成される。
テーブル板22は、加工対象とするウェーハWに対応した円盤状に形成され、その表面及び裏面は共に平坦に形成される。テーブル板22は、加工対象とするウェーハWの全面を支持できるように、加工対象とするウェーハWよりも大径の円盤状に形成される。このテーブル板22は、レーザ照射装置60から出射されるレーザ光を透過可能な素材で形成される。一例として、本実施の形態では、透明な石英ガラスで形成される。また、このテーブル板22は、加工対象とするウェーハWを撓みなく保持することができるように、必要十分な厚さを持って形成される。
テーブル板22は、図1の下面側がウェーハWを保持するための保持面22Aとされる。保持面22AとウェーハWのダイシングテープTが貼着された面(裏面)との間には屈折液Bによる均一かつ薄膜状の液膜26Bが介在しており、ウェーハWが液膜26Bを介してテーブル板22に密着保持される。なお、後で詳しく説明するが、屈折液Bの一例としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などがある。
テーブル板保持フレーム24は、円環状に形成される。テーブル板22は、このテーブル板保持フレーム24の内周部に保持される。
テーブル板保持フレーム24は、図示しない回転駆動機構によって軸周りに回転するとともに、図示しない昇降駆動機構によって上下方向(Z方向)に昇降する。また、図示しない前後駆動機構によって水平面上を前後方向(Y方向)に移動するとともに、図示しない左右駆動機構によって水平面上を左右方向(X方向)に移動する。
これにより、テーブル板22は、テーブル板保持フレーム24が回転することにより、軸回りに回転する。また、テーブル板保持フレーム24が昇降することにより、上下に昇降する。更に、テーブル板保持フレーム24が前後方向に移動することにより、前後に移動し、左右方向に移動することにより、左右に移動する。
レーザ照射装置60は、ウェーハテーブル20の上方に設置され、ウェーハテーブル20に向けてレーザ光を垂直に出射する。
図2に示すように、レーザ照射装置60は、主として、レーザ発振装置62と、コリメータレンズ64と、集光レンズ(コンデンサレンズ)66と、アクチュエータ68とで構成される。
そして、集光レンズ66のレンズ面66A(レーザ光出射面)と、テーブル板22のテーブル面22B(レーザ光入射面)との間の間隙には、界面張力によって保持され、空気よりも屈折率の大きな屈折液Aで形成された液膜26Aが介在される。
テーブル板22のテーブル面22Bは粗面処理されていることが好ましい。粗面処理としては、例えば、GC砥粒の#2000番を使用し、テーブル面22Bを20分程度ラッピング加工しても良い。また、#500番程度の砥粒を使用してもよい。GC以外でもWAなどの砥粒を使用して、テーブル面22Bを荒らしてもよい。このようにすることで、テーブル面22Bはすりガラス上になって、空気中では表面の荒れによって散乱し、曇ったようになる。表面粗さとしては、Raで0.1mm以下であればよいが、これに縛られず、界面張力が増大するように粗さの隙間に液体が埋まり込み、表面積が大きいほどよい。
このようにテーブル板22のテーブル面22Bに粗面処理を施しておくことによって、集光レンズ66とテーブル板22との間には、微小な間隙空間が形成され、毛細管現象によって屈折液Aが間隙に一様に且つ効率的に広がる。その結果、屈折液Aを集光レンズ66とテーブル板22との間の間隙に界面張力でしっかりと保持し易くなる。この屈折液Aについても、後で詳しく説明するが、上記した屈折液Bと同様に、水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などを使用することができる。
また、屈折液Aと屈折液Bとは、異なる種類のものを使用することもできるが、同じものであることがより好ましい。
レーザ発振装置62は、ウェーハWの加工条件に従ったレーザ光を発振する。レーザ発振装置62から発振されたレーザ光は、コリメータレンズ64によって平行光とされた後、集光レンズ66で集光点Pに集光される。これにより、集光点PをウェーハWの内部に設定して、ウェーハWにレーザ光を入射すると、ウェーハWの内部に改質領域が形成される。この状態でウェーハWを水平に移動させると、集光点Pの移動軌跡に沿って改質領域が連続的に形成され、改質層Lが形成される。ウェーハの分割時は、この改質層をストリート(分割予定ライン)に沿って形成する。
アクチュエータ68は、集光レンズ66を光軸方向(Z軸方向)に微小移動させる。即ち、集光レンズ66は、図示しないレンズ枠に保持されて、光軸方向に移動自在に支持されており、このアクチュエータ68に駆動されて、光軸方向に微小移動する。
アクチュエータ68を駆動して、集光レンズ66を光軸方向に移動させることにより、レーザ光の集光点Pの位置がZ方向に変位する。これにより、改質層Lを形成する位置(Z方向の位置)を調整することができる。また、集光点PのZ方向の位置を変えて、ウェーハWに複数回レーザ光を入射することにより、ウェーハWの内部に複数の改質層Lを形成することができる。
この集光点PのZ方向の位置調整に加えて、集光レンズ66のレンズ面66Aと、テーブル板22のテーブル面22Bとの間の間隙の距離を調整し、上記した液膜26Aが界面張力によって間隙に保持されるように調整する。即ち、集光レンズ66、テーブル板22、及び屈折液Aの表面張力並びに集光レンズ66と屈折液A、及びテーブル板22と屈折液Aとの界面張力、更には屈折液Aの粘度等の物性にもよるが、集光レンズ66のレンズ面66Aと、テーブル板22のテーブル面22Bとの間隙の最短距離D(図2参照)を0.01〜2mmの範囲になるように設定する。
なお、集光点Pが所定位置になるように集光レンズ66の位置を調整したときに、間隙距離が1mmを超える場合には、テーブル板22の厚みを厚くすることで調整することができる。予め、予備試験を行ってテーブル板22の厚みを決定しておけばよい。
レーザ反射防止板50は、ウェーハテーブル20の下部に設置される。このレーザ反射防止板50は、上面部にレーザ光の反射防止処理(たとえば、黒色処理)が施された平板状に形成され、ウェーハテーブル20の保持面22Aから所定距離離れた位置に水平に設置される。即ち、ウェーハテーブル20の保持面22Aとレーザ反射防止板50との間には所定の空間が形成される。
レーザ照射装置60から出射されてウェーハWを透過したレーザ光は、このレーザ反射防止板50に入射する。これにより、不要な反射が防止でき、反射焼け等が生じるのを防止できる。
本実施の形態のレーザダイシング装置10は、以上のように構成される。
なお、レーザダイシング装置10の動作は、図示しない制御装置で制御される。制御装置は、所定の制御プログラムを実行して、各部の動作を制御し、ウェーハWの加工処理を実行する。
[レーザダイシング方法]
次に、上記の如く構成されたレーザダイシング装置10を用いたレーザダイシング方法について説明する。
上記のように、ウェーハWは、ダイシングフレームFにマウントされた状態で加工処理される。ウェーハWは、裏面(デバイスが形成されていない面)をダイシングテープTに貼着されて、ダイシングフレームFにマウントされる。
ダイシングフレームFにマウントされたウェーハWは、図示しない搬送装置(例えば、ロボットのアーム)によって、ウェーハテーブル20の下部まで搬送される。この際、ウェーハWは、ダイシングテープTが貼着された面を上向きにし、表面は非接触の状態でウェーハテーブル20の下部位置まで搬送される。
ウェーハテーブル20の下部位置まで搬送されたウェーハWは、搬送装置からウェーハテーブル20に受け渡される。受け渡しは、ウェーハWの裏面をウェーハテーブル20の保持面22Aで密着保持することにより行われる。具体的には、次のように行われる。
まず、ウェーハWの位置決めが行われる。即ち、ウェーハWの中心が、ウェーハテーブル20の中心と一致するように位置決めされる。その後、屈折液Bを滴下或いは塗布する屈折液B供給手段(不図示)を用いて、ウェーハWの裏面に対して屈折液Bを均一に供給し液膜26Bを形成する。なお、屈折液Bを供給して液膜26Bを形成してから、ウェーハWの位置決めを行ってもよい。また、屈折液Bは、ウェーハWの裏面に代えて、或いは、ウェーハWの裏面とともに、ウェーハテーブル20の保持面22Aに供給し、保持面22Aに液膜26Bを形成するようにしてもよい。その後、ウェーハWの裏面にウェーハテーブル20の保持面22Aを所定の圧力で押圧する。これにより、ウェーハWの裏面とウェーハテーブル20の保持面22Aとの間に屈折液Bが均一かつ薄膜状になって全体的に広がり、ウェーハWがウェーハテーブル20に液膜26Bを介して密着保持される。
このようにしてウェーハテーブル20の保持面22Aには、ウェーハWのダイシングテープTが貼着された面が屈折液Bの液膜26Bを介在させた状態で密着保持される。これにより、ウェーハWを撓ませることなく平坦な状態で保持することができる。また、ウェーハWは、ダイシングテープTを介して裏面が密着保持されるため、表面を固体物(空気以外)に非接触の状態で保持することができる。これにより、ウェーハ表面に形成された複数のデバイス(例えばMEMS素子等)が破損することはない。
ウェーハWを受け渡した搬送装置は、ウェーハテーブル20の下部から退避する。この後、所定の前処理及びアライメント処理が行われ、レーザダイシングが開始される。
レーザダイシングは、レーザ照射装置60から出射されるレーザ光をストリートに沿ってウェーハWに入射することにより行われる。
しかし、従来のレーザダイシングでは、ウェーハWが薄い場合、特に50μm以下の薄いウェーハWの場合には、アブレーションが発生し易いという問題がある。
ここで、図4を使用して、薄いウェーハWの場合にアブレーションが発生し易い理由を説明する。図4は集光レンズ66とウェーハWとの2つの関係で示しており、ウェーハテーブル20は省略している。
図4(A)は理想状態のレーザダイシングを示し、図4(B)が実際のレーザダイシングを示す。また、図4(i)はレーザ光路を示す断面図であり、(ii)はレーザ光の集光状態の立体的模式図であり、(iii)はレーザ光によるウェーハの溶融状態を示した断面図である。
図4(A)の(i)及び(ii)に示すように、理想状態のレーザダイシングは、集光レンズ66から出射されたレーザ光は、ウェーハWの内部にピンポント(点状)に集光されて集光点Pを結ぶ。これにより、図4(A)の(iii)に示すように、集光点Pの位置がピンポイントで溶融されて改質状態になる。
しかし、実際のレーザダイシングは理想状態となることはなく、図4(B)の(i)に示すように、レーザ光路は設定された集光点Pの位置近傍までは直線的に進むが、集光点位置近傍において湾曲した光路を形成し、再び直線的に進む。これにより、図4(B)の(ii)に示すように、レーザ光は集光点位置においてピンポイントで集光せずに楕円状の面積を有して集光する。この結果、ウェーハWのレーザ光入射面(本実施ではウェーハ裏面)における照射面積S1と、ウェーハ内部の集光点領域での照射面積S2との面積差が小さくなる。このように面積差が小さい場合には、ウェーハ内部の集光点領域で溶融が起きると、ウェーハWのレーザ光入射面aまでレーザ光のエネルギー吸収が連鎖的に起こる。この結果、図4(B)の(iii)に示すように、ウェーハWには、集光点領域からレーザ光入射面aまで連続した孔が形成される、所謂アブレーションが発生する。アブレーションが発生すると、溶融した溶融物が周りに飛散してウェーハWに付着する。これにより、付着したウェーハ部分が不良品になる。
ところで、上記の湾曲したレーザ光路部分の長さをレイリー長(L)といい、高質なレーザ光である1064mm波長のYAGレーザ光の場合であっても、レイリー長(L)が約20μm程度になる。
これにより、ウェーハWの厚みが薄い場合には、ウェーハ厚みとレイリー長(L)との差が小さくなるので、照射面積S1と照射面積S2との面積差が小さくなる。これにより、ウェーハWのレーザ光入射面aにおける溶融エネルギーと、ウェーハ内部の集光点領域における溶融エネルギーとの差が小さくなるので、アブレーションが発生し易い。このため、レーザダイシングを行うことのできるウェーハの厚み限界は30μm位が限度と言われている。
したがって、薄いウェーハW、特に50μm以下のウェーハWにおいてアブレーションを防止し、精度良くレーザダイシングを行うには、レイリー長(L)の影響をできだけなくして理想状態に近づけることが必要になる。そして、理想状態に近づけるためには以下の3つの条件が重要になる。
(条件A)見込み角を大きくして幅広い角度からレーザ光を集光させて集光点を結ばせることによって、ウェーハWのレーザ光入射面a(本実施ではウェーハ裏面)からウェーハ内部への集光点深度を浅くするとともに、上記した照射面積S1と照射面積S2との面積差が大きくなるようにする。このためには、レーザ光が出射されてからウェーハ内の集光点へ到達するまでの絞り(集光)の過程で、幅広い面積から急激に絞り込むための大きな屈折角が必要であり、高い開口数NAが要求される。
(条件B)ワークディスタンスを一定化して集光点深度が変動しないようにする。薄いウェーハの場合には、ワークディスタンスの僅かな変動による集光点深度の変動がアブレーションの原因になる。換言すると、薄いウェーハの場合には、大きな屈折角が要求されるだけでなく、レーザ光が出射されてからウェーハ内の集光点へ到達するまでの光路において屈折率が変動しないことが要求される。
(条件C)ウェーハの厚みが薄い場合には、ウェーハ内部におけるレーザ光の集光点深度を浅くせざるをえないため、幅広い角度からレーザ光を入射させる必要がある。したがって、幅広い角度からレーザ光を集光させても、集光レンズの端から出たレーザ光が界面で反射しないようにする。
ここで上記した条件A〜Cの更なる詳細な説明として、アブレーションの発生と開口率NAに関連する見込み角との関係について説明する。
すなわち、アブレーションの防止には開口数NAの影響も重要な要素となる。
ここで開口数NAは、集光レンズ66から物体に出射する光線の光軸に対する最大角度をθとし、物体と集光レンズとの間の媒質の屈折率nとしたときに、次式で表される。
開口数NA=n*sinθ
通常、空気の場合は、屈折率が1であるため、開口数NAは理論上最大でも1となるが、実際は0.95程度が限界となる。すなわち、レーザ光の集光レンズから光の媒質が空気であれば、開口数NAは、1以上になることはない。従来は、集光するレーザ光において、そのレーザ光が通過する媒質は、空気を介するので自ずと低い開口数NAの条件でレーザダイシング加工していた。
図5(A)に示すように、開口数NAに関連する項目として、θを2倍した2θは見込み角と呼ばれ、集光点Pからみた仰角となる。見込み角が大きい場合、広い角度から、レーザ光を絞ることになり、レーザ光を照射するウェーハ表面上(ウェーハのレーザ光入射面上)の照射面積に対して集光点の面積を極力小さくできる。
これに対して、見込み角が小さい場合は、レーザ光を照射するウェーハ表面上の照射面積に対して集光点の面積がさほど変わらない場合もある。
先ほどの開口数NAとの関係で、開口数NAが大きいとは、すなわち見込み角が大きいことに対応する。
ここで、アブレーションが起こるメカニズムによれば、シリコンなどの基板材料はレーザ光の吸収係数に温度依存性があることが一つの要因になる。
図5(B)及び(C)は、レーザ光の吸収係数に温度依存性があることによってアブレーションがどのように異なるかを、見込み角との関係で説明した図である。
図5(B)は見込み角が小さい場合にウェーハWに起こる事象である。レーザダイシングにおいて、パルスレーザによるウェーハWに対する照射時間は、通常100ns程度である。
その100ns内の照射時間で、まずウェーハ内部に集光されたレーザ光は、最初その集光点Pで最もエネルギーが吸収される。その最も集光された一点で局所的にレーザ光のエネルギーが消費されるため、その一点で爆発的に内部改質が起こる。
次の瞬間、見込み角が小さいと、その集光点Pの少し上部も集光点付近に続いて大きいエネルギーが消費されるとともに急激に温度上昇する。その結果、集光点Pの直上付近においてレーザ光のエネルギー吸収が上昇し、集光点Pの内部改質から少し時間が遅れて、集光点Pの直上でも内部改質が起こる。続いて、そのまた上部の温度が上昇しレーザエネルギーが吸収されて、引き続き内部改質が起こるというように順々に上部に向かって連鎖的に内部改質が起こる。すなわち、初期の集光点Pからその上部に向けて、急激な温度上昇に伴う急激なレーザエネルギー吸収が連鎖的に起こるため、最終的にその連鎖反応がウェーハW表面(レーザ光入射面)に達した際に、ウェーハの表面部分が吹き飛ぶ形で穴が開くようになる。これがアブレーションのメカニズムである(参考:大村悦二,日本学術振興会第145委員会第125回研究会資料P.9)。
上記したメカニズムによるアブレーションを防ぐために重要になることは、レーザ光の集光点Pにおける見込み角である。すなわち、見込み角が小さい場合、集光点Pの内部改質エリアは、その直上のレーザ照射面積とさほど領域面積が変わらない。これにより、すぐさま集光点Pの直上付近の温度が上昇して急激にレーザエネルギーが吸収され、それが連鎖的に上部のエネルギー吸収を助長していくため、ウェーハ表面に至るまで連鎖的に内部改質が進行する。
これに対して、図5(C)は見込み角が大きい場合にウェーハWに起こる事象である。
レーザ光の集光点Pにおいて見込み角が大きい場合、集光点Pで内部改質が起こったとしても、その直上のレーザ照射面積は急に大きくなるため、さほど急激に温度上昇しない。そのため、集光点Pの近傍での急激なエネルギー吸収は起こらず、集光点P付近だけが改質されるに留まる。その結果、ウェーハの集光点Pからウェーハ表面に向けての連鎖的な内部改質を阻止することができる。
こうしたアブレーション発生のメカニズムによると、より薄いウェーハWをアブレーションさせずに加工する場合、ウェーハWに対するレーザ入射のための見込み角を大きく取ることが重要である。少しでも見込み角を大きくすれば連鎖的なレーザ吸収がウェーハ表面まで到達することで生じるアブレーション現象を防ぐことが可能となる。
また、レーザ光が集光するウェーハ表面からの集光点深度(d)は、下記式の如く、波長λに比例し開口数NAの2乗に反比例する。
d=λ/NA2
したがって、集光点深度dを浅くするためには、開口数NAを高く取ることが重要になる。
そして、集光点深度dの大きさもアブレーションには影響する。すなわち、集光点を結ぶ範囲である楕円球部分が深さ方向に細長い形状である場合、連鎖的に改質が起こりやすいが、深さ方向に対してコンパクトな楕円球である場合、改質領域は一部の局所域に限定され、局所的な改質だけで済む。
また、ウェーハ内部の局所的なエリアだけに大きいエネルギーを集中させるためには、解像度も重要になる。解像度δは次式で示される。
δ=0.61*λ/NA
解像度δは、波長λに比例し開口数NAに反比例する。解像度δをより小さくするためには開口数NAを大きくする方がよい。この点においても空気を介在させるのではなく、屈折率の高い媒質を介在させて開口数NAの高いレンズを使用した方が開口数NAを大きく取ることができ、より局所的なエネルギーを一箇所に集中させることに寄与する。
そこで、本実施の形態のレーザダイシング方法では、集光レンズ66のレンズ面66Aとテーブル板22のテーブル面22Bとの間に、空気よりも屈折率の大きな屈折液Aの液膜26Aを介在させることによって開口数(NA)を高めるようにした。
即ち、制御装置(図示せず)は、ウェーハWの内部の所定位置に集光点Pが設定されるように、アクチュエータ68を駆動して、集光レンズ66の位置を調整するとともに、調整後の集光レンズ66の出射側のレンズ面と、テーブル板22の面との間隙距離が0.01〜2mmの範囲になるように設定する。
そして、上記の0.01〜2mmの間隙に、毛細管現象により屈折液Aを供給し、間隙のみに屈折液Aの液膜26Aを形成する。この場合、屈折液Aの液滴をテーブル板22の集光レンズ真下位置に滴下してから、集光レンズ66をテーブル板22側に接近移動させることによって、集光レンズ66とテーブル板22との間に液膜26Aを形成してもよい。
上記の前準備が終了した後にレーザ光を出射し、出射されたレーザ光が、ストリートに沿ってウェーハWに入射するように、ウェーハテーブル20を移動する。
図6は、集光レンズ66のレンズ面66Aと、テーブル板22のテーブル面22Bとの間隙に屈折液Aの液膜26Aが介在される場合(図6中央の想像線右側)と、比較として集光レンズ66のレンズ面66Aと、テーブル板22のテーブル面22Bとの間に空気が介在される場合(図6中央の想像線左側)での、レーザ光路を比較した図である。
図6では、屈折液Aとして屈折率が1.5のものを使用した。また、集光レンズ66(屈折率1.5)、テーブル板22(屈折率1.5)、屈折液B(屈折率1.5)、ダイシングテープT(屈折率1.5)、及びウェーハW(屈折率3.6)は、図5中央の想像線の左側及び右側ともに共通である。
屈折率の異なる界面における屈折角は次式で表される。
n1*sinθ1=n2*sinθ2
屈折により材料内部に光が届くためには、屈折率の影響は大きい。
図6から分かるように、集光レンズ66とテーブル板22との間に空気が介在される場合、集光レンズ66の端から出たレーザ光は、集光レンズ66と空気との界面で大きく屈折する。これにより、テーブル板22への入射角度θ1が大きくなるので、空気とテーブル板22との界面で全反射してしまいテーブル板22の内部には入射されない。
これに対して、集光レンズ66とテーブル板22との間に屈折液Aが介在される場合、集光レンズ66の端から出たレーザ光は、集光レンズ66と屈折液Aとの界面で空気の場合よりも小さく屈折する。これにより、テーブル板22への入射角度θ1が小さくなるので、空気とテーブル板22との界面で全反射することなくテーブル板22の内部に入射される。
また、集光レンズ66とテーブル板22との間に空気が介在される場合、テーブル板22の内部に入射されたレーザ光の屈折角θ2は、テーブル板22への入射角θ1よりも小さくなるので、レーザ光が立った状態でウェーハWに進入する。これにより、ウェーハWに対して幅広い角度からレーザ光を集光することができなくなる。
これに対して、集光レンズ66とテーブル板22との間に屈折液Aが介在される場合、テーブル板22の内部に入射されたレーザ光の屈折角θ2は、テーブル板22への入射角θ1よりも大きくなるので、レーザ光が寝た状態でウェーハWに進入する。図6の場合には、集光レンズ66、テーブル板22、屈折液B、ダイシングテープTの屈折率が全て1.5で同じなので、集光レンズ66から出射されたレーザ光は、直線的なレーザ光路を形成する。
この結果、図6から分かるように、集光レンズ66とテーブル板22との間に屈折液Aが介在される場合には、ウェーハ内部においてレーザ光が集光する集光点P1の深度を、集光レンズ66とテーブル板22との間に空気が介在される場合の集光点P2の深度に比べて浅くすることができる。
このように、集光レンズ66から同様の角度から出たレーザ光であっても、途中で空気を介在した場合、途中経路における全反射の影響で有効な角度は限られてしまい、狭いエリアのレーザ光しか材料内部に入り込まない。そのため見込み角は小さくなる。
一方、集光レンズ66から空気を介さず、同等の屈折率の媒質を通って、最後に材料内部に入り込む場合、全反射の影響を排除でき、広い角度からレーザ光を絞り込むことができ、見込み角は大きくなる。結果として、薄いウェーハWであってもアブレーションは起こらない。
また、本実施の形態では、集光レンズ66とテーブル板22との間に空気よりも屈折率の大きな屈折液Aを介在させたことのみならず、テーブル板22、ダイシングテープT、及びウェーハWの裏面をテーブル板22に密着させるための屈折液Bの全てについて高い屈折率の媒質とした。これにより、集光レンズ66からウェーハWに至るレーザ光路の全てについて高い開口数を確保するようにした。
このように、集光レンズ66から出たレーザ光がウェーハ内の設定された集光点に達するまでの光路を全て空気よりも高い高屈折率の媒質とすることで、ウェーハWに対して幅広い角度からのレーザ光を集光することができるので、ウェーハWのレーザ光入射面aから浅い集光点深度位置に集光点を結ぶことができる。
こうした高屈折媒質において、高拡大率、高開口数を達成する集光レンズは、ソリッドイマージョンレンズとも呼ばれる。
例えば、こうしたレンズとしては、特開2004−061589に示されるような液浸集光レンズなどは顕微鏡用のレンズとして使用されるものであるが、高開口数を達成する点で適用しうる。また、オリンパス製のシリコン浸集光レンズUPLSAPO30X等も、生物顕微鏡向けの集光レンズであるが、高開口数を確保できる点で本願の集光レンズとして適用しうるものである。
以上の集光レンズは、通常空気を媒質とする従来の場合、レンズの開口数として1以上の数値を取ることは理論上存在しないが、媒質を集光レンズ66のガラスと同等の屈折率とすることで1以上の大きい開口数NAを取ることができる。
また、本実施の形態では、集光レンズ66とテーブル板22との間の間隙のみに界面張力によって屈折液Aの薄い液膜26Aを保持するようにしたので、特許文献4で説明したような屈折液Aの屈折率変動に伴うワークディスタンスの変動がない。
即ち、屈折液Aの薄い液膜26Aの上面と下面は、集光レンズ66とテーブル板22との2つの固体媒質に接触した状態で挟持されているので、屈折液Aは集光レンズ66とテーブル板22との間に安定的に保持される。
この場合、図2Aに示すように、集光レンズ66の近い周囲を囲むとともにその先端がテーブル板22に近接する位置(テーブル板には接触しない)まで延設された筒状の囲い部材69を設けることが好ましい。これにより、集光レンズ66がどのような形状であったとしても、上記した界面張力と相俟って集光レンズ66とテーブル板22との間に屈折液Aを確実に保持できる。したがって、ストリートに沿ってレーザ照射するためにウェーハテーブル20を水平方向に高速移動させても、囲い部材69の狭い空間内に屈折液Aを閉じ込めることができるので、高速移動に伴って屈折液Aがおいていかれることがない。
また、屈折液Aの液膜26Aは、上記の通り集光レンズ66とテーブル板22との2つの固体媒質に接触した状態で挟持されているので、特許文献4の浸漬槽内に貯留された屈折液のような自由液面を有しない。したがって、ストリートに沿ってレーザ照射するためにウェーハテーブル20を水平方向に高速移動させても液膜26Aは波打ったり、ゆらいだりすることはない。更に、屈折液Aの液膜26Aは、集光レンズ66とテーブル板22との相対的な移動を円滑にする潤滑剤の役目も行う。
これにより、ウェーハテーブル20を水平方向に高速移動させても、屈折液Aが波立つことはなく屈折液Aのゆらぎも抑制された状態で集光レンズ66とテーブル板22との間の間隙において作用する界面張力によって安定的に保持され続ける。
ここで、特許文献4の特開2007−136482においては、レーザの照射効率を向上させるため、すなわち反射率を低減させるために、レーザ出射部と基板面(ウェーハ面)の間に水を入れている。しかし、その課題目的は、あくまでレーザ光の照射効率を上げるためだけである。薄いウェーハのレーザダイシングにおいてアブレーションを起こさずに加工するという課題は本願独自の課題であり特許文献4はこうした課題を設定していない。
また、本発明では、屈折液Aの全てが集光レンズ66に接触されており、レーザ光の照射による集光レンズ66の熱で屈折液Aが温まったとしても、特許文献4のように屈折液Aに温度差が生じにくい。
このように、集光レンズ66とテーブル板22との間の間隙のみに界面張力によって屈折液Aの薄い液膜26Aを保持することによって、屈折液Aが波打ったり、ゆらいだり、対流したりすることを効果的に抑制することができる。これにより、屈折液Aの屈折率が変動することもないので、ワークディスタンスを一定にすることができる。
集光レンズ66とテーブル板22との間の間隙はできるだけ狭くすることが好ましいが、ストリートに沿ってレーザ照射するために集光レンズ66とテーブル板22とは相対的に高速移動する。したがって、集光レンズ66とテーブル板22とが接触しない0.1mm以上の間隙距離が必要であり、屈折液Aが間隙内に界面張力で保持されるためには1mm以下であることが好ましい。集光レンズ66とテーブル板22とを0.1mm以上、1mm以下の間隙になるように配置し、この間隙に屈折液Aを微量挿入して液膜を形成することにより、集光レンズ66とテーブル板22との相対的な高速移動時の接触を防止し、レーザ照射の開口数を高めることができる。
また、ワークディスタンスの一定化は、屈折液Aの液膜26Aのみならず、集光レンズ66からウェーハWに至るまでのレーザ光路において屈折率の変動がないことが重要になる。この点において本発明の実施の形態では、レーザ光路の大部分を固体媒質であるテーブル板22(例えば石英ガラス)で形成したので、ワークディスタンスをより一定化することができる。即ち、固体媒質はレーザ光路途中における屈折率の変動を極めて小さくすることが可能であり、再現性良く安定した屈折率を有するレーザ透過状態を確保することができる。
このように本発明の実施の形態では、集光レンズ66からウェーハWに至るまでのレーザ光路において屈折率の変動を極力防止し、ワークディスタンスを一定化するための工夫をしたので、ウェーハが例えば50μm以下の薄い場合であってもアブレーションを抑制しつつ精度良くレーザダイシングを行うことができる。
ワークディスタンスの変動は、レーザ光路での屈折率の変動以外にウェーハWが薄く反りや撓みが生じることによっても起こることは前述した通りである。
しかし本実施の形態において、ウェーハWは、屈折液Bの液膜26Bを介在させることによってウェーハテーブル20の保持面22Aに密着し、反りや撓みのない状態で保持面22Aに保持されているため、ワークディスタンスを一定化できる。これにより、ストリートに沿って正確に改質層Lを形成することができる。
また、ウェーハWは、表面に触れることなくウェーハテーブル20に保持されるため、表面に形成されたデバイス(MEMS素子等)を破壊することなく加工処理することができる。
また、ウェーハWの表面を密着保持していると、ウェーハWを透過したレーザ光によって保持面22Aが焼けたり、溶融物が付着したりして、保持面22Aの平滑性を保てないが、表面に触れることなくウェーハWを密着保持することにより、このような不具合が発生することも防止することができる。これにより、継続して加工しても、常に平坦にウェーハWを密着保持することができる。
更に、レーザ光は、ウェーハWの裏面に入射されるため、表面に形成されたデバイスに影響されることなく、正確かつ確実に所定の位置に改質層Lを形成することができる。
レーザ光をストリートに沿ってウェーハWに入射し、加工処理が終了すると、ウェーハWはウェーハテーブル20から搬送装置に受け渡され、搬送装置によって次工程へと搬送される。
〈屈折液A及び屈折液B〉
次に、本実施の形態で用いられる屈折液A及び屈折液Bについて説明する。
本実施の形態では、上記のように、屈折液Aは、集光レンズ66とウェーハテーブル20のテーブル板22との間の間隙に液膜26Aとして保持される。
また、ウェーハWは、そのダイシングテープTが貼着された面(裏面)を屈折液Bの液膜26Bを介在させた状態でウェーハテーブル20の保持面22Aに密着保持され、レーザ光は、ウェーハWの裏面側から屈折液Bを介して入射される。
このため、屈折液A及び屈折液Bとして用いられる液体は、少なくともレーザ光を透過可能な液体であればよく、例えば水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などを用いることが可能である。これらの液体の中でも、エタノールやIPAが好ましい。エタノールやIPAは、水に比べて表面張力が低く、集光レンズ66、テーブル板22、及びダイシングテープTに対する濡れ性が高い。このため、これらの液体(即ち、エタノールやIPA)は、集光レンズ66とテーブル板22との間隙に介在された際に液滴にならず薄膜状に濡れ広がって集光レンズ66とテーブル板22との間に保持される。これにより、屈折液Aは密着性の高い状態で集光レンズ66とテーブル板22との間に保持することができる。
また、これらの液体(即ち、エタノールやIPA)は、ウェーハWのダイシングテープTが貼着された面(裏面)とウェーハテーブル20の保持面22Aとの間に均一かつ薄膜状になって全体的に濡れ広がる。これにより屈折液Bは、より密着性の高い状態でウェーハWを密着保持することが可能となる。
特に本実施の形態では、屈折液BとしてIPAを用いる態様が好適である。IPAは、他の液体に比べて揮発性が高く、ウェーハWにウォーターマークが発生するのを抑止することができる。また、ウェーハテーブル20やその周辺部の有機物汚染を防止することもできる。なお、IPAの代わりに、IPAと他の液体との混合液(例えばIPAと水又はエタノールの混合液)を用いる態様も好ましい。
また本実施の形態では、屈折液Aは、集光レンズ66やテーブル板22と同程度の屈折率を有する液体を用いる態様が好適である。この態様によれば、集光レンズ66やテーブル板22との界面での屈折率差をなくすことができ、レーザ光の透過率を向上させることに加えて、レーザ光の屈折角の変化をなくすることが可能となる。
また、高開口数にすれば、集光レンズ66の中心から端まで使用することになり、集光レンズ66の使用範囲が広くなると、球面収差の問題が大きくなる。球面収差は、結果的に、集光点Pにおける改質層が深さ方向に大きなバラツキを持つことにつながる。特に薄いウェーハWにおいてアブレーションを防ぎながら、レーザ光を浅い集光点Pに集光させたい場合は、球面収差をできるだけ小さくする必要がある。この球面収差を低減する方法として、集光レンズ66からの屈折率差を小さくすることが望ましい。特に球面収差は、媒質内の界面における屈折率差によって屈折角が変化することによって更に大きくなる。屈折率差がなければ、光学的に媒質内の界面が存在しないよう同一媒質内を進行するように振舞うため、当然ながら入射角に対する屈折角はほぼ同じになる。
このように屈折率差の小さい屈折液Aとして、例えば、市販されているものとして株式会社モリテックスが販売しているカーギル標準屈折液Aなどが好適に使用される。これは、イマージョンオイルとも呼ばれ、ガラス同士をマウントするための液体として使用される。例えば、カーギル標準屈折液のTypeA,ないしはTypeBなどは、屈折率が1.51である。標準的な集光レンズ66などに使用されるガラスの屈折率も1.5程度であるため、ほとんど屈折率差が存在しない。そのため、集光レンズ66から出たてにおいての屈折角変化も小さく、集光レンズ66の球面収差の影響を受けにくい。
また、ウェーハWを支持するウェーハテーブル20の材料も石英ガラスを使用した場合、屈折率は1.46程度であり、屈折液Aとほとんど同等の屈折率となる。そのため、屈折角の変化がほとんどなく、球面収差の影響による集光点Pの深さ方向バラツキを小さくすることができる。
なお、屈折液Aとして好適に使用されるイマージョンオイルに、特許文献4のように基板(ウェーハ)そのものを浸漬すると、基板がイマージョンオイルで汚染してしまい、基板が使用できなくなる。対象とする基板はシリコンのみならず、サファイアやSiCなど、様々な場合が考えられるが、それらの基板に対してイマージョンオイルのなじみや汚染などは異なる。また、基盤に対して直接屈折液Aが接触することは、屈折率安定化の点からも問題は多い。
それに対して、集光レンズ66がガラスである一方、ウェーハWを支持するウェーハテーブル20もガラスとし、その間に同じガラス素材の屈折率と同等の屈折率を有する屈折液Aを使用する場合では、ほとんど屈折角は変化せず、集光レンズ66の球面収差の影響も小さくすることができる。また、絶えずガラス同士の同一素材の相互運動を潤滑し、その界面張力によって移動する透明液体によって屈折率の変化を極小化できるので、安定した光路を確保することが可能となる。その結果、高開口でレーザ光を集光できるとともに、レーザエネルギーの吸収による基板表面(ウェーハ表面)への連鎖的な改質層形成により生じるアブレーションを防ぐことが可能となる。
上記した屈折液Aと同様の理由から、屈折液Bとして、ダイシングテープTの屈折率と同程度の屈折率を有する液体を用いる態様が好適である。この態様によれば、ダイシングテープTとの界面での屈折率差をなくすことができ、レーザ光の透過率を向上させることが可能となる。例えば、ダイシングテープTがポリオレフィン系のポリエチレンフィルム(屈折率:約1.54)からなる場合には、屈折液B26としては例えばジクロロトルエン(屈折率:1.546)を好ましく用いることができる。
なお、このように所定の屈折率を有する液体は、例えば京都電子工業製の屈折率標準液や島津製作所製の接触液(屈折液)、モリテックス製のカーギル標準屈折液などを使用できる。
〈ウェーハテーブル〉
また本実施の形態では、上述したように、ウェーハテーブル20のテーブル板22は透明な石英ガラスで構成されているが、これに限らず、例えばゲルマニウム板、シリコン板、プラスチック樹脂板などで構成されていてもよい。また、ウェーハWとテーブル板22が同一素材で構成される態様によれば、その素材と同程度の屈折率を有する屈折液26を用いることにより、屈折の影響を受けることなく、レーザ光の透過率を更に向上させることが可能となる。
また、テーブル板22の素材として用いられる石英ガラスなどは、赤外光領域において、吸収帯を有し、透過率が低下する場合もある。このような場合には、テーブル板22は、石英ガラスでなくても、例えばアクリルなどの透明な樹脂材料で構成されていてもよい。
このようにテーブル板22の素材としては、レーザ光の選択する波長において透過率が好ましい。
また本実施の形態では、上述のように、テーブル板22は、加工対象とするウェーハWを撓みなく保持することができるように、必要十分な厚さを持って形成される。また、テーブル板22は、均一な厚みであることも必要とされる。
このようにウェーハテーブル20のテーブル板22の厚みを一様とし、且つ、撓みをなくすことにより、レーザ照射装置60の集光レンズ66の位置から、ウェーハテーブル20及びダイシングテープTを介して貼り付けられたウェーハ表面までの距離がほとんど一定となる。これにより、ワークディスタンスを一定化することができるので、薄いウェーハであっても一定の集光点深度位置に改質層を精度良く形成することが可能となる。
テーブル板22を形成するガラスの厚み精度は、ワークディスタンスのばらつきに大きく影響するため、200mmの石英ガラスであっても、通常TTV(Total Thickness Variation)は1μm以下、実際には0.5μm以下になるように高精度に研磨されている。
また、テーブル板22を、レーザ光源の集光レンズ66に対して動作させる相対高さ精度も0.5μm程度にまで抑えている。それらによって、オートフォーカスを使用せずとも、高精度に一定深さ位置にレーザ光を集光させることができ、アブレーションを伴わないレーザダイシングが可能となる。
なお、テーブル板22に単独で撓みが生じるような場合には、例えば図7に示すように、テーブル板22のレーザ光入射面(保持面22Aとは反対側の面)22B上に外周部に沿って円環状のリム部材30を設けるようにしてもよい。このようにテーブル板22の外周部をリム部材30などの補強部材により補強することによって、テーブル板22の撓みを抑えることが可能となる。
なお、図7に示した構成例では、テーブル板保持フレーム24の下面(ダイシングフレームF側の面)の外周部には複数の吸着穴(不図示)が形成されており、ダイシングフレームFは、吸着穴を介して真空吸着されることにより、テーブル板保持フレーム24に密着した状態で保持されている。
また本実施の形態では、ウェーハテーブル20の保持面22Aが粗面処理されていることが好ましい。また、ウェーハテーブル20の保持面22Aに代えて、或いは、ウェーハテーブル20の保持面22Aとともに、ウェーハWに貼着されるダイシングテープTの被保持面(ウェーハWとは反対側の面)が粗面処理されていてもよい。このようにウェーハテーブル20の保持面22A及びダイシングテープTの被保持面の少なくとも一方の面に粗面処理を施しておくことによって、これらの間には、微小な空間が形成され、毛細管現象によって屈折液Bが隙間なく効率的に広がる。その結果、粗面処理が施された面と屈折液Bとの接触面積が大きくなり、より大きな密着力でウェーハWが密着保持される。
こうしたウェーハテーブル20の保持面22Aを荒らす(粗面処理)手法の一つに、テクスチャリング(フェーシングによる)方法がある。例えば図8に示すように、ガラス製のウェーハテーブル20の保持面22Aに小さい溝32を同心円状ないしは螺旋状に形成しておくことにより、屈折液26が溝32に沿って一様に広がるようになる。
テクスチャリングの溝は、屈折液やウェーハテーブル20(テーブル板22)の材料にもよるが、約0.2mmの溝幅で0.4mmピッチ程度、0.1mmの溝幅で0.2mmピッチ程度でよく、ウェーハテーブル20の保持面22A上でウェーハ径に対応する面全体に形成された溝でよい。
また、テクスチャリング以外でも単純にウェーハテーブル20の保持面22Aを均等に荒らす方法がある。例えば、GC砥粒の#2000番を使用し、保持面22Aを20分程度ラッピング加工しても良い。また、#500番程度の砥粒を使用してもよい。GC以外でもWAなどの砥粒を使用して、保持面22Aを荒らしてもよい。このようにすることで、保持面22Aはすりガラス上になって、空気中では表面の荒れによって散乱し、曇ったようになる。表面粗さとしては、Raで0.1mm以下であればよいが、これに縛られず、界面張力が増大するように粗さの隙間に液体が埋まり込み、表面積が大きいほどよい。
このようにウェーハテーブル20の保持面22Aをテクスチャリングなどの手法によって荒らしておくことにより、屈折率を補償する屈折液Bを保持面22Aに滴下して、ウェーハWの裏面(ダイシングテープTが貼着された面)と保持面22Aをリンギングさせると、屈折液26は保持面22Aをくまなく一様に拡がり、ウェーハWの面内で均一な屈折率分布を得ることができる。
以上説明したように、本実施の形態のレーザダイシング装置10によれば、ウェーハ、特に50μm以下の厚みの薄いウェーハに対してレーザダイシングを行う場合であっても、アブレーションを防止し、照射効率を向上でき、ワークディスタンスを一定にできるので、精度の良いレーザダイシング加工を行うことができる。
また、ウェーハ表面に形成された微細構造のデバイスを破壊することなくウェーハの反りや撓みを矯正してワークディスタンスを一定化することができるので、ウェーハ、特に50μm以下の薄いウェーハであってもウェーハ内部に改質層を精度良く形成することができる。
[ウェーハ処理方法]
上記のレーザダイシング方法によってダイシング処理されたウェーハWは、その後、外的応力が印加されて、チップに分割される。この処理は、例えば、エキスパンド装置によって行われる。
図9は、エキスパンド装置によるエキスパンド処理の概略を示す工程図である。
レーザダイシングされたウェーハWは、図9(a)に示すように、表面を上にして剥離テーブル110の上に載置される。また、ダイシングフレームFが、図示しないフレーム固定機構によって所定位置に固定される。
ウェーハWが剥離テーブル110の上に載置され、ダイシングフレームFが固定されると、図9(b)に示すように、剥離テーブル110の周部を囲むように配置されたリング112が、図示しない昇降機構により押し上げられて上昇する。これにより、ウェーハWの裏面側に貼着されたダイシングテープTが放射状にエキスパンド(伸張)される。そして、このダイシングテープTがエキスパンドされることにより、ウェーハWに外的応力が印加され、改質層Lを起点として、ウェーハWが分割される。改質層Lはストリートに沿って形成されているので、ウェーハWはストリートに沿って分割される。ストリートは、個々のチップの間に設定されるので、ウェーハWは、個々のチップに分割される。
このように、レーザダイシングされたウェーハWは、外的応力を印加することにより、個々のチップに分割される。
[レーザダイシング装置の別態様]
図1等で説明したレーザダイシング装置では、装置に付属するウェーハテーブル20に高精度な一様厚みのテーブル板22を搭載し、そのテーブル板22のテーブル面を基準にウェーハWを貼り付けることで、ワークディスタンスを一定にするという方法である。
しかし、薄いウェーハ内部に改質層を、アブレーションを起こすことなく形成する方法として、予め薄いウェーハWを高精度な一様厚みの透明板(以下、「透明サポート基板202」という)に貼り付けた一体物として準備してもよい。この場合は、装置に搭載されたウェーハテーブル20の代わりに、透明サポート基板202にウェーハWが貼り付けられて一体となったウェーハユニット200として扱われる。したがって、透明サポート基板202がウェーハテーブル20の役割を果たす。
ただし、ウェーハユニット200のうち透明サポート基板202はダミー部分であり、改質層を形成する真の部分は透明サポート基板に貼り付けられた薄いウェーハWである。
このウェーハユニット200を、ウェーハユニット200の周縁部を保持可能なステージ装置(図示せず)に搭載する。そして、ステージ装置を上記したウェーハテーブル20の場合と同様に動作・制御を行うことでウェーハ内部にアブレーションを発生させることなく精度よく改質層を形成することができる。
このウェーハユニット200を用いる方法は、例えばTSV(シリコン貫通ビア)用等のウェーハWのように、ウェーハ表面に電極等の突起物であるバンプ204が形成されているために、表面自体に凹凸があり平面ではない場合などに特に有効である。
次に、図10により、ウェーハユニット200を作成する工程について説明する。
まず、図10(A)に示すように、薄いウェーハWを支えるための透明サポート基板202を用意する。
次に、図10(B)に示すように、レーザダイシングを行うウェーハWのバンプ204が形成された側を下にして透明サポート基板202の上に載置する。
次に、図10(C)に示すように、ウェーハWと透明サポート基板202との外周部を、封止材206、例えばテープやワックス剤で封止することによって、ウェーハWと透明サポート基板202との当接面に形成される隙間を囲む。
封止材206として使用されるテープは、ポリオレフィン系のフィルムやポリエチレン系のフィルムを好ましく使用することができる。そして、このテープでウェーハWの外周部と透明サポート基板202の外周部とに跨るように貼着して外周部を封止する。
この状態をユニット中間体200Aという。封止材206には、後記する屈折液Bを前記隙間に注入するための注入細管222を挿通するための微細孔(図示せず)が形成されている。
次に、図10(D)に示すように、ユニット中間体200Aを、真空チャンバ208内の載置台210に載置する。真空チャンバ208には、真空チャンバ内を減圧する真空ポンプ212が配管214を介して接続されるとともに、配管214には開閉バルブ216が設けられる。真空チャンバ208には、ユニット中間体200Aを出し入れする開閉扉は省略して図示してある。
また、真空チャンバ208には、ウェーハWと透明サポート基板202との当接面に形成される隙間に屈折液Bを注入するための注入装置218が設けられる。注入装置218は、屈折液Bが貯留される貯留瓶220と、貯留瓶220から屈折液Bを前記隙間に注入する注入細管222と、貯留瓶220に屈折液Bを補充する補充管224とで構成される。
そして、まず真空チャンバ208内が真空ポンプ212によって減圧される。これにより、ウェーハWと透明サポート基板202との当接面に形成される隙間が減圧される。
次に、図10(E)に示すように、注入装置218の注入細管222を封止材206の微細孔から挿入し、減圧状態にある隙間に屈折液Bを注入する。この隙間はバンプ204によって形成されるものであり、隙間の間隔もバンプ高さ程度であり、極めて小さい。したがって、屈折液Bは、毛細管現象により隙間内に充填されていく。この注入工程では、真空ポンプ212は停止しておくことが好ましい。
隙間に屈折液Bが充填されたら、テープの微小孔はワックス等で塞ぐ。これにより、ウェーハWと透明サポート基板202とが屈折液Bの液膜26Bによる界面張力で密着されたウェーハユニット200が形成される。
次に、図10(F)に示すように、ウェーハユニット200を真空チャンバ208から取り出す。ウェーハユニット200は、外部から大気圧がかかっても、ウェーハWと透明サポート基板202との間に屈折液Bが充填されていて極度に撓むことはなく、界面張力によって両者は密着している。
このように形成されたウェーハユニット200は、レーザダイシング装置の上記したステージ装置に保持され、レーザダイシング処理がなされる。
そして、レーザダイシング処理が終了したウェーハユニット200は、図11に示す方法によって、透明サポート基板202からウェーハWを剥離する。
まず、図11(A)に示すように、封止材206を取り除いたウェーハユニット200を、ウェーハ側を下にして剥離用の耐圧容器300内に載置する。耐圧容器300は容器本体302と蓋304とで構成される。容器本体302の底部には、ウェーハユニット200のウェーハWよりも一回り大きな円板状の窪み306が形成される。また、容器本体302には、容器内を減圧する真空ポンプ308が配管310を介して接続される。更に、前記した窪み306には、液体(例えば水)を窪み306に供給する液体供給配管312の先端部が開口される。
そして、図11(B)に示すように、この窪み306に嵌まるように、ウェーハユニット200のウェーハ面が載置される。
この状態で、真空ポンプ308を駆動して耐圧容器300内を減圧する。この減圧によって、ウェーハWと透明サポート基板202との間に介在される液膜26Bを形成する屈折液Bが蒸発して除かれる。これにより、ウェーハWと透明サポート基板202との間の界面張力がなくなる。
次に、図11(C)に示すように、液体供給配管312から僅かの液体を窪み306に供給してウェーハ面と窪み面との間に液膜314を形成する。これによって、ウェーハ面と窪み面との間が液膜314の界面張力によって密着する。
この状態で、耐圧容器300の蓋304を外して、別途設けた吸着パッド316で透明サポート基板202の上面を吸着し、吸着パッド316を上昇させる。これにより、ウェーハWから透明サポート基板202が剥離される。
本発明は、上記説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念を逸脱しない範囲で含まれる。
(付記)
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書では以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
(付記1)本発明のレーザダイシング装置は、前記目的を達成するために、表面に複数のデバイスが形成されたウェーハに対して、レーザ光を照射し、該ウェーハの内部に改質層を形成するレーザダイシング装置において、前記レーザ光を透過可能に形成され、前記ウェーハの裏面側を密着保持する平坦な保持面を有するウェーハテーブルと、前記レーザ光を前記ウェーハの裏面側から前記ウェーハテーブルを介して照射するレーザ照射手段と、を備え、前記レーザ照射手段の集光レンズ面と前記ウェーハテーブルのレーザ光入射面との間の間隙には、空気よりも屈折率の大きな屈折液Aの液膜が界面張力によって保持されていることを特徴とする。
(付記2)本発明のレーザダイシング方法は、前記目的を達成するために、表面に複数のデバイスが形成されたウェーハに対して、レーザ照射手段からレーザ光を照射し、該ウェーハの内部に改質層を形成するレーザダイシング方法において、前記レーザ光を透過可能に形成されるとともに、前記ウェーハの裏面側を密着保持する平坦な保持面を有するウェーハテーブルによって前記ウェーハを保持するウェーハ保持工程と、前記レーザ照射手段の集光レンズ面と前記ウェーハテーブルのレーザ光入射面との間が所定距離の間隙となるように前記レーザ照射手段及び/又は前記ウェーハテーブルを接近移動させる移動工程と、前記間隙に空気よりも屈折率の大きな屈折液Aを供給して液膜を形成する液膜形成工程と、前記レーザ光を前記ウェーハの裏面側から前記ウェーハテーブルを介して照射する照射工程と、を備えたことを特徴とする。