本発明は、高分子電解質膜、前記高分子電解質膜の一方の側に順次配置されるカソード触媒層および導電性を有しかつガスを遮断するためのカソードセパレータ、ならびに前記高分子電解質膜の他方の側に順次配置されるアノード触媒層および導電性を有しかつガスを遮断するためのアノードセパレータ、を有する燃料電池であって、流路幅100μm以上になるように並行に配置された複数の導電性線材からなるリブ幅が300μm以下のリブと、導電性多孔質基材からなる支持体が、隣り合う状態でかつ前記支持体が前記アノードセパレータに隣接した状態で配置され、かつ前記リブが前記アノードセパレータに隣接した状態で配置された支持体と前記アノード触媒層との間に配置されて、ガス流路空間を形成し、および前記支持体が前記カソード触媒層に隣接した状態で配置され、かつ前記リブが前記カソード触媒層に隣接した状態で配置された支持体と前記カソードセパレータとの間に配置されて、ガス流路空間を形成し、前記支持体は、金属製であるまたは表面が金属で被覆されてなる、燃料電池に関する。
また、本発明は、高分子電解質膜、前記高分子電解質膜の一方の側に順次配置されるカソード触媒層および導電性を有しかつガスを遮断するためのカソードセパレータ、ならびに前記高分子電解質膜の他方の側に順次配置されるアノード触媒層および導電性を有しかつガスを遮断するためのアノードセパレータ、を有する燃料電池であって、流路幅100μm以上になるように並行に配置された複数の導電性線材からなるリブ幅が300μm以下のリブと、導電性多孔質基材からなる支持体が、隣り合う状態でかつ前記支持体が前記カソードセパレータに隣接した状態で配置され、かつ前記リブが前記カソードセパレータに隣接した状態で配置された支持体と前記カソード触媒層との間に配置されて、ガス流路空間を形成し、および前記支持体が前記アノード触媒層に隣接した状態で配置され、かつ前記リブが前記アノード触媒層に隣接した状態で配置された支持体と前記アノードセパレータとの間に配置されて、ガス流路空間を形成し、前記支持体は、金属製であるまたは表面が金属で被覆されてなる、燃料電池に関する。
本発明は、リブ(導電性線材)を、カソード側またはアノード側の触媒層とセパレータとの間に配置することを特徴とする。当該リブ(導電性線材)の配置により、ガス拡散用の流路空間を形成する。このため、本発明の燃料電池は、十分なガス拡散性を確保できる。また、本発明は、支持体をカソード触媒層またはアノード触媒層に近接するように配置されることをも特徴とする。当該支持体の配置により、以下の利点(i)〜(v)がある。(i)支持体が組付け圧力作用時に導電性線材が触媒層に埋没することを抑制・防止するため、十分なガス拡散性を確保できる。また、従来に比べて流路幅を広げることができるため、ガス拡散性をより向上できる。(ii)支持体とリブは、面外方向(スタック組み付け圧力の方向)の圧縮力に対して、曲げ応力が発生する部位がないため、面外圧縮方向に塑性変形が起こりにくい。(iii)支持体が触媒層に近接して配置されるため、支持体がガス差圧によるMEAのテンティングを抑制・防止できる。(iv)リブの設置がずれた場合であっても、曲げモーメントは支持体が受けるため、MEAに大きな曲げ応力が発生しないため、燃料電池の構造的な強度が上がる。(v)当該支持体は導電性多孔質基材からなるため、電気抵抗が低いため、燃料電池は優れた集電機能を発揮できる。
また、本発明によると、リブと支持体が独立して配置される。このため、リブずれ状態でも十分な強度を示す構造を実現、さらにはアノードとカソードのそれぞれのガスが流れる流路方向を個別に自由に設定できるなど、目的に応じて、リブ及び支持体の設計(メッシュ粗さ、線径、ピッチなど)を独立してかつ自由に行える。
以下、本発明に係る燃料電池について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本発明の燃料電池の種類としては、特に限定されない。具体的には、固体高分子形燃料電池(PEFC)、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池、リン酸型燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、固体高分子形燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
このため、以下では、高分子電解質形燃料電池を例に挙げて本発明の好ましい実施形態を説明する。
本実施形態に係る燃料電池10は、図1に示すように、高分子電解質膜20が備えられている。この高分子電解質膜20の一方の面には、カソード触媒層30cと、導電性を備え、ガスを遮断するためのカソードセパレータ70cとが設けられている。また、カソード触媒層30cとカソードセパレータ80cとの間には、導電性多孔質基材からなるカソード支持体50cがカソード触媒層30cに近接した状態で配置される。カソードセパレータ70c側のカソード支持体30c上に、複数の導電性線材からなるカソードリブ60cが配置される。カソードリブ60c間の空間が、酸化剤ガスをカソード触媒層30cに供給するガス流路空間100cとなる。また、高分子電解質膜20の他方の面には、アノード触媒層30aと、カソードセパレータ70cと同様に導電性を備え、ガスを遮断するためのアノードセパレータ70aとが設けられている。また、アノード触媒層30aとアノードセパレータ70aとの間には、導電性多孔質基材からなるアノード支持体50aがアノード触媒層30aに近接した状態で配置される。アノードセパレータ70a側のアノード支持体30a上に、複数の導電性線材からなるアノードリブ60aが配置される。アノードリブ60c間の空間が、燃料ガスをアノード触媒層30aに供給するガス流路空間100aとなる。このような構造によって、積層荷重による面外方向の圧縮力が作用しても、リブは支持体にまでしかめり込まず、MEAのカソード及びアノード触媒層にめり込むことを抑制・防止する。このため、良好なガス拡散性および圧損の低減が達成できる。また、組付け時にリブずれが起きても、曲げ荷重を支持体が受けるため、MEAの曲げ応力を緩和でき、面外方向の圧縮力に対する塑性変形を抑制・防止できる。
そして、高分子電解質膜20、アノード触媒層30a、アノード支持体50a、アノードリブ60a、カソード触媒層30c、カソード支持体50c及びカソードリブ60cは、積層された状態で膜電極接合体(MEA)80を構成する。さらに、複数のMEA80をアノードセパレータ70a及びカソードセパレータ70cを介して順次積層することによって、燃料電池スタックを構成する。ここで、燃料電池スタックにおいて、セパレータ70a,70cと高分子電解質膜20との間などにガスシール部を配置してもよいが、図1では図示を省略している。
図1では、カソードおよびアノード双方の側で、支持体50c,50aが触媒層30c,30aに近接した状態で配置され、リブ60c,60aが支持体50c,50aとセパレータ70c,70aとの間に配置される。しかしながら、このような形態は、アノード及びカソードの少なくともいずれか一方に適用されていればよい。このため、図2〜5に示されるような実施形態もまた本発明に包含される。即ち、図2では、カソード側では、図1と同様、カソード支持体50cがカソード触媒層30cに近接した状態で配置され、カソードリブ60cがカソード支持体50cとカソードセパレータ70cとの間に配置される。一方、アノード側では、アノード支持体50aがアノードセパレータ70aに近接した状態で配置され、アノードリブ60aがアノード支持体50aとアノード触媒層30aとの間に配置される。また、図3では、図2とは逆の実施形態、即ち、カソード側では、カソード支持体50cがカソードセパレータ70cに近接した状態で配置され、カソードリブ60cがカソード支持体50cとカソード触媒層30cとの間に配置される。アノード側では、図1と同様、アノード支持体50aがアノード触媒層30aに近接した状態で配置され、アノードリブ60aがアノード支持体50aとアノードセパレータ70aとの間に配置される。図4では、カソード側のみが、図1と同様、カソード支持体50cがカソード触媒層30cに近接した状態で配置され、カソードリブ60cがカソード支持体50cとカソードセパレータ70cとの間に配置される。アノード側には、通常の燃料電池と同様、アノードガス拡散層110aおよび燃料ガスが流れる流路となる溝状のリブ121aを備えたアノードセパレータ120aが配置される。また、図示はしないが、以下のような図4と逆の構成もまた本願発明に包含される。即ち、アノード側のみが、図1と同様、アノード支持体50aがアノード触媒層30aに近接した状態で配置され、アノードリブ60aがアノード支持体50aとアノードセパレータ70aとの間に配置される。カソード側は、通常の燃料電池と同様、カソードガス拡散層および酸化剤ガスが流れる流路となる溝状のリブを備えたカソードセパレータが配置されてもよい。
ここで、カソードは、燃料電池性能に対する感度が高い。また、アノード側のガス拡散性は、カソード側に比べて高く、リブが触媒層にめり込んだ場合の性能低下への影響がより少ない。このため、図1、2及び4に示されるように、少なくともカソード側に支持体およびリブを配置することが好ましい。すなわち、リブおよび支持体は、隣り合う状態でかつカソード触媒層に支持体が近接するように配置されて、ガス流路空間を形成することが好ましい。このように、カソード側にリブおよび支持体を上記したように配置してリブの触媒層へのめり込みを防止することによって、ガス拡散性を向上すると共に、導電性を有する支持体がMEAの触媒層に接するため、面内方向の電気抵抗をも低減できる。
また、上記形態のうち、図1及び2の形態が好ましく、図1の形態が特に好ましい。特に図1の場合には、カソード及びアノード両極共に、リブのめり込みを防止できるため、両極でのガス拡散性を向上できる。また、カソード及びアノード両極共に、導電性のある支持体が触媒層と接するため、電気抵抗を低減して、集電機能を向上することができる。さらに、カソード及びアノード両極いずれの側に差圧がかかっても、触媒層と接している支持体が燃料電池の運転中のガス差圧によるMEA(触媒層及び高分子電解質膜)のテンティング(流路閉塞)を防ぐことが可能である。
以下、本実施形態の燃料電池10の各部材について詳述する。なお、下記説明において、特記しない限り、アノード側およびカソード側の各部材の構成は同様の定義である。このため、以下では、アノード側およびカソード側の各部材の構成が同様である場合には、付号を一括して記載する。例えば、カソード側の支持体50cとアノード側の支持体50aとが同様の構成である場合には、これらを一括して「支持体50」と称する。
(支持体)
図1〜4に示されるように、支持体50は、触媒層30またはセパレータ70に近接して配置されるが、カソード触媒層及びアノード触媒層の少なくとも一方に近接して配置される。支持体50は、導電性多孔質基材からなる。支持体50は、触媒層30に近接する場合には、触媒層30に直接接触することによって、触媒層30との間の導電性を確保している。同様にして、支持体50は、セパレータ70に近接する場合には、セパレータ70に直接接触することによって、セパレータ70との間の導電性を確保している。
支持体50は、導電性多孔質基材からなる板状部材である。ここで、支持体は、触媒層にガスを供給するという観点などから、多数の開孔を有する。これにより、十分量のガス(燃料ガスや酸化剤ガス)を直接触媒層に供給できる。その結果、触媒層30の全面が均一に反応に寄与することができるため、セル電圧を高めることができる。支持体50の配置は特に制限されないが、支持体50は、触媒層30またはセパレータ70の表面全体に近接するように配置することが好ましい。これにより、セル抵抗が低くなり、カソード側で発生した電流を容易にセパレータ70に通電することができる。なお、支持体50を、触媒層30またはセパレータ70の表面の一部に近接するように配置してもよい。
支持体50は、いずれの導電性多孔質基材であってもよく、特に制限されないが、MEAよりも曲げ弾性が大きいものが好ましい。例えば、メタルメッシュ(金網)、パンチングメタル、エッチングメタル及びエキスパンドメタルなどが挙げられる。これらの支持体50は、触媒層30全面にわたってガスを直接供給することができるため、触媒層30の全面を均一に利用することができ、セル電圧を高めることができる。これらのうち、メタルメッシュを使用することが好ましい。使用するメタルメッシュの寸法は、特に制限されず、所望の効果などを考慮して適宜選択できる。例えば、メタルメッシュのメッシュ数は、100メッシュ以上であることが好ましく、100〜500メッシュであることがより好ましい。このような開孔数であれば、触媒層30全面に容易にガスを供給することができ、セル電圧を高めることができる。また、メタルメッシュを構成する線材の線径は、25〜110μmであることが好ましい。このような線径であれば、単位面積あたりの触媒層30やセパレータ70との接触面積が多くなる。そのため、セル内の電気抵抗を低くし、アノード触媒層30aで発生した電子を容易にカソード触媒層30cに伝達できる。また、メタルメッシュのピッチは、50〜260μmであることが好ましい。メタルメッシュの織り方は特に限定されず、平織、綾織、平畳織、綾畳織など何れでもよい。メタルメッシュの場合、交錯した線材同士の間の網目が、開孔に相当する。なお、上記メッシュ数及び線径は、JIS G3555に従い、測定することができる。また、ピッチは、隣接する凸部の頂点間距離を測定することにより求めることができる。
支持体50をエッチングメタルから形成する場合の支持体の形態も特に制限されない。通常、開孔率は、30%以上であることが好ましい。また、開孔の孔径が200μm以下であることが好ましい。これにより、セル電圧を高め、セル抵抗を低くすることができる。なお、支持体50をパンチングメタルやエキスパンドメタルから形成する場合にも同様に、支持体50のガス供給機能及び集電機能が好適に発揮されるように、開孔率や開孔のサイズ(孔径)を定められる。
支持体50を構成する導電性材料は、特に制限はなない。具体的には、支持体(導電性多孔質基材)50は、金属製であるまたは表面が金属で被覆されてなることが好ましい。ここで、金属としては、特に制限されないが、金属セパレータの構成材料として用いられているものが適宜用いられる。例えば、鉄、チタン及びアルミニウム、ならびにこれらの合金などが挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンス及び加工容易性などの観点から好ましく用いられる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、支持体50は、ステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成することが好ましい。また、表面が金属で被覆されたものを支持体として使用する場合の、金属は、特に制限されず、上記したのと同様の材料が使用できる。また、この際の芯材は、特に制限されないが、導電性を有することが好ましい。例えば、導電性の高分子材料、導電性炭素材料などが使用できる。
支持体50の表面を導電性の防食処理を施してもよい。導電性の防食処理によって、支持体50の腐食を抑制・防止して、セルの耐久性を高めることができる。上記導電性防食処理としては、金又は導電性炭素のコーティングであることが好ましい。金コーティングとしては、金メッキを用いることができる。また、金コーティングとしては、金を支持体表面に張り合わせた金クラッドを用いることができる。さらに、導電性炭素のコーティングとしては、支持体50の表面に導電性炭素層を設けることが好ましい。このように、導電性腐食処理が金メッキ、金クラッド又は導電性炭素層である場合には、支持体が燃料電池内の環境下で腐食しにくくなるため、セルの耐久性を高めることができる。
導電性炭素層による導電性防食処理において、導電性炭素層が有する結晶構造は、耐食性を付与できる限り、特に制限されない。しかし、炭素層の結晶構造が異なると、これに起因して耐食性や導電性も変動する。そのため、導電性炭素層の優れた導電性を十分に確保しつつ耐食性を向上させるためには、導電性炭素層に含まれる炭素の結晶構造を制御することが重要である。そこで、導電性炭素層140は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)が1.3以上であることが好ましい。炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近及び1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる、つまり結晶構造欠陥が増し、グラファイト構造が乱れるにつれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される。なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスタサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本実施形態においては、R値を導電性炭素層の接触抵抗の指標とすることができ、さらに導電性炭素層の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
上述したように、本実施形態において、R値は1.3以上であることが好ましい。また、当該R値は、好ましくは1.4〜2.0であり、より好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、燃料電池の積層方向の導電性が十分に確保された導電性炭素層が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性炭素層自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である支持体50との密着性を一層向上させることができる。
導電性炭素層を構成する導電性炭素は、特に制限されないが、例えば、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどを使用することができる。また、カーボンブラックの具体例として、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック又はサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。上記炭素材料は、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。また、上記導電性炭素層は、上記導電性炭素のみから形成されていてもよいが、後述するように、撥水剤や親水剤を含有していてもよい。
導電性炭素層の製造方法としては、まず、支持体50を適当な溶媒を用いて表面の脱脂及び洗浄処理を行う。溶媒としては、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレン及び苛性アルカリ剤などを用いることができる。脱脂及び洗浄処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。続いて、支持体50の表面に形成されている酸化皮膜の除去を行う。酸化皮膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、またはイオンボンバード処理などが挙げられる。導電性炭素層は、導電性炭素からなるターゲット材をターゲットとして、支持体50の表面に成膜することにより、形成することができる。その際、スパッタ法もしくはアークイオンプレーティング法などの物理的蒸着(PVD)法、またはフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法を利用することが好ましい。前記スパッタ法として、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法などが挙げられる。このような形成方法を用いることにより、水素含有量の少ない導電性炭素層140を形成することができる。したがって、炭素原子同士の結合(sp2)の割合を増加させることができ、優れた導電性が得られる。
ここで、上述のように、支持体50を撥水処理してもよい。撥水処理によって、支持体50の開孔部とセパレータ70との間における水の滞留が減少し、水によるガス供給の阻害がなくなる。また、支持体50やリブ60での水のフラッディングが抑えられるため、触媒層30にガスを滞りなく供給できる。これにより、セル電圧の急激な低下を抑えて、セル電圧を安定させることが可能となる。撥水処理としては、支持体50に撥水剤を被覆させる方法や上記導電性炭素層に撥水剤を含有させる方法がある。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。PTFEやPVdFなどは、燃料電池内の環境下での劣化が少ないことから、支持体50の撥水性を保って、セルの耐久性を高めることができる。
また、支持体50は、撥水処理の代わりに親水処理が施されていてもよい。親水処理によって、触媒層30からの液水を流路側に引き寄せるため、触媒層30内の水詰まりを低減できる。この結果、セル電圧の急激な低下を抑えて、セル電圧を安定させることができる。親水処理としては、支持体50に親水剤を被覆させる方法や上記導電性炭素層に親水剤を含有させる方法がある。親水剤としては、特に限定されないが、シランカップリング剤やポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
なお、支持体50に親水処理と撥水処理とを合わせて施してもよい。例えば、支持体50の一方の面には親水処理を施し、他方の面には撥水処理を施してもよい。この場合には、支持体50におけるセパレータ側の面に親水処理を施し、触媒層側の面に撥水処理を施すのが好ましい。
(リブ)
リブ60は、複数の導電性線材からなる。リブ60は、セパレータ70に近接する場合には、セパレータ70に直接接触することによって、セパレータ70との間の導電性を確保している。同様にして、リブ60は、触媒層30に近接する場合には、触媒層30に直接接触することによって、触媒層30との間の導電性を確保している。
図1〜4に示されるように、リブ60は、厚み方向で、MEAを介して、実質的に相互に重なるような位置(実質的に同位置)に配置される。また、リブ60は、リブ幅が300μm以下であり、100μm以上の流路幅で、支持体50及びセパレータ70間にまたは触媒層30及び支持体50間に実質的に並行に配置される。ここで、リブ60間の空間がガス流路空間100となる。本明細書中、「リブ幅」は、ガス流路空間100の高さを規定する長さを意味する。例えば、リブの断片が円形である場合には、リブ幅は、リブを構成する導電性線材の直径に相当し、図1中の「R」の長さである。また、「流路幅」は、ガス流路空間100を実質的に形成するリブ間の距離を意味し、図1中の「L」の長さである。なお、「リブピッチ」は、隣接するリブ中心間の距離(図1中の「P」の長さ)であり、リブピッチは、リブ幅及び流路幅によって規定できる。
本発明では、リブ60のリブ幅(R)は300μm以下である。ここで、リブ幅が300μmを超えると、MEA内部において、ガス流路空間から供給されるガスがリブ直下のエリアまで拡散しにくくなるため、燃料電池のガス輸送抵抗が増大し、発電性能が低下する。燃料電池の高出力密度化などを考慮すると、リブ60のリブ幅(R)は、50〜300μmが好ましく、100〜200μmが特に好ましい。なお、上記したように、リブ(導電性線材)の断面が円形である場合には、リブ幅はリブを構成する導電性線材の直径になる。リブの断面形状は上記円形に限られず、ラグビーボール形、円盤形、不定形、矩形、三角形などであってもよい。このような場合の「リブ幅」は、上記したように、ガス流路空間100の高さを規定する長さである。好ましくは、リブの断面形状は円形である。また、このような場合の「流路幅」は、リブピッチからリブ幅を引いた値(μm)(=「リブピッチ(μm)」−「リブ幅(μm)」)を意味する。
また、リブ(導電性線材)の高さは支持体(導電性多孔質基材)の厚みより大きいことが好ましい。これにより、ガスの流れる層と流路を支持する層との役割を分け、ガス流路構造の最適化(例えば、圧損低減、セルピッチ低減)を計ることができる。また、十分なガス流路空間を確保できる。ここで、「リブ(導電性線材)の高さ」は、燃料電池の厚み方向のガス流路空間の高さに相当し、例えば、リブ(導電性線材)の断面が円形である場合には、リブ幅がリブ(導電性線材)の高さに相当する。リブ(導電性線材)の高さと支持体(導電性多孔質基材)の厚みとの関係は、特に制限されないが、支持体(導電性多孔質基材)の厚みに対するリブ(導電性線材)の高さの比が、1/1〜16/1であることが好ましく、1.4/1〜4/1であることがより好ましい。このような比であれば、ガスの流れる層と流路を支持する層との役割を分け、ガス流路構造の最適化(例えば、圧損低減、セルピッチ低減)を計ることができる。また、面外方向の圧縮時のリブの触媒層へのめり込みは防ぎつつ、十分なガス流路空間を確保できる。
また、リブ60は、100μm以上の流路幅(L)で、支持体50及びセパレータ70間にまたは触媒層30及び支持体50間に実質的に並行に配置される。ここで、流路幅が100μm未満であると、リブによって形成されるガス流路空間が狭すぎて、十分量のガス(燃料ガスや酸化剤ガス)を触媒層に供給することができず、十分な性能を達成できない。また、発電エリアにおいて流路が占める比率が減少するため、ガス輸送抵抗が増大し、発電性能が低下する。さらには、隣り合うリブ同士の間隔が狭くなるため、リブと流路を具現化する過程において精密な位置決めや微細な加工等が必要となって、部品のコストが増大するという欠点もある。ガスの供給量、燃料電池の発電性能向上、低コスト化などを考慮すると、流路幅(L)は、100〜2000μmが好ましく、200〜1000μmが特に好ましい。
このように、リブ幅が300μm以下のリブ60を、流路幅100μm以上になるように実質的に並行に配置することによって、ガスを効率的に触媒層中に拡散して、十分なガス拡散速度および十分なガス供給機能を確保できる。しがたって、本発明の燃料電池を使用すると、電気化学的反応の進行が促進され、その結果、高出力化を達成することができる。また、十分なガス拡散速度を確保できるため、特にカソード側に設置した場合には、カソード側で生成した水をガス拡散方向の下流側に排出し易くなる。その結果、生成水が滞留するフラッディング現象を十分に抑制することができる。この観点からも、電気化学的反応の進行を促進し、高出力化を図ることができる。さらに、反応ガスの圧力損失が少なくなるので、流量分布が均一になり、電圧の安定化を図ることもできる。
上記に加えて、導電性のある支持体50または導電性のあるリブ60が触媒層30またはセパレータ70に直接接触している。そのため、支持体50及びリブ60を介して触媒層30とセパレータ70との間の導電を十分確保できる。このため、カーボンペーパ等のガス拡散層(GDL)を設けなくてもセル抵抗が低く抑えられるため、カソード触媒層30cにおいて発生した電流を容易にカソードセパレータ70c側に通電させることができる。ゆえに、十分なガス拡散性及び導電性は確保しつつ、燃料電池の薄層化を図ることができる。
ここで、リブ幅(R)とリブピッチ(P)との関係、即ち、リブ幅(R)と流路幅(L)との関係は、特に制限されない。例えば、リブ幅(R)に対するリブピッチ(P)の割合(=リブピッチ/リブ幅)が2/1以上となるように、リブ幅(R)及び流路幅(L)を制御することが好ましい。従来一般的に使用されるセパレータは、図4のアノード側に示されるように、溝状のリブ121aの幅およびリブ121a間の距離がほぼ同等である。このため、上記リブピッチ/リブ幅の割合に相当する、リブ121aの幅に対する隣接するリブ121aの中心間の距離の割合は、約2/1となる。ガスは、厚み方向でリブ121aと接する面には直接供給される。しかし、セパレータ120aと接する面にはリブ121aが存在しないため、ガスは、直接触媒層には直接供給されず、リブ121aと接する面を介して触媒層の面方向に供給される。このため、従来のセパレータのようにリブピッチ/リブ幅の割合が小さいと、触媒層に直接供給されるガス量が十分でないという問題があった。これに対して、また、リブピッチ/リブ幅の割合をこのような範囲にすることによって、厚み方向でリブ60が存在しない触媒層部分の面積を十分大きく確保できるため、十分量のガス(燃料ガスや酸化剤ガス)を直接触媒層に供給できる。その結果、触媒層30の全面が均一に反応に寄与することができため、セル電圧を高めることができる。例えば、リブピッチ/リブ幅の割合が2/1の場合には、触媒層の面積に対するガスが直接触媒層中に流れ込む部分の面積の割合(流路比率)は約50%である。これに対して、リブピッチ/リブ幅の割合を5.3/1(例えば、リブピッチ=800μm、リブ幅=150μm)にすることによって、流路比率が約80%にまで向上できる。なお、本発明によると、リブを支持体上に自由に置くことができるため、リブ幅(R)と流路幅(L)を自由に調節できる。ガスの供給効率、支持体の厚さや強度などを考慮すると、リブピッチ/リブ幅の割合は、2/1〜10/1が好ましく、2.5/1〜6/1がより好ましい。
リブ60の配置は特に制限されないが、図6(a),(b)に示されるように、リブ60は、ガスの流下方向と平行になるように並行に配置されることが好ましい。すなわち、リブを燃料電池(単セル)内のガスの流れ方向に対して平行になるように配置することが好ましい。これにより、アノード側及びカソード側の流路設計を同一のものにでき、圧力損失を下げることができる。
リブ60の材質を構成する導電性材料は、特に制限はなない。具体的には、リブ(導電性線材)60は、金属製であるまたは表面が金属で被覆されてなることが好ましい。ここで、金属としては、特に制限されず、具体的な例示は支持体50を構成する導電性材料と同様である。好ましくは、ステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成することが好ましい。また、表面が金属で被覆されたものをリブとして使用する場合の、金属もまた特に制限されず、上記したのと同様の材料が使用できる。また、この際の芯材は、特に制限されないが、導電性を有することが好ましく、具体的な例示は支持体50を構成する材料と同様である。
また、リブ60の表面を導電性の防食処理を施してもよい。ここで、導電性の防食処理の詳細は、支持体50と同様であるため、ここでは説明を省略する。リブ60を撥水処理および親水処理の少なくとも一方を施してもよく、この際の撥水処理および親水処理の詳細は、支持体50と同様であるため、ここでは説明を省略する。
リブ60は支持体50上にそのまま配置されてもよいが、支持体50上に固定されることが好ましい。一般的に、燃料電池(単セル)内での個々の部品では幾何公差のバラツキが存在する。このため、すべてのリブに均等にセパレータからの面圧が伝わるわけではない。また、リブは、必ずしも表面が平滑な支持体上に配置されるわけではなく、表面に凹凸のある支持体上に並べられることもある。しかし、上記したような構成をとることによって、組み立て時のリブずれ、および運転中の面圧変動やガス圧変動などによるリブずれを抑制・防止できる。また、リブ60を支持体50上に固定することによって、支持体の曲げ剛性を向上できる。加えて、リブ60がストレート形状でない場合であっても、支持体との接点を固定することによって、支持体の面内縦横両方向の曲げ剛性を向上できる。
ここで、支持体50上へのリブ60の固定方法は特に制限されない。具体的には、熱接合、機械的固定などが挙げられる。このうち、熱接合方法としては、以下に制限されないが、支持体とリブとの接点を、溶接、焼結、溶着等によって固定する方法などがある。また、機械的固定方法としては、以下に制限されないが、リブに支持体の開孔部に勘合するための突起部を設けて、当該突起部を支持体の開孔部に嵌合させる方法、リブにワイヤを設置して、当該ワイヤを支持体の開孔部に通して固定する方法、支持体の開孔にワイヤを通して、当該ワイヤでリブを固定する方法などがある。このうち、熱接合が好ましく使用される。熱接合によると、支持体及びリブに面圧が掛からない部位や非接触の部位があっても電気伝導性を確保できる。また、熱接合は、操作の容易性などの点から有利である。
(第2の層)
本発明の燃料電池は、高分子電解質膜20、触媒層30a,30c、セパレータ70a,70c、支持体50cおよびリブ60cまたは支持体50aおよびリブ60aを必須に含む。上記構成部材に加えて、図5に示されるように、カソード側のカソード第2の層40cおよびアノード側のアノード第2の層40aを、それぞれ、カソード触媒層30cとカソード支持体50cとの間およびアノード触媒層30aと支持体50aとの間にさらに設けることが好ましい。すなわち、本発明の燃料電池は、支持体と触媒層との間に第2の層をさらに有することが好ましい。以下では、特記しない限り、アノード側およびカソード側の第2の層の構成が同様である場合には、これらを一括して「第2の層40」と称する。
また、第2の層40は、支持体50と密に接するように配置されることが好ましい。ここで、「密に接する」とは、第2の層40と支持体50とが可能な限り多点で接することを意味し、例えば、第2の層40と接する側の支持体の一部を第2の層中に埋設するなどを包含する。このような構成によって、MEAと支持体との密着性が上がるため、MEAと支持体間の接触抵抗が下がり、MEA内部での面内方向の電気伝導性を高めて集電性能を向上することができる。また、支持体の開孔部に溜まった液水をより容易に排出できる。加えて、第2の層が保護層として機能して、支持体50とMEA80とが直接接触することを避け、支持体の耐食性を向上でき、また、支持体50の圧接による触媒層30の破損を防止することができる。第2の層の形成方法は、特に制限されないが、第2の層40を触媒層30上に圧着するなどの方法が使用できる。
なお、図5では、カソード第2の層40cおよびアノード第2の層40a双方を設けているが、いずれか一方のみを設けてもよい。また、図5の形態は、図1の形態に対応するが、他の形態に適応することもできる。例えば、図2のアノード側の場合には、アノード第2の層40aは、アノード触媒層30aとリブ69aとの間に設置される。
第2の層40を構成する材料は、特に制限されないが、触媒層30と支持体50との間の導電性を確保でき、かつ、触媒層30の破損を防止できる材料が好ましい。例えば、第2の層40としては、通常燃料電池にガス拡散層として使用される基材、およびカーボン粒子層(マイクロポーラス層)などが使用できる。
ここで、ガス拡散層としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用でき、例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。前記基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。このような厚さであれば、十分な機械的強度ならびにガスや水などの透過性が確保できる。また、ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。ここで、撥水処理方法は特に制限されず、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔体にカーボン粒子を含浸させて焼結させたシート体を用いることができる。シート体とすることによって、製造工程が簡易になり、また、燃料電池10の各部材を積層する際の取り扱い及び組み立てが容易になる。
また、カーボン粒子層(マイクロポーラス層)は、基材上に必要であれば撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなる。ここで、基材としては、特に制限されず、上記ガス拡散層に使用される基材と同様のものが使用できる。また、カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。また、カーボン粒子層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔体に、アセチレンブラック、PTFE微粒子及び増粘剤を含む水分散液を含侵し、焼成処理を行うことにより作製することができる。
また、ガス拡散層とカーボン粒子層(マイクロポーラス層)とを組み合わせて、第2の層としてもよい。この際、ガス拡散層上にカーボン粒子層を形成する方法は特に制限されない。例えば、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製する。次に、このスラリーを基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。
(セパレータ)
セパレータ70は、単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列接続する機能を有する。また、セパレータ70は、燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却剤を互いに遮断する隔壁としての機能も有する。セパレータ70を構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜用いられる。本実施形態では、アノードセパレータ70a及びカソードセパレータ70cは、ともにカーボン製である。
また、図4におけるセパレータ120aは、特に制限されず、通常、燃料電池で使用されるセパレータを同様にして使用できる。セパレータ120aは、ガスが流れる流路となる溝状のリブ121aを備えている。なお、セパレータ70は、リブ60または支持体50によって十分なガス供給機能を得ることができるので、従来のセパレータに形成されるような溝状のリブ121aを形成する必要がない。このため、セパレータ70を簡単かつ安価に製造することができる。具体的には、セパレータ120aでは、カーボン製セパレータの場合にはリブを切削加工によって形成する必要があり、金属製セパレータの場合にはリブをプレス加工によって形成する必要がある。しかし、本実施形態のセパレータ70の場合には、溝状のリブ121aを形成する必要がないため、コスト低減を図ることができる。さらに、溝状のリブ121aを形成する必要がないため、セパレータ70の厚さ方向のサイズ、さらには燃料電池10の厚さ方向のサイズを小さくすることができる。
(高分子電解質膜)
高分子電解質膜20は、燃料電池10の運転時にアノード触媒層30aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層30cへと選択的に透過させる機能を有する。また、高分子電解質膜20は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
高分子電解質膜20としては、特に限定されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子形電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記高分子電解質膜に用いられる高分子電解質と、各触媒層に用いられる高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各触媒層と高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
高分子電解質膜20の厚みとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μmである。製膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
また、高分子電解質膜20として、上記したようなフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂による膜に加えて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などから形成された多孔質状の薄膜に、リン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸したものを使用してもよい。
(触媒層)
触媒層30は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層30aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層30cでは酸素の還元反応が進行する。触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体及び高分子電解質を含む。
カソード触媒層30cに用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層30aに用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒をして合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、カソード触媒層に用いられる触媒成分及びアノード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒インクに含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値により測定することができる。
触媒粒子は導電性担体に担持されて電極触媒となる。ここで、導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。このような比表面積であれば、導電性担体への触媒成分および高分子電解質の分散性を確保して十分な発電性能が得られ、また、触媒成分および高分子電解質の十分な有効利用率をも確保できる。また、導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
また、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。このような担持量であれば、触媒成分が導電性担体上に良好に分散し、単位質量あたりの触媒活性を確保して発電性能を向上でき、また、経済的に有利である。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
触媒層30は、電極触媒の他に、高分子電解質を含む。ここで、高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する材料であればよい。この際使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照され得る。また、燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、第1級ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータ70を介して膜電極接合体(MEA)80を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
本実施形態の燃料電池10やこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載することができる。図7に示すように、燃料電池スタック210を燃料電池車200のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車200の車体中央部の座席下に搭載すれば良い。座席下に搭載すれば、車内空間及びトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック210を搭載する場所は座席下に限らず、後部トランクルームの下部でも良いし、車両前方のエンジンルームであってもよい。上述した燃料電池10や燃料電池スタック210は出力特性及び耐久性に優れるため、長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両が提供される。