<第1の実施の形態>
<ホイールチップおよびその周辺構成>
初めに、本発明の第1の実施の形態においてスクライブ装置に使用されるホイールチップ(単にチップともいう)と、そのホルダであるチップホルダと、スクライブ装置におけるチップホルダの取付先であるホルダジョイントについて説明する。図1は、ホイールチップ1を保持した状態のチップホルダ10の斜視図であり、図2は、ホイールチップ1が取り付けられる様子を示すチップホルダ10の側面図である。図3は、チップホルダ10が取り付けられた状態におけるホルダジョイント20の側断面図である。
ホイールチップ1は、外周端部がV字型の刃部2となっている円盤状のツールであり、中心に貫通孔3を有している。ホイールチップ1は、少なくともその刃部2の部分がダイヤモンド等の硬質材料から構成される。ホイールチップ1は、チップホルダ10に保持された状態で、後述するスクライブ装置に取り付けられ、スクライブ処理に使用される。ホイールチップ1としては、通常、1.0mm〜6.0mm程度の外径(ホイール径)と、0.4mm〜1.1mm程度の厚みとを有するものが用いられる。
チップホルダ10は、ホイールチップ1を保持する略円筒形の部材である。チップホルダ10は、その長手方向の一端部に、当該長手方向と平行に設けられた略正方形状の平坦部11a、11bを有する。一方、長手方向の他端部は、チップホルダ10をスクライブ装置に取り付けるための取付部16となっている。また、チップホルダ10は、少なくとも取付部16の近傍が磁性体金属にて構成されてなる。
平坦部11a、11bは、チップホルダ10の長手方向の中心軸に対して対称に設けられてなり、かつ、平坦部11a、11bの間は、中心軸に沿った切欠き部12となっている。さらに、平坦部11a、11bの下端には、それぞれの面に垂直な方向に貫通するピン溝13が設けられてなる。
チップホルダ10においては、ホイールチップ1を切り欠き部12に位置させた状態で、ピン15を、ホイールチップ1の中心に備わる貫通孔3とその両側に位置する平坦部11a、11bのピン溝13とに挿入することによって、ホイールチップ1がピン15を軸として回転自在に保持される。なお、本実施の形態の場合、ピン15がピン溝13に挿入されてホイールチップ1がチップホルダ10に保持された後は、ホイールチップ1をチップホルダ10から取り外すことはないものとする。例えば、スクライブ装置において使用するホイールチップ1の交換は、チップホルダ10自体を交換することによって行うものとする。それゆえ、以降の説明においては、特に断らない限り、チップホルダ10とは、ホイールチップ1が取り付けられた状態のものを指し示すものとする。
平坦部11aには、コード14が印字されてなる(ただし図3では図示省略)。コード14は、チップホルダ10に保持されてなるホイールチップ1の型式や管理番号などの個体識別情報や、初期補正(オフセット)情報などの、当該チップホルダ10に取り付けられてなるホイールチップ1に関するテキスト情報を、あらかじめコード化して記録したものである。コード14としてはQRコード(登録商標)を用いるのが好適な一例である。元になるテキスト情報の書式は適宜に定められてよく、例えば、以下のような書式で定められればよい。
(型式を表す文字列)/(管理番号を表す文字列)/(初期補正情報を表す文字列)
ここで、型式は、ホイールチップ1のサイズ(外径、内径、厚み、刃先角度など)や材質などを特定のルールに従って文字列化したものである。管理番号は、それぞれのホイールチップ1に対して一意に与えられる番号である。また、初期補正(オフセット)情報とは、チップホルダ10に対するホイールチップ1の取り付け誤差に起因したスクライブ位置のずれをキャンセル(オフセット)するために、個々のホイールチップ1についてあらかじめ特定される校正用の情報である。
コード14は、チップホルダ10にホイールチップ1を取り付けた後、初期補正(オフセット)情報が特定された後に、公知のレーザーマーキング装置等によって印字される。また、後述するように、コード14は、スクライブを行うに先立ち、コードリーダ140(図5参照)にて読み取られて復元(デコード)される。
取付部16は円筒の一部を切欠いた形状をなしており、傾斜部16aと、チップホルダ10の長手方向と平行な平坦部16bとを有する。平坦部16bは、ホイールチップ1が保持される側の平坦部11a、11bとは垂直に設けられてなる。係る形状を有する取付部16を、スクライブ装置に備わるホルダジョイント20に挿入することによって、ホイールチップ1をスクライブ装置に取り付けた状態が実現される。
図3においては図示を省略しているが、ホルダジョイント20は、後述するスクライブ装置の一部をなす部材であり、スクライブ装置におけるチップホルダ10の取付先である。ホルダジョイント20は、チップホルダ10が取付保持される保持部22を有する。また、ホルダジョイント20には、該ホルダジョイント20をZ軸方向に延在する回転軸AX1の周りに回転自在とするベアリング21a、21bが備わる。
保持部22には、有底筒状の開口23が形成されており、その最奥端部にはマグネット24が埋設されてなる。さらに、開口23の側面には、開口23の延在方向に垂直に、チップホルダ10の挿入位置を定めるための位置決めピン25が備わる。
ホルダジョイント20に対するチップホルダ10の取付けは、ホルダジョイント20の開口23にチップホルダ10の取付部16を挿入することによって行える。すなわち、チップホルダ10の取付部16を開口23に挿入すると、磁性体からなるチップホルダ10の取付部16がマグネット24によって吸引されることによって、チップホルダ10が開口23内部へと引き入れられるが、その過程において傾斜部16aのどこかが位置決めピン25に接触すると、以降、取付部16は開口23の延在方向を軸に回転し、図3に示すような、位置決めピン25の延在方向と傾斜部16aとが互いに平行に当接し合う状態で静止する。このとき、チップホルダ10は、その回転方向の動きを位置決めピン25によって禁止されるとともに、マグネット24からの吸引力を受けているので、結果として、ホルダジョイント20に固定的に取り付けられた状態となっている。
一方、ホルダジョイント20に取り付けられた状態においては、チップホルダ10の長手方向に作用する力は磁力のみであるので、ホルダジョイント20からのチップホルダ10の取り外しは、平坦部11a、11bの側から引っ張ることによって容易に行える。
なお、ホルダジョイント20の開口23は、チップホルダ10を取り付けた状態において、ホイールチップ1のピン15の水平位置とベアリング21a、21bの回転中心である回転軸AX1の水平位置とがずれるように、設けられてなる。これは、スクライブ動作を実行させるに際してホイールチップ1にいわゆるキャスター効果を生じさせるためである。キャスター効果については後述する。
<スクライブ処理システムの主たる構成>
次に、本実施の形態に係るスクライブ処理システムを構成するスクライブ装置とその動作をコントロールするコントローラの構成について説明する。なお、スクライブ装置は種々の構成上のバリエーションを取り得るが、ホルダジョイント20を備え、該ホルダジョイント20にチップホルダ10を取り付けた状態でスクライブを行う点で共通する。以下においては、代表的な構成例である、脆性材料基板を回転させる機構を有するがスクライブは脆性材料基板の片面のみに行うスクライブ装置100と、両面スクライブが可能であるが脆性材料基板を回転させる機構を有さないスクライブ装置200とについて、順次に説明する。なお、脆性材料基板の回転は行えずかつ片面スクライブのみが可能なスクライブ装置や両面スクライブ可能でかつ基板回転も可能なスクライブ装置なども、本発明の対象となり得ることは言うまでもない。
(第1の構成)
図4は、第1の構成に係るスクライブ装置100の主な機械的構成要素を示す外観斜視図である。スクライブ装置100は、概略、脆性材料基板Pを載置固定してなる移動台101とホイールチップ1を備えるスクライブヘッド30とを相対的に移動させることによって、脆性材料基板Pをスクライブする装置である。なお、図4においては、移動台101の移動方向をY軸方向とし、水平面内におけるスクライブヘッド30の移動方向をX軸方向とし、鉛直方向をZ軸方向とする右手系のXYZ座標を付している。
移動台101は、一対の案内レール102a、102bに沿って、Y軸方向に移動自在に保持されてなるとともに、ボールネジ103と螺合してなる。ボールネジ103は、搬送用モータ104の駆動により回転し、移動台101を案内レール102a、102bに沿ってY軸方向に移動させる。
また、移動台101の上には、回転機構105とテーブル106とが設けられている。回転機構105は、テーブル106をxy平面で回転させるモータを備える。テーブル106上には、脆性材料基板Pの直交する2辺の載置位置を定めるための位置決めピン107aおよび107bがそれぞれ2本ずつ備わっている。スクライブを行う際、脆性材料基板Pは、これら位置決めピン107aおよび107bに当接させた状態でテーブル106に載置され、テーブル106の内部に備わる図示しない真空吸引手段などによりテーブルに保持固定される。すなわち、スクライブ装置100においてテーブル106は脆性材料基板Pの保持手段として機能する。
また、スクライブ装置100の上部には、脆性材料基板Pの上面(スクライブ面)に設けられてなる位置決め用のアライメントマークを撮像する2台のCCDカメラ108が設けられている。
さらに、スクライブ装置100においては、ブリッジ110が支柱111a,111bにより架設されている。ブリッジ110は、Y軸方向に延在する移動台101の移動経路を跨ぐ態様にて、X軸方向に沿って設けられてなる。また、ブリッジ110にはスクライブヘッド30が備わる。スクライブヘッド30は、ブリッジ110においてその延在方向であるX軸方向に沿って設けられた公知のリニアモータ112によって、X軸方向に移動自在とされてなる。なお、本実施の形態においては、リニアモータ112を駆動させた際のスクライブヘッド30の移動速度がX軸方向のスクライブにおけるスクライブ速度となる。
スクライブヘッド30には、上述したホルダジョイント20が、開口23が鉛直下方を向く姿勢にて備わっている。チップホルダ10が係る姿勢のホルダジョイント20に取り付けられた状態では、最下端部にホイールチップ1が位置することになる。係る状態においては、チップホルダ10においてピン15が水平となるので、ホイールチップ1は、水平面に直交する姿勢にて、水平方向を軸に回転自在となっている。
加えて、上述のようにベアリング21a、21bを備えることで、ホルダジョイント20は、スクライブ装置100において、水平面内において回転自在とされてなる。これにより、チップホルダ10がホルダジョイント20に取り付けられている場合には、ホイールチップ1は水平面内において回転自在ともなっている。
スクライブヘッド30はさらに、ホルダジョイント20の昇降動作を可能とする昇降部31を備える。昇降部31は、例えば、サーボモータや、リニアモータや、空気圧制御を用いるエアーシリンダーなどによって実現される。
以上のような構成を有するスクライブ装置100においては、概略、チップホルダ10をホルダジョイント20に取り付けてなる状態で、テーブル106の上に脆性材料基板Pを載置固定してなる移動台101をブリッジ110の直下に配置し、チップホルダ10下端のホイールチップ1を脆性材料基板Pに接触させつつリニアモータ112によってスクライブヘッド30をX軸方向において移動させることによってホイールチップ1を脆性材料基板Pに対して圧接転動させることにより、脆性材料基板Pに対してX軸方向に沿ったスクライブを行えるようになっている。係る場合、移動台101の配置位置を適宜に違えることで、Y軸方向の任意の位置においてX軸方向に沿ったスクライブを行うことが出来る。
さらには、テーブル106の上に載置固定してなる脆性材料基板Pにチップホルダ10下端のホイールチップ1を接触させつつ移動台101をY軸方向に移動させ、これによってホイールチップ1を脆性材料基板Pに対し相対的に圧接転動させることで、脆性材料基板Pに対してY軸方向に沿ったスクライブを行えるようにもなっている。係る場合は、ブリッジ110におけるスクライブヘッド30の配置位置を適宜に違えることで、X軸方向の任意の位置においてY軸方向に沿ったスクライブを行うことが出来る。
図5は、スクライブ装置100に備わるコントローラ120の機能的構成を示すブロック図である。コントローラ120は、制御部121と、画像処理部122と、入力部123と、コード処理部124と、搬送機構駆動部125と、回転機構駆動部126と、スクライブヘッド駆動部127と、モニタ128と、レシピデータ保持部129と、使用履歴保持部130とを主として備える。なお、コントローラ120は、汎用のパーソナルコンピュータによって実現されるのが好適な一例であるが、スクライブ装置100に組み込まれることによって構成されていてもよい。
制御部121は、CPU、ROM、RAMなどからなり、スクライブ装置100の各部の動作を統括的に制御する部位である。
画像処理部122は、CCDカメラ108a、108bからの画像信号を処理する部位である。例えば、スクライブの対象となる脆性材料基板Pの位置補正(アライメント)や、スクライブ位置の初期補正などの際、CCDカメラ108a、108bからの画像信号が画像処理部122において適宜に処理されたうえで、制御部121における補正演算処理に供される。
入力部123は、例えばタッチパネルやキーボード、マウス等の入力デバイスである。スクライブ装置100に対する動作指示は、入力部123を通じて与えられる。
コード処理部124は、コードリーダ140におけるコード14の読み取り結果に基づいて、ホイールチップ1の型式や管理番号などのテキスト情報を復元(デコード)し、その復元内容を制御部121に与える処理を担う。本実施の形態においては、後述するように、復元された型式や管理番号を使用履歴やレシピの記述内容と照合することで、当該型式および管理番号を有するホイールチップ1を使用してスクライブを実行することの可否が判断される。
搬送機構駆動部125は、制御部121からの駆動信号に応じて、移動台101の搬送動作を担う搬送用モータ104を駆動する。また、回転機構駆動部126は、制御部121からの駆動信号に応じて、移動台101の回転動作を担う回転機構105を駆動する。
スクライブヘッド駆動部127は、制御部121からの駆動信号に応じて、スクライブヘッド30の水平移動動作を担うリニアモータ112とスクライブヘッド30内部に備わりホルダジョイント20の昇降動作を担う昇降部31とを駆動する。
モニタ128は、スクライブ装置100の種々の設定メニューや動作メニュー(レシピ)、各部の動作状況、CCDカメラ108a、108bの撮像画像などを表示する表示手段である。なお、モニタ128自体がタッチパネルとなっており、入力部123の機能を兼ねる態様であってもよい。
レシピデータ保持部129は、スクライブを行う際のスクライブ装置100の各部の動作内容を記述してなるレシピデータD1を保持する(記憶する)部位(記憶媒体)である。スクライブ装置100においては、レシピデータ保持部129に保持されてなる複数のレシピデータD1から、所望するスクライブ処理の内容に合致したレシピデータD1が選択されて呼び出され、制御部121がその記述内容に従って各部に動作指示を与えることによって、レシピデータD1の記述内容に従ったスクライブ処理が実行される。
それぞれのレシピデータD1には、例えば、実行しようとするスクライブの内容に適したホイールチップ1の型式や、スクライブしようとする脆性材料基板Pのサイズ(平面サイズおよび厚み)や、脆性材料基板Pにおいてスクライブを実行する位置(あるいはスクライブヘッドを降下および上昇させる位置)や、スクライブの際のスクライブヘッド30の降下距離や、スクライブ速度などが記述される。
また、レシピデータD1には、さらに、交換推奨値V1が記述される。交換推奨値V1は、そのレシピデータD1に基づいて設定されたレシピに従ってスクライブを行う際に、使用しているホイールチップ1を(チップホルダ10を)別のホイールチップ1と(別のチップホルダ10と)交換を推奨する際の基準となる値である。交換推奨値V1の詳細は後述する。
レシピデータD1の記述形式は特に限定されず、スクライブ装置100において処理可能な任意の形式にて記述されればよい。
なお、スクライブ装置100においては、モニタ128に表示された設定メニューに従って入力部123を操作することにより、新たなレシピデータD1を作成し、レシピデータ保持部129に保持させることも可能である。
使用履歴保持部130は、スクライブ装置100において使用された(あるいは将来的に使用され得る)全てのホイールチップ1について、それぞれの使用履歴を記録してなる使用履歴データD2を保持(記憶)する部位(記憶媒体)である。具体的には、スクライブにおけるホイールチップ1の動作態様を特徴付けるとともに該ホイールチップ1の使用寿命に影響するパラメータである、少なくとも1つのチップパラメータが、あらかじめ設定される。チップパラメータは、該当するスクライブ動作が行われる度に増加する値であり、スクライブ処理が行われる度に当該スクライブにおけるそれぞれのチップパラメータの増分値が求められて、それまでの積算値とともに使用履歴データD2として記述される。
図6は、本実施の形態における使用履歴データD2を例示する図である。図6においては、スクライブの実行開始から終了までの間における、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数と、外切りの回数と、ホイールチップ1に生じるねじれの回数と、ホイールチップ1のX軸方向の走行距離(単位:m)と、Y軸方向の走行距離(単位:m)と、全走行距離(単位:m)とが、チップパラメータとして設定されてなり、ホイールチップ1が使用された日における各チップパラメータの増分値(a1〜an、b1〜bn、c1〜cn、d1〜dn、e1〜en、d1+e1〜dn+en)と、各チップパラメータの積算値(a、b、c、d、e、d+e)とが記されている様子を例示している。なお、各チップパラメータについての詳細は後述する。
また、図6に示すように、使用履歴データD2には、それぞれのチップパラメータについての使用限界値(A、B、C、D、E、F)が記述されてなるとともに、それぞれのチップパラメータについて、最新の積算値が使用限界値に達したか否かを示す限界フラグが記述されてなる。使用限界値とは、当該チップパラメータの最新の積算値がその値を超えた状態でホイールチップ1を使用すると、ほぼ確実に製品不良(スクライブ不良)が発生するという値である。使用限界値は、個々のホイールチップ1に固有の値である。
本実施の形態においては、最新の積算値が使用限界値を超えているチップパラメータについては、限界フラグが「1」とされ、最新の積算値が使用限界値を超えていないチップパラメータについては、限界フラグが「0」とされる。図6においては、「X軸方向走行距離」なるチップパラメータが使用限界値を超えている(d>Dとなっている)場合を例示している。後述するように、本実施の形態では、限界フラグが「1」のチップパラメータが1つでも存在するホイールチップ1については、使用が禁止され、交換を行わないとスクライブ動作が行えないようになっている。すなわち、限界フラグの値をチェックすることで、そのホイールチップ1が使用不可であるか否かを特定することが出来る。
あるいは、対応する使用履歴データD2において限界フラグが「1」であるチップパラメータが存在するホイールチップ1の個体識別情報のみを抽出した使用不可チップデータを作成し、ホイールチップ1の使用の可否の判断を、該使用不可チップデータに個体識別情報が記述されているか否かによって行う態様であってもよい。
また、図6に示したチップパラメータはあくまで例示であって、設定するチップパラメータの種類や、使用履歴データD2の記述形式は、図6に示すものには限られない。また、使用限界値としては、経験的あるいは実験的に適宜の値を定めればよい。
あるいはまた、本実施の形態においては、スクライブ装置100自体がコードリーダ140さらにはコード処理部124を備えることは、必須の態様ではない。例えば、スクライブ処理システムが、複数のスクライブ装置100とそれらを一括して管理する共通の管理サーバーとを図示しないLAN等の通信ネットワークを通じて接続することによって構成されてなるような場合であれば、コードリーダ140やコード処理部124が該管理サーバーにのみ設けられ、復元内容が該ネットワークを通じて管理サーバーからそれぞれのスクライブ装置100に与えられる態様であってもよい。あるいは、スクライブ処理システムのオペレータ(以下、単にオペレータ)が復元内容を入力部123を介して入力することも、原理的には可能である。
なお、スクライブ処理システムが上述のようなネットワーク構成を有する場合、レシピデータ保持部129や使用履歴保持部130についても、管理サーバーに備わるのが好ましい。係る場合、レシピデータD1や、使用履歴データD2や、さらには使用不可チップデータが複数のスクライブ装置100の間で共有され、いずれのスクライブ装置100からも参照または更新可能とされる。
(第2の構成)
図7は、第2の構成に係るスクライブ装置200の主な機械的構成要素を示す外観斜視図である。スクライブ装置200は、概略、それぞれにホイールチップ1を備える上下1対のスクライブヘッド30(上側スクライブヘッド30A、下側スクライブヘッド30B)の間において脆性材料基板Pを移動させることによって、脆性材料基板P上下2方向から同時にスクライブする装置である。なお、図7においては、脆性材料基板の移動方向をY軸方向とし、水平面内におけるスクライブヘッド30A、30Bの移動方向をX軸方向とし、鉛直方向をZ軸方向とする右手系のXYZ座標を付している。また、図7においては、図示の簡単のため、スクライブヘッド30A、30Bにそれぞれ備わるホルダジョイント20や、該ホルダジョイント20に取り付けられるチップホルダ10や、該チップホルダ10に保持されてなるホイールチップ1は省略している。
係るスクライブ装置200は、その機械的構成要素として、基板支持機構210と、クランプ機構220と、スクライブ機構230とを主として備える。また、図7においては図示を省略するが、スクライブ装置200の上部には、脆性材料基板Pの上面(スクライブ面)に設けられてなる位置決め用のアライメントマークを撮像する2台のCCDカメラ240a、240bが設けられている(図8参照)。
基板支持機構210は、第1基板支持部210Aと、第2基板支持部210Bとからなる。第1基板支持部210Aと第2基板支持部210Bとは、スクライブ機構230を挟んで対向配置されてなる。第1基板支持部210Aは、スクライブされる前の脆性材料基板Pの搬送を担い、第2基板支持部210Bは、スクライブされた後の脆性材料基板Pの搬送を担う。
第1基板支持部210Aと第2基板支持部210Bとは、それぞれ、X軸方向に離間配置された複数の(図7においては5つの)支持ユニット211にて構成される。それぞれの支持ユニット211は、Y軸方向に長手方向を有し、かつ、Y軸方向に沿ってタイミングベルト212が張設されてなる。タイミングベルト212は、その上面にて脆性材料基板Pを支持した状態で、該脆性材料基板Pに対しY軸方向の力が加えられると、脆性材料基板Pの動きに従動して回転し、脆性材料基板PのY軸方向への移動をアシストできるようになっている。
クランプ機構220は、タイミングベルト212の上に載置された脆性材料基板Pの後端部を、X軸方向に離間して配置された一対のクランプ具221L、221Rにてクランプし(保持し)、係るクランプ状態を保ってクランプ具221L、221RをY軸方向へと移動させる機構である。クランプ機構220の移動動作は、リニアモータにより実現される。なお、クランプ具221L、221Rは、Y軸方向に移動する際に支持ユニット211と干渉しないように設けられてなる。
スクライブ機構230は、脆性材料基板Pの上下両面に対し同時並行的にスクライブを行う部位である。スクライブ機構30は、Y軸方向において第1基板支持部210Aと第2基板支持部210Bの間の位置に、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30Bとを備える。上側スクライブヘッド30Aは上側スクライブ機構231に設けられてなり、下側スクライブヘッド30Bは下側スクライブ機構232に設けられてなり、それぞれに、図示を省略するリニアモータにてX軸方向に移動自在とされてなる。なお、本実施の形態においては、係るリニアモータを駆動させた際の上側スクライブヘッド30Aおよび下側スクライブヘッド30Bの移動速度が、脆性材料基板Pの上面および下面に対しX軸方向のスクライブを行う際のスクライブ速度となる。
より詳細には、上側スクライブヘッド30Aは、チップホルダ10が取り付けられた状態においてホイールチップ1が最下端部に位置するように、ホルダジョイント20を備える。一方、下側スクライブヘッド30Bは、チップホルダ10が取り付けられた状態においてホイールチップ1が最上端部に位置するように、ホルダジョイント20を備える。また、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30Bとはそれぞれ、ホルダジョイント20の昇降動作を可能とする昇降部31A、31Bを備える。係る昇降部31A、31Bは、例えば、サーボモータや、リニアモータや、空気圧制御を用いるエアーシリンダーなどによって実現される。
以上のような構成を有するスクライブ装置200においては、第1基板支持部210Aに載置された脆性材料基板Pの後端部側をクランプ機構220によってクランプした状態で、クランプ機構220をY軸方向に移動させると、第1基板支持部210Aの支持ユニット211にて支持されてなる脆性材料基板Pが、当該支持ユニット211にて支持されつつ、そのタイミングベルト212の従動回転とクランプ機構220の移動とによってY軸方向に搬送される。途中、上側スクライブ機構231と下側スクライブ機構232の間を通過することによって脆性材料基板Pがスクライブされた後は、脆性材料基板Pは先端部側から徐々に第2基板支持部210Bの支持ユニット211に支持されるようになる。第2基板支持部210Bにおいても、第1基板支持部210Aと同様、脆性材料基板Pは、クランプ機構220の移動と支持ユニット211に備わるタイミングベルト212の従動回転によって搬送される。ゆえに、スクライブ装置200においては、基板支持機構210とクランプ機構220とが脆性材料基板Pの保持手段として機能する。
係る場合において、あらかじめ上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30BのZ軸方向位置を調整し、それぞれに取り付けられてなるチップホルダ10先端のホイールチップ1が上側スクライブ機構231と下側スクライブ機構232との間を通過する脆性材料基板Pに接触するようにしておくと、搬送途中の脆性材料基板Pの上下面にそれぞれホイールチップ1が圧接転動される。これにより、脆性材料基板Pの上下面に対してY軸方向に沿ったスクライブを行える。係る場合、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30BのX軸方向における配置位置を適宜に違えることで、X軸方向の任意の位置においてY軸方向に沿ったスクライブを行うことが出来る。
また、脆性材料基板Pを上側スクライブ機構231と下側スクライブ機構232の間に位置させた状態で、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30Bのそれぞれに取り付けられてなるチップホルダ10先端のホイールチップ1を脆性材料基板Pに接触させつつ上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30BとをX軸方向に移動させることによって、ホイールチップ1を脆性材料基板Pに対して圧接転動させると、脆性材料基板Pに対してX軸方向に沿ったスクライブを行うことができる。
なお、ホルダジョイント20に対するチップホルダ10の取り付け態様については、スクライブ装置200もスクライブ装置100と同様であるので、スクライブ装置200におけるスクライブに際しても、キャスター効果は同様に作用する。
図8は、スクライブ装置200に備わるコントローラ250の機能的構成を示すブロック図である。コントローラ250は、制御部251と、画像処理部252と、入力部253と、コード処理部254と、クランプ機構駆動部255と、第1スクライブヘッド駆動部256と、第2スクライブヘッド駆動部257と、モニタ258と、レシピデータ保持部259と、使用履歴保持部260とを主として備える。なお、コントローラ250も、コントローラ120と同様、汎用のパーソナルコンピュータによって実現されるのが好適な一例であるが、スクライブ装置200に組み込まれることによって構成されていてもよい。
このうち、制御部251、画像処理部252、入力部253、コード処理部254、モニタ258、レシピデータ保持部259、および使用履歴保持部260は、それぞれ、スクライブ装置100に備わる制御部121、画像処理部122、入力部123、コード処理部124、モニタ128、レシピデータ保持部129、および使用履歴保持部130と実質的に同一の機能を有する構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
クランプ機構駆動部255は、制御部251からの駆動信号に応じて、クランプ機構220のクランプ具221L、221Rを作動させるとともに、クランプ機構220をY軸方向に移動させる。
第1スクライブヘッド駆動部256と第2スクライブヘッド駆動部257とは、それぞれ、制御部251からの駆動信号に応じて、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30BをX軸方向に移動させるとともに、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30Bのそれぞれにおいてホルダジョイント20の昇降動作を担う昇降部31A、31Bを駆動する。
スクライブ装置200においても、スクライブ装置100と同様、レシピデータ保持部259に保持されてなる複数のレシピデータD1から、所望するスクライブ処理の内容に合致したレシピデータD1が選択されて呼び出され、制御部251がその記述内容に従って各部に動作指示を与えることによって、レシピデータD1の記述内容に従ったスクライブ処理が実行される。
<チップパラメータの詳細>
次に、図6に例示した、ホイールチップ1の使用状態を表すチップパラメータについて、詳細を説明する。
(衝突回数)
ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数とは、本実施の形態においては、スクライブを実行するためにホイールチップ1を備えたスクライブヘッド30を下降させてホイールチップ1の刃部2と脆性材料基板Pとを接触させる回数のことをいう。係る接触の度に刃部2は衝撃を受けるので、接触が繰り返されるにつれて刃部2は摩耗する。摩耗した刃部2の使用は、スクライブ品質を劣化させる要因となる。そこで、本実施の形態においては、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数をチップパラメータとして設定し、その積算値に基づいて、ホイールチップ1が使用限界に達したか否かを判断するものとする。
(外切り)
外切りとは、概略的にいえば、脆性材料基板Pの上面を被スクライブ面とする場合であれば、脆性材料基板Pのエッジ部分よりも外側の位置にて、ホイールチップ1を脆性材料基板Pの被スクライブ面の高さ位置よりもわずかに下方のスクライブ高さに下降させ、脆性材料基板Pの一方端部から他方端部までをスクライブする手法である。図9は、外切りの様子を示す概略図である。図9に示す場合においては、脆性材料基板PからX軸方向について距離OH1だけ手前の位置においてホイールチップ1を脆性材料基板Pの被スクライブ面よりも下方のスクライブ高さに下降させ、脆性材料基板Pから同じくX軸方向について距離OH2だけ先の位置まで外切りを行う場合を例示している。
なお、係る外切りに対して、脆性材料基板Pの存在する位置においてホイールチップ1を下降させてスクライブを行う手法を内切りという。
外切りは、スクライブラインが基板の両端に達しているため、スクライブ後の分断(ブレーク)が容易であり、かつ、内切りの場合に問題となるスクライブ開始位置でのホイールチップ1のスリップは発生しないというメリットがある。ただし、内切りの場合に比して、ホイールチップ1が消耗しやすいので、外切りの回数が多いほど、ホイールチップ1が使用限界に到達しやすいとされている。そこで、本実施の形態においては、外切りの回数をチップパラメータとして設定し、その積算値に基づいて、ホイールチップ1が使用限界に達したか否かを判断するものとする。
(ホイールチップのねじれ)
続いて、ホイールチップ1のねじれについて説明するにあたり、まず、スクライブの際に生じるキャスター効果について説明する。上述したように、ホルダジョイント20は回転軸AX1の周りに回転自在となっており、ホイールチップ1の姿勢を直接に調整する機構を備えてはいない。そのため、スクライブを開始するにあたっては、必ずしも、ホイールチップ1の刃部2がスクライブ方向を向いているとは限らない。しかしながら、一方で、ホルダジョイント20にチップホルダ10が取り付けられた状態においては、ホイールチップ1のピン15の水平位置とベアリング21a、21bの回転中心である回転軸AX1の水平位置とはずれている。そのため、ホイールチップ1が脆性材料基板Pに接触した状態でスクライブヘッド30が水平面内においてある方向に相対移動し始めると、ホルダジョイント20には直ちにトルクがはたらき、ホイールチップ1はスクライブヘッド30の相対移動方向と平行な状態で脆性材料基板Pに対して圧接転動されるようになる。この現象をキャスター効果という。
ただし、係るキャスター効果が生じる際、ホイールチップ1は、その刃部2が脆性材料基板Pと接触した状態で強制的にその姿勢を変更させられることになる。本実施の形態においては、このキャスター効果の発現に伴いホイールチップ1に生じる強制的な姿勢変更のことを、ホイールチップ1の「ねじれ」と称する。
図10は、ホイールチップのねじれについて例示する図である。図10においては、スクライブヘッド30をX軸方向に相対移動させることによって脆性材料基板Pに対し矢印AR1にて示す複数回のX軸方向へのスクライブを行った後、いったんホイールチップ1を脆性材料基板Pから離反させ、続いて、脆性材料基板Pの次のスクライブ開始位置にホイールチップ1を接触させたうえでスクライブヘッド30をY軸方向に相対移動させることによって、矢印AR2にて示すY軸方向へのスクライブを行った場合を示している。係る場合、第1のスクライブを終えた状態のホイールチップ1は、ほぼX軸方向に沿った姿勢を保ったままで次のY軸方向へのスクライブに供される。それゆえ、該ホイールチップ1を脆性材料基板Pに再び接触させてY軸方向へのスクライブを開始すると、図10の円内に示すように、いったんごくわずかにY軸とは異なる向きにスクライブがなされるが、ほどなくスクライブヘッド30の相対移動に伴ってホイールチップ1にねじれが生じ、ホイールチップ1はY軸方向に並行な姿勢を取るので、結果として、所望するY軸方向へのスクライブが実現される。
係るホイールチップ1のねじれは、ホイールチップ1の刃部2を摩耗させる要因の1つであるので、これが繰り返されるとホイールチップ1によるスクライブの品質は劣化する。そこで、本実施の形態においては、このねじれの生じた回数をチップパラメータとして設定し、その積算値に基づいて、ホイールチップ1が使用限界に達したか否かを判断するものとする。
(走行距離)
ホイールチップ1の走行距離とは、ホイールチップ1の刃部2が脆性材料基板Pと接触した状態でホイールチップ1が脆性材料基板Pに対して相対移動した距離のことをいう。スクライブは、刃部2を脆性材料基板Pに対し圧接転動させることによって実現されるので、ホイールチップ1の走行距離が長くなると刃部2の摩耗が進行し、スクライブ品質が劣化するのは明らかである。それゆえ、本実施の形態においては、ホイールチップ1の走行距離をチップパラメータとして設定し、その積算値に基づいて、ホイールチップ1が使用限界に達したか否かを判断するものとする。
なお、図6においては、X軸方向の走行距離と、Y軸方向の走行距離と、これらの合算値である全走行距離とを、別個のチップパラメータとして取り扱っているが、これは、スクライブに際し設定されるレシピの内容に応じて、着目すべき走行距離が異なり得ることに対応したものである。
一例として、X軸方向への第1のスクライブが終了した後、脆性材料基板Pを回転させることなくY軸方向への第2のスクライブを行うという設定のレシピで行う場合を考える。係る場合、第2のスクライブに際しては、ホイールチップ1が、これに先立つ第1のスクライブによって形成されたスクライブラインを横断することになるので、このような横断のない場合に比して、ホイールチップ1が衝撃を受けやすくなる。係る場合、Y軸方向の走行距離についての交換推奨値V1をX軸方向の走行距離についての交換推奨値V1よりも短く設定しておくことで、Y軸方向のスクライブ品質が劣化することによるスクライブ不良の発生をより確実に抑制することが可能となる。
<交換推奨値に基づくホイールチップの交換>
上述のように、本実施の形態においては、交換推奨値V1がレシピデータD1内に記述される。交換推奨値V1とは、概略的にいえば、チップパラメータごとに設定される、ホイールチップ1の交換を推奨する際の基準となる値である。換言すれば、交換推奨値V1とは、ホイールチップ1を交換することなく当該レシピに基づくスクライブ処理を続けるとスクライブ不良発生の可能性が高くなるので、スクライブ不良発生を防ぐという観点からは交換をした方がよいという、目安の値である。それゆえ、通常は、チップパラメータがその値を超えた状態でホイールチップ1を使用し続けたとしても、直ちにホイールチップ1が使用寿命に達することはないように設定される。なお、交換推奨値V1についても、使用限界値と同様、経験的あるいは実験的に適宜の値を定めればよい。また、以降においては、交換が推奨される基準をみたすホイールチップ1のことを、交換推奨状態にあると称する。
本実施の形態においては、スクライブを行う際のホイールチップ1の使用の可否(交換の要否)を、レシピごとに定められてなる交換推奨値V1と、個々のホイールチップ1に固有の使用履歴データD2とに基づいて判断することで、脆性材料基板Pのスクライブ処理における不良の発生を確実に防ぐことができ、歩留まりを高めることができるようになっている。
一口にスクライブ処理といっても、レシピの設定内容に応じてホイールチップ1の使われ方は全く異なる。例えば、ひたすら一方向へのスクライブのみを繰り返すスクライブ処理や、スクライブヘッド30の昇降が多い一方で走行距離が短いスクライブ処理や、ねじれが繰り返されるスクライブ処理など、レシピ設定を違えることで、種々様々なスクライブ処理が行われるが、それぞれのスクライブ処理に応じてホイールチップ1の摩耗のモードは異なる。このことは、レシピの設定内容が違えば、スクライブ不良に至るまでの各チップパラメータの積算のされ方や、スクライブ不良を生じさせずにホイールチップ1が使用できるチップパラメータの積算値の上限が異なることを意味している。本実施の形態においては、この点に着目し、各チップパラメータについての交換推奨値V1を個々のレシピデータD1ごとに設定することで、それぞれのレシピに最も適した基準でホイールチップの有無を判断するようにする。
例えば、スクライブヘッド30の昇降が多いレシピの場合は、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突による刃部2の摩耗が生じやすいことから、チップパラメータのうち、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数に係る交換推奨値V1を低めに設定することで、スクライブ不良の発生が確実に防止される。
一方で、あるレシピデータD1に記述された交換推奨値V1に従うと交換が推奨される値にまでチップパラメータが積算されてなるホイールチップ1であっても、当該積算値が他のレシピデータD1に記述された交換推奨値V1よりも小さい場合には、係るレシピデータD1に基づくレシピでのスクライブには使用が可能となる。これにより、ホイールチップ1を使用可能な範囲内で有効に使用することが出来る。
なお、交換推奨値V1に基づくホイールチップ1の交換がなされる限り、使用限界値と交換推奨値V1とが同じ値として設定される場合を除き、チップパラメータが使用限界値にまで到達することはないはずである。それゆえ、一見すると、使用限界値の設定は不要であるようにも思われるが、実際には、交換推奨値V1を超えたホイールチップ1をあえて使用する場合や、あるいは、使用寿命に達したホイールチップ1を誤って使用してしまう可能性もあることから、そのような場合のスクライブ不良を防ぐという点において、使用限界値の設定は有効である。
<スクライブ処理>
次に、上述した構成を有するスクライブ処理システムにおいてスクライブを行う場合の処理の流れを説明する。なお、以降の説明においては、実際のスクライブ動作を担う機械構成要素であるスクライブ装置100および200を「装置本体」とも称する。また、以降の説明は、便宜上、スクライブ装置100および200によるスクライブを前提として行うが、当該説明は、同様の構成を有する他のスクライブ装置においても当てはまり得る。
図11および図12は、スクライブ装置100または200にチップホルダ10が取り付けられてからスクライブ処理が完了するまでの処理の流れを示す図である。
初めに、ホイールチップ1を保持してなるチップホルダ10を用意する(ステップS1)。なお、あらかじめスクライブに使用するレシピが選択・設定されてなる(ステップS0)ことによって、これから行おうとするスクライブの内容が既知である場合は、当該スクライブに適した型式のホイールチップ1を備えたチップホルダ10を用意するのが好ましい。スクライブ装置200の場合は、上側スクライブヘッド30Aと下側スクライブヘッド30Bの双方のために2つのチップホルダ10を用意する。なお、以降、特に断らない限り、スクライブ装置200の場合は、少なくとも一方のチップホルダ10に保持されてなるホイールチップ1が使用不可であるか交換推奨の対象となった場合には、それに応じた処理を行うものとする。
次に、用意したチップホルダ10の平坦部11aに印字されてなるコード14をコードリーダ140または270にて読み取る(ステップS2)。読み取られたコード14はコード処理部124または254において直ちにテキスト情報に復元される(ステップS3)。コード14から復元された型式、管理番号、初期補正情報などのテキスト情報は、制御部121または251に与えられる。
続いて、制御部121または251は、コード14から復元された管理番号に基づいて、当該管理番号が付されたホイールチップ1に係る使用履歴データD2を使用履歴保持部130または260から読み出し(ステップS4)、その記述内容に従って、当該ホイールチップ1が使用限界の到来していない使用可能なものであるか否かを判断する(ステップS5)。具体的には、使用履歴データD2の中に限界フラグが「1」と記述されているチップパラメータが存在しない場合には、使用可能であると判断する(ステップS5でYES)。一方、使用履歴データD2の中に限界フラグが「1」と記述されているチップパラメータが1つでも存在する場合には、使用不可であると判断する(ステップS5でNO)。なお、使用不可チップデータが生成されている場合は、こちらを参照することによって、ホイールチップ1が使用限界の到来していない使用可能なものであるか否かを判断するようにしてもよい。
ホイールチップ1が使用不可なものであると判断された場合(ステップS5でNO)、制御部121または251は、これから使用しようとする、コード14を読み取ったホイールチップ1が、使用不可であるとの警告表示を、モニタ128または258に表示させるとともに、当該ホイールチップ1を使用してのスクライブの実行動作を禁止する(スクライブ動作をロックする)信号を発する(ステップS6)。これにより、スクライブ装置100または200においては、係るホイールチップ1が使用不可であることが報知され、かつ、係るホイールチップ1を用いたスクライブは行えないことになるので、例えば、使用寿命が到来したホイールチップ1を誤って使用することに起因したスクライブ不良の発生などが、確実に防止される。
使用不可の警告表示がなされた場合、オペレータは、係るホイールチップ1を保持してなるチップホルダ10がホルダジョイント20に取り付けられている場合はこれを取り外し、取り外されている場合はその状態を確認したうえで(ステップS7)、別のチップホルダ10を用意する(ステップS8)。そして、新たに用意したチップホルダ10について、再び、コード14の読み取りを行う(ステップS2)。なお、係るコード14の再読み取りを行うことで、スクライブ装置100または200におけるスクライブ動作の禁止状態は解除される。
用意したホイールチップ1が使用可能なものであると判断された場合(ステップS5でYES)、続いて、モニタ128または258に表示されたメニューに応じたオペレータの操作によって、スクライブに適用する一のレシピデータD1がレシピデータ保持部129または259から選択され、さらに、処理する脆性材料基板Pの枚数などの必要な情報が入力される。これにより、スクライブに必要なレシピが設定されたことになる(ステップS9)。なお、上述のように、チップホルダ10の用意に先立ちあらかじめレシピが選択・設定されている場合もある。
レシピが設定されると、制御部121または251は、コード14から復元された型式と、レシピデータD1に記述されてなる、当該レシピの実行によるスクライブにおいて使用可能なホイールチップ1の型式とを照合し、用意したホイールチップ1が当該レシピの実行に適したものであるか否かを判断する(ステップS10)。
ホイールチップ1が設定されたレシピの実行に適していないと判断された場合(ステップS10でNO)、上述の場合と同様に、当該ホイールチップ1が使用不可であるとの警告表示を、モニタ128または258に表示させるとともに、当該ホイールチップ1を使用してのスクライブの実行動作を禁止する(スクライブ動作をロックする)信号を発する(ステップS6)。これにより、スクライブ装置100または200においては、係るホイールチップ1が使用不可であることが報知され、かつ、当該ホイールチップ1を用いたスクライブは行えないことになるので、例えば、設定されたレシピによるスクライブに不適切なホイールチップ1を誤って使用することに起因したスクライブ不良の発生などが、確実に防止される。なお、この場合、使用不可と判断されたホイールチップ1はあくまで、設定されたレシピに基づくスクライブに使用することができないだけであり、使用寿命の到来した使用不可品というわけではない。それゆえ、別のレシピが設定された場合には使用することが可能な場合もある。
このように、ホイールチップ1が設定されたレシピの実行に適していないと判断された場合もやはり、別のチップホルダを用意し、改めてコードを読み取り直す必要がある(ステップS7、S8、S2)。
一方、ホイールチップ1が設定されたレシピの実行に適したものであると判断された場合(ステップS10でYES)、制御部121または251は、レシピの設定内容に基づいて、当該レシピによるスクライブを最後まで行った場合のそれぞれのチップパラメータの増分値を演算し、さらに、該増分値を使用履歴データD2に記述されてなる各チップパラメータの積算値に加算する演算処理を行う(ステップS11)。これにより得られる値が、スクライブ終了後に到達するであろうチップパラメータの積算値(予想到達値と称する)となる。
そして、制御部121または251は、この予想到達値と、レシピデータD1に記述されてなる交換推奨値V1とを比較して、使用対象とされてなるホイールチップ1がスクライブ処理中に交換推奨状態に到達するか否かを判断する(ステップS12)。
より詳細にいえば、レシピに従ったスクライブを行うということは、換言すれば、当該スクライブの具体的な動作内容、つまりは、スクライブヘッド30を下降させてホイールチップ1を脆性材料基板Pに接触させる回数や、ホイールチップ1の走行距離などを、レシピの設定内容から特定出来るということである。すなわち、レシピの記述内容を解析することで、実際にスクライブを行わずとも、当該レシピに従ってスクライブを行った場合のそれぞれのチップパラメータの増分値を算出することができる。係る増分値が得られれば、上述したように、実際にスクライブを行う前に、スクライブ処理後の各チップパラメータの予想到達値を求めることが出来る。
図13は、レシピに基づくチップパラメータの増分値の算出について説明するための図である。例えば、図13に示すように、X軸方向についてX1〜X6の6箇所(走行距離L1)を内切りにてスクライブした後、Y軸方向についてもY1〜Y6の6箇所(走行距離L2)を内切りにてスクライブするという処理を、100枚の脆性材料基板Pに対し行う、というレシピが、設定されている場合を考える。
係る場合、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数は、100枚の脆性材料基板Pについて各々12回の衝突があるので1200回、外切りの回数は全て内切りのため0回、ねじれの回数は、ねじれが生じるのがX6のスクライブの後Y1のスクライブを行うときと、Y6のスクライブの終了後、次の脆性材料基板Pに対してX1のスクライブを行うときのみであるので200回、X軸走行距離は600L1(m)、Y軸走行距離は600L2(m)、全走行距離は600(L1+L2)(m)となる。
係る場合において、仮に、予想到達値の演算に図6に示した使用履歴データD2に記述されてなる積算値が適用されるとすると、ホイールチップ1が交換推奨状態に到達するか否かの判断に際しては、各チップパラメータについて、以下の2つの数値が比較されることになる。
ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数:
予想到達値=a1+・・・+an+1200、交換推奨値V1=V1a;
外切りの回数:
予想到達値=b1+・・・+bn、交換推奨値V1=V1b;
ねじれの回数:
予想到達値=c1+・・・+cn+200、交換推奨値V1=V1c;
X軸方向走行距離:
予想到達値=d1+・・・+dn+600L1、交換推奨値V1=V1d;
Y軸方向走行距離:
予想到達値=e1+・・・+en+600L2、交換推奨値V1=V1e;
全走行距離:
予想到達値=(d1+e1)・・・+(dn+en)+600(L1+L2)、交換推奨値V1=V1f。
比較の結果、予想到達値が交換推奨値V1を上回るチップパラメータが1つでも存在する場合、制御部121または251は、使用対象とされてなるホイールチップ1がスクライブ処理中に交換推奨状態に到達するものと判断し(ステップS12でYES)、コード14を読み取ったホイールチップ1の交換を推奨する表示(交換推奨表示)を、モニタ128または258に表示させる(ステップS13)。これにより、当該ホイールチップ1が交換推奨状態にあることが報知される。
交換推奨表示がなされた場合、オペレータは通常、ホイールチップ1の交換が必要と判断し(ステップS14でYES)、別のチップホルダを用意して改めてコードを読み取り直す(ステップS7、S8、S2)。これにより、スクライブ不良の発生が確実に回避される。
一方、使用対象とされてなるホイールチップ1がスクライブ処理中に交換推奨状態に到達しないと判断される場合(ステップS12でNO)、該ホイールチップ1を保持するチップホルダ10をホルダジョイント20に取り付ける(ステップS15)。なお、当該チップホルダ10が既にホルダジョイント20に取り付けられている場合は、そのことを確認する。
また、交換推奨表示がなされたにもかかわらず、オペレータの判断で交換を行わない場合もあり(ステップS14でNO)、係る場合も、チップホルダ10はホルダジョイントに取り付けられる。例えば、上述のように演算された積算値が交換推奨値V1をわずかに上回るのみであり、スクライブ不良の発生の可能性が低いと判断される場合などがこれに該当する。
チップホルダ10がホルダジョイント20に取り付けられると、詳細は省略する公知のアライメント処理や初期処理が行われたうえで、制御部121または251が、設定されたレシピに従ったスクライブ処理の実行を指示する信号を発する(ステップS16)。スクライブ装置100または200は、係る実行指示信号に応答して、レシピに従ったスクライブを開始する(ステップS17)。
具体的には、スクライブ装置100の場合であれば、搬送機構駆動部125、回転機構駆動部126、およびスクライブヘッド駆動部127が、それぞれ対応する移動台101の搬送用モータ104、回転機構105、およびリニアモータ112と昇降部31とをレシピの記述内容に従って動作させることによって、レシピに従った一連のスクライブ動作が実現される。スクライブ装置200の場合であれば、クランプ機構駆動部255、第1スクライブヘッド駆動部256、および第2スクライブヘッド駆動部257が、それぞれ対応するクランプ機構220、上側スクライブ機構231、および下側スクライブ機構232をレシピの記述内容に従って動作させることによって、レシピに従った一連のスクライブ動作が実現される。
なお、スクライブ装置200の場合、下側スクライブ機構232においてホイールチップ1を脆性材料基板Pと接触させるには、下側スクライブヘッド30Bを上昇させることになるが、脆性材料基板Pとホイールチップ1との相対的な位置関係は、スクライブ装置100のスクライブヘッド30や上側スクライブ機構231に備わる上側スクライブヘッド30Aの場合と同じであるので、本実施の形態においては、便宜上、下側スクライブヘッド30Bにおける脆性材料基板Pとホイールチップ1との接触態様についても、「スクライブヘッド30を下降させる」と表現するものとする。
レシピに設定されたスクライブ動作が全て完了することでスクライブ処理が終了すると(ステップS18)、係るスクライブ処理の内容を踏まえて使用履歴が更新される(ステップS19)。具体的には、使用履歴データD2に対し、スクライブ開始前に演算された、当該スクライブ処理を行うことによるそれぞれのチップパラメータの増分値がスクライブを行った日付と併せて追記されるとともに、それまで記載されていた積算値が上述の演算にて得られた予想到達値で書き換えられる。
使用履歴が更新されると、制御部121または251は、別のレシピによるスクライブの実行の有無を入力させるためのメニューをモニタ128または258に表示させる(ステップS20)。別レシピでのスクライブの実行が選択された場合(ステップS20でYES)、ステップS5に戻り、以降、上述と同様の処理が繰り返される。別レシピでのスクライブを実行しないことが選択された場合(ステップS20でNO)は、一連の処理は終了となる。
以上、説明したように、本実施の形態に係るスクライブ処理システムにおいては、スクライブを行うに先立ち、チップホルダに印字されてなるコードをコードリーダにて読み取って該チップホルダに保持されてなるホイールチップの管理番号と型式を復元し、復元された管理番号と使用履歴とを照合する。係る照合の結果、当該管理番号のホイールチップがすでに使用限界に達した使用不可のホイールチップとしてあらかじめ記録されている場合、スクライブ装置は、当該ホイールチップの使用を禁止する表示を行うとともに、別のチップホルダが用意されるまで動作を禁止する。これにより、すでに使用限界に達しているホイールチップを使用することによるスクライブ不良の発生を防ぐことが出来る。
また、復元された型式を、これから行おうとするスクライブ処理の内容を規定するレシピデータに記述された型式と照合する。係る照合の結果、当該ホイールチップの型式が、使用可能なホイールチップの型式としてレシピデータに記述されていない場合、スクライブ装置は、当該ホイールチップの使用を禁止する表示を行うとともに、別のチップホルダが用意されるまで動作を禁止する。これにより、レシピデータに基づいて設定されるレシピの実行にとって不適切な型式のホイールチップを使用することによるスクライブ不良の発生を防ぐことが出来る。
さらには、個々のホイールチップについて、その使用態様を特徴付けるとともに使用寿命に影響を与えるパラメータであるチップパラメータの履歴を記録しておく一方、レシピデータには、ホイールチップの交換の目安となる値である交換推奨値を各チップパラメータについて、レシピデータに記述されたスクライブ内容に応じて設定しておく。そして、それぞれのチップパラメータについて、レシピに従ってスクライブを行った場合に到達するであろう積算値(予想到達値)と、交換推奨値とを比較し、前者の方が大きいチップパラメータが存在する場合には、ホイールチップの交換を推奨する表示を行う。これにより、レシピデータに基づいて設定されたレシピを実行した場合にスクライブ不良が生じることを、確実に防ぐことが出来る。また、レシピの設定内容に応じて交換推奨値を定めるので、ホイールチップを使用可能な範囲内で有効に使用することが出来る。
<第2の実施の形態>
上述した第1の実施の形態においては、各チップパラメータの積算を、設定されたレシピに基づく演算処理によって行うようにしているが、チップパラメータの積算の態様はこれに限られるものではない。本実施の形態においては、チップパラメータを実測値に基づいて積算する場合のスクライブ処理の流れを説明する。ただし、説明の簡単のため、本実施の形態においては、先に例示したチップパラメータのうち、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数と、ホイールチップ1の走行距離のみが、ホイールチップ1の交換の要否の判断に用いられるものとする。
図14および図15は、本実施の形態において、スクライブ装置100または200にチップホルダ10が取り付けられてからスクライブ処理が完了するまでの処理の流れを示す図である。
図14に示すように、本実施の形態のスクライブ処理の前段部分、具体的には、チップホルダ10を用意した後、コード14から復元された管理番号や型式に基づいてホイールチップ1が使用可能なものであるか否かを判断するまでの工程(ステップS1〜S10)は、第1の実施の形態と同様である。
ただし、本実施の形態の場合、型式の照合によってホイールチップ1が設定されたレシピの実行に適したものであると判断された時点で(ステップS10でYES)、チップホルダ10をホルダジョイント20に取り付ける(ステップS15)。なお、当該チップホルダ10が既にホルダジョイント20に取り付けられている場合は、そのことを確認する。そして、チップホルダ10がホルダジョイント20に取り付けられると、公知のアライメント処理や初期処理が行われたうえで、制御部121または251が、設定されたレシピに従ったスクライブ処理の実行を指示する信号を発する(ステップS16)。
スクライブ装置100または200は、係る実行指示信号に応答して、レシピに従ったスクライブを開始する(ステップS17)が、本実施の形態においては、係るスクライブの開始とともに、スクライブ装置100または200がチップパラメータを実測し、さらに、その実測値(パラメータ実測値)を逐次、制御部121または251に受け渡すようにする。制御部121または251は、パラメータ実測値を取得するたび、これを使用履歴データD2に記述されてなる各チップパラメータの直前までの積算値に加算する(ステップS101)。
例えば、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数については、スクライブヘッドの昇降動作によってホイールチップ1が脆性材料基板Pと接触するたびに、それまでの積算値に「1」が加算される。また、ホイールチップ1の走行距離については、X軸方向またはY軸方向へのスクライブ動作が行われる度に、その際のホイールチップ1の走行距離がそれまでの積算値に加算される。
スクライブ動作が行われている間、制御部121または251は、チップパラメータが加算される都度、それぞれのチップパラメータについて加算後の値とレシピデータD1に記述されてなる交換推奨値V1とを比較し、いずれかのチップパラメータが交換推奨値V1を上回ることによりホイールチップ1が交換推奨状態に到達したか否かを判断する(ステップS102)。
交換推奨状態に到達せず(ステップS102でNO)、かつスクライブが行われている間(ステップS103でNO)は、これらパラメータの加算と、交換推奨値V1との比較が繰り返される。
一方、スクライブを実行している間に、いずれかのチップパラメータが交換推奨値V1を上回って交換推奨状態となった場合(ステップS102でYES)、制御部121または251は、スクライブに使用しているホイールチップ1の交換を推奨する表示(交換推奨表示)を、モニタ128または258に表示させる(ステップS104)。これにより、当該ホイールチップ1が交換推奨状態にあることが報知される。ただし、この時点ではまだスクライブ動作は継続している。
交換推奨表示がなされると、オペレータは、ホイールチップ1の交換を行うか否かを判断する(ステップS105)。交換を行う場合(ステップS105でYES)、スクライブを停止し(ステップS106)、別のチップホルダを用意して改めてコードを読み取り直す(ステップS7、S8、S2)。これにより、スクライブ不良の発生が回避される。
交換推奨表示がなされたにも関わらずホイールチップ1の交換を行わない場合(ステップS105でNO)、あるいは、そもそもホイールチップ1が交換推奨状態とならない場合、レシピに設定されたスクライブ動作が全て完了すれば、スクライブ処理は終了となる(ステップS18、ステップS103でYES)。そして、その時点での各チップパラメータの加算によって使用履歴データD2の積算値が更新される(ステップS19)。
なお、交換推奨表示がなされたにも関わらずホイールチップ1の交換を行わない場合とは、残りロット数がわずかであるなどの理由で、スクライブ処理が終了した時点におけるチップパラメータの積算値が交換推奨値V1をわずかに上回るのみであると判断される場合など、スクライブ不良の発生の可能性が低いと判断される場合がこれに該当する。
使用履歴が更新されると、制御部121または251は、別のレシピによるスクライブの実行の有無を入力させるためのメニューをモニタ128または258に表示させる(ステップS20)。別レシピでのスクライブの実行が選択された場合(ステップS20でYES)、ステップS5に戻り、以降、上述と同様の処理が繰り返される。別レシピでのスクライブを実行しないことが選択された場合(ステップS20でNO)は、一連の処理は終了となる。
以上のように、本実施の形態においては、実際のスクライブ動作に基づいて、ホイールチップ1が交換推奨状態にあるか否かを判断する点で、レシピの記述内容からチップパラメータを演算し、その演算結果に基づいてホイールチップ1が交換推奨状態にあるか否かを判断する第1の実施形態とは異なっている。第1の実施の形態の場合、レシピの設定内容が複雑であると、予想到達値の演算に時間を要することとなるため、処理効率が落ちる可能性があるが、本実施の形態の場合は、スクライブ処理中に単純な加算処理を繰り返すのみであるので、処理効率を低下させることなくスクライブ処理を行い、かつ、スクライブ不良の発生を確実に防ぐことが出来る。
また、第1の実施の形態においては、実際に交換推奨状態には至っていないホイールチップ1であっても、予想到達値と交換推奨値とを比較した結果、次に使用する際に交換推奨状態に至る場合には、その時点で交換をすることがあるが、本実施の形態の場合は、実際に交換推奨状態に至って初めてホイールチップ1を交換することになるため、ホイールチップ1をより有効に使用することが出来る。
なお、チップパラメータの実測は、公知の技術を用いて行うことが出来る。ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数については、例えば、スクライブヘッド30にホイールチップ1が脆性材料基板Pと接触する度にONまたはOFFされるリレー(電気的接点)を設け、制御部121または251がそのON/OFF信号を検知する度に「1」を加算する態様であってもよいし、スクライブヘッド30の昇降部31をサーボモータによって構成し、ホイールチップ1が脆性材料基板Pと接触した際にサーボモータに生じるトルクの上昇を検知度に「1」を加算する態様であってもよい。
また、ホイールチップ1の走行距離については、スクライブ装置100のY軸方向のスクライブ動作のように、脆性材料基板Pに対するホイールチップ1の相対移動がボールネジ103を用いて実現されるような場合であれば、モータの回転軸の回転数を、図示しないロータリーエンコーダにてパルス信号に変換・出力し、さらに、出力されたパルス信号をエンコーダカウンタにてカウントすることにより算出することができる。あるいは、ホイールチップ1の相対移動がリニアモータを用いて実現されるような場合であれば、その固定子部分に、スクライブヘッド30が備わる可動子部分の移動方向に沿ったリニアスケールを設けるとともに、スクライブヘッド30が移動する際にその目盛部分が走査されると単位長さあたり1つのパルス信号が発せられるようにしておき、出力したパルス信号の数から走行距離を算出するようにすればよい。
以上、説明したように、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、チップホルダに印字されてなるコードから復元された、当該チップホルダに保持されてなるホイールチップの管理番号と型式に基づいて、ホイールチップの使用の可否を判定することができる。
加えて、個々のホイールチップについて、その使用態様を特徴付けるとともに使用寿命に影響を与えるパラメータであるチップパラメータを実測値に基づいて積算するとともに、スクライブに使用しているホイールチップが交換推奨状態に到達したか否かを、スクライブ処理の内容を記述してなるレシピごとに定めたそれぞれのチップパラメータについての交換推奨値に基づいて特定するので、レシピを実行した場合にスクライブ不良が生じることを、確実に防ぐことが出来る。また、レシピの設定内容に応じて交換推奨値を定めるので、ホイールチップを使用可能な範囲内で有効に使用することが出来る。
<変形例>
上述の説明においては、第1の実施の形態におけるスクライブ処理と第2の実施の形態におけるスクライブ処理とを独立に説明しているが、これらのスクライブ処理は背反するものではなく、同時並行的に行うことが可能である。係る場合においては、チップパラメータの種類によって、それぞれのスクライブ処理を使い分けるようにしてもよい。例えば、ホイールチップ1と脆性材料基板Pとの衝突回数や走行距離に基づく交換推奨状態の判断については、第2の実施の形態に係るスクライブ処理を適用して、実測に基づいて行う一方、外切りの回数やねじれの回数に基づく交換推奨状態の判断については、第1の実施の形態に係るスクライブ処理を適用して、予想到達値に基づいて行うようにしてもよい。
上述の第2の実施の形態においては、スクライブ処理の際にチップパラメータを実測するが、係るチップパラメータの実測を、アライメント処理の際や、マニュアル操作で行うテストスクライブの際などにおいても、行うようにしてもよい。係る場合、使用履歴データD2に記録されたチップパラメータの積算値が、実際のチップパラメータの値により近づくことになるので、ホイールチップの交換の要否を、よりシビアに判断することが可能となる。なお、第1の実施の形態の場合も、このような対応は不可能ではないが、必ずしも現実的ではない。
第2の実施の形態の場合、チップパラメータの積算値はほぼリアルタイムで更新されることになる。このことを利用し、当該積算値をリアルタイムでモニタ128または258に表示させるようにしてもよい。この場合、チップパラメータが交換推奨値V1に近づく様子をオペレータが視認できるので、前もって交換の準備を行うことが可能となる。係る場合において、交換推奨値V1に達するまでのチップパラメータの値をカウントダウン表示させる態様であってもよい。
上述の場合、脆性材料基板Pの一方の面をスクライブするホイールチップは1つのみであるが、同一面に対して複数のスクライブヘッドを設けることによって、当該面の複数個所に対し同時にスクライブを行えるスクライブ装置を用いる態様であってもよい。係る場合、上述した使用可否の判断や交換の判断は、それぞれのスクライブヘッドに取り付けられるホイールチップについて、それぞれに行うことになる。
スクライブ処理システムがホルダジョイント20に取り付けられるチップホルダ10を自動に交換する手段(ホルダ自動交換手段)を有していてもよい。係る場合、ホイールチップ1が使用不可であることや交換推奨状態にあることが、制御部121または251に報知にされたことに応答して、ホルダ自動交換手段がチップホルダ10を交換するのが好ましい。