駅や空港、バスといった公共交通機関を対象にした「交通バリアフリー法(平成12年法律68号)」と、大規模なビルやホテル、飲食店などを対象にした「ハートビル法」を統合し内容を拡充して「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)所謂バリアフリー新法」が制定された。空間、施設、車両等、設備の一部だけに着目して整備するのではなく、例えば旅客施設であれば、その出入口から車両等に至るまで、すべての移動経路、案内設備、サービス施設等を一体的にとらえて整備する。その視点から施設・車両を一体的にとらえて、バス停の縁石との隙間を少なくバスを止めて車椅子・ベビーカーの使用者はじめ誰もが困難なくバス乗降ができる自動運転技術が、注目されている。下記の技術論文によりバス停に精度良く平行にバスを止める(正着させる)技術が報告されている。
道路に配列して埋め込まれた磁気マーカーを磁気センサで探査して車線維持してバス停に近づきバスを止める。バス停付近では、磁気マーカーは鋭く曲がるS字を描き並んでいる。鋭く曲がるため前輪と後輪は同じ軌跡を描かず相互に大きくずれる。磁気センサにはその様にずれる範囲をカバーするセンサレンジを備える。道路の幾何形状・負荷・車速・路面変化に対して安定に制御すべきと述べている。
バスは走行車線ないしバス優先レーンないしバス専用車線を走行して来てバス停に入る。車線を維持する自動運転技術が報告されている。実際の道路の線形(曲率)と道路横断勾配(カント)を入力すると、必要ハンドル角を算出して、その道路曲線を辿ることができる車両運動モデルを紹介している。
しかしながら、非特許文献1は、バスが車体の向きを大きく変化させてバス停縁石に近づき縁石との隙間を小さく且つ平行に止める必要に対して、“車体とバス停縁石との干渉を避けて隙間を小さく平行に止める方法論”を示していない。また、道路の幾何形状・負荷・車速・路面変化に対して安定に制御すべきと述べるにとどまり、道路の線形や構造の違い、バス停の違い、車両の種類・仕様の違い、車両の乗客などの積載違いなどの“状態変化への適応性”には言及していない。本発明は、その方法論と適応性の解決に関するものである。
しかしながら、非特許文献2は、“走行車線からバス停に幅寄せして停止する線形の作り方、及び辿り方の方法論”までは、示していない。
“車体とバス停縁石との干渉を避けて隙間を小さく平行に止める方法論”には、車両の種類や仕様や使用状態が違っても路肩・縁石・車線との相対位置が肝心である部位を“代表部位”として、車体各部の位置だしが簡単確実に出来ることが肝要である。その部位は、“後軸路側車輪”であり、“代表”は“後軸路側輪が描く軌跡”である。後軸路側輪と車体各部の相対位置はアッカーマン理論によって一義的に決まる。軌跡の線形は曲率で一義的に決まる。
“状態変化に適応性”については、次の様である。車両の種類や仕様や使用状態が変わると車両の走行軌跡は変わるから、その変化に適応する必要がある。走行路の線形(曲率)に対して操舵角・車速が適応することが求められる。数学モデルを備えて、辿るべき曲率に対する操舵角・車速を算出して適応する。
本発明は、“後軸路側輪が描く軌跡を車両各部の動きを代表する根源の軌跡とすること”を押さえる。その軌跡を図1に示す。図中(a1)は単車が直線縁石に幅寄せして止まる場合、(a2)は単車が切欠縁石に幅寄せして止める場合、(b)は連節車が切欠き縁石に幅寄せして止める場合である。いずれの場合も辿るべき線形に沿ったS字軌跡になる。辿るべき線形から大きく頭を振る前軸軌跡では“代表”たり得ない。バス停に止まる低い車速においては、車両は後軸線上に回転中心もつから車体各部の回転軌跡は容易に描くことが出来て縁石との隙間・平行は簡単確実に把握することができる。縁石と車体との隙間は回転半径を関数とする図2の式で計算できるので、目標隙間に対応する回転半径でバス停に侵入すれば目標隙間に止めることが可能になる。
また本発明は、“車体とバス停縁石との隙間を一層小さくする方法”を押さえる。先に示した図2に示す様に、隙間を小さくするには、旋回半径を大きくする必要があり、それに伴いバス停を長くすることが必要になる。バス停が長くなることを押さえるために図1(a2)の様に車体前端と縁石との干渉を躱すための切欠きを設ける事例がある。“切欠きを設けずに隙間を小さくする方法”を図3により押さえる。基点から、半径r1の回転で巾寄せ開始して外接する半径r2の円に乗り移り内接する半径r3の軌道にのって標点に停車する。r1、r2、r3の接続点での曲率変化が不連続になるが、後述する要求軌跡を作成する方法によって、不連続を慣らした曲率に置換する。
また本発明は、“要求軌跡を辿ることができるハンドル角を算出する方法”を押さえる。その方法を図4に示す。ニュートンの第2法則にもとづく車両運動モデル(数学モデル)を備える。このモデルは、パワーステアリングを含む操舵系の回転運動・キングピン回りの前輪の回転運動・車両の横運動・車両の回転運動の4式で構成される連立方程式である。この連立方程式を展開すると道路の線形(曲率)と構造(横断勾配)に対するハンドル角を求める式が得られる。この式に要求軌跡を入力すると、その軌跡を辿るハンドル角が算出される。そのハンドル角を受けて上述の車両運動モデルが要求軌跡を辿る。
また本発明は、“車両運動モデルに入力する要求軌跡を作成する簡単な方法”を押さえる。そのバス停に横づけする際に後軸路側輪が描く軌跡を作成する手順を図5に示す。
また本発明は、“状態変化に適応する自在性”を押さえる。車両質量などの状態量が変わると車両が辿る軌跡が変わる実際がある。そのため先行技術文献の様に地面に固定された磁気マーカーの配列を探査してそれに忠実に走行することが難しくなる。むしろ、縁石との隙間と並行度が目標であるから、バス停侵入位置と侵入姿勢を整えたら、運動力学で決まる軌跡に任せ、停止線近傍に至ってから目標範囲に止める制御を加える方が自然で無理がない。バス停に接近し停止するまでの工程を図6に示す。
また本発明は、バス停に限らず“辿るべき進路の一般化表現”を押さえる。車両の進路は図7に示す“向き変化”と“巾寄せ”に大別される。向き変化は、その変化は小さい方から、分岐⇒直角⇒方向転換になり、巾寄せは寄せ巾の小さい方から、直進⇒車線維持⇒車線変更⇒・・・となり、時間軸または距離軸に対する曲率変化を与えることで一般化表現できて、前記段落(0013)における要求軌跡の記述が簡単になる。広く、高速域での車線変更、一般道の交差点に広く適用できる。
本発明による車両の停車システムによれば、後軸路側輪が描く軌跡を車両各部の動きを代表する根源の軌跡とすることで、辿るべき進路線形に沿ったS字曲線として構成することが出来て、その軌跡を通るハンドル角を算出する数学モデルを備えて、そのモデルに入力する軌跡を作る簡単な方法を用意して、車両の状態や道路等の環境変化物理に自然に無理なく適応して広く応用が利く効果を得ることができる。
本発明は、停車場の縁石との隙間を最小にして停車させる車両操向制御に関するものである。後軸路側輪軌跡を踏まえて操向する方法に関するもので、図1に単車の場合と連節車両の場合を示す、いずれの場合も最後軸の路側輪軌跡が描くS字軌跡が車両全体の動きの根幹になるので、このS字を代表軌跡として車両の動き全体を律する様にしている。
バス停縁石とバス車体との隙間と回転半径の関係式を図2に示す。後軸路側輪の回転半径に対して車体前端の回転半径が大きい。縁石とバス車体との隙間は、その回転半径の差(h)より狭くはできない。狭くするには回転半径を大きくとる外にない。回転半径を大きくとるとバス停の長さを大きくとらねばならなくなる。
最短距離でバス停に横づけする後軸路側輪の軌跡の採り方を図3に示す。車両と路側との間隔h1から半径r1で巾寄せを開始して半径r2に切替えて半径r3の軌跡に乗ってバス停ないし路側にすり寄る構成になる。r1では、車両前端が路側に接触ぎりぎりの接触点Psまで入り込む。Ps点からの垂線と後車軸中心線との交点p2を中心する半径r2が“r1に対する外接円”且つr2が“r3に対する内接円”になる。r2と同心のr20が合点pMでr3と同心のr30に乗り標点にて路側縁石にすり寄る。後軸路側輪は、基点−外接点Ps−内接点P1−標点を辿るS字になる。このS字軌跡は、左回転の半径r1、右回転の半径r2、更に右回転の半径r3で構成されるが、そのままでは半径それぞれの接続点での曲率変化が不連続である。実際の車両がこの軌跡を辿るには曲率不連続部に緩和曲線が必要になる。また、その軌跡を辿るために入力するハンドル角を知ることが必要になる。
平面運動の車両モデルを用意して車両が辿るべき軌跡を入力して、その軌跡を辿るためのハンドル角を逆算することができる。車両モデルは図4の式(1)に示す様に、車両の横運動のつり合いを表現するβドットの式、車両の回転運動のつり合いを表現するγドットの式、操舵系のつり合いを表現するδツードットの式の連立方程式として構成される。ここに、βは車両横速度/車両前後速度を表現する横すべり角、γは車両の向き変化の角速度を表現するヨーレイト、δは前輪角度(タイヤ切れ角)である。この三つの式それぞれにハンドル角δHと道路のカント角(ξ)が含まれている。加速度項・速度項を無視して簡単化すると、式(1)は代数方程式になり、操舵系の代数方程式は式(2)、車体横運動の対数式は式(3)、車体回転運動の代数式は式(4)になる。式(3)と(4)のδに式(2)のδを代入して整理するとヨーレイトγ、曲率ρ、車速v、カント角ξを変数とする式(5)のハンドル角δHの代数式(5)が得られる。更に、式(3)(4)を式(2)を代入して整理すると式(6)(7)になり、横すべり角の代数式(8)、ヨーレイトの代数式(9)が得られる。
辿ろうとする軌跡(線形)の曲率とカントを入力してその線形をトレースする平面運動モデルを図5に示す。このモデルは距離インデックスに対する曲率・カントを車速で除算して時間軸に変換して入力すると、ハンドル角の代数式(5)と操舵系の逆伝達関数のブロックを経て“その線形を辿るためのハンドル角δH”を算出する。そのハンドル角が、横すべり角の代数式と横すべり角の伝達関数のブロックを経て横すべり角βを計算し、ヨーレイトの代数式とヨーレイトの伝達関数のブロックを経てヨーレイトγ、それを積分してヨー角を算出する。横すべり角とヨー角を合算してその余弦(cos)に車速を乗じて積分すると車両重心の前後位置(xpos)が求まり、正弦(sin)を乗じて積分すると車両重心の横位置(Ypos)が求まる。後軸路側輪の横位置は、重心横位置から「正弦(sin)にを乗じた値」を差し引き「余弦(cos)にysを乗じた値を加えた値になり、前後位置は、重心前後位置から「余弦(cos)にを乗じた値」および「正弦(sin)にを乗じた値」を差し引いた値になる。車両前端のPFの横位置は、重心横位置に「正弦(sin)にSを乗じた値」および「余弦(cos)にysを乗じた値」を加えた値になり、前後位置は重心前後位置に「余弦(cos)にSを乗じた値」を加え「正弦(sin)にysを乗じた値」を差し引いた値になる。
図3で得られるS字軌跡の半径それぞれの接続点での曲率不連続部に緩和曲線を設けて、実際の車両がこの軌跡を辿れるようにする。実車同定された図5の平面運動モデルに図3で作成した曲率不連続があるS字軌跡を入力して、モデルを走らせると曲率不連続が慣らされ緩和曲線を含む軌跡になる。その工程を図6に示す。工程(1) r1、r2、r3で構成される要求軌跡が図3の方法で作成される。工程(2) その軌跡を回転半径で表現すると階段状の線図になる。工程(3) 階段状の曲率線図に換算する。工程(4) 図5のモデルに工程(3)の曲率を入力して走らせる。工程(5) モデルが走ることができる緩和曲線を含む軌跡を得る。工程(6) 得られた軌跡を曲率換算して制御FF値を得る。
後軸路側輪軌跡を用いてのバス停への停車制御例を図7に示す。車両は後軸路側輪の回転パルスから軌跡距離を認識している。車線維持走行してきて工程(1)の整定区間に入ると、基点位置と標点位置に対する自車位置・姿勢・ハンドル中立を整定して車速を許容値内にする。工程(2)-1で後軸線と基点との整合を確認する。工程(2)-2で、後軸車速輪軌跡からモデルが算出するr1相応のハンドル角で、縁石干渉監視付で第1旋回する。工程(3)でr2相応のハンドル角で切替し操舵して第2旋回する。この工程からは車両前端が縁石スリ寄せ状態であるのでフィードフォワード制御に加えてフィードバックによる修正操舵制御も備える。工程(4)で後軸車速輪軌跡からモデルが算出するタイミングでr3相応のハンドル角を決めて第3旋回して、車両先端と後軸の縁石隙間が目標値内で等しくなったことを確認したら、直進して、定められた停止位置に止める。
辿るべき進路の分類を図8に示す“向き変化”と“巾寄せ”に大別できる。“巾寄せ”には、寄せ巾違いで“バス停停止”“車線変更”或いは寄せ巾ゼロの“直進”に大枠で区分される。“向き変化”には、向き変化の角度が小さい順に分岐、直角、方向転換に大枠で区分される。これらは全て辿るべき進路の曲率変化で表現できる。即ち、道路の線形は曲率で表現できるから、車速・曲率・カントを受けて操舵角を自動的に算出して線形をトレースする方法とそのモデルは、バス停停止に限らず進路を辿るタスクすべてに適応する。