以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る熱処理装置1の模式的な断面図であり、熱処理装置1を平面視した状態を示している。図2は、熱処理装置1の模式的な断面図であり、熱処理装置1を側面視した状態を示している。側面図である。図3は、図1の熱処理装置1におけるホルダー2および被処理物100を拡大した図である。図4は、図2の熱処理装置1におけるホルダー2および被処理物100を拡大した図である。図4では、一部の被処理物100の図示を省略している。
図1および図2を参照して、熱処理装置1は、被処理物100を熱処理するために設けられている。この熱処理として、真空浸炭、浸炭窒化および浸炭焼入れなどの浸炭処理、焼入処理、焼戻処理、焼鈍処理などを例示することができる。本実施形態では、熱処理装置1が、ガス浸炭処理炉である場合を例に説明する。
被処理物100は、円形状に形成された金属製の部材である。この場合の「円形状」とは、貫通孔が形成された円筒状、貫通孔が形成されていない円板状、および、外形形状の包絡線が円状である形状などを含んでいる。外形形状の包絡線が円状である部材として、外周部に歯が形成されたギヤを例示できる。本実施形態では、被処理物100は、リング状の金属部品である。被処理物100は、略真円の円筒状に形成されており、熱処理装置1による熱処理が行われる前の状態において、歪み量が実質的にゼロである。この場合の歪みとは、楕円歪みをいい、被処理物100のうち直径が最大の部分と最小の部分との差または比をいう。
被処理物100として、転がり軸受の外輪および内輪などのレース部材、平歯車などのギヤ、転がり軸受のころ、シャフト、ワッシャなどを例示することができる。なお、被処理物100は、円形状に形成され熱処理が施される金属部品であればよい。被処理物100は、たとえば、炭素含有量(カーボンポテンシャル)が0.2%程度の炭素鋼である。なお、被処理物100の炭素含有量として、0.15%〜0.2%を例示することができる。本実施形態では、被処理物100は、当該被処理物100の軸方向D1に数mm程度の厚みを有するリング状に形成されている。よって、被処理物100の内周面および外周面は、互いに同心の円筒状である。
熱処理装置1は、熱処理ユニット3と、制御部4と、を有している。
熱処理ユニット3は、ホルダー2と、熱処理炉5と、ヒータユニット6と、台座7と、撹拌装置8と、雰囲気ガス供給部9と、を有している。
熱処理炉5は、中空の箱状に形成されている。熱処理炉5は、被処理物100を収容するための収容室を形成している。熱処理炉5の互いに向かい合い略平行に並ぶ一対の側壁には、入口扉10と出口扉11が形成されている。入口扉10が開かれた状態で、被処理物100は、熱処理炉5の外部から熱処理炉5内に搬入される。また、出口扉11が開かれた状態で、被処理物100は、熱処理炉5内から熱処理炉5外に搬出される。また、被処理物100が熱処理されている間、入口扉10および出口扉11は、閉じられている。本実施形態では、入口扉10から出口扉11に向かう方向が、進行方向X1として規定されている。
熱処理炉5には、熱処理炉5内の温度としての炉内温度Tを検出するための温度センサ12が設置されている。この温度センサ12の温度検出結果は、制御部4に与えられる。また、熱処理炉5には、熱処理炉5内のカーボンポテンシャルを測定するための酸素センサ13が配置されている。この酸素センサ13による酸素濃度検出結果は、制御部4に与えられる。熱処理炉5には、ヒータユニット6が配置されている。
ヒータユニット6は、熱処理炉5内の温度を、被処理物100の熱処理に必要な温度にまで上昇させるために設けられている。ヒータユニット6は、熱処理炉5内において、進行方向X1に沿うように配置されている。ヒータユニット6は、平面視において、熱処理炉5の4つの側壁のそれぞれから離隔した箇所に配置されている。
ヒータユニット6は、複数の第1ヒータ14と、複数の第2ヒータ15と、を有している。
各ヒータ14,15は、図示しない電源から供給される電力を熱に変換するように構成された、発熱体(電熱体)を有している。各ヒータ14,15は、この発熱体による発熱動作を行うことで、熱処理炉5内の雰囲気を加熱するように構成されている。第1ヒータ14は、進行方向X1に沿って略等間隔に複数(本実施形態では、6個)配置されている。同様に、第2ヒータ15は、進行方向X1に沿って略等間隔に複数配置されている。本実施形態では、第1ヒータ14の数と第2ヒータ15の数とは、同じに設定されている。
また、進行方向X1において、各第1ヒータ14の位置は、対応する1つの第2ヒータ15の位置と揃えられている。これにより、進行方向X1の位置が揃えられた一対の第1ヒータ14および第2ヒータ15は、平面視において、進行方向X1と直交する方向に離隔した状態で向かい合っている。
第1ヒータ14と第2ヒータ15とは、同じ構成を有している。より具体的には、第1ヒータ14と第2ヒータ15は、同じ形状に形成されており、且つ、同じ加熱性能を有している。
各ヒータ14,15は、チューブ16を有している。
チューブ16は、当該チューブ16内に配置された電熱体への通電によって生じる熱を熱処理炉5内の空間に伝達するために設けられている。チューブ16内で電熱体から生じた熱によって熱処理炉5が加熱され、熱処理炉5内の被処理物100が加熱される。チューブ16は、熱処理炉5内において、熱処理炉5の天壁5aから下方に延びる円筒状に形成されており、上下に真っ直ぐな形状を有している。各チューブ16の直径は、所定の値に設定されている。各チューブ16は、熱処理炉5の天壁5aから、台座7の上面の位置よりも下方の位置まで延びている。各チューブ16は、当該チューブ16の周囲へ放射状に熱を放射する。
上記の構成を有するヒータユニット6には、主輻射方向D2が規定されている。主輻射方向D2とは、ヒータユニット6から供給される単位時間当たりの熱量が最も大きい方向をいう。換言すれば、ヒータユニット6は、主輻射方向D2に向かう熱を輻射するように構成されている。本実施形態では、主輻射方向D2は、進行方向X1の位置が同じ一対のヒータ14,15が向かい合う方向である。より具体的には、主輻射方向D2は、平面視において、進行方向X1と直交する方向である。本実施形態では、ヒータユニット6は、進行方向X1と直交する方向に熱が放射されることとなる。また、本実施形態では、主輻射方向D2は、水平方向に沿っている。主輻射方向D2は、各ヒータ14,15からの熱放射量をベクトル表示したときにおいて各ベクトルの合成値が最大である方向ともいえる。なお、熱源としてのヒータが、1つのヒータ14または1つのヒータ15のみである場合、主輻射方向D2は、チューブ16の円筒部分の任意の点における法線が延びる方向であって、且つ、被処理物100の中心点を通る方向であると定義することもできる。
上記の構成を有するヒータ14,15間に、台座7が配置されている。台座7は、ホルダー2を支持するために設けられている。台座7は、たとえば、進行方向X1における入口扉10から2番目のヒータ14,15間に配置されているとともに、入口扉10から5番目のヒータ14,15間に配置されている。台座7は、たとえば、複数の支柱7a〜7fを含んでいる。各支柱7a〜7fは、上下に延びている。 支柱7a〜7fは、たとえば、6個設けられており、4つの支柱7a,7b,7e,7fでホルダー2の四隅を支持するとともに、2つの支柱7c,7dで、ホルダー2の中間部を支持するように構成されている。
本実施形態では、3つの支柱7a,7c,7eが、進行方向X1における入口扉10から2番目のヒータ14,15間に配置されており、これら3つの支柱7a,7c,7eは、主輻射方向D2に等間隔に配置されている。さらに、これら3つの支柱7a,7c,7eのうちの2つは、対応するヒータ14,15に隣接している。また、残りの3つの支柱7b,7d,7fが、入口扉10から5番目のヒータ14,15間に配置されており、これら3つの支柱7b,7d,7fは、主輻射方向D2に等間隔に配置されている。さらに、これら3つの支柱7b,7d,7fのうちの2つは、対応するヒータ14,15に隣接している。
ホルダー2は、1または複数の被処理物100を熱処理炉5に搬入および搬出するために用いられる。また、ホルダー2は、被処理物100が熱処理される際に、被処理物100を保持するために用いられる。ホルダー2は、本実施形態では、金属製である。ホルダー2は、上方が開放された矩形の箱形形状に形成されている。ホルダー2の4つの側面および1つの底面は、メッシュ状に形成されており、ガスなどの流体を通過可能に構成されている。
図5は、ホルダー2と被処理物100との関係を説明するための模式図である。図1〜図5を参照して、ホルダー2は、底枠部21と、4つの縦枠部22〜25と、底枠部21に取り付けられた受け部26と、を有している。
底枠部21は、たとえば、金属棒を矩形状に組み合わせることで形成されている。底枠部21の4つの辺部から、4つの縦枠部22〜25が延びている。
縦枠部22,23は、被処理物100を前後(主輻射方向D2)に挟むように配置される一対の枠部として形成されている。これら縦枠部22,23は、底枠部21のうち所定の第1並び方向E1の両端部から上方に延びるとともに、受け部26に保持された複数の被処理物100を挟むように配置されている。縦枠部22は、前枠部として設けられており、たとえば、ヒータ14に隣接するように配置される。縦枠部22は、後枠部として設けられており、たとえば、ヒータ15に隣接するように配置される。
縦枠部24,25は、被処理物100を左右(進行方向X1)に挟むように配置される一対の枠部として形成されている。縦枠部24は左枠部として設けられ、縦枠部25は、右枠部として設けられている。縦枠部24,25は、たとえば、ヒータ14,15が向かい合う方向に延びるようにして、これらのヒータ14,15間に配置される。
各縦枠部22〜25は、それぞれ、メッシュ状に形成されており、ガスを通過可能に構成されている。縦枠部22〜25を支持している底枠部21のうち、後述する主輻射方向D2に離隔する2つの辺部間に、受け部26が延びている。
受け部26は、複数の被処理物100を支持するために設けられている。受け部26は、所定の第1並び方向E1に沿って延びている。第1並び方向E1は、受け部26に保持された被処理物100の軸方向D1に沿っている。また、第1並び方向E1は、平面視において、縦枠部24,25が延びる方向に沿っている。受け部26は、複数の支持部材27を有している。
支持部材27は、平面視で第1並び方向E1と直交する第2並び方向E2に沿って所定のピッチで一対配置されている。そして、第2並び方向E2に沿って複数対の支持部材27,27が設けられている。本実施形態では、第1並び方向E1および第2並び方向E2は、何れも、実質的に水平方向であり、水平面に対する傾斜角度は、ゼロ〜数度程度に設定されている。そして、隣り合う一対の支持部材27,27が、被処理物100を支持する。
一対の支持部材27,27は、被処理物100を、起立した姿勢で熱処理炉5内に配置するように構成されている。そして、被処理物100の軸方向D1は、水平方向に沿っている。この場合の「水平方向に沿っている」とは、軸方向D1と水平面とのなす角度が、ゼロ度から数度程度の範囲にあることを例示できる。また、本実施形態では、一対の支持部材27,27は、被処理物100の外周面100aを外周面100aの下方から支持するようにして、当該被処理物100を支持している。
また、一対の支持部材27,27は、被処理物100を2点支持するように構成されている。より具体的には、一対の支持部材27,27は、被処理物100を、当該被処理物100の周方向における2点で支持するように構成されている。このように、一対の支持部材27,27は、被処理物100の外周面100aを、当該外周面100aの周方向に離隔した2箇所(具体的には、後述する第1支持部31および第2支持部32)で支持するように構成されている。
各支持部材27は、たとえば、断面円形状の金属棒を用いて形成されており、本実施形態では、主輻射方向D2と平行に延びている。本実施形態では、各支持部材27は、第1並び方向E1に延びていることで、被処理物100と線接触となるように接触し、当該被処理物100を支持している。
より具体的には、各支持部材27は、支持する被処理物100と対向する対向面28を有している。対向面28は、第1並び方向E1に沿って真っ直ぐに延びている。そして、対向面28のうち、被処理物100に接触している箇所が、支持部31または支持部32を形成している。このように、一対の支持部27,27のうちの一方の支持部材27に形成された第1支持部31と、他方の支持部材27に形成された第2支持部32と、が存在することとなる。第1支持部31および第2支持部32は、本実施形態では、第1並び方向E1(主輻射方向D2)に延びる直線状部分である。被処理物100の外周面100aは、当該外周面100aの周方向に離隔した支持部31,32で支持されている。
また、被処理物100の軸方向D1と、主輻射方向D2とのなす劣角θ1が、45°以下(ゼロを含む)となるように、ホルダー2に被処理物100が配置されている。
図6は、劣角θ1を説明するための模式図であり、劣角θ1がゼロではない場合を示している。なお、図1〜図4は、劣角θ1=ゼロである場合を示している。図6を参照して、本実施形態では、劣角θ1は、たとえば、以下のように定義される。劣角θ1は、軸方向D1に延びる被処理物100の中心軸線B3と、主輻射方向D2に沿って延びる基準線B4の2つの直線を含む平面、すなわち、図6に示す平面で定義される。劣角θ1は、これら2つの線B3,B4が交わる交点を原点Oとして、上記中心軸線B3の一部からなる第1半直線B5と、基準線B4の一部からなる2半直線B6とがなす2つの共役角のうち、小さいほうの角度をいう。
なお、劣角θ1は、基準線B4(主輻射方向D2)と直交する仮想の直交面と中心軸線B3(軸方向D1)とがなす角度を用いて定義されてもよい。この場合、仮想の直交面と中心軸線B3とが直交しているときの劣角θ1がゼロとなる。そして、仮想の直交面と中心軸線B3とが直交しているときの当該中心軸線B3(基準中心軸線)に対する中心軸線B3の傾斜角度が、劣角θ1となる。
本実施形態では、水平方向に沿って、被処理物100の軸方向D1と主輻射方向D2とが延びている。よって、本実施形態では、劣角θ1は、仮想の水平面上における、軸方向D1と主輻射方向D2とがなす角度となる。
図1〜図6を参照して、劣角θ1が45°以下に設定されることで、被処理物100の外周部における熱の伝わりの偏りを、より確実に抑制できる。すなわち、劣角θ1を、直角である90°の1/2以下にすることで、被処理物100の表面の全体に、より均等にヒータ14,15からの熱が伝わることとなる。これにより、被処理物100が熱処理されている際に、被処理物100内の各部において変態を開始するタイミング(以下、単に変態タイミングともいう)のずれを、より小さくできる。その結果、被処理物100内における変態応力(すなわち、変態タイミングのずれに起因する応力)の発生を、より少なくできる。その結果、被処理物100の内部応力に起因する被処理物100の熱歪みを、より小さくできる。特に、略真円状であるリング状の被処理物100が楕円状に歪む、楕円歪みをより小さくできる。
なお、劣角θ1が45°を超えると、主輻射方向D2に沿って被処理物100に伝わる熱の分布が被処理物100内で不均一になる度合いは、大きくなる。その結果、被処理物100が熱処理されている際に、被処理物100内における変態タイミングのずれが、大きくなる。その結果、被処理物100内における変態応力が大きくなる。よって、被処理物100の内部応力に起因する被処理物100の熱歪みが、より大きくなる。
なお、劣角θ1は、30°以下であることがより好ましくい。劣角θ1が45°の2/3の30°以下であれば、リング状の被処理物100の内周面100aと外周面100bにおける熱の受ける度合いをより均等にできる。その結果、被処理物100の内部応力に起因する被処理物100の熱歪みは、より小さくなる。劣角θ1は、30°の1/2である15°以下であれば、より好ましい。劣角θ1の最も好ましい値は、ゼロである。
劣角θ1は、たとえば、平面視において、各ヒータ14,15に対するホルダー2の向きを変更することで、調整される。また、平面視において、ホルダー2の底枠部21に対して支持部材27が延びる方向を変更することで、劣角θ1を調整することもできる。
このように、ホルダー2は、被処理物100と、ヒータユニット6とを互いに向かい合わせるとともに、被処理物100の軸方向D1と主輻射方向D2とのなす劣角θ1が45°以下(ゼロを含む)となるように、被処理物100を配置する。
図5に示すように、第1並び方向E1に見たとき、第1支持部31および第2支持部32は、被処理物100の外周面100aと点接触している。第1支持部31と第2支持部32との間に、被処理物100の最底部100eが配置されている。本実施形態では、第1支持部31および第2支持部32は、高さ位置が揃えられており、第2並び方向E2に対称に位置している。
第1支持部31および第2支持部32は、所定の角度間隔θ2を有している。換言すれば、被処理物100が載せられているときの第1支持部31および第2支持部32を被処理物100の軸方向D1に見たとき、第1支持部31および第2支持部32は、所定の角度間隔θ2を有している。
より具体的には、支持部材27に被処理物100が載せられているときの第1支持部31および第2支持部32を被処理物100の軸方向D1に見たときにおける、第1線分B1と第2線分B2とがなす劣角が、角度間隔θ2として規定される。第1線分B1は、被処理物100の中心軸線B3と第1支持部31とを結ぶ線分である。第2線分B2は、被処理物100の中心軸線B3と第2支持部32とを結ぶ線分である。角度間隔θ2は、被処理物100の中心軸線B3回りの第1支持部31と第2支持部32との間隔であるといえる。
角度間隔θ2は、20°〜60°の範囲に設定されていることが好ましい。角度間隔θ2を20°以上にすることで、これらの支持部31,32に支持されている被処理物100の各部に作用する圧縮応力をより均等にできる。よって、被処理物100の熱歪みをより小さくできる。また、角度間隔を60°以下とすることで、被処理物100が熱処理によって熱膨張したときに、膨張によって2箇所の支持部31,32間で被処理物100が挟まれた状態となることを抑制できる。これにより、被処理物100が2つの支持部31,32に食い込むように変形することを抑制できる。
なお、各支持部材27の対向面28のうち、第1支持部31および第2支持部32を形成する部分が突起状であってもよい。この場合、第1支持部31および第2支持部32は、被処理物100を、点接触した状態で支持する。
一対の支持部材27,27には、第1並び方向E1(本実施形態では主輻射方向D2)に沿って、複数の被処理物100が略等間隔で配置されている。また、第1支持部31および第2支持部32は、平面視において第1並び方向E1と直交する第2並び方向E2に沿って、複数対配置されている。これにより、進行方向X1において複数列に被処理物100を配置することができる。本実施形態では、進行方向X1に隣り合う各列の被処理物100は、進行方向X1に完全に離隔しており、進行方向X1における位置が重ならないように配置されている。
本実施形態では、複数(本実施形態では、3つ)のホルダー2としての下ホルダー2aa、中ホルダー2b、および、上ホルダー2cが設けられている。
本実施形態では、下ホルダー2a、中ホルダー2b、上ホルダー2cの順に積み上げられている。下ホルダー2aは、当該下ホルダー2aの底枠部21が台座7に支持されている。下ホルダー2aの4つの縦枠部22〜25に、中ホルダー2bが載せられている。また、中ホルダー2bの4つの縦枠部22〜25に、上ホルダー2cが載せられている。このように、複数のホルダー2が積層されていることで、多数の被処理物100を一括して熱処理することができる。
熱処理炉5内に配置された被処理物100へは、熱処理炉5内の気体を撹拌するための撹拌装置8によって撹拌された気流が与えられる。
図1および図2を参照して、撹拌装置8は、熱処理炉5内の気温およびガス成分をより均等にするために設けられている。撹拌装置8は、電動モータなどによって回転駆動される撹拌ファン33を有している。撹拌ファン33は、たとえば、遠心ファンであり、撹拌ファン33の径方向の外方に向かう風を発生するように構成されている。撹拌ファン33は、熱処理炉5の上部に配置されている。本実施形態では、撹拌ファン33は、台座7およびホルダー2の真上に配置されている。撹拌装置8の動作は、制御部4によって制御される。また、雰囲気ガス供給部9から熱処理炉5内へ、熱処理用の雰囲気ガスが供給される。
雰囲気ガス供給部9は、被処理物100に所望の熱処理を行うための熱処理用ガスである雰囲気ガスを熱処理炉5に供給するように構成されている。雰囲気ガス供給部9は、熱処理炉5に接続された配管を有しており、当該配管は、ポンプ9aおよび図示しないタンクに接続されている。雰囲気ガス供給部9のポンプ9aの動作は、制御部4によって制御される。これにより、タンクに貯蔵された雰囲気ガスは、雰囲気ガス供給部9によって熱処理炉5内に供給される。
本実施形態では、熱処理用ガスとして、一酸化炭素(CO)ガスなどの、炭素を含むガスが用いられる。このガスにおけるカーボンポテンシャル(質量%)は、被処理物100の母材である炭素鋼の炭素含有量よりも大きく設定されている。そして、本実施形態では、熱処理装置1における加熱時において、被処理物100は、0.6%〜1.0%の範囲のカーボンポテンシャルCpに設定された雰囲気ガスに曝される。
より具体的には、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpは、Fe−C合金の平衡状態図における共析点でのカーボンポテンシャルである、0.77%を基準として設定される。カーボンポテンシャルCpを上記0.6%〜1.0%の範囲に設定することで、被処理物100の熱処理時において、被処理物100の表面の炭素含有量が、0.77%に近くなる。これにより、被処理物100の熱処理時、被処理物100がフェライト+オーステナイトなどである状態の時間をより短くできる。これにより、被処理物100に生じる変態応力をより小さくできる。本実施形態では、雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルCpは、被処理物100の母材のカーボンポテンシャルである0.2%の3倍以上に設定されている。
本実施形態では、より好ましくは、雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpは、0.77%±0.1%、すなわち、0.67%〜0.87%であることがより好ましい。雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpを0.77%±0.1%に設定することで、実質的に雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpを、上記共析点でのカーボンポテンシャルに設定することができる。これにより、被処理物100の熱処理時において、被処理物100の表面の炭素含有量が、0.77%に近くなり、被処理物100がフェライト+オーステナイトでなどある状態の時間をより短くできる。これにより、被処理物100における変態応力をより小さくできる。
熱処理炉5内において、被処理物100の熱処理動作は、制御部4によって制御される。制御部4は、所定の入力信号に基づいて、所定の出力信号を出力する構成を有し、たとえば、安全プログラマブルコントローラなどを用いて形成することができる。安全プログラマブルコントローラとは、JIS(日本工業規格) C 0508−1のSIL2またはSIL3の安全機能をもつ公的に認証されたプログラマブルコントローラをいう。なお、制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含むコンピュータなどを用いて形成されていてもよい。
制御部4は、酸素センサ13からの酸素濃度検出結果に基づいて、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpを算出するように構成されている。また、制御部4は、検出されたカーボンポテンシャルCpなどに基づいて、雰囲気ガス供給部9の図示しないポンプ9aなどを制御することで、熱処理炉5に供給される雰囲気ガスの流量などを制御するように構成されている。これにより、制御部4は、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpを制御する。また、制御部4は、各ヒータ14,15に供給される燃焼用ガスの流量などを制御可能に構成されている。これにより、制御部4は、温度センサ12で検出された温度検出結果に基づいて、熱処理炉5内の温度を制御することができる。
次に、熱処理装置1における熱処理動作の一例について説明する。図7は、熱処理装置1における熱処理動作の一例を説明するためのフローチャートである。図8は、熱処理装置1における被処理物100の温度制御の一例を示す、グラフである。図9は、熱処理装置1で熱処理される被処理物100の状態について説明するための、Fe−C合金の模式的な平衡状態図である。なお、以下では、フローチャートを参照して説明するときは、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
熱処理装置1における熱処理動作では、まず、たとえば、作業員、または、機械による自動配置装置(図示せず)によって、被処理物100を配置する作業が行われる(ステップS1)。具体的には、たとえば、作業員が、各ホルダー2a,2b,2cに被処理物100を配置する。そして、作業員によって、台座7に下ホルダー2aが載せられる。さらに、下ホルダー2aの上に中ホルダー2bが載せられる。さらに、中ホルダー2bの上に上ホルダー2cが載せられる。なお、図示しない搬送装置によってホルダー2a,2b,2cが移動されてもよい。
これにより、図1〜図4を参照しつつ説明した前述の態様で、ホルダー2が熱処理炉5内に配置される。すなわち、被処理物100とヒータユニット6とが互いに向かい合わされた状態で、各被処理物100の軸方向D1とヒータユニット6の主輻射方向D2とのなす劣角θ1が45°以下(ゼロを含む)となるように、被処理物100が熱処理炉5内に配置される。
次に、熱処理炉5内の被処理物100が、ヒータユニット6を用いて加熱される(ステップS2)。具体的には、制御部4が、ヒータユニット6の加熱動作を制御するとともに、雰囲気ガス供給部9から供給される雰囲気ガスの供給量を制御することにより、熱処理炉5内の雰囲気温度およびカーボンポテンシャルCpを制御する。これにより、制御部4は、被処理物100の熱処理動作を制御する。より具体的には、制御部4は、図8に示す、時間と被処理物100の温度との関係が実現されるように、ヒータユニット6の加熱動作を制御する。
なお、以下では、特に説明無き場合、「温度」という場合、熱処理炉5内の雰囲気ガスの温度をいう。ステップS2において、制御部4は、まず、熱処理炉5内の雰囲気ガスをA1変態点まで加熱させる。なお、A1変態点は、たとえば、727℃〜810℃の範囲内である場合がある。また、A1変態点は、750℃〜850℃の範囲内である場合がある。
A1変態点まで温度が上昇した後、この温度が、所定のタイミングT1まで所定時間維持される。これにより、被処理物100の内部を含む全体が、A1変態点まで加熱される。次に、制御部4は、たとえば、ヒータユニット6へ供給される電力を増加させる制御を行うことで、熱処理炉5内の温度を、A1変態点からA3変態点まで上昇させる(タイミングT1〜T2)。
A1変態点〜A3変態点の間、雰囲気ガスおよび被処理物100は、0.5℃/min〜10℃/minの範囲内の昇温速度(温度上昇速度)で、加熱される。被処理物100の昇温速度が上記の下限値以上であることにより、被処理物100をA1変態点からA3変態点まで変態させるのに必要な時間を、より短くできる。また、被処理物100の昇温速度が上記の上限値以下であることにより、被処理物100をA1変態点からA3変態点まで変態させる際に、被処理物100の外表面から当該被処理物100の内部まで熱が伝わる際における、被処理物100の外表面と内部との温度差を十分に小さくできる。これにより、被処理物100の内部における変態応力を、より小さくできる。よって、被処理物100の熱歪みをより小さくできる。換言すれば、被処理物の各部がオーステナイト変態するときにおいて、変態のタイミングのむら(すなわち、変態のタイミングの不均一さ)をより小さくできる。
なお、A1変態点〜A3変態点の間、雰囲気ガスおよび被処理物100は、0.5℃/min〜1.0℃/minの範囲内の昇温速度で加熱されることが、より好ましい。これにより、被処理物100の外表面から当該被処理物100の内部まで熱が伝わる際における、被処理物100の外表面と内部との温度差を、格段に小さくできる。
また、被処理物100は、前述したカーボンポテンシャルCpの雰囲気ガス中で、A3変態点以上まで加熱される。この際、被処理物100の内部のカーボンポテンシャルは、実質的に変化しない。一方、被処理物100の外表面のカーボンポテンシャルは、加熱処理によって増加していく。
より具体的には、被処理物100の内部は、図9における線L1で規定される経過を辿って、A3変態点より高い温度まで加熱される。この際、被処理物100の内部は、A1変態点以下の温度において、フェライト+セメンタイトの状態となっている。そして、被処理物100の内部は、線L1で示されているように、A1変態点を超えると、フェライト+オーステナイトの状態に変態する。被処理物100がさらに温度上昇することで、被処理物100の内部の温度がA3変態点を超えると、フェライトが消失し、オーステナイト状態に変態する。そして、被処理物100の内部のカーボンポテンシャルは、A3変態点を超える温度まで加熱された場合でも変化しない。
ここで、被処理物100は、熱処理時において、最初に外表面の温度が上昇し、次いで、内部の温度が上昇する。このため、本実施形態では、熱処理炉5内の雰囲気ガスの状態が共析点(たとえば、727℃、カーボンポテンシャルCp=0.77%)付近の状態となるように、制御される。これにより、被処理物100の歪みを低減する効果をより高めることができる。
本実施形態では、被処理物100の外表面は、図9における線L2(たとえば、L21,L22,L23)で示される経過を辿ることで、カーボンポテンシャルが増加し、概ね、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpに収束していく。なお、線L21は、雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpが、上述した範囲の下限(Cp=0.6%)にある場合を示している。また、線L22は、雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpが共析点におけるカーボンポテンシャル(Cp=0.77%)に等しい場合を示している。また、線L23は、雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルCpが、上述した範囲の上限(Cp=1.0%)にある場合を示している。
被処理物100の外表面は、熱処理炉5内の雰囲気ガスの温度上昇とともに、雰囲気ガス中の炭素と反応する。これにより、被処理物100の外表面のカーボンポテンシャルが上昇する。特に、被処理物100の外表面は、A1変態点に到達するまでの間、温度上昇と略比例するようにして、カーボンポテンシャルが上昇する。そして、被処理物100の外表面の温度がA1変態点に近くなると、被処理物100の外表面のカーボンポテンシャルは、被処理物100の外表面の温度上昇とともに僅かながら増えつつも略一定となる。そして、被処理物100の内部に比べて、被処理物100の外表面は、オーステナイト状態に変態するまでの温度が低くなっている。
たとえば、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpが上記の下限に設定されている場合、線L21に示すように、被処理物100の外表面は、A1変態点に到達すると、フェライト+セメンタイト状態から、フェライト+オーステナイト状態に変態する。そして、被処理物100の外表面がA1変態点からA3変態点へ到達するまでの温度差Δt21は、被処理物100の内部がA1変態点からA3変態点へ到達するまでの温度差Δt1よりも小さい。このため、被処理物100の外表面においては、A1変態点からA3変態点に到達するまでの間における、変態応力をより小さくできる。その結果、被処理物100の外表面の熱歪みをより小さくできる。
一方、たとえば、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpが、共析点におけるカーボンポテンシャルである0.77%に設定されている場合、L22に示すように、被処理物100の外表面は、A1変態点に到達すると、フェライト+セメンタイト状態から、実質的に即時にオーステナイト状態に変態する。この場合、被処理物100の外表面がA1変態点からA3変態点へ到達するまでの温度差は、略ゼロとなる。このため、被処理物100の外表面においては、A1変態点からA3変態点に到達するまでの間における、変態応力をより小さくできる。その結果、被処理物100の外表面の熱歪みをより小さくできる。
また、たとえば、熱処理炉5内の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルCpが上記の上限に設定されている場合、線L23に示すように、被処理物100の外表面は、A1変態点に到達すると、フェライト+セメンタイト状態から、オーステナイト+セメンタイト状態に変態する。そして、被処理物100の外表面がA1変態点からAcm変態点へ到達するまでの温度差Δt23は、被処理物100の内部がA1変態点からA3変態点へ到達するまでの温度差Δt1よりも小さい。このため、被処理物100の外表面においては、A1変態点からAcm変態点に到達するまでの間における、変態応力をより小さくできる。その結果、被処理物100の外表面の熱歪みをより小さくできる。このように、線L21,L22,L23の何れかの経過をたどっても、被処理物100の外表面の歪みをより小さくできる。
以上のように、被処理物100の全体が、加熱ステップ(ステップS2)において、A1変態点を超えて、さらに、A3変態点まで加熱される。なお、制御部4は、所定期間、熱処理炉5内の雰囲気ガスの温度を、A3変態点と同じ温度に維持する制御を行う(タイミングT2〜T3)。これにより、被処理物100の全体の温度が、A3変態点となる。その後、制御部4は、熱処理炉5内の雰囲気ガス温度を、熱処理時の最大温度tmaxまでさらに上昇させるように、ヒータユニット6による加熱動作を行わせる(タイミングT3〜T4)。
なお、最大温度tmaxは、本実施形態では、被処理物100に浸炭処理を行わせるために設定される温度である。この最大温度tmaxは、被処理物100に拡散処理など他の熱処理を施す際には、拡散処理など、目的とする熱処理に必要な温度に設定される。最大温度tmaxは、たとえば、800℃〜960℃程度に設定される。また、制御部4は、被処理物100の内部をA3変態点から最大温度tmaxまで加熱する際の昇温速度を、被処理物100の内部をA1変態点からA3変態点まで加熱する際の昇温速度よりも、大きく設定する。
制御部4は、所定期間、熱処理炉5内の雰囲気ガスの温度を最大温度tmaxに維持することで、被処理物100に熱処理を施す。その後、制御部4は、ヒータユニット6による加熱動作を停止させるなどして、被処理物100の温度を低下させる(ステップS3)。その後、被処理物100は、熱処理炉5から搬出されるなどした後に、焼入処理など、他の処理を施される。上述したように、ヒータユニット6のチューブ16は、耐久性などの観点から、熱処理炉5の天壁5aに対して垂直に配置されている。
なお、従来は、熱処理歪みの観点から、1つの被処理物内の温度分布に配慮して、被処理物を起立した姿勢で且つ被処理物を下から支えた状態で配置することがなく、被処理物を寝かせた姿勢にしていた。また、従来は、リング状の被処理物の内周面を受けるように構成されたバーを用いて当該被処理物を熱処理炉内に吊下げた状態にして、被処理物に熱処理を施すこともあった。
これに対して、本実施形態では、円形状の被処理物100のそれぞれにおいて、被処理物100の周方向における温度差が生じることを抑制するために、軸方向D1と主輻射方向D2とのなす劣角θ1が45°以下に設定されている。加えて、本実施形態では、被処理物100の外周面100aのうち下向きの箇所を支持するように構成されているとともに、第1支持部31と第2支持部32との角度間隔θ2が20°〜60°の範囲内に設定されている。これにより、ホルダー2は、被処理物100に引張応力が生じ難い姿勢で当該被処理物100を支持することができる。これにより、被処理物100に生じる熱歪みを格段に小さくできる。
さらに、本実施形態では、Fe−C合金の平衡状態図における共析点でのカーボンポテンシャルを基準として雰囲気ガスの供給制御が行われる。これにより、オーステナイト変態する際における被処理物100の熱歪みがより小さくなる。さらに、被処理物100の昇温速度を前述した値に設定することで、被処理物100がオーステナイト変態する際における被処理物100内での温度差をより小さくできる。これにより、被処理物100の熱歪みがより小さくなる。その結果、被処理物100の熱歪みを抑制しつつ、短時間で大量の被処理物100を熱処理装置1によって、熱処理することができる。
以上説明したように、本実施形態によると、各被処理物100の軸方向D1とヒータユニット6の主輻射方向D2とのなす劣角θ1が45°以下(ゼロを含む)となるように被処理物100が配置されている。この構成によると、ヒータユニット6からの熱は、被処理物100の各部に、より均等に伝わる。これにより、ヒータユニット6による被処理物100の加熱時において、被処理物100内の温度差をより小さくできる。より具体的には、被処理物100の周方向における当該被処理物100の温度差をより小さくできる。特に、軸方向D1と主輻射方向D2とが一致する場合、すなわち、劣角θ1がゼロの場合、被処理物100の周方向における当該被処理物100内の温度差を格段に小さくできる。その結果、被処理物100内で応力の不均衡が生じることを抑制できる。特に、1つの被処理物100内において、各部がオーステナイト変態するタイミングをより等しくできる。さらに、被処理物100内で応力の不均衡が生じることを抑制できる結果、より短時間に被処理物100を加熱処理することができる。これにより、円形状に形成された金属製の被処理物100に関して、熱処理に起因する歪みをより小さくでき、且つ、被処理物100の熱処理時間をより短くできる。より具体的には、被処理物100が楕円状に歪む楕円歪みを、より小さくできる。また、被処理物100をA1変態点以上に加熱する場合において、被処理物100内の各部の温度がA1変態点を通過するタイミングをより均一にできる。これにより、被処理物100に変態応力が生じることを抑制できる。
また、本実施形態によると、被処理物100が熱処理炉5内に配置される際(ステップS1)において、複数の被処理物100が、主輻射方向D2に沿って配列される。この構成によると、複数の被処理物100を、熱歪みを小さくしつつ、一括して熱処理することができる。
また、本実施形態によると、各被処理物100は、起立した姿勢で配置されており、各被処理物100の軸方向D1が水平方向に沿っている。この構成によると、被処理物100に引張応力が生じることを抑制できる。これにより、被処理物100の応力に起因する熱歪みを、格段に小さくすることができる。
また、本実施形態によると、被処理物100が熱処理炉5内に配置される際(ステップS1)、ホルダー2は、被処理物100の外周面を下方から支持する。この構成によると、被処理物100に引張応力が生じることを抑制できる。これにより、被処理物100の応力に起因する熱歪みを、格段に小さくすることができる。
また、本実施形態によると、ホルダー2の各支持部31,32は、被処理物100を線接触または点接触した状態で支持する。この構成によると、ホルダー2は、被処理物100の熱処理時における当該被処理物100の膨張および収縮を妨げることを抑制された状態で、被処理物100を支持することができる。その結果、熱処理に起因する被処理物100の歪みをより低減できる。
また、本実施形態によると、被処理物100の中心軸線B3回りの第1支持部31と第2支持部32との角度間隔θ2は、20°〜60°の範囲に設定されている。この構成によると、第1支持部31と第2支持部32との角度間隔θ2を20°以上とすることで、これらの支持部31,32に支持されている被処理物100の各部に作用する応力をより均等にできる。よって、被処理物100の熱歪みをより小さくできる。また、第1支持部31と第2支持部32との角度間隔θ2を60°以下とすることで、被処理物100が熱処理によって熱膨張したときに、膨張によって2箇所の支持部31,32間で被処理物100が挟まれた状態となることを抑制できる。これにより、被処理物100が2つの支持部31,32に食い込むように変形することを抑制できる。
また、本実施形態によると、各被処理物100が加熱される際(ステップS2)において、被処理物100は、0.6%〜1.0%の範囲のカーボンポテンシャルに設定された雰囲気ガス中で加熱される。この構成によると、被処理物100の加熱時において、被処理物100の表面の各部がフェライト+セメンタイトである領域からオーステナイトである領域に移行するのに必要な時間をより短くできる。その結果、被処理物100を、より均一にオーステナイト変態させることができる。
また、本実施形態によると、ヒータユニット6は、被処理物100を加熱するとき(ステップS2)において、少なくとも、A1変態点とA3変態点との間で被処理物100を加熱する。この構成によると、被処理物100の各部は、より均等にオーステナイト変態できる。
また、本実施形態によると、各被処理物100が加熱される際(ステップS2)において、被処理物100は、0.5℃/min〜10℃/minの範囲の温度上昇速度でA1変態点からA3変態点まで加熱される。この構成によると、被処理物100の昇温速度が上記の下限値以上であることにより、被処理物100をA1変態点からA3変態点まで変態させるのに必要な時間を、より短くできる。また、被処理物100の昇温速度が上記の上限値以下であることにより、被処理物100をA1変態点からA3変態点まで変態させる際に、被処理物100の外表面から当該被処理物100の内部まで熱が伝わる際における、被処理物100の外表面と内部との温度差を十分に小さくできる。これにより、被処理物100の内部における変態応力を、より小さくできる。よって、被処理物100の熱歪みをより小さくできる。換言すれば、被処理物100の各部がオーステナイト変態するときにおいて、変態のタイミングのむら(すなわち、変態のタイミングの不均一さ)をより小さくできる。
また、本実施形態によると、被処理物100は、リング状に形成されている。この構成によると、リング状の被処理物100において、各部の温度変化の度合いをより均等にできる。その結果、楕円歪みなどの熱歪みの小さい金属部品を形成することができる。
さらに、被処理物100が、軸受のレースまたはギヤである場合、寸法精度の高い軸受またはギヤを製造することができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、上述した実施形態と異なる点について主に説明し、上述した実施形態と同様の構成には、図に同様の符号を付して説明を省略する場合がある。
図10は、本発明の第2実施形態に係る熱処理装置1に備えられるホルダー2Aおよびヒータユニット6の模式的な平面図である。図11は、ホルダー2Aおよび当該ホルダー2Aに保持された被処理物100を示す、主要部の模式的な側面図である。図12は、ホルダー2Aおよび当該ホルダー2Aに保持された被処理物100を示す、主要部の模式的な正面図である。図13は、本発明の第2実施形態に係る熱処理装置1に備えられるホルダー2Aおよび当該ホルダー2Aに保持された被処理物100を示す、主要部の模式的な平面図である。なお、図11および図13において、後述する第2リンク列42の被処理物100には、当該被処理物100を見易くするためにクロスハッチングを付している。
図10〜図13を参照して、本実施形態のホルダー2Aは、熱処理が施される円形状の複数の被処理物100の保持に適しており、特に、リング状の被処理物100の保持に適している。ホルダー2Aは、各被処理物100について、内周部への雰囲気ガスの供給態様と外周部への雰囲気ガスとの供給態様とに差がでることを抑制するための構成を有している。また、本実施形態のホルダー2Aは、一度に保持可能な被処理物100の数を可及的に大きくするための構成を有している。被処理物100は、ホルダー2Aと後述する態様で配置され(ステップS1)、その後加熱処理(ステップS2)および冷却処理(ステップS3)を施される。以下、ホルダー2Aについて、より具体的に説明する。
ホルダー2Aの受け部26Aは、第1並び方向E1に沿って延びており、複数の被処理物100を受けるように構成されている。前述したように、第1並び方向E1は、受け部26Aに保持された被処理物100の軸方向D1に沿っている。また、受け部26Aは、被処理物100を、被処理物100の開口部100cが横向きとなるように立てられた状態で且つ開口部100cが第1並び方向E1側を向くようにして複数並べるように構成されている。また、受け部材26Aは、第1並び方向E1に隣接する2つの被処理物100を、第1並び方向E1と直交する第2並び方向E2に互いにずらして配置するように構成されている。
より具体的には、受け部26Aの各支持部材27Aは、第1並び方向E1に沿って延び、且つ、被処理物100の外周面のうち、下向きとなる面を含む下部を支持するように配置されている。本実施形態においても、支持部材27Aの第1支持部31Aおよび第2支持部32Aは、線状に形成されており、被処理物100と支持部材27Aとが線接触している。なお、被処理物100と支持部材27Aとは、接触面積が少ないことが好ましく、また、点接触でもよいし、線接触でもよいし、面接触でもよい。
各支持部材27Aの両端部は、ホルダー2Aの底枠部21Aの上部に受けられている。また、第2並び方向E2に沿って延び底枠部21Aに固定された補強梁35が、設けられている。補強梁35は、第1並び方向E1のたとえば2箇所に配置されている。各補強梁35の両端部が、底枠部21Aに固定されている。そして、各支持部材27Aは、これらの補強梁35上に配置されている。
支持部材27Aは、第2並び方向E2に所定のピッチP1で等ピッチに並んでいる。各支持部材27Aの対向面28は、第1並び方向E1に沿って真っ直ぐに延びている。そして、第2並び方向E2に隣接する一対の支持部材27A,27Aが、1つの被処理物100を支持するように構成されている。
本実施形態では、複数の支持部材27Aのうち、第2並び方向E2の両端に配置されている支持部材27Aは、1つのリング列41の被処理物100を支持している。一方、複数の支持部材27Aのうち、第2並び方向E2の両端以外に配置されている支持部材27Aは、2つのリング列41,42の被処理物100を支持している。なお、リング列41は、第2並び方向E2の位置を揃えられた状態で第1並び方向E1に並ばされた複数の被処理物100を含んでいる。同様に、リング列42は、第2並び方向E2の位置を揃えられた状態で第1並び方向E1に並ばされた複数の被処理物100を含んでいる。
本実施形態では、多数のリング列41および多数のリング列42が形成されている。リング列41,42は、それぞれ、第1並び方向E1に沿って並ぶ複数の被処理物100を含んでいる。第2並び方向E2に沿ってリング列41とリング列42とが交互に形成されている。そして、第2並び方向E2の両端のリング列41以外のリング列41,42は、第2並び方向E2に隣接するリング列41またはリング列42と1つの支持部材27Aを共用している。このため、複数の支持部材27Aのうち、第2並び方向E2の両端以外に配置されている支持部材27Aの対向面28は、2箇所で2つの被処理物100に接触している。この対向面28は、一のリング列41またはリング列42の被処理物100と第1支持部31Aで接触しているとともに、別のリング列41またはリング列42の被処理物100と第2支持部32Aで接触している。なお、各支持部材27Aは、1つのリング列41または1つのリング列42のみにおける被処理物100を支持するように構成されていてもよい。
本実施形態では、第2並び方向E2に隣接するリング列として、第1リング列41と第2リング列42とが形成されている。第2並び方向E2に隣接する第2リング列42の各被処理物100、および、第1リング列41の各被処理物100は、第2並び方向E2における位置をずらされた状態で第1並び方向E1に沿って並んでいる。本実施形態では、第1並び方向E1に沿って進むと、第1リング列41の1つの被処理物100と、第2リング列42の1つの被処理物100とが交互に並んでいる。このような構成により、第1リング列41の1つの被処理物100と、第2リング列42の1つの被処理物100とがジグザグ状に配置されている。
また、第1並び方向E1に隣接する2つの被処理物100は、互いに対向する端面100d同士が接触するように配置されている。すなわち、第1リング列41の被処理物100の一端面100dは、第2リング列42の対応する被処理物100の対応する一端面100dに接触している。よって、第1リング列41のうち、第1並び方向E1の中間部に配置されている被処理物100の一対の端面100d,100dは、第2リング列42の2つの被処理物100の対応する一端面100dに挟まれている。同様に、第2リング列42のうち、第1並び方向E1の中間部に配置されている被処理物100の一対の端面100d、100dは、第1リング列41の2つの被処理物100の対応する一端面100dに挟まれている。
本実施形態では、第1リング列41と第2リング列42とが、第2並び方向E2に交互に配置されている。すなわち、第2並び方向E2に沿って、第1リング列41、第2リング列42、第1リング列41、第2リング列42、…、の順に配置されている。このように、本実施形態では、2種類のリング列41,42によって、多数のリング列が形成されている。
上記の構成により、第2並び方向E2において、1つのリング列をあけて、同一のリング列(第1リング列41または第2リング列42)が配置されている。
図12に示されているように、リング列41またはリング列42を第1並び方向E1から見たとき、当該リング列の各被処理物100は、隣接するリング列42またはリング列41の被処理物100とは、第2並び方向E2に関して、被処理物100の外径DR1の半分以下の長さの領域が重なって配置されている。たとえば、第2並び方向E2に並ぶ3つのリング列41a,42a,41bについて説明する。これら3つのリング列41a,42a,41bのうち、真ん中のリング列42aの被処理物100は、一方のリング列41aの被処理物100の中心軸線B3を通り鉛直に延びる第1仮想平面PL1と、他方のリング列41bの被処理物100の中心軸線B3を通り鉛直に延びる第2仮想平面PL2と、で挟まれた空間内に配置される。
被処理物100を上述した態様でホルダー2Aに並べることで、多数の被処理物100をホルダー2Aに載せることができる。たとえば、ホルダー2Aは、第1実施形態におけるホルダー2と同じ長さ、幅および高さを有している。一方で、ホルダー2Aに一度に載せることのできる被処理物100の数は、ホルダー2に一度に載せることのできる被処理物100の数の約125%にすることができる。
図10〜図13を参照して、ホルダー2Aの前枠部および後枠部としての縦枠部22A,23Aは、それぞれ、第2並び方向E2に所定のピッチで配置された複数の柱と、これらの柱の上端部を繋ぐ梁部とを有している。また、ホルダー2Aの一対の横枠部としての縦枠部24A,25Aは、それぞれ、第1並び方向E1に所定のピッチで配置された複数の柱と、これらの柱の上端部を繋ぐ梁部とを有している。縦枠部22A〜25Aは、このような構成により、メッシュ状に形成されている。
また、ホルダー2Aの上部の四隅には、それぞれ、L字状のストッパ43が設けられている。各ストッパ43は、ホルダー2Aの4つの縦枠部22A,23A,24A,25Aの上端部から上方に突出している。そして、ホルダー2Aの上方に別のホルダー2Aが積まれたとき、4つのストッパ43は、上記別のホルダー2Aの底枠部21Aの四隅に向かい合う。これにより、上記別のホルダー2Aの位置がホルダー2Aの位置に対してずれることを抑制できる。
以上説明したように、本実施形態によると、リング部材としての被処理物100は、被処理物100の開口部100cが横向きとなるように立てられた状態で、且つ、開口部100cが第1並び方向E1側を向くようにして複数並べられている。また、第1並び方向E1に隣接する2つの被処理物100は、第2並び方向E2における位置が互いにずらされている。この構成によると、各被処理物100の内周面100bで囲まれた空間へ、流体をよりスムーズに通過させることができる。このため、たとえば、浸炭工程での浸炭ガス、焼入工程での油および窒素ガスなど、熱処理のための媒体(流体)を、被処理物100の内周部側の空間に、よりスムーズに供給することができる。さらに、各被処理物100において、内周部と外周部のそれぞれにおける、媒体の供給度合いのばらつきを抑制できる。その結果、各被処理物100の熱処理のばらつき度合いをより小さくできる。また、複数の被処理物100間における、熱処理のばらつき度合いをより小さくできる。よって、各被処理物100の表面硬さや内部硬さなどの熱処理品質をより均等にできる。また、第1並び方向E1における被処理物100の間隔を大きくすることで、熱処理のための媒体を被処理物100の内周部側へスムーズに供給する構成ではない。このため、被処理物100を熱処理する際に必要なスペースをより小さくできる。その結果、熱処理炉5内に配置されたホルダー2Aに、一度により多くの被処理物100を配置することができる。よって、一度により多くの被処理物100を熱処理することができる。以上の次第で、金属製の被処理物100を熱処理する際に、熱処理品質のばらつきを小さくでき、且つ、一度により多くの被処理物100を熱処理することができる。
また、本実施形態によると、第1並び方向E1および第2並び方向E2が何れも水平方向である。この構成によると、各被処理物100が全体として上下に占める空間をより狭くできる。よって、熱処理用の限られたスペースにおいて、一度により多くの被処理物100を配置することができる。
また、本実施形態によると、第1並び方向E1に隣接する2つの被処理物100は、互いに対向する端面100d、100d同士が接触するように配置されている。この構成によると、各被処理物100が、被処理物100の位置を規定するスペーサとしての機能できる。たとえば、第1並び方向E1に並ぶ3つの被処理物100において、第1並び方向E1における1番目の被処理物100と3番目の被処理物100とは、2番目の被処理物100を挟むこととなる。このような構成により、2番目の被処理物100は、1番目の被処理物100と3番目の被処理物100との間隔を、当該2番目の被処理物100の厚みと同じに設定できる。これにより、多数の被処理物100を、第1並び方向E1に沿ってより均等に配列できる。また、複数の被処理物100を互いに接触させた状態で起立させることができるので、これらの被処理物100を自律して起立させることができる。よって、被処理物100が倒れないようにサポートするためのサポート部材を別途設ける必要が無い。これにより、被処理物100をより高い密度で配列できる。よって、限られたスペースにおいて、一度により多くの被処理物100を配置できる。
また、本実施形態によると、第1リング列41の被処理物100と第2リング列42の被処理物100とが第1並び方向E1に交互に配置されている。この構成によると、被処理物100をジグザグに配列することができる。これにより、被処理物100を配置するためのスペースが狭い場合でも、各被処理物100の内周部および外周部へ媒体をより均等に行き渡らせることができる。さらに、被処理物100をより効率よく配置できる。その結果、限られたスペースにおいて、一度により多くの被処理物100をより均等に熱処理できる。
また、本実施形態によると、各リング列41,42を第1並び方向E1から見たとき、各被処理物100は、隣接するリング列の被処理物100とは、第2並び方向E2に関して、被処理物100の外径の半分以下の長さの領域が重なって配置されている。この構成によると、第1並び方向E1から見たとき、一の被処理物100と、当該一の被処理物100とは第2並び方向E2の両側に隣接する2つの被処理物100の双方と、を重ね合わせることができる。これにより、被処理物100を配置するための限られたスペースにおいて、被処理物100をより効率よく配置できる。その結果、限られたスペースにおいて、一度により多くの被処理物100を熱処理できる。
また、本実施形態によると、ホルダー2Aの受け部26Aの支持部材27Aは、第2並び方向E2に所定のピッチP1で並ぶように配置されている。また、第2並び方向E2に隣接する一対の支持部材27A,27Aで被処理物100を支持するように構成されている。この構成によると、一対の支持部材27A,27Aで被処理物100を支える簡易な構成で、被処理物100を倒れずに安定して支持する構成を実現できる。また、被処理物100を吊下げる構成ではないので、被処理物100の熱処理時に被処理物100に引張応力が生じることを抑制できる。これにより、被処理物100に引張応力が残留応力として生じることを抑制できる。よって、被処理物100の機械的強度をより高くできる。
また、本実施形態によると。ホルダー2Aの一対の縦枠部22A,23Aは、それぞれ、メッシュ状に形成されている。この構成によると、縦枠部22A,23Aが被処理物100を受けることが可能であるので、被処理物100の倒れを防止することができる。また、縦枠部22A〜25Aがメッシュ状に形成されているので、熱処理用の媒体をホルダー2Aの外側から内側へ縦枠部22A〜25Aを通してスムーズに導入することができる。これにより、被処理物100の熱処理を、より均等に行うことができる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
(1)上述の実施形態では、ヒータユニット6が、少なくともA1変態点とA3変態点との間で被処理物100を加熱する形態を例に説明した。これに関して、ヒータユニットト6は、A1変態点とA3変態点との間だけでなく、他の温度域でも被処理物100を加熱してもよい。
(2)また、上述の実施形態では、熱源として電熱式のヒータユニットが用いられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、熱源として、ガス式チューブバーナ、壁に発熱体が埋め込まれた構成を有する電気抵抗加熱式ヒータなどが用いられてもよい。
(3)また、上述の実施形態では、各ホルダー2,2Aが、被処理物100の軸方向D1を水平方向となるようにした状態で当該被処理物100を保持する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、図14および図15の各変形例に示すように、被処理物100は、起立した姿勢で配置されているとともに、軸方向D1および第1並び方向E1が、水平面に対して傾斜した方向となるように、配置されていてもよい。
図14に示す変形例では、ホルダー2において、傾斜姿勢支持部29が設けられている。傾斜姿勢支持部29は、ホルダー2の左右の縦枠部24,25に両端支持された棒状の部材である。被処理物100は、水平面に対して傾斜した姿勢で、傾斜姿勢支持部29に受けられる。より具体的には、被処理物100の下部が支持部材27に受けられ、且つ、被処理物100の上部の位置が被処理物100の下部の位置に対して主輻射方向D2のうち傾斜姿勢支持部29側に寄せられた状態で、被処理物100が配置されている。このとき、平面視において、すなわち、上方からホルダー2を見たときにおいて、軸方向D1と主輻射方向D2とは、一致していてもよいし、互いに傾斜していてもよい。
上方からホルダー2を見たときにおいて、軸方向D1と主輻射方向D2とが一致している場合、側面視において、軸方向D1と主輻射方向D2とのなす劣角が、劣角θ1となる。
また、上方からホルダー2を見たときにおいて、軸方向D1が主輻射方向D2に対して傾斜している場合、平面視(より正確には、軸方向D1と直交する方向からの平面視)において、軸方向D1と主輻射方向D2とのなす劣角が、第1の劣角θ1となる。さらに、側面視において、軸方向D1と主輻射方向D2とのなす劣角が、第2の劣角θ1となる。この場合、第1の劣角θ1と第2の劣角θ1の双方が45°以下(ゼロを含む)となるように設定される。
なお、図15に示す変形例では、ホルダー2全体が、水平方向に対して傾斜した姿勢となるように配置される。この場合、ホルダー2は、台座7に固定されたブロック状の傾斜姿勢支持部材30に受けられることで、傾斜姿勢を維持される。
なお、図14、図15で示したホルダー2の構成と同様の構成、すなわち、起立姿勢の被処理物100を水平方向に対して傾斜姿勢で配置する構成は、ホルダー2Aについて採用されてもよい。
以上説明した図14,図15に示す各変形例によると、被処理物100の軸方向D1が水平方向に対して傾斜した方向となる。この構成によると、複数の被処理物100の全体としての重量バランスなどを考慮した状態で、より適切に複数の被処理物100を配置することができる。
(4)また、上述の実施形態では、各ホルダー2,2Aの対応する支持部材27,27Aが、対応する底枠部21,21Aに固定される形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、ホルダー2,2Aのそれぞれにおいて、支持部材27,27Aは、底枠部21,21Aに対して回転可能に構成されていてもよい。この場合、支持部材27,27Aは、当該支持部材27,27Aの中心軸線回りを自転可能に構成される。これにより、支持部材27,27Aに載せられた被処理物100を当該被処理物100の中心軸線B3回りに回転させることができる。これにより、被処理物100の各部に生じる応力をより均等にできるので、被処理物100に生じる熱歪みをより少なくできる。また、被処理物100の内周部および外周部のそれぞれが媒体に曝される度合いをより均等にできるので、熱処理品質をより均等にすることができる。
(5)また、上述の各実施形態では、軸方向D1と主輻射方向D2とのなす劣角θ1が規定された構成を説明した。この劣角以外の構成について、任意の組み合わせをすることが可能である。
(5)また、上述の第2実施形態では、第1リング列41と第2リング列42とを第2並び方向E2に交互に配置する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。第2実施形態では、第1並び方向E1に隣接する2つの被処理物100が、第2並び方向E2における位置を互いにずらされていればよく、例示した被処理物100の配置でなくてもよい。
<被処理物の置き方の種類別の熱歪みについて>
第1実施形態で説明した熱処理装置1と同様の構成の熱処理装置を用いてリング状の金属製被処理物を浸炭処理することで、実施例1、および、比較例1を作製した。実施例1、および、比較例1について、作製条件は、以下の点で異なっている。
実施例1:被処理物の軸方向と主輻射方向とがなす劣角をゼロとした。すなわち、被処理物の軸方向と主輻射方向とが一致した状態で熱処理が行われた当該被処理物を実施例1とした。
比較例1:軸方向と主輻射方向とがなす劣角を90°とした。より具体的には、被処理物の軸方向が鉛直方向を向くように、当該被処理物が横置きに配置された状態で熱処理が行われることで、比較例1を得た。なお、劣角以外について、実施例1と比較例1は、同じ条件で熱処理を施されている。
実施例1を140個、比較例1を120個、それぞれ、作製した。そして、実施例1,比較例1について、それぞれ、楕円歪み(楕円状の歪み)を計測した。具体的には、実施例1および比較例1のそれぞれについて、1つ毎に、直径の最も大きい箇所での当該直径と、直径の最も小さい箇所での当該直径と、の差を、楕円歪み量として測定した。そして、複数の比較例1における、楕円歪み量の平均値を、基準歪み量と規定した。そして、基準歪み量に対する歪み量の比を楕円歪み比として規定した。結果を図16に示す。図16の縦軸は、楕円歪み比を示している。
図16に示されているように、複数の比較例1において、楕円歪み量が最も大きい場合、基準歪み量に対する当該歪み量の比としての楕円歪み比は、200%にも達した。一方、複数の実施例1における、楕円歪み量の平均値は、基準歪み量の約60%に過ぎなかった。また、複数の実施例1のうち、楕円歪み量が最も大きい場合でも、楕円歪み比は、約110%に過ぎなかった。すなわち、実施例1は、比較例1と比べて、楕円歪みを約半分に低減できた。このように、実施例1は、楕円歪みを極めて小さくできることが実証された。
<被処理物の軸方向と主輻射方向とがなす劣角と、熱歪みとの関係について>
実施例1に加えて、実施例2、実施例3、および、比較例2を用意した。なお、実施例1、実施例2、実施例3、および、比較例2は、熱処理時における被処理物の軸方向と主輻射方向とのなす劣角が異なっている点以外、同様の構成を有している。実施例1、実施例2、実施例3、および、比較例2は、何れも、縦置き姿勢(起立した姿勢)で熱処理されている。具体的には、以下の通りである。
実施例1:劣角=0°
実施例2:劣角=30°
実施例3:劣角=45°
比較例2:劣角=60°
実施例2を5個、実施例3を5個、比較例2を5個、それぞれ、作製した。そして、実施例2、実施例3、比較例2について、それぞれ、楕円歪みを計測した。結果を図17に示す。楕円歪みの表示方法は、図16に示す表示方法と同一である。図17の縦軸は、図16の縦軸と同様、楕円歪み比を示している。なお、実施例1については、図16で示した結果と同一の結果を示している。
図17に示されているように、複数の比較例2のうち、楕円歪み量が最も大きい場合、楕円歪み比は、約180%にも達した。また、複数の比較例2における、楕円歪みの平均値については、楕円歪み比が約90%であった。一方、複数の実施例3における、楕円歪み量の最大値について、楕円歪み比は、約130%に過ぎなかった。また、複数の実施例3における、楕円歪み量の平均値について、楕円歪み比は、約80%に過ぎなかった。また、複数の実施例2における、楕円歪み量の最大値について、楕円歪み比は、約120%に過ぎなかった。また、複数の実施例2における、楕円歪み量の平均値について、楕円歪み比は、約70%に過ぎなかった。また、前述したように、複数の実施例1における、楕円歪み量の最大値について、楕円歪み比は、約110%に過ぎなかった。また、複数の実施例1における、楕円歪み量の平均値について、楕円歪み比は、約60%に過ぎなかった。
このように、被処理物の軸方向と主輻射方向とのなす劣角が小さいほど、楕円歪みが小さくなることが実証された。また、実施例1〜3のそれぞれにおける楕円歪みの最大比を通る直線F1を図17で引いた場合、比較例2における楕円歪み比の最大値は、当該直線F1のはるか上方に位置することとなる。すなわち、被処理物の軸方向と主輻射方向とがなす劣角が45°以下である実施例1〜3は、楕円歪みを極めて小さいことが実証された。
<炉内雰囲気のカーボンポテンシャルと熱歪みとの関係について>
被処理物の熱処理時における雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルを異ならせることで、実施例4〜6および比較例3を作製した。なお、実施例4〜6および比較例3について、カーボンポテンシャル以外の熱処理条件は、同一である。具体的には、実施例4〜6および比較例3の熱処理時のカーボンポテンシャルは、以下の通りである。
実施例4:0.6%
実施例5:0.8%
実施例6:1.0%
比較例3:1.4%
実施例4を10個、実施例5を10個、実施例6を10個、比較例4を10個、それぞれ、作製した。そして、実施例4、実施例5、実施例6、比較例3について、それぞれ、楕円歪みを計測した。結果を図18に示す。楕円歪みの表示方法は、図16に示す表示方法と同一である。図18の縦軸は、図16の縦軸と同様、楕円歪み比を示している。
図18に示されているように、複数の比較例3のうち、楕円歪み量が最も大きい場合、楕円歪み比は、約110%にも達した。一方、複数の実施例6における、楕円歪み量の平均値については、楕円歪み比は、約50%に過ぎなかった。また、複数の実施例6のうち、楕円歪み量が最も大きい場合でも、楕円歪み比は、約90%に過ぎなかった。また、複数の実施例5における、楕円歪み量の平均値について、楕円歪み比は、約40%に過ぎなかった。また、複数の実施例5のうち、楕円歪み量が最も大きい場合でも、楕円歪み比は、約80%に過ぎなかった。また、複数の実施例4における、楕円歪み量の平均値について、楕円歪み比は、約55%に過ぎなかった。また、複数の実施例4のうち、楕円歪み量が最も大きい場合でも、楕円歪み比は、約95%に過ぎなかった。
このように、熱処理時のカーボンポテンシャルが0.6%〜1.0%の範囲内である実施例4〜6は、楕円歪み比が最大でも100%を下回っており、楕円歪みが極めて小さいことが実証された。特に、熱処理時のカーボンポテンシャルが共析点でのカーボンポテンシャルである0.77%に実質的に等しい0.8%に設定された実施例5について、楕円歪みが極めて小さいことが実証された。