JP5960396B2 - ナノカプセルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ナノカプセルの製造方法に関する。
一般的に、糖尿病の治療にはインスリンを用いることが知られている。インスリンはタンパク質であるため、インスリンの投与を経口で行うと消化器官で容易に変性され(特に胃における低pH環境による)、さらに分解され(主にタンパク質分解酵素の類による)、結果として薬効を得ることができない。このため、現在、インスリンの投与は皮下注射により行うことが一般的である。
皮下注射による投与によって、インスリン使用者は不便や苦痛にさらされており、インスリン使用者の生活の質(QOL)が低下しているという問題がある。これは、インスリンに限られるものではなく、経口投与が不可能な薬剤(例えば、インスリン以外のタンパク質からなる薬剤)に共通する問題である。
そこで、医薬の技術分野においては、インスリンのような経口投与が不可能な薬剤について、当該薬剤を加工したり、担体を付加したりすることにより経口投与を可能にしようとする試みがなされている。その一例として、従来、「薬剤を包含するスパイダーシルクタンパク質からなるナノカプセル」の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
従来のナノカプセルの製造方法によれば、薬剤を、消化器官内部の環境からある程度保護可能なナノカプセルを製造することが可能となる。
特表2009−502492号公報
しかしながら、従来のナノカプセルの製造方法においては、製造されたナノカプセルがタンパク質の一種であるスパイダーシルクタンパク質からなるため、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性が基本的に低く、また、タンパク質分解酵素等に対する耐性を獲得させるためにはナノカプセルを製造する際に複雑な手順を取る必要があるという問題がある。
そこで、本発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、従来のナノカプセルの製造方法よりも、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性を高くすることが可能であり、また、ナノカプセルを製造する際に比較的単純な手順を取ることが可能なナノカプセルの製造方法を提供することを目的とする。また、そのようなナノカプセルの製造方法により製造されたナノカプセルを提供することを目的とする。また、そのようなナノカプセルを含有する医薬品又は食品を提供することを目的とする。
[1]本発明のナノカプセルの製造方法は、薬剤を包含するナノカプセルの製造方法であって、ポリエチレングリコール−かご状シルセスキオキサン結合体(以下、PEG−POSSという。)を準備するPEG−POSS準備工程と、前記PEG−POSSを溶媒に溶解させてPEG−POSS溶液を製造するPEG−POSS溶液製造工程と、前記PEG−POSS溶液に前記薬剤として疎水性薬剤を添加し、前記ナノカプセルを製造するナノカプセル製造工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
このため、本発明のナノカプセルの製造方法によれば、タンパク質ではなくPEG−POSSを用いてナノカプセルを製造するため、従来のナノカプセルの製造方法よりも、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性を高くすることが可能であり、また、ナノカプセルを製造する際に比較的単純な手順を取ることが可能となる(後述する試験例も参照。)。
また、本発明のナノカプセルの製造方法によれば、薬剤を、消化器官内部の環境から保護するナノカプセルを製造することが可能となる。
ところで、消化器官内部の環境(特に胃内部の低pH環境)に弱い薬剤でも、腸からは吸収されて薬効が得られる場合が多いことが知られている。本発明のナノカプセルの製造方法によれば、薬剤を腸内部で徐々に放出するナノカプセルを製造することが可能となる(後述する試験例参照。)。
なお、「POSS」という名称は、英語において「かご状(多角形状)のシルセスキオキサン」を表す「Polyhedral Oligometric Silsesquioxanes」を略した名称である。
[2]本発明のナノカプセルの製造方法においては、前記ナノカプセル製造工程は、前記PEG−POSS溶液に前記疎水性薬剤を添加して撹拌し、前記PEG−POSSの自己凝集作用によりナノカプセルを製造する工程であることが好ましい。
このような方法とすることにより、PEG−POSSの自己凝集作用により、比較的単純な手順でナノカプセルを製造することが可能となる。
なお、「自己凝集作用」とは、分子自らが有する性質により、複数の分子が自ら所定の形状をとる作用のことを言う。本発明の場合には、疎水性の部分は疎水性の部分同士で集まりやすく、親水性の部分は親水性の部分同士で集まりやすいことを利用した自己凝集作用を用いることになる。
[3]本発明のナノカプセルの製造方法においては、前記PEG−POSS準備工程は、ポリエチレングリコール(以下、PEGという。)と、かご状シルセスキオキサン(以下、POSSという。)であって反応性を有する基を末端に有するものとを結合させ、前記PEG−POSSを準備する工程であることが好ましい。
このような方法とすることにより、PEG−POSSを比較的簡易に準備することが可能となる。
「反応性を有する基」としては、イソシアネート基を好適に用いることができる。なお、本発明においては、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エポキシ基、ハロゲン化アルキル基、イミド基、ニトリル基、オレフィン基等種々の反応性を有する基も用いることができる。
PEGとPOSSとを結合させるに当たっては、種々の触媒を用いることもできる。
[4]本発明のナノカプセルの製造方法においては、前記POSSとして、以下の式(1)で表されるPOSSを用いることが好ましい。
(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
本発明に係るナノカプセルの製造方法においては、上記のPOSSを好適に用いることができる。
[5]本発明のナノカプセルの製造方法においては、前記ナノカプセル製造工程で製造される前記ナノカプセルの平均径が、20nm〜800nmの範囲内にあることが好ましい。
このような方法とすることにより、ナノカプセルの製造を容易なものとすることが可能であり、かつ、ナノカプセルの構造の安定性を高くすることが可能となる。
なお、上記において、ナノカプセルの平均径の範囲を20nm〜800nmの範囲内としたのは、ナノカプセルの平均径が20nmより小さいとナノカプセルの製造が困難になる場合があるためであり、当該平均径が800nmより大きいとナノカプセルの構造の安定性が低くなってしまう場合があるためである。
[6]本発明のナノカプセルの製造方法においては、前記疎水性薬剤として、タンパク質からなる薬剤を用いることが好ましい。
このような方法とすることにより、通常、投与を経口で行うと消化器官で容易に変性され、さらに分解されて結果として薬効を得ることができないタンパク質からなる薬剤を、消化器官内部の環境から保護することが可能となる。
[7]本発明のナノカプセルの製造方法においては、前記疎水性薬剤として、インスリンを用いることが好ましい。
このような方法とすることにより、通常、投与を経口で行うと消化器官で容易に変性され、さらに分解されて結果として薬効を得ることができないインスリンを、消化器官内部の環境から保護することが可能となる。
[8]本発明のナノカプセルは、本発明のナノカプセルの製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明のナノカプセルによれば、従来のナノカプセルの製造方法により製造された従来のナノカプセルよりも、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性を高くすることが可能であり、また、比較的単純な手順で製造することが可能となる(後述する試験例も参照。)。
また、本発明のナノカプセルによれば、薬剤を、消化器官内部の環境から保護することが可能となる。
また、本発明のナノカプセルによれば、内部の薬剤を腸内部で徐々に放出することが可能となる(後述する試験例参照。)。
[9]本発明の医薬品又は食品は、本発明のナノカプセルを含有することを特徴とする。
本発明の医薬品又は食品によれば、本発明のナノカプセルを含有するため、経口投与又はそれに準じる方法により薬剤の薬効を得ることが可能となる。
実施形態に係るナノカプセルの製造方法を説明するために示すフローチャートである。 試験例に係るナノカプセルの製造方法を説明するために示す概略図である。 試験例に係るナノカプセルの透過型電子顕微鏡写真である。 試験例に係るナノカプセルのフーリエ変換型赤外分光法(FT−IR)による分析の結果を示すグラフである。 試験例に係るナノカプセルにおいてpHを変化させたときの結果を示すグラフである。 試験例に係るナノカプセルからのインスリンの放出率を示すグラフである。
以下、本発明のナノカプセルの製造方法、ナノカプセル及び医薬品又は食品について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
[実施形態]
図1は、実施形態に係るナノカプセルの製造方法を説明するために示すフローチャートである。
1.ナノカプセルの製造方法
まず、実施形態に係るナノカプセルの製造方法について説明する。
実施形態に係るナノカプセルの製造方法は、図1に示すように、薬剤を包含するナノカプセルの製造方法であって、PEG−POSS準備工程S1と、PEG−POSS溶液製造工程S2と、ナノカプセル製造工程S3とをこの順番で含む。以下、各工程を説明する。
なお、各工程においては、器具や装置として汎用の器具や装置を用いることが可能であり、器具及び装置についての詳細な説明は省略する。
PEG−POSS準備工程S1は、PEG−POSSを準備する工程である。さらにいえば、PEGと、POSSであって反応性を有する基を末端に有するものとを結合させ、PEG−POSSを準備する工程である。
PEGとしては、用いる薬剤の種類や量により、種々の分子量のものを用いることができる。PEGは直鎖状の構造をしており、以下の式(2)のように表すことができる。
POSSとしては、用いる薬剤の種類や量により、種々の形状や大きさのものを用いることができる。実施形態においては、POSSとして、以下の式(1)で表されるPOSSを用いる。
(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
実施形態においては、反応性の基はイソシアネート基からなる。
実施形態においては、PEG1mol当たり2molのPOSSを反応させ、PEG−POSSを準備する。具体的には、PEG両端のヒドロキシ基とPOSSのイソシアネート基とを反応させてウレタン結合させる。
ヒドロキシ基とイソシアネート基との反応においては、必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、有機スズ化合物のような有機金属類を用いることができる。また、必要に応じて加温や超音波処理等を行ってもよい。
なお、PEG−POSS準備工程は、PEG−POSSの市販品を購入するなど、既に完成されたPEG−POSSを準備する工程としてもよい。
PEG−POSS溶液製造工程S2は、前記PEG−POSSを溶媒に溶解させてPEG−POSS溶液を製造する工程である。
溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(以下、THFという。)、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン等種々の溶媒を用いることができ、実施形態においては、THF及びジメチルスルホキシドを特に好適に用いることができる。また、複数種類の溶媒を混合した混合溶媒を用いてもよい。
ナノカプセル製造工程S3は、PEG−POSS溶液に薬剤として疎水性薬剤を添加し、ナノカプセルを製造する工程である。さらにいえば、ナノカプセル製造工程S3は、PEG−POSS溶液に疎水性薬剤を添加してを撹拌し、PEG−POSSの自己凝集作用によりナノカプセルを製造する工程である。
実施形態においては、疎水性薬剤として、タンパク質からなる薬剤、さらにいえばインスリンを用いる。なお、本発明においては、インスリン以外のタンパク質からなる薬剤やタンパク質ではない疎水性薬剤を用いることもできる。
PEG−POSSの量と、疎水性薬剤の量との関係とは、製造するナノカプセルの目的に応じてそれぞれ決定することが出来るが、例えば、ナノカプセル製造工程S3で製造されるナノカプセルの平均径が、20nm〜800nmの範囲内にあるように決定することができる。
なお、PEG−POSS溶液に薬剤として疎水性薬剤を添加するときには、疎水性薬剤そのものを添加してもよいし、疎水性薬剤を溶媒に溶解させてから添加してもよい。
2.ナノカプセル
次に、実施形態に係るナノカプセルについて説明する。
実施形態に係るナノカプセルは、実施形態に係るナノカプセルの製造方法により製造されたものである。その構造は略球体であり、後述する試験例に示すように、中心部に疎水性薬剤(インスリン)を含み、外縁部にPEG−POSSを含む構造となっている(後述する図2及び図3参照。)。なお、PEG−POSSは、親水性のPEG部分が球体の外側を向き、疎水性のPOSS部分が疎水性薬剤側を向くように配置されている。ナノカプセルの平均径は、20nm〜800nmの範囲内にあり、例えば、330nmである。
3.医薬品又は食品
次に、実施形態に係る医薬品又は食品について説明する。
実施形態に係る医薬品又は食品は、実施形態に係るナノカプセルを含有することを特徴とする。
実施形態に係る医薬品の剤型としては、いずれも投与方法に適した製剤の形態をとることができ、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末、丸剤、トローチ剤等の固形剤、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤などの液剤、ゲル状の製剤などが挙げられる。また、実施形態に係るナノカプセルに加えて、薬理的に許容される賦形剤を加えても良い。賦形剤としては、単糖類、二糖類、多糖類、無機塩類、油脂、蒸留水など、製剤として一般に使用可能なものであればいずれも用いることができる。製剤化する際には、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
実施形態に係る医薬品中のナノカプセル、あるいは疎水性薬剤の含有量は、製剤の形態・有効投与量・製剤としての投与量のデータ等に基づき、各投与形態に最適な量を設定することができる。
実施形態に係る食品の形態としては、ドリンク剤、ゼリー、ビスケット、お茶、錠剤、丸剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等、通常食品として提供可能な形態であれば、いずれの形態も用いることができる。副原料として、賦形剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
なお、実施形態に係る医薬品又は食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
以下、実施形態に係るナノカプセルの製造方法、ナノカプセル及び医薬品又は食品の効果を記載する。
実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、タンパク質ではなくPEG−POSSを用いてナノカプセルを製造するため、従来のナノカプセルの製造方法よりも、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性を高くすることが可能であり、また、ナノカプセルを製造する際に比較的単純な手順を取ることが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、薬剤を、消化器官内部の環境から保護するナノカプセルを製造することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、内部の薬剤を腸内部で徐々に放出するナノカプセルを製造することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、ナノカプセル製造工程S3がPEG−POSS溶液に疎水性薬剤を添加して撹拌し、PEG−POSSの自己凝集作用によりナノカプセルを製造する工程であるため、PEG−POSSの自己凝集作用により、比較的単純な手順でナノカプセルを製造することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、PEG−POSS準備工程S1がPEGと、POSSであって反応性を有する基を末端に有するものとを結合させ、PEG−POSSを準備する工程であるため、PEG−POSSを比較的簡易に準備することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、ナノカプセル製造工程S3で製造されるナノカプセルの平均径が20nm〜800nmの範囲内にあるため、ナノカプセルの製造を容易なものとすることが可能であり、かつ、ナノカプセルの構造の安定性を高くすることが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、疎水性薬剤としてタンパク質からなる薬剤を用いるため、通常、投与を経口で行うと消化器官で容易に変性され、さらに分解されて結果として薬効を得ることができないタンパク質からなる薬剤を、消化器官内部の環境から保護することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルの製造方法によれば、疎水性薬剤としてインスリンを用いるため、通常、投与を経口で行うと消化器官で容易に変性され、さらに分解されて結果として薬効を得ることができないインスリンを、消化器官内部の環境から保護することが可能となる。
実施形態に係るナノカプセルの製造方法においては、POSSとして、以下の式(1)で表されるPOSSを好適に用いることができる。
(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
実施形態に係るナノカプセルによれば、実施形態に係るナノカプセルの製造方法により製造されたため、従来のナノカプセルの製造方法により製造された従来のナノカプセルよりも、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性を高くすることが可能であり、また、比較的単純な手順で製造することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルによれば、薬剤を、消化器官内部の環境から保護することが可能となる。
また、実施形態に係るナノカプセルによれば、内部の薬剤を腸内部で徐々に放出することが可能となる。
実施形態に係る医薬品又は食品によれば、実施形態に係るナノカプセルを含有するため、経口投与又はそれに準じる方法により薬剤の薬効を得ることが可能となる。
[試験例]
以下、試験例により本発明のナノカプセルの製造方法及びナノカプセルについてさらに詳しく説明するが、本発明はこれに何ら制約されるものではない。
図2は、試験例に係るナノカプセルの製造方法を説明するために示す概略図である。なお、図2においては、ナノカプセルの構造及びナノカプセルがインスリンを放出する様子も記載している。
図3は、試験例に係るナノカプセルの透過型電子顕微鏡写真である。図3(a)〜図3(c)はそれぞれ倍率の異なる写真である。
図4は、試験例に係るナノカプセルのフーリエ変換型赤外分光法(FT−IR)による分析の結果を示すグラフである。図4中、縦軸は赤外線の透過率を表し、横軸は波数を表す。
図5は、試験例に係るナノカプセルにおいてpHを変化させたときの結果を示すグラフである。図5(a)はゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、図5(b)は流体力学直径とpHとの関係を示すグラフである。図5においては、インスリンを包含するナノカプセルについては▽のプロットで示し、純粋なPEG−POSSからなるナノカプセルについては●のプロットで示している。図5(a)中、縦軸はゼータ電位を表し、横軸はpHを表す。また、図5(b)中、縦軸は流体力学直径を表し、横軸はpHを表す。
図6は、試験例に係るナノカプセルからのインスリンの放出率を示すグラフである。図6中、縦軸はインスリンの放出率を表し、横軸は時間を表す。
当該試験例においては、図2に示すように、両端にPOSSが着いたPEG−POSSが、親水性の関係から中央部と辺縁部を有するナノ構造(花状のミセル構造)をとり、当該ナノ構造がインスリンを取り込んで包含し、インスリンを包含するナノカプセルが製造された。ナノ構造の中央部は疎水性であり、同じく疎水性であるインスリンを自己凝集的に取り込むことができるためである。
なお、比較用に製造した「純粋なPEG−POSSからなるナノ構造体」は、上記した中央部と辺縁部を有するナノ構造(花状のミセル構造)そのものである。
1.原料、触媒及び溶媒
PEGとしては、数平均分子量(以下、単に分子量という。)3.4kDaのもの(アルドリッチ社より購入。)を、n−ヘキサン及びクロロホルムを用いた沈殿法により2回精製してから用いた。
POSSとしては、Isocyanatopropyldimethylsilylcyclohexyl-polyhedral oligosilsesquioxane(以下の式(5)参照。トーメンプラスチック社より購入。)を用いた。なお、式(3)に示すように、当該POSSは、末端部にイソシアネート基を有する官能基を有する。
インスリンとしては、ウシの膵臓から抽出したもの(活性度:≧25USPユニット/mg、第2活性度:2500ユニット。シグマアルドリッチ社より購入。)100mgを用いた。
また、PEGの水酸基とPOSSのイソシアネート基とを反応させるための触媒として、ジラウリン酸ジブチルスズ(以下、DBTDLという。アルドリッチ社より購入。純度95%)を用いた。
また、溶媒としてのトルエンは、事前に水素化カルシウムにより乾燥し、使用前に窒素雰囲気下で蒸留を行ったものを用いた。
特に記載のない化学薬品類については、分析グレード又はそれ以上の純度を有していたため、さらに精製することなくそのまま用いた。
2.器具、装置及び分析方法
各工程は、明細書中に特段の記載がない場合には、汎用の実験器具及び実験装置を用いて行った。
UV−可視分光光度計としては、日本分光株式会社のJasco V−530を用いた。
ナノカプセルの粒子サイズの測定には、モールヴァン機器社のレーザー回折粒子サイズ測定機であるNano−ZSを用いて行った。
透過型電子顕微鏡(TEMともいう。)は、日本電子株式会社のJEM−2100 LaB6電子顕微鏡を用いた。加速電圧は160kVとした。
透過型電子顕微鏡から平均粒径を測定するために、国立健康研究所の画像解析ソフトウェアであるイメージJを用いた。
FT−IRは、島津製作所のIR Prestige−21を用いて行った。
ゼータ電位及び流体力学直径(光散乱により測定される直径)の測定は、シスメックス株式会社のゼータサイザーナノを用いて行った。
3.ナノカプセルの製造方法
試験例に係るナノカプセルの製造方法は、基本的に実施形態に係るナノカプセルの製造方法に沿って行った(図1及び図2中の「PEG−POSS」〜「ナノカプセル」参照。)。以下、各工程について詳細に説明する。
3−1.PEG−POSS準備工程S1
PEG−POSS準備工程S1は、PEG(上記の分子量3.4kDaのPEG)と、POSSであって反応性を有する基を末端に有するもの(上記の式(3)のPOSS)とを結合させ、PEG−POSSを準備する工程である。本工程においては、DBTDLを用いて、PEGの両端のヒドロキシ基に、直接的にPOSSのイソシアネート基をウレタン結合させることにより、PEG−POSSを得ることができた。具体的には、まず、PEGをトルエンに加えてPEG混合溶液を製造し、当該PEG混合溶液にPOSSとDBTDLとをさらに混合し、窒素雰囲気下、90℃で12時間撹拌することによりPEG−POSSを得た。この場合、PEG−POSSは、以下の式(4)で表される構造のものとなる。
3−2.PEG−POSS溶液製造工程S2
PEG−POSS溶液製造工程S2においては、PEG−POSSを溶媒に溶解させてPEG−POSS溶液を製造する。具体的には、PEG−POSS準備工程で準備したPEG−POSSのうち40mgをTHF10mlに完全に溶解させ、PEG−POSS溶液を製造した。
3−3.ナノカプセル製造工程S3
ナノカプセル製造工程S3においては、PEG−POSS溶液に薬剤として疎水性薬剤を添加し、インスリンを包含するナノカプセルを製造した。まず、100mgのインスリンを10mlの0.01N HCl水溶液に溶解させ、インスリン溶液を用意した。
次に、0.5mlのインスリン溶液と、0.9mlのインスリン溶液と、1.3mlインスリン溶液とを、それぞれPEG−POSS溶液に滴下して溶液混合物とした(つまり、インスリンの量が異なる3種類の溶液混合物を作った。)。その後、溶液混合物を透析チューブ(スペクトル/ポア6、MWCO:3.5kD)に注ぎ、室温、磁気撹拌の条件化で、蒸留水を用いて透析した。
さらに、THFとHClを除去するために蒸留水を少なくとも3回交換し、インスリンを包含するナノカプセルを製造した。
なお、このとき、後のナノカプセルの分析及び評価のために、純粋なPEG−POSSのみからなるナノ構造体も製造した。当該ナノ構造体の製造方法は、インスリンを包含するナノカプセルの製造方法と基本的に同様であり、インスリンを添加しないということだけが異なるのみであるので、詳細な説明は省略する。
4.ナノカプセルの分析及び評価
4−1.インスリンの捕集効率
まず、添加したインスリンの量とインスリンの捕集効率との関係を分析した。インスリンの捕集効率は、UV−可視分光光度計で遊離しているインスリンの量を測定し、測定によって得られた量を添加したインスリンの全量で割ることにより得た。その結果、インスリンの捕集効率は、インスリンを5mg添加したものについては52.6%、インスリンを9mg添加したものについては70.5%、インスリンを13mg添加したものについては76.5%であることがわかった。つまり、PEG−POSSはインスリンを内包する能力に優れるということが確認できた。
4−2.ナノカプセルのサイズ
次に、インスリンを包含するナノカプセルと、純粋なPEG−POSSのみからなるナノ構造体とのサイズとの違いを、レーザー回折粒子サイズ測定機でpHごとに測定して分析した。
また、図3各図に示すように、透過型電子顕微鏡により、上記両ナノカプセルの形態を撮影して観察した。この際、ナノカプセルを水に分散した後、室温で炭素被覆銅グリッド(200−Aメッシュ 日新Em株式会社製)に乗せ、真空オーブンで乾燥させることにより固定化を行った。
上記測定及び観察によれば、インスリンを包含するナノカプセルの粒径は、250nm〜410nm(平均粒径330nm)であった。一方、純粋なPEG−POSSのみからなるナノ構造体の粒径は、14.6nm〜17.2nm(平均粒径15.9nm)であった。
本測定の結果、図3各図に示すように、製造されたナノカプセルが中央部と辺縁部とを有する球形形状からなることが確認できた。また、インスリンを包含するナノカプセルが、純粋なPEG−POSSのみからなるナノ構造体より大きいことも確認できた。
4−3.ナノカプセルの構造
次に、インスリンを包含するナノカプセルをFT−IRによる分析にかけた。その結果、図4に示すように、PEG−POSSの存在とインスリンの存在とを確認できた。1651cm−1と1531cm−1〜1514cm−1のピークはインスリンのアミドのものであった。一方、PEG−POSSのSi−O−Siのピークは、純粋なPEG−POSSのピークよりも高波数側にシフトしており、これは、インスリンとPEG−POSSとの間に強い相互作用が働いているためであると考えられる。
4−4.pHによる影響
つぎに、ナノカプセルがpHによって受ける影響を分析した。まず、インスリンを含有するナノカプセルをPBS緩衝液(pH2.5)10mlに分散し、遠心分離にかけた。遠心分離の条件は、3000rpm、15分であり、その後、37℃で2時間放置した。
上記のものを再び遠心分離にかけ、2000rpm、1分で得られた上澄み液のうち0.5mlを20分ごとに取り出し、ナノカプセルから放出されたインスリンの量を測定するのに用いた。なお、上澄み液を取り出した分に関しては、同量の新しいPBS緩衝液を、上澄み液と交換するように用いることで液量の変化を補った。
ナノカプセルから放出されたインスリンの量は、UV−可視分光光度計で測定した。これは、後述するpH7.4の場合においても同様である。
さらに、上記で遠心分離にかけたナノカプセルを遠心分離(3500rpm、15分)にかけて分離し、10mlのリン酸緩衝液(pH7.4)に移し、37℃で3時間放置した。
その後、再び遠心分離(2000rpm、1分)にかけ、pH2.5のときと同じように上澄み液0.5mlを20分ごとに取り出し、ナノカプセルから放出されたインスリンの量を測定するのに用いた。
当該分析において、pHによるゼータ電位の変化を調べた結果、図5(a)に示すように、インスリンを包含するナノカプセルは、pHが大きくなるにつれて負の電荷を持つようになっていった。これは、インスリンのカルボキシル基の影響であると考えられる。一方、純粋なPEG−POSSのみからなるナノ構造体は、pHに関わらずあまり電荷を持っていなかった。
なお、インスリンを包含するナノカプセルは互いに電荷を有するため、電気的な反発力から、よい拡散性を有することが期待できる。
また、pHによる流体力学直径の変化を調べた結果、図5(b)に示すように、インスリンを包含するナノカプセルについては、pHの増加とともに流体力学直径が大きくなることが確認できた。
また、ナノカプセルからのインスリンの放出については、図6に示すように、主にpH7.4(腸内の環境に近い)においてインスリンが放出されることが確認できた。つまり、試験例に係るナノカプセルは、少なくとも2時間はpH2.4(胃の中の環境に近い)に耐えてインスリンあまり放出せず、pH7.4ではインスリンを多く放出することが確認できた。なお、PEG−POSSからなるナノカプセルが、低pHではインスリンをあまり放出せず、より高いpHではインスリンを多く放出するのは、pHが高くなるとPEG−POSSが膨張し、分子の隙間からインスリンが出てくるためである(図5(b)参照。)。
以上より、本発明に係るナノカプセルの製造方法の効果、つまり、「(1)タンパク質ではなくPEG−POSSを用いてナノカプセルを製造するため、従来のナノカプセルの製造方法よりも、タンパク質分解酵素やpHの変化に対する耐性を高くすることが可能であり、また、ナノカプセルを製造する際に比較的単純な手順を取ることが可能となる。」、「(2)薬剤を、消化器官内部の環境から保護するナノカプセルを製造することが可能となる」「(3)内部の薬剤を腸内部で徐々に放出するナノカプセルを製造することが可能となる」という3つの効果を確認することができた。
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
(1)上記実施形態及び試験例においては、POSSとして、末端にイソシアネート基を有する官能基を有するPOSSを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、末端にアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エポキシ基、ハロゲン化アルキル基、イミド基、ニトリル基、オレフィン基等種々の反応性を有する基を用いてもよい。

Claims (5)

  1. 薬剤を包含し、経口投与したときに前記薬剤を腸内部で徐々に放出するナノカプセルの製造方法であって、
    ポリエチレングリコール−かご状シルセスキオキサン結合体(以下、PEG−POSSという。)を準備するPEG−POSS準備工程と、
    前記PEG−POSSを溶媒に溶解させてPEG−POSS溶液を製造するPEG−POSS溶液製造工程と、
    前記PEG−POSS溶液に前記薬剤として疎水性薬剤を添加し、前記ナノカプセルを製造するナノカプセル製造工程とをこの順番で含み、
    前記疎水性薬剤として、タンパク質からなる薬剤であるインスリンを用いることを特徴とするナノカプセルの製造方法。
  2. 請求項1に記載のナノカプセルの製造方法において、
    前記ナノカプセル製造工程は、前記PEG−POSS溶液に前記疎水性薬剤を添加して撹拌し、前記PEG−POSSの自己凝集作用によりナノカプセルを製造する工程であることを特徴とするナノカプセルの製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載のナノカプセルの製造方法において、
    前記PEG−POSS準備工程は、ポリエチレングリコール(以下、PEGという。)と、かご状シルセスキオキサン(以下、POSSという。)であってPEGに対する反応性を有する基を末端に有するものとを結合させ、前記PEG−POSSを準備する工程であることを特徴とするナノカプセルの製造方法。
  4. 請求項3に記載のナノカプセルの製造方法において、
    前記POSSとして、以下の式(1)で表されるPOSSを用いることを特徴とするナノカプセルの製造方法。
    (但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’はPEGに対する反応性を有する基を末端に有する官能基を示す。)
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のナノカプセルの製造方法において、
    前記ナノカプセル製造工程で製造される前記ナノカプセルの平均径が、20nm〜800nmの範囲内にあることを特徴とするナノカプセルの製造方法。
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