JP5960090B2 - 熱間押出鍛造方法 - Google Patents
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このようなチタン合金を用いて上述した鍛造品を鍛造する方法として、金型を用いた熱間押出鍛造方法(熱間の据え込み鍛造方法)が用いられる。熱間押出鍛造方法は、予め製品形状を模して形成された金型内に加熱された被加工材を装入し、被加工材を高温状態に保持したまま金型に沿った形状に引き伸ばすように変形させながら鍛造するものである。熱間押出鍛造方法を用いれば、鍛造中の変形において製品形状に沿ったメタルフローが得られるため他の加工方法に比べてより粘り強く、耐衝撃破壊性など機械的特性に優れた鍛造品を得ることができる。
特許文献1には、チタン合金製で、端面の面取りを行なった被加工材から、搾出および傘打ち加工を同時に行なう鍛造によりエンジンバルブを製造する方法であって、バルブ形状を備えた上下一対の鍛造用の金型を用い、軸部の径より太い径をもつ被加工材を金型の傘部の側から挿入し、被加工材の下部を前方押出しすることにより軸部を搾出成形するとともに、被加工材の上部を型打ちして材料を横方向に展開させることにより傘部を成形し、鍛造に続いてチタン合金のβトランザス温度以上に加熱する熱処理を行なって、少なくともバルブ傘部を針状(α+β)組織とすることからなり、あらかじめ被加工材および金型を加熱しておいて鍛造を行ない、その加熱を、被加工材温度が800℃以上〜チタン合金のβトランザス温度以下、金型温度が100〜500℃となる条件を満たすように選択するチタン合金製エンジンバルブの製造方法が開示されている。
しかしながら、上述した特許文献1は、チタン合金を熱間押出鍛造するに際し、最終製品のワレ・カジリを防止する技術を開示するものであって、鍛造品全体に高い相当ひずみを付与可能な鍛造方法を開示するものとはなっていない。つまり、鍛造中に高い相当ひずみを付与して機械的特性に優れた鍛造製品を得る技術は、未だ開発されていないのが現状である。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、1回の鍛造で鍛造品全体に高い相当ひずみを付与して、所望とする機械的特性を有する鍛造品を鍛造する熱間押出鍛造方法を提供することを目的とする。
本発明の熱間押出鍛造方法は、軸状の孔部と当該孔部の上部に連接して形成されたフランジ状の凹部を有する下金型と、前記下金型に押し付けられる上金型とからなる金型を用いて据え込み鍛造する熱間押出鍛造方法であって、前記下金型の凹部の最小内径d1と、被加工材の下部の最大径D1とが、式(1)を満たし、押出比ERが式(2)を満たすと共に、前記下金型における孔部と凹部との連接部分と被加工材との接触長さWが式(3)を満たすように、被加工材及び金型を設定しておき、前記上金型を下金型に押し付けることによって前記下金型内に装入された被加工材を軸部とフランジ部とから成る形状の鍛造品へと据え込み鍛造することを特徴とする。
ER=(d1)2/(d2)2≧1.5 ・・・(2)
W/d2≧−1.15×ER+3.93 ・・・(3)
ただし、d1:凹部の最小内径(mm)、d2:軸状の孔部の径(mm)
W:接触長さ(mm)、D1:被加工材の下部の最大径(mm)
好ましくは、前記被加工材が、式(4)、式(5)を満たす形状としているとよい。
D2/D1≦0.95 ・・・(5)
ただし、H:被加工材の高さ(mm)、D2:被加工材の上部の最小径(mm)
好ましくは、被加工材の上部には、上金型に設けられた下方突起部に嵌合する凹部を形成し、被加工材の下部には、下金型に対応した形状を設けるようにしているとよい。
まず、本発明の熱間押出鍛造方法を説明する前に、熱間押出鍛造装置1(据え込み鍛造装置)を図1に基づき、説明する。
図1(a)〜図1(c)に示すように、熱間押出鍛造装置1は、加熱された被加工材20(以降、荒地と呼ぶ)を金型2,3内に装入して、金型2,3の形状に沿って荒地20を熱間状態で変形させることにより、所望の形状の鍛造品30を成形するものである。具体的には、この熱間押出鍛造装置1は、鍛造品30を成形するための金型2,3が上下2つに分割できるようになっていて、荒地20が載置される下金型2と、この下金型2に載置された荒地20を上方から圧下する上金型3と、を有している。
下金型2の幅方向中央であってフランジ孔部5の下方側は、荒地20(フランジ孔部5の内径)よりも小径とされた軸状の孔部6(貫通孔)が形成されている。詳しくは、下金型2の幅方向中央であって下側部に形成される貫通孔6は、フランジ孔部5の下部から貫通孔6の中途部に向かうにしたがって内径が徐々に小さくなる内側傾斜面7が形成されている。この内側傾斜面7に荒地20を載置することができるようになっている。また、内
側傾斜面7の下方の貫通孔6(貫通孔6の中途部より下方)は、内側傾斜面7の下部の内径より若干大きい内径で形成されている(貫通孔6の大径部)。
上金型3は、下金型2の上方に位置しており、下金型2に載置された荒地20に対して上方から近接離反とされており、上金型3を下降させることで荒地20を上方から押しつぶすように圧下可能となっている。上金型3の中央部には、荒地20を圧下するためのポンチ4が形成されている。
図2に示すように、荒地20は、側面視で略台形状に形成され、上下方向に長尺とされた略円柱部材である。荒地20は、Ti-17(Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr)やTi-6246(Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo)などのチタン合金で形成されている。荒地20は、その上部や下部の縁が斜めに面取りされており、荒地20の下部の面取り部分と、下金型2の内側傾斜面7とが接触して、荒地20が下金型2(フランジ孔部5)に配備される。なお、荒地20の下部の面取り部分は、下金型2に対応した形状にしてもよい。例えば、荒地20の下部の面取り部分を下金型2の湾曲状の内側傾斜面7に沿った形状にしてもよい。このように、荒地20の下部形状を下金型2に沿った形状とすることで、荒地20を容易かつ迅速に下金型2の中心に配置することができる。そして、荒地温度が低下する前に素早く鍛造を開始することができる。また、素材の芯ずれを軽減することができるため、加圧時の座屈のリスクを低減することも可能となる。
H/[(D1+D2)/2]≦3.0 ・・・(4)
D2/D1≦0.95 ・・・(5)
ただし、H:荒地の高さ(mm)
D2:荒地の上部の最小径(mm)
このように、荒地20の外径Dに対する荒地高さHの比(H/D)の値を、チタンの一般的な座屈限界値である3.0以下にすることで、鍛造中に生じる荒地20の座屈を防止することができる。また、荒地20の外径の比(D2/D1)を0.95以下となる逆テーパ形状にすることで、荒地20の重心が下側に寄り、荒地20の座屈のリスクを低減することができる。
ガラス潤滑剤は、荒地20(チタン合金などの難加工材)の表面を被覆することにより、鍛造時において金型2,3と荒地20との間での潤滑性を高めると共に、鍛造終了後に鍛造品30を型下部から引き剥がす際の離形性を向上させている。また、鍛造時における金型2,3と荒地20との焼付発生を抑制すると共に、鍛造品30の割れや疵を防止して
いる。
(a)ホウケイ酸ガラス粉末 :40%〜60%
(b)スチレン・アクリル樹脂(バインダー) :10%〜20%
(c)防腐剤 :0.1%未満
(d)水 :40%〜50%
(e)シリカ :約1%
上述した組成割合で混練されたガラス材からなるガラス潤滑剤を荒地20の外周面に塗布する。
この接触長さWは、貫通孔6の大径部の上縁と、フランジ孔部5であって側壁が略垂直となっている部分の下縁とを結ぶ傾斜部(連接部分)の断面長さである。接触長さWが長いほど(具体的には後述の式(3)を満たすようにすると)、荒地20の表層においてダイス2による摩擦で拘束されるくさび形状の領域が大きくなり、その分だけ鍛造品30の軸部32の水平(径外)方向中心部に相当ひずみが付与される。
このような高水準の機械的特性を実現するためには、針状に伸長したα相が均一に分布した針状α組織と呼ばれるミクロ組織がチタン合金(鍛造品30)の結晶構造内に形成される必要がある。針状α組織は、βプロセス鍛造という鍛造熱処理技術によって形成される。
一般的な金型鍛造においては、まず金型鍛造の前工程であるビレット鍛造の段階で相当ひずみを荒地20に付与して機械的特性を満足させる。その後に、相当ひずみが付与された荒地20を金型鍛造により所望の製品形状に製造する。このように、2つの鍛造工程を経ることで、相当ひずみが付与されると共に、所望の形状に成形された鍛造品30が製造される。しかしながら、従来の鍛造方法では、チタンのニアβ合金で針状α組織を得ることができず、所望の機械的特性が満足できない。
本発明の熱間押出鍛造方法(βプロセス鍛造)は、荒地20を高温状態に保持したまま金型形状に沿って引き伸ばすように変形させながら鍛造するものであり、1回の金型鍛造で高くて安定した機械的特性(針状α組織が形成される)と所望の製品形状を同時に得ることができる。また、鍛造時に金型形状に沿ったメタルフローが得られるため従来の鍛造方法に比べて粘り強く、耐衝撃性・耐破壊性に優れた鍛造品30を得ることができる。また、鍛造品30に0.7以上の相当ひずみを付与することで、結晶粒界に直線的かつ連続したα相が貼りつくように析出することを防ぐことができる。
本発明に係る熱間押出鍛造方法は、図2に示すように、下金型2の凹部5の最小内径d1と、荒地20(被加工材)の下部の最大径D1とが、式(1)を満たし、押出比ERが式(2)を満たすと共に、下金型2における孔部6と凹部5との連接部分における下金型2と被加工材20との接触長さWが式(3)を満たすように、荒地20及び金型2,3を設定しておき、上金型3を下金型2に押し付けることによって下金型2内に装入された荒地20を軸部32とフランジ部31とから成る形状の鍛造品30へと据え込み鍛造するものである。なお、押出比ERとは、荒地20をフランジ孔部5から貫通孔6に押し出す際の変形量の比率のことである。
ER=(d1)2/(d2)2≧1.5 ・・・(2)
W/d2≧−1.15×ER+3.93 ・・・(3)
ただし、d1:フランジ孔部(凹部)の最小内径(mm)
d2:貫通孔(軸状の孔部)の径(mm)
W:接触長さ(mm)
D1:荒地の下部の最大径(mm)
これら式(1)〜式(3)を満たすことで、1回の金型鍛造で鍛造品30に0.7以上の相当ひずみを付与することができ、高い水準で安定した機械的特性を得ることができる。なお、式(1)を満たすと、鍛造品30のフランジ部31に0.7以上の相当ひずみを付与することができる。また、式(2)と式(3)を同時に満たすと、鍛造品30の軸部32に0.7以上の相当ひずみを付与することができる。
例えば、金型2,3の温度が低すぎると、鍛造中に荒地20の表面の層が冷却されてしまう。表面の層が冷却されると、その表層では塑性変形が起こりにくくなり、相当ひずみが付与されなくなる。その結果、機械的特性が低下してしまう。また、金型2,3の温度が低いと、鍛造中に荒地20を被覆しているガラス潤滑剤の粘性が低下し、潤滑性能が低下して焼付きが発生する虞がある。
そこで、本願発明者らは、金型2,3の強度を低下させずに荒地20の表層温度の低下を軽減できる金型温度範囲を研究した。その結果、本願発明者らは、金型温度範囲を400℃以上700℃以下に決定した。
図1(b)に示すように、決定された金型温度、及び鍛造開始温度の基で、荒地20の圧下を行う。このとき、荒地20の圧下は、所定の加圧速度で行われる。
例えば、熱間押出鍛造の加圧速度が速すぎると、荒地20のひずみ速度も大きくなり、鍛造中の荒地20内部において加工発熱が促進されてしまう。このように加工発熱が促進されると、β粒の再結晶が進んで相当ひずみが解放されてしまう。その結果、機械的特性が低下する虞がある。
そこで、本願発明者らは、加工発熱の温度と荒地20の表層が冷却される温度とのバランスを研究した。その結果、本願発明者らは、鍛造開始から終了まで適正な荒地温度が得られる加圧速度を0.5mm/secから15.0mm/secまでの範囲に決定した。
荒地20が押しつぶされて変形するようになると、下金型2のフランジ孔部5で鍛造品30のフランジ部31が形成される。そして、押しつぶされて変形した荒地20の一部は、フランジ孔部5の内側傾斜面7に接触しながら、下金型2の下方の貫通孔6に流れ込む。荒地20が貫通孔6に流れ込んで変形するようになると、下方に向けて突出状の鍛造品30の軸部32が形成される。図3に示すように、荒地20は、側面視でボルトのような形状の鍛造品30に成形される。
[実験例]
以下、熱間押出鍛造方法に基づき、鍛造品30に相当ひずみを付与した実験例について、述べる。
また、2つ目の熱間押出鍛造の条件としては、下金型2の凹部5の最小内径d1を420mmとし、荒地120の下部の最大径D1を350mmとする。また、下金型2の凹部
5の最小内径d1と荒地120下部の最大径D1との面積比((d1)2/(D1)2)を1.4とする。
このような熱間押出鍛造の条件下で製造された鍛造品30,130のフランジ部31,131に着目して、その鍛造品30,130のフランジ部31,131に付与された相当ひずみをFEM解析により解析した。なお、FEM解析の条件としては、表2に示す。
図4(a)に示すように、本発明の熱間押出鍛造方法に基づいて、1つ目の熱間押出鍛造の条件下で鍛造品30を製造すると、その鍛造品30のフランジ部31のほとんどの部分に、0.7以上の相当ひずみが付与されていることが確認できる。詳しくは、フランジ部31の外周囲側から中心軸側に向かうにつれて、相当ひずみの値が大きくなっており、所望とされる値(0.7)以上の相当ひずみが付与されている。本実施形態では少なくとも0.7以上の相当ひずみが付与されている。特に、フランジ部31の中心軸近傍には、1.3以上の高い相当ひずみが付与されている。
なお、0.4といった低い相当ひずみがフランジ上部に発生しているが、このフランジ上部は後工程の機械加工にて除去されるので問題はない。従って、機械加工後のフランジ部31の相当ひずみの最小値は0.7となる(表1参照)。
なお、軸部32の底面から上方へ150mmまでの部位は、後工程の機械加工にて除去される。従って、機械加工後の軸部32の相当ひずみの最小値は1.5となる(表3参照)。
部132の上下方向に亘って付与されているが、それよりも若干内側に0.7未満の低い相当ひずみが軸部132の上下方向に沿って広い部分に亘って付与されている。
図6は、下金型2の貫通孔6の内径d2に対する接触長さWの比(W/d2)と押出比ERとの関係を示すデータをプロットし、グラフ化したものである。
図6を見てみると、例えば、「図5(a)、■印」とされた鍛造では、押出比ERがおよそ3.0で、貫通孔6の内径d2に対する接触長さWの比(W/d2)は1.05である。その結果、付与された相当ひずみは0.7以上となっている。
以上述べたように、本発明の熱間押出鍛造方法は、1回の鍛造で鍛造中の鍛造品30全体に0.7以上の高い相当ひずみを付与して、高水準の機械的特性に優れた鍛造品30を製造することができる。また、本発明の熱間押出鍛造方法で製造された鍛造品30は、過酷な環境下で使用される航空機や車両などの輸送機器のエンジン部材、あるいはシャーシなどの構造部材に最も適している。
具体的には、式(1)を満たすことで、鍛造品30のフランジ部31に0.7以上の相当ひずみを付与することができる。また、式(2)及び式(3)を満たすことで、鍛造品30の軸部32に0.7以上の相当ひずみを付与することができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本実施形態では、Ti-17(Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr)を用いて鍛造品30に相当ひずみを付与する実験を行ったが、本願発明者らは、他のチタン合金、例えば、Ti-6246(Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo)に対しても、式(1)〜式(5)を満たすように鍛造を行うことで、0.7以上の相当ひずみを鍛造品30全体に付与することが可能であることを確認している。
2 下金型(ダイス)
3 上金型
4 ポンチ
5 フランジ孔部(凹部)
6 貫通孔(孔部)
7 内側傾斜面(湾曲面)
8 下方突起部(凸部)
9 ノックアウト棒
20 被加工材(荒地、材料)
21 切り欠き部
30 鍛造品
31 フランジ部
32 軸部
120 被加工材(荒地、比較例)
130 鍛造品(比較例)
131 フランジ部(比較例)
132 軸部(比較例)
Claims (3)
- 軸状の孔部と当該孔部の上部に連接して形成されたフランジ状の凹部を有する下金型と、前記下金型に押し付けられる上金型とからなる金型を用いて据え込み鍛造する熱間押出鍛造方法であって、
前記下金型の凹部の最小内径d1と、被加工材の下部の最大径D1とが、式(1)を満たし、
押出比ERが式(2)を満たすと共に、前記下金型における孔部と凹部との連接部分と被加工材との接触長さWが式(3)を満たすように、被加工材及び金型を設定しておき、
前記上金型を下金型に押し付けることによって前記下金型内に装入された被加工材を軸部とフランジ部とから成る形状の鍛造品へと据え込み鍛造することを特徴とする熱間押出鍛造方法。
(d1)2/(D1)2≧1.7 ・・・(1)
ER=(d1)2/(d2)2≧1.5 ・・・(2)
W/d2≧−1.15×ER+3.93 ・・・(3)
ただし、d1:凹部の最小内径(mm)、d2:軸状の孔部の径(mm)
W:接触長さ(mm)、D1:被加工材の下部の最大径(mm) - 前記被加工材が、式(4)、式(5)を満たす形状としていることを特徴とする請求項1に記載の熱間押出鍛造方法。
H/[(D1+D2)/2]≦3.0 ・・・(4)
D2/D1≦0.95 ・・・(5)
ただし、H:被加工材の高さ(mm)、D2:被加工材の上部の最小径(mm) - 被加工材の上部には、上金型に設けられた下方突起部に嵌合する凹部を形成し、
被加工材の下部には、下金型に対応した形状を設けるようにしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱間押出鍛造方法。
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