JP5953318B2 - 生体模擬ファントムおよび校正装置 - Google Patents

生体模擬ファントムおよび校正装置 Download PDF

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Description

本発明は、計測、診断、治療等に用いられる超音波装置から照射される超音波の治療域を表示するファントムおよび超音波装置の校正を行う装置に関する。
近年、疾病の治療に関し、施術後の患者の生活の質(Quality Of Life)を重視する方向にあり、がんのような重篤な疾病においても従来よりも侵襲性の低い治療法への社会的ニーズが高まっている。現在、低侵襲治療として臨床で主に用いられているのは、内視鏡手術や腹腔鏡手術といった、管状のガイドを体内に挿入するもの、あるいはラジオ波焼灼治療といった針状の治療機器を体内に挿入するものであり、いずれも体内への機器の侵襲を伴うものである。これに対し、超音波は、波長と体内減衰の関係に基づき、体内への機器の挿入なしに体外から体内の1cm角ないしはそれ以下の領域に収束させることが可能である。この特性を利用し、侵襲性の低い超音波治療法の臨床応用が始まっている。現在最も臨床的に進んでいる超音波治療は、子宮筋腫および乳がんを対象とした、高強度収束超音波(HIFU)を照射して患部温度を数秒の間にタンパクの凝固温度以上に上昇させて患部組織を焼灼させるHIFU治療である。
超音波を用いる治療においては、治療部位に超音波発生装置が接触していないため、画像診断装置等により治療が行われている部位をモニタリングする必要がある。また、より確実に選択的な治療を行うには、モニタリングに加え、事前に治療計画を立て、治療部位に適切な量の超音波が照射され、かつ治療部位以外へ不適切に多い量の超音波が照射されないよう制御することも重要となる。
超音波治療における治療計画の重要なステップとして、治療用セッティングを行った装置が、想定通りに動作するかどうかの確認がある。このような確認は、人体へ適用する前に、生体を模擬でき、かつその内部に超音波照射により生じる生体効果の程度・範囲を表示できるよう構成された超音波ファントム(生体模擬体)へ超音波を照射し、結果を観察・解析することで目的が達せられる。
上述の超音波ファントムとしては、超音波のエネルギーそのものではなく、超音波により生じる二次的な作用を可視化するものが主に用いられている。例えば、非特許文献1に示されるような、可溶性のタンパクを指示剤として用い、超音波照射による温度上昇を検出するものが挙げられる。このファントムにおいては、タンパクが熱変性すると、凝固して分子同士が凝集するため、変性前に比べて散乱強度が大きくなり光学的な変化が生じること、特に白変が生じることを利用している。
C Lafon et al. Proc. IEEE Ultrasonics Symposium pp.1295-1298 (2001)
従来用いられていたHIFU治療用の生体模擬ファントムは、タンパクの変性に伴う白変を視認あるいは光学的手法により検出するものであるが、白変の生じる超音波強度の制御と光学的濁度ならびにキャビテーション核の制御とを独立して行えないという問題があった。それは、白変に必要な超音波強度の強さの判断の基準が、もっぱら低級アルコールやtris-(hydroxymethyl)-aminomethane (以下、Trisと略)等のバッファの作用により行われていたからである。低級アルコールやTris等の特定のバッファは、牛血清アルブミンの三次元構造を変化させ溶液中での溶解安定性を低下させる。このため、アルブミンは会合体を形成するが、このような会合体は準変性状態であり、超音波照射等により温度上昇が生じるとアルブミン単体よりも変性をうけやすい。このような、超音波照射によりタンパクの変性を生じやすくする効果は特にTrisで顕著である。しかしながら、会合体を形成したタンパク溶液はタンパクが完全に溶解した状態よりも濁度が高く特にサイズの大きいファントムを調製する際には問題となる。
さらには、このような会合体の状態のタンパクは以下に記載する音響キャビテーションの核として働くが、ファントム中に会合体が存在する部位と存在しない部位とが存在することにより核が散在してしまい、この結果、変性がファントム中で均一に生じないという問題点がある。さらには、Trisあるいは低級アルコールは低分子であることから、生体模擬ファントムの母材であるハイドロゲルの網目を容易にすり抜ける性質を持っており、このため容易にファントムから漏れ出てしまうという問題がある。このため、ベッド一体型の大型超音波照射装置など、ファントムを直接超音波装置に接触させて用いる必要がある場合には、経時的に成分濃度が変化し、ファントムとしての特性が変化する可能性が高い。
なお、音響キャビテーションとは、液体・生体等への超音波照射により生成する、核となる物体から微小な気泡が生成し、超音波振動により成長し、最終的に圧壊する現象である。
上記課題を解決するため、本発明における生体模擬ファントムは、温度上昇により変性し超音波治療効果を模擬する指示剤と、該指示剤と異なる成分であって、超音波照射時にキャビテーションの核となり温度上昇および前記指示剤の変性を補助する変性感度制御剤とを含むことを特徴とする。
本発明による超音波ファントムによれば、超音波照射により光学的に変化が生じる程度と超音波を照射する前の光学的な透明度、さらに超音波照射時にキャビテーション核として働く程度とを独立に制御することが可能であり、従来よりも安定して、超音波治療装置の強度の校正を行うことができる。さらに本発明によるファントムによれば、ファントムを容器から出して直接超音波照射装置に密着させて用いることも可能であり。使用形態の制限が少ない。
本発明の生体模擬ファントム用の変性感度制御剤の効果検証を行った実験系を示す図。 本発明の生体模擬ファントムの効果検証を行った実験系を示す図。 本発明の生体模擬ファントムに収束超音波を照射した後の光学像の一例を示す図。 本発明の生体模擬ファントムを37℃に保温した状態で強度を変化させて集束超音波を照射した際の変性領域の変化の一例を示す図。 本発明の生体模擬ファントムを25℃に保温した状態で強度を変化させて集束超音波を照射した際の変性領域の変化の一例を示す図。 血清アルブミン濃度を変化させて調製した本発明の生体模擬ファントムを37℃に保温した状態で強集束超音波を照射した際の変性領域の違いを示す一例の図。 本発明の超音波ファントムの一実施例の外枠を示す図。 本発明の超音波ファントムの一実施例のファントム本体ゲルを示す図。 本発明の超音波ファントムと組み合わせて用いる超音波治療装置の校正装置の一例を示す図。 本発明の生体模擬ファントム用の変性感度制御剤の効果検証の一例を示す図。
従来の超音波ファントムにおいて、超音波照射時に変性が生じる感度と光学的濁度およびキャビテーション核としての作用を独立して制御することが困難であったのは、Trisや低級アルコールの作用により、超音波を照射することで変性を生じる成分が準安定状態になり感度が向上するものの、この準安定状態が光学的濁度を上昇させ、かつキャビテーション核としての作用を持つためである。さらに、このような既存のファントムにおいては、効果を発現するのにTris等の低分子を用いているために、ゲルの形態を有するファントム内部からのTris等の低分子の流出により前記三つの効果が消失しやすく、経時的安定性に欠けている。
これらの点に鑑み、我々は、Trisに代表される、超音波照射時に変性を生じる成分に直接作用する物質を用いるのではなく、超音波照射時に変性を生じる成分とは別に、変性を生じる成分がTris等の存在により準安定になった状態とほぼ同じ特性の物質を変性感度制御剤として別途ファントムに含ませる方式を考案した。特に従来のファントムと異なり、低分子でなく高分子を用いることにより、経時的安定性に勘案したファントムを実現する。
具体的には、純水および中性付近で分散させた際の波長600nmにおける濁度が、1リットルあたり1グラム分散させた場合に1cmあたり0.001以上0.1以下となる高分子化合物を変性感度制御剤として含み構成される。このような方式を用いることにより、従来のような準安定状態のタンパクを用いることによるファントム全体の濁度が高くなってしまう問題を解決することが可能となる。
検討を行った結果、変性感度制御剤として用いる高分子化合物としては、水への溶解性の低いタンパク、あるいは前処理により水への溶解性を低下させたタンパクが好ましいことがわかった。より具体的には、血清アルブミンよりも水への溶解性の低い卵白アルブミンあるいは乳アルブミン、グロブリン全般がこの目的に合致することがわかった。また、水への溶解性に関わらず、事前に熱処理あるいは超音波処理、あるいは放射線照射を行った水溶性タンパクもこの目的に合致することがわかった。
以下に本発明の試験例および実施例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
まず、変性感度制御剤として用いる物質を探索するため、図1に示す実験系を用いて、物質を水に分散させて超音波を照射した際にキャビテーションを生成する効果を測定した。アクリル製の水槽1に脱気水2を満たし、図示されない水温調整器および温度計によって水温を37℃に保つ。この水槽の中に、サンプル101を水に分散させ厚さ0.03mmのポリエチレン袋に入れた状態でホルダー4により収束超音波トランスデューサ5の焦点位置に固定する。
トランスデューサ5は波形発生器6および信号増幅器7と接続されている。また、サンプル101の位置を確認するために、超音波診断装置8および診断プローブ9が水中に配置されている。さらに、超音波照射によりサンプル101から生成する音響信号を水中マイクロフォン100にて計測し、オシロスコープ102にて保存する。波形発生装置6、超音波診断装置8、およびオシロスコープ102は制御用コンピュータ11と接続されており、波形発生装置6からの超音波照射に同期して水中マイクロフォン100が捉えた音響信号が取り込まれるよう設定されてある。
図10は、サンプルの濃度を波長600nmにおける濁度を指標として変化させ、水中マイクロフォン100が捉えた信号強度をキャビテーション強度の指標として示したものである。サンプルとしては、酸化チタン微粒子、卵アルブミン、乳アルブミン、血中グロブリン、および超音波洗浄機にて2分間処理を行った血清アルブミンを用いた。図より、酸化チタン以外からは音響信号が返ってきておりキャビテーションの核として働くことがわかる。さらに、酸化チタン以外のサンプルにおいては、濁度が0.001以上で効果が得られることがわかる。
さらに、各サンプルを厚さ2cmとなるよう調整し、サンプルの後ろに1cm立方のサイズにカットした鶏胸肉片を配置してその形状が判断できるか確認し、濁度が1cmあたり0.1以下の場合に鶏胸肉片の形状が明瞭に判断可能であることがわかった。
以上の実験事実および本発明における変性指示剤が概ね10%程度の濃度の血清アルブミンであり、変性領域がまだらにならないためには変性感度制御剤の濃度が変性指示剤の10分の1以下であることが望ましいことを勘案すると、変性感度制御剤の濃度は概ね1%程度以下になることが望ましい。このことから、本発明における変性感度制御剤は、波長600nmにおける濁度が、1リットルあたり10グラム分散した際に0.001以上0.1以下であることが望ましいことがわかる。
続いて、血清アルブミンを、温度上昇により変性し超音波治療効果を模擬する変性指示剤とし、卵白アルブミンを、超音波照射時にキャビテーションの核となり温度上昇及び前記指示剤の変性感度を制御する変性感度制御剤として含む生体模擬ファントムを調製し特性評価を行った結果について説明する。
(1)ファントムの調製
以下の作業は全て4℃において行った。牛血清アルブミン15%を含む水溶液86.5mlと卵白アルブミン0.1%を分散させた純水5mlをアクリルアミド40%溶液(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=39:1)25mlとをよく混合し、脱気した後、直方体型容器に流し込む。スターラーにてゆるやかに攪拌しながら、過硫酸アンモウム10%溶液5mlおよびN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン5mlをすばやく添加し、均一に混ざったら、攪拌を停止し、スターラーバーを除去して直方体容器にカバーをして20分間放置する。以上の操作により、ほぼ透明なゲルを調製し生体模擬ファントムとして使用した。また、卵白アルブミンを含まないゲルを調製し、対照ファントムとして使用した。
(2)試験に用いた実験系
以降に示す試験は、図2に示す実験系を用いて行ったものである。アクリル製の水槽1に脱気水2を満たし、図示されない水温調整器および温度計によって水温を37℃あるいは25℃に保つ。この水槽の中に、上述のファントム調製法(1)に従って調製した生体模擬ファントム3あるいは対照ファントムを厚さ0.03mmのポリエチレン袋に入れた状態でホルダー4により収束超音波トランスデューサ5の焦点位置に固定する。トランスデューサ5は波形発生器6および信号増幅器7と接続されている。また、ファントム3の位置を確認するために、超音波診断装置8および診断プローブ9が水中に配置されている。さらに、超音波照射によるファントムの光学的変化を観察するためのカメラ10がファントム3の映像を取得できる位置に配置されている。波形発生装置6、超音波診断装置8、およびカメラ10は制御用コンピュータ11と接続されており、波形発生装置6からの超音波照射に同期してカメラ10の映像が取り込まれるよう設定されてある。
(3)ファントム中の変性領域の算出
以降に示す試験におけるファントム中の変性領域の算出は以下の手順により行った。
(動画からの静止画の切り出し)
・AVI形式で記録された動画の中から超音波照射中の部分を選択し、さらにそれらをグレースケールに変換した後、BMP形式の静止画群に切り出す。
(差分像作成および二値化)
・1)にて得られた各静止画の各ピクセル輝度から、超音波照射の輝度を差し引いた差分像を作成し、さらに、予備検討により求めた閾値よりも高い輝度差分を有するピクセルを白、それ以外のピクセルを黒とする二値化処理を行う。
(回転軸決定)
二値化処理を行った各画像のピクセル値を超音波の照射方向に積算し、最も高い値を示す部位を変性が生じた中心軸とする。
(積分処理)
上記中心軸を中心に、回転対称を仮定して積分処理を行う。なお、あらかじめ求めておいた隣接ピクセル間の画像内での実際の距離(ミリメータ単位)を適用することで、積分処理結果が立法ミリメータ単位となるようにする。
<試験例1>音響強度を変えて超音波を照射した際の効果
まず、上述のゲル調製法(1)に従ってファントムを調製した。図2に示す実験系を用い、37℃に保温した状態で、直径48mm、F数1.0の収束超音波トランスデューサを密着させ音響強度を0から1200W/cm2まで変化させて1.1MHzの超音波を15秒間照射した。超音波照射後ファントムの概観の一例を図3に示す。図3は、上記処理方法(3)−2)により二値化したものである。超音波の焦点部位がフットボール状に白くなっていることが分かる。これが変性領域である。この変性領域を上記処理方法(3)により立法ミリメータ単位で算出し、超音波強度に対する依存性を求めた結果の一例を図4に示す。図中、変性感度制御剤である卵白アルブミンを封入したファントムの結果と変性感度制御剤を有しない対照ファントムの結果とを併せて示してある。図4によれば、変性感度制御剤の効果は顕著である。対照ファントムにおいては、変性が生じない最大強度は600W/cm2であるのに対し、変性促進剤を含む場合には、200W/cm2まで低下している。さらに、変性に必要な強度以上の超音波照射を行うと、いずれの強度においても変性感度制御剤が入っている場合には変性領域が大きくなっており、例えば1200W/cm2の強度においては、約3.5倍の体積が変性している。体積が大きいほど、目視による確認が容易であると共に、定量化を行う際の誤差が小さくなることから、図4より変性感度制御剤を封入したファントムの効果は明らかである。なお、超音波周波数を1〜6 MHzまで変化させて同様の実験を行い、図4と同様に、変性感度制御剤を共存させることで変性に必要な超音波強度を低下させることができ、また、超音波強度が高いほど変性領域が多くなる傾向を示すことがわかった。さらに、変性感度制御剤として乳アルブミン、血中グロブリン、超音波変性血清アルブミンを用いた場合にも同様であった。なお、変性感度制御剤は図10に示す濁度が0.001以上で効果を示すが、ファントムの光学的透明性および変性の均一性の確保のため、濁度が概ね0.1以下となる濃度で使用する。
<試験例2>音響強度を変えて超音波を照射した際の効果(室温での検討)
ファントムの加温を行わない簡便な構成での使用を想定した、室温での検討を行った。まず、上述のゲル調製法(1)に従ってファントムを調製した。図2に示す実験系を用い、25℃に保温した状態で、直径48mm、F数1.0の収束超音波トランスデューサを密着させ音響強度を0から1200W/cm2まで変化させて1.1MHzの超音波を15秒間照射した。変性領域を上記処理方法(3)により立法ミリメータ単位で算出し、超音波強度に対する依存性を求めた結果の一例を図5示す。図中、変性感度制御剤である卵白アルブミンを封入したファントムの結果と変性感度制御剤を有しない対照ファントムの結果、さらには変性感度制御剤を有しない対照ファントムを37℃に加温して実験を行った場合の結果を併せて示してある。
図5によれば、室温(25℃)においても変性感度制御剤の効果は顕著であり、まず、変性に必要な超音波強度が対照ファントム(25℃)の800W/cm2から400W/cm2に有意に低下していることがわかる。さらに、変性に必要な強度以上の超音波照射を行うと、いずれの強度においも変性感度制御剤が入っている場合には変性領域が大きくなっており、例えば1200W/cm2の強度においては、変性感度制御剤が入っていない対照ファントム(25℃)に比べ、約4.5倍大きい体積が変性している。
体積が大きいほど、目視による確認が容易であると共に、定量化を行う際の誤差が小さくなることから、図5より変性感度制御剤を封入したファントムの効果は明らかである。特に、本検討は室温での検討であることから、検証用に水槽を加温する必要がなく、検証用系ならびに検証作業の簡便化を図ることができる。なお、超音波周波数を1〜6 MHzまで変化させて同様の実験を行い、図5と同様に、変性感度制御剤を共存させることで変性に必要な超音波強度を低下させることができ、また、超音波強度が高いほど変性領域が多くなる傾向が見られることがわかった。
さらに、変性感度制御剤として乳アルブミン、血中グロブリン、超音波変性血清アルブミンを用いた場合にも同様であった。なお、変性感度制御剤は図10に示す濁度が0.001以上で効果を示すが、ファントムの光学的透明性および変性の均一性の確保のため、濁度が概ね0.1以下となる濃度で使用する。
<試験例3>指示剤濃度を変えて超音波を照射した際の効果
変性領域の大きさを指示剤の濃度を変化させることで制御可能なことを確認するため、血清アルブミン濃度を変更して上述のファントム調製法(1)に従ってファントムを調製した。図2に示す実験系を用い、このファントムを37℃あるいは25℃に保温した状態で、直径48mm、F数1.0の収束超音波トランスデューサを密着させ音響強度を800W/cm2まで固定し、1.1MHzの超音波を15秒間照射した。変性領域を上記処理方法(3)により立法ミリメータ単位で算出し、ファントム中のアルブミン濃度に対する依存性を求めた結果の一例を図6に示す。
図6によれば、変性促進剤の効果はアルブミン濃度に依存して変化させることがわかる。37℃および25℃いずれの温度においても、アルブミン濃度が高いほど、変性領域は大きくなっている。この結果から、本発明におけるファントムが、模擬したい部位の特性に合わせて変性領域を変化させることが可能であることがわかる。
なお、超音波周波数を1〜6 MHzまで変化させて同様の実験を行い、図6と同様にアルブミン濃度を高くするほど変性領域の大きさが大きくなる効果が確認できた。ささらに、変性感度制御剤として血中グロブリン、超音波変性血清アルブミンを用いた場合にも同様であった。なお、変性感度制御剤は図10に示す濁度が0.001以上で効果を示すが、ファントムの光学的透明性および変性の均一性の確保のため、濁度が概ね0.1以下となる濃度で使用する。
以上の試験により、本発明のおける生体模擬ファントムの有効性が示された。以下、実際に用いる場合の実施例について説明する。
超音波生体作用評価用ファントムの例について説明する。以下、本発明の一実施例について、図7および図8を用いて説明する。図7はファントムの外枠を示す図である。外枠本体14、超音波照射用音響窓15、超音波照射結果観察用窓16、超音波反射防止層17からなる。また、図8はファントム本体の一例を示す図である。気泡混合ファントム18−1、液体混合ファントム18−2、および固体混合ファントム18−3の3成分からなり、それぞれが密着した状態で調製されている。ファントム使用時には、図8に示す外枠の内部にファントムの調製法(1)に従って調製されたファントム本体を封入して用いる。
ファントムとしての使用時は、評価対象となる超音波照射源を超音波照射用音響窓15に密着させ超音波を照射し、超音波照射結果観察用窓16より結果を観察する。超音波照射源と超音波照射用音響窓15とを密着させられない場合、ファントムおよび超音波照射源を水槽に入れて超音波を照射することもできる。また、超音波照射用音響窓16と超音波照射源との間を音響ゼリーなどの音響カップリング剤で満たして照射することもできる。
なお、調製法(1)では均質なファントムが調製されるが、図8に示される外枠に入れて用いるファントムの特性は必ずしも均質である必要はなく、例えば図7に示されるように複数に分け、それぞれ気泡混合ファントム18−1、液体混合ファントム18−2、および固体混合ファントム18−3を用いるといった具合に、生体中の異なる部位を模擬するファントムを同一の枠に入れて用いることもできる。さらに、図7に示される外枠内には、ファントム以外に、ファントムに照射された超音波が照射源に戻ったり反射したりすることを予防するための吸収あるいは散乱体を配置することもできる。
超音波治療装置の校正装置の例について説明する。以下、図9を用いて本発明の一実施例について説明する。本実施例における超音波治療装置の校正装置は、ファントム保持部19、温度調整部20、温度調整制御部21、ファントム撮影部22、装置制御部23、治療装置とのインターフェース部24から構成される。
ファントム保持部9は図7に示されるようなファントムを保持し、超音波を照射できるよう構成されている。温度調整部20は、20℃から40℃の範囲でファントム保持部19内に置かれたファントムの温度を制御できるよう構成されており、温度調整制御部21により制御される。ファントム撮影部22はファントム全体を撮影できるよう構成されており、撮影結果は装置制御部23に転送される。装置制御部23は、温度調整制御部20およびファントム撮影部22の制御を行い、かつファントム撮影部22により撮影されたファントム画像を保持し、2値化、差分、重ね合わせなどの画像処理を行えるよう構成されている。治療装置とのインターフェース部24は、治療装置と接続し、照射する超音波の条件を治療装置から受け取り装置制御部23に転送する機能と超音波照射後のファントムの変性領域および変性中心位置などのファントムに関する情報を装置制御部23から受け取り治療装置に転送する機能を有する。
さらに、あらかじめパラメータを入力しておくことにより、変性領域および変性中心位置が設定された範囲に入っているかどうかに関する情報を治療装置に転送できるよう設定すること、および得られた結果が設定された範囲外で合った場合に警告を発する機能あるいは治療装置の超音波照射を行えなくする機能を有することもできる。
本実施例における校正装置の実施にあたっては、例えば以下のような手順がとられる。まず、治療する患部の診断画像などを元に立てられた治療計画において、治療用超音波の照射位置、各地点での照射時間などの条件が決定される。治療の実施に際して、患部への超音波照射を行う直前に、患部の形態および性状に合わせたファントムを含む本発明における校正装置を用いて、治療と全く同じ条件で超音波照射を行う。変性領域が想定した範囲に入っている場合には治療を開始し、そうでない場合には、治療装置の異常についてメンテナンスを行うこととする。
1 水槽
2 脱気水
3 生体模擬ファントム
4 ホルダー
5 収束超音波トランスデューサ
6 波形発生器
7 信号増幅器
8 超音波診断装置
9 診断プローブ
10 カメラ
11 制御用コンピュータ
14 ファントム外枠本体
15 音波照射用音響窓
16 超音波照射結果観察用窓
17 超音波反射防止層
18 外枠に封入される生体模擬ファントムの例
19 ファントム保持部
20 温度調整部
21 温度調整制御部
22 ファントム撮影部
23 装置制御部
24 治療装置とのインターフェース部
100 水中マイクロフォン
101 キャビテーション生成測定用サンプル
102 オシロスコープ

Claims (3)

  1. 温度上昇により変性し超音波治療効果を模擬する指示剤と、
    前記指示剤と異なる成分から成り、超音波照射時にキャビテーションの核となり温度上
    昇および前記指示剤の変性を補助する変性感度制御剤と、
    を含み、
    前記変性感度制御剤はタンパク質である、ことを特徴とする超音波治療用生体模擬ファ
    ントム。
  2. 前記変性感度制御剤が、波長600nmにおける濁度が、1リットルあたり10グラム
    分散させた場合に1cmあたり0.001以上0.1以下であるタンパクであることを特
    徴とする請求項1に記載の超音波治療用生体模擬ファントム。
  3. 前記変性感度制御剤が卵アルブミン、乳アルブミン、および血中グロブリンの中から選
    ばれたひとつ以上のタンパクであることを特徴とする請求項1に記載の超音波治療用生体
    模擬ファントム。
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