まず、本発明の毛髪処理剤について説明する。本発明の毛髪処理剤は、少なくともアルカリ剤を含有するパーマネントウェーブ第1剤と、少なくとも酸化剤を含有するパーマネントウェーブ第2剤とからなる毛髪処理剤であって、前記還元剤が、毛髪中に存在する−SS−結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤であることを特徴とする。また、当該還元剤としては、毛髪マトリックスタンパク質の保護効果(毛髪からの溶出抑制効果)の高いものを使用することができる。本発明の毛髪処理剤の好ましい実施態様において、前記毛髪処理剤が、パーマネントウェーブ処理剤、又は縮毛矯正処理剤である。まず、処理剤について説明する。本発明においては、前記還元剤として、毛髪中に存在する−SS−結合のコンホメーション変化を生じさせることが可能であれば、特に限定されない。これは、以下の実施例に示されるように、-SS-結合の切断によらずとも、毛髪中に存在する−SS−結合のコンホメーション変化を生じさせることができれば、より毛髪損傷が少ない毛髪処理剤を提供し得ることを本発明者らが見出したことによる。
毛髪中の−SS−結合のコンホメーションとして、以下の3つを挙げることができる。すなわち、1つは、gauche−gauche−gauche(GGG)(以下では、GGGと省略する場合もある。)、2つ目は、gauche−gauche−trans(GGT)(以下では、GGTと省略する場合もある。)、3つ目はtrans−gauche−trans(TGT)(以下では、TGTと省略する場合もある。)である。Goaucheは、ゴーシュ配座を意味し、transは、トランス配座を意味する。例えば、X−A−B−Yというように原子が結合している単結合のA−B回りの立体配座を考えた場合、単結合A−Bの立体配座は、結合X−Aと結合B−Yの二面角で区別される。二面角が、0度のものをシス配座(cis)、180度のものをトランス配座(trans)、60度のものをゴーシュ配座(gauche)という。なお、健常毛において、GGGコンホメーションが多く存在する。−SS−結合がGGGのコンホメーションをとっていると仮定した場合,−SS−結合近傍のポリペプチド鎖間の分子間距離は最も短くなり、このことからも,健常白髪においては、より緻密な構造を有していることがわかる。したがって、―SS−結合が切断されても、再結合の結果、GGGコンホメーションが多く復活することにより、より自然で元の健康な毛髪に近づけることができると考えられる。
本発明において、毛髪中に存在する−SS−結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤としては特に限定されないが、パーマネントウェーブ処理による−SS−結合の還元反応部位、すなわち機能発現部位(ウェーブ形成力、およびウェーブ保持力)に効率的に浸透させ、反応させるという観点から、チオグリセリンを挙げることができる。チオグリセリンは、保湿力の高い還元剤であり、カラーリング料の還元剤としても用いることが可能であるが、以下の実施例に示すように、今回本発明者らは、−SS−結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤として、いくつかの優位点を見出した。
本発明において、チオグリセリンの含有率は、頭皮、毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点、及び毛髪内に存在する−SS−結合と効率的に反応させるという観点から、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜7重量%、より好ましくは0.1〜4重量%とすることができる。また、特に、ダメージ毛用には、好ましい態様において、毛髪損傷を抑制するという観点から、チオグリセリンの含有率は、0.01〜1.8重量%、好ましくは、0.01〜1.2重量%である。
また、本発明においてはアニモニアを含有することができる。アンモニアは、アルカリ剤として毛髪を膨潤にさせるため塩結合に作用し、有効成分の働きを助けることができる。また、アンモニアは揮発性が高いため、毛髪残留性が極めて低く、放置時間中に揮散し、薬剤のpH低下が起こるので、オーバータイムが起こり難いといった利点がある。したがって、比較的パーマネントウェーブがかかりやすい軟毛向き、及び損傷毛向きの処理剤として配合することが可能である。さらに、皮膚への残留性が低いため、施術者の手荒れの心配が少ないといった特徴を有する。本発明においては、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点、及び毛髪損傷を抑制、アンモニア臭の発生を抑制するという観点から、アンモニアの含有率は0.01〜4重量%、より好ましくは0.05〜1重量%とすることができる。
本発明において、従来にはない、チオグリセリンとアンモニアとの組合せは、ウェーブ形成力(カーリング性能の1つ)が著しく向上するという有利な効果を奏する。
パーマネントウェーブ(縮毛矯正)処理剤は、一般にパーマネントウェーブ第1剤とパーマネントウェーブ第2剤とから構成される。パーマネントウェーブ第1剤に配合されている有効成分は、還元剤の他に、pHをアルカリに調整することによって、毛髪を膨潤させ有効成分の毛髪内浸透性に寄与させると共に還元剤の還元力を高めるためのアルカリ剤や、パーマネントウェーブによるダメージからの保護とパーマネントウェーブ後の状態保持のためのコンディショニング剤、毛髪保護剤や、アルカリ剤等の臭いをマスクしたりするための香料や、還元剤の過反応を抑える反応調整剤や、頭皮への刺激を緩和する抗炎症剤や、金属封鎖剤や、界面活性剤などを含有することができる。
一方、パーマネントウェーブ第2剤に配合されている有効成分は、切断された-SS-結合を再結合するための酸化剤であり、他に、pH調整剤や、コンディショニング剤や、金属封鎖剤や、界面活性剤などを含有することができる。
そして本発明の毛髪処理剤に適用可能な、処理剤として以下のようなものを挙げることができる。例えば、医薬部外品としてのパーマネントウェーブ剤には、有効成分や、効能、効果、用法により次の9種類、すなわち、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤、システインの塩類またはアセチルシステインを有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式パーマネントウェーブ剤、システインの塩類またはアセチルシステインを有効成分とする加温ニ浴式パーマネントウェーブ剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールド一浴式パーマネントウェーブ剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするパーマネントウェーブ第1剤用時調製発熱ニ浴式パーマネントウェーブ剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式縮毛矯正剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式縮毛矯正剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とし高温整髪用アイロンを使用する加温ニ浴式縮毛矯正剤等を例示することができる。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤とは、パーマネントウェーブ第1剤に配合されているチオグリコール酸とアルカリで毛髪の-SS-結合を切断し、パーマネントウェーブ第2剤に配合されている臭素酸塩または過酸化水素で-SS-結合を再結合させるものである。パーマネントウェーブ第1剤には、チオグリコール酸が過剰に反応するのを抑制する反応調整剤のジチオジグリコール酸が4重量%まで配合することできる。
システインの塩類またはアセチルシステインを有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤とは、パーマネントウェーブ第1剤に配合されているシステインまたはアセチルシステインとアルカリで毛髪の-SS-結合を切断し、パーマネントウェーブ第2剤に配合されている臭素酸塩または過酸化水素で-SS-結合を再結合させるものである。パーマネントウェーブ第1剤には、安定剤(酸化防止剤)としてチオグリコール酸が1重量%まで配合することができる。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式パーマネントウェーブ剤とは、薬剤に配合される有効成分は、上述のチオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤とほぼ同様であるが、処理時に60℃以下での加温が認められているものである。加温により反応が促進されるので、パーマネントウェーブ第1剤のチオグリコール酸濃度、アルカリ、pHの上限が上記1よりも低く設定されている。
システインの塩類またはアセチルシステインを有効成分とする加温ニ浴式パーマネントウェーブ剤とは、剤に配合される有効成分は、上述のシステインの塩類またはアセチルシステインを有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤とほぼ同様であるが、処理時に60℃以下での加温が認められている。加温により反応が促進されるので、パーマネントウェーブ第1剤のシステイン濃度、アルカリの上限が、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤よりも低く設定されている。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールド一浴式パーマネントウェーブ剤とは、チオタイプのパーマネントウェーブ第1剤のみのパーマ液であり、パーマネントウェーブ第2剤処理は空気酸化により行うタイプのものである。そのため、パーマネントウェーブ第1剤のチオ濃度、pH、アルカリの範囲は狭く上限も低く設定されている。パーマネントウェーブ第2剤処理の必要がないので、処理時間は短いが毛髪への負担は少なくない。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするパーマネントウェーブ第1剤用時調製発熱ニ浴式パーマネントウェーブ剤とは、2種のパーマネントウェーブ第1剤を、使用の直前に混合して毛髪に塗付するタイプのものである。その一方に含まれるチオグリコール酸と他方に含まれる過酸化水素が酸化還元反応して発熱し液温が40℃くらいまで上昇する。過酸化水素に対して過剰のチオグリコール酸が配合されているため、混合後はチオグリコール酸と熱が残ることになり、この熱によりチオグリコール酸の反応性を高めて毛髪に強い作用を与える。パーマネントウェーブ第2剤は、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式パーマネントウェーブ剤と同様である。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式縮毛矯正剤とは、パーマネントウェーブ第1剤、パーマネントウェーブ第2剤の規格値、反応メカニズムは上記1と同様であるが、ウェーブや縮毛を伸ばすという点で全く反対の目的で用いられるタイプのものである。癖毛を伸ばすという目的のため、クリーム状のものが多い。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式縮毛矯正剤とは、パーマネントウェーブ第1剤、パーマネントウェーブ第2剤の規格値、反応メカニズムは上述のチオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式パーマネントウェーブ剤と同様であるが、ウェーブや縮毛を伸ばすという点で、全く反対の目的で用いられるものである。癖毛を伸ばすという目的のため、クリーム状のものが多い。
チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とし高温整髪用アイロンを使用する加温ニ浴式縮毛矯正剤とは、パーマネントウェーブ第1剤、パーマネントウェーブ第2剤の規格値、薬品の反応メカニズムはチオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式パーマネントウェーブ剤と同様であるが、更にアイロンを用いるという点で上述のチオグリコール酸またはその塩類を有効成分とするコールドニ浴式縮毛矯正剤、チオグリコール酸またはその塩類を有効成分とする加温ニ浴式縮毛矯正剤などの縮毛矯正剤と異なるタイプのものである。
本発明はこのような公知の処理剤に適用することも可能である。また、好ましい実施態様において、前記毛髪処理剤が、更に、チオグリコール酸及びその塩類、システイン及びその塩類、システアミン及びその塩類、チオ乳酸及びその塩類、ブチロラクトンチオール、亜硫酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を含有することができる。なお、好ましい態様において、特に、ダメージ毛用の毛髪処理剤としては、更に、チオグリコール酸及びその塩類、システイン及びその塩類、システアミン及びその塩類、チオ乳酸及びその塩類、ブチロラクトンチオール、亜硫酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を、ハイダメージ毛の場合、毛髪損傷が増加するのを防止するという観点から、総重量で2.0重量%以下で含有することができる。
チオグリコール酸は、単独でのpHは酸性であり、アルカリ剤と組み合わせることにより中和された塩類となり、強い還元剤としての効果をもち、膨潤力も強めることができる。チオグリコール酸は、毛髪中に存在する-SS-結合の切断をともないながら、速やかに毛髪内(コルテックス)に浸透する。システインを有効成分とするパーマネントウェーブ剤ではシステインの安定化剤としても配合することができる。チオグリコール酸及びその塩類の含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
システインは、保湿性があり、毛髪中の-SS-結合を切断するチオグリコール酸またはその塩を有効成分とするパーマネントウェーブ剤では保湿剤として配合することができる。分子中にフリーのアミノ基が毛髪表面のマイナスイオンと相互作用するため、健常毛において、システインは毛髪中にほとんど浸透しない。さらに、コルテックス中の-SS-結合は、ほとんど切断されないので、システイン処理した毛髪は、チオグリコール酸で処理した毛髪に比較してヘアダメージが少ない。システイン及びその塩類の含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。なお、システインの塩類として、L−システイン、塩酸L−システイン、DL−システイン、塩酸DL−システインなどが添加可能である。
システアミンは、もともと海外市場において、低pH(pH8.3)条件下で、プロフェッショナル用製品として使用されていたが、感作性が問題になり、米国において2001年頃から、使用されていない。システアミンは、分子量が小さいため、毛髪内浸透性が高く、pH8、当モル濃度下において、チオグリコール酸またはその塩を有効成分とするパーマネントウェーブ剤と同等の強いウェーブ効果が得られる。しかしながら、分子中にアミノ基が存在するため、毛髪、皮膚への残留性が高く、感作性、反応臭、残臭、更にはその後のパーマネント処理に悪影響を及ぼすといった問題点が指摘されている。システアミン及びその塩類の含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
チオ乳酸は、チオグリコール酸とシステインの中間的な還元性を有し、毛髪中の-SS-結合を切断するパーマネントウェーブ剤の有効成分として配合することができる。チオ乳酸の含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
ブチロラクトンチオール(販売名;スピエラ、原料名;2-メルカプト−4−ブタノリド)は、酸性領域(pH=7以下)においてもウェーブ形成が可能であり、毛髪損傷が非常に少ないといった優れた特徴を持つ。その反面、原料臭、反応臭、残臭が強いといった欠点を有しており、香料などを用いたマスキング方法が提案されている。ブチロラクトンチオールの含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%とすることができる。ブチロラクトンチオールの市販品としては、例えば、スピエラ〔昭和電工(株)〕が挙げられる。
亜硫酸ナトリウム(サルファイト)は、還元作用が温和である特徴を持つが、毛髪に対する反応生成物として、ブンテ塩を形成し、毛髪に悪い影響が出るといった場合もある。亜硫酸ナトリウムの含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
その他、本発明の処理剤には、ウェーブ形成力を向上させるという観点から、チオリンゴ酸、メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、亜硫酸、亜硫酸水素、チオ硫酸及びそれらの塩を例示することができ、これらは単独でまたは2種類以上の組み合わせで用いることができる。
また、本発明の毛髪処理剤の好ましい実施態様において、前記毛髪処理剤が、更に、N−アセチルシステインを含有する。N−アセチルシステインも、保湿性があり、毛髪中の-SS-結合を切断するチオグリコール酸またはその塩を有効成分とするウエーブ剤では保湿剤として配合することができる。また、本発明の主成分であるチオグリセンとアンモニアとの組合せにさらに、Nーアセチルシステインを添加した場合、これまで明らかにされていなかったが、パーマネントウェーブ施術後の毛髪のつや感が著しく向上することが見出された。N−アセチルシステインの含有率は、皮膚、及び毛髪への安全性、およびウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
また、好ましい実施態様において、前記毛髪処理剤が、更に、アルギニン、加水分解ケラチン、ヒドロキシプロピルキトサン、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を含有する。
アルギニンは、アルカリ剤として毛髪を膨潤にさせるため塩結合に作用し、有効成分の働きを助けることができる。アルギニンは、リジンなどの塩基性アミノ酸の一つであり、アンモニアやアミノアルコール類と比較した場合、アルカリ剤としての作用は弱く、低臭であり、皮膚刺激も起こし難い。また、アルギニンは、毛髪の細胞膜複合体(CMC)に含有される成分の一つであり、CMC成分としてだけではなく、アルカリ剤として使用することができる。アルギニンの含有率は、単なるアルカリ剤としてだけではなく、毛髪補修効果を期待できるという観点から、0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜2重量%である。
加水分解ケラチンの含有率は、パーマネントウェーブ施術後の毛髪の引っ張り切断強度の低下を抑制し、ウェーブ形成力を向上させるという観点から、0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜2重量%である。加水分解ケラチンの市販品としては、例えば、プロモイスWK、プロモイスWK−L、プロモイスWK−H、プロモイスWK−GB〔以上、(株)成和化成〕などが挙げられ、これらは単独でまたは2種類以上の組み合わせで用いることができる。
ヒドロキシプロピルキトサンの含有率は、毛髪のハリ感、引っ張り切断強度を向上させるという観点から、0.005〜4重量%、より好ましくは0.01〜1重量%である。ヒドロキシプロピルキトサンの市販品としては、例えば、キトフィルマー、キトフィルマー HV、キトフィルマー・10〔以上、一丸ファルコス(株)〕などが挙げられ、これらは単独でまたは2種類以上の組み合わせで用いることができる。
ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムの含有率は、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムが毛髪に浸透しやすいので毛髪補修効果を期待できるという観点から、0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜2重量%である。ジラウロイルグルタミン酸ナトリウムの市販品としては、例えば、ぺリセアL−30〔旭化成ケミカルズ(株)〕が挙げられる。
なお、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンといったアルカリ剤は不揮発性で、残留性が高く、酸化してもPHが変わらず、比較的パーマのかかりにくい健康毛向きとも言われているという観点から、これ以外のアルカリ剤を使用することが好ましい。
本発明において、毛髪処理剤のpHは、その機能が発揮される範囲が一般に6〜10であり、特に限定されるものではないが、毛髪損傷の抑制、及びウェーブ形成力を向上させるという観点から、好ましくは、7.0〜10、より好ましくは、前記毛髪処理剤のpHが、7.4〜9.6の範囲である。
本発明において、卵白加水分解物と、アルカリイオン水を含有してもよい。
また、本発明の毛髪処理剤の好ましい実施態様において、毛髪内に存在するイオン結合を切断し、卵白加水分解物などの有効成分の浸透性を促進させるという観点から、アルカリイオン水が、pH9以上、好ましくは、pH10以上からなる。なお、毛髪処理剤のpHが9.6〜7.4が好ましいとしている一方で、アルカリイオン水がpH10以上が好ましいとすることは、相反するところを狙うように一見みえるが、アルカリイオン水自体は、アルカリイオン濃度が比較的低いため、緩衝能(pHを一定に保つ能力)が弱く、イオン濃度の高いpHの溶液に含有されると、容易にイオン濃度の高いpHに変化する性質を有しているので、特に矛盾を引き起こすものではない。アルカリイオン水は、アルカリ性を示す水で有れば特に限定されることはない。例えば、アルカリイオン水は、アルカリイオン整水器(アルカリイオン生成機ともいう)から作ることが可能であり、電解水の一つでもあるといえる。アルカリイオン水は、あくまでアルカリ性という性質によってその効果を示し、pHがすべての指標であり、pHによってすべてが管理されている。その結果、水道水に含まれる水酸化物、例えば水酸化カルシウムのようなアルカリ金属類の水酸化物がその本質と考える。アルカリイオン水のうち、マイナスの還元電位が、−200mV以上のものを活性水素水と分類する学者等も存在している。例えば、還元水とは、還元性という本質による効果を考えた電気分解法によるものであり、電子を与える性質を与える性質を作る方法で「pH+酸化還元+電子」の3つの管理を行う場合をも含まれる。還元性はまさに電子量であり、電子量の多い水程還元性が高く、この還元性が生体内の電子不足を補い、生体の正常な働きを促す大きな要因となる。
さらに、pH11以上を強電解アルカリ水と呼び、pH13.1が現在最も強い。強アルカリイオン水とは、自然水を電気分解で処理し、特殊な隔膜装置に通電・加圧させて得られた物理的に電子過剰な水である。還元水としては、S−100(商品名、株式会社エー・アイ・システムプロダクト製)が挙げられる。また、S−100(商品名、株式会社エー・アイ・システムプロダクト製)のMSDSシートとしては、例えば、混合物(電解還元イオン水)、含有成分(H20、SiO2、Na2O、Cl、CaO、K、P、Mg)、含有量0.3重量%(H2O:99.7重量%)、原料名称電解還元性イオン水 S−100、比重1.001(20℃)、水素イオン濃度pH12±0.5、酸化還元電位0〜−100mVのような成分のものも存在する。
アルカリイオン水の製法は、例えば、イオン交換膜を塩橋として、電極間を隔てた電気分解によるものを挙げることができる。水溶液に電極を用いて電圧をかけると、陽極では陰イオンが酸化され、陰極では陽イオンが還元される。水道中には様々なイオンが溶解しているが、どのイオンが酸化および還元されるかは、溶存するイオンの酸化還元電位(還元電位)とイオンの濃度とによる。したがって、最終生成物がどのような組成であるかはもともとの水道水の成分に依存する。一般には、陽極では水素が発生し溶液はアルカリ性となる。本発明において使用可能なアルカリイオン水は、上述のものも含まれる。
強アルカリイオン水とは、自然水を電気分解で処理し、特殊な隔膜装置に通電・加圧させて得られた物理的に電子過剰な水である。例えば、強アルカリイオン水が超還元性水であってもよく、毛髪内に存在するイオン結合を切断し、卵白加水分解物などの有効成分の浸透性をより効果的に促進させるという観点から、強アルカリイオン水としては、水素イオン濃度がpH11以上で、酸化還元電位が0mV以下の電解水で、更に浸透圧が100(mOsM)以下の値を示すイオン水を挙げることができる。また、超還元水としては、S−100(商品名、株式会社エー・アイ・システムプロダクト製)が挙げられる。
本発明において、処理剤に添加する卵白加水分解物の配合量は、ウェーブ形成力、ストレート形成力および毛髪の引張切断強度を高める観点、および経済性の観点から、卵白加水分解物の含有率は、組成物の全重量に対して、0.01〜20重量%、より好ましくは0.1〜5重量%とすることができる。また、卵白加水分解物が、(1)パパインを用いて卵白を加水分解し、(2)得られた反応液を65〜75℃まで加熱し、(3)続いて、トリプシン、バチルス属細菌由来プロテアーゼ、アスペルギルス属糸状菌由来プロテアーゼ及びブロメラインからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質加水分解酵素を用いて加水分解を行い、(4)さらにペプチダーゼを用いて加水分解を行うことにより得られたものであることが好ましい。また、その際、酵素活性を失活させるという観点から、卵白加水分解物が、工程(4)で得られた反応液を75〜120℃まで加熱した後、不溶性成分を除去して得られたものであることが好ましい。
また前記卵白加水分解物が、アミノ酸組成分析によるシステイン含量が4.5質量%以上を示すものが好ましい。また、分子量の小さい成分が多くなることによって、水への溶解性が向上し、加熱による変性、又は凝集が起こりにくくなるという観点から、前記卵白加水分解物が、ゲル濾過クロマトグラフィーによる分子量分布分析において、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸の合計を示す全面積に対する、分子量50〜10、000の範囲にある面積の比が60%以上になるものが好ましい。また、水への溶解性が高く、製剤化し易いという観点から、前記卵白加水分解物が、20℃での水に対する溶解度が1w/v%以上を示すものであることが好ましい。また、卵白は、鶏卵の乾燥卵白であることが好ましい。また、卵白加水分解物以外の蛋白加水分解物(ケラチン、シルク、コラーゲン、小麦、大豆由来など)と併用してもよい。
本発明において、卵白加水分解物は、化粧品的に許容可能な媒体に配されることができる。その目的のために、従来から使用されている一又は複数の溶媒は、水、C1−C6アルコール類、ベンジルアルコール、C2−C6エーテル、及びC2−C6エステルを挙げることができる。
好ましくは、アルコール類は、アルカノール類、アルカンジオール類およびベンジルアルコールから選択される。使用され得るアルカノール類としては、エタノール、プロパノール、又はイソプロパノールを挙げることができる。使用され得るアルカンジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール及びペンタンジオールを挙げることができる。例えば、溶媒は水/アルコールの混合物であってもよい。
本発明によるパーマネントウェーブ剤の主成分は上記の通りであるが、下記の添加物等を適宜必要に応じて加えてもよい。
また、アルカリ剤として、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1、3−プロパンジオールなどのアミノアルコール類や、L−アルギニンなどの塩基性アミノ酸や、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩や、水酸化ナトリウムなどの苛性アルカリや、モルホリン、尿素、チオ尿素、ヒドロキシウレアなどが添加可能である。また、本発明の効果を損ねない範囲であれば、還元反応防止剤として働く、ジチオジグリコール酸などを配合することも可能である。添加方法については、常法による。
他に、水、油性成分(例えば、スフィンゴ脂質、セラミド、コレステロール誘導体、リン脂質等)、植物油(例えば、オリーブ油、大豆油、マカデミアナッツ油等)、ロウ類(例えば、ホホバ油、カルナバロウ、セラック、ミツロウ等)、炭化水素(例えば、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等)、高級脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等)、アルコール類(例えば、セタノール、イソステアリルアルコール、コレステロール、フィトステロール等)、エステル類(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、オレイン酸オクチルドデシル、トリイソステアリン酸グリセリル、乳酸セチル等)、シリコーン類(例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、環状ジメチルシリコーン、アルコール変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等)、アミノ酸類(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性アミノ酸及びグリシン、セリン、メチオニンなどの中性アミノ酸等)、PPT類(例えば、加水分解シルク、加水分解小麦、加水分解大豆、加水分解コラーゲン、加水分解ケラチン、シリル化加水分解シルク、シリル化加水分解小麦、シリル化加水分解大豆、シリル化加水分解コラーゲン、シリル化加水分解ケラチン等)、糖類(例えば、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、マルトース、トレハロース等)、天然高分子類(例えば、アルギン酸、コンニャクマンナン、アラビアガム、キトサン、ヒアルロン酸、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガム等)、合成高分子(例えば、アニオン性高分子、カチオン性高分子、非イオン性高分子、両性高分子)、アニオン界面活性剤(例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルグルタミン酸、N−アシルメチルタウリン塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテル硫酸塩等)、カチオン界面活性剤(例えば、アルキルアミン塩、脂肪酸アミドアミン塩、アルキル4級アンモニウム塩等)、両性界面活性剤(例えば、グリシン型両性界面活性剤、アミノプロピオン酸型両性界面活性剤、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、染料(例えば、タール色素、天然色素等)、植物エキス(例えば、カミツレエキス、コンフリーエキス、セージエキス、ローズマリーエキス等)、ビタミン類(例えば、L−アスコルビン酸、DL−α−トコフェロール、D−パンテノール等)、紫外線吸収剤(例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2−エトキシエチル等)、防腐剤(例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラベン、フェノキシエタノール等)、酸化防止剤(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等)、金属イオン封鎖剤、(例えば、エデト酸塩、ポリリン酸ナトリウム、フィチン酸等)、pH調整剤(例えば、クエン酸、乳酸、リン酸、水酸化ナトリウム、アンモニア、アミノメチルプロパノール等)、溶剤(例えば、エタノールイソプロパノール、ベンジルアルコール等)、噴射剤(例えば、LPG、ジメチルエーテル、窒素ガス等)、香料などの従来公知の化粧品成分を配合することができる。添加方法については、常法による。
なお、本発明によるパーマネントウェーブ剤は、第1剤、第2剤ともに通常の方法に従い、液状、ジェル状、ミルク状、クリーム状、ムース状、エアゾール形態などの剤形として提供することができる。
また、本発明の毛髪処理方法は、上記本発明の毛髪処理剤を用いたことを特徴とする。また、本発明の毛髪処理方法の好ましい実施態様において、前記毛髪処理が、パーマネントウェーブ処理又は縮毛矯正処理であることを特徴とする。
また、本発明の毛髪処理方法の好ましい実施態様において、前処理として、アルカリ還元水を含有する前処理剤を適用した後に、上述の本発明の毛髪処理剤を適用することを特徴とする。
本発明の毛髪処理方法について説明すると、以下のようである。すなわち、上記のような成分を含むパーマネントウェーブ(毛髪処理剤)第1剤は通常のパーマネントウェーブ第1剤と同様に毛髪に塗布し、5〜30分程度放置して毛髪を軟化させる。パーマネントウェーブ第1剤の塗布は、毛髪をロッドに巻きつける前でも、毛髪をロッドに巻き付けた後にでも行うことができ、また、毛髪をロッドに巻き付ける前後の2回塗布してもよい。パーマネントウェーブ第1剤の塗布後の放置時間は、毛髪のダメージ度、髪質、用いる薬剤の作用の強弱等により従来のパーマネントウェーブ第1剤処理の放置時間と同様に適宜調整する。このとき、好ましい態様において、前処理として、アルカリ還元水を含有する前処理剤を適用した後に、上述の本発明の毛髪処理剤を適用してもよい。
次いで、第1処理後の毛髪を水洗し、風乾により毛髪を乾燥させる。水洗は、従来と同様に一般的な水洗で行うことができる。風乾は、毛髪を巻きつけたロッドの内側から吸気を行い、ロッド及びそれに巻かれた毛髪に対して外気を通過させて乾燥させる方法や、毛髪を巻きつけたロッドの外周から風を供給して乾燥させる方法や、毛髪を巻きつけたロッドの内部から外部に向かって風を拡散させて乾燥させる方法など従来公知の方法が利用できる。風乾での毛髪に供給する風の温度は、60℃以下、より好ましくは45℃前後である。
水洗及び風乾により、毛髪内では水素結合が開鎖している状態になる。この状態となった後にパーマネントウェーブ第2剤によって処理を行うと、風乾によって乾燥された時のロッドに巻かれたウェーブ状態が毛髪に記憶されることになる。水洗乾燥後の毛髪に、酸化剤を含むパーマネントウェーブ第2剤を塗布し、放置した後にロッドアウトし、次いで水洗する。このようなパーマネントウェーブ第2剤に用いられる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどが挙げられる。酸化剤の配合量としては、過酸化水素では0.5〜3.0重量%、臭素酸ナトリウムでは2〜10重量%である。また、放置時間は、過酸化水素を配合した場合では3〜8分、臭素酸ナトリウムでは8〜15分である。放置時間が短いと酸化処理が不充分でウェーブ形成が不十分となりやすく、放置時間が長すぎると毛髪が損傷する危険がある。パーマネントウェーブ第2剤処理を終えた後に、ロッドアウトし、水洗を行い、残留するパーマネントウェーブ第2剤処理を十分に除去する。この際、トリートメント剤を併用してもよい。また、水洗後には、乾燥、整髪料などによる毛髪のセットなどのパーマネントウェーブ処理に伴う一般的な処理を行う。
以上、本発明の毛髪処理剤を用いた毛髪処理方法を、主としてパーマネントウェーブ処理剤の場合を例に説明したが、毛髪処理剤を、縮毛矯正処理剤として使用してもよい。縮毛矯正処理剤として使用する場合の毛髪処理方法は、本発明の毛髪処理剤を使用することを除き、常法に従い、毛髪処理を施すことができる。
ここで、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
実施例1〜3
本実施例においては、毛髪中の-SS-結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤の使用の有効性を調べるため、種々の毛髪処理剤を作成して、試験を行った。
1. 実験方法
1.1 試料と試薬
毛髪試料として、中国人白髪毛束と黒髪毛束(化学処理を受けていないもの)を使用した。還元剤として、チオグリセリン(チオグリセロール:TGR)、L−システイン(CYS)を、アルカリ剤として、25重量%アンモニア水(NH3)を使用した。
1.2 損傷毛の作製
市販黒髪毛束に対して、ブリーチ剤(株式会社マンダム製、商品名:ギャツビーEXハイブリーチ)を2倍重量塗布した後、室温下で30分間放置することにより、ブリーチ処理を行い、次いで、ヘアドライヤーで毛束を乾燥させる操作を1サイクルとして、5サイクル行うことにより、ハイダメージ毛を作製した。
1.3 還元剤処理毛髪毛束の作製方法
上記毛髪試料をアンモニア水、を用いて予めpH9.0に調整した各還元剤水溶液(各種還元剤評価系を参照)中に5〜15分間、25℃で浸漬させた(還元処理)。次いで、0.2 Mのヨードアセトアミド水溶液処理を行うことにより、還元剤処理によって発生したチオール(−SH)基を封鎖した。その後、蒸留水で1分間水洗し、風乾することにより、各種還元剤処理毛髪毛束を作製した。
さらに、上記毛髪試料を還元処理した後、6重量%臭素酸ナトリウムで10〜15分間、25℃で浸漬させた(酸化処理)その後、蒸留水で1分間水洗し、風乾することにより、各種還元酸化処理毛髪毛束を作製した。
1.4 ラマンスペクトルの測定
上記で得られた毛髪試料又はハイダメージ毛をエポキシ樹脂で包埋し、HM360 ミクロトームを用いて毛髪断面試料を作製し、Ramaonor
T-64000(Jobin Yvon、Longjumeau、France)ラマンマイクロスコープを用いて、毛髪内部(毛髪表面からの深さ:3〜30μm)方向に対するラマンスペクトルを測定した。各毛髪試料について、510 cm−1に観測されるS−Sバンドの(S−S)の面積強度を、1450 cm−1に観測されるC−Hバンド(C−H)の面積強度で除することにより、毛髪内部のジスルフィド結合量を算出した。そして、各試料のコルテックス領域における−SS−結合量が一定であると仮定し、コルテックス領域における−SS−結合量の平均値と標準偏差を、コルテックス領域の6点(毛髪表面から3、5、10、15、20、30μmの距離)の測定値から算出し、有意差検定を行った。
<各毛髪試料の作製方法(いずれも浴比1:250)>
(1)7.04重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、5分 (白髪健常毛に対して)
→ 6重量%臭素酸Na処理、10分
(7.04重量%チオグリセリンをアンモニア調整によって、pH9.0へ調整して、25℃、5分間処理した後6重量%臭素酸Na処理を、10分間行ったという意味である。以下も同様。)
(2)1.8重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、15分 (ハイダメージ毛に対して)
→ 6重量%臭素酸Na処理、15分
(3)1.19重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、10分 (ハイダメージ毛に対して)
→ 6重量%臭素酸Na処理、15分
(4)0.06重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、10分 (ハイダメージ毛に対して)
→ 6重量%臭素酸Na処理、15分
(5)4.00重量%L-システイン(アンモニア調整pH9.0)25℃、15分 (ハイダメージ毛に対して)
→ 6重量%臭素酸Na処理、15分
2. 結果と考察
2.1 チオグリセリン処理における−SS−コンホメーション変化(健常白髪毛による評価)
図1は、各毛髪試料のラマンスペクトル(毛髪表面から5 μmの部位)を示す。図1中、1は白髪健常毛(Control)、2は、7.04重量%チオグリセリン(pH9.0;アンモニア水で調整)処理した後、ヨードアセトアミド処理したもの、3は7.04重量%チオグリセリン(以下、TGRともいう。(pH9.0;アンモニア水で調整))処理した後、6.0重量%臭素酸ナトリウム処理したもの、4は、7.04重量%チオグリセリン(pH9.0;MEAで調整)処理した後、ヨードアセトアミド処理したもの、5は7.04重量%チオグリセリン(pH9.0;MEAで調整)処理した後、6.0重量%臭素酸ナトリウム処理したものを、それぞれ示す。
その結果、健常毛に対して、7.04重量%のチオグリセリン処理(アルカリ剤:アンモニア水系、モノエタノールアミン(MEA)系)を行った場合、−SS−結合のコンホメーション変化(GGG(+GGT)→TGT)をともないながら、−SS−結合の切断が生じることが見出された(図1参照。試料2、4参照、550 cm−1付近にTGTピークが新たに出現。)。さらに、TGR処理後、酸化処理を行った場合、−SS−結合の減少も発生せず、もとの安定な−SS−コンホメーション(GGG(+GGT))に戻る(可逆性がある)ことを発見した(図1参照。試料3、5)。また、この時(試料1)の−SS−再結合率(一度切断された−SS−結合が、再結合する割合;高いほどダメージが少ないことを示している)は、100%であった。
図2は、白髪健常毛のSSバンド領域(毛髪表面から10 μmの部位)を示す図である。この図から、TGTピークはほとんど存在しないことが分かる。健常毛の−SS−結合のコンホメーションは、主にGGG(+GGT)から構成されており、TGTはほとんど存在しない(図2参照)。
図3は、7.04重量%チオグリセリン処理白髪健常毛のSSバンド領域(毛髪表面から10 μmの部位)を示す図である。550 cm−1付近にTGTピークが出現するのが分かる。処理方法としては、7.04重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、5分処理した後、水洗し、0.2Mヨードアセトアミド(50℃、30分)処理した後、水洗し、乾燥させている。TGR処理を行うと、GGG(+GGT)ピークが減少すると同時に、TGTピークが新たに出現する(図3、550cm−1付近のピーク)(−SS−結合のコンホメーション変化)。
図4は 7.04重量%チオグリセリン処理後、酸化処理した白髪健常毛のSSバンド領域(毛髪表面から10μmの部位)を示す。550 cm−1付近に出現したTGTピークが消滅しているのが分かる。このときの処理方法としては、7.04重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、5分処理後、水洗し、6重量%臭素酸Na処理10分後、水洗し、乾燥させるというものである。さらに、TGR処理後、酸化処理を行った場合、−SS−結合の減少も発生せず、もとの安定な−SS−コンホメーションGGG(+GGT)の状態に戻る(可逆性有り)(図4)ことが判明した。なお、−SS−結合の3つのコンホメーションとしては、主として、(1)gauche−gauche−gauche(GGG)、(2)gauche−gauche−trans(GGT)、(3)trans−gauche−trans(TGT)を挙げることができる。
2.2 各種還元剤条件による−SS−結合の切断と再結合(ハイダメージ毛による評価)
次に、各種還元剤条件による-SS-結合の切断と再結合について調べた。
一例として、ハイダメージ毛のラマンスペクトルを図5に、4重量% L-システイン処理したハイダメージ毛のラマンスペクトルを図6に、4重量%L-システイン処理後、酸化処理したハイダメージ毛のラマンスペクトルを図7にそれぞれ示した。図6は、4.00重量%L-システイン処理したハイダメージ毛のSSバンド領域(比較例1)(毛髪表面から10 μmの部位)を示す。毛髪処理としては、4.00重量%L-システインをアンモニア調整によって、pH9.0へ調整し、25℃、15分間処理した後、水洗し、その後、0.2Mヨードアセトアミド処理し、水洗し、乾燥する方法を用いた。図7は、4.00重量%L-システイン処理後、酸化処理したハイダメージ毛のSSバンド領域(比較例1)を示す(毛髪表面から10μmの部位)。処理方法としては、4.00重量%L-システインをアンモニア調整により、pH9.0へ調整し、25℃、15分間処理したのち、水洗して、次いで、6重量%臭素酸Na処理を、10分間行い、水洗し、乾燥する方法を用いた。
その結果、ハイダメージ毛を4重量%L-システイン処理した場合、−SS−結合量(GGG+GGT)が減少するが、後に酸化処理しても、−SS−結合量(GGG)は、処理前の量まで回復していないことが判明した。表1に各還元剤処理によるハイダメージ毛中の−SS−切断率と−SS−再結合率を示した。
ここで、−SS−切断率と−SS−再結合率は、GGG、GGT、TGTを含めたすべてのSSバンド面積強度の値から算出した。また、−SS−結合の切断率と再結合率の算出式を下記に示した。
<−SS−切断率;−SS−結合が切断される割合>
−SS−切断率(%)=100(1−S1/C0)
SSバンド領域の面積強度;GGG、GGT、TGTを含めたSSバンド領域すべての面積強度
S1:還元処理後のSSバンド面積/CHバンド面積(例えば図6の場合、S1 = 0.111)
C0:未処理毛のSSバンド面積/CHバンド面積(例えば図5の場合、C0 = 0.184)
<−SS−再結合率;一度切断された−SS−結合が、再結合する割合(高いほどダメージが少ないことを示している)>
−SS−再結合率(%)=100(S2−S1/C0−S1)
S2:還元酸化処理後のSSバンド面積/CHバンド面積(例えば図7の場合、S2 = 0.159)
その結果、4.0重量%L−システインの場合(比較例1)、還元剤濃度が高いにもかかわらず、−SS−切断率と−SS−再結合率が低いことがわかる。一方、1.8重量%チオグリセリン(実施例1)の場合、還元剤濃度が低いにもかかわらず、−SS−切断率と−SS−再結合率ともに高いことがわかる。さらにチオグリセリン配合濃度を低くした場合、−SS−再結合率は90%以上になることがわかり、このことは、毛髪からのマトリックスタンパク質(IFAP)の溶出が極めて少なくなることを示唆している。また、毛髪ダメージに直結する−SS−結合の切断率がチオグリセリン濃度1.2重量%以下(実施例2、3)で大幅に減少することがわかる。このように、1.8重量%以下のチオグリセリンを使用した場合、マトリックスタンパク質(−SS−結合が31.4%存在)の溶出が抑制されるので、毛先部分の毛髪ダメージが極めて少ないだけではなく、混合毛(健常毛とダメージ毛が混在した毛髪)においても、均一(均質)なウェーブ形成が可能となることを明らかにし、本発明を完成させた。
今回、ラマン分光法を用いて、原因究明を行った結果、ハイダメージ毛に対して、L-システイン(一般的にダメージ毛髪用の還元剤として使用されている)を還元剤とするパーマネントウェーブ処理を行った場合、毛髪から−SS−結合を多く含むマトリックスタンパク質が著しく溶出し、最終的に毛髪に存在する−SS−結合のうち、約34%以上が減少することが判明した。
また、今回の試験の結果から、パーマネントウェーブ処理における還元反応部位が、マトリックスタンパク質(IFAP)であることが判明した。したがって、毛髪コルテックスから、マトリックスタンパク質が溶出してしまうと、パーマネントウェーブの性能(ウェーブ形成力、およびウェーブ保持力)に大きく影響してしまうが、本発明においては、毛髪中に存在する-SS-結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤、例えば、チオグリセリンが、マトリクスタンパク質を保護することが判明し、非常に重要な役割を演じることが明らかとなった。すなわち、ハイダメージ毛に対して、チオグリセリン処理を用いたパーマネントウェーブ処理を行った場合、−SS−結合のコンホメーション変化を伴いながら、ウェーブ形成が促進されるので、毛髪コルテックス領域からのマトリックスタンパク質(IFAP)の溶出が抑制(保護効果)される。つまり、マトリックスタンパク質(IFAP)が毛髪から溶出せずに、毛髪中に残存しているため、ハイダメージ毛に対して、チオグリセリン処理を行った場合、-SS-再結合率が79%〜93%と高い値を示したものと判断することができる。
実施例4
次に、毛髪中に存在する-SS-結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤として、チオグリセリンを用いて、さらに、他の成分として、システインを併用して、相乗効果を調べた。
1. 実験方法
1.1 試料と試薬
毛髪試料として、中国人白髪毛束(化学処理を行っていない毛髪)を使用した。還元剤として、チオグリセリン(チオグリセロール:TGR)、L−システイン(CYS)を、アルカリ剤として、25重量%アンモニア水(NH3)とモノエタノールアミン(MEA)を使用した。
1.2 還元剤処理毛髪毛束の作製方法
上記毛髪試料を、アンモニア水により予めpH 9.0に調整した各還元剤水溶液(各種還元剤の浸透性評価系を参照)中に15分間、25℃で浸漬(浴比1:13)させた。その後、蒸留水で1分間水洗し、風乾することにより、各種還元剤処理毛髪毛束を作製した。
1.3 顕微分光光度法
上記毛髪試料を,PVA樹脂を用いて凍結包埋した後、ミクロトームを用いて、毛髪断面試料(切片厚:10μm)を作製した。そして、顕微鏡観察用試料をスライドガラス上にのせ、0.005 wt 重量%メチレンブルー溶液で還元剤導入部分を染色(室温、1分間)させ、光学顕微鏡観察を行った。
<各種還元剤の浸透性評価系(浴比1:13)>
7.87重量%L-システイン(アンモニア調整pH9.0)25℃、15分(図8)
7.11重量%L-システイン+0.703重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、15分(図9)
6.3重量%L-システイン+1.406重量%チオグリセリン(アンモニア調整pH9.0)25℃、15分(図10)
2. 結果と考察
2.1 チオグリセリンと他の還元剤との相乗効果
図8→図9→図10を参照すると明らかなように、CYS(システイン)にTGR(チオグリセリン)を添加することにより、毛髪内浸透性が向上していることがわかる。図では読み取りにくいが、図8から図10にかけて、段階的に、染色の程度が濃くなっており、浸透生が向上していることが分かる。界面もなく良好に浸透している様子が分かる。しかも、非常に少量のTGRを添加しただけであるのに、顕著な相乗効果が観察された。したがって、単に還元剤の添加量のために、拡散パターンが現れたのではなく、何らかの相乗効果で、還元剤の浸透性がアンモニア系において顕著に向上することが分かった。すなわち、毛髪中に存在する−SS−結合のコンホメーション変化を生じさせる還元剤であるチオグリセリンの少量添加であるにもかかわらず、L−システインの毛髪浸透性を向上させて、その結果、ウエーブ効率を向上させるという有利な効果を奏することが判明した。