しかしながら、基板材料により表面状態が異なるため、表面酸化や表面に対する不純物の吸着、付着のしやすさは異なる。それゆえ、特開2010−163307号公報に記載の方法を炭化珪素基板に適用したとしても、表面が安定化された炭化珪素基板を得ることは困難である。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、表面が安定化された炭化珪素基板、当該基板を用いた半導体装置、およびこれらの製造方法を提供することである。
本発明者は、炭化珪素基板の表面状態と当該基板を用いた半導体装置の特性との関係について検討を行なった。その結果、半導体装置の特性は、エピタキシャル成長層が形成されるべき炭化珪素基板の主面における不純物元素の存在に影響されることが明らかとなった。さらに、不純物元素の種類によっても半導体装置の特性に差があるとの知見も得られた。
具体的には、炭化珪素基板の表面に不純物が多いと、基板との格子整合が妨げられるためエピタキシャル成長が阻害される。また、雰囲気の酸素により炭化珪素基板の表面に自然酸化膜が形成されると、基板に格子整合して成長するエピタキシャル層の品質が劣化する。さらに、炭化珪素基板の表面には、雰囲気からの不純物としてシリコン(Si)が付着しやすい。シリコンが増加すると、炭化珪素基板とエピタキシャル層との界面にパイルアップ層が形成され界面の抵抗が減少する。界面の抵抗が減少すると、電流が基板の方へリークしてしまうため半導体装置の特性が劣化する。特にリーク電流による半導体装置特性の劣化は、横型半導体装置においてより顕著になる。
本発明者は鋭意研究の結果、以下の知見を得た。炭化珪素基板の表面に一定量の硫黄原子および不純物としての炭素原子が存在することで、表面の酸化や不純物の増加を抑制することにより、当該表面上に形成されるエピタキシャル層の品質劣化を抑制することができる。また、炭化珪素基板の表面に一定量の硫黄原子および不純物としての炭素原子が存在することで、不純物としてシリコンが炭化珪素基板の表面に付着することが抑制される。そのため、炭化珪素基板とエピタキシャル層との界面における抵抗の減少を抑制することができる。結果として、当該炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置の歩留まりを向上することができる。
以上のように、炭化珪素基板の表面に一定量の硫黄原子および不純物としての炭素原子が存在することで、炭化珪素基板の表面が安定化され、当該基板を用いて形成された半導体装置の歩留まりを向上可能であることが明らかとなった。
本発明に係る炭化珪素基板は、第1の主面と、第1の主面と対向する第2の主面とを有している。第1の主面および第2の主面の少なくとも一方の主面を含む領域が単結晶炭化珪素からなる。一方の主面には、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する。
本発明に係る炭化珪素基板によれば、一方の表面の硫黄原子の存在割合が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下であって、不純物としての炭素原子の存在割合は3at%以上25at%以下である。硫黄原子の存在割合が60×1010atoms/cm2以上であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は3at%以上であることにより、炭化珪素基板の表面が安定化される。また、硫黄原子の存在割合が2000×1010atoms/cm2以下であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は25at%以下であるので、基板との格子整合が妨げられることでエピタキシャル成長が阻害されることを抑制することができる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
なお、炭化珪素基板の主面における硫黄原子の存在割合は、たとえばTXRF(TOTAL Reflection X‐Ray Fluorescence;全反射蛍光X線分析)などにより測定することができる。また、炭化珪素基板の主面における炭素原子の存在割合は、AES(Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光分析)、XPS(X‐ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光)などにより測定することができる。これらの分析方法による測定によれば、主面から5nm程度の深さまでの領域における情報に基づいて不純物元素の存在割合が測定される。すなわち、本願において、炭化珪素基板の主面における元素の存在割合は、当該主面から5nm程度の深さまでの領域における元素の存在割合を意味する。なお、XPSは結合エネルギーを評価することから、炭化珪素を構成する炭素と、表面に付着した有機物等に含まれる炭素、すなわち不純物としての炭素とを分離して評価することができる。具体的には、XPSスペクトルでのピークシフト(ケミカルシフト)を観測することにより、281〜283eV付近に検出される炭素はSi−Cの炭素であると判断し、284〜293eV付近に検出される炭素は基板の表面に付着した不純物の炭素であると判断する。
不純物としての炭素原子とは、たとえば炭化珪素基板に不純物として付着した炭素原子のことである。別の言い方をすれば、不純物としての炭素原子とは、炭化珪素結合を有しない炭素原子のことである。不純物としての炭素原子としては、たとえばC−C、C−H、C=C、C−OH、O=C−OHなどの結合状態の炭素原子が挙げられる。
上記の炭化珪素基板において好ましくは、一方の主面に存在する塩素原子は3000×1010atoms/cm2以下である。これにより、エピタキシャル成長層の品質低下を抑制できる。また、炭化珪素基板の表面が安定化される。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
なお、炭化珪素基板の主面における塩素原子の存在割合は、たとえばTXRFなどにより測定することができる。
上記の炭化珪素基板において好ましくは、一方の主面に存在する酸素原子は3at%以上30at%以下である。酸素原子の存在割合が3at%以上であることにより、炭化珪素基板の表面が安定化される。また、酸素原子の存在割合が30at%以下であることにより、エピタキシャル成長層の品質低下を抑制できる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
なお、炭化珪素基板の主面における酸素原子の存在割合は、AES、XPSなどにより測定することができる。
上記の炭化珪素基板において好ましくは、一方の主面に存在する金属不純物は4000×1010atoms/cm2以下である。これにより、エピタキシャル成長層の品質低下を抑制できる。また、炭化珪素基板の表面が安定化される。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
なお、炭化珪素基板の主面における金属不純物の存在割合は、たとえばTXRFなどにより測定することができる。
上記の炭化珪素基板において好ましくは、一方の主面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さRq(日本工業規格;JIS参照)で評価した場合0.5nm以下である。これにより、当該一方の主面上に良質なエピタキシャル成長層を形成することが容易となる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
なお、主面の表面粗さは、たとえばAFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)、光干渉式粗さ計、触針式粗さ計などにより測定することができる。
上記の炭化珪素基板において、直径が110mm以上であることが好ましい。このような大口径基板を用いた半導体装置の製造工程において半導体装置の製造効率を向上させ、製造コストを抑制することができる。
上記の炭化珪素基板において、直径が125mm以上300mm以下であることが好ましい。生産性向上の観点から直径125mm以上程度の大面積の基板が望まれる。直径が300mmを超えると、表面不純物の面内分布が大きくなる。また、基板の反りを抑えるために高度な制御が必要になってくる。それゆえ、炭化珪素基板の直径は300mm以下であることが望ましい。
上記の炭化珪素基板において好ましくは、単結晶炭化珪素は4H構造を有する。単結晶炭化珪素の{0001}面に対する一方の主面のオフ角は0.1°以上10°以下である。
六方晶炭化珪素である4H構造の炭化珪素は、<0001>方向に成長させることにより、効率よく成長させることができる。そして、<0001>方向に成長させた結晶からは、{0001}面に対するオフ角が小さい、具体的にはオフ角が10°以下の基板を効率よく作製することができる。一方、上記一方の主面に{0001}面に対して0.1°以上のオフ角を付与することにより、良好なエピタキシャル成長の実施が容易となる。
上記の炭化珪素基板において好ましくは、単結晶炭化珪素は4H構造を有する。単結晶炭化珪素の{03−38}面に対する一方の主面のオフ角は4°以下である。
これにより、当該基板を用いて製造される半導体装置の漏れ電流の抑制、チャネル移動度の向上などを達成することが容易となる。
上記の炭化珪素基板において、ベース層と、ベース層上に形成された単結晶炭化珪素層とを有する。一方の主面は、単結晶炭化珪素層の、ベース層の側とは反対側の表面である。
このようにすることにより、たとえばベース層として安価なベース基板、具体的には欠陥密度の大きい単結晶炭化珪素からなる基板や多結晶炭化珪素基板、あるいはセラミックスからなるベース基板を準備し、このベース基板上に良質な炭化珪素単結晶からなる基板を配置することにより、炭化珪素基板を比較的安価に製造することができる。特に、炭化珪素基板は大口径化が困難であるため、たとえばベース基板上に良質であるものの大きさが小さい単結晶炭化珪素基板を平面的に見て複数並べて配置し、ベース層上に単結晶炭化珪素層がベース層の主面に沿って複数並べて配置された炭化珪素基板を作製することにより、安価で、かつ大口径の炭化珪素基板を得ることができる。
本発明に係る半導体装置は、炭化珪素基板と、エピタキシャル成長層と、電極とを有する。炭化珪素基板は、第1の主面と、第1の主面と対向する第2の主面とを有する。炭化珪素基板は、第1の主面および第2の主面の少なくとも一方の主面を含む領域が単結晶炭化珪素からなり、一方の主面には、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、かつ不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する。エピタキシャル成長層は、炭化珪素基板の一方の主面上に形成されている。電極は、エピタキシャル成長層上に形成されている。
本発明に係る半導体装置によれば、硫黄原子の存在割合が60×1010atoms/cm2以上であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は3at%以上であることにより、炭化珪素基板の表面が安定化される。また、硫黄原子の存在割合が2000×1010atoms/cm2以下であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は25at%以下であるので、基板との格子整合が妨げられることでエピタキシャル成長が阻害されることを抑制することができる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることができる。
本発明に係る炭化珪素基板の製造方向は以下の工程を有する。単結晶炭化珪素の結晶が準備される。結晶を切断することにより、第1の主面と、第1の主面と対向する第2の主面とを有する基板が得られる。第1の主面および第2の主面の少なくとも一方の主面が平坦化される。平坦化された基板の表面が仕上げ処理される。基板の表面を仕上げ処理する工程では、一方の主面に、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在するように一方の主面における硫黄原子および不純物としての炭素原子の存在割合が調整される。
本発明に係る炭化珪素基板の製造方法によれば、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
本発明に係る半導体装置の製造方法は以下の工程を有する。第1の主面と、第1の主面と対向する第2の主面とを有する炭化珪素基板が準備される。炭化珪素基板は、第1の主面および第2の主面の少なくとも一方の主面を含む領域が単結晶炭化珪素からなり、一方の主面には、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、かつ不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する。炭化珪素基板の一方の主面上にエピタキシャル成長層が形成される。エピタキシャル成長層上に電極が形成される。
本発明に係る半導体装置の製造方法によれば、半導体装置の歩留まりを向上することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の炭化珪素基板、当該基板を用いた半導体装置、およびこれらの製造方法によれば、表面が安定化された炭化珪素基板、当該基板を用いた半導体装置、およびこれらの製造方法を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。また、本明細書中においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である炭化珪素基板について説明する。図1を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板1は、その全体が単結晶炭化珪素からなり、第1の主面1Aと、第1の主面と対向する第2の主面1Bとを有している。第1の主面1Aおよび第2の主面1Bの少なくとも一方の主面(たとえば第1の主面1A)には、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する。
硫黄原子の存在割合が60×1010atoms/cm2以上であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は3at%以上であることにより、炭化珪素基板の表面が安定化される。また、硫黄原子の存在割合が2000×1010atoms/cm2以下であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は25at%以下であるので、基板との格子整合が妨げられることでエピタキシャル成長が阻害されることを抑制することができる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
炭化珪素基板1の一方の主面に存在する硫黄原子の量は、好ましくは80×1010atoms/cm2以上800×1010atoms/cm2以下であり、より好ましくは120×1010atoms/cm2以上600×1010atoms/cm2以下である。
炭化珪素基板1の一方の主面に存在する不純物としての炭素原子の量は、好ましくは7at%以上21at%以下であり、より好ましくは10at%以上18at%以下である。
本実施の形態に係る炭化珪素基板1の一方の主面に存在する塩素原子は3000×1010atoms/cm2以下である。塩素原子の量は、好ましくは1300×1010atoms/cm2以下であり、より好ましくは100×1010atoms/cm2以下である。これにより、半導体装置の歩留まりをさらに向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
本実施の形態に係る炭化珪素基板1の一方の主面に存在する酸素原子は3at%以上30at%以下である。酸素原子の量は、好ましくは5at%以上21at%以下であり、より好ましくは9at%以上15at%以下である。これにより、半導体装置の歩留まりをさらに向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。
本実施の形態に係る炭化珪素基板1の一方の主面に存在する金属不純物は4000×1010atoms/cm2以下である。金属不純物の量は、好ましくは900×1010atoms/cm2以下であり、より好ましくは80×1010atoms/cm2以下である。金属不純物としては、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ca(カルシウム)、K(カリウム)、Al(アルミニウム)などが挙げられる。当該金属不純物の量を減らすことにより、エピタキシャル成長層の品質を向上することができる。
本実施の形態に係る炭化珪素基板1の一方の主面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さであるRq(日本工業規格;JIS参照)で評価した場合0.5nm以下である。これにより、炭化珪素基板1の一方の主面上に高品質のエピタキシャル成長層を形成する容易となる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板を提供することができる。Rqは0.3nm以下が好ましく、0.1nm以下がより好ましい。
炭化珪素基板1の直径は110mm以上であることが好ましい。大面積の基板を使用することでチップの取れ数が増加する。これにより、デバイス工程でのコスト、生産性を改善することができる。また、炭化珪素基板1の直径は125mm以上300mm以下であることが好ましい。生産性向上の観点から大面積の基板が望まれる。しかし、直径が300mmを超えると、表面不純物の面内分布が大きくなる。また、基板の反りを抑えるために高度な制御が必要になってくる。
好ましくは、基板を形成する単結晶炭化珪素は4H構造を有し、{0001}面に対する一方の主面のオフ角は0.1°以上10°以下である。また好ましくは、一方の主面は、{000−1}面から0.01〜5°オフした面である。
好ましくは、基板を形成する単結晶炭化珪素は4H構造を有し、{03−38}面に対する一方の主面のオフ角は4°以下である。また好ましくは、一方の主面は、{01−11}面、{01−12}面から4°以下オフした面、{0−33−8}面、{0−11−1}面、{0−11−2}面から4°以下オフした面である。これにより、特に良好な酸化膜が得られることから、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などの半導体装置において良好な特性が得られる。
次に、炭化珪素基板1の製造方法について説明する。図2を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板1の製造方法では、まず、工程(S10)として結晶成長工程が実施される。この工程(S10)では、たとえば以下に説明する昇華法により、単結晶炭化珪素が作製される。
まずグラファイトからなる容器内に単結晶炭化珪素からなる種結晶と、炭化珪素からなる原料粉末とが挿入される。次に、原料粉末が加熱されることにより炭化珪素が昇華し、種結晶上に再結晶する。このとき、所望の不純物、たとえば窒素などが導入されつつ再結晶が進行する。そして、種結晶上に所望の大きさの結晶が成長した時点で加熱を停止し、容器内から単結晶炭化珪素の結晶が取り出される。
次に、工程(S20)としてインゴット成形工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において作製された単結晶炭化珪素の結晶が、たとえば図3に示す円柱状の形状を有するインゴット10に加工される。このとき、六方晶炭化珪素は<0001>方向に成長させることにより、欠陥の発生を抑制しつつ効率よく結晶成長を進行させることが可能であるため、図3に示すように長手方向が<0001>方向であるインゴット10が作製されることが好ましい。
次に、工程(S30)としてスライス工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において得られたインゴット10が切断されることにより、基板が作製される。具体的には、図4を参照して、まず作製された柱状(円柱状)のインゴット10が、その側面の一部が支持台20により支持されるようにセットされる。次に、ワイヤー9が、インゴット10の直径方向に沿った方向に走行しつつ、インゴット10が走行方向に垂直な方向である切断方向αに沿ってワイヤー9に近づき、ワイヤー9とインゴット10とが接触する。そして、インゴット10が切断方向αに沿って進行し続けることによりインゴット10が切断される。これにより、図5に示す炭化珪素基板1が得られる。このとき、炭化珪素基板1の主面1Aが所望の面方位を有するように、インゴット10が切断される。
次に、工程(S40)として表面平坦化工程が実施される。この工程(S40)では、炭化珪素基板1の主面1Aに対して、研削加工、研磨加工などが実施され、工程(S30)において形成された切断面(すなわち主面1A)の粗さが低減される。研削加工ではツールにダイヤモンド砥石を用い、炭化珪素基板1と砥石を対向して回転させ、一定速度で切り込むことにより、基板表面の除去を行なう。主面1Aの凹凸を除去して平坦化し、厚みを調整することができる。研磨加工では、ダイヤモンド等の砥粒の粒径を調整することにより、所望の表面粗さを得ることができる。定盤は、鉄、銅、スズ、スズ合金などの金属定盤や、金属と樹脂の複合定盤、あるいは研磨布を用いることができる。硬い金属定盤を用いることで、レートを向上させることができる。軟らかい定盤を用いることで、表面粗さを低減することができる。
次に、工程(S50)として表面仕上げ工程が実施される。この工程(S50)では、炭化珪素基板1の主面1Aに対してドライエッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing)などが実施されることにより、炭化珪素基板の表面上に存在する硫黄原子、不純物としての炭素原子、塩素原子、酸素原子および金属不純物の量や炭化珪素基板の表面粗さなどを所望の範囲に制御することができる。
たとえば、炭化珪素基板の表面粗さを制御するための研磨方法として、ラッピングやポリシングなどがあるが、仕上げ研磨は表面粗さを低下させ、表面組成を制御するためにCMP処理で仕上げることが好ましい。CMPの砥粒は表面粗さや加工変質層を低減させるために炭化珪素よりも柔らかい材料であることが必要であり、コロイダルシリカ、フュームドシリカが好ましい。CMPの溶液にはケミカル作用を増加させるためにpH4以下またはpH9.5以上が好ましく、pH2以下、pH10.5以上がより好ましい。CMP液のpHの制御は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸、KOH、NaOH、NH4OHなどの無機アルカリ、コリン、アミン、TMAHなどの有機アルカリ、およびそれらの塩を添加することで制御できる。また、酸化剤を添加することが好ましい。酸化剤には次亜塩素酸及びその塩、トリクロロイソシアヌル酸などの塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどの塩素化イソシアヌル酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、ニクロム酸カリウムなどのニクロム酸塩、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩、硝酸、硫酸、塩酸、過酸化水素水、オゾン等を用いることができる。酸化剤の添加でpHを制御することもできる。
炭化珪素基板の表面に存在する硫黄量の制御が容易であるので、pH調整には硫酸や硫酸塩が用いられることが好ましい。また、炭化珪素基板の表面に存在する炭素量の制御が容易であるので、pH調整には有機酸、有機アルカリ、およびそれらの塩を用いることが好ましい。有機酸としては、カルボン酸、有機アルカリには、コリン、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)等が挙げられる。
炭化珪素基板の表面に存在する酸素量の制御が容易であることから、酸化剤は過酸化水素水が好ましい。炭化珪素基板の表面に存在する塩素量の制御は、塩素系酸化剤で行うことができる。炭化珪素基板の表面の組成を制御し、表面粗さを制御し、レートを向上させるためには、溶液のpHをx、酸化還元電位をyとした際に、−50x+700≦y≦−50x+1800を満たす条件でxとyを選定することが好ましい。酸化還元電位を適切な範囲に制御することにより、溶液の酸化力を制御することにより、炭化珪素基板の表面の酸素量を制御し、かつ表面粗さと研磨速度を適切な範囲に制御することができる。
炭化珪素基板の表面の組成を制御し、表面粗さを制御し、レートを向上させるためには、研磨液の粘度η(mPa・s)と液流量Q(m3/s)、研磨定盤の面積S(m2)、研磨圧力P(kPa)、周速V(m/s)で表される抵抗係数R(m2/s)(ここでR=η×Q×V/S×Pとして決定される)が2.0×10-15〜8.0×10-14がよい。抵抗係数を制御することにより、研磨布と基板とが摩擦して研磨する際の基板にかかる抵抗を制御できる。また、効果的に表面組成を制御し、かつ表面粗さと研磨速度を適切な範囲に制御することができる。
裏面の研磨については、微細なダイヤモンド砥粒を用いたポリシングで仕上げることが好ましい。CMP処理は表面粗さを低減できるが、コストと生産性の問題が生じる。ダイヤモンド砥粒の粒径は、0.1μmから3μmが好ましい。定盤はスズ、スズ合金などの金属定盤や、樹脂定盤、研磨布を用いることができる。金属定盤を用いることで、レートが向上できる。研磨布を用いることで、表面粗さを低減することができる。表面粗さを適切な範囲とするためには、抵抗係数R(m2/s)は、1.0×10-18〜3.0×10-17が好ましい。抵抗係数を制御することにより、定盤と基板とが摩擦して研磨する際の基板にかかる抵抗を基板全面で均一化することができ、かつ表面仕上げに適切な範囲にすることができ、粗さの面内分布を低減することができる。裏面の粗さはRqが0.3nm〜10nmがよい。エピ成長時にサセプタとの接触を安定化して温度分布を均一化し、また加熱時の反り抑制により、良好なエピタキシャル層の成長を行うことができる。
炭化珪素基板1の表面上に存在する硫黄原子、不純物としての炭素原子、塩素原子、酸素原子および金属不純物の量や炭化珪素基板1の表面粗さなどを所望の範囲に制御するために、ドライエッチングが行われてもよい。たとえば、硫化水素などの硫黄系のガスを用いることで、炭化珪素基板1の表面の硫黄原子の量を制御することができる。また、メタン、エタン、プロパン、アセチレンなどの炭素系ガスを用いることで、炭化珪素基板1の表面の不純物としての炭素原子の量を制御することができる。さらに、酸素ガスを用いることで、炭化珪素基板1の表面の酸素原子の量を制御することができる。さらに、塩素や三塩化ホウ素などの塩素系のガスを用いることで、炭化珪素基板1の表面の塩素原子の量を制御することができる。また、塩素系ガスやフッ素系ガスを用いて基板のシリコンをエッチングして減少させることにより、炭素の量を制御することもできる。
次に、工程(S60)として洗浄工程が実施される。この工程(S60)では、上記工程(S50)までのプロセスにおいて表面に付着した異物が洗浄により除去される。洗浄工程での薬液選定、超音波印加、洗浄槽の薬液のオーバーフロー循環とフィルタでのパーティクル除去により、炭化珪素基板の表面における硫黄原子、炭素原子など各原子の存在割合を所望の範囲に調整することができる。薬液には無機酸、無機アルカリ、有機酸、有機アルカリを用いることができる。洗浄効果を高めるため、過酸化水素水等の酸化剤を用いることができる。超音波の周波数は、50kHz〜2MHzとすることができる。薬液循環のフィルタの孔径は、サイズ50nm以上5μm以下が好ましい。以上の工程により、本実施の形態の炭化珪素基板1が完成する。
本実施の形態の炭化珪素基板1の製造方法によれば、基板の表面を仕上げ処理する工程において、一方の主面に、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在するように一方の主面における硫黄原子および不純物としての炭素原子の存在割合が調整される。硫黄原子の存在割合が60×1010atoms/cm2以上であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は3at%以上であることにより、炭化珪素基板の表面が安定化される。また、硫黄原子の存在割合が2000×1010atoms/cm2以下であり、かつ不純物としての炭素原子の存在割合は25at%以下であるので、炭化珪素基板1との格子整合が妨げられることでエピタキシャル成長が阻害されることを抑制することができる。結果として、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能である炭化珪素基板1を提供することができる。
次に、本実施の形態における半導体装置について説明する。
図6を参照して、本実施の形態における半導体装置100である横型MESFET(Metal Semiconductor Field Effect Transistor)は、p−型炭化珪素基板103と、n−型炭化珪素エピタキシャル成長層102とを主に有している。n−型炭化珪素エピタキシャル成長層102の、p−型炭化珪素基板103と対向しない側(図6における上側)の主表面から一定の深さの領域に、n+型ソース不純物領域111とn+型ドレイン不純物領域114とを含んでいる。n+型ソース不純物領域111、n+型ドレイン不純物領域114の上側の主表面上にそれぞれソース電極121、ドレイン電極124が形成されている。ゲート電極122は、ソース電極121とドレイン電極124との間に形成されている。ソース電極121とゲート電極122との間、およびゲート電極122とドレイン電極124との間には層間絶縁膜106が配置されている。p−型炭化珪素基板103の、n−型炭化珪素エピタキシャル成長層102と対向しない側(図6における下側)の主表面上には基板裏面電極127が配置されている。なお、以上に述べた各構成要素のp型およびn型をすべて逆とした構成としてもよい。
たとえばp−型炭化珪素基板103はp型の炭化珪素から形成される。p−型とはp型の不純物濃度が低く、高抵抗で半絶縁性を有することを意味する。具体的にはp−型炭化珪素基板103は厚みが100μm以上400μm以下で、ホウ素原子の不純物濃度が1×1015cm-3である炭化珪素基板からなる。またn−型炭化珪素エピタキシャル成長層102はn型の不純物濃度が低いエピタキシャル層により形成されている。具体的にはn−型炭化珪素エピタキシャル成長層102は厚みが1μm程度で、窒素原子の不純物濃度が1×1017cm-3である。またn+型ソース不純物領域111およびn+型ドレイン不純物領域114はn型注入層により形成されている。n+型とはn型の不純物濃度が高いことを意味する。具体的にはn+型ソース不純物領域111は窒素原子を1×1019cm-3程度含む、厚みが0.4μm程度のn型注入層である。n−型炭化珪素基板には、不純物として窒素を含むことができる。p−型炭化珪素エピタキシャル成長層には、不純物としてアルミを含むことができる。
なお、本実施の形態においては、半導体装置100の一例としてMESFETを挙げて説明したがこれに限られない。半導体装置100は、たとえばHEMT(High Electron Mobility Transistor)、横型JFET(Junction Field Effect Transistor)、横型MOSFET、HFET(Heterojunction Field Effect Transistor)などであってもよい。
次に、本実施の形態における半導体装置100である横型MESFETの製造方法の一例について説明する。
図7を参照して、本実施の形態におけるMESFETの製造方法においては、まず、工程(S110)としての炭化珪素基板準備工程が実施される。この工程(S110)においては、上述した炭化珪素基板1が準備される。具体的には、炭化珪素基板の少なくとも一方の表面には、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する炭化珪素基板1が準備される。
次に、工程(120)としてのエピタキシャル成長工程が実施される。具体的には、硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する一方の主面上に炭化珪素のエピタキシャル成長層102が形成される。
次に、工程(S121)としてイオン注入工程が実施される。この工程(S121)では、工程(S120)において形成されたエピタキシャル成長層102にイオン注入が実施されることにより、n+型ソース不純物領域111とn+型ドレイン不純物領域114が形成される。
次に、工程(S122)として活性化アニール工程が実施される。この工程(S122)では、たとえば1600℃〜1900℃程度に加熱する熱処理が実施される。これにより、工程(S121)において注入された不純物が活性化する。
次に、工程(S130)として電極形成工程が実施される。この工程(S122)では、炭化珪素基板103の炭化珪素エピタキシャル成長層102が形成されている側とは反対側に基板裏面電極127が形成される。これにより、半導体装置100であるMESFETが完成する。
次に、本実施の形態の半導体装置100および当該半導体装置100の製造方法の作用効果について説明する。
本実施の形態の半導体装置100および当該半導体装置100の製造方法において、表面が安定化された炭化珪素基板1が用いられる。それゆえ、当該炭化珪素基板1上には高品質のエピタキシャル成長層102が形成される。また、炭化珪素基板1とエピタキシャル成長層102との界面に低抵抗層が形成されることを抑制することができる。結果として、半導体装置100の歩留まりを向上することができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2における炭化珪素基板について説明する。図8を参照して実施の形態2における炭化珪素基板1は、基本的には実施の形態1の炭化珪素基板1と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2における炭化珪素基板1は、ベース層11および単結晶炭化珪素層12を備えている点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
具体的には、図8を参照して、実施の形態2における炭化珪素基板1は、ベース層11と、ベース層11上に形成された単結晶炭化珪素層12とを備えている。そして、単結晶炭化珪素層12の、ベース層11の側とは反対側の主面12Aが、上記実施の形態1における主面1Aに対応する。すなわち、本実施の形態における炭化珪素基板1では、一方の主面12Aを含む領域が単結晶炭化珪素からなっている。一方の主面12Aの硫黄原子の存在割合は60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下であって、不純物としての炭素原子の存在割合は3at%以上25at%以下である。
本実施の形態における炭化珪素基板1においては、ベース層11として安価なベース基板、たとえば欠陥密度の大きい単結晶炭化珪素からなる基板や多結晶炭化珪素基板、あるいはセラミックスからなるベース基板を採用し、ベース層11上に良質な炭化珪素単結晶からなる基板(タイル基板)を配置して単結晶炭化珪素層12とされている。そのため、本実施の形態における炭化珪素基板1は、製造コストが抑制された炭化珪素基板となっている。また、本実施の形態においては、大口径のベース層11上に、複数の単結晶炭化珪素層12が平面的に見て並べて配置された構造を有している。その結果、本実施の形態における炭化珪素基板1は、製造コストが抑制され、かつ大口径な炭化珪素基板となっている。
言い換えれば、本実施の形態の炭化珪素基板1は、強度保持部(ベース層11)および表面部(タイル基板)から形成された複合炭化珪素基板である。複合炭化珪素基板の強度保持部は、耐熱性と強度があれば単結晶炭化珪素である必要はなく、表面部が単結晶炭化珪素であればよい。強度保持部は耐熱性と強度の観点から炭化珪素であることが好ましい。強度保持部の炭化珪素は気相成長による多結晶体、無機原料、有機原料からなる焼結体、単結晶体のいずれでもよい。表面部は、エピタキシャル成長することから、単結晶炭化珪素とすることが必要となる。
次に、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法について説明する。図9を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法では、まず実施の形態1の場合と同様に工程(S10)〜(S30)が実施される。その後、工程(S31)として単結晶基板成形工程が実施される。この工程(S31)では、工程(S10)〜(S30)の結果得られた基板が、図8に示す単結晶炭化珪素層12を構成するのに適した形状に成形される。具体的には、たとえば工程(S10)〜(S30)の結果得られた基板が成形されることにより、複数の矩形の基板が準備される。
次に、工程(S32)として貼り合せ工程が実施される。この工程(S32)では、別途準備されたベース基板上に、工程(S31)において作製された複数の基板が平面的に見て並べて、たとえばマトリックス状に配置される。その後、所定の温度に加熱する処理が実施されることにより、ベース基板と工程(S31)において作製された基板とが一体化し、図8に示すように、ベース層11上に複数の単結晶炭化珪素層12が平面的に見て並べて配置された構造体が得られる。
ベース層11と単結晶炭化珪素層12の貼合せは、近接昇華や接着剤を用いて行うことができる。接着剤は、強度を保持できれば有機系、無機系のいずれでもよい。また、接着材は、珪素と炭素を含有し、加熱してSiC結合を形成するポリカルボシラン等のポリマーを用いてもよい。
その後、工程(S40)〜(S60)が上記実施の形態と同様に実施されることにより、実施の形態2における炭化珪素基板1が完成する。
完成した複合型の炭化珪素基板1は、結晶成長の方位、サイズの制約がないことから、所望の面方位、サイズの基板を得ることができる。また、ベース基板として安価な多結晶や焼結体が使用可能である。さらに、単結晶炭化珪素層12を薄くすることができる。それゆえ、ベース基板と単結晶炭化珪素層12とを貼合せた複合型の炭化珪素基板は1、同サイズの単結晶炭化珪素基板と比較して安いコストで製造可能である。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面における硫黄原子および不純物としての炭素原子の存在割合の影響について調査する実験を行なった。
昇華法により炭化珪素単結晶を成長した。種基板として直径80mmの炭化珪素基板1を用いた。種基板の主面を(0001)面とした。外周研削機により、炭化珪素単結晶の成長面、下地基板面、外周を研削加工し、炭化珪素単結晶のインゴットを得た。インゴットのスライスはマルチワイヤーソーで実施した。スライス後の炭化珪素基板1の主面(以下、表面とも称す)が(0001)面から4°オフした面となるようにインゴットを切断した。スライス後の炭化珪素基板1の厚みを400μmとした。炭化珪素基板1の抵抗率を2×105Ωcmとした。スライス後に基板外周にチャンファー加工を実施した。チャンファー加工後の基板の直径は76.2mmとした。基板の裏面、表面を順次平面加工してエピ用の基板を得た。裏面はダイヤモンド砥石により研削加工し、その後、研磨加工により炭化珪素基板1の表面のRqが0.3〜10nmとなるように鏡面化した。研削加工にはインフィード型研削機を用いた。砥石にはビトリファイドボンドで番手#2400、集中度150の砥石を用いた。研磨加工はラッピングを実施した。定盤にはスズ定盤を用いた。ダイヤモンドスラリーの粒径は1μmであった。
表面の加工は、研削加工、ラップ加工の後に、CMPを実施した。CMPのスラリーの砥粒には平均粒径30nmのコロイダルシリカを用いた。スラリーのケミカル成分には、レートの向上と表面組成の制御のために、硫酸と酒石酸と過酸化水素水を添加した。本発明例では、スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、−50x+700≦y≦−50x+1800の条件を満たすようにxとyを調整した。
研磨布としてスウェードタイプを用いた。また、研磨液の粘度η(mPa・s)と液流量Q(m3/s)、研磨定盤の面積S(m2)、研磨圧力P(kPa)、周速V(m/s)で表される抵抗係数R(m2/s)(ここで、R=η×Q×V/S×P)を本発明例については2.0×10-15〜8.0×10-14(m2/s)とした。
表面組成の評価として、TXRFにより硫黄原子(S)の量を測定した。XPSにより不純物としての炭素原子(C)の量を測定した。表面組成を制御した基板(サンプル番号1−1〜サンプル番号1−11)を用いてデバイスを作成した。作成したデバイスを横型MESFETとした。MESFETの歩留まりを計算した。歩留まりの計算では、5Vのゲート電圧を与えたときに、ゲート電流密度が1×10-6A/cm2であったものを良好とした。炭化珪素基板1の主面における硫黄原子および不純物としての炭素原子の存在割合を変化させて製造したMESFETの歩留まりの結果を表1に示す。
サンプル番号1−4〜1−8は本発明に係るMESFETであり、それ以外は比較例に係るMESFETである。本発明例のMESFETを形成する炭化珪素基板1は、基板の表面に硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する。表1に示すように、本発明例のMESFETは、比較例のMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面における塩素原子の存在割合の影響について調査する実験を行なった。
表面組成の制御は、CMPの条件を変更することにより行われた。スラリーのケミカル成分には、レートの向上と表面組成の制御のために、硫酸ナトリウムとリンゴ酸ナトリウムとジクロロイソシアヌル酸Naを添加した。CMPのスラリーの砥粒には平均粒径50nmのコロイダルシリカを用いた。研磨布としてスウェードタイプを用いた。また、本発明例では抵抗係数R(m2/s)を3.0×10-15〜8.0×10-15(m2/s)の範囲とした。スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、本発明例については−50x+1100≦y≦−50x+1800の条件を満たすように、xとyを制御した。その他の条件は実施例1と同様である。
表面組成を制御した基板(サンプル2−1〜サンプル2−5)を用いて横型MESFETを作成し、MESFETの歩留まりを計算した。歩留まりの計算は、実施例1の場合と同様である。炭化珪素基板1の主面における塩素原子の存在割合を変化させて製造したMESFETの歩留まりの結果を表2に示す。
サンプル番号2−1〜2−4は本発明に係るMESFETであり、サンプル番号2−5は比較例に係るMESFETである。本発明例のMESFETを形成する炭化珪素基板1は、基板の表面に塩素原子が3000×1010atoms/cm2以下で存在する。表2に示すように、本発明例のMESFETは、比較例のMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面における酸素原子の存在割合の影響について調査する実験を行なった。
表面組成の制御は、CMPの条件を変更することにより行われた。スラリーのケミカル成分には、レートの向上と表面組成の制御のために、硫酸水素ナトリウムと炭酸NaとTMAHと過酸化水素水を添加した。CMPのスラリーの砥粒には平均粒径50nmのコロイダルシリカを用いた。研磨布にはスウェードタイプを用いた。本発明例では抵抗係数R(m2/s)を3.0×10-15〜8.0×10-15(m2/s)の範囲とした。スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、本発明例では酸化還元電位は、−50x+700≦y≦−50x+1100の条件を満たすように、xとyを制御した。その他の条件は実施例1と同様である。
表面組成を制御した基板(サンプル3−1〜サンプル3−8)を用いて横型MESFETを作成し、MESFETの歩留まりを計算した。歩留まりの計算は、実施例1の場合と同様である。炭化珪素基板1の主面における酸素原子の存在割合を変化させて製造したMESFETの歩留まりの結果を表3に示す。
サンプル番号3−2〜3−7は本発明例に係るMESFETであり、サンプル番号3−1および3−8は比較例に係るMESFETである。本発明例のMESFETを形成する炭化珪素基板1は、基板の表面に酸素原子が3at%以上30at%以下で存在する。表3に示すように、本発明例のMESFETは、比較例のMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面における金属不純物の存在割合の影響について調査する実験を行なった。
表面組成の制御は、CMPの条件を変更することにより行われた。スラリーのケミカル成分には、レートの向上と表面組成の制御のために、硫酸ナトリウムとリンゴ酸ナトリウムとジクロロイソシアヌル酸Naを添加した。CMPのスラリーの砥粒には平均粒径50nmのコロイダルシリカを用いた。研磨布にはスウェードタイプを用いた。また、本発明例では抵抗係数R(m2/s)を3.0×10-15〜8.0×10-15(m2/s)の範囲とした。スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、本発明例では酸化還元電位は、−50x+1100≦y≦−50x+1800の条件を満たすように、xとyを制御した。その他の条件は実施例1と同様である。
表面組成を制御した基板(サンプル4−1〜サンプル4−5)を用いて横型MESFETを作成し、MESFETの歩留まりを計算した。歩留まりの計算は、実施例1の場合と同様である。炭化珪素基板1の主面における金属不純物の存在割合を変化させて製造したMESFETの歩留まりの結果を表4に示す。
サンプル番号4−1〜4−4は本発明例に係るMESFETであり、サンプル番号4−5は比較例に係るMESFETである。本発明例のMESFETを形成する炭化珪素基板1は、基板の表面に金属不純物が4000×1010atoms/cm2以下で存在する。表4に示すように、本発明例のMESFETは、比較例のMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面の表面粗さの影響について調査する実験を行なった。
本実施例では、直径125mmの炭化珪素基板を用いた。表面組成の制御は、CMPの条件を変更することにより行われた。CMPのスラリーの砥粒には平均粒径20〜100nmのコロイダルシリカを用いた。研磨布にはスウェードタイプを用いた。また、本発明例では抵抗係数R(m2/s)を2.0×10-15〜5.0×10-15(m2/s)とした。本発明例では、スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、−50x+700≦y≦−50x+1100の条件を満たすようにxとyを調整した。その他の条件は実施例1と同様である。
表面組成を制御した基板(サンプル5−1〜サンプル5−4)を用いて横型MESFETを作成し、MESFETの歩留まりを計算した。歩留まりの計算は、実施例1の場合と同様である。炭化珪素基板1の主面における金属不純物の存在割合を変化させて製造したMESFETの歩留まりの結果を表5に示す。
サンプル番号5−1〜5−3は本発明例に係るMESFETであり、サンプル番号5−4は比較例に係るMESFETである。本発明例のMESFETを形成する炭化珪素基板1は、基板の表面の表面粗さは、Rqで評価した場合0.5nm以下である。表5に示すように、本発明例のMESFETは、比較例のMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面の面方位の影響について調査する実験を行なった。
基板の主面を(000−1)面として基板を作製した。単結晶基板の直径は110mmとした。表面組成、粗さを適切な範囲に制御するため、コロイダルシリカの粒径を10nmとし、本発明例では抵抗係数R(m2/s)を5.0 ×10-14〜8.0×10-14(m2/s)とした。スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、本発明例では酸化還元電位は、−50x+700≦y≦−50x+1000の条件を満たすように、xとyを制御した。その他の条件は実施例1と同様である。主面が(000−1)面である炭化珪素基板1を用いてMESFETを作成した。
結果を表6に示す。サンプル番号6−3〜6−8は本発明例に係るMESFETであり、それ以外は比較例に係るMESFETである。本発明例の基板表面に硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する炭化珪素基板1を用いたMESFETは、比較例の表面組成の基板を用いたMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
半導体装置の歩留まりに及ぼす炭化珪素基板の主面の面方位の影響について調査する実験を行なった。
昇華法により炭化珪素単結晶を成長した。種基板として、直径80mmの炭化珪素基板を用いた。種基板の主面を(0001)面とした。外周研削機により、炭化珪素単結晶の成長面、下地基板面、外周を研削加工し、炭化珪素のインゴットを得た。スライスはマルチワイヤーソーで実施した。スライス後の基板面を{03−38}とするため、ワイヤーの走行方向から54.7°傾斜させてワイヤーソー装置内にセットしてインゴットを切断した。スライス後の基板厚みを250μmとした。スライス後の基板の外周をダイシングして20mm×30mmのタイル基板を得た。
昇華法により多結晶炭化珪素を成長した。外周加工により、直径155mmのインゴットを得た。マルチワイヤーソーによりインゴットをスライスし、厚み500μmの多結晶基板を得た。単結晶矩形基板を多結晶下地基板上に配置し、近接昇華により接合した。接合した複合基板の外周加工を行い、直径150mm、厚み750μmの基板を得た。本発明例では、スラリーのpHをx、酸化還元電位をyとした際に、−50x+700≦y≦−50x+1100の条件を満たすようにxとyを調整した。また本発明例については抵抗係数R(m2/s)を5.0×10-15〜1.0×10-14(m2/s)とした。
その他の条件は実施例1と同様である。主面が(03−38)面である炭化珪素基板1を用いてMESFETを作成した。
結果を表7に示す。サンプル番号7−2〜7−5は本発明例に係るMESFETであり、それ以外は比較例に係るMESFETである。本発明例の基板表面に硫黄原子が60×1010atoms/cm2以上2000×1010atoms/cm2以下で存在し、不純物としての炭素原子が3at%以上25at%以下で存在する炭化珪素基板1を用いたMESFETは、比較例の表面組成の基板を用いたMESFETよりも良好な歩留まりが得られることが確認された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。