JP5936881B2 - 塗装ステンレス鋼板およびこれを用いた自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット - Google Patents

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Description

本発明は、塗装ステンレス鋼板およびこれを用いた自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットに関する。
ステンレス鋼板は、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットなどに適用されている。このような用途では、ステンレス鋼板は、その表面にゴム塗膜が形成された塗装ステンレス鋼板として用いられることが多い。近年、自動車のエンジンは、省エネルギーおよび二酸化炭素削減の観点から、高出力化が進んでいる。エンジンを高出力化すると、シリンダーヘッドガスケットは、より高温かつより高湿な環境下に曝される。このような過酷な環境下では、ステンレス鋼板の表面からゴム塗膜が剥離しやすく、所期のシール性能を発揮させることができないことがある。したがって、このような用途に用いられる塗装ステンレス鋼板としては、高温かつ高湿な環境下においても長期間に亘り塗膜密着性を維持できるものが求められている。
このような要求に応えるべく、ステンレス鋼板とゴム塗膜との間に所定の化成処理皮膜を形成して、高温かつ高湿な環境下における塗膜密着性を向上させた塗装ステンレス鋼板が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1には、オキシ硝酸ジルコニウムとフェノール樹脂またはシランカップリング剤とを含む化成処理液を用いて、ステンレス鋼板の表面に化成処理膜を形成した塗装ステンレス鋼板が開示されている。また、特許文献2には、硝酸セリウムを含む化成処理液を用いて、ステンレス鋼板の表面に化成処理膜を形成した塗装ステンレス鋼板が開示されている。特許文献1および特許文献2では、120℃の熱水または120℃のクーラント液に塗装ステンレス鋼板を最大500時間浸漬した後でも、ゴム塗膜はステンレス鋼板から剥離しないと説明されている。
特開2010−106308号公報 特開2010−106309号公報
自動車エンジンの高出力化は、今後も続いていくことが予想される。このため、今後は、特許文献1および特許文献2に記載されている条件(120℃、500時間)よりも過酷な条件(例えば、140℃、1500時間)であっても、長期間に亘り塗膜密着性を維持できる塗装ステンレス鋼板が必要とされることが考えられる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高温かつ高湿環境下での塗膜密着性に優れた塗装ステンレス鋼板およびこれを用いた自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットを提供することを目的とする。
本発明者らは、ステンレス鋼板の表面に所定の有機無機複合処理膜を形成することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の塗装ステンレス鋼板に関する。
[1]ステンレス鋼板と、前記ステンレス鋼板の表面に形成され、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理膜と、前記有機無機複合処理膜の表面に形成され、アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含有する第1塗膜と、前記第1塗膜の表面に形成され、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含有する第2塗膜と、を有し、前記有機無機複合処理膜は、前記硬化物の樹脂成分を5〜800mg/m含有し、かつ前記硬化物のリン成分をリン換算で0.1〜100mg/m含有し、前記樹脂組成物における、前記カルボキシル基含有樹脂および前記オキサゾリン基含有樹脂の合計量に対する前記オキサゾリン基含有樹脂の割合は、2.0〜50.0質量%の範囲内である、塗装ステンレス鋼板。
[2]前記カルボキシル基含有樹脂の酸価は、樹脂固形分換算で300mgKOH/g以上である、[1]に記載の塗装ステンレス鋼板。
[3]前記樹脂組成物は、塩基性ジルコニウム化合物をさらに含有し、前記有機無機複合処理膜は、前記硬化物のジルコニウム成分をジルコニウム換算で0.5〜60mg/m含有する、[1]または[2]に記載の塗装ステンレス鋼板。
また、本発明は、以下の自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットに関する。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装ステンレス鋼板を有する、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット。
本発明によれば、高温かつ高湿環境下での塗膜密着性に優れた塗装ステンレス鋼板およびこれを用いた自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットを提供することができる。
1.塗装ステンレス鋼板
本発明の塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板、有機無機複合処理膜、下塗り塗膜(第1塗膜)および上塗り塗膜(第2塗膜)を有する。以下、各要素について説明する。
(1)ステンレス鋼板
ステンレス鋼板を構成するステンレス鋼の鋼種は、オーステナイト系やフェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系など特に限定されない。鋼種の例には、単相系としてはSUS301 HやSUS304 H、二相系としては16Cr−2Ni(NSSDP2;日新製鋼株式会社)などが含まれる。本発明の塗装ステンレス鋼板を自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットに使用する場合、要求される重量や強度を考慮すると、ステンレス鋼板の板厚は、50〜300μmの範囲内が好ましい。
(2)有機無機複合処理膜
有機無機複合処理膜は、ステンレス鋼板の表面に形成されている。有機無機複合処理膜は、ステンレス鋼板と下塗り塗膜とを強固に密着させる。
有機無機複合処理膜は、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を含有する樹脂組成物の硬化物からなる。カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)は、配位結合および化学結合により三次元網目構造を形成して相互に結合するとともに、ステンレス鋼板と強固に結合または付着する。具体的には、塩基性リン酸化合物(C)は、ステンレス鋼板と強固に結合または付着して無機処理膜を形成するとともに、樹脂(A)が有するカルボキシル基と樹脂(B)が有するオキサゾリン基との反応触媒としても機能する。その結果として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)の3成分に由来する高架橋密度の耐薬品性、耐熱性、耐高湿性に優れた有機無機複合処理膜が形成される。また、樹脂(A)が有する極性基(カルボキシル基や水酸基など)は、有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との密着性を向上させる。
前記樹脂組成物は、さらに、塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有することが好ましい。樹脂組成物に塩基性ジルコニウム化合物を含有させることで、金属架橋により樹脂間の結合をより強固にすることができる。また、塩基性ジルコニウム化合物(D)は、塩基性リン酸化合物(C)と反応して不溶性のリン酸ジルコニウム塩を形成して、有機無機複合処理膜のバリア性をさらに向上させる。結果として、塩基性ジルコニウム化合物を含有させることで、有機無機複合処理膜の造膜性およびバリア性、ならびに有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との密着性を向上させることができる。
有機無機複合処理膜は、水や、酸性水溶液、有機溶剤(例えば、クーラント液の主成分であるエチレングリコール)などに対して優れた難溶性を示す。有機無機複合処理膜は、上記(A)〜(C)の3成分、または上記(A)〜(D)の4成分が相乗的に作用することで、熱水およびエチレングリコールなどに対して優れた耐性を有し、有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との強固な密着性を維持することができる。
有機無機複合処理膜は、前記樹脂組成物の硬化物の樹脂成分(カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)に由来する)を5〜800mg/mの範囲内で含有することが好ましく、12.5〜400mg/mの範囲内で含有することがより好ましい。樹脂成分の含有量が5mg/m未満の場合、有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との強固な密着性を維持することができない。一方、樹脂成分の含有量を800mg/m超としても、密着性向上の効果が飽和してしまうため、製造費用が高くなる。なお、有機無機複合処理膜における樹脂成分の含有量は、有機無機複合処理膜を蛍光X線装置によって分析して得られた、炭素量(mg/m)から求めることができる。
また、有機無機複合処理膜は、前記樹脂組成物の硬化物のリン成分(塩基性リン酸化合物(C)に由来する)をリン換算で0.1〜100mg/mの範囲内で含有することが好ましく、0.25〜50mg/mの範囲内で含有することがより好ましい。リン成分のリン換算の含有量が0.1mg/m未満の場合も、有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との強固な密着性を維持することができない。一方、リン成分のリン換算の含有量が100mg/m超の場合は、却って、有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との密着性が低下したり、有機無機複合処理膜のバリア性が低下したりするおそれがある。なお、有機無機複合処理膜におけるリン成分の含有量は、有機無機複合処理膜を蛍光X線装置によって分析して得られた、リン量(mg/m)として求めることができる。
樹脂成分およびリン成分の含有量は、有機無機複合処理膜を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)中の上記(A)〜(C)の3成分の濃度を調整したり、樹脂組成物(有機無機複合処理液)の塗布量を調整したりすることで、上記範囲内に調整することができる。
また、有機無機複合処理膜を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)における、カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)の合計量に対するオキサゾリン基含有樹脂(B)の割合は、固形分として2.0〜50.0質量%の範囲内であることが好ましく、5.0〜40.0質量%の範囲内がより好ましい。有機無機複合処理液中のカルボキシル基含有樹脂(A)とオキサゾリン基含有樹脂(B)との固形分質量比率を上記の範囲内とすることで、有機無機複合処理膜中におけるカルボキシル基とオキサゾリン基との比率を好適な範囲にすることができる。その結果、有機無機複合処理膜におけるカルボキシル基およびオキサゾリン基による架橋密度を高くすることができ、有機無機複合処理膜のバリア性を向上させることができる。また、カルボキシル基含有樹脂(A)の比率が適切な範囲となることにより、ステンレス鋼板と下塗り塗膜との密着性を良好に維持することができる。オキサゾリン基含有樹脂(B)の割合が上記範囲外の場合、ステンレス鋼板および下塗り塗膜に対する有機無機複合処理膜の密着性が不十分となるおそれがある。
樹脂組成物が塩基性ジルコニウム化合物(D)も含有する場合、有機無機複合処理膜は、樹脂組成物の硬化物のジルコニウム成分(塩基性ジルコニウム化合物(D)に由来する)をジルコニウム換算で0.5〜60mg/mの範囲内で含有することが好ましく、1.25〜30mg/mの範囲内で含有することがより好ましい。ジルコニウム成分のジルコニウム換算の含有量が0.5mg/m未満の場合、有機無機複合処理膜の造膜性およびバリア性を十分に向上させることができない。一方、ジルコニウム成分のジルコニウム換算の含有量が60mg/m超の場合、有機無機複合処理膜と下塗り塗膜との密着性が低下したり、有機無機複合処理膜のバリア性が低下したりするおそれがある。なお、有機無機複合処理膜におけるジルコニウム成分の含有量は、有機無機複合処理膜を蛍光X線装置によって分析して得られた、ジルコニウム量(mg/m)として求めることができる。
ジルコニウム成分の含有量は、有機無機複合処理膜を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)中の塩基性ジルコニウム化合物(D)の濃度を調整したり、樹脂組成物(有機無機複合処理液)の塗布量を調整したりすることで、上記範囲内に調整することができる。
以下、樹脂組成物に含まれる上記(A)〜(D)の各成分について説明する。
[カルボキシル基含有樹脂(A)]
カルボキシル基含有樹脂(A)は、オキサゾリン基含有樹脂(B)と共に三次元網目構造の硬化物を形成し、ステンレス鋼板と下塗り塗膜との密着性を向上させる。
たとえば、カルボキシル基含有樹脂(A)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーを重合させた、複数のカルボキシル基を有する重合体である。このようなカルボキシル基含有樹脂(A)の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸からなる群から選択される1種類または2種類以上のモノマーをラジカル重合させた重合体;前記1種類または2種類以上のモノマーと、1種類または2種類以上の他のエチレン性不飽和モノマーとをラジカル重合させた共重合体などが挙げられる。
他のエチレン性不飽和モノマーの例としては、特に限定されるものではないが、例えば、1)2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの付加物などの水酸基を含有するエチレン性不飽和モノマー;2)ハーフアミドやハーフチオエステルなどの、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和モノマー;3)(メタ)アクリルアミドやN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を含有するエチレン性不飽和モノマー;4)メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートエステルモノマー;5)スチレンやα−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレンなどの重合性芳香族化合物;6)アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどの重合性ニトリル;7)エチレンやプロピレンなどのα−オレフィン;8)酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;9)ブタジエンやイソプレンなどのジエン、などが挙げられる。これらの中でも、他のエチレン性不飽和モノマーとして、水酸基を含有するエチレン性不飽和モノマーが含まれていることが好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量は、1000〜500000の範囲内が好ましい。カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量が1000未満の場合、有機無機複合処理膜の造膜性が不十分となり、その結果として耐薬品性、耐熱性、耐高湿性も不十分となるおそれがある。一方、カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量が500000超の場合、有機無機複合処理膜を形成するための樹脂組成物(有機無機複合処理液)の粘度が高くなり、作業性が低下するおそれがある。カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出されうる。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、市販のものを使用してもよい。たとえば、カルボキシル基含有樹脂(A)としては、アロンA30(ポリアクリル酸アンモニウム;東亞合成株式会社)、ジュリマーAC−10L(ポリアクリル酸;日本純薬株式会社)、PIA728(ポリイタコン酸;磐田化学工業株式会社)、アクアリックHL580(ポリアクリル酸;株式会社日本触媒)を用いることができる。
カルボキシル基含有樹脂(A)としては、(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸誘導体またはこれらの組み合わせを、モノマー全体に対して50モル%以上用いた樹脂を用いることが好ましく、構成するモノマーの全てが(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体などのアクリルモノマーで構成されていることがより好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価は、後述するオキサゾリン基含有樹脂、塩基性リン酸化合物および塩基性ジルコニウム化合物との反応性を維持する観点より、樹脂固形分換算で300mgKOH/g以上であることが好ましい。カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価が300mgKOH/g未満の場合、カルボキシル基含有樹脂(A)の反応性が低下してしまい、密着性および耐食性が低下するおそれがある。カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価の上限は、樹脂固形分換算で779mgKOH/gである。
カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)(ならびに任意成分として塩基性ジルコニウム化合物(D))を含む樹脂組成物(有機無機複合処理液)の経時安定性を向上させる観点からは、カルボキシル基含有樹脂(A)のカルボキシル基は、塩基性中和剤により中和されていることが好ましい。塩基性中和剤としては、有機無機複合処理膜に残存しにくく、カルボキシル基含有樹脂(A)とオキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)または塩基性ジルコニウム化合物(D)との架橋反応を阻害するおそれが小さい、揮発性アミンやアンモニアなどを用いることが好ましい。揮発性アミンの例には、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリンなどが含まれる。
[オキサゾリン基含有樹脂(B)]
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、カルボキシル基含有樹脂(A)と共に三次元網目構造の硬化物を形成し、ステンレス鋼板と下塗り塗膜との密着性を向上させる。
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、主鎖がアクリル骨格であり、かつ複数のオキサゾリン基を有するものであれば特に限定されない。
オキサゾリン基含有樹脂(B)中のオキサゾリン基の数は、オキサゾリン価(gsolid/eq.)で定義されうる。「オキサゾリン価」とは、オキサゾリン基1モル当たりの重合体の質量を意味する。重合体中のオキサゾリン基の数が多いと、オキサゾリン価は小さくなる。一方、重合体中のオキサゾリン基の数が少ないと、オキサゾリン価が大きくなる。
オキサゾリン基含有樹脂(B)のオキサゾリン価は、40〜1000g solid/eq.の範囲内が好ましく、120〜240g solid/eq.の範囲内がより好ましい。オキサゾリン価が40g solid/eq.未満の場合、オキサゾリン基含有樹脂(B)の粘度が高くなり、有機無機複合処理膜を形成する際の作業性が低下するおそれがある。一方、オキサゾリン価が1000g solid/eq.超の場合、カルボキシル基含有樹脂(A)との反応が不十分となり、その結果として耐薬品性も不十分となるおそれがある。
オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量は、1000〜500000の範囲内が好ましい。オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量が1000未満の場合、有機無機複合処理膜の造膜性が不十分となり、その結果として耐薬品性も不十分となるおそれがある。一方、オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量が500000超の場合、有機無機複合処理膜を形成するための樹脂組成物(有機無機複合処理液)の粘度が高くなり、作業性が低下するおそれがある。オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出されうる。
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、市販のものを使用してもよい。たとえば、オキサゾリン基含有樹脂(B)としては、エポクロスWS−300、エポクロスWS−500、エポクロスWS−700(いずれも株式会社日本触媒)、NK Linker FX(新中村化学工業株式会社)を用いることができる。
[塩基性リン酸化合物(C)]
塩基性リン酸化合物(C)は、ステンレス鋼板と強固に結合または付着して無機処理膜を形成する。また、塩基性リン酸化合物(C)は、樹脂(A)が有するカルボキシル基と樹脂(B)が有するオキサゾリン基との反応触媒としても機能し、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)の3成分に由来する高架橋密度の耐薬品性に優れた有機無機複合処理膜を形成するために必須の成分である。
リン酸化合物(C)は、塩基性であることが必須である。カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含む樹脂組成物(有機無機複合処理液)に、酸性のリン酸化合物を添加してしまうと、樹脂成分がゲル化してしまうため、好ましくない。
塩基性リン酸化合物(C)は、公知のものを広く使用することができる。アルカリ性水溶液で溶解性を示す塩基性リン酸化合物(C)の例としては、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
[塩基性ジルコニウム化合物(D)]
塩基性ジルコニウム化合物(D)は、樹脂間を金属架橋することで、有機無機複合処理膜の造膜性、バリア性および下塗り塗膜に対する密着性をより向上させる。また、有機無機複合処理膜を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)に塩基性ジルコニウム化合物を添加した場合、ジルコニウム同士が酸素を介して結合して高分子量化するため、有機無機複合処理膜のバリア性がさらに向上する。さらに、塩基性ジルコニウム化合物(D)は、塩基性リン酸化合物(C)と反応することで不溶性のリン酸ジルコニウム塩を形成して、有機無機複合処理膜のバリア性をさらに向上させる。
ジルコニウム化合物(D)は、塩基性リン酸化合物(C)と同様に塩基性であることが必須である。カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含む樹脂組成物(有機無機複合処理液)に、酸性のジルコニウム化合物を添加してしまうと、樹脂成分がゲル化してしまうため、好ましくない。
塩基性ジルコニウム化合物(D)は、公知のものを広く使用することができる。塩基性ジルコニウム化合物(D)の例としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムリチウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、水酸化ジルコニウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
有機無機複合処理液は、水性溶媒に、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を分散または溶解させたものである。有機無機複合処理液には、さらに塩基性ジルコニウム化合物(D)を添加してもよい。上記(A)〜(D)の各成分の濃度は、有機無機複合処理膜を形成したときに前述の含有量となるように調整される。水性溶媒は、通常は水であるが、有機無機複合処理液の物性を調整するためにアルコールが添加されていてもよい。水性溶媒に添加されうるアルコールとしては、公知のアルコールを広く使用することができる。添加されうるアルコールの例としては、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4のアルコールが挙げられる。これらのアルコールの添加量は、水に対して20質量%以下であればよく、1〜5質量%程度が好ましい。また、有機無機複合処理液のpHは7以上の中性からアルカリ性が好ましい。pHが7未満の場合は樹脂成分が経時でゲル化してしまい、所望の品質が得られなくなってしまう。有機無機複合処理液のpH調整は、アルカリ、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、アルカリ、アルカリ土類、アンモニウムの塩のうち、塩基性を示す化合物やアンモニア、アミン類などが適用でき、なかでも、カルボキシル基含有樹脂(A)とオキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)または塩基性ジルコニウム化合物(D)との架橋反応を阻害するおそれが小さい、揮発性アミンやアンモニアなどを用いることが好ましい。揮発性アミンの例には、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリンなどが含まれる。
(3)下塗り塗膜(第1塗膜)
下塗り塗膜は、有機無機複合処理膜の表面に形成されている。下塗り塗膜は、ステンレス鋼板の耐食性を向上させるとともに、有機無機複合処理膜と上塗り塗膜との密着性を向上させる。
下塗り塗膜は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含有する。これらの中では、有機無機複合処理膜に対する下塗り塗膜の密着性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂は、分子内にエステル基およびカルボキシル基を有しており、有機無機複合処理膜中のカルボキシ基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、塩基性リン酸化合物または塩基性ジルコニウム化合物と化学反応を起こすため、有機無機複合被膜と良好に密着する。
アクリル樹脂を下塗り塗膜とする塗装ステンレス鋼板は、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして用いられる場合、極めて優れた耐熱水性を有する。シリンダーヘッドガスケットは、高温において、クーラント液(主成分はエチレングリコール)や水に接触する。一般的に、エチレングリコールは、水よりも下塗り塗膜を溶解させやすい。しかしながら、下塗り塗膜をアクリル樹脂とする塗装ステンレス鋼板は、有機無機複合処理膜と強固に密着しているため、高温下でエチレングリコールと接触させられても、下塗り塗膜は溶解しないと考えられる。
アクリル樹脂の種類は、特に限定されない。アクリル樹脂の種類の例には、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸またはメタアクリル酸エステルの重合体が含まれる。エポキシ樹脂の種類も、特に限定されず、エポキシ基を含む化合物の重合体であればよい。フェノール樹脂の種類も、フェノール骨格を有すれば、特に限定されない。フェノール樹脂の例には、酸触媒下で合成したノボラック型フェノール樹脂やアルカリ触媒下で合成したレゾール型フェノール樹脂が含まれる。
また、これらの樹脂は、架橋剤により架橋されていてもよい。下塗り塗膜の膜厚は、特に限定されないが、通常0.05〜5.0μmの範囲内である。
(4)上塗り塗膜(第2塗膜)
上塗り塗膜は、下塗り塗膜の表面に形成されている。上塗り塗膜は、塗装ステンレス鋼板の最表面に位置し、本発明の塗装ステンレス鋼板を自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットに使用する場合にシール性を向上させる。
上塗り塗膜は、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含有する。フッ素ゴムとしては、公知のフッ素ゴムを広く使用することができる。フッ素ゴムは、耐熱性および耐薬品性の観点から、フッ化ビニリデン−フルオロプロペン共重合体をポリオール架橋したフッ素ゴムであることが好ましい。ニトリル−ブタジエンゴムの種類は、特に限定されない。ニトリル−ブタジエンゴムの種類の例には、低ニトリルタイプ(アクリロニトリルの含有量が25質量%未満)や中ニトリルタイプ(アクリロニトリルの含有量が25質量%以上、35質量%以下)、高ニトリルタイプ(アクリロニトリルの含有量が35質量%超)などが含まれる。
上塗り塗膜の膜厚は、特に限定されないが、通常10〜50μmの範囲内である。
2.製造方法
本発明の塗装ステンレス鋼板の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法により製造されうる。
本発明の塗装ステンレス鋼板の製造方法は、1)ステンレス鋼板を準備する第1工程と、2)ステンレス鋼板の表面に、有機無機複合処理膜を形成する第2工程と、3)有機無機複合処理膜の表面に、下塗り塗膜(第1塗膜)を形成する第3工程と、4)下塗り塗膜の表面に上塗り塗膜(第2塗膜)を形成する第4工程とを有する。
第1工程では、前述したSUS301 Hをステンレス鋼板として準備する。
第2工程では、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)(および塩基性ジルコニウム化合物(D))を含有する樹脂組成物(有機無機複合処理液)をステンレス鋼板の表面に塗布し、加熱乾燥させる。この工程により、ステンレス鋼板の表面に有機無機複合処理膜が形成される。
ステンレス鋼板の表面に樹脂組成物を塗布する場合、ステンレス鋼板の表面は、清浄化されていることが好ましい。ステンレス鋼板の表面を清浄化する方法は、特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。清浄化方法の例には、純水洗浄、アルカリ洗浄、酸洗浄、洗剤洗浄、溶剤洗浄、コロナ放電処理などが含まれる。これらの方法は、2種類以上を組み合わせてもよい。
樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。塗布方法の例には、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、流しかけ処理法、ダイコート法、ナイフコート法などが含まれる。塗布量を厳密に管理する観点からは、ロールコート法およびバーコート法が特に好ましい。
加熱乾燥は、樹脂組成物中の水性溶媒を蒸発させるため、および上記(A)〜(D)の各成分の反応を促進して、有機無機複合処理層を不溶化させるために行われる。加熱乾燥の方法は、電気オーブンによる加熱や、赤外オーブンによる加熱などの公知の方法を広く使用することができる。加熱温度は、80〜200℃の範囲内が好ましく、100〜150℃の範囲内がより好ましい。加熱時間は、加熱温度や、樹脂組成物の塗布量に応じて適宜調整すればよい。
第3工程では、アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含有する下塗り塗料を、有機無機複合処理膜の表面に塗布し、乾燥させる。この工程により、有機無機複合処理膜の表面に下塗り塗膜が形成される。
下塗り塗料を塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。塗布方法の例には、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、流しかけ処理法、ダイコート法、ナイフコート法などが含まれる。塗布量を厳密に管理する観点からは、ロールコート法およびバーコート法が特に好ましい。
第4工程では、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含有する上塗り塗料を、下塗り塗膜の表面に塗布し、加熱乾燥させる。この工程により、下塗り塗膜の表面に上塗り塗膜が形成される。
上塗り塗料を塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。塗布方法の例には、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、流しかけ処理法、ダイコート法、ナイフコート法などが含まれる。塗布量を厳密に管理する観点からは、ロールコート法およびバーコート法が特に好ましい。
加熱乾燥は、上塗り塗料に含まれる高分子を架橋するために行われる(加硫工程)。加熱乾燥の方法は、電気オーブンによる加熱や、赤外オーブンによる加熱などの公知の方法を広く使用することができる。加熱温度は、150〜300℃の範囲内が好ましい。加熱時間は、加熱温度や、上塗り塗料の塗布量に応じて適宜調整すればよい。
以上の手順により、本発明の塗装ステンレス鋼板を製造することができる。
3.自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット
本発明の自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット(以下、単にガスケットともいう)は、前述した塗装ステンレス鋼板を有している。「自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット」とは、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの間をシールするための部材である。
ガスケットは、塗膜が形成されていないステンレス鋼板と、有機無機複合処理膜、下塗り塗膜および上塗り塗膜がステンレス鋼板の両面に形成された塗装ステンレス鋼板(両面ステンレス鋼板)とを有していることが好ましい。たとえば、ガスケットは、塗膜が形成されていないステンレス鋼板の両面に、両面塗装ステンレス鋼板を接着されることで形成されうる。ガスケットの形状は、特に限定されず、使用されるエンジンの形状に応じて適宜設計される。
以上のように、本発明の塗装ステンレス鋼板およびこれを用いた自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットは、ステンレス鋼板の表面と下塗り塗膜との間に、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理膜を有しているため、高温(例えば140℃)かつ高湿環境下においても長期間(例えば1500時間)に亘り塗膜密着性を維持することができる。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.塗装ステンレス鋼板の作製
ステンレス鋼板として、板厚0.2mmのSUS301 Hを準備した。各ステンレス鋼板をアルカリ脱脂(pH12、液温60℃、浸漬時間30秒)した後、各ステンレス鋼板の表面に処理液(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)をバーコーターで塗布し、到達板温が120℃になるように10秒間加熱して、各ステンレス鋼板の表面に化成処理膜(有機無機複合処理膜、有機処理膜または無機処理膜)を形成した。
実施例1〜7では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を含有する有機無機複合処理液を塗布した。実施例8〜15および比較例4〜6では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)および塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有する有機無機複合処理液を塗布した(表1参照)。
一方、比較例1では、処理液として、塩基性リン酸化合物(C)および塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有する無機処理液を塗布した。比較例2では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含有する有機処理液を塗布した。比較例3では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有する有機無機複合処理液を塗布した(いずれも表1参照)。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、以下の手順で調製した。まず、加熱装置および攪拌装置を有する4ツ口ベッセルにイオン交換水775質量部を仕込み、攪拌および窒素還流を行いながらイオン交換水を80℃まで加熱した。次いで、加熱、攪拌および窒素還流を行いながら、アクリル酸120質量部、アクリル酸エチル20質量部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート60質量部の混合モノマー液と、過硫酸アンモニウム1.6質量部と、イオン交換水23.4質量部との混合液を滴下漏斗を用いて3時間かけて滴下した。滴下終了後も、加熱、攪拌および窒素還流を2時間継続した。その後、加熱および窒素還流を止め、攪拌しながら内容液を30℃まで冷却した。次いで、25質量%アンモニア水113質量部およびイオン交換水887質量部を加えた。20分間攪拌した後、200メッシュのふるいを用いて濾過し、無色透明のカルボキシル基含有樹脂(A)の水溶液を得た。得られたカルボキシル基含有樹脂(A)の水溶液の不揮発分は、10質量%であった。また、カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価は、固形分換算で467mgKOH/gであった。カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量は、58000であった。
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、エポクロスWS−300(B1)(オキサゾリン価:120g solid/eq.、質量平均分子量:120000;株式会社日本触媒)を使用した。塩基性リン酸化合物(C)は、リン酸二水素ナトリウムを使用した。塩基性ジルコニウム化合物(D)は、炭酸ジルコニウムナトリウムを使用し、pHは8.5であった。
表1に、各処理液(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)をステンレス鋼板の表面に塗布したときの、塗布層1mあたりの各成分の含有量を示す。塩基性リン酸化合物(C)および塩基性ジルコニウム化合物(D)の含有量については、蛍光X線解析装置(AXIS−NOVA;株式会社島津製作所)を用いて、各処理液を塗布したステンレス鋼板における塗布層1mあたりのリン量、ジルコニウム量を測定した。また、樹脂成分の(A)+(B)合計量については、蛍光X線解析装置を用いて、各処理液を塗布したステンレス鋼板における塗布層1mあたりの炭素量を測定し、換算係数を2倍として炭素量から換算して求めた。
Figure 0005936881
また、特許文献1および特許文献2に記載の発明と比較するため、特許文献1および特許文献2に記載の化成処理皮膜も形成した(比較例7〜10)。比較例7では、特許文献1の実施例2に記載の手順で、オキシ硝酸ジルコニウム、フェノール樹脂およびコロイダルシリカを含有する化成処理皮膜を形成した。比較例8では、特許文献1の実施例3に記載の手順で、オキシ硝酸ジルコニウム、エポキシ系シランカップリング剤およびコロイダルシリカを含有する化成処理皮膜を形成した。比較例9では、特許文献2の実施例3に記載の手順で、硝酸セリウムを含有する化成処理皮膜を形成した。比較例10では、特許文献2の実施例6に記載の手順で、硝酸セリウムおよびコロダイルシリカを含有する化成処理皮膜を形成した(表2参照)。
オキシ硝酸ジルコニウムは、ジルコゾールN(第一稀元素化学株式会社)を使用した。フェノール樹脂は、レヂトップPL−4667(群栄化学工業株式会社)を使用した。コロイダルシリカは、スノーテックスOS(日産化学株式会社)を使用した。エポキシ系シランカップリング剤は、KBM−403(信越化学株式会社)を使用した。硝酸セリウムは、硝酸セリウム・六水和物(和光純薬工業株式会社)を使用した。
表2に、化成処理皮膜1mあたりの各成分の含有量を示す。各成分の含有量については、蛍光X線解析装置および赤外分光分析装置を用いて測定した。
Figure 0005936881
各化成処理膜を形成したステンレス鋼板の表面に、乾燥塗膜(下塗り塗膜)の厚みが1μmとなるように、アクリル系塗料(アクリディック A−405;DIC株式会社)をバーコーターで塗布した。塗布後、180℃のオーブンで10分間乾燥させて、厚みが3μmの下塗り塗膜を形成した。
下塗り塗膜を形成したステンレス鋼板の表面に、フッ素系ゴム塗料(ダイエルDPA−382;ダイキン工業株式会社)をバーコーターで塗布した。塗布後、250℃のオーブンで30分間乾燥させて、厚みが25μmの上塗り塗膜を形成した。
2.初期の塗膜密着性の評価
ステンレス鋼板に対する塗膜の初期の密着性は、各塗装ステンレス鋼板の180℃曲げ加工を行い、塗膜の剥離の有無により評価した。具体的には、塗装面が外側になるように塗装ステンレス鋼板を180度曲げ、曲げ部に対してセロハンテープ剥離試験を行った。曲げ部において、塗膜の剥離が観察されなかったものを「○」と評価し、セロハンテープの貼り付け面積に対する剥離面積が10%以下のものを「△」と評価し、剥離面積が10%超のものを「×」と評価した。
3.熱水浸漬試験
曲げ加工を施していない各塗装ステンレス鋼板を、140℃の熱水に500時間、1000時間または1500時間浸漬した。浸漬後の各塗装ステンレス鋼板に対して、JIS K5600−5−6に準拠した碁盤目試験を実施した。具体的には、塗装ステンレス鋼板の表面に、1mm間隔で100個の枡目ができるようにクロスカットを行い、当該部分にテープを貼り付けた。テープ剥離後、塗膜が剥離しているか否かを観察した。耐熱水性は、100個の枡目に対して塗膜が剥離しなかった枡目の数を数えて評価した。
4.熱クーラント液浸漬試験
曲げ加工を施していない塗装ステンレス鋼板を、140℃のクーラント液(ロングライフクーラント液;トヨタ株式会社:純水=1:1)に500時間、1000時間または1500時間浸漬した。浸漬後の各塗装ステンレス鋼板について、3.熱水浸漬試験と同様に、JIS−K5600−5−6に準拠した碁盤目試験を実施し、塗膜の残存率により耐熱クーラント液性を評価した。
5.結果
各ステンレス鋼板について、初期の塗膜密着性の評価結果、熱水浸漬試験および熱クーラント浸漬試験の試験結果を表3に示す。
Figure 0005936881
(1)塗膜密着性について
比較例1の塗装ステンレス鋼板では、無機処理液を塗布し、無機処理膜を形成しているため、ステンレス鋼板に対する塗膜の密着性が悪かった。一方、実施例1〜15および比較例2〜6の塗装ステンレス鋼板では、少なくともカルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含有する処理液を塗布することにより、有機無機複合処理膜が形成されているため、ステンレス鋼板に対する塗膜の初期の密着性が良好であった。
(2)熱水浸漬試験および熱クーラント浸漬試験について
比較例1の塗装ステンレス鋼板では、無機処理膜が形成され、ステンレス鋼板に対する塗膜の密着性が悪かったため、耐熱水性および耐熱クーラント液性が悪かった。比較例2の塗装ステンレス鋼板では、有機処理膜が形成されているため、耐熱水性および耐熱クーラント液性が悪かった。比較例3の塗装ステンレス鋼板では、有機無機複合処理膜が形成されているが、有機無機複合処理液中の塩基性リン酸化合物(C)に代えて、塩基性ジルコニウム化合物が添加されているため、耐熱水性および耐熱クーラント液性が悪かった。比較例4の塗装ステンレス鋼板では、カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)の合計量に対するオキサゾリン基含有樹脂(B)の割合が所定の範囲内になかったため、耐熱水性および耐熱クーラント液性が悪かった。比較例5の塗装ステンレス鋼板では、カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)の合計量が所定の範囲内になかったため、耐熱水性および耐熱クーラント液性が悪かった。比較例6の塗装ステンレス鋼板では、有機無機複合処理膜のリン成分のリン換算量が所定の範囲内になかったため、耐熱水性および耐熱クーラント液性が悪かった。一方、実施例1〜15の塗装ステンレス鋼板では、耐熱水性および耐熱クーラント液性が良好であった。特に、所定量のジルコニウム成分を含む有機無機複合処理膜を形成した実施例8〜14の塗装ステンレス鋼板では、耐熱水性および耐熱クーラント液性が特に良好であった。
(3)従来技術との比較
比較例7〜10の塗装ステンレス鋼板では、140℃と非常に高温であっても、500時間までは、耐熱水性および耐熱クーラント液性は、おおむね良好であった、しかし、今回の評価試験のような非常に過酷な条件(140℃、1000時間または1500時間)では、ゴム塗膜は、経時的に剥離してしまった。
以上の結果から、本発明の塗装ステンレス鋼板は、塗膜密着性、耐熱水性および耐熱クーラント液性のすべてに優れていることがわかる。また、本発明の塗装ステンレス鋼板は、特許文献1および特許文献2に記載の塗装ステンレス鋼板と比較して、より長期間に亘り塗膜密着性を維持できることがわかる。
本発明の塗装ステンレス鋼板は、例えば、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットの素材として有用である。

Claims (4)

  1. ステンレス鋼板と、
    前記ステンレス鋼板の表面に形成され、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理膜と、
    前記有機無機複合処理膜の表面に形成され、アクリル樹脂を含有する第1塗膜と、
    前記第1塗膜の表面に形成され、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含有する第2塗膜と、
    を有し、
    前記有機無機複合処理膜は、前記硬化物の樹脂成分を5〜800mg/m含有し、かつ前記硬化物のリン成分をリン換算で0.1〜100mg/m含有し、
    前記樹脂組成物における、前記カルボキシル基含有樹脂および前記オキサゾリン基含有樹脂の合計量に対する前記オキサゾリン基含有樹脂の割合は、2.0〜50.0質量%の範囲内である、
    塗装ステンレス鋼板。
  2. 前記カルボキシル基含有樹脂の酸価は、樹脂固形分換算で300mgKOH/g以上である、請求項1に記載の塗装ステンレス鋼板。
  3. 前記樹脂組成物は、塩基性ジルコニウム化合物をさらに含有し、
    前記有機無機複合処理膜は、前記硬化物のジルコニウム成分をジルコニウム換算で0.5〜60mg/m含有する、
    請求項1に記載の塗装ステンレス鋼板。
  4. 請求項1に記載の塗装ステンレス鋼板を有する、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット。
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