本明細書には、LPLAT活性を有するポリペプチド(例えば、Ale1、LPAAT、及びLPCAT)の発現に基づき、長鎖多価不飽和脂肪酸[「LC−PUFA」]を産生する組換え油性微生物宿主細胞におけるC18からC20への伸長変換効率及び/又はΔ4不飽和化変換効率を増加させる方法が記載される。C18からC20への伸長及び/又はΔ4不飽和化の変換効率を増加させることにより、LC−PUFAエイコサペンタエン酸[「EPA」;シス−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸]及び/又はドコサヘキサエン酸[「DHA」;シス−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸]の濃度が、全脂肪酸の重量パーセントとして増加した。組換え宿主細胞もまた特許請求される。
EPA及びDHAなどのPUFA(又はその誘導体)は、経静脈栄養を受けている患者向けに、又は栄養失調症の予防若しくは治療のため、食事の代用品、又はサプリメント、特に人工栄養乳として使用されている。或いは、精製PUFA(又はその誘導体)は、通常の使用で摂取者が食事補給に望ましい量を取り込み得るように配合されて調理油、油脂又はマーガリン中に加えられることもある。PUFAはまた、人工栄養乳、栄養サプリメント又は他の食製品および飲料製品中に加えられることもあり、心血管保護性、抗うつ性、抗炎症性又はコレステロール降下性の作用物質としての使用も見られ得る。その組成物は、ヒト又は獣医学の医薬用途に使用されてもよい。
本明細書に引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、全体として参照により援用される。
本開示では、多数の用語及び略称が使用される。以下の定義を提供する。
「オープンリーディングフレーム」は「ORF」と略される。
「ポリメラーゼ連鎖反応」は「PCR」と略される。
「American Type Culture Collection」は「ATCC」と略される。
「多価不飽和脂肪酸」は「PUFA」と略される。
「ジアシルグリセロールアセチルトランスフェラーゼ」は「DAG AT」または「DGAT」と略される。
「トリアシルグリセロール」は「TAG」と略される。
「補酵素A」は「CoA」と略される。
「全脂肪酸」は「TFA」と略される。
「脂肪酸メチルエステル」は「FAME」と略される。
「乾燥細胞重量」は「DCW」と略される。
「長鎖多価不飽和脂肪酸」は「LC−PUFA」と略される。
「アシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ」又は「リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ」は「LPLAT」と略される。
用語「発明」又は「本発明」は、本明細書で使用されるとき、本発明の任意の一つの特定の実施形態に限定することを意図するものではなく、概して、特許請求の範囲及び本明細書に記載されるとおりの本発明のいかなる実施形態にも適用される。
用語「グリセロリン脂質」は、脂肪酸がsn−1位及びsn−2位にあり、且つ極性頭部基(例えば、リン酸、コリン、エタノールアミン、グリセロール、イノシトール、セリン、カルジオリピン)がリン酸ジエステル結合を介してsn−3位につながったグリセロールコアを有する幅広い分子クラスを指す。従ってグリセロリン脂質には、ホスファチジルコリン[「PC」]、ホスファチジルエタノールアミン[「PE」]、ホスファチジルグリセロール[「PG」]、ホスファチジルイノシトール[「PI」]、ホスファチジルセリン[「PS」]及びカルジオリピン[「CL」]が含まれる。
「リゾリン脂質」は、グリセロリン脂質から、sn−2位の脂肪酸を脱アシル化することにより誘導される。リゾリン脂質としては、例えば、リゾホスファチジン酸[「LPA」]、リゾホスファチジルコリン[「LPC」]、リゾホスファチジルエタノールアミン[「LPE」]、リゾホスファチジルセリン[「LPS」]、リゾホスファチジルグリセロール[「LPG」]及びリゾホスファチジルイノシトール[「LPI」]が挙げられる。
用語「アシルトランスフェラーゼ」は、アシル基をドナー脂質からアクセプター脂質分子に転移させることに関与する酵素を指す。
用語「アシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ」又は「リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ」[「LPLAT」]は、sn−2位で様々なリゾリン脂質基質をアシル化する能力を有する幅広いアシルトランスフェラーゼクラスを指す。より具体的には、LPLATは、LPAのPAへの変換を触媒する能力を有するLPAアシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]、LPCのPCへの変換を触媒する能力を有するLPCアシルトランスフェラーゼ[「LPCAT」]、LPEのPEへの変換を触媒する能力を有するLPEアシルトランスフェラーゼ[「LPEAT」]、LPSのPSへの変換を触媒する能力を有するLPSアシルトランスフェラーゼ[「LPSAT」]、LPGのPGへの変換を触媒する能力を有するLPGアシルトランスフェラーゼ[「LPGAT」]、及びLPIのPIへの変換を触媒する能力を有するLPIアシルトランスフェラーゼ[「LPIAT」]を含む。LPLAT命名法の標準化は正式には行われていないため、当該技術分野では他の様々な呼称が用いられる(例えば、LPAATはまたアシルCoA:1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸2−O−アシルトランスフェラーゼ、1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ及び/又は1−アシルグリセロールリン酸アシルトランスフェラーゼ[「AGPAT」]とも称されており、及びLPCATは多くの場合にアシルCoA:1−アシルリゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼとも称される)。加えて、一部のLPLAT、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1(ORF YOR175C;配列番号9)が幅広い特異性を有し、従って単一の酵素が、LPAAT、LPCAT及びLPEAT反応を含むいくつかのLPLAT反応を触媒する能力を有し得る点に留意することが重要である(Tamaki,H.ら、J.Biol.Chem.、282:34288〜34298頁(2007年);Stahl,U.ら、FEBS Letters、582:305〜309頁(2008年);Chen,Q.ら、FEBS Letters、581:5511〜5516頁(2007年);Benghezal,M.ら、J.Biol.Chem.、282:30845〜30855頁(2007年);Riekhofら、J.Biol.Chem.、282:28344〜28352頁(2007年))。
より具体的には、用語「少なくともリゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ(lysophosphtidylcholine acyltransferase)[「LPCAT」]活性を有するポリペプチド」は、反応:アシルCoA+1−アシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン → CoA+1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの触媒能を有する酵素(EC 2.3.1.23)を指し得る。2個の構造的に異なるタンパク質ファミリー、すなわちLPAATタンパク質ファミリー(Hishikawaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、105:2830〜2835頁(2008年);国際公開第2004/076617号パンフレット)及びALE1タンパク質ファミリー(Tamaki,H.ら、上記;Stahl,U.ら、上記;Chen,Q.ら、上記;Benghezal,M.ら、上記;Riekhofら、上記)におけるLPCAT活性について記載がなされている。
用語「LPCAT」は、1)LPCAT活性を有し(EC 2.3.1.23)、且つClustal Wアラインメント法に基づき配列番号9(ScAle1)及び配列番号11(YlAle1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも約45%のアミノ酸同一性を共有し;及び/又は、2)LPCAT活性を有し(EC 2.3.1.23)、且つM(V/I)LxxKL(配列番号3)、RxKYYxxW(配列番号4)、SAxWHG(配列番号5)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼ[「MBOAT」]タンパク質ファミリーモチーフを有するALE1タンパク質ファミリーのタンパク質を指す。ALE1ポリペプチドの例としては、ScAle1及びYlAle1が挙げられる。
用語「ScAle1」は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から単離された、配列番号8として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPCAT(配列番号9)を指す(ORF「YOR175C」)。対照的に、用語「ScAle1S」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、S.セレビシエ(S.cerevisiae)に由来する合成LPCAT(すなわち、配列番号12及び13)を指す。
用語「YlAle1」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離された、配列番号10として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPCAT(配列番号11)を指す。
用語「LPCAT」はまた、LPCAT活性を有し(EC 2.3.1.23)、且つClustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列(CeLPCAT)と比較したとき少なくとも約90%のアミノ酸同一性を共有するタンパク質も指す。
用語「CeLPCAT」は、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)から単離された、配列番号1として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPCAT酵素(配列番号2)を指す。対照的に、用語「CeLPCATS」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、C.エレガンス(C.elegans)に由来する合成LPCAT(すなわち、配列番号6及び7)を指す。
用語「少なくともリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]活性を有するポリペプチド」は、アシルCoA+1−アシル−sn−グリセロール3−リン酸 → CoA+1,2−ジアシル−sn−グリセロール3−リン酸の反応の触媒能を有する酵素(EC 2.3.1.51)を指し得る。
用語「LPAAT」は、1)LPAAT活性を有し、且つClustal Wアラインメント法に基づき配列番号15(MaLPAAT1)、配列番号17(YlLPAAT1)及び配列番号18(ScLPAAT1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも約43.9%のアミノ酸同一性を共有し;及び/又は、2)LPAAT活性を有し、且つNHxxxxD(配列番号19)及びEGTR(配列番号20)からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフを有するタンパク質を指す。LPAATポリペプチドの例としては、ScLPAAT、MaLPAAT1及びYlLPAAT1が挙げられる。
用語「ScLPAAT」は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から単離されたLPAAT(配列番号18)を指す(ORF「YDL052C」)。
用語「MaLPAAT1」は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)から単離された、配列番号14として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPAAT(配列番号15)を指す。対照的に、用語「MaLPAAT1S」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、M.アルピナ(M.alpina)に由来する合成LPAAT(すなわち、配列番号21及び22)を指す。
用語「YlLPAAT1」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離された、配列番号16として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPAAT(配列番号17)を指す。
用語「オルソログ」は、系統樹解析の一つのクレードにあることによって明らかなとおり共通の祖先タンパク質から進化した、且つ同じ酵素反応を触媒する異なる種由来の相同タンパク質を指す。
用語「保存ドメイン」又は「モチーフ」は、進化的に関連性を有するタンパク質のアラインメントされた配列に沿った特定の位置に保存されている一組のアミノ酸を意味する。他の位置にあるアミノ酸は相同タンパク質間で異なり得るが、特定の位置で高度に保存されたアミノ酸は、タンパク質の構造、安定性、又は活性に不可欠なアミノ酸を示す可能性が高い。これらのアミノ酸はタンパク質相同体ファミリーのアラインメントされた配列におけるそれらの高い保存度によって識別されるため、新しく決定された配列を有するタンパク質が既に同定されているタンパク質ファミリーに属するかどうかを判断するための識別子、すなわち「シグネチャ」として用いることができる。
用語「油」は、25℃で液体であり、且つ通常は多価不飽和の脂質物質を指す。油性生物においては、油が全脂質の大部分を構成する。「油」は、主としてトリアシルグリセロール[「TAG」]からなるが、他の中性脂質、リン脂質及び遊離脂肪酸もまた含み得る。油中の脂肪酸組成と全脂質の脂肪酸組成とは概して同様である;従って、全脂質中のPUFA濃度の上昇又は低下は油中のPUFA濃度の上昇又は低下に対応し、及び逆も同様であり得る。
「中性脂質」は、一般に脂質体の細胞中に蓄積脂肪として見られる脂質を指し、細胞内pHでは脂質は荷電基を含まないため、このように呼ばれる。概して、中性脂質は完全に非極性であり、水に対する親和性を有しない。中性脂質は、概してグリセロールの脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、及び/又はトリエステルを指し、それぞれモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール又はトリアシルグリセロールとも、又はまとめてアシルグリセロールとも称される。アシルグリセロールから遊離脂肪酸を放出させるには加水分解反応が起こらなければならない。
用語「トリアシルグリセロール」[「TAG」]は、グリセロール分子とエステル化された3個の脂肪酸アシル残基から構成される中性脂質を指す。TAGは、LC−PUFA及び飽和脂肪酸、並びにより短鎖の飽和及び不飽和脂肪酸を含み得る。
本明細書において用語「全脂肪酸」[「TFA」]は、例えばバイオマス又は油であってもよい所与の試料において塩基エステル交換法(当該技術分野において公知のとおり)により脂肪酸メチルエステル[「FAME」]に誘導体化され得る全ての細胞脂肪酸の合計を指す。従って、全脂肪酸には、中性脂質画分(ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール及びTAGを含む)及び極性脂質画分(例えば、PC及びPE画分を含む)の脂肪酸が含まれ、しかし遊離脂肪酸は含まれない。
細胞の「全脂質含量」という用語は、乾燥細胞重量[「DCW」]の百分率としてのTFAの尺度であり、しかしながら全脂質含量は、DCWの百分率としてのFAMEの尺度[「FAME % DCW」]として近似することができる。従って、全脂質含量[「TFA % DCW」]は、例えば100ミリグラムのDCW当たりの全脂肪酸のミリグラム数と等価である。
全脂質中の脂肪酸の濃度は、本明細書では、TFAの重量パーセント[「% TFA」]、例えば100ミリグラムのTFA当たりの所与の脂肪酸のミリグラム数として表される。本明細書の開示において特に具体的に指定しない限り、全脂質に対する所与の脂肪酸の百分率を参照するとき、それは% TFAとしての脂肪酸の濃度に等しい(例えば、全脂質の%EPAは、EPA % TFAに等しい)。
ある場合には、細胞中の所与の1つ又は複数の脂肪酸の含量を、乾燥細胞重量のその重量パーセント[「% DCW」]として表すことが有用である。従って、例えば、EPA % DCWは、以下の式、すなわち(EPA % TFA)*(TFA % DCW)]/100に従い決定され得る。しかしながら、乾燥細胞重量のその重量パーセント[「% DCW」]としての細胞中の所与の1つ又は複数の脂肪酸の含量は、(EPA % TFA)*(FAME % DCW)]/100として近似することもできる。
用語「脂質プロファイル」と「脂質組成」とは同義であり、特定の脂質画分中、例えば全脂質中又は油中に含まれる個別の脂肪酸の量を指し、ここでその量はTFAの重量パーセントとして表される。混合物中の各個別の脂肪酸の百分率の合計は100でなければならない。
用語「脂肪酸」は、約C12〜C22の様々な鎖長の長鎖脂肪族系酸(アルカン酸)を指し、しかしながらより長い鎖長及びより短い鎖長の双方の酸が公知である。大部分の鎖長はC16〜C22である。脂肪酸の構造は「X:Y」の単純な表記法により表され、ここではXが特定の脂肪酸中の炭素[「C」]原子の総数であり、及びYが二重結合の数である。「飽和脂肪酸」とそれに対する「不飽和脂肪酸」、「一価不飽和脂肪酸」とそれに対する「多価不飽和脂肪酸」[「PUFA」]、及び「オメガ6脂肪酸」[「ω−6」又は「n−6」]とそれに対する「オメガ3脂肪酸」[「ω−3」又は「n−3」]との違いに関するさらなる詳細は、本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許第7,238,482号明細書に提供される。
本明細書においてPUFAを記載するために使用される命名法を表3に示す。表題「省略表記」の列に、オメガ参照体系を使用して、炭素数、二重結合数、及びその目的上番号1が付されるオメガ炭素から数えてオメガ炭素に最も近い二重結合の位置を示す。表のその他の部分では、ω−3及びω−6脂肪酸及びそれらの前駆体の一般名、本明細書全体を通じて使用される略称、並びに各化合物の化学名を要約する。
用語「長鎖多価不飽和脂肪酸」[「LC−PUFA」]は、C
20又はそれ以上の鎖長を有するPUFAを指す。従って、用語LC−PUFAは、少なくともEDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA、DTA、DPAn−6、DPA及びDHAを含む。
生化学的意味における代謝経路、又は生合成経路は、細胞によって利用若しくは貯蔵される代謝産物の形成、又は別の代謝経路の開始(このときフラックス発生段階と称される)のいずれかを実現するための、酵素の触媒により細胞内で順々に起こる一連の化学反応と見なすことができる。これらの経路の多くは複雑で、所望の正確な化学構造を有する産物に作り上げるには出発物質の段階的な修飾を伴う。
用語「PUFA生合成経路」は、オレイン酸をLA、EDA、GLA、DGLA、ARA、DRA、DTA及びDPAn−6などのω−6脂肪酸並びにALA、STA、ETrA、ETA、EPA、DPA及びDHAなどのω−3脂肪酸に変換する代謝過程を指す。この過程については文献に十分な記載がある(例えば、国際公開第2006/052870号パンフレットを参照のこと)。要約すれば、この過程には、小胞体膜に存在する「PUFA生合成経路酵素」と称される一連の特定の伸長酵素及び不飽和化酵素を介した、炭素原子の付加による炭素鎖の伸長及び二重結合の付加による分子の不飽和化が関わる。より具体的には、「PUFA生合成経路酵素」は、PUFAの生合成に関連する以下の酵素(及び前記酵素をコードする遺伝子)のいずれかを指す:Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ及び/又はC20/22エロンガーゼ。
用語「デサチュラーゼ」は、対象の脂肪酸又は前駆体が産生されるように1つ又は複数の脂肪酸に不飽和化、すなわち二重結合の導入をもたらすことができるポリペプチドを指す。本明細書全体を通じ、オメガ参照体系を使用して特定の脂肪酸を参照するが、デルタ体系を使用して基質のカルボキシル末端から数えることによりデサチュラーゼの活性を示すことがより好都合である。本明細書において特に関心対象となるのは、Δ8デサチュラーゼ;Δ5デサチュラーゼ;Δ17デサチュラーゼ;Δ12デサチュラーゼ;Δ15デサチュラーゼ;Δ9デサチュラーゼ;Δ6デサチュラーゼ;及びΔ4デサチュラーゼである。Δ17デサチュラーゼは、及びΔ15デサチュラーゼもまた、ω−6脂肪酸をそのω−3カウンターパートに変換するそれらの能力に基づき「オメガ−3デサチュラーゼ」、「w−3デサチュラーゼ」、及び/又は「ω−3デサチュラーゼ」と称されることもある。
用語「エロンガーゼ」は、そのエロンガーゼが作用する脂肪酸基質より炭素2個分長い酸が産生されるように脂肪酸炭素鎖を伸長させることのできるポリペプチドを指す。この伸長プロセスは、国際公開第2005/047480号パンフレットに記載されるとおり、脂肪酸シンターゼと関連した多段階の機序で起こる。エロンガーゼ系により触媒される反応の例は、GLAからDGLAへの、STAからETAへの、ARAからDTAへの、及びEPAからDPAへの変換である。一般に、エロンガーゼの基質選択性はいくらか幅が広く、鎖長と不飽和の程度及び種類との双方により区別される。例えば、C14/16エロンガーゼはC14基質(例えば、ミリスチン酸)を利用し、C16/18エロンガーゼはC16基質(例えば、パルミチン酸)を利用し、C18/20エロンガーゼはC18基質(例えGLA、ALA、GLA、STA)を利用し、及びC20/22エロンガーゼ(Δ5エロンガーゼ又はC20エロンガーゼは同義的に使用し得る)はC20基質(例えば、ARA、EPA)を利用する。本明細書の目的上、2つの異なる種類のC18/20エロンガーゼが定義され得る:Δ6エロンガーゼはGLA及びSTAのそれぞれDGLA及びETAへの変換を触媒し、一方Δ9エロンガーゼはLA及びALAのそれぞれEDA及びETrAへの変換を触媒することができる。
用語「変換効率」及び「基質変換率」は、デサチュラーゼ、又はエロンガーゼなどの特定の酵素が基質を産物に変換する効率を指す。変換効率は、以下の式:([産物]/[基質+産物])*100に従い計測され、式中「産物」は、直接の産物及びそれから誘導された経路中の全ての産物を含む。
用語「C18からC20への伸長変換効率」は、C18//20エロンガーゼがC18基質(すなわち、LA、ALA、GLA、STA)をC20産物(すなわち、EDA、ETrA、DGLA、ETA)に変換することができる効率を指す。このようなC18//20エロンガーゼはΔ9エロンガーゼ又はΔ6エロンガーゼのいずれかであり得る。
用語「Δ9伸長変換効率」及び「Δ9エロンガーゼ変換効率」は、Δ9エロンガーゼがC18基質(すなわち、LA、ALA)をC20産物(すなわち、EDA、ETrA)に変換することができる効率を指す。
用語「Δ4不飽和化変換効率」及び「Δ4デサチュラーゼ変換効率」は、Δ4デサチュラーゼが基質(すなわち、DTA、DPAn−3)を産物(すなわち、DPAn−6、DHA)に変換することができる効率を指す。
用語「油性の」は、エネルギー源を油の形態で貯蔵する傾向を有する生物を指す(Weete、「Fungal Lipid Biochemistry」、第2版、Plenum、1980年所収)。概して、油性微生物の細胞含油量はシグモイド曲線に従い、ここでは脂質の濃度が後期対数増殖期又は初期定常増殖期に最高値に達するまで増加し、次に後期定常期及び死滅期の間に徐々に減少する(Yongmanitchai及びWard、Appl.Environ.Microbiol.、57:419〜25頁(1991年))。油性微生物がその乾燥細胞重量の約25%を上回って油として蓄積することは稀ではない。油性微生物としては、様々な細菌、藻類、ユーグレナ、コケ、真菌(例えば、モルティエラ属(Mortierella))、酵母及びストラメノパイル(例えば、シゾキトリウム属(Schizochytrium))が挙げられる。
用語「油性酵母」は、油を作ることのできる酵母として分類される微生物を指す。油性酵母の例としては、何ら限定されるものではないが、以下の属:ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)及びリポマイセス属(Lipomyces)が挙げられる。
用語「発酵性炭素源」は、微生物がエネルギーを得るために代謝する炭素源を意味する。典型的な炭素源としては、限定はされないが、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、アルカン、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセロール、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、ホルメート及び炭素含有アミンが挙げられる。
本明細書で使用されるとき、用語「バイオマス」は、商業的に有意な量でPUFAを産生する組換え生産宿主の発酵により消費又は使用された細胞物質を具体的に指し、ここで好ましい産生宿主は、ヤロウイア属(Yarrowia)の組換え油性酵母株である。バイオマスは、全細胞、全細胞ライセート、ホモジナイズされた細胞、部分的に加水分解された細胞物質、及び/又は部分的に精製された細胞物質(例えば、微生物により産生された油)の形態であってもよい。
用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸断片」及び「単離核酸断片」は、本明細書では同義的に使用される。これらの用語はヌクレオチド配列などを包含する。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であるRNA又はDNAのポリマーであってよく、合成の、非天然の、又は改変されたヌクレオチド塩基を含んでもよい。DNAポリマーの形態のポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAの1つ又は複数のセグメント、又はそれらの混合物からなり得る。ヌクレオチド(通常、その5’−一リン酸の形態で存在する)は、以下のとおりの一文字表記により示される:アデニレート又はデオキシアデニレート(それぞれRNA又はDNAについて)に対する「A」、シチジレート又はデオキシシチジレートに対する「C」、グアニレート又はデオキシグアニレートに対する「G」、ウリジレートに対する「U」、デオキシチミジレートに対する「T」、プリン(A又はG)に対する「R」、ピリミジン(C又はT)に対する「Y」、G又はTに対する「K」、A又はC又はTに対する「H」、イノシンに対する「I」、及び任意のヌクレオチドに対する「N」。
本明細書で使用されるとき、核酸断片は、一本鎖形態の核酸断片が適切な温度及び溶液イオン強度条件下で他の核酸断片とアニールされるとき、別の核酸断片、例えば、cDNA、ゲノムDNA、又はRNA分子と「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は公知であり、本明細書によって参照により本明細書に援用されるSambrook,J.、Fritsch,E.F.及びManiatis,T.「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)、特に第11章及び表11.1に例示される。
アミノ酸又はヌクレオチド配列の「実質的な部分」は、ポリペプチドのアミノ酸配列又は遺伝子のヌクレオチド配列を、当業者による手動での配列評価によるか、又はBLAST(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.、215:403〜410頁(1993年))などのアルゴリズムを用いるコンピュータにより自動化された配列比較及び同定によって当該のポリペプチド又は遺伝子を推定上同定するのに十分に含む部分である。概して、ポリペプチド又は核酸配列を既知のタンパク質又は遺伝子と相同であると推定上同定するためには、10個以上の連続するアミノ酸又は30個以上のヌクレオチドの配列が必要である。さらに、ヌクレオチド配列に関して、配列依存的な遺伝子同定(例えば、サザンハイブリダイゼーション)及び単離方法、例えば細菌コロニー又はバクテリオファージプラークのインサイチュハイブリダイゼーションにおいては、20〜30個の連続するヌクレオチドを含む遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブが用いられ得る。加えて、PCRでは、12〜15塩基の短鎖オリゴヌクレオチドが増幅プライマーとして用いられ、そのプライマーを含む特定の核酸断片が得られ得る。従って、ヌクレオチド配列の「実質的な部分」は、配列を含む核酸断片を具体的に同定し、及び/又は単離するのに十分な配列を含む。
用語「相補的」は、互いにハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表して使用される。例えば、DNAに関して、アデノシンはチミンと相補的であり、シトシンはグアニンと相補的である。
本明細書で使用されるとき、用語「相同性」及び「相同的」は同義的に使用される。これらは、1つ又は複数のヌクレオチド塩基の変化が、遺伝子発現を媒介する、又は特定の表現型を産生する核酸断片の能力に影響を与えない核酸断片を指す。これらの用語はまた、得られる核酸断片の機能上の特性を当初の未修飾断片と比べて実質的に変質させることのない1つ又は複数のヌクレオチドの欠失又は挿入などの核酸断片の修飾も指す。
さらに、当業者は、相同核酸配列が、中程度にストリンジェントな条件下、例えば、0.5×SSC、0.1%SDS、60℃で、本明細書に例示される配列、又は本明細書に開示されるヌクレオチド配列及びそれと機能的に等価な配列の任意の一部分とハイブリダイズするそれらの能力によっても定義されることを認識する。ストリンジェンシー条件は、中程度に類似した断片、例えば遠縁の生物由来の相同配列から、高度に類似した断片、例えば近縁の生物由来の機能酵素を複製する遺伝子までをスクリーニングするよう調整され得る。ハイブリダイゼーション後の洗浄がストリンジェンシー条件を決定する。核酸のハイブリダイゼーションについての広範な指針は、Tijssen、「Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Acid Probes」、第I部、第2章「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」、Elsevier、New York(1993年);及び「Current Protocols in Molecular Biology」、第2章、Ausubelら編、Greene Publishing及びWiley−Interscience、New York(1995年)に見られる。
本明細書で使用されるとき、用語「同一性パーセント」は、2個以上のポリペプチド配列又は2個以上のポリヌクレオチド配列の間の、配列を比較することにより決定されるとおりの関係を指す。「同一性」はまた、場合によっては、比較される配列間のマッチ率により決定されるとおりのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列間の配列関連性の程度を意味することもある。「同一性パーセント」及び「類似性パーセント」は、限定はされないが、1)「Computational Molecular Biology」(Lesk,A.M.編)Oxford University:NY(1988年);2)「Biocomputing:Informatics and Genome Projects」(Smith,D.W.編)Academic:NY(1993年);3)「Computer Analysis of Sequence Data」第I部(Griffin,A.M.及びGriffin,H.G.編)Humania:NJ(1994年);4)「Sequence Analysis in Molecular Biology」(von Heinje,G.編)Academic(1987年);及び、5)「Sequence Analysis Primer」(Gribskov,M.及びDevereux,J.編)Stockton:NY(1991年)に記載されるものを含め、公知の方法によって容易に計算することができる。
同一性パーセントの好ましい決定方法は、試験する配列間のベストマッチをもたらすように設計される。同一性パーセント及び類似性パーセントの決定方法は、公開されているコンピュータプログラムにコードとして体系化されている。配列アラインメント及び同一性パーセント計算は、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR Inc.、Madison,WI)のMegAlign(商標)プログラムを使用して実行されてもよい。配列の多重アラインメントは「Clustalアラインメント法」を用いて実行され、この方法は、「Clustal Vアラインメント法」及び「Clustal Wアラインメント法」(Higgins及びSharp、CABIOS、5:151〜153頁(1989年);Higgins,D.G.ら、Comput.Appl.Biosci.、8:189〜191頁(1992年)により記載される)を含めた数種類のアルゴリズムを包含し、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR Inc.)のMegAlign(商標)(バージョン8.0.2)プログラムに含まれる。Clustal Wアラインメント法を用いる多重タンパク質アラインメントのデフォルトパラメータは、ギャップペナルティ=10、ギャップ長ペナルティ=0.2、ディレイディバージェント配列(Delay Divergent Seqs)(%)=30、DNAトランジションウェイト(DNA Transition Weight)=0.5、タンパク質ウェイト行列=Gonnetシリーズ、DNAウェイト行列=IUB、「スロー−アキュレート(slow−accurate)」オプションに対応する。いずれかのClustalプログラムを使用した配列のアラインメント後、プログラムの「配列距離」テーブルを見ることにより「同一性パーセント」を得ることが可能である。
当業者には、他の種からのポリペプチドの同定においては多くの配列同一性レベルが有効であることが十分に理解され、ここでかかるポリペプチドは、同じ若しくは類似した機能又は活性を有する。有効な同一性パーセントの例としては、34%〜100%の任意の整数百分率、例えば、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%が挙げられる。また、この単離ヌクレオチド断片の任意の全長の又は部分的な相補体も対象となる。好適な核酸断片は上記の相同性を有するのみならず、典型的には、少なくとも50アミノ酸、好ましくは少なくとも100アミノ酸、より好ましくは少なくとも150アミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも200アミノ酸、及び最も好ましくは少なくとも250アミノ酸を有するポリペプチドをコードする。
「コドン縮重」は、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列に影響を及ぼすことなくヌクレオチド配列が変化することが可能な遺伝子コードにおける性質を指す。当業者は、所与のアミノ酸を指定するためのヌクレオチドコドンの使用において特定の宿主細胞が呈する「コドンバイアス」を十分に理解している。従って、宿主細胞における発現を向上させるために遺伝子を合成するときには、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度に近付くように遺伝子を設計することが望ましい。
「合成遺伝子」は、当業者に公知の手順を用いて化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成要素から組み立てることができる。これらのオリゴヌクレオチド構成要素はアニールされ、次にライゲートされて遺伝子セグメントを形成し、次にそのセグメントが酵素的に組み立てられて遺伝子全体が構築される。従って遺伝子は、宿主細胞のコドンバイアスを反映するヌクレオチド配列の最適化に基づき、最適な遺伝子発現に適応したものとされる。当業者は、コドン使用が宿主に好都合なコドンに偏っている場合に遺伝子発現が成功する可能性を理解する。好ましいコドンの決定は、宿主細胞に由来する遺伝子の調査に基づくことができ、配列情報が利用可能である。例えば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)についてのコドン使用プロファイルが米国特許第7,125,672号明細書に提供される。
「遺伝子」は、特異的タンパク質を発現する核酸断片を指し、これはコード領域のみを指すことも、又はコード配列の前にあり(5’非コード配列)、及びその後ろにある(3’非コード配列)調節配列を含むこともある。「天然遺伝子」は、その独自の調節配列と共に天然に存在するとおりの遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、天然遺伝子ではなく、天然では同時に存在することのない調節配列及びコード配列を含む任意の遺伝子を指す。従って、キメラ遺伝子は、異なる供給源に由来する調節配列及びコード配列か、又は同じ供給源に由来するが、天然に存在するものとは異なる形で構成された調節配列及びコード配列を含み得る。「内因性遺伝子」は、生物のゲノム中でその天然の位置にある天然遺伝子を指す。「外来性」遺伝子は、遺伝子導入によって宿主生物に導入される遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然生物に挿入された天然遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入された天然遺伝子、又はキメラ遺伝子を含み得る。「導入遺伝子」は、形質転換手順によってゲノムに導入された遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」は、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度を模倣するよう設計された遺伝子である。
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「好適な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、その範囲内、又はその下流(3’非コード配列)に位置するヌクレオチド配列を指し、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を及ぼす。調節配列としては、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、5’非翻訳リーダー配列(例えば、転写開始部位と翻訳開始コドンとの間の)、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位及びステム−ループ構造を挙げることができる。
「プロモーター」は、コード配列又は機能的RNAの発現を制御することが可能なDNA配列を指す。概して、コード配列はプロモーター配列の3’側に位置する。プロモーターは、全体として天然遺伝子から得られてもよく、又は天然に存在する異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されてもよく、又はさらには合成DNAセグメントを含んでもよい。当業者は、異なるプロモーターが異なる組織若しくは細胞型における、又は異なる発生段階での、又は異なる環境若しくは生理学的条件に応じた遺伝子の発現を誘導し得ることを理解する。ほとんどの細胞型においてほとんどの場合に遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と称される。さらに、ほとんどの場合に調節配列の正確な境界は完全には定義されていないため、異なる長さのDNA断片が同じプロモーター活性を有し得ることが認識される。
用語「3’非コード配列」及び「転写ターミネーター」は、コード配列の下流に位置するDNA配列を指す。これはポリアデニル化認識配列と、mRNAプロセシング又は遺伝子発現に作用することが可能な調節シグナルをコードする他の配列とを含む。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に作用することを特徴とする。3’領域は、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を及ぼし得る。
「RNA転写産物」は、DNA配列がRNAポリメラーゼの触媒により転写される結果として生じる産物を指す。RNA転写産物はDNA配列の完全な相補コピーであるとき、それは一次転写産物と称され、又は一次転写産物の転写後プロセシングに由来するRNA配列であってもよく、成熟RNAと称される。「メッセンジャーRNA」すなわち「mRNA」は、イントロンがなく、細胞によりタンパク質に翻訳され得るRNAを指す。「cDNA」は、mRNAと相補的な、且つそれから誘導される二本鎖DNAを指す。
用語「作動可能に連結された」は、一方の機能が他方によって影響を受けるように単一の核酸断片上において核酸配列が関連付けられていることを指す。例えば、プロモーターは、それがコード配列の発現に作用することが可能なとき、当該コード配列と作動可能に連結されている。すなわち、コード配列はプロモーターの転写制御下にある。コード配列は、調節配列にセンス方向又はアンチセンス方向に作動可能に連結され得る。
用語「発現」は、本明細書で使用されるとき、センス(mRNA)又はアンチセンスRNAの転写及び安定的な蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指すこともある。
「形質転換」は、核酸分子の宿主生物への導入を指す。核酸分子は、例えば自己複製するプラスミドであってもよく、又は核酸分子は宿主生物のゲノムに組み込まれてもよい。形質転換された核酸断片を含む宿主生物は、「トランスジェニック」又は「組換え」又は「形質転換された」又は「形質転換体」生物と称される。
「安定形質転換」は、遺伝学的に安定した遺伝をもたらす、核ゲノム及びオルガネラゲノムの双方を含めた宿主生物ゲノムへの核酸断片の導入を指す(すなわち、核酸断片は「安定的に組み込まれる」)。対照的に、「一過性形質転換」は、組み込み若しくは安定的な遺伝のない遺伝子発現をもたらす、宿主生物の核、又はDNAを含む細胞小器官への核酸断片の導入を指す。
用語「プラスミド」及び「ベクター」は、細胞の中央代謝の一部ではない、且つ通常は環状二本鎖DNA断片の形態の遺伝子を有することが多い追加的な染色体エレメントを指す。かかるエレメントは、任意の供給源由来の一本鎖又は二本鎖DNA又はRNAの直鎖状又は環状の自己複製配列、ゲノム組込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列であってよく、そこでは複数のヌクレオチド配列がつなぎ合わされ、又は組み換えられて、1つ又は複数の発現カセットを細胞に導入することが可能な固有の構成となっている。
用語「発現カセット」は、選択された遺伝子のコード配列と、選択された遺伝子産物の発現に必要な、コード配列の前にある(5’非コード配列)及びその後ろにある(3’非コード配列)調節配列とを含むDNAの断片を指す。従って、発現カセットは典型的には、1)プロモーター配列;2)コード配列[「ORF」]、及び3)真核生物では通常ポリアデニル化部位を含む3’非翻訳領域(すなわち、ターミネーター)から構成される。1つ又は複数の発現カセットは通常ベクター内に含まれ、クローニング及び形質転換が促進される。各宿主に適切な調節配列が使用される限り、種々の発現カセットを、細菌、酵母、植物及び哺乳動物細胞を含めた種々の生物に形質転換することができる。
用語「配列分析ソフトウェア」は、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の分析に有用な任意のコンピュータアルゴリズム又はソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は市販のものであっても、又は独自に開発されてもよい。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、限定はされないが、1)GCGプログラムスイート(Wisconsin Package バージョン9.0、Genetics Computer Group(GCG)、Madison,WI);2)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.、215:403〜410頁(1990年));3)DNASTAR(DNASTAR,Inc. Madison,WI);4)Sequencher(Gene Codes Corporation、Ann Arbor,MI);及び5)スミス−ウォーターマンアルゴリズムを組み込んだFASTAプログラム(W.R.Pearson、Comput.Methods Genome Res.、[Proc.Int.Symp.](1994年)、Meeting Date 1992、111〜20頁、編者:Suhai,Sandor、Plenum:New York,NY)を挙げることができる。本願の文脈の範囲内で、配列分析ソフトウェアを使用して分析が行われる場合、特記されない限り、分析の結果は参照されるプログラムの「デフォルト値」に基づき得ることは理解されるであろう。本明細書で使用されるとき「デフォルト値」は、初回の初期化時に最初にソフトウェアにロードされる任意の一組の値又はパラメータを意味し得る。
先述のとおり、LPLATをコードする遺伝子は、グリセロリン脂質のデノボ合成及びリモデリングにおけるその本質的な役割に基づきあらゆる真核細胞に見られ、ここでLPLATは細胞内アシルCoAプールからアシルCoA脂肪酸を除去し、リン脂質プールにおいてsn−2位で様々なリゾリン脂質基質をアシル化する。公開されているLPLATのコード配列としては、ScAle1(配列番号9)、ScLPAAT(配列番号18)、MaLPAAT1(配列番号15)及びCeLPCAT(配列番号2)が挙げられる。ScAle1(配列番号9)及びScLPAAT(配列番号18)タンパク質配列を問い合わせ配列として使用して、公開されているY.リポリティカ(Y.lipolytica)タンパク質データベース(「Yeast project Genolevures」(Center for Bioinformatics、LaBRI、Talence Cedex、仏国)からオルソログを同定した(Dujon,B.ら、Nature、430(6995):35〜44頁(2004年)もまた参照のこと)。ベストヒットの分析に基づき、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来のAle1及びLPAATオルソログが、本明細書ではそれぞれYlAle1(配列番号11)及びYlLPAAT1(配列番号17)として同定される(実施例5、下記を参照のこと)。
好ましい宿主生物内の特定のLPLAT遺伝子又はタンパク質の配列が未知である場合、本明細書で配列番号2、9、11、15、17及び18として示されるLPLAT配列、又はその一部を使用することにより、同じ又は他の藻類、真菌、卵菌、ユーグレナ、ストラメノパイル、酵母又は植物種におけるLPLAT相同体を配列分析ソフトウェアを用いて検索してもよい。概して、かかるコンピュータソフトウェアは、様々な置換、欠失、及び他の修飾に対して相同性の程度を割り当てることにより類似配列をマッチさせる。核酸又はタンパク質配列のデータベースに対する任意のLPLATタンパク質の比較、及びそれによる好ましい宿主生物内の既知の類似配列の同定については、低複雑度フィルタ及び以下のパラメータ、すなわち、期待値=10、行列=Blosum 62(Altschulら、Nucleic Acids Res.、25:3389〜3402頁(1997年))でのBLASTPアラインメント法などのソフトウェアアルゴリズムが周知されている。
ソフトウェアアルゴリズムを使用した既知の配列データベースの綿密な検索は、配列番号2、9、11、15、17及び18に示されるものなどの、公開されているLPLAT配列との同一性パーセントが比較的低い相同体の単離に特に好適である。公開されているLPLAT配列との同一性が少なくとも約70%〜85%のLPLAT相同体については、単離は比較的容易であろうことが予想される。さらに、少なくとも約85%〜90%同一である配列が単離に特に好適であり、及び少なくとも約90%〜95%同一である配列が最も容易に単離され得る。
LPLAT相同体はまた、LPLAT酵素に固有のモチーフを用いることによって同定することもできる。これらのモチーフは、LPLATタンパク質のなかでタンパク質の構造、安定性又は活性に重要な領域を表す可能性が高く、これらのモチーフは、新規LPLAT遺伝子を迅速に同定するための診断ツールとして有用である。
様々なLPLATモチーフが提案されており、分析されたアラインメントに含まれる特定の種に基づき僅かな違いがある。例えば、Shindouら(Biochem.Biophys.Res.Comm.、383:320〜325頁(2009年))は、ヒト(Homo sapiens)、ニワトリ(Gallus gallus)、ダニオ・レリオ(Danio rerio)及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)由来の配列のアラインメントに基づき、以下の膜結合型O−アシルトランスフェラーゼ[「MBOAT」]ファミリーモチーフがLPLAT活性に重要となることを提案した:WD、WHGxxxGYxxxF(配列番号23)、YxxxxF(配列番号24)及びYxxxYFxxH(配列番号25)。そのうち、WD、WHGxxxGYxxxF及びYxxxxFモチーフはScAle及びYlAle1に存在するが、YxxxYFxxHモチーフは存在しない。Ale1相同体の代替的な非植物モチーフもまた、米国特許出願公開第2008−0145867−A1号明細書に記載されている;具体的にはそれらとしては、M−[V/I]−[L/I]−xxK−[L/V/I]−xxxxxxDG(配列番号26)、RxKYYxxWxxx−[E/D]−[A/G]xxxxGxG−[F/Y]−xG(配列番号27)、EX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)及びSAxWHGxxPGYxx−[T/F]−F(配列番号29)が挙げられる。
同様に、Lewin,T.W.ら(Biochemistry、38:5764〜5771頁(1999年))及びYamashitaら(Biochim,Biophys.Acta、1771:1202〜1215頁(2007年))は、細菌、酵母、線虫及び哺乳動物由来の配列のアラインメントに基づき、以下の1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]ファミリーモチーフがLPLAT活性に重要となることを提案した:NHxxxxD(配列番号19)、GxxFI−[D/R]−R(配列番号30)、EGTR(配列番号20)及び[V/I]−[P/X]−[I/V/L]−[I/V]−P−[V/I](配列番号31)又はIVPIVM(配列番号32)のいずれか。NHxxxxD及びEGTRモチーフはMaLPAAT1、YlLPAAT1及びCeLPCATに存在するが、他のモチーフは存在しない。
本明細書に記載されるものを含め、公開されているAle1、LPCAT及びLPAATタンパク質配列に基づけば、本発明は、以下のMBOATファミリーモチーフ:M(V/I)LxxKL(配列番号3)、RxKYYxxW(配列番号4)、SAxWHG(配列番号5)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)に関する。同様に、1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフは、NHxxxxD(配列番号19)及びEGTR(配列番号20)として示されるものである。
或いは、公開されているLPLAT配列又はそのモチーフは、相同体を同定するためのハイブリダイゼーション試薬であってもよい。ハイブリダイゼーション方法は、上述のとおり当業者には公知である。
LPLAT核酸断片のいずれか又は任意の同定された相同体を使用して、同じ又は他の藻類、真菌、卵菌、ユーグレナ、ストラメノパイル、酵母又は植物種由来の相同タンパク質をコードする遺伝子を単離してもよい。配列依存プロトコルを用いた相同遺伝子の単離は当該技術分野において公知である。配列依存プロトコルの例としては、限定はされないが、1)核酸ハイブリダイゼーション方法;2)ポリメラーゼ連鎖反応[「PCR」](米国特許第4,683,202号明細書)などの核酸増幅技法の様々な使用により例示されるとおりの、DNA及びRNA増幅方法;リガーゼ連鎖反応[「LCR」](Tabor,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、82:1074頁(1985年));又は鎖置換増幅[「SDA」](Walkerら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、89:392頁(1992年));及び、3)ライブラリ作成及び相補性によるスクリーニングの方法が挙げられる。
例えば、公開されているLPLAT遺伝子又はそのモチーフと類似したタンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子は、公開されている核酸断片の全て又は一部をDNAハイブリダイゼーションプローブとして使用して任意の所望の生物のライブラリを公知の方法を用いてスクリーニングすることにより、直接単離することができる。公開されている核酸配列に基づく特定のオリゴヌクレオチドプローブを、当該技術分野において公知の方法により設計し、合成することができる(Maniatis、上記)。さらに、配列全体を直接使用して、ランダムプライマーDNA標識、ニックトランスレーション又は末端標識技法、又は利用可能なインビトロ転写系を使用するRNAプローブなど、当業者に公知の方法によりDNAプローブを合成することができる。加えて、特異的プライマーを設計して使用し、公開されている配列又はそのモチーフの一部又は完全長を増幅することができる。得られた増幅産物は増幅反応中に直接標識するか、又は増幅反応後に標識し、適切なストリンジェンシーの条件下でプローブとして使用することにより完全長DNA断片を単離することができる。
典型的には、PCRタイプの増幅技法では、プライマーは異なる配列を有し、互いに相補的ではない。所望の試験条件に応じて、プライマーの配列は、標的核酸の効率性及び正確性の双方を有する複製を提供するように設計しなければならない。PCRプライマーの設計方法は一般的であり、周知されている(Thein及びWallace、「The use of oligonucleotides as specific hybridization probes in the Diagnosis of Genetic Disorders」、「Human Genetic Diseases:A Practical Approach」所収、K.E.Davis編、(1986年)33〜50頁、IRL:Herndon,VA;Rychlik,W.、「Methods in Molecular Biology」所収、White,B.A.編、(1993年)第15巻、31〜39頁、「PCR Protocols:Current Methods and Applications」、Humania:Totowa,NJ)。
概して利用可能なLPLAT配列の2つの短いセグメントがPCRプロトコルで使用され、DNA又はRNAから相同遺伝子をコードするより長い核酸断片が増幅され得る。PCRはまた、一つのプライマーの配列が利用可能な核酸断片又はそのモチーフに由来するクローニングされた核酸断片のライブラリで実施されてもよい。他のプライマーの配列は、mRNA前駆体コード遺伝子の3’末端に対するポリアデニル酸トラクトの存在を利用する。
或いは、第2のプライマー配列は、クローニングベクターに由来する配列に基づいてもよい。例えば、当業者は、RACEプロトコル(Frohmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、85:8998頁(1988年))に従い、PCRを用いて転写産物中の単一の点と3’又は5’末端との間の領域のコピーを増幅することによってcDNAを作成することができる。3’及び5’方向に向くプライマーを、利用可能な配列から設計することができる。市販の3’RACE又は5’RACEシステム(例えば、BRL、Gaithersburg,MD)を使用して、特定の3’又は5’cDNA断片を単離することができる(Oharaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、86:5673頁(1989年);Lohら、Science、243:217頁(1989年))。
直前に考察したこれらの公知の方法のいずれかに基づけば、選択される任意の好ましい真核生物においてLPLAT遺伝子相同体を同定及び/又は単離することが可能であり得る。C18からC20への伸長及び/又はΔ4不飽和化は、LPLAT導入遺伝子が欠損している生物中のものと比べて増加するため(上記)、任意の推定LPLAT遺伝子の活性は、LC−PUFA産生宿主生物内で遺伝子を発現させることによって容易に確認することができる。
これまで、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のTAG画分中のEPA蓄積においてはLPCATが重要であり得るという仮説が立てられている(米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書)。この文献に記載されるとおり、この仮説は以下の研究に基づいた:1)Stymne S.及びA.K.Stobart(Biochem J.、223(2):305〜314頁(1984年))、アシルCoAプールとPCプールとの間の交換がLPCATの正反応及び逆反応に起因し得るという仮説を立てた;2)Domergue,F.ら(J.Bio.Chem.、278:35115頁(2003年))、PCのsn−2位にGLAが蓄積されたこと、及び酵母ではARAを効率的に合成することができなかったことが、アシルCoAプール内で起こるPUFA生合成に関わる伸長ステップの結果であり、一方、主にPCのsn−2位でΔ5及びΔ6不飽和化ステップが起こったことを示唆した;3)Abbadi,A.ら(The Plant Cell、16:2734〜2748頁(2004年))、トランスジェニック油糧種子植物におけるPUFA蓄積の制約条件に関する分析に基づき、LPCATがΔ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路の再構成の成功に重要な役割を果たすことを示唆した;及び、4)国際公開第2004/076617 A2号パンフレット(Renz,A.ら)、Δ6伸長に好適な脂肪酸基質を外因的に加えたS.セレビシエ(S.cerevisiae)に遺伝子導入されたΔ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路の伸長効率を実質的に向上させたカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(T06E8.1)由来のLPCATをコードする遺伝子[「CeLPCAT」]を提供した。Renzらは、LPCATにより、デサチュラーゼがPC結合脂肪酸における二重結合の導入を触媒する一方でエロンガーゼが専らCoAエステル化脂肪酸(アシルCoA)の伸長を触媒するため、新規に合成された脂肪酸のリン脂質とアシルCoAプールとの間での効率的且つ連続的な交換が可能となったものと結論付けた。しかしながら、国際公開第2004/076617号パンフレットは、脂肪酸が外因的に加えられなかった宿主細胞におけるCeLPCATのΔ6伸長変換効率、Δ5伸長変換効率、又はΔ4不飽和化変換効率に対する効果は教示しなかった。
本明細書では、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のTAG画分中のEPA及びDHA蓄積にLPAAT及びLPCATが実に重要であることが実証される。しかしながら、意外にも、LPLATの過剰発現によりΔ9エロンガーゼ変換効率及び/又はΔ4デサチュラーゼ変換効率の向上がもたらされ得ることが分かった。既に定義したとおり、変換効率は、Δ4デサチュラーゼ又はΔ9エロンガーゼなどの特定の酵素が基質を産物に変換することのできる効率を指す用語である。従って、EPAを産生するように改変された株では、Δ9エロンガーゼ変換効率の向上によりEPA % TFA又はEPA % DCWの増加がもたらされることが示された。同様に、DHAを産生するように改変された株におけるΔ9エロンガーゼ及び/又はΔ4デサチュラーゼ変換効率の向上によりDHA % TFA又はDHA % DCWの増加がもたらされることが示された。
PUFA不飽和化はリン脂質で起こり、一方、脂肪酸伸長はアシルCoAで起こる。先行研究に基づけば、従ってLPLAT過剰発現によりリン脂質における基質の利用能が向上するため不飽和化の向上がもたらされるであろうことが予想された一方、CoAプールにおける基質の利用能の向上を必要とする伸長の向上は、LPLATの発現によってはもたらされないであろうと予想された。
これらの前提はあったものの、実施例5は、LPLAT発現がDHAを産生するヤロウイア属(Yarrowia)株における全ての不飽和化の変換効率を同程度に向上させるわけではないことを実証した。具体的には、Δ4デサチュラーゼの変換効率は選択的に向上したが、Δ12、Δ8、Δ5又はΔ17不飽和化では同様の向上は認められなかった。従ってリン脂質におけるDPA基質の利用能が限られている結果としてΔ4デサチュラーゼが制約となったという仮設が成り立つ。
加えて、実施例4及び5は、LPLATポリペプチドをコードする少なくとも1つの安定的に組み込まれたポリヌクレオチドに基づくLPLAT発現により、それぞれEPA及びDHAを産生するヤロウイア属(Yarrowia)株におけるΔ9エロンガーゼ変換効率が大幅に向上したことを実証している。しかしながら、意外にも、LPLATはEPAのC20/22伸長の効率についても、DHA株におけるDPAと同程度の向上をもたらすことはなかった。概して、LPLATの過剰発現株における、それを過剰発現しない株と比べた全脂質含量に有意な変化はなかった。
明らかに、PUFAを産生する宿主細胞中でのLPLAT過剰発現の効果に関して広く一般化することは困難である。むしろ、LPLAT活性の効果は、特定の活性を有する一部のデサチュラーゼ及びエロンガーゼ(すなわち、Δ12デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ[「またΔ6エロンガーゼ」]、C20/22エロンガーゼ[「またΔ5エロンガーゼ」])に基づくと考えなければならない。
上記の考察に基づき、本明細書における一実施形態では、LC−PUFAを産生する組換え油性微生物宿主細胞におけるC18からC20への伸長変換効率を向上させる方法が提供され、ここで前記方法は、
a)少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを前記LC−PUFA産生組換え宿主細胞に導入するステップであって、ポリペプチドが、
(i)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号9(ScAle1)及び配列番号11(YlAle1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(ii)M(V/I)LxxKL(配列番号3)、RxKYYxxW(配列番号4)、SAxWHG(配列番号5)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
(iii)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列(CeLPCAT)と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(iv)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15(MaLPAAT1)、配列番号17(YlLPAAT1)及び配列番号18(ScLPAAT1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び、
(v)NHxxxxD(配列番号19)及びEGTR(配列番号20)からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なる、ステップと、
b)油性微生物宿主細胞を増殖するステップと、
を含み、油性微生物宿主細胞のC18からC20への伸長変換効率は対照宿主細胞と比べて増加する。
好ましい実施形態において、C18からC20への伸長変換効率の増加は、LPLATポリペプチドをコードする少なくとも1つの安定的に組み込まれたポリヌクレオチドに基づき対照宿主細胞と比較したとき、少なくとも1つのLC−PUFAを産生する油性微生物宿主細胞において少なくとも4%であり、しかしながら、少なくとも約4〜10%、より好ましくは少なくとも約10〜20%、より好ましくは少なくとも約20〜40%、及び最も好ましくは少なくとも約40〜60%又はそれ以上の増加を含め、4%より大きいC18からC20への伸長変換効率の任意の増加が特に好ましい。
例えば、本明細書において実証される一方法において、C18からC20への伸長変換効率の増加は、対照宿主細胞と比較したときEPA産生宿主細胞において少なくとも13%であり、C18からC20への伸長変換効率の増加は、対照宿主細胞と比較したときDHA産生宿主細胞において少なくとも4%である。
同様に、LC−PUFAを産生する油性微生物組換え宿主細胞におけるΔ4不飽和化変換効率を増加させる方法もまた本明細書に記載され、ここで前記方法は、
a)少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを前記LC−PUFA産生組換え宿主細胞に導入するステップであって、ポリペプチドが、
(i)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号9(ScAle1)及び配列番号11(YlAle1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(ii)M(V/I)LxxKL(配列番号3)、RxKYYxxW(配列番号4)、SAxWHG(配列番号5)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
(iii)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列(CeLPCAT)と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(iv)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15(MaLPAAT1)、配列番号17(YlLPAAT1)及び配列番号18(ScLPAAT1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び、
(v)NHxxxxD(配列番号19)及びEGTR(配列番号20)からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なる、ステップと、
b)油性微生物宿主細胞を増殖するステップと、
を含み、油性微生物宿主細胞のΔ4不飽和化変換効率は対照宿主細胞と比べて増加する。
好ましい実施形態において、Δ4不飽和化変換効率の増加は、LPLATポリペプチドをコードする少なくとも1つの安定的に組み込まれたポリヌクレオチドに基づき対照宿主細胞と比較したとき、少なくとも1つのLC−PUFAを産生する油性微生物宿主細胞において少なくとも5%であり、しかしながら、少なくとも約5〜10%、より好ましくは少なくとも約10〜20%、より好ましくは少なくとも約20〜40%、及び最も好ましくは少なくとも約40〜60%又はそれ以上の増加を含め、5%より大きいΔ4不飽和化変換効率の任意の増加が特に好ましい。
例えば、本明細書において実証される一方法において、DHA産生宿主におけるΔ4不飽和化変換効率の増加は、対照宿主細胞と比較したとき少なくとも18%であった。
上記の方法に加え、組換え宿主細胞もまた本明細書に記載される。具体的には、これらの組換え宿主細胞は、少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを含み、ポリペプチドは、
(a)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号9(ScAle1)及び配列番号11(YlAle1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(b)M(V/I)LxxKL(配列番号3)、RxKYYxxW(配列番号4)、SAxWHG(配列番号5)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
(c)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列(CeLPCAT)と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(d)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15(MaLPAAT1)、配列番号17(YlLPAAT1)及び配列番号18(ScLPAAT1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び、
(e)NHxxxxD(配列番号19)及びEGTR(配列番号20)からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なり、及び組換え宿主細胞はさらに、
a)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つのLC PUFAを産生する油性微生物宿主細胞におけるC18からC20への伸長変換効率の増加;
b)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つのLC PUFAを産生する油性微生物宿主細胞におけるΔ4不飽和化変換効率の増加;
からなる群から選択される少なくとも1つの改良を有する。
好ましい宿主細胞において、少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは安定的に組み込まれ;及び、さらに宿主細胞は、
a)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物宿主細胞における少なくとも4%のC18からC20への伸長変換効率の増加;及び、
b)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物宿主細胞における少なくとも5%のΔ4不飽和化変換効率の増加;
からなる群から選択される少なくとも1つの改良を有する。
LPLATポリペプチドをコードする少なくとも1つの安定的に組み込まれたポリヌクレオチドを有するより好ましい宿主細胞において、少なくとも1つの改良は、
a)対照宿主細胞と比較したときのEPA産生宿主細胞における少なくとも13%のC18からC20への伸長変換効率の増加;
b)対照宿主細胞と比較したときのEPA産生宿主細胞中のTFAの少なくとも9%EPAの増加;
c)対照宿主細胞と比較したときのDHA産生宿主細胞における少なくとも4%のC18からC20への伸長変換効率の増加;
d)対照宿主細胞と比較したときのDHA産生宿主細胞中のTFAの少なくとも2%EPAの増加;
e)対照宿主細胞と比較したときのDHA産生宿主細胞における少なくとも18%のΔ4不飽和化変換効率の増加;及び、
f)対照宿主細胞と比較したときのDHA産生宿主細胞中のTFAの少なくとも9%DHAの増加;
からなる群から選択される。
当然ながら当業者は、上記に記載される改良が本明細書における本発明を限定するものではなく、例示と見なされるべきであることを理解しなければならない。
上記の改良に基づけば、当業者は、長鎖PUFA、例えば、EDA、DGLA、ARA、DTA、DPAn−6、ETrA、ETA、EPA、DPA及びDHAを産生する組換え宿主細胞において、それらの脂肪酸の産生を最適化することが望ましい場合にLPLATを発現させることの価値を理解するであろう。
組換えコンストラクトの作成に有用な標準的文献資料は、特に、1)DNA分子、プラスミド等の巨大分子を構築、操作及び単離するための特定の条件及び手順;2)組換えDNA断片及び組換え発現コンストラクトの生成;及び、3)クローンのスクリーニング及び単離について記載している。Sambrook,J.、Fritsch,E.F.及びManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(以下「Maniatis」);Silhavy,T.J.、Bennan,M.L.及びEnquist,L.W.による「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);及びAusubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、刊行元Greene Publishing Assoc.及びWiley Interscience、Hoboken,NJ(1987年)を参照のこと。
概して、コンストラクトに含める配列の選択は、所望の発現産物、宿主細胞の性質及び形質転換細胞の非形質転換細胞との提案される分離手段に依存する。当業者は、キメラ遺伝子を含む宿主細胞の形質転換、選択及び増殖を成功させるためにプラスミドベクターに存在しなければならない遺伝要素を認識している。しかしながら、典型的にはベクター又はカセットは、1つ又は複数の関連遺伝子の転写及び翻訳を誘導する配列と、選択可能なマーカーと、自己複製又は染色体組込みを可能にする配列とを含む。好適なベクターは、転写開始を制御する遺伝子の領域5’、すなわちプロモーターと、遺伝子コード配列と、転写終結を制御するDNA断片の領域3’、すなわちターミネーターとを含む。双方の制御領域が形質転換宿主細胞からの遺伝子に由来する場合が最も好ましいが、しかしながらそれらは産生宿主にとって天然の遺伝子に由来しなくともよい。
所望の宿主細胞中での異種遺伝子又はその一部の発現を駆動するのに有用な転写開始領域又はプロモーターは多数あり、周知されている。これらの制御領域としては、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、イントロン配列、3’UTR及び/又は5’UTR領域、及びタンパク質及び/又はRNA安定化エレメントが含まれ得る。かかるエレメントは、その強度及び特異性が異なり得る。選択された宿主細胞中でのそうした遺伝子の発現を誘導する能力を有する事実上任意のプロモーター、すなわち、天然、合成、又はキメラが好適であるが、宿主種由来の転写及び翻訳領域が特に有用である。宿主細胞中での発現は、誘導的又は構成的な形で起こり得る。誘導的発現は、対象LPLAT遺伝子に作動可能に連結された調節性プロモーターの活性を誘導することによって起こり、一方、構成的発現は構成的プロモーターの使用により起こる。
転写終結領域をコードする3’非コード配列が組換えコンストラクト中に提供されてもよく、開始領域が得られた遺伝子の3’領域由来であっても、又は異なる遺伝子由来であってもよい。多数の終結領域が公知であり、様々な宿主において、終結領域が由来したものと同じ及び異なる属及び種のいずれで利用されるときにも満足に機能する。終結領域はまた、好ましい宿主にとって天然の様々な遺伝子に由来してもよい。終結領域は、通常は任意の特定の特性についてではなく、むしろ便宜性から選択される。
酵母での使用に特に有用な終結領域は、酵母遺伝子、特にサッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ヤロウイア属(Yarrowia)又はクルイベロミセス属(Kluyveromyces)に由来する。γ−インターフェロン及びα−2インターフェロンをコードする哺乳動物遺伝子の3’−領域もまた、酵母で機能することが知られている。当業者は入手可能な情報を利用することにより転写ターミネーターとして機能する3’領域配列を設計及び合成することができるため、3’領域はまた合成のものであってもよい。終結領域はなくてもよいが、極めて好ましい。
ベクターはまた、上記に記載される調節エレメントに加え、選択可能及び/又はスコア化可能マーカーを含んでもよい。好ましくはマーカー遺伝子は、細胞を抗生物質で処理する結果、形質転換されていない細胞の増殖阻害、又は死滅、及び形質転換細胞の阻害されることのない増殖をもたらす抗生物質耐性遺伝子である。酵母形質転換体の選択には、酵母で機能する任意のマーカーが有用であり、カナマイシン、ハイグロマイシン及びアミノグリコシドG418に対する耐性、並びにウラシル、リジン、ヒスチン(histine)又はロイシン欠損培地での増殖能力が特に有用である。
単に遺伝子(例えば、LPLATをコードするもの)をクローニングベクターに挿入するだけは、所望の速度、濃度、量等でのその発現は確実とはならない。高発現率に対する要求に応じて、転写、RNA安定性、翻訳、タンパク質安定性及び位置、酸素制限、及び宿主細胞からの分泌を制御する多数の異なる遺伝要素を操作することにより、多くの特殊な発現ベクターが生み出されている。操作された特徴のいくつかとしては、関連する転写プロモーター及びターミネーター配列の性質、クローニングされた遺伝子のコピー数及び遺伝子がプラスミドから産生されるか、又は宿主細胞のゲノムに組み込まれるか、合成されたタンパク質の最終的な細胞内位置、宿主生物中でのタンパク質の翻訳効率及び正しいフォールディング、宿主細胞内でのクローニングされた遺伝子のmRNA及びタンパク質の固有の安定性、及びその頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度に近付くような、クローニングされた遺伝子内でのコドン使用が挙げられる。これらの各々を本明細書に記載される方法及び宿主細胞において使用して、LPLAT遺伝子の発現をさらに最適化してもよい。
例えば、LPLAT発現は、より強力なプロモーター(調節性のものであっても、又は構成的なものであっても)を使用して、mRNA又はコードされたタンパク質のいずれかから不安定な配列を除去する/欠失させることによるか、又は安定的な配列をmRNAに付加することによって発現の増加を生じさせることにより、転写レベルで増加し得る(米国特許第4,910,141号明細書)。或いは、遺伝子の追加的なコピーを単一の発現コンストラクト内にクローニングすることにより、又はプラスミドコピー数を増加させるか、若しくはクローニングされた遺伝子をゲノムに複数組み込むことによって追加的なコピーを宿主細胞に導入することにより、LPLAT遺伝子の追加的なコピーを組換え宿主細胞に導入し、それによりEPA及び/又はDHAの産生及び蓄積を増加させてもよい。
プロモーター、LPLATオープンリーディングフレーム[「ORF」]及びターミネーターを含む少なくとも1つのキメラ遺伝子を含む組換えコンストラクトは、作成後、宿主細胞中での自己複製能を有するプラスミドベクター内に置かれるか、又は宿主細胞のゲノムに直接組み込まれる。発現カセットの組込みは、宿主ゲノム中でランダムに行うことができ、又は宿主遺伝子座との標的組換えに十分な宿主ゲノムとの相同性領域を含むコンストラクトを使用することによって標的化することもできる。コンストラクトが内因性遺伝子座に標的化される場合、転写及び翻訳調節領域の全て又は一部を内因性遺伝子座により提供することができる。
別個の複製ベクターから2個以上の遺伝子を発現させる場合、各ベクターは異なる選択手段を有してもよく、安定した発現を維持し、且つコンストラクト間でのエレメントの混合を防止するため、他の1つ又は複数のコンストラクトと相同性があってはならない。調節領域、選択手段及び導入した1つ又は複数のコンストラクトの増殖方法の妥当な選択は、導入された遺伝子の全てが所望の産物の合成を提供するために必要なレベルで発現するように実験的に決定することができる。
1つ又は複数の対象遺伝子を含むコンストラクトは、任意の標準的な技術により宿主細胞に導入され得る。それらの技法としては、形質転換、例えば酢酸リチウム形質転換(Methods in Enzymology、194:186〜187頁(1991年))、遺伝子銃衝撃、電気穿孔、マイクロインジェクション、真空ろ過又は対象遺伝子を宿主細胞に導入する任意の他の方法が挙げられる。
便宜上、例えば発現カセット中に、DNA配列を取り込むように任意の方法によって操作された宿主細胞が、本明細書では「形質転換された」又は「組換え」又は「形質転換体」と称される。形質転換宿主は発現コンストラクトのコピーを少なくとも1つを有し、及び遺伝子がゲノムに組み込まれるか、増幅されるか、又は複数のコピー数を有する染色体外エレメントに存在するかに応じて、2つ以上を有してもよい。
形質転換宿主細胞は、導入されたコンストラクトに含まれるマーカーを選択することにより同定することができる。或いは、多くの形質転換技法が多数のDNA分子を宿主細胞中に導入するため、別個のマーカーコンストラクトを所望のコンストラクトと同時に形質転換してもよい。
典型的には、形質転換宿主は選択培地でのその成長能力について選択され、選択培地には抗生物質が取り込まれているか、又は栄養若しくは成長因子などの、非形質転換宿主の成長に必要な因子が欠乏していもよい。導入されたマーカー遺伝子は抗生物質耐性を付与し、又は必須成長因子若しくは酵素をコードしてもよく、従って形質転換宿主が発現した場合に選択培地での成長を可能にする。形質転換宿主の選択はまた、発現したマーカータンパク質を、直接的或いは間接的に検出可能な場合にも行なうことができる。さらなる選択技法が米国特許第7,238,482号明細書及び米国特許第7,259,255号明細書に記載される。
選択された宿主又は発現コンストラクトに関わらず、所望の発現レベル及びパターンを呈する株を得るには、複数の形質転換体をスクリーニングしなければならない。例えば、Juretzekら(Yeast、18:97〜113頁(2001年))は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における組み込まれたDNA断片の安定性が、使用される個々の形質転換体、受容株及び標的化プラットフォームに依存することを指摘している。かかるスクリーニングは、DNAブロットのサザン解析(Southern,J.Mol.Biol.、98:503頁(1975年))、mRNA発現のノーザン解析(Kroczek,J.Chromatogr.Biomed.Appl.、618(1〜2):133〜145頁(1993年))、タンパク質発現のウェスタン解析、PUFA産物の表現型分析又はGC分析によって達成され得る。
オレイン酸がLC−PUFAに変換される代謝過程には、炭素原子の付加による炭素鎖の伸長及び二重結合の付加による分子の不飽和化が関与する。これは、小胞体膜に存在する一連の特別な不飽和化酵素及び伸長酵素を必要とする。しかしながら、図1で分かるとおり、及び以下に記載するとおり、LC−PUFAの産生には複数の代替的な経路が存在する。
具体的には、図1は以下に記載される経路を示す。全ての経路について、オレイン酸がΔ12デサチュラーゼによって1番目のω−6脂肪酸であるリノール酸[「LA」]に最初に変換される必要がある。次に、「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」及び基質としてLAを用いて、以下のとおり長鎖ω−6脂肪酸が形成される:1)LAがΔ9エロンガーゼによってエイコサジエン酸[「EDA」]に変換される;2)EDAがΔ8デサチュラーゼによってジホモ−γ−リノレン酸[「DGLA」]に変換される;3)DGLAがΔ5デサチュラーゼによってアラキドン酸[「ARA」]に変換される;4)ARAがC20/22エロンガーゼによってドコサテトラエン酸[「DTA」]に変換される;及び、5)DTAがΔ4デサチュラーゼによってドコサペンタエン酸[「DPAn−6」]に変換される。
「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」はまた、基質としてα−リノレン酸[「ALA」]を用いて、以下のとおり長鎖ω−3脂肪酸を産生することもできる:1)LAがΔ15デサチュラーゼによって1番目のω−3脂肪酸であるALAに変換される;2)ALAがΔ9エロンガーゼによってエイコサトリエン酸[「ETrA」]に変換される;3)ETrAがΔ8デサチュラーゼによってエイコサテトラエン酸[「ETA」]に変換される;4)ETAがΔ5デサチュラーゼによってエイコサペンタエン酸[「EPA」]に変換される;5)EPAがC20/22エロンガーゼによってドコサペンタエン酸[「DPA」]に変換される;及び、6)DPAがΔ4デサチュラーゼによってドコサヘキサエン酸[「DHA」]に変換される。ω−6脂肪酸はω−3脂肪酸に変換されてもよい。例えば、ETA及びEPAは、Δ17デサチュラーゼ活性によってそれぞれDGLA及びARAから産生される。本明細書の目的上有利には、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路は、γ−リノレン酸[「GLA」]を多量に含まないEPA油を産生することが可能である。
ω−3/ω−6脂肪酸の代替的な生合成経路はΔ6デサチュラーゼ及びC18/20エロンガーゼを利用し、すなわち「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」である。より具体的には、LA及びALAがΔ6デサチュラーゼによってそれぞれGLA及びステアリドン酸[「STA」]に変換されてもよく;次に、C18/20エロンガーゼがGLAをDGLAに、及び/又はSTAをETAに変換する。
LC−PUFA産生組換え宿主細胞は、上記に記載される生合成経路の少なくとも1つを、その経路が宿主細胞にとって天然であるか、又は遺伝的に改変されているかに関わらず、有し得る。好ましくは、宿主細胞は、組換え宿主細胞の全脂質中少なくとも約2〜5%のLC−PUFA、より好ましくは全脂質中少なくとも約5〜15%のLC−PUFA、より好ましくは全脂質中少なくとも約15〜35%のLC−PUFA、より好ましくは全脂質中少なくとも約35〜50%のLC−PUFA、より好ましくは全脂質中少なくとも約50〜65%のLC−PUFA及び最も好ましくは全脂質中少なくとも約65〜75%のLC−PUFAを産生する能力を有し得る。LC−PUFAの構造形態は限定的である;従って、例えばEPA又はDHAは全脂質中に遊離脂肪酸として、又はアシルグリセロール、リン脂質、硫脂質若しくは糖脂質などのエステル化形態で存在し得る。
細菌、酵母、藻類、ストラメノパイル、卵菌、ユーグレナ及び/又は真菌を含めた様々な真核微生物がLC−PUFAを産生することができる(又は産生するように改変することができる)。それらは、広範な温度及びpH値にわたり、単純又は複合糖質、脂肪酸、有機酸、油、グリセロ―ル及びアルコール、及び/又は炭化水素を含む様々な供給材料において成長する宿主を含み得る。
好ましい微生物宿主は油性生物である。これらの油性生物は天然で油を合成及び蓄積する能力を有し、ここで全含油量は、乾燥細胞重量の約25%超、より好ましくは乾燥細胞重量の約30%超、及び最も好ましくは乾燥細胞重量の約40%超を含み得る。様々な細菌、藻類、ユーグレナ、コケ、真菌、酵母及びストラメノパイルが、天然で油性として分類される。この広範な宿主群のなかで特に関心対象となるのは、天然でω−3/ω−6脂肪酸を産生する生物である。例えば、ARA、EPA及び/又はDHAは、キクロテラ・エスピー(Cyclotella sp.)、クリプテコディニウム・エスピー(Crypthecodinium sp.)、モルティエラ・エスピー(Mortierella sp.)、ニッチア・エスピー(Nitzschia sp.)、ピシウム属(Pythium)、トラウストキトリウム・エスピー(Thraustochytrium sp.)及びシゾキトリウム・エスピー(Schizochytrium sp.)により産生される。従って、例えば、ARAの産生に商業的に使用されるモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)を誘導性又は調節性プロモーターの存在下で本LPLAT遺伝子のいずれかにより形質転換すると、より高量のARAを合成する能力を有する形質転換生物を得ることができる。M.アルピナ(M.alpina)の形質転換方法は、Mackenzieら(Appl.Environ.Microbiol.、66:4655頁(2000年))により記載される。同様に、トラウストキトリアレス目(Thraustochytriales)の微生物(例えば、トラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、シゾキトリウム属(Schizochytrium))の形質転換方法は、米国特許第7,001,772号明細書に開示されている。代替的実施形態では、非油性生物、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母を遺伝子修飾によって油性にしてもよい(米国特許出願公開第2007/0015237−A1号明細書)。
より好ましい実施形態において、微生物宿主細胞は油性酵母である。典型的に油性酵母として特定される属としては、限定はされないが、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)及びリポマイセス属(Lipomyces)が挙げられる。より具体的には、例示的な油合成酵母としては、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、リポマイセス・スタルケイイ(Lipomyces starkeyii)、L.リポフェルス(L.lipoferus)、カンジダ・レブカウフィ(Candida revkaufi)、C.プルケリマ(C.pulcherrima)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.ウチリス(C.utilis)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullans)、T.クタネウム(T.cutaneum)、ロドトルラ・グルチヌス(Rhodotorula glutinus)、R.グラミニス(R.graminis)及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(以前はカンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)として分類されていた)が挙げられる。最も好ましくは油性酵母ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり;及びさらなる実施形態において最も好ましくは、ATCC番号76982、ATCC番号20362、ATCC番号8862、ATCC番号18944及び/又はLGAM S(7)1として指定されるY.リポリティカ(Y.lipolytica)株である(Papanikolaou S.、及びAggelis G.、Bioresour.Technol.、82(1):43〜9頁(2002年))。
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)におけるARA、EPA及びDHA産生を改変するために利用可能な具体的教示は、それぞれ米国特許出願公開第2006−0094092−A1号明細書、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書及び米国特許出願公開第2006−0110806−A1号明細書に提供される。これらの参考文献はまた、直鎖状DNA断片を宿主のゲノムに組み込むことによりヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において遺伝子を発現させる好ましい方法、好ましいプロモーター、終結領域、組込み遺伝子座及び破壊、並びにこの特定の宿主種を使用するときの好ましい選択方法についても記載する。
当業者は、米国特許出願公開第2006−0094092−A1号明細書、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書及び米国特許出願公開第2006−0110806−A1号明細書に引用される教示を使用して他の宿主細胞をPUFA産生について組換えにより改変することが可能であろう。
形質転換された組み換え宿主細胞は、キメラ遺伝子(例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、LPLAT等をコードする)の発現を最適化し、且つ最大の、及び最も経済的なLC−PUFA収率をもたらす条件下で増殖される。概して培地条件は、炭素源の種類及び量、窒素源の種類及び量、炭素対窒素比、種々のミネラルイオンの量、酸素レベル、増殖温度、pH、バイオマス産生期間の長さ、油蓄積期間の長さ並びに細胞回収の時期及び方法を変更することによって最適化され得る。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は、概して、酵母エキス−ペプトン−デキストロースブロス[「YPD」]などの複合培地又は増殖に必要な成分が欠けていることにより所望の発現カセットが強制的に選択される限定最少培地(例えば、酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI))で増殖される。
本明細書に記載される方法及び宿主細胞用の発酵培地は、米国特許第7,238,482号明細書及び米国特許出願第12/641,929号明細書(2009年12月19日に出願された)に教示されるような好適な炭素源を含まなければならない。利用される炭素源は多種多様な炭素含有供給源を包含し得ることが企図されるが、好ましい炭素源は、糖類、グリセロール及び/又は脂肪酸である。最も好ましくは、10〜22個の炭素を含有するグルコース、スクロース、転化スクロース、フルクトース及び/又は脂肪酸である。例えば、発酵性炭素源は、転化スクロース、グルコース、フルクトース及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよく、但しグルコースは転化スクロース及び/又はフルクトースとの組み合わせで使用されるものとする。
用語「転化スクロース」は、本明細書では「転化糖」とも称され、スクロースの加水分解から生じる等量のフルクトースとグルコースとを含む混合物を指す。転化スクロースは、25〜50%のグルコースと25〜50%のフルクトースとを含む混合物であってもよい。転化スクロースはまたスクロースを含んでもよく、その量は加水分解度に依存する。
窒素は、無機源(例えば、(NH4)2SO4)又は有機源(例えば、尿素又はグルタミン酸)から供給され得る。適切な炭素源及び窒素源に加え、発酵培地はまた、好適なミネラル、塩、補因子、緩衝剤、ビタミン及び当業者に公知の、EPA及び/又はDHA高産生宿主細胞の成長並びにEPA及び/又はDHAを産生する酵素経路の促進に好適な他の成分も含まなければならない。特に、脂質及びPUFAの合成を促進するFe+2、Cu+2、Mn+2、Co+2、Zn+2及びMg+2などのいくつかの金属イオンに注意が払われる(Nakahara,T.ら、Ind.Appl.Single Cell Oils.、D.J.Kyle及びR.Colin編、61〜97頁(1992年))。
本明細書に記載される方法及び宿主細胞に好ましい増殖培地は、酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI)などの一般的な市販品として調製済みの培地である。他の限定又は合成増殖培地もまた使用することができ、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の増殖に適した培地は微生物学又は発酵科学の当業者によって判断され得る。発酵に好適なpH範囲は、典型的には約pH4.0〜pH8.0であり、なかでもpH5.5〜pH7.5が初期成長条件の範囲として好ましい。発酵は好気性条件下又は嫌気性条件下で行われてもよく、微好気性条件が好ましい。
典型的には、油性酵母細胞での高レベルのPUFAの蓄積には、増殖と脂肪の合成/貯蔵との間で代謝状態が「平衡」しなければならないため、2段階プロセスを要する。従って、最も好ましくは、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)でのEPA及び/又はDHA産生には二段階発酵プロセスが必要である。この手法は、米国特許第7,238,482号明細書に、様々な好適な発酵プロセス設計(すなわち、バッチ、フェドバッチ及び連続)及び増殖中の考慮事項として記載される。
本明細書におけるいくつかの態様において、一次産物は油性微生物バイオマスである。そのため、バイオマスからのLC−PUFA含有油の単離及び精製は(すなわち、全細胞バイオマスが産物である場合)、不要のこともある。
しかしながら、特定の最終用途及び/又は産物形態では、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製LC−PUFAをもたらすために、バイオマスからのLC−PUFAを含む油の部分的及び/又は完全な単離/精製が必要となり得る。PUFAを含む脂肪酸は、宿主微生物中で遊離脂肪酸として、又はアシルグリセロール、リン脂質、硫脂質若しくは糖脂質などのエステル化された形態で存在し得る。これらの脂肪酸は、当該技術分野において公知の様々な手段によって宿主細胞から抽出され得る。酵母脂質についての抽出技法、品質分析及び許容基準の一つのレビューが、Z.Jacobs(Critical Reviews in Biotechnology、12(5/6):463〜491頁(1992年))のレビューである。下流プロセシングの簡略なレビューもまた、A.Singh及びO.Ward(Adv.Appl.Microbiol.、45:271〜312頁(1997年))により利用可能となっている。
概して、脂肪酸(LC−PUFAを含む)の精製手段としては、有機溶媒、音波処理、超臨界流体抽出(例えば、二酸化炭素を使用)、鹸化及び物理的手段、例えばプレス、又はそれらの組み合わせによる抽出(例えば、米国特許第6,797,303号明細書及び米国特許第5,648,564号明細書)を挙げることができる。米国特許第7,238,482号明細書を参照のこと。
多くの食品及び飼料製品が、ω−3及び/又はω−6脂肪酸、特にALA、GLA、ARA、EPA、DPA及びDHAを組み込む。本明細書に記載される方法及び宿主細胞により作製されるLC−PUFAを含む油性酵母バイオマス、LC−PUFAを含む部分的に精製されたバイオマス、LC−PUFAを含む精製油、及び/又は精製LC−PUFAは、その添加によって改良された食品又は飼料を摂取することで健康上の利益を付与することが企図される。これらの油は、いくつか例を挙げれば、食品類似物、飲料、肉製品、穀物製品、ベーカリー食品、スナック食品及び乳製品に添加することができる。米国特許出願公開第2006−0094092号明細書を参照のこと。
これらの組成物は、医療用栄養剤、食事サプリメント、人工栄養乳及び医薬品を含めた医療用食品に添加されることによって健康上の利益を付与し得る。当業者は、食品、飼料、食事サプリメント、ニュートラシューティカルズ、医薬品、及び他の健康上の利益を付与するものとして摂取可能な製品に対する油の添加量を理解するであろう。これらの油の摂取による健康上の利益は当該技術分野で記載がなされており、当業者には公知であって、継続的に調査されている。かかる量は、本明細書では「有効」量と称され、特に、それらの油を含む摂取される製品の性質及びそれらが対処しようとする健康状態に依存する。
本発明は以下の実施例にさらに説明され、実施例は本発明の実施化を例示するが、しかしその可能な変形例の全てを完全に定義するわけではない。
一般的方法
実施例において用いられる標準的な組換えDNA及び分子クローニング技術は当該技術分野において公知であり、1)Sambrook,J.、Fritsch,E.F.及びManiatis,T、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」;Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(Maniatis);2)T.J.Silhavy、M.L.Bennan、及びL.W.Enquist、「Experiments with Gene Fusions」;Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);及び、3)Ausubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、刊行元Greene Publishing Assoc.及びWiley−Interscience、Hoboken,NJ(1987年)により記載がなされている。
微生物培養物の維持及び成長に好適な材料及び方法は、当該技術分野において公知である。以下の例における使用に好適な技法は、「Manual of Methods for General Bacteriology」(Phillipp Gerhardt、R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester、Willis A.Wood、Noel R.Krieg及びG.Briggs Phillips編)、American Society for Microbiology:Washington,D.C.(1994年))において;又はThomas D.Brockにより「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版、Sinauer Associates:Sunderland,MA(1989年)において示されるとおり見出され得る。微生物細胞の成長及び維持に使用される全ての試薬、制限酵素及び材料は、特記されない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)、New England Biolabs,Inc.(Beverly,MA)、GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD)、又はSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から得た。大腸菌(E.coli)株は、基本的にはルリア・ベルターニ[「LB」]プレートにおいて37℃で増殖した。
一般的な分子クローニングは、標準方法により実施した(Sambrookら、上記)。ABI自動シーケンサーでダイターミネーター技法を用いて(米国特許第5,366,860号明細書;欧州特許第272,007号明細書)、ベクター及びインサート特異的プライマーの組み合わせを使用してDNA配列を生成した。Sequencherにおいて配列編集を実施した(Gene Codes Corporation、Ann Arbor,MI)。全ての配列が双方の方向に少なくとも2倍のカバレッジを示す。
略称の意味は以下のとおりである:「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」はマイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロベースを意味し、「DCW」は乾燥細胞重量を意味し、及び「TFA」は全脂肪酸を意味する。
発現カセットの命名法
発現カセットの構造は「X::Y::Z」の単純な表記法により表され、ここではXがプロモーター断片を表し、Yが遺伝子断片を表し、及びZがターミネーター断片を表し、これらは全て、互いに作動可能に連結されている。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換及び培養
American Type Culture Collection(Rockville,MD)からヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株ATCC番号20362を購入した。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載されるとおり、いくつかの培地中(例えば、YPD寒天培地、基本最少培地[「MM」]、最少培地+ウラシル[「MMU」]、最少培地+ロイシン+リジン[「MMLeuLys」]、最少培地+5−フルオロオロチン酸[「MM+5−FOA」]、高グルコース培地[「HGM」]及び発酵培地[「FM」])、28〜30℃でルーチン的に増殖した。
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)の形質転換は、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載されるとおり実施した。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸分析
脂肪酸[「FA」]分析のため、Bligh,E.G.及びDyer,W.J.(Can.J.Biochem.Physiol.,37:911〜917頁(1959年))に記載されるとおり遠心により細胞を回収し、脂質を抽出した。脂質抽出物のナトリウムメトキシドとのエステル交換反応により脂肪酸メチルエステル[「FAME」]を調製し(Roughan,G.、及びNishida I.、Arch Biochem Biophys.、276(1):38〜46頁(1990年))、続いて30m×0.25mm(内径)HP−INNOWAX(Hewlett−Packard)カラムを装着したHewlett−Packard 6890 GCにより分析した。オーブン温度は、3.5℃/分で170℃(25分間維持)から185℃とした。
直接的な塩基エステル交換反応のため、ヤロウイア属(Yarrowia)細胞(0.5mL培養物)を回収し、蒸留水で1回洗浄し、Speed−Vacにおいて5〜10分間真空乾燥した。ナトリウムメトキシド(1%の100μl)及び既知量のC15:0トリアシルグリセロール(C15:0 TAG;カタログ番号T−145、Nu−Check Prep、Elysian,MN)を試料に添加し、次に試料をボルテックスにかけ、50℃で30分間揺動させた。3滴の1M NaCl及び400μlヘキサンを添加した後、試料をボルテックスにかけ、回転させた。上層を取り出し、GCにより分析した。
GC分析によって記録されたFAMEピークを、既知の脂肪酸と比較したときのその滞留時間により特定し、FAMEピーク面積について既知量の内部標準(C15:0 TAG)と比較することにより定量化した。従って、任意の脂肪酸FAMEの近似量(μg)[「μg FAME」]は式:(特定の脂肪酸についてのFAMEピーク面積/標準FAMEピーク面積)*(標準C15:0 TAGのμg)により計算され、一方、C15:0 TAGの1μgは0.9503μgの脂肪酸に等しいため、任意の脂肪酸の量(μg)[「μg FA」]は式:(特定の脂肪酸についてのFAMEピーク面積/標準FAMEピーク面積)*(標準C15:0 TAGのμg)*0.9503により計算される。0.9503の変換係数は、0.95〜0.96の範囲をとる多くの脂肪酸について決定される値の近似であることに留意されたい。
各個別の脂肪酸の量をTFAの重量パーセントとして要約する脂質プロファイルを、個別のFAMEピーク面積を全てのFAMEピーク面積の合計で除して100を乗じることにより決定した。
個別の脂肪酸又は全脂肪酸の量を乾燥細胞重量の重量パーセント[「% DCW」]として定量化するため、10mLの培養物から細胞を遠心により回収し、10mLの水で一回洗浄し、再び遠心により回収した。細胞を1〜2mLの水に再懸濁し、予め秤量したアルミニウム秤量皿に注入し、同様に同じ秤量皿に加えた1〜2mLの水でリンスした。皿を真空下80℃で一晩置いた。皿を秤量し、空の皿の重量を減じることによりDCWを計算した。次に% DCWとしての脂肪酸の決定は、μg DCWの分率としてのμg FAME又はμg FAのいずれかに基づき計算することができる(例えば、FAME % DCWは、μg FAME/μg DCW*100として計算することができる)。
実施例1
全脂肪酸の約51%のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により全脂質に対して約51%のEPAを産生する能力を有するY8406株の構築について記載する。この株は、実施例4においてEPA産生宿主細胞として使用した。
Y8406株(図2)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株、L135株、L135U9株、Y8002株、Y8006U6株、Y8069株、Y8069U株、Y8154株、Y8154U株、Y8269株及びY8269U株の構築が必要であった。
Y4036U株の生成
要約すれば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362から、Y2224株(野生型ヤロウイア属(Yarrowia)株ATCC番号20362のUra3遺伝子の自律的突然変異によるFOA耐性突然変異体)、Y4001株(17%EDAを産生、Leu−表現型)、Y4001U1株(Leu−及びUra−)、Y4036株(18%DGLAを産生、Leu−表現型)及びY4036U株(Leu−及びUra−)の構築を介してY8406株を誘導した。Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株及びY4036U株の構築に関するさらなる詳細は、本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2008−0254191号明細書の一般的方法に記載されている。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY4036U株の最終的な遺伝子型は、Ura3−、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCTであった(ここでFmD12はフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼ遺伝子[米国特許第7,504,259号明細書]であり;ME3Sはモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)に由来するコドン最適化C16/18エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,470,532号明細書]であり;EgD9eはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;EgD9eSはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するコドン最適化Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;EgD8Mは合成突然変異Δ8デサチュラーゼ[米国特許第7,709,239号明細書]であって、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するもの[米国特許第7,256,033号明細書]である)。
Pex3の染色体欠失を有するL135株(Ura3+,Leu−,Δpex3)の生成
L135株の構築については、本明細書によって参照により本明細書に援用される国際公開第2009/046248号パンフレットの実施例12に記載されている。要約すれば、コンストラクトpY157を使用して、Y4036U株においてペルオキシソーム生合成因子3タンパク質[ペルオキシソーム形成タンパク質ペルオキシン3又は「Pex3p」]をコードする染色体遺伝子をノックアウトし、それによりL135株(Y4036株(Δpex3)とも称される)を産生した。L135株における染色体Pex3遺伝子のノックアウトは、Y4036株(その天然Pex3pがノックアウトされていない)と比較して以下をもたらした:より高い脂質含量(TFA % DCW)(約6.0%、対4.7%)、より高いDGLA % TFA(46%、対19%)、より高いDGLA % DCW(約2.8%、対0.9%)及びLA % TFAの低下(12%、対30%)。加えて、Δ9エロンガーゼ変換効率が、Y4036株における約48%からL135株における83%に増加した。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するL135株の最終的な遺伝子型は、Ura3+、Leu−、Pex3−、未知1−、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCTであった。
L135U9(Leu−、Ura3−)株の生成
L135株中のプラスミドpY116(図3;配列番号33;本明細書によって参照により本明細書に援用される国際公開第2008/073367号パンフレットの実施例7に記載される)においてCreリコンビナーゼ酵素を一時的に発現させることによりL135U株を作成し、Leu−及びUra−表現型を産生した。プラスミドpY116を使用して、新しく増殖したL135細胞の形質転換を一般的方法に従い行った。形質転換体細胞をMMLeuUraに播種し、30℃で3〜4日間維持した。3つのコロニーを選び取り、30℃の3mLの液体YPD培地に接種して250rpm/分で1日間振盪した。培養物を液体MMLeuUra培地で1:50,000希釈し、100μLを新しいYPD培地に播種して30℃で2日間維持した。3つのプレートの各々から8つのコロニーを選び取り(合計24コロニー)、MMLeu及びMMLeuUra選択プレート上に画線した。MMLeuUraプレートで増殖でき、しかしMMLeuプレートでは増殖できなかったコロニーを選択し、GCにより分析してC20:2(EDA)の存在について確認した。Leu−及びUra−表現型を有する1つの株をL135U9と命名した。
TFAの約32%のARAを産生するY8002株の生成
コンストラクトpZKSL−5S5A5(図4A;配列番号34)を生成して3つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子をL135U9株のLys遺伝子座に組み込み、それによりARAの産生を可能にした。pZKSL−5S5A5プラスミドは以下の成分を含んだ。
pZKSL−5S5A5プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるL135U9株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMUraLysプレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。次に単一コロニーをMMUraLysプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMUraLysに接種して250rpm/分で2日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZKSL−5S5A5の3つのキメラ遺伝子を含む形質転換体にはARAが存在し、しかし親L135U9株には存在しないことが示された。TFAの約32.2%、32.9%、34.4%、32.1%及び38.6%のARAを産生した5個の株(すなわち、#28、#62、#73、#84及び#95)を、それぞれY8000株、Y8001株、Y8002株、Y8003株及びY8004株と命名した。さらなる分析により、pZKSL−5S5A5の3つのキメラ遺伝子がY8000株、Y8001株、Y8002株、Y8003株及びY8004株のLys5部位に組み込まれなかったことが示された。全ての株がLys+表現型を有した。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8000株、Y8001株、Y8002株、Y8003株及びY8004株の最終的な遺伝子型は、Ura−、Pex3−未知1−、未知2−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Octであった。
TFAの約41%のARAを産生するY8006株の生成
コンストラクトpZP3−Pa777U(図4B;配列番号39;本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表9に記載される)を生成して3つのΔ17デサチュラーゼ遺伝子をY8002株のPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)に組み込んだ。
pZP3−Pa777UプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8002株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。次に単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子を含む選択された96個の形質転換体のほとんどにTFAの26%〜31%のEPAが存在し、しかし親Y8002株には存在しないことが示された。株#69はTFAの約38%のEPAを産生し、Y8007と命名した。EPAを産生せず、しかしTFAの約41%のARAを産生した株が1つあった(すなわち、株#9)。この株はY8006と命名した。Y8006株におけるEPA産生の欠如に基づき、野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するその遺伝子型は、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、Leu+、Lys+、Ura+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Octであると推定された。
対照的に、野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8007株の最終的な遺伝子型は、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、Leu+、Lys+、Ura+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Acoであった(ここでPaD17は、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ[米国特許第7,556,949号明細書]であり、PaD17Sは、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)由来のコドン最適化Δ17デサチュラーゼである[米国特許第7,556,949号明細書]。
Y8006株及びY8007株におけるPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)へのpZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子の組込みは確認されなかった。
Y8006U6(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用してUra3突然変異遺伝子をY8006株のUra3遺伝子に組み込んだ。
プラスミドpZKUMをSalI/PacIで消化し、次に一般的方法によるY8006株の形質転換に使用した。形質転換後、細胞をMM+5−FOA選択プレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。
MM+5−FOAプレート上で成長した合計8個の形質転換体を選び取り、MMプレート及びMM+5−FOAプレートに別個に再度画線した。8株全てがUra−表現型を有した(すなわち、細胞はMM+5−FOAプレート上では増殖できたが、MMプレート上では増殖できなかった)。細胞をMM+5−FOAプレートから剥がし取り、一般的方法により脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#1、#2、#4、#5、#6及び#7に、それぞれ22.9%、25.5%、23.6%、21.6%、21.6%及び25%のTFAのARAが存在することが示された。これらの6個の株は、それぞれY8006U1株、Y8006U2株、Y8006U3株、Y8006U4株、Y8006U5株及びY8006U6株(まとめて、Y8006U株)と命名した。
TFAの約37.5%のEPAを産生するY8069株の生成
コンストラクトpZP3−Pa777U(図4B;配列番号39;本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表9に記載される)を使用して3つのΔ17デサチュラーゼ遺伝子をY8006U6株のPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)に組み込んだ。
pZP3−Pa777UプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8006U6株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。次に単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子を含む形質転換体にEPAが存在し、しかし親Y8006U6株には存在しないことが示された。選択した24個の株のほとんどが、TFAの24〜37%のEPAを産生した。TFAの37.5%、43.7%、37.9%及び37.5%のEPAを産生した4つの株(すなわち、#1、#6、#11及び#14)を、それぞれY8066、Y8067、Y8068及びY8069と命名した。pZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子の、Y8066株、Y8067株、Y8068株及びY8069株のPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)への組込みは確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8066株、Y8067株、Y8068株及びY8069株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Acoであった。
Y8069U株(Ura3−)の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8069株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計3個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、MM+5−FOAプレート上で成長したpZKUM形質転換体株#1、#2及び#3に、それぞれ22.4%、21.9%及び21.5%のTFAのEPAが存在することが示された。これらの3個の株を、それぞれY8069U1株、Y8069U2株、及びY8069U3株(まとめて、Y8069U株)と命名した。
TFAの約44.8%のEPAを産生するY8154株の生成
コンストラクトpZKL2−5mB89C(図5B;配列番号41)を生成して1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子、1つのΔ9エロンガーゼ遺伝子、1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、及び1つのヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(CPT1)をY8069U3株のLip2遺伝子座(GenBank受託番号AJ012632)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZKL2−5mB89Cプラスミドは以下の構成要素を含んだ。
pZKL2−5mB89CプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8069U3株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の株のほとんどがTFAの約38〜44%のEPAを産生したことが示された。TFAの約44.7%、45.2%、45.4%、44.8%、46.1%、48.6%及び45.9%のEPAを産出した7個の株(すなわち、#1、#39、#49、#62、#70、#85及び#92)を、それぞれY8151株、Y8152株、Y8153株、Y8154株、Y8155株、Y8156株及びY8157株と命名した。これらのEPA株においてLip2遺伝子のノックアウトは確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8151株、Y8152株、Y8153株、Y8154株、Y8155株、Y8156株及びY8157株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Acoであった。
Y8154U1(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8154株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#7においてTFAの23.1%のEPAがあったことが示された。この株をY8154U1株と命名した。
TFAの約45.3%のEPAを産生するY8269株の生成
コンストラクトpZKL1−2SR9G85(図6A;配列番号48)を生成して1つのDGLAシンターゼ、1つのΔ12デサチュラーゼ遺伝子及び1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子をY8154U1株のLip1遺伝子座(GenBank受託番号Z50020)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。DGLAシンターゼは、Δ8デサチュラーゼに連結されたΔ9エロンガーゼを含むマルチザイムである(米国特許出願公開第2008−0254191−A1号明細書)。
pZKL1−2SR9G85プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
pZKL1−2SR9G85プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8154U1株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の株のほとんどが全脂質の40〜44.5%のEPAを産生したことが示された。TFAの約44.8%、45.3%、47%、44.6%及び44.7%のEPAを産生した5個の株(すなわち、#44、#46、#47、#66及び#87)を、それぞれY8268、Y8269、Y8270、Y8271及びY8272と命名した。Lip1遺伝子座(GenBank受託番号Z50020)のノックアウトは、これらのEPA株では確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8268株、Y8269株、Y8270株、Y8271株及びY8272株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、YAT1::ME3S::Pex16、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Acoであった。
Y8269U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号53;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8269株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#2、#3及び#5において、それぞれTFAの23.0%、23.1%及び24.2%のEPAがあったことが示された。これらの株を、それぞれY8269U1株、Y8269U2株及びY8269U3株(まとめて、Y8269U株)と命名した。
TFAの約51.2%のEPA及び55.8%のEPAを産生するY8406株及びY8412株の生成
コンストラクトpZSCP−Ma83(図6B;配列番号53)を生成して1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1つのC16/18エロンガーゼ遺伝子及び1つのマロニルCoAシンテターゼ遺伝子をY8269U1株のSCP2遺伝子座(GenBank受託番号XM_503410)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZSCP−Ma83プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
pZSCP−Ma83プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8269U1株、Y8269U2株及びY8269U3株の別個の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
各pZSCP−Ma83形質転換(すなわち、Y8269U1、Y8269U2及びY8269U3)により得られた合計96個の株をGCにより分析した。選択した288個の株のほとんどがTFAの43〜47%のEPAを産生した。TFAの約51.3%、47.9%、50.8%、48%、47.8%、47.8%及び47.8%のEPAを産生した7個のY8269U1のpZSCP−Ma83による形質転換株(すなわち、#59、#61、#65、#67、#70、#81及び#94)を、それぞれY8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株及びY8410株と命名した。TFAの約48.8%、50.8%、及び49.3%のEPAを産生したこれらのY8269U2のpZSCP−Ma83による形質転換株(すなわち、#4、#13及び#17)を、それぞれY8411、Y8412及びY8413と命名した。さらに、TFAの約49.3%及び53.5%のEPAを産生した2個のY8269U3のpZSCP−Ma83による形質転換株(すなわち、#2、及び#16)を、それぞれY8414及びY8415と命名した。
SCP2遺伝子座(GenBank受託番号XM_503410)のノックアウトは、pZSCP−Ma83による形質転換によって産生されたこれらのEPA株のいずれにおいても確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株、Y8410株、Y8411株、Y8412株、Y8413株、Y8414株及びY8415株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::EaD8S::Pex16、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Aco、YAT1::MCS::Lip1であった。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株は2009年5月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、指定番号ATCC PTA−10025を有する。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8412株は2009年5月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、指定番号ATCC PTA−10026を有する。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株、Y8410株、Y8411株、Y8412株、Y8413株、Y8414株及びY8415株のYPDプレートからの細胞を増殖し、以下のように一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
具体的には、新しく画線した細胞の1つのループを3mLのFM培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのFM培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、1mLのアリコートを用いて脂肪酸分析(上記)を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した。
DCWを決定するため、Beckman GS−6R遠心分離機のBeckman GH−3.8ロータにおいて4000rpmで5分間遠心することにより、10mLの培養物を回収した。ペレットを25mLの水中に再懸濁し、再度上記のとおりに回収した。洗浄したペレットを20mLの水中に再懸濁し、予め秤量したアルミニウム皿に移した。細胞懸濁液を真空オーブンにおいて80℃で一晩乾燥させた。細胞の重量を決定した。
フラスコアッセイからのデータは表8のとおり提供される。この表は、細胞の全乾燥細胞重量[「DCW」]、細胞の全脂質含量[「FAME % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA FAME % DCW」]を提供する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA及びその他として特定され得る。
Y8406U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8406株のUra3遺伝子に組み込んだ。いくつかの形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#4及び#5においてFAMEの26.1%のEPAがあったことが示された。これらの2つの株を、それぞれY8406U1株及びY8406U2株(まとめて、Y8406U株)と命名した。
実施例2
全脂肪酸の約18.6%のEPA、22.8%のDPA及び9.7%のDHAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y5037株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により全脂質に対して約18.6%のEPA、22.8%のDPA及び9.7%のDHAを産生する能力を有するY5037株の構築について記載する。この株は、実施例5においてDHA産生宿主細胞として使用した。
要約すれば、図7に図解されるとおり、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362から、Y2224株(野生型ヤロウイア属(Yarrowia)株ATCC番号20362のUra3遺伝子の自己突然変異によるFOA耐性突然変異体)、Y4001株(17%EDAを産生、Leu−表現型)、Y4001U1株(Leu−及びUra−)、Y4036株(18%DGLAを産生、Leu−表現型)、Y4036U株(Leu−及びUra−)、Y4070株(12%ARAを産生、Ura−表現型)、Y4086株(14%EPAを産生)、Y4086U1株(Ura3−)、Y4128株(37%EPAを産生;2007年8月23日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、指定番号ATCC PTA−8614を有する)、Y4128U3株(Ura−)、Y4217株(42%EPAを産生)、Y4217U2株(Ura−)、Y4259株(46.5%EPAを産生)、Y4259U2株(Ura−)、Y4305株(53.2%EPAを産生)、Y4305U3株(Ura−)、Y5004株(17%EPA、18.7%DPA及び6.4%DHAを産生)、Y5004U1株(Ura−)、Y5018株(25.4%EPA、11.4%DPA及び9.4%DHAを産生)、Y5018U1株(Ura−)及びY5037株(全TFAに対して18.6%EPA、22.8%DPA及び9.7%DHAを産生)の構築を介してY5037株を誘導した。Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株、Y4070株、Y4086株、Y4086U1株、Y4128株、Y4128U3株、Y4217株、Y4217U2株、Y4259株、Y4259U2株、Y4305株及びY4305U3株の構築に関するさらなる詳細は、本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2008−0254191−A1号明細書の一般的方法及び米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の実施例1〜3に記載されている。
Y4305株の完全な脂質プロファイルは以下のとおりであった:16:0(2.8%)、16:1(0.7%)、18:0(1.3%)、18:1(4.9%)、18:2(17.6%)、ALA(2.3%)、EDA(3.4%)、DGLA(2.0%)、ARA(0.6%)、ETA(1.7%)、及びEPA(53.2%)。細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]は27.5であった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY4305株の最終的な遺伝子型は、SCP2−(YALI0E01298g)、YALI0C18711g−、Pex10−、YALI0F24167g−、未知1−、未知3−、未知8−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、EXP1::FmD12S::Aco、YAT1::FmD12S::Lip2、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::ME3S::Pex20(3コピー)、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、GPD::EgD9eS::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、YAT1::E389D9eS::OCT、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1(2コピー)、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::EgD5S::Aco、EXP1::EgD5S::ACO、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、YAT1::YlCPT1::ACO、GPD::YlCPT1::ACOであった(ここでFmD12はフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼ遺伝子[米国特許第7,504,259号明細書]であり;FmD12Sはフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)に由来するコドン最適化Δ12デサチュラーゼ遺伝子[米国特許第7,504,259号明細書]であり;ME3Sはモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)に由来するコドン最適化C16/18エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,470,532号明細書]であり;EgD9eはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;EgD9eSはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するコドン最適化Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;E389D9eSはユートレプティエラ・エスピー(Eutreptiella sp.)CCMP389に由来するコドン最適化Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;EgD8Mは合成突然変異Δ8デサチュラーゼ[米国特許第7,709,239号明細書]であって、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するもの[米国特許第7,256,033号明細書]であり;EgD5はユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ5デサチュラーゼ[米国特許第7,678,560号明細書]であり;EgD5Sはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するコドン最適化Δ5デサチュラーゼ遺伝子[米国特許第7,678,560号明細書]であり;RD5Sはペリジニウム・エスピー(Peridinium sp.)CCMP626に由来するコドン最適化Δ5デサチュラーゼ[米国特許第7,695,950号明細書]であり;PaD17はピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ[米国特許第7,556,949号明細書]であり;PaD17Sはピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)に由来するコドン最適化Δ17デサチュラーゼ[米国特許第7,556,949号明細書]であり;及び、YlCPT1はヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子[国際公開第2006/052870号パンフレット]である)。
Ura3突然変異遺伝子をY4305株のUra3遺伝子に組み込むことにより、Y4305U(Ura3−)株を生成した。
TFAの約17.0%のEPA、18.7%のDPA及び6.4%のDHAを産生するY5004株の生成
コンストラクトpZKL4−220EA41B(図8A;配列番号60)を構築して2つのC20/22エロンガーゼ遺伝子及び2つのΔ4デサチュラーゼ遺伝子をY4305U3株のリパーゼ4様遺伝子座(GenBank受託番号XM_503825)に組み込んだ。pZKL4−220EA41Bプラスミドは以下の構成要素を含んだ。
pZKL4−220EA41BプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY4305U3株(上記)の形質転換に使用した。MMプレート上で形質転換体を選択した。30℃で5日間増殖した後、MMプレート上で増殖した72個の形質転換体を選び取り、新鮮MMプレートに再度画線した。増殖後、これらの株を3mLの液体MMに30℃で個別に接種し、250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZKL4−220EA41Bを有する形質転換体にはDHAが存在し、しかし親Y4305U株には存在しないことが示された。選択した72個の株のほとんどが、TFAの約22%のEPA、18%のDPA及び5%のDHAを産生した。株#2は17%のEPA、18.7%のDPA及び6.4%のDHAを産生した一方、株#33は21.5%のEPA、21%のDPA及び5.5%のDHAを産生した。これらの2つの株を、それぞれY5004及びY5005と命名した。
Y5004株又はY5005株のいずれにおいてもリパーゼ4様遺伝子座(GenBank受託番号XM_503825)のノックアウトは確認されなかった。
Y5004U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例1)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY5004株のUra3遺伝子に組み込んだ。
MM+5−FOAプレート上で増殖した合計8個の形質転換体を選び取り、別個にMMプレート及びMM+5−FOAプレート上に再度画線した。8個の株全てがUra−表現型を有した(すなわち、細胞はMM+5−FOAプレート上では増殖することができたが、MMプレート上では増殖できなかった)。MM+5−FOAプレートから細胞を剥がし取り、一般的方法により脂肪酸分析に供した。
GC分析により、形質転換体#5にTFAの14.8%のEPA、17.4%のDPA及び0.4%のDHAが存在し、及び形質転換体#8にTFAの15.3%のEPA、17.2%のDPA及び0.4%のDHAが存在することが示された。これらの2つの株を、それぞれY5004U1株及びY5004U2株(まとめて、Y5004U株)と命名した。
TFAの約25.4%のEPA、11.4%のDPA及び9.4%のDHAを産生するY5018株の生成
コンストラクトpZKL3−4GER44(図8B;配列番号69)を構築して1つのC20/22エロンガーゼ遺伝子及び3つのΔ4デサチュラーゼ遺伝子をY5004U1株のリパーゼ3様遺伝子座(GenBank受託番号XP_506121)に組み込んだ。pZKL3−4GER44プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
pZKL3−4GER44プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY5004U1株の形質転換に使用した。MMプレート上で形質転換体を選択した。30℃で5日間増殖した後、MMプレート上で増殖した96個の形質転換体を選び取り、新鮮MMプレート上に再度画線した。増殖後、これらの株を3mLの液体MMに30℃で個別に接種し、250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の株のほとんどがTFAの約19%のEPA、22%のDPA及び7%のDHAを産生したことが示された。株#1は23.3%のEPA、13.7%のDPA及び8.9%のDHAを産生した一方、株#49は25.2%のEPA、11.4%のDPA及び9.4%のDHAを産生した。これらの2つの株を、それぞれY5011及びY5018と命名した。
Y5011株及びY5018株においてリパーゼ3様遺伝子座(GenBank受託番号XP_506121)のノックアウトは確認されなかった。
Y5018U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例1)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY5018株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計18個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#2にFAMEの16.6%のEPA、10.4%のDPA及び0.0%のDHAが存在し、pZKUM形質転換体株#4にFAMEの17.0%のEPA、10.8%のDPA及び0.0%のDHAが存在することが示された。これらの2つの株を、それぞれY5018U1株及びY5018U2株(まとめて、Y5018U株)と命名した。
TFAの約18.6%のEPA、22.8%のDPA及び9.7%のDHAを産生するY5037株の生成
コンストラクトpZKLY−G20444(図9;配列番号74)を構築して1つのDHAシンターゼ及び2つのΔ4デサチュラーゼ遺伝子をY5018U1株のリパーゼ7様遺伝子座(GenBank受託番号AJ549519)に組み込んだ。DHAシンターゼは、Δ4デサチュラーゼに連結したC20エロンガーゼを含むマルチザイムである。pZKLY−G20444プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
pZKLY−G20444プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY5018U1株の形質転換に使用した。MMプレート上で形質転換体を選択した。30℃で5日間増殖した後、MMプレート上で増殖した96個の形質転換体を選び取り、新鮮MMプレート上に再度画線した。増殖後、これらの株を3mLの液体MMに30℃で個別に接種し、250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、TFAの選択した96株のほとんどが約19%のEPA、22%のDPA及び9%のDHAを産生したことが示された。株#3は18.6%のEPA、22.8%のDPA及び9.7%のDHAを産生し;株#9は18.4%のEPA、21%のDPA及び9.6%のDHAを産生し;株#27は17.8%のEPA、20.6%のDPA及び10%のDHAを産生し;及び株#40は18.8%のEPA、21.2%のDPA及び9.6%のDHAを産生した。これらの4個の株を、それぞれY5037、Y5038、Y5039及びY5040と命名した。
これらのノックアウト株においてリパーゼ7様遺伝子座(GenBank受託番号AJ549519)のノックアウトは確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY5037株、Y5038株、Y5039株及びY5040株の最終的な遺伝子型は、SCP2−(YALI0E01298g)、YALI0C18711g−、Pex10−、YALI0F24167g−、未知1−、未知3−、未知8−、未知9−、未知10−、未知11−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、EXP1::FmD12S::Aco、YAT1::FmD12S::Lip2、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::ME3S::Pex20(3コピー)、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、GPD::EgD9eS::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、YAT1::E389D9eS::OCT、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1(2コピー)、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::EgD5S::Aco、EXP1::EgD5S::ACO、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、YAT1::YlCPT1::ACO、GPD::YlCPT1::ACO、FBAINm::EaC20ES::Pex20、YAT1::EgC20ES::Lip1、FBAINm::EgC20ES::Pex20、EXP1::EaD4S−1::Lip2、EXP1::EaD4S−1::Pex16、YAT1::EaD4S−1::Lip1、GPDIN::EaD4SB::Aco、EXP1::E1594D4S::Oct、FBAINm::E1594D4S::Pex16、GPDIN::EgD4S−1::Aco、YAT1::EgDHAsyn1S::Lip1であった。
Y5037U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号40;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y5004株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY5037株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計12個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#4に12.1%のEPA、10.2%のDPA及び3.3%のDHAが存在し、pZKUM形質転換体株#11に12.4%のEPA、10.3%のDPA及び3.5%のDHAが存在することが示された。これらの2つの株を、それぞれY5037U1株及びY5037U2株(まとめて、Y5037U株)と命名した。
実施例3
種々のLPLAT ORFを含む様々な発現ベクターの構築
本実施例は、各々がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に好適なLPLAT ORFを含む一連のベクターの構築について記載する。LPLAT ORFは、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Ale1、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCATを含んだ。実施例4、5、及び6は、これらのベクターをヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に形質転換した後に得られた結果について記載する。
LPLATの起源
特許及び公開文献において様々なLPLATが同定されているが、それらの遺伝子の機能についてはこれまで直接比較されたことがない。表12は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に対して異種遺伝子をコドン最適化した後に(下記)実施例で利用される、公開されているLPLAT(すなわち、ScAle1、ScLPAAT、MaLPAAT1及びCeLPCAT)及び本明細書で同定されるLPLATオルソログ(すなわち、YlAle1及びYlLPAAT1)を要約する。
より具体的には、ScLPAAT(配列番号18)及びScAle1(配列番号9)タンパク質配列を問い合わせ配列として使用して、ワシントン大学(セントルイス)医学部のBLAST 2.0(WU−BLAST; http://blast.wustl.edu)を利用し「Yeast project Genolevures」(Center for Bioinformatics、LaBRI、Talence Cedex、仏国)の公開されているY.リポリティカ(Y.lipolytica)タンパク質データベースからオルソログを同定した(Dujon,B.ら、Nature、430(6995):35〜44頁(2004年)もまた参照のこと)。ベストヒットの分析に基づき、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来のAle1及びLPAATオルソログが、本明細書ではそれぞれYlAle1(配列番号11)及びYlLPAAT(配列番号17)として同定される。それぞれScAle1及びScLPAATのオルソログとしてのYlAle1及びYlLPAAT1のアイデンティティについて、レシプロカルBLAST(reciprocal BLAST)を行うことによりさらに確認し、すなわち配列番号11及び17をサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)公開タンパク質データベースに対する問い合わせ配列として使用して、ベストヒットとしてそれぞれScAle1及びScLPAATを求めた。
ScAle1(配列番号9)、YlAle1(配列番号11)、ScLPAAT(配列番号18)、MaLPAAT1(配列番号15)、YlLPAAT1(配列番号17)及びCeLPCAT(配列番号2)として上記で同定されたLPLATタンパク質を、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR,Inc.、Madison,WI)のMegAlign(商標)プログラム(バージョン8.0.2)のClustal W(スロー(slow)、アキュレート(accurate)、Gonnetオプション;Thompsonら、Nucleic Acids Res.、22:4673〜4680頁(1994年))の方法を用いてアラインメントした。その結果から表13を作成し、ここでは類似性パーセントが表の上三角部分に示され、一方、分散パーセント(percent divergence)が下三角部分に示される。
この方法により明らかにされる同一性パーセントから、LPAATポリペプチドの各々の間の最小同一性パーセント及びAle1ポリペプチドの各々の間の最小同一性パーセントを決定することが可能となった。LPAATポリペプチド間の同一性の範囲は34.0%同一性(MaLPAAT1及びYlLPAAT1)〜43.9%同一性(ScLPAAT及びYlLPAAT1)であった一方、ScAle1及びYlAle1ポリペプチド間の同一性は45%であった。
膜結合型O−アシルトランスフェラーゼ[「MBOAT」]ファミリーモチーフ:National Center for Biotechnology Information[「NCBI」]BLASTP2.2.20(タンパク質−タンパク質Basic Local Alignment Search Tool;Altschulら、Nucleic Acids Res.、25:3389〜3402頁(1997年);及びAltschulら、FEBS J.、272:5101〜5109頁(2005年))検索を、「nr」タンパク質データベース(全ての非重複GenBank CDS翻訳、Brookhaven Protein Data Bank[「PDB」]からの三次元構造に由来する配列、SWISS−PROTタンパク質配列データベースの最新の大規模な公開に含まれる配列、WGSプロジェクトからの環境試料のものを除くPIR及びPRFを含む)における真菌タンパク質に対する問い合わせ配列としてScAle1(配列番号9)を使用し、デフォルトパラメータ(期待値閾値=10;ワードサイズ=3;スコアリングパラメータ行列=BLOSUM62;ギャップコスト:存在=11、伸長=1)を使用して行うことにより、ScAle1タンパク質配列(配列番号9)のオルソログを同定した。以下のヒットが得られた。
表14の酵母及び真菌タンパク質配列を、DNASTARを使用してアラインメントした。Clustal Wアラインメント法を用いて多重配列アラインメント及び同一性パーセント計算を実施した(上記)。
より具体的には、Clustal Wアラインメント法を用いた多重タンパク質アラインメントのデフォルトパラメータは、以下に対応した:ギャップペナルティ=10、ギャップ長ペナルティ=0.2、ディレイディバージェント配列(Delay Divergent Seqs)(%)=30、DNAトランジションウェイト(DNA Transition Weight)=0.5、タンパク質ウェイト行列=Gonnetシリーズ、DNAウェイト行列=IUB、「スロー−アキュレート(slow−accurate)」オプション付き。得られたアラインメントを分析し、米国特許出願公開第2008−0145867−A1号明細書に特定されるとおりの、Ale1相同体についての非植物モチーフの存在又は不在を決定した。具体的にそれらとしては、M−[V/I]−[L/I]−xxK−[L/V/I]−xxxxxxDG(配列番号26)、RxKYYxxWxxx−[E/D]−[A/G]xxxxGxG−[F/Y]−xG(配列番号27)、EX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)及びSAxWHGxxPGYxx−[T/F]−F(配列番号29)(式中、Xは任意のアミノ酸残基をコードする)が挙げられる。配列番号29のHis残基は、タンパク質内における活性部位残基と見られることが報告されている。
アラインメントを行った33個の生物全てにおいて完全に保存されていたのは、1つのモチーフ、すなわちEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号28)のみであった。他のM−[V/I]−[L/I]−xxK−[L/V/I]−xxxxxxDG(配列番号26)、RxKYYxxWxxx−[E/D]−[A/G]xxxxGxG−[F/Y]−xG(配列番号27)及びSAxWHGxxPGYxx−[T/F]−F(配列番号29)モチーフは、部分的にのみ保存されていた。従って、本方法論の目的上、これらのモチーフを適切に切断し、0ミスマッチ(すなわち、SAxWHG[配列番号5])、1ミスマッチ(すなわち、RxKYYxxW[配列番号4])、又は2ミスマッチ(すなわち、M(V/I)(L/I)xxK(LVI)[配列番号3])に適合させた。
1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]ファミリーモチーフ:ScLPAAT(配列番号18)、MaLPAAT1(配列番号15)及びYlLPAAT1(配列番号17)を含むタンパク質アラインメントの分析から、1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフEGTR(配列番号20)がLPAATオルソログの各々に存在することが明らかとなった。これに基づき、MaLPAAT1をLPAAT候補として同定し、これは国際公開第2004/087902号パンフレットに開示されるMaLPAAT様タンパク質(すなわち、配列番号93及び95)とは明確に区別可能なものであった。
EGTR(配列番号20)モチーフは、国際公開第2004/087902号パンフレットではLPCAT配列中にないものの、CeLPCAT(配列番号2)に存在することは注目に値する。他の残基がLPAAT配列及びLPAAT様タンパク質のLPCAT配列を区別しているように思われる。かかる残基の一つは、EGTR(配列番号20)モチーフの伸長部であり得る。具体的には、ScLPAAT(配列番号18)、MaLPAAT1(配列番号15)及びYlLPAAT1(配列番号17)のEGTRモチーフは直後にセリン残基が続くが、CeLPCATのEGTRモチーフは直後にアスパラギン残基が続く。対照的に、国際公開第2004/087902号パンフレットの2つのLPCATは、EGTRモチーフにおいてアルギニン残基の代わりにバリンを有し、このモチーフは直後にバリン残基が続く。
コドン最適化サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1遺伝子を含むpY201の構築
「ScAle1」(配列番号8)と命名されるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ORFを、DNA2.0(Menlo Park、CA)によってヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Pci1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、ScAle1S;配列番号12)。ScAle1S遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号13]は、野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号9]と同じである)。ScAle1SをpJ201(DNA2.0)にクローニングしてpJ201:ScAle1Sを得た。
ScAle1Sを含む1863bpのPci1/Not1断片をpJ201:ScAle1Sから切り取り、それを使用してpY201(配列番号77;表15;図10A)を作成した。キメラYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子を含むことに加え、pY201はまた、必要に応じて、Creリコンビナーゼ媒介組換えにより続いて除去するためのLoxP部位が隣接するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)URA3選択マーカーも含む。YAT1::ScAle1S::Lip1キメラ遺伝子及びURA3遺伝子の双方とも、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Pox3遺伝子の5’領域及び3’領域との相同性を有する断片が隣接し、それにより二重相同組換えによる組込みが促進されるが、しかしながらヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)への組込みは、通常は相同組換えなしに行われることが知られている。従って、これによりコンストラクトpY201は以下の構成要素を含んだ。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Ale1遺伝子を含むpY168の構築
「YlAle1」と命名されるヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ORF(GenBank受託番号XP_505624;配列番号10)をヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362 cDNAライブラリからPCRプライマー798及び799(それぞれ配列番号79及び80)を使用してPCR増幅した。加えて、YATプロモーターをpY201(配列番号77)からPCRプライマー800及び801(それぞれ配列番号81及び82)により増幅した。互いにいくらかの重複を有する2つのPCR産物が生じるようにプライマー対を設計したため、次にYAT1::YlAle1融合断片を、プライマー798及び801(それぞれ配列番号79及び82)並びに鋳型としての2つのPCR断片を使用して重複PCRにより増幅した。PCRは、RoboCycler Gradient 40 PCR機(Stratagene)において、製造者の推奨及びPfu Ultra(商標)High−Fidelity DNAポリメラーゼ(Stratagene、カタログ番号600380)を用いて実行した。増幅は以下のとおり実行した:95℃で4分間の初期変性、続いて95℃で30秒間の変性を30サイクル、55℃で1分間のアニーリング、及び72℃で1分間の伸長。72℃で10分間の最終伸長サイクルを実行した後、4℃で反応を終了させた。
YAT1::YlAle1融合断片を含むPCR産物をゲル精製し、ClaI/NotIで消化した。このCla1−Not1断片を、同様に消化した(それによりYAT1::ScAle1S断片を除去した)pY201にライゲートし、キメラYAT1::YlAle1::Lip1遺伝子を含むpY168(配列番号83)を生じさせた。ヤロウイア属(Yarrowia)Ale1 ORFのDNA配列をDNA配列決定によって確認した。pY168(図10B;配列番号83)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY168ではYAT1::YlAle1::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。YlAle1は図10Bでは「Yl LPCAT」と表示されることに留意されたい。
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1遺伝子を含むpY208の構築
「MaLPAAT1」(配列番号14)と命名されるモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)ORFを、DNA2.0(Menlo Park、CA)によってヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Pci1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、MaLPAAT1S;配列番号21)。MaLPAAT1S遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号22]は野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号15]と同じである)。MaLPAAT1SをpJ201(DNA2.0)にクローニングしてpJ201:MaLPAAT1Sを得た。
MaLPAAT1Sを含む945bpのPci1/Not1断片をpJ201:MaLPAAT1Sから切り取り、それを使用して、pY201(配列番号77)の2つの断片との3ウェイライゲーションでpY208(配列番号84)を作成した。具体的には、MaLPAAT1断片を3530bpのSph−NotI pY201断片及び4248bpのNcoI−SphI pY201断片とライゲートしてpY208を得た。pY208(図11A;配列番号84)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY208ではYAT1::MaLPAAT1S::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1遺伝子を含むpY207の構築
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来の推定LPAAT1(本明細書では「YlLPAAT1」と命名される;配列番号17)については、米国特許第7,189,559号明細書及びGenBank受託番号XP_504127に記載がなされた。このタンパク質は、「uniprot|P33333サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YDL052c SLC1脂肪酸アシルトランスフェラーゼと同様」との注釈が付けられている。
鋳型としてのヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362 cDNAライブラリ並びにPCRプライマー856及び857(それぞれ配列番号85及び86)を使用して、YlLPAAT1 ORF(配列番号16)をPCR増幅した。PCRは、pY168の合成前のYAT1::Yl Ale1融合断片の増幅についての上記の記載と同じ構成要素及び条件を用いて実行した。
YlLPAAT1 ORFを含むPCR産物をPciI及びNotIで消化し、次にpY168からの2つの断片との3ウェイライゲーションに利用した。具体的には、YlLPAAT1断片を3530bpのSph−NotI pY168断片及び4248bpのNcoI−SphI pY168断片とライゲートし、キメラYAT1::YlLPAAT1::Lip1遺伝子を含むpY207を産生した。DNA配列決定によりY.リポリティカ(Y.lipolytica)LPAAT1 ORFを確認した。pY207(図11B;配列番号87)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY207ではキメラYAT1::YlLPAAT1::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。YlLPAAT1は図11Bでは「Yl LPAT1 ORF」と表示されることに留意されたい。
カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCAT遺伝子を含むpY175の構築
「CeLPCAT」と命名されるカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)ORF(配列番号1)を、GenScript Corporation(Piscataway,NJ)によりヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Nco1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、CeLPCATS;配列番号6)。CeLPCATS遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号7]は、野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号2]と同じである)。
CeLPCATSを含むNco1−Not1断片を使用して、pY168(配列番号83)からの2つの断片との3ウェイライゲーションでpY175(配列番号88)を作成した。具体的には、CeLPCATSを含むNco1−Not1断片を3530bpのSph−NotI pY168断片及び4248bpのNcoI−SphI pY168断片とライゲートしてpY175を得た。pY175(図12A;配列番号88)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY175ではYAT1::CeLPCATS::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。CeLPCATSは図12Aでは「Ce.LPCATsyn」と表示されることに留意されたい。
カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCAT遺伝子を含むpY153の構築
上記のCeLPCATSを含むNco1−Not1断片を使用してpY153(配列番号89;図12B)を作成した。キメラFBAIN::CeLPCATS::3’Yl LPAAT1遺伝子を含むことに加え、pY153はまたヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)URA3選択マーカーも含む。キメラFBAIN::CeLPCATS::3’Yl LPAAT1遺伝子及びURA3遺伝子の双方とも、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1遺伝子の5’及び3’領域と相同性を有する断片が隣接し、それにより二重相同組換えによる組込みが促進されるが、しかしながらヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)への組込みは、通常は相同組換えなしに行われることが知られている。従って、これによりコンストラクトpY153は以下の構成要素を含んだ。
実施例4
EPA産生ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株における種々のLPLATの機能に関する特性決定
EPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株を使用して、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Ale1、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCATの過剰発現の効果について、それらをヤロウイア属(Yarrowia)宿主染色体に安定的に組み込んだ後、機能に関して特性決定した。これは、宿主がその天然LPLAT、すなわちAle1及びLPAAT1を含むにもかかわらずであった。
次にヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株(実施例1)を、実施例3に記載される組込みベクターの直鎖状SphI−AscI断片により個々に形質転換し、ここで各LPLATはヤロウイア属(Yarrowia)YATプロモーターの制御下にあった。具体的には、ベクターpY201(YAT1::ScAle1S::Lip1)、pY168(YAT1::YlAle1::Lip1)、pY208(YAT1::MaLPAAT1S::Lip1)、pY207(YAT1::YlLPAAT1::Lip1)及びpY175(YAT1::CeLPCATS::Lip1)を一般的方法に従い形質転換した。
各形質転換混合物をMM寒天プレートに播種した。いくつかの得られたURA+形質転換体を選び取り、アミノ酸を含まない6.7gのDifco酵母窒素ベース、5gの酵母エキス、6gのKH2PO4、2gのK2HPO4、1.5gのMgSO4・7H2O、1.5mgのチアミンHCl、及び20gのグルコースをL当たりに含有する3mLのFM培地(Biomyxカタログ番号CM−6681、Biomyx Technology、San Diego,CA)に接種した。シェーカーにおいて200rpm及び30℃で2日間増殖した後、培養物を遠心により回収し、pH7.5に調整された、0.63%リン酸一カリウム、2.7%リン酸二カリウム、8.0%グルコースを含有する3mLのHGM培地(カタログ番号2G2080、Teknova Inc.、Hollister,CA)に再懸濁した。シェーカーにおいて200rpm及び30℃で5日間増殖した後、培養物の1mLアリコートを遠心により回収し、GCにより分析した。具体的には、培養細胞を13,000rpmで1分間遠心することにより回収し、全脂質を抽出し、エステル交換により脂肪酸メチルエステル[「FAME」]を調製し、続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した(一般的方法)(一般的方法)。
3mL培養物の脂肪酸組成に基づき、選択した形質転換体をフラスコアッセイによりさらに特性決定した。具体的には、発現ベクターpY201(ScAle1Sを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#5及び#11を選択し、それぞれ「Y8406U::ScAle1S−5」及び「Y8406U::ScAle1S−11」と命名した;発現ベクターpY168(YlAle1を含む)により形質転換したY8406U株のクローン#16を選択し、「Y8406U::YlAle1」と命名した;発現ベクターpY208(MaLPAAT1Sを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#8を選択し、「Y8406U::MaLPAAT1S」と命名した;発現ベクターpY207(YlLPAAT1を含む)により形質転換したY8406U株のクローン#21を選択し、「Y8406U::YlLPAAT1」と命名した;及び発現ベクターpY175(CeLPCATSを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#23を選択し、「Y8406U::CeLPCATS」と命名した。加えて、Y8406株(Y8406U(Ura−)株に対する親であったUra+株)を対照として使用した。
各選択した形質転換体及び対照をMM寒天プレートに画線した。次に、新しく画線した細胞の1つのループを3mLのFM培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのFM培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、1mLのアリコートを用いてGC分析(上記)を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した。
DCWを決定するため、Beckman GS−6R遠心分離機のBeckman GH−3.8ロータにおいて4000rpmで5分間遠心することにより、10mLの培養物を回収した。ペレットを25mLの水中に再懸濁し、再度上記のとおりに回収した。洗浄したペレットを20mLの水中に再懸濁し、予め秤量したアルミニウム皿に移した。細胞懸濁液を真空オーブンにおいて80℃で一晩乾燥させた。細胞の重量を決定した。
脂質含量、脂肪酸組成及び変換効率
同じ条件下で合計4つの別個の実験を実施した。実験1は対照Y8406株をY8406U::ScAle1S−5株と比較した。実験2は対照Y8406株をY8406U::YlAle1株と比較した。実験3は対照Y8406株をY8406U::YlAle1株、Y8406U::ScAle1S−11株、及びY8406U::MaLPAAT1S株と比較した。実験4は対照Y8406株をY8406U::MaLPAAT1S株、Y8406U::YlLPAAT1株及びY8406U::CeLPCATS株と比較した。
各実験において、対照Y8406株及び形質転換体Y8406U株の1、2又は3個の同型培養物[「レプリケート」]について、DCWの百分率として脂質含量、脂肪酸組成及びEPAを定量化した。加えて、各Y8406U形質転換体のデータをY8406対照の%として表す。以下の表17は、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA及びEPAとして特定される。
表18は、PUFA生合成経路で機能し、且つEPA産生に必要な各デサチュラーゼ及びΔ9エロンガーゼの変換効率を要約する。具体的には、Δ12デサチュラーゼ変換効率[「Δ12 CE」]、Δ8デサチュラーゼ変換効率[「Δ8 CE」]、Δ5デサチュラーゼ変換効率[「Δ5 CE」]、Δ17デサチュラーゼ変換効率[「Δ17 CE」]及びΔ9伸長変換効率[「Δ9e CE」]が、各対照Y8406株及び形質転換体Y8406U株について提供される;各Y8406U形質転換体のデータをY8406対照の%として表す。変換効率は以下の式により計算した:産物/(産物+基質)*100(ここで産物は、産物と産物誘導体との双方を含む)。
表17及び表18の実験1、2及び3に関するデータに基づけば、EPA株のY8406U::ScAle1S−5、Y8406U::ScAle1S−11、Y8406U::YlAle1及びY8406U::MaLPAAT1SにおけるLPLATの過剰発現は、TFAの重量%としてのLA(18:2)濃度[「LA % TFA」]の大幅な低下(対照の67%以下に至る)、TFAの重量%としてのEPA濃度[「EPA % TFA」]の増加(対照の少なくとも12%に上る)、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加(対照の少なくとも16%に上る)をもたらす。Y8406U::ScAle1S−5及びY8406U::ScAle1S−11と比較して、Y8406U::YlAle1はより低いLA % TFA、より高いEPA % TFA、より良好なΔ9伸長変換効率、並びに僅かに低いTFA % DCW及びEPA % DCWを有する。Y8406U::YlAle1とY8406U::MaLPAAT1Sとは、MaLPAAT1Sの過剰発現がより低いLA % TFA、EPA % TFA、及びEPA % DCWをもたらしたことを除き、同程度である。
実験4は、EPA株のY8406U::YlLPAAT1、Y8406U::MaLPAAT1S及びY8406U::CeLPCATSにおけるLPLATの過剰発現が、LA % TFAの大幅な低下(対照の67%以下に至る)、EPA % TFAの増加(対照の少なくとも9%に上る)、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加(対照の少なくとも13%に上る)をもたらすことを示す。Y8406U::CeLPCATSと比較して、Y8406U::YlLPAAT1及びY8406U::MaLPAAT1Sの双方が、より低いLA % TFA、より高いEPA % TFA、より高いEPA % DCW、及び僅かに良好なTFA % DCWを有する。Y8406U::YlLPAAT1とY8406U::MaLPAAT1Sとは、MaLPAAT1Sの過剰発現がより低いLA % TFA、僅かに低いEPA % TFA及びEPA % DCW、並びに僅かに良好なΔ9エロンガーゼ変換効率をもたらすことを除き、同程度である。
当該技術分野では、ほとんどの不飽和化がリン脂質のsn−2位で起こり、一方脂肪酸伸長がアシルCoAで起こることが公知である。さらに、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S及びYlLPAAT1は、アシルCoAプールからアシル基のみをリゾリン脂質、例えばリゾホスファチジン酸[「LPA」]及びリゾホスファチジルコリン[「LPC」]のsn−2位に組み込むものと予想された。従って、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S、及びYlLPAAT1の発現により、リン脂質における基質の利用能が向上するため不飽和化の向上がもたらされ、且つCoAプールにおける基質の利用能の向上を必要とする伸長の向上はもたらされないものと予想された。本発明者らのデータ(上記)は、意外にも、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S及びYlLPAAT1の発現によって、EPAを産生するヤロウイア属(Yarrowia)株におけるΔ9エロンガーゼ変換効率が大幅に向上し、しかし不飽和化(Δ12デサチュラーゼ変換効率、Δ8デサチュラーゼ変換効率、Δ5デサチュラーゼ変換効率又はΔ17デサチュラーゼ変換効率として計測される)は向上しなかったことを示している。
CeLPCATは、LA又はGLAを供給されたサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においてΔ6伸長変換効率を向上させることが過去に示された(国際公開第2004/076617号パンフレット)。これは、リン脂質からCoAプールに脂肪酸を放出するその可逆的なLPCAT活性に起因した。脂肪酸の供給なしに高レベルLC−PUFAを産生するよう改変された油性微生物、例えばヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるΔ9伸長変換効率の向上は、国際公開第2004/076617号パンフレットでは企図されなかった。
さらに、EPAを産生するヤロウイア属(Yarrowia)株におけるPUFAの蓄積レベル又は全脂質含量のいずれかが、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S、YlLPAAT1及びCeLPCATSの発現によって大きく変化することはなかった。
先行研究は、Δ6伸長及びΔ9伸長の双方が、リン脂質とアシルCoAプールとの間でのアシル基の転移の不足により長鎖PUFA生合成における障害となることを示している。上記に実証される、LPLATの過剰発現によりもたらされるΔ9エロンガーゼ変換効率の向上に基づけば、本明細書に記載されるLPLAT及びそれらのオルソログ、例えばScLPAATもまたΔ6伸長変換効率を向上させるであろうことが予想される。
実施例5
DHA産生Y.リポリティカ(Y.lipolytica)Y5037株における種々のLPLATの機能に関する特性決定
DHAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y5037U株を使用して、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCATの過剰発現の効果について、それらをヤロウイア属(Yarrowia)宿主染色体に安定的に組み込んだ後、機能に関して特性決定した。これは、宿主がその天然LPLAT、すなわちAle1及びLPAAT1を含むにもかかわらずであった。
形質転換及び増殖
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y5037U株(実施例2)を、実施例3に記載される組込みベクターの直鎖状SphI−AscI断片により個々に形質転換し、ここでScAle1S及びMaLPAAT1Sはヤロウイア属(Yarrowia)YATプロモーターの制御下にあり、一方CeLPCATSはヤロウイア属(Yarrowia)FBAINプロモーターの制御下にあった。具体的には、ベクターpY201(YAT1::ScAle1S::Lip1)、pY208(YAT1::MaLPAAT1S::Lip1)及びpY153(FBAIN::CeLPCATS::YlLPAAT1)を一般的方法に従い形質転換した。
各形質転換混合物をMM寒天プレートに播種した。選択した形質転換体を、以下に詳述するとおりさらに特性決定した。より具体的には、発現ベクターpY153(CeLPCATSを含む)により形質転換したY5037U株のクローン#7を選択し、「Y5037U::FBAIN−CeLPCATS」と命名した;発現ベクターpY201(ScAle1Sを含む)により形質転換したY5037U株のクローン#18を選択し、「Y5037U::ScAle1S」と命名した;及び発現ベクターpY208(MaLPAAT1Sを含む)により形質転換したY5037U株のクローン#6を選択し、「Y5037U::MaLPAAT1S」と命名した。加えて、Y5037株(Y5037(Ura−)株に対する親であったUra+株)を対照として使用した。
3mL培養物において、様々な培養条件及び株に基づき合計4つの別個の実験を実施し、脂質含量、脂肪酸組成及び変換効率に対するLPLAT過剰発現の効果を調べた。実験1は、シェーカーにおいて200rpm及び30℃でMM培地にて2日間増殖し、続いて3mLのHGM培地にて3日間インキュベートした後、Y5037U::FBAIN−CeLPCATS株及びY5037U::ScAleIS株を対照Y5037株と比較した。MM培地(カタログ番号CML−MM、Biomyx Technology)、pH6.1は、アミノ酸及びNH4SO4を含まない1.7gの酵母窒素ベース[「YNB」]、1gのプロリン、0.1gのアデニン、0.1gのリジン、及び20gのグルコースをL当たりに含有する。
実験2は、シェーカーにおいて200rpm及び30℃でCSM−U培地にて2日間増殖し、続いて3mLのHGM培地にて3日間インキュベートした後、Y5037U::ScAleIS株を対照Y5037株と比較した。CSM−U培地(カタログ番号C8140、Teknova Inc,、Hollister,CA)は、0.13%のウラシル非含有アミノ酸ドロップアウトパウダー、0.17%の酵母窒素ベース、0.5%の(NH4)2SO4、及び2.0%のグルコースを含む。
実験3は、シェーカーにおいて200rpm及び30℃でMM培地にて2日間増殖し、続いて3mLのHGM培地にて5日間インキュベートした後、Y5037U::FBAIN−CeLPCATS株及びY5037U::ScAleIS株を対照Y5037株と比較した。
実験5は、シェーカーにおいて200rpm及び30℃でFM培地にて2日間増殖し、続いて3mLのHGM培地にて3日間インキュベートした後、Y5037U::MaLPAAT1S株を対照Y5037株と比較した。FM培地の組成は実施例4に記載する。
HGM中で3日間(実験1、2、及び5)又は5日間(実験3)増殖した後、実施例4に記載されるとおり培養物の1mLアリコートを遠心により回収し、GCにより分析した。
実験4は、上記のとおり25mLのFM培地にて2日間増殖し、続いてHGM培地にて5日間インキュベートした後、Y5037U::FBAIN−CeLPCATS株及びY5037U::ScAleIS株を対照Y5037株と比較した。具体的には、MM寒天プレートからの新しく画線した細胞の1つのループを3mLのFM培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのFM培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、1mLのアリコートを用いてGC分析を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した(上記、実施例4)。
脂質含量、脂肪酸組成及び変換効率
各実験において、対照Y5037株及び形質転換体Y5037U株の1、2、3又は4個の同型培養物[「レプリケート」]について、脂質含量及び脂肪酸組成を定量化した。加えて、各Y5037U形質転換体のデータをY5037対照の%として表す。以下の表19はTFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA、DPA、DHA及びEDD(PA+DPA+DHAの合計に対応する)として特定される。加えて、DHA % TFA/DPA % TFAの比が提供される。
表20は、合計DCW(mg/mL)、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、及びPUFA生合成経路で機能し、且つDHA産生に必要な各デサチュラーゼ及びエロンガーゼの変換効率を要約する。具体的には、Δ12デサチュラーゼ変換効率[「Δ12 CE」]、Δ8デサチュラーゼ変換効率[「Δ8 CE」]、Δ5デサチュラーゼ変換効率[「Δ5 CE」]、Δ17デサチュラーゼ変換効率[「Δ17 CE」]、Δ4デサチュラーゼ変換効率[「Δ4 CE」]、Δ9伸長変換効率[「Δ9e CE」]及びΔ5伸長変換効率[「Δ5e CE」]が、各対照Y5037株及び1つ又は複数の形質転換体Y5037U株について提供される;各Y5037U形質転換体のデータはY5037対照の%として表す。変換効率は以下の式により計算した:産物/(産物+基質)*100(ここで産物は、産物と産物誘導体との双方を含む)。
表19及び表20のデータに基づけば、DHA株のY5037U::CeLPCATS、Y5037U::ScAleIS及びY5037U::MaLPAAT1SにおけるLPLATの過剰発現は、TFAの重量%としてのLA濃度[「LA % TFA」]の低下、TFAの重量%としてのEPA濃度[「EPA % TFA」]の増加、TFAの重量%としてのDHA濃度[「DHA % TFA」]の増加、TFAの重量%としてのEPA+DPA+DHA濃度[「EDD % TFA」]の増加(実験4のY5037U::ScAleIS株を除く)、DHA % TFAのDPA % TFAに対する比[「DHA/DPA」]の増加、Δ9エロンガーゼの変換効率の増加及びΔ4デサチュラーゼの変換効率の増加をもたらす。
より具体的には、培養条件によっては、Y5037U::CeLPCATSにおけるCeLPCATSの過剰発現により、対照と比較したときLA % TFAが45%に低下し、EPA % TFAが175%に増加し、DHA % TFAが169%に増加し、Δ9伸長CEが124%に増加し、及びΔ4不飽和化CEが226%に増加し得る。同様に、培養条件によっては、Y5037U::ScAleISにおけるScAle1Sの過剰発現により、対照と比較したときLA % TFAが72%に低下し、EPA % TFAが125%に増加し、DHA % TFAが222%に増加し、Δ9伸長CEが113%に増加し、及びΔ4不飽和化CEが191%に増加し得る。最後に、Y5037U::MaLPAAT1SにおけるMaLPAAT1の過剰発現により、対照と比較したときLA % TFAが94%に低下し、EPA % TFAが115%に増加し、DHA % TFAが120%に増加し、Δ9伸長CEが104%に増加し、及びΔ4不飽和化CEが118%に増加し得る。
実験4ではY5037U::CeLPCATSが著しく低い全脂質含量[「TFA % DCW」]を有したが、全脂質含量はY5037U::ScAleIS株において大きく改良された。この脂質含量の増加が、Y5037U::ScAleIS株におけるより低いEDD % TFAを説明するものである可能性が高い。
EPAを介したDHA生合成には2つのステップ、すなわちC20/22エロンガーゼ(また「C20」エロンガーゼとしても、又はΔ5エロンガーゼとしても知られる)によるEPAのDPAへの伸長と、Δ4デサチュラーゼによるDPAのDHAへの不飽和化とが関与する。EPAからのDHAの産生における重要な障害は、DPAの蓄積によって認められるΔ4不飽和化ステップであるとされているが、この制約についての機構の詳細は未だ不明である。上記の結果は、ScAle1S、YlAle1、YlLPAAT1、MaLPAAT1S、及びCeLPCATSタンパク質の発現によりΔ4不飽和化が著しく改良されたことを示している。従って、Δ4不飽和化は、Δ4デサチュラーゼ活性それ自体が理由で制約となったわけではなかった。むしろΔ4不飽和化は、リン脂質のsn−2位におけるDPA基質の利用能が限られていたために制約となった。結果からは、意外なことに、(他の不飽和化基質とは異なり)Ale1、LPAAT及びLPCATタンパク質の過剰発現によってリン脂質への限られたDPA取込みを解消できることが示された。
これまでに、国際公開第2004/076617号パンフレットが、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においてCeLPCAT(配列番号2)を発現させることにより、外因的に提供したGLAのDGLAへのΔ6伸長が向上することを示した。そこでは、CeLPCATがリン脂質のsn−2位からアシル鎖を除去し、それにより除去されたアシル基がCoAプールでの伸長に利用可能となったという仮説が立てられた。本研究では、それぞれ高レベルのEPA(実施例4)及びDHA(実施例5)を産生するよう改変されたヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株において、YAT1プロモーターの制御下でコドン最適化CeLPCATSを発現させることにより、内因的に産生されたLAのEDAへのΔ9伸長が向上することが示された。しかしながら、DHA産生Y5037U::CeLPCATS株におけるCeLPCATSの発現は、意外にも、EPAのDPAへのΔ5伸長の向上をもたらさなかった。対照的に、DHA産生Y5037U::CeLPCATS株におけるCeLPCATSの発現では、DPAのDHAへのΔ4不飽和化が極めて顕著に向上した(上記)。不飽和化はリン脂質のsn−2位で主に起こり、伸長はCoAプールにおいて起こるため、これは特に予想外のことであった。
上記に実証されるとおりの、LPLATの過剰発現によりもたらされるΔ4不飽和化変換効率の向上に基づけば、本明細書に記載されるLPLAT及びそのオルソログ、例えばScLPAATによってもまた、Δ4不飽和化変換効率が向上し得るものと予想される。
実施例6
ARA産生Y.リポリティカ(Y.lipolytica)Y8006U株における種々のLPLATの機能に関する特性決定
ARAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8006U株を使用して、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCATの過剰発現の効果について、それらをヤロウイア属(Yarrowia)宿主染色体に安定的に組み込んだ後、機能に関して特性決定した。これは、宿主がその天然LPLAT、すなわちAle1及びLPAAT1を含むにもかかわらずであった。
形質転換及び増殖
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8006U株(実施例1)は、実施例4で利用したものと同様の方法で、実施例3に記載される組込みベクターの直鎖状SphI−AscI断片により個々に形質転換する。URA+形質転換体を選択してFM培地で2日間及びHGM培地で5日間増殖し、次に培養物の1mLアリコートを遠心により回収し、GCにより分析する(実施例4)。3mL培養物の脂肪酸組成に基づき、Y8006株(Y8006U(Ura−)株に対する親であったUra+株)を対照として使用して、選択した形質転換体をさらに特性決定する。
各選択した形質転換体及び対照を実施例4に記載されるとおりFM培地及びHGM培地で再度増殖し、次にGC分析及びDCW測定に供する。
対照Y8006株及び1つ又は複数の形質転換体Y8006U株について、DCWの百分率としての脂質含量、脂肪酸組成及びARAを定量化する。加えて、各Y8006U形質転換体のデータをY8006対照の%として決定する。PUFA生合成経路で機能し、且つARAの産生に必要な各デサチュラーゼ及びΔ9エロンガーゼの変換効率もまた決定し、実施例4及び5と同様の方法で対照と比較する。
ARA株においてScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S、YlLPAAT1及びCeLPCATSのLPLATを過剰発現させることにより、TFAの重量%としてのLA(18:2)濃度[「LA % TFA」]の低下、TFAの重量%としてのARA濃度[「ARA % TFA」]の増加、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加がもたらされるという仮説が立てられる。
実施例7
LPAAT ORF及び自己複製配列を含む発現ベクターの構築
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に組み込まないLPAAT遺伝子発現に好適な、自己複製配列[「ARS」]とLPAAT ORFとを含むベクターの構築について記載する。ORFは、配列番号18をコードするサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)LPAATと、配列番号17をコードするヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1とを含んだ。実施例8は、これらのベクターをY.リポリティカ(Y.lipolytica)に形質転換した後に得られた結果について記載する。
コドン最適化サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)LPAAT遺伝子を含むpY222の構築
「ScLPAAT」と命名されるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ORF(配列番号18)を、DNA2.0(Menlo Park,CA)によってヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Pci1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、ScLPAATS;配列番号96)。ScLPAATS遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号97]は、野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号18]と同じである)。ScLPAATSをpJ201(DNA2.0)にクローニングしてpJ201:ScLPAATSを得た。
ScLPAATSを含む926bpのPci1/Not1断片をpJ201:ScLPAATSから切り取り、NcoI−Not1で切断したpYAT−DG2−1にクローニングしてpY222(配列番号100;表21;図13A)を作成した。従って、pY222は以下の構成要素を含んだ。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1遺伝子を含むpY177の構築
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)セントロメア及び自己複製配列[「ARS」]を、プライマー869(配列番号98)及びプライマー870(配列番号99)を使用する標準的なPCRにより、プラスミドpYAT−DG2−1を鋳型として増幅した。PCR産物をAscI/AvrIIで消化し、AscI−AvrII消化pY207(配列番号87;実施例3)にクローニングしてpY177(配列番号101;表22;図13B)を作成した。従って、pY177中に存在する構成要素は、AscIとAvrIIとの間の373bpのpY207配列がARSを含む1341bpの配列に置き換えられたことを除き、pY207(図11B)中に存在するものと同じである。より具体的には、pY177は以下の構成要素を含んだ。
実施例8
EPA産生ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株における種々のLPAATの機能に関する特性決定
EPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株を使用して、自己複製プラスミドに組み込まないサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)LPAATS(配列番号96)及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1(配列番号16)の発現の効果を、機能に関して特性決定した。これは、宿主がその天然LPAATを含むにもかかわらずであった。
形質転換及び増殖
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株(実施例1)を実施例7の切断していないプラスミドにより個々に形質転換した。具体的には、ベクターpY177(YAT1::YlLPAAT1::Lip1)[配列番号101]及びpY222(YAT1::ScLPAATS::Lip1)[配列番号100]を一般的方法に従い形質転換した。
各形質転換混合物をMM寒天プレートに播種した。いくつかの得られたURA+形質転換体を選び取り、3mLのCSM−U培地(Teknovaカタログ番号C8140、Teknova Inc.、Hollister,CA)に接種した。ここでCSM−U培地は、ウラシル非含有0.13%アミノ酸ドロップアウトパウダー、0.17%酵母窒素ベース、0.5%(NH4)2SO4、及び2.0%グルコースを含むグルコース含有ウラシル非含有CMブロスを指す。シェーカーにおいて200rpm及び30℃で2日間増殖した後、培養物を遠心により回収し、3mLのHGM培地(カタログ番号2G2080、Teknova Inc.)に再懸濁した。シェーカーにおいて5日間増殖した後、培養物の1mLアリコートを回収し、実施例4に記載するとおりGCにより分析した。
3mL培養物の脂肪酸組成に基づき、選択した形質転換体をフラスコアッセイによりさらに特性決定した。具体的には、発現ベクターpY222(ScLPAATSを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#5及び#6を選択し、それぞれ「Y8406U::ScLPAATS−5」及び「Y8406U::ScLPAATS−6」と命名した;発現ベクターpY177(YlLPAAT1を含む)により形質転換したY8406U株のクローン#1を選択し、「Y8406U::YlLPAAT1」と命名した。加えて、Y8406株(Y8406U(Ura−)株に対する親であったUra+株)を対照として使用した。
各選択した形質転換体及び対照をMM寒天プレートに画線した。次に、新しく画線した細胞の1つのループを3mLのCSM−U培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのCSM−U培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、実施例4に記載されるとおり1mLのアリコートを用いてGC分析を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した。
脂質含量、脂肪酸組成及び変換効率
対照Y8406株及び形質転換体Y8406U株の2個の同型培養物[「レプリケート」]について、DCWの百分率として脂質含量、脂肪酸組成及びEPAを定量化した。加えて、各Y8406U形質転換体のデータをY8406対照の%として表す。以下の表23は、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA及びEPAとして特定される。
表24は、実施例4の記載と同じ方法で、PUFA生合成経路で機能し、且つEPA産生に必要な各デサチュラーゼ及びΔ9エロンガーゼの変換効率を要約する。
上記の表23及び表24におけるデータに基づけば、EPA株のY8406U::YlLPAAT1、Y8406U::ScLPAATS−5及びY8406U::ScLPAATS−6におけるScLPAATS及びYlLPAAT1の双方の過剰発現は、TFAの重量%としてのLA(18:2)濃度[「LA % TFA」]の低下(対照の76%以下に至る)、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加(対照の少なくとも7%に上る)をもたらした。ScLPAATSとYlLPAAT1とは脂質プロファイルに対して同様の効果を有する。
次に上記で得られた結果を実施例4で得られた結果と比較したが、LPLATの特性決定には異なる手段を利用した。具体的には、実施例4では、ベクターがARS配列を含まなかったため、LPLATを有する直鎖化DNAを染色体に組み込むことにより形質転換した。その結果、安定的な組み込みがもたらされ、前培養及び2日間の増殖の双方の間に比較的高濃度の非選択的FM増殖培地で株を増殖し、その後HGMに移した。
実施例8では、複製プラスミドに対するYlLPAAT1及びScLPAATSの機能に関する特性決定を行った。従って、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株を、各LPAAT及びARS配列を含む環状DNAにより形質転換した。これらのプラスミドを維持し、組込みなしに遺伝子発現をアッセイするため、HGMに移す前に、前培養及び2日間の増殖の双方の間に選択培地(すなわち、CSM−U培地)で形質転換体を増殖させる必要があった。
上記に記載されるこれらの違いは、実施例4及び8においてYlLPAAT1の発現により示されるとおり、脂質プロファイル及び含量の違いに寄与し得る。実施例4でYlLPAATを発現させたとき、対照と比べたLA % TFA、EPA % TFA、及びΔ9エロンガーゼ変換効率の変化は、それぞれ63%、115%、及び115%であったが、一方、実施例8でYlLPAATを発現させたときの対照と比べたLA % TFA、EPA % TFA、及びΔ9エロンガーゼ変換効率の変化は、それぞれ76%、101%、及び107%であった。従って、実施例8におけるΔ9伸長及びLC−PUFA生合成の改良は、実施例4で観察されるものと比較したとき最小限となる。これらの違いは、染色体への組込みの「位置効果」及び/又は異なる増殖条件に起因し得る。
LC−PUFA生合成の改良(LA % TFAの低下、EPA % TFAの増加及びΔ9エロンガーゼ変換効率の増加として計測される)は、複製プラスミド上のヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株に形質転換されたときのScLPAATS及びYlLPAATの双方について同程度であるため、双方のLPLAATとも宿主染色体に安定的に組み込まれた場合には同様に機能し得ると予想される。従って、ScLPAATSは、宿主染色体に安定的に組み込まれた場合、実施例4及び5での観察と同様に脂質プロファイルを改良する可能性が高い。
次に、本発明の態様を示す。
1. 少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸の産生を改良するための組換え油性微生物宿主細胞であって、前記宿主細胞が少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを含み、前記ポリペプチドが、
a)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号9及び配列番号11からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
b)配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号28からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
c)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
d)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び、
e)配列番号19及び配列番号20からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なり;及び、
さらに前記宿主細胞が、
(i)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物宿主細胞におけるC 18 からC 20 への伸長変換効率の増加、
(ii)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物宿主細胞におけるΔ4不飽和化変換効率の増加、
からなる群から選択される少なくとも1つの改良を有する、組換え宿主細胞。
2. 前記少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸が、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ω−6ドコサペンタエン酸、ω−3ドコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群から選択される、上記1に記載の組換え宿主細胞。
3. 前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが安定的に組み込まれ、及び、
さらに前記宿主細胞が、
a)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物宿主細胞における少なくとも4%のC 18 からC 20 への伸長変換効率の増加;及び、
b)対照宿主細胞と比較したときの少なくとも1つの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物宿主細胞における少なくとも5%のΔ4不飽和化変換効率の増加
からなる群から選択される少なくとも1つの改良を有する、上記1に記載の組換え宿主細胞。
4. 前記改良が、
a)対照宿主細胞と比較したときのエイコサペンタエン酸産生宿主細胞における少なくとも13%のC 18 からC 20 への伸長変換効率の増加;
b)対照宿主細胞と比較したときのドコサヘキサエン酸産生宿主細胞における少なくとも4%のC 18 からC 20 への伸長変換効率の増加;
c)対照宿主細胞と比較したときのドコサヘキサエン酸産生宿主細胞における少なくとも18%のΔ4不飽和化変換効率の増加;
d)対照宿主細胞と比較したときの全脂肪酸の重量パーセントとして計測されるエイコサペンタエン酸産生宿主細胞中のエイコサペンタエン酸の少なくとも9重量パーセントの増加;
e)対照宿主細胞と比較したときの全脂肪酸の重量パーセントとして計測されるドコサヘキサエン酸産生宿主細胞中のエイコサペンタエン酸の少なくとも2重量パーセントの増加;及び、
f)対照宿主細胞と比較したときの全脂肪酸の重量パーセントとして計測されるドコサヘキサエン酸産生宿主細胞中のドコサヘキサエン酸の少なくとも9重量パーセントの増加からなる群から選択される、上記3に記載の組換え宿主細胞。
5. 前記微生物が酵母である、上記1〜4のいずれか一項に記載の組換え宿主細胞。
6. 前記酵母がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、上記5に記載の組換え宿主細胞。
7. 上記4に記載の油性微生物組換え宿主細胞から得られたエイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含む油。
8. エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含む油を作製する方法であって、
a)上記4に記載の油性微生物宿主細胞を培養するステップであって、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含む油が産生されるステップと、
b)ステップ(a)の前記微生物油を回収してもよいステップと、
を含む方法。
9. ステップ(b)の前記回収される油がさらに処理される、上記8に記載の方法。
10. 前記宿主細胞が油性酵母である、上記8に記載の方法。
11. 前記油性酵母がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、上記10に記載の方法。
12. 長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物組換え宿主細胞におけるC 18 からC 20 への伸長変換効率を増加させる方法であって、
a)前記長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する組換え宿主細胞に、少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを導入するステップであって、前記ポリペプチドが、
(i)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号9及び配列番号11からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(ii)配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号28からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
(iii)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(iv)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び、
(v)配列番号19及び配列番号20からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なる、ステップと、
b)前記油性微生物宿主細胞を増殖するステップと、
を含み、前記油性微生物宿主細胞のC 18 からC 20 への伸長変換効率が対照宿主細胞と比べて増加する、方法。
13. a)少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが安定的に組み込まれ、及び、
b)前記C 18 からC 20 への伸長変換効率の増加が、対照宿主細胞と比較したときエイコサペンタエン酸産生宿主細胞において少なくとも13%である、
上記12に記載の方法。
14. a)前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが安定的に組み込まれ、及び、
b)C 18 からC 20 への伸長変換効率の増加が、対照宿主細胞と比較したときドコサヘキサエン酸産生宿主細胞において少なくとも4%である、
上記12に記載の方法。
15. 前記宿主細胞が油性酵母である、上記12に記載の方法。
16. 前記油性酵母がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、上記15に記載の方法。
17. 長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する油性微生物組換え宿主細胞におけるΔ4不飽和化変換効率を増加させる方法であって、
a)前記長鎖多価不飽和脂肪酸を産生する組換え宿主細胞に、少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを導入するステップであって、前記ポリペプチドが、
(i)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号9及び配列番号11からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(ii)配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号28からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
(iii)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号2に示されるとおりのアミノ酸配列と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(iv)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び、
(v)配列番号19及び配列番号20からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なる、ステップと、
b)前記油性微生物宿主細胞を増殖するステップと、
を含み、前記油性微生物宿主細胞のΔ4不飽和化変換効率が対照宿主細胞と比べて増加する、方法。
18. a)前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが安定的に組み込まれ、及び、
b)前記Δ4不飽和化変換効率の増加が、対照宿主細胞と比較したとき少なくとも18%である、
上記17に記載の方法。
19. 前記宿主細胞が油性酵母である、上記17に記載の方法。
20. 前記油性酵母がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、上記19に記載の方法。