JP5920373B2 - ディスクブレーキ振動推定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、ディスクブレーキ振動推定装置に関する。
ディスクブレーキは、液圧シリンダの液圧によりパッドを回転するディスクロータに接触させて、制動力を発生する。ディスクブレーキでは、回転するディスクロータにパッドが接触することで振動が発生し、回転するディスクロータとパッドが共振することでいわゆるブレーキ鳴きが発生する。ここで、ブレーキ鳴きの振動モードとして、面外振動モードと面内振動モードとがある。面外振動モードは、ディスクロータのパッドが接触する接触面(摩擦面)が回転軸と同じ方向、すなわち面外方向に振幅するモードである。面内振動モードは、ディスクロータの接触面(摩擦面)がディスクロータの周方向、すなわち面内方向に振動するモードである。
例えば、特許文献1に示すように、面内振動モードにおけるディスクブレーキの振動を推定する数理モデルが提案されている。このような数理モデルを用いれば、ディスクブレーキに対応する有限個の要素で構成されるディスクブレーキモデルを作成して、シミュレーションにより、面内振動モードにおけるブレーキ鳴き(ディスクロータの面内方向に起因するブレーキ鳴き)の推定を行うことができる。従って、ブレーキ鳴きを抑制したディスクブレーキを設計することも可能となる。
国際公開第2013/084363号
ところで、数理モデルは、ディスクロータの周方向(面内方向)に発生する面内バネ値によって面内方向の振動を励起するモデルである。面内バネ値は、ディスクロータおよびパッドの表面粗さに起因するせん断方向の抵抗をバネでモデル化したものである。面内バネ値は、実測で測定することが困難であり、推定方法も確立されていない。従って、上記数理モデルを用いた面内方向におけるディスクブレーキの振動の推定は、精度の向上が要望されている。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、面内バネ値を精度よく推定することで、面内方向におけるディスクブレーキの振動の推定を精度よく行うことができるディスクブレーキ振動推定装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、回転するディスクロータにパッドを接触させることで制動力を発生するディスクブレーキの前記ディスクロータと前記パッドの接触時における振動を、有限個の要素で構成された少なくとも前記ディスクロータに対応するディスクロータモデルおよび前記パッドに対応するパッドモデルに基づいて推定するディスクブレーキ振動推定装置であって、前記ディスクロータの面内方向に発生する面内方向起振力を決定するための面内バネ値を算出する面内バネ値算出手段と、前記算出された面内バネ値に基づいて面内方向における前記ディスクブレーキの振動を推定する振動推定手段と、を有し、前記面内バネ値算出手段は、前記ディスクロータモデルに対して前記パッドモデルが接触する接触面を構成する節点で発生するモーメントを前記接触面の全体で積分した値が、前記回転するディスクロータに前記パッドを接触させた状態で計測された前記パッド全体の実モーメントと釣り合うことを条件として、前記接触面における面内方向の摩擦係数と、前記接触面における面外方向の摩擦係数と、前記ディスクロータの面外方向に発生する面外方向起振力を求めるための面外バネ値と、前記実モーメントと、に基づいて前記面内バネ値を算出する、ことを特徴とする。
また、上記ディスクブレーキの振動推定装置において、前記面内バネ値算出手段は、前記節点を直交座標系から自然座標系に座標変換した状態で、前記面内バネ値を算出することが好ましい。
また、上記ディスクブレーキの振動推定装置において、前記面内バネ値算出手段は、下記の数式1に基づいて面内バネ値を算出することが好ましい。
cprは前記面内バネ値、Kprは前記面外バネ値、Mは前記実モーメント、detJはヤコビアン、μは前記接触面における面内方向の摩擦係数、μは前記接触面における面外方向の摩擦係数、αζは、面内方向における変位の大きさに基づく値であり、αξは面外方向における変位の大きさに基づく値であり、βは面内振動モードの次数である。
本発明に係るディスクブレーキ振動推定装置は、面内方向におけるディスクブレーキの振動を精度良く推定することができるという効果を奏する。
図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置の構成例を示す図である。 図2は、面圧振動モデルを示す図である。 図3は、座標変換の説明図である。 図4は、パッド全体のモーメントの説明図である。 図5は、面圧と圧縮変位との関係を示す図である。 図6は、自然座標系における変位グラフを示す図である。 図7は、自然座標系における変位グラフを示す図である。 図8は、本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置による振動推定方法のフローチャートを示す図である。
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置は、有限要素法に基づいた数値解析装置であり、ディスクブレーキに対応する有限個の要素で構成されたディスクブレーキモデル(ディスクロータに対応するディスクロータモデルおよびパッドに対応するパッドモデルを含む)に基づいて、少なくとも面内方向におけるディスクブレーキの振動を推定、およびディスクブレーキの振動がブレーキ鳴きのレベルであるか否かの鳴き判定行うものである。図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置の構成例を示す図である。
ディスクブレーキ振動推定装置1は、ディスクブレーキ100を対象として、回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させることで制動力を発生する際に、ディスクロータ104とパッド102,103の接触時における振動、本実施形態では面内振動モードにおけるディスクブレーキ100の振動の推定と、ディスクブレーキ100の振動がブレーキ鳴きのレベルであるか否かの鳴き判定を行うものであり、処理手段である処理部3と記憶部2とを含んで構成されている。ディスクブレーキ振動推定装置1には、入出力装置4が接続されており、ここに備えられた入力手段41は、各設定値の入力や、記憶部2および処理部3に指令、例えば処理部3にディスクブレーキ振動推定方法を実行させる指令などを与えるものである。ここで、入力手段41には、キーボード、マウス、マイク等の入力デバイスを使用することができる。なお、ディスクブレーキ振動推定装置1が各設定値を取得する方法は、入力手段41のみならず、例えば、予め入力物理量が記憶部2に記憶されている、あるいは有線・無線を介して外部記憶手段に記憶されている各設定値を図示しない入出力インターフェース・通信インターフェースを介して取得しても良い。
ここで、ディスクブレーキ100は、キャリパー101に取り付けられたパッド102,103がディスクロータ104を挟んでディスクロータ104の回転軸方向において対向して配置されている。キャリパー101内には、図示しない液圧シリンダが設けられており、液圧シリンダが発生する押圧力によりパッド102,103間の距離が縮まり、図示しない車輪と一体回転するディスクロータ104に、パッド102,103がそれぞれ接触することで摩擦力が発生する。発生した摩擦力は、キャリパー101に対してディスクロータ104の回転方向と反対方向に作用することで、図示しない車両を減速する制動力となる。つまり、ディスクブレーキ100は、制動力を発生するものである。なお、105は、マウンティングブラケットであり、キャリパー101、パッド102,103をディスクロータ104に対して回転軸方向に移動可能に支持するものである。また、106は、ディスクロータ104が固定されるハブである。
記憶部2には、ディスクブレーキ100の振動の推定を実現するディスクブレーキ振動推定方法が組み込まれたディスクブレーキ振動推定プログラムが格納されている。ここで、記憶部2は、ハードディスク装置等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ等のストレージ手段、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
ここで、上記ディスクブレーキ振動推定プログラムは、必ずしも単一的に構成されるものに限られず、コンピュータシステムにすでに記憶されているプログラム、例えばOS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものであっても良い。また、図1に示す処理部3の機能を実現するためのディスクブレーキ振動推定プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶して、この記録媒体に記録されたディスクブレーキ振動推定プログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定方法を実行しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
処理部3は、RAM、ROM等のメモリとCPU(Central Processing Unit)とにより構成されている。ディスクブレーキ100の振動を推定する際には、ディスクブレーキ振動推定装置1が取得した各設定値に基づいて、処理部3が上記ディスクブレーキ振動推定プログラムを処理部3の図示しないメモリに読み込んで演算を行う。なお、処理部3は、適宜演算途中の数値を記憶部2に格納し、格納した数値を適宜記憶部2から取り出して演算を行う。また、処理部3は、上記ディスクブレーキ振動推定プログラムの替わりに専用のハードウェアにより実現されるものであっても良い。処理部3が演算することで作成されたディスクブレーキ100の振動の推定結果やブレーキ鳴きの判定結果などは、入出力装置4の表示手段42により表示される。ここで、表示手段42には、LCD(Liquid Crystal Display)や有機ELディスプレイ等を使用することができる。また、ディスクブレーキ100の振動の推定結果やブレーキ鳴きの判定結果などは、図示しないプリンタに出力することができる。また、記憶部2は、処理部3内に設けられていても良いし、他の装置(例えば、データベースサーバ)内に設けられていても良い。また、入出力装置4を備えた図示しない端末装置から、ディスクブレーキ振動推定装置1に有線、無線のいずれかの方法でアクセスすることができる構成であっても良い。
処理部3は、機能概念的に、面内バネ値算出部31と、振動推定部32と、鳴き判定部33とを含んで構成されている。
面内バネ算出部31は、面内バネ値算出手段であり、ディスクロータ104の面内方向に発生する面内方向起振力を求めるための面内バネ値Kcprを算出するものである。本実施形態における面内バネ算出部31は、ディスクロータ104に対応するディスクロータモデル104´に対してパッド102,103に対応するパッドモデル102´,103´が接触する接触面Xを構成する節点sで発生するモーメントMを接触面Xの全体で積分した値が、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させた状態で計測されたパッド全体の実モーメントMと釣り合うことを条件とし、さらに節点sを直交座標系から自然座標系に座標変換した下記の数式2(算出式)に基づいて面内バネ値Kcprを算出する。
cprは面内バネ値、Kprは面外バネ値、Mは実モーメント、detJはヤコビアン、μは接触面における面内方向の摩擦係数、μは接触面における面外方向の摩擦係数、αζは、面内方向における変位の大きさに基づく値であり、αξは面外方向における変位の大きさに基づく値であり、βは面内振動モードの次数である。ここで、αζは、ディスクロータ104の周方向、面内振動モデルではディスクブレーキモデル104´の接線方向であるx方向における変位の大きさに基づいて決定される値である。αξは、ディスクロータ104の軸方向、面内振動モデルではディスクブレーキモデル104´の法線方向(軸方向)であるz方向における変位の大きさに基づいて決定される値である。αζ,αξは、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させる実験的事実に基づいた値であり、通常は1である。
ここで、上記数式2の導き方について説明する。図2は、面圧振動モデルを示す図である。図3は、座標変換の説明図である。図4は、パッド全体のモーメントの説明図である。図5は、面圧と圧縮変位との関係を示す図である。図6は、自然座標系における変位グラフを示す図である。図7は、自然座標系における変位グラフを示す図である。
本実施形態では、面内振動モデルとしてディスクロータ104とパッド102,103との接触面、すなわち、図2に示すように、x,y,zの直交座標系においてディスクブレーキモデル104´とパッドモデル102´,103´との接触面Xにおける節点sに対して、面内バネ値Kcprおよび面外バネ値Kprを設定したものを使用する。なお、面内振動モデルにおいては、ディスクブレーキ100の径方向、すなわちy方向における変形はないもと仮定する。また、同図において、Rはディスクロータ104の回転方向である。
面内バネ値Kcprは、ディスクロータ104の周方向、面内振動モデルではディスクブレーキモデル104´の接線方向であるx方向に伸縮する面内バネのバネ定数である。つまり、面内バネ値Kcprに、節点sにおけるx方向の変位uを乗算すると、ディスクロータ104の面内方向に発生する面内方向起振力Fcprが決定される。面内方向起振力Fcprは、節点sに作用するx方向における力の1つである。一方、面外バネ値Kprは、ディスクロータ104の軸方向、面内振動モデルではディスクブレーキモデル104´の軸方向であるz方向に伸縮する面内バネのバネ定数である。つまり、面外バネ値Kprに、節点sにおけるz方向の変位uを乗算すると、ディスクロータ104の面外方向に発生する面外方向起振力Fprが決定される。面外方向起振力Fprは、節点sに作用するz方向における力の1つである。
面内振動モデルにおいて節点sに作用するx方向の力fおよびz方向の力fは、それぞれ下記の数式3,4となる。なお、μ,μは、ディスクロータ104およびパッド102,103の緒元、例えば、寸法、質量、材料、慣性モーメント、縦弾性係数、せん断弾性係数などから求めることができる。
次に、節点sで発生するモーメントMは、下記の数式5となる。
ここで、節点sで発生するモーメントMを接触面Xの全体で積分した値、すなわちモーメント積分値は、パッドモデル102´,103´が回転するディスクロータモデル104´に接触することで、パッドモデル102´,103´全体に発生するモーメントである。節点モーメント積分値と、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させた状態におけるパッド102,103全体の実モーメントとは、同じであると推定することができる。つまり、仮定で求められた値と、実測によって得られた値が同じ値であると推定することができる。従って、節点モーメント積分値と実モーメントMとが釣り合う条件とすると、上記数式5と実モーメントMとの釣り合い式は下記の数式6となり、数式6を展開すると下記の数式7となる。
実モーメントMは、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させた状態において直接計測できる場合に、その計測値を用い、計測が困難である場合に、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させた状態に計測された実モーメントMの変化に対応して変化する実モーメントMとは異なる計測値から求めることとなる。例えば、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させた状態において、ディスクロータ104に作用するトルク変動に基づいて、実モーメントMを計測値から求める。つまり、実モーメントMは、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させる実験的事実に基づいた値である。
次に、節点sを直交座標系から自然座標系に座標変換した状態における上記釣り合い式を求める。上記数式6,7では、パッドモデル102´,103´とディスクロータモデル104´との接触面Xの面積分、すなわち接触面Xにおける節点sの数分の計算が必要となる。また、パッド102,103の形状が変化すると、節点sの数も変化するため、パッド102,103の形状に拘わらず、面内バネ値Kcprを求めることが好ましい。そこで、図3に示すように、直交座標系のx−y平面におけるパッドモデル102´,103´のディスクロータモデル104´との接触面Xにおける微少領域ds(節点s)をヤコビアン(ヤコビ行列)により、自然座標系のξ-η平面(−1≦ξ≦1、−1≦η≦1)に座標変換する。従って、節点sを直交座標系であるx-y-z座標系から自然座標系であるξ-η-ζ座標系に座標変換する。具体的には、上記の数式7に下記の数式8を代入して、下記の数式9を求める。
ここで、実際に回転するディスクロータ104にパッド102,103を接触させた状態では、パッド102,103に、面内振動モードの次数に対応した曲げ発生していることが実験的事実として、発明者によって解明された。例えば、図4に示すように、面内振動モードが1次、すなわち面内1次モードでは、パッド102,103に1次曲げが発生している。この実験的事実より、面内方向におけるディスクブレーキ100の振動は、パッド102,103のそれぞれの1次曲げが同相で同期することで、ディスクロータ104の面内方向に摩擦力を発生させることに起因し、ディスクロータ104の面内方向における振幅を増幅すると考えられている。
接触面の変位はパッド102,103の曲げに対応したものとすることができるので、自然座標系における接触面Xの変位はパッドモデル102´,103´の曲げモードに対応したものとすることができる。節点sの接線方向(x方向)における変位uは、自然座標系でのξ方向における変位uξとなり、図5に示すように、sin波となり、下記の数式10となる。接触面Xのx方向における範囲は、同図に示すように、自然座標系のξ方向の−1≦ξ≦1となる。節点sの法線方向(z方向)における変位uは、自然座標系でのζ方向における変位uζとなり、図6に示すように、cos波となり、下記の数式11となる。接触面Xのz方向における範囲は、自然座標系のζ方向の−1≦ζ≦1となる。
上記の数式10,11を上記数式9に代入して下記の数式12を求める。
次に、以下の関係式、数式13、数式14、数式15を用いて、上記の数式12から下記の数式16を求める。
次に、上記数式16を面内バネ値Kcprについて解くと、上記数式2となる。ここで、面外バネ値Kprは、実験的事実に基づいた値である。具体的には、パッドモデル102´,103´の接触面と同材質の摩擦材を用いた圧縮試験により、図7に示すように、圧縮変位と面圧(圧力)との関係のグラフAを得て、グラフAの傾きを面外バネ値Kprとする。
振動推定部32は、面内バネ算出部31により算出された面内バネ値Kcprおよび自励振動現象に基づいた数理モデルとに基づいて、ディスクブレーキ100の振動を推定する。本実施形態では、一例として、面内バネ値Kcprおよび下記の数式17に基づいて、ディスクブレーキ100の振動を推定する。
[M]はディスクブレーキ100の質量行列、[K]はディスクブレーキ100の剛性行列、uはディスクブレーキ100の変位ベクトル、μはディスクロータ104とパッド102,103との間の摩擦係数、Kcprは面内バネ値(面内方向の接触剛性)、Kprは面外バネ値(面外方向の接触剛性)である。
鳴き判定部33は、上記振動推定部32によりディスクブレーキ100の振動を推定したのち、本実施形態では、推定開始から所定時間後の変位に基づいて、面内方向におけるディスクブレーキ100の鳴きを判定する。鳴き判定部33は、一例として、推定開始から所定時間t経過後の判定対象となるディスクロータモデル104´における所定節点sの変位xが基準値umax以上であるか否かを判定し、基準値umax以上である場合に面内方向におけるディスクブレーキ100の鳴きが発生すると判定する。
次に、ディスクブレーキ振動推定装置1によるディスクブレーキ振動推定方法について説明する。図8は、本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置による振動推定方法のフローチャートを示す図である。
まず、本実施形態では、有限要素法(FEM)に基づく有限要素モデルをキャリパー101、パッド102,103、ディスクロータ104、マウンティングブラケット105、ハブ106ごとに作成し、これらを組み合わせることで、ディスクブレーキモデル100´を生成する(図1参照)。なお、ディスクブレーキモデル100´は、予め生成されていても良い。この場合、ディスクブレーキ振動推定装置1は、予め生成されたディスクブレーキモデル100´を取得しても良い。
次に、図8に示すように、処理部3の面内ばね値算出部31は、面内振動モードの決定を行う(ステップST1)。ここでは、面内ばね値算出部31は、実験的事実に基づいて設定されている値(Kpr,M,αζ,αξなど)、対象とする面内振動モードの次数β、ディスクブレーキ100の緒元から設定される値(μx,、μなど)を予め取得しておき、これらの値と、上記の数式2に基づいて面内バネ値Kcprを算出する。
次に、処理部3の振動推定部32は、面内ばね値算出部31により算出された面内バネ値Kcprに基づいて、面内方向におけるディスクブレーキの振動を推定する(ステップST2)。ここでは、振動推定部32は、面内バネ値Kcprおよび上記の数式17に基づいて、節点sでの面内方向における振動を推定する。
次に、鳴き判定部33は、面内方向におけるディスクブレーキ100の鳴きを判定する(ステップST4)。ここでは、鳴き判定部33は、例えば上記数式17による計算が面内1次モード(β=1)に対するものである場合は、面内1次モード、すなわちディスクロータ104の周方向に180度ごとに節(節に対して90度のところが腹となる)を持っているブレーキ鳴きが発生したか否かを判定する。本実施形態では、上記振動推定部32による計算の開始、すなわち推定開始から所定時間t経過後の判定対象となるディスクロータ104のモデルにおける所定節点sの変位uが基準値umax以上であるか否かを判定し、基準値umax以上である場合に面内1次モードにおけるディスクブレーキ100の鳴きが発生すると判定する。従って、振動推定部32による面内方向におけるディスクブレーキ100の振動を推定した結果、ディスクブレーキ100に面内方向におけるブレーキ鳴きが発生するのか否かを面内方向におけるディスクブレーキ100の振動を推定することで容易に判断することができる。ここで、基準値umaxは、推定対象とするディスクブレーキ100を構成する各要素の形状、寸法、材料、パッド102,103とディスクロータ104との接触時における面圧の大きさ、求めようとする面内振動モードなどに応じて変化するものである。
以上のように、本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置1では、接触面Xを構成する節点sで発生するモーメントMを接触面Xの全体で積分した値が、実モーメントMと釣り合うことを条件に、摩擦係数μ,μと、面外バネ値Kprと、実モーメントMとに基づいて、上記の数式2により面内バネ値Kcprを算出する。つまり、本実施形態では、実測することが困難であり、仮定で求められた値のみで算出することが困難であった面内バネ値Kcprの算出を、仮定で求められた値および実測によって得られた値の両方を用いて行う。従って、実測することが困難であり、仮定で求められた値のみで算出することが困難である面内バネ値Kcprを精度よく推定することができる。これにより、精度よく推定された面内バネ値Kcprに基づいて面内方向におけるディスクブレーキ100の振動を推定するので、精度よく推定することができる。
また、面内バネ値Kcprの算出は、節点sを直交座標系から自然座標系に座標変換した状態で行うので、パッド102´,103´の形状を考慮することなく面内バネ値Kcprを算出することができる。また、接触面における変位は、パッド102,103の曲げに対応したものである。このことから、パッド102,103の曲げという実験的事実によって求めることができた接触面Xにおける変位の関係性(上記数式8,9)に基づいて面内バネ値Kcprを算出することができる。これらにより、面内バネ値Kcprの算出を上記の数式2のように、陽的表現の式とすることができ、接触面Xにおける節点sの数分の計算が不要となり、面内バネ値Kcprを算出するための付加を大幅に低減することができる。
なお、上記実施形態では、鳴き判定部33が推定開始から所定時間後の変位に基づいて、面内方向におけるディスクブレーキ100の鳴きを判定するが、本発明はこれに限定されるものではなく、変位に起因する値に基づいて鳴きを判定しても良い。例えば、鳴き判定部33は、上記振動推定部32による計算の開始、すなわち推定開始から所定時間t経過後の判定対象となるディスクロータ104のモデルにおける所定節点の変位uのノルムが基準値umax以上であるか否かを判定し、基準値umax以上である場合に、面内方向におけるディスクブレーキ100の鳴きが発生すると判定してもよい。
また、本実施形態に係るディスクブレーキ振動推定装置は、ディスクブレーキ100の設計に用いることもできる。ディスクブレーキ100の設計では、上記ディスクブレーキ振動推定装置1において推定された面内方向におけるディスクブレーキ100の振動を抑制するように、ディスクブレーキ100の各部品を設計することとなる。
1 ディスクブレーキ振動推定装置
2 記憶部
3 処理部
31 面内バネ値算出部
32 振動推定部
33 鳴き判定部
4 入出力装置

Claims (3)

  1. 回転するディスクロータにパッドを接触させることで制動力を発生するディスクブレーキの前記ディスクロータと前記パッドの接触時における振動を、有限個の要素で構成された少なくとも前記ディスクロータに対応するディスクロータモデルおよび前記パッドに対応するパッドモデルに基づいて推定するディスクブレーキ振動推定装置であって、
    前記ディスクロータの面内方向に発生する面内方向起振力を決定するための面内バネ値を算出する面内バネ値算出手段と、
    前記算出された面内バネ値に基づいて面内方向における前記ディスクブレーキの振動を推定する振動推定手段と、
    を有し、
    前記面内バネ値算出手段は、
    前記ディスクロータモデルに対して前記パッドモデルが接触する接触面を構成する節点で発生するモーメントを前記接触面の全体で積分した値が、前記回転するディスクロータに前記パッドを接触させた状態で計測された前記パッド全体の実モーメントと釣り合うことを条件として、
    前記接触面における面内方向の摩擦係数と、前記接触面における面外方向の摩擦係数と、前記ディスクロータの面外方向に発生する面外方向起振力を求めるための面外バネ値と、前記実モーメントと、に基づいて前記面内バネ値を算出する、
    ことを特徴とするディスクブレーキ振動推定装置。
  2. 前記面内バネ値算出手段は、
    前記節点を直交座標系から自然座標系に座標変換した状態で、前記面内バネ値を算出する請求項1に記載のディスクブレーキ振動推定装置。
  3. 前記面内バネ値算出手段は、
    下記の数式1に基づいて面内バネ値を算出する請求項2に記載のディスクブレーキ振動推定装置。
    cprは前記面内バネ値、Kprは前記面外バネ値、Mは前記実モーメント、detJはヤコビアン、μは前記接触面における面内方向の摩擦係数、μは前記接触面における面外方向の摩擦係数、αζは、面内方向における変位の大きさに基づく値であり、αξは面外方向における変位の大きさに基づく値であり、βは面内振動モードの次数である。
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