JP5920071B2 - 抵抗スポット溶接用電極 - Google Patents

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Description

本発明は、抵抗スポット溶接用電極に関し、特に、めっき鋼板、アルミニウム板又はアルミニウム合金板相互をスポット溶接する場合に好適な抵抗スポット溶接用電極に関する。
スポット溶接等の電気抵抗溶接に用いられる電極は、被溶接体に加圧力と電流を伝達、供給すると共に溶接熱を吸収、放散する機能が要求される。従って、抵抗スポット溶接用電極において求められる材料特性としては、高温強度が大きく、電気伝導性、熱伝導性が良好であることと、できるだけ低コストであることが望まれる。これらの要求性能をバランス良く満足する電極材料としては、従来よりクロム銅合金あるいはアルミナ分散銅等が使用されてきた。
ここで、これらクロム銅合金を始めとした電極材料の場合、一般の冷延鋼板を溶接する際には充分な連続打点性(電極寿命)を示す。しかしながら、亜鉛めっき鋼板を始めとする各種めっき鋼板やアルミニウム板又はアルミニウム合金板を溶接する際には、溶接発熱による電極の温度上昇により、めっき金属と電極銅、又は、アルミニウムと電極銅が合金化して電極先端面の激しい損耗を招く。このとき、一般的には、電極先端面が凹状に損耗するか、フラット形状に損耗してしまい、電極先端面の面積の拡大を招く。こうなると、電流密度が低下して所望のナゲットが形成され無くなり、電極のドレッシング(再研磨)又は交換までの時間を短縮せざるを得なくなることから、各種めっき鋼板、アルミニウム板等の溶接時には、生産性の低下が余儀なくされていた。
電極先端面の面積の拡大は、めっき金属と電極銅、又は、アルミニウムと電極銅との合金化に伴う、この合金層の生成・脱落の繰り返しによる電極の損耗によるものである。合金層は溶接熱の電極への蓄熱が多い状況ほど生成され易い。従って、この合金層の生成を抑制するためには電極本体の蓄熱を少なくする必要がある。
電極内部の中央部のみを集中的に冷却するための冷却手段としては、電極内部に形成された冷却水孔の冷却水孔底部に冷却水小孔を設けた構造や、冷却水孔底部に突出部を形成させ、かつ冷却水孔内に冷却水を供給するための冷却パイプを突出部先端より奥まで延伸させた構造、さらには電極内部の冷却水路側に作動流体を使用するヒートパイプを設けて、電極の温度上昇を抑制するスポット溶接用電極が特許文献1で提案されている。
一方、電極の連続打点性の向上を狙っては、複合構造のスポット溶接用電極も提案されており、例えば、特許文献2では、電極本体の外周面に電極本体よりも熱伝導率が高いダイヤモンドや無酸素銅等の放熱層を設けることにより発生熱を効率よく放散させて、電極の温度上昇を抑制する複層構造スポット溶接用電極が提案されている。また、特許文献3では、高電気伝導材であるCuもしくはCu−Cr合金によって形成された外周部と、セラミックス等の非電気伝導材によって形成された芯材とからなる二重構造スポット溶接用電極が提案されている。さらには、電極本体が被溶接体に当接する電極先端面に、電気伝導度及び熱伝導率に優れ、しかもCuもしくはCu合金からなる電極本体よりも高強度の例えばWやMoからなる芯材を埋設したスポット溶接用電極が特許文献4に提案されている。
特開平10−244379号公報 特開平06−226465号公報 特開昭64−062287号公報 特開平04−004984号公報
上記特許文献1及び特許文献2に記載の何れの技術も、電極先端部の蓄熱を回避することができるので、溶接発熱による電極の温度上昇により、めっき金属と電極銅との合金化、又は、アルミニウムと電極銅との合金化による電極先端面の損耗の度合を低減でき、電極先端面の面積の拡大を抑制できるという点では有用である。
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、冷却水小孔を設けると、電極先端部の体積が少なくなるため、溶接発熱部からの伝熱により電極先端部の温度上昇の度合が高くなり、電極先端面での合金化が却って進行しやすくなってしまう。さらには、冷却水孔底部に突出部を形成する構造では、突出部と冷却パイプとで形成される隙間により冷却水の流体抵抗が高くなるため、冷却水による電極先端部の冷却効率が損なわれるといった問題が生じる。
またさらに、特許文献1に記載のヒートパイプ構造では、ヒートパイプが作動流体を使用するが、溶接ラインで多用されるドレッシングにより電極先端部の厚みが薄くなると、電極先端部の温度が高くなり作動流体の沸点を超える可能性が高くなる。このため、ヒートパイプ構造では、ドレッシングを繰り返し行った後に作動流体が気化しやすくなり、ヒートパイプの熱伝達機能が低下してしまうといった問題が生じる。
また、上記特許文献2に記載の技術は、電極本体の外周面に電極本体よりも熱伝導率が高いダイヤモンドや無酸素銅等の放熱層を設けた構造のスポット溶接用電極であるため、ドレッシング等により放熱層が欠損すると再度放熱層の被覆が必要であるため、ドレッシングの繰り返しに適さないといった問題がある。
一方、上記特許文献3及び特許文献4に記載の技術は、電極先端面が溶接中に凹状、フラット形状に損耗することを回避できるので、一定の電極先端面の面積を確保できる点では有用である。
しかしながら、上記特許文献3及び特許文献4に記載の技術では、芯材としてセラミックス材料を使用する場合もあることから、被溶接体に当接される電極先端面に埋設された芯材が溶接時の加圧により圧潰する恐れが高い。また、特許文献3及び特許文献4に記載の技術では、芯材と電極本体の材料強度が異なるため、ドレッシングにより電極先端面を均一に研磨することが困難である。このため、ドレッシング後に電極先端面の形状を安定して同一形状に維持することが難しく、ドレッシングの繰り返しに適さないといった問題が生じる。
そこで、本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、電極材料としての保有すべき特性を満足するのは勿論のこと、めっき鋼板又はアルミニウム板等の溶接に使用した際に電極銅との合金層の生成を抑制することができ、連続打点性の向上を図ることが可能であるとともに、ドレッシングの繰り返しに好適な抵抗スポット溶接用電極を提供することを目的とする。
第1発明に係る抵抗スポット溶接用電極は、電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高い熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設され、前記電極本体は熱伝導率が320〜350W/(m・K)であり、前記高熱伝導性中核材は熱伝導率が390W/(m・K)以上で、該高熱伝導性中核材と前記電極本体の熱伝導率差が60W/(m・K)以上であり、さらに前記高熱伝導性中核材の直径をC、前記電極本体の直径をLとしたときの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85であり、前記高熱伝導性中核材の厚さをb、前記電極先端から前記冷却水孔底部までの厚さをaとしたときの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成されている。
また、第2の発明は、第1の発明において、前記電極本体は、被溶接体と当接する電極先端部と、前記高熱伝導性中核材が埋設された冷却水孔底部を有する電極基端部とを備え、前記電極先端部の厚さをeとしたときの厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13であり、該電極先端部と該電極基端部とが着脱自在に設けられていることを特徴とする。
また、第3の発明は、電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高い熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設され、前記電極本体は熱伝導率が320W/(m・K)であり、前記高熱伝導性中核材は熱伝導率が390W/(m・K)以上で、該高熱伝導性中核材と前記電極本体の熱伝導率差が60W/(m・K)以上であり、さらに前記高熱伝導性中核材の直径をC、前記電極本体の直径をLとしたときの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85であり、前記高熱伝導性中核材の厚さをb、前記電極先端から前記冷却水孔底部までの厚さをaとしたときの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成されていることを特徴とする。
また、第4の発明は、第3の発明において、前記電極本体は、被溶接体と当接する電極先端部と、前記高熱伝導性中核材が埋設された冷却水孔底部を有する電極基端部とを備え、前記電極先端部の厚さをeとしたときの厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13であり、該電極先端部と該電極基端部とが着脱可能に設けられていることを特徴とする。
また、第5の発明は、電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高い熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設され、前記電極本体は熱伝導率が320W/(m・K)であり、前記高熱伝導性中核材は熱伝導率が427W/(m・K)で、該高熱伝導性中核材と前記電極本体の熱伝導率差が60W/(m・K)以上であり、さらに前記高熱伝導性中核材の直径をC、前記電極本体の直径をLとしたときの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85であり、前記高熱伝導性中核材の厚さをb、前記電極先端から前記冷却水孔底部までの厚さをaとしたときの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成され、かつ、前記電極本体は、被溶接体と当接する電極先端部と、前記高熱伝導性中核材が埋設された冷却水孔底部を有する電極基端部とを備え、前記電極先端部の厚さをeとしたときの厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13であり、該電極先端部と該電極基端部とが着脱可能に設けられていることを特徴とする。
なお、本発明で抵抗スポット溶接の対象としては、Zn系、Zn−Fe系、Zn−Ni系、Zn−Al系、Zn−Mg系、Zn−Al−Mg系、Zn−Al−Mg−Si系、Sn−Zn系、Al−Si系等のめっき鋼板を包含するものである。さらにはアルミニウム板や5000番系、6000番系及び7000番系アルミニウム合金板もその対象とする。
第1〜第5発明によれば、電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設されているので、電極材料としての保有すべき電気伝導性、熱伝導性等の特性を満足するのは勿論のこと、溶接熱が電極本体の電極先端部から高熱伝導性中核材を介して冷却水に伝導され、冷却水に対する放熱を効果的に行なうことが可能となる。このため、溶接熱が電極先端部に蓄熱してしまうのを防止することが可能となり、その蓄熱に伴うめっき金属、アルミニウム又はアルミニウム合金と銅合金からなる電極本体との間で合金化してしまうのを防止し、連続打点性を大幅に向上させることが可能となる。
第1〜第5発明によれば、ヒートパイプが不要であるので、ドレッシングの繰り返しによるヒートパイプの熱伝達機能の低下といった問題の発生を防止することが可能となる。また、電極本体の外周面にダイヤモンド等の放熱層を設けることが不要であるので、ドレッシングによる放熱層の欠損といった問題の発生を防止することが可能となる。また、被溶接体と当接する電極先端面に電極本体と材料強度の異なる芯材を埋設させることが不要であるので、溶接加圧により芯材が圧潰したり、ドレッシングにより電極先端面の形状が不均一になるといった問題の発生を防止することが可能となる。また、これらのようにドレッシングに起因した問題の発生を防止することが可能となっていることから、ドレッシングの繰り返しに好適なものとなっている。
また、第2、第4発明によれば、電極先端面の損耗が生じる電極先端部と高熱伝導性中核材が埋設された電極基端部とが着脱可能であることから、電極先端面が損耗等したときに比較的安価な材料からなる電極先端部の交換を行うだけで、比較的高価な材料からなる高熱伝導性中核材を損なうことなく継続して使用することが可能となる。
本発明を適用したスポット溶接用電極の構造を模式的に示す縦断面図である。 本発明を適用したスポット溶接用電極の使用状態の一例を示す縦断面図である。 本発明を適用したスポット溶接用電極の一般的形状(ドーム型)を示す側面図である。 本発明を適用した他の実施形態に係るスポット溶接用電極の構造を模式的に示す縦断面図である。
めっき鋼板やアルミニウム板、アルミニウム合金板のスポット溶接時において、電極先端面の面積拡大による連続打点性の低下の原因は、溶接熱の電極本体への蓄熱によるめっき金属、アルミニウム又はアルミニウム合金と銅合金からなる電極本体との間での合金化によるものであることから、本発明者等は、電極本体の蓄熱を少なくする方策について鋭意検討した。
この結果、本発明者は、その一手段として、電極本体の冷却水孔底部に、該電極本体よりも高熱伝導性材料からなる高熱伝導性中核材を埋設させることが有効であることを見出した。この高熱伝導性中核材を電極本体の冷却水孔底部に埋設させることにより、溶接熱が電極本体の電極先端部からこの高熱伝導性材料を介して冷却水に伝導され、冷却水に対する放熱を効果的に行うことが可能となる。その結果、溶接熱が電極先端部に蓄熱してしまうのを防止することが可能となり、その蓄熱に伴うめっき金属、アルミニウム又はアルミニウム合金と銅合金からなる電極本体との間での合金化を防止することが可能となる。
以下に、本発明を適用したスポット溶接用電極について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明を適用したスポット溶接用電極1の構成を模式的に示す縦断面図であり、図2はそのスポット溶接用電極1の使用状態の一例を示す縦断面図であり、図3はそのスポット溶接用電極1の一般的形状を示す側面図である。
本発明を適用したスポット溶接用電極1は、銅合金からなる電極本体10と、電極本体10に形成された冷却水孔20と、冷却水孔20の冷却水孔底部23に埋設された高熱伝導性中核材30とを備えている。
電極本体10は、その先端側の電極先端面11aが被溶接体に当接される電極先端部11と、シャンク51や電極ホルダー等に着脱可能に取り付けられる電極基端部13とを備えている。電極本体10は、本実施形態において、電極先端部11と電極基端部13とが一体的に構成されている。
電極本体10を構成する銅合金は、銅を主体として、これにCr,Be,Zr,Co等の何れか1以上の金属を添加した合金であり、この他にも、これにAl23等のセラミックスを分散させた分散強化型合金でもよい。これら電極本体10を構成する銅合金は、高い電気伝導性及び熱伝導性を有し、電極材料として保有すべき特性の確保に寄与する。
電極本体10は、その熱伝導率が320〜350W/(m・K)である必要がある。この電極本体10の熱伝導率が320W/(m・K)未満であると、溶接熱による電極先端部11の蓄熱を回避することが困難であり、電極先端部11の温度上昇に伴う合金化により電極先端面11aの損耗を招く恐れや、合金化により被溶接体と電極先端部11とが凝着して次工程への電極1の移動不能を招く恐れがある。また、銅合金からなる電極本体10は、その熱伝導率が350W/(m・K)超であるとき、熱伝導率の高い純銅の特性に近似するものであり、純銅自身の圧縮特性は小さいものであることから、溶接加圧による電極本体10の圧潰又は著しい変形の恐れがある。
電極本体10のサイズ及び形状は、通常使用されているスポット溶接用電極に準じれば良く、その形状の種類としては、シングルR型、CF型、ドーム型等が挙げられる。図3は、ドーム型の電極本体10をその寸法の具体例とともに示したものである。
冷却水孔20は、外部からその冷却水孔20の内部を通して冷却水を流すために形成されている。冷却水孔20内に冷却水を流すうえでは、例えば、図2に示すように、シャンク51等に電極基端部13を着脱可能に取り付け、シャンク51等の内部に設けられた冷却パイプ53から冷却水孔20内に冷却水Wを供給することにより実現される。なお、図2の例では、冷却水孔20内に供給された冷却水Wは、冷却パイプ53の外周側とシャンク51の内周側との間の空間を通して外部に流される。
高熱伝導性中核材30は、電極本体10の内部に固定されており、冷却水孔20の開口部21側にその一部が露出するよう冷却水孔底部23に埋設されている。これにより、高熱伝導性中核材30は、冷却水孔20内に供給される冷却水Wと接触し、高熱伝導性中核材30から冷却水Wに直接伝熱させることが可能となる。
高熱伝導性中核材30は、電極本体10よりも高い熱伝導率の熱伝導性材料からなるものである。具体的には、高熱伝導性中核材30は、熱伝導率が390W/(m・K)以上の材料で構成されており、高熱伝導性中核材30と電極本体10との熱伝導率差は、60W/(m・K)以上とされている。高熱伝導性中核材30の熱伝導率が390W/(m・K)未満であると、溶接熱による電極先端部11の蓄熱を回避することが困難となり、電極先端部11の温度上昇に伴う合金化により電極先端面11aの損耗を招く恐れや、合金化により被溶接体と電極先端部11とが凝着して次工程への電極1の移動不能を招く恐れがある。また、高熱伝導性中核材30と電極本体10との熱伝導率差が60W/(m・K)未満であると、この場合も溶接熱による電極先端部11の蓄熱を回避することが困難となり、電極先端部11の温度上昇に伴う合金化により電極先端面11aの損耗を招く恐れや、合金化により被溶接体と電極先端部11とが凝着して次工程への電極1の移動不能を招く恐れがある。
高熱伝導性中核材30を構成する材料の具体的な例としては、無酸素銅、銀、及び銅と粉末ダイヤモンドの複合材があるが、これに限定されるものではなく、上述した物性の範囲に入るものであればいかなるものであってもよい。
高熱伝導性中核材30は、電極本体10の内部に固定するための手段について特に限定するものではない。図1の例では、電極本体10の内部において高熱伝導性中核材30に応じた形状に形成された中核材配設孔25内に、粉体状の高熱伝導性中核材30を詰め込んだうえで、ろう付によりその高熱伝導性中核材30を中核材配設孔25内に固定した例を示している。高熱伝導性中核材30を電極本体10の内部に固定するための手段としては、ろう付によるものの他に、静水圧処理による固定、レーザー溶接による固定、テーパーによる機械的な固定等でもよい。また、予め中核材配設孔25に応じた形状に成形された高熱伝導性中核材30をその中核材配設孔25内に嵌合させた後に、ろう付等の固定手段により固定するようにしてもよい。
次に、電極本体10と高熱伝導性中核材30とが満足すべき寸法条件について説明する。
高熱伝導性中核材30の直径をC、電極本体10の直径をLとしたとき、本発明に係る抵抗スポット溶接用電極1は、これらの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85となるように構成されている必要がある。直径比C/Lが0.7未満であると、電極本体10の直径に対して高熱伝導性中核材30の直径が小さくなりすぎ、溶接熱による電極先端部11の蓄熱を回避することが困難となり、電極先端部11の温度上昇に伴う合金化により電極先端面11aの損耗を招く恐れや、合金化により被溶接体と電極先端部11とが凝着して次工程への電極1の移動不能を招く恐れがある。直径比C/Lが0.85以上であると、電極本体10の直径に対してその電極本体10より圧縮特性の小さい傾向のある高熱伝導性中核材30の直径が大きくなりすぎて、電極本体10の圧縮強度の低下を招き、溶接加圧による電極本体10の圧潰の恐れがある。
高熱伝導性中核材30の厚さをb、電極先端11bから冷却水孔底部23までの厚さをaとしたとき、本発明に係る抵抗スポット溶接用電極1は、これらの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成されている必要がある。厚さ比b/aが5/13以下であると、電極先端部11の厚さに対する高熱伝導性中核材30の厚さが小さくなりすぎて、溶接熱による電極先端部11の蓄熱を回避することが困難となり、電極先端部11の温度上昇に伴う合金化により電極先端面11aの損耗を招く恐れや、合金化により被溶接体と電極先端部11とが凝着して次工程への電極1の移動不能を招く恐れがある。b/aが8/13以上であると、電極先端部11の厚さに対してその電極本体10より圧縮特性の小さい傾向のある高熱伝導性中核材30の厚さが大きくなりすぎて、電極本体10の圧縮強度の低下を招き、溶接加圧による電極本体10の圧潰の恐れがある。
上述の如き構成からなるスポット溶接用電極1では、電極本体10の冷却水孔底部23に該電極本体10よりも高熱伝導率の高熱伝導性中核材30が埋設されているので、電極材料としての保有すべき電気伝導性、熱伝導性等の特性を満足するのは勿論のこと、溶接熱が電極本体10の電極先端部11から高熱伝導性中核材30を介して冷却水Wに伝導され、冷却水Wに対する放熱を効果的に行なうことが可能となる。この結果、溶接熱が電極先端部11に蓄熱してしまうのを防止することが可能となり、その蓄熱に伴うめっき金属、アルミニウム又はアルミニウム合金と銅合金からなる電極本体10との間で合金化してしまうのを防止し、連続打点性を大幅に向上させることが可能となる。
また、上述のスポット溶接用電極1によれば、冷却水小孔や突出部を冷却水孔底部23に設ける必要がないので、電極先端部11の体積の減少による電極先端部11の温度上昇や、突出部による冷却水孔20内での冷却水Wの流体抵抗の増大といった問題が生じず、これらの問題に起因して冷却効率が損なわれるのを防止することが可能となる。
また、上述のスポット溶接用電極1によれば、ヒートパイプが不要であるので、ドレッシングの繰り返しによるヒートパイプの熱伝達機能の低下といった問題の発生を防止することが可能となる。また、電極本体10の外周面にダイヤモンド等の放熱層を設けることが不要であるので、ドレッシングによる放熱層の欠損といった問題の発生を防止することが可能となる。また、被溶接体と当接する電極先端面11aに電極本体10と材料強度の異なる芯材を埋設させることが不要であるので、溶接加圧により芯材が圧潰したり、ドレッシングにより電極先端面11aの形状が不均一になるといった問題の発生を防止することが可能となる。また、これらのようにドレッシングに起因した問題の発生を防止することが可能となっていることから、ドレッシングの繰り返しに好適なものとなっている。
また、高熱伝導性中核材30は、圧縮強度が比較的に低い傾向があるため、溶接加圧による圧潰の懸念がある。しかし、本発明を適用したスポット溶接用電極1では、当該高熱伝導性中核材30が冷却水孔底部23に埋設されているので、高熱伝導性中核材30より圧縮強度の高い電極本体10がその高熱伝導性中核材30を周囲から保持するように配置されていることになる。これに加えて、本発明を適用したスポット溶接用電極1では、高熱伝導性中核材30と電極本体10との直径比C/Lや厚さ比b/aが上述のように調整されている。このため、高熱伝導性中核材30は、溶接加圧による圧潰の懸念はなく、これを有するスポット溶接用電極1は溶接性に優れたものとなっている。
次に、本発明に係る抵抗スポット溶接用電極1の他の実施形態について説明する。以下においては、上述したスポット溶接用電極1と同一の構成要素、部材に関しては、同一の符号を付すことにより、以下での説明を省略する。
図4は、他の実施形態に係るスポット溶接用電極1の構成を模式的に示す縦断面図である。
他の実施形態に係る抵抗スポット溶接用電極1は、電極本体10の構成が上述の実施形態に係るものと相違している。具体的には、他の実施形態に係る電極本体10は、被溶接体と当接する電極先端部11と、高熱伝導性中核材30が埋設された冷却水孔底部23を有する電極基端部13とを備えており、これら電極先端部11と電極基端部13とが着脱可能とされている。即ち、電極本体10は、本実施形態において、電極先端部11と電極基端部13とが別体により構成されている。
本実施形態においては、電極先端部11に雌ねじ部12が形成されているとともに、電極基端部13に雄ねじ部14が形成されている。これにより、電極先端部11と電極基端部13とは、それぞれの雌ねじ部12と雄ねじ部14とをねじ接合することで、互いに着脱可能とされていることなる。なお、電極先端部11と電極基端部13とを着脱可能にするための構成については、これに特に限定するものではない。
この他の実施形態に係るスポット溶接用電極1においては、電極先端部11の厚さをeとしたとき、電極先端11bから冷却水孔底部23までの厚さaとの間で厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13とされていることが望ましい。この厚さ比e/aが5/13以下であると、厚さaに対する電極先端部11の厚さeが小さくなりすぎて、電極本体10の圧縮強度の低下を招くことになり、溶接加圧による電極本体10の圧潰の恐れがある。厚さ比e/aが8/13以上であると、厚さaに対する電極先端部11の厚さeが大きくなりすぎて、溶接熱による電極先端部11の蓄熱を回避することが困難となり、電極先端部11の温度上昇に伴う合金化により電極先端面11aの損耗を招く恐れや、合金化により被溶接体と電極先端部11とが凝着して次工程への電極1の移動不能を招く恐れがある。
この実施形態に係るスポット溶接用電極1によれば、電極先端面11aの損耗が生じる電極先端部11と高熱伝導性中核材30が埋設された電極基端部13とが着脱可能であることから、電極先端面11aが損耗等したときに比較的安価な材料からなる電極先端部11の交換を行なうだけで、比較的高価な材料からなる高熱伝導性中核材30を損なうことなく継続して使用することが可能となる。
以下、本発明の効果を実施例により更に説明する。
実施例1では、高熱伝導性中核材30の有無や、電極本体10と高熱伝導性中核材30との熱伝導率差等が発明の効果に及ぼす影響について確認するため、以下に説明するような条件で実際に抵抗スポット溶接を行なった。
具体的には、図1に示す一体型のスポット溶接用電極1、図4に示す着脱型のスポット溶接用電極1を使用して、溶融Al−Siめっき鋼板、アルミニウム合金板(5052)の2種の被溶接体をスポット溶接するときの連続打点性を調査することとした。これら被溶接体の板厚はいずれも0.8mmである。Ai−Siめっき鋼板のめっき付着量は片面あたり60g/m2であり、両面めっきされている。使用した電極は、ドーム型であり電極基端部13の直径Lが16mm、電極先端面11aの直径が6mm、電極先端11bから冷却水孔底部23までの厚さaが13mmのものを用いた。このスポット溶接用電極1の冷却水孔底部23には、図1に示すように直径Cが12mm、厚さbが6mmの高熱伝導性中核材30が埋設されたものを用いた。図3に示す着脱型のスポット溶接用電極1では、電極先端部11の厚さeが6mmであり、電極先端部11と電極基端部13とが互いにねじ接合されたものを用いた。
高熱伝導性中核材30としては、無酸素銅、銀、及び銅と粉末ダイヤモンドの複合材を使用した。銅と粉末ダイヤモンドの複合材は静水圧処理によって成形したものを用いた。
溶接条件を表1に示す。表1における各溶接条件は、被溶接体毎に、Al−Siめっき鋼板と、アルミニウム合金とに分けて記載している。また、表2に各試験No.とその条件、並びに連続打点性の試験結果を示す。連続打点性は、ナゲットを中央で切断して測定したナゲット径が3.6mmになるまでの打点数で評価した。
Figure 0005920071
Figure 0005920071
ちなみに、試験条件については、Al−Siめっき鋼板を被溶接体として使用する場合がNo.1〜No.7、アルミニウム合金板を被溶接体として使用する場合がNo.8〜No.14である。またNo.1〜6、No.8〜13は、それぞれ一体型のスポット溶接用電極1を、またNo.7、14が着脱型のスポット溶接用電極1を使用している。また、各試験No.について、それぞれ電極本体10の材質、並びに高熱伝導性中核材30の材質を表2に示すようにそれぞれ選定している。ちなみに、No.1、2、8、9については、高熱伝導性中核材30を設けない構成としており、本発明で規定した範囲から逸脱した比較例である。また、No.3、10については、高熱伝導性中核材30として、アルミナ分散銅を使用しており、熱伝導率が390未満であることから本発明で規定した範囲から逸脱した比較例である。これに対して、No.4〜7、No.11〜14は、何れも本発明例である。なお、表中で下線を付した数値は、本発明で規定した数値範囲から逸脱しているものを示す。
表2の連続打点性の試験結果に示すように、被溶接体としてAl−Siめっき鋼板を使用したスポット溶接用電極1において、銅合金からなる電極本体10単体で構成し、高熱伝導性中核材30を設けない構成の場合は、打点数は400に過ぎない(No.1,2)。これに対して、その電極本体10の冷却水孔底部23に高熱伝導性中核材30が埋設されていると、打点数は600に達し、条件によっては1000を超える(No.4〜6)。
同様に被溶接体としてアルミニウム合金板を使用したスポット溶接用電極1において、銅合金からなる電極本体10単体で構成し、高熱伝導性中核材30を設けない構成の場合、打点数は800に過ぎない(No.8,9)。これに対して、その電極本体10の冷却水孔底部23に高熱伝導性中核材30が埋設されていると、打点数は1100に達し、条件によっては1500を超える(No.11〜13)。
また、高熱伝導性中核材30が埋設されている場合でも、電極本体10と高熱伝導性中核材30との熱伝導率差が60に満たない場合は、連続打点性は改善されない(No.3,10)。
さらには、電極先端部11と電極基端部13とが着脱可能なスポット溶接用電極1においても(No.7,14)、銅合金単体からなるNo.1、2、8、9に比べ、概ね1.5倍の打点数に達し、連続打点性が改善された。
これらの結果から、電極本体10の冷却水孔底部23に埋設された高熱伝導性中核材30を介して溶接熱を冷却水に伝導させて、冷却水に対する放熱を行なうことにより、電極先端部11の蓄熱を防止することが可能となり、めっき金属やアルミニウムと、電極本体10との間で合金化が抑制されていることが示されている。
実施例2では、高熱伝導性中核材30の直径Cと電極本体10の直径Lとの直径比C/Lが発明の効果に及ぼす影響について確認するため、以下に説明するような条件で実際に抵抗スポット溶接を行った。
具体的には、図1に示す一体型のスポット溶接用電極1を使用して、溶接Al−Siめっき鋼板の被溶接体をスポット溶接するときの連続打点性、電極本体10の変形の有無を調査することとした。被溶接体の条件は実施例1と同じである。使用した電極1は、ドーム型であり電極基端部13の直径Lが16mm、電極先端面11aの直径が6mm、電極先端11bから冷却水孔底部23までの厚さaが13mmのものを用いた。このスポット溶接用電極1の冷却水孔底部23には、図1に示すように厚さbが6mmの高熱伝導性中核材30が埋設されたものを用いた。
溶接条件、連続打点性の評価方法は実施例1と同じである。また、試験結果を評価するうえでは、電極本体10の変形の度合いを評価した。表3に各試験No.とその条件、各試験No.での連続打点性、電極本体10の変形の有無を示す。
Figure 0005920071
ちなみに、No.21、25、26は直径比C/Lが本発明で規定した範囲から逸脱した比較例であり、No.5、22、23、24が本発明例である。
直径比C/Lが0.7未満である場合は、連続打点性の改善がみられない(No.21)。また、直径比C/Lが0.85以上である場合は、電極本体10の変形が発生しており、直径比C/Lが大きくなるほど変形の程度が大きくなり、連続打点性の改善もみられなくなる(No.25、26)。
これに対して、直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85である場合は、連続打点性の改善がみられるうえ、電極本体10の変形も発生していない(No.22〜24、5)。
実施例3では、電極本体10の厚さaと高熱伝導性中核材30の厚さbとの厚さ比b/aが発明の効果に及ぼす影響について確認するため、以下に説明するような条件で実際に抵抗スポット溶接を行なった。
具体的には、図1に示す一体型のスポット溶接用電極1を使用して、溶接Al−Siめっき鋼板の被溶接体をスポット溶接するときの連続打点性、電極本体10の変形の有無を調査することとした。被溶接体の条件は実施例1と同じである。使用した電極1は、ドーム型であり電極基端部13の直径Lが16mm、電極先端面11aの直径が6mm、電極先端11bから冷却水孔底部23までの厚さaが13mmのものを用いた。このスポット溶接用電極1の冷却水孔底部23には、図1に示すように直径Cが12mmの高熱伝導性中核材30が埋設されたものを用いた。
溶接条件、連続打点性の評価方法は実施例1と同じである。また、試験結果を評価するうえでは、電極本体10の変形の度合いを評価した。表4に各試験No.とその条件、各試験No.での連続打点性、電極本体10の変形の有無を示す。
Figure 0005920071
ちなみに、No.31、33、34は厚さ比b/aが本発明で規定した範囲から逸脱した比較例であり、No.5、32が本発明例である。
厚さ比b/aが5/13未満である場合は、連続打点性の改善がみられない(No.31)。また、厚さ比b/aが8/13超である場合は、電極本体10の変形が発生しており、厚さ比が大きくなるほど変形の程度が大きくなり、連続打点性の改善もみられなくなる(No.33、34)。
これに対して、直径比b/aが5/13<b/a<8/13である場合は、連続打点性の改善がみられるうえ、電極本体10の変形も発生していない(No.5、No.32)。
1 スポット溶接用電極
10 電極本体
11 電極先端部
11a 電極先端面
11b 電極先端
12 雌ねじ部
13 電極基端部
14 雄ねじ部
20 冷却水孔
21 開口部
23 冷却水孔底部
25 中核材配設孔
30 高熱伝導性中核材
51 シャンク
53 冷却パイプ
W 冷却水











Claims (5)

  1. 電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高い熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設され、前記電極本体は熱伝導率が320〜350W/(m・K)であり、前記高熱伝導性中核材は熱伝導率が390W/(m・K)以上で、該高熱伝導性中核材と前記電極本体の熱伝導率差が60W/(m・K)以上であり、さらに前記高熱伝導性中核材の直径をC、前記電極本体の直径をLとしたときの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85であり、前記高熱伝導性中核材の厚さをb、前記電極先端から前記冷却水孔底部までの厚さをaとしたときの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成されていることを特徴とする抵抗スポット溶接用電極。
  2. 前記電極本体は、被溶接体と当接する電極先端部と、前記高熱伝導性中核材が埋設された冷却水孔底部を有する電極基端部とを備え、前記電極先端部の厚さをeとしたときの厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13であり、該電極先端部と該電極基端部とが着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の抵抗スポット溶接用電極。
  3. 電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高い熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設され、前記電極本体は熱伝導率が320W/(m・K)であり、前記高熱伝導性中核材は熱伝導率が390W/(m・K)以上で、該高熱伝導性中核材と前記電極本体の熱伝導率差が60W/(m・K)以上であり、さらに前記高熱伝導性中核材の直径をC、前記電極本体の直径をLとしたときの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85であり、前記高熱伝導性中核材の厚さをb、前記電極先端から前記冷却水孔底部までの厚さをaとしたときの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成されていることを特徴とする抵抗スポット溶接用電極。
  4. 前記電極本体は、被溶接体と当接する電極先端部と、前記高熱伝導性中核材が埋設された冷却水孔底部を有する電極基端部とを備え、前記電極先端部の厚さをeとしたときの厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13であり、該電極先端部と該電極基端部とが着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項に記載の抵抗スポット溶接用電極。
  5. 電極本体の冷却水孔底部に該電極本体よりも高い熱伝導率の高熱伝導性中核材が埋設され、前記電極本体は熱伝導率が320W/(m・K)であり、前記高熱伝導性中核材は熱伝導率が427W/(m・K)で、該高熱伝導性中核材と前記電極本体の熱伝導率差が60W/(m・K)以上であり、さらに前記高熱伝導性中核材の直径をC、前記電極本体の直径をLとしたときの直径比C/Lが0.7≦C/L<0.85であり、前記高熱伝導性中核材の厚さをb、前記電極先端から前記冷却水孔底部までの厚さをaとしたときの厚さ比b/aが5/13<b/a<8/13の範囲となるように構成され、
    かつ、
    前記電極本体は、被溶接体と当接する電極先端部と、前記高熱伝導性中核材が埋設された冷却水孔底部を有する電極基端部とを備え、前記電極先端部の厚さをeとしたときの厚さ比e/aが5/13<e/a<8/13であり、該電極先端部と該電極基端部とが着脱可能に設けられていることを特徴とする抵抗スポット溶接用電極。
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