JP5915435B2 - 伸びフランジ性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車用部品等の素材、特に高強度とともに優れた伸びフランジ性および耐食性が要求される自動車の足回り部品等の素材に好適な高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
昨今、地球環境保全の観点からCO2排出量を削減すべく、自動車車体の軽量化を図り、自動車の燃費を改善することが要求されている。また、衝突時における乗員の安全を確保すべく、自動車車体を強化し、自動車車体の衝突安全性を向上することも要求されている。このように、自動車車体の軽量化と安全性向上とを同時に満たすためには、自動車の部品用素材を高強度化し、剛性が問題とならない範囲で板厚を減ずることにより軽量化を図ることが効果的である。そのため、近年、高強度鋼板が自動車部品に積極的に使用されており、自動車業界では、例えば、足回り部品用素材として、引張強さ(TS)が780MPa級の高強度熱延鋼板を使用する傾向にある。更に、近年、自動車用鋼板においては、より一層の高強度化が推進されており、引張強さが980MPa級以上の鋼板の適用が検討されつつある。
一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工やバーリング加工等によって成形されるため、自動車部品用鋼板には優れた伸び、および優れた伸びフランジ性を有することが要求される。また、自動車部品は腐食環境下に晒されることが多いことから、素材となる鋼板を薄肉化すると長期間の使用による減肉が大きな問題となる。そのため、自動車部品用鋼板には優れた耐食性を有することも要求される。特に、足回り部品は複雑な形状を有し、且つ、過酷な腐食環境下に晒されることから、足回り部品用素材としての熱延鋼板においては強度とともに加工性、並びに耐食性が重要視され、伸びおよび伸びフランジ性等の加工性に優れた高強度熱延鋼板が求められている。
以上のような要求に応えるべく、高強度熱延鋼板の表面に、耐食性を付与する目的で溶融亜鉛めっきを施した高強度溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。しかしながら、一般的に鉄鋼材料は高強度化に伴い加工性が低下し、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の加工性は通常の軟鋼板に溶融亜鉛めっきを施した鋼板よりもはるかに劣っている。そのため、高強度溶融亜鉛めっき鋼板を足回り部品等に適用するうえでは、強度と加工性を兼備した高強度溶融亜鉛めっき鋼板の開発が必須となり、現在までに様々な研究が為されている。
例えば、特許文献1には、フェライト・パーライト組織を有し、鋼板表層のSi濃度、Cr濃度およびMn濃度を制御した熱延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層を具えた熱間プレス用熱延鋼板およびその製造方法に関する技術が提案されている。
特許文献2には、フェライトとベイニティックフェライトの一方又は双方の面積率の合計が90%以上、セメンタイトの面積率が5%以下であり、微細なTiCが分散・析出した組織を有する高強度熱延鋼板の表面に、亜鉛めっきを施した、引張強さが690MPa以上850MPa以下の伸びフランジ性に優れた亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する技術が提案されている。
特許文献3には、ポリゴナルフェライト、ベイナイトの一方又は双方の面積率の合計が98%以上であるミクロ組織と所定の集合組織を有する穴拡げ性に優れた熱延鋼板に、溶融亜鉛めっきを施した高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する技術が提案されている。また、特許文献4には、TiとNの含有量を調整して鋼板組織を所定の集合組織に制御した熱延鋼板に、溶融亜鉛めっきを施した高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する技術が提案されている。
特許文献5には、フェライトと、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイトおよび残留オーステナイトのうちの1種または2種以上からなる第2相からなり、粒径2〜30nmのTi系炭窒化析出物を平均粒子間距離30〜300nmで含有し、かつ粒径3μm以上の晶出系TiNを平均粒子間距離50〜500μmで含有する熱延鋼板に、溶融亜鉛めっきを施した高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する技術が提案されている。また、特許文献5には、実施例として、引張強さが1000MPaであり且つ曲げ加工性、疲労特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
特許文献6には、所定の鋼組成を有し、鋼組織のフェライト分率を制御した溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する技術が提案されている。そして、特許文献6で提案された技術によると、鋼板成分およびミクロ組織構成を制御することで、850MPa以上、更には980MPa級以上の高強度を保ちつつ穴拡げ性および延性を確保できるとされている。
特許第4449795号公報 特開2007−302992号公報 特開2009−19265号公報 特開2008−274395号公報 特開2006−63360号公報 特開2010−43360号公報
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、鋼板の引張強さを980MPa以上とすることが困難であり、近年の鋼板強度に対する要望に応えることができない。また、特許文献1で提案された技術は、熱間プレスに適用することを前提としているため、上記熱延鋼板を所定の部材形状に形成する際、熱間プレス専用の設備が必要となる。
一方、特許文献2および特許文献3で提案された技術によると、優れた伸びフランジ性を有するめっき鋼板が得られるとされている。しかしながら、特許文献2および特許文献3で提案された技術においても、特許文献1で提案された技術と同様、鋼板の引張強さを980MPa以上とすることができない。
また、特許文献4および特許文献5で提案された技術では、鋼板の伸びフランジ性について考慮されていない。そのため、これらの技術では、自動車の足回り部品用素材に要求される伸びフランジ性をも兼ね備えた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を期待することができない。特許文献6で提案された技術では、高強度であり且つ伸びフランジ性に優れためっき鋼板が得られるものの、その製造工程で冷間圧延を必須としている。そのため、得られる鋼板の板厚に制限があり、自動車の足回り部品用素材には不適である。
本発明は、上記した従来技術が抱える問題を有利に解決し、高価な合金元素を必要とせず、熱間圧延ままで980MPa以上の引張強さと優れた伸びフランジ性を兼備し、溶融亜鉛めっき後の表面性状にも優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明において優れた伸びフランジ性とは、穴拡げ率が40%以上であるものをいう。
上記課題を解決すべく、本発明者らは、溶融亜鉛めっき鋼板の高強度化と加工性、特に伸びフランジ性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。
まず、本発明者らは、引張強さ980MPa以上の高強度と優れた伸びフランジ性を有する熱延鋼板を安定的に生産する手段について検討した。その結果、鋼板組織を実質的にフェライト単相組織としたうえ、ナノメートルサイズの析出物(以下、ナノ析出物ともいう)による材料強化を積極的に活用することに想到した。そして、析出強化元素を含有する鋼を、前記析出強化元素が固溶する温度まで加熱し、熱間圧延を施したのち、巻取り温度まで冷却し、巻き取り時にナノ析出物を析出させることにより、上記した所望の組織(実質的にフェライト単相であり、フェライト相中にナノ析出物が析出した組織)を有し、引張強さ980MPa以上であり且つ優れた伸びフランジ性を有する熱延鋼板が得られることを確認した。
しかしながら、このようにして得られた熱延鋼板に溶融亜鉛めっきを施すと、不めっき欠陥やめっき後の外観不良を生じることが問題となった。そこで、これらの原因について検討した結果、上記の製造方法により得られた熱延鋼板の表面には、めっき性に悪影響を及ぼすSiやMnの酸化物が形成されており、この表面酸化物は主として熱延鋼板の巻き取り時に形成されたものであることが明らかになった。すなわち、熱延鋼板の製造工程において、ナノ析出物が最も析出する温度域である巻き取り温度の温度域では、ナノ析出物と同時にSiやMnの酸化物が鋼板表面に生じ、この酸化物が熱延鋼板のめっき性劣化を引き起こしていることを知見した。
上記の酸化物形成を抑制するうえでは、巻取り温度を低くすることが有効である。しかしながら、巻取り温度を低くすると、鋼板の強化因子であるナノ析出物の析出量が不足し、所望の強度(引張強さ980MPa以上)を確保することができない。そこで、本発明者らは、巻取り温度を低くしてSiやMnの酸化物形成を抑制するとともに、ナノ析出物の析出量を増加させる手段について検討した。そして、溶融亜鉛めっき処理前の連続焼鈍処理工程に着目し、該連続焼鈍処理工程の加熱・保持時にナノ析出物を析出させることを試みた。
その結果、巻取り温度を低くするとナノ析出物の析出量が少ない熱延鋼板となるものの、この熱延鋼板に所定の焼鈍温度で連続焼鈍処理を施すと、ナノ析出物の析出量が増加することを見い出した。また、巻取り温度を低くすると熱延鋼板にはセメンタイトが析出するが、このセメンタイトの析出と同時にナノ析出物の析出核が生成し、連続焼鈍処理時におけるナノ析出物の析出量増加に有効に作用することを知見した。更に、連続焼鈍処理時には、低温巻取りにより熱延鋼板に析出したセメンタイトが溶解するとともに、ナノ析出物の析出が起こることを知見した。
その一方で、上記の如く巻取り温度を低くして連続焼鈍処理を施すことにより、ナノ析出物の析出量をある程度増加させることができるものの、所望の鋼板強度(引張強さ980MPa以上)を確保するうえでは析出量の絶対量が依然として不十分であることも確認した。また、熱延鋼板に析出したセメンタイトが十分に微細でない場合には、連続焼鈍処理時にセメンタイトが十分に溶解せず、連続焼鈍処理後にセメンタイトが残存し、鋼板の伸びフランジ性が低下する要因となり、問題となった。
そこで、本発明者らは、低温巻取り後(連続焼鈍処理前)の熱延鋼板に、ナノ析出物の析出核をより多く生成させるとともに、微細なセメンタイトを析出させる手段について検討した。その結果、低温巻取り時に、ナノ析出物の核生成サイトであり、かつ元素拡散パスである転位を多量に導入することが有効な手段であることを見い出した。また、更に検討を進めた結果、熱延鋼板の鋼組成を、Crを含有する所定の組成とすることにより、低温巻取り時に多量の転位が導入されて、熱延鋼板の転位密度が上昇することを知見した。
なお、熱延鋼板の転位密度を高める手段としては、熱間圧延終了後の鋼板を急冷してマルテンサイト変態させる手段も考えられるが、マルテンサイト変態させるとナノ析出物の核生成の時間がなくなるため、続く連続焼鈍処理時におけるナノ析出物の析出量の増加が小さくなる。これに対し、Crを含有する所定の組成とすることにより、マルテンサイト変態させなくとも熱延鋼板の転位密度が上昇するとともに、微細なセメンタイトの析出とナノ析出物の核生成が促進されることを推察した。
Crに関する上記知見のために行った実験について、以下に述べる。
これは、後述するように、めっきを阻害する表面酸化物が発生しない条件とするため、巻取り温度を通常よりも低い温度(530℃)としても、Cr添加により、再加熱処理で強度と穴拡げ性が得られることを示すものである。
表1に示す組成を有する溶鋼を溶製し、小型鋳塊とした。これら小型鋳塊を1200℃に加熱したのち、930℃の仕上げ圧延終了温度で熱間圧延を終了し、次いで巻取り時の熱履歴を模擬するために530℃まで水冷してこの温度に1時間保持し、フェライトを主相とする熱延板(厚み2.3mm)とした。なお、表1中、鋼AはCrを含有しない組成を有し、鋼Bは鋼AにCrを添加した組成を有する。このようにして得られた各々の熱延板から、試験片を採取し、該試験片を研磨・腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)により組織観察を行った。
SEM組織写真を、図1(a)、(b)に示す。図1(a)はCr無添加鋼である鋼Aの組織写真であり、図1(b)はCr添加鋼である鋼Bの組織写真である。また、図中、矢印で示した部分はセメンタイトである。SEM観察の結果、図1(a)、(b)に示すように、Cr添加の有無に関わらず、何れの試験片においてもセメンタイトが試験片全体に析出していることが確認されたが、Crを添加した鋼Bの熱延板から採取した試験片のほうが、より微細なセメンタイトが観察された。
また、以上のようにして得られた各々の熱延板に、冷却後酸洗を施し、焼鈍を模擬するため還元雰囲気下で580〜800℃に加熱して50秒保持したのち、溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板とした。溶融亜鉛めっき処理は、浴温460℃のめっき槽に鋼板を浸漬して行い、浸漬した鋼板を引き上げた後、片面当たりの目付量が60g/m2となるように、ガスワイピングにより目付量を調整する処理とした。また、一部の熱延板については、上記ガスワイピングの後、470℃まで昇温して合金化処理した。
このようにして得られた各々の溶融亜鉛めっき鋼板について、引張試験、穴拡げ試験を行い、引張強さTSおよび穴拡げ率λを測定した。試験条件は次のとおりである。そして、引張強さTSが980MPa以上であり且つ穴拡げ率λが40%以上であるものを「機械的特性:良好」と評価した。
<引張試験>
得られた溶融亜鉛めっき鋼板から、圧延直角方向が引張試験方向に一致するようにJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(TS)を求めた。
<穴拡げ試験>
日本鉄鋼連盟規格「JFST1001(1996)穴拡げ試験方法」の規定に準拠した方法により、穴拡げ試験を行った。得られた溶融亜鉛めっき鋼板から、試験片(大きさ:130mm×130mm)を採取し、該試験片に初期直径d0:10mmφの穴を打ち抜き加工で形成した。これら試験片を用いて、穴拡げ試験を実施した。すなわち、該穴に頂角:60°の円錐ポンチを挿入し、該穴を押し広げ、亀裂が鋼板(試験片)を貫通したときの穴の径dを測定し、次式で穴拡げ率λ(%)を算出した。
穴拡げ率λ(%)=[(d−d0)/d0]×100
更に、各々の溶融亜鉛めっき鋼板から電解抽出用試験片を採取し、表層の溶融亜鉛めっき層を研磨・削除して、鋼板の電解抽出を行なった。電解抽出は、10%アセチルアセトン−メタノール溶液中で電解し、残渣を捕集し、ICP発光分析により残渣中のFe量を求め、下地鋼板中のセメンタイト析出量とした。但し、本分析により検出されたFeの内にはセメンタイト以外のものを起因とするものも含まれるため、Fe量が50ppm以上の時にセメンタイトを検出したとした。
以上の結果を、表2に示す。
表2に示すように、Cr無添加鋼(鋼A)の場合、加熱温度が660℃以下では、Fe量が多く(すなわち、セメンタイト析出量が多い)、強度も低下した。また、Cr無添加鋼(鋼A)の場合、加熱温度が660℃を超えると、Fe析出量が少なくセメンタイトは溶解しているが、引張強さTSが不十分であり、穴拡げ率λも低下する傾向が見られた。更に、Cr無添加鋼(鋼A)で加熱温度を660℃とした場合のめっき後試験片の鋼板部分についてSEM観察(倍率:20000倍)したところ、図2(a)に示すように、粒界に大きさが20nmを超える粗大な炭化物の析出が観察された。この粗大な炭化物が、引張強さTSおよび穴拡げ率λに悪影響を及ぼしているものと推測される。以上のように、Cr無添加鋼の場合、加熱温度が660℃以下ではナノ析出物の析出量が不十分となることが確認されたが、これは、熱延板の段階での転位密度が低くなるため、核生成サイトが少なく、粒内の元素拡散パスも少なくなる結果であると推察された。また、加熱温度が660℃超では元素拡散の速い粒界に炭化物が優先的に析出することが確認された。
一方、Cr添加鋼(鋼B)の場合、加熱温度が580℃の場合にはセメンタイト析出量(Fe析出量)が多いものの、この温度を超えるとセメンタイトの殆どが溶解し(Fe析出量:25ppm未満)、加熱温度が750℃以下である場合には引張強さTSおよび穴拡げ率λがともに良好であった。また、Cr添加鋼(鋼B)で加熱温度を660℃とした場合のめっき後試験片の鋼板部分についてSEM観察(倍率:20000倍)したところ、図2(b)に示すように、粒界に大きさが20nmを超える粗大な炭化物は析出していなかった。更に、Cr添加鋼(鋼B)で加熱温度を660℃とした場合のめっき後試験片の鋼板部分について透過型電子顕微鏡観察(倍率:400000倍)したところ、図2(c)に示すように、粒内に微細なナノ析出物が多数観察された。以上の結果から、Cr添加により、ナノ析出物の析出核が十分に得られ、且つ、セメンタイトの微細化により加熱時にセメンタイトが溶解し、更にナノ析出物が粒界に核生成することなく粒内に微細に析出することが確認された。また、図3は、Cr添加鋼(鋼B)の焼鈍模擬のための加熱を施す前(巻取り時の熱履歴を模擬した加熱を施した後)の熱延板の透過型電子顕微鏡像であり、SEMで観察される50nm以上の大きさのセメンタイト以外に、ナノメートルサイズの微細なナノ析出物の析出核が多数観察された。以上の結果から、フェライトを主相とする熱延板のセメンタイトの微細化と、ナノ析出物の析出核の増加を図るうえでは、素材となる鋼にCrを添加することが極めて有効であることが確認された。そして、微細なセメンタイトが分散し、多数のナノ析出物の析出核が生成された熱延板に、所定温度で焼鈍処理を施したのち溶融亜鉛めっき処理を施すことにより、強度および伸びフランジ性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られることが明らかとなった。
次に、Cr添加鋼について、引張強さTS、穴拡げ率λおよびめっき性と鋼組織(転位密度、析出物)との関係を調査した。表1の鋼Bの項に示す組成を有する溶鋼を溶製し、小型鋳塊とした。これら小型鋳塊を1200℃に加熱したのち、930℃の仕上げ圧延終了温度で熱間圧延を終了し、その後、巻取り時の熱履歴を模擬するため420〜650℃まで水冷してその温度に1時間保持し、熱延板(厚さ2.3mm)とした。この熱延板に対して、上記の方法で溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を施した。
このようにして得られた鋼板について、引張強さTSおよび穴拡げ率λを上記と同様の方法により求めた。また、めっき性の評価および鋼組織観察は、以下の方法で行った。
<めっき性>
めっき性は、各々の溶融亜鉛めっき鋼板について、「不めっき部の有無」および「合金化ムラ発生の有無」を目視で観察し、観察領域全面積に対する不めっき部面積の割合である不めっき部の面積率と観察領域全面積に対する合金化ムラ発生部面積の割合である合金化ムラの面積率を求め、以下の基準で評価した。以下の評価のうち、評価4および評価5を「めっき性良好」と評価した。
(評価基準)
評価5:不めっき部無し、合金化ムラ無し
評価4:不めっき部無し、合金化ムラ微量発生(面積率5%未満)
評価3:不めっき部無し、合金化ムラ一部発生(面積率5%以上10%未満)
評価2:不めっき部無し、合金化ムラ発生(面積率10%以上)
評価1:不めっき部有り、合金化ムラ発生(不めっき部を有し、且つ合金化ムラ発生部が面積率10%以上)
<相当転位密度>
上記により得られた各々の溶融亜鉛めっき鋼板の鋼板部分から、1×10×10(mm3)の試験片を採取し、試験片の表面を鏡面研磨したのち、フッ酸にて表層の研磨歪層を除去した。この試験片を用いてX線回折実験を行い、フェライト鉄の(110)、(211)、(220)結晶面のピークの半値幅を求めた。この半値幅を用いて非特許文献1と同様にWilliamson-Hall法により試験片の不均一歪εを求めた。この不均一歪εを、非特許文献2の(10)式に代入し、相当転位密度ρを求めた。
ρ=14.4ε2/b2 … (10)
「X線回折の手引き」改訂第4版、理学電機株式会社、p76 中島、外5名、「X線回折を利用した転位密度の評価法」、CAMP-ISIJ、Vol.17、2004、p.396
<析出物>
析出物の形状・大きさを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて以下の方法により求めた。
上記により得られた各々の溶融亜鉛めっき鋼板の鋼板部分を、電解研磨法により薄膜試料にし、倍率30万倍でTEM観察した。観察の際、母相のフェライト相に対して電子線が[001]方向から入射するように試料を傾斜させた。
上記の条件で観察される析出物について、1.5以上のアスペクト比を有するものを板状析出物と定義し、1.5未満のアスペクト比を有するものを球状析出物と定義した。但し、大きさが100nmを超える析出物は、観察の対象から外した。
以上の観察を、ランダムに選択した100個の析出物に対して行い、球状析出物が10個以下である場合はその試料における析出物形状を板状とし、球状析出物が10個超である場合はその試料における析出物形状を球状とした。また、試料の析出物形状が板状である場合には、観察した析出物のうち球状析出物を除外し、残りの板状析出物に対して以下の方法で析出物の大きさを求めた。
観察された板状析出物に対して、長軸の大きさを析出物一辺の大きさ、短軸の大きさを析出物の厚さとして測定した。各試料について、析出物一辺の大きさ、析出物の厚さのそれぞれの算術平均を求め、算術平均値をその試料における板状析出物の一辺の大きさと厚さとした。
なお、TEMの観察方位を[001]に限定したのは、ナノ析出物が母相のフェライト相に対してBaker-Nuttingの関係という特定の方位関係で析出し、その方位関係においては母相の[001]方位から観察すれば析出物の形状・大きさが上述の方法で判定できるためである。
得られた結果を、表3に示す。
表3に示すように、Cr添加鋼(鋼B)により製造された溶融亜鉛めっき鋼板であっても、巻き取り温度が580℃以上と高めの場合にはめっき性が不良となり、更に巻き取り温度が高くなると板状析出物が粗大となり、引張強さが劣化した。また、巻き取り温度が高めの場合には、相当転位密度が低くなる傾向が見られた(表3の鋼板No.B11,B12参照)。一方、巻き取り温度が430℃以下と低めの場合には、めっき性は良好であるものの、引張強さ、穴拡げ率のいずれかが劣化し、更に巻き取り温度が低くなると相当転位密度が高くなる傾向が見られた(表3の鋼板No.B16,B18参照)。また、焼鈍温度が550℃と低い場合には、相当転位密度が過剰に高くなり、引張強さ、穴拡げ率が共に劣化した(表3の鋼板No.B17参照)。これらに対し、巻き取り温度が430℃超580℃未満であり且つ焼鈍温度が550℃超の場合には、板状析出物が微細となり、適度な相当転位密度を示し、めっき性が良好であるとともに、優れた引張強さ、穴拡げ率が得られた(表3の鋼板No.B13〜B15参照)。
表4は、表1の鋼Bの項に示す組成を有する溶鋼を溶製して小型鋳塊とし、表3に示す鋼板と同様の条件により作製した溶融亜鉛めっき鋼板について、引張強さTS、穴拡げ率λおよびめっき性と鋼組織(転位密度、析出物)との関係を調査した結果である。なお、表4に示す引張強さTS、穴拡げ率λ、相当転位密度、析出物のサイズおよびめっき性の評価は、表3に示す鋼板の場合と同じ方法により測定、評価したものである。また、表4には、熱延板(巻き取り時の熱履歴を模擬するため420〜650℃まで水冷してその温度に1時間保持したのち室温まで冷却した熱延板であって、溶融亜鉛めっき処理を施す前の熱延板)についても、上記の方法にしたがい相当転位密度ρを求めた結果を示す。
表4に示すように、Cr添加鋼(鋼B)により製造された溶融亜鉛めっき鋼板であっても、巻き取り温度が570℃以上と高めの場合にはめっき性が不良となる。また、表4に示すように、いずれの鋼板も、溶融亜鉛めっき鋼板よりも溶融亜鉛めっき処理前の熱延板のほうが高い相当転位密度を有し、熱延板に焼鈍処理を施すことにより相当転位密度が低下することがわかる。更に、巻き取り温度を調整して所定の相当転位密度を有する熱延板とし、該熱延板に所望の焼鈍温度で連続焼鈍処理を施したのちに溶融亜鉛めっき処理を施すことで、相当転位密度が低減し、且つナノ析出物が得られ、所望の引張り強さと穴拡げ率を有し、しかもめっき性にも優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られることがわかる。
そして、更に検討を進めた結果、X線回折により求めた相当転位密度ρが7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下であり、且つ析出物の大きさが一辺10nm以下、厚さ1nm以下の板状形態で析出している溶融亜鉛めっき鋼板では、良好な引張強さTS(980MPa以上)、穴拡げ率λ(40%以上)、めっき性が得られることを知見した。また、Crを含有する所定の組成を有する鋼素材に熱間圧延を施し、450℃以上550℃以下の温度で巻き取り、次いで600℃以上750℃以下の焼鈍温度で連続焼鈍処理を施したのち、溶融亜鉛めっき処理を施すことで、上記した優れた諸特性を有する溶融亜鉛めっき鋼板が得られることを知見した。すなわち、引張強さ、穴拡げ率、めっき性が良好な溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板の相当転位密度および析出物の大きさを適切に制御することで得られ、適切な相当転位密度および析出物の大きさの組み合せは、素材となる鋼にCrを添加し、更に巻き取り温度および焼鈍温度の範囲を適切に組み合わせたときに実現することを知見した。
従来では、鋼板の高強度と伸びフランジ性を両立するためにセメンタイトの析出を抑制し、高い伸びを得るために転位密度を低減することが常識とされていた。しかし、このような組織(セメンタイトの析出が抑制され、且つ転位密度の低い組織)を得るためには、熱間圧延工程の巻取り温度を高めに設定する必要があり、めっき性が犠牲となっていた。
このような問題に対し、本発明者らは、Crを含有する所定の組成を有する鋼を用い、熱間圧延工程の巻取り温度を低くして転位密度が増加した熱延鋼板とし、続く連続焼鈍処理時の加熱温度を適正化して溶融亜鉛めっきを施すことで、高強度かつ伸びフランジ性に優れ、しかもめっき性も良好な溶融亜鉛めっき鋼板が得られることを知見した。Crを含有する所定の組成を有する鋼に熱間圧延を施し熱延鋼板とするに際し、巻取り温度を低くして転位を導入すると、多量のナノ析出物の析出核が生成するとともに微細なセメンタイトを析出した熱延鋼板が得られる。そして、このようにして得られた熱延鋼板に、所定の加熱温度(焼鈍温度)で連続焼鈍処理を施し、次いで溶融亜鉛めっき処理を施すと、連続焼鈍処理時にナノ析出物が充分に析出するとともにセメンタイトが溶解する結果、高強度かつ伸びフランジ性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られることを知見した。また、このように、巻取り温度を低くすることにより、従来問題とされていた巻取り時のSiやMnの酸化物形成が抑制されるため、めっき性が飛躍的に向上することを知見した。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 基板表面に溶融亜鉛めっき皮膜または合金化溶融亜鉛めっき皮膜を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記基板が、質量%で、
C :0.06%以上0.15%以下、 Si:0.3%超0.5%以下、
Mn:0.5%以上2.0%以下、 P :0.06%以下、
S :0.005%以下、 Al:0.06%以下、
N :0.006%以下、 Ti:0.08%以上0.2%以下、
V :0.2%以上0.4%以下、 Cr:0.04%以上0.2%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の組織全体に対する面積率が98%以上であるマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下であり、下記に定義する前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織とを有する熱延鋼板であることを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。

「マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した」とは、母相の[001]方位から観察して、マトリックス中に析出した大きさ100nm以下の析出物について、ランダムに選択した100個の析出物のうち、1.5未満のアスペクト比を有する球状析出物が10個以下であり、前記球状析出物を除外した残りの1.5以上のアスペクト比を有する板状析出物が、各板状析出物の長軸の大きさを析出物一辺の大きさ、短軸の大きさを析出物の厚さとして測定し、それぞれの算術平均で、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物として析出した状態をいう。
[2] [1]において、前記組成に加えてさらに、質量%でMo:0.5%以下を含有する ことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[3] 鋼素材を加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とし、該熱延鋼板に連続焼鈍処理、溶融亜鉛めっき処理あるいは更に合金化処理を順次施し、溶融亜鉛めっき鋼板を製造するにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、
C :0.06%以上0.15%以下、 Si:0.3%超0.5%以下、
Mn:0.5%以上2.0%以下、 P :0.06%以下、
S :0.005%以下、 Al:0.06%以下、
N :0.006%以下、 Ti:0.08%以上0.2%以下、
V :0.2%以上0.4%以下、 Cr:0.04%以上0.2%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、
前記鋼素材の加熱温度を1100℃以上とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延終了温度を880℃以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を450℃以上550℃以下とし、前記連続焼鈍処理の焼鈍温度を600℃以上750℃以下とし、前記熱延鋼板を、フェライト相の組織全体に対する面積率が98%以上であるマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×10 14 m -2 以上1.0×10 15 m -2 以下であり、下記に定義する前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織を有する熱延鋼板とすることを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

「マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した」とは、母相の[001]方位から観察して、マトリックス中に析出した大きさ100nm以下の析出物について、ランダムに選択した100個の析出物のうち、1.5未満のアスペクト比を有する球状析出物が10個以下であり、前記球状析出物を除外した残りの1.5以上のアスペクト比を有する板状析出物が、各板状析出物の長軸の大きさを析出物一辺の大きさ、短軸の大きさを析出物の厚さとして測定し、それぞれの算術平均で、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物として析出した状態をいう。
[4] [3]において、前記組成に加えてさらに、質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、自動車用鋼板等に好適な、引張強さ(TS):980MPa以上で、断面形状が複雑な足回り部品等の素材としても適用可能な優れた加工性(伸びおよび伸びフランジ性)を有し、且つ、耐食性にも優れ、表面品質が良好な高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、工業的に安定して生産することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
(a)Crを含有しない熱延板(基板:鋼A)の走査型電子顕微鏡組織写真で ある。(巻取り時模擬加熱温度:530℃)(b)Crを含有する熱延板(基板:鋼B)の走査型電子顕微鏡組織写真である。(巻取り時模擬加熱温度:530℃) (a)Crを含有しない溶融亜鉛めっき鋼板(基板:鋼A)の鋼板部分の走査型電子顕微鏡組織写真である。(加熱(焼鈍)温度:660℃)(b)Crを含有する溶融亜鉛めっき鋼板(基板:鋼B)の鋼板部分の走査型電子顕微鏡組織写真である。(加熱(焼鈍)温度:660℃)(c)Crを含有する溶融亜鉛めっき鋼板(基板:鋼B)の鋼板部分の粒内の透過型電子顕微鏡写真である。(加熱(焼鈍)温度:660℃) Crを含有する熱延板(基板:鋼B)の透過型電子顕微鏡像である。(焼鈍模擬のための加熱前(巻取り時の熱履歴を模擬した加熱後)の熱延板)
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明溶融亜鉛めっき鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C :0.06%以上0.15%以下
Cは、後述するTiやVとナノサイズの炭化物(一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物)を形成し、析出強化に寄与する重要な元素である。最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板の引張強さTSを980MPa以上とするためには、C含有量を0.06%以上とする必要がある。一方、C含有量が0.15%を超えると、後述する連続焼鈍処理を施した後もセメンタイトが溶け残る、或いは連続焼鈍処理に続く溶融亜鉛めっき後の冷却工程でセメンタイトが再析出するため、伸びフランジ性が低下する。したがって、C含有量は0.06%以上0.15%以下とする。好ましくは、0.07%以上0.12%以下である。
Si:0.3%超0.5%以下
Siは、固溶強化に寄与する元素である。高価な合金元素の使用量を削減しつつ鋼板強度を確保する目的で、本発明では0.3%超含有させる。一方、Siは、熱間圧延時、鋼板表面に酸化物を形成し、めっき不良の要因になるため、0.5%以下に限定した。
Mn:0.5%以上2.0%以下
Mnは、Siと同様、固溶強化に寄与する元素である。溶融亜鉛めっき鋼板を強化する観点から、本発明ではMn含有量を0.5%以上とする。一方、Mn含有量が2.0%を超えると、熱間圧延時に鋼板表面に酸化物を形成し、めっき不良の原因となる。したがって、Mn含有量は0.5%以上2.0%以下とする。好ましくは1.0%以上1.6%以下である。
P :0.06%以下
Pは、固溶強化に有効であるが、P含有量が0.06%を超えると、偏析が顕著になり伸びフランジ性の低下を招く。したがって、P含有量は0.06%以下とする。なお、Pを極端に低減することは、製造コストを悪化させる。そのため、製造コストを大きく上昇させない実用的な下限値は0.001%程度となる。
S :0.005%以下
Sは、MnやTiと硫化物を形成し、加工性(伸び、伸びフランジ性)の低下を招く。そのため、本発明ではSを極力低減することが好ましく、0.005%以下とする。なお、Sを極端に低減することは、製造コストを悪化させる。そのため、製造コストを大きく上昇させない実用的な下限値は0.0005%程度となる。
Al:0.06%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。一方、Al含有量が0.06%を超えると、介在物が多量に生成して伸びおよび伸びフランジ性の低下を招くとともに、表面欠陥の原因にもなる。このため、Al含有量はAl:0.06%以下とする。なお、Al含有量の下限は特にないが、脱酸剤としての効果を十分に得るためにはAl含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
N :0.006%以下
Nは、本発明においては有害な元素であり、極力低減することが好ましい。特にN含有量が0.006%を超えると、鋼中に粗大な窒化物が生成することに起因して、伸びフランジ性が低下する。したがって、N含有量は0.006%以下とする。
Ti:0.08%以上0.2%以下
Tiは、本発明において重要な元素のひとつである。Tiは、Vとともにナノサイズの炭化物(一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物)を形成し、母相(本発明においては実質的にフェライト単相)の析出強化に寄与する。また、Tiは、炭化物形成能が強いため、先述のように、熱延鋼板を製造する際、熱間圧延後の巻き取り時にセメンタイトが析出する低温巻取り温度とした場合にも、速やかに炭化物の核を形成し、続く連続焼鈍処理の加熱時にナノサイズの炭化物を十分に析出させる効果を有する。このような効果を発現して所望の鋼板強度(引張強さTS:980MPa以上)を確保するためには、Ti含有量を0.08%以上とする必要がある。一方、Ti含有量が0.2%を超えると、上記連続焼鈍処理の加熱時に析出する炭化物の大きさが一辺10nm超となる、或いは厚さ1nm超となる、或いは板状ではなく球状の析出物が増加する傾向となり、鋼板強度および伸びフランジ性の低下を招く。したがって、Ti含有量は0.08%以上0.2%以下とする。好ましくは0.1%以上0.18%以下である。
V :0.2%以上0.4%以下
Vは、本発明において重要な元素のひとつである。上記したように、Vは、Tiとともにナノサイズの炭化物(一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物)を形成し、母相(本発明においては実質的にフェライト単相)の析出強化に寄与する。このような効果を発現して所望の鋼板強度(引張強さTS:980MPa以上)を確保するためには、V含有量を0.2%以上とする必要がある。一方、V含有量が0.4%を超えると、上記連続焼鈍処理の加熱時析出する炭化物の大きさが一辺10nm超となる、或いは厚さ1nm超となる、或いは板状ではなく球状の析出物が増加する傾向となり、鋼板強度および伸びフランジ性の低下を招く。したがって、V含有量は0.2%以上0.4%以下とする。
Cr:0.04%以上0.2%以下
Crは、本発明において重要な元素のひとつである。先述のように、Crは、熱延鋼板を製造する際、熱間圧延後の巻き取り時、所定の低温巻取り温度とすることにより十分な転位を導入し、熱延鋼板の転位密度を向上させる効果を有する。また、所定の巻取り温度に保持中、熱延鋼板に析出するセメンタイトを微細化させる効果、更にはナノ析出物の転位上への核生成を促す効果を有する。これらの効果を発現させるうえでは、Cr含有量を0.04%以上とする必要がある。一方、Cr含有量が0.2%を超えると、巻取り時に析出するセメンタイトが安定化し、続く連続焼鈍処理を施した後もセメンタイトが溶けきらずに残存し、鋼板強度および伸びフランジ性が低下する。したがって、Cr含有量は0.04%以上0.2%以下とする。好ましくは0.05%以上0.15%以下である。
以上が、本発明における基本組成であるが、基本組成に加えてさらに、Mo:0.5%以下を含有することができる。
Mo:0.5%以下
Moは、Ti、Vとともにナノメートルサイズの複合炭化物を形成し、鋼板の強化に寄与するという効果を有するため、必要に応じて含有することができる。このような効果を発現させるためには、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が0.5%を超えると、鋼板にマルテンサイトなどの硬質相が形成され伸びフランジ性が低下する。したがって、Mo含有量は0.5%以下とすることが好ましい。また、0.1%以上0.4%以下とすることがより好ましい。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板において、鋼板部分の上記以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、Cu、Nb、W、 Sn、Ni、Ca、Zn、Co、As、Sb、Pb、Seなどが挙げられる。これらは各々0.1%以下の含有が許容されるが、好ましくは0.03%以下である。
次に、本発明鋼板の組織の限定理由について説明する。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、フェライト相の組織全体に対する面積率が98%以上であるマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下であり、前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織を有する熱延鋼板を基板とし、該基板表面に、溶融亜鉛めっき皮膜または合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成してなる鋼板である。
フェライト相:組織全体に対する面積率で98%以上
鋼板の伸び特性を確保するうえでは、ベイナイト相やマルテンサイト相よりも転位密度の低いフェライト相の形成が必須となる。なお、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、従来の析出強化型のフェライト単相鋼よりも高い転位密度を有するが、後述するように相当転位密度が1.0×1015m-2以下であれば伸び特性に悪影響を及ぼさない。また、鋼板の伸びフランジ性を向上させるためには、鋼板組織を単相組織とすることが有効である。そのため、本発明においても溶融亜鉛めっき鋼板の鋼板部分の組織をフェライト単相とすることが好ましい。但し、完全なフェライト単相でない場合であっても、実質的にフェライト単相、すなわち、組織全体に対する面積率で98%以上がフェライト相であれば、上記の効果を十分に発揮する。したがって、フェライト相の組織全体に対する面積率は98%以上とする。
なお、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板において、フェライト相以外の組織としては、マルテンサイト、パーライト、ベイナイト等の相が挙げられ、これらの合計は組織全体に対する面積率で約2%以下であれば許容される。また、本発明においては、溶融亜鉛めっき後の鋼板が実質的にフェライト単相組織となっていればよく、後述する連続焼鈍処理前の熱延鋼板の段階では、他の相が生成されても構わない。本発明では、熱延鋼板製造時の巻取り温度が従来の析出強化型鋼板の巻取り温度よりも低く、本発明で得られる巻き取り後(連続焼鈍処理前)の熱延鋼板には、転位密度の高いアシキュラーフェライトやベイニティックフェライト、セメンタイトの析出したベイナイト相が生じていてもよい。これらの相は、次工程の連続焼鈍処理で所定の温度に加熱・保持することで、転位密度が低減し、セメンタイトも溶解する。よって、巻き取り後(連続焼鈍処理前)の熱延鋼板(基板)のフェライト相は、必ずしも等軸的な形状のポリゴナルフェライトでなくてもよい。
相当転位密度:7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、マトリックスの相当転位密度を7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下とする。ここで、本発明において「相当転位密度」とは、溶融亜鉛めっき鋼板の鋼板部分から1×10×10(mm3)の試験片を採取し、試験片の表面を鏡面研磨したのち、フッ酸にて表層の研磨歪層を除去し、該試験片を用いてX線回折実験を行い、フェライト鉄の(110)、(211)、(220)結晶面のピークの半値幅を求め、この半値幅を用いて前記非特許文献1と同様にWilliamson-Hall法により試験片の不均一歪εを求め、更にこの不均一歪εを、前記非特許文献2の(10)式に代入して求めた転位密度ρとする。
ρ=14.4ε2/b2 … (10)
先述のとおり、本発明では、熱延鋼板の製造時、所定の低温巻取り温度に設定し、熱延鋼板の転位密度を高めることで、次工程の連続焼鈍処理時に板状ナノ析出物(一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物)の析出促進を図っている。そのため、本発明においては、最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板に転位が残存する。一方、最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板に転位が過剰に残存すると鋼板の諸特性に悪影響を及ぼし、特に溶融亜鉛めっき鋼板のマトリックスの相当転位密度が1.0×1015m-2を超えると鋼板の伸びおよび伸びフランジ性が低下する。
そこで、本発明では、溶融亜鉛めっき鋼板のマトリックスの相当転位密度を1.0×1015m-2以下とする。好ましくは9.5×1014m-2以下である。なお、後述するように、本発明では連続焼鈍処理で後述する所定の温度に加熱・保持することで、熱延鋼板の製造段階で導入された転位を大幅に消滅させ、最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板のマトリックスの相当転位密度を1.0×1015m-2以下とすることができる。
一方、熱延鋼板の製造段階で導入する転位を少なくすれば最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板のマトリックスの相当転位密度も低減するが、熱延鋼板の製造段階で導入する転位を極端に少なくすると、前記した転位導入による効果(板状ナノ析出物の析出促進効果)が期待できなくなる。そのため、本発明では、熱延鋼板の製造段階で転位を導入し、最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板のマトリックスの相当転位密度を7.0×1014m-2以上とする。
板状形態の析出物
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板においては、マトリックス(実質的にフェライト単相のマトリックス)中に、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出しており、この析出物が鋼板の高強度化に寄与する。ここでいう析出物とは、TiおよびVからなる複合炭化物である。理由は定かでないが、Tiのみからなる炭化物や、Vのみからなる炭化物は、粗大化し易く、鋼板強度を安定的に確保することが困難である。そのため、本発明では、析出強化を図るための析出物として、TiおよびVからなる複合炭化物を適用する。
本発明のように転位上に核生成し析出するナノ析出物は、従来の析出強化型鋼板中の析出物(典型的なサイズ:2〜4nm)よりも大きい傾向がある。しかし、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物であれば、マトリックスに整合析出し、析出による歪場の効果により、十分に大きな析出強化量を発現することができる。一辺が10nmを超える析出物、或いは厚さが1nmを超える析出物、或いは球状析出物の場合、マトリックスに対して非整合に析出するため析出強化量が小さく、所望の鋼板強度が得られない。
なお、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物は、鋼全体(溶融亜鉛めっき鋼板の鋼板部分)に対する体積率で0.25%以上含有していることが好ましい。
次に、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記した組成を有する鋼素材を加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とし、該熱延鋼板に連続焼鈍処理、溶融亜鉛めっき処理あるいは更に合金化処理を順次施し、溶融亜鉛めっき鋼板とする。この際、鋼素材を1100℃以上に加熱し、仕上げ圧延の仕上げ圧延終了温度を880℃以上とし、巻取り温度を450℃以上550℃以下とし、前記連続焼鈍処理の焼鈍温度を600℃以上750℃以下とすることを特徴とする。
本発明において、鋼素材の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、溶製後、偏析等の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましいが、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしても良い。
鋼素材の加熱温度:1100℃以上
上記の如く得られた鋼素材に、粗圧延および仕上げ圧延を施すが、本発明においては、粗圧延前に鋼素材中の炭化物を溶解する必要がある。炭化物形成元素であるTiおよびVを含有する本発明においては、鋼素材を1100℃以上の温度に再加熱することが好ましい。一方、鋼素材の加熱温度が過剰に高くなると、加熱に要するエネルギー及び加熱設備への負荷が大きくなるという問題が懸念されるため、上記加熱温度は1300℃以下とすることが好ましい。但し、粗圧延前の鋼素材が、所定温度以上の温度を保持しており、鋼素材中の炭化物が溶解している場合には、粗圧延前の鋼素材を加熱する工程は省略可能であり、直送圧延してもよい。なお、粗圧延条件については特に限定する必要はない。
仕上げ圧延終了温度:880℃以上
仕上げ圧延終了温度が880℃未満であると、再結晶が起きず、オーステナイト中の転位密度が上昇し、圧延荷重が著しく増大するため、熱間圧延が困難になる。したがって、仕上げ圧延終了温度は880℃以上とする。好ましくは900℃以上である。一方、仕上げ圧延終了温度が過剰に高くなると、結晶粒が粗大化して所望の鋼板強度(引張強さ:980MPa以上)の確保に悪影響を及ぼすため、仕上げ圧延終了温度は1050℃以下とすることが望ましい。
巻取り温度:450℃以上550℃以下
巻取り温度の適正化は、溶融亜鉛めっき鋼板の基板となる熱延鋼板(熱延板)の酸化層を抑制し、且つ、最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板の組織を上記した所望の組織(フェライト相の組織全体に対する面積率が98%以上であるマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下であり、前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織)とするうえで極めて重要である。
巻取り温度が550℃を超えると、熱延鋼板の表面にSi、Mn酸化物が形成され、めっき付着性が著しく低下する。また、巻取り時に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態のナノ析出物の析出がほぼ完了してしまう。そして、続く連続焼鈍処理時にナノ析出物が粗大化して所望の鋼板強度(引張強さTS:980MPa以上)が確保できない。一方、巻取り温度が450℃未満であると、熱延鋼板の表面酸化物形成が抑制されるとともに十分な転位密度も得られるものの、セメンタイトの析出が優先されナノ析出物の核生成が不十分となる。そして、続く連続焼鈍処理でナノ析出物の析出量を十分に確保することができず、所望の鋼板強度(引張強さTS:980MPa以上)が確保できない。したがって、巻取り温度は450℃以上550℃以下とする。好ましくは480℃以上550℃以下である。
なお、熱間圧延終了後、880〜1050℃から巻取り温度までの平均冷却速度は、15℃/s以上40℃/s以下と通常の水冷条件であれば、鋼の組織への影響が小さいため好ましい。
以上のようにして得られた熱延鋼板に対し、本発明においては、酸洗したのち還元雰囲気での連続焼鈍処理、溶融亜鉛めっき処理あるいは更に合金化処理を順次施し、溶融亜鉛めっき鋼板とするが、ここで重要となるのは焼鈍温度の最適化である。また、連続焼鈍処理、溶融亜鉛めっき処理、あるいは更に合金化処理を施すに際しては、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて行うことが、生産効率の観点から好ましい。
焼鈍温度:600℃以上750℃以下
本発明では、焼鈍温度(連続焼鈍処理の加熱温度)の適正化を図ることで、熱延鋼板に所望のナノ析出物(10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物)を十分に析出させる。焼鈍温度が600℃未満であると、巻取り時に生じた熱延鋼板中のセメンタイトを完全に溶解することができない。また、熱延鋼板の組織回復が抑制されるため、巻取り時に導入した転位が減少しない。そのため、最終的に得られる溶融亜鉛めっき鋼板の転位密度が過剰に高くなるとともにセメンタイトが残存し、伸びおよび伸びフランジ性の低下を招く。一方、焼鈍温度が750℃を超えると、急激な組織回復と析出物の粗大化による強度低下を招く。また、Si、Mnの表面濃化も生じるため、めっき性が劣化する。したがって、焼鈍温度は600℃以上750℃以下とする。好ましくは630℃以上720℃以下である。
なお、上記焼鈍温度での保持時間は、1秒以上120秒以下とすることが好ましい。保持時間が1秒未満では、所望のナノ析出物(10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物)の析出の促進が不十分となるおそれがある。また、熱延鋼板製造工程の巻取り時に導入された多量の転位を低減することが困難となる。更に、熱延鋼板製造工程の巻取り時に生成したセメンタイトが溶解せずに残存するおそれがある。一方、保持時間が120秒を超えると過度の組織回復による強度低下が懸念される。したがって、保持時間は1秒以上120秒以下とすることが好ましい。また、1秒以上90秒以下とすることがより好ましい。
以上のように、本発明によると、所定の連続焼鈍処理を施すことで、鋼板に所望のナノ析出物を析出させることができる。また、連続焼鈍処理後の鋼板には、ある程度の転位(相当転位密度:7.0×1014 m-2以上)が残存するものの、鋼板の相当転位密度を1.0×1015m-2以下に低減することができる。
上記の如く連続焼鈍処理が施された熱延鋼板は、その後、溶融亜鉛めっき処理が施され、溶融亜鉛めっき鋼板とされる。また、溶融亜鉛めっき処理に続き合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。なお、溶融亜鉛めっき処理条件、合金化処理条件についても特に限定されず、通常公知の条件にて溶融亜鉛めっき皮膜または合金溶融亜鉛めっき皮膜を形成することができる。なお、溶融亜鉛めっき処理、或いは更に合金化処理を施しても、鋼板の組織は殆ど変化せず、連続焼鈍処理後の鋼板組織は維持される。
表5に示す組成の溶鋼を通常公知の手法により溶製、連続鋳造して肉厚215mmのスラブ(鋼素材)とした。これらのスラブを加熱し、粗圧延し、仕上げ圧延を施したのち冷却(水冷)し、所定の巻取り温度で巻取り、板厚:2.3 mmの熱延鋼板とした。スラブの加熱温度、仕上げ圧延終了温度、および巻取り温度を表6に示す。
上記のようにして得られた各種熱延鋼板に、表6に示す条件の焼鈍温度・焼鈍温度保持時間で連続焼鈍処理を施した後、460℃の溶融亜鉛めっき浴(0.14%Al-Zn)に浸漬し、表面に溶融亜鉛めっき皮膜を形成する溶融亜鉛めっき処理を施すことにより、溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。なお、めっき付着量は片面あたり50g/m2とした。また、一部の熱延鋼板については、溶融亜鉛めっき処理後、合金化温度470℃で合金化処理を施した。
上記により得られた溶融亜鉛めっき鋼板から試験片を採取し、以下に示す試験方法により組織観察、引張試験、穴拡げ試験を行い、フェライト相の面積率、フェライト以外の相の種類、引張強さ、穴拡げ率(伸びフランジ性)を求めた。また、前記した方法にしがたい、相当転位密度、析出物の形状・大きさを求めるとともに、めっき性の評価を行った。なお、めっき性の評価は、前記した評価基準(評価1〜5)のうち、評価4および評価5を「めっき性:良好(○)」とし、評価1、評価2および評価3を「めっき性:不良(×)」とした。
(i)組織観察
得られた溶融亜鉛めっき鋼板の板厚1/2の部分から試験片を採取し、試験片の圧延方向断面を機械的に研磨し、ナイタールで腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率:3000倍にて撮影した組織写真(SEM写真)を用い、画像解析装置によりフェライト相、フェライト相以外の組織の種類、および、フェライト相の面積率を求めた。
(ii)引張試験
得られた溶融亜鉛めっき鋼板から、圧延直角方向を引張方向とするJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験を行い、引張強さ(TS)を測定した。
(iii)穴拡げ試験
日本鉄鋼連盟規格「JFST1001(1996)穴拡げ試験方法」の規定に準拠した方法により、穴拡げ試験を行った。得られた溶融亜鉛めっき鋼板から、試験片(大きさ:130mm×130mm)を採取し、該試験片に初期直径d0:10mmφの穴を打ち抜き加工で形成した。これら試験片を用いて、穴拡げ試験を実施した。すなわち、該穴に頂角:60°の円錐ポンチを挿入し、該穴を押し広げ、亀裂が鋼板(試験片)を貫通したときの穴の径dを測定し、次式で穴拡げ率λ(%)を算出した。
穴拡げ率λ(%)=[(d−d0)/d0]×100
得られた結果を表7に示す。
本発明例(鋼板No.1,4,12,15,17)はいずれも、引張強さTS:980MPa以上の高強度と、穴拡げ率λ:40%以上の優れた加工性を兼備し、めっき性が良好な溶融亜鉛めっき鋼板となった。また、これらの溶融亜鉛めっき鋼板はいずれも、実質的にフェライト単相のマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×1014 m-2以上1.0×1015m-2以下の範囲となり、前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織となった。一方、本発明の範囲を外れる比較例(鋼板No.2,3,5〜11,13,14,16)は、所定の高強度が確保できていないか、所望穴拡げ率λが確保できていないか、めっき不良が確認された。
比較例(鋼板No.2,3,5〜11,13,14,16)のうち、鋼板No.2は、連続焼鈍処理の焼鈍温度が高すぎるため、組織回復と析出物の粗大化により鋼板強度(引張強さTS)が低下した。鋼板No.3は、連続焼鈍処理の焼鈍温度が低すぎるため、セメンタイトが溶けきれずに残存するとともに相当転位密度が1.0×1015m-2超となり、鋼板強度と伸びフランジ性(穴拡げ率λ)が低下した。鋼板No.5は、巻取り温度が高すぎるため、熱延鋼板表面に酸化物が生成し、めっき性が低下した。鋼板No.6は、巻き取り温度が低すぎるため、熱間圧延の巻取り時にセメンタイトの析出が優先してナノ析出物の核生成が不十分となり、連続焼鈍処理を施してもセメンタイトが溶けきれずに残存するとともにナノ析出物が十分に析出せず、鋼板強度と伸びフランジ性が低下した。
鋼板No.7は、C含有量が低すぎるため、ナノ析出物が十分に析出せず、鋼板強度が低下した。鋼板No.8は、Ti含有量が低すぎるため、ナノ析出物の核生成が十分に生成せず、鋼板強度が低下した。鋼板No.9は、V含有量が低すぎるため、Tiを多く含むナノ析出物が生成・粗大化し、鋼板強度が低下した。鋼板No.10は、Cr含有量が低すぎるため、適正な焼鈍温度で連続焼鈍処理を施してもセメンタイトが溶け残り、ナノ析出物が不足し、鋼板強度と伸びフランジ性が低下した。鋼板No.11は、Cr含有量が高すぎるため、熱延鋼板に生成したセメンタイトが安定化してしまい、連続焼鈍処理を施してもセメンタイトが溶けず、鋼板強度と伸びフランジ性が低下した。
鋼板No.13は、Ti含有量が高すぎるため、ナノ析出物が成長・粗大化し鋼板強度が低下した。鋼板No.14は、V含有量が高すぎるため、ナノ析出物が成長・粗大化し鋼板強度及び伸びフランジ性が低下した。鋼板No.16は、巻き取り温度が低すぎるため、連続焼鈍処理を施しても転位密度が高くなり、伸びフランジ性が低下した。

Claims (4)

  1. 基板表面に溶融亜鉛めっき皮膜または合金化溶融亜鉛めっき皮膜を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記基板が、質量%で、
    C :0.06%以上0.15%以下、 Si:0.3%超0.5%以下、
    Mn:0.5%以上2.0%以下、 P :0.06%以下、
    S :0.005%以下、 Al:0.06%以下、
    N :0.006%以下、 Ti:0.08%以上0.2%以下、
    V :0.2%以上0.4%以下、 Cr:0.04%以上0.2%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の組織全体に対する面積率が98%以上であるマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×1014m-2以上1.0×1015m-2以下であり、下記に定義する前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織とを有する熱延鋼板であることを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。

    「マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した」とは、母相の[001]方位から観察して、マトリックス中に析出した大きさ100nm以下の析出物について、ランダムに選択した100個の析出物のうち、1.5未満のアスペクト比を有する球状析出物が10個以下であり、前記球状析出物を除外した残りの1.5以上のアスペクト比を有する板状析出物が、各板状析出物の長軸の大きさを析出物一辺の大きさ、短軸の大きさを析出物の厚さとして測定し、それぞれの算術平均で、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物として析出した状態をいう。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 鋼素材を加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とし、該熱延鋼板に連続焼鈍処理、溶融亜鉛めっき処理あるいは更に合金化処理を順次施し、溶融亜鉛めっき鋼板を製造するにあたり、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C :0.06%以上0.15%以下、 Si:0.3%超0.5%以下、
    Mn:0.5%以上2.0%以下、 P :0.06%以下、
    S :0.005%以下、 Al:0.06%以下、
    N :0.006%以下、 Ti:0.08%以上0.2%以下、
    V :0.2%以上0.4%以下、 Cr:0.04%以上0.2%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、
    前記鋼素材の加熱温度を1100℃以上とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延終了温度を880℃以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を450℃以上550℃以下とし、前記連続焼鈍処理の焼鈍温度を600℃以上750℃以下とし、
    前記熱延鋼板を、フェライト相の組織全体に対する面積率が98%以上であるマトリックスを有し、該マトリックスの相当転位密度が7.0×10 14 m -2 以上1.0×10 15 m -2 以下であり、下記に定義する前記マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した組織を有する熱延鋼板とすることを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

    「マトリックス中に一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物が析出した」とは、母相の[001]方位から観察して、マトリックス中に析出した大きさ100nm以下の析出物について、ランダムに選択した100個の析出物のうち、1.5未満のアスペクト比を有する球状析出物が10個以下であり、前記球状析出物を除外した残りの1.5以上のアスペクト比を有する板状析出物が、各板状析出物の長軸の大きさを析出物一辺の大きさ、短軸の大きさを析出物の厚さとして測定し、それぞれの算術平均で、一辺が10nm以下であり厚さが1nm以下である板状形態の析出物として析出した状態をいう。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする請求項3に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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