JP5903363B2 - 甲状腺刺激抗体測定における試料の前処理方法 - Google Patents

甲状腺刺激抗体測定における試料の前処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、甲状腺刺激抗体測定において、サンプルをあらかじめ活性炭処理することにより、甲状腺刺激抗体を精度良く測定するための方法、又はそのための材料に関するものである。
甲状腺刺激抗体(thyroid stimulation antibody:TSAb)は、バセドウ病をはじめとする甲状腺疾患の患者血清中に存在することが知られ、主にバセドウ病の診断、治療経過観察用マーカーとして有用であることが報告されている。従来、患者血中のTSAbを測定する方法としてはいくつかの方法が知られている。例えば、患者血清をブタ甲状腺細胞と反応させ、血清中のTSAbと、ブタ甲状腺細胞膜上に存在する甲状腺刺激ホルモンレセプターの反応によって産生されるサイクリックAMP(cAMP)の量をラジオイムノアッセイ(RIA)等で測定することにより、血清検体中のTSAb量を測定する方法などである(例えば、非特許文献1)。このとき、患者血中にはもともと内因性のcAMPが含まれていることから、正確な定量を行うために、患者血清から得た抗体画分をポリエチレングリコール(PEG)により精製し、内因性のcAMPを除去してから測定を行っていた。
Endoclin., Vol.125, No.1, p410- ,1985
しかしながら、非特許文献1の方法において、患者血清をPEG処理して沈澱させ、遠心操作により上清を除き、再度抗体画分を溶解する操作は、測定対象の検体数が増えるほど測定者の負担も大きく、結果の判定までに時間を要する原因となっていた。また本願発明者らは、この方法を行ってみたところ、PEG処理によって沈澱した抗体画分が溶解しにくく、操作が煩雑であり、さらには測定値にばらつきが生じていることに気がついた(後述の実験データ参照)。
即ち、従来のTSAbの測定法においてはPEG処理などの前処理によって内因性のcAMPを除去することにより、TSAbによるレセプター刺激活性を検出することが可能であったが、PEG処理の操作性が悪いだけでなく、沈澱したIgG画分は溶解しにくく、測定精度に改善の余地を有していた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、TSAbの測定が簡便に、又は短時間に、精度良く行うことができる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、後述する実施例に記載のように、TSAb測定の際に測定対象検体を活性炭処理することにより内因性cAMPの影響を除くことで、操作方法が簡便化するだけでなく、従来法に比べて精度の高いTSAbの定量が可能となることを発見した。この方法を用いると、後述する実施例では、従来のPEG処理法を行った場合に比べてアッセイ間の測定値のばらつきが抑制された。さらに、カットオフ値を下げることができ、PEG処理法では検出できない弱陽性の症例を検出することが可能であった。またさらに、活性炭をゼラチンやアガロースなどのゲル状物質によりチューブやマイクロプレートなどの底部に固化させ、そこにサンプルを入れて撹拌又は静置するという簡便な操作により、内因性cAMPの除去を十分に行うことが出来ることを発見した。
即ち本発明によれば、測定対象検体中の甲状腺刺激抗体の測定方法において、(a)測定対象検体と、多孔性物質とを接触させる工程、(b)上記工程(a)を経て得られる、多孔性物質で処理済の測定対象検体と、甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞と、を接触させる工程、及び(c)上記工程(b)によって生じた甲状腺刺激抗体刺激反応を検出する工程、を含む、方法が提供される。この方法を用いれば、TSAb測定の前処理工程において、影響物質の除去を多孔性物質による吸着操作により行うことによって、TSAb測定の操作性及び測定精度を向上させることができる。なお、好ましい実施形態は後述する。
また本発明によれば、多孔性物質を含む、TSAbの測定用キットが提供される。このキットを用いれば、簡便に、精度よく測定対象検体中のTSAb濃度を測定できる。
また本発明によれば、多孔性物質を含む、TSAb測定の前処理用試薬が提供される。この試薬を用いれば、簡便に、精度よく測定対象検体中のTSAb濃度を測定できる。
また本発明によれば、多孔性物質を含む、甲状腺疾患の診断用キットが提供される。このキットを用いれば、簡便に、精度よく甲状腺疾患の診断ができる。
また本発明によれば、多孔性物質を含有するゲル状固形物質を、容器の内側に固定化している、TSAb測定の前処理用容器が提供される。この容器を用いれば、簡便に、精度よく測定対象検体中のTSAb濃度を測定できる。
図1は、液相DCC処理時間によるcAMP除去への影響を検討した結果を表した図である。 図2は、処理時間を5分間に設定したときの、液相DCCの活性炭濃度によるcAMP除去への影響について検討した結果を表した図である。 図3は、PEG処理サンプルとデキストラン被膜処理活性炭、Dextran Coated Charcoal (DCC)処理サンプルについて、TSAb%値を測定した結果の例を表した図である。 図4は、活性炭固相化チューブを用いたときの検体処理時間を検討した結果を表した図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
本発明の一実施形態は、TSAbの測定方法において、測定対象検体を多孔性物質で処理する工程を含む、方法である。この測定方法は、例えば、(a)測定対象検体と、多孔性物質とを接触させる工程、(b)上記工程(a)を経て得られる、多孔性物質で処理済の測定対象検体と、甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞と、を接触させる工程、及び(c)上記工程(b)によって生じた甲状腺刺激抗体刺激反応を検出する工程、を経て行ってもよい。またこの測定方法は、例えば、以下の工程を経て行ってもよい。
(i)多孔性物質処理工程:測定対象検体と、多孔性物質を含む溶液とを混合、撹拌する。これにより、多孔性物質に測定対象検体中の内因性cAMPが吸着する。その後、遠心分離し、上清を取り出す。
(ii)cAMP産生工程:上記の上清と、甲状腺細胞を含む溶液とを混合、静置する。これにより、上清中のTSAbと甲状腺細胞とが反応し、cAMPが産生する。静置後、上清を取り出す。
(iii)cAMP RIA濃度測定工程:上記の上清と、標識cAMP液と、cAMP抗体液とを混合、撹拌、静置する。さらに、cAMP第二抗体を加えた後、B/F分離を行い、標識cAMP由来の放射線をカウントする。これにより、上記(ii)で産生したcAMP濃度がわかる。そして、測定対象検体とコントロール検体のcAMP生産量の比率から、測定対象検体中のTSAb活性、及びTSAb濃度を算出することができる。
またこの測定方法は、例えば、(d)測定対象検体と、多孔性物質とを接触させ、上記測定対象検体と上記多孔性物質とを含む溶液を得る工程、(e)上記工程(d)で得られた溶液を、沈殿と上清に分離する工程、(f)上記工程(e)で得られた上清と、甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞とを接触させ、上記上清と上記甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞とを含む溶液を得る工程、(g)上記工程(f)で得られた溶液を、沈殿と上清に分離する工程、及び(h)上記工程(g)で得られた上清中のcAMP濃度を測定する工程、を経て行ってもよい。ここで、上記工程(h)のcAMP濃度は、測定対象検体中のTSAb濃度の指標とすることができる。また例えば、複数の検体のTSAb%値((測定対象血清検体のcAMP濃度)/(健常者血清検体のcAMP濃度)×100)を測定後、その測定結果に基づきカットオフ値を設定してもよい。そして、特定の測定対象検体におけるTSAb%値が、上記カットオフ値以上の場合、甲状腺疾患陽性と診断することができる。
そして、TSAbの測定方法において、測定対象検体を多孔性物質で処理する工程を含む方法によれば、後述する実施例で実証されているように、測定対象検体中のTSAb濃度を簡便に、且つ高精度で測定することができる。そのため、この方法を用いれば、簡便に、且つ高精度に甲状腺疾患を診断することができる。
測定対象検体中の内因性cAMP、又はcAMP産生を刺激する因子を除去する多孔性物質としては、活性炭を使用できるが、多孔質で低分子物質を吸着する能力を有するものであれば、活性炭以外の物質を用いても良い。例えば、多孔質樹脂、又は多孔質シリカ化合物等であってもよい。活性炭は、粉末状のものでも顆粒状のものでもよい。活性炭は、内因性cAMP、又はcAMP産生を刺激する因子の除去効率向上の観点からは、デキストラン被膜処理されたもの(デキストラン被膜処理活性炭、Dextran Coated Charcoal、以下「DCC」)を用いることがより好ましい。また、処理後に容易に分離が可能なように、一定の粒子径のものを使用して、自然に下方に沈澱させて上清を用いてもよい。さらに、より分離を容易にするため、多孔性物質による処理を、ゲル状物質(ゲル状固形物質、又は単にゲルと称することもある)で担体に固定化した多孔性物質を用いて行ってもよい。即ち、多孔性物質をゼラチンやアガロースなどのゲル状物質に溶解した後、低温で固化させたものを用いてもよいし、さらにチューブやマイクロプレートなどの担体の底部で固化させて固定化し、遠心操作を省略できるようにしても良い。
多孔性物質で測定対象検体を処理するとき、多孔性物質及び測定対象検体を含む混合液中における多孔性物質の終濃度は0.2%(w/w)以上が好ましく、1%(w/w)以上がより好ましい。この場合、測定対象検体中のTSAb濃度を特に高精度で測定することができる。またこの濃度は、20%(w/w)以下が好ましい。この場合、溶液の粘度が適度に滑らかであり、分注操作がし易くなる。この場合、懸濁のし易さや、ピペット等での吸引操作の滑らかさなどの操作面が特に良好である。またこの濃度は特に限定されないが、例えば、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、4、5、6、8、10、15、18、20、又は30%(w/w)であってもよく、それらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。
活性炭は、細孔を有する多孔質の炭素質物質を含む。この活性炭の平均粒子径は、10〜25μmが特に好ましい。この場合、適度に分散し、遠心すると沈澱しやすく、使用し易い。また、測定対象検体中のTSAb濃度を特に高精度に測定することができる。この平均粒子径は特に限定されないが、例えば、0.5、1、3、5、8、10、15、20、25、30、40、60、100、300、又は500μmであってもよく、それらいずれかの値以下、又は範囲内であってもよい。本明細書において「平均粒子径」は、体積平均粒子径を意味する。体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径として求めることができる。
ゲル状固形物質に含まれる多孔性物質の濃度は、1%(w/w)以上が好ましく、10%(w/w)以上がより好ましい。この場合、測定対象検体中のTSAb濃度を特に高精度に測定することができる。この濃度は特に限定されないが、例えば、0.1、0.5、1、2、5、8、10、15、20、30、又は50%(w/w)であってもよく、それらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。
ゲル状固形物質に含まれる多孔性物質で測定対象検体を処理するとき、ゲル状固形物質と測定対象検体の容量比(ゲル状固形物質/測定対象検体)は、0.05以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。この場合、測定対象検体中のTSAb濃度を特に高精度に測定することができる。この容量比は特に限定されないが、例えば、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、0.8、1、2、5、8、又は10であってもよく、それらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。
ゲル状固形物質に含まれる多孔性物質以外の成分は特に限定されないが、例えば、多糖、蛋白質、又はそれらいずれかを主成分とする組成物を含んでいてもよい。多糖は、例えばアガロース、又はデキストランを含む。蛋白質は、例えばコラーゲン、ケラチンを含む。上記組成物は、例えばゼラチンを含む。なおゲル状固形物質は、外力を加えられない状態で所定の形状を維持でき、外力に応じて任意の形状に変形できる物質である。またゲル状固形物質は、より低粘度で流動性のゾルと区別できる。
ゲル状固形物質に含まれるアガロースの濃度は、1%(w/w)以上が好ましい。この場合、撹拌等によってゲルが破壊され難くなる。また、このアガロース濃度は、10%(w/w)以下が好ましい。この場合、溶液の粘度が適度に滑らかであり、分注操作がし易くなる。このアガロース濃度は特に限定されないが、例えば、0.5、0.8、1、2、4、6、8、10、又は15%(w/w)であってもよく、それらいずれかの値の範囲内であってもよい。
ゲル状固形物質に含まれるゼラチンの濃度は、3%(w/w)以上が好ましい。この場合、撹拌等によってゲルが破壊され難くなる。また、このゼラチン濃度は、20%(w/w)以下が好ましい。この場合、溶液の粘度が適度に滑らかであり、分注操作がし易くなる。このゼラチン濃度は特に限定されないが、例えば、0.5、1、2、3、4、6、8、10、15、20、又は25%(w/w)であってもよく、それらいずれかの値の範囲内であってもよい。なお、ゲル状固形物質に含まれる多糖、蛋白質、又はそれらいずれかを主成分とする組成物の濃度は、ここで列挙したゼラチン濃度と同程度であってもよい。
多孔性物質で測定対象検体を処理する時間は特に限定されないが、例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、10、20、30、又は60分であってもよく、それらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。
本実施形態に係るTSAbの測定方法は、多孔性物質で処理した後の測定対象検体を、PEG共存下において甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞と反応させる工程、およびこの反応によって生じた甲状腺刺激抗体刺激反応を検出する工程、を含む。共存させるPEGの分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量で1000、5000、10000、15000、20000、25000、30000、35000、40000、45000、50000、55000、60000、65000、又は70000であってもよく、それらいずれかの値の範囲内であってもよい。また、PEGを共存させた反応液中のPEG濃度は4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、又は15.0重量%であってもよく、それらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。
TSAbの検出には、ブタ甲状腺細胞の他、ヒト、ブタなどの甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体を動物由来の細胞に形質転換して発現させた培養細胞を用いることができる。活性炭等により前処理した検体と、甲状腺細胞あるいはTSH受容体発現細胞とを反応させ、一定時間経過後に、産生されたcAMPの量をラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法などの方法によって測定できる。
甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞は、メッシュで処理してもよい。このメッシュの開口径は、30〜500μmが好ましく、100〜250μmがより好ましい。この場合、測定対象検体中のTSAb濃度を特に高精度に測定することができる。この開口径は特に限定されないが、例えば、5、10、20、30、40、50、80、100、130、150、180、200、230、250、300、400、500、600、又は800μmであってもよく、それらいずれかの値の範囲内であってもよい。メッシュ処理することにより、実施例に示すようにcAMP測定値のばらつきを小さくする効果が得られる。
甲状腺刺激抗体刺激反応は、TSAbと、甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞との間で生じる反応を含む。この反応は、例えば、TSAbと、甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞とが反応することによって産生するcAMPを検出することによって、測定してもよい。
また、TSAbの測定法として、TSH受容体とTSAbの反応によって生じたcAMPによってルシフェラーゼが発現されるよう遺伝子操作により形質転換された細胞を用い、発光を検出することによって刺激活性を測定する方法(特表2004−500580、特表2010−539975)や、産生されたcAMPによってカルシウムチャネルが活性化し、これによって生じるカルシウムイオンの細胞内流入を検出することでcAMPの産生量を測定する方法(WO2011/001885)などが報告されているが、本発明の実施形態に係る前処理法はこれらの測定系にも応用が可能である。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含む、TSAbの測定用キットである。このキットは、本実施形態の活性炭を含む試薬、あるいはチューブやマイクロプレートなどをキットの構成試薬(アッセイ緩衝液、前処理用チューブ又はプレート等)として含有していてもよい。また、キットの他の構成試薬としては、採用した測定法により必要な試薬を適宜添付すればよい。
例えば、以下のような構成試薬を含むキットを例示することができる。
(1)前処理用DCC溶液(多孔性物質を含む)又は前処理用プレート(多孔性物質をアガロースにより固定化したプレート)
(2)ブタ甲状腺細胞液
(3)細胞洗浄液
(4)cAMP標準液
(5)cAMP抗体液
(6)標識cAMP液
また、キットにはアッセイ緩衝液、反応停止液、メッシュなどを含んでいてもよい。さらにcAMPの測定をRIAによって行う場合には第二抗体液など、EIAによって行う場合には固相化プレート、発色液、発色停止液、洗浄液などを含んでいてもよい。
上記キットにおいて、前処理用プレート(又はDCC溶液)は非特異的なcAMP産生能を有する物質を吸着することができる活性炭などの多孔質物質を含む。測定対象の測定対象検体としては、例えば、甲状腺疾患患者血清、バセドウ病患者血清、又は血漿サンプルの他、TSAb(又はTSH、あるいはTSHと類似の物質)を含むサンプルで、不特定多数の低分子物質等の不純物を含むものであってもよい。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含む、TSAb測定の前処理用試薬である。この試薬で前処理を行えば、測定対象検体中のTSAb濃度を簡便に、且つ高精度で測定することができる。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含む、甲状腺疾患の診断用キットである。このキットを利用すれば、簡便に、且つ高精度に甲状腺疾患を診断することができる。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含有するゲル状固形物質を、容器の内側に固定化している、TSAb測定の前処理用容器である。TSAbの測定の前処理工程において、この容器に血清検体を入れて撹拌又は静置するという非常に簡便な操作により、cAMPを十分に除去できる。またこの容器を用いることによって、遠心分離やフィルター濾過などによる活性炭除去操作を経ずに、非常に簡便な操作により、甲状腺疾患を診断することができる。なお、上記内側は、容器内部の底面、又は側面であってもよい。本明細書において「容器」の形態は特に限定されないが、例えばチューブ、プレート等であってもよい。また本明細書において「容器」に収容可能な容量は特に限定されないが、例えば、0.01、0.1、0.5、1.0、1.5、3、5、10、又は30mlであってもよく、それらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。また、この容器を含む、TSAbの測定用キットも本発明の一実施形態に含まれる。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含有するゲル状固形物質を内側に固定化している容器に、測定対象検体を投入する工程を含む、TSAbの測定方法である。この方法によれば、TSAbの測定の前処理工程において、非常に簡便な操作により、cAMPを十分に除去できる。またこの方法を用いることによって、遠心分離やフィルター濾過などによる活性炭除去操作を経ずに、非常に簡便な操作により、甲状腺疾患を診断することができる。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含有するゲル状固形物質を含む、TSAb測定の前処理用基剤、又はcAMP補足用基剤である。TSAb測定において、この基剤で測定対象検体に前処理を行えば、測定対象検体中のTSAb濃度を簡便に、且つ高精度で測定することができる。この基剤を用いたTSAb濃度の測定方法も、本発明の一実施形態に含まれる。本明細書において、「基剤」又は「担体」の形態は特に限定されないが、例えばチューブ、プレート、ビーズ、カラム等であってもよい。
また本発明の一実施形態は、多孔性物質を含有するゲル状固形物質を、容器の内側に固定化している、cAMP補足用容器である。TSAb測定において、この容器で測定対象検体に前処理を行えば、測定対象検体中のTSAb濃度を簡便に、且つ高精度で測定することができる。
また本発明の一実施形態は、上記の実施形態に係るTSAbの測定方法を利用して、甲状腺疾患を診断する方法である。また本発明の一実施形態は、上記の実施形態に係るTSAbの測定方法によって、測定対象検体中のTSAb濃度を検出することで、測定対象検体における甲状腺疾患の指標を検出する方法である。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
以下、本発明を実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
<実施例1:TSAb測定系の確立>
1)DCC処理時間の検討
まず、測定系におけるDCC処理時間の適切な範囲を決定すべく、標準溶液中におけるDCCへのcAMPの吸着を測定することにより、液相DCC処理時間によるcAMP除去への影響を検討した。なお以下、各試薬等の濃度に使用する%は、特に明記しない限り%(w/w)を意味する。
1.5mlチューブにcAMP標準液と、5%Norit SX (活性炭、Norit製造、和光純薬工業販売)、0.3%Dextran40、及び2%BSAとを4:1で加え、0、1、5、10、又は30分間撹拌した。5000rpm、5分間遠心分離し、上清をサンプルとして使用し、RIAによりcAMP濃度を測定した。RIAでは、まず試験管にDCC処理サンプル25μlを分注し、さらに125I−標識cAMP液100μlと、cAMP抗体液100μlとを加えて良く撹拌した。次に4℃、24時間静置した。cAMP第二抗体液500μlを各試験管に加え、良く撹拌し、4℃、30分間静置した。さらに3000rpm、4℃、20分間遠心分離した。上清を吸引除去した後、沈殿由来のγ線をガンマカウンター(アロカ社製)を用いてカウントした。その結果、処理時間5分間で、35pmol/ml のcAMPのほぼ全量を十分に吸収できることが分かった(図1)。
2)DCC活性炭濃度の検討
続いて、測定系におけるDCC活性炭濃度の適切な範囲を決定すべく、処理時間を5分間に設定したときの、液相DCCの活性炭濃度によるcAMP除去への影響について検討した(図2)。その結果、DCC濃度が5%で35pmol/mlのcAMPのほぼ全量を吸収した。DCC濃度が1%では70%、DCC濃度が0.2%では30%のcAMPを吸収した。なお、さらにDCC濃度を変えて行ってみたところ、DCC濃度が20%以下のときに、懸濁のし易さや、ピペット等での吸引操作の滑らかさなどの操作面が特に良好であることが分かった。
以上の結果をもとに、DCC処理工程を含むTSAbの測定系が確立された。
[方法]
3−1)DCC処理
1.5mlチューブにヒト血清検体と、5%Norit SX-Plus、0.3%Dextran40、及び2%BSAからなる溶液とを容量比4:1で加え、5分間撹拌した。5000rpm、5分間遠心分離し、上清をDCC処理液として使用した。
3−2)細胞調製液
冷凍状態のブタ甲状腺細胞液(J Clin Endocrinol Metab 1982;54:108参照)1mLを、25℃水浴中で2.5分間解凍した。解凍後の細胞液を10mlのHAM培地に加え、混和して懸濁した。1000rpm、25℃、5分間遠心分離した後、上清を吸引除去した。沈殿した細胞にHAM培地を5mL加え、混和して均一に懸濁した。さらに、懸濁後の溶液を径100μmのメッシュに通し、細胞調整液とした。
3−3)PEG処理
1.5mlチューブに血清検体と30%PEGとを容量比1:3で加えてよく撹拌し、4℃、5分間静置した。4℃、3000rpm、20分間遠心分離し、上清を除去した。Hanks'バッファーにより沈澱を溶解し、PEG処理液とした。
3−4)DCC処理液、又はPEG処理液と細胞調製液の反応(cAMP産生反応)
未処理の96穴マイクロプレートにサンプル希釈液(1mM IBMX、10%PEG含有Hanks' buffer)を50μl分注した。さらに、DCC処理液を25μlずつ加え、プレートシェイカーで1分間撹拌した。さらに、上記3−2)で調製した細胞調整液を50μlずつ加えた。プレートを軽くたたき、細胞を均一に懸濁した後、37℃、4時間静置し、0.5%Triton X-100を100μlずつ加え、プレートミキサーで5分間、混合した。その後、上清をとり、DCC処理サンプルとした。また、DCC処理液をPEG処理液に代えて同様の手順を行い、PEG処理サンプルを調整した。
3−5)cAMP濃度測定(RIA)
試験管にDCC処理サンプル25μlを分注し、さらに125I−標識cAMP液100μlと、cAMP抗体液100μlとを加えて良く撹拌した。次に4℃、24時間静置した。cAMP第二抗体液500μlを各試験管に加え、良く撹拌し、4℃、30分間静置した。さらに3000rpm、4℃、20分間遠心分離した。上清を吸引除去した後、沈殿由来のγ線をガンマカウンター(アロカ社製)を用いてカウントした。また、DCC処理サンプルを、PEG処理サンプル又はcAMP標準液に代えて同様の手順を行い、沈殿をカウントした。なお本明細書では、DCC処理工程を経てTSAb濃度を測定する方法を、改良法と称することもある。
4)メッシュ使用による効果の検討
細胞をメッシュ処理する工程の効果を調べるため、上記(3−2)の細胞調整液の作製工程において、径100μmのメッシュを通した場合と通さなかった場合での、cAMPの濃度測定の結果を比較した。結果、下記表1のようになった。なお、F検定による分散分析により、P値<0.05であった。したがって、メッシュを使用した場合では、使用しなかった場合と比較して、測定値のばらつきを有意に抑制できることが明らかになった。
<実施例2:従来法との比較>
1)サンプル前処理法の違いによるアッセイ間差の測定値のばらつきの比較
甲状腺疾患の患者血清検体(測定対象血清検体)を用いて、PEG処理サンプル、あるいはDCC処理サンプルを5回に分けて調製した。また、健常者血清検体を用いて、同様にサンプルを調整した。それらのサンプルについて同時にTSAb%値((測定対象血清検体のcAMP濃度)/(健常者血清検体のcAMP濃度)×100)を測定し、サンプル調製によるばらつきへの影響を検討した。その結果、図3に示す通り、測定値はDCC処理サンプルの方が高くなったが、ばらつきはPEG処理の方が大きくなった。DCC処理サンプルによるCV(coefficient of variation)値は7.8%であったのに対し、PEG処理サンプルによるCV値は20.5%となり、PEG処理と比較してDCC処理はばらつきが小さく、精度の高い測定が可能となることを示している。
2)PEG処理による現行キット法(従来法)とDCC処理による改良法の測定値の比較
TSAbキット「ヤマサ」(ヤマサ醤油株式会社製、80063)を用いた操作法(以下、「従来法」と称する)と、改良法(上記実施例1参照)との2種類の方法により、健常者血清、及びTRAb陽性あるいは弱陽性患者血清のTSAb濃度を測定し、測定値及び陽性率を比較した。なお、従来法は、前処理をPEGを添加することで行い、ブタ甲状腺細胞によるcAMP産生反応時はPEGを添加せずに行った。
改良法にて健常者110例のTSAb濃度を測定した。その結果、健常者コントロール血清のTSAb濃度を100%とした場合の、上記健常者110例のTSAb%値は平均107.0%、標準偏差(SD)8.5となり、平均+2SDから計算した仮のカットオフ値は124.0%となった。一方で、従来法で同様に健常者110例を測定した結果、TSAb%値は平均153.4%、標準偏差(SD)34.2となり、平均+2SDから計算したカットオフ値は221.7%となった。
血清中のTSHレセプター抗体(TRAb)=0.5IU/L以上の6例の患者血清のTSAb濃度を、従来法および改良法で測定したところ、従来法では1例のみが陽性となったが、改良法では5例が陽性となった(表2)。このように、従来法では検出できない弱陽性の症例を、改良法では検出できるようになっており、DCC処理を用いた方法がPEG処理を用いる方法より優れていることが示された。
3)未治療バセドウ病患者及び再発バセドウ病患者における陽性率の評価
血清中のTSHレセプター抗体(TRAb)=0.5IU/L以上の未治療バセドウ病患者110例、及び再発バセドウ病患者19例の血清のTSAb濃度を、従来法及び改良法で測定した。なおこのとき、cAMP濃度の測定はEIAにより行った。その後、上記2)で算出したカットオフ値を用いて、陽性、又は陰性に分類した。
表3及び4は、未治療バセドウ病患者の分類結果である。表3は分類された患者数を、表4は陽性率を示している。表5及び6は、再発バセドウ病患者の分類結果である。表5は分類された患者数を、表6は陽性率を示している。その結果、未治療バセドウ病患者及び再発バセドウ病患者のいずれにおいても、改良法の陽性率は、従来法の陽性率よりも高い値となっていた。この結果は、改良法は従来法よりも高精度に、未治療バセドウ病及び再発バセドウ病を検出できることを意味している。また、特に再発バセドウ病を検査する場合に、改良法と従来法との差が大きくなっていた。
<実施例3:ゼラチン・アガロース固化DCCチューブの検討>
活性炭固相化チューブを調整し、活性炭固相化チューブを用いたときの検体処理時間を検討した(図4)。まず、2.5%アガロースを70℃に加温溶解した。次に、12mmチューブに70℃に加温溶解した2.5%アガロースと、5%ゼラチン、10%Charcoal、及び0.3%Dextranを200μL分注し、冷蔵してゲル化した。さらに、cAMP溶液100、200、又は500μLを加え、一定時間撹拌し、上清をサンプルとして使用し、RIA(上記実施例1(3−5)参照)によりcAMP濃度を測定した。
サンプル量100、200μLでは、5分間の処理で50pmol/ml のcAMPを完全に除去することができた。サンプル量500μLでも約1時間で、50pmol/ml のcAMPのほぼ全量を吸収した。この結果から、活性炭固相化チューブを用いれば、活性炭固相化チューブに血清検体を入れて撹拌又は静置するという非常に簡便な操作により、cAMPを十分に除去できることがわかった。この方法は、遠心分離やフィルター濾過などによる活性炭除去操作を必要とせず、非常に簡便な操作により、甲状腺疾患を診断することを可能にする優れた方法である。
なお、上記ゲル化を行う際の各種条件を、いくつか変えて行った結果を以下に示す。アガロース濃度が1%以上の条件下では、ゲルが特に適度な強度、固さを有しており、撹拌時にゲルが破壊されにくくなっていた。アガロース濃度が2%超の条件下では、ゲルがチューブやプレートの担体に対して、特に適度に吸着し、上清への活性炭の混入も特に抑えられた。アガロースのみを用いるのではなく、ゼラチンを混合することによって、ゲルがチューブやプレートの担体に対して、特に適度に吸着し、上清への活性炭の混入も特に抑えられた。
ゼラチン濃度が3%以上の条件下では、ゲルが特に適度な強度、固さを有しており、撹拌時にゲルが破壊されにくくなっていた。また、処理中の温度が25℃未満の条件下では、ゲルが膨張し難く、ゲルが水分を吸収して液量が変動することが抑えられ、さらに、撹拌時にゲルが破壊されにくくなっていた。
また、ゼラチンとアガロースを混合して使用することにより、温度の影響を受けにくくなり、撹拌時の強度が保たれるようになった。濃度は、例えば5%ゼラチンと2.5%アガロースを混合して使用した場合、良好な結果が得られた。
以上のとおり、血清検体を活性炭で前処理することによって、血清検体中のTSAb濃度を、高精度に測定できた。この改良法は、従来のPEG法に比べて操作が簡便であり、作業時間、工程の削減が可能である。また、実施例からも明らかなように、改良法では、従来のPEG処理法を行った場合に比べてアッセイ間の測定値のばらつきが抑制される。さらに、改良法を用いた場合ではカットオフ値を下げることができるため、従来法では検出できない弱陽性の症例をも検出することが可能である。
即ち、改良法を用いることにより、患者サンプル中のTSAbをより正確に、かつより簡便に測定することが可能となる。従って、改良法は、バセドウ病などの甲状腺疾患の診断あるいは経過観察などに有用である。
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

Claims (2)

  1. 測定対象検体中の甲状腺刺激抗体の測定方法において、
    (a)測定対象検体と、活性炭とを接触させる工程、
    (b)前記工程(a)を経て得られる、活性炭で処理済の測定対象検体と、甲状腺細胞又は甲状腺刺激ホルモンレセプター発現細胞と、をPEG共存下において接触させる工程、及び
    (c)前記工程(b)によって生じた甲状腺刺激抗体刺激反応を検出する工程、
    を含む、方法。
  2. 前記活性炭が、デキストラン被膜処理活性炭である、請求項1に記載の方法。
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