JP5899673B2 - 導電性フィルム及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、熱可塑性樹脂の少なくとも片面に導電性無機ナノワイヤーを含む導電層を積層してなる導電性フィムル及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは導電性無機ナノワイヤーの使用量が少量ですみ、且つフィルム長手方向の表面抵抗値のばらつきが小さく抵抗値安定性に優れた導電性フィルムに関するものである。
近年、タッチパネルや電子ペーパー向けの導電材料、電極材料の開発が進んでいる。特に軽量、折り曲げが可能である樹脂フィルム上へ導電材料を積層した導電性フィルムについてはITO代替として導電性樹脂や、カーボンナノチューブ(以下「CNT」と略す。)、金属または金属酸化物からなる導電性無機フィラーなどの導電材料を用いたコーティングフィルムが盛んに検討されている。樹脂フィルム上に導電性繊維状フィラー、特にCNTからなる塗布液を塗布した導電性フィルム(特許文献1)、導電性繊維状フィラーと導電性樹脂からなる塗布液を塗布した導電性フィルム(特許文献2)が挙げられる。またより低抵抗化が可能であるロッド状金属粒子、金属ナノワイヤーを塗布、配向させた積層体(特許文献3〜5)が挙げられる。
特開2007−223182号公報 特開2004−253326号公報 特開2008−279434号公報 特開2006−111675号公報 特表2009−505358号公報
しかし、特許文献1及び2の技術では表面抵抗値が1×10Ω/□以上の帯電防止レベルに留まっておりタッチパネルや電子ペーパー向けには適用できない。また特許文献3〜5の技術では1×10Ω/□以下の低抵抗が可能と考えられるが、導電材料の使用量低減が困難なためコスト面や透明性の改善が困難であったり、導電性に異方性が発現したり、また希薄塗布液の塗布ではロッド状金属粒子、金属ナノワイヤーが塗布液中や塗布後の溶媒乾燥工程において凝集し、表面抵抗値のばらつきが生じてしまい、使用用途が制限されたり、検出器やセンサーの誤作動や感度低下などの問題が生じる場合がある。
本発明の目的は、導電性無機ナノワイヤーの使用量を抑え、幅広い表面抵抗値領域で表面抵抗値のばらつきを抑制し、透明性に優れた導電性フィルムを提供することにある。さらには、生産性に優れた長尺ロールとして採取が可能な導電性フィルムの好適な製造方法を提供することにある。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような構成を採用する。すなわち、
(1)熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、直径1〜100nm、且つアスペクト比が100〜5000である金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体を含む導電層が積層された導電性フィルムであって、前記金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体が導電層の平面内に占める面積の割合が5〜30%、且つ前記導電層の表面抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□以下であり、長手方向の表面抵抗値のばらつきが0.1〜10%である導電性フィルム、
(2)長手方向の長さが2〜5000mである(1)に記載の導電性フィルム、
(3)該導電層に金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体100質量%に対してバインダー樹脂(B)が30〜200質量%含まれた(1)または(2)に記載の導電性フィルム、
(4)金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体が銀ナノワイヤーである(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性フィルム、
(5)熱可塑性樹脂フィルムが少なくともポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2、6−ナフタレートを含むポリエステルフィルムである(1)〜(4)のいずれかに記載の導電性フィルム、
(6)熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に導電性組成物を塗布する塗布工程と、該導電性組成物を塗布された熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも一軸に延伸する延伸工程と、導電性組成物を乾燥固化する乾燥工程とをこの順に通過した後、巻き取る導電性フィルムの製造方法であって、
前記塗布工程に用いる導電性組成物は、以下の(A)〜(D)の成分を含み、(C)を質量比で(A)の10〜100倍含み、
前記延伸工程の温度は(C)の沸点よりも低い温度に設定されることを特徴とする導電性フィルムの製造方法、
(A)直径1〜100nmかつアスペクト比が100〜5000である金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体
(B)バインダー樹脂
(C)1分子中に2つ以上の水酸基を有し、かつ沸点170℃以上である単量体
(D)溶媒
(7)前記単量体(C)が糖アルコール、エチレングリコール、および、ジエチレングリコールからなる群より選ばれる1種または2種以上を含む(6)に記載の導電性フィルムの製造方法、
とするものである。
本発明によれば導電性無機ナノワイヤーの使用量が少なく、且つ表面抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□のばらつきが少ない導電性フィルム及びその製造方法を提供することができる。また、本発明の導電性フィルムは、低コスト且つ抵抗値安定性に優れたタッチパネルや電子ペーパー向けの導電性フィルム用途に好適に用いることができる。
以下、本発明の導電性フィルムについて説明する。
(1)導電性フィルムの物性
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、直径1〜100nm、且つアスペクト比が100〜5000である導電性無機ナノワイヤー(A)を含む導電層が積層された導電性フィルムであって、必要に応じて導電層にバインダー樹脂(B)や1分子中に2つ以上の水酸基を有し、且つ沸点170℃以上である単量体(C)、その他性能を損なわない程度に粒子や架橋剤、界面活性剤など各種添加剤を用いることができる。
導電性無機ナノワイヤー(A)が導電層の平面内に占める面積の割合は5〜30%である。ここで、導電性無機ナノワイヤー(A)が導電層の平面内に占める面積とは、導電層の平面に投影した導電性無機ナノワイヤー(A)の面積をいう。導電性無機ナノワイヤー(A)が導電層の平面内に占める面積の割合を30%以下とすることで、導電材料の使用量を抑えることができ、低コスト且つ高透明性を有することが可能となりタッチパネルや電子ペーパー用途に好適に用いることができ、5%以上とすることで表面抵抗値のばらつきが少ない導電性フィルムを得ることができる。
また導電性フィルムの表面抵抗値は1.0×10〜1.0×10Ω/□である。より好ましくは1.0×10〜1.0×10Ω/□であり、さらに好ましくは1.0×10〜1.0×10Ω/□である。表面抵抗値が1.0×10Ω/□以下であると、導電性フィルムとして通電して用いる際に、既存の検出器やセンサーによる通電検出が可能となり、また低抵抗ほど負荷が小さくなるため、発熱が抑えられることや、低電圧で用いることができるためである。本発明の導電性フィルムの表面抵抗値は低い方が好ましいものの、導電性無機ナノワイヤーが導電層平面に占める面積が30%以下においては現実的に1.0×10Ω/□未満とすることは困難と考えられ、そのため表面抵抗値は1.0×10Ω/□が下限と考えられる。
さらに本発明の導電性フィルムは表面抵抗値のばらつきが0.1〜10%である。より好ましくは0.1〜5%である。ここで表面抵抗値のばらつきとは、表面抵抗値の平均値と最大値の差(絶対値)、又は平均値と最小値の差(絶対値)の大きい方の値である。具体的には、例えば表面抵抗値の平均値が10000Ω/□、最大値が10500Ω/□、最小値が9750Ω/□としたとき、平均値と最大値の差(絶対値)は5%、平均値と最小値の差(絶対値)は2.5%であるから、表面抵抗値のばらつきは5%となる。表面抵抗値のばらつきが10%より大きいと、電子ペーパーやタッチパネル用の電極に適用した場合、検出器やセンサーの誤作動や感度低下などの問題が生じる場合がある。また、表面抵抗値のばらつきは小さい程好ましく、その下限は特に限定されない。しかしながら、本発明の導電性フィルムは、導電性無機ナノワイヤーによる不規則な網目状の導電層を有するので、機械的、物理的に表面抵抗値のばらつきを完全に無くすことは困難である。そのため表面抵抗値のばらつきを0.1%未満とすることは困難と考えられ、下限としては0.1%と考えられる。
また本発明の導電性フィルムは全光線透過率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上である。全光線透過率が80%以上であると、導電性無機ナノワイヤー(A)を用いた導電層を形成させる上で、導電性無機ナノワイヤー(A)が良好に分散していることを示し、また導電性無機ナノワイヤー(A)本来の電気的な特性を活かせば十分な導電性を得られるためである。上限は特に限定されるものではないが、フィルム表面での光反射を考慮すると、全光線透過率92%が熱可塑性樹脂フィルム上へ導電層を形成させた場合の物理的な限界値(上限)となる。全光線透過率が80%以上であることでタッチパネルや電子ペーパーの電極材料、またその他の導電性フィルムとして好適に用いることができる。
本発明の導電性フィルムは、長手方向の長さが2〜5000mであることが好ましい。導電性フィルムを、タッチパネルや電子ペーパーの電極材料に適用する際において、後加工などを考慮した長手方向の長さとして、少なくとも2m以上であることが好ましい。つまり、導電性フィルムの長手方向の長さが2m以上であれば、タッチパネルや電子ペーパー用途に好適に用いることができる。尚、2m以上の場合、フィルムの搬送などの点から、通常は導電性フィルムをコアに巻いたフィルムロールとして取り扱う。本発明の導電性フィルムは、その長手方向の長さは2m以上であれば特に上限はないが、後述するフィルム基材として好適な熱可塑性樹脂フィルムは、長い場合には5000m程度で取り扱われることもある。そのため本発明の導電性フィルムも、長手方向の長さが5000m程度として取り扱う可能性は考えられる。さらに本発明の導電性フィルムは前述した表面抵抗値のばらつきについて長手方向の長さが2mの範囲での表面抵抗値のばらつきが0.1〜10%であることが好ましい。より好ましくは0.1〜5%である。ここで長手方向の長さが2mの範囲での表面抵抗値のばらつきとは、長さが2mの範囲での前述したような表面抵抗値の平均値と最大値の差(絶対値)、又は平均値と最小値の差(絶対値)の大きい方の値であり、2mの範囲で採れば、全体のばらつきを代表させる値として判断できる。長手方向の長さが2mの範囲において(すなわちフィルム全体にわたって)、表面抵抗値のばらつきが10%より大きいと電子ペーパーやタッチパネル用の電極に適用した場合、フィルムロールの製品の歩留まりが大幅に低下する。
本発明の導電性フィルムは導電性無機ナノワイヤー(A)を塗布した従来の導電性フィルムと比較して、導電性無機ナノワイヤー(A)が導電層の平面内に占める面積の割合が5〜30%の限られた範囲においても、表面抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□の幅広い表面抵抗値領域において、長手方向の表面抵抗値のばらつきが0.1〜10%以内であることを特徴する導電性フィルムである。かかる特性を有することにより、表面抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□の領域においては導電性無機ナノワイヤー(A)を塗布した従来の導電性フィルムと比較して導電性無機ナノワイヤー(A)の使用量を低減できるため、高透明化や低コスト化を図ることができる。また表面抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□の領域においては、導電性無機ナノワイヤー(A)を塗布した従来の導電性フィルムでは導電性無機ナノワイヤー(A)の凝集や自己配向により長手方向の表面抵抗値のばらつきが10%よりも大きくならざるを得なかったところ、本発明の導電性フィルムでは、長手方向の表面抵抗値のばらつきを低く抑えることができるため、電子ペーパー等の電極フィルムへ適用することができるようになった。
導電性無機ナノワイヤー(A)を塗布した従来の導電性フィルムでは1.0×10Ω/□未満の表面抵抗値を達成することは可能であるが、乾燥工程で溶媒の蒸発に伴うナノワイヤーの凝集により導電性に異方性が発現し表面抵抗値のばらつきが大きくなったり、所望の表面抵抗値を達成させるために必要以上の導電性無機ナノワイヤー(A)を使用し、その影響で導電性フィルムの全光線透過率が低下することがあった。一方、1.0×10Ω/□以上の導電性フィルムを製造しようとした場合、導電性無機ナノワイヤー(A)を含む希薄な塗布液が必要であるため、塗布液中での導電性無機ナノワイヤー(A)の分散安定性の低下や、塗布後の乾燥工程で溶媒の蒸発に伴う凝集を起こしてしまい、表面抵抗値のばらつきが大きくなり製造が極めて困難であった。
本発明の導電性フィルムを製造するためには後述するインラインコート法が最適である。本発明のインラインコート法によれば、導電性無機ナノワイヤー(A)を含む導電性組成物を塗布し乾燥工程により溶媒を乾燥させ形成させた導電塗布層を熱可塑性樹脂フィルムと一緒に延伸させることで、導電性無機ナノワイヤー(A)を導電塗布層平面内で均一に流動分散させることが可能となるため、表面比抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□の幅広い表面抵抗値領域において、長手方向の表面抵抗値のばらつきを0.1〜10%以内とすることができる。
(2)熱可塑性樹脂フィルム
本発明の導電性フィルムにおいて、基材フィルムとして用いられる熱可塑性樹脂フィルムとは、熱可塑性樹脂を用いてなり、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称である。これらの熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性樹脂フィルムの代表例として、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメタクリレートフィルムやポリスチレンフィルムなどのアクリル系フィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを挙げることができる。
本発明における熱可塑性樹脂としては透明性や機械特性など各種物性や生産性、コストの点からポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、またそれらとその他の樹脂との共押出しによる複合フィルムや2層以上の積層構成を有するフィルムを用いることが好ましい。
上記ポリエステルを使用したポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシート又はフィルムを長手方向および長手方向に直行する幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理を施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。熱可塑性樹脂フィルムが二軸配向していない場合には、熱可塑性樹脂フィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が不十分なもの、平面性の悪いものとなるので好ましくない。
また、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10〜500μmである。さらに各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
(3)導電性無機ナノワイヤー(A)
本発明における導電性無機ナノワイヤー(A)とは直径1〜100nm、且つアスペクト比が100〜5000の導電体である。ここで、直径とは短軸の長さのことであり、またアスペクト比とは短軸の長さと長軸の長さの比、すなわち長軸の長さ/短軸の長さが100より大きい導電体のことである(一方、例えば球状はアスペクト比=1である)。
導電性無機ナノワイヤー(A)としては、例えば、繊維状導電体、ウィスカーのような針状導電体等が挙げられる。前記短軸及び長軸の長さは、導電性無機ナノワイヤー(A)の種類によっても異なるためその好ましい範囲を一律に規定することはできないが、直径、すなわち短軸の長さは後述する導電性組成物中へ良好に分散が可能であり導電性フィルムへ所望の表面抵抗値と透明性を付与できる点から上限として100nm以下である。より好ましくは70nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下である。また下限値としては技術的に製造可能である1nmとなる。長軸の長さは短軸の長さに対し、前記アスペクト比=長軸の長さ/短軸の長さが100より大きくなるような長さ100nm〜100μmが必要である。アスペクト比を100以上とすることで所望の表面抵抗値をばらつきなく発現できるだけでなく、後述する導電性組成物を塗布後に熱可塑性樹脂フィルムを延伸する製造方法、いわゆるインラインコート法においても本発明の導電性フィルムが製造可能になる。またアスペクト比を5000以下にすることで、導電性組成物中の導電性無機ナノワイヤー(A)を良好に分散させることができるだけでなく、インラインコート法においては熱可塑性樹脂フィルムを延伸した際の導電性無機ナノワイヤー(A)の断線や破損を抑制することができる。
導電性無機ナノワイヤー(A)としては、具体的に炭素系、金属系、金属酸化物系の無機繊維状導電体などが挙げられる。炭素系繊維状導電体としては、ポリアクリルニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ガラス状カーボン、CNT、カーボンナノコイル、カーボンナノワイヤー、カーボンナノファイバー、カーボンウィスカー、グラファイトフィブリルなどが挙げられる。金属系繊維状導電体としては、金、白金、銀、ニッケル、シリコン、ステンレス鋼、銅、黄銅、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、オスミウム、コバルト、亜鉛、スカンジウム、ホウ素、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、錫、マグネシウムなどから製造される繊維状導電体やナノワイヤー状の金属および合金などが挙げられる。金属酸化物系繊維状導電体としては、InO、InOSn、SnO、ZnO、SnO−Sb、SnO−V、TiO(Sn/Sb)O、SiO(Sn/Sb)O、KO−nTiO−(Sn/Sb)O、KO−nTiO−Cなどから製造された繊維状導電体、ナノワイヤー状の金属酸化物および金属酸化物複合体などが挙げられる。これらは表面処理を施されていてもよい。さらに、植物繊維、合成繊維、無機繊維などの非金属材料の表面に前記金属、前記金属酸化物またはCNTを塗布または蒸着したものも繊維状導電体に含まれる。
前記ウィスカーのような針状導電体とは、金属、炭素系化合物、金属酸化物などからなる化合物である。金属は具体的には、金、白金、銀、ニッケル、ステンレス鋼、銅、黄銅、アルミニウム、ガリウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、マンガン、アンチモン、パラジウム、ビスマス、テクネチウム、レニウム、鉄、オスミウム、コバルト、亜鉛、スカンジウム、ホウ素、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、テルル、錫、マグネシウムや、これらを含む合金が挙げられる。炭素系化合物としては、カーボンナノホーン、フラーレン、グラフェンなどが挙げられる。金属酸化物としては、InO、InOSn、SnO、ZnO、SnO−Sb、SnO−V、TiO(Sn/Sb)O、SiO(Sn/Sb)O、KO−nTiO−(Sn/Sb)O、KO−nTiO−Cなどが挙げられる。これら導電性無機ナノワイヤー(A)のうち、導電性、透明性や耐候性など各種特性、入手性やコスト面の観点から銀ナノワイヤーもしくはCNTを好ましく使用することができる。
導電性無機ナノワイヤー(A)として銀をはじめとして挙げられる金属や金属酸化物のナノワイヤーは、特表2009−505358号公報、特開2009−146747号公報、特開2009−70660号公報に開示されており、ナノワイヤーを単独、又は複数を組み合わせて混合させ使用することができ、さらに、必要に応じて他の導電性材料を添加しても良く、特にこれらに限定されるものではない。
またCNTとは炭素原子だけで構成されたハニカム構造のグラフェンシートが円筒状に丸まったシームレス(継ぎ目のない)チューブの総称であり、実質的にグラフェンシートを1層に巻いたものを単層CNT、2層に巻いたものを2層CNT、3層以上の多層に巻いたものを多層CNTという。本発明に用いられるCNTは、直線又は屈曲形の単層CNT、直線又は屈曲形の2層CNT、直線又は屈曲形の多層CNTのいずれか、又は、それらの組み合わせたものであることが好ましい。
なお、ハニカム構造とは、主として六員環からなるネットワーク構造を指すが、CNTの構造上、チューブの屈曲部分や断面の閉塞部分に五員環や七員環などの六員環以外の環状構造を有していても良い。
さらにこれらのCNTの中でも、導電性の点から、直線および/または屈曲形の2層CNTを用いるのが好ましく、より好ましくは直線の2層CNTを用いることである。2層CNTは、単層CNTと比較し同等の優れた導電性を有しつつ、溶媒中への分散性や耐久性、製造コストの点で優れている。さらに外側の層を化学修飾して官能基を付与したり、親和性の高い溶媒を表面吸着させた場合には、外側の層は部分的に壊れたり、外側の層に由来する導電性が低減することがあり得るが、内側の層は変質されずに残るため、CNTとしての特性(特に導電性)を維持したまま溶媒や樹脂との親和性を付与することができる。また、2層CNTは、多層CNTと比較し、同等の分散性や製造コストである一方、圧倒的に高い導電性を有している。
本発明において、導電性無機ナノワイヤー(A)は導電層中においてネットワーク構造で存在している。本発明におけるネットワーク構造とは、少なくとも1つの接点で導電性無機ナノワイヤー(A)同士が接していることで、最も小さいネットワーク構造は2本の導電性無機ナノワイヤー(A)が、ある一接点を有している場合である。接点は導電性無機ナノワイヤー(A)のいかなる部分同士で形成されていてもよく、導電性無機ナノワイヤー(A)の末端部同士が接していたり、末端と末端以外の部分が接していたり、末端以外の部分同士が接していてもよい。また、接するとはその接点が接合していても、単に接触しているだけでもよい。ネットワーク構造は、後述する方法にて観察することができるが特に限定されるものではない。
(4)バインダー樹脂(B)
本発明に用いるバインダー樹脂は、特に限定されるものではなく、熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線硬化性樹脂のいずれでもよい。例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等又は、前述の樹脂に添加剤を混合したものを用いるのが好ましい。特にポリエステル樹脂もしくはアクリル樹脂のいずれか、又はそれらを混合したものや共重合したものであることが好ましい。ポリエステル樹脂もしくはアクリル樹脂のいずれか、又はそれらを混合したものや共重合したものを用いることで、導電性無機ナノワイヤー(A)を熱可塑性樹脂フィルム上へ均一に分散、固定化させることができるだけでなく、透明性や耐溶剤性、耐摩耗性を容易に付与できるためである。バインダー樹脂と混合される添加剤は例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、天然または石油ワックス等の有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、核剤などがその樹脂特性や導電性無機ナノワイヤー(A)の分散性を悪化させない程度に添加されてもよい。
本発明の導電層におけるバインダー樹脂(B)の含有量は、導電層中の導電性無機ナノワイヤー(A)100質量部に対して30〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜150質量部である。含有量を30質量部以上とすることにより、導電性無機ナノワイヤー(A)を熱可塑性樹脂フィルム上へ均一に分散、固定化させることができ、またバインダー樹脂(B)の各種特性や効果を導電性フィルムへ付与することができる。また、200質量部以下とすることにより導電性無機ナノワイヤー(A)の導電性を十分に発現させることができる。
(5)1分子中に2つ以上の水酸基を有し、且つ沸点170℃以上である単量体(C)
本発明に用いることのできる単量体(C)は、1分子中に2つ以上の水酸基を有し、且つ沸点170℃以上であれば1種の化合物または、2種以上の化合物の混合物でも良い。例えば糖アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールのいずれか/および2種以上の混合物であることが工業的に入手しやすく水に容易に可溶であり好ましい。
本発明に用いることのできる糖アルコールは鎖状構造や環状構造など特に限定されないが、2つ以上の水酸基を有し、単体の沸点が170℃以上であるものとして具体的にはグリセリン、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、グルシトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、イノシトール、などを挙げることができる。糖アルコール誘導体としては、これら糖アルコールの誘導体を挙げることができる。これらの中でも、グリセリンやキシリトール、グルシトール、マンニトール、エリトリトールが工業的にも入手しやすく好適である。
本発明における単量体(C)は、導電性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上へ塗布、乾燥させる際に、溶媒の急激な蒸発乾燥による導電性組成物のハジキや導電性無機ナノワイヤー(A)の凝集による表面抵抗値のばらつきを抑制できるたけでなく、後述するインラインコート法において、延伸工程時に導電性無機ナノワイヤー(A)に加わる延伸応力を緩和し、導電性無機ナノワイヤー(A)の切断を防止しネットワーク構造を形成させることができる。
本発明の導電性組成物に含まれる単量体(C)の含有量は質量比で(A)の10〜100倍であることが好ましく、より好ましくは20〜70倍、さらに好ましくは30〜60倍である。単量体(C)が質量比で(A)の10倍以上含まれることで前述したように導電性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上へ塗布、乾燥させる際に、溶媒の急激な蒸発乾燥による導電性組成物のハジキや導電性無機ナノワイヤー(A)の凝集による表面抵抗値のばらつきを抑制できるたけでなく、インラインコート法において延伸工程時に導電性無機ナノワイヤー(A)に加わる延伸応力を緩和し、導電性無機ナノワイヤー(A)の切断を防止しネットワーク構造を形成させることができる。一方、質量比で(A)の100倍以下にすることで乾燥工程において後述する溶媒を蒸発させ、熱処理工程により導電層を固化させることができる。尚、単量体(C)は乾燥工程において溶媒と共に蒸発する場合や溶媒の蒸発時間を遅延させた後の熱処理工程において導電層中で固化する場合がある。
(6)溶媒(D)
溶媒(D)は水系溶媒(d)、有機溶媒(d’)を用いることができるが、好ましくは水系溶媒(d)である。水系溶媒を用いることで、乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な導電層を形成できるだけでなく、環境負荷が軽いという点で優れているためである。
ここで、水系溶媒(d)とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が水と任意の比率で混合されているものを指す。
また有機溶媒(d’)とは、上記水系溶媒以外の溶媒を指し、実質的に水を含まない溶媒をいう。有機溶媒の種類は特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、ヘキサンなどの炭化水素類が挙げられる。
(7)導電性組成物の調製方法
溶媒(D)に水系溶媒(d)を用いた場合の導電性組成物の調製方法を例に以下説明するが、溶媒に有機溶剤を用いた場合の導電性組成物もこれと同様に作成することができる。
導電性組成物を調製するためには、まず、水系溶媒に導電性無機ナノワイヤー(A)を分散させた導電性無機ナノワイヤー分散体を調製することが好ましい。導電性無機ナノワイヤー分散体を作成する方法としては、
(I)分散剤を水系溶媒に溶解させ、この中に導電性無機ナノワイヤー(A)を添加して混合し撹拌し導電性無機ナノワイヤー分散体を調製する方法、
(II)導電性無機ナノワイヤー(A)を水系溶媒で予め超音波分散などで予備分散させた後、分散剤を添加し混合し、撹拌し導電性無機ナノワイヤー分散体を調製する方法、
(III)水系溶媒に導電性無機ナノワイヤー(A)と分散剤を入れ、混合、撹拌して導電性無機ナノワイヤー分散体を調製する方法、
などがある。
本発明ではいずれの方法を用いてもよく、単独で用いるか、あるいは2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。また撹拌する方法は、マグネチックスターラーや撹拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などを行うことができる。中でも(III)の方法が水と接触することで発生するCNTの余計な凝集を防ぎ、効率良く導電性無機ナノワイヤー(A)を水系溶媒へ分散できる点から好ましい。
次いで、上記導電性無機ナノワイヤー分散体にバインダー樹脂(B)、単量体(C)を添加し、上記(I)〜(III)の方法などを用いて、混合、撹拌を行うことによって、導電性組成物を調製することが好ましい。またバインダー樹脂(B)、単量体(C)を添加する際、必要に応じて前述した各種添加剤を、そのバインダー樹脂特性や導電性無機ナノワイヤー(A)の分散性を悪化させない程度に添加してもよい。
(8)塗布方式
塗布方式は、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
(7)導電性フィルムの製造方法
本発明の導電性フィルムの製造方法は熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、直径1〜100nm、且つアスペクト比が100〜5000である導電性無機ナノワイヤー(A)、バインダー樹脂(B)、1分子中に2つ以上の水酸基を有し、且つ沸点170℃以上である単量体(C)を質量比で導電性無機ナノワイヤー(A)の10〜100倍、溶媒(D)を含む導電性組成物を塗布し、その後、該熱可塑性樹脂フィルムを単量体(C)の沸点よりも低い温度にて少なくとも一軸に延伸し、その後導電性組成物を乾燥固化させ巻き取ることが好ましい。つまり導電性フィルムの製造方法はインラインコート法、オフラインコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはインラインコート法である。
一般的にインラインコート法とは、熱可塑性樹脂フィルムの製造の工程内で塗布を行う方法である。具体的には、熱可塑性樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)熱可塑性樹脂フィルム(Aフィルム)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。 本発明では、結晶配向が完了する前の上記Aフィルム、Bフィルム、またはCフィルムの何れかの熱可塑性樹脂フィルムに、導電性組成物を塗布し乾燥させ導電塗布層を形成させた後に該熱可塑性樹脂フィルムを一軸又は二軸に延伸し、延伸温度以上で熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともに導電塗布層を固化させて導電層を設ける方法を採用することが好ましい。ここで該熱可塑性樹脂フィルムを一軸又は二軸に延伸する際は形成された導電塗布層の表面に延伸工程内のニップロールなどが接触しないような該熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の端部をクリップ等で把持させ延伸させる方式を採ることにより、形成される導電層中の導電性無機ナノワイヤーのネットワーク構造の破壊が防止されるので好ましい。本発明のインラインコート法によれば、熱可塑性樹脂フィルムの製膜と、導電性組成物の乾燥、固化(すなわち、導電層の形成)を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。また、塗布後に延伸を行うために形成される導電層の厚みをより薄くすることが容易である。また、塗布後に施される熱処理温度をオフコートよりも高い温度とすることにより、効果的にバインダー樹脂を固化させることができ、導電層の耐磨耗性や耐溶剤性を向上させることができる。さらに延伸工程により、オフラインコートでは製造が困難である導電性無機ナノワイヤー(A)が均一に適度にほぐされたネットワーク構造を形成できるため、透明性と導電性に優れる導電性フィルムを得ることができる。
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、導電性組成物を塗布し、その後、幅方向に延伸し、熱処理する方法が優れている。未延伸フィルムに塗布した後、二軸延伸する方法に比べ、延伸工程が1回少ないため、延伸による導電性無機ナノワイヤー(A)のネットワーク構造の切断が起こり難く、透明性と導電性に優れた導電層を形成できるためである。
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、または未延伸のAフィルムに導電性組成物を塗布する方法である。
本発明において導電層は、上述した種々の利点から、インラインコート法により設けられることが好ましい。本発明のインラインコート法によれば、導電性無機ナノワイヤー(A)を含む導電性組成物を塗布し乾燥工程により溶媒を乾燥させ形成させた導電塗布層を熱可塑性樹脂フィルムと一緒に延伸させることで、導電性無機ナノワイヤー(A)を導電塗布層平面内で均一に流動分散させることが可能となるため、表面比抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□の幅広い表面抵抗値領域において、長手方向の表面抵抗値のばらつきを0.1〜10%以内とすることができる。
次に本発明の導電性フィルムの製造方法について、熱可塑性樹脂フィルムにポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)フィルムを用いた場合を例にして説明するが、当然これに限定されるものではない。
まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に本発明の導電性組成物を塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、導電性組成物のPETフィルムへの濡れ性を向上させ、導電性組成物のはじきを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80〜130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、導電塗布層の溶媒である水を乾燥させる。乾燥後幅方向に1.1〜5.0倍延伸する。このインラインコート法の延伸工程にて導電性無機ナノワイヤー(A)は導電層の平面内に占める面積の割合が5〜30%に保たれ、且つネットワーク構造が切断することなく、透明性に優れた1.0×10〜1.0×10Ω/□以下の導電層を形成させることができる。引き続き180〜240℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導き1〜30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3〜15%の弛緩処理を施してもよい。かくして得られた導電性フィルムはCNTが導電層中に微分散された状態で固定化された透明且つ導電性の高い導電性フィルムとなる。導電層の厚みは1〜500nmが好ましい。導電層の厚みが500nm以下であると導電性無機ナノワイヤー(A)の導電層の平面内に占める面積の割合が5〜30%、且つ透明性に優れた導電性フィルムを製造することができる。また導電層の厚みが1nm以上となるのは無機導電性ナノワイヤーの直径が1nm以上であるためである。
本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における各実施例・比較例で作成した導電性フィルムの特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。
(1)導電層における導電性無機ナノワイヤー(A)の直径の測定及びネットワーク観察
導電性フィルムの表面を電界放射走査電子顕微鏡((FE−SEM)JSM−6700F(日本電子株式会社製))にて導電層平面に対して垂直方向から1000〜50000倍にて直径の測定及びそのネットワーク構造を観察した。電子顕微鏡画像の導電層平面の導電性無機ナノワイヤー(A)のネットワーク構造を目視により判定した。
判定基準;
○:導電性無機ナノワイヤー(A)が均一なネットワーク構造を形成している。
×:導電性無機ナノワイヤー(A)の一部/または全体が凝集しており均一なネットワーク構造を形成していない。
(2)導電性無機ナノワイヤー(A)が導電層の平面内に占める面積の算出
導電性フィルムの表面を電界放射走査電子顕微鏡((FE−SEM)JSM−6700F(日本電子株式会社製))にて導電層平面に対して垂直方向から1000倍にてその形態を撮影し、画像として保存した。得られた画像を、(株)プラネトロン製Image−Pro Plus、Ver.4.0for Windouwsを用いて、画像解析を行った。測定条件は以下の通りに設定した。
・カウント/サイズオプション内の表示オプション設定で、アウトラインの形式を塗りつぶしにする。
・オブジェクト抽出オプション設定で、境界上の除外をなし(None)にする。
・測定の際の輝度レンジ選択設定を暗い色のオブジェクトを自動抽出にする。
上記条件下で、写真で観察した導電性フィルムの全面積に対する、導電性無機ナノワイヤー(A)が存在しない黒色に塗りつぶされた部分の面積の比率を百分率で算出し、逆算することで導電性無機ナノワイヤー(A)の占める面積を算出した。同じ導電性フィルムサンプルについて電子顕微鏡の観察位置を変えた画像を同様の測定を3回行い、平均値を当該サンプルの導電性無機ナノワイヤー(A)の占める面積とした。
(3)表面抵抗値
表面抵抗値の測定は、導電性フィルムを常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS-K-6911(1995年版)に基づいて、ハイスタ-UP(三菱化学株式会社製、型番:MCP-HT450)を用いて測定した。この測定器は1×10Ω/□以上の測定が可能である。一方、低抵抗値領域は同じ雰囲気下で、JIS−K−7194(1994)に基づいて、ロレスタ−EP(三菱化学株式会社製、型番:MCP−T360)を用いた。この測定器は1×10Ω/□以下の測定が可能である。
各実施例・比較例につき測定するサンプル(A4サイズ:21cm×30cm)は1つとし、当該サンプル上の異なる5点についてそれぞれ1回ずつ測定を行い、得られた5点の平均を表面抵抗値とした。なお、熱可塑性樹脂フィルムの片面のみに導電層が積層されている場合、導電層が積層されている面側を測定した。また、導電層が熱可塑性樹脂フィルムの両面に積層してある場合は、一方の面の5点測定の平均と、他方の面の5点測定の平均をそれぞれ求め、片面ごとの表面抵抗値Rを求めた。尚、ある1つの面に対する測定個所5点はA4サイズのサンプルの角を対角線で結んだ中心点と、角から中心点までの対角線上の中間点4点の合計5点とした。
(4)表面抵抗値のばらつき
前項(3)で算出した表面抵抗値Rと5点での各測定値R(n=1〜5)との比R/Rを算出した。すべての点でのR/Rが0.9≦R/R≦1.1を満たす場合、すなわち、ばらつきが10%以内を良好と判定した。
(5)長手方向の長さ2mの範囲での表面抵抗値のばらつき
導電性フィルムの長手方向(機械方向)において任意の位置から2m分の範囲内で、長手方向10cm間隔、幅方向(長手方向と直交する方向)10cm間隔の各点の表面抵抗値を測定した。全ての測定点の表面抵抗値の平均値を、導電性フィルムの長手方向の長さ2mでの表面抵抗値RLとして、各測定値Rとの比RL/Rを算出した。RL/Rが0.9≦RL/R≦1.1を満たす場合、すなわち、ばらつきが10%以内を良好と判定した。
(6)全光線透過率・ヘイズ評価
全光線透過率およびヘイズの測定は、常態(23℃、相対湿度65%)において、積層フィルムサンプルを40時間放置した後、日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて測定した。全光線透過率の測定はJIS「プラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法」(K7361−1、1997年版)、ヘイズの測定はJIS「透明材料のヘーズの求め方」(K7136 2000年版)に準ずる方式で行った(「ヘイズ」と「ヘーズ」は同義である)。サンプルは一辺50mmの正方形のものを3サンプル準備し、それぞれ1回ずつ、合計3回測定した平均値をサンプルの全光線透過率、ヘイズとした。
(7)導電層の耐摩耗性試験
導電層の耐磨耗性は、常態(23℃、相対湿度65%)の条件下で不織布(小津産業(株)製、ハイゼガーゼNT−4)を100g/cmの荷重で導電層表面を半径10cmの範囲で円を描くように10回擦過した。耐磨耗性の判定は目視により外観変化を観察することによって行った。
判定基準;
○:外観変化なし
×:導電層の削れや脱落(不織布に導電層成分が付着)のいずれかが確認される。
参考例1)
まず導電性ナノワイヤー(A)として銀ナノワイヤーを用いた銀ナノワイヤー分散液を下記の通り調製した。
特表2009−505358号公報の例1(銀ナノワイヤーの合成)に開示されている方法にて銀ナノワイヤー(短軸の長さ(直径):50nm、長軸の長さ:20μm、アスペクト比:400)を得た。次いで、同特表2009−505358号公報の例8(ナノワイヤー分散)に開示されている方法にて銀ナノワイヤー分散液を得た。この銀ナノワイヤー分散液を、液全体に対する銀ナノワイヤー量が0.05質量%となるように濃度を調整した。
次いで、この銀ナノワイヤー分散液にバインダー樹脂(B)として熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体(高松油脂(株)製、ペスレジンA―120、固形分濃度25質量%)、1分子中に2つ以上の水酸基を有し、かつ沸点170℃以上である単量体(C)としてグリセリン(ナカライテスク(株)製)を銀ナノワイヤー(A)の固形分質量を100質量部とした際に下記の固形分質量比となるように添加し、マグネチックスターラーによって500rpmで15分間混合、撹拌し導電性組成物を得た。
(A) 100質量部
(B) 50質量部
(C)3000質量部
次いで、PETペレット(極限粘度0.63dl/g、粒子不含有)を充分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.4倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。このフィルムに空気中でコロナ放電処理を施した。
次に導電性組成物を一軸延伸フィルムのコロナ放電処理面にバーコート法を用いて塗布した。続いて導電性組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導き、雰囲気温度75℃とした後、引き続いてラジエーションヒーターを用いて雰囲気温度を110℃とし、次いで雰囲気温度を90℃として、導電性組成物を乾燥させた。引き続き連続的に120℃の加熱ゾーン(延伸ゾーン)で幅方向に3.5倍延伸し、続いて230℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)で20秒間熱処理を施し、結晶配向の完了した導電性フィルムを得た。
得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは125μm、長手方向の長さ1000mであった。また、導電層部分を電子顕微鏡によって観察した結果、導電層中に銀ナノワイヤーがランダムにネットワーク構造を形成していることが確認できた。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。なお、表中、導電性無機ナノワイヤー(A)が前記導電層の平面内に占める面積の割合を便宜的に占有面積と表示する(以下の例についても同じ)。
参考例2、実施例3〜4)
バーコート法による導電性組成物の塗布量を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
参考例5)
銀ナノワイヤー(短軸の長さ(直径):100nm、長軸の長さ:10μm、アスペクト比:100)を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
参考例6)
まず、導電性ナノワイヤー(A)としてCNTを用いたCNT水分散液を下記の通り調製した。
1.0mgのCNT(2層CNT:(株)ATR社製、直径:1nm、アスペクト比:5000)とCNT分散剤のカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマアルドリッチジャパン(株))(以下、CMC−Naと略す。)を1.0mgと水248mgを50mLサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT水分散体(CNT濃度0.40wt%、CNT分散剤0.40wt%、(B)/(A)=1.0)を得た。このCNT水分散体にバインダー樹脂として熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体(高松油脂(株)製、ペスレジンA―120、固形分濃度25質量%)を添加し、マグネチックスターラーによって500rpmで15分間混合、撹拌し、CNT分散液を得た。
次にバインダー樹脂(B)として熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体(高松油脂(株)製、ペスレジンA−120、固形分濃度25質量%)、1分子中に2つ以上の水酸基を有し、かつ沸点170℃以上である単量体(C)としてグリセリン(ナカライテスク(株)製)をCNT(A)の固形分質量を100質量部とした際に下記の固形分質量比となるように添加し、マグネチックスターラーによって500rpmで15分間混合、撹拌し導電性組成物を得た。
(A) 100質量部
(B) 50質量部
(C)3000質量部
得られた導電性組成物から参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
参考例7)
CNT(2層CNT:(株)ATR社製、直径:5nm、アスペクト比:1000)を変更した以外は参考例6と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
参考例8、実施例9、参考例10〜11)
バインダー樹脂(B)、または1分子中に2つ以上の水酸基を有し、且つ沸点170℃以上である単量体(C)の質量比を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例1)
バーコート法による導電性組成物の塗布量を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例2)
銀ナノワイヤー(短軸の長さ(直径):110nm、長軸の長さ:44μm、アスペクト比:400)を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例3)
銀ナノワイヤー(短軸の長さ(直径):50nm、長軸の長さ:4.5μm、アスペクト比:90)を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例4〜5)
バインダー樹脂(B)または1分子中に2つ以上の水酸基を有し、且つ沸点170℃以上である単量体(C)の質量比を変更した以外は参考例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。比較例5では表面抵抗値が絶縁状態のため表面抵抗値のばらつきを評価することができなかった。
(比較例6)
参考例1で調製した導電性組成物をバーコート法にて幅0.3m、長さ1mのポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(登録商標)U46(東レ(株)製)上に塗布し、熱風オーブンにて150℃で1分間乾燥させ導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの評価結果を表1に示す。オフラインコート法では参考例1と同様の導電性組成物を用いても表面抵抗値のばらつきが大きくなってしまった。また長手方向の長さ2mでの表面抵抗値のばらつきは長さが足りず評価が不可能であった。
Figure 0005899673
本発明の導電性フィルムは、表面抵抗値が1.0×10Ω/□以下であり、長手方向の表面抵抗値のばらつきが10%以下と抵抗値安定性が良好である。本発明の導電性フィルムは、例えば、タッチパネルや電子ペーパーなどのフラットパネルディスプレイに好適に用いることができる。さらに回路材料用途や、透明ヒーター、太陽電池用途など、各種の導電性フィルム用途にも好適に用いることができる。

Claims (7)

  1. 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、直径1〜100nm、且つアスペクト比が100〜5000である金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体を含む導電層が積層された導電性フィルムであって、前記金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体が前記導電層の平面内に占める面積の割合が5〜30%、且つ前記導電層の表面抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω/□であり、表面抵抗値のばらつきが0.1〜5%である導電性フィルム。
  2. 長手方向の長さが2〜5000mである請求項1に記載の導電性フィルム。
  3. 前記導電層に、前記金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体100質量部に対してバインダー樹脂(B)を30〜200質量部の割合で含む請求項1または2に記載の導電性フィルム。
  4. 前記金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体が銀ナノワイヤーである請求項1〜3のいずれかに記載の導電性フィルム。
  5. 前記熱可塑性樹脂フィルムが少なくともポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを含むポリエステルフィルムである請求項1〜4のいずれかに記載の導電性フィルム。
  6. 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に導電性組成物を塗布する塗布工程と、該導電性組成物を塗布された熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも一軸に延伸する延伸工程と、導電性組成物を乾燥固化する乾燥工程とをこの順に通過せしめた後、巻き取る導電性フィルムの製造方法であって、
    前記塗布工程に用いる導電性組成物は、以下の(A)〜(D)の成分を含み、(C)を質量比で(A)の10〜100倍含み、
    前記延伸工程の温度は(C)の沸点よりも低い温度に設定されることを特徴とする導電性フィルムの製造方法。
    (A)直径1〜100nmかつアスペクト比が100〜5000である金属系及び/または金属酸化物系の無機繊維状導電体
    (B)バインダー樹脂
    (C)1分子中に2つ以上の水酸基を有し、かつ沸点170℃以上である単量体
    (D)溶媒
  7. 前記単量体(C)が糖アルコール、エチレングリコール、および、ジエチレングリコールからなる群より選ばれる1種または2種以上を含む請求項6に記載の導電性フィルムの製造方法。
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