JP5895278B2 - G−csfを含む線維芽細胞動員剤及び創傷治療剤 - Google Patents

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Description

本発明は、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を有効成分として含む線維芽細胞動員剤に関する。また、本発明は、G−CSFを有効成分として含む線維芽細胞の生着剤に関する。さらに、本発明は、G−CSFを有効成分として含む創傷治療剤に関する。
ヒトG−CSFは顆粒球系造血幹細胞の分化誘導因子として発見された造血因子であり、生体内では好中球造血を促進することから、骨髄移植や癌化学療法後の好中球減少症治療剤として臨床応用されている。また、上記作用のほかにも、ヒトG−CSFには、幹細胞に作用してその分化増殖を刺激する作用や骨髄中の幹細胞を末梢血中に動員する作用がある。実際に後者の作用に基づいて、臨床の現場では強力な化学療法を施行した後の癌患者の造血回復促進を目的として、ヒトG−CSFにより動員された末梢血造血幹細胞を移植する末梢血幹細胞移植術が行われている。
本発明は、線維芽細胞を移植することなく、簡便に線維芽細胞を創傷組織に動員し、線維芽細胞を創傷組織に生着させ、そして創傷を治療することを目的とする。
本発明者らは、心筋梗塞後の創傷組織の再生について検討を行った。その結果、G−CSFを投与することにより、心筋梗塞巣に線維芽細胞が移動し、心機能の低下が防止され、心臓のリモデリングを改善することを見出した。本発明はこの知見に基づき完成したものである。
すなわち、本発明は、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を有効成分として含む線維芽細胞動員剤を提供するものである。
また、本発明は、G−CSFを有効成分として含む、心疾患発症後の心臓における線維芽細胞の生着剤を提供するものである。
また、本発明は、G−CSFを有効成分として含む創傷治療剤を提供するものである。
さらに、本発明は、有効量のG−CSFを投与することを含む、線維芽細胞動員方法を提供する。
また、本発明は、有効量のG−CSFを投与することを含む、線維芽細胞を心疾患発症後の心臓に生着させるための方法を提供するものである。
また、本発明は、有効量のG−CSFを投与することを含む、創傷治療方法を提供するものである。
心筋梗塞後にG−CSFを投与することにより、梗塞巣に骨髄細胞由来の心筋細胞が多数観察された。一方、その10倍近い数の線維芽細胞も観察された。すなわち、G−CSF投与により骨髄から種々の幹細胞由来の細胞が梗塞巣に遊走し、梗塞巣が再生され、心筋梗塞後のリモデリングを防止したことが明らかとなった。G−CSF投与により、急性期に白血球が多数浸潤するだけでなく、慢性期(梗塞後60日)に線維芽細胞が梗塞巣に移動することが創傷治癒を促進し、リモデリングを改善したと考えられる。心筋梗塞後の梗塞巣に線維芽細胞を移植することで梗塞巣のリモデリングが防止できたことが報告されている(Hutcheson KA,Atkins BZ,Hueman MT,Hopkins MB,Glower DD,Taylor DA,Transplant.9,2000,359−368)。本発明においては、心筋梗塞後にG−CSFを投与することにより、骨髄から線維芽細胞を遊走させることができる。したがって、線維芽細胞を移植することなく梗塞巣のリモデリングを防止することが可能であり、臨床応用上極めて有利である。
また、この事実は心筋梗塞以外でも、外傷等の種々の創傷治癒過程においてG−CSFを臨床応用することが出来ることを意味する。すなわち、創傷治癒過程においてG−CSFを投与することにより、早期の顆粒球浸潤だけでなく線維芽細胞も供給され、創傷治癒を加速し、さらにより強固な治癒組織を作ることが可能である。これまで、創傷治癒時にG−CSFを投与すると、顆粒球を大量に浸潤させることとなり、組織破壊に繋がると考えられていたが(Romson,JL,Hook BG,Kunkel SL,Abrams GD,Schork MA,Lucchesi BR,Circulation 67(5),1983,1016−1023)、本発明においては、G−CSFを投与することでより強固な創傷部位の治癒が可能である。
図1は、骨髄移植60日後の末梢血有核細胞についてFACS解析を行った結果を示す図である。 図2は、骨髄のサイトスピン標本の共焦点レーザー顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性の骨髄由来細胞であることを示し、青色はDAPI染色により有核細胞であることを示す。 図3は、心筋梗塞作製後、G−CSFを10日間皮下投与したマウス(G−CSF投与群)、及び生理食塩水を投与したマウス(対照群)についての生存率を示した図である。 図4は、心筋梗塞作製後60日での経胸壁心エコーMモード画像である。上から、正常マウス、対照マウス及びG−CSF投与(100μg/kg)マウスの左室を示す。 図5は、心筋梗塞作製後60日における、左室駆出率に対するG−CSF投与の効果を示すグラフである。左から、正常群、G−CSF投与群(100μg/kg)及びG−CSF投与群(300μg/kg)の結果を示す。 図6は、心筋梗塞作製後60日おける、左室拡張末期径に対するG−CSF投与の効果を示すグラフである。左から、正常群、G−CSF投与群(100μg/kg)及びG−CSF投与群(300μg/kg)の結果を示す。 図7(a)は、心筋梗塞作製後60日における対照群(左図)及びG−CSF投与群(右図)の心臓左心室短軸断面についてのアザン染色図である。赤色部分が筋線維、青色部分が膠原線維を示す。 図7(b)は、心筋梗塞作製後60日におけるG−CSF投与群の心臓左心室短軸断面についてのアザン染色図(左図)及び共焦点レーザー顕微鏡写真(右図)である。 図8は、心筋梗塞巣の共焦点レーザー顕微鏡写真である。(a)は非梗塞巣、(b)は対照群における心筋梗塞巣、(c)はG−CSF投与群(100μg/kg)の心筋梗塞巣を示す。(d)はLac−ZトランスジェニックマウスにG−CSFを投与(100μg/kg)した場合の心筋梗塞巣を示す。 図9は、心筋梗塞巣に存在するGFP陽性細胞数を示すグラフである。 図10は、心筋梗塞巣を、抗α−平滑筋アクチン抗体を用いて免疫染色したときの共焦点レーザー顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はα−平滑筋アクチンを示す。 図11は、心筋梗塞巣を、抗フォンビルブラント因子(vWF)抗体を用いて免疫染色したときの共焦点レーザー顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はvWFを示す。 図12は、心筋梗塞巣を、抗アクチニン抗体を用いて免疫染色したときの顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はアクチニンを示す。 図13は、心筋梗塞巣を、抗アクチニン抗体を用いて免疫染色したときの顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はアクチニンを示す。 図14は、心筋梗塞巣を1μmごとにスライスした切片について、抗アクチニン抗体を用いて免疫染色したときの顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はアクチニンを示す。 図15は、G−CSF投与後の心筋梗塞巣におけるGFP陽性細胞の種類別の割合を示すグラフである。 図16は、全骨髄移植群及び単一造血幹細胞移植群における末梢血有核細胞数に対するG−CSF投与の効果を示すグラフである。 図17は、心筋梗塞作製後の生存率に対するG−CSF投与の効果を示す図である。図中、点線は全骨髄移植群、直線は単一造血幹細胞移植群を示し、四角はG−CSF投与群(+)、丸はG−CSF非投与群(−)を示す。 図18は、単一造血幹細胞移植群における心筋梗塞巣を抗ビメンチン抗体で免疫染色したときの共焦点レーザー顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はビメンチンを示す。 図19は、全骨髄移植群及び単一造血幹細胞移植群におけるGFP陽性細胞数に対するG−CSF投与の効果を示すグラフである。 図20は、単一造血幹細胞移植群にG−CSF投与した場合の心筋梗塞境界領域について抗アクチニン抗体を用いて免疫染色したときの共焦点レーザー顕微鏡写真である。緑色はGFP陽性細胞、青色はDAPIにより染色された核、赤色はアクチニンを示す。
本発明は、G−CSFを有効成分として含む線維芽細胞動員剤に関するものである。線維芽細胞が動員される場所は特に制限されない。例えば、創傷を負った組織が存在する場合、G−CSFを投与することにより、創傷を負った組織に線維芽細胞を動員することが可能である。
本発明において創傷とは、体組織の障害・損傷のことをいい、例えば、心臓、肺、腎臓、腸、肝臓、腱などの内部組織や臓器への障害・損傷や、皮膚などへの外傷を含む。創傷を負った組織の具体的な例としては、心筋梗塞後の心臓を好適に挙げることができる。
線維芽細胞は、通常、結合組織の固有細胞であり、粗面小胞体とゴルジ装置の良好な発育を特徴とする楕円形の核と紡錘状の原形質を持つ細胞である。又、多くの臓器に存在する間葉系細胞で実質細胞を埋める役をする細胞も含まれる。線維芽細胞は通常、体内の間質物質(コラーゲン、フィブロネクチン、ムコ多糖など)を多量産生する能力を有する。創傷を負った組織に線維芽細胞を動員することにより、創傷の治癒を促進することが可能である。
又、本発明はG−CSFを有効成分として含む、心疾患発症後の心臓における線維芽細胞生着剤に関する。
心疾患の具体的な例としては、例えば、虚血性心疾患(心筋梗塞など)や心筋疾患(心筋症など)などを挙げることができる。例えば、心筋梗塞後にG−CSFを投与することにより、心筋梗塞巣へ線維芽細胞を生着させることが可能である。
さらに、本発明はG−CSFを有効成分として含む創傷治療剤に関するものである。
本発明に用いるG−CSFは、どのようなG−CSFでも用いることができるが、好ましくは高度に精製されたG−CSFであり、より具体的には、哺乳動物G−CSF、特にヒトG−CSFと実質的に同じ生物学的活性を有するものである。G−CSFの由来は特に限定されず、天然由来のG−CSF、遺伝子組換え法により得られたG−CSFなどを用いることができるが、好ましくは遺伝子組換え法により得られたG−CSFである。遺伝子組換え法により得られるG−CSFには、天然由来のG−CSFとアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列中の1または複数のアミノ酸を欠失、置換、付加等したもので、天然由来のG−CSFと同様の生物学的活性を有するもの等であってもよい。アミノ酸の欠失、置換、付加などは当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh,T.et al.(1995)Gene 152,271−275;Zoller,M.J.and Smith,M.(1983)Methods Enzymol.100,468−500;Kramer,W.et al.(1984)Nucleic Acids Res.12,9441−9456;Kramer,W.and Fritz,H.J.(1987)Methods Enzymol.154,350−367;Kunkel,T.A.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82,488−492;Kunkel(1988)Methods Enzymol.85,2763−2766)などを用いて、G−CSFのアミノ酸に適宜変異を導入することにより、G−CSFと機能的に同等なポリペプチドを調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。一般的に、置換されるアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666;Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500;Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433;Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。
また、本発明においては、G−CSFはタンパク質として投与してよいが、遺伝子治療のようにG−CSFをコードする遺伝子を投与してもよい。G−CSFをコードする遺伝子は、通常、発現カセットを含む発現ベクター等として投与されるのが一般的である。ベクターは特に限定されず、非ウイルスベクターを用いてもよいし、ウイルスベクターを用いてもよい(別冊実験医学、「遺伝子導入と発現解析実験方法」、羊土社、1996など)。ベクターの例としては、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ファージベクター、コスミドベクター、YACベクターなどを挙げることができる。発現ベクターには、通常、プロモーター等の調節因子などが含まれる。遺伝子の導入方法はどのような方法を用いてもよく、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、リポソーム法を用いた導入方法、naked−DNA法、レセプター介在性遺伝子導入方法、遺伝子銃を用いた方法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管を用いた方法などを用いることが可能である。また、本発明においては、遺伝子を直接体内に導入してもよいし、取り出した細胞や培養して得た細胞などに遺伝子を導入した後に該細胞を体内に戻してもよい。
又、G−CSFと他のタンパク質との融合タンパク質を用いることも可能である。融合ポリペプチドを作製するには、例えば、G−CSFをコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のG−CSFとの融合に付される他のタンパク質としては、特に限定されない。
又、化学修飾したG−CSFを用いることも可能である。化学修飾したG−CSFの例としては、例えば、糖鎖の構造変換・付加・欠失操作を行ったG−CSFや、ポリエチレングリコール・ビタミンB12等、無機あるいは有機化合物等の化合物を結合させたG−CSFなどを挙げることができる。
本発明で用いるG−CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、例えば、ヒト腫瘍細胞やヒトG−CSF産生ハイブリドーマの細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したG−CSF、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌、イースト菌、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、C127細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、昆虫細胞、などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したG−CSFなどを用いることができる。本発明において用いられるG−CSFは、遺伝子工学的手法により製造されたG−CSFが好ましく、哺乳動物細胞(特にCHO細胞)を用いて製造されたG−CSFが好ましい(例えば、特公平1−44200号公報、特公平2−5395号公報、特開昭62−129298号公報、特開昭62−132899号公報、特開昭62−236488号公報、特開昭64−85098号公報)。
本発明の線維芽細胞動員剤等には、その投与方法や剤形に応じて必要により、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を適宜添加することができる。
懸濁剤の例としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
溶液補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
安定化剤としては、デキストラン40、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
等張化剤としては例えば、D−マンニトール、ソルビート等を挙げることができる。
保存剤としては例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
吸着防止剤としては例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
含硫還元剤としては例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
酸化防止剤としては例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてもよい。
本発明の線維芽細胞動員剤等は、注射剤(皮下、皮内、筋肉内、静脈内、腹腔内、など)として、または経皮、経粘膜、経鼻などの投与に適した剤形、又は経口投与に適した剤形(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、懸濁剤など)として投与することが可能である。本発明は投与経路や剤形などによって限定されるものではない。
本発明のG−CSFを有効成分とする線維芽細胞動員剤等の投与量、投与回数は対象の疾患患者の病状を配慮して当業者が適宜決定することができるが、通常、成人一人あたり0.1〜500μg/kg/day、好ましくは1〜50μg/kg/dayの用量でG−CSFを投与することができる。投与回数は一週間に1〜7日間投与することができる。しかし、本発明はヒトG−CSFの用量によって限定されるものではない。又、本発明の線維芽細胞動員剤等は、他の薬剤と併用してもよい。
[実施例1]
全骨髄移植
(1)骨髄移植モデルマウスの作製
8〜10週齢のC57BL/6マウス(CLEA、東京、日本)に、4×106V linear acceleratorを用いて致死量の放射線(850cGy)を全身に単回照射し、レシピエントマウスとして用いた。GFPトランスジェニックマウス(C57BL/6、10〜12週齢)(Okabe et al.,(1997)FEBS.Lett.407,313−319)の大腿骨及び頸骨より骨髄粗分画を採取し、5×106個の骨髄細胞をレシピエントマウスの尾静脈より移植した。
レシピエントの骨髄中にドナー由来のGFP陽性骨髄細胞がどの程度生着しているか(これを「キメラ率」という)を確認するため、骨髄移植後60日の末梢血有核細胞について、FACS Calibur(Becton Dickinson,San Jose,CA,USA)を用いて解析を行った。結果を図1に示す。対照マウスでは骨髄有核細胞中にGFPの発現は認められないが、骨髄移植マウスの細胞は97.8%がGFP陽性であった。キメラ率の多寡はドナー由来のGFP陽性細胞を定量化する上で重要な指標となる。本実験では、骨髄移植モデルマウスとして、末梢血細胞のキメラ率が平均95%以上のマウスを使用した。これは、骨髄由来細胞の創傷治癒への貢献を定量評価するに足る条件を満たしているものと考えられる。
図2に骨髄のサイトスピン標本を示す。DAPI染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。その結果、ほとんどの有核細胞(青色)が緑色に発色しており、骨髄細胞がGFP陽性であることが示された。
(2)心筋梗塞マウスに対するG−CSF投与の効果
骨髄移植の60日後、マウスに0.5%イソフルランガスを吸入麻酔し、開胸して左心室を露出させ、左冠動脈を結紮して心筋梗塞を作製した。心筋梗塞作製後24時間に、生理食塩水に溶解した組換えヒトG−CSF(中外製薬(株)製)(100又は300μg/kg/day)を1日1回、10日間連続してマウスに皮下投与した(G−CSF投与群)。対照群のマウスには生理食塩水のみを投与した。
生存率
G−CSF投与群(300μg/kg)及び対照群について生存率(n=68)を調べた(図3)。対照群の生存率は、心筋梗塞作製後60日で約60%であったが、G−CSF投与群の生存率は約90%であった。
形態観察
心筋梗塞作製後60日に、正常マウス並びに対照群及びG−CSF投与群のマウスについて、15MHz整相列トランスデューサーを備えたイメージポイント1500超音波診断装置(Philips Co.,USA)を用いて、経胸壁心エコー(Mモード心エコー)を行い、心筋梗塞巣の形態観察を行った。マウスは、ケタミン(30mg/kg)及びキシラジン(6mg/kg)で麻酔し、自発呼吸を維持させた。図4から明らかなように、対照群では、正常な左室と比較して、前壁部分の心筋が薄化し、無収縮であり、左室内径が拡大していた。これに対し、G−CSF投与群(100μg/kg)では、左室拡張末期経の拡大の程度が対照群に比して抑制されていた。また、左室前壁は低収縮であるものの、対照群と比較すると有意に改善していた。
心機能
心筋梗塞作製後60日に、対照群及びG−CSF投与群(100又は300μg/kg)のMモード画像より左室収縮末期内径(LVESD)及び拡張末期内径(LVEDD)を測定した(n=68)。また、拡張末期容量(EDV)及び収縮末期容量(ESV)をTeichholz法により計算した。左室駆出率(EF)は下式により計算した。
EF(%)=[(EDV−ESV)/EDV]×100
結果を、図5及び図6に示す。いずれもG−CSF投与群で心機能の著しい改善が観察された。
組織学的観察
(i)切片の作製
マウスをケタミン(30mg/kg)及びキシラジン(6mg/kg)で麻酔し、心臓をPBSで灌流し、PBSに溶解した4%パラホルムアルデヒドで灌流固定した。心臓を取り出し、これをOCT化合物(Miles Scientific,Naperville,IL,USA)中に包埋し、液体窒素で急速凍結した。包埋した心臓をスライスして切片を作製した。
(ii)アザン染色
心筋梗塞作製後60日に、対照群及びG−CSF投与群(300μg/kg)の心臓左心室短軸断面の凍結切片についてアザン染色を行った。結果を図7(a)に示す。対照群では左心室の径の拡大、梗塞巣の「ひ薄化」・伸展化が観察され、いわゆる心筋梗塞後のリモデリングが観察された。これに対し、G−CSF投与群では梗塞後のリモデリングは軽度であり、梗塞巣の「ひ薄化」・伸展化は軽減していた。すなわち、G−CSF投与により、心筋梗塞巣の組織が再生され、リモデリングが防止されたことが明らかとなった。
また、G−CSF投与群の切片を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、心筋梗塞巣にGFP陽性骨髄細胞が多数浸潤していることが示された(図7(b)、右図)。
(iii)免疫染色
凍結切片(6μm)をPBSで洗浄し、抗体を用いて4℃で一晩染色した。その後、PBSで3回洗浄し、TRITC(DAKO,Japan)結合2次抗体とともに4℃で4時間インキュベートした(赤色)。核はDAPI(Sigma Aldrich)で染色した(青色)。
共焦点レーザー顕微鏡(LSM410;Carl Zeiss,Jena,Germany)で心筋梗塞巣の観察を行った(図8)。非梗塞巣の切片は、抗α−アクチニン抗体(clone EA−53;Sigma Aldrich,Saint Louis,MO,USA)を用いて染色した。心筋細胞が赤く染色され、血管内にはGFP陽性細胞がわずかに残存していた(a)。対照群の梗塞巣では、わずかにGFP陽性細胞が観察されるのみであった(b)。これに対し、G−CSF投与群(300μg/kg)では梗塞巣に多数のGFP陽性細胞が観察された(c)。ドナーマウスとしてLac−Zトランスジェニックマウス(10〜12週齢:Jackson Laboratories,Bar Harbor,ME,USA)を用いて(c)と同様の実験を行うことにより、(c)の梗塞巣における緑色の蛍光が非特異的な蛍光でないことを確認した(d)。また、共焦点レーザー顕微鏡で撮影した画像をコンピュータに取り込み、NIHイメージで解析した。梗塞巣に存在する単位面積あたりの細胞数に対するGFP陽性細胞数を計算した。結果を図9に示す。G−CSF投与により、骨髄由来の細胞が心筋梗塞巣に遊走したことが明らかとなった。
次に、このGFP陽性細胞が如何なる細胞であるかを確認した。
図10に抗α−平滑筋アクチン抗体(clone 1A4;Sigma Aldrich)を用いて免疫染色を行った結果を示す。骨髄由来のGFP陽性細胞が赤く染色されており、平滑筋細胞に分化していることが明らかとなった。
次に、内皮細胞マーカーであるフォンビルブラント因子(vWF)について、抗vWF抗体(clone F8/86;DAKO)を用いて免疫染色を行った(図11)。GFPシグナルがvWFのシグナルに囲まれている領域が認められ、GFP陽性細胞は内皮細胞にも分化していることが明らかとなった。
さらに、抗α−アクチニン抗体を用いて、心筋細胞を免疫染色した(図12〜図14)。図12及び図13から明らかなように、GFP陽性細胞にアクチニン陽性シグナルが認められた。また、そのうちのいくつかには横紋が見られ、心筋細胞であることが示唆された。GFP陽性細胞により、完全な横紋をもつ心筋が再生された。図14は1μmごとにスライスした切片の写真である。骨髄由来のGFP陽性細胞が完全な心筋細胞を再生していることが示された。
心筋梗塞作製後60日に心筋梗塞巣に観察されたGFP陽性細胞中に占める、心筋細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞の比率を図15にまとめる。細胞数は以下のようにして求めた。心臓を心尖部、中部、基部に3分割し、各々のGFP陽性細胞の面積と組織の厚みより梗塞部組織の体積を算出した。単位面積当たりのGFP陽性細胞数を計測し、GFP陽性細胞密度を求めた。GFP陽性細胞密度と梗塞部体積より、梗塞部組織中のGFP陽性細胞の細胞数を算出した。80%以上の細胞は紡錘形をしており、造血細胞とは異なる形態をしていた。また、これらの細胞はCD45陰性、Mac−1陰性であった。すなわち、心筋梗塞巣に最も多く存在するのは線維芽細胞であることが示された。
[実施例2]
骨髄由来単一造血幹細胞の移植
GFPトランスジェニックマウスより骨髄を採取し、セルソーターでGFP陽性画分を分離後、c−kit陽性、Sca−1陽性、linage抗原陰性、CD34陰性の造血幹細胞を回収した。このうちの細胞1個と、別の正常ドナーマウスから採取した骨髄粗分画の5×106個の細胞とを、致死量放射線を照射したレシピエントマウスに骨髄移植した。3ヶ月後、骨髄におけるGFP陽性細胞の生着率を確認した。麻酔開胸後、左冠動脈を結紮して心筋梗塞を作製した。その後、G−CSF(300μg/kg)を10日間皮下投与した。G−CSF投与後10日における末梢血有核細胞数は、全骨髄移植群と単一造血幹細胞移植群で共に約30,000ぐらいであり、差は見られなかった(図16)。
単一造血幹細胞移植群(直線)と全骨髄移植群(点線)について、G−CSF投与(四角)及び非投与(丸)の場合における生存率を調べた(図17)。全骨髄移植群のみならず、単一造血幹細胞移植群においても、G−CSF投与により、有意に生存率が改善された。
次に、実施例1と同様の方法により単一造血幹細胞移植群の心筋梗塞巣の切片を作製し、抗ビメンチン抗体(PROGEN BIOTECHNIK GMBH社製、Cat.No.GP53)を用いて免疫染色を行った。図18から明らかなように、心筋梗塞巣においてGFP陽性細胞の存在が認められた。1個のGFP陽性造血幹細胞が心筋梗塞巣において生着していることが明らかとなった。また、抗ビメンチン抗体で染色されていることから、線維芽細胞への分化が認められた。
さらに、単一造血幹細胞移植群と全骨髄移植群について、G−CSF投与及び非投与の場合におけるGFP陽性細胞数を実施例1と同様にして測定した(図19)。全骨髄移植群のみならず、単一造血幹細胞移植群においても、G−CSF投与により有意にGFP陽性細胞数が増加していた。
単一造血幹細胞移植群にG−CSF投与した場合の左心室切片について抗心筋アクチニン抗体を用いて免疫染色を行った(図20)。GFP陽性細胞がアクチニン陽性となっており、心筋細胞に分化していることが示された。
上記実施例1及び2において、数値は平均±SEMで示した。平均値間の有意差はANOVAにより算出した。対照群とG−CSF投与群との比較は、log−rank検定又はノンパラメトリックなFisherの多重比較検定で行った。p<0.05を有意とした。
[実施例3]
致死量の放射線照射を行った8〜10週齢のC57BL/6マウスに、CAG−EGFPマウス(Okabe M.et al.,FEBS Lett.1997,407:313−319)の骨髄から採取した全骨髄細胞(w−BM)、又はc−kit陽性、Sca−1陽性、lineage抗原陰性の単一集団細胞(KSL−SP)を尾静脈より移植した。8週間後、左冠動脈の結紮によりマウスに心筋梗塞(MI)を作製した。MI作製後24時間に、生理食塩水(G−CSF(−))又は300μg/kg/dayのG−CSF(G−CSF(+))を1日1回、10日間連続してマウスに皮下投与した。MI作製後8週に、マウスを解剖し、心臓を免疫組織学的に解析した。各マウス群(n=10)あたり100サンプル標本について、梗塞巣のGFP陽性細胞、GFP陽性ビメンチン陽性細胞、及びGFP陽性アクチニン陽性細胞を計測した。GFP陽性細胞の平均値を表1に示す。
w−BM群ではビメンチン陽性細胞(線維芽細胞)とアクチン陽性細胞(心筋細胞)が全骨髄から再生されたが、KSL−SP群では線維芽細胞のみが再生された。この結果は、造血幹細胞からは心筋細胞が再生されないことを示唆している。心筋細胞の再生は間葉系幹細胞からの分化によると考えられる。
次にG−CSFの効果をみると、w−BM群では線維芽細胞及び心筋細胞を動員した。KSL−SP群では線維芽細胞を動員させたが、心筋細胞はわずか3細胞のみが観察された。この心筋細胞はおそらく再生されたものではなく、細胞融合の結果であると思われる。
いずれの群でも、図17に示すように、G−CSF投与によって生存率が改善している。これらの効果には、w−BM群では線維芽細胞及び心筋細胞の動員が寄与しており、KSL−SP群では線維芽細胞の動員が寄与している。特に、線維芽細胞の増加は心筋梗塞部位の創傷治癒に働き、死亡率との相関が知られているリモデリングの抑制を促進するものとして重要である。
本発明の線維芽細胞動員剤を用いることにより、わずかな骨髄由来細胞を遊走させるだけで、線維芽細胞を移植することなく心筋梗塞巣などの組織を再生し、生存率を向上させることが可能である。また、本発明の創傷治療剤を用いることにより、創傷部位の強固な治癒が可能である。

Claims (5)

  1. 顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を有効成分として含み、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる1以上の成分を更に含んでなり、骨髄由来の線維芽細胞を心筋梗塞の梗塞巣へ動員するために用いる、線維芽細胞動員剤であって、
    前記G−CSFは100〜500μg/kg/dayで投与される、前記線維芽細胞動員剤
  2. 創傷した組織に骨髄由来の線維芽細胞を動員することを特徴とする請求項1に記載の繊維芽細胞動員剤。
  3. 顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を有効成分として含み、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる1以上の成分を更に含んでなり、骨髄由来の線維芽細胞を心筋梗塞の梗塞巣へ生着させるために用いる、線維芽細胞生着剤であって、
    前記G−CSFは100〜500μg/kg/dayで投与される、前記線維芽細胞生着剤
  4. 骨髄由来の線維芽細胞を心筋梗塞の梗塞巣へ動員させるために用いる線維芽細胞動員剤の製造における、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の使用であって、
    前記動員剤は、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる1以上の成分を更に含んでなそして
    前記G−CSFは100〜500μg/kg/dayで投与される、
    前記使用。
  5. 骨髄由来の線維芽細胞を心筋梗塞の梗塞巣へ生着させるために用いる線維芽細胞生着剤の製造における、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の使用であって、
    前記生着剤は、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる1以上の成分を更に含んでなそして
    前記G−CSFは100〜500μg/kg/dayで投与される、
    前記使用。
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