しかしながら、特許文献1のようなラインヘッドは、個々のヘッドモジュール間を封止固定したり穴埋めしたりすることで、ヘッドモジュール間の隙間内部にインクが侵入するのを防ぐので、個々のヘッドモジュールが交換可能な構成ではない。
ところで、複数のヘッドモジュールを繋ぎ合わせたラインヘッドは、ヘッドモジュール間の隙間が小さいほど液体は毛細管現象によって、より奥深く侵入していく現象が生じる。なお、この毛細管力による液面の上昇高さh(m)は、以下の公式で与えられる。
[但し、T=表面張力(N/m)、θ=接触角、ρ=液体の密度(kg/m3)、g=重力加速度(m/s2)、r=管の内径(半径)(m)]
上記式から分かるように、液体の表面張力Tが高いほど毛細管力による液侵入が顕著になる。特に、液体として表面張力の高い水系インクを用いる場合には、水系インクの表面張力は40mN/m程度であり、一般の溶剤系インクの20mN/mよりも表面張力が高く、毛細管現象が生じ易い。
また、上記式から分かるように、この毛細管現象を抑制するためには、接触角θを高くする(cosθを小さくする)ことが有効である。即ち、ヘッドモジュール間の隙間のヘッドモジュール側面に特許文献2のような撥水処理を施すことで毛細管現象を抑制することができる。
しかしながら、隙間のヘッドモジュール側面に撥水処理を施すためには、ヘッドモジュール間には、ある程度の距離が必要である。しかし、ヘッドモジュール間の隙間が大きいと、ラインヘッドにおける印字抜けの原因となる。よって、隙間部を補正するように、ノズル配置を平行四辺形にする、ヘッドモジュールの配置を千鳥配置とすることが行われているが、千鳥配置とした場合は、ラインヘッドの記録媒体の紙送り方向の幅が大きくなるので、システムの大型化に繋がっていた。
このように、ヘッドモジュール間の隙間は狭くする必要があるが、ヘッドモジュール間の隙間を狭くするためには、ヘッドモジュール側面に厚塗り表面処理を行うことができなかった。特に、高画質な高密度ノズルを有するヘッドにおいては、モジュール間の間隔が狭いため、表面処理により形成される膜厚にも制限があった。
そして、ヘッドモジュール側面はノズル面と同様にインクやノズル洗浄液などのアルカリ液体に常に曝される環境であるので、インクやノズル洗浄液に対する化学的耐久性が重要となり、特にヘッドモジュール側面の撥水膜においては、ノズル面側片端から浸漬化学的攻撃を受けることになる。従って、ノズル面側近傍の側面の撥水材料は化学的耐久性が特に必要となる。
また、ヘッドモジュール側面の撥水膜の膜厚を均一に厚くすると、隣接するヘッドモジュールの距離が近いため、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜同士が接触してしまい、ヘッドモジュール側面の撥水膜が引きずられて剥がれてしまうなど支障が生じる。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッド、画像形成装置および液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は前記目的を達成するために、液体を吐出する複数のノズルが配置されたノズル面を有するヘッドモジュールを複数連続して繋ぎ合わせた液体吐出ヘッドであって、隣り合うヘッドモジュールと隙間を介して対向するヘッドモジュールの側面には、撥水膜を有し、側面の撥水膜は、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されている液体吐出ヘッドを提供する。
本発明によれば、ヘッドモジュールを複数繋ぎ合わせた液体吐出ヘッドの、各ヘッドモジュールの側面は撥水膜を有しており、側面の撥水膜は、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されているので、毛細管現象を抑制することができ、ヘッドモジュール同士の隙間に液体が入り込むことを防止することができる。したがって、ヘッドモジュール同士の隙間から液体が垂れ流れたり、隙間に入った液体が乾燥し、固まった固形物がワイプ時などに出てきてノズル詰まりを起こしたりすることを防止することができる。
また、本発明によれば、側面の撥水膜は、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されているので、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性が向上されている。
更に、本発明によれば、側面の撥水膜は、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されているので、ヘッドモジュール交換時には、ヘッドモジュール側面の撥水膜同士が接触することが抑制される。
したがって、本発明によれば、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッドを提供することができる。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドは、ヘッドモジュールの隙間は200μm以下であることが好ましい。
本発明は、200μm以下という非常に狭い隙間のときに特に有効である。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドは、撥水膜の最大膜厚は、20μm以下であることが好ましい。
撥水膜の最大膜厚が20μm以下であれば、ヘッドモジュール交換時におけるヘッドモジュール側面の撥水膜同士の接触を好適に抑制することができる。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドは、撥水膜は、前記側面の全面に形成されていることが好ましい。
一般的に、ヘッドモジュール側面のノズル面近傍側に部分的に撥水処理をすると、隙間に入り込んだ液体は毛細管力により吸い上げられ、撥水処理されていないヘッドモジュール側面の親水部に液体が溜まってしまう。また、撥水面の近傍に親水面があると、撥水部に侵入した液体は一般的に親水部に移動しやすい。したがって、毛細管力による液体の吸い上げをより抑制するために、側面全面に撥水処理を施しておくことが好ましい。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドは、液体は、水を主溶媒とする水系インクであることが好ましい。
水を主溶媒とする水系インクは、表面張力が高く、毛細管現象が生じ易い。本発明は、表面張力が高い水系インクを用いるときに特に有効である。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドは、ヘッドモジュールが水平面に対して傾いて設置される液体吐出ヘッドであって、側面の撥水膜は、傾きで下側になる方が厚く、傾きで上側になるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されていることが好ましい。
ヘッドモジュールは傾けて使用されるケースが多く、この場合傾き下側のノズル面に液体は付着滞留しやすい。それに伴い、ワイプによるメンテナンス実施時等にヘッドモジュール間隙間に入り込む液体量も、傾き下側の側面側が相対的に多くなる。よって、傾き下側の撥水膜が相対的に高い化学的耐久性が必要となる。したがって、傾きで下側になる方が傾きで上側になる方よりも膜厚が段階的又は連続的に厚く形成されていることで、化学的耐久性をより向上させることができる。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドは、撥水膜の表面粗さRaは、10nm以下であることが好ましい。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドによれば、撥水膜の表面粗さRaが10nm以下であるので、撥水性の良好な膜を形成することができる。また、撥水膜の表面粗さRaを上記範囲とすることにより、例えば、霧状の液体などが、ヘッドモジュール間の隙間に入り込んだとしても、表面粗さが低いので、動的撥水性(滑落性)を向上させることができるので、撥水膜上の液体を流れ易くすることができる。したがって、ヘッドモジュール間に液体が入り込むことを防止することができる。
本発明は前記目的を達成するために、本発明の態様に係る液体吐出ヘッドを備える画像形成装置を提供する。
本発明の画像形成装置によれば、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない画像形成装置を提供することができる。
本発明は前記目的を達成するために、液体を吐出する複数のノズルが配置されたノズル面を有するヘッドモジュールを複数連続して繋ぎ合わせた液体吐出ヘッドの製造方法であって、隣り合うヘッドモジュールと隙間を介して対向するヘッドモジュールの側面に、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く撥水材料を塗布する工程と、撥水材料を乾燥し撥水膜を形成する工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
本発明によれば、隣り合うヘッドモジュールと隙間を介して対向するヘッドモジュールの側面に、撥水膜を有し、側面の撥水膜は、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚を段階的又は連続的に薄く形成されている液体吐出ヘッドを製造することができる。したがって、本発明によれば、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、塗布する工程において、ノズル面側から離れるに従って膜厚を段階的に薄く撥水材料を塗布するときは、ディスペンサーの塗布回数を段階的に変化させて撥水材料を塗布することが好ましい。
ディスペンサーの塗布回数を段階的に変化させて撥水材料を塗布することで、ノズル面側から離れるに従って膜厚を段階的に薄く撥水材料を塗布することができる。したがって、本発明によれば、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
本発明の他の態様に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、塗布する工程において、ノズル面側から離れるに従って膜厚を連続的に薄く撥水材料を塗布するときは、ディスペンサーの塗布速度を徐々に変化させて撥水材料を塗布することが好ましい。
ディスペンサーの塗布速度を徐々に変化させて撥水材料を塗布することで、ノズル面側から離れるに従って膜厚を連続的に薄く撥水材料を塗布することができる。したがって、本発明によれば、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
本発明の液体吐出ヘッド、画像形成装置、液体吐出ヘッドの製造方法によれば、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッド、画像形成装置、液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
以下、添付図面に従って本発明に係る液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。なお、以下では、液体吐出ヘッドの一例として、インクジェットヘッドについて説明する。また、このインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置について説明する。
≪インクジェット記録装置の全体構成≫
まず、インクジェット記録装置の全体構成について説明する。図1は、インクジェット記録装置の全体構成を示した構成図である。
このインクジェット記録装置10は、描画部16の圧胴(描画ドラム70)に保持された記録媒体24(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド72M、72K、72C、72Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体24上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体24上に画像形成を行なう2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
図示のように、インクジェット記録装置10は、主として、給紙部12、処理液付与部14、描画部16、乾燥部18、定着部20、および排出部22を備えて構成される。
(給紙部)
給紙部12は、記録媒体24を処理液付与部14に供給する機構であり、当該給紙部12には、枚葉紙である記録媒体24が積層されている。給紙部12には、給紙トレイ50が設けられ、この給紙トレイ50から記録媒体24が一枚ずつ処理液付与部14に給紙される。
本例のインクジェット記録装置10では、記録媒体24として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体24を使用することができる。給紙部12において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ50に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体24として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
(処理液付与部)
処理液付与部14は、記録媒体24の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部16で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
図1に示すように、処理液付与部14は、給紙胴52、処理液ドラム54、および処理液塗布装置56を備えている。処理液ドラム54は、記録媒体24を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム54は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)55を備え、この保持手段55の爪と処理液ドラム54の周面の間に記録媒体24を挟み込むことによって記録媒体24の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム54は、その外周面に吸着穴を設けるとともに、吸着穴から吸引を行なう吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体24を処理液ドラム54の周面に密着保持することができる。
処理液ドラム54の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置56が設けられる。処理液塗布装置56は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム54上の記録媒体24に圧接されて計量後の処理液を記録媒体24に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置56によれば、処理液を計量しながら記録媒体24に塗布することができる。
処理液付与部14で処理液が付与された記録媒体24は、処理液ドラム54から中間搬送部26を介して描画部16の描画ドラム70へ受け渡される。
(描画部)
描画部16は、描画ドラム(第2の搬送体)70、用紙抑えローラ74、およびインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yを備えている。描画ドラム70は、処理液ドラム54と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)71を備える。描画ドラム70に固定された記録媒体24は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yからインクが付与される。
インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yはそれぞれ、記録媒体24における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yは、記録媒体24の搬送方向(描画ドラム70の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
描画ドラム70上に密着保持された記録媒体24の記録面に向かって各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部14で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体24上での色材流れなどが防止され、記録媒体24の記録面に画像が形成される。
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
描画部16で画像が形成された記録媒体24は、描画ドラム70から中間搬送部28を介して乾燥部18の乾燥ドラム76へ受け渡される。
(乾燥部)
乾燥部18は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図1に示すように、乾燥ドラム76、および溶媒乾燥装置78を備えている。
乾燥ドラム76は、処理液ドラム54と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)77を備え、この保持手段77によって記録媒体24の先端を保持できるようになっている。
溶媒乾燥装置78は、乾燥ドラム76の外周面に対向する位置に配置され、複数のIRヒータ82と、各IRヒータ82の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル80とで構成される。
各温風噴出しノズル80から記録媒体24に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各IRヒータ82の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
また、乾燥ドラム76の表面温度は50℃以上に設定されている。記録媒体24の裏面から加熱を行なうことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。なお、乾燥ドラム76の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム76の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
乾燥ドラム76の外周面に、記録媒体24の記録面が外側を向くように(即ち、記録媒体24の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体24のシワや浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
乾燥部18で乾燥処理が行なわれた記録媒体24は、乾燥ドラム76から中間搬送部30を介して定着部20の定着ドラム84へ受け渡される。
(定着部)
定着部20は、定着ドラム84、ハロゲンヒータ86、定着ローラ88、およびインラインセンサ90で構成される。定着ドラム84は、処理液ドラム54と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)85を備え、この保持手段85によって記録媒体24の先端を保持できるようになっている。
定着ドラム84の回転により、記録媒体24は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ86による予備加熱と、定着ローラ88による定着処理と、インラインセンサ90による検査が行なわれる。
ハロゲンヒータ86は、所定の温度(例えば、180℃)に制御される。これにより、記録媒体24の予備加熱が行なわれる。
定着ローラ88は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体24を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ88は、定着ドラム84に対して圧接するように配置されており、定着ドラム84との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体24は、定着ローラ88と定着ドラム84との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行なわれる。
また、定着ローラ88は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(たとえば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体24を加熱することによって、インクに含まれる熱可塑性樹脂微粒子のTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、熱可塑性樹脂微粒子が溶融される。これにより、記録媒体24の凹凸に押し込み定着が行なわれるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
なお、図1の実施形態では、定着ローラ88を1つだけ設けた構成となっているが、画像層厚みや熱可塑性樹脂微粒子のTg特性に応じて、複数段設けた構成でもよい。
一方、インラインセンサ90は、記録媒体24に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
上記の如く構成された定着部20によれば、乾燥部18で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ88によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体24に固定定着させることができる。また、定着ドラム84の表面温度を50℃以上に設定することで、定着ドラム84の外周面に保持された記録媒体24を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
(排出部)
図1に示すように、定着部20に続いて排出部22が設けられている。排出部22は、排出トレイ92を備えており、この排出トレイ92と定着部20の定着ドラム84との間に、これらに対接するように渡し胴94、搬送ベルト96、張架ローラ98が設けられている。記録媒体24は、渡し胴94により搬送ベルト96に送られ、排出トレイ92に排出される。
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置10には、上記構成の他、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部14に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行なうヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体24の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
〔インクジェットヘッドの構成〕
図2に、インクジェットヘッドの斜視図を示す。図2では、インクジェットヘッド72の下方(斜め下方向)から吐出面を見上げた様子が図示されている。このインクジェットヘッド72は、インクジェット記録装置の描画部に設置されるプリントヘッドであり、複数個のヘッドモジュール72−iを用紙幅方向に並べて繋ぎ合わせて長尺化したフルライン型のバーヘッド(シングルパス印字方式のページワイドヘッド)となっている。ここでは17個のヘッドモジュール72−iを繋ぎ合わせた例を示しているが、モジュールの構成、モジュールの個数及び配列形態については、図示の例に限定されない。符号104は、複数のヘッドモジュール72−iを固定するための枠体となるハウジング(バー状のラインヘッドを構成するためのハウジング)、符号106は、各ヘッドモジュール72−iに接続されたフレキシブル基板である。
図3は、ヘッド72の構造例を示す平面図であり、ヘッド72をノズル面72A側から見た図である。また、図4は図3の一部拡大図である。
図3に示すように、ヘッド72はn個のヘッドモジュール72−i(i=1,2,3,…,n)を長手方向(記録媒体24(図1参照)の搬送方向と直交する方向)に沿ってつなぎ合わせた構造を有し、記録媒体の全幅に対応する長さにわたって複数のノズル(図3中不図示)が設けられている。
各ヘッドモジュール72−iは、ヘッド72における短手方向の両側からヘッドモジュール支持部材72Bによって支持されている。また、ヘッド72の長手方向における両端部はヘッド支持部材72Dによって支持されている。
図4に示すように、各ヘッドモジュール72−i(n番目のヘッドモジュール72−n)は、複数のノズルがマトリクス状に配列された構造を有している。図4において符号151Aを付して図示した斜めの実線は、複数のノズルが一列に並べられたノズル列を表している。
図5(a)は、ヘッドモジュール72−iの平面透視図であり、図5(b)はその一部の拡大図である。
記録媒体24上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド72におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッドモジュール72−iは、図5(a)、(b)に示すように、インク吐出口であるノズル151と、各ノズル151に対応する圧力室152等からなる複数のインク室ユニット(記録素子単位としての液滴吐出素子)153を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(記録媒体24の搬送方向と直交する方向;主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
各ノズル151に対応して設けられている圧力室152は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部の一方にノズル151が設けられ、他方に供給口154が設けられている。なお、圧力室152の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
かかる構造を有するインク室ユニット153を図5(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向および主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット153を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル151が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
<ヘッドモジュール側面の構成>
次にヘッドモジュール側面の構成について説明する。図6は、ヘッドモジュールの断面図であり、図7は側面の斜視図である。
図6に示すように、隣り合うヘッドモジュールと対向する側面202は撥水膜204が形成されている。なお、本発明において「撥水膜」とは、水の静的接触角が60°以上の膜のことである。
撥水膜の成膜方法は、特に限定されず、撥水材料を塗布、乾燥することで成膜することができる。具体的には、後述する方法で成膜を行うことができる。
撥水膜の材料としては、フルオロカーボン系の撥水材料を用いることができる。
撥水膜の膜厚は、ヘッドモジュール72−i間の距離により決定される。
ヘッドモジュール72−i間の距離が大きくなると、隙間部を補正するようにノズルを配置しなくてはならないため、許容できるヘッドモジュール間距離は、ノズル間距離の2/3以下である。例えば、1200dpiの高密度ヘッドの場合、最低ノズル間距離は、300μmであるため、許容できるモジュール間距離は200μm以下であり、100μm以下とすることが好ましい。
したがって、撥水膜は、100μmより更に薄いことが好ましく、ヘッドモジュールの両側に形成されるため、モジュール間距離の1/2以下である50μm以下とすることが好ましく、1/5以下である20μm以下とすることがさらに好ましい。
そして、ヘッドモジュール72−iの側面202の撥水膜204は、ノズル面72A側の膜厚が厚く、ノズル面72A側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されている。なお、図6及び図7では、ノズル面72A側の膜厚が厚く、ノズル面72A側から離れるに従って膜厚を連続的に薄く撥水膜204を形成したものを示している。
図6から分かるように、ノズル面72A側の膜厚が厚く、ノズル面72A側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く撥水膜204が形成されていることで、ヘッドモジュール同士の隙間160はノズル面72A側から段階的又は連続的に広がっている。
ヘッドモジュール同士の隙間160はノズル面72A側から段階的又は連続的に広がっていることで、毛細管現象を抑制することができ、ヘッドモジュール同士の隙間に液体が入り込むことを防止することができる。したがって、ヘッドモジュール同士の隙間から液体が垂れ流れたり、隙間に入った液体が乾燥し、固まった固形物がワイプ時などに出てきてノズル詰まりを起こしたりすることを防止することができる。
そして、撥水膜204は、ノズル面72A側の膜厚が厚く形成されているので、ノズル面側近傍のインクやノズル洗浄液に対する化学的耐久性は確保されている。
また、撥水膜204は、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されていることで、ヘッドモジュール交換時には、ヘッドモジュール側面の撥水膜同士が接触することが抑制される。
したがって、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッドを提供することができる。
なお、図6及び図7では、図8(a)のように、ノズル面72A側の膜厚が厚く、ノズル面72A側から離れるに従って膜厚を連続的に薄く撥水膜204を形成したものを示したが、図8(b)及び図8(c)のように、ノズル面72A側の膜厚が厚く、ノズル面72A側から離れるに従って膜厚を段階的に薄く撥水膜304(404)を形成したものであっても、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止するとともに、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性を向上し、ヘッドモジュール交換時にヘッドモジュール側面の撥水膜に支障が生じることのない液体吐出ヘッドを提供することができる。
なお、ここで、図8(b)の撥水膜304は2段階であり、図8(c)の撥水膜404は5段階であるものを示したが、撥水膜は2段階以上でノズル面72A側の膜厚が厚く、 ノズル面72A側から離れるに従って膜厚が段階的に薄く形成されていれば良い。
そして、撥水膜204(304,404)は、ヘッドモジュール側面202の全面に形成されていることが好ましい。
一般的に、ヘッドモジュール側面のノズル面近傍側に部分的に撥水処理をすると、隙間に入り込んだ液体は毛細管力により吸い上げられ、撥水処理されていないヘッドモジュール側面の親水部に液体が溜まってしまう。また、撥水面の近傍に親水面があると、撥水部に侵入した液体は一般的に親水部に移動しやすい。したがって、毛細管力による液体の吸い上げをより抑制するために、側面全面に撥水処理を施しておくことが好ましい。
また、撥水膜204(304,404)の表面粗さRaは、10nm以下であることが好ましい。
撥水膜の表面粗さRaが10nm以下であるので、撥水性の良好な膜を形成することができる。また、撥水膜の表面粗さRaを上記範囲とすることにより、例えば、霧状の液体などが、ヘッドモジュール間の隙間に入り込んだとしても、表面粗さが低いので、動的撥水性(滑落性)を向上させることができるので、撥水膜上の液体を流れ易くすることができる。したがって、ヘッドモジュール間に液体が入り込むことを防止することができる。
更に、図9においてヘッドモジュールの側面図を示すように、ヘッドモジュール72−iが水平面に対して傾いて設置される場合には、傾きで下側になる方が厚く、傾きで上側になるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されていることが好ましい。
ヘッドモジュール72−iは傾けて使用されるケースが多く、この場合傾き下側のノズル面に液体210は付着滞留しやすい。それに伴い、ワイプによるメンテナンス実施時等にヘッドモジュール間隙間に入り込む液体量も、傾き下側の側面側が相対的に多くなる。よって、傾き下側の撥水膜が相対的に高い化学的耐久性が必要となる。したがって、傾きで下側になる方が厚く、傾きで上側になるに従って膜厚が段階的又は連続的に薄く形成されていることで、化学的耐久性をより向上させることができる。
<撥水膜の成膜方法>
次に撥水膜の成膜方法について説明する。なお、以下に記載の製造方法は一例であり、本発明はこれに限定されない。撥水膜は上述したように、ノズル面72A側の膜厚が厚く、ノズル面72A側から離れるに従って膜厚を段階的又は連続的に薄く形成する。
ヘッドモジュールとしては、例えば、高密度ノズル、高密度流路構造のノズルプレートがあり、さらに高密度圧電体および駆動用電極配線が形成された基板が隣接して配置されたシリコン基板にエポキシ樹脂材料による流路部材が接着されたヘッド筐体からなるヘッドモジュールを使用する。このヘッドモジュールに、例えば、以下の材料、方法により、側面への撥水処理を行うことができる。
撥水材料としては、シランカップリング型フルオロカーボン系撥水剤(商品名ダイキン製オプツール、エフトーン、Harves製デュラサーフなど)を用いることができる。本ディスペンサーは、テフロン(登録商標)チューブを外部からローラ押し圧かけることで、液体を順次送り出すことができる。したがって、低粘度の液体を塗布する場合に、液量の制御を容易に行うことができる。
本ディスペンサーで塗布する際は、チューブ先端をヘッドモジュール側面に近接配置し、液滴面の先端部が常にヘッドモジュール側面に接触させながら、チューブを移動させていく。これにより、撥水材料を均一に塗布することができる。
なお、最大膜厚の狙いとしてはモジュール間隙間の12.5%(隣接モジュールとの膜厚合計値でヘッドモジュール間隙間の25%)を最大値と設定した。これ以上膜厚が厚くなるとモジュール交換時に対面するヘッドの側面部と接触してダメージを与える。塗布膜厚は、例えば、ヘッドの隙間仕様を150μmと想定した場合、目標塗布膜厚はMax20μm以下と設定する。
撥水膜を形成するには、例えば、下記のようにすることができる。
[A.多段膜厚の形成]
塗布する回数を段階的に変化させることで多段膜厚制御を行う。
例えば、最もノズル面に近い辺は10回塗りを行い、ノズル面から遠い辺になるほど塗布回数を低減して行く。使用する材料により塗布回数は変化するが、ダイキン製オプツールの場合、20回塗りでの膜厚は0.7μm程度である。なお、複数回塗布する場合は、塗布間で乾燥を行うが、室温での乾燥時間は数分程度とする。塗布回数を20、15、10、5回と4水準で徐々にノズル面から遠ざかるほど塗布回数を少なくする。側面を塗布した後に、完全な乾燥固定のために室温大気中放置で24時間放置する。なお、このように撥水膜を形成した場合、放置後に水による静的接触角評価と滑落性評価を行うと、ダイキン製オプツールでは接触角が100°、滑落角が30°であった。
[B.単段膜厚の形成]
多段膜厚の制御と同様に、塗布回数を2水準で制御することで単段膜厚の制御を行う。
例えば、最もノズル面に近い辺とそこから2ライン目のみ20回積層塗布を行い、それ以降は5回塗布とする。なお、多段膜厚の制御に比べて塗布時間の低減効果がある。
[C.傾斜膜厚の形成]
ディスペンサーの塗布速度を徐々に変化することで無段階傾斜膜厚の制御を行う。
例えば、ノズル面に近い辺側はv=0.5mm/secの塗布速度とし、ノズル面から離れるに従い1辺あたりΔv=3mm/sec増加させる。10ライン塗布の場合は、0.5mm/secから徐々に増加して27.5mm/secが最大塗布速度となる。なお、膜厚は、最大部で約0.3μm程度であった。
なお、ヘッドモジュールが斜めに使用されることを想定して、傾き下側且つノズル面側が最も膜厚が厚くなるよう塗布することもできる。この場合は、同一ライン上でも塗布速度を変化させることでライン上の膜厚を傾斜変化させることができる。例えば、傾き下側に相当する側面側で且つノズル面に近い側をv=0.1mm/secから塗布を開始し、徐々に塗布速度を上げて行く。塗布は隣接ラインで逆方向走査となるため、折り返し点で速度変化が逆方向になるように塗布速度のプログラミングを行う。
ヘッドモジュールを連接した簡易ラインヘッドを試作して、水系顔料インクの浸漬による耐久評価試験を行った。モジュールは4個連接してモジュール間の隙間は150μmとなるように調整した。
この連接モジュールのノズル面にインクが浸漬するようにして浸漬放置した。なお、インクの温度は60℃とした。そして、インクは一定時間おきに補充し、常にインクがノズル面に浸っている状態を保持した。また、インクを循環して常に一定量がノズル面に浸漬するような方法も試験した。
(サンプル1)
側面に撥水処理がないヘッドモジュールで上記の簡易ラインヘッドを試作した。
(サンプル2)
側面の撥水膜の厚み制御をしていない、膜厚約0.1μmの単層膜が形成されたヘッドモジュールで上記の簡易ラインヘッドを試作した。
(サンプル3)
ダイキン製オプツールで上記に記載した[A.多段膜厚の形成]の方法により多段膜が形成されたヘッドモジュールで上記の簡易ラインヘッドを試作した。
(サンプル4)
Harves製デュラサーフを用いて膜厚20μm以上の圧膜形成したヘッドモジュールで上記の簡易ラインヘッドを試作した。
[評価及び結果]
まずヘッドモジュールを並べてラインヘッドを試作する時にサンプル1〜3は特に問題なくラインヘッド化を進めることができたが、膜厚の厚いサンプル4は隣接モジュールに近接配置するハンドリング時に隣接モジュールと接触して双方の撥水面にキズもしくは擦れ跡が生じる事態が散発した。接触痕の観察は顕微鏡により行った。接触痕の部分には形状効果でその後インクが入りやすく、膜厚が薄いもしくは撥水膜がないことで加速度的に優先的に周囲の撥水劣化を引き起こす。実用上においてはこのモジュール交換作業はユーザーにて行うことが前提となるため、隣接モジュールに接触しやすいサンプル4の形態は設計仕様上実用性少なく、採用は厳しいと判断した。
インクの浸漬時間に対して隙間へのインクの侵入具合を目視観察したところ、側面撥水処理がないサンプル1では50時間浸漬の時点ですでに隙間へのインクの侵入が確認された。そして、単層膜が形成されたサンプル2の隙間には150時間浸漬の時点で隙間へのインクの侵入が確認された。また、多段膜が形成されたサンプル3は500時間浸漬の時点までインクの侵入が確認されなかった。
なお、この試験の際、目視による確認だけでなく、側面に設けられた撥水膜の水による静的接触角(単位 °)を測定している。測定は、ノズル面に近い側の側面とした。測定結果を下記の表に示す。
上記試験結果により、ノズル面側の膜厚が厚く、ノズル面側から離れるに従って膜厚が段階的に薄く形成されている撥水膜をヘッドモジュールの側面に形成することで、ヘッドモジュール間の隙間への液体の入り込みを防止することができ、ノズル面側近傍の側面の撥水膜の化学的耐久性が向上することができることが分かる。
次にヘッドモジュールが傾いて使用された場合の実施例を記載する。ヘッドモジュールはインクジェットヘッド記録装置内で描画ドラムの接線方向と平行にノズル面が近接するように配置するため、ヘッドモジュールはおのずと傾いて使用される。ヘッドモジュールが傾いた状態で印字動作を行うと、ノズルから吐出したインクは重力作用でノズル面から傾き下側に流れ出し、おのずと傾き下側のヘッドモジュール側面に相対的にインクが接することが確認された。ヘッドモジュールが傾いた状態で印字動作を続けたところ、上記サンプル2と同様な膜厚約0.1μmの単層膜が側面に形成されたヘッドモジュールでは経時で傾き下側の側面から撥水性が劣化していくことが確認された。撥水性の劣化はインクの濡れ方で判断した。環境温度は室温で経時時間として約10ヶ月で撥水性が傾き下側で劣化してインクの濡れ広がりが見受けられ、かつインクが流れにくく付着したままの状態となることが確認された(撥水性が低下するとインクが濡れ広がり、かつ流れにくい)。この結果をふまえ、ヘッドモジュールの側面の傾き下側の部分の膜厚を厚くして上記サンプル3同様な傾斜膜厚処理を施したところ、同様の10ヶ月でも側面撥水性の劣化が生じていないことが確認された。
傾きは約10°の場合と約25°の場合の2種で検証し、双方の傾き角度で同様の効果が確認された。