JP5888653B2 - 溶存イオン分析用前処理デバイス及び溶存イオン分析システム - Google Patents
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Description
試料溶液中の溶存イオンは、イオンクロマトグラフ等の分析装置によって測定することができるが、最低でもフィルタリングによる試料溶液中の微粒子除去が必要とされる。さらにタンパク質や脂質を含む試料溶液ではこれらを除去する必要もある。例えば、牛乳中の微量イオン(過塩素酸イオンなど)の測定では、遠心分離によるタンパク質除去に加え、アルミナカラムよる有機化合物の吸着除去あるいは、紫外線による有機物の分解が必要であり、1つの試料溶液の分析に数時間も要している。
また、試料溶液に含まれる測定対象となる溶存イオンが微量な場合などには、測定精度を高めるため、試料溶液から測定対象となる溶存イオンを選択的に抽出液(通常水)中に抽出することが求められている。
この方法では、拡散透析膜を挟んで、2つの流路が設けられており、一方の流路に試料溶液を供給し、他方の流路には抽出液(通常水)を供給する。試料溶液に含まれる溶存イオンは濃度拡散によって拡散透析膜を介して抽出液側に移動する。
また、分析機器によっては測定対象の溶存イオンの濃度が高すぎると測定精度が低下する場合がある。一方、本発明の前処理デバイスでは、抽出液流量の制御することにより、測定対象の溶存イオンの濃度が高い試料溶液では希釈して排出することが可能である。そのため、試料溶液中の溶存イオン濃度が低濃度である場合にも、高濃度である場合にも、分析機器に適した濃度の溶存イオンを含む抽出液を排出することができ、迅速で、高精度な測定を行うことができる。
本発明の前処理デバイスにおいて、イオン透過膜として透析膜を使用していることに特徴がある。なお、本発明において、「透析膜」とは、電気的に中性であり、分子のサイズによって分離することができる膜をいい、いわゆる、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜は、本発明における透析膜に該当しない。
このような電気的に中性な透析膜を用いることにより、本発明の前処理デバイスは、測定対象が陽イオン、陰イオンの場合でも適用できるという利点がある。
透析膜の分画分子量が上記範囲であると、圧力差によるチャネル間での溶媒の移動が起こりにくいため、より精度のよい測定が可能となる。
セルロース透析膜を構成するセルロースとしては、天然セルロース、再生セルロース、酢酸セルロース等の純セルロースを変性した半合成セルロースも含まれる。セルロース透析膜は、これらのセルロースを2種類以上使用したものでもよい。
ここで、セルロースに導入される電荷を有する化合物が有する官能基として、例えば、四級アミノ基、スルホニウム基、ビニルピリジン基等の正電荷を有する官能基;水酸基、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基等の負電荷を有する官能基が挙げられるがこれらに限定されない。
特にセルロースは、負の界面電位を有するため、陽イオンと比較して、陰イオンが透過しづらい傾向にある。そのため、正電荷を有する官能基を有する化合物でセルロースを修飾することがより陰イオンの透過において効果的である。
生体成分に対して相互作用の小さい化合物の好適な具体例としては、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリコリン(MPC)が挙げられる。MPCは、生体膜を構成している主成分であるリン脂質分子と同じ極性基であるため、タンパク質や細胞の吸着を効果的に排除することができる。
このような化合物(モノマー)を、グラフト重合、セリウムイオン法、電子線照射法等の方法で、セルロースと結合させることでセルロースを化学修飾することができる。
本発明の溶存イオン分析用前処理デバイスでは、測定対象となる溶存イオンの抽出促進のため、電極間に電圧を印加するが、印加電圧が溶媒である水の電解電圧を超える場合、水の電解により、+極側では酸素が、−極側では水素が発生する。これらのガスが抽出液と共に後段の分析手段へ導入されると、分析精度の低下や装置トラブルの原因となるおそれがある。
ここで、前記抽出液流路に設けられる電極の前面に電極隔膜を設けることにより、前記電解に起因するガスの抽出液への混入を避けることができるため、後段での分析がより正確になり、容易に行いやすくなる。
具体的には、対象となる電極が−極である場合には陰イオン交換膜、対象となる電極が+極であるである場合には陽イオン交換膜を用いることができる。また、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を張り合わせたバイポーラ膜を電極の極性を考慮した向きで用いることもできる。ここで、「電極の極性を考慮した向き」とは、電極が−極である場合には陽イオン交換面を電極側へ、陰イオン交換面を前記抽出液流路側へ、+極である場合には、陰イオン交換面を電極側へ、陽イオン交換面を前記抽出液流路側へする向きである。このような向きにすることで、抽出されたイオンの膜への取り込みを防ぐと同時に、境界面で生じる水素イオンや水酸化物イオンが対イオンとして、効率的に供給される。
を有してなることを特徴とする。
本発明の前処理デバイスにて、試料溶液中の測定対象となる溶存イオンが、抽出液流路へ強制的に移動することで、試料溶液と抽出溶液の流量比に応じて測定対象となる溶存イオンが高濃度に濃縮されるため、該溶存イオンの迅速かつ高精度な分析が可能となる。
また、前記前処理デバイスの後段の分析手段は任意であり、測定対象となる溶存イオンの種類によって適宜決定される。具体的には、イオンクロマトグラフ、ICP発光分析機、原子吸光分析機、質量分析機等を挙げることができる。
本発明の前処理方法は、上述の本発明の前処理デバイスを用いることにより好適に行うことができる。
図1は、本発明の第1の実施形態の溶存イオン分析システムの概念図である。なお、第1の実施形態の溶存イオン分析システムは、測定対象である溶存イオンが、陽イオンあるいは陰イオンのいずれか一方の測定に用いられるシステムである。
なお、セルロース膜は、MWCO2000〜15000、好適にはMWCO3500〜13000、特に好適にはMWCO5000〜10000のセルロース膜がより好適に用いられる。
また、測定対象以外の膜透過を抑制する目的で、修飾化合物で化学修飾されてなるセルロース透析膜を使用することもできる。
試料溶液流路11を流れる試料溶液中には、測定対象となる陽イオン以外にも、陰イオンや中性分子や微粒子が存在するが、電極14a、14b間に形成された電位勾配によって、測定対象である陽イオンは電極14b(−極)に引き寄せられ、透析膜12を透過して抽出液流路13に移動する。
一方、測定対象でない陰イオンは電極14a(+極)側に引き寄せられ、試料溶液流路11に留まり、試料溶液流路11から外部に排出される。
結果として、測定対象である陽イオンのみが、抽出液流路13を経て後段の分析手段4に供されて測定される。
なお、印加電圧は測定対象となる溶存イオンの種類や前処理デバイス1Aの構造、透析膜12の選定、試料溶液、抽出液の流量など諸条件によっても適宜決定されるが、通常、1.5V〜40V程度である。
電極隔膜15としては、選択的にイオンが透過し、かつ、電極14a、14b間への電位の印加による水の電解によって発生したガス(+極側:酸素、−極側:水素)の気泡が透過しない膜が用いられる。電極隔膜15として、具体的には、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を張り合わせたバイポーラ膜を用いることもできるが、バイポーラ膜は膜厚が厚くなり膜抵抗が大きくなるため、測定対象が陽イオンである場合には陰イオン交換膜、測定対象が陰イオンである場合には陽イオン交換膜を好適に用いられる。
なお、電極14bと電極隔膜15の間のフィード液供給流路16には、フィード液供給手段により、フィード液が流通され、電極で発生したガスを除去することができる。フィード液としては、通常、純水やイオン交換水が使用されるがこれに限定されない。
一方で、図4に示す前処理デバイス1Cのようにワイヤ状の電極14aを中心とし、その周囲に前記試料溶液流路11、透析膜12、抽出液流路13を設け、再外壁を電極14bとした円筒型であってもよい。
円筒型の前処理デバイス1Cは設計上の制限があるが、2つの電極間距離を容易に小さくでき、電位勾配を大きくできるという利点がある。また、積層型の前処理デバイス1Aでは、各層のシールの問題から液漏れが起こりやすいのに対し、前処理デバイス1Cではシールが不要となるため、液漏れが起こりづらいという利点もある。
本発明の第2の実施形態の溶存イオン分析用前処理デバイスを備えた、溶存イオン分析システムについて、図面に基づいて説明する。第2の実施形態に係る溶存イオン分析システムは、測定対象として陽イオン、陰イオンをそれぞれ同時に測定することができるシステムである。
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付して説明を省略する場合がある。
図5に示すように、溶存イオン分析システム20は、溶存イオン分析用前処理デバイス1Dと、前処理デバイス1Dに試料溶液を供給する試料溶液供給手段2と、前処理デバイス1Dに抽出液及びフィード液としての純水を供給する純水供給手段3と、前処理デバイス1Dから排出された抽出液に含まれる溶存イオンを分析する分析手段4a,4bと、を主要部として構成される。
フィード液供給流路16a(16b)は、電極14a(14b)と電極隔膜15a(15b)の間に設けられた流路であり、この流路にフィード液を流通させることで、電極14a,14b間への電圧印加に起因する電気分解によって生成するH+、OH-や水素ガス、酸素ガスを押し流して洗浄することができる。
試料溶液流路11を流れる試料溶液中の陰イオンは、電極14a(+極)に引き寄せられ、透析膜12aを透過して抽出液流路13aに移動し、一方、陽イオンは、電極14b(−極)に引き寄せられ、透析膜12bを透過して抽出液流路13bに移動する。
ここで、測定対象のイオンと反対の電荷となるように、透析膜12aを負の電荷を有する化合物、透析膜12bを正の電荷を有する化合物で化学修飾すると、抽出特性が向上する。 なお、微粒子やタンパク質などの巨大分子は、透析膜12a,12bを透過することができず、そのまま外部に排出される。また、非イオン性の有機化合物は電界の影響を受けないので、膜を透過しにくく、そのまま外部に排出される。除去性能を高めるために、透析膜12aや透析膜12bを、イオン交換性の化合物で修飾してもよい。
結果として、抽出液流路13aには測定対象である陰イオンのみ、抽出液流路13bには測定対象である陽イオンのみがそれぞれ抽出されることになり、後段の分析手段4a,4bに供されてそれぞれ別々に測定される。
なお、分析手段4a,4bにはイオンクロマトグラフ、ICP発光分析機、原子吸光分析機、質量分析機等を適宜用いることができるが、本実施形態では分析手段4aでは陰イオンのみ、分析手段4bでは陽イオンのみが分析の対象となるため、それぞれに適したカラムを有するイオンクロマトグラフを好適な分析手段として挙げることができる。
図1に示す構成に準じた溶存イオン分析システム10を使用して、試料溶液に含まれる溶存イオンの抽出実験を行った。前処理デバイスとして、図1に示す前処理デバイス1Aに代えて2重円筒型の前処理デバイス1Cを使用した。
実際に使用した溶存イオン分析システム10における前処理デバイス1Cの構成は、以下の通りである。なお、試料溶液供給手段2及び純水供給手段3には、レイニン社製のペリスタルティックポンプ、分析手段4にはイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス、ICS−1100、分離カラム:CS12A)を使用した。
電極14a(+極):白金線(DIA100μm)
透析膜12:スペクトラム・ラボラトリーズ社製再生セルロースマイクロ透析チューブ(MWCO13000)
OD216μm、ID200μm、有効長さ120mm
電極14b(−極):ステンレス管(有効長さ120mm)
OD710μm、ID400μm、有効長さ120mm
なお、前処理デバイス1Cは、極細い透析膜チューブ内に白金線を通し、外側にステンレス管をジャケットすることで、2つの液層を構築している。上記構成において、試料溶液流路11の厚さは50μm、抽出液流路13の厚さは92μmであり、試料溶液流路11の有効体積は2.9μL、抽出液流路13の有効体積は11μLである。
試料溶液として、3種類の陽イオン(Li+,K+,Ca2+)をそれぞれ50μMで含む陽イオン混合溶液を使用した。
試料溶液流路11に陽イオン混合溶液を流速100μL/minの条件で流通すると共に、抽出液流路13に純水を流速100μL/minの条件で流通させた状態で、電極14a,14b間に直流電源5から電圧を印加した。導入した試料溶液と抽出溶液をそれぞれデバイスの出口で捕集し、イオンクロマトグラフで定量して泳動膜抽出の特性を評価した。図7に前処理デバイス1C(円筒型)における印加電位と溶存イオンの抽出効果の関係を示す。
図1に示す構成に準じた溶存イオン分析システム10を使用して、試料溶液に含まれる溶存イオンの抽出実験を行った。前処理デバイスとして、図1に示す前処理デバイス1Aに代えて平板積層型(3液層)の前処理デバイス1Bを使用した。
実際に使用した溶存イオン分析システム10における前処理デバイス1Bの構成は、以下の通りである。なお、その他の試料溶液供給手段2、純水供給手段3、分析手段4は、実施例1と同じ装置を使用し、フィード液供給流路16への送液にはペリスタルティックポンプを使用した。
電極14a(+極):白金メッキメッシュ
透析膜12:再生セルロース膜(スペクトラム・ラボラトリーズ社製、Type:129020、厚さ:18μm)
電極隔膜15: アストム社製、ネオセプタ(登録商標)BP−1E、厚み220μm(バイポーラ膜)
電極14b(−極):白金メッキメッシュ
上記構成の前処理デバイス1Bの試料溶液流路11、抽出液流路13、フィード液供給流路16の大きさは以下の通りである。
試料溶液流路11:幅5mm、長さ120mm、厚さ127μm
抽出液流路13:幅5mm、長さ120mm、厚さ127μm
フィード液供給流路16:幅5mm、長さ120mm、厚さ127μm
また、比較のため、再生セルロース膜に代わるイオン透過膜として以下の膜を使用した前処理デバイスも作製した。
・陽イオン交換膜:(セレミオン(登録商標)CMV、旭硝子株式会社製、厚さ:130μm、0.094meq/channel)
透析膜12としてMWCO8000の再生セルロース膜、比較用透析膜12’として上記陽イオン交換膜を使用した、前処理デバイス1Bをそれぞれ作製した。
試料溶液として、3種類の陽イオン(Li+,K+,Ca2+)をそれぞれ50μMで含む陽イオン混合溶液を使用した。
試料溶液流路11に陽イオン混合溶液を流速100μL/minの条件で流通すると共に、抽出液流路13及びフィード液供給流路16に純水をそれぞれ流速100μL/min、100μL/minの条件で流通させた状態で電極14a,14b間に直流電源5から電圧を印加した。導入した試料溶液と抽出溶液をそれぞれデバイスの出口で捕集し、イオンクロマトグラフで定量して泳動膜抽出の特性を評価した。
図8(A)及び(B)にそれぞれのイオン透過膜を使用したときの印加電位と溶存イオンの抽出効果の関係を示す。
また、バイポーラ膜である電極隔膜15により、電極14bを隔離することで、抽出液流路13へのガス移動が抑制できることが確認された。また、バイポーラ膜により印加電圧の増加に伴って電流値は指数関数的に増加した。電流増加に伴って抽出溶液内の陽イオン濃度も増加した。4V以上の電位で50μM陽イオン混合溶液から95%以上のイオンを抽出可能であった。
また、図8(B)に示すように、陽イオン交換膜(セレミオン(登録商標)CMV)を使用した場合、導入した陽イオンは、試料溶液流路11からすべて排除されたものの、抽出水中に取り出すことはできなかった。測定対象となる陽イオンが、陽イオン交換膜にトラップされたためと考えられる。
このように、本発明の前処理用デバイスにおいて、透析膜である再生セルロース膜が好適であることが分かった。
図9に透析膜12には分画分子量(MWCO)の異なる5種類の再生セルロース膜を使用したときの印加電位と溶存イオンの抽出効果の関係を示す。
図9から、分画分子量(MWCO)25000の再生セルロース膜では、抽出液のイオンの濃縮は行えているものの、イオン濃度がばらついていることがわかる。
一方、MWCO15000の再生セルロース膜では、イオン濃度のバラツキが解消し、MWCO8000,5000,3500の再生セルロース膜では、試料溶液と抽出液のイオン濃度の相関性が高いことがわかる。
図5に示す構成に準じた溶存イオン分析システム20を使用して、試料溶液に含まれる溶存イオンの抽出実験を行った。
実際に使用した溶存イオン分析システム20における平板積層型(5液層)の前処理デバイス1Dの構成は、以下の通りである。なお、その他の試料溶液供給手段2、純水供給手段3、フィード液供給流路16、分析手段4a,4bは、実施例1、2と同じ装置を使用した。
電極14a(+極):白金メッキメッシュ
透析膜12a,12b:再生セルロース膜(スペクトラム・ラボラトリーズ社製、Type:129020、MWCO:8000、厚さ:18μm)
電極隔膜15a:陽イオン交換膜(AGCエンジニアリング社製セレミオン(登録商標)CMV、厚み130μm)
電極隔膜15b:陰イオン交換膜(AGCエンジニアリング社製セレミオン(登録商標)AMV、厚み130μm))
電極14b(−極):白金メッキメッシュ
上記構成の前処理デバイス1Dの試料溶液流路11、抽出液流路13、フィード液供給流路16の大きさは以下の通りである。
試料溶液流路11:幅5mm、長さ40mm、厚さ127μm
抽出液流路13a,13b:幅5mm、長さ40mm、厚さ127μm
フィード液供給流路16a,16b:幅5mm、長さ40mm、厚さ127μm
試料溶液として、5種類の陽イオン(Li+,K+,NH4 +,Ca2+,Mg2+)及び4種類の陰イオン(Br-,NO3 -,SO4 -,メタンスルホン酸(MSA))をそれぞれ100μMで含む陽イオン・陰イオン混合溶液を使用した。
試料溶液流路11に陽イオン混合溶液を流速100μL/minの条件で流通すると共に、抽出液流路13a,13b及びフィード液供給流路16a,16bに純水をそれぞれ流速100μL/min100μL/minの条件で流通させた状態で電極14a,14b間に直流電源5から電圧を印加した。導入した試料溶液と抽出溶液をそれぞれデバイスの出口で捕集し、イオンクロマトグラフで定量して泳動膜抽出の特性を評価した。
図10に抽出液流路13a,13bから排出された抽出液、及び試料溶液流路11から排出された試料溶液(廃液)中の陽イオン及び陰イオン濃度を評価した結果を示す。
図10から、陽イオン、陰イオンともに、5〜10V程度の印加電圧で試料溶液中から排除されていることが分かる。そして、陽イオンは、抽出液流路13bの抽出水に、陰イオンは抽出液流路13aの抽出水に選択的に移動している。
なお、上記100μM陽イオン・陰イオン混合溶液では、95%以上の抽出効率がいずれのイオンでも得られる電位は10Vであった。
上記構成の溶存イオン分析システム20を使用して、代表的な有機酸である、ギ酸(HCOOH)、酢酸(CH3COOH)、コハク酸((CH2COOH)2)の標準溶液(濃度100μM)を試料溶液として評価を行った結果を図11に示す。
なお、評価条件は、抽出液流路13bの抽出液として10mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)を使用した以外は、上記(評価3−1)と同様である。
図11に示されるように、有機酸イオンであるギ酸、酢酸、コハク酸も無機イオンと同様に印加電圧が大きくなるにつれ、抽出量が大きくなった。この結果、100μMの有機酸イオンを定量的に抽出可能であることが分かった。
上記構成の溶存イオン分析システム20を使用して、実サンプルとして、ミネラルウォーター試料、尿試料料の測定を行った。
結果を、表1に水道水試料の評価結果、表2の尿試料料の評価結果をそれぞれ示す。なお、尿試料はイオンクロマトグラフによる定量範囲を超えるため100倍希釈して測定を行った。
10回の繰り返し測定による再現性は、ミネラルウォーター試料の場合には、2.9±2.4%であり、尿試料の場合には、10回の繰り返し測定による再現性は、3.6±1.5%であった。
図1に示す構成に準じた溶存イオン分析システム10を使用して、試料溶液に含まれる溶存イオンの抽出実験を行った。前処理デバイスとして、平板積層型(5液層)の前処理デバイス1Dを使用した。
実際に使用した溶存イオン分析システム10における前処理デバイス1Bの構成は、以下の通りである。なお、その他の試料溶液供給手段2、純水供給手段3、分析手段4は、実施例1と同じ装置を使用し、フィード液供給流路16への送液にはペリスタルティックポンプを使用した。
電極14a(+極):白金メッキメッシュ
透析膜12a:後述の方法で修飾した再生セルロース膜(スペクトラム・ラボラトリーズ社製、Type:129020、厚さ:18μm、分画分子量(MWCO):8,000)
透析膜12b:再生セルロース膜(スペクトラム・ラボラトリーズ社製、Type:129020、厚さ:18μm、分画分子量(MWCO):8,000)
電極隔膜15a: AGCエンジニアリング社製、セレミオン(登録商標)CMV、厚み130μm(陽イオン交換膜)
電極隔膜15b:AGCエンジニアリング社製、セレミオン(登録商標)DSV、厚み100μm(陰イオン交換膜)
電極14b(−極):白金メッキメッシュ
上記構成の前処理デバイス1Bの試料溶液流路11、抽出液流路13、フィード液供給流路16の大きさは以下の通りである。
試料溶液流路11:幅5mm、長さ40mm、厚さ127μm
抽出液流路13:幅5mm、長さ40mm、厚さ127μm
フィード液供給流路16:幅5mm、長さ40mm、厚さ127μm
透析膜12の再生セルロース膜として、以下の化学修飾を行った。
再生セルロース膜を3日間、純水に浸漬したのちに濾紙で圧搾して水分を除去した。次いで、メタノール、アセトンの順で洗浄したのちに24時間減圧乾燥を行い溶媒を除去した。次いで、再生セルロース膜を2g/LのNH4SO4Fe(II)水溶液に30℃で30分間浸漬したのちに、40wt% Acrylic Acid 2-(Trimethylamino)ethyl Ester(以下、「TMAEA-Qc1」と記載する。)、2mM H2O2水溶液に窒素置換で溶存酸素を除去した後、50℃で10時間浸漬した。
上記処理後の再生セルロース膜を1wt%シュウ酸水溶液中で脱鉄処理を行った後に、湯洗と水洗を繰り返して未反応物を除去した。その後、減圧乾燥した再生セルロース膜を10mM HCl水溶液、10mM NaOH水溶液の順で洗浄し、湯洗と水洗を繰り返して薬液を除去したのちに24時間減圧乾燥を行うことで、正電荷を有するTMAEA-Qc1の重合体(PTMAEA-Qc1)で修飾された修飾再生セルロース膜を得た。図12に再生セルロースとTMAEA-Qc1の反応スキームを示す。
透析膜12aとして上記修飾再生セルロース膜、比較用透析膜12a’として未修飾(Normal)の再生セルロース膜を使用した、前処理デバイス1Dをそれぞれ作製した。
試料溶液として、陽イオン(K+)と陰イオン(NO3 -)をそれぞれ100μMで含むイオン混合溶液を使用した。
試料溶液流路11にイオン混合溶液を流速300μL/minの条件で流通すると共に、抽出液流路13及びフィード液供給流路16に純水をそれぞれ流速300μL/min、300μL/minの条件で流通させた状態で電極14a,14b間に直流電源5から電圧を印加した。導入した試料溶液と抽出溶液をそれぞれデバイスの出口で捕集し、イオンクロマトグラフで定量して泳動膜抽出の特性を評価した。
図13にそれぞれのイオン透過膜を使用したときの印加電位と溶存イオンの抽出効果の関係を示す。
(評価5−1)
実施例4と同様の装置構成で、以下の実験を行った。
試料溶液として、2種類の陽イオン(Li+、K+)および4種類の陰イオン(CH3SO3 -、Br-、NO3 -、SO4 2-)をそれぞれ10μMで含む陽イオン・陰イオン混合溶液を使用した。
試料溶液流路11にイオンの混合溶液を濃縮の際には流量100〜3000μL/minの条件で、希釈の際には50μL/minの条件で流通すると共に、抽出液流路13a、13bに純水を濃縮の際には流量100μL/minで、希釈の際には3000〜50μL/minでそれぞれ供給した。また、フィード液供給流路16a、16bには純水を流量300μL/minで供給した。この状態で、電極14a、14b間に直流電源5から35Vの電圧を印加した。導入した試料溶液と抽出溶液をそれぞれデバイスの出口で捕集し、イオンクロマトグラフで定量して濃度比を求めた。
上記構成の溶存イオン分析システム20を使用して、水道水の前処理同時濃縮による測定を行った。なお、試料溶液の流量1000μL/min、抽出液の流量100μL/minとした。得られたクロマトグラムを図15に示す。陽イオン、陰イオンいずれの場合も、比較のために、イオンクロマトグラフに試料を直接導入したとき(Direct)の10倍のピーク高さが得られている。特に、水道水中に微量に含まれているLi+イオンや、Br−イオンの定量性が大きく向上していた。
2 試料溶液供給手段
3 純水供給手段
4,4a,4b 分析手段
5 直流電源
10,20 溶存イオン分析システム
11 試料溶液流路
12,12a,12b 透析膜
13,13a,13b 抽出液流路
14a,14b 電極
15,15a,15b 電極隔膜
16,16a,16b フィード液供給流路
Claims (5)
- 測定対象である溶存イオンを含む試料溶液が流通する試料溶液流路と、
分画分子量2000〜15000のセルロース透析膜を隔てて該試料溶液流路と隣接して設けられた抽出液流路と、
前記試料溶液流路及び前記抽出液流路を挟んで設けられた一対の電極と、
前記電極間に所定の電位差を生じさせる直流電源と、
を備える溶存イオン分析用前処理デバイスであって、
前記抽出液流路が該試料溶液流路を挟んで両側に設けられており、その一方の抽出液流路と試料溶液流路とを隔てるセルロース透析膜が、正電荷を有する官能基を有する化合物で化学修飾されたセルロース透析膜であることを特徴とする溶存イオン分析用前処理デバイス。 - 前記正電荷を有する官能基を有する化合物が、Acrylic Acid 2 -(Trimethylamino)ethyl Esterである請求項1記載の溶存イオン分析用前処理デバイス。
- 前記抽出液流路に設けられる電極の前面に電極隔膜を設けた請求項1または2のいずれかに記載の溶存イオン分析用前処理デバイス。
- 前記電極隔膜が、イオン交換膜又はバイポーラ膜である請求項3記載の溶存イオン分析用前処理デバイス。
- 請求項1から4のいずれかに記載の溶存イオン分析用前処理デバイスと、
前記前処理デバイスの試料溶液流路へ試料溶液を供給する試料溶液供給手段と、
前記前処理デバイスの抽出液流路へ抽出液を供給する抽出液供給手段と、
前記前処理デバイスの抽出液流路を経て排出された抽出液に含まれる溶存イオンを分析する分析手段と、
を有してなることを特徴とする溶存イオン分析システム。
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