以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係る作業機械(油圧ショベル)の概略図である。この図に示す作業機械は、地面に接して走行するための下部走行体2と、作業装置6が取り付けられた上部作業体4を主に備えている。
作業装置(フロント作業装置)6は、ブーム10、アーム12及びアタッチメント14を有する多関節型のものであり、上部作業体4の前方に回動自在に取り付けられている。ブーム10は、ブーム10の一端(基端)に位置する回動軸30を介して、上部作業体4に対して回動可能に支持されている。ブーム10は、上部作業体4とブーム10に架け渡された油圧シリンダ(ブームシリンダ)20を伸縮させることにより、回動軸30を中心に駆動される。
アーム12は、ブーム10の他端に位置する回動軸32を介して、ブーム10に対して回動可能に支持されている。アーム12は、ブーム10とアーム12に架け渡された油圧シリンダ(アームシリンダ)22を伸縮させることにより、回動軸32を中心に駆動される。
アタッチメント14は、アーム12の先端に位置する回動軸34を介して、アーム12に対して回動可能に支持されている。アタッチメント14は、リンク機構16を介してアーム12とアタッチメント14に架け渡された油圧シリンダ(アタッチメントシリンダ)24を伸縮することにより、回動軸34を中心に駆動される。なお、図1に示した作業機械1には、アタッチメント14として、バケットが取り付けられているが、この他にも、グラップル、カッタ、ブレーカ、マグネット等の他のアタッチメントを作業に応じて取付けても良い。また、以下においては、図1に基づいて、アタッチメント14をバケット14、アタッチメントシリンダ24をバケットシリンダ24と表記することがある。
各油圧シリンダ20、22、24の駆動は、上部作業体4の運転室(キャブ)内に設置され油圧信号を出力する操作装置(図示せず)によって制御される。
本実施の形態に係る油圧ショベルは、方向及び大きさが異なる種々の荷重が作用することで稼働中の作業装置6に生じる変化を示す荷重関連パラメータを検出するための検出器(荷重関連パラメータ検出器)として、ひずみゲージ11aと、ひずみゲージ11bと、加速度検出器13を備えている。なお、以下では、荷重関連パラメータとして、作業装置6の加速度及びひずみを取りあげた場合について主に説明するが、後に説明する油圧シリンダ20、22、24の圧力(例えば、ボトム側圧力)を含め、その他のパラメータを利用しても良い。
ブーム10には、ブーム10に生じるひずみの検出器としてひずみゲージ11aが貼り付けられており、アーム12には、アーム12に生じるひずみの検出器としてひずみゲージ11bが貼り付けられている。ひずみゲージ11a、11bの取り付け位置に特に限定は無いが、図1の例では、ひずみゲージ11aはブーム10の上面に取り付けられており、ひずみゲージ11bはアームの下面に取り付けられている。
アーム12には、アーム12に発生する加速度を検出するための加速度検出器13が取り付けられている。加速度検出器13の取り付け位置には特に限定は無いが、図の例ではアーム12の上面に取り付けられている。
また、本実施の形態に係る油圧ショベルは、稼働中の作業装置6の姿勢(各回動軸30、32、34を基準としたブーム10、アーム12及びアタッチメント14の回動角度)を検出するための姿勢関連パラメータ検出器として、各油圧シリンダ20、22、24の変位を検出するための変位検出器15a、15b、15cを備えている。ブームシリンダ20には、ブームシリンダ20のストローク変位を検出するための変位検出器15aが取り付けられており、アームシリンダ22には、アームシリンダ22のストローク変位を検出するための変位検出器15bが取り付けられており、アタッチメントシリンダ24には、アタッチメントシリンダ24のストローク変位を検出するための変位検出器15cが取り付けられている。変位検出器15a、15b、15cの出力値は、作業装置6の姿勢を検出するために用いられる。
なお、以下では、上記のひずみゲージ11a、11bと、加速度検出器13と、変位検出器15a、15b、15cをまとめて「センサ群」と称することがあり、同種のセンサ内で区別する必要が無い場合にはアルファベットの添字を省略して表記することがある。
上部作業体4は、下部走行体2の上部に取り付けられている。本実施の形態の作業機械は油圧ショベルであり、上部作業体4は、旋回油圧モータを含む旋回装置(図示せず)を介して下部走行体2に対して旋回可能に連結されているが、旋回装置を介することなく下部走行体2に取り付けても良い。なお、図1に示した下部走行体2は、無限軌道履体を備えたいわゆるクローラ式のものであるが、複数の車輪を備えたいわゆるホイール式で構成しても勿論良い。
図2は本発明の実施1の形態に係る応力演算システムの概略構成図である(なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略することがある(後の図についても同様とする。)。)。この図の応力演算システムは、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)41と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置(例えば、ROM、RAMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリや、ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置)42と、演算処理装置41の処理結果等を表示するための表示装置(例えば、液晶モニタ等)43と、各装置41、42、43へのデータ及び指示等の入出力制御を行うための入出力演算処理装置44を備えている。
入出力演算処理装置44には、センサ群11、13、15と、オペレータ等による指示及びデータ等の入力に用いられる入力装置(例えば、キーパッドやタッチパネル等)45が接続されており、センサ群11、13、15の出力値(dB、 dA、 dBk、 aA、 εB、 εA)が入力される。ここでは、ブームシリンダ20に係る変位検出器15aの出力値をdB[mm]とし、アームシリンダ22に係る変位検出器15bの出力値をdA[mm]とし、バケットシリンダ24に係る変位検出器15cの出力値をdBk[mm]とし、アーム12に係る加速度検出器13に係る出力値をaA[m/s2]とし、ブーム10に係るひずみゲージ11aの出力値をεB[×10-6]とし、アーム12に係るひずみゲージ11bの出力値をεA[×10-6]とする。
なお、ここでは、演算処理装置41と、記憶装置42と、表示装置43と、入出力演算処理装置44は、図1に示した油圧ショベルに搭載されているものとして説明するが、これら装置41、42、43、44を、複数の油圧ショベルの動作管理を行うための管理センタ内の電子計算機に搭載し、各油圧ショベルに設置されたセンサ群11、13、15からの出力を無線ネットワークを介して受信して演算処理装置41によって各種処理を実行するように構成しても良いし、構成の一部を油圧ショベルに搭載しつつ、残りを管理センタ内の電子計算機に搭載しても良い。すなわち、油圧ショベル上のセンサ群11、13、15との通信が可能であれば各装置41、42、43、44の設置場所は特に限定されない。
図2に示した応力演算システムは、記憶装置42として、応力分布データベース(以下、「応力分布DB」と称することがある)42aと、時系列データ記憶装置42bを備えている。
応力分布DB42aには、方向及び大きさが異なる複数の荷重がそれぞれ作用したときに作業装置6に生じる応力分布と、当該複数の荷重がそれぞれ作用したときに作業装置6に生じる変化を示す荷重関連パラメータが記憶されている。ここにおける「荷重」には、慣性力の影響を無視できる静的荷重(例:バケット14内の積荷による荷重)と、慣性力の影響がある動的荷重(例:作業装置6に作用する衝撃、振動に伴う荷重)がある。応力分布及び荷重関連パラメータは、当該複数の荷重の方向及び大きさ並びに作業装置6の姿勢ごとに記憶されている。応力分布DB42aは、実機(ここでは図1に示した油圧ショベル)を模したシミュレーションモデル(機構モデル)の解析結果に基づいて作成されたものであり、予め記憶装置42に記憶しておくものとする。
ここで、応力分布DB42aの構築方法の一例について説明する。まず、実動荷重下で作業装置6に係る各部の加速度及びひずみと、各油圧シリンダ20、22、24の変位を各種センサで実測する。このとき、アタッチメント14内の積荷による静的荷重を検出するために各油圧シリンダ20、22、24の圧力を圧力センサ等で実測しても良い。そして、実機を模した機構モデルにシリンダ変位(実測した場合にはさらにシリンダ圧力)を入力して、作業装置6の加速度及びひずみを解析により算出する。解析により得た当該加速度及びひずみを実測値と比較して、両者が最も一致するようにモデルのパラメータ(例えば、回動軸(ピン)の剛性など)を最適化する。そして、当該最適化したモデルを用いて、作業装置6の姿勢や作業装置6に作用する荷重を変化させながら、作業装置6(ブーム10及びアーム12)に発生する応力分布、加速度分布及びひずみ分布を求め、これらをシリンダ変位(作業装置6の姿勢)及び荷重をキーとして応力分布DB42aに格納する。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る応力分布DB42aに含まれるデータを示す図である。この図に示すように、本実施の形態に係る応力DB42aのデータには、バケットシリンダ変位dBkn[mm]と、アームシリンダ変位dAn[mm]と、ブームシリンダ変位dBn[mm]と、バケットに作用する荷重(動的荷重及び静的荷重)の方向及び大きさLsxm、 Ldxm、 Lsym、 Ldym、 Lszm、 Ldzm[N]と、作業装置6に発生する加速度分布ad_pw[m/s2]、ひずみ分布εd_pw[×10-6]及び応力分布σd_pw[MPa]とが含まれている。なお、n、 m、 wはともに自然数とする。
図4は、図3中の加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwを求める際に考慮する各油圧シリンダ20、22、24の変位のパターン(すなわち、作業装置6の姿勢のパターン)を示す図である。本実施の形態では、バケットシリンダ変位はそれぞれ値が異なるdBk1〜dBknのn通り(nは自然数)、アームシリンダ変位はそれぞれ値が異なるdA1〜dAnのn通り、ブームシリンダ変位はそれぞれ値が異なるdB1〜dBnのn通りとする。したがって、シリンダ変位のパターンの総数はn3通りとなる。
図5は、図3中の加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwを求める際に考慮する荷重であってバケット14に負荷するものの大きさ及び方向(x、 y、 z)のパターンを示す図である。図6は、図5で示した3種類の荷重の方向(x、 y、 z)と油圧ショベルの関係を示す図であり、図6中の各矢印の方向を各方向の正とする。図5に示すように、本実施の形態では、静的x方向荷重はそれぞれ値が異なるLsx1〜Lsxmのm通り(mは自然数)、動的x方向荷重はそれぞれ値が異なるLdx1〜Ldxmのm通り、静的y方向荷重はそれぞれ値が異なるLsy1〜Lsymのm通り、動的y方向荷重はそれぞれ値が異なるLdy1〜Ldymのm通り、静的z方向荷重はそれぞれ値が異なるLsz1〜Lszmのm通り、動的z方向荷重はそれぞれ値が異なるLdz1〜Ldzmのm通りとする。したがって、荷重のパターンの総数はm6通りとなる。
図3の説明に戻る。上記により、図3における加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwに係るパターンpの総数wは、図4のシリンダ変位のパターンの総数と、図5の荷重の方向及び大きさのパターンの総数との組合せによりn3×m6通りとなる。したがって、wは1からn3×m6までの自然数となる。
図3に示す応力分布DB42aでは、荷重(Lsxm、 Ldxm、 Lsym、 Ldym、 Lszm、 Ldzm)と姿勢(シリンダ変位dBkn、 dAn、 dBn)で規定される各パターンpwに係る荷重関連パラメータとして、作業装置6におけるブーム10及びアーム12の加速度(加速度分布ad_pw)とひずみ(ひずみ分布εd_pw)を採用している。
加速度分布ad_pwは、各パターンpwにおいてブーム10及びアーム12に生じる加速度の分布を示すものであり、各パターンpwについて行ったシミュレーションモデルの解析から算出したものである。加速度分布ad_pwは、稼働中の油圧ショベルのブーム10及びアーム12の応力分布をセンサ群11、13、15の出力に基づいて推定する際の基準として利用されるものであり、主として稼働中の油圧ショベルのブーム10及びアーム12に作用する動的荷重の方向及び大きさを判別するために利用される。
ひずみ分布εd_pwは、各パターンpwにおいてブーム10及びアーム12に生じるひずみの分布を示すものであり、各パターンpwについて行ったシミュレーションモデルの解析から算出したものである。ひずみ分布εd_pwは、稼働中の油圧ショベルのブーム10及びアーム12のひずみ分布をセンサ群11、13、15の出力に基づいて推定する際の基準として利用されるものであり、主として稼働中の油圧ショベルのブーム10及びアーム12に作用する静的荷重の方向及び大きさを判別するために利用される。
また、応力分布σd_pwは、各パターンpwにおいてブーム10及びアーム12に生じる応力の分布を示すものであり、各パターンpwについて行ったシミュレーションモデルの解析から算出したものである。応力分布σd_pwは、稼働中の油圧ショベルのブーム10及びアーム12の応力分布をセンサ群11、13、15の出力に基づいて推定する際の基準として利用される。
なお、上記では、「作業装置6」の加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwを解析するとしたが、具体的には後述の図10に示すようにブーム10及びアーム12の加速度分布、ひずみ分布及び応力分布であり、回動軸(ピン)30、32、34や、バケット14等は含まないものとする。
時系列データ記憶装置42bには、センサ群11、13、15の出力値のデータが時系列で記憶されており、さらに、センサ群11、13、15の出力値及び応力分布DB42aのデータに基づいて演算処理装置41(応力演算部41a)で推定されたブーム10及びアーム12の応力分布のデータが時系列で記憶される。応力分布の時系列データは、ブーム10及びアーム12の応力分布の時間変化を示すものであり、残存寿命算出部41bによるブーム10及びアーム12の寿命予測等に用いられることがある。
演算処理装置41は、ブーム10及びアーム12の応力分布を推定する処理を実行する応力演算部41aと、応力演算部41aで算出した応力分布の時間変化に基づいてブーム10及びアーム12の寿命を推定する処理を実行する残存寿命演算部41bとして機能する。各部の処理内容の詳細については後述する。なお、演算処理装置41に代えて、各部41a、41bの処理の一部又は全部を実行する集積回路(ハードウェアロジック)を利用してシステムを構築しても良い。
表示装置43には、演算処理装置41で算出されたブーム10及びアーム12の応力分布、寿命、損傷の有無等の種々の情報が表示され、表示装置43は当該情報の報知手段として機能する。なお、表示装置43の設置先は前述のように特に限定されないが、油圧ショベルや管理センタの他にも、例えば、油圧ショベルの積荷の積み込み対象であるダンプトラック等に設置しても良い。
以下、本実施の形態に係るシステムで行われる応力演算処理の詳細について説明する。図7は本発明の第1の実施の形態における応力演算部41aで実行される応力演算処理のフローチャートである。この図に示す処理が開始されたら、応力演算部41aは、時系列データ記憶装置42bに記憶されたセンサ群11、13、15の出力値(dB、 dA、 dBk、 aA、 εB、 εA)の時系列データから所定時刻に係るものを実測データとして抽出する処理を実行する(S71)。時系列データ記憶装置42bに記憶されたセンサ群11、13、15の出力値の時系列データを図8及び図9に示す。
図8は、図1の油圧ショベルで実動稼働を模擬した動作を行ったときに測定されたセンサ群11、13、15の出力値(実測データ)の時系列データの一例をグラフ形式で表した図である。図9は図8に示したセンサ群11、13、15の出力値の時系列データを0.1[s]ごと(刻み時間Δt=0.1[s])に抽出してテーブル形式で表した図である。各出力値に付した括弧内の数字は時刻(t)を示す。なお、図9では、変位検出器15cを変位計1、変位検出器15bを変位計2、変位検出器15aを変位計3、加速度検出器13を加速度計1、ひずみゲージ11bをひずみゲージ1、ひずみゲージ11aをひずみゲージ2と表記している。また、ここでは刻み時間をΔt=0.1としているが、他の値(例えば、センサ群の出力周期)を採用しても良い。
ここではS71において、t=1.1[s]に係る実測データを抽出するものとする。以下では、S71で抽出した実測データを「抽出データ」と称することがある。図9において、t=1.1[s]に係る抽出データは、dBk(1.1)=-5[mm]、dA(1.1)=-1445[mm]、dB(1.1)=-195[mm]、aA(1.1)=34[m/s2]、εA(1.1)=219[×10-6]、 εB(1.1)=252[×10-6]となる。
S71が終了したら、応力演算部41aは、抽出データと応力分布DB42a内のデータを比較して、当該抽出データに近いデータを応力分布DB42aから探索する処理を実行する(S72)。具体的には、応力演算部41aは、応力分布DB42a内の姿勢関連パラメータ(dBkn、 dAn、 dBn)と変位検出器15a、15b、15cの出力値(dBk(1.1)、dA(1.1)、dB(1.1))を比較しつつ、応力分布DB42a内の加速度分布(ad_pw)から得られる加速度検出器13の測定位置における加速度(aA)と加速度検出器13の出力値(aA(1.1))を比較しつつ、応力分布DB42a内のひずみ分布(εd_pw)から得られるひずみゲージ11a、11bの測定位置におけるひずみ(εA、εB)とひずみゲージ11a、11bの出力値(εA(1.1)、εB(1.1))を比較することで、抽出データとマッチングするデータ列を有するパターン(pw)を応力分布DB42a上で探索する。以下では、S72で探索した結果得られたパターンに係るデータ(データ列)を「探索データ」と称することがある。
S72で選択される探索データのデータ列は、抽出データのデータ列に可能な限り近いことが好ましいが、所定の値以上の差が両者のデータ列に存在する場合には、選択した探索データに係る応力分布を内挿又は外挿することで最終的な応力分布としても良い。さらに、選択すべき探索データを容易に1つのパターンに限定できない場合には、抽出データに近い複数の探索データを選択しても良い。この場合には、選択した複数の探索データに係る応力分布を内挿又は外挿することで最終的な応力分布を推定すれば良い。また、探索データの選択の方法としては、公知の方法が利用可能だが、例えば、マッチングに利用する所定の閾値を決定しておき、抽出データと各パターン(pw)に係るデータ列の差が当該閾値内に含まれるか否かで判断するものがある。したがって、当該閾値内に収まるパターンが複数存在する場合には、複数組の探索データが選択されることになり、最終的には当該複数組の探索データに係る応力分布を内挿又は外挿することで応力分布を推定することになる。
S72が終了したら、応力演算部41aは、S72の探索データに基づいてブーム10及びアーム12の応力分布を推定する処理を実行する(S73)。S72で探索されたパターンが1つの場合には、当該パターンに係る応力分布をt=1.1における応力分布として推定する。一方、S72で探索されたパターンが2以上の場合には、当該2以上のパターンに係る応力分布に基づく内挿又は外挿をすることで最終的な応力分布を推定するものとする。
図10は、本発明の第1の実施の形態に係る作業装置6(ブーム10及びアーム12)について、t=1.1[s]における応力分布を示す図である。この図では応力の大きさをグレースケールで表示しており、白に近づく程大きな応力が作用していることを示す。この図に示すように、本実施の形態では、応力分布の推定対象部分を作業装置6におけるブーム10及びアーム12に限定しており、バケット14、油圧シリンダ20、22、24、回動軸30、32、34等は対象から除外した。しかし、バケット14、油圧シリンダ20、22、24、および回動軸30、32、34等も含め、作業機械に係るあらゆる部分に関しても応力分布を推定することができる。
S73が終了したら、応力演算部41aは、S73で推定した応力分布を時刻(t=1.1[s])と関連付けて時系列データ記憶装置42bに記憶する(S74)。S74が終了したら、抽出データをリセットし(S75)、応力分布の推定処理を継続するか否か判定する(S76)。S76で応力分布の推定処理を継続する場合には、Δt秒後の実測データを抽出データとし(S77)、S72移行の処理を繰り返す。一方、S76で処理を終了すると判定された場合には一連の処理を終了する。
以上のように、本実施の形態によれば、センサ群11、13、15の実測値(抽出データ)に基づいてブーム10及びアーム12に係る応力分布が推定できるので、ひずみゲージ11a、11bを取り付けた位置における応力だけでなく、ブーム10及びアーム12上のあらゆる点における応力を推定することが可能となる。すなわち、本実施の形態では2つのひずみゲージ11a、11bを利用しているが、その取り付け箇所以外の点に係る応力についても、ひずみゲージを追加設置することなく推定することができる。したがって、本実施の形態によれば、少数のセンサで作業装置の所望の位置での応力評価が可能なので、作業機械の運動性能の維持及びコストの抑制が可能になる。
なお、上記では図7のフローチャートで示したように、所定時刻におけるセンサ群11、13、15の実測データを抽出して当該所定時刻における応力分布を推定する場合について説明したが、センサ群11、13、15から出力される出力値に基づいて応力分布をリアルタイムに推定するように構成しても良いことは言うまでもない。なお、後者の場合には、図7中のΔtはセンサ群11、13、15の制御周期に一致することになる。
本実施の形態の説明を続ける。図2において、残存寿命演算部41bは、時系列データ記憶装置42bに記憶された作業装置6の応力分布の時間変化(時系列データ)に基づいて、作業装置6(ブーム10及びアーム12)の残存寿命を推定する処理を実行する部分である。
図11は、時系列データ記憶装置42bに記憶された、所定の評価位置における作業装置6の応力の時間変化を示す図である。これは、数ある応力評価点の内の一点における応力の時間変化である。応力評価点は、上記のように推定した応力分布に基づいて、ブーム10及びアーム12の全体から任意に選択できる。
残存寿命演算部41bは、まず、時系列データ記憶装置42bに記憶された応力分布に基づいてブーム10及びアーム12の損傷量を推定する。損傷量は、例えば、レインフロー法による応力頻度解析とマイナー則による累積損傷則等の公知の方法を用いて算出できる。そして、残存寿命演算部41bは、油圧ショベルの使用開始時からの損傷量の累積値に基づいてブーム10及びアーム12の残存寿命を推定する。残存寿命演算部41bで算出された残存寿命は表示装置43に表示される。
図12は本発明の第1の実施の形態に係る表示装置43にブーム10及びアーム12の残存寿命を表示した図である。この図に示すように表示装置43の表示画面には、ブームとアームの残存寿命を示す残存寿命表示部81が設けられている。
なお、残存寿命を算出する代わりに、油圧ショベルの使用開始時からの損傷量の累積値が閾値を超えると判定した場合に、メンテナンス時期が到来した旨を表示装置43に表示しても良い。さらに、このとき、メンテナンスが必要な箇所を、メンテナンス時期到来の旨と合わせて表示しても良い。
このように作業装置6の残算寿命やメンテナンス時期を報知すれば、予め修理箇所を判断でき、かつ修理部品の在庫を確保できるためメンテナンスを円滑に進めることができる。よって油圧ショベルの稼働率を上げることができる。
なお、上記では、残存寿命やメンテナンス時期を表示装置43に表示することで報知する場合について説明したが、警告灯や音声等、他の報知手段を用いて報知しても良い。また、これらの報知手段は、表示装置43と同様にどの場所に設置するかは問わないものとする。
ところで、上記では、ひずみゲージを2つ設置する場合について説明したが、応力分布DB42aのデータ列と抽出データの容易なマッチングが可能であれば、作業装置6に取り付けるひずみゲージを1つとしても良い。もちろん、ひずみゲージが3つ以上の場合も除外されない。これと同様に、加速度検出器13の個数についても上記で説明した1つに限定されず、その設置対象もアーム12に限定されずブーム10に設置しても良い。また、上記の実施の形態では、荷重関連パラメータとして、主に動的荷重の方向及び大きさの判断が可能な「加速度」と、主に静的荷重の方向及び大きさの判断が可能な「ひずみ」を利用したが、「ひずみ」に代えて各油圧シリンダ20、22、24の圧力(例えば、ボトム側圧力)を圧力検出器17a、17b、17c(図2参照)で検出し、当該出力値を荷重関連パラメータとして利用しても良い。これは、各油圧シリンダ20、22、24の圧力によりバケットに作用する静的荷重(主に積荷による荷重)の方向及び大きさが推定できるからである。さらに、応力分布DB42aのデータ列と抽出データのマッチング精度を向上させる観点から、加速度とひずみに加えて、各油圧シリンダの圧力を荷重関連パラメータとして利用しても良い。なお、圧力検出器17a、17b、17cの取り付け位置としては、例えば、圧力検出器17aは油圧シリンダ20の油圧室に、圧力検出器17bは油圧シリンダ22の油圧室に、圧力検出器17cは油圧シリンダ24の油圧室に取り付けるものがある。
また、上記では、作業装置6の姿勢(姿勢関連パラメータ)を検出する手段として変位検出器15を利用する場合について説明したが、角度検出器で回動軸30、32、34の中心軸回りの回転角度をそれぞれ検出し、当該各検出値に基づいて作業装置6の姿勢を検出しても良い。
次に本発明の第2の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態は、作業機械の応力分布を推定する際に、(1)第1の実施の形態に係る荷重関連パラメータおよび姿勢関連パラメータに加えて、作業機械の動作状況を示すパラメータ(動作関連パラメータ)を利用する点と、(2)作業装置も含めて作業機械全体の応力分布を推定している点に主な特徴がある。
動作関連パラメータは、所定時刻における姿勢(静的な姿勢)を示す姿勢関連パラメータと対をなすものであり、所定時間あたりの姿勢の変化(動的な姿勢)を示すものである。ここでは、作業機械の動作を、走行系のアクチュエータ(例えば、油圧ショベルの走行用油圧モータ)を駆動して行われる「走行動作」と、作業装置に備えられた走行系以外のアクチュエータ(例えば、油圧ショベルにおけるブームシリンダおよび旋回用油圧モータ)を各種作業時に駆動して行われる「作業動作」とに分類して説明することがある。そして、前者の作業装置の動作状況を示すパラメータを「作業動作関連パラメータ」と称し、後者の作業機械の走行動作の状況を示すパラメータを「走行動作関連パラメータ」と称する。さらに、当該2つパラメータを「動作関連パラメータ」と総称することがある。
図13は本発明の第2の実施の形態に係る作業機械(油圧ショベル)の概略図であり、図14は本発明の第2の実施の形態に係る応力演算システムの概略構成図である。これらの図に示すように、本実施の形態に係る油圧ショベルは、圧力検出器17dと、回転検出器18と、加速度検出器19と、速度・角度演算部41eをさらに備えており、応力分布DB42aに代えて応力分布DB42cを備えている。
圧力検出器17dは、上部作業体4に搭載された旋回油圧モータ(図示せず)を通過する作動油の前後差圧(図15における「旋回圧力」)を検出するためのもので、入出力演算処理装置44に接続されている。圧力検出器17dの出力値(fs[Pa])は、旋回油圧モータから上部作業体4に加えられるトルクの算出に利用され、当該算出されたトルクは、旋回油圧モータから作業機械に作用する静的荷重の方向及び大きさを判別するために利用される。つまり、圧力検出器17dは、荷重関連パラメータ検出器として利用されている。なお、旋回油圧モータの前後差圧を検出するためには、圧力検出器17dを当該旋回油圧モータの前後に少なくとも1つずつ(すなわち、合計2つ)設置することが必要であるが、ここでは図示を簡略して図14中の圧力検出器17dが2つの圧力検出器17dを示すものとして説明する。
回転検出器18は、上部作業体4に設定された3次元直交座標系に係る3軸(x軸、y軸、z軸(図19参照))回りについての上部作業体4の角速度(ωx[rad/s],ωy[rad/s],ωz[rad/s])を検出するためのもので、入力演算処理装置44に接続されている。回転検出器18の直接の出力値である角速度(ωx[rad/s],ωy[rad/s],ωz[rad/s])は、上部作業体4の動作状況を示す作業動作関連パラメータとして利用される。さらに、当該角速度を速度・角度演算部41eで時間積分することで得られる3軸回りの角度(x軸回りの角度θxn[rad],y軸回りの角度θyn[rad],z軸回りの角度θzn[rad])は、上部作業体4の姿勢を示す姿勢関連パラメータとして利用される。つまり、回転検出器18は、姿勢関連パラメータ検出器と、作業動作関連パラメータ検出器として利用されている。
加速度検出器19は、上部作業体4または下部走行体2の加速度(AB[m/s2])を検出するためのものであり、入出力演算処理装置44に接続されている。図13に示した加速度検出器19は、上部作業体4に取り付けられており、上部作業体4の加速度を検出しているが、加速度検出器19は下部走行体2に取り付けても良い。加速度検出器19によって検出された上部作業体4又は下部走行体2の加速度(AB[m/s2])は、走行動作関連パラメータとして利用されており、加速度検出器19は、走行動作関連パラメータ検出器として利用されている。
速度・角度演算部41eは、変位検出器15a,15b,15cから出力される各油圧シリンダ20,22,24の変位(dB、 dA、 dBk)を時間微分して各油圧シリンダ20,22,24の速度(vB[mm/s],vA[mm/s],vBk[mm/s])を算出しつつ、回転検出器18から出力される上部作業体4の角速度(ωx,ωy,ωz)を時間積分して上部作業体4の角度(θxn,θyn,θzn)を算出する処理を実行する部分である。
応力分布DB42cには、方向及び大きさが異なる複数の荷重がそれぞれ作用したときに作業装置6に生じる応力分布であって、実機を模したシミュレーションモデル(機構モデル)の解析結果に基づいて作成されたものが記憶されている。
図15は、本発明の第2の実施の形態に係る応力分布DB42cに含まれるデータを示す図である。この図に示すように、応力分布DB42cに記憶された各応力分布σd_pw[MPa]は、姿勢関連パラメータと、作業動作関連パラメータと、荷重関連パラメータと、走行動作関連パラメータに関連付けて記憶されている。なお、図15におけるi、j、nはすべて自然数とする。
図15における姿勢関連パラメータには、シリンダ変位に加えて、上部作業体4のx軸回りの角度θxn[rad]と、y軸回りの角度θyn[rad]と、z軸回りの角度θzn[rad]が含まれている。先述のように、上部作業体4の角度(θxn,θyn,θzn)の実測値は、回転検出器18で検出された角速度(ωx,ωy,ωz)を速度・角度演算部41eで時間積分することで得られる。
また、図15における作業動作関連パラメータには、バケットシリンダ速度vBki[mm/s]、アームシリンダ速度vAi[mm/s]およびブームシリンダ速度vBi[mm/s]と、上部作業体4のx軸回りの角速度ωxi[rad/s]、y軸回りの角速度ωyi[rad/s]およびz軸回りの角速度ωzi[rad/s]が含まれている。先述のように、シリンダ速度(vBk,vA,vB)の実測値は、変位検出器15a,15b,15cで検出された各油圧シリンダ20,22,24の変位(dB、 dA、 dBk)を時間微分することで得られる。また、上部作業体4の角速度(ωx,ωy,ωz)の実測値は、回転検出器18で検出できる。
また、図15における荷重関連パラメータには、バケットシリンダ圧力fBkj[Pa]、アームシリンダ圧力fAj[Pa]およびブームシリンダ圧力fBj[Pa]と、旋回圧力fsj[Pa](上部作業体4に搭載された旋回油圧モータを通過する作動油の前後差圧)と、作業装置6のx方向の加速度axj[m/s2]、y方向の加速度ayj[m/s2]およびz方向の加速度azj[m/s2]とが含まれている。シリンダ圧力(fBk,fA,fB)の実測値は、圧力検出器17a,17b,17cで検出できる。旋回圧力(fs)の実測値は、圧力検出器17dで検出できる。作業装置6の加速度(ax,ay,az)の実測値は、加速度検出器13で検出できる。
また、図15における走行動作関連パラメータには、車体加速度ABk[m/s2]が含まれている。車体加速度(AB)の実測値は、加速度検出器19で検出できる。
ここで、応力分布DB42cの構築方法の一例について説明する。応力分布DB42cを構築するに際しては、応力分布DB42aの構築で得たデータに加えて、実動荷重下で上部作業体4の角速度をジャイロスコープ等の回転検出器18で実測する。このときアタッチメント14内の積荷による静的荷重を検出するために旋回装置の圧力(旋回圧力)を圧力センサ等の圧力検出器17dで実測しても良い。
そして、実機を模した機構モデルにシリンダ変位(あるいはシリンダ圧力)、旋回角(あるいは旋回圧力)の時系列データと、バケット負荷を入力して、作業機械の加速度及びひずみを解析により算出する。
解析により得た当該加速度及びひずみを実測値と比較して、両者が最も一致するようにモデルのパラメータ(例えば、回動軸(ピン)の剛性など)を最適化する。
そして、当該最適化したモデルを用いて、作業機械の姿勢、作業動作および走行動作ならびに作業機械に作用される荷重を変化させながら、作業装置6(ブーム10及びアーム12)だけでなく作業機械全体に発生する応力分布、加速度分布及びひずみ分布を求め、これらをシリンダ変位および旋回角(作業機械の姿勢)と、シリンダ速度および旋回角速度(作業機械の作業動作)と、シリンダ圧力、旋回圧力および作業装置加速度と、車体加速度(作業機械の走行動作)と、荷重をキーとして、応力分布DB42cに格納する。なお、応力分布DB42cには、最適化したモデルから得られる応力分布、加速度分布及びひずみ分布だけでなく、実機を動作させて得た応力分布、加速度分布及びひずみ分布の実験データを含めても良い。
図16は、図15中の加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwを求める際に考慮する上部作業体4の各軸回りの角度のパターン(すなわち、作業機械の姿勢パターン)を示す図である。本実施の形態では、x軸回りの旋回角はそれぞれ値が異なるθx1〜θxnのn通り、y軸回りの旋回角はそれぞれ値が異なるθy1〜θynのn通り、z軸回りの旋回角はそれぞれ値が異なるθz1〜θznのn通りとする。したがって、旋回角のパターンの総数はn3通りとなる。
図17は、図15中の加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwを求める際に考慮する各油圧シリンダ20、22、24の速度のパターン(すなわち、作業装置6の動作のパターン)を示す図である。本実施の形態では、バケットシリンダ速度はそれぞれ値が異なるvBk1〜vBkiのi通り(iは自然数)、アームシリンダ速度はそれぞれ値が異なるvA1〜vAiのi通り、ブームシリンダ速度はそれぞれ値が異なるvB1〜vBiのi通りとする。したがって、シリンダ速度のパターンの総数はi3通りとなる。
図18は、図15中の加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwを求める際に考慮する上部作業体4の各軸回りの角速度のパターン(すなわち、作業装置6の動作パターン)を示す図である。本実施の形態では、x軸回りの旋回角速度はそれぞれ値が異なるωx1〜ωxiのi通り、y軸回りの旋回角速度はそれぞれ値が異なるωy1〜ωyiのi通り、z軸回りの旋回角速度はそれぞれ値が異なるωz1〜ωziのi通りとする。したがって、旋回角速度のパターンの総数はi3通りとなる
図19は、図16及び図18で示した各軸方向(x軸、 y軸、 z軸)と油圧ショベルの関係を示す図である。
図15の説明に戻る。上記により、図15における加速度分布ad_pw、ひずみ分布εd_pw及び応力分布σd_pwに係るパターンpの総数wは、図4のシリンダ変位のパターンの総数と、図5の荷重の方向及び大きさのパターンの総数と図16の上部作業体4の各軸回りの角度のパターン総数と、図17の各油圧シリンダ20、22、24のシリンダ速度のパターン総数と、図18の上部作業体4の各軸回りの角速度のパターン総数などの組合せにより、n6×i6×j7×k×m6通りとなる。したがって、wは1からn6×i6×j7×k×m6までの自然数となる。
第1の実施の形態に係る応力分布DB42aには、油圧ショベルのうちブーム10およびアーム12に係る加速度分布、ひずみ分布および応力分布が記憶されていたが、本実施の形態に係る応力分布DB42cには、油圧ショベルの全体に係る加速度分布、ひずみ分布および応力分布が記憶されている。
時系列データ記憶装置42bには、センサ群11、13、15、17、18、19の出力値のデータと、速度・角度演算部41eで算出されたデータ(シリンダ速度と上部作業体4の角度)が時系列で記憶されており、さらに、これらのデータと応力分布DB42cのデータに基づいて演算処理装置41(応力演算部41a)で推定された作業機械全体の応力分布のデータが時系列で記憶される。
以下、本実施の形態に係るシステムで行われる応力演算処理の詳細について説明する。図20は本発明の第2の実施の形態における応力演算部41aで実行される応力演算処理のフローチャートである。この図に示す処理が開始されたら、応力演算部41aは、時系列データ記憶装置42bから、センサ群11、13、15、17、18、19の出力値と、速度・角度演算部41eの算出値(シリンダ速度と上部作業体角度)の時系列データから所定時刻に係るものを実測データ(抽出データ)として抽出する処理を実行する(S81)。
S81が終了したら、応力演算部41aは、S81の抽出データ(実測データ)と応力分布DB42c内のデータを比較して、当該抽出データに近いデータ列(パターン(pw))を応力分布DB42cから探索する処理を実行する(S82)。なお、第1の実施の形態と同様に、S82で探索した結果得られたパターンに係るデータ(データ列)を「探索データ」と称することがある。具体的には、応力演算部41aは、応力分布DB42c内のシリンダ変位と変位検出器の出力値を比較し、応力分布DB42c内の上部作業体角度と速度・角度演算部41で算出された上部作業体角度を比較し、応力分布DB42c内のシリンダ速度と速度・角度演算部41で算出されたシリンダ速度を比較し、応力分布DB42c内のシリンダ圧力と圧力検出器17a,17b,17cの出力値を比較し、応力分布DB42c内の旋回圧力と圧力検出器17dの出力値を比較し、応力分布DB42c内の作業装置加速度と加速度検出器13の出力値を比較し、応力分布DB42c内の車体加速度と加速度検出器19の出力値を比較することで探索データを見つけ出している。
S82で選択される探索データのデータ列は、抽出データのデータ列に可能な限り近いことが好ましいが、所定の値以上の差が両者のデータ列に存在する場合には、選択した探索データに係る応力分布を内挿又は外挿することで最終的な応力分布としても良い。さらに、選択すべき探索データを容易に1つのパターンに限定できない場合には、抽出データに近い複数の探索データを選択しても良い。この場合には、選択した複数の探索データに係る応力分布を内挿又は外挿することで最終的な応力分布を推定すれば良い。また、探索データの選択の方法としては、公知の方法が利用可能だが、例えば、マッチングに利用する所定の閾値を決定しておき、抽出データと各パターン(pw)に係るデータ列の差が当該閾値内に含まれるか否かで判断するものがある。したがって、当該閾値内に収まるパターンが複数存在する場合には、複数組の探索データが選択されることになり、最終的には当該複数組の探索データに係る応力分布を内挿又は外挿することで応力分布を推定することになる。
S82が終了したら、応力演算部41aは、S82の探索データに基づいて作業機械の応力分布を推定する処理を実行する(S83)。S82で探索されたパターンが1つの場合には、当該パターンに係る応力分布を当該時刻における応力分布として推定する。一方、S82で探索されたパターンが2以上の場合には、当該2以上のパターンに係る応力分布に基づく内挿又は外挿をすることで最終的な応力分布を推定するものとする。
S83が終了したら、応力演算部41aは、S83で推定した応力分布を時刻と関連付けて時系列データ記憶装置42bに記憶する(S84)。S84が終了したら、抽出データをリセットし(S85)、応力分布の推定処理を継続するか否か判定する(S86)。S86で応力分布の推定処理を継続する場合には、Δt秒後の実測データを抽出データとし(S87)、S82移行の処理を繰り返す。一方、S86で処理を終了すると判定された場合には一連の処理を終了する。
以上のように、本実施の形態によれば、センサ群11、13、15、17、18、19の出力値と、速度・角度演算部41eの算出値と、応力分布DB42c内のデータに基づいて、作業機械全体に係る応力分布を推定できるので、ひずみゲージ11a、11bを取り付けた位置における応力だけでなく、作業機械上のあらゆる点における応力を推定することが可能となる。すなわち、本実施の形態では2つのひずみゲージ11a、11bを利用しているが、その取り付け箇所以外の点に係る応力についても、ひずみゲージを追加設置することなく推定することができる。また、ひずみゲージ11a,11bと圧力検出器17a,17b,17cは共に静的荷重を検出するため、どちらか一方のみを用いても良い。したがって、本実施の形態によれば、少数のセンサで作業装置の所望の位置での応力評価が可能なので、作業機械の運動性能の維持及びコストの抑制が可能になる。
なお、上記では図20のフローチャートで示したように、所定時刻におけるセンサ群の実測データを抽出して当該所定時刻における応力分布を推定する場合について説明したが、センサ群から出力される出力値に基づいて応力分布をリアルタイムに推定するように構成しても良いことは言うまでもない。
次に本発明の第3の実施の形態について図面を用いて説明する。図21は本発明の第3の実施の形態に係る応力演算システムの概略構成図である。本実施の形態に係る応力演算システムは、第2の実施の形態のシステムにおける応力分布データベース42cに代えて応力推定式記憶装置42dを備えており、応力演算部41cが、応力推定式記憶装置42dに記憶された応力推定式(応力推定近似式)と、センサ群13、15、17、18、19の出力値および速度・角度演算部41eの算出値(シリンダ速度と上部作業体角度)を利用して作業機械の応力分布を推定している点に特徴がある。
応力推定式記憶装置42dに記憶された応力推定式(応力推定近似式)は、作業機械の機構モデルによる応力分布の解析データに基づいて作成されたもので、作業装置の所定箇所に発生する応力を推定する近似式である。本実施の形態に係る応力推定式は、後述するように、センサ群13、15、17、18、19の出力値と、速度・角度演算部41eの算出値(シリンダ速度と上部作業体角度)をその予測変数として利用している。なお、応力推定式が応力を推定する箇所からは、その性質上、ひずみゲージ11をはじめとする設置箇所に係る応力が間接的または直接的に検出可能な機器の設置箇所を除くことが好ましい。
ここで、応力推定式の構築方法の一例について説明する。応力推定式の構築には応答曲面を用いる。応答曲面とは、n個の予測変数xi (i=1…n)から予測される応答yの関係式を近似したものである。近似式の一般形を下記に示す。下記式におけるεは誤差と呼ばれる。なお、応答曲面において関数f の形に特に制限はない。
y=f (x1、…xn)+ε
図22は本発明の第3の実施の形態で利用される応力推定式についての予測変数と応答値の各パターンデータを示す図である。ここでは、図22に示したデータに応答曲面を適用して応力推定式を求めた。この図に示したデータは、実機の実働を模擬した機構モデルによるシミュレーション解析により求めたものであるが、実機を動作させて得た実験データを含めても良い。
図22に示すように、本実施の形態に係る応力推定式では、「予測変数」として、シリンダ変位および上部作業体角度(姿勢関連パラメータ)と、シリンダ速度および上部作業体角速度(作業動作関連パラメータ)と、シリンダ圧力、旋回圧力および作業装置加速度(荷重関連パラメータ)と、車体加速度(走行動作関連パラメータ)をとっており、「応答」として作業機械の評価位置に生じる応力をとっている。なお、近似式の応答として、応力に代えて評価位置における「ひずみ」を採用し、当該ひずみから応力を算出するように構成しても良い。
なお、本実施の形態における応力推定式は、評価位置ごとに作成されており、作業機械上の複数の評価位置の応力を示す応力分布を推定するには、複数の応力推定式が必要となる。しかし、応力の測定位置情報および方向情報と、作業機械を構成する部材の板厚情報とを予測変数に加えることで、評価位置ごとに作成した複数の応力推定式を1つの式にまとめ、当該1つの式(応力分布推定近似式)のみで複数の評価位置における応力分布(例えば、作業機械上の全ての評価位置における応力分布)が推定可能なように構成しても良い。このように複数の応力推定式を1つにまとめた応力分布推定近似式を利用すると、複数の応力推定式を利用する場合と比較して、応力分布の算出処理が簡略できるとともに、算出に要する時間を短縮できる。
図23は本発明の第3の実施の形態における応力演算部41cで実行される応力演算処理のフローチャートである。この図に示す処理が開始されたら、応力演算部41cは、時系列データ記憶装置42bから、センサ群13、15、17、18、19の出力値と、速度・角度演算部41eの算出値(シリンダ速度と上部作業体角度)の時系列データから所定時刻に係るものを実測データとして抽出する処理を実行する(S91)。
S91が終了したら、応力演算部41cは、応力推定式記憶装置42dに記憶された各評価位置に係る応力推定式に抽出データ(実測データ)を代入して、作業機械に発生する応力分布を推定する処理を実行する(S92)。
S92が終了したら、応力演算部41cは、S92で推定した応力分布を時刻と関連付けて時系列データ記憶装置42bに記憶する(S93)。S93が終了したら、抽出データをリセットし(S94)、応力分布の推定処理を継続するか否か判定する(S95)。S96で応力分布の推定処理を継続する場合には、Δt秒後の実測データを抽出データとし(S96)、S92移行の処理を繰り返す。一方、S95で処理を終了すると判定された場合には一連の処理を終了する。
このように、本実施の形態では、センサ群13、15、17、18、19により実測されるデータと速度・角度演算部41eより出力されるデータを応力推定式に代入することで応力を推定しているため、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に存在していた応力分布データベース42a,42cを必要としない。このため、データベース42a,42cに係るデータと実測データのマッチング処理を省略することができ、応力演算の処理速度を向上することが可能となる。
なお、ひずみゲージ11a,11bの検出値は、図22に示した予測変数(荷重関連パラメータ)の1つとして応力分布の推定に利用しても良いが、ひずみゲージ11a,11bの設置位置における応力を上記の応力推定式で算出し、当該算出値と、ひずみゲージ11a,11bの検出値から算出される応力の実測値とを比較する処理を応力演算部41aで実行し、両者の偏差が所定の範囲に収まっているか否かで応力推定式の精度を検証しても良い。また、当該両者の偏差を応力推定式の校正に利用しても良い。なお、ひずみゲージ11a,11bは、その設置箇所に係る“ひずみ”を検出するものであって、当該設置箇所に係る“応力”を検出するものではないが、ひずみを応力に変換することは容易であり、上記の場合には、当該設置箇所に発生する応力を検出する応力検出器として実質的に機能している。
ところで、上記の各実施の形態では、油圧ショベルに適用した場合について説明したが、本発明は、アクチュエータによって駆動される作業装置を備える自走式の作業機械であれば他のものにも適用可能である。次に、その一例として、第3の実施の形態に係る発明をダンプトラックとホイールローダに適用する場合を挙げ、その場合に応力分布を算出する際の予測変数と応答のとり方について説明する。
図24は本発明の実施の形態に係るダンプトラックの全体構成図である。この図に示すダンプトラック50は、前輪及び後輪が取り付けられた車体フレーム51と、車体フレーム51の後方に回動可能に取り付けられた荷台52と、伸縮することで荷台52を回動させるホイストシリンダ53と、前輪の車軸に取り付けられたフロントサスペンション54と、後輪の車軸に取り付けられたリヤサスペンション55を備えている。
車体フレーム4には、駆動系や運転席等の主要構成要素が搭載されており、前輪及び後輪によって車両が路面上を自由に走行可能な構成となっている。ホイストシリンダ5を伸長させると、荷台3は回動しながら前端を上昇させて傾斜角度を増していくように動作し、荷台3の上に積載した積荷(運搬物)を荷台3の後端から排出することが可能となっている。
図25は本発明の実施の形態に係るホイールローダの全体構成図である。この図に示すホイールローダ60は、油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される多関節型の作業装置62を車両前方に備えている。作業装置62は、車両本体にピン(ヒンジピン)を介して揺動可能に取り付けられた1組のリフトアーム65と、リフトアーム65を揺動させるためにリフトアーム65と車両本体に架け渡されたアームシリンダ63と、1組のリフトアーム65の先端にピンを介して回動可能に取り付けられたバケット66と、1組のリフトアーム65を連結するアームに回動可能に取り付けられたベルクランク67と、バケット66を回動させるためにベルクランク67と車両本体に架け渡されたバケットシリンダ64と、ベルクランク67とバケット66に架け渡されたバケットリンク68を備えている。バケットシリンダ64を伸縮させるとバケット66が回動される。
オペレータは、図示していないステアリングホイールを操作することで、ステアリングシリンダ69を伸縮させて車両の屈折角を調節し、車両を旋回させることができる。また、操縦席内のリフトレバー、バケットレバーなどを操作することで、アームシリンダ63、バケットシリンダ64を伸縮させて、バケット66の高さと傾きを制御し、掘削および荷役作業を行うことができる。
図26は本発明をダンプトラックとホイールローダに適用した場合の予測変数と応答の関係を油圧ショベルの場合と対比してまとめた図である。この図に示すように、ダンプトラックおよびホイールローダの場合も油圧ショベルと同じで、応力推定式の予測変数として、姿勢関連パラメータ、作業動作関連パラメータ、荷重関連パラメータおよび走行動作関連パラメータをとり、応力推定式の応答として応力をとる。
ダンプトラック50の場合には、姿勢関連パラメータとして、ホイストシリンダ53の変位と、サスペンション54,55の変位と、車体フレーム51と荷台52の挟角度と、車体フレーム51についての3軸回りの角度(車体角度)をとる。なお、ホイストシリンダ変位およびサスペンション変位は、油圧ショベルの場合と同様に変位検出器によって検出可能である。車体51と荷台52の挟角度は、角度センサまたはホイストシリンダ53の変位検出器によって検出可能である。車体角度は、油圧ショベルの場合と同様に回転検出器によって検出可能である。
また、作業動作関連パラメータとしては、ホイストシリンダ53の速度をとる。ホイストシリンダ速度は、変位検出器によって検出されるホイストシリンダ変位を時間微分することで算出できる。
荷重関連パラメータとしては、サスペンション54,55の圧力(反力)と、ホイストシリンダ53の圧力と、荷台53の加速度をとる。サスペンション圧力およびホイストシリンダ圧力は圧力検出器によって検出可能であり、荷台加速度は加速度検出器によって検出可能である。
走行動作関連パラメータとしては車体フレーム51の加速度(車体加速度)をとる。車体加速度は油圧ショベルの場合と同様に加速度検出器によって検出可能である。
応答としては、荷台53や車体フレーム51に生じる応力をとり、上記で説明した油圧ショベルの場合と同様に応答曲面によって応力推定式を構築するものとする。これにより、上記で説明した油圧ショベルの場合と同様に、ダンプトラックについても荷台53や車体フレーム51の応力分布の推定が可能となる。
一方、図25に示したホイールローダの場合60には、姿勢関連パラメータとして、アームシリンダ63の変位と、バケットシリンダ64の変位と、ステアリングシリンダ69の変位(または、車両の屈折角度)をとる。各シリンダ63,64,69の変位は、変位検出器によって検出可能である。屈折角度は、角度検出器によって検出可能である。
また、作業動作関連パラメータとしては、アームシリンダ63の速度と、バケットシリンダ64の速度と、ステアリングシリンダ69の速度(または、車両の屈折角度の角速度)をとる。各種シリンダ63,64,69の速度は、変位検出器によって検出される変位を時間微分することで算出できる。
荷重関連パラメータとしては、アームシリンダ63の圧力と、バケットシリンダ64の圧力と、ステアリングシリンダ69の圧力と、作業装置62の加速度をとる。角シリンダ63,64,69の圧力は、油圧ショベルの場合と同様に圧力検出器によって検出可能である。作業装置62の加速度は、油圧ショベルの場合と同様に加速度検出器によって検出可能である。また、走行動作関連パラメータとして車体加速度をとる。車体加速度は加速度検出器によって検出可能である。
応答としては、作業装置62や車体に生じる応力をとり、上記で説明した油圧ショベルの場合と同様に応答曲面によって応力推定式を構築するものとする。これにより、上記で説明した油圧ショベルの場合と同様に、ホイールローダについても応力分布の推定が可能となる。
なお、上記では、第3の実施の形態について説明したが、第1および第2の実施の形態のように応力分布DBを作成し、当該応力分布DBとセンサ群の出力値に基づいて応力分布を推定することも同様に可能である。
ところで、本発明は、上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の各実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
また、上記の応力演算システムに係る各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、フラッシュメモリ、DVD等の記録媒体に記憶することができる。また、上記では、実施の形態の説明に必要であると解される制御線や情報線を簡略して示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を正確に示しているとは限らない。すなわち、殆ど全ての構成が相互に接続されていることもある。