JP5884168B2 - 方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
上記した方法のうち、線状溝の形成は、鉄損の改善効果が大きいことが知られているが、磁束密度を劣化させるという欠点がある。
一方、レーザやプラズマ炎、電子ビーム照射による磁区細分化は、鉄損を劇的に改善することができるだけでなく、鋼板の磁束密度はほとんど劣化させないことが知られている。ところが、このような磁区細分化を行うと、鋼板の透磁率は減少する傾向にある。透磁率が低くなると、励磁に必要な電流が大きくなり、変圧器の負荷損が増大してしまう。また、磁気シールドなどの用途では、透磁率が低いとシールド性が劣化してしまう。
しかしながら、例えば特許文献3に示されるように、レーザなどを照射した部分には、局所的に高転位密度領域が形成される。
さらに、ビーム照射材の生産性を高くすることを背景として、以下に述べるように、ビームのパワー密度はできるだけ高くすることが求められており、照射による透磁率の劣化代はますます大きくなる傾向にある。
しかしながら、これまでの技術では、パルス照射部の間隔pを過度に大きくすると、鉄損が十分に低減しないという問題があった。
Q=W/v=W/(pf)
であるから、走査速度vが大きくなると、入熱量Qを一定に保つためには、ビーム出力Wを大きくしなければならない。ビーム出力が高い場合、ビーム径などが同等であれば、パワー密度も高くなる。
すると、上記したように、透磁率の劣化を抑制する観点からは不利になってしまう。特許文献4によれば、パワー密度が高くなる分、入熱量を低減させても、同等の鉄損低減効果が得られるとされているが、それでも透磁率の劣化を防止するほどまで入熱量を低減することはできない。
通常、パルス状にビーム照射する場合には、図1(a)に示すように、例えば、s2/s1<0.1となるように、s2がs1に対して十分短くなるように設定されるが、短時間照射部におけるビームの走査速度(最大走査速度)を小さくし、s2/s1を通常よりも大きくすることによって、ドットピッチを過度に小さくすることなく、連続的なビーム照射に近づけることが可能であることに想い至った。さらに、実験を積み重ねることによって、上記のように短時間照射部におけるビームの走査速度を小さくした場合には、パワー密度が比較的低くても、十分な鉄損低減効果が得られることが見出された。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.鋼板の表面に、圧延方向に対して60°から120°の方向に線状の格子歪みを形成した方向性電磁鋼板であって、
上記線状格子歪みの方向に沿って、格子歪みが0.1〜0.3%である領域と0.3%超の領域が、0.1〜0.35mmの間隔で交互にかつ周期的に分布していることを特徴とする方向性電磁鋼板。
上記電子ビームの最大走査速度が50m/s〜300m/sで、かつ平均走査速度が20m/s以上の条件で電子ビーム照射を行うことを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
また、本発明に示す低鉄損・高透磁率材を製造するための電子ビーム照射は、高速走査が可能であるため、ビーム照射材の生産性を低下させることがなく、この点でも産業上有用である。
[被照射材]
本発明は、方向性電磁鋼板に適用され、鋼板には、地鉄の上に絶縁被膜などがコーティングされていても良いし、無くても問題はない。そして、本発明に従う照射条件にてビームを照射することによって、以下に示す歪み分布を有する方向性電磁鋼板となる。
ビーム照射によって、鋼板表面に形成される格子歪み(以下、単に歪みという)は、鋼板表面の圧延方向に対して60°から120°の方向に線状に生成され、この方向に沿って、歪みの大きさが0.1〜0.3%である領域と0.3%以上の領域が、一定間隔dで交互にかつ周期的に分布している。ここで、dは、ドットピッチの半分に相当し、0.1mm以上となっている。
(a) JとKが交互に周期的に存在する場合、
(b) JとLが交互に周期的に存在する場合、および
(c) KとLが交互に周期的に存在する場合
の、鉄損と透磁率バランスについて調べた結果を示す。
ここに示される素材は、(a)についてはB8が1.925〜1.930T、Wh17/50が0.272〜0.299W/kgの範囲で、(b)についてはB8が1.925〜1.929T、Wh17/50が0.273〜0.299W/kgの範囲で、(c)についてはB8が1.925〜1.929T、Wh17/50が0.272〜0.299W/kgの範囲で、それぞればらついた特性を有するものであり、いずれの試料も、電子ビーム照射前の透磁率μ17/50は30000〜34500emu、全鉄損W17/50は0.845〜0.865W/kgであった。また、dは、いずれの試料も0.2mmとした。
本発明は、ビーム照射によって、局所的な高転位密度領域の形成を抑制しつつ、磁区を細分化させることによって、低鉄損化を図るものであるが、その方法は、鋼板表面に連続的にビームを照射できるものであればいずれでも構わない。好適には、電子ビーム照射、プラズマ炎照射、レーザ照射であるが、その他の手法であっても、鋼板を局所的に高温化させることができるものであれば適用することができる。
以下、代表例として、電子ビームを使用する場合について説明する。
図中、Aで示す円はビームスポットを示しており、ビームはA-1の位置にて一定時間(t)待機し、次のA-2まで速度Vmで移動し、A-2にてまた一定時間待機するような照射を繰返す。ここで、vmは照射中の最高速度になるので、以下、最高走査速度とする。
単位長さ当たりの平均走査速度vは、v〜1/(1/vm+t/p)で表すことができる。
ここで、平均走査速度vは20m/s以上とする。vが20m/sより小さいと、ビーム照射材の生産性が低下する。一方、vがあまりに大きいと、鋼板を局所的に高温化するために、過度の出力が必要になり、装置の寿命を著しく低下させるため、最大でも200m/s程度とすることが望ましい。
また、最高走査速度vmは、50m/s〜300m/sとする。50m/sより小さくすると、vが小さくなって、ビーム照射材の生産性が悪くなる。一方で、300m/sより大きくすると、図3中のB部に照射される熱量が過度に小さくなり、かえってA部において十分な鉄損低減に必要なビームのパワー密度が高くなって透磁率の劣化代が大きくなってしまうからである。
ドットピッチpは、0.2〜0.8mmとすることが好ましい。生産性向上の点から0.2mm以上であることが好ましく、一方0.8mmより大きいと、ビーム照射後の鉄損が十分には低減しない。
なお、その他、照射エネルギ、ビーム径などは、WD(ワーキングディスタンス)、真空度などの条件によって調整範囲、適正値が異なるため、必要に応じて適宜調整する必要がある。
鋼板表面の歪み分布は、CrossCourt Ver.3.0(BLG Productions Bristol製)を用いたEBSD−wilkinson法によって測定した。1回の測定における測定視野は、予めマグネットビュアー観察などによって還流磁区が形成され、ビームが照射されたと推定される部分が中心になるように、600μm以上×600μm以上の範囲とした。また、測定ピッチは5μmとし、還流磁区形成部から200μm離れた位置を無歪み参照点に選んだ。
また、被膜付き試料のEBSD測定をするにあたっては、事前に被膜を除去した。被膜除去処理後、被膜が残存しないことは、EPMA測定などにより簡易に行うことが可能である。被膜の除去は、従来知見に基づき行えば良いが、被膜除去の際、地鉄を過度に削ることが無いように注意する必要がある。本測定は、いずれの試料においても、地鉄表面から10μmの部分で歪み測定を実施した。また歪みとして、線上に観察された還流磁区領域の長手方向(ビームの走査方向)の歪みを測定した。
長さ(圧延方向):280mm、幅(圧延直角方向):100mmの試料を用い、JIS C2556に準拠して、単板磁気試験装置による磁気測定を行った。また、素材鉄損測定と同じ試料について直流磁化(0.01HZ以下)で、磁束最大値:1.7T、最小値:−1.7Tのヒステリシス(B−H)ループの測定を行い、そのB−Hループ1周期から求めた鉄損をヒステリシス損Wh17/50 とした。
本発明が適用される方向性電磁鋼板の素材の成分組成としては、例えば以下の元素が挙げられる。
Si:2.0〜8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0質量%に満たないと十分な鉄損低減効果が達成できず、一方8.0質量%を超えると加工性が著しく低下し、また磁束密度も低下するため、Si量は2.0〜8.0質量%の範囲とすることが好ましい。
Cは、熱延板組織の改善のために添加を行うが、最終製品では磁気時効の起こらない50質量ppm以下までCを低減することが好ましい。
Mnは、熱間加工性を良好にする上で必要な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその添加効果に乏しく、一方1.0質量%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、Mn量は0.005〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
Ni:0.03〜1.50質量%、Sn:0.01〜1.50質量%、Sb:0.005〜1.50質量%、Cu:0.03〜3.0質量%、P:0.03〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.10質量%およびCr:0.03〜1.50質量%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03質量%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.50質量%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。そのため、Ni量は0.03〜1.50質量%の範囲とするのが好ましい。
また、Sn,Sb,Cu,P,MoおよびCrはそれぞれ、磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと磁気特性の向上効果が小さく、一方上記した各成分の上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeである。
a:JとKが交互に周期的に存在する場合、
b:JとLが交互に周期的に存在する場合、および
c:KとLが交互に周期的に存在する場合
を表している。
その後、磁気測定を行ったのち、被膜を除去し、地鉄表面から10μmの位置でEBSD法にて表面の歪み分布を測定した。磁気測定値は10枚の測定試料の平均値とした。
表1に、実験結果を示す。
本方向性電磁鋼板は、鉄損W17/50が0.75W/kg以下であり、かつ、透磁率が20000emu以上の極めて優れた磁気特性を有することが分かる。比較して、本発明条件から逸脱し、歪み分布がbの状態であるNo.1の条件では、低鉄損が得られるものの、透磁率が20000emu未満となる。また、歪み分布がcの状態であるNo.8の条件では、高い透磁率が得られるものの、鉄損が大きくなる。なお、No.10に示すよう に、圧延方向における線間隔(RD線間隔)が13mmと大きい場合には、0.75W/kgより大きい鉄損となってしまうが、RD線間隔は、必要となる特性と生産性との兼ね合い等で適宜定めればよい。
Claims (3)
- 鋼板の表面に、圧延方向に対して60°から120°の方向に線状の格子歪みを形成した方向性電磁鋼板であって、
上記線状格子歪みの方向に沿って、格子歪みが0.1〜0.3%である領域と0.3%超の領域が、0.1〜0.35mmの間隔で交互にかつ周期的に分布していることを特徴とする方向性電磁鋼板。 - 方向性電磁鋼板の表面に、圧延方向に対して60°から120°の方向に電子ビームを照射して格子歪み領域を形成するに際し、
上記電子ビームの最大走査速度が50m/s〜300m/sで、かつ平均走査速度が20m/s以上の条件で電子ビーム照射を行うことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。 - 格子歪み領域を形成する前記電子ビーム照射を、鋼板表面上の圧延方向に3〜10mmの間隔を隔てて周期的に行うことを特徴とする請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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