しかしながら、特許文献1の技術では、制御盤を用いて温度制御を行うので、システムが複雑化すると共に、高価なものとなる。また、運転時には電力を使用するので、運転コストもかかってしまう。さらに、電気配線や温水管を耕作地に敷設する必要があるので、設置作業に手間がかかる上、設置後は、電気配線などが農作業の邪魔になる恐れがある。
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、株元保温器および長茎植物の栽培方法を提供することである。
この発明の他の目的は、導入コストおよび運転コスト等のコストを低減できる、株元保温器および長茎植物の栽培方法を提供することである。
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
第1の発明は、長茎植物の株元を保温する株元保温器であって、断熱性を有しかつ少なくとも一部に透明部分を有する、株元を覆う筒状のケーシング、ケーシングの上端に形成される上端開口部、ケーシングの下端に形成される下端開口部、ケーシングに形成されて当該ケーシングを軸方向に沿って開口可能とする分離部、およびケーシングの内面に設けられる潜熱蓄熱体を備える、株元保温器である。
第1の発明では、株元保温器(10)は、潜熱蓄熱体(12)およびケーシング(14)を備え、長茎植物(100)の株元(102)に装着される。そして、株元を温めることによって、寒冷期における長茎植物の生育低下の防止、或いは生育の増強を図る。ケーシングは、たとえば、有頂有底の円筒状または下方に向かって拡径する円筒状などに形成されて、株元を覆う。また、ケーシングを形成する壁部は、断熱性を有し、ケーシングの少なくとも一部は、透明(半透明も含む)となっている。ケーシングの上端および下端のそれぞれには、上端開口部(34)および下端開口部(36)が形成され、これら開口部を株元の上部および下部が通る。また、ケーシングには、ケーシングを軸方向に沿って開口可能とする分離部(28)が形成される。そして、ケーシングの内面には、潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)を封入した潜熱蓄熱体が設けられる。
株元に装着した株元保温器では、日中は、ケーシングの透明部分を透過した太陽光が蓄熱体を照射し、放射熱が潜熱蓄熱体に蓄熱される。そして、気温が低下する夜間に、蓄熱した熱が潜熱蓄熱体から放熱されることによって、ケーシング内、つまり株元の温度は、潜熱蓄熱材の相転移温度付近の一定温度で保温される。
第1の発明によれば、日中に潜熱蓄熱体に蓄えた熱を夜間に放出することによって、株元を保温する。つまり、電力を使用しないので、栽培時の運転コストを削減できる。また、保温時には、ケーシング内の温度が潜熱蓄熱材の相転移温度付近で一定に保たれるので、温度制御を行うための制御盤などが不要であり、電気配線なども不要である。このため、株元保温器の構成は簡単なものとなり、安価に製造できる上、取扱いおよびメンテナンスが容易となる。
第2の発明は、第1の発明に従属し、弾性を有する材質によって形成され、上端開口部に設けられて株元外面との間の気密性を保つ断熱体をさらに備える。
第2の発明では、株元保温器(10)は、上端開口部(34)に設けられる断熱体(38)をさらに備える。断熱体は、発泡ポリエチレン等の弾性を有する素材によって形成され、上端開口部と株元(102)外面との間の気密性を保つ。
第2の発明によれば、断熱体が弾性を有することによって、株元外面に対して断熱体が適切に密着できる。したがって、上端開口部と株元外面との間の気密性は確実に保たれ、ケーシングの保温性能が向上する。また、株元の外径の大小にも対応できるようになる。このため、複数種類の長茎植物に適用でき、また、株元が生長してその外径が大きくなった場合でも、その拡径に追従できる。
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、潜熱蓄熱体は、ケーシングの周方向の所定範囲のみであって、かつケーシングの透明部分に設けられる。
第3の発明では、潜熱蓄熱体(12)は、ケーシング(14)の周方向の所定範囲、たとえば90−180°の範囲のみに設けられ、かつケーシングの透明部分に設けられる。
第3の発明によれば、潜熱蓄熱材の使用量を低減しつつ、太陽熱を効率的に蓄熱できる。
第4の発明は、第1ないし第3のいずれかの発明に従属し、ケーシングの下端は、開放端とされる。
第4の発明では、ケーシング(14)には底壁が形成されず、ケーシングの下端は、開放端とされる。すなわち、株元保温器(10)を株元(102)に装着した際には、ケーシングの内部空間に土壌(104)の表面が露出する状態となり、株元の下部は、解放状態とされる。
第4の発明によれば、ケーシングの内部空間に土壌表面が露出するので、夜間の保温時には、潜熱蓄熱体からの放熱だけではなく、地熱によってもケーシング内が温められる。したがって、株元保温器の保温性能が向上する。
第5の発明は、第1ないし第4のいずれかの発明に従属し、ケーシングの透明部分は、中間に空気層を有する中空壁によって形成される。
第5の発明では、ケーシング(14)の透明部分は、中間に空気層(40)を有する中空壁(2重壁)によって形成される。
第5の発明によれば、壁内に空気層を形成することによって、透明性を保持しつつ、適度な断熱効果を得ることができる。
第6の発明は、第1ないし第5のいずれかの発明に従属し、ケーシングの外部に空気層を形成するように当該ケーシングを覆い、かつ下端が開放端とされる保温カバーをさらに備える。
第6の発明では、株元保温器(10)は、ケーシング(14)の外部を覆うように設けられて、ケーシングの周囲に空気層(52)を形成する保温カバー(50)をさらに備える。保温カバーの下端は、開放端とされ、ケーシング外部に形成される空気層には、土壌(104)の表面が露出する。これにより、夜間の保温時には、ケーシング外部の空気層が地熱によって温められる。
第6の発明によれば、ケーシングの外部気温が上昇し、ケーシングから外部への放熱を少なくすることができるので、潜熱蓄熱体に蓄えた熱をより効率的に株元の保温に利用できる。
第7の発明は、長茎植物を栽培する際に、第1ないし第6のいずれかの発明に係る株元保温器を長茎植物の株元に装着することを特徴とする、長茎植物の栽培方法である。
第7の発明によれば、第1ないし第6の発明と同様の作用効果を奏し、寒冷期における長茎植物の生育低下の防止、或いは生育の増強を図ることができる。
この発明によれば、電力を使用せずに太陽熱を利用して株元を保温するので、栽培時の運転コストを削減できる。また、保温時には、ケーシング内の温度が潜熱蓄熱材の相転移温度付近で一定に保たれるので、温度制御を行うための制御盤などが不要であり、電気配線なども不要である。したがって、株元保温器の構成は簡単なものとなり、安価に製造できる上、取扱いおよびメンテナンスが容易となる。
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
図1を参照して、この発明の一実施例である株元保温器10は、ガラス室やビニルハウス等の温室などで栽培される長茎植物100の株元(植物株の茎の根元部分)102に装着されるものである。詳細は後述するが、株元保温器10は、潜熱蓄熱材を封入した潜熱蓄熱体(以下、単に「蓄熱体」という。)12およびケーシング14を備え、潜熱蓄熱材が相変化に伴って放出する潜熱を利用して株元102を温めることによって、寒冷期における長茎植物100の生育低下の防止、或いは生育の増強を図る。なお、長茎植物100とは、茎が長く伸びる種類の植物を言い、ナス、トマト、キュウリ、ピーマン、メロンおよびニガウリ等を含む。
図2−5に示すように、株元保温器10は、側壁20、天壁22および底壁24を有する有頂有底の円筒状に形成されるケーシング14を備える。ケーシング14は、ポリ塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂などの透明性を有する材質によって形成される。なお、この発明で言う「透明」とは、半透明も含む概念であるが、ケーシング14を形成する材質としては、太陽光が充分に透過するように、透明性に優れるものが好ましい。
具体的には、ケーシング14は、1対の半割体によって形成される。半割体の周方向の一方端同士は、ヒンジ26によって結合されており、ケーシング14は、このヒンジ26を中心として開くことができる。つまり、ケーシング14には、ケーシング14を軸方向に沿って開口可能とする分離部28が形成される。また、半割体の周方向の他端側には、円筒状受部と棒状差込部とを含む留め具30が設けられる。分離部28を閉じてこの留め具30を嵌合状態にすることによって、ケーシング14全体として円筒形状が保持される。また、分離部28の端面(接続面)には、ゴムパッキン32等が貼り付けられ、分離部28を閉じた際の気密性および断熱性は確保される。
ケーシング14の天壁22の中央部には、軸方向に貫通するように形成され、株元102上部が通る上端開口部34が形成される。また、底壁24の中央部には、軸方向に貫通するように形成され、株元102下部が通る下端開口部36が形成される。そして、上端開口部34および下端開口部36のそれぞれには、円筒状の断熱体38が設けられる。この断熱体38は、発泡ポリエチレンおよび発泡ウレタン等の弾性を有する素材によって形成されることが好ましい。弾性を有する断熱体38を各開口部34,36に設けることによって、真円形状にならない株元102の外面に対しても断熱体38の内面が適切に密着できるので、この部分に隙間が生じ難くなり、ケーシング14の保温性能が向上する。また、株元102の外径の大小にも対応できるようになるので、複数種類の長茎植物に適用でき、株元102が生長してその外径が大きくなった場合でも、その拡径に追従できる。
また、ケーシング14の側壁20、天壁22および底壁24のそれぞれは、内部に空気層40を有する中空壁、つまり間隔を隔てて設けられる内壁と外壁とを有する2重壁によって形成される。このように、その内壁および外壁を透明性を有する素材によって形成すると共に、中間層に空気層40を形成することによって、側壁20、天壁22および底壁24のそれぞれは、太陽光が透過する透明性を有し、かつケーシング14内の熱が外部に漏れることを防ぐ断熱性を有するようになる。ただし、ケーシング14は、必ずしも2重壁構造とされる必要はなく、透明性および断熱性を有する素材による単層構造で形成することもできる。
ケーシング14(株元保温器10)の高さは、長茎植物100の種類に応じて適宜設定するとよく、たとえば150−300mmである。また、ケーシング14の外径は、たとえば100−150mmであり、空気層40を含む側壁20の厚さは、たとえば20−30mmである。
このようなケーシング14の内面には、蓄熱体12が設けられる。蓄熱体12は、透明性を有する合成樹脂製のフィルム等によって形成される袋状容器内に潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)を封入したものである。この実施例では、ケーシング14を構成する半割体の一方に対して、半割体の内面全体を覆うように、半円筒状に形成した4つの蓄熱体12が上下方向に並んで配置される。蓄熱体12の厚みは、たとえば5−15mmである。また、蓄熱体12の袋状容器の肉厚は、蓄熱体12の大きさや材質などに応じて適宜設定されるが、潜熱蓄熱材が熱交換を速やかに行うことができるように、その形状および実用可能な強度を保持できる最小の肉厚に設定するとよい。
なお、株元102に株元保温器10を装着する際には、蓄熱体12を設けた部分が南側に位置するようにされる。つまり、この実施例では、蓄熱体12は、日射を受け易い南側部分のみに設けられる。蓄熱体12を設ける範囲は、南側を中心として90−180°となる範囲が好ましい。これによって、潜熱蓄熱材の使用量を低減しつつ、太陽熱を効率的に蓄熱できるようになる。
潜熱蓄熱材としては、従来公知のものを適宜用いるとよく、たとえば、塩化カルシウム6水和塩および硫酸ナトリウム10水和塩などの無機水和物を好適に用いることができる。この潜熱蓄熱材には、所望の相変化温度に調整するための融点調整剤が適宜添加される。潜熱蓄熱材の相変化温度は、株元102を保温する長茎植物100の種類に応じて適宜調整され、たとえば15−20℃に調整される。この実施例では、潜熱蓄熱材の相変化温度は、18℃に調整されている。また、潜熱蓄熱材には、耐久性を高めるために、過冷却防止剤および相分離防止剤などの添加剤を添加することもできる。さらに、潜熱蓄熱材にカーボンブラック等の着色剤を加えて、潜熱蓄熱材を黒色などに着色することによって、太陽光を吸収し易くすることもできる。
このような株元保温器10は、上述したように、蓄熱体12を設けた部分が南側に位置するようにして、長茎植物100の株元102に装着される。株元保温器10を株元102に装着する際には、ケーシング14の分離部28を開き、側方から株元102を挟み込むようにして分離部28を閉じた後、留め具30を嵌合状態にする。この際、株元102の上部および下部の外面と断熱体38の内面とは、気密的に密着する。また、分離部28の端面同士も、ゴムパッキン32を介して気密的に密着する。つまり、ケーシング14内は、断熱的に覆われた密閉空間となり、この密閉空間内に株元102が収容されることとなる。
株元102に装着した株元保温器10では、日中は、ケーシング14を透過した太陽光が蓄熱体12に照射され、放射熱が蓄熱体12(潜熱蓄熱材)に蓄熱される。そして、気温が低下する夜間に、蓄熱した熱が蓄熱体12から放熱される。ここで、潜熱蓄熱材は、蓄放熱に伴う相変化中は温度が一定であるため、蓄熱体12は、一定温度で放熱する。また、ケーシング14内は、断熱的に覆われた密閉空間である。このため、蓄熱体から放出された熱は、外部に逃げることなくケーシング14内に留まり、放熱時のケーシング14内(つまり株元102)の温度は、所定温度で一定に保たれる。
図6には、3月末において、ハウス内で栽培される長茎植物100の株元102に株元保温器10を装着し、そのときのハウス内温度およびケーシング14内温度の推移を調べた結果を示す。なお、夜間(19時−7時)のハウス内は、空調設備が作動され、13℃に保たれたものとする。図6に示すように、ハウス内温度は、日の出と共に上昇し、日の入りと共に下降して、夜間は空調設備によって一定温度に保たれる。一方、ケーシング14内温度(株元温度)は、日の出と共に上昇するが、このときの温度は、ハウス内温度を相対的に下回っている。これは、放射熱が蓄熱体12に蓄熱されて、ケーシング14内温度の上昇が抑制されたからだと考えられる。また、ケーシング14内温度は、日の入りと共に下降するが、その温度変化の幅はハウス内温度よりも小さく、夜間では、ハウス内温度よりも約4℃高い温度を保持する。すなわち、気温が低下する夜間には、蓄熱体12に蓄熱した熱が放熱されることによって温度低下が抑えられ、ケーシング14内が一定温度で保温されることが分かる。
このように、株元保温器10を用いて株元102を保温することで、長茎植物100の生育低下の防止、或いは生育の増強を図ることができる。また、これにより、温室全体の温度を上げる必要がなくなるので、空調設備の温度設定を低めに設定でき、暖房費を低減できる。
この実施例によれば、日中に蓄熱体12に蓄えた熱を夜間に放出することによって、株元102を保温する。つまり、太陽熱を利用して株元102を保温し、電力を使用しないので、栽培時の運転コストを削減できる。
また、蓄熱体12の放熱時(保温時)には、ケーシング14内の温度が潜熱蓄熱材の相転移温度付近で一定に保たれるので、温度制御を行うための制御盤などが不要であり、電気配線なども不要である。このため、株元保温器10の構成は簡単なものとなり、安価に製造できる上、取扱いおよびメンテナンスが容易となる。
さらに、一方端同士をヒンジ26によって結合した半割体によってケーシング14を形成したので、株元102への株元保温器10の取り付けを容易に行うことができる。
なお、上述の実施例では、ケーシング14を有頂有底の円筒状に形成したが、ケーシング14の形状はこれに限定されない。たとえば、図7に示すように、ケーシング14に天壁22および底壁24を形成せずに、円筒状に形成した側壁20のみでケーシング14を形成することもできる。図7に示す株元保温器10の場合には、側壁20の両開口端のそれぞれが、上端開口部34および下端開口部36となり、上端開口部34および下端開口部36のそれぞれには、円筒状の断熱体38が設けられる。この際、蓄熱体12が株元102と接触するようにしてもよい。このように、ケーシング14の内部空間を小さくする、つまり蓄熱体12を用いて保温する株元102周りの空間を極力小さくすることによって、外部への放熱が少なくなり、蓄熱体12に蓄えた熱をより効率的に株元102の保温に利用できるようになる。これにより、保温可能な時間を長くすることができる、或いは、潜熱蓄熱材の必要量を少なくできる。また、ケーシング14を小さくすることによって、ケーシング14自体の材料コストも低減できる。
また、たとえば、詳細は後述する図8−11に示す株元保温器10のように、ケーシング14を下方に向かって拡径する円筒状、つまり中空の略円錐状に形成することもできる。
また、上述の実施例では、株元102を1つの株元保温器10で覆うようにしているが、これに限定されない。たとえば、株元保温器10の高さを5−10cmというように低めに設定しておき、使用する際には、株元保温器10を多段に積み重ねて株元102に装着するようにしてもよい。これによって、株元保温器10によって温める株元102の高さを調節できるようになるので、茎の伸長に対応でき、複数種類の長茎植物にも対応できるようになる。
さらに、上述の実施例では、分離部28を閉じる留め具30として、嵌合タイプのものを用いたが、留め具30の構成は、分離部28を閉じた状態で固定保持できるものであれば、特に限定されない。また、留め具30は、ケーシング14の外面に設けられてもよいし、分離部28の端面(接続面)に設けられてもよい。たとえば、留め具30としては、面ファスナ、粘着テープおよびマグネット等を用いてもよい。
また、留め具30は、必ずしもケーシング14と一体的に設けられる必要はなく、たとえば、別体である結束バンドや紐などを用いてケーシング14の閉状態を保持することもできる。また、たとえば、ケーシング14外面(半割体の周方向の他端側)に軸方向に延びる平板状の突起(フランジ)を形成しておき、それをクリップで挟むようにして止める、或いはその突起に貫通孔を形成してボルトおよびナットで止めることよって、ケーシング14の閉状態を保持することもできる。
また、上述の実施例では、装着が容易となるように、周方向の一方端をヒンジ結合した半割体によってケーシング14を形成したが、これに限定されない。たとえば、ケーシング14を形成する半割体は、装着前は完全に分離できるものとし、上述のような留め具30を半割体の周方向両端に設けておくことによって、装着時に一体化するようにしてもよい。すなわち、分離部28は、一方向に開いて開口するものだけでなく、完全に分離状態になって開口するものも含む。
次に、図8−11を参照して、この発明の他の実施例である株元保温器10について説明する。なお、図2に示す株元保温器10と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化する。
図8−11に示すように、株元保温器10は、下方に向かって拡径する円筒状、つまり中空の略円錐状に形成されるケーシング14を備える。ケーシング14の側壁20は、内部に空気層40を有する2重壁構造に形成され、側壁20の内面には、南側に位置する部分を覆うように、半円筒状に形成した蓄熱体12が設けられる。
また、側壁20の両開口端のそれぞれは、上端開口部34および下端開口部36となり、上端開口部34には、円筒状の断熱体38が設けられる。一方、下端開口部36、つまりケーシング14の下端は、開放端とされ、株元保温器10を株元102に装着した際には、ケーシング14の内部空間に土壌104表面が露出する状態となる(ただし、土壌104表面には、地熱利用を阻害しない防草シート等が敷かれていてもよい)。つまり、株元102の下部は解放状態とされる。また、ケーシング14の裏面には、発泡ポリエチレンおよび発泡ウレタン等の弾性を有する素材によって形成される円筒状の断熱体42が設けられる。断熱体42の高さ方向の厚みは、たとえば5−50mmである。これによって、ケーシング14の裏面と土壌104表面との間の気密性および断熱性は確保される。また、断熱体42の弾性を利用して断熱体42を高さ方向に伸縮させることにより、株元保温器10によって温める株元102の高さを伸縮分だけ調節できるようになる。たとえば、株元保温器10を株元102に装着するときには、断熱体42を高さ方向に圧縮した状態にしておき、長茎植物100の生長に応じて断熱体42の圧縮を解除するようにするとよい。
さらに、ケーシング14には、ケーシング14を軸方向に沿って開口可能とする分離部28が形成される。また、分離部28の端面(接続面)には、ゴムパッキン32等が貼り付けられ、分離部28を閉じた際の気密性および断熱性は確保される。なお、この実施例の場合、分離部28は、ケーシング14自体の弾性を利用して開くことが可能である。また、作業者が手を離すと、ケーシング14の弾性による復元力によって分離部28は自然に閉じて密着状態となる。ただし、図2に示す実施例のように、分離部28を閉じる留め具30を適宜設けて、より確実に分離部28を閉じた状態で固定保持するようにしてもよい。また、ケーシング14を略円錐状に形成する場合においても、ヒンジ機構を設けて分離部28を開閉させるようにしてもよい。
図8に示す株元保温器10によれば、ケーシング14の内部空間に土壌104表面が露出するようにしたので、夜間の保温時には、蓄熱体12からの放熱だけではなく、地熱によってもケーシング14内が温められる。したがって、保温性能が向上する。また、図2に示す実施例と同様に、電力を使用せずに株元102を保温できるので、栽培時の運転コストを削減できる。また、構成が簡単なものとなり、安価に製造できる上、取扱いおよびメンテナンスが容易となる。さらに、株元102への取り付けも容易に行うことができる。
なお、図8に示す株元保温器10のようにケーシング14を円錐状に形成する場合にも、図2に示す実施例と同様に、ケーシング14に底壁を形成するようにしてもよい。この場合には、底壁の中央部に下端開口部が形成され、下端開口部に円筒状の断熱体が設けられる。また、図2に示す実施例においても、ケーシング14の下端を開放端にして、ケーシング14の内部空間に土壌表面を露出させるようにしてもよいし、その裏面に円筒状の断熱体42を設けるようにしてもよい。
なお、上述の各実施例では、蓄熱体12をケーシング14の周方向の一部にのみ設けたが、蓄熱体12は、ケーシング14の全周に設けてもよい。これによって、保温性能を高めることができる。ただし、北側部分の蓄熱体12は、太陽光が当たり難く蓄熱され難いので、南側部分の蓄熱体12と同じ厚さにすると、中心部の潜熱蓄熱材にまで蓄熱されない場合がある。このため、北側部分の蓄熱体12の厚みは、南側部分の蓄熱体12の厚みよりも予め薄く形成しておくようにしてもよい。これによって、蓄熱体12内の潜熱蓄熱材の全体を確実に利用できるようになるので、効率的に蓄熱でき、潜熱蓄熱材の使用量を低減しつつ、保温性能を高めることができる。
また、上述の各実施例では、蓄熱体12が太陽からの放射熱を吸収し易いように、ケーシング14全体が透明性を有するように形成したが、これに限定されず、ケーシング14の一部のみに透明部分を形成し、その透明部分を透過した太陽光によって蓄熱体12が蓄熱されるようにしてもよい。たとえば、蓄熱体12を設けた部分のみを透明としてもよい。
さらに、上述の各実施例では、4つの蓄熱体12を上下方向に並ぶ多段状に配置するようにしたが、この段数は任意であり、また、1つの蓄熱体12のみを設けることもできる。また、蓄熱体12は、必ずしもケーシング14内面の軸方向全長に亘って設けられる必要もなく、たとえば、軸方向中央部分のみに蓄熱体12を設けることもできる。
また、上述の各実施例の株元保温器10を使用する際には、銀マルチ等の太陽光を反射する部材で株元保温器10周囲の土壌104表面を覆うようにするとよい。このように、株元保温器10と銀マルチ等とを組み合わせて使用することによって、銀マルチ等から反射した太陽光も蓄熱体12を照射するようになり、より効率的に蓄熱体12に蓄熱できるようになる。
さらに、株元保温器10には、蓄熱体12に対して太陽光を集光するための反射板44を設けるようにすることもできる。たとえば、図12に示すように、反射板44は、半円筒状に形成され、その下端は内面側に折れ曲がってケーシング14と接続される。また、たとえば、図13に示すように、反射板44は、曲板状に形成されて、ケーシング14の外面から翼状に突出するように、ケーシング14と接続される。これら反射板44の内面46には、アルミ箔などが貼り付けられ、太陽光を蓄熱体12方向に向けて反射するようにされる。このように、株元保温器10に反射板44を設けることによって、反射板44から反射した太陽光も蓄熱体12を照射するようになり、より効率的に蓄熱体12に蓄熱できるようになる。もちろん、株元保温器10と反射板44とを一体化せずに、たとえば、別体として製作された反射板44を株元保温器10の北側に位置するように設置してもよい。
また、この発明の他の実施例として、株元保温器10は、ケーシング14の外部を覆うように設けられる保温カバー50を備えることもできる。以下、図14−18を参照して、この発明の他の実施例である株元保温器10について説明するが、上述の実施例と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化する。
図14および15に示すように、この実施例では、株元保温器10は、側壁20によって円筒状に形成されるケーシング14を備える。ケーシング14の上端開口部34および下端開口部36のそれぞれには、円筒状の断熱体38が設けられる。また、ケーシング14の半割体の一方には、その内面全体を覆うように、半円筒状に形成した4つの蓄熱体12が上下方向に並んで設けられる。この際、ケーシング14の内部空間は、極力小さくするとよい。これにより、蓄熱体12に蓄えた熱をより効率的に株元102の保温に利用できるようになるので、保温可能な時間を長くすることができる、或いは、潜熱蓄熱材の必要量を少なくできる。ただし、ケーシング14などの具体的態様はこれに限定されず、上述の各実施例のいずれの態様のものを用いてもよい。
ケーシング14には、ポリプロピレン樹脂などの透明性を有する材質によって形成されるシート状の保温カバー50が設けられる。保温カバー50は、ケーシング14の外部を覆うように設けられ、ケーシング14の周囲に密閉状態の空気層52を形成する。具体的には、保温カバー50は、中空の略円錐状に形成され、その上端部に形成される鍔部50aがケーシング14の上端面と接続されて、ケーシング14の上端面から斜め下方向に向かって傾斜状に延びる。また、保温カバー50の下端は、開放端とされ、ケーシング14の周囲に形成される空気層52には、土壌104表面が露出する。保温カバー50の下端の内径は、たとえば、ケーシング14の下端外面との距離が50−200mmとなるように設定される。
ケーシング14に保温カバー50を設ける際には、図16に示すように、ケーシング14と保温カバー50とを別体として形成しておき、ケーシング14を株元102に装着した後、ケーシング14に保温カバー50を取り付けるようにするとよい。また、図17および18に示すように、ケーシング14と保温カバー50とを予め一体的に形成しておくこともできる。図17は、一方向に開くケーシング14に保温カバー50を一体的に形成した場合を示しており、図18は、分離型のケーシング14に保温カバー50を一体的に形成した場合を示している。なお、ケーシング14の分離部28を閉じる留め具としては、嵌合タイプのものを用いることもできるし、面ファスナ、粘着テープおよびマグネット等を用いることもできる。
保温カバー50を備える株元保温器10では、気温が低下する夜間には、保温カバー50内の空気層52が地熱によって温められる。つまり、ケーシング14の外部気温が上昇するので、ケーシング14から外部への放熱を少なくすることができる。したがって、蓄熱体12に蓄えた熱をより効率的に株元102の保温に利用でき、蓄熱体12による保温が可能な時間を長くすることができる。或いは、潜熱蓄熱材の必要量を少なくできるので、株元保温器10の製造コストを低減できる。
なお、上述の実施例では、保温カバー50を単層構造で形成しているが、断熱性を高めるために、保温カバー50を2重壁(中空壁)構造としてもよい。また、気泡緩衝材などを用いて保温カバー50を形成することもできる。
また、上述の実施例では、保温カバー50を略円錐状に形成した。これは、土壌104表面の空気層52への露出面積を大きくして、地熱を空気層52に効果的に取り込むと共に、保温カバー50と外気との接触面積を小さくして、外部放熱を少なくするためであるが、保温カバー50の形状は、これに限定されない。たとえば、保温カバー50は、同径のまま延びる有頂円筒状に形成してもよい。また、たとえば、保温カバー50の側壁を下方に向かって傾斜状に拡径させる代わりに、段状に拡径させてもよい。
さらに、上述の実施例では、保温カバー50全体が透明性を有するように形成したが、これに限定されず、保温カバー50の一部のみに透明部分を形成し、その透明部分を透過した太陽光によってケーシング14内の蓄熱体12が蓄熱されるようにしてもよい。
また、図示は省略するが、保温カバー50の内面に蓄熱体12を設けることもできる。この場合には、たとえば、保温カバー50の北側部分の内面に蓄熱体12を設けるとよい。ケーシング14の北側部分に蓄熱体12を設けると、蓄熱体12に太陽光が当たり難いが、保温カバー50の北側部分であれば、株元102等との間に十分な空間(空気層52)があるので、蓄熱体12に太陽光が当たり易く蓄熱され易い。これによって、より効果的に株元102を保温できるようになる。
また、保温カバー50の一部、たとえば北側の半周部分を反射板で形成し、太陽光を内面側に向かって反射できるようにしてもよい。これによって、反射板から反射した太陽光も蓄熱体12を照射するようになり、より効率的に蓄熱体12に蓄熱できるようになる。
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値はいずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。