図1は、本発明に係る車両用のボルト締結構造8を示す図であって、シフトバイワイヤ制御(SBW制御)を行うためのアクチュエータであるSBWモータ10がブラケット12を介して車両の変速機ケース14にボルト止めされた状態を表した正面図である。図2は、その図1においてSBWモータ10とブラケット12と変速機ケース14とを下方から矢印AR01方向に見た下面図である。図3は、ブラケット12を変速機ケース14に固定するボルト締結箇所の断面図、具体的には、図1におけるA−A矢視断面図である。図4は、図1と同じ方向でブラケット12及びプロテクタ部材38を示した正面図である。図5は、図4においてブラケット12及びプロテクタ部材38を下方から矢印AR02方向に見た下面図である。図6は、図4においてブラケット12及びプロテクタ部材38を矢印AR03方向に見た側面図である。図7は、図1と同じ方向でブラケット12を単体で示した正面図である。図8は、図1と同じ方向で締結用ボルト16及びプロテクタ部材38を示した正面図である。図9は、図8におけるD−D矢視断面図である。図10は、図3に表されている締結用ボルト16を単体で示した斜視図である。図11は、締結用ボルト16の多角部22の断面図すなわち図3におけるB−B矢視断面図である。SBWモータ10及びブラケット12は本発明における締結部材に対応し、変速機ケース14は本発明における被締結部材に対応する。
SBWモータ10は、変速機ケース14内に備えられ駆動輪をロックする公知のパーキングロック機構を作動させる電動モータである。すなわち、SBWモータ10の回転動作によって、前記パーキングロック機構は前記駆動輪をロックするロック状態と前記駆動輪の回転を許容する非ロック状態とに択一的に切り替えられる。そのため、例えば、前記パーキングロック機構が前記ロック状態であるときにSBWモータ10が変速機ケース14から取り外されると、シフト操作に拘らず前記パーキングロック機構のロック状態を解除することが可能となる。
SBWモータ10はボルト止め等によってブラケット12に固定されており、ブラケット12が変速機ケース14に取り付けられた状態ではブラケット12から取り外すことができないようになっている。例えば、SBWモータ10は、ブラケット本体36に設けられたボルト穴37に変速機ケース14側から挿通されたモータ連結ボルトがSBWモータ10に形成されたネジ穴に螺合されることによりブラケット12に固定されており、そのモータ連結ボルトは、ブラケット12が変速機ケース14に取り付けられた状態では変速機ケース14が前記モータ連結ボルトに工具が係合されることを阻害するように配置されている。
変速機ケース14は、金属製の非回転部材であって、車両用の変速機の筺体である。変速機ケース14は、ブラケット12を取り付けるボルト(締結用ボルト16および六角ボルト18)を螺合させる雌ネジが形成されたネジ穴15を3箇所備えている。
そして、ブラケット12は、SBWモータ10の軸心RCm(以下、モータ軸心RCmという)まわりの複数箇所にて具体的には3箇所にて、モータ軸心RCmと平行なボルト軸心RCb1,RCb2,RCb3方向のボルト止めにより変速機ケース14へ固定されている。詳細には、ボルト軸心RCb1,RCb2上の2箇所では締結用ボルト16によってブラケット12が変速機ケース14へ締結されており、残りのボルト軸心RCb3上では、予め定められた公共の規格(JIS規格、ISO規格等)に従った規格ボルト例えばJIS規格に従った六角ボルト18(JIS B 1180)によってブラケット12が変速機ケース14へ締結されている。ボルト軸心RCb1,RCb2,RCb3を特に区別しない場合にはボルト軸心RCbと表す。
ボルト軸心RCb1,RCb2の何れでも互いに同じ締結用ボルト16が用いられているので、ボルト軸心RCb1上の締結用ボルト16を例に締結用ボルト16の説明を行う。締結用ボルト16は、ボルト先端から順に、ネジ部20と多角部22と締付工具係合部24とをボルト軸心RCb1上に直列に備えている。そのネジ部20と多角部22と締付工具係合部24とは何れもボルト軸心RCb1を中心軸として互いに一体として構成されている。ネジ部20は、変速機ケース14に形成されたネジ穴(雌ネジ)15に螺合される雄ネジから構成されている。このネジ部20には、変速機ケース14のネジ穴15に螺合された締結用ボルト16を緩み難くするための接着剤の一種であるロック剤が塗布されている。
多角部22は、ボルト軸心RCb1に垂直な断面が偶数角の多角形状、具体的には正八角形をなす正多角形形状である。すなわち、多角部22はボルト軸心RCb1を中心軸とする偶数角の正多角柱形状をなしている。そして、多角部22の外周側面を構成する一対の平行面間の寸法すなわち二面幅の寸法、例えば図10,11に示す二面幅寸法GPsは、予め定められた公共の規格例えばJIS規格(JIS B 1002)に従った寸法となっている。
締付工具係合部24は、ボルト軸心RCb1を中心軸とした円柱形状をしており、多角部22を挟んでネジ部20の軸方向反対側に設けられている。その締付工具係合部24の外径(直径)は、多角部22の前記一対の平行面間の寸法(=二面幅寸法GPs)よりも大きい。そして、締付工具係合部24は、その軸方向先端の端部に多角穴26がボルト軸心RCb1方向に開口して形成されており、そのボルト軸心RCb1上の多角穴26には、締結用ボルト16を締付方向に回転させる締付工具27(図3参照)がボルト軸心RCb1方向(図3の上方)から係合させられる。例えば、多角穴26は四角形形状、五角形形状、又は八角形形状などの多角形形状であれば良いが、本実施例では、予め定められた公共の規格(例えばJIS B 1002)に従った六角穴である。このような締付工具係合部24が設けられているので、ブラケット12を変速機ケース14へ締結用ボルト16により固定する作業では、前記締付工具27が締付工具係合部24の多角穴26にボルト軸心RCb1方向から嵌め入れられ、その多角穴26に嵌め入れられた締付工具27が締結用ボルト16の締付方向に連続的に回転させられることにより、締結用ボルト16が締め付けられる。前記締付工具27は、特殊な工具であっても差し支えないが、例えば、予め定められた公共の規格(例えばJIS B 4648)に従った六角棒スパナである。多角穴26の底面28には、ボルト軸心RCb1を中心軸とした雌ネジを含んで形成された止め穴である底部ネジ穴30が設けられている。
締結用ボルト16は、ネジ部20と多角部22と締付工具係合部24とから成るボルト本体の他に、ワッシャ(座金)32を備えている。換言すれば、ブラケット12及びプロテクタ部材38等への組み付けに際して、締結用ボルト16には斯かるワッシャ32が取り付けられる。そのワッシャ32は、例えば金属材料からなる薄板状の部材であり、外径が多角部22よりも大きい薄板円盤状の円盤状部32aと、その円盤状部32aの外周部からL字状に設けられた脚部(突起部)32bとを、備えたL字ワッシャである。すなわち、その脚部32bとして、円盤状部32aの外周部から径方向外側に突出させられた第1突出部と、その第1突出部の外周側端部から軸心方向に突出させられた第2突出部とを、備えている。円盤状部32aは、その中心に、ネジ部20の基端が挿通される挿通穴32cを有しており、ネジ部20の雄ネジが形成された箇所と多角部22との間において脱落しない程度で緩やかに前記ボルト本体に係止されている。ワッシャ32は、脚部32bにおける前記第2突出部がネジ部20側へ突出させられるように締結用ボルト16に取り付けられる。図10等に示すように、本実施例において、ワッシャ32の脚部32bにおける前記第2突出部は、円盤状部32aの軸心を中心とする部分円柱状に形成されたものすなわちその幅方向(軸心方向と垂直を成す方向)に湾曲したものであるが、幅方向に曲率を有しない平板状に構成されたものであってもよい。斯かる態様において、後述するカバー底部40に形成される挿入穴47a及びブラケット12に形成される47bは、ワッシャ32の脚部32bの形状に合わせて例えば直線状(長手矩形状)に構成される。
ブラケット12は、SBWモータ10を変速機ケース14に固定するためにSBWモータ10と変速機ケース14との間に介装された連結部材である。本実施例のボルト締結構造8では、プレス加工によって成形された板金部品から成るブラケット本体36に対して、複数のプロテクタ部材38がそれぞれ対応するボルト軸心RCb1,RCb2位置において締結用ボルト16により締結されて構成されている。
プロテクタ部材(ボルトカバー部材)38は、ブラケット12が変速機ケース14へ締結される3箇所のボルト締結箇所のうちの一部に設けられている。具体的に、プロテクタ部材38は、締結用ボルト16によってブラケット12が変速機ケース14に締結される前記ボルト軸心RCb1,RCb2上の2箇所に設けられている一方で、六角ボルト18によってブラケット12が変速機ケース14に締結される前記ボルト軸心RCb3上には設けられていない。そして、プロテクタ部材38は、前記ボルト軸心RCb1,RCb2上の2箇所にて、ブラケット本体36の変速機ケース14側とは逆の面39a,39bに締結用ボルト16により締結されている。
ボルト軸心RCb1,RCb2の何れでも互いに同じプロテクタ部材38が用いられているので、ボルト軸心RCb1上のプロテクタ部材38を例にプロテクタ部材38の説明を行う。プロテクタ部材38は、カバー底部40とボルト収容部42と開口部44とから構成された有底筒状の部材である。そのカバー底部40は、ボルト軸心RCb1方向を厚み方向とする板状をしており、そのボルト軸心RCb1を中心とする貫通穴46aが形成されている。そのカバー底部40の貫通穴46aは、図3に示すように、それと同軸上に形成されたブラケット本体36の貫通穴46bと共に、締結用ボルト16のネジ部20が挿通されるブラケット12のボルト穴46を構成している。本実施例においてプロテクタ部材38は、ボルト軸心RCb1,RCb2の何れのものも互いに同じ部材であるが、ボルト軸心RCb1,RCb2に設けられた2つのプロテクタ部材38は互いに同じ部材でなくても良く、互いに同じ形状である必要もない。
プロテクタ部材38のカバー底部40には、前記ワッシャ32の脚部32b(第2突出部)が挿通される挿通部としての挿入穴47aが厚み方向に貫通して設けられている。この挿入穴47aは、好適には、ワッシャ32の脚部32bを受け入れ且つその脚部32bのボルト軸心RCb1まわりの回動を阻止する構成とされたものである。具体的に、挿入穴47aの長手方向両端部の側壁がワッシャ32の脚部32bのボルト軸心RCb1まわりの回動を阻止する構成として機能する。ブラケット本体36には、そのブラケット本体36に対してプロテクタ部材38が正しい位置に設けられた状態においてカバー底部40に形成された挿入穴47aと一致する位置に、ワッシャ32の脚部32bを受け入れ且つその脚部32bの締結用ボルト16の軸心まわりの回動を阻止する係止部としての挿入穴47bが形成されている。具体的に、挿入穴47bの長手方向両端部の側壁がワッシャ32の脚部32bのボルト軸心RCb1まわりの回動を阻止する構成として機能する。本実施例において、カバー底部40の挿入穴47a及びブラケット本体36の挿入穴47bは、何れもワッシャ32の脚部32bにおける第2突出部の形状に合わせて、ボルト軸心RCb1を中心とする円弧状に形成されたものすなわちその長手方向(軸心方向と垂直を成す方向)に湾曲した形状とされたものである。カバー底部40の挿入穴47a及びブラケット本体36の挿入穴47bは、好適には、平面視(ボルト軸心RCb1方向に視た場合)において略等しい形状とされたものである。
締結用ボルト16とプロテクタ部材38とブラケット12とが相互に組み付けられた状態において、カバー底部40の挿入穴47aは、図4及び図7等に示すように、それと同軸上に形成されたブラケット本体36の挿入穴47bと共に、その締結用ボルト16のワッシャ32における脚部32bを受け入れる。換言すれば、締結用ボルト16のワッシャ32における脚部32bがカバー底部40の挿入穴47a及びブラケット本体36の挿入穴47bに挿通させられる。斯かる構成により、締結用ボルト16とプロテクタ部材38とブラケット12とが相互に組み付けられた状態、延いては変速機ケース14にブラケット12及びプロテクタ部材38が取り付けられてボルト軸心RCb1上における締結用ボルト16の締結が完了した状態で、カバー底部40の挿入穴47a及びブラケット本体36の挿入穴47bに挿通させられたワッシャ32の脚部32bによりブラケット12に対するプロテクタ部材38の回り止めすなわちボルト軸心RCb1を中心とする相対回転の抑止を実現することができる。すなわち、本実施例においては、プロテクタ部材38をブラケット12(ブラケット本体36)に対して溶接する必要がなく、製造コストを低減することができる。
ボルト収容部42は、ボルト軸心RCb1方向においてブラケット本体36側がカバー底部40によって塞がれている一方で、その反対側すなわちボルト穴46に対する軸方向反対側が開口している。そして、締結用ボルト16の締結が完了した状態で、ボルト収容部42はその内側に、締結用ボルト16の少なくとも多角部22を収容する。本実施例では、締結用ボルト16の多角部22と締付工具係合部24とを収容する。具体的に、ボルト収容部42は、その多角部22と締付工具係合部24とを取り囲むようにボルト軸心RCb1まわりに配設された側壁48から構成されており、その側壁48の内側に多角部22と締付工具係合部24とを収容する。
開口部44はボルト収容部42の側方に形成されている。具体的には、ボルト収容部42の側壁48の一部に形成された矩形形状の開口穴から構成されている。その開口部44を説明するための図が図12として示されている。その図12は、図1の締結用ボルト16に緩め工具50が係合されている状態を表した図であって、ボルト収容部42がボルト軸心RCb1,RCb2に垂直な断面すなわち図3におけるC−C矢視断面で表されている図である。開口部44には、締結用ボルト16の多角部22に径方向から係合される緩め工具50(図12参照)が挿通される。そして、開口部44は、その開口部44に挿通された緩め工具50が締結用ボルト16を緩めるために締結用ボルト16と共に回動することを許容する。詳細に言えば、開口部44は、その開口部44を構成する前記開口穴の一方の側端44aから他方の側端44bまでの間に限り、多角部22に係合された緩め工具50のボルト係合部50aがボルト軸心RCb1まわりに回動することを許容する。すなわち、作業者は、締結された締結用ボルト16を緩める際には、緩め工具50を前記一方の側端44a側に寄せつつ開口部44に挿通して締結用ボルト16の多角部22にその緩め工具50を係合させ、開口部44が許容する許容回動範囲WDpm(図12参照)内で締結用ボルト16の緩み方向(図12の矢印ARLS方向)に緩め工具50を回動させることにより締結用ボルト16を緩めることができる。
具体的に、締結用ボルト16の多角部22の外周側面を構成する複数対の平行面のうちの一対の平行面が隣接する他の平行面の位置にまでボルト軸心RCb1まわりに回動する角度を単位回動角度AG1rt(図11参照)とすれば、開口部44のボルト軸心RCb1の周方向における開口幅(以下、周方向開口幅という)、すなわち前記一方の側端44aから他方の側端44bまでのボルト軸心RCb1まわりの間隔は、前記単位回動角度AG1rt以上の回動角度で締結用ボルト16を回動させる緩め工具50の回動を許容する一方で、前記単位回動角度AG1rtの2倍以上の回動角度で締結用ボルト16を回動させる緩め工具50の回動を妨げる開口幅(間隔)である。例えば、前記単位回動角度AG1rtは、多角部22のボルト軸心RCb1に垂直な断面が正八角形をなす正多角形形状であれば45°(=360°/8)であり、その断面が正六角形をなす正多角形形状であれば60°(=360°/6)である。本実施例では多角部22のその断面は正八角形をなす正多角形形状であるので、多角部22への緩め工具50の係合を一旦外さない限り、開口部44に挿通され多角部22に係合された緩め工具50により締結用ボルト16を45°以上回動させることは可能であるが、締結用ボルト16を90°(=45°×2)以上回動させることができないように、開口部44は緩め工具50の回動角度を制限する。すなわち、多角部22に係合された緩め工具50は、それのボルト係合部50aが前記一方の側端44aに突き当たる回動位置から前記他方の側端44bに突き当たる回動位置までの前記許容回動範囲WDpm内に回動角度が制限されるので、プロテクタ部材38を構成する側壁48は、緩め工具50の回動角度を制限(抑制)する作業角抑制壁として機能する。緩め工具50は、特殊な工具であっても差し支えないが、例えば、予め定められた公共の規格(例えばJIS B 4630)に従ったスパナである。図12では、緩め工具50は、ボルト係合部50aが前記一方の側端44aに突き当たった状態が実線により図示され、ボルト係合部50aが前記他方の側端44bに突き当たった状態が二点鎖線により図示されている。
図3及び図10に示すように、ブラケット12を変速機ケース14に締結した締結用ボルト16、要するに締結完了後の締結用ボルト16には、工具係合部54と残留部56とから構成された剪断ボルト52が螺合される。その工具係合部54と残留部56とは互いに直列に配設され一体に構成されており、締結用ボルト16は、工具係合部54と残留部56との間に所定の剪断トルク以上のトルクがかかるとその工具係合部54と残留部56との境界で破断し、工具係合部54と残留部56とが互いに分離するように形成されている。工具係合部54は正六角柱形状をしており、締結用ボルト16を締め付けるスパナ等の作業工具が係合させられる。残留部56は、工具係合部54側から直列に、締結用ボルト16の底部ネジ穴30の穴径よりも外径が大きく多角穴26の深さよりも軸方向の厚みが大きい残留頭部56aと、前記底部ネジ穴30に螺合される雄ネジが形成された残留ネジ部56bとを含んで構成されている。図3の断面図は工具係合部54と残留部56とが互いに分離した状態で剪断ボルト52を表しており、図10の斜視図はその分離する前の剪断ボルト52が前記底部ネジ穴30に螺合された状態を表している。
具体的には、剪断ボルト52は、締結用ボルト16の締結完了後に、締結用ボルト16の底部ネジ穴30に螺合される。そして、剪断ボルト52を締結用ボルト16に締め付けた後に、前記所定の剪断トルク以上のトルクが剪断ボルト52の工具係合部54に加えられることにより工具係合部54と残留部56との境界で破断され、残留部56が締結用ボルト16の多角穴26内に固定されたまま工具係合部54が取り除かれる。その結果、締結用ボルト16の締付工具係合部24は、図3に示すように残留部56が多角穴26内に固定された状態となる。このように残留部56が多角穴26内に固定されたままになると、残留部56詳細には残留頭部56aが多角穴26を塞ぐので、前記締付工具27を多角穴26に係合できなくなり、締結用ボルト16を前記締付工具27により緩めることが不可能になる。すなわち、締結用ボルト16が締結された状態にて底部ネジ穴30に螺合された状態で剪断された剪断ボルト52の残留部56、要するに多角穴26内に残された残留部56は、締付工具係合部24に係合される前記締付工具27により締結用ボルト16を締結された状態から緩める方向に回転させることを阻止する緩め操作阻止装置として機能する。
本実施例によれば、締結用ボルト16は、被締結部材である変速機ケース14のネジ穴15に螺合されるネジ部20と、ボルト軸心RCb1,RCb2に垂直な断面が偶数角の多角形状である多角部22と、その多角部22を挟んでネジ部20の軸方向反対側に設けられ、締結用ボルト16を締付方向に回転させる締付工具27が軸方向から係合される締付工具係合部24とを備えている。ボルト締結構造8は、締結用ボルト16のネジ部20が挿通されるボルト穴としての貫通穴46aがカバー底部40に形成され、その締結用ボルト16の多角部22を収容し且つカバー底部40に対する軸方向反対側が開口したプロテクタ部材38と、そのプロテクタ部材38のカバー底部40と締結用ボルト16の多角部22との間に介挿され且つカバー底部40側に突出して設けられた脚部32bを有するワッシャ32と、締付工具係合部24に係合される締付工具27により締結用ボルト16を締結された状態から緩める方向に回転させることを阻止する緩め操作阻止装置としての残留部56とを、備えている。プロテクタ部材38は、側方に形成され、前記多角部22に係合される緩め工具50が挿通されその緩め工具50が締結用ボルト16を緩めるために締結用ボルト16と共に回動することを許容する開口部44と、カバー底部40に形成され、ワッシャ32の脚部32bが挿通される挿通部としての挿入穴47aとを、備えている。締結部材としてのブラケット12は、締結用ボルト16のネジ部20が挿通されるボルト穴としての貫通穴46bと、ワッシャ32の脚部32bを受け入れ且つその脚部32bのボルト軸心RCb1,RCb2まわりの回動を阻止する係止部としての挿入穴47bとを、備えたものである。
以上のような構成により、本実施例のボルト締結構造8は、締結用ボルト16が締結された状態では、その締結用ボルト16の軸方向(ボルト軸心RCb1,RCb2方向)からの締付工具27によっては締結用ボルト16を緩めることができず、且つ、緩め工具50によって締結用ボルト16を緩める場合には、その緩め工具16の回動角度が開口部44の前記周方向開口幅によって制限されるので、前記緩め操作阻止装置が無いとして前記締付工具27で締結用ボルト16を緩めると仮定した場合と比較して、締結用ボルト16を緩め難くなっている。そのため、SBWモータ10及びブラケット12が変速機ケース14から不当に取り外されることを防止する高い盗難防止効果を確保することが可能である。緩め工具50を多角部22に係合させれば、締結用ボルト16を緩める作業を確実に進行させることができ、その作業の進行に連れて締結用ボルト16が緩み方向に回転していることを目視して確認することができるので、車両メンテナンス時などにおける十分な作業性も確保することが可能である。プロテクタ部材38のカバー底部40と締結用ボルト16の多角部22との間に介挿されるワッシャ32が脚部32bを備えており、その脚部32bがプロテクタ部材38のカバー底部40に形成された挿入穴47aに挿入され且つブラケット12に形成された挿入穴47bに受け入れられることでブラケット12に対するプロテクタ部材38の回り止めを実現することができ、プロテクタ部材38をブラケット12(ブラケット本体36)に対して溶接する必要がなく、製造コストを低減することができる。
本実施例によれば、締結用ボルト16の締付工具係合部24は、軸方向に開口し前記締付工具27が嵌め入れられる多角穴26と、その多角穴26の底面28に設けられた底部ネジ穴30とを備えている。前記緩め操作阻止装置は、締結用ボルト16が締結された状態にて底部ネジ穴30に螺合された状態で剪断された剪断ボルト52の残留部56から成る。従って、剪断ボルト52の残留部56によって簡単且つ確実に、前記締付工具27を締付工具係合部24に係合できなくし、締結用ボルト16をその締付工具27によって緩められなくすることが可能である。
本実施例によれば、多角部22の軸心に垂直な断面は正多角形形状であり、開口部44の前記周方向開口幅は、締結用ボルト16の多角部22の外周側面を構成する複数対の平行面のうちの一対の平行面が隣接する他の平行面の位置にまで回動する単位回動角度AG1rt以上の回動角度で締結用ボルト16を回動させる緩め工具50の回動を許容する一方で、その単位回動角度AG1rtの2倍以上の回動角度で締結用ボルト16を回動させる緩め工具50の回動を妨げる開口幅である。従って、多角部22に係合された緩め工具50によって締結用ボルト16を確実に緩めることを可能としつつ、開口部44によるその緩め工具50の回動角度の制限により、前記高い盗難防止効果を確保することが可能である。
本実施例によれば、締結用ボルト16による締結箇所を含む複数(3箇所)のボルト締結箇所の一部においてのみプロテクタ部材38及び締結用ボルト16を備えている。従って、締結用ボルト16とボルト収容部42と開口部44とによる前記高い盗難防止効果を確保しつつ、前記複数のボルト締結箇所のうちのプロテクタ部材38及び締結用ボルト16が設けられていない箇所、具体的にはボルト軸心RCb3上のボルト締結箇所では、ブラケット12を変速機ケース14から取り外す際にボルトを緩める高い作業性を確保できる。
本実施例によれば、締付工具係合部24の外径は、多角部22の一対の平行面間の寸法すなわち図10,11の二面幅寸法GPsよりも大きい。従って、例えば図3において、締付工具係合部24はその外形によって、ボルト収容部42の軸方向に開口した開口穴から差し入れられる工具が多角部22に係合することを妨げることになる。その結果、締結用ボルト16の軸方向から多角部22に工具を係合させることができないので、締付工具係合部24の外径が前記二面幅寸法GPsよりも小さい場合と比較して、高い盗難防止効果を確保することが可能である。
本実施例によれば、図1に示すように、締結用ボルト16又は六角ボルト18による複数のボルト締結箇所のうち、プロテクタ部材38(ボルト収容部42及び開口部44)がブラケット12に設けられている2箇所では締結用ボルト16によって締結されている一方で、プロテクタ部材38がブラケット12に設けられていない1箇所では、予め定められた公共の規格に従った規格ボルトである六角ボルト18によって締結されている。従って、全てのボルト締結箇所に共通して締結用ボルト16を使用する場合と比較して、特殊な締結用ボルト16の使用数を削減できるので、コストの削減を図り得る。
次に、本発明の他の実施例について説明する。以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
ここで、実施例2のブラケット62に対して実施例1のプロテクタ部材38が組み付けられる態様、及び実施例1のブラケット12に対して実施例3のプロテクタ部材68が組み付けられる態様をそれぞれ説明したが、実施例2のブラケット62に対して実施例3のプロテクタ部材68が組み付けられるものであってもよい。斯かる態様においても、締結用ボルト16とプロテクタ部材68とブラケット62とが相互に組み付けられた状態、延いては変速機ケース14にブラケット62及びプロテクタ部材68が取り付けられてボルト軸心RCb1上における締結用ボルト16の締結が完了した状態で、カバー底部40の切欠70及びブラケット62の切欠64に挿通させられたワッシャ32の脚部32bによりブラケット62に対するプロテクタ部材68の回り止めすなわちボルト軸心RCb1を中心とする相対回転の抑止を実現することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、締結用ボルト16の多角部22は、ボルト軸心RCb1,RCb2に垂直な断面が正八角形をなす正多角形形状であるが、正方形、正六角形、正十角形、又は正十二角形等をなす正多角形形状であってもよい。多角部22の上記断面が正多角形形状でない偶数角の多角形状であることも考え得る。
前述の実施例において、締結用ボルト16のネジ部20にはロック剤が塗布されているが、そのロック剤は塗布されていなくても差し支えない。
前述の実施例において、ブラケット12,62は変速機ケース14に対し3箇所でボルト止めされているが、1、2、又は4箇所以上でボルト止めされていても差し支えない。
前述の実施例において、締結用ボルト16は、SBWモータ10とブラケット12,62とを変速機ケース14に固定するために使用されるが、それ以外の用途に使用されても差し支えない。
前述の実施例において、ブラケット12,62の変速機ケース14に対する3箇所のボルト締結箇所のうち2箇所にて締結用ボルト16が使用されているが、少なくとも1箇所で締結用ボルト16が使用されればよく、3箇所のボルト締結箇所の全てで締結用ボルト16が使用されても差し支えない。その締結用ボルト16の使用箇所および使用本数は、盗難防止性能と車両メンテナンス時の作業性とのバランスに基づいて適宜定められるのが良い。
前述の実施例において、締結用ボルト16に含まれる多角部22の前記周方向開口幅は、前記単位回動角度AG1rtの2倍以上の回動角度で締結用ボルト16を回動させる緩め工具50の回動を妨げる開口幅であるが、その緩め工具50の回動をある程度のある回動角度までに制限する開口幅であれば、盗難防止性能と車両メンテナンス時の作業性とのバランスを考慮して、前記周方向開口幅は、前記単位回動角度AG1rtの2倍以上の回動角度で締結用ボルト16を回動させる緩め工具50の回動を許容する開口幅とされていても差し支えない。
前述の実施例において、ワッシャ32はL字状の脚部32bを備えたものであったが、ワッシャの脚部の形状は必ずしも斯かる形状に限定されるものではなく、ピン状或いはフック状等、種々の態様が考えられる。ワッシャ32は1本の脚部32bを備えたものであったが、2本以上の脚部を備えたものであっても差し支えない。斯かる態様においては、プロテクタ部材38,68及びブラケット12,62における対応する位置に、ワッシャの複数の脚部を受け入れる複数の挿通部及び係止部がそれぞれ形成される。
前述の実施例において、締結用ボルト16は図10に示されるような形状をしているが、それ以外の形状も考え得る。例えば、締結用ボルト16は図16〜21に示されるボルトの何れか一に置き換えられても差し支えない。ここで、図16〜21のボルトそれぞれについて、締結用ボルト16と比較して異なる点を説明する。その際、締結用ボルト16と共通する点は簡潔に説明するために説明を省略する。
図16の締結用ボルト310は、ボルト先端から順に、実施例1のネジ部20に相当するネジ部312と実施例1の多角部22に相当する多角部314と実施例1の締付工具係合部24に相当する締付工具係合部316とから構成されたボルト本体と、実施例1のワッシャ32に相当するワッシャ318とを備えている。多角部314は締結用ボルト310のボルト軸心に垂直な断面が正六角形をなす正多角形形状である。締付工具係合部316は、締結用ボルト16と同様に六角穴320を備えており、その六角穴320は、六角穴320に嵌め入れられた六角棒スパナである前記締付工具27を締結用ボルト310の締付方向に回転させる場合にはその締付工具27と係合する。その一方で、六角穴320は、その締付工具27を締結用ボルト310の緩み方向に回転させる場合にはその締付工具27と係合しない公知のワンウェイ構造を備えている。この緩み方向では前記締付工具27が係合しない穴形状320aが前記緩め操作阻止装置として機能する。図16,17,18の破線のハッチングは、ネジ部312,412に塗布された前記ロック剤を表している。
図17の締結用ボルト350は、図16の締結用ボルト310の多角部314が多角部352に置き換わっている点が締結用ボルト310とは異なるが、それ以外の点では締結用ボルト310と同じである。図17の多角部352は、締結用ボルト350のボルト軸心に垂直な断面が正十角形をなす正多角形形状である。締結用ボルト350は、締結完了後の締結用ボルト350を緩め工具50により緩める際に、図16の締結用ボルト310と比較して作業時間が長くなるというメリットがある。その多角部352の上記断面は正八角形又は正十二角形をなす正多角形形状であってもよい。
図18の締結用ボルト410は、ボルト先端から順に、実施例1のネジ部20に相当するネジ部412と実施例1の多角部22に相当する多角部414と実施例1の締付工具係合部24に相当する締付工具係合部416とを備えている。実施例1のワッシャ32に相当するワッシャ418を備えている。そのネジ部412と多角部414とは互いに一体として構成されている一方で、締付工具係合部416はそのネジ部412及び多角部414とは別部品である。締付工具係合部416は、六角ボルト状の形状を有しており、多角部414の軸方向端面に形成されたネジ穴に螺合されネジ部412よりも小径の小径ネジ部(不図示)と、正六角柱形状から成る頭部416aとから構成されている。前記小径ネジ部とネジ部412とでは、ネジの締付方向が同じである。多角部414は締結用ボルト410のボルト軸心に垂直な断面が正六角形をなす正多角形形状である。この締付工具係合部416に係合される締付工具は、実施例1とは異なり、例えばボックスレンチである。この締結用ボルト410では、締付工具係合部416の頭部416aに係合された前記締付工具を締結用ボルト410の締付方向に回転させる場合は前記締付工具からの締付トルクはそのままネジ部412及び多角部414に伝達される。その一方で、締結用ボルト410の締結完了後に前記締付工具を締結用ボルト410の緩み方向に回転させる場合は、締付工具係合部416の前記小径ネジ部がネジ部412よりも小径であるので、締結用ボルト410が変速機ケース14に対して緩むよりも先に締付工具係合部416が多角部414に対して緩むことになり、締付工具係合部416に係合された前記締付工具では締結用ボルト410を緩めることができない。従って、締結用ボルト410では、締付工具係合部416は前記緩め操作阻止装置としての機能をも備えている。
図19の締結用ボルト450は、図17の締結用ボルト350と基本的に同じであるが、締結用ボルト450の締結完了後に六角穴320を覆う金属製又は樹脂製のキャップ452が締付工具係合部454に取り付けられる。そのため、締付工具係合部454は、その外形がキャップ452を取付けできるように円柱形状となっているが、それ以外の点では図17の締付工具係合部316と同じである。キャップ452は締付工具係合部454に取り付けられると、容易には取り外しできないように締付工具係合部454に対して嵌合する。この締結用ボルト450では、六角穴320の穴形状320aに加えてキャップ452も前記緩め操作阻止装置として機能する。
図20は左半分が断面図示されている。図20の締結用ボルト510は、ボルト先端から順に、実施例1のネジ部20に相当するネジ部512と実施例1の多角部22に相当する多角部514と実施例1の締付工具係合部24に相当する締付工具係合部516とを備えている。実施例1のワッシャ32に相当するワッシャ518を備えている。そのネジ部512と多角部514とは互いに一体として構成されている一方で、締付工具係合部516はそのネジ部512及び多角部514とは別部品である。具体的に、その締付工具係合部516は、ネジ部512よりも小径の雄ネジを有する六角ボルトであり、その六角ボルトのネジの締付方向はネジ部512と同じである。そして、締付工具係合部516を構成する六角ボルトは多角部514の軸方向端面に形成されたネジ穴に螺合され、それにより、前記六角ボルトの頭部を締結用ボルト510のボルト軸心まわりにて取り囲むと共に軸方向に開口した頭部カバー部材520が、締付工具係合部516と共に多角部514に固定されている。多角部514は締結用ボルト510のボルト軸心に垂直な断面が正六角形をなす正多角形形状である。この締付工具係合部516に係合される締付工具は、実施例1とは異なり、例えばボックスレンチである。締結用ボルト510の締結完了後には、頭部カバー部材520の前記開口を塞ぐ金属製又は樹脂製のキャップ522が、軸方向から頭部カバー部材520の内側に嵌め入れられる。キャップ522は、頭部カバー部材520の内側に嵌め入れられると、その頭部カバー部材520の内側にて頭部カバー部材520対して外れないように係合し、頭部カバー部材520から軸方向に突き出すことなく頭部カバー部材520内に完全に収まる。このようにキャップ522が頭部カバー部材520に嵌め入れられるため、その後に頭部カバー部材520からキャップ522を取り外すことが困難となり、前記締付工具を締付工具係合部516に係合させて締結用ボルト510を緩めることが困難となる。従って、この締結用ボルト510では頭部カバー部材520およびキャップ522が前記緩め操作阻止装置として機能する。
図21は左半分の全体と右半分の上部が断面図示されている。図21の締結用ボルト550は、ボルト先端から順に、実施例1のネジ部20に相当するネジ部552と実施例1の多角部22に相当する多角部554と実施例1の締付工具係合部24に相当する締付工具係合部556とから構成されたボルト本体と、実施例1のワッシャ32に相当するワッシャ558とを備えている。そして、多角部554は、締結用ボルト550のボルト軸心に垂直な断面が例えば正八角形、正十角形、又は正十二角形をなす正多角形形状である。締付工具係合部556は、前記ワンウェイ構造の穴形状320aを含む六角穴320を図16の締結用ボルト310と同様に備えている。その六角穴320の底面には、前記ボルト軸心上に雌ネジを含んで形成された止め穴である底部ネジ穴560が設けられており、ワンウェイボルトキャップ562が締結用ボルト550の締結完了後にその底部ネジ穴560に螺合される。そのワンウェイボルトキャップ562は十字穴付き小ネジであり、その頭部564の外径は、ワンウェイボルトキャップ562が底部ネジ穴560に螺合された状態にて前記頭部564が六角穴320の開口全体を塞ぐ大きさになっている。ワンウェイボルトキャップ562の十字穴566は、六角穴320と同様に、十字穴566に嵌め入れられた工具(十字ねじ回し)をワンウェイボルトキャップ562の締付方向に回転させる場合にのみその工具と係合する前記ワンウェイ構造を備えている。従って、締結用ボルト550では、六角穴320の穴形状320aとワンウェイボルトキャップ562とが前記緩め操作阻止装置として機能する。
前述の実施例において、変速機ケース14は締結用ボルト16が螺合されるネジ穴15を備えているが、そのネジ穴15に替えて締結用ボルト16のネジ部20が挿通される貫通穴が設けられており、ブラケット12,62は締結用ボルト16とナットとの螺合によって変速機ケース14に固定されても差し支えない。そのようにした場合には、締結完了後のそのナットを緩める作業を不可能又は困難とする構造が必要である。
上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。