JP5857287B2 - 抗炎症機能剤 - Google Patents

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Description

本発明は、抗炎症機能を有するペプチドに関する。
炎症とは、生体の合目的な防御反応であるが、過剰な炎症反応は生体の自己組織の損傷をもたらす。炎症の初期段階ではまず、ヒスタミンやセロトニンが肥満細胞と血小板から放出される。ヒスタミンやセロトニンは短時間に一過的な血管収縮を起こし、炎症局所(細動脈、細静脈、及び毛細血管)の血管を拡張させ、血流を増加させ熱感や発赤が生じる。続いて、血管透過性を亢進させ(血管内皮細胞のアクチンが収縮)、血管内皮細胞の間隔が広がって、全身(血液中)から、白血球を局所に浸出させ血漿などの防御因子を局所に漏出させることにより腫脹(浮腫)が生じる。血管内皮細胞の破壊に伴い、血液凝固の第12因子が活性化されキニン・カニクレイン系でブラジキニンが産生されることにより疼痛が生じる。これらの反応が組織内で起こることにより組織の機能障害が生じる。これら「発熱、発赤、腫脹、疼痛、機能障害」を炎症の5大兆候と呼ばれている。
これら炎症反応の中で、炎症の初期には好中球が細菌,ウイルス,死細胞等の異物の処理を行うが、炎症後期になるとマクロファージが集まり死んだ細胞や細菌を食作用により処理を行っている。細菌や死細胞と遭遇したマクロファージは、活性化しTNF-α,IL-1,IL-6などのサイトカイン、及びIL-8などのケモカインを放出する。これらのサイトカインにより血管透過性の亢進による発熱,発赤,腫脹がおこり、ケモカインにより白血球の走性を亢進し腫脹が引き起こされる。上記のように、マクロファージは生体の恒常性維持のために重要な役割を担っているが、過剰な活性化などのマクロファージの機能異常は、免疫システムの多くの病気に関わっており、過剰な炎症反応を抑制する医薬品の開発が鋭意検討されている。
その中で、抗炎症機能を謳うペプチドについても多く検討されており、特許文献1にあるように、多くのジ,トリペプチドが抗炎症効果を持つペプチドとして記載されている。しかし、合成による製造を前提としており、安全性が十分に確立されたものとは言い難い。また、直接抗炎症機能を謳うものではないが、食品由来の成分で、消化管炎症への効果を謳う出願として、特許文献2がある。しかし、本品はチーズの加水分解物であるため、その独特な風味から嗜好性が高い。また、乳蛋白は元々酵素分解により苦味が出やすい蛋白であり食品素材としての利用も制限があることから、汎用的な食品素材を利用した抗炎症機能を有する素材や、当該素材を用いた治療法はいまだ得られていない。
特表2001−500492 特開2009−120519 国際公開第2006/129647号パンフレット 国際公開第2002/028198号パンフレット 国際公開第98/44807号パンフレット 国際公開第2009/035852号パンフレット 国際公開第2006/134752号パンフレット
M Samotoら,Food Chemistry,102巻,317-322頁,2007年
本発明は、食品素材として広く使用できる原料から、抗炎症機能剤を得ることを目的とした。
本発明者は本課題について鋭意検討する中で、大豆β-コングリシニンを主原料とする蛋白質組成物を加水分解したペプチドが、抗炎症効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は
(1)大豆β-コングリシニンを主成分とした蛋白質組成物の、加水分解物を有効成分とする、抗炎症機能剤。
(2)加水分解物中のジ・トリペプチド含量が40重量%以上である、(1)記載の抗炎症機能剤。
(3)経口性である、(1)または(2)に記載の、抗炎症機能剤。
(4)大豆β-コングリシニンを主成分とする蛋白質組成物の、加水分解物による、抗炎症への使用。
である。
本発明により、食品素材である大豆から抗炎症効果を持つ抗炎症性機能剤を得、炎症性疾患に効果がある医薬品の形態あるいは、食品または飼料に添加された形態で使用することができる。
各食品由来蛋白質加水分解物の抗炎症効果を表す図である。 各大豆蛋白質加水分解物の抗炎症効果を表す図である。 β-コングリシンン加水分解物と分離大豆蛋白質加水分解物の抗炎症活性を比較した図である。
以下、本発明をより詳細に説明する。
(大豆蛋白質とβ-コングリシニン)
大豆に含まれる蛋白質は、超遠心分析による沈降係数から、2S,7S,11S及び15Sの各グロブリン画分に分類される。このうち、7Sグロブリン画分と11Sグロブリン画分は主要な構成蛋白質成分である。β-コングリシニン画分は7Sグロブリン画分に相当するものであり、β-コングリシニンが豊富に含まれている。11Sグロブリン画分はグリシニンが豊富に含まれており、グリシニン画分とも呼ばれる。さらに、上記グロブリン画分以外に酸沈殿性大豆蛋白質群が存在し、これらはレシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するために、包括的に、脂質親和性蛋白質(LP)と呼ばれている(特許文献3参照)。
(β-コングリシンンを主成分とした蛋白質組成物)
本発明で使用されるβ-コングリシニンを主成分とした蛋白質組成物(β-コングリシニン濃縮物)とは、該β-コングリシニン濃縮物中にβ-コングリシニンが40重量%以上含まれていることが好ましく、50重量%以上含まれていることがより好ましい。大豆からβ-コングリシニン濃縮物を調製する方法は公知であり、大きく類別して一般的な組成の大豆から蛋白質を抽出又は濃縮したものからβ-コングリシニンを分画する方法と、予め育種や遺伝子組換技術によりβ-コングリシニンを濃縮させた大豆から蛋白質を抽出又は濃縮する方法がある。例えば、前者の例としては非特許文献1,特許文献3及び特許文献4などに記載の方法が挙げられる。また後者の例としては特許文献5や特許文献6などに記載の方法が挙げられる。これらの調製方法によれば、β-コングリシニン濃縮物におけるβ-コングリシニンの含量を、粗蛋白質に対して60重量%以上あるいは80重量%以上とすることが可能である
(β-コングリシニン濃縮物の加水分解)
本発明で使用されるβ-コングリシニン濃縮物の加水分解物は、上記β-コングリシニン濃縮物をプロテアーゼ処理することによって得られるペプチド混合物である。β-コングリシニン濃縮物の加水分解物は分解度がより高いことが好ましく、特に加水分解物中におけるペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める、ジペプチド及びトリペプチドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及びトリペプチドの割合が60重量%以上であることが好ましく、64重量%以上であることがより好ましい。なお本願では、ジペプチド及びトリペプチドを、分子量500以下の画分から遊離アミノ酸を除いた画分と規定した。したがって、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及びトリペプチドの割合は、ペプチド用ゲルろ過クロマトグラフィーにより加水分解物中の分子量500以下のペプチド画分の割合を測定した後、アミノ酸分析により測定した加水分解物中の遊離アミノ酸含量を差し引くことにより算出することが可能である。加水分解物中の遊離アミノ酸含量は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。さらに、ペプチド体はより低分子であることが望ましいことから、加水分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める分子量500以上の画分の割合は40重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることがより好ましい。
(プロテアーゼ)
酵素分解は上記β-コングリシニン濃縮物のスラリー又は水溶液を基質とし、プロテアーゼ処理を行なう。ここで用いるプロテアーゼは動物起源,植物起源あるいは微生物起源は問わず、プロテアーゼの分類において「金属プロテアーゼ」、「酸性プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼ、好ましくは「金属プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼの中から適宜選択する事ができる。特に2種類以上、あるいは3種類以上の異なった分類に属する酵素を、順次若しくは同時に作用させる分解方法がジペプチドやトリペプチド等の比較的分子量の低いペプチドの割合を増加させる事ができ好ましい。
このプロテアーゼの分類は、酵素科学の分野において通常行なわれている活性中心のアミノ酸の種類による分類方法である。各々の代表として「金属プロテアーゼ」にはBacillus中性プロテアーゼ,Streptomyces中性プロテアーゼ,Aspergillus中性プロテアーゼ,『サモアーゼ』等、「酸性プロテアーゼ」にはペプシン,Aspergillus酸性プロテアーゼ,『スミチュームAP』等、「チオールプロテアーゼ」にはブロメライン,パパイン等、「セリンプロテアーゼ」にはトリプシン,キモトリプシン,ズブチリシン,Streptomycesアルカリプロテアーゼ,『アルカラーゼ』,『ビオプラーゼ』等が挙げられる。これら以外の酵素でも作用pHや阻害剤との反応性により、その分類を確認する事ができる。活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なるため、「切れ残り」を減らし、効率よく酵素分解物を得る事ができる。あるいは異なった起源の(起源生物) の酵素を併用する事で、更に効率よく酵素分解物を製造する事ができる。同分類でも起源が異なれば、基質である蛋白質への作用部位も異なり、結果としてジペプチドやトリペプチドの割合を増やす事ができる。これらプロテアーゼはエキソ活性が少ない事が好ましい。
プロテアーゼ処理の反応pHや反応温度は、用いるプロテアーゼの特性に合わせて設定すれば良く、通常反応pHは至適pH付近で行ない、反応温度は至適温度付近で行なえば良い。概ね反応温度は20〜80℃、好ましくは40〜60℃で反応を行なう事ができる。反応後は酵素を失活するに十分な温度(60〜170℃程度)で加熱し、残存酵素活性を失活させる。
プロテアーゼ処理後の反応液は、そのまま又は濃縮して用いることもできるが、通常、殺菌して噴霧乾燥、凍結乾燥等して乾燥粉末の状態で利用する事ができる。殺菌は、加熱殺菌が好ましく、加熱温度は110〜170℃が好ましく、130〜170℃が更に好ましい。加熱時間は3〜20秒間が好ましい。また反応液を任意のpHに調整しておくこともでき、pH調整時に発生する沈殿物や懸濁物を遠心分離や濾過等により除去することもできる。また更に活性炭や吸着樹脂により精製することもできる。
(蛋白質含量(CP)の測定)
105℃,12時間乾燥した各種蛋白質素材の乾燥重量に対して、ケルダール法により測定した粗蛋白質量の重量を、重量%で表す。尚、窒素係数は6.25とする。
本発明の大豆β-コングリシニンを主成分とする蛋白質組成物の加水分解物は、医薬品の形態として広く使用できるが、食品素材に由来する特長を生かす意味でも、経口性の形態、すなわち食品または飼料に添加された形態として、必要により適宜その他の原材料と混合して使用することができる。医薬品の形態として供する場合は、液体,散薬,錠剤,カプセル等の種々の形態で使用することができるし、副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤等の医薬品と混合して使用しても差し支えない。食品に混合された形態として供する場合は、ビスケット,ケーキ,パン等の固形状食品に混合して使用しても差し支えなく、または、ババロア,ムースまたはプリンのような流動状,半固形状食品に混合しても問題ない。また、水等に溶解して飲料として、摂取することもできる。
本発明の抗炎症機能剤は、抗炎症効果を示す他の飲食品や成分と併用して使用することが出来る。中でも、乳酸菌発酵を利用した食品や飲料、例えば乳酸菌飲料,ヨーグルト類,チーズ類に使用する場合、特に強い効果を得ることができる。また、併用できる他の抗炎症効果を示す成分として、例えば、ポリフェノール類(茶カテキン、アントシアニン、シアニジン、クロロゲン酸など)、カロテノイド類(アスタキサンチン、リコピン、ルテインなど)、アミノ酸(グルタミンなど)、グルコサミン、コンドロイチン、クルクミン、カプサイシンなどを例示することが出来る。
ただし、食品の殺菌の際の熱により本発明のペプチドが分解等の変性する可能性もあり、好ましくは、糖質,ビタミン,ミネラル等を混合してサプリメントとして利用するのがよい。飼料に混合された形態として供する場合は、陸産,水産に限定されることなく、既知の飼料と混合して使用することができる。
乳酸菌飲料等の乳酸菌発酵食品に使用する乳酸菌としては、食品として一般に使用される乳酸菌を使用することが出来る。例えば、Lactobacillus属菌(L.casei, L.plantarum, L. brevis, L.acidophilus, L.pentousなど)、Lactococcus属菌(L.lactis, L.cremorisなど)、Bifidobacterium属菌(B.bididum, B.adolescentisなど)、Streptoccus属菌(Str.thermophilusなど)を例示することが出来る。
以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
(製造例1)各種大豆蛋白質画分の調製
非特許文献1に記載の方法に準じて以下の通り、β-コングリシニン濃縮物,グリシニン濃縮物及びLP濃縮物の各大豆蛋白質画分を調製した。
低変性脱脂大豆に加熱処理を施してNSI(水溶性窒素指数、AOCS公式分析法BA-11-65 NSIによる)を低下させた脱脂大豆(NSI 70%)1kgの温水抽出スラリーを遠心分離機にてオカラ画分を除き脱脂豆乳とした。次に脱脂豆乳のpHを5.8に調整して遠心分離機にて沈殿カード画分を回収した。この画分が11Sグロブリンである「グリシニン」の濃縮物である。次に、残りの上清のpHを5.0に調整し、55℃で10分間放置後、次いでpH5.5に調整後、遠心分離機にて沈殿カード画分を回収した。この画分が、脂質親和性蛋白質である「LP」の濃縮物」である。更に、残りの上清のpHを4.5に調整し、遠心分離機にて沈殿カードを回収した。この画分が7Sグロブリンである「β−コングリシニン」の濃縮物である。得られた各画分をそれぞれ中和して、120℃で10秒間加熱殺菌を行った。
(製造例2)分離大豆蛋白質の調製
別途、低変性脱脂大豆から以下のように分離大豆蛋白質を調製した。低変性脱脂大豆1kgの温水抽出スラリーを遠心分離機にてオカラ画分を除き脱脂豆乳とした。次に、得られた脱脂豆乳のpHを4.5に調整して等電点沈殿し、遠心分離機にて酸沈殿カードを得て中和した。更に、得られた各画分を中和して、120℃で10秒間加熱殺菌を行った。
(製造例3)β-コングリシニン, グリシニン, LPの各画分の加水分解物の調製
製造例1で得られたβ-コングリシニン, グリシニン及びLPから特許文献7を参考に、以下のようにプロテアーゼによる酵素分解物を調製した。
3重量%の大豆蛋白質の各画分の溶液に対して、『サモアーゼ』(起源;Bacillus thermoproteolyticus、金属プロテアーゼ、大和化成)を対蛋白質当たり2重量%加え、pH9.0,58℃で60分間作用させた。次に『ビオプラーゼ』(起源;Bacillus sp., セリンプロテアーゼ、ナガセケムテック)を対蛋白質当たり1重量%加え、pH7.5に、58℃で60分間作用させた。次に『スミチュームFP』(起源;Asprgillus sp., 金属プロテアーゼ,新日本化学工業)を対蛋白質当たり1重量%加え、pH7.5, 58℃で60分間作用させた。以上の処理の後、90℃, 20分で反応を停止した後、凍結乾燥し、大豆蛋白質の各画分の加水分解物試料とした。
(製造例4)分離大豆蛋白質加水分解物の調製
製造例2で得られた分離大豆蛋白質を製造例3と同様に処理した試料を分離大豆蛋白加水分解物1とした。また、製造例2で得られた分離大豆蛋白質について、3重量%大豆蛋白質溶液に対して、『サモアーゼ』(起源;Bacillus thermoproteolyticus、金属プロテアーゼ、大和化成)を対蛋白質当たり1.5重量%加え、pH9.0, 58℃で60分間作用させた。次に『ビオプラーゼ』(起源;Bacillus sp., セリンプロテアーゼ、ナガセケムテック)を対蛋白質当たり1重量%加え、pH7.5に、58℃で60分間作用させた。次に『スミチュームFP』(起源;Asprgillus sp., 金属プロテアーゼ、新日本化学工業)を対蛋白質当たり1重量%加え、pH7.5, 58℃で60分間作用させた。以上の処理の後、90℃, 20分で反応を停止した後、凍結乾燥し、加水分解を抑えた試料である、分離大豆蛋白質加水分解物2とした。
(製造例5)他の食品由来蛋白加水分解物
他の食品由来蛋白質の加水分解物と比較するために、市販品を入手した。乳蛋白の加水分解物として、カゼイン加水分解物のCE90M及びPeptopro(DMV社製)、乳清ホエー加水分解物としてHW-3(雪印乳業社製)及びThermax690(Glanbia社製)、コラーゲン加水分解物としてFSP-AS-L及びAFC(ニッピ社製)を入手し、試料とした。
(製造例6)乳酸菌飲料の作成
分離大豆蛋白加水分解物を含有する乳酸菌飲料を作成するために、市販乳酸菌飲料「ヤクルト」(株式会社ヤクルト本社製)に、分離大豆蛋白加水分解物1(製造例4)若しくはβ-コングリシニン加水分解物(製造例3)を終濃度1%となるように溶解させ試料とした。
(蛋白質含量(CP)の測定)
105℃,12時間乾燥した各種蛋白質素材の乾燥重量に対して、ケルダール法により測定した粗蛋白質量の重量を、重量%で表した。尚、窒素係数は6.25とした。
(β-コングリシニン含量)
β-コングリシニン含量はELISA法により定量を行った。サンプル0.1gを精秤し、50ml栓付三角フラスコ中に入れ、0.05M Tris-HCl緩衝液(pH8.2)を2.5ml及び8M Urea-DTT緩衝液7.5mlを添加した。100℃で1時間抽出した。抽出後シスチンを含む0.4M NaCl溶液(pH9.0)で再会合させた後、100mlに定容し、ろ過液をELISA用サンプルとした。ELISA用96ウェルEIAマイクロプレート(IWAKI(株)製)にサンプル及び検量線用β-コングリシニン(不二製油(株)製「リポフ」[β-コングリシニン含量85%])をそれぞれ4℃で1日間保存する事で固定化し、ブロッキング液(大日本住友製薬(株)製)を200μl加え37℃で2時間インキュベートしブロッキングした。ブロッキング後、50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で3回洗浄した。次に、1次抗体として0.5μg/mlの抗ベータコングリシニンウサギポリクロナール抗体(タカラバイオ(株)製)を100μl添加し37℃で1時間インキュベートした。50mMリン酸緩衝液(pH7.2; 0.1%Tween20)で3回洗浄した。その後、2次抗体として0.1μg/mlのペルオキダーゼ結合抗ウサギIgG抗体(Promega(株)製)を100μl添加し37℃で1時間インキュベートした。50mMリン酸緩衝液(pH7.2; 0.1%Tween20)で3回洗浄した。洗浄後、TMB MicowelLPeroxidase Substrate(KPL(株)製)を100μl加え5分間発色させた。1N硫酸を100μl加え発色反応を停止後、波長450nmで吸光度を測定した。測定後、検量線用β-コングリシニンの吸光度を用いて検量線を作製し、サンプルのβ-コングリシニン含量を算出し、ケルダールで算出した全蛋白質に対する比率を求めた。
(抗炎症効果評価のための細胞培養)
大豆β-コングリシニン分解物のマクロファージに対する抗炎症効果を評価するために下記の手法により評価を行なった。細胞はマウスマクロファージ細胞J774.1(RIKEN Bioresource center)を使用し、基本培地としてRPMI-1690(和光純薬社製)を選択し、これに終濃度10%となるようにウシ血清(FBS)を添加し、抗生物質として終濃度100IU/mLPenicillin及び100μg/ ml Streptomycinを添加し細胞培養用培地とした。
J774.1細胞を細胞培養用培地にて37℃, 5% CO2条件下で培養し、10cmシャーレでコンフルエントになるまで培養を行った。コンフルエントに達した細胞を回収し、細胞数をカウントした上で1×105個/mlになるように希釈し、24穴細胞培養用プレートに1mlずつ添加した。添加後2日間37℃, 5%2濃度で培養し、培地をアスピレーターにて除去した。除去後、各規定濃度に調製した大豆蛋白加水分解物を350ml、及び炎症誘導物質としてCpGを終濃度200nmol/Lになるように添加し24時間、37℃、5%CO2濃度で培養した。
(ELISAによるIL-6濃度の測定)
培地中のIL-6濃度をELISA法により測定するために、Purified rat anti-mouse IL-6(1次抗体)、Biotinylated rat anti-mouse IL-6(2次抗体)、Recombinant mouse IL-6(標準IL-6)及びStreptavidin-Alkalin PHospHateはすべてBD PHarmingenより購入し使用した。
1次抗体を0.1M Na2HPO4 buffer(pH9.0)で0.5μg/mlになるように調製したものを96ウェルマイクロプレートに50μl/wellずつ添加し室温で2hr静置した。PBS-Tween20(PBS-T)で3回washし十分に水切りを行った。その後、3%BSA in PBS-Tを100μl/wellずつ添加し室温で1hr静置後、PBS-Tで3回washし十分に水切りを行った。PBS-Tで適宜希釈したサンプルを50μl/wellずつ添加し、4℃で24時間放置後、PBS-Tで3回washし十分に水切りを行った。PBS-Tで0.5μg/mlに調製した2次抗体を50μl/wellずつ添加し、アルミホイルで遮光して室温で1hr静置後、PBS-Tで3回washし十分に水切りを行った。Streptavidin-Alkaline PHospHate in PBS-Tを50μl/wellずつ添加し、アルミホイルで遮光して室温で1hr静置後PBS-Tで3回washし十分に水切りを行った。0.2mg/ml 4-ニトロフェニルリン酸2ナトリウム in 1M ジエタノールアミン bufferを50μl/wellずつ入れて、アルミホイルで遮光して10分間静置後、マイクロプレートリーダーにて405nm(参考波長492nm)の吸光度を2回測定し、平均値を算出した。
(ジ・トリペプチド含量)
大豆蛋白質画分の加水分解物の分子量分布を、以下のゲルろ過カラムを用いたHPLC法により測定した。ペプチド用ゲルろ過カラムを用いたHPLCシステムを組み、分子量マーカーとなる既知のペプチドをチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求めた。なお、分子量マーカーは、オクタペプチドとして[β-Asp]-Angiotensin IIのβ-Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-PHe(分子量1046)、ヘキサペプチドとしてAngiotensin IVのVal-Tyr-Ile-His-Pro-PHe(分子量775)、ペンタペプチドとしてLeu-EnkepHalinのTyr-Gly-Gly-PHe-Leu(分子量555)、トリペプチドとしてGlu-Glu-Glu(分子量405)、遊離アミノ酸としてPro(分子量115)を用いた。加水分解物(1%)を10,000rpm、10分で遠心分離した上清を、ゲル濾過用溶媒で2倍に希釈し、その5μlをHPLCにアプライした。加水分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める分子量500以下のペプチド画分の割合(%)を、全体の吸光度のチャート面積に対する、分子量500以下の範囲(時間範囲)の面積の割合によって求めた(使用カラム:Superdex Peptide 7.5/300GL(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)。溶媒:1%SDS/10mMリン酸緩衝液, pH8.0, カラム温度25℃, 流速0.25ml/min, 検出波長:220nm)。
次に、アミノ酸分析により大豆蛋白質画分の加水分解物中の遊離アミノ酸含量の測定を行った。加水分解物(4mg/ml)を等量の3%スルホサリチル酸に加え、室温で15分間振とうした。10,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上澄みを0.45μmフィルターでろ過し、アミノ酸分析器(日本電子製 JLC500V)にて、遊離アミノ酸を測定した。蛋白質中の遊離アミノ酸含量はケルダール法にて得られた蛋白質含量に対する割合として算出した。
以上より得られた、「分子量500以下のペプチド画分の割合」から「遊離アミノ酸含量」を差し引いた値を、加水分解物中の「ジペプチド・トリペプチド含量」とした。
(統計処理)
有意差検定はDr.SPSSII(SPSS社製)を使用し、多群間の1元配置分散分析はTurkey-Kramer法を用いて評価を行い、コントロールとの比較にはDunnett-t(両側)法を用いて評価を行った。
(表1) 各種大豆蛋白質加水分解物の分析値
Figure 0005857287
(表2) 各種食品蛋白質加水分解物の分析値
Figure 0005857287
(実施例1)マウスマクロファージ細胞に対する各蛋白加水分解物の抗炎症効果
製造例4で得られた分離大豆蛋白加水分解物1,2及び他の各食品由来蛋白加水分解物の抗炎症効果を評価するために、測定方法記載のマウスマクロファージ細胞培養及びELISA法によるIL-6濃度の測定を行った。
各蛋白加水分解物の抗炎症効果を検証した結果、図1および表2に示すように大豆蛋白加水分解物1,2でのみPositive controlと比較してマクロファージの出すIL-6の量が低下している様子が観察された。さらに、ジ・トリペプチド含量が高い大豆蛋白加水分解物1では、ポジティブコントロールと比較してP<0.01での有意差が認められ、ジ・トリペプチド含量がやや低い大豆蛋白加水分解物2ではP<0.1の低下傾向が認められた。乳蛋白由来の加水分解物では全く抗炎症効果が認められず、中でも、CE90M,Peptopro及びHW-3は大豆蛋白加水分解物1,2と同程度のジ・トリペプチド含量にも関わらず、抗炎症効果を示さなかった(表2,3)。これらのことから、特許文献2記載のチーズによる抗炎症効果は、大豆と比較して低い効果しか持っていないか、チーズ生産時に使用する乳酸菌の代謝物に由来するものであると示唆された。つまり、蛋白加水分解物自体の抗炎症効果を比較した場合、分離大豆蛋白加水分解物のみに抗炎症効果があると示唆される。
(表3)各食品由来蛋白質加水分解物の抗炎症効果の統計結果(Dunnett)
Figure 0005857287
(実施例2)マウスマクロファージ細胞に対する各大豆蛋白加水分解物の抗炎症効果
製造例3で得られた各蛋白加水分解物と、製造例4で得られた分離大豆蛋白加水分解物1を用いて、大豆蛋白のどの成分が抗炎症効果を示すのかを評価した。
各大豆蛋白加水分解物の抗炎症効果を検証した結果、図2に示すようにβ-コングリシニン加水分解物のみが大豆蛋白加水分解物1の示した抗炎症効果と同等の効果を示した。グリシニン加水分解物及びLP加水分解物は全く抗炎症効果を示さなかったことから、大豆蛋白加水分解物の抗炎症効果はβ-コングリシニン由来であることが確認された。
(実施例3)β-コングリシニン加水分解物と分離大豆蛋白加水分解物の抗炎症活性比較
製造例3で得られたβ-コングリシニン加水分解物と分離大豆蛋白加水分解物の抗炎症活性を比較するために、培地への添加濃度を0.01mg/ml,0.1mg/ml,0.5mg/ml,1.0mg/ml,5mg/mlの5点で評価を行った。(図3)
測定の結果、すべての添加濃度でβ-コングリシンン加水分解物は分離大豆蛋白加水分解物よりも高い抗炎症効果を示すことが確認された。
(実施例4)乳酸菌との併用効果
マウスマクロファージ細胞に対する抗炎症効果に関して、分離大豆蛋白加水分解物と乳酸菌の併用効果を検証した。乳酸菌はLactobacillus caseiを使用し、測定方法記載のマウスマクロファージ細胞培養及びELISA法によるIL-6濃度の測定を行った。乳酸菌はCpG添加時に細胞数1×105個の濃度で添加し、これに分離大豆蛋白加水分解物1を添加する系、β-コングリシニン加水分解物を添加する系、及びこれらを添加しない系を設定し、IL-6の濃度測定を行った。その結果、乳酸菌添加系でもマウスマクロファージ細胞が分泌するIL-6を低下させる様子が観察されたが、分離大豆蛋白加水分解物1またはβ-コングリシニン加水分解物と併用することにより、各々その効果が増大することが確認された。
(実施例5)乳酸菌飲料の抗炎症効果
製造例6で作成した分離大豆蛋白加水分解物1若しくはβ-コングリシニン加水分解物を含む乳酸菌飲料のマウスマクロファージ細胞に対する抗炎症効果を検証した結果、マウスマクロファージ細胞が分泌するIL-6を低下させることが確認された。

Claims (4)

  1. 大豆β-コングリシニンを主成分とし、β-コングリシニンを60重量%以上含む蛋白質組成物の加水分解物を有効成分とし、該加水分解物中のジ・トリペプチド含量が60重量%以上である、抗炎症機能剤。
  2. 蛋白質組成物中にβ-コングリシニンを80重量%以上含む、請求項1記載の抗炎症機能剤。
  3. 加水分解物中のジ・トリペプチド含量が64重量%以上である、請求項2記載の抗炎症機能剤。
  4. 経口性である、請求項1〜3何れか1項に記載の、抗炎症機能剤。
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