コンクリート表面上のひび割れを検出する方法としては、従来、調査員がスケールを使用しながら目視観察をおこない、ひび割れの幅や長さを測定する方法が一般的であった。しかし、この目視観察による方法は調査員の測定技量などによって精度のばらつきが大きくなることや、ひび割れが大量に存在する場合においては大量の情報を正確に処理するために莫大な労力および時間を要するといった問題があった。
上記の問題に対して、コンクリート表面の撮影画像をコンピュータに取り込み、画像をひび割れ領域とそれ以外の領域とに2値化処理する画像処理手法が適用されている。画像の2値化処理とは、ある濃度値に対して画像の濃度を0または1に表現することであり、例えば、入力画像f(i,j)に対して2値化処理で得られる2値化画像b(i,j)はb(i,j)=1(f(i,j)>k)、0(f(i,j)≦k)となる。ここで、kは2値化する際の閾値であり、したがって2値化画像の良し悪しは閾値kの選定によって決まるといってよい。
従来の閾値を求める手法としては、固定閾値または可変閾値による処理方法がある。固定閾値による処理方法には、Pタイル法やモード法、相関比を用いた方法などが挙げられる。固定閾値による処理方法は、対象画像の濃度ヒストグラムを作成し、画像の背景(コンクリート表面)の濃度値とひび割れの濃度値との間に明確な谷が現れるような双峰性のヒストグラムが得られる場合において有効な方法である。
一方、可変閾値による処理方法は、照明条件などによって撮影ムラが生じ、背景の濃度値と対象部分の濃度値が画像全体で一定でない場合に有効な方法である。この可変閾値処理法は、注目している画素を中心とする局所領域の平均濃度値を閾値とする方法である。この方法の欠点は、背景領域の微妙な濃淡変化に応じて、例えばひび割れ以外のノイズが多い画像となってしまう点である。
従来の画像処理方法は、撮影された入力画像に対して閾値を決定し、2値化処理をおこないながらひび割れの抽出をおこなうものである。すなわち、この一般的な処理の流れは次のようになる。1)撮影画像をコンピュータに取り込んで入力画像を作成する。2)入力画像の濃度の補正をする。3)2値化処理をおこなってひび割れの抽出をおこなう。
上記する従来の画像処理法は、濃度が一様なコンクリート表面上のひび割れの検出においては比較的高精度のひび割れ検出が可能である。しかし、実際のコンクリート構造物の表面は様々な汚れを含んでおり、さらにはひび割れの濃度も、ひび割れの幅や深度などに応じてばらつきがあるのが一般的である。このようなコンクリート表面に対して従来の画像処理法を用いると、ひび割れの抽出に際しては様々な問題が生じ得る。例えば、固定閾値処理の場合において、コンクリート表面上の汚れ領域とひび割れ領域が同程度の濃度値である場合には、これらを2値化処理することが極めて困難となる。濃度ヒストグラムが双峰性を呈していて、閾値を容易に決定できたとしても、ひび割れ領域と判断される範囲には汚れ領域が含まれる可能性が極めて高くなる。また、逆に、ひび割れ周辺部の汚れ領域を含ませないような閾値をあらたに設定しようとすると、今度は他のひび割れ領域を除外してしまうことになってしまう。
可変閾値処理の場合には、コンクリート表面上の汚れが多くなるにしたがって、ひび割れ抽出画像中にひび割れ以外のノイズが多く含まれることになり、場合によってはひび割れ抽出画像を一見しても、どの部分がひび割れ領域なのか全く判別できないこととなる。
上記する従来手法の問題に対して本発明者等は、撮影されたコンクリート表面の汚れや照明条件などによってひび割れの検出が困難な場合においても、簡易に高精度のひび割れ検出をおこなうことのできるひび割れ検出方法を発案し、特許文献1にその開示をおこなっている。このひび割れ検出方法は、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ、ウェーブレット係数テーブル内において局所領域内の近傍画素の平均濃度と注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はこの注目画素をひび割れと判定し、閾値よりも小さな場合は注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこなうことでひび割れ抽出画像を作成するステップ、からなる検出方法である。
この検出方法では、ひび割れ検出画像(二値化画像)に対してしみ跡や汚れなどの雑音領域を除去するために輪郭線追跡処理をおこなっている。この輪郭線追跡処理とは、互いに同じ値を持つ画素を連結することによって一つの塊(オブジェクトと称することもできる)として図形を生成する処理である。ここでは、オブジェクトの面積に閾値を設定し、オブジェクトの面積が閾値以下であればそのオブジェクトを除去し、閾値よりも大きければそのオブジェクトをひび割れであるとして採用するものである。
特許文献1で開示の方法を適用することにより、撮影されたコンクリート表面の汚れや照明条件などによってひび割れの検出が困難な場合においても、それまでの固定閾値や可変閾値による処理方法に比べ、より一層簡易に、しかも高精度にひび割れ検出をおこなうことが可能となっている。しかしながら、上記する輪郭線追跡処理において、設定された閾値が大き過ぎると雑音領域を減少させることはできるものの小さな面積のひび割れも同時に除去してしまう恐れがあり、一方で、設定された閾値が小さ過ぎると小さな面積のひび割れも精度よく取り込むことができるものの雑音領域が多くなる恐れがあり、以後のひび割れ画像の作成が困難で煩雑になることから、輪郭線追跡処理における閾値の設定は極めて難しいものである。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、撮影されたコンクリート表面に、実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などが存在する場合でも、高い精度で実際のひび割れのみを検出することのできるひび割れ検出方法を提供することを目的としている。
前記目的を達成すべく、本発明によるひび割れ検出方法は、コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうひび割れ検出方法であって、ひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度を擬似的に設定し、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、該2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のそれぞれのウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、該入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する第1のステップ、ウェーブレット係数テーブル内において、前記コンクリート表面の濃度と仮定する局所領域内の近傍画素の平均濃度と、前記ひび割れの濃度と仮定する注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れと判定し、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも小さな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなって、同じウェーブレット関数を有する画素を連結して一つの塊を形成し、それぞれの塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像を作成する第2のステップ、前記塊の特徴量を特定し、塊の特徴量ごとにひび割れとひび割れ以外のノイズ種が予め規定されている特徴量テーブルを参照して、複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって特徴量が特定されている前記塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、前記塊ごとの特徴量の特定と各塊の判別分析を第2のステップにおける全ての塊に実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されてなるひび割れ画像を作成する第3のステップからなり、前記特徴量テーブルの作成は、任意のコンクリート表面に対して前記第1のステップ、第2のステップを実行して二値化画像を作成し、該二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算するとともに、それぞれの塊に対する観測結果(塊がひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれか一種)を割り当てるステップからなるものである。
ウェーブレット(wavelet)とは、小さな波という意味であり、局在性を持つ波の基本単位を、ウェーブレット関数を用いた式で表現することができる。このウェーブレット関数を拡大または縮小することにより、時間情報や空間情報と周波数情報を同時に解析することが可能となる。このウェーブレット係数を、ひび割れを有するコンクリート表面に適用する場合のこの係数の特徴としては、コンクリート表面の濃度と、ひび割れの濃度と、ひび割れ幅に依存するということである。例えば、ひび割れ幅が大きくなるにつれてウェーブレット係数の値は大きくなる傾向があり、また、ひび割れの濃度が濃くなるにつれて(黒色に近づくにつれて)ウェーブレット係数の値は大きくなる傾向がある。
ウェーブレット変換によって算定されるウェーブレット係数を用いて、ひび割れの検出をおこなうアルゴリズムは以下のようになる。まず、コンクリート表面の撮影画像とウェーブレット関数との内積よりウェーブレット係数を求める。このウェーブレット係数を256階調に変換することで、連続量を持ったウェーブレット画像が作成できる。
ウェーブレット係数は、上記するようにひび割れ幅やひび割れの濃度、コンクリート表面の濃度によって変化することから、擬似的に作成されたデータを用いてひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度に関するウェーブレット係数を各階調ごとに算定しておき、ウェーブレット係数テーブルを作成しておく。このウェーブレット係数テーブルにある各階調ごとのウェーブレット係数が、ひび割れ検出の際の閾値となる。例えば、対比される2つの濃度(一方の濃度をコンクリート表面の濃度、他方の濃度をひび割れの濃度と仮定することができる)に対応するウェーブレット係数(閾値)がウェーブレット係数テーブルを参照すれば一義的に決定される。したがって、後述するように、撮影画像において対比される2つの濃度間のウェーブレット係数を算定した際に、このウェーブレット係数がウェーブレット係数テーブルの閾値よりも大きな場合は、ひび割れであると判断できるし、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断することができる。
このウェーブレット係数テーブルを作成する際の擬似的なデータは特に限定するものではないが、例えば、ひび割れ幅が1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)までの中で、各画素幅のひび割れごとに、コンクリート表面の階調とひび割れの階調に対応するウェーブレット係数を算定する。閾値の設定に際しては、例えば、ひび割れ幅が1画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れに対応するウェーブレット係数を選定し、ひび割れ幅が5画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れ領域でない箇所のウェーブレット係数を選定し、これら2つのウェーブレット係数の平均値をもって任意の階調における閾値とすることができる。
本発明のひび割れ検出方法においては、まず、第1のステップにおいて、上記するウェーブレット係数テーブルを作成しておくとともに、撮影画像に対してレンズ収差補正やあおり補正などの補正処理をおこない、これをコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する。このウェーブレット画像の作成は、コンピュータ内部において以下のように実施される。まず、適宜に設定された広域領域(例えば30×30画素の領域)に対してウェーブレット係数を算定する。次に、この広域領域から一画素移動した広域領域(同じように例えば30×30画素の領域であって、移動前の30×30画素の領域とほとんどの画素が共通している)で、同じようにウェーブレット係数を算定する。この操作を入力画像全体に繰り返すことにより、コンピュータ内部には、ウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像が作成される。
次に第2のステップにおいて、このウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像において、ウェーブレット係数テーブル内の閾値(ウェーブレット係数)とウェーブレット画像を構成するウェーブレット係数とを比較し、画像を構成するウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はひび割れと判断し(画面上では例えば白色)、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断する(画面上では例えば黒色)。そして、この操作をウェーブレット画像全体でおこなうことにより、黒い背景色内に白いひび割れが描き出された途中段階の二値化画像が作成される。
この途中段階の二値化画像においてひび割れと判定された画素に対して、ノイズの一部を除去する処理である輪郭線追跡処理をおこなって二値化画像を作成する。
この輪郭線追跡処理においては、途中段階の二値化画像において、同じウェーブレット関数を有する画素を連結して一つの塊を形成し、それぞれの塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定することにより、ノイズの一部を除去することができる。
このように第2のステップにて作成された二値化画像は、上記するように同じウェーブレット関数を有する画素が連結してなる多数の塊(オブジェクト)を内蔵している。
この二値化画像の内蔵する多数の塊を利用して、二値化画像においてひび割れと判断されている塊から、実際にはひび割れでなくて、ひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などのノイズ種を除去してひび割れ画像を作成するのが第3のステップである。
まず、塊の特徴量を特定する。ここで、塊の特徴量とは、塊の形状に影響を与える要因のことであり、その一例として、塊の面積、塊の外接四角形の高さや幅、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸、塊の面積とその外接四角形の面積の比率、塊の外接四角形の幅と高さの比率、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸の比率、塊の真円度((周囲長)2÷(4π×面積)の一般式から算定される塊の真円度)、塊の外周の凹凸度(フラクタル次元)、塊の外周の長さなどを挙げることができる。
これらの塊の特徴量に関しては、予め特徴量テーブルが作成されている。この特徴量テーブルの作成は、現在そのコンクリート表面のひび割れ検出対象となっているコンクリート表面であってもよいし、それ以外のコンクリート表面であってもよいが、ある任意のコンクリート表面に対して上記する第1のステップ、第2のステップを同様に実行して二値化画像を作成し、二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算してテーブル化しておく。
そして、この特徴量テーブルにはさらに、この任意のコンクリート表面に関する観測結果、すなわち、それぞれの塊がひび割れである場合区分「3」、ノイズ種の中でも型枠や傷跡などの場合は区分「2」、ノイズ種の中でもしみ跡や汚れなどの雑音の場合は区分「1」、などといった具合に、観測結果であるそれぞれの塊が、ひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれの区分に属するかが割り当てられている。
この特徴量テーブルに対し、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって、特徴量が特定されている塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、この判定された結果を予測値とするものである。
たとえば、実際にひび割れである塊に対してその予測値がひび割れであれば予測値と観測結果が一致することになり、実際にひび割れではない塊(ノイズ種の一種)に対して予測値がひび割れであれば予測値と観測結果が一致していないことになる。
ここで、「判別分析」とは、予め与えられているデータが異なるグループに分かれることが明らかな場合に、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準となる判別関数を得るための手法のことである。
本発明では、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数としている。
第2のステップで特定されている二値化画像に内蔵されている多数の塊のそれぞれに対して、その特徴量の特定と判別分析を実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されたひび割れ画像を作成することができる。
ノイズの除去が終了してひび割れ画像が作成されたら、ひび割れ幅の推定をおこなう。ここで、ひび割れ幅の推定方法の実施の形態を説明する。このひび割れ幅の推定に際し、今回撮影対象となるコンクリート表面とは異なり、以前に撮影された撮影対象のコンクリート表面において貼付けされたクラックスケールの撮影画像であって、既に蓄積されている該クラックスケールの撮影画像をデータベースとして設定しておく。このクラックスケールの撮影画像のデータベースには、クラックスケールの最小幅から最大幅までの複数の実寸値qが含まれており、さらに、撮影距離やレンズ焦点距離、空間分解能が異なる複数の画像データから構成されるものである。
一方、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対して第3のステップで作成されているひび割れ画像に対し、さらに細線化処理を実行してその中心線で構成される、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像を作成する。
データベース中のクラックスケールの撮影画像をコンピュータに入力してクラックスケールの入力画像とし、クラックスケールの入力画像をウェーブレット変換することによってクラックスケールのウェーブレット画像を作成し、クラックスケールのウェーブレット画像に対して細線化処理を実行してその中心線で構成される、クラックスケールの細線化画像を作成し、クラックスケールの細線化画像において、ひび割れ幅の推定式の説明変数pを、p=(ウェーブレット係数の値)−(ウェーブレット係数の閾値)とし、クラックスケールの撮影画像から特定されるクラックスケールの実寸値qと説明変数pより回帰分析をおこなう。そして、説明変数pをパラメータとする以下のひび割れ幅の推定式:y=a+bp (a、bは回帰分析で特定された定数、pは説明変数)を求め、推定式のpに対し、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像におけるウェーブレット係数の値とウェーブレット係数の閾値から特定されるpを適用することにより、撮影対象ごとにそれぞれのコンクリート表面のひび割れ幅を特定する。
ここで、回帰分析にて特定されるひび割れ幅の推定式は、蓄積されるクラックスケールのデータ量等によって変化する。また、説明変数pは、クラックスケールの細線化画像の全画素数に対応した値からなる。
回帰分析の結果、クラックスケールにおけるひび割れ幅、ウェーブレット係数、注目画素の輝度、周辺画素の平均輝度、空間分解能や相関係数から構成されるデータベースを作成することができる。
また、前記回帰分析の結果、相関係数が一定の高さ以上のクラックスケールの撮影画像のみを使用して前記ひび割れ幅の推定式を求めてもよい。推定式の精度は、回帰分析にて求められる相関係数に依存するところが大きく、より具体的には、一定の高い相関係数を有するクラックスケールの撮影画像のみを使用して回帰分析をおこない、ひび割れ幅の推定式を特定するのが望ましい。このことにより、クラックスケールを撮影した際のピントの不具合やクラックスケールの貼り方が浮いていることに依拠するぼけた画像を除去することができ、結果として推定式の精度向上に繋がる。
最後に、推定されたひび割れ幅に基づくひび割れデータ、すなわち、全ひび割れ長さの算定やひび割れ幅ごとのひび割れ長さの算定、ひび割れ幅ごとの分布図の作成、ひび割れ展開図の作成などをおこない、該ひび割れデータから所望の情報を抽出することが可能となる。
本発明のひび割れ検出方法によれば、第2のステップにて輪郭線追跡処理をおこなってノイズの一部を除去した後で、さらに第3のステップにて判別分析をおこなってさらにノイズを除去してひび割れ画像を作成することから、この作成されたひび割れ画像から推定されるひび割れ幅は極めて高精度のものとなり、このひび割れ幅以外の各種のひび割れデータも高精度のものを得ることができる。
また、本発明によるひび割れ検出方法の好ましい実施の形態は、前記特徴量テーブルに対し、それぞれの塊と、特徴量テーブルにおける前記グループの重心位置の間の距離をマハラノビスの汎距離で特定し、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、該確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正するものである。
判別関数には、超平面・直線による線形判別関数と、超曲面・曲線によるマハラノビス汎距離よる非線形判別関数がある。本実施の形態では、それぞれの塊と特徴量テーブルにおけるグループの重心位置の間の距離をこのマハラノビス汎距離で特定することとし、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、この確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正するものである。
このように確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正することにより、各塊に対する予測値を修正して修正予測値とし、この修正予測値に基づくひび割れ画像を作成することができ、ひび割れ検出精度はさらに向上する。
そして、この確率値に関しては、確率値の閾値を予め規定しておき、特定された確率値がこの閾値を下回る場合にはどのグループにも属さないものとし、どのグループにも属さない塊に対しては人為的に該塊のグループを特定するようにしてもよい。
すなわち、どのグループにも属さないものに関しては、これをさらに何等かのアルゴリズムを適用してコンピュータ処理するよりも、撮影画像と確率値に基づいて観測者(技術者)が判断した方が効率的であり、結果の精度も好ましいものとなるのが理由である。
以上の説明から理解できるように、本発明のひび割れ検出方法によれば、二値化画像に対して輪郭線追跡処理をおこなってノイズの一部を除去して二値化画像を作成し、二値化画像に対して予め設定されている特徴量テーブルを参照して判別分析をおこなってさらにノイズを除去してひび割れ画像を作成することにより、極めて高い精度でひび割れを検出することができる。
以下、図面を参照して本発明のひび割れ検出方法の実施の形態を説明する。図1aは、入力画像と局所領域の関係を示した模式図である。本発明のひび割れ検出方法では、入力画像1における広域領域2でウェーブレット変換をおこない、広域領域2の中心である局所領域3におけるひび割れの検出をおこなうものである。入力画像1内をくまなく広域領域2を上下左右に平行移動して、入力画像1内におけるひび割れの検出をおこなう。この方法により、従来の固定閾値法のように、例えば入力画像1内で一つの閾値を決める方法に比べて、精度のよいひび割れの検出をおこなうことができる。
図1bは、局所領域3を拡大した図であり、図示する実施形態では、たとえば3×3の9つの画素(8つの近傍画素31,31,…と、中央に位置する注目画素32)を対象としてひび割れ判定をおこなう。なお、ウェーブレット係数の算定は、図1aにおける広域領域2を対象としておこなわれる。ここで、ウェーブレット関数(マザーウェーブレット関数)を用いたウェーブレット変換をおこなうことでウェーブレット係数を算定する算定式を以下に示す。
ここで、f(x、y)は入力画像(ここで、x、yは2次元入力画像中の任意の座標である)を、Ψはマザーウェーブレット関数(ガボール関数)を、(x0、y0)はΨの平行移動量を、akはΨの拡大や縮小を(ここで、akは周波数の逆数であって、幾つかの周波数領域について計算するための周波数幅を整数kで示した値)、f0は中心周波数を、σはガウス関数の標準偏差を、θは波の進行方向を表す回転角を、(x’、y’)は(x、y)を角度θだけ回転させた座標を、それぞれ示している。
ここで、数式1を用いて計算した複数のθ、kに対して、ウェーブレット係数Ψの累計値C(x0、y0)を求めたのが数式4となる。
上記のパラメータは、任意に設定できるが、例えば、σを0.5〜2に、akは0〜5に、f0は0.1に、回転角は0〜180度に、それぞれ設定できる。
数式4における平行移動量(x0、y0)は、注目画素の位置に対応するものであり、注目画素の位置を順次移動させることによって、ウェーブレット係数の連続量(C(x0、y0))が算定でき、この連続量を図示することによってウェーブレット画像が作成できる。
広域領域2を構成する全画素に対して、ウェーブレット係数を上算定式に基づいて算定した後、注目画素を一つ左右または上下に移動させてできる広域領域2の全画素において同様にウェーブレット係数を算定する。このウェーブレット係数算定を入力画像全体で実施することにより、適宜の範囲内における構成画素がそれぞれのウェーブレット係数を備えたウェーブレット画像(ウェーブレット係数の連続量からなる画像)を作成することができる。
次に、図2に基づいて、ひび割れ検出方法の一実施形態を説明する。CCDカメラ等のデジタルカメラで撮影されたコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに取り込むことにより、入力画像の作成(ステップS10)がおこなわれる。
次に、入力画像とは何らの関係もない、対比する2つの濃度からなる擬似画像に対して、ウェーブレット係数の算定をおこなう。例えば、図3に示すように、コンクリート表面と仮定される背景色a(例えば、背景色のR、G、Bが、255,255,255とする)と、ひび割れと仮定される線分b1〜b5からなる擬似画像のウェーブレット係数を求める。ここで、線分b1〜b5は、線幅が順に1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)まで変化しており、さらに、各線分は、3種類の濃度を備えている(例えば、線分b1では、濃度の濃い順に、b11(黒色)、b12(薄い黒色)、b13(灰色)と変化している)。この擬似画像に対してウェーブレット変換をおこなうことで算定されるウェーブレット係数の鳥瞰図を示したのが図4である。図4において、X軸は線分の幅を、Y軸は線分の色の濃度を、Z軸はウェーブレット係数をそれぞれ示している。この線幅の設定は、最終的に抽出したいひび割れ幅の最大値によって設定すればよい。なお、画素幅ごとに、ひび割れ領域のウェーブレット係数と、ひび割れ領域以外のウェーブレット係数が算定できる。
本実施形態では、コンクリート表面と仮定される任意の濃度(階調)と、ひび割れと仮定される任意の濃度(階調)に対応する閾値(ウェーブレット係数)を算定するにあたり、例えば、ひび割れ幅が1画素幅の場合におけるひび割れ領域のウェーブレット係数と、ひび割れ幅が5画素幅の場合におけるひび割れ領域以外のウェーブレット係数との平均値をもって、設定したひび割れ幅範囲内において対象となる階調に対応した閾値としている。この閾値の設定は、勿論任意でかまわない。
対比する2つの濃度の組み合わせをそれぞれ0〜255の256階調でおこなうことで、図5に示すようなウェーブレット係数テーブルの作成(図2のステップS30)がおこなわれる。なお、この作業は、図示するフロー位置でなくともよく、例えば、入力画像の作成前であってもかまわない。
図2に戻り、入力画像をウェーブレット変換することにより、ウェーブレット画像の作成(ステップS20)がおこなわれる。ウェーブレット画像は、上記するように各画素が固有のウェーブレット係数を備えた連続量からなるものであり、各画素のウェーブレット係数を対応するウェーブレット係数テーブルのウェーブレット係数(閾値)と比較することにより、黒い背景色内に白いひび割れが描き出された途中段階の二値化画像(ノイズの一部が除去されていない二値化画像)が作成される。
この画像に対し、輪郭線追跡処理をおこなってノイズの一部を除去し、二値化画像を作成する。本発明の特定方法では、第3のステップでひび割れ画像を作成するまでの段階、具体的には、第2のステップで画像からノイズの一部を除去して二値化画像を作成し、第3のステップでこの二値化画像からさらに残りのノイズを除去してひび割れ画像を作成するものである。ここで、輪郭線追跡処理の方法は、同じウェーブレット関数を有する画素を連結して一つの塊を形成し、それぞれの塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定する方法である。画素を連結して一つの塊を形成する方法としては、各ひび割れ領域における任意のひび割れ画素を起点とし(第1画素)、例えば、この第1画素から反時計回りに隣接する画素に注目し、この隣接画素(第2画素)がひび割れ画素である場合には第1画素と第2画素を接続する。以後、同様に第2画素、第3画素、…、第n−1画素、第n画素とひび割れ画素の追跡をおこない、第n画素の次に起点となる第1画素がくる場合には、第一画素〜第n画素までを一つのひび割れ箇所(ひび割れライン)と判定する。あるいは、第n画素の次に続くひび割れ画素が存在しなくなった時点で、第1画素〜第n画素を一つのひび割れ箇所(ひび割れライン)と判定する。
ところで、この二値化画像の作成(ステップS40)までの処理フローとは別に、独立して、本発明の特定方法では、二値化画像に基づいた特徴量テーブルを作成しておく。
具体的には、ひび割れ特定対象のコンクリート表面とは異なるコンクリート表面に対して、図2のステップS40までを実行して二値化画像を作成する。この二値化画像は、同じウェーブレット関数を有する画素が連結してなる多数の塊(オブジェクト)を内蔵しているが、それぞれの塊の有するいくつかの特徴量を特定してこれを特徴量テーブルとしてテーブル化しておく。ここで、塊の特徴量とは、塊の形状に影響を与える要因のことであり、塊の面積、塊の外接四角形の高さや幅、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸、塊の面積とその外接四角形の面積の比率、塊の外接四角形の幅と高さの比率、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸の比率、塊の真円度((周囲長)2÷(4π×面積)の一般式から算定される塊の真円度)、塊の外周の凹凸度(フラクタル次元)、塊の外周の長さなどから構成される。
そして、この特徴量テーブルにはさらに、この任意のコンクリート表面に関する観測結果を入力しておく。具体的には、塊がひび割れである場合は区分「3」、ノイズ種の中でも型枠や傷跡などの場合は区分「2」、ノイズ種の中でもしみ跡や汚れなどの雑音の場合は区分「1」などの数字が規定されており、観測結果であるそれぞれの塊が、ひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれの区分に属するかが割り当てられている(ステップS50)。
次に、この特徴量テーブルを参照して、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対して作成されている二値化画像が内蔵する多数の塊に対し、判別分析をおこなって予測値を求めることとする。より具体的には、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなうものであり、この判別分析によってそれぞれの塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、この判定された結果を予測値とする(ステップS51)。
ステップS50で作成されている特徴量テーブルに対して、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対する二値化画像に内蔵される多数の塊(オブジェクト)の判別分析に基づく予測値が付加されて特徴量テーブルは順次更新されていく。なお、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に関する実際のひび割れ観測結果も特徴量テーブルに入力される。
判別分析にて各塊の予測値が特定され、コンピュータ内の特徴量テーブルに自動入力されることになるが、この予測値と観測値が一致しないものが残りのノイズである。
このノイズを確率値を用いて修正し(確率値の計算はステップS52)、予測値を修正して特徴量テーブルを更新し、この内容を二値化画像S40に反映して残りのノイズを除去してひび割れ画像を作成する(ステップS60)。
ここで、予測値に対して確率値を適用してその修正をおこなう方法を図6,7を参照して説明する。図6aは撮影画像を示した写真図であり、図6bは二値化画像と、さらにひび割れ画像を示した図である(図6bにおいて、二値化画像は白黒の画像のみであり、ひび割れ画像は、二値化画像に対して、区分1,2,3の線種が特定されている画像である)。また、図7aは特徴量テーブルを説明した図であり、図7bは判別分析に基づく予測値の正誤判別を示したテーブルであり、図7cはさらに確率値を適用して修正された予測値の正誤判別を示したテーブルである。
図6bのひび割れ画像において、区分「2」は「型枠や傷跡などの領域」、区分「3」は「ひび割れ領域」であり、それ以外は「しみ跡や汚れなどの雑音領域」で図7aの区分「1」が規定されている。
図示する特徴量テーブルにおいて、図7bの行列の1行目は観測値の区分「1」に対して予測値が判定区分「1」〜「3」になった個数を表している。例えば、観測値の区分「1」が予測値の判定区分「1」となる正判別の個数は3275個、観測値の区分「1」が予測値の判定区分「2」となる誤判別の個数は197個、観測値の区分「1」が予測値の判定区分「3」となる誤判別の個数は75個を表している。それぞれの正判別率と誤判別率は92.3%、5.6%、2.1%となっている。同様に、図7bの行列の2行目、3行目は観測値の区分「2」、「3」に対する予測値の判定区分「1」〜「3」の正判別または誤判別の個数である。
判別分析の結果に関する考察として、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「3」は71.5%、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「2」は13.1%、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」は15.4%である。ここで、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」または「2」となる原因としては、ひび割れとひび割れまたはしみ跡などの領域同士が結合する場合やひび割れ検出が不十分で不連続となるためであり、ひび割れの一部分の領域のオブジェクトに誤判別率が高くなる傾向がある。また、観測値の区分「1」→予測値の判定区分「1」は92.3%、観測値の区分「1」→予測値の判定区分「2」は5.6%、観測値の区分「1」→予測値の判定区分「3」は2.1%である。また、観測値の区分「2」→予測値の判定区分「1」は14.4%、観測値の区分「2」→予測値の判定区分「2」は74.3%、観測値の区分「2」→予測値の判定区分「3」は11.3%である。観測値の区分「1」→予測値の判定区分「2」または「3」の誤判別率は極めて希であるが、コンクリート表面の汚れや模様で生じる場合がある。観測値の区分「2」→予測値の判定区分「1」または「3」の誤判別は、コンクリート表面のしみ跡、型枠跡、ひび割れ検出の一部分で生じる場合がある。
このような判別結果を受け、確率値を適用して予測値の修正をおこなう。この予測値の修正に関して図7c、図8、9を参照して説明する。図8aは撮影画像を示した写真図であり、図8bは二値化画像と、さらにひび割れ画像を示した図であり、図9aは修正された予測値を有する特徴量テーブルを説明した図であり、図9bは確率値を適用して修正された予測値の正誤判別を示したテーブルである。
観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」または「2」となる場合は、ひび割れがひび割れでないと誤判別するために改善する必要性がある。そこで、マハラノビスの汎距離により、それぞれの塊(オブジェクト)がどのグループに属するかを判別することとする。なお、この方法では該当するグループにどの程度属しているのかが明確でないため、マハラノビスの汎距離を用いてそれぞれの塊がそれぞれのグループに属する確率を算定することとした。なお、マハラノビスの汎距離に関しては、「多変量解析法(奥野忠一ほか)日科技連」を参照した。
また、p次元正規分布の確率密度は次の式7と書くことができる。
式7をマハラノビスの汎距離D2を用いて書き換えると次の式8と書くことができる。
式6で定義したD2は自由度pのχ2分布に従う。D2がある値よりも大きくなる確率はχ2分布を用いて求めることができる。
このようにして求めた確率値を用いて特徴量データの誤判別率を検討し、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」または「2」となる誤判別を低減させるための予測値修正法を以下で説明する。
確率値に対して閾値を0.6に規定しておき、あるオブジェクトの各グループに属する確率がそれぞれ0.6以下ならば予測値に対して判別区分「others」を追加してこの判別区分に属することとする。この判別区分「others」に属したオブジェクトは撮影画像と確率値をもとに技術者が判断することとする。
予測値修正後の特徴量データに基づく判別分析結果を図7cに示している。この結果を受けて、予測値の判定区分「1〜3」のどのグループにも属さないオブジェクトに対する取り扱いを検討した。予測値が判定区分「1〜3」のどのグループにも属さない場合、予測値に判定区分「others」を追加し、オブジェクトが判定区分「others」に入った際には確率値から予測値の修正値を計算する。
この修正予測値に関し、図9aにおける「2−1−3」の表示においては、確率値P2→P1→P3の順に確率値が高いので、この値を参考にして技術者が最終的な判断を下すこととする。
図8aで示すひび割れ特定対象の撮影画像に対して、図8bでは二値化画像を示しており、同図においては、さらに、予測値が修正されたオブジェクトを含むひび割れ画像を示している(図8bにおいて、二値化画像は白黒の画像のみであり、ひび割れ画像は、二値化画像に対して、区分1〜4の線種が特定されている画像である)。さらに、図9bには、確率値を適用して予測値が修正された後の判別分析結果を示している。ここで、図8bで示すひび割れ画像において、判定区分「3」のオブジェクトはひび割れと判定された領域、判定区分「2」のオブジェクトは型枠跡・傷跡・鉄筋跡などと判定された領域、判定区分「4」のオブジェクトは判定を保留した領域、それ以外のオブジェクトはコンクリート表面の汚れ・模様などの雑音と判定された領域(判定区分「1」)を表している。
ひび割れとひび割れまたは剥落跡が結合した幾つかのオブジェクトは判定区分「2」と誤判別しており、また外枠の左右のしみ跡はひび割れと誤判別しているが、従来の二値化画像からひび割れ領域を抽出する方法に比べて、本発明の特定方法によってひび割れ抽出をおこなう場合に処理時間や人為的なミスを軽減することができる。すなわち、図2中のステップS60のひび割れ画像の作成では、最終的に図9bの誤判別率から判断して、型枠跡や傷跡などの判定区分「2」に対する認識率が48.5%と極めて低くなっており,誤判別率の大半がひび割れと判定している。
従来法では、図2中のステップS60のひび割れ画像の作成の最終段階で作成されたひび割れ画像に対して画像編集ソフトを用いてマニュアル操作でおこなっていたため、この操作は極めて煩雑で手間が掛かることから操作の過程でひび割れの見落としなどの人為的なミスが生じ易かった。これに対し、判別分析をおこない、かつ、確率値を用いてひび割れの予測値を修正しながらひび割れの判定を自動処理することにより、このような人為的なミスが解消される。
次に、作成されたひび割れ画像に対して、それぞれのひび割れの中心線で構成され、たとえばひび割れ全体が1画素幅(1ピクセル幅)を有する細線化画像を作成する(ステップS70)。
この細線化画像を使用してひび割れ幅の推定値を算定する(ステップS80)。ここで、このひび割れ幅の推定方法を図10に基づいて説明する。
ステップS100にてデータベース化されたそれぞれのクラックスケールの撮影画像をコンピュータに入力してそれぞれのクラックスケールの入力画像を作成し、それぞれのクラックスケールの入力画像をウェーブレット変換することによってクラックスケールのウェーブレット画像を作成し(ステップS101)、ウェーブレット画像の各画素のウェーブレット係数を対応するウェーブレット係数テーブルのウェーブレット係数(閾値)と比較することによってクラックスケールの2値化画像を作成する(ステップS102)。そして、これに細線化処理を実行してその中心線で構成される、クラックスケールの細線化画像を作成する(ステップS103)。
作成されたクラックスケールの細線化画像において、ひび割れ幅の推定式の説明変数pを、以下の式で規定する。
上記する説明変数pと、クラックスケールの撮影画像から特定されるクラックスケールの実寸値qより、回帰分析をおこなう。
回帰分析の結果、説明変数pをパラメータとする以下のひび割れ幅の推定式を得ることができる(ステップS104)。
推定式のpに対し、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像におけるウェーブレット係数の値とウェーブレット係数の閾値から特定されるpを適用することにより、撮影対象ごとにそれぞれのコンクリート表面のひび割れ幅を特定することができる(ステップS110)。
図2に戻り、ステップS80によってひび割れ幅の推定をおこなった後に、各ひび割れの分布状態、ひび割れ幅ごとのひび割れ数量などに関するテーブルや図面(ひび割れ展開図など)をデータとして作成する(ステップS90)。
なお、図10では、クラックスケールのデータベースからひび割れ幅の推定式の特定までのフローと撮影対象のコンクリート表面の細線化画像の作成までが並行したフロー図となっているが、本発明のひび割れ検出方法は、このフロー図に限定されるものではなく、たとえばステップS100〜ステップS104を先行しておこない、ひび割れ幅の推定式を予め特定しておき、その次に、撮影対象のコンクリート表面における細線化画像の作成をおこなうフローであってもよい。
ここで、回帰分析の結果、相関係数が比較的高いクラックスケール画像のみを用いて回帰分析をおこない、ひび割れ幅の推定式を特定するのが望ましい。
たとえば、相関係数0.85以上のクラックスケール画像を用いて回帰分析をおこない、特定されたひび割れ幅の推定式(たとえばy=0.029+0.000736p)は極めて高い精度でひび割れ幅を特定することができる。
図11は、ひび割れ幅の推定方法に関する他の実施の形態を説明した図である。
撮影画像から求められたpは、撮影画像の品質によってばらつきが生じ易い。そこで、撮影画像の品質を一定の基準に基準化するために、以下の式で示される基準化されたpを求める。
以上、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。