JP5849607B2 - モータ鉄心用電磁鋼板の選択方法 - Google Patents

モータ鉄心用電磁鋼板の選択方法 Download PDF

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Description

本発明は、モータのティース脚長さ方向を電磁鋼板の圧延方向あるいは圧延直角方向といった特定の方向に揃えて打ち抜き、これを積層して組み合わせて鉄心とする分割鉄心型モータの鉄心に用いる電磁鋼板の選択方法に関する。
従来のモータ鉄心は電磁鋼板を円形状のステータを一体として打ち抜き、これを積層して構成するのが一般的であった。このため、モータ鉄心用の電磁鋼板の磁気異方性は小さい方が好ましいとされていた。
しかし、電磁鋼板をT字型形状に打ち抜き積層したT字型ピースを組み合わせてステータ鉄心とする分割鉄心型モータの出現により、従来は好ましくないとされていた電磁鋼板の磁気異方性をむしろ積極的に活用する試みが検討されている(特許文献1〜4)。これは、分割鉄心型モータの場合、ティース脚を電磁鋼板の圧延方向または圧延直角方向に揃えて打ち抜くことが可能であり、磁気異方性を積極的に活用することができるからである。
電磁鋼板を一体の円形状のステータとして打ち抜きこれを積層して構成する従来型のモータにおいては、モータ鉄心用電磁鋼板の選択方法として鋼板圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)との平均的な磁束密度特性である磁束密度B25(磁界強度2500A/mにおける磁束密度)あるいはB50(磁界強度5000A/mにおける磁束密度)の数値が高い電磁鋼板を選択すればトルク性能の優れたモータとすることができるのが一般的であった。
一方、特許文献1〜3では、分割鉄心型モータでは電磁鋼板の磁気異方性は必ずしも小さくなくてもよく、L方向とC方向の磁気特性を改善した方が分割コアのティース部分で所要の磁気特性を確保することができる点で好ましいとしている。
具体的には、特許文献1においては、C方向のB50と圧延方向と45°方向(D方向)のB50との比が鋼板板厚によって定まるある値より大きく、かつL方向のB50と鋼板の飽和磁束密度Bsとの比もある値より大きいのが好ましいとしている。特許文献2においては、L方向のB50とD方向のB50との差がある値より大きいのが好ましいとしている。特許文献3においては、C方向のB50とD方向のB50との比がある特定の値より大きく、かつL方向のB50と鋼板の飽和磁束密度Bsとの比もある値より大きいのが好ましいとしている。
しかし、上記特許文献1〜3のいずれもL方向およびC方向の磁束密度特性を改善することが好ましいことを概念的に述べているのみで、それらの改善が効果としてモータ特性にどのように影響するのか、モータトルク特性をどの程度向上させることができるのか(あるいはできないのか)について全く触れていない。
このため、上記特許文献1〜3の規定を満足する電磁鋼板を複数種類用意できるとき、例えば特許文献3の指定するところのC方向のB50とD方向のB50との比が1.03を上回りかつL方向のB50と鋼板の飽和磁束密度Bsとの比が0.82以上となる電磁鋼板が複数種類用意できるときに、それら電磁鋼板の中のどれを使用したら最もモータトルク特性の優れたモータを作成することができるのかについては示唆するものすらない。まして特許文献1〜3に記載されたような結晶組織、粒径あるいは磁気特性を制御する特殊な電磁鋼板はコストその他の理由で入手できない場合において、上記特許文献1〜3に記載の条件を満足しないが入手は可能な電磁鋼板を用いてモータを作成するに際し、入手可能な電磁鋼板の中のどれを使用したら最もモータトルク特性の優れたモータを作成することができるのかについては全くわからないといえる。
特許文献4では結晶方位を特定の条件に制御し、L方向B50が1.8T以上、C方向B50が1.7T以上とした電磁鋼板を使用すればモータ鉄損を低減して効率の優れたモータを得ることができるとしており、モータ効率に及ぼす効果も具体的に例示されている。しかし、特許文献4の発明で規定する要件を満足する電磁鋼板を複数種類用意できるとき、それら電磁鋼板の中のどれを使用したら最も効率が優れたモータとすることができるかに関しては、L方向B50とC方向B50の両方が高い電磁鋼板の方がモータ効率も高くなる例が示されているに過ぎず、例えばL方向B50が1.85T、C方向B50が1.71Tの電磁鋼板AとL方向B50が1.83T、C方向B50が1.73Tの電磁鋼板Bとではどちらが効率が優れたモータとなるかといったことの判断の根拠となるような記載はないので、効率の優れたモータを得るための詳細な判定指標を提示するまでには至っていない。ましてモータのトルク特性については全く触れられておらず、電磁鋼板を複数種類用意できたときに、それら電磁鋼板の中のどれを使用したら最もモータトルク特性の優れたモータを作成することができるのかについては特許文献1〜3と同様、有用な知見は全く示されていない。
このため、たとえばティース脚を電磁鋼板の圧延方向に揃えて打ち抜き積層したT字型ピースを組み合わせてステータ鉄心としたモータでは、電磁鋼板のL方向とC方向の磁束密度特性(B25またはB50)の数値がともに高い電磁鋼板を選択すればトルク性能の優れたモータとすることができると一般的・概念的に考えられているのみで、分割鉄心型モータにおいてトルク性能の優れたモータとすることができる確たる電磁鋼板性能指標が存在するとはいえない状況にある。
したがって、分割鉄心型モータにおいてトルク性能の優れたモータとするために鉄心材料として使用する電磁鋼板を選定するに際しては、使用する候補として考えられる電磁鋼板を用いてモータを実際に試作してトルク性能評価を行なって選定する、あるいはコンピュータを使った磁界解析シミュレーションを行ってモータトルク性能を予測することによって選定することがなされている。
特開2008−127600号公報 特開2008−127608号公報 特開2008−127612号公報 特許第4284882号公報
このように、モータのティース脚長さ方向を電磁鋼板の特定の方向に揃えて打ち抜きこれを積層して鉄心を構成する分割鉄心型モータにおいて、鉄心素材として使用する電磁鋼板を選定する方法として使用する候補として考えられる電磁鋼板を用いて実際にモータを試作、性能評価して選定する方法は、モータを試作して評価するための費用、手間や時間が大幅にかかるという問題点がある。
昨今ではコンピュータを用いた磁界解析シミュレーション技術が進歩し、モータ性能を数値シミュレーションによって予測することが可能となっている。モータに使用する候補として考えられる電磁鋼板の磁気特性データを用意して数値シミュレーションをおこなうことによって各電磁鋼板を使用したときのモータ性能を予測、相互比較することによって使用する電磁鋼板の選択を行うようにすれば、実際に電磁鋼板を加工してモータを試作して評価するための費用、手間や時間を省略することができるが、モータ性能の数値シミュレーションを実施するためには、使用する候補として考えられる全ての電磁鋼板についての詳細な磁気特性データを用意する必要があるほか、実際に数値シミュレーションを実施するための費用や時間もかかるという問題点がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、実際に電磁鋼板を加工してモータを試作して評価することなしに、かつ数値シミュレーションを実施する回数を最小限に抑えて、しかも簡便・容易にモータに使用する電磁鋼板の選択を行なうことができる技術を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明は、電磁鋼板を特定方向に打ち抜き積層して鉄心とする分割型モータを作成するに際し、鉄心材料として使用する候補の電磁鋼板が複数種類存在している場合に、これら複数種類の電磁鋼板のうちモータのトルク性能を最大化するために最適な電磁鋼板を選択するモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法において、
(1)候補としている複数種類の電磁鋼板の中から評価の基準とするために1種類の電磁鋼板を選定する第1工程と、
(2)選定された基準用電磁鋼板を鉄心用材料として使用したモータのトルク性能を数値計算ソフトウェアを用いて計算評価するための計算モデルを用意する第2工程と、
(3)当該モータが使用される最大トルク出力時におけるモータ鉄心のティースおよびヨークの磁束密度を前記計算モデルを用いて求める第3工程と、
(4)第3工程で得られたティースおよびヨークの磁束密度の値に基づき、電磁鋼板選定のための判定用インデックスの算出に使用する電磁鋼板の磁束密度特性指標を決定する第4工程と、
(5)第4工程で決定した磁束密度特性指標における前記候補としている各電磁鋼板の磁束密度特性値データを用意する第5工程と、
(6)第5工程で用意された磁束密度特性値データから最適電磁鋼板を判定するための判定用インデックスを前記候補としている電磁鋼板ごとに算出する第6工程と、
(7)第6工程で算定された判定用インデックスに基づいて、前記候補としている複数種類の電磁鋼板の中からモータ鉄心に使用する電磁鋼板を選択する第7工程と
からなることを特徴とするモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法を提供する。
上記モータ鉄心用電磁鋼板の選択方法において、前記第4工程で求める磁束密度特性指標として、前記第3工程で求めた最大トルク出力時におけるモータ鉄心のティースおよびヨークの磁束密度の値に対応する磁界強度の近傍の切りの良い磁界強度のときの磁束密度を用いることができる。
また、前記第5工程で求められる各電磁鋼板の磁束密度特性値データであるティースの磁束密度値がBt、ヨークの磁束密度値がByであり、そのときの磁界強度がそれぞれHtおよびHyであり、ティース脚長さをLt(mm)、ティースの幅をWt(mm)、ヨーク長さをLy(mm)、ヨーク幅をWy(mm)としたときに、前記第6工程で算出される判定用インデックスとして、以下の式で表されるものを用いることができる。
判定用インデックス={(Lt/Wt)×(Ht/Bt)+(Ly/Wy)×(Hy/By)}×1000
この場合に、前記第3の工程で実施した磁界計算シミュレーションの計算結果を用いてモータ鉄心各部位の磁束密度の二次元リサージュを求め、各部位が交番磁束領域であるか回転磁束領域であるか判定して、ティースの交番磁束領域長さである実効ティース脚長さを前記ティース脚長さLtとして用い、かつヨーク部の交番磁束領域長さである実効ヨーク長さを前記ヨーク長さLyとして用いることが好ましい。
本発明は、実際にモータを試作して評価することなしに当該モータに用いる電磁鋼板を選定するようにしているので、電磁鋼板を加工してモータを試作して評価するための費用、手間や時間を大きく低減することができる。また、複数の電磁鋼板の中から1種類の電磁鋼板を選択するために数値シミュレーションを実施するが、シミュレーションは1種類の電磁鋼板についてのみとしているのでシミュレーションを行なう費用や時間が抑制され、シミュレーションを行うために必要となる電磁鋼板の詳細な磁気特性データも1種類の電磁鋼板についてのみ用意すればよいので、詳細なデータを用意する手間を大きく低減することができる。さらに、容易に入手できる電磁鋼板の一般的な磁気特性データを用いて電磁鋼板を選定するようにしているので、簡便かつ容易に実施することができる。
発明の一実施形態に係るモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法における一連の工程を示すフローチャートである。 第3工程で実施した磁界解析シミュレーション結果を用いてモータステータ各部位の磁束密度の二次元リサージュを求めて、交番磁束領域と回転磁束領域に分けた結果を示す図である。 図2の交番磁束領域と回転磁束領域に分けた結果に基づいて、実効ティース脚長Ltと実効ヨーク長Lyとを定めた状態を示す図である。 表3に示したモータトルクと表2に示した実施例1の鉄心材料の判定用インデックスとの関係を示す図である。 鋼板のL方向B50とモータトルクとの関係を示す図である。 表3に示したモータトルクと表4に示した実施例2の鉄心材料の判定用インデックスとの関係を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
ここでは、電磁鋼板を特定方向に打ち抜き積層して鉄心とする分割型モータを作成するに際し、鉄心材料として使用する候補として考えられる電磁鋼板が何種類か存在している場合において、モータのトルク性能を最大化するために、以下に説明する一連の工程に基づいて最適な電磁鋼板を選択する。
図1は本発明の一実施形態に係るモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法における一連の工程を示すフローチャートである。
まず、使用する候補としている電磁鋼板群の中から評価の基準とするために1種類の電磁鋼板を選定する(第1工程)。
選定に当たっては、電磁鋼板の製造メーカから提供される圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)との平均的な磁気特性(L+C特性と表記)であるところの磁束密度値B50(磁界5000A/mにおける磁束密度値)を使用する。具体的には、使用する候補である全ての電磁鋼板のB50の値を比較して最も平均的なB50値を有する電磁鋼板を評価基準用電磁鋼板として選定する。
なお、本実施形態では選定指標としてB50を用いているが、第1の工程における選定の目的は、さまざまな磁束密度性能を有する候補電磁鋼板群の中から平均的な磁束密度性能を有する電磁鋼板を選びだすことにあるので、選定指標は必ずしもB50である必要はなく、例えばB25(磁界2500A/mにおける磁束密度値)を用いてもよい。
また第1工程で選定する電磁鋼板は候補電磁鋼板群の中で平均的な磁束密度性能を有する電磁鋼板を選定するほど最終的な最適電磁鋼板選択の精度が良くなるのであるが、仮に第1工程における選定で候補電磁鋼板群の中の平均からずれた電磁鋼板を選定したとしても最終的な精度は劣るものの本発明の効果は十分に得ることができるので、例えばシミュレーションに使用する詳細な磁気特性データが得やすい電磁鋼板を選定することもできる。
次に、上記第1工程で選定した評価基準用電磁鋼板に対してのみ、磁界解析シミュレーションでモータトルク特性を算出するために必要となる電磁鋼板磁気特性データを用意し、それに基づいて計算モデルを用意する(第2工程)。
たとえば広く市販されているJMAGとよばれる磁界解析シミュレーションソフトを使用する場合には、電磁鋼板の磁化特性曲線データを用意して当該モータの磁界解析を行うための計算モデルを完成させる。
なお、ここで、当該モータはティース脚方向を電磁鋼板L方向に揃えて打ち抜いて作成する予定の場合、ティース部の磁気特性は電磁鋼板L方向の磁化特性、ヨーク部はC方向の磁化特性を有するとした計算モデルとし、逆にティース脚方向を電磁鋼板C方向に揃えて打ち抜いて作成する予定の場合、ティース部の磁気特性は電磁鋼板C方向の磁化特性、ヨーク部はL方向の磁化特性を有するとした計算モデルとするのが好ましい。
次に、上記第2工程で用意された計算モデルを用いて、評価基準用電磁鋼板を鉄心材料に使用したモータの設計最大トルク出力時の鉄心のティースおよびヨークの磁束密度を求める(第3工程)。
なお、上記第2工程および第3工程では、以上に説明したような磁界解析シミュレーションを使用することが、費用、手間や時間を抑制できる点で最も好ましいが、たとえば評価基準用電磁鋼板を鉄心材料に使用したモータを実際に試作して実験的に最大トルク出力時の鉄心のティースおよびヨークの磁束密度を求めることを行ってもよい。
次に、上記第3工程で得られたティースおよびヨークの磁束密度に基づき、最適電磁鋼板選定のための判定用インデックスの算出に使用する電磁鋼板の磁束密度特性指標を決定する(第4工程)。
第4工程では、上記第3工程で得られたティースの磁束密度をBt1(Tesla)、ヨーク部の磁束密度をBy1(Tesla)とすると、以下のようにして磁界強度を求める。すなわち、決定する当該モータがティース脚方向を電磁鋼板L方向に揃えて打ち抜いて作成する予定の場合、評価基準用電磁鋼板のL方向磁化特性曲線データから磁束密度がBt1となる磁界強度Htを求め、C方向磁化特性曲線データから磁束密度がBy1となる磁界強度Hyを求める。逆にティース脚方向を電磁鋼板C方向に揃えて打ち抜いて作成する予定の場合、評価基準用電磁鋼板のC方向磁化特性曲線データから磁束密度Bt1となる磁界強度Htを求め、L方向磁化特性曲線データから磁束密度By1となる磁界強度Hyを求める。そして、典型的には、上記磁界Ht、Hyにおける磁束密度を磁束密度特性指標とする。この値が最も正確で好ましいが、データ入手がしやすい切の良い値に置き換えてもよい。例えばHt=4870A/m、Hy=2630A/mであった場合、Ht=5000A/m、Hy=2500A/mに置き換える。このような置き換えは入手容易な磁気特性データを使用できるようにするために行なうのであり、例えば上の例のように置き換えれば、磁束密度特性指標として入手がきわめて容易な電磁鋼板特性データのB25やB50を使用することができる。
次に、上記のようにして全ての使用候補電磁鋼板に対して磁界強度Htにおける磁束密度値Bt、磁界強度Hyにおける磁束密度値Byを用意する。すなわち、上記第4工程で決定した磁束密度特性指標(例えばB50やB25)における各各電磁鋼板の磁束密度特性値データとして実際の磁束密度値Bt、Byを用意する(第5工程)。
次に、上記第5工程で得られた使用候補電磁鋼板の磁束密度値Bt、Byを用いて下記で定義される判定用インデックスを算出する(第6工程)。
判定用インデックス={(Lt/Wt)×(Ht/Bt)+(Ly/Wy)×(Hy/By)}×1000
ここでLtはティース脚長さ(単位mm)、Wtはティースの幅(単位mm)、Lyはヨーク長さ(単位mm)、Wyはヨーク幅(単位mm)である。
次に、上記第6工程で得られた各使用候補電磁鋼板の判定用インデックスを比較して最も低い値を有する電磁鋼板1種類を最終的に選択する(第7工程)。
このようにして選択した電磁鋼板を鉄心材料に用いて当該モータを作成すれば、他の使用候補であった電磁鋼板を使用して作成したモータよりも高トルク出力のモータを得ることができる。
以上の実施形態では、上記第6工程において最適電磁鋼板選定のための判定用インデックスの算出に使用するモータのティース脚長さLtおよびヨーク長さLyとして、幾何学的長さを用いることができるが、高精度にモータのトルク特性を予測する観点から、これらとして上記第3工程で実施した磁界解析シミュレーション結果に基づいて以下のように求めた実効ティース脚長さLteおよび実効ヨーク長さLyeを用いることが好ましい。
すなわち、図2に示すように、磁界解析シミュレーション結果を用いてモータステータ各部位の磁束密度の二次元リサージュを描く。図2から明らかなように、モータステータの各部位には、ヨーク中央(図2のA)やティース中央(図2のC)のように磁束状態がほぼ交番磁束である部分(以下交番磁束領域と呼ぶ)と、ティース付け根(図2のB)やティース先端(図2のD)のように回転磁束を生じる部分(以下回転磁束領域と呼ぶ)の2つに分けることができる。多くの場合リサージュ形状を観察すれば交番磁束領域であるか回転磁束領域であるか明瞭であるが、判断に迷う場合には二次元座標の原点からリサージュ軌跡に至る距離の最大値と最小値との比が1/10以上ある場合は交番磁束領域、1/10未満の場合は交番磁束領域とすればよい。このようにしてモータのステータ鉄心を図3に示すように回転磁束領域と交番磁束領域とに分けることができたら、ティースの交番磁界領域となる部分の長さを実効ティース脚長さLteとし、ヨークの交番磁界領域となる部分の角度(実効ヨーク角度)分のヨーク周長を実効ヨーク長さLyeとして定め、これらをティース脚長さLtおよびヨーク長さLyとして用いる。図3に示すように、実効ティース脚長さは幾何学的ティース長さより若干短く、実効ヨーク長さは幾何学的ヨーク長さ(幾何学的ヨーク角度分のヨーク周長)よりも若干短い。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
ステータ外径156mm、ロータ径105mm、軸長25mm、スロット数18、磁極数12の埋め込み磁石型回転子、定格電流18.4Arms、定格トルク10N・mの集中巻き分割モータを設計した。幾何学的ティース脚長さLtを18.6mm、ティース脚幅Wtを10.0mm、幾何学的ヨーク長さLyを7.9mm、ヨーク幅Wyを5.4mmとした。モータ鉄心は、ティース脚長手方向を電磁鋼板L方向に揃えて打ち抜き積層して作製するものとした。このため、モータ鉄心の磁束流れは、ティース部では電磁鋼板L方向、ヨーク部では電磁鋼板C方向に主に流れることになる。
上記モータの鉄心用電磁鋼板として使用する候補として表1に示す電磁鋼板を用意した。圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)との平均的な磁気特性(L+C特性と表記)であるところの磁束密度値B50(磁界5000A/mにおける磁束密度値)を比較すると鋼板Cが最も平均的な値であるので、評価基準用電磁鋼板として鋼板Cを選定した(第1工程)。
コンピュータを用いた磁界シミュレーションを行う際に使用するために、鋼板Cの詳細な磁気特性データを用意し、市販の磁界シミュレーションソフトウェアを用いて、設計した当該モータに対する計算用モデルを作成し、鉄心の磁気特性として鋼板Cの磁気特性を当てはめるように設定して磁界シミュレーションを行う準備を整えた(第2工程)。
上記準備した計算用モデルに対して、モータ鉄心の磁界シミュレーションを行い、モータトルク性能を算出した。モータ駆動電流を大きくするほどモータトルクも大きくなり、設計定格電流18.4Armsで駆動した場合のトルク(最大トルク)は10.0N・mであった。このときの磁束密度(鉄心断面平均磁束密度振幅の最大値)はティースが1.718T、ヨークが1.589Tとなることがわかった(第3工程)。
上記第2工程で用意した鋼板Cの磁化特性データで確認すると、最大トルク運転時ティース磁束密度1.718Tは鋼板CのL方向B50に極めて近い値であり、最大トルク運転時ヨーク磁束密度1.589Tは鋼板CのC方向B25に極めて近い値であることがわかったので、最適電磁鋼板選定のための判定用インデックスの算出に使用する電磁鋼板の磁束密度特性指標としてL方向B50とC方向B25を選定した(第4工程)。このとき上記判定用インデックスに対してHt=5000A/m、BtはL方向B50の値、Hy=2500A/m、ByはC方向B25の値としたことに相当する。
表1に示す全ての電磁鋼板について、第4工程で磁束密度特性指標として選定したL方向B50とC方向B25の特性データを用意した(第5工程)。なお、L方向B50やC方向B25といった特性データはごく一般的な磁気特性データであるので、電磁鋼板の製造メーカに問い合わせるなどすることによって容易に入手することができる。
第5工程で用意した磁束密度特性指標データを用いて、表1に示す全ての電磁鋼板に対し、以下のように判定用インデックスを算出した(第6工程)。
判定用インデックス={(18.6/10.0)×(5000/B50)+(7.9/5.4)×(2500/B25)}×1000
各電磁鋼板のL方向B50、C方向B25、判定用インデックスの値を表2に示す。
表2を見ると、鋼板Fが判定用インデックスの値が最も低いので、モータのトルク性能を最大化する目的に即した最適な電磁鋼板として鋼板Fを選定した(第7工程)。
本発明の効果を検証するために、表1に示す用意された電磁鋼板を用いてティース脚長手方向を電磁鋼板L方向に揃えて打ち抜き積層して鉄心を作製し、1ティースあたり98ターンの銅巻き線を施して1相あたり6コイル並列の3相星型結線としたモータを合計6台試作した。モータテストベンチを用いて定格電流18.4Arms、回転数1000rpmで駆動したときのモータトルクを計測した結果を表3に示す。
表3に示したモータトルクと表2に示した鉄心材料の判定用インデックスとの関係を図4に示す。図4より、鉄心材料の一般的な磁気特性値から容易に算出できる判定用インダックスが最も低い材料を使用すれば、最もトルク特性の優れたモータとすることができることが実験的にも確認された。
図5に示した鋼板のL方向B50とモータトルクとの関係からわかるように、鉄心に使用する鋼板のL方向B50の値のみでモータのトルク性能を一義的に示すことはできないが、図4に見るように鉄心に使用する鋼板の判定用インデックスによってモータのトルク特性を一義的に示すことが可能であり、判定用インデックスはモータのトルク特性を極めて高精度に予測することができる優れた指標であることも確認された。
(実施例2)
次に、実施例1と同様の設計のモータの鉄心用電磁鋼板の候補として実施例1と同様、表1の電磁鋼板を用意し、実施例1と同様に第1工程〜第3工程を行った後、第3工程で実施した磁界解析シミュレーション結果に基づいて、モータ鉄心各部位の磁束密度リサージュを描き交番磁束領域と回転磁束領域との区分けを行い、実効ティース脚長さLteおよび実効ヨーク長さLyeを求めた。その結果、Lteは16.4mm、Lyeは6.6mmとなった。
次いで、第4工程を実施例1と同様に行って、最適電磁鋼板選定のための判定用インデックスの算出に使用する電磁鋼板の磁束密度特性指標としてL方向B50とC方向B25を選定した。そして、実施例1と同様、表1に示す全ての電磁鋼板について、第4工程で磁束密度特性指標として選定したL方向B50とC方向B25の特性データを用意した(第5工程)。
第5工程で用意した磁束密度特性指標データを用い、かつ、第3工程で実施した磁界解析シミュレーション結果に基づいて求めた実効ティース脚長さLteおよび実効ヨーク長さLyeを、それぞれティース脚長さLtおよびヨーク長さLyとして用いて、表1に示す全ての電磁鋼板に対し、以下の式に従って以下のように判定用インデックスを算出した(第6工程)。
判定用インデックス={(16.4/10.0)×(5000/B50)+(6.6/5.4)×(2500/B25)}×1000
各電磁鋼板のL方向B50、C方向B25、判定用インデックスの値を表4に示す。
表4を見ると、鋼板Fが判定用インデックスの値が最も低いので、モータのトルク性能を最大化する目的に即した最適な電磁鋼板として鋼板Fを選定した(第7工程)。
表1に示す電磁鋼板により作製した鉄心を用いたモータによる表3に示すモータトルクと表4に示した鉄心材料の判定用インデックスとの関係を図6に示す。実施例1と同様、鉄心材料の一般的な磁気特性値から容易に算出できる判定用インダックスが最も低い材料を使用すれば、最もトルク特性の優れたモータとすることができることが実験的にも確認された。また、第3工程で実施した磁界解析シミュレーション結果に基づいて、モータ鉄心各部位の磁束密度リサージュを描き交番磁束領域と回転磁束領域との区分けを行い、実効ティース脚長さLteおよび実効ヨーク長さLyeを求め、それを判定用インデックスの算出に用いたので、実運用において、より高精度にモータのトルク特性を予測できることが期待される。

Claims (4)

  1. 電磁鋼板を特定方向に打ち抜き積層して鉄心とする分割型モータを作成するに際し、鉄心材料として使用する候補の電磁鋼板が複数種類存在している場合に、これら複数種類の電磁鋼板のうちモータのトルク性能を最大化するために最適な電磁鋼板を選択するモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法において、
    (1)候補としている複数種類の電磁鋼板の中から評価の基準とするために1種類の電磁鋼板を選定する第1工程と、
    (2)選定された基準用電磁鋼板を鉄心用材料として使用したモータのトルク性能を数値計算ソフトウェアを用いて計算評価するための計算モデルを用意する第2工程と、
    (3)当該モータが使用される最大トルク出力時におけるモータ鉄心のティースおよびヨークの磁束密度を前記計算モデルを用いて求める第3工程と、
    (4)第3工程で得られたティースおよびヨークの磁束密度の値に基づき、電磁鋼板選定のための判定用インデックスの算出に使用する電磁鋼板の磁束密度特性指標を決定する第4工程と、
    (5)第4工程で決定した磁束密度特性指標における前記候補としている各電磁鋼板の磁束密度特性値データを用意する第5工程と、
    (6)第5工程で用意された磁束密度特性値データから最適電磁鋼板を判定するための判定用インデックスを前記候補としている電磁鋼板ごとに算出する第6工程と、
    (7)第6工程で算出された判定用インデックスに基づいて、前記候補としている複数種類の電磁鋼板の中からモータ鉄心に使用する電磁鋼板を選択する第7工程と
    からなることを特徴とするモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法。
  2. 前記第4工程で求める磁束密度特性指標として、前記第3工程で求めた最大トルク出力時におけるモータ鉄心のティースおよびヨークの磁束密度の値に対応する磁界強度の近傍の切りの良い磁界強度のときの磁束密度を用いることを特徴とする請求項1に記載のモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法。
  3. 前記第5工程で求められる各電磁鋼板の磁束密度特性値データであるティースの磁束密度値がBt、ヨークの磁束密度値がByであり、そのときの磁界強度がそれぞれHtおよびHyであり、ティース脚長さをLt(mm)、ティースの幅をWt(mm)、ヨーク長さをLy(mm)、ヨーク幅をWy(mm)としたときに、前記第6工程で算出される判定用インデックスが、以下の式で表されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法。
    判定用インデックス={(Lt/Wt)×(Ht/Bt)+(Ly/Wy)×(Hy/By)}×1000
  4. 前記第3の工程で実施した磁界計算シミュレーションの計算結果を用いてモータ鉄心各部位の磁束密度の二次元リサージュを求め、各部位が交番磁束領域であるか回転磁束領域であるか判定して、ティースの交番磁束領域長さである実効ティース脚長さを前記ティース脚長さLtとして用い、かつヨーク部の交番磁束領域長さである実効ヨーク長さを前記ヨーク長さLyとして用いることを特徴とする請求項3に記載のモータ鉄心用電磁鋼板の選択方法。
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