以下、各実施形態について図面を参照して説明する。
<1.第1実施形態>
[1.通信システムの構成]
図1は、本実施形態に係る通信システム1の構成図である。
図1に示されるように、通信システム1は、第1通信装置10と第2通信装置20とを有している。通信システム1における第1通信装置10および第2通信装置20は互いに有線通信によって通信可能に構成されている。第1通信装置10と第2通信装置20とを電気的に接続する伝送路30は、通常の通信線であってもよく、或いは、電力線であってもよい。電力線を伝送路とする場合、第1通信装置10および第2通信装置20は、電力線通信(PLC:power line communication)によって通信を行うことになる。本実施形態では、電力線通信によって通信を行う通信システム1を例示する。
また、通信装置10,20間の有線通信は、周波数軸上で互いに直交する複数のサブキャリアを合成して得られるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号を用いて行われる。そして、当該OFDM信号は、一定の時間単位で区切ってパケット単位で伝送される。
また、本通信システム1では、OFDM信号を構成する全サブキャリアのうち、所定帯域に含まれるサブキャリアを利用してデータの伝送が行われる。データの伝送に利用するサブキャリアの詳細については、後述する。
なお、以下では、第1通信装置10は送信装置として機能し、第2通信装置20は受信装置として機能する場合を例示するが、これに限定されるものではない。すなわち、第1通信装置10は、少なくとも送信機能を有しており、当該送信機能に加えて受信機能を有していてもよい。同様に、第2通信装置20は、少なくとも受信機能を有しており、当該受信機能に加えて送信機能を有していてもよい。
[2.送信装置の構成]
次に、通信システム1を構成する送信装置10の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る送信装置10の構成を示す図である。
図2に示されるように、送信装置10は、スクランブラ111、符号化部112、インターリーブ部(インターリーバ)113、一次変調部114、入力信号構成部115、IFFT(逆高速フーリエ変換)部116、並列/直列変換部(並直列変換部)117、GI付加部118、プリアンブル生成部(プリアンブル出力部)119、パケット構成部120、および送信部121を備えている。
具体的には、スクランブラ111は、伝送対象のデータ(「伝送データ」または「送信データ」とも称する)に対して、攪拌して順序を並び替えるスクランブル処理を施す。スクランブラ111においてスクランブル処理が施された送信データは、符号化部112に入力される。
符号化部112は、スクランブル処理が施された送信データに対して、誤り訂正のための冗長符号化を行う。冗長符号化には、例えば、拘束長k=7、符号化率1/2を原符号とする畳み込み符号が用いられる。符号化部112から出力される送信データのビット列は、インターリーブ部113に入力される。
インターリーブ部113では、誤りが1つのシンボルに偏らないようにするため、送信データのビット列を並び替えるビット・インターリーブが行われる。インターリーブ部113から出力される送信データは、一次変調部114入力される。
一次変調部114では、所定の変調方式(例えば、QPSK、16QAM)に従って、送信データがシンボルごとにサブキャリアにマッピング(対応づけ)される。
なお、ここでのシンボル(Symbol)は、変調方式ごとに定まる、搬送波(サブキャリア)に乗せるひと区切りの送信データの構成単位を表し、後述のOFDMシンボルとの混同を避けるため、データシンボルまたは複素シンボルとも称される。例えば、QPSKでは、1シンボル(1データシンボル)で送信できる送信データは2ビットである。
入力信号構成部115は、バッファ等で構成され、送信データを含むデータ信号をサブキャリアに分散して乗せるために、一次変調部114から入力されたデータシンボルを所定個の並列データに変換する機能を有している。
具体的には、上述のように、通信システム1では、OFDM信号を構成する全サブキャリアのうち、所定帯域に含まれるサブキャリアを利用してデータの伝送が行われる。このため、入力信号構成部115は、上記所定帯域に含まれるサブキャリアにデータ信号を割り当てるとともに、上記所定帯域以外の他のサブキャリアに0(ゼロ)を割り当てて並列データを生成し、当該並列データをIFFT部116に出力する。
このように、入力信号構成部115は、各サブキャリアにデータ信号の割り当てを行う割当手段として機能する。なお、データの伝送に利用されるサブキャリアを含む上記所定帯域の詳細については後述する。
IFFT部116は、入力信号構成部115から入力される並列データに逆高速フーリエ変換を施して、周波数領域のデータを時間領域のデータに変換する。入力信号構成部115から入力される周波数領域のデータは、各サブキャリアに関する振幅および位相のデータであり、IFFT部116は、各サブキャリア分の振幅位相データから、1つのOFDMシンボル分の時間データを生成することになる。
IFFT部116で生成される時間データは、時間領域の複素データであり、IFFT部116からは、I軸成分(同相成分、実数成分)の時間データと、Q軸成分(直交成分、虚数成分)の時間データとがそれぞれ生成される。
本実施形態では、IFFT部116で生成される時間領域の複素データのうち、I軸成分の時間データが並直列変換部117に入力され、Q軸成分の時間データは破棄される。
並直列変換部117は、IFFT部116から入力される並列のデータを直列のデータに変換する機能を有している。並直列変換部117から出力される直列のデータは、ベースバンド(基底帯域)のOFDM信号(ベースバンドOFDM信号)としてGI付加部118に入力される。
GI付加部118は、並直列変換部117から入力されるベースバンドOFDM信号に対して、ガードインターバル(GI)の付加処理を施し、GI付加済みのベースバンドOFDM信号をパケット構成部120に出力する。
プリアンブル出力部119は、受信側において、受信信号の検出処理、シンボルタイミング同期等の各種同期処理に用いるためのプリアンブル(Preamble)信号(プリアンブル)を出力する機能を有している。
具体的には、プリアンブル出力部119は、出力対象となるプリアンブル信号を記憶した記憶部(不図示)を有し、当該記憶部に記憶されたプリアンブル信号を外部に出力する。記憶部に記憶されたプリアンブル信号は、所定の配置パターンに従って各サブキャリアにプリアンブルに関するデータ(「プリアンブルデータ信号」または「プリアンブルデータ」とも称する)を配置する(割り当てる)ことによって得られる周波数領域の信号に、IFFT処理を施すことによって生成された時間領域の信号のうち、実部をとって得られる信号である。このようなプリアンブル信号は、予め生成され記憶部に記憶されている。なお、プリアンブル信号を生成する際に用いられる、各サブキャリアへのプリアンブルデータの配置パターン(「データ配置パターン」または「データ割当パターン」とも称する)については、後述する。
パケット構成部120は、GI付加部118から出力されるOFDM信号にプリアンブル信号を付加して、パケット単位の信号(「パケット信号」とも称する)を生成する。
ここで、パケット構成部120で生成される、パケット(パケット信号)の構成について説明する。図3は、パケットの構成を示す図である。
図3に示されるように、パケット50は、プリアンブル51と、プリアンブル51に続くPHY(物理層)ヘッダー52と、PHYヘッダー52に続くPHYペイロード53とで構成されている。
プリアンブル51は、連続する4つのショート・トレーニング・フィールド(STF)51Sと、これらのSTF51Sに続く3つのロング・トレーニング・フィールド(LTF)51Lとで構成されている。4つのSTF51Sは同じ内容であり、また、3つのLTF51Lは同じ内容である。STF51SおよびLTF51Lそれぞれは、1OFDMシンボルの信号である。
STF51Sは、予め規定された固定パターンの信号が所定周期で所定回数(例えば、4回)繰り返された構成を有している。つまり、STF51Sは、周期性を有した信号(厳密には、対称性を有した信号)である。当該STF51Sは、受信側において送信側から送られてくるパケット単位の信号(パケット信号)を検出するため、および受信側において受信信号のレベルを補正する自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)を行うために用いられる。
3つのLTF51Lのうち、最初のLTF51LAと、2番目のLTF51LBは、受信側において、FFT処理を実行するシンボルタイミングの微調整に用いられる。3つのLTF51Lのうち、最後のLTF51LCは、伝送路推定に用いられる。
なお、プリアンブルの構成として、プリアンブルに含まれるLTFを2つにして、2つのLTFの前に、ガードインターバルを付加する態様とし、最初のLTFをシンボルタイミングの微調整に用い、2番目のLTF51を伝送路推定に用いる構成も考えられる。当該構成では、シンボルタイミングのずれをガードインターバル分許容できる。これに対して、本実施形態のように、ガードインターバルを省いて、LTF51Lを3つにし、最初のLTF51LAおよび2番目のLTF51LBをシンボルタイミングの微調整に用いる構成とすれば、シンボルタイミングのずれを1OFDMシンボル分許容できることになる。
PHYヘッダー52は、後続して送信される送信データの伝送速度、データ長等のヘッダー情報を含んでいる。
PHYペイロード53は、伝送対象の送信データを含んでいる。
このように、パケット構成部120は、STF51SおよびLTF51Lを含んだプリアンブル51と、PHYヘッダー52と、PHYペイロード53とで構成されたパケット信号を生成する。なお、STFは、「ショート・トレーニング・シンボル」または「ショートプリアンブル信号」とも称され、LTFは、「ロング・トレーニング・シンボル」または「ロングプリアンブル信号」とも称される。
図2の送信装置10の説明に戻って、送信部121は、パケット構成部120で生成されたデジタル形式のパケット信号をアナログ形式のパケット信号に変換するDA変換処理を行い、DA変換処理後のパケット信号を通信信号として出力する。送信部121から出力された通信信号は、伝送路30を介して受信装置20へと伝送される。
このように、送信装置10は、IFFT部116において生成される時間領域の複素データのうち、虚数成分の時間データを破棄し、実数成分の時間データに基づいて生成されたOFDM信号(「実部OFDM信号」とも称する)を通信信号として送信する。これによれば、送信装置10は、直交変調を行うことなく、実数信号を伝送することが可能になるので、送信装置10から直交変調を行うための構成を省くことができる。
すなわち、従来の送信装置は、IFFT処理後のベースバンドOFDM信号に対して直交変調を施し、直交変調後の信号のうち、実数部分の信号を搬送帯域のOFDM信号として伝送していた。これに対して、本実施形態の送信装置10は、IFFT処理後のベースバンドOFDM信号に対して直交変調を施すことなく、ベースバンドOFDM信号の実数部分の信号(実部信号)を取り出して、当該実数部分の信号を伝送する。
[3.受信装置の構成]
次に、通信システム1を構成する受信装置20について説明する。図4は、本実施形態に係る受信装置20の構成を示す図である。
図4に示されるように、受信装置20は、受信部201と、プリアンブル検出部202と、AGC(自動利得調整)部203と、FFT(高速フーリエ変換)部204と、FFT制御部205と、シンボルタイミング検出部206と、伝送路推定部207と、等化器208と、復調部209と、デインターリーブ部210と、ビタビ復号化部211と、デスクランブラ212とを備えている。
送信装置10から送信された通信信号は、伝送路30を介して受信装置20へと伝送される。受信装置20は、通信信号を受信部201において受信する。
受信部201は、受信した通信信号(受信信号)に対してフィルタ処理、AD変換処理等を施す。そして受信部201は、デジタル形式の受信信号を、プリアンブル検出部202、AGC部203、およびFFT部204に出力する。
なお、当該通信システム1において利用される通信信号は、送信側で直交変調されていない信号であるため、受信側では直交検波が不要となる。このため、本実施形態の受信装置20は、直交検波を行うための構成、および直交検波によって生成される高周波成分の信号を除去するためのローパスフィルタを有していない。
プリアンブル検出部202は、受信信号に含まれるプリアンブル信号を検出するプリアンブル信号の検出処理を行う。具体的には、プリアンブル検出部202は、相関演算部(後述)を有し、当該相関演算部において受信信号に相関演算を施し、相関演算結果を利用してプリアンブル信号の検出を行う。
そして、プリアンブル検出部202は、プリアンブル信号を検出した場合、プリアンブル信号を検出したことを示す信号(プリアンブル検出信号)をAGC部203およびFFT制御部205に出力する。
AGC部203は、プリアンブル検出部202からのプリアンブル検出信号の入力に応じて、異なる受信レベルの信号を適正なレベルの信号となるように、利得の調整を行う。
FFT制御部205は、シンボルタイミングに基づいて、FFT部204に対して制御信号を出力し、FFT部204で実行されるFFT処理の実行タイミングを制御する。
また、FFT制御部205は、プリアンブル検出部202からプリアンブル検出信号が入力されたときは、プリアンブル信号の検出タイミングに基づいて、シンボルタイミングを特定する。パケット信号の構成は既知であるため、FFT制御部205は、プリアンブル信号の検出タイミングに基づいて、シンボルタイミングを特定することができる。なお、FFT制御部205において、プリアンブル信号の検出タイミングに基づいて特定されたシンボルタイミングは、暫定的なシンボルタイミングであり、シンボルタイミングは、後に微調整される。
シンボルタイミング検出部206は、パケットのプリアンブル51に含まれるLTF51Lを用いて正規のシンボルタイミングを検出する。シンボルタイミング検出部206で検出された正規のシンボルタイミングは、FFT制御部205に通知される。正規のシンボルタイミングが通知されると、FFT制御部205では、正規のシンボルタイミングに基づいて、FFT処理の実行タイミングが制御されることになる。
FFT部204は、受信信号に高速フーリエ変換を施して、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する、いわゆるマルチキャリア復調処理を実行する。FFT部204から出力されるマルチキャリア復調処理後の受信信号は、シンボルタイミング検出部206、伝送路推定部207および等化器208に入力される。
なお、FFT部204へは、実数信号と虚数信号とがそれぞれ入力されることになるが、本受信装置20では、受信部201において一連の受信処理が施された受信信号に基づく信号が実数信号としてFFT部204へ入力され、虚数信号としては、例えば、ゼロが入力される。
伝送路推定部(伝送路推定手段)207は、受信信号に含まれるプリアンブル信号と、受信装置20の記憶部に予め記憶されている既知のプリアンブル信号とを比較することによって、伝送路の特性を推定する。伝送路推定部207によって推定された伝送路特性(「推定伝送路特性」とも称する)は、等化器208に出力される。
等化器(等化処理手段)208は、受信信号を、当該受信信号に対応する推定伝送路特性で除算して伝送路の歪みを除去する等化処理を行う。等化器208から出力される等化処理後の受信信号は、復調部209に出力される。
復調部209は、等化処理後の受信信号にデマッピング処理等のサブキャリア復調処理を施し、復調された受信信号をデインターリーブ部210に出力する。
デインターリーブ部210では、送信側で並び替えられた受信信号を元に戻すデインターリーブが行われる。デインターリーブされた受信信号は、ビタビ復号化部211に出力される。ビタビ復号化部211では、受信信号に対して誤り訂正復号が行われる。
デスクランブラ212では、ビタビ復号化部211から出力された受信信号に対してデスクランブル処理が施される。これにより、送信データに対応した復号データが生成されることになる。
このように、受信装置20では、直交検波を行うことなく、FFT部204において受信信号にマルチキャリア復調処理が施される。
なお、本実施形態の受信装置20において復号データ(受信データ)を取得する復調手段には、プリアンブル検出部202、FFT部204、FFT制御部205、シンボルタイミング検出部206、伝送路推定部207、等化器208、復調部209、デインターリーブ部210、ビタビ復号化部211、およびデスクランブラ212が含まれる。
[4.OFDM信号を構成する各サブキャリアの利用態様]
次に、上記通信システム1において用いられるOFDM信号における、サブキャリアの利用態様について詳述する。図5は、サブキャリア番号「0」番のサブキャリアから「N−1」番のサブキャリアによって構成されるOFDM信号LSを示す図である。
上述のように、通信システム1では、OFDM信号を構成する全サブキャリアのうち、所定帯域に含まれるサブキャリアを利用してデータの伝送が行われる。
具体的には、OFDM信号を構成するN個(Nは整数)のサブキャリアそれぞれを、各サブキャリアの周波数(中心周波数)の昇順で、0からN−1までの整数を用いて番号付けした場合、データの伝送に用いられるサブキャリアは、N/2−1以下の番号が付された各サブキャリアとなる。
各サブキャリアのうち、データの伝送に用いられるサブキャリアは、「使用サブキャリア」または「伝送用サブキャリア」とも称され、例えば、図5に示されるOFDM信号LSでは、区間LKに含まれるサブキャリアが使用サブキャリアとなる。すなわち、通信システム1では、OFDM信号LSを構成する複数のサブキャリアのうち、区間LKの所定帯域に含まれるサブキャリアに、送信データを含むデータ信号を乗せてデータの伝送が行われる。なお、上記所定帯域は、データの伝送に用いられる伝送帯域であり、当該伝送帯域には、使用サブキャリアが含まれることになる。
一方、N/2−1よりも大きい番号が付された各サブキャリアは、データの伝送に用いないサブキャリア(「不使用サブキャリア」または「非伝送用サブキャリア」とも称する)となる。なお、各不使用サブキャリアには、ゼロを乗せて通信が行われる。
このように、通信システム1では、OFDM信号を構成するN個のサブキャリアそれぞれを、各サブキャリアの周波数の昇順で、0からN−1までの整数を用いて番号付けした場合、伝送帯域に含まれるN/2−1以下の番号が付された各サブキャリアを用いてデータの伝送が行われる。これによれば、IFFT処理後のベースバンドOFDM信号の実数部分の信号を通信信号として用いた場合でも、受信側において送信データの復元が可能になる。なお、厳密には、Nは、2のべき乗であり、偶数である。
なお、上記伝送帯域は、規格によって定められた、電力線通信を行う際に利用する帯域(規格に基づく利用帯域)の制限を受ける可能性がある。具体的には、N/2−1以下の番号が付された各サブキャリアを含む帯域のうち、規格に基づく利用帯域に含まれない部分については、データの伝送に用いることができない。このため、N/2−1以下の番号が付された各サブキャリアを含む帯域において、規格に基づく利用帯域に含まれない部分が存在する場合、伝送帯域は、N/2−1以下の番号が付された各サブキャリアを含む帯域のうち、規格に基づく利用帯域に含まれない部分を省いた帯域となる。換言すれば、伝送帯域は、規格に基づく帯域に含まれ、かつN/2−1以下の番号が付された各サブキャリアを含む帯域となる。
[5.送信データの復元原理]
次に、送信データの復元原理について説明する。図6は、IFFT部への入力信号が偶関数であることを示す概念図であり、図7は、IFFT部への入力信号が奇関数であることを示す概念図である。図8,9は、計算機シミュレーションに用いられたデータを示す図である。図10〜図12は、計算機シミュレーションの結果を示す図である。
フーリエ変換理論では、「FFT部への入力が実数の偶関数であれば、FFT部からの出力は、実数の偶関数になり、入力が実数の奇関数であれば、FFT部からの出力は、虚数の奇関数になる。」という理論が存在する。FFT演算とIFFT演算とは、対偶演算であるため、当該理論はFFT演算だけでなく、IFFT演算でも成立する。
IFFT演算に関する上記理論を数式に表すと、下記式(1)、式(2)のようになる。
なお、式(1)中のhe(k)は、IFFT処理前の実数の偶関数を表し、ho(k)は、IFFT処理前の実数の奇関数を表している。また、式(1)は、N点のhe(k)信号からN点のRe(n)信号への変換を示し、式(2)は、N点のho(k)信号からN点のIe(n)信号への変換を示している。
ここで、IFFT部へ複素信号x(k)が入力され、当該複素信号の実部が偶関数であり、当該複素信号の虚部が奇関数であれば、上記式(1)、(2)から下記の式(3)が成立する。
式(3)は、IFFT部へ入力される複素信号の実部が偶関数であり、かつ虚部が奇関数であれば、IFFT部の出力は、実数信号になることを示している。このように、IFFT部から出力される出力信号が実数信号であれば、IFFT部の出力信号に対して直交変調を施す必要がなく、IFFT部の出力信号を外部に送信する通信信号としてそのまま用いることが可能になる。
IFFT演算は、N点の信号に対する演算であるため、偶関数および奇関数の定義は、数学上の定義とは若干異なる。具体的には、IFFT演算において偶関数とは、図6に示されるように、N個のデータが中心点を通る線に関して対称(中心点を基準にして左右対称)であることを意味し、数式では、h(n)=h(N−n)と表される。また、IFFT演算において奇関数とは、図7に示されるように、N個のデータが中心点に関して点対称であることを意味し、数式では、h(n)=−h(N−n)と表される。
上述のように、IFFT部の出力が実数信号になるためには、IFFT部へ入力される複素信号の実部が偶関数であり、かつ虚部が奇関数であればよい。そして、IFFT部への入力信号において実部が偶関数および虚部が奇関数であるということは、入力信号の実部および虚部がそれぞれ対称性を有していることに相当する。
このように、理論上、対称性を有したデータ信号をIFFT部に入力すれば、IFFT部からは実数信号を出力させることが可能になる。
しかし、通常、送信装置では、通信に利用する帯域の広がりを制限するために、IFFT処理後の信号に対して帯域制限フィルタが掛けられる。対称性を有したデータ信号をIFFT部に入力し、IFFT処理後の信号に帯域制限フィルタを掛けると、帯域制限フィルタの非理想特性の影響により、通信信号に歪みが生じ、データ信号の対称性が損なわれる可能性がある。データ信号の対称性が損なわれた場合、受信装置20は、対称性のないデータ信号を受信することになり、送信データを復元できないことになる。
そこで、本実施形態の送信装置10は、OFDM信号を構成するN個のサブキャリアそれぞれを、各サブキャリアの周波数の昇順で、0からN−1までの整数を用いて番号付けした場合、N/2−1以下の番号が付されたサブキャリアにデータ信号を乗せる。そして、送信装置10は、N/2−1よりも大きい番号が付されたサブキャリアにはデータ信号を乗せることなく通信を行う。
このように、全サブキャリアのうち、伝送帯域以外のサブキャリアにデータ信号を乗せないことによれば、送信装置10から出力される通信信号の帯域を制限することが可能になり、帯域制限フィルタが不要になる。
帯域制限フィルタが不要になると、通信信号に歪みを生じさせることなくデータを伝送することが可能になる。
一方、全サブキャリアのうち、伝送帯域以外のサブキャリアを不使用サブキャリアとした場合、対称性を有するデータ信号をIFFT部116に入力することができなくなるため、IFFT部116の出力は、実部と虚部とを有した複素信号となる。
ここで、全サブキャリアのうち、伝送帯域以外のサブキャリアを不使用サブキャリアとするデータ信号をIFFT部116に入力させたときに、IFFT部116から出力される複素信号の実部が、対称性を有したデータ信号をIFFT部に入力したときに、IFFT部から出力される実数信号と同じ形であれば、IFFT部116から出力される複素信号の実部を送信すれば、受信側では、送信データを復元できることになる。
以下では、全サブキャリアのうち、伝送帯域以外のサブキャリアを不使用サブキャリアとして送信データの伝送を行った場合に、受信側で、送信データを復元可能か否かを検証する。
まず、IFFT部116への入力信号x(k)を下記式(4)のように定義する。
なお、式(4)中のNは、OFDM信号を構成するサブキャリアの個数を表している。
式(4)で示される信号x(k)にIFFT処理を施すと、IFFT処理後の信号X(n)は式(5)のように表される。
式(5)を展開して実部と虚部とで表される形に整理すると、式(6)のようになる。ここで、式(4)より、N/2≦k≦N−1では、x(k)=0であるため、式(6)は、式(7)のように表されることになる。
式(7)より、IFFT処理後の信号X(n)の実部XR(n)は、式(8)となる。
式(8)は、振幅が半分であること以外は、式(3)と同じ形となっている。式(4)で示される信号x(k)は、対称性を有した信号ではないが、N/2≦k≦N−1ではx(k)=0であるため、実質的に対称性を有した信号と見ることができる。
したがって、IFFT処理後の信号X(n)のうち、式(8)で示される実部信号XR(n)を通信信号として伝送した場合、受信装置20は、当該通信信号XR(n)にFFT処理を施せば、式(3)の関係から、信号x(k)を生成することができ、送信データを復元することができる。
下記の図8〜図12は、計算機シミュレーションの結果を示し、図8は、IFFT部116への入力信号x(k)の実部xr(k)、図9は、IFFT部116への入力信号x(k)の虚部xi(k)を示している。図10は、IFFT処理後の実部信号XR(n)を示している。また、図11は、IFFT処理後の実部信号XR(n)にFFT処理を施して復元された信号x(k)の実部x’r(k)を示し、図12は、IFFT処理後の実部信号XR(n)にFFT処理を施して復元された信号x(k)の虚部x’i(k)を示している。
図8と図11、および図9と図12を比較すると、計算機シミュレーションの結果からも、IFFT処理後の実部信号XR(n)にFFT処理を施せば、IFFT処理前の入力信号x(k)を復元できることが分かる。
このように、本実施形態の通信システム1によれば、OFDM信号を構成するN個のサブキャリアそれぞれを、各サブキャリアの周波数の昇順で、0からN−1までの整数を用いて番号付けしたとき場合、N/2−1以下の番号が付された各サブキャリアを用いてデータの伝送を行っても、受信装置20において送信データを復元することができる。
以上のような通信システム1の送信装置10では、虚部の信号を除いた実部の信号に基づく通信信号が直交変調されることなく送信されるので、送信装置10から直交変調を行うための構成を省くことができ、ひいては、送信装置10の小型化、低コスト化および省電力化を実現することが可能になる。
また、受信装置20は、送信装置10において、直交変調されていない実数信号を受信するので、受信装置20では、直交検波を行うための構成、および直交検波によって生成される高周波成分の信号を除去するためのローパスフィルタが不要となる。これによれば、受信装置20の小型化、低コスト化および省電力化を実現することが可能になる。
また、送信装置10は、全サブキャリアのうち、N/2−1よりも大きい番号が付された非伝送帯域のサブキャリアにデータ信号を乗せないで通信を行うので、送信装置10から通信信号の帯域を制限するための帯域制限フィルタを省くことが可能になり、送信装置10の小型化、および低コスト化を実現することが可能になる。
なお、上記では、IFFT部116への入力信号を実質的に左右対称な信号とするために、N/2−1以下の番号が付されたサブキャリアにはデータ信号を割り当て、N/2−1よりも大きい番号が付されたサブキャリアにはデータ信号を割り当てないようにしていたが、サブキャリアへのデータ信号の割り当て態様を反対にしてもよい。すなわち、N/2−1よりも大きい番号が付されたサブキャリアにはデータ信号を割り当て、N/2−1以下の番号が付されたサブキャリアにはデータ信号を割り当てないようにして、IFFT部116への入力信号を実質的に左右対称な信号としてもよい。
[6.プリアンブル信号の生成に用いるデータ配置パターンについて]
次に、プリアンブル信号を生成する際に用いられる、各サブキャリアへのデータ配置パターンについて、詳述する。図13は、STF51Sを生成する際に用いるデータ配置パターンPTSの一例を示す図である。図14は、図13のデータ配置パターンPTSを用いて生成されたSTF51Sの波形を示す図である。図15は、LTF51Lを生成する際に用いるデータ配置パターンPTLの一例を示す図である。
プリアンブル51に含まれる、STF51Sを生成する際には、下記の設定規則(Rs1)〜(Rs4)に従って設定されたデータ配置パターンを採用する。
(Rs1)伝送帯域のサブキャリアに実数のプリアンブルデータ信号が配置されること。
(Rs2)STF51Sは、数周期分の周期性を有していること。
(Rs3)平均電力に対する最大電力の比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)が1に近いこと。
(Rs4)STF51Sのパワー(電力)が、送信データを含むOFDMシンボルのパワーより6dB高いこと。
設定規則(Rs1)は、STF51Sに含まれる情報を受信装置20に伝送するための前提条件である。
また、設定規則(Rs2)のように、STF51Sが数周期分の周期性を有せば、プリアンブル信号を早期に検出することが可能になる。具体的には、受信装置20で行われるプリアンブル信号の検出処理は、相関演算を利用して同じ信号が検出されたか否かに基づいて行われる。このため、1つのSTFが1周期分の周期性を有している場合は、1つ以上のSTFを受信しなければ、プリアンブル信号を検出できないことになる。これに対して、本実施形態では、1つのSTF51Sが数周期分の周期性を有しているので、1つのSTF51S内で、プリアンブル信号の検出を行うことが可能になる。これによれば、プリアンブル信号を早期に検出することが可能になる。
また、相関演算では、先に受信した信号を一旦バッファに記憶して遅延させ、先に受信した信号と後に受信した信号とを用いて相関演算が行われるが、1つのSTF51Sが数周期分の周期性を有せば、受信した信号を記憶しておくバッファの容量を低減することができる。例えば、1つのSTFが1周期分の周期性を有している場合、相関演算を行うには、当該1つのSTFを記憶しておく必要があり、少なくとも当該1つのSTFを記憶可能な容量を有するバッファが必要になる。これに対して、本実施形態のように、1つのSTF51Sが数周期分の周期性を有している場合、相関演算を行うために必要となる信号のデータ量が減るので、バッファの容量を低減することが可能になる。
なお、本実施形態では、1つのSTF51Sにおいて、4周期分の周期性を持たせている。これは、周期が短すぎると相関がとれなくなり、周期が長くなるとバッファの容量が大きくなるため、相関演算の実現性とバッファ容量の低減要請とのバランスを考慮して定めたものである。
設定規則(Rs3)は、送信信号を増幅する増幅器(アンプ)の設計を容易にするための条件である。具体的には、OFDM信号を送信する送信装置では、増幅器のダイナミックレンジ(信号振幅の最大と最小の範囲)を広くとって信号が歪まないように設計される。このため、STFのPAPRが1に近い場合、増幅器の設計が容易になる。
設定規則(Rs4)は、S/N比を上げてプリアンブル信号を検出し易くするための条件である。
図13には、上記4つの設定規則(Rs1)〜(Rs4)に従って設定されたデータ配置パターンPTSが例示されている。
当該データ配置パターンPTSは、128個のサブキャリアを、各サブキャリアの中心周波数の昇順で、0から127までの整数を用いて番号付けしたとき、78番のサブキャリアと、86番のサブキャリアと、102番のサブキャリアとに、「2.82×2」のプリアンブルデータ信号を乗せ、94番のサブキャリアに「−2.82×2」のプリアンブルデータ信号を乗せることを示している。なお、データ配置パターンPTSは、128個のサブキャリアのうち、プリアンブルデータ信号を乗せない他のサブキャリアに対しては、ゼロを乗せることを示すとも言える。
このようなデータ配置パターンPTSを用いて生成されたSTF51Sでは、帯域幅が131.25kHz〜356.25kHzとなり、PAPRが1.69、周期が4となる。また、STF51Sのパワーは、送信データを送信するOFDMシンボルのパワーより6dB高くなる。
以下では、データ配置パターンの設定手順について、図13のデータ配置パターンPTSを設定する場合を例にして詳述する。なお、図13のデータ配置パターンPTSを用いて生成されるSTF51Sをプリアンブル信号として採用する通信システムでは、128個のサブキャリアで構成されたOFDM信号を用いて通信が行われ、一次変調方式としてQPSK変調方式が採用されているものとする。
データ配置パターンは、下記の設定手順(Js1)〜(Js5)を順に踏むことによって設定することができる。
具体的には、設定手順(Js1)では、伝送帯域に応じて、使用するサブキャリアが特定される。
図13のデータ配置パターンPTSを設定する際には、103.125kHz〜393.75kHzの帯域に含まれるサブキャリアが特定される。103.125kHz〜393.75kHzの帯域に含まれるサブキャリアは、11番のサブキャリアから42番のサブキャリアまでの計32個のサブキャリアであり、当該32個のサブキャリアが使用するサブキャリアとして特定されることになる。
次の設定手順(Js2)では、1つのSTF51S内で周期性を持たせるために、プリアンブルデータ信号を乗せるサブキャリアの位置および数が決定される。
上述のように、フーリエ変換理論では、「IFFT部への入力が実数の偶関数であれば、IFFT部からの出力は、実数の偶関数になる」という理論が存在する。
ここで、プリアンブルデータ信号は実数であるため、データ配置パターンに従ってプリアンブルデータ信号をサブキャリアに配置することによって得られる周波数領域の信号(IFFT処理前の周波数領域のSTF)は、実数信号となる。また、当該実数信号は、伝送帯域に含まれるサブキャリアにプリアンブルデータ信号を配置して得られたものであることから、実質的に対称性を有した信号と見ることができる。そうすると、IFFT処理前の周波数領域のSTFは、実数の偶関数と見ることができ、当該周波数領域のSTFに、IFFT処理を施すことによって生成された時間領域の信号のうち、実部をとって得られる信号は、1OFDMシンボル期間において左右対称の偶関数となる。
IFFT処理後の実部信号が1OFDMシンボル期間において左右対称の偶関数になることは、上記式(8)において、IFFT部116への入力信号x(k)の虚部xi(k)を「0」としたときに得られる式が、「IFFT部への入力が実数の偶関数であれば、IFFT部からの出力は、実数の偶関数になる」という理論を表した上記式(1)と同じ形となることからも証明される。
またさらに、連続した番号が付されたサブキャリア(連番のサブキャリア)において、奇数個のサブキャリア置きに等間隔で、プリアンブルデータ信号をサブキャリアに配置するとともに、プリアンブルデータ信号を配置するサブキャリアの数を偶数とした場合、1OFDMシンボルの左半分或いは右半分においても対称性をもたらすことができる。
図13のデータ配置パターンPTSでは、伝送帯域に含まれる、連続して並ぶサブキャリアにおいて、7個のサブキャリア置きに等間隔でプリアンブルデータ信号を配置するとともに、プリアンブルデータ信号を配置するサブキャリア数を4としている。このようなデータ配置パターンPTSを用いて生成されるSTF51Sは、図14に示されるような4対称の信号となる。
このような4対称な信号に対して相関演算を行った場合、相関演算結果の絶対値は、周期4の信号に対して相関演算を行ったときの相関演算結果の絶対値と同じになる。上記では、説明の便宜上、STF51Sを周期性を有した信号と称したが、厳密には、対称性を有した信号である。
次の設定手順(Js3)では、STF51Sのパワーと、送信データを送信するOFDMシンボルのパワーとを等しくする、プリアンブルデータ信号の基準振幅が算出される。
例えば、伝送帯域に含まれるサブキャリアの数を32個とし、QPSK変調方式で一次変調された振幅「1」のデータ信号を32個の各サブキャリアに乗せてOFDMシンボルを生成する場合、当該OFDMシンボルのパワーPDは、式(9)のように「32」となる。
一方、STF51Sでは、プリアンブルデータ信号を乗せるサブキャリア数は、4であるため、プリアンブルデータ信号を実部I=1,虚部Q=0の信号と仮定すると、STF51SのパワーPSは、「4」になる。
OFDMシンボルのパワーPDのSTF51SのパワーPSに対する比PD/PSは、32/4=8となる。また、電圧または電流の2乗がパワーに相当するため、STF51SのパワーPSと、OFDMシンボルのパワーPDとを等しくする、プリアンブルデータ信号の基準振幅は、8の平方根である2.82となる。
次の設定手順(Js4)では、STF51SのパワーPSを、送信データを送信するOFDMシンボルのパワーPDよりも6dB高くするために基準振幅に乗算する係数が決定される。
STF51SのパワーPSを、送信データを送信するOFDMシンボルのパワーPDよりも6dB高くするための係数は、「2」である。すなわち、プリアンブルデータ信号の値(振幅)を2.82×2とすれば、式(10)に示されるように、STF51SのパワーPSは、送信データを送信するOFDMシンボルのパワーPDよりも6dB高くなる。
そして、設定手順(Js5)では、PAPRが最も小さくなる、プリアンブルデータ信号の符号の組合わせが選択される。
OFDM信号は、異なるデータ信号で変調された複数のサブキャリアを重ね合わせて得られた信号であるため、同相合成によって、PAPRが大きくなる可能性がある。そこで、PAPRが大きくならないように、プリアンブルデータ信号の符号の組合わせが調整される。
図13のデータ配置パターンPTSでは、プリアンブルデータ信号を乗せるサブキャリア数は、4であるため、プリアンブルデータ信号の符号の組合せの総数は、24=16通りとなる。16通り分のPAPRを算出した結果、78番のサブキャリアに乗せるプリアンブル信号の符号を「+」、86番のサブキャリアに乗せるプリアンブル信号の符号を「+」、94番のサブキャリアに乗せるプリアンブル信号の符号を「−」、102番のサブキャリアに乗せるプリアンブル信号の符号を「+」とした場合、PAPRが最も小さくなった。
このように、本実施形態では、STF51Sを生成するためのデータ配置パターンは、上記の各設定規則(Rs1)〜(Rs4)に従って設定される。
次に、プリアンブル51に含まれる、LTF51Lを生成する際に用いるデータ配置パターンについて説明する。
プリアンブル51に含まれる、LTF51Lを生成する際には、下記の設定規則(RL1)〜(RL4)に従って設定されたデータ配置パターンが用いられる。
(RL1)伝送帯域のサブキャリアに実数のプリアンブルデータ信号が配置されること。
(RL2)平均電力に対する最大電力の比(PAPR)が1に近いこと。
(RL3)プリアンブルデータ信号が疑似乱数バイナリ(ビット)シーケンス(PRBS:Pseudo Random Binary(Bit) Sequence)であること。
設定規則(RL1)は、STF51Sの設定規則(Rs1)と同様、LTF51Lに含まれる情報を受信装置20に伝送するための前提条件である。
設定規則(RL2)は、STF51Sの設定規則(Rs3)と同様、送信信号を増幅する増幅器(アンプ)の設計を容易にするための条件である。
設定規則(RL3)は、送信装置10において、伝送路推定率を向上させるための条件である。LTF51Lは、伝送路推定に用いられるため、LTF51Lのプリアンブルデータ信号は、周波数領域でも時間領域でも偏りのない信号であることが好ましい。このため、プリアンブルデータ信号にPRBSを採用すれば、送信装置10において、伝送路推定率を向上させることができる。
図15には、上記3つの設定規則(RL1)〜(RL3)に従って設定されたデータ配置パターンPTLが例示されている。
当該データ配置パターンPTLは、128個のサブキャリアを、各サブキャリアの中心周波数の昇順で、0から127までの整数を用いて番号付けしたとき、75番、78番、80番、81番、82番、85番、86番、87番、92番、94番、95番、96番、104番および105番の各サブキャリアに、「1」のプリアンブルデータ信号を乗せ、76番、77番、79番、83番、84番、88番、89番、90番、91番、93番、97番、98番、99番、100番、101番、102番、103番および106番の各サブキャリアに「−1」のプリアンブルデータ信号を乗せることを示している。なお、データ配置パターンPTLは、128個のサブキャリアのうち、プリアンブルデータ信号を乗せない他のサブキャリアに対しては、ゼロを乗せることを示すとも言える。
このようなデータ配置パターンPTLを用いて生成されたLTF51Lでは、帯域幅が103.125kHz〜393.75kHzとなり、PAPRが1.96となる。
[7.受信装置20で実行されるプリアンブル信号を用いた処理について]
次に、受信装置20において実行される、プリアンブル信号を用いた一連の処理について詳述する。図16は、プリアンブル信号を用いた一連の処理を表す図である。図17は、パケット信号に含まれる各信号と受信装置20において実行される各処理との対応関係を示す図である。図18〜図20は、シンボルタイミングの検出処理を説明するための図である。
図16では、図4中のプリアンブル検出部202、FFT部204、FFT制御部205、シンボルタイミング検出部206、伝送路推定部207において実行される各処理が時系列で表されている。
具体的には、プリアンブル検出部202では、プリアンブル信号に含まれる最初のSTF51SA(図17参照)を用いてプリアンブル信号の検出処理が行われる。プリアンブル信号検出後には、FFT部204Aおよびシンボルタイミング検出部206において、プリアンブル信号に含まれる最初のLTF51LAおよび2番目のLTF51LB(図17参照)を用いて、シンボルタイミングの検出処理が行われる。続いてFFT部204Bおよび伝送路推定部207では、プリアンブル信号に含まれる3番目のLTF51LC(図17参照)を用いて、伝送路特性の推定処理が行われる。
まず、プリアンブル検出部202において実行されるプリアンブル検出処理について説明する。図16に示されるように、プリアンブル検出部202は、相関演算部22と、判定部23とを有している。
相関演算部22は、遅延回路221と、2つの乗算回路222,223と、2つの移動平均フィルタ224,225と、除算回路226とを有し、受信部201から出力される受信信号に対して相関演算を施す。
具体的には、相関演算部22では、受信信号が、遅延回路221と、2つの乗算回路222,223とにそれぞれ入力される。
遅延回路221は、受信信号を所定時間M、遅延させて出力する。遅延時間MはSTF51Sの周期の自然数倍に設定可能であるが、Mの値が大きくなると遅延が大きくなるので、ここでは、MをSTF51Sの1周期分(M=32サンプル)に設定する。なお、Mの設定値は既知であり、受信装置20に予め与えられている。
遅延回路221の出力は、乗算回路222によって受信信号と乗算され、乗算結果は移動平均フィルタ224へ入力される。
移動平均フィルタ224は、所定時間幅に関して入力信号(すなわち乗算回路222の出力)の移動平均を演算し、演算結果を除算回路226に出力する。当該移動平均フィルタ224の出力は、受信信号と、当該受信信号を遅延させた遅延信号との相関演算によって得られた相関値(第1相関値)となる。
また、乗算回路223は、受信信号同士を乗算し、乗算結果を移動平均フィルタ225に出力する。移動平均フィルタ225の出力は、受信信号同士の相関演算値となる。
移動平均フィルタ225は、乗算回路223の出力の移動平均を演算し、演算結果を除算回路226に出力する。
除算回路226は、移動平均フィルタ224の出力を移動平均フィルタ225の出力で除算することによって上記相関値の正規化を行い、相関演算結果として正規化後の信号を出力する。
判定部23は、絶対値回路231と、比較回路232と、カウンター233とを有し、相関演算結果に基づいて、プリアンブル信号を検出したか否かを判定する。
具体的には、絶対値回路231は、相関演算部22の出力信号の振幅の絶対値またはそれに相当する値の信号を生成する。絶対値回路231としては、例えば、入力信号を自乗して出力する自乗回路を用いることができる。
比較回路232は、絶対値回路231の出力を予め設定された閾値(第1閾値)と比較し、その比較結果を出力する。
カウンター233は、閾値を超えたことを示す比較結果が、比較回路232から連続して所定回数以上出力されたか否かを検出することによって、プリアンブル信号(パケット信号)を検出したか否かを判定する判定手段として機能する。すなわち、カウンター233は、閾値を超えたことを示す比較結果が所定回数以上出力されたことを検出した場合、プリアンブル信号が検出されたものと判定する。そして、カウンター233は、プリアンブル信号が検出されたことを示す信号(プリアンブル検出信号)をタイミング特定部251に出力する。
なお、1OFDMシンボルあたり128回の相関演算を行う場合(1OFDMシンボルあたり128回分の相関演算結果が出力される場合)、上記所定回数は、30回から40回に設定されることが好ましい。
このように、閾値を超えたことを示す比較結果が所定回数以上連続して出力された場合、プリアンブル信号が検出されたものと判断することによれば、プリアンブル信号の誤検出を防止することが可能になる。より詳細には、受信信号に含まれる雑音等の影響により、絶対値回路の出力が閾値を偶然超えてしまうことがある。このような場合、絶対値回路の出力が閾値を超えるか否かをプリアンブル信号を検出する際の唯一の判断基準として採用したとき、プリアンブル信号を誤検出することになる。これに対して、本実施形態のように、絶対値回路の出力が所定回数以上連続して閾値を超えるか否かをプリアンブル信号を検出する際の判断基準とすることによれば、プリアンブル信号の誤検出を防止することが可能になる。
プリアンブル信号の検出処理が終了すると、シンボルタイミングの検出処理が行われる。
具体的には、カウンター233から出力されたプリアンブル検出信号は、FFT制御部205内のタイミング特定部251に入力される。タイミング特定部251は、プリアンブル信号の検出タイミングから、カウンター233においてカウントされた所定回数分の時間を戻すことによって、シンボルタイミングを特定する。
次に、FFT部204(204A)は、タイミング特定部251において特定されたシンボルタイミングに基づいて、プリアンブル信号に含まれるLTF51Lに対してFFT処理を施す。FFT部204Aからは、N個のサブキャリアに対応するNサンプルの周波数領域の信号が出力され、当該Nサンプルの信号は、シンボルタイミング検出部206内の除算回路261に入力される。
タイミング特定部251で特定されたシンボルタイミングは、暫定的なものであり、正規のシンボルタイミングに対してずれを有している。このため、FFT部204Aから出力される信号には、シンボルタイミングのずれの影響が含まれることになる。以降の除算回路261およびIFFT部262では、シンボルタイミングのずれを特定するための処理が行われる。
具体的には、除算回路261は、FFT部204Aから出力されるNサンプルの信号のうち、プリアンブルデータ信号を割り当てられたサブキャリアに対応するサンプル(特定サンプル)の信号を取り出し、当該特定サンプルの信号を、予め記憶された、LTF51Lに関するデータ配置パターンで除算する。例えば、受信されるLTF51Lが、図15のデータ配置パターンPTLを用いて生成されたものである場合、除算回路261では、11番〜42番の各サブキャリアに対応する各特定サンプルの信号が取り出され、当該各特定サンプルの信号がデータ配置パターンPTLで除算されることになる。
ここで、周波数領域では、伝送路を経て受信された受信信号は、送信信号に伝送路特性を乗算した形で表されることから、FFT部204Aから出力される周波数領域の信号には、プリアンブルデータ信号と伝送路特性とを乗算した項が含まれている。
したがって、除算回路261において、FFT部204Aから出力された各特定サンプルの信号を周波数領域のデータ配置パターンPTLで除算すれば、プリアンブルデータ信号を打ち消すことができる。すなわち、除算回路261からは、FFT部204Aの出力信号からプリアンブルデータ信号を取り除いた後の伝送路特性を含んだ信号が出力されることになる。
除算回路261から出力される、伝送路特性を含んだ信号は、IFFT部262に入力される。IFFT部262では、周波数領域の信号を時間領域の信号に変換するIFFT処理が施される。
ここで、伝送路特性は、時間領域のインパルス応答をフーリエ変換したものであることから、除算回路261の出力信号にIFFT処理を施せば、インパルス応答が得られることになる。すなわち、IFFT部262からはインパルス応答(「伝送路インパルス応答」とも称する)が出力される。
IFFT部262から出力されるインパルス応答には、正規のシンボルタイミングに対する現在のシンボルタイミングのずれが反映されることになり、このようなシンボルタイミングのずれは、インパルス応答を出力するIFFT部262のサンプル位置に現れる。
例えば、IFFT部262における、IFFT処理を行うサンプル数が128であった場合を想定する。この場合、現在のシンボルタイミングと正規のシンボルタイミングとの間にずれがないとき、すなわち、図18に示されるように、2番目のLTF51LBの先頭位置HPからFFTウィンドウWDを開いていたとき、IFFT部262における0(ゼロ)番のサンプル位置からインパルス応答が出力されることになる。
これに対して、シンボルタイミングが遅れているとき、すなわち、図19に示されるように、2番目のLTF51LBの先頭位置HPよりも後にFFTウィンドウWDを開いていたとき、IFFT部262における1番〜63番のサンプル位置のうち、いずれかのサンプル位置からインパルス応答が出力されることになる。
シンボルタイミングが早いとき、すなわち、図20に示されるように、2番目のLTF51LBの先頭位置HPよりも前にFFTウィンドウWDを開いていたとき、IFFT部262における64番〜127番のサンプル位置のうち、いずれかのサンプル位置からインパルス応答が出力されることになる。
このように、シンボルタイミングのずれは、インパルス応答を出力するIFFT部262のサンプル位置の違いとなって現れる。なお、IFFT部262における出力のサンプル位置は、正確には、IFFT部262から出力されるデータの時間軸上の位置である。すなわち、IFFT部262が、P個(Pは、2のべき乗)の周波数軸上のデータを入力として、P個の時間軸上のデータを出力する場合、シンボルタイミングのずれは、IFFT部262から出力されるインパルス応答の時間軸上の位置となって現れる。
タイミング更新部(タイミング補正部)263は、インパルス応答を出力するサンプル位置、すなわちIFFT部262から出力されるインパルス応答の時間軸上の位置に基づいて、シンボルタイミングを補正する。具体的には、タイミング更新部263は、インパルス応答の時間軸上の位置に基づいて、シンボルタイミングのずれ量を特定し、現在のシンボルタイミングに対して当該ずれ量分の補正を行って、正規のシンボルタイミングを取得する。
このようにして正規のシンボルタイミングが取得された後は、FFT部204では、当該正規のシンボルタイミングに基づいて、FFT処理が実行されることになる。
シンボルタイミングの検出処理が終了すると、伝送路特性の推定処理が行われる。
具体的には、FFT部204(204B)において、3番目のLTF51LCに対してFFT処理が施される。FFT部204Bからは、N個のサブキャリアに対応するNサンプルの周波数領域の信号が出力され、当該Nサンプルの信号は、伝送路推定部207内の除算回路271に入力される。
除算回路271では、FFT部204Bから出力されるNサンプルの信号のうち、プリアンブルデータ信号を割り当てられたサブキャリアに対応する各特定サンプルの信号を取り出し、当該各特定サンプルの信号を、予め記憶された、LTF51Lに関するデータ配置パターンで除算する処理が行われる。例えば、受信されるLTF51Lが、図15のデータ配置パターンPTLを用いて生成されたものである場合、除算回路271では、11番〜42番の各サブキャリアに対応する各特定サンプルの信号が取り出され、当該各特定サンプルの信号がデータ配置パターンPTLで除算されることになる。
これにより、FFT部204Bの出力信号からプリアンブルデータ信号を取り除くことができるので、除算回路271からは、伝送路特性が出力されることになる。
このように、受信装置20では、プリアンブル信号を用いて、プリアンブル信号の検出処理、シンボルタイミングの検出処理、および伝送路特性の推定処理が順次実行されることになる。
<2.第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る受信装置20(20B)は、プリアンブル検出部202Bの構成が異なる点以外は、第1実施形態に係る受信装置20Aとほぼ同様の構造および機能を有しており、共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。図21は、第2実施形態に係る受信装置20Bにおいて実行される、プリアンブル信号を用いた一連の処理を表す図である。
図21に示されるように、受信装置20Bのプリアンブル検出部202Bにおける相関演算部22Bは、移動平均フィルタ224の出力と、除算回路226の出力とを判定部23Bに出力する。移動平均フィルタ224の出力は、受信信号と、当該受信信号を遅延させた遅延信号との第1相関値であり、除算回路226の出力は、当該第1相関値を正規化することによって得られる相関演算結果(第2相関値)である。
判定部23Bは、移動平均フィルタ224から出力される第1相関値と、除算回路226から出力される相関演算結果とに基づいて、プリアンブル信号を検出したか否かを判定する。
具体的には、移動平均フィルタ224から出力される第1相関値は、判定部23B内の絶対値回路234に入力される。
絶対値回路234は、当該第1相関値の絶対値またはそれに相当する値の信号を生成する。
比較回路235は、絶対値回路234の出力を予め設定された閾値(第2閾値)と比較し、その比較結果をカウンター233に出力する。
カウンター233は、第2閾値を超えたことを示す比較結果が、比較回路235から入力された場合、比較回路232から入力される比較結果を有効なものとして扱う。すなわち、カウンター233は、第2閾値を超えたことを示す比較結果が、比較回路235から入力された場合、比較回路232の第1閾値を超えたことを示す比較結果が、比較回路232から連続して所定回数以上出力されたか否かを検出する。カウンター233は、第2閾値を超えたことを示す比較結果が所定回数以上出力されたことを検出したとき、プリアンブル信号が検出されたものと判断する。そして、カウンター233は、プリアンブル信号が検出されたことを示す信号(プリアンブル検出信号)をタイミング特定部251に出力する。
一方、カウンター233は、第2閾値を超えたことを示す比較結果が、比較回路235から入力されなかった場合、比較回路232から入力される比較結果を無効なものとして扱う。すなわち、カウンター233は、第2閾値を超えたことを示す比較結果が、比較回路235から入力されなかった場合、比較回路232から入力される比較結果に拘わらずプリアンブル検出信号を出力しない。
このように、本実施形態の受信装置20Bでは、正規化前の相関演算結果を受信信号の強度を測定するための信号(RSSI:Received signal strength indicator)として用い、受信信号らしきものが検出されたことをプリアンブル信号を検出する際の条件に加えている。
これによれば、相関の正規化によってノイズが増幅されて、当該ノイズがプリアンブル信号として誤検出されることを防止することができる。
以上のように、本実施形態の通信装置20は、パケット信号を含む受信信号を受信する受信部201と、パケット信号に含まれるショートプリアンブル信号に相関演算を施して得られる、相関演算結果を利用してシンボルタイミングを特定するタイミング特定部251と、シンボルタイミングに従って、ショートプリアンブル信号に後続するロングプリアンブル信号に対して高速フーリエ変換を施すFFT部204Aと、当該FFT部204Aからの出力信号を、ロングプリアンブル信号に対応した既知の周波数領域の信号で除算して、各サブキャリアに関する伝送路特性を算出する除算回路261と、各サブキャリアに関する伝送路特性に逆高速フーリエ変換を施して、時間領域の伝送路インパルス応答を出力するIFFT部262と、伝送路インパルス応答に基づいて、シンボルタイミングのずれを特定して、シンボルタイミングを補正するタイミング更新部263とを備えている。
このような通信装置20によれば、パケット信号に含まれるショートプリアンブル信号に相関演算を施して得られる、相関演算結果を利用してシンボルタイミングを特定した後、当該シンボルタイミングを補正することができるので、シンボルタイミングを精度良く設定することが可能になる。
<3.変形例>
以上、実施形態について説明したが、この発明は、上記に説明した内容に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、通信システム1における送信装置10および受信装置20が、有線通信によって通信可能に構成される態様を例示したがこれに限定されない。具体的には、送信装置10と受信装置20とは、無線通信によって通信可能に構成される態様であってもよい。無線通信によって通信可能に構成される場合、送信装置10は、ベースバンドのOFDM信号を搬送帯域のOFDM信号にする周波数変換部を有する構成となるが、直交変調部は不要である。一方、受信装置20は、搬送帯域のOFDM信号をベースバンドのOFDM信号にする周波数変換部を有する構成となるが、直交検波部は不要である。
また、上記実施形態では、送信装置10が虚部の信号を除いた実部の信号に基づく通信信号を直交変調することなく送信していたが、これに限定されず、OFDM信号を送信する一般的な送信装置と同様、IFFT処理後のベースバンドのOFDM信号に対して、直交変調、周波数変換等の所定の処理を施して、搬送帯域のOFDM信号を生成し、搬送帯域のOFDM信号を通信信号として伝送路に出力する態様であってよい。
この場合、受信装置は、受信信号に対して周波数変換、直交検波等の所定の処理を施して、ベースバンドのOFDM信号を生成することになる。またこの場合、受信装置において、プリアンブル信号に相関演算を施す相関演算部は、受信信号の複素共役信号を生成する複素共役回路を有する従来通りの構成となる。