JP5832760B2 - 試料中のメチル化dnaを検出する方法 - Google Patents

試料中のメチル化dnaを検出する方法 Download PDF

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Description

本発明は、DNAを含む試料からメチル化DNAを検出する方法に関する。
高等真核生物の染色体DNAでは、DNAを構成する塩基のうちC(シトシン)の5位がメチル化されることが知られている。このようなDNAのメチル化は、遺伝子発現の制御機構として機能している。例えば、ある遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG配列に富む領域(「CpGアイランド」または「CG島」とも呼ばれる)がメチル化されている場合、その遺伝子の転写は抑制される。この現象は、「遺伝子のサイレンシング」とも呼ばれる。これに対して、CpGアイランドがメチル化されていない場合、転写因子がプロモーターに結合できるので、遺伝子の転写が可能となる。
上述のように、DNAのメチル化は遺伝子発現の制御機構の1つである。すなわち、DNAのメチル化は、初期胚発生、組織特異的な遺伝子の発現、哺乳動物に特徴的な現象である遺伝子刷り込みやX染色体の不活性化、染色体の安定化、DNA複製のタイミングなど、様々な生理的および病理的な現象に重要な役割を果たしている。さらに近年、DNAのメチル化の異常、すなわち、DNAのメチル化による遺伝子のサイレンシングが、癌などの疾患に関与することが明らかになってきている。そのため、種々の遺伝子についてメチル化DNAを検出することの重要性が近年増してきている。
メチル化DNAを検出する方法は、当該技術において種々の方法が知られており、例えばバイサルファイトシーケンス法、メチル化感受性制限酵素を用いる方法、メチル化DNA免疫沈降を用いる方法(MeDIP法)などが挙げられる。バイサルファイトシーケンス法では、バイサルファイトの作用によりDNA中の非メチル化シトシンをウラシルに変換し、塩基配列を決定することにより、DNA中のメチル化されている部位を検出する。メチル化感受性制限酵素を用いる方法では、メチル化感受性制限酵素がメチル化された認識配列を切断できないことを利用し、その切断結果を検討することによりメチル化DNAを検出する。MeDIP法では、メチル化DNAを特異的に認識する抗体またはメチル化DNA結合タンパク質を用いて免疫沈降を行い、得られたメチル化DNAをマイクロアレイ解析などに供することで、メチル化DNAを検出する。なお、この方法はMeDIP-Chip法として知られている。
また、特許文献1には、メチル化感受性制限酵素を用いるメチル化DNAを検出する方法において、抗メチル化DNA抗体を用いて試料中のメチル化DNAを固相に固定し、メチル化感受性制限酵素で消化処理を行う方法が開示されている。
このように、メチル化DNAの検出の重要性が増しており、新たなメチル化DNAを検出する方法の開発が望まれていた。
特開2008−263961号公報
本発明は、試料中のメチル化DNAを検出するための、新たな方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、驚くべきことに、メチル化DNAに結合できるタンパク質とメチル化DNAを結合させることにより、該メチル化DNAがデオキシリボヌクレアーゼによっても完全には分解されずに残存すること、さらに得られたデオキシリボヌクレアーゼ分解産物が検出工程において影響を及ぼさないことを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
メチル化DNAを含む可能性のある試料と、メチル化DNAと結合できるタンパク質とを接触させて、前記試料中のメチル化DNAと前記タンパク質とを結合させる工程と、
前記結合工程で得られた試料と、少なくとも1種類のデオキシリボヌクレアーゼとを接触させて、前記試料中のDNAを分解する工程と、
前記分解工程で得られた試料における、前記タンパク質との結合により前記デオキシリボヌクレアーゼで分解されなかったメチル化DNAを検出する工程とを含み、
前記デオキシリボヌクレアーゼの少なくとも1種類が、一本鎖DNAを分解できるメチル化感受性制限酵素とは異なるデオキシリボヌクレアーゼである、試料中のメチル化DNAを検出する方法を提供する。
本発明によれば、試料中のメチル化DNAを検出するための新たな方法を提供することができる。また、本発明によれば、従来のメチル化DNAを検出する方法において、検出精度の向上のために必要とされていた洗浄操作および精製操作を省略こともできる。この場合、より簡便に試料中のメチル化DNAを検出することができる。
合成オリゴヌクレオチドである6MeCGオリゴヌクレオチドの溶液を試料として、デオキシリボヌクレアーゼとしてDNaseIを用いる本発明の検出方法に付して、PCR法により該オリゴヌクレオチドを検出した、電気泳動の写真である。 合成オリゴヌクレオチドである6MeCGオリゴヌクレオチドの溶液を試料として、デオキシリボヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIを用いる本発明の検出方法に付し、PCR法により該オリゴヌクレオチドを検出した、電気泳動の写真である。 乳癌細胞株MCF7から得たゲノムDNAを試料として、デオキシリボヌクレアーゼとしてDNaseIを用いる本発明の検出方法に付し、PCR法によりメチル化DNAを検出した、電気泳動の写真である。 MCF7細胞から得たゲノムDNAを試料として、デオキシリボヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIを用いる本発明の検出方法に付し、PCR法によりメチル化DNAを検出した、電気泳動の写真である。
本明細書において「CpG部位」とは、DNAの塩基配列中、シトシン(C)とグアニン(G)が5'から3'への方向にこの順序で隣り合っている部位を意味する。なお、CpGの「p」の文字は、シトシンとグアニンとの間のホスホジエステル結合を表わす。
本明細書において「メチル化CpG部位」とは、シトシンの5位がメチル化修飾されたCpG部位を意味する。すなわち、メチル化CpG部位では、5−メチルシトシン(メチル化シトシン)とグアニンが5'から3'への方向にこの順序で隣り合っている。
本明細書において「メチル化DNA」とは、少なくとも1つの5−メチルシトシンを含むDNAを意味する。
本発明の試料中のメチル化DNAを検出する方法(以下、「検出方法」ともいう)では、まず、メチル化DNAを含む可能性のある試料と、メチル化DNAと結合できるタンパク質とを接触させる。この接触により、該試料中にメチル化DNAが存在する場合、メチル化DNAと上記のタンパク質とを結合させることができる(以下、この工程を「結合工程」という)。
本発明の検出方法においては、上記のタンパク質と結合したメチル化DNAは、次の工程で用いられるデオキシリボヌクレアーゼで完全には分解されない。すなわち、上記のタンパク質との結合により、メチル化DNA中の5−メチルシトシンおよびその周辺領域はデオキシリボヌクレアーゼによる分解から免れる。
本発明の検出方法に供される試料は、メチル化DNAを含む可能性のある試料であれば特に限定されない。そのような試料としては、例えば、生体試料から調製されたDNA含有試料、5−メチルシトシンを少なくとも1つ含む合成ポリヌクレオチドを含有する試料などが挙げられる。生体試料としては、例えば培養細胞株、生体から採取された血液、体液、組織、細胞などが挙げられる。なお、本明細書において「血液」は、全血、ならびにそれから得られる血清および血漿のいずれであってもよい。また、本明細書において「組織」および「細胞」には、生体から採取した組織および細胞の培養物が含まれる。
メチル化DNAを含む可能性のある試料が、生体から採取された血液、体液、組織または細胞から調製された試料である場合、本発明の検出方法の結果は、DNAのメチル化が関連する疾患の診断または判定に利用することができる。
本発明の実施形態において、生体試料からのDNA含有試料の調製は当該技術において公知の方法により行うことができる。例えば、細胞または組織を可溶化する界面活性剤(コール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなど)を含む可溶化液と生体試料とを混合した後、物理的処理(撹拌、ホモジナイズ、超音波破砕など)を施して生体試料に含まれるDNAを可溶化液中に遊離させて、DNAを抽出することにより試料を調製できる。また、本発明の実施形態においては、抽出したDNAを当該技術において公知の方法により精製してもよい。なお、生体試料からのDNAの抽出および精製は、市販のキットを用いて行うこともできる。
本発明の実施形態においては、試料中のDNAは、100〜1000 bp程度のDNA断片であることが好ましい。試料に含まれるDNAをそのような長さに断片化しておくことにより、メチル化DNAとメチル化DNAに結合できるタンパク質を効率よく結合させることができる。
なお、DNAの断片化は、物理的処理、化学的処理、制限酵素処理などの当該技術において公知の方法により行うことができる。物理的処理としては、例えば超音波破砕が挙げられる。化学的処理としては、例えば水酸化ナトリウムを用いるアルカリ処理が挙げられる。また、制限酵素処理では、制限酵素を目的のDNAの塩基配列に基づいて適宜選択でき、例えばMseIやBamHIなどを用い得る。本発明の実施形態においては、物理的処理により試料中のDNAを断片化することが好ましい。
本発明の実施形態において、試料に含まれる可能性のあるメチル化DNAは一本鎖メチル化DNAであってもよい。すなわち、上記の試料が一本鎖メチル化DNAを含む可能性のある試料であり、後述するメチル化DNAを検出する工程が一本鎖メチル化DNAを検出する工程である場合も、本発明の範囲に含まれる。
本発明の実施形態においては、上記の結合工程の前に、試料に含まれるDNAを一本鎖に変性させる操作を行ってもよい。そのような操作は当該技術において公知であり、例えば、メチル化DNAを含む可能性のある試料を95℃程度に加熱した後、4℃まで速やかに冷却することにより、試料中のDNAを一本鎖にすることができる。
本発明の実施形態において、メチル化DNAと結合できるタンパク質は、DNA中の5−メチルシトシンまたはメチル化CpG部位を認識して結合できるタンパク質であれば特に限定されない。そのようなタンパク質としては、例えば抗メチル化DNA抗体、メチル化DNA結合タンパク質などが挙げられる。それらの中でも、抗メチル化DNA抗体が好ましい。特に、一本鎖のメチル化DNAを検出する場合は、抗メチル化DNA抗体を用いることが望ましい。
抗メチル化DNA抗体としては、抗メチル化シトシン抗体および抗メチル化CpG抗体が挙げられる。また、本発明の実施形態においては、抗メチル化シチジン抗体も抗メチル化DNA抗体として用いることができる。
本発明の実施形態において、抗メチル化DNA抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれであってもよい。また、抗メチル化DNA抗体を断片化することによって得られる活性フラグメントを用いてもよい。そのような活性フラグメントは、メチル化DNAへの特異的結合活性を失っていないフラグメントであれば特に限定されず、例えばFabフラグメント、F(ab')2フラグメント、sFvフラグメントなどが挙げられる。活性フラグメントは、例えば、精製した抗メチル化DNAモノクローナル抗体をパパイン、ペプシン、トリプシンなどの酵素で切断することにより調製できる。
本発明の実施形態においては、市販の抗メチル化DNA抗体を用いてもよい。市販の抗メチル化DNA抗体としては、例えば表1に示される抗体が挙げられる。
本発明の実施形態においては、当該技術において公知の方法により作製した抗メチル化DNA抗体を用いてもよい。抗メチル化DNA抗体は、例えば、次の手順により作製できる。まず、5−メチルシトシンなどのメチル化DNAを免疫原として、所望によりアジュバントとともに適切な哺乳動物(例えばラット、マウスなど)に投与して免疫する。そして、免疫された動物の脾臓細胞などから、免疫原に対する抗体を産生する抗体産生細胞をスクリーニングにより選択する。得られた抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これをスクリーニングすることにより、メチル化DNAへの特異的結合活性を有する抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。得られたハイブリドーマの培養上清又は該ハイブリドーマをマウスの腹腔内に投与して得られる腹水から、抗メチル化DNA抗体を得ることができる。
抗メチル化DNA抗体を産生するハイブリドーマとしては、例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8、郵便番号292−0818)に、2009年8月25日に受託番号NITE BP−805で寄託されたハイブリドーマSCR2、ならびに2009年9月10日に受託番号NITE BP−810、受託番号NITE BP−811および受託番号NITE BP−812でそれぞれ寄託されたハイブリドーマSCR1、SCR3およびSCR6が挙げられる。
本発明の実施形態においては、上記のハイブリドーマSCR1、SCR2、SCR3およびSCR6から産生される抗メチル化DNA抗体を用いることができる。
メチル化DNA結合タンパク質としては、例えばMBD1(methyl cytosine binding domain protein 1)、MBD2(methyl cytosine binding domain protein 2)、MBD4(methyl cytosine binding domain protein 4)、MeCP2(methyl CpG binding protein 2)などが挙げられる。なお、これらのタンパク質自体は当該技術において公知である。
本発明の実施形態においては、メチル化DNA結合タンパク質は、メチル化DNAを特異的に認識して結合できる限り、野生型のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸の欠失、置換または付加を含む変異型であってもよい。なお、そのような変異型の作製方法自体は当該技術において公知である。
本発明の実施形態において、メチル化DNAを含む可能性のある試料と、メチル化DNAと結合できるタンパク質との接触は、試料に該タンパク質を添加することにより行うことができる。本発明の実施形態において、メチル化DNAと結合できるタンパク質の添加量は特に限定されず、後の検出工程において十分に検出可能なメチル化DNA量を確保できる添加量であればよい。例えば、試料中の核酸含量が1ng〜10μgである場合、抗メチル化DNA抗体の添加量は1ng〜10μg程度であればよい。
また、接触条件(周囲温度および時間)は、メチル化DNAに結合できるタンパク質の種類により異なるが、通常4〜42℃にて10分〜24時間程度であればよい。
本発明の検出方法では、上記の結合工程で得られた試料と、少なくとも1種類のデオキシリボヌクレアーゼとを接触させて、該試料中のDNAを分解する(以下、この工程を「分解工程」という)。
この工程では、メチル化DNAと結合できるタンパク質と結合しなかったDNA、すなわち非メチル化DNAはデオキシリボヌクレアーゼにより分解されるが、該タンパク質と結合したメチル化DNAは、その結合により5−メチルシトシンおよびその周辺領域は分解されない。
すなわち、本発明の検出方法において、上記の結合工程および分解工程により、非メチル化DNAを除去することができる。
本発明の実施形態においては、デオキシリボヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼのいずれであってもよい。なお、本発明の実施形態においては、デオキシリボヌクレアーゼとして制限酵素を用いてもよい。この場合、DNA切断部位は該制限酵素の認識領域に限定される。そのため、分解工程で得られた試料を、そのまま後述の検出工程に用いる場合は、分解物が後の検出工程に影響を及ぼさないよう留意すべきである。例えば、複数種類の制限酵素を用いることにより、非メチル化DNAを十分に分解することができる。
本発明の好ましい実施形態において、デオキシリボヌクレアーゼは、デオキシリボヌクレアーゼI(DNaseI)、エキソヌクレアーゼI、ラムダ・エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、RecJ型エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼT、BAL31ヌクレアーゼ、Mung Beanヌクレアーゼ、ミクロコッカス・ヌクレアーゼおよびT7エンドヌクレアーゼからなる群より選択される少なくとも1つである。
本発明の検出方法においては、用いるデオキシリボヌクレアーゼの少なくとも1種類が、一本鎖DNAを分解できるメチル化感受性制限酵素とは異なるデオキシリボヌクレアーゼである。ここで「一本鎖DNAを分解できるメチル化感受性制限酵素」とは、一本鎖DNA中のメチル化されたシトシンを含む認識配列を切断せず、メチル化されていないシトシンを含む認識配列のみを切断することのできる制限酵素を意味する。そのような制限酵素としては、例えばHhaIが挙げられる。
本発明の実施形態において、上記の結合工程で得られた試料と、デオキシリボヌクレアーゼとの接触は、試料にデオキシリボヌクレアーゼを添加することにより行うことができる。本発明の実施形態において、デオキシリボヌクレアーゼの添加量は特に限定されず、後の検出工程において非メチル化DNAを十分に分解できる添加量であればよい。例えば、試料中の核酸含量が1ng〜10μgである場合、DNaseIの添加量は0.1〜120 U程度であればよい。
また、接触条件(周囲温度および時間)は、デオキシリボヌクレアーゼの種類により異なるが、通常4〜42℃にて10分〜24時間程度であればよい。
本発明の検出方法において、上記の分解工程で得られた試料はそのまま次の検出工程に用いることもできる。そのため、非メチル化DNAの除去するための洗浄およびメチル化DNAの精製を省略することもできる。
本発明の実施形態においては、次の検出工程で用いられる検出手段に応じて、上記の分解工程で得られた試料に含まれるメチル化DNAを鋳型とする核酸増幅法を実行してもよい。DNAを増幅する方法自体は、当該技術において公知であるDNA増幅法であれば特に限定されない。例えばIVT(in vitro transcription)増幅法、SPIA(商標)増幅法、GenomiPhi増幅法などが挙げられる。
本発明の検出方法では、上記の分解工程で得られた試料における、メチル化DNAに結合できるタンパク質との結合によりデオキシリボヌクレアーゼで分解されなかったメチル化DNAを検出する(以下、この工程を「検出工程」という)。
本明細書において「メチル化DNAを検出する」とは、メチル化DNA中の目的のCpG部位のメチル化の有無を検出すること、メチル化DNAの塩基配列を決定すること、およびメチル化DNA中のCpG部位のメチル化の頻度を解析することを意味する。ここで「メチル化の頻度」とは、メチル化DNA中の目的の領域に存在する全てのCpG部位または任意のCpG部位のうち、メチル化CpG部位の数またはその割合を意味する。
本明細書において、メチル化DNAの検出は、目的のDNAのメチル化の判定や、メチル化DNAの塩基配列を決定や、メチル化DNAの網羅的な解析など、上述の分解工程でデオキシリボヌクレアーゼにより分解されなかったメチル化DNAを検出できるものであれば、特に制限されない。
本発明の実施形態において、検出工程に用いられる方法は、上述の分解工程でデオキシリボヌクレアーゼにより分解されなかったメチル化DNAを検出できるものであれば特に限定されず、当該技術において公知の方法から適宜選択できる。そのような方法としては、核酸増幅法、塩基配列決定法、マイクロアレイ法などが挙げられる。
例えば、核酸増幅法を検出工程に用い、目的のDNAのメチル化の有無を判定する場合、目的のDNAにあるCpG部位を挟むように設計したプライマーセットを用いてPCR法を行い、増幅産物の有無から、目的のDNAのメチル化の有無を判定することができる。また、定量PCR法により、試料中のメチル化DNA含量を定量することもできる。さらに、塩基配列決定法の一つである高速シーケンス法(次世代シーケンス法)を検出工程に用いれば、メチル化DNAを網羅的に解析することもできる。そのような高速シークエンス法に用いられるシークエンサーとしては、例えばABI3730xl(Life Technologies社)、GS FLX Titanium(Roche社)、などが挙げられる。
また、マイクロアレイ法を検出工程に用いることもできる。この場合、マイクロアレイは特に限定されないが、好ましくはDNAマイクロアレイまたはDNAチップである。また、GeneChip(登録商標)(Affymetrix社)など市販のマイクロアレイを用いてもよく、当該技術に公知の方法によって作製したマイクロアレイを用いてもよい。なお、全ゲノム領域または特定の領域から等間隔に抽出した塩基配列を有するプローブがタイル状に配置されたマイクロアレイであるタイリングアレイを検出工程に用いれば、メチル化DNAを網羅的に解析することができる。
本発明の実施形態において、マイクロアレイ法を検出工程に用いる場合、上記の試料中のDNAは当該技術において公知の標識物質により標識されていることが好ましい。したがって、本発明の検出方法は、試料中のDNAを標識する工程をさらに含んでいてもよい。標識物質としては、蛍光物質、ビオチンなどのハプテン、放射性物質などが挙げられる。蛍光物質としては、Cy3、Cy5、Alexa Fluor(商標)、FITCなどが挙げられる。マイクロアレイ法においては、DNAを標識することによりシグナル測定が容易になる。なお、DNAを標識物質で標識する方法自体は当該技術において公知である。
上記のシグナルは、マイクロアレイの種類に応じて適切なシグナルであり得る。例えば、シグナルは、マイクロアレイの各プローブとハイブリダイズしたDNAが存在する場合に発生する電気的シグナルであってもよいし、上記のように試料中のDNAが標識されている場合は、標識物質から生じる蛍光、発光、放射線などのシグナルであってもよい。
シグナルの検出は、通常のマイクロアレイ測定装置に備えられたスキャナーにより行うことができる。スキャナーとしては、例えば、GeneChip(登録商標)Scanner3000 7G(Affymetrix社)などが挙げられる。
以下に本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
検出対象のメチル化DNAとして、5−メチルシトシンを6つ含むオリゴヌクレオチドである6MeCGオリゴヌクレオチドを用いた。6MeCGオリゴヌクレオチドの塩基配列を、以下に示す。
<6MeCGオリゴヌクレオチド>
5'-CGAGGTCGACGGTATTGATm5cGAGTATm5cGATAGTm5cGATATm5cGATATm5cGATATm5cGATATACAACGTCGTGACTGG-3'(配列番号1)
(塩基配列中の「m5c」は、5−メチルシトシンを示す。)
(1)試料の調製
10 pMの6MeCGオリゴヌクレオチドの水溶液を、6MeCGオリゴヌクレオチド溶液として調製した。6MeCGオリゴヌクレオチド溶液を95℃で10分間加熱して変性させた後、氷上に1分間静置した。変性させた6MeCGオリゴヌクレオチドの溶液から2μlを取り、これをインプットサンプルとした。残りの溶液を本発明の検出方法に供される試料とした。
(2)試料と抗メチル化DNA抗体との接触
上記の試料を二つに分け、一方に抗メチル化DNA抗体(1μg)を添加して検体サンプル(100μl)とし、他方には抗メチル化DNA抗体を添加せず対照サンプル(100μl)とした。各サンプルを25℃で2時間インキュベートした。
なお、本実施例で用いた抗メチル化DNA抗体は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8、郵便番号292−0818)に、2009年8月25日に受託番号NITE BP−805で寄託されたハイブリドーマSCR2から得られたモノクローナル抗体である。
(3)デオキシリボヌクレアーゼによるDNAの分解
上記の検体サンプルおよび対照サンプルに、デオキシリボヌクレアーゼの1種であるDNaseI(2U/μl:NEB社)を1μlずつ添加し、37℃で1時間反応させた。反応後、各サンプルを75℃で10分間加熱することにより、DNaseIを失活させた。
(4)メチル化DNAの検出
試料中に6MeCGオリゴヌクレオチドが残存しているか否かを検討するために、定量PCR法を行った。
(i)PCR反応液の調製
下記の試薬を混合して、12μlの反応液を調製した。
2x FastStart SYBR Green Master Mix(ROCHE社) 6μl
フォワード(F)プライマー(10μM) 1μl
リバース(R)プライマー(10μM) 1μl
サンプル 1μl
dH 2 O 3μl
合計 12μl
(ii)プライマーの配列
6MeCGオリゴヌクレオチドを検出するためのプライマーセットとして、配列番号2および配列番号3で示されるプライマーセットを用いた。このプライマーセットの塩基配列を以下に示す。
F:5'- CGAGGTCGACGGTAT -3' (配列番号2)
R:5'- CCAGTCACGACGTTGTA -3'(配列番号3)
(iii)定量PCR反応条件
上記の反応液について、Mx3005P(Stratagene社製)を用いて、以下の反応条件で定量PCRを行った。
95℃で10分、
95℃で30秒、55℃で15秒および72℃で30秒を45サイクル、ならびに
95℃で1分、55℃で30秒および95℃で30秒を1サイクル。
得られた反応液を、3%アガロースゲルを用いる電気泳動に付し、増幅産物の有無を確認した。結果を図1に示す。
図1より、抗メチル化DNA抗体を添加しなかったサンプルでは増幅産物のバンドが検出されず、抗体を添加したサンプルではバンドが検出されたことがわかる。このことから、6MeCGオリゴヌクレオチドに抗メチル化DNA抗体を結合させることにより、DNaseIによる該オリゴヌクレオチドの分解が阻害され、6MeCGオリゴヌクレオチドを検出できることが示された。
(実施例2)
(1)試料の調製
実施例1と同様にして、6MeCGオリゴヌクレオチドの溶液を調製し、該溶液からインプットサンプルおよび本発明の検出方法に供される試料を得た。
(2)抗メチル化DNA抗体との接触
上記の試料から、実施例1と同様にして、検体サンプルおよび対照サンプルを得た。
(3)デオキシリボヌクレアーゼによるDNAの分解
上記の検体サンプルおよび対照サンプルに、デオキシリボヌクレアーゼの1種であるエキソヌクレアーゼI(20 U/μl:NEB社)を4μlずつ添加し、37℃で1時間反応させた。反応後、各サンプルを80℃で20分間加熱することにより、エキソヌクレアーゼIを失活させた。
(4)メチル化DNAの検出
試料中に6MeCGオリゴヌクレオチドが残存しているか否かを検討するために、実施例1と同様にして定量PCR法を行った。
得られた反応液を、3%アガロースゲルを用いる電気泳動に付し、増幅産物の有無を確認した。結果を図2に示す。
図2より、抗メチル化DNA抗体を添加しなかったサンプルでは増幅産物のバンドが検出されず、抗体を添加したサンプルではバンドが検出されたことがわかる。このことから、6MeCGオリゴヌクレオチドに抗メチル化DNA抗体を結合させることにより、エキソヌクレアーゼIによる該オリゴヌクレオチドの分解が阻害され、6MeCGオリゴヌクレオチドを検出できることが示された。
(実施例3)
本実施例では、検出対象のメチル化DNAとして、乳癌細胞株MCF7のゲノムDNAにおいて高頻度にメチル化修飾されることが知られているGSTP1遺伝子のプロモーター領域を選択した。なお、GSTP1遺伝子のプロモーター領域の塩基配列は当該技術において公知である。
また、非メチル化DNA(ネガティブコントロール)として、ヒトの第14染色体に存在し、CpG部位を有さないのでメチル化修飾されない領域(以下「CGF-1領域」という)を選択した。CGF-1領域の塩基配列を以下に示す。
<CGF-1領域>
5'-GGAGGAGTCAAGAGAAGTTGGAAGCCAACTGAGAGAGAGGGAAGGCTTGAAGTGGTCAGGACAGTGAACACCTAAGAGACATCCACTGAATTTGCCCACTAGGAAGCCATTAGTGACTTCAATAGGAACATCTTCAGTGCATCATGAAGGCCAAAGATTGCCATGAAAGAGAGGAATGGAAATGGAGTGTGGG -3'(配列番号4)
(1)試料の調製
MCF7細胞から抽出したゲノムDNAの溶液を、バイオラプター(登録商標)(コスモ・バイオ株式会社)を用いる超音波破砕により断片化して、500 bp以下のゲノムDNA断片の溶液を得た。調製したゲノムDNA断片の溶液を95℃で10分間加熱して変性させた後、氷上に1分間静置して一本鎖DNA断片の溶液を得た。
得られた一本鎖DNA断片の溶液を用い、DNA量が2ng/μlとなるように調整した試料から一部を取り、これをインプットサンプルとした。
(2)試料と抗メチル化DNA抗体との接触
上記の試料50μlに、ハイブリドーマSCR2から得た抗メチル化DNA抗体(1μg)を添加して、検体サンプル(100μl)とした。また、上記の試料50μlに、純水を添加したものを対照サンプル(100μl)とした。各サンプルを25℃で2時間インキュベートした。
(3)デオキシリボヌクレアーゼによるDNAの分解
上記の検体サンプルを二つに分け、一方にDNaseI(2U/μl:NEB社)を0.5μl添加し、他方にDNaseIを1μl添加した。同様に、上記の対照サンプルも二つに分け、一方にDNaseI(2U/μl:NEB社)を0.5μl添加し、他方にDNaseIを1μl添加した。これらのサンプルを37℃で1時間反応させた。反応後、各サンプルを75℃で10分間加熱することにより、DNaseIを失活させた。
(4)メチル化DNAの検出
試料中にMCF7のゲノム由来のメチル化DNAが残存しているか否かを検討するために、定量PCR法を行った。また、本発明の検出方法によりメチル化DNAを特異的に検出できることを確認するために、試料中の非メチル化DNAが分解されているか否かを定量PCR法により検討した。
(i)PCR反応液の調製
下記の試薬を混合して、12μlの反応液を調製した。
2x FastStart SYBR Green Master Mix(ROCHE社) 6μl
フォワード(F)プライマー(10μM) 1μl
リバース(R)プライマー(10μM) 1μl
サンプル 1μl
dH 2 O 3μl
合計 12μl
(ii)プライマーの配列
メチル化DNA検出用プライマーセットとして、GSTP1遺伝子のプロモーター領域を増幅するためのプライマーセットを用いた。このプライマーセットの塩基配列を以下に示す。
F:5'- GAGGCCTTCGCTGGAGTT -3'(配列番号5)
R:5'- GTACTCACTGGTGGCGAAGA -3'(配列番号6)
非メチル化DNA検出用プライマーセットとして、CGF-1領域を増幅するためのプライマーセットを用いた。このプライマーセットの塩基配列を以下に示す。
F:5'- GGAGGAGTCAAGAGAAGTTGGAAGC -3'(配列番号7)
R:5'- CCCACACTCCATTTCCATTCCTC -3'(配列番号8)
(iii)定量PCR反応条件
上記の反応液について、Mx3005P(Stratagene社製)を用いて、以下の反応条件で定量PCRを行った。
95℃で10分、
95℃で30秒、66℃で15秒および72℃で30秒を45サイクル、ならびに
95℃で1分、66℃で30秒および95℃で30秒を1サイクル。
得られた反応液を、3%アガロースゲルを用いる電気泳動に付し、増幅産物の有無を確認した。結果を図3に示す。
図3より、抗メチル化DNA抗体を添加しなかったサンプルでは、GSTP1プロモーター領域の増幅産物のバンドが検出されず、抗体を添加したサンプルではバンドが検出されたことがわかる。これに対して、CGF-1領域については、抗メチル化DNA抗体の添加の有無に関わらず、増幅産物のバンドが検出されなかったことがわかる。
これらのことから、ゲノムDNAのメチル化される領域に抗メチル化DNA抗体を結合させることにより、DNaseIによるメチル化DNAの分解が阻害され、メチル化DNAを検出できることが示された。他方、抗メチル化DNA抗体との結合によりDNaseIによる分解反応が阻害される現象は、メチル化される領域で特異的に起こることが示唆された。
(実施例4)
(1)試料の調製
実施例3と同様にして、MCF7由来の一本鎖ゲノムDNAを含む溶液を調製し、該溶液からインプットサンプルおよび本発明の検出方法に供される試料を得た。
(2)抗メチル化DNA抗体との接触
上記の試料から、実施例3と同様にして、検体サンプルおよび対照サンプルを得た。
(3)デオキシリボヌクレアーゼによるDNAの分解
上記の検体サンプルおよび対照サンプルに、エキソヌクレアーゼI(20 U/μl:NEB社)を2.5μlずつ添加し、37℃で1時間反応させた。反応後、各サンプルを80℃で20分間加熱することにより、エキソヌクレアーゼIを失活させた。
(4)メチル化DNAの検出
試料中にMCF7のゲノム由来のメチル化DNAが残存しているか否かを検討するために、実施例3と同様にしてPCR反応液を調製し、定量PCRを行った。なお、定量PCRの反応条件は、以下のとおりである。
<GSTP1のプロモーター領域を増幅するためのプライマーセットを用いる定量PCR>
95℃で10分、
95℃で30秒、66℃で15秒および72℃で30秒を35サイクル、ならびに
95℃で1分、66℃で30秒および95℃で30秒を1サイクル。
<CGF-1領域を増幅するためのプライマーセットを用いる定量PCR>
95℃で10分、
95℃で30秒、66℃で15秒および72℃で30秒を45サイクル、ならびに
95℃で1分、66℃で30秒および95℃で30秒を1サイクル。
得られた反応液を、3%アガロースゲルを用いる電気泳動に付し、増幅産物の有無を確認した。結果を図4に示す。
図4より、抗メチル化DNA抗体を添加しなかったサンプルでは、GSTP1プロモーター領域の増幅産物のバンドが検出されず、抗体を添加したサンプルではバンドが検出されたことがわかる。これに対して、CGF-1領域については、抗メチル化DNA抗体の添加の有無に関わらず、増幅産物のバンドが検出されなかったことがわかる。
これらのことから、ゲノムDNAのメチル化される領域に抗メチル化DNA抗体を結合させることにより、エキソヌクレアーゼIによるメチル化DNAの分解が阻害され、メチル化DNAを検出できることが示された。他方、抗メチル化DNA抗体との結合によりエキソヌクレアーゼIによる分解反応が阻害される現象は、メチル化される領域で特異的に起こることが示唆された。

Claims (8)

  1. メチル化DNAを含む可能性のある試料と、メチル化DNAと結合できるタンパク質とを接触させて、前記試料中のメチル化DNAと前記タンパク質とを結合させる工程と、
    前記結合工程で得られた試料と、少なくとも1種類のデオキシリボヌクレアーゼとを接触させて、前記試料中のDNAを分解する工程と、
    前記分解工程で得られた試料における、前記タンパク質との結合により前記デオキシリボヌクレアーゼで分解されなかったメチル化DNAを検出する工程と
    を含み、
    前記デオキシリボヌクレアーゼが、一本鎖DNAを分解できるメチル化感受性制限酵素とは異なるデオキシリボヌクレアーゼである、
    試料中のメチル化DNAを検出する方法。
  2. 前記メチル化DNAと結合できるタンパク質が、抗メチル化DNA抗体またはメチル化DNA結合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記メチル化DNAと結合できるタンパク質が、抗メチル化DNA抗体である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記メチル化DNAと結合できるタンパク質が、MBD1、MBD2、MBD4およびMeCP2からなる群より選択される少なくとも1つのメチル化DNA結合タンパク質である、請求項1または2に記載の方法。
  5. 前記試料が、培養細胞株または生体から採取された血液、体液、組織もしくは細胞から調製された試料である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記デオキシリボヌクレアーゼが、デオキシリボヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼI、ラムダ・エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、RecJ型エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼT、BAL31ヌクレアーゼ、Mung Beanヌクレアーゼ、ミクロコッカス・ヌクレアーゼおよびT7エンドヌクレアーゼからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記試料が、一本鎖メチル化DNAを含む可能性のある試料であり、
    前記メチル化DNAを検出する工程が一本鎖メチル化DNAを検出する工程である、
    請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記メチル化DNAを検出する工程が、核酸増幅法、塩基配列決定法又はマイクロアレイ法を用いてメチル化DNAを検出する工程である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
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