JP5831947B2 - 磁場検出装置および磁場検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、結晶中の空孔およびこの空孔に隣接する位置の窒素原子とからなるNV中心を備えるダイヤモンドを用いた磁場検出装置および磁場検出方法に関する。
生物学やナノテクノロジーなどの分野では、ナノメートル程度の空間分解能で微弱な磁場を検出できる検出装置(検出器)の実現が望まれている。このような高性能磁場検出器のひとつとして、原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡のプローブ先端に、単一NV中心を含んだダイヤモンドを設けた装置が存在する。NV中心は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素(Nitrogen)と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。
このNV中心を備えるダイヤモンドを用いた磁場検出では、第1工程でNV中心の電子スピンを測定対象の磁場のもとでラーモア歳差運動させ、第2工程でレーザー光を当ててスピンの状態を読み出し、これら第1工程と第2工程とを繰り返すことで磁場の強さを求めている。
しかしながら、上述した従来の方法では、磁場検出の感度がダイヤモンド中の電子スピンのデコヒーレンス時間によって制限されてしまうことが知られている(非特許文献1〜4参照)。この点についてより詳細に説明する。電子スピンは、磁場により歳差運動を行うが、ダイヤモンドのNV中心においては、レーザー光の照射により電子スピンの状態が読み出せるため、磁場の情報を光に変換して検出することが可能になる。上述したようなNV中心を含んだダイヤモンドを用いた装置により、ある与えられた時間T秒のうちに磁場を計測するには以下のような方法が用いられる。
[第1工程]
基底状態に偏極させた電子スピンにマイクロ波を照射することで、以下の式(1)で示される重ね合わせ状態を作る。
Figure 0005831947
磁場との相互作用により、電子スピンは歳差運動をするため、上述した重ね合わせの状態を用意してからt秒後に以下の式(2)で示される状態を得る。
Figure 0005831947
式(2)において、ω=gμBBは、電子スピンの「Zeeman splitting」を表す。なお、gはg因子を、μBは、ボーア磁子を、Bは磁場を表す。よって、磁場Bの情報が状態間の位相に書き込まれることになる。しかしながら、このような重ね合わせの状態はデコヒーレンスにより崩壊していき、位相の情報も時間とともに失われていく。このため、tは電子スピンのデコヒーレンス時間T* 2よりも短い時間である「t=αT* 2(αは1よりも小さい正の定数)」と設定する必要がある。
[第2工程]
レーザー光とマイクロ波を用いることで、電子スピンの状態をσxの基底で読み出し(測定し)、測定値を記録する。
以上の第1工程および第2工程を所定の回数、繰り返す。
以上の方法で得られた測定値から、ωの値を推定することができる。ωと磁場との間には、「ω=gμBB」という関係があるので、ωの値から磁場の値を求めることが可能となる。
状態|ψ(t)>をσxの基底で測定したときに+1を得られる確率は、以下の式(3)で示される。
Figure 0005831947
従って、前述した測定値から推定されるωの誤差は、以下の式(4)で計算される。
Figure 0005831947
このため、ダイヤモンドのデコヒーレンス時間T* 2が長いほど誤差が小さくなる。しかしながら、ダイヤモンド中の電子スピンのデコヒーレンス時間は、マイクロ秒からミリ秒程度と短く、磁場検出精度の向上を妨げる主要因のひとつとなっている。このため、高い精度で磁場検出を行うためには、上述した第1工程,第2工程を繰り返すことで多数の積算を行う必要がある。
S.F. Huelga, C. Macchiavello, T. Pellizzari, A.K. Ekert, and M.B. Plenio, and J. I. Cirac, "Improvement of Frequency Standards with Quantum Entanglement", Phys. Rev. Lett. , vol.79, no.20, pp.3865-3868, 1997. J. M. Taylor, P. Cappellaro, L. Childress, L. Jiang, D. Budker, P. R. Hemmer, A. Yacoby, R. Walsworth, and M. D. Lukin, "High-sensitivity diamond magnetometer with nanoscale resolution", Nature Physics, vol.4, pp.810-816, 2008. J. R. Maze et al. , "Nanoscale magnetic sensing with an individual electronic spin in diamond", Nature, vol.455, pp.644-648, 2008. G. Balasubramanian et al. , "Nanoscale imaging magnetometry with diamond spins under ambient conditions", Nature, vol.455, pp.648-652, 2008. P. Neumann, N. Mizuochi, and F. Rempp, and P. Hemmer, and H. Watanabe, and S. Yamasaki, and V. Jacques, and T. Gaebel, and F. Jelezko, and J. Wrachtrup, "Multipartite Entanglement Among Single Spins in Diamond", Science, vol.320,pp.1326-1327, 2008. N. Mizuochi, P. Neumann, F. Rempp, J. Beck, V. Jacques, P. Siyushev, K. Nakamura, D. J. Twitchen, H. Watanabe, S. Yamasaki, F. Jelezko, and J. Wrachtrup, "Coherence of single spins coupled to a nuclear spin bath of varying density",Phys. Rev. B 80, 041201(R), 2009. M. V. Gurudev Dutt, L. Childress, L. Jiang, E. Togan, J. Maze, F. Jelezko, A. S. Zibrov, P. R. Hemmer, M. D. Lukin, "Quantum Register Based on Individual Electronic and Nuclear Spin Qubits in Diamond", Science, vol.316, pp.1312-1316, 2007.
ところで、少ない積算回数、すなわち少ないレーザー照射回数で高精度な磁場検出を行える技術は、磁場を計測する測定対象の素材が光に対して高感度である場合や、希釈冷凍機の中など環境を低温に保って磁場計測を行いたい場合に重要となる。NV中心の電子スピン状態は光を使って読み出す必要があるため、レーザーの照射が必要となる。
しかし、NV中心から散乱された光は全方向に飛んでいくため、測定対象および周囲の環境に影響を与えてしまう。このため、測定対象が光に対して敏感である場合や環境を低温に保ちたい場合は、電子スピンの読み出し回数を制限する必要がある。しかしながら、このような状況下では、積算回数を大きくすることができないため、従来技術では高精度の磁場検出が難しくなる。このように、従来では、レーザー照射回数に制限があるなど、多くの積算ができない場合、高精度の磁場検出ができないという問題があった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、NV中心を含んだダイヤモンドを用い、多くの積算を行うことなく高い精度で磁場検出ができるようにすることを目的とする。
本発明に係る磁場検出装置は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子と、検出素子のNV中心における核スピンを重ね合わせ状態とする核スピン状態制御手段と、検出素子のNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させる電子スピン状態制御手段と、検出素子のNV中心における重ね合わせ状態とされた核スピンおよび基底状態とされた電子スピンをエンタングル状態とエンタングル状態ではない状態とに制御するエンタングル制御手段と、重ね合わせ状態とされた核スピンの状態を核スピンの状態がデコヒーレンスする時間維持する核スピン状態維持手段と、重ね合わせ状態とされた核スピンの状態と基底状態とされた電子スピンの状態とを交換する状態交換手段と、状態交換手段により重ね合わせ状態とされた核スピンの状態が交換された電子スピンの状態をレーザー光が照射された検出素子より検出する電子スピン状態検出手段とを備える。
上記磁場検出装置において、検出素子にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部および検出素子にレーザー光を照射する光源を備え、核スピン状態制御手段は、マイクロ波照射部により検出素子のNV中心における核スピンに共鳴する周波数のマイクロ波を照射し、電子スピン状態制御手段は、光源により検出素子にレーザー光を照射して検出素子のNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させ、電子スピン状態検出手段は、光源により検出素子にレーザー光を照射した検出素子から放出される光子を検出する光子検出部である。
また、本発明に係る磁場検出方法は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子のNV中心における核スピンを重ね合わせ状態とする核スピン状態制御ステップと、検出素子のNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させる電子スピン状態制御ステップと、検出素子のNV中心における重ね合わせ状態とされた核スピンおよび基底状態とされた電子スピンをエンタングル状態にするエンタングル状態ステップと、核スピンおよび電子スピンがエンタングル状態ステップでエンタングル状態とされた後、設定されている時間保持して電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させる相互作用ステップと、相互作用ステップを実施した後、エンタングル状態の核スピンおよび電子スピンを、エンタングル状態から解除するエンタングル解除ステップと、エンタングル解除ステップでエンタングル状態ではない状態とした後で、重ね合わせ状態とされた核スピンの状態を核スピンの状態がデコヒーレンスする時間維持する核スピン状態維持ステップと、核スピン状態維持ステップの後で、重ね合わせ状態とされた核スピンの状態と電子スピンの状態とを交換する状態交換ステップと、交換ステップにより重ね合わせ状態とされた核スピンの状態が交換された電子スピンの状態を検出素子にレーザー光を照射することで検出する電子スピン状態検出ステップとを備える。
以上説明したことにより、本発明によれば、NV中心を含んだダイヤモンドを用い、多くの積算を行うことなく高い精度で磁場検出ができるようになるという優れた効果が得られる。
図1は、本発明の実施の形態における磁場検出装置の構成を示す構成図である。 図2は、本発明の実施の形態における磁場検出方法を説明するフローチャートである。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における磁場検出装置の構成を示す構成図である。また、図2は、本発明の実施の形態における磁場検出方法を説明するフローチャートである。
磁場検出装置は、検出素子101,核スピン状態制御部102,電子スピン状態制御部103,エンタングル制御部104,核スピン状態維持部105,状態交換部106,および光子検出部(電子スピン状態検出手段)107を備える。
検出素子101は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドから構成されている。検出素子101は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)のプローブ110先端に取り付けて用いればよい。また、走査型トンネル顕微鏡(STM)および走査型近接場光顕微鏡(SNOM)などの走査型プローブ顕微鏡のプローブ先端に取り付けて用いてもよい。
核スピン状態制御部102は、検出素子101のNV中心における核スピン121を重ね合わせ状態とする。例えば、検出素子101にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部111を備え、核スピン状態制御部102は、マイクロ波照射部111を制御して検出素子101のNV中心における核スピン121に共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、核スピン121を重ね合わせ状態とする。
電子スピン状態制御部103は、検出素子101のNV中心における電子スピン122を基底状態に偏極させる。例えば、検出素子101にレーザー光を照射する光源112を備え、電子スピン状態制御部103は、光源112を制御して検出素子101にレーザー光を照射し、光学的遷移を利用して電子スピン122を「|0>e」の状態(基底状態)に偏極させる。また、マイクロ波照射部111を制御して電子スピン122に共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、電子スピン122を基底状態としてもよい。
また、エンタングル制御部104は、検出素子101のNV中心における重ね合わせ状態とされた核スピン121および基底状態とされた電子スピン122をエンタングル状態(エンタングルメント)とエンタングル状態ではない状態とに制御する。エンタングル状態で電子スピン122に発生した例えば歳差運動などの状態は、エンタングル状態を解除すると、核スピン121に転写される。
例えば、エンタングル制御部104は、マイクロ波照射部111を制御して所定のマイクロ波を照射し、核スピン121と電子スピン122との間に、核スピン121をcontrolビットとし、電子スピン122をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲートをかけることで、エンタングル状態とエンタングル状態ではない状態とに制御する。
核スピン状態維持部105は、重ね合わせ状態とされた核スピン121の状態を核スピン121の状態がデコヒーレンスする時間程度維持する。なお、維持する時間は、デコヒーレンスする時間の±20%の範囲であればよい。例えば、核スピン状態維持部105は、マイクロ波照射部111を制御して核スピン121に共鳴するマイクロ波を検出素子101に照射することで核スピン121にエコーをかけ、核スピン121の状態を上述した時間維持する。なお、上述したデコヒーレンスする時間は、エコーをかけるなどの状態維持操作をしていない状態におけるものである。
状態交換部106は、重ね合わせ状態とされた核スピン121の状態と基底状態とされた電子スピン122の状態とを交換する。例えば、状態交換部106は、マイクロ波照射部111を制御して所定のマイクロ波を照射し、核スピン121と電子スピン122との間に、核スピン121をcontrolビットとし、電子スピン122をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲート、および、電子スピン122をcontrolビットとし、核スピン121をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲートをかけることで、核スピン121の状態と電子スピン122の状態とを交換し、核スピン121の状態を電子スピン122に転写する。
光子検出部107は、状態交換部106により重ね合わせ状態とされた核スピン121の状態が交換された電子スピン122の状態を、レーザー光が照射された検出素子101より検出する。光子検出部107は、光源112によりレーザー光を照射された検出素子101から放出される光子を検出する。
次に、本発明の実施の形態における磁場検出方法について、図2のフローチャートを用いて説明する。以下の説明では、核スピン121としては、スピン1/2を持つ系を考える。これは例えば、13C,15Nに対応する。また、14Nのスピン1の系など1/2以外の場合でも原理は成り立つ。NV中心における電子の基底状態は「spin triplet」(|1>e,|0>e,|−1>e)を構成している。以下では、数十ミリテスラ程度の磁場Bexをかけることで、|−1>eの状態をデチューニングで切り離し、実効的に2準位系として扱えるようにする。このときハミルトニアン(Hamiltonian;ハミルトン関数)は、以下の式(5)で示すことができる。ここでは、核スピン121のゼーマン分裂の影響は十分に小さいとして無視している
Figure 0005831947
なお、式(5)において、μBはボーア磁子、gはg因子、Bは計測する磁場を表す。また、Aは、「Hyperfine coupling」を表し、Dは、ゼロ磁場分裂を表す。
ここで、電子スピン122の状態の読み出し、および特定の状態への偏極は、レーザー光による基底状態から励起状態への光学的遷移を利用することで行う。電子スピン122と核スピン121の回転は、マイクロ波照射部111によるマイクロ波の照射により行う。電子スピン122の共鳴周波数と核スピン121の共鳴周波数とは、1桁から3桁程度違うため、例えば、核スピン121に共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、電子スピン122に影響を与えることなく核スピン121のみを回転させることが可能である。また、電子スピン122と核スピン121の間のC−NOTの論理ゲート操作は、マイクロ波の選択的な照射によって実行する。
なお、プローブ110を操作し、プローブ110の先端に取り付けてある検出素子101を、予め計測する場所へと移動させた後、ある与えられた時間T秒のうちに以下に説明する操作を行うことで磁場を計測する。
まず、ステップS101で、核スピン状態制御部102が、検出素子101のNV中心における核スピン121を、以下の式(6)に例示する重ね合わせ状態とする(核スピン状態制御ステップ)。
Figure 0005831947
例えば、照射するマイクロ波の強度を固定して照射時間を可変させた実験を行い、各照射時間における核スピン121の状態を電子スピン122と交換してから電子スピン122の状態を検出し、検出した状態の中より、重ね合わせ状態となっているときの照射時間を選択する。選択した照射時間を照射条件として、マイクロ波照射部111を制御して検出素子101にマイクロ波を照射することで、核スピン121を、式(6)に示す重ね合わせ状態とすればよい。また、照射時間を固定して強度を変化させた上述同様の実験により、得られた強度を照射条件としてもよい。
次に、ステップS102で、電子スピン状態制御部103が、例えば光源112を制御して検出素子101にレーザー光を照射することにより、検出素子101のNV中心における電子スピン122を「|0>e」の状態(基底状態)に偏極させる(電子スピン状態制御ステップ)。
次に、ステップS103で、エンタングル制御部104が、検出素子101のNV中心における重ね合わせ状態とされた核スピン121および基底状態とされた電子スピン122を、以下の式(7)に示すエンタングル状態にする(エンタングル状態ステップ)。
Figure 0005831947
例えば、マイクロ波照射部111を制御して所定のマイクロ波を照射し、核スピン121と電子スピン122との間に、核スピン121をcontrolビットとし、電子スピン122をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲートをかけることで、核スピン121および電子スピン122をエンタングル状態とする。
次に、上述したように核スピン121および電子スピン122をエンタングル状態とした後、ステップS104で、設定されている時間保持して電子スピン122を測定対象115の磁場116に相互作用させる(相互作用ステップ)。
磁場116との相互作用により電子スピン122は歳差運動をするため、ステップS103の操作をしてからt秒後に以下の式(8)の状態を得る。
Figure 0005831947
式(8)において、tは、t=αT* 2e/(N)1/2を満たす時間である。また、Nは、核スピン121への転写を行うトータルの回数、T* 2eは電子スピン121のデコヒーレンス時間である。また、αは、1よりも小さい正の定数である。ここで、ωと、測定対象115からの磁場116との間には、ω=gμBBという関係がある。
次に、ステップS105で、エンタングル制御部104が、エンタングル状態の核スピン121および電子スピン122を、エンタングル状態から解除し、以下の式(9)で示される状態を生成する(エンタングル解除ステップ)。
Figure 0005831947
例えば、マイクロ波照射部111を制御して所定のマイクロ波を照射し、核スピン121と電子スピン122との間に、核スピン121をcontrolビットとし、電子スピン122をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲートをかけることで、核スピン121および電子スピン122をエンタングル状態から解除すればよい。この操作により、結果として、磁場116との相互作用により電子スピン122に発生した例えば歳差運動の状態が、核スピン121に転写される。
次に、ステップS106で、核スピン状態維持部105が、重ね合わせ状態とされた核スピン121の状態を所定の時間twait維持する(核スピン状態維持ステップ)。維持する時間twaitは、核スピン121の状態がデコヒーレンスする時間T* 2nである。上述したように、ステップS105の後の段階では、磁場116との相互作用により電子スピン122に発生した例えば歳差運動の状態が、核スピン121に転写されており、ステップS106では、この核スピン121の状態を、時間twaitの間維持する。
例えば、核スピン状態維持部105は、マイクロ波照射部111を制御して核スピン121に共鳴するマイクロ波を検出素子101に照射することで核スピン121にエコーをかけ、核スピン121の状態を上述した時間維持する。なお、デコヒーレンスする時間T* 2nは、エコーをかけるなどの状態維持操作をしていない状態におけるものである。
以上のステップS103〜ステップS106をN(=T2n/twait)回繰り返す(ステップS107)。なお、T2nは、エコーをかけるなど状態維持操作をしている場合の、核スピン121のデコヒーレンス時間である。N回繰り返すことで、以下の式(10)に示す状態が得られる。
Figure 0005831947
以上に示した時間twaitの核スピン121の状態維持操作、およびステップS103〜ステップS106をN回繰り返すことで、後述する蓄積されるエラーを小さくすることができる。
以上のように、所定回数ステップS103〜ステップS106を繰り返した後、ステップS108で、状態交換部106により、重ね合わせ状態とされた核スピン121の状態と基底状態とされた電子スピン122の状態とを交換する(状態交換ステップ)。例えば、状態交換部106は、マイクロ波照射部111を制御して所定のマイクロ波を照射し、核スピン121と電子スピン122との間に、核スピン121をcontrolビットとし、電子スピン122をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲート、また、電子スピン122をcontrolビットとし、核スピン121をtargetビットとしたC−NOTの論理ゲートをかけることで、核スピン121の状態と電子スピン122の状態とを交換し、核スピン121の状態を電子スピン122に転写する。
次に、ステップS109で、光子検出部107により、光源112により検出素子101にレーザー光を照射した検出素子101から放出される光子を検出することで、ステップS108において重ね合わせ状態とされた核スピン121の状態が交換された電子スピン122の状態を検出する(電子スピン状態検出ステップ)。ここでは、電子スピン122の状態をσxの基底で測定する。上述したように、磁場と相互作用した電子スピン122の状態を核スピン121に転写し、この核スピン121の状態を交換(転写)した電子スピン122の状態を検出しているので、測定により検出された値(測定値)は、磁場と相互作用した電子スピン122の状態に対応したものとなっている。
また、上述したステップS101〜ステップS109を所定回数(M回)繰り返して得られた複数の測定値から、電子スピン122の「Zeeman splitting」を表すωが推定でき、推定したωより磁場116の値を求めることが可能となる。
このとき推定されるωの値の誤差を計算すると、以下の式(11)で示されるものとなり、従来の方法と比べて、核スピン121への転写を実施した回数Nの平方根だけ精度が高くなることがわかる。
Figure 0005831947
ここで、ステップS104で相互作用をさせて電子スピン122の重ね合わせの状態を生成してからt秒後の、電子スピン122のデコヒーレンスによる位相に対するエラーは、以下の式(12)で示すものとなる。
Figure 0005831947
従って、ステップS105による核スピン121への転写をN回実施したときに蓄積する位相へのエラーの合計は、以下の式(13)で示すものとなる。
Figure 0005831947
ここで、上述した実施の形態によれば、式(13)の時間tを以下の式(14)で示す値としている。
Figure 0005831947
従って、上述したエラーの合計を「α2/2」に抑えることができる。この結果、αの値を1よりも小さくとることで、電子スピン122のデコヒーレンスが磁場の検出に与える影響を抑制できる。
以上に説明したように、本発明によれば、ダイヤモンドのNV中心の電子スピンが磁場と相互作用した状態を、NV中心の核スピンに転写し、この後、この核スピンの状態を電子スピンに転写してから、電子スピンの状態を検出するようにしたので、積算の回数を減らしてもエラーを小さくすることが出き、多くの積算を行うことなく高い精度で磁場検出ができるようになる。
NV中心の電子スピンは,13Cや14N(もしくは15N)の核スピンと「Hyperfine coupling」を通して結合することができ、マイクロ波の選択的な照射により、電子スピンの状態を核スピンに転写することができる。核スピンは電子スピンよりも1000倍ほど長いデコヒーレンス時間を持つため、重ね合わせの状態を保存するのに適していることが知られている(非特許文献5,6,7参照)。本発明では、上述したような核スピンの特性を用いている。磁場と相互作用した電子スピンの状態を核スピンへ転写した回数だけ磁場検出の精度を高くすることができる。
NV中心を使って磁場検出をする際には、電子スピンをレーザー光によって読み出す必要があるため、積算回数と同程度の回数だけレーザー照射が必要となる。ところが、測定対象の素材が光に対して敏感である場合や、測定対象が希釈冷凍機の中にあり低温を保ちたい場合など、レーザー光の照射回数は、より少ない方が好ましい。このような場合、本願発明によれば、レーザー光の照射回数が抑制できるので、好適である。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、レーザー光の照射により、電子スピンを「|0>e」の状態(基底状態)に偏極させるようにしたが、磁場を印加しながら低温にすることで、電子スピンを「|0>e」の状態(基底状態)に偏極させるようにしてもよい。
101…検出素子、102…核スピン状態制御部、103…電子スピン状態制御部、104…エンタングル制御部、105…核スピン状態維持部、106…状態交換部、107…光子検出部(電子スピン状態検出手段)、110…プローブ、111…マイクロ波照射部、112…光源、115…測定対象、116…磁場、121…核スピン、122…電子スピン。

Claims (3)

  1. ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子のNV中心における核スピンを重ね合わせ状態とする核スピン状態制御ステップと、
    前記検出素子のNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させる電子スピン状態制御ステップと、
    前記検出素子のNV中心における重ね合わせ状態とされた前記核スピンおよび前記基底状態とされた電子スピンをエンタングル状態にするエンタングル状態ステップと、
    前記核スピンおよび前記電子スピンが前記エンタングル状態ステップでエンタングル状態とされた後、設定されている時間保持して前記電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させる相互作用ステップと、
    前記相互作用ステップを行った後、エンタングル状態の前記核スピンおよび前記電子スピンを、エンタングル状態から解除するエンタングル解除ステップと、
    前記エンタングル解除ステップでエンタングル状態ではない状態とした後で、重ね合わせ状態とされた前記核スピンの状態を前記核スピンの状態がデコヒーレンスする時間維持する核スピン状態維持ステップと、
    前記核スピン状態維持ステップの後で、重ね合わせ状態とされた前記核スピンの状態と前記電子スピンの状態とを交換する状態交換ステップと、
    前記交換ステップにより重ね合わせ状態とされた前記核スピンの状態が交換された前記電子スピンの状態を前記検出素子にレーザー光を照射することで検出する電子スピン状態検出ステップと
    を少なくとも備えることを特徴とする磁場検出方法。
  2. ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子と、
    前記検出素子のNV中心における核スピンを重ね合わせ状態とする核スピン状態制御手段と、
    前記検出素子のNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させる電子スピン状態制御手段と、
    前記検出素子のNV中心における重ね合わせ状態とされた前記核スピンおよび前記基底状態とされた前記電子スピンをエンタングル状態とエンタングル状態ではない状態とに制御するエンタングル制御手段と、
    重ね合わせ状態とされた前記核スピンの状態を前記核スピンの状態がデコヒーレンスする時間維持する核スピン状態維持手段と、
    重ね合わせ状態とされた前記核スピンの状態と基底状態とされた前記電子スピンの状態とを交換する状態交換手段と、
    前記状態交換手段により重ね合わせ状態とされた前記核スピンの状態が交換された前記電子スピンの状態をレーザー光が照射された前記検出素子より検出する電子スピン状態検出手段と
    を少なくとも備えることを特徴とする磁場検出装置。
  3. 請求項2記載の磁場検出装置において、
    前記検出素子にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部および前記検出素子にレーザー光を照射する光源を備え、
    前記核スピン状態制御手段は、前記マイクロ波照射部により前記検出素子のNV中心における核スピンに共鳴する周波数のマイクロ波を照射し、
    電子スピン状態制御手段は、前記光源により前記検出素子にレーザー光を照射して前記検出素子のNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させ、
    電子スピン状態検出手段は、前記光源により前記検出素子にレーザー光を照射した前記検出素子から放出される光子を検出する光子検出部である
    ことを特長とする磁場検出装置。
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