以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態を説明するが、本発明は、ここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明は、要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
図1は、本実施形態による磁気抵抗効果素子の製造方法において実施される各工程を示している。なお、本実施形態では、磁気抵抗効果素子として、トンネル磁気抵抗効果(TMR)素子を製造する場合について説明する。本実施形態による磁気抵抗効果素子の製造方法は、図1に示すように、順次実施される工程S121、工程S122、工程S123、工程S124、工程S125、および工程S126を有する。
工程S121は、基板上に、トンネル障壁層として機能する層を挟持する2つの磁性層を備えた積層体を用意する工程である。
この工程S121は、通常、基板上に電極層等を形成した後、磁化自由層および磁化固定層として機能する磁性層、トンネル障壁層として機能する絶縁層を積層し、磁化自由層、絶縁層および磁化固定層を有する積層体を得る工程である。積層体が形成される基板は、TMR素子形成の基板として用いられる例えばシリコン、ガラス等からなる基板である。この工程S121は、公知の手法を採用して実施が可能である。例えば、磁化自由層、絶縁層および磁化固定層の形成には、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法)等の各種の成膜方法を用いることができる。
工程S122は、工程S121で得られた積層体をエッチングにより複数に分離し、基板上に分離された複数の積層体を形成する工程である。
この工程S122は、一般的に行われる積層体へのハードマスク層形成、フォトレジスト塗布、フォトレジストのパターニングに加えてドライエッチング処理を行なうことにより、積層体(膜)を個々の分離された複数の積層体に加工する工程である。分離された複数の積層体の各々はTMR素子として機能する。
この工程S122におけるドライエッチングには、例えば、反応性イオンエッチングや、次に述べる工程S123で用いられるイオンビーム照射を採用することができる。工程S122は、このようなドライエッチングを行うエッチング装置のエッチングチャンバー内で行うことができる。
工程S123は、工程S122で得られた基板上の分離された複数の積層体の主に側部(側壁部)にイオンビーム照射することで、トリミング処理を行うものである。このトリミング処理は、工程S122のドライエッチングで生ずる各積層体の側部のダメージ層、堆積物(付着物)等を除去するものである。ここで、積層体の側部とは、積層体の側壁部のことであり、上面を含まない表面である。トリミング処理により除去されるダメージ層等には、酸化によるダメージ層、意図せずに積層体の側部(側壁部)に付着して堆積する水、有機物、無機物等の堆積物が含まれる。このような堆積物は、例えば、エッチング残渣、エッチング残渣とエッチングガス等のガスとの反応物である。
この工程S123には、プラズマを発生させて生ずるイオンをビームとして取り出して、そのビームを加工物に照射するイオンビームエッチング装置を採用することができる。イオンをビームとして取り出すプラズマの生成には、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガス等の不活性ガスを用いることができる。イオンビームの照射するためのプラズマの生成に不活性ガスを用いることにより、イオンビームと積層体材料との反応を抑制することができ、積層体の表面をより清浄なものとすることができる。
工程S124は、工程S123でイオンビーム照射を行った後、複数の積層体の表面にカーボン膜を成膜する工程である。
この工程S124では、工程S123におけるイオンビーム照射を行った後にカーボン膜を形成することで、異なるチャンバーへの搬送、装置の外に搬出した際に生ずる吸着性分子(H2、H2O、有機物等)の吸着等による汚染を抑制することができる。カーボン膜は、例えばスパッタ法により成膜することができる。なお、カーボン膜の膜厚は、特定の厚さに限定されるものではなく、適宜設定することができるが、例えば3〜10nmに設定することが好ましい。カーボン膜の膜厚を3nm以上とすることにより、汚染を抑制する保護膜としての機能を確保することができる。一方、カーボン膜の膜厚を10nm以下とすることにより、次に述べる工程S125で効率よくカーボン膜を除去することができ、処理時間を短縮して高い処理効率を確保することができる。
カーボン膜を成膜した工程S124と酸化によりカーボン層を除去する次の工程S125との間には、例えば、複数の積層体の寸法を確認する検査工程が行われる。検査工程は、例えば製造システムに備えられた走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)のチャンバー内で行ってもよいし、製造システムの外に設けられたSEM等の検査装置で行ってもよい。検査工程を行うための基板の搬送に際して、基板が大気下に取り出されることがあっても、基板上の積層体の表面に成膜されたカーボン膜が保護膜として機能するため、上記のように吸着性分子による積層体の汚染を抑制することができる。さらには、カーボン膜は、次工程において酸化により容易に除去することができるため、処理効率を損なうこともない。
工程S125は、工程S124でカーボン膜を成膜した後、そのカーボン膜を酸化性ガスを含む雰囲気にさらし、酸化によりカーボン膜を除去する工程である。また、工程S126は、工程S125でカーボン膜を除去した後、カーボン膜が除去された複数の積層体を酸化性ガスを含む雰囲気にさらし、酸化により複数の積層体の表面に酸化層を形成する工程である。これらの工程S125および工程S126は、同一チャンバー内で大気開放することなく連続して行う。
これらの工程S125および工程S126が本実施形態の最も特徴的な工程である。工程S125および工程S126は、酸化性ガスが導入される同一のチャンバー内で大気開放されることなく連続して行われる。これにより、工程S125において、酸化性ガスを含む雰囲気にカーボン膜がさらされ、酸化によりカーボン膜が除去されていく。工程S125においてカーボン膜が除去されて消失した瞬間、工程S125から工程S126に移行し、酸化性ガスを含む雰囲気に積層体がさらされて積層体の表面の酸化も連続して起こる。このように積層体の表面が酸化される結果、積層体の表面に保護層としての酸化層が形成される。この酸化層が形成されることで、その後の工程の間等において、異なるチャンバーへの搬送や装置外への搬送の際に生ずる吸着性分子(H2、H2O、有機物等)の吸着等による積層体の汚染を抑制することができる。
工程S125および工程S126は、互いに別個独立の工程として行われるものではなく、上記のように、同一チャンバー内で大気開放されることなく連続して行われるものである。したがって、工程S125と工程S126との間に積層体が大気等にさらされることはないため、カーボン膜が除去されてから酸化層が形成されるまでの間に積層体が汚染されることはない。さらには、工程S125および工程S126は同一チャンバー内で連続して行われるため、高い処理効率で工程S125および工程S126を順次実施することができる。
なお、工程S125および工程S126において使用する酸化性ガスを含む雰囲気としては、例えば、酸化性ガスとしての酸素(O2)ガスのみからなる酸素雰囲気、酸化性ガスとしてのO2ガスと他のガスとの混合雰囲気を挙げることができる。混合雰囲気における他のガスとしては、積層体の汚染を抑制する観点から、Arガス等の不活性ガスが好ましい。また、工程S125および工程S126では、酸化性ガスを含む雰囲気において、酸化性ガスのプラズマの生成を伴うようにしてもよい。酸化性ガスのプラズマを生成させることにより、酸化の進行を促進することができる。このため、工程S125においてはカーボン膜を効率よく除去することができ、工程S126においては積層体の表面に酸化層を効率よく形成することができる。
このように、工程S124で成膜されたカーボン膜は、工程S124の後、工程S125の前において、例えばSEMによる観察等を行うために大気中に基板を搬出する際の仮の保護膜として機能する。その後、カーボン膜は、工程S125において酸化性ガスを含む雰囲気により酸化されて除去される。
本実施形態では、上述のように、カーボン膜およびカーボン膜の除去後に形成される酸化層により、吸着性分子の吸着等による積層体の汚染を確実に抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、磁気抵抗効果素子のさらなる微細化を実現するとともに、磁気抵抗効果素子の磁気特性を向上することができる。
また、工程S126の後に、工程S126で形成された酸化層上に保護層(保護膜)をさらに形成することも可能である。吸着性分子の付着が抑制された表面に形成された酸化層上に更に保護層が形成されることで、十分な保護機能が図られる。形成する保護層としては窒化膜が好適なもので、より具体的には窒化シリコン膜(SiN膜)が挙げられる。そのほか、具体的には、保護層として、窒化アルミニウム膜(AlN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)等も挙げられる。また、保護層の成膜方法は、特に限定されるものではなく、CVD法、スパッタ法等を用いることができる。
図2Aおよび図2Bに本実施形態による磁気抵抗効果素子の製造方法により製造されるTMR素子の加工前後の概要を模式的に示す。
一般的に、TMR素子の製造は、基板上に成膜された磁気抵抗効果膜をエッチング処理で加工する工程を含むプロセスで行われる。ここで、エッチング処理には、イオンビームエッチング(IBE、Ion Beam Etching)や反応性イオンエッチング(RIE、Reactive Ion Etching)や反応性イオンビームエッチング等が含まれる。
TMR素子の加工前の概要を図2Aに、加工後の概要を図2Bに示す。
図2Aにおいて、241はフォトレジストまたはハードマスク、242は上部電極を表している。なお、上部電極242の下部には、以下に述べる磁化自由層、トンネル障壁層、磁化固定層、反強磁性層、および下部電極が、上部電極242側から基板側に向かって基板上に順次積層されている。
所望のパターンに加工されたフォトレジストまたはハードマスク241を用いて上部電極242およびそれより下部の層が加工される。
図2Bにおいて、201は基板を、240はTMR素子を表している。なお、TMR素子240の外側には、本来、酸化層(酸化膜)が形成されているが、積層構造が理解しやすいように、ここでは酸化層を省略して示している。
図2Bでは、磁化固定層が下部に位置するボトムピン構造を示している。TMR素子240は、基本構造となる上部電極242、磁化自由層243、トンネル障壁層244および磁化固定層245と、反強磁性層246および下部電極247を含む。
上部電極242および下部電極247を構成する材料としては、TaやRu、Ti等が好適に用いられる。磁化自由層243および磁化固定層245を構成する材料としては、CoFeBもしくはCo、Fe、Ni等の少なくとも1つまたは2つ以上の合金からなる材料を、1層または2層以上積層した構造が用いられる。トンネル障壁層244を構成する材料としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)が好適である。その他、Mg、Al、Ti、Zn、Hf、Ge、Siの少なくとも1つまたは2つ以上を含有する酸化物でもよい。反強磁性層246を構成する材料としては、PtMnやIrMn等が用いられる。
ここで、TMR素子240では、二つの強磁性層である磁化固定層245と、磁化自由層243との間にトンネル障壁層244が挟持されている。したがって、磁化固定層245を一方の磁性層、磁化自由層243を他方の磁性層として捉えることができる。
なお、本実施形態では、TMR素子として、磁化固定層がトンネル障壁層よりも下方に位置する、いわゆるボトムピン構造を用いて説明したが、TMR素子の構造は特に限定されるものではない。TMR素子の構造として、磁化固定層がトンネル障壁層よりも上方に位置する、いわゆるトップピン構造においても、本発明は好適に用いることが可能である。
図3に本実施形態による磁気抵抗効果素子の製造方法を実施するに好適な製造システムの一例を模式的に示す。製造システムは、上述した工程を実施するためのチャンバーとして、処理チャンバー303、304、305、306、307を有している。さらに、製造システムは、基板搬送室である真空搬送室302と、ウエハローダ301とを有している。
図3において、処理チャンバー303は、図1に示す工程S122であるエッチングを行うためのチャンバーである。処理チャンバー303は、一般的には、リアクティブイオンエッチングが可能なチャンバーである。
処理チャンバー304は、図1に示す工程S123であるイオンビーム照射を行うためのチャンバーである。
処理チャンバー305は、図1に示す工程S124であるカーボン膜の成膜を行うためのチャンバーである。処理チャンバー305内では、処理チャンバー304内で側部にイオンビームが照射された積層体の表面上にカーボン膜を成膜する処理が行われる。
処理チャンバー306は、図1に示す工程S125であるカーボン膜の酸化による除去と、図1に示す工程S126である酸化による酸化層の形成とを行うためのチャンバーである。処理チャンバー306内では、処理チャンバー305内で形成されたカーボン膜が酸化により除去されるとともに、酸化により積層体の表面に酸化層が形成される。
処理チャンバー307は、図1に示す工程S126の後、処理チャンバー306内で形成された酸化層上に必要に応じて保護層(保護膜)を形成する処理を行うチャンバーである。
真空搬送室302には、ゲートバルブ等の遮蔽手段(図示せず)を介して、処理チャンバー303、304、305、306、307が、それぞれ真空搬送室302と連通可能に設けられている。
真空搬送室302、処理チャンバー303、処理チャンバー304、処理チャンバー305、処理チャンバー306、および処理チャンバー307は、夫々、減圧可能なチャンバーとすることが可能である。
真空搬送室302には、さらにウエハローダ301が設けられ、このウエハローダ301を通して、加工前の素子を真空搬送室302にローディングし、加工完了後の素子をアンローディングできるようになっている。なお、加工前の素子とは、基板上にトンネル障壁層として機能する層を挟持する2つの磁性層を備えた積層体のことである。加工前の素子は、図1に示す工程S121を実施するスパッタ装置等の成膜装置により用意される。加工前の素子を用意する成膜装置は、図3に示す製造システムとは別個独立のものであってもよいし、図3に示す製造システムに組み込まれていてもよい。後者の場合、工程S121を実施する成膜装置の成膜を行う処理チャンバーは、ゲートバルブ等の遮蔽手段を介して真空搬送室302に連通可能に設けられる。
真空搬送室302内には、図示しない基板搬送手段が設置されており、ローディングされた加工前の素子を矢印321、322、323、324、325、326に示すように各処理チャンバーへと順次搬送できるようになっている。また、図3に矢印321、322、323、324、325、326で示されている加工前の素子の搬送は、真空を破ることなく、真空搬送室302を介して、一貫して真空の状態(減圧下の状態)で行うことができる。
図4は、本実施形態における工程S122のエッチングに適用可能な処理装置として採用可能な反応性イオンエッチング装置の模式図である。
図4に示したエッチング装置は、真空容器400および、真空容器400に対して内部空間が連通するようにして気密に接続された誘電体壁容器406を有する。なお、真空容器400は、上記図3に示す処理チャンバー303に対応する。
真空容器400は、内部が排気系430によって排気される。また、真空容器400には、不図示のゲートバルブから基板201が搬入される。真空容器400内に搬入された基板201は、基板ホルダー440に保持される。基板201は、上述のように、トンネル障壁層として機能する層と、この層を挟持する2つの磁性層とを有する積層体が形成されたものである。
基板ホルダー440は、温度制御機構450により所定温度に維持することが可能である。また、基板ホルダー440には、基板201にバイアス電圧を印加するためのバイアス用電源460が接続されている。
また、真空容器400には、エッチングガスを真空容器400内に導入するためのガス導入系410が接続されている。エッチングガスとしては、特に限定されるものではなく、種々のエッチングガスを用いることができる。例えば、エッチングガスとして、メタノール(CH3OH)ガス等の水酸基を少なくとも1つ以上有するアルコールのガスを用いることができる。
真空容器400の側壁の外側には、多数の側壁用磁石420が並べて配置され、これによってカスプ磁場が真空容器400の側壁の内面に沿って形成される。このカスプ磁場によって真空容器400の側壁の内面へのプラズマの拡散が防止されている。
また、誘電体壁容器406に対しては、誘電体壁容器406の内部にプラズマ407を形成するためのプラズマ源401が設けられている。プラズマ源401は、誘電体壁容器406内に誘導磁界を発生するアンテナ402と、アンテナ402に不図示の整合器を介して伝送路404によって接続される高周波電源403と、電磁石405とを有する。アンテナ402は、誘電体壁容器406の周囲に配置されている。電磁石405は、誘電体壁容器406およびアンテナ402の周囲に配置されている。
このエッチング装置を用いると、以下のようにしてエッチング処理がなされる。
まず、ガス導入系410を動作させ、エッチングガスを溜めているボンベから配管、バルブ、および、流量調整器を介して、所定の流量のエッチングガスを真空容器400内へ導入する。導入されたエッチングガスは、真空容器400内を経由して誘電体壁容器406内に拡散する。
次に、プラズマ源401を動作させてプラズマ407を形成する。プラズマ源401を動作させると、電磁石405は、誘電体壁容器406内に所定の磁界を生じさせる。高周波電源403は、アンテナ402に供給する高周波電力(ソース電力)を発生させる。プラズマ用の高周波電源403が発生させた高周波によってアンテナ402に電流が流れ、誘電体壁容器406の内部にプラズマ407が形成される。
形成されたプラズマ407は、誘電体壁容器406から真空容器400内に拡散し、基板201の表面付近に達することで基板201の表面の積層膜がエッチングされる。
具体的に説明すると、基板201上に配置した磁気抵抗効果膜を構成する積層膜上には、例えばメモリパターン状にパターニングされたフォトレジストまたはハードマスクが形成されている。積層膜は、このフォトレジストまたはハードマスクをマスクとしてプラズマ407によりエッチングが施される。これにより、基板201上には、個々に分離された複数の積層体が形成される。
ここで、処理の際、バイアス用電源460を作動させて、基板201に負の直流分の電圧であるセルフバイアス電圧を付与し、プラズマから基板201の表面へのイオン入射エネルギーを制御してもよい。
図5は、本実施形態における工程S123のイオンビーム照射処理を行い得る処理装置を示す模式図である。
図5に示した処理装置は、イオンビームエッチング装置(イオンビーム照射装置)であって、処理室501とプラズマ発生室502とを備えている。処理室501には排気ポンプ503が接続されている。なお、処理室501は、上記図3に示す処理チャンバー304に対応する。
プラズマ発生室502には、ベルジャ504、第1のガス導入部505、RFアンテナ506、整合器507、電磁コイル508が設置されている。プラズマ発生室502と処理室501との境界には、引き出し電極(グリッド)509が設けられている。引き出し電極509は、3つの電極515、516、517から構成されている。3つの電極515、516、517は、それぞれグリッド状に形成された開口部を有する板状の電極であり、互いに平行に配置されている。
処理室501内には、プラズマ発生室502側にESC電極512を有する基板ホルダー510が設けられている。処理すべき基板201は、ESC電極512上に載置され、静電吸着によりESC電極512上に保持される。
プラズマ発生室502では、第1のガス導入部505からエッチングガスを導入し、RFアンテナ506に高周波を印加することでプラズマ発生室502内にエッチングガスのプラズマを発生させることができる。なお、第1のガス導入部505から導入するエッチングガスは、特に限定されるものではないが、エッチングガスとしては、例えばArガス等の不活性ガスを用いることができる。
そして、引き出し電極509に直流電圧を印加し、プラズマ発生室502内のイオンをビームとして引き出し、引き出したイオンビームを基板201に照射することで基板201の処理が行われる。引き出されたイオンビームは、不図示のニュートラライザーにより電気的に中和して、基板201に照射することによりチャージアップが防止される。
基板ホルダー510は、イオンビームに対して任意に傾斜することができる。また、基板201をその面内方向に回転(自転)できる構造となっている。このような基板ホルダー510により、後述するように基板201上に形成された複数の積層体の側壁部に所定の入射角度でイオンビームを照射することができるとともに、基板201の全面にわたって均一にイオンビームを照射することができる。
また、処理室501には第2のガス導入部514が設けられており、第2のガス導入部514から必要に応じてプロセスガスを処理室501内に導入することができる。
図4に示す反応性イオンエッチング装置を用いて基板201上の磁気抵抗効果膜を構成する積層膜にエッチングが施され、複数の積層体が形成される際には、複数の積層体の側壁部にダメージ層等が生じる。図5に示すイオンビームエッチング装置では、複数の積層体の側壁部に生ずるダメージ層等のトリミング処理が可能である。なお、このトリミング処理では、酸化によるダメージ層、積層体の側壁部に付着して堆積する水、有機物、無機物等の堆積物が除去される。
図6は、本実施形態における工程S124のカーボン膜の成膜を行い得る処理装置を示す模式図である。
図6に示す処理装置は、直流(DC)2極スパッタ装置であって、真空容器601と、基板ホルダー602と、カーボンターゲット603とを有している。スパッタ装置は、いわゆる並行平板型のものであり、基板ホルダー602とカーボンターゲット603とが、真空容器601内において互いに対向するように並行に設けられている。基板ホルダー602上には、基板201が保持される。なお、真空容器601は、上記図3に示す処理チャンバー305に対応する。
また、真空容器601には、Arガス等の不活性ガスを真空容器601内に導入するためのガス導入口604が設けられている。
また、カーボンターゲット603には、直流電源605が接続されている。また、基板ホルダー602は接地されている。これにより、カーボンターゲット603と基板ホルダー602との間には、直流電源605により直流電圧を印加することができるようになっている。
このスパッタ装置を用いて一般的なカーボンスパッタを行い、図5に示すイオンビームエッチング装置により側壁部にイオンビームが照射された複数の積層体の表面にカーボン膜を成膜する。まず、Arガスをガス導入口604から一定量導入し、直流電源605によりカーボンターゲット603に一定の直流電圧を印加する。こうしてカーボンターゲット603と基板ホルダー602との間に直流電圧が印加されると、真空容器601内においてグロー放電が発生する。グロー放電に伴ってArガスがプラズマ化することで、正に帯電したArイオンがカーボンターゲット603に衝突する。これにより、カーボンターゲット603の表面からカーボンがたたき出され、カーボンが基板201上に堆積する。こうして、複数の積層体の表面にカーボン膜が成膜される。なお、カーボン膜の成膜条件は特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。例えば、上記DC2極スパッタ装置により成膜する場合、カーボンターゲットを用い、Arガスを流量50sccmで真空容器内に流し、カソード(カーボンターゲット)に600W印加することによりカーボン膜を成膜することができる。
図7は、本実施形態における工程S125の酸化によるカーボン膜の除去および工程S126の酸化による酸化層の形成に適用可能な酸化処理装置として採用可能なエッチング装置の模式図である。
図7に示したエッチング装置は、真空容器700および、真空容器700に対して内部空間が連通するようにして気密に接続された誘電体壁容器706を有する。なお、真空容器700は、上記図3に示す処理チャンバー306に対応する。
真空容器700は、内部が排気系730によって排気される。また、真空容器700には、不図示のゲートバルブから基板201が搬入される。真空容器700内に搬入された基板201は、基板ホルダー740に保持される。基板201は、表面にカーボン膜が成膜された複数の積層体が形成されたものである。
基板ホルダー740は、温度制御機構750により所定温度に維持することが可能である。また、基板ホルダー740には、基板201にバイアス電圧を印加するためのバイアス用電源760が接続されている。
また、真空容器700には、酸化性ガスとして酸素ガスを真空容器700内に導入するためのガス導入系710が接続されている。なお、ガス導入系710から導入する酸素ガスは、酸素ガス単独であってもよいし、Arガス等の不活性ガスと混合されていてもよい。真空容器700に導入する酸素ガスの流量および分圧は、ガス導入系710により制御することができるようになっている。酸素ガスの流量および分圧を制御することで、カーボン膜が除去される速度および積層体の表面に酸化層が形成される速度を適宜調整することができる。
真空容器700の側壁の外側には、多数の側壁用磁石720が並べて配置され、これによってカスプ磁場が真空容器700の側壁の内面に沿って形成される。このカスプ磁場によって真空容器700の側壁の内面へのプラズマの拡散が防止されている。
また、誘電体壁容器706に対しては、誘電体壁容器706の内部にプラズマ707を形成するためのプラズマ源701が設けられている。プラズマ源701は、誘電体壁容器706内に誘導磁界を発生するアンテナ702と、アンテナ702に不図示の整合器を介して伝送路704によって接続される高周波電源703と、電磁石705とを有する。アンテナ702は、誘電体壁容器706の周囲に配置されている。電磁石705は、誘電体壁容器706およびアンテナ702の周囲に配置されている。
この酸化処理装置として機能するエッチング装置を用いると、以下のようにして酸化処理がなされる。
まず、ガス導入系710を動作させ、酸素ガスを溜めているボンベから配管、バルブ、および、流量調整器を介して、所定の流量の酸素ガスを真空容器700内へ導入する。導入された酸素ガスは、真空容器700内を経由して誘電体壁容器706内に拡散する。なお、酸素ガスを真空容器700内に導入する際の酸素ガスの流量は、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。また、真空容器700内の酸素ガスの分圧も、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。
次に、プラズマ源701を動作させてプラズマ707を形成する。プラズマ源701を動作させると、電磁石705は、誘電体壁容器706内に所定の磁界を生じさせる。高周波電源703は、アンテナ702に供給する高周波電力(ソース電力)を発生させる。プラズマ用の高周波電源703が発生させた高周波によってアンテナ702に電流が流れ、誘電体壁容器706の内部に、酸素ガスのプラズマを含むプラズマ707が形成される。
形成されたプラズマ707は、誘電体壁容器706から真空容器700内に拡散し、基板201の表面付近に達することで基板201の表面にあるカーボン膜が酸化される。カーボン膜を酸化させることで、カーボン膜を酸化により全て消失させる。
カーボン膜の消失後、真空容器700内を大気開放することなく、さらに真空容器700内においてプラズマ707による酸化を継続する。これにより、酸素雰囲気以外の雰囲気にさらされることなく積層体の表面の酸化も連続して起こり、酸化により積層体の表面に酸化層が形成される。このように、酸化によるカーボン膜の除去と酸化による酸化層の形成を真空容器700内で大気開放することなく連続して行うことにより、基板201上における積層体の汚染を防止しつつ、その後の保護層として機能する酸化層を形成することができる。
ここで、カーボン膜を除去し、酸化層を形成する上記の酸化処理の際、バイアス用電源760を作動させて、基板201に負の直流分の電圧であるセルフバイアス電圧を付与し、プラズマから基板201の表面へのイオン入射エネルギーを制御してもよい。
なお、上記酸化処理装置による酸化条件は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。例えば、酸素ガスを流量50〜200sccmで真空容器内に流し、1分処理することでカーボン膜を除去することができる。このとき、基板温度は、室温とすることもできるし、400度程度までの温度とすることもできる。また、プラズマを印加することにより、カーボン膜を除去する処理速度を加速することも可能である。また、カーボン膜の除去に続く酸化層の形成には、例えば、カーボン膜を除去する際の酸化条件と同様の酸化条件を引き続き用いることができる。
以下、図8A〜図8Hを参照して、本実施形態による磁気抵抗効果素子の製造方法を詳細に説明する。
まず、基板上に形成された下部電極100上に、反強磁性層101、磁化固定層102、トンネル障壁層103、磁化自由層104、および上部電極層105からなる磁性体多層膜を形成する。
なお、磁化固定層102と磁化自由層104は、図示したように単層である必要はなく、何層かの多層膜で形成してもかまわない。また、磁化固定層102と磁化自由層104の位置関係を上下が逆になるようにすることも可能である。即ち、反強磁性層101を、トンネル障壁層103よりも上部に位置させ、トンネル障壁層103の上に位置する強磁性層を磁化固定層104とし、トンネル障壁層103の下に位置する強磁性層を磁化自由層102としてもよい。
次に、前記磁性体多層膜上部に加工用のフォトマスク106を形成する(図8A)。この場合、フォトマスク106となるフォトレジストは、単層にかぎらず多層レジスト法を用いて形成してもかまわないし、反射防止膜を下層に形成した積層構造にしてもかまわない。
次に、このフォトマスク106を用いて、RIE法等を用いて上部電極層105を加工する。次いで、酸素ガスアッシングにてフォトマスクを除去し、メタルマスクとしても機能する上部電極層105aを形成する(図8B)。RIE法による加工の際には、例えば塩素ガスを主成分とした反応性エッチングを実施する。なお、RIE法に用いるガスは特に限定されず、Arのような不活性ガスでもかまわない。
次に、メタルマスクとしても機能する上部電極層105aをマスクとして用いて例えばRIE法により磁性体多層膜を加工する。これにより、反強磁性層101、磁化固定層102、トンネル障壁層103、および磁化自由層104からなる磁性体多層膜を複数に分離する(図8C)。こうして、基板上に、分離された複数の反強磁性層101a、磁化固定層102a、トンネル障壁層103a、磁化自由層104aからなる磁性体多層膜が形成される。ここでは、図3に示した製造システムを用いて処理チャンバー(RIE室)303内で、例えばCH3OHを主成分とするガスを用いてRIE法によるエッチングを実施することができる。なお、RIE法に用いるガスは、目的が達成されるのであれば、特に限定されるものではなく、CH4やC2H4等の炭化水素ガス、Arのような不活性ガスでもかまわない。
なお、図8Cでは多層膜全てを加工しているが、上部電極層105および磁化自由層104のみを加工するいわゆるStop on Dielectricを採用することも可能である。
また、本実施形態では、反強磁性層101〜磁化自由層104を全てRIE法により加工しているが、RIE法に代えてイオンビームエッチング(IBE)法により加工してもよい。IBE法により加工を行う場合は、TMR素子に含まれる磁性材料との化学反応を抑制するために、反応性ガスは用いずに、ArやXe、Kr等の不活性ガスのみを用いることが好ましい。
所定のエッチングにより、加工した磁性体多層膜の断面(側壁部)には、意図せず発生する堆積物(付着物)107が付着する(図8C)。
続いて、堆積物107をトリミング除去することを目的として、図3に示した製造システムの処理チャンバー(イオンビームエッチング室)304内で、分離された基板上の磁性体多層膜の側壁にArイオンビームを所定角度で照射する(図8D)。なお、イオンビームを照射する角度は、適宜設定することができるが、例えば、基板の被処理面の垂直方向に対して40度以上の角度を持ってArイオンビームを入射させることができる。これにより、基板の被処理面と平行な面のエッチング量を低減しつつ、磁性体多層膜の側壁を効率的にエッチングすることができる。
Arイオンビームの照射を終えたのち、図3に示した製造システムの処理チャンバー(カーボンスパッタ室)305内にて、スパッタ法によりカーボン膜を成膜する。これにより、分離された基板上の磁性体多層膜の表面にカーボン膜108を形成する(図8E)。この保護膜として機能するカーボン膜108の存在により、磁性体多層膜は、大気等の汚染等にさらされることがなく、例えばSEMによる検査工程等の所望の工程を経ることが可能となる。
例えば、図3に示した製造システムの処理チャンバー305においてカーボン膜108を成膜した後、製造システム外に基板を一旦搬出して、製造システムとは別個に設けられたSEMにより検査工程を実施することができる。検査工程では、基板上の分離された磁性体多層膜の寸法を測定する等の検査が行われる。製造システム外に搬出した際、基板が大気にさらされることがあっても、保護膜として機能するカーボン膜108により、基板上の分離された磁性体多層膜の汚染を抑制することができる。
上記のSEMによる検査工程等の所望の工程を経た後に、図3に示した製造システムの処理チャンバー306内にて、磁性体多層膜の表面に形成されたカーボン膜108を、酸素ガスのプラズマにさらして酸化する。これにより、カーボン膜108を酸化により全て除去する(図8F)。カーボン膜108によれば、酸化により容易に除去することが可能な仮の保護膜を形成することができる。
さらにカーボン膜108の除去後も、図3に示した製造システムの処理チャンバー306内にて大気開放することなく酸素ガスのプラズマの発生を継続する。これにより、カーボン膜108が除去されて露出した磁性体多層膜の表面が酸素ガスのプラズマにさらされ、カーボン膜108の酸化に続いて、磁性体多層膜の表面の酸化も連続して起こる。この結果、磁性体多層膜の表面に酸化層109が形成される(図8G)。
次に、図3に示した製造システムの処理チャンバー305内において、酸化層109が形成された基板上に、例えばCVD法により窒化シリコン膜よりなる保護層110を形成する。なお、保護層110は、窒化シリコン膜に限定されるものではなく、窒化アルミニウム膜、シリコン酸窒化膜等であってもよい。
次いで、保護層110が形成された基板上に、例えばCVD法によりシリコン酸化膜よりなる層間絶縁膜111を形成する(図8H)。なお、層間絶縁膜111は、シリコン酸化膜に限定されるものではなく、種々の絶縁膜を用いることができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、イオンビームを照射する工程S123の後にカーボン膜を成膜する工程S124を実施する場合について説明したが、工程S123は必ずしも実施しなくてもよい。即ち、分離された複数の積層体を形成する工程S122の後、イオンビームを照射する工程S123を経ずに、カーボン膜を成膜する工程S124を実施してよい。この場合であっても、エッチングにより分離された複数の積層体が、吸着性分子の吸着等により汚染されるのを抑制することができる。
また、上記実施形態では、図6に示すDC2極スパッタ装置を用いたDC2極スパッタ法によりカーボン膜を成膜する場合について説明したが、カーボン膜を成膜するスパッタ法の方式は、これに限定されるものではない。カーボン膜の成膜には、DC2極スパッタ法のほか、高周波スパッタ法、マグネトロンスパッタ法等の種々の方式のスパッタ法を用いることができる。