JP5823899B2 - アルミニウム合金ブレージングシート - Google Patents
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図1(a)に示すように、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシート(以下、適宜、ブレージングシートという)1(1a)は、心材2の一方の面にろう材3をクラッドしたものである。ここで、ろう材3は心材2の少なくとも一方の面に設けられていればよいが、図1(b)に示すブレージングシート1(1b)のように、心材2の両面に設けられていてもよい。
次に、ブレージングシート1を構成する心材2、ろう材3における合金成分の含有量の数値限定理由等および心材2の結晶粒径の限定理由について説明する。
心材2は、Si:0.3質量%を超え1.0質量%以下、Mn:0.6質量%を超え2.0質量%以下、Cu:0.3質量%を超え1.0質量%以下、Mg:0.15質量%以上0.5質量%以下、Ti:0.05質量%を超え0.25質量%以下を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる。
SiはMgと共存させた場合、Mg2Siを形成し、ろう付け後強度を向上させる。しかし、Si含有量が0.3質量%以下ではこの効果が小さい。一方、1.0質量%を超えると、心材2の固相線温度が低下するため、ろう付け時に心材2が溶融する。したがって、Si含有量は、0.3質量%を超え1.0質量%以下とする。
Mnは、固溶してろう付け後強度を向上させる。しかし、Mn含有量が0.6質量%以下では、強度向上効果が不十分である。一方、2.0質量%を超えると、鋳造時に形成される粗大な金属間化合物の量が増加し、成形性を低下させる。したがって、Mn含有量は、0.6質量%を超え2.0質量%以下とする。
Cuは固溶してろう付け後強度を向上させる。しかし、Cu含有量が0.3質量%以下では強度向上効果が不十分である。一方、1.0質量%を超えると、心材2の固相線温度が低下するため、ろう付け時に心材2が溶融する。したがって、Cu含有量は、0.3質量%を超え1.0質量%以下とする。
MgはSiと共存させた場合、Mg2Siを形成し、ろう付け後強度を向上させる。しかし、Mg含有量が0.15質量%未満ではこの効果が小さい。一方、0.5質量%を超えると、ろう付け時にフラックス中に到達するMg量が増え、フラックスの機能を損なわせるため、ろう付け性が低下する。したがって、Mg含有量は、0.15質量%以上0.5質量%以下とする。
Tiは、Al合金中でTi−Al系化合物を形成して層状に分散する。Ti−Al系化合物は電位が貴であるため、腐食形態が層状化し、厚さ方向への腐食(孔食)に進展し難くなる効果がある。しかし、Ti含有量が0.05質量%以下では腐食形態の層状化効果が小さい。一方、0.25質量%を超えると、粗大な金属間化合物が形成して、成形性が低下する。したがって、Ti含有量は、0.05質量%を超え0.25質量%以下とする。
心材2の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物としては、例えば、Fe、Cr、Zr等が挙げられ、これらは、それぞれ0.3質量%以下の含有であれば、本発明の効果を妨げず、心材2に含有することは許容される。
600℃で3分間のろう付け後において、心材2の板厚方向中心部の結晶粒径を、圧延方向で50μm以上とする。
なお、図2に示すように、板厚方向中心部Aとは、具体的には、600℃で3分間のろう付け後、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートを板厚方向に切断した場合の断面(圧延方向に垂直な断面、あるいは、圧延方向に平行な断面)において、心材2の板厚方向中心を中心とし、この中心を基準とした板厚の±25%における領域のことである。そして、結晶粒径は圧延方向の粒径を規定することから、板厚方向中心部の結晶粒径は、圧延方向に平行な板厚方向の断面を基準に測定することとなる。また、ここでの結晶粒径とは、平均の結晶粒径(平均結晶粒径)のことである。
ろう材3は、Al−Si系合金からなるものであり、ここでのAl−Si系合金とは、Siの他に、Znを含有した合金も含むものである。具体的には、例えば、Al−4.0質量%以上12.0質量%以下Si合金を用いることができる。Si含有量が4.0質量%未満では、液相率が低くなり、ろう付けが不十分となりやすい。一方、12.0質量%を超えると、粗大な初晶Siが発生し成形加工時に割れが生じやすくなる。また、ろう材3の電位を卑化させることでろう材3に犠牲陽極効果を持たせるため、Al−4.0質量%以上12.0質量%以下Si合金に、1.0質量%以上6.0質量%以下のZnを添加してもよい。この場合、Zn含有量が1.0質量%未満では、電位卑化の度合いが小さく、犠牲防食が不十分となりやすい。一方、6.0質量%を超えると、ろう溜り部にZnが濃縮し優先腐食サイトとなる。
図3に示すように、ろう材3において、ろう付け前でのろう材3の表層部(以下、適宜、ろう材表層部という)31を除いたろう材(以下、適宜、ろう材表層部除外部という)32中のMg量を、0.07質量%以下とする。ここで、ろう材表層部31とは、ろう材最表面(心材2とクラッドしていない側の最表面)から深さ3μm位置までの領域を指す。Mgは、ろう付け時にろう材3の最表面へ拡散し、ろう表面に予め塗付していたフラックスと化合し、フラックスの酸化膜除去能力を低下させるため、ろう付け性を低下させる。ろう材表層部除外部32のMg量が0.07質量%以下の場合、ろう付け時にフラックスと反応するMgの量が少なく、ろう付け性が向上する。一方、0.07質量%を超えると、ろう付け時にフラックスと反応するMgの量が多くなり、ろう付け性が低下する。なお、ろう材表層部除外部32のMg量は、0質量%でもよい。
ろう材厚が15μm未満では、ろう付け前でのろう材表層部除外部32のMg量が0.07質量%を超え、ろう付け性が低下する。なお、好ましいろう材3厚の上限は36μmである。ろう材厚が36μmを超えると、板厚に対する心材2の割合が小さくなり、ろう付け後強度が低下する。
次に、ブレージングシートの製造方法の一例について説明する。
ここでは、心材2の一方の面にろう材3をクラッドし、心材2の他方の面に犠牲陽極材4をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシート1c(図1(c)参照)を取り上げて説明するが、心材2にろう材3のみクラッドしたブレージングシート1a,1b(図1(a)、(b)参照)の製造方法についても、犠牲陽極材4を用いないこと以外は同様である。
なお、心材用鋳塊には均質化処理を行なわなくてもよく、ろう材用鋳塊、および、犠牲陽極材用鋳塊には、熱間圧延を行なわず、面削により厚さを調整してそれぞれ、ろう材用部材、犠牲材用部材としてもよい。また、重ね合わせ材に熱処理を行なわなくてもよい。
なお、心材の一方の面または両面にろう材をクラッドしたブレージングシートであっても、心材の一方の面にろう材をクラッドし、心材の他方の面に犠牲陽極材をクラッドしたブレージングシートであっても、本発明の効果に特段の違いはないことから、ここでは、代表して、心材の一方の面にろう材をクラッドし、心材の他方の面に犠牲陽極材をクラッドした供試材を用いて実験を行なった。
ろう付け前でのろう材表層部除外部のMg量の測定は、以下のようにして行なった。まず、ろう付け前の供試材を好適な大きさに切断し、L−ST面を研磨し、板厚方向へのEPMAライン分析を行なった。そして、ろう材中のMg量の積分値から、ろう材の最表面から3μm深さまでのMg量の積分値を引き、その値をろう材厚さで割ることにより求めた。ここで、ろう付け前でのろう材とは、EPMAライン分析において、0.1質量%以上Al、かつ、0.1質量%以下Mnを満たす領域であり、かつ、その領域を光学顕微鏡により断面観察すると共晶Si相が認められる領域のことを指す。なお、EPMAラインによる定量分析は、各元素濃度の明らかな標準試料の特性X線強度を測定しそれぞれの検量線を作成することで行った。
ろう付け後の心材結晶粒径の測定は、以下のようにして行なった。まず、昇温速度15℃/分、600℃×3分ろう付け相当の加熱後、供試材を好適な大きさに切断し、L−ST面を研磨した後、電解液にてエッチングし、研磨面を100倍で写真撮影した。そしてこの写真で、心材の板厚方向中心部(心材の板厚方向中心を中心とした板厚の±25%における領域)の圧延方向の結晶粒径を切片法により測定した。
耐エロージョン性の評価は、昇温速度15℃/分、600℃×3分ろう付け相当の加熱後、供試材を好適な大きさに切断し、L−ST面を研磨した後、その研磨面について顕微鏡にて心材へのろうの侵食度合い(エロージョン度合い)を観察した。耐エロージョン性は、心材残存率(=ろう付け相当の加熱後、エロージョン最悪部での心材残存厚/加熱前の心材厚×100)が70%以上のものを良好(○)、心材残存率が70%未満のものを不良(×)とした。
ろう付け後強度は、以下のようにして評価した。まず、供試材について、昇温速度15℃/分、600℃で3分間保持、冷却速度200℃/分のろう付けを施した。その後、室温で7日間保持し、引張方向が圧延方向と平行となるように、JIS5号試験片に加工して、室温にて引張試験を実施することによりろう付け後強度を測定した。ろう付け後強度は、引張強さが160MPa以上のものを良好(○)、引張強さが160MPa未満のものを不良(×)とした。
ろう付け性は、竹本正ら著、「アルミニウムブレージングハンドブック(改訂版)」、軽金属溶接構造協会(2003年3月発行)の132〜136頁に記載されている評価方法により評価した。図4に示すように、水平に置いた下板(3003Al合金板(厚さ1.0mm×縦幅25mm×横幅60mm))と、この下板に対して垂直に立てて配置した上板(供試材(厚さ0.3mm×縦幅25mm×横幅55mm))との間に、φ2mmのステンレス製スペーサを挟んで、一定のクリアランスを設定した。なお、上板の供試材は、ろう材面側にフラックス(森田化学工業株製FL−7)を5g/m2塗布した。そして、窒素雰囲気下、600℃で3分間という条件の加熱処理を行った後、下板と上板のすき間が充填された長さ(間隙充填長さ)をノギスで測定してろう付け性を数値化した。間隙充填長さが15mm以上のものを良好(○)、間隙充填長さが15mm未満のものを不良(×)とした。
成形性は、供試材をろう付けする前に、ろう材面側に張り出すように、JIS Z 2247によりエリクセン試験を行い、張り出し高さを測定することにより評価した。成形性は、張り出し高さが8mm以上である場合を良好(○)、張り出し高さが8mm未満(×)である場合を不良とした。なお、ろう付け時に心材が溶融するものについては、評価を行わなかった。
耐食性は、供試材を600℃×3分間のろう付け相当の加熱後に、犠牲陽極材側を試験面として、3ヶ月間OY水浸漬試験を行い、腐食深さを測定することにより評価した。耐食性は、腐食深さが40μm未満のものを良好(○)、腐食深さが40μm以上のものを不良(×)とした。
No.24は、心材のSi含有量が過少のため、ろう付け後強度に劣った。No.25は、心材のSi含有量が過剰なため、心材が溶融した。No.26は、心材のMn含有量が過少のため、ろう付け後強度に劣った。No.27は、心材のMn含有量が過剰なため、成形性に劣った。
2 心材
3 ろう材
4 犠牲陽極材
31 ろう材の表層部(ろう材表層部)
32 ろう材表層部を除いたろう材(ろう材表層部除外部)
A 板厚方向中心部
Claims (2)
- 心材の少なくとも一方の面に、Al−Si系合金からなるろう材をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記心材は、Si:0.3質量%を超え1.0質量%以下、Mn:0.6質量%を超え2.0質量%以下、Cu:0.3質量%を超え1.0質量%以下、Mg:0.15質量%以上0.5質量%以下、Ti:0.05質量%を超え0.25質量%以下を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、
前記ろう材の厚さが15〜33μmであり、
前記ろう材の表層部を除いたろう材中のMg量が0.07質量%以下であり、
かつ、600℃で3分間のろう付け後において、前記心材の板厚方向中心部の結晶粒径が、圧延方向で50μm以上であることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。 - 心材の一方の面にAl−Si系合金からなるろう材をクラッドし、
前記心材の他方の面に犠牲陽極材をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記心材は、Si:0.3質量%を超え1.0質量%以下、Mn:0.6質量%を超え2.0質量%以下、Cu:0.3質量%を超え1.0質量%以下、Mg:0.15質量%以上0.5質量%以下、Ti:0.05質量%を超え0.25質量%以下を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、
前記ろう材の厚さが15〜33μmであり、
前記ろう材の表層部を除いたろう材中のMg量が0.07質量%以下であり、
かつ、600℃で3分間のろう付け後において、前記心材の板厚方向中心部の結晶粒径が、圧延方向で50μm以上であることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
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