JP5818299B2 - 凝固因子として作用する異常トロンビンのためのトロンビン不活化動態測定方法 - Google Patents
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Description
また、血液の凝固能力をみる測定方法として、トロンボテスト(TT)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)試験、等がある。
また、本発明は、凝固因子として作用する異常トロンビンを検出するためのトロンビン不活化動態の測定方法であって、被検者の血漿に由来する成分を少なくとも含む試料にプロトロンビン活性化剤を加えてプロトロンビンをトロンビンに変換し、次に、正常トロンビンを不活化する凝固阻止因子を前記試料に加えたときの残存トロンビン活性を基準化するための前記試料の基準化用トロンビン活性を測定し、別途、試料に前記プロトロンビン活性化剤を加えてプロトロンビンをトロンビンに変換し、次に、前記凝固阻止因子を前記試料に加え、所定の反応時間後における前記試料の前記基準化用トロンビン活性に対する相対的な残存トロンビン活性を正常値と比較して測定することを特徴とする。この発明によっても、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難いという、従来血栓症の危険因子として認識されていなかった異常トロンビンを検出することができる。
まず、背景技術として血液凝固系の概略を説明する。
血液の凝固因子として、12種類の因子が発見されている。これらの因子は、凝固第I〜V,VII〜XIII因子と呼ばれている。血液凝固機序として、組織因子(tissue factor)を起因とする外因系凝固活性化機序と、異物を起因とする内因性凝固活性化機序とが知られている。
血液凝固系の途中にある活性型の第IXa因子は、活性型の第VIIIa因子の補酵素作用の存在下に凝固第X因子を活性化する。活性型の第Xa因子、活性型の第Va因子、リン脂質(PL)及びカルシウムイオン(Ca2+)からなるプロトロンビナーゼ複合体は、プロトロンビン(凝固第II因子)をトロンビン(第IIa因子)に活性化する。トロンビンは、フィブリノゲン(凝固第I因子)からフィブリンを形成させる。血液凝固カスケードがあることにより、破れた血管内に組織液が入ったときや血液が異物に接触したときに必要量のフィブリンが速やかに形成される。
また、トロンビンは、トロンボモジュリン(TM)と結合すると、フィブリン生成反応等の活性を失う一方、凝固阻止因子であるプロテインCを活性化する。活性型プロテインCは、凝固阻止因子であるプロテインSの補酵素作用、及び、カルシウムイオンの存在下、第Va因子及び第VIIIa因子を失活させ、過凝固を防ぐように作用する。
3世代にわたって静脈血栓症の発症が見られた患者について、従来から報告されている静脈血栓症のリスクとなる遺伝子変異、すなわち、アンチトロンビン遺伝子とプロテインC遺伝子とプロテインS遺伝子の変異があるかどうかを調べたところ、これらの遺伝子変異は見つからなかった。
また、上記患者の凝血学的血液検査を行ったところ、ビタミンK拮抗剤の服用の影響で凝固能力が低下しているものの、凝固能力が十分にあることを表す結果が得られた。
まず、患者の末梢血白血球ペレットにSDS(sodium dodecyl sulfate)、EDTA(ethylene diamine tetraacetic acid)の存在するプロテアーゼKの緩衝液を添加して細胞を溶解して細胞内のDNAを可溶化し、フェノール/クロロホルム抽出法により患者のゲノムDNAを抽出した。
また、プロトロンビン遺伝子のエクソン14を挟むプライマーとして、「5'-agggcctggtgaacacatcttc-3'」(配列番号4)及び「5'-ccaggtggtggattcttaagtcttc-3'」(配列番号5)を合成した。東洋紡績株式会社製KOD FXを使用し、これらのプライマーを用いて上記DNA断片をPCR(polymerase chain reaction)法により増幅した。得られたPCR増幅フラグメントをQIAGEN社製QIAEX II Gel Extraction Kitにより精製した。この生成されたPCR増幅フラグメントを鋳型とし、前記配列番号4,5のプライマーを用いてダイレクトシークエンス法によりプロトロンビン遺伝子のDNA配列を決定した。具体的には、アプライドバイオシステムズ社製BigDye(登録商標) terminatorを用いた。反応産物を精製しアプライドバイオシステムズ社製ABI-PRISM(登録商標) 310 Genetic Analyzerにより解析し、DNA配列を決定した。決定したDNA配列は、配列番号3で表されている。
ここで、DNA配列の44番目が被検者に由来するプロトロンビン遺伝子に対応するcDNAの翻訳開始コドンのA(アデニン)であり、DNA配列の1912番目の終止コドンのG(グアニン)である。また、プロトロンビン遺伝子のエクソン14は、配列番号3において、1769番目に開始し、2010番目で終了する。
下記表は、上記患者(Mutant)の変異型トロンビン遺伝子と遺伝子異常の無い人(Normal)のプロトロンビン遺伝子とでエクソン14の要部を比較したものである。
ここで、596番目のArgは、活性中心ではないものの、活性中心の近くであり、また、アンチトロンビンとの結合部位であると報告されている(Wei Li, et al. Nat Struct Mol Biol. 2004)。正電荷を持つ極性アミノ酸であるArgから非極性アミノ酸Leuへの変化により、トロンビンとアンチトロンビンとの親和性が低下することが考えられる。従って、本変異型プロトロンビンは、アミノ酸置換があるにもかかわらず凝固因子としての活性はほぼ正常であるが、生理的なトロンビンの制御因子であるアンチトロンビンとの水素結合形成が抑制され、アンチトロンビンによる不活化に抵抗することが予想される変異である。本症例では、トロンビンのアンチトロンビン結合部位に起こった変異により、アンチトロンビンによるトロンビン不活化の遅延による静脈血栓症を引き起こした可能性が考えられる。
以上説明したように、トロンビン側に分子異常が存在し、凝固因子としての能力がある一方でアンチトロンビン等の凝固阻止因子の不活化作用を受け難くなる病態についての疾患概念は、無かった。このため、本変異型トロンビンのトロンビン不活化動態を解析する方法は、臨床検査法を含めて開発されていなかった。
本願発明者らは、本変異型トロンビンのように凝固因子として作用する異常トロンビンを検出するため、凝固阻止因子によるトロンビン不活化動態の測定方法を新規に開発することとした。
凝固阻止因子にアンチトロンビンを用いる場合、図1を参照して説明すると、試料に加えられたアンチトロンビンは、生成したトロンビン(第IIa因子)を不活化するのとともに、トロンビンを生成するまでの過程に存在するプロトロンビナーゼ複合体(第Xa因子、第Va因子、リン脂質、Ca2+の複合体)やさらに上位の因子も不活化する。従って、試料にアンチトロンビンを加えて所定の反応時間後に残存トロンビン活性を測定する際、生成されるトロンビンが少なくなるのか生成されたトロンビンの活性が阻害されるのか判らず、残存トロンビン活性の測定結果に影響を与えてしまう。
トロンビン不活化相(B)では、正常トロンビンを不活化する凝固阻止因子を前記試料に加えることとしている。
残存トロンビン活性測定相(C)では、所定の反応時間後における前記試料の残存トロンビン活性を正常値と比較して測定することとしている。ここで、残存トロンビン活性を正常値と比較して測定することは、初期トロンビン活性等の基準化用トロンビン活性に対する相対的な残存トロンビン活性を正常値と比較して測定すること等を含む。
被検者の血漿に由来する成分を少なくとも含む試料には、血漿、血液、血漿又は血液の希釈液、血漿又は血液からプロトロンビンを除く一部の成分を除去したもの、この希釈液、等が含まれる。
被検者における残存トロンビン活性の比較基準となる正常値は、一般には健常人における残存トロンビン活性に基づいた正常値とすることができるものの、変異を有する人における残存トロンビン活性に基づいて得られる値、変異を有する人及び健常人における残存トロンビン活性に基づいて得られる値、等でもよい。従って、正常値には、健常人の血液等(血漿を含む)を用いた試料から得られる残存トロンビン活性、この残存トロンビン活性に1よりも大きい補正係数を乗じた値、健常人における残存トロンビン活性の上限、この上限に1よりも大きい補正係数を乗じた値、Arg596Leuの変異を有する人における残存トロンビン活性の下限、この下限に0よりも大きく1よりも小さい補正係数を乗じた値、等が含まれる。
蛇毒に由来するプロトロンビン活性化剤は、例えば、R. Manjunatha Kini、The intriguing world of prothrombin activators from snake venom、Toxicon 45 (2005) 1133-1145に記載されたプロトロンビンアクチベータ等を用いることができる。これらのプロトロンビンアクチベータの中では、凝固第Xa因子及び凝固第Va因子と同様の活性を持つことが報告され(Han Speijer、他3名、Prothrombin Activation by an Activator from the Venom of Oxyuranus scutellatus (Taipan Snake)、The Journal of Biological Chemistry、The American Society of Biological Chemists, Inc. (1986)、Vol. 261、No. 28、pp. 13258-13267も参照)プロトロンビンを速やかに活性化するオキシウラヌス・スクテラタス(Oxyuranus scutellatus)からの蛇毒に由来するプロトロンビンアクチベータが好ましいものの、Pseudonaja textilisからの蛇毒に由来するプロトロンビンアクチベータ(例えばpseutarin C)、等でもよい。また、Notechis scutatusからの蛇毒に由来するプロトロンビンアクチベータと凝固第Va因子との組合せ等をトロンビン生成相(A)に用いてもよい。
プロトロンビン活性化剤の量は、プロトロンビンにプロトロンビン活性化剤を作用させる時間内にプロトロンビンをほぼ(例えば80%以上、より好ましくは90%以上)活性型のトロンビンに変換する量が好ましい。好ましい量は、プロトロンビン活性化剤の濃度を変えて初期トロンビン活性を表す吸光度変化率ΔAbs/minを測定したときにプロトロンビン活性化剤の量を多くしても吸光度変化率ΔAbs/minがほとんど変わらなくなる最低の量以上とすることができる。例えば、濃度−吸光度変化率のグラフの各軸に応じた閾値をTHΔAbs/C(ただしTHΔAbs/C>0)として、濃度Cにおける濃度−吸光度変化率のグラフの傾きの絶対値がTHΔAbs/C以下となる最低の濃度以上とすることができる。閾値THΔAbs/Cは、グラフの各軸のスケールに応じて適宜設定すればよい。
オキシウラヌス・スクテラタスからの蛇毒に由来するプロトロンビンアクチベータ(以下、Ox由来プロトロンビンアクチベータとも記載)を用いる場合、プロトロンビンを良好に活性化させ高感度の測定結果を得る観点から、プロトロンビン活性化時の試料中におけるプロトロンビンアクチベータの濃度は、例えば0.003〜0.086mg/ml程度(より好ましくは0.007〜0.043mg/ml程度)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるプロトロンビンアクチベータの量は、例えば0.5〜12mg程度(より好ましくは1.0〜6.0mg程度)とすることができる。
Ox由来プロトロンビンアクチベータを用いる場合、リン脂質及びカルシウムイオンを併用するとプロトロンビン活性化が促進されるので好ましい。この場合、プロトロンビンを良好に活性化させ高感度の測定結果を得る観点から、リン脂質添加時の試料中におけるリン脂質の濃度は、例えば0.004〜0.33mg/ml程度(より好ましくは0.008〜0.167mg/ml程度)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるリン脂質の量は、例えば0.5〜40mg程度(より好ましくは1.0〜20mg程度)とすることができる。さらに、Ox由来プロトロンビンアクチベータ1mg当たりに用いるリン脂質の量は、例えば0.3〜20mg程度(より好ましくは0.5〜10mg程度)とすることができる。カルシウムイオン添加時の試料中におけるCa2+の濃度は、例えば0.42〜8.3mM程度(より好ましくは0.83〜4.2mM程度)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるCa2+の量は、例えば0.05〜1mmol程度(より好ましくは0.1〜0.5mmol程度)とすることができる。さらに、Ox由来プロトロンビンアクチベータ1mg当たりに用いるCa2+の量は、例えば0.03〜0.5mmol程度(より好ましくは0.05〜0.25mmol程度)とすることができる。
凝固阻止因子の量は、正常トロンビンを含み異常トロンビンを含まない試料について、ある反応時間以上における試料の残存トロンビン活性が初期トロンビン活性と比べてほぼ無くなる(例えば初期トロンビン活性に対して10%以下、より好ましくは5%以下)量が好ましい。また、凝固因子として作用する異常トロンビンを含む試料について、前記反応時間以上における試料の残存トロンビン活性が比較的大きい(例えば初期トロンビン活性に対して15%以上、より好ましくは20%以上)反応時間があるような量が好ましい。
凝固阻止因子にアンチトロンビンを用いる場合、正常トロンビンを良好に不活化させ高感度の測定結果を得る観点から、トロンビン不活化時の試料中におけるアンチトロンビンの濃度は、例えば1.9〜19μg/ml程度(より好ましくは3.8〜9.4μg/ml程度)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるアンチトロンビンの量は、例えば0.3〜3mg程度(より好ましくは0.6〜1.5mg程度)とすることができる。
凝固阻止因子にアンチトロンビンを用いる場合、補助因子としてヘパリン又はヘパラン硫酸等を加えることも可能である。
ヘパリンをアンチトロンビンとともに試料に加える場合、正常トロンビンを良好に不活化させ高感度の測定結果を得る観点から、トロンビン不活化時の試料中におけるヘパリンの濃度は、例えば0.2〜2.5単位/ml程度(より好ましくは0.3〜1.3単位/ml程度)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるヘパリンの量は、例えば25〜400単位程度(より好ましくは50〜200単位程度)とすることができる。さらに、アンチトロンビン1mg当たりに用いるヘパリンの量は、例えば28〜440単位程度(より好ましくは56〜220単位程度)とすることができる。
ヘパラン硫酸をアンチトロンビンとともに試料に加える場合、正常トロンビンを良好に不活化させ高感度の測定結果を得る観点から、トロンビン不活化時の試料中におけるヘパラン硫酸の濃度は、例えば0.4〜6.3抗第Xa因子活性単位/ml程度(より好ましくは0.8〜3.1抗第Xa因子活性単位/ml程度)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるヘパラン硫酸の量は、例えば63〜1000抗第Xa因子活性単位程度(より好ましくは125〜500抗第Xa因子活性単位程度)とすることができる。さらに、アンチトロンビン1mg当たりに用いるヘパラン硫酸の量は、例えば42〜670抗第Xa因子活性単位程度(より好ましくは83〜330抗第Xa因子活性単位程度)とすることができる。
活性測定用試薬を加えるときの試料の温度は、例えば、30〜40℃程度、より好ましくは36〜38℃程度とすることができる。
活性測定用試薬に発色性合成基質S-2238を用いる場合、高感度の測定結果を得る観点から、発色時の試料中におけるS-2238の濃度は、例えば0.1mM以上とすることができる。S-2238の濃度の上限は特にないが、コストを考慮して、例えば0.4mM以下(より好ましくは0.2mM以下)とすることができる。また、血漿1ml当たりに用いるS-2238の量は、例えば0.02mmol以上、0.08mmol以下(より好ましくは0.04mmol以下)とすることができる。
試料に活性測定用試薬を加える前後に、必要に応じて補助因子を試料に加えてもよい。
むろん、残存トロンビン活性を測定するために、上述した測定方法以外の方法で測定してもよい。
なお、複数の反応時間において残存トロンビン活性を比較すると残存トロンビン活性の経時的変化の違いが分かるが、反応時間を一つに設定してもよい。
図2の残存トロンビン活性には、初期時間0分における残存トロンビン活性が含まれている。すなわち、別途、試料にプロトロンビン活性化剤を加えてプロトロンビンをトロンビンに変換し、次に、凝固阻止因子を試料に加え、所定の初期時間における試料の初期トロンビン活性を測定している。ここで、初期トロンビン活性を表す吸光度変化率をΔAbsT0、所定の反応時間における残存トロンビン活性を表す吸光度変化率をΔAbsTとすると、相対的な残存トロンビン活性はΔAbsT/ΔAbsT0となる。ΔAbsT/ΔAbsT0と比較するための正常値は、健常人の初期トロンビン活性を表す吸光度変化率ΔAbsT0contに対する同じ反応時間における残存トロンビン活性ΔAbsTcontの比ΔAbsTcont/ΔAbsT0contで表される。
母親と健常人とを比較すると、反応時間1分で健常人の基準化残存トロンビン活性がほぼ0になっているのに対し、母親の基準化残存トロンビン活性がかなり残っていることがわかる。従って、所定の反応時間(例えば1〜5分)における健常人の残存トロンビン活性の上限を正常上限値とすれば、凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれているか否かを検出することができる。この正常上限値を表す基準化吸光度変化率をTHT/T0とすると、基準化吸光度変化率がTHT/T0よりも大きいと凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれ、この異常トロンビンによる血栓症にかかり易いと判断することができる。一方、基準化吸光度変化率がTHT/T0以下であると凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれず、この異常トロンビンによる血栓症にかかり易くないと判断することができる。
(i)被検者の血漿に由来する成分を少なくとも含む試料に加えてプロトロンビンをトロンビンに変換するためのプロトロンビン活性化剤。
(ii)正常トロンビンを不活化する凝固阻止因子であって前記プロトロンビン活性化剤を加えた後に前記試料に加えるための凝固阻止因子。
(iii)所定の反応時間後における前記試料の残存トロンビン活性を測定するためのトロンビン活性測定用試薬。
本変異型プロトロンビンは、プロトロンビン遺伝子に対応するcDNAの塩基配列で翻訳開始コドン基準の1787番目の塩基がGからTに変異している。そこで、プロトロンビン遺伝子に対応するcDNAにおける翻訳開始コドン基準の1787番目の塩基の種類がTである場合には血栓症にかかり易く、Gである場合には血栓症にかかり易くないという比較基準を設けておくことにする。また、プロトロンビン遺伝子に対応するcDNAにおける翻訳開始コドン基準の1787番目の塩基の種類がGである場合には血栓症にかかり易くなく、G以外である場合には血栓症にかかり易い可能性があるという比較基準を設けてもよい。その上で、プロトロンビン遺伝子に対応するcDNAの塩基配列1787番目における塩基の種類を決定し、前記比較基準と比較することにより、被検者の血栓症へのかかり易さを試験することができる。この試験は、被検者が血栓症にかかり易いか否かの診断に利用することができる。
ゲノムDNAの採取源は、血液の他、毛根、頬粘膜、皮膚、等でもよい。
さらに、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブ(ASO)を利用して1787番目の塩基の種類を決定することもできる。オリゴヌクレオチドプローブが完全に相補的なDNAに対して安定なハイブリッドを形成するが、1塩基でもミスマッチがあると、前者よりも低い温度で解離しやすい性質がある。この性質を利用して、1787番目の塩基の種類を検出することができる。
上述した静脈血栓症の女児及び母親は、上記遺伝子解析の結果、プロトロンビン遺伝子に対応するcDNAにおける翻訳開始コドン基準の1787番目の塩基がTと決定された。このため、上記比較基準と比較されることにより、血栓症にかかり易いと判断される。むろん、1787G>T変異の無い人は、上述した遺伝子解析を行うと、1787番目の塩基がGと決定される。従って、上記比較基準と比較されることにより、血栓症にかかり易くないと判断される。
むろん、上記結合部位のアミノ酸をコードする塩基の種類を決定する方法には、上述した方法を用いることができる。
本変異型プロトロンビンをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3で表されるDNA配列中、44番目となる翻訳開始コドンのAに始まり、1912番目となる終止コドンのGで終わる。このポリヌクレオチドのDNA配列は、配列番号1で表されている。このポリヌクレオチドは、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難い異常トロンビンを検出する試験方法を開発するために利用することができる。実際、後述するように本トロンビン不活化動態測定方法を開発するため、配列番号1で表されるポリヌクレオチドを使用した。また、このポリヌクレオチドは、本変異型プロトロンビンを検出するための標識プローブに利用することができる。
配列番号1で表される配列のDNAを含む遺伝子組換え細胞等により、配列番号1で表されるDNA配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号2参照)を生成することができる。このポリペプチドは、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難い異常トロンビンを検出する試験方法を開発するために利用することができる。実際、後述するように本トロンビン不活化動態測定方法を開発するため、配列番号2で表されるポリペプチドを使用した。
むろん、配列番号1で表されるポリヌクレオチド自体をDNA自動合成機により合成してもよい。
本トロンビン不活化動態測定方法を開発するために使用することのできる血液は量が限られている。そこで、本変異型プロトロンビン及び正常プロトロンビンを生成する遺伝子組換え体を作製することにした。リコンビナントプロトロンビンは、以下のようにして生成することができる。
プロトロンビンをコードするプラスミドは、プロトロンビンをコードするcDNAを適当なプラスミドに組み込むことにより調製することができる。このプロトロンビンをコードするcDNAを組み込むプラスミドとしては、宿主内で複製保持されるものであれば、いずれも使用することができるが、例えば大腸菌由来のpBR322、pUC18、及びこれらを基に構築されたpET-3cやpBluescriptなどを挙げることができる。
上記のような形質転換体の培養物中に放出されたものを、遠心分離後の上澄み液から直接リコンビナントプロトロンビンを回収することができる。
このようにして得られた標品はリコンビナントプロトロンビンの活性が損なわれない限りにおいて透析、凍結乾燥を行い、乾燥粉末とすることもできる。
市販のヒト肝cDNAライブラリー(Clontech社製Human Liver 5’-STRETCH PLUS cDNA Library)から野生型プロトロンビンcDNAをPCR法(東洋紡績株式会社製KOD FXを使用)により増幅した。このとき、PCR法のプライマーに「5'-gggggtaccggagctgacacactatggcgcac-3'」(配列番号7)及び「5'-ggggaattcgccccctactctccaaactgatcaa-3'」(配列番号8)を用いた。得られたPCR増幅フラグメントをQIAGEN社製QIAEX II Gel Extraction Kitにより精製した。
精製されたPCR増幅フラグメントを制限酵素Kpn I及びEcoR Iで二重切断し、Kpn I, EcoR Iで二重切断したpBluescript II KS+クローニング用ベクターに組み込んだ。得られたベクターで大腸菌DH5αを形質転換した後、Ampicilline加LB寒天平板に塗布後14〜16時間培養した。得られたコロニーをLB培地中で37℃、14〜16時間培養した。得られた菌体からプラスミドを精製しインサート部分の正常プロトロンビンcDNAの塩基配列を確認した。
得られた正常プロトロンビンcDNAを鋳型にoverlap extension PCR法により1787G>T変異を導入して異常プロトロンビンcDNAを得た。異常プロトロンビンcDNAを同様にクローニング後、塩基配列を確認した。
図4は、プロトロンビン活性化剤にOx由来プロトロンビンアクチベータを用い、凝固阻止因子にアンチトロンビンとヘパリンの組合せを用い、活性測定用試薬に発色性合成基質S-2238を用いた場合の残存トロンビン活性測定方法を示している。Ox由来プロトロンビンアクチベータと、アンチトロンビンとヘパリンの組合せと、発色性合成基質S-2238との組合せは、第一のトロンビン不活化動態測定方法における測定キットを構成する。この測定方法は、被検試料の種類毎に、AT・ヘパリン溶液を添加してからの各反応時間(初期時間を含む)について行われる。
最終的に、被検試料には末梢血の血漿、又は、回収リコンビナントプロトロンビンを用い、被検試料の希釈液に0.3MのNaClを入れた50mMトリス塩酸pH8.1を用い、希釈倍率を100倍とした。また、Ox由来プロトロンビンアクチベータにシグマアルドリッチ社V3129を使用し、リン脂質にロシュ・ダイアグノスティックス株式会社のPTT試薬「RD」のビン2:セファリンを用い、アンチトロンビンに株式会社ベネシス製造(田辺三菱製薬株式会社販売)の血漿分画製剤である血液凝固阻止剤ノイアート(登録商標)静注用を使用し、ヘパリンにレオ・ファーマシューティカル・プロダクツ社製造(持田製薬株式会社販売)のブタ腸粘膜由来の血液凝固阻止剤ヘパリンナトリウム注射液ノボ・ヘパリンを使用し、S-2238にクロモジェニックス社製造(積水メディカル株式会社販売)発色性合成基質を使用した。
回収リコンビナントプロトロンビンの使用量は、生成されるトロンビンの活性により調整して健常人プール血漿に相当する量とした。試料に用いる血漿の量が5μlであるので、回収リコンビナントプロトロンビンの使用量は健常人プール血漿5μlに相当するトロンビン活性となる量に調整した。以下の実施形態も、同様である。
回収リコンビナント異常プロトロンビン、及び、回収リコンビナント正常プロトロンビンをそれぞれ被検試料として使用量を健常人プール血漿5μlに相当するトロンビン活性となる量に調整し、図4で示した測定方法に従ってトロンビン不活化動態を測定した。ここで、凝固阻止因子の反応時間を15秒、1分、2分、3分、4分、5分とし、初期時間を0秒とした。トロンビン不活化動態の測定結果を図5に示す。ここで、横軸はAT・ヘパリン溶液を添加してからの反応時間、縦軸は残存トロンビン活性を表す吸光度変化率ΔAbs/min、rMut(変異型の意)はリコンビナント異常プロトロンビンを含む上清を用いた場合のトロンビン不活化動態、rWt(野生型の意)はリコンビナント正常プロトロンビンを含む上清を用いた場合のトロンビン不活化動態、を示している。従って、rWtで表される残存トロンビン活性ΔAbsrWt/minは、rMutで表される残存トロンビン活性ΔAbsrMut/minと比較される正常値の一例となる。
従って、図4に示した測定方法により、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難い異常トロンビンを検出することができた。
上述した女児の血漿、上述した母親の血漿、及び、健常人の血漿をそれぞれ被検試料として、図4で示した測定方法に従ってトロンビン不活化動態を測定した。ここで、凝固阻止因子の反応時間を30秒、1分、2分、3分、4分、5分とし、初期時間を0秒とした。トロンビン不活化動態の測定結果(基準化前)を図2に示している。健常人の残存トロンビン活性は、患者の残存トロンビン活性と比較される正常値の一例となる。
従って、図4に示した測定方法により、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難いという、従来血栓症の危険因子として認識されていなかった異常トロンビンを検出することができた。
例えば、反応時間1分における正常上限値THΔAbs-1minを健常人の残存トロンビン活性の2倍(約0.03)に設定すると、女児の場合における反応時間1分の残存トロンビン活性(約0.3)はTHΔAbs-1minよりも大きい。従って、凝固因子として作用する異常トロンビンが女児の被検試料に含まれ、この異常トロンビンによる血栓症に女児がかかり易いと予測することができる。むろん、健常人の場合における残存トロンビン活性はTHΔAbs-1minよりも小さいので、凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれず、この異常トロンビンによる血栓症に健常人がかかり易くないと予測することができる。
また、反応時間1,3,5分のそれぞれに正常上限値THΔAbs-1min,THΔAbs-3min,THΔAbs-5minを設定する等、複数段階の反応時間のそれぞれに正常上限値を設定すると、予測の精度が向上する可能性がある。
従って、ビタミンK拮抗剤の服用の影響があっても、図4に示した測定方法により、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難いという、従来血栓症の危険因子として認識されていなかった異常トロンビンを検出することができた。
例えば、反応時間1分における正常上限値THT/T0-1minを健常人の基準化残存トロンビン活性の2倍(約0.03)に設定すると、母親の場合における反応時間1分の基準化残存トロンビン活性(約0.3)はTHT/T0-1minよりも大きい。従って、凝固因子として作用する異常トロンビンが母親の被検試料に含まれ、この異常トロンビンによる血栓症に母親がかかり易いと予測することができる。むろん、健常人の場合における基準化残存トロンビン活性はTHT/T0-1minよりも小さいので、凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれず、この異常トロンビンによる血栓症に健常人がかかり易くないと予測することができる。
また、反応時間1,3,5分のそれぞれに正常上限値THT/T0-1min,THT/T0-3min,THT/T0-5minを設定する等、複数段階の反応時間のそれぞれに正常上限値を設定すると、予測の精度が向上する可能性がある。
図6は、プロトロンビン活性化剤にOx由来プロトロンビンアクチベータを用い、凝固阻止因子にアンチトロンビン(ヘパリン無し)を用い、活性測定用試薬に発色性合成基質S-2238を用いた場合の残存トロンビン活性測定方法を示している。Ox由来プロトロンビンアクチベータと、アンチトロンビンと、発色性合成基質S-2238との組合せは、第二のトロンビン不活化動態測定方法における測定キットを構成する。この測定方法は、被検試料の種類毎に、AT溶液を添加してからの各反応時間(初期時間を含む)について行われる。
最終的に、希釈液、PL・Ca溶液、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液、アンチトロンビン、及び、S-2238溶液には、第一の測定方法と同じものを用いた。AT溶液は、生理的食塩水にアンチトロンビンを加えて75μg/ml(血漿1ml当たりのアンチトロンビンの量は1.5mg)とした。各種試薬の使用量等の好ましい条件は、上述した通りであった。
回収リコンビナント異常プロトロンビン、及び、回収リコンビナント正常プロトロンビンをそれぞれ被検試料として使用量を健常人プール血漿5μlに相当するトロンビン活性となる量に調整し、図6で示した測定方法に従ってトロンビン不活化動態を測定した。ここで、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液添加後のインキュベート時間を2分とし、凝固阻止因子の反応時間を10分、20分、30分とし、初期時間を1分とし、AT溶液の代わりに生理的食塩水を加えたときの各時間(1分、10分、20分、30分)の基準化用トロンビン活性、すなわち、トロンビン活性を阻止しない場合のトロンビン活性で基準化した。トロンビン不活化動態の測定結果を図7に示す。ここで、横軸はAT溶液を添加してからの反応時間、縦軸は残存トロンビン活性を表す吸光度変化率ΔAbs/min、rMut(変異型の意)はリコンビナント異常プロトロンビンを含む上清を用いた場合のトロンビン不活化動態、rWt(野生型の意)はリコンビナント正常プロトロンビンを含む上清を用いた場合のトロンビン不活化動態、を示している。rMutの場合とrWtの場合とでそれぞれ3回ずつ残存トロンビン活性を測定して基準化し、平均値を線で結んでいる。rWtで表される基準化残存トロンビン活性ΔAbsTcont/ΔAbsT0contは、rMutで表される残存トロンビン活性ΔAbsT/ΔAbsT0と比較される正常値の一例となる。
図6に示した第二の測定方法は、図4に示した第一の測定方法よりも時間がかかるものの、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難い異常トロンビンを検出することができた。
回収リコンビナント異常プロトロンビンとプロトロンビン除去血漿の組合せ(図8のMut)、回収リコンビナント正常プロトロンビンとプロトロンビン除去血漿の組合せ(図8のWT)、及び、半量の回収リコンビナント異常プロトロンビンと半量の回収リコンビナント正常プロトロンビンとプロトロンビン除去血漿の組合せ(図8のWTMut)をそれぞれ被検試料として、図6で示した測定方法に従ってトロンビン不活化動態を測定した。ここで、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液添加後のインキュベート時間を30秒とし、凝固阻止因子の反応時間を10分、20分、30分とし、初期時間を15秒とし、AT溶液の代わりに生理的食塩水を加えたときの初期時間及び各反応時間の基準化用トロンビン活性も測定した。トロンビン不活化動態の測定結果を図8に示す。ここで、図8のATはAT溶液を加えて得られる残存トロンビン活性を示し、-は生理的食塩水を加えて得られる基準化用トロンビン活性を示している。WT(野生型の意)で表される残存トロンビン活性ΔAbsrWt/minは、Mut(変異型の意)やWTMutで表される残存トロンビン活性ΔAbsrMut/minと比較される正常値の一例となる。WTMutの被検試料は、ヘテロ接合体のモデルとなる。
なお、ヘテロ接合体の患者の血液には異常プロトロンビンと正常プロトロンビンとが混ざっているため、本変異を有する患者の血液を被検試料とすると残存トロンビン活性が徐々に低下するものの健常人の場合と比べて低下し難いと予想される。従って、図6に示した測定方法により、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難い異常トロンビンを検出することができると考えられる。
例えば、反応時間30分における正常上限値THΔAbs-30minを健常人の残存トロンビン活性の2倍(約0.4)に設定すると、患者の場合における反応時間30分の残存トロンビン活性はTHΔAbs-30minよりも大きくなると予想される。従って、凝固因子として作用する異常トロンビンが患者の被検試料に含まれ、この異常トロンビンによる血栓症に患者がかかり易いと予測することができる。むろん、反応時間30分における残存トロンビン活性がTHΔAbs-30min以下であれば、凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれず、この異常トロンビンによる血栓症にかかり易くないと予測することができる。
また、反応時間10,20,30分のそれぞれに正常上限値THΔAbs-10min,THΔAbs-20min,THΔAbs-30minを設定する等、複数段階の反応時間のそれぞれに正常上限値を設定すると、予測の精度が向上する可能性がある。
図10は、プロトロンビン活性化剤にOx由来プロトロンビンアクチベータを用い、凝固阻止因子にアンチトロンビンとヘパラン硫酸の組合せを用い、活性測定用試薬に発色性合成基質S-2238を用いた場合の残存トロンビン活性測定方法を示している。Ox由来プロトロンビンアクチベータと、アンチトロンビンとヘパラン硫酸の組合せと、発色性合成基質S-2238との組合せは、第三のトロンビン不活化動態測定方法における測定キットを構成する。この測定方法は、被検試料の種類毎に、AT・ヘパラン硫酸溶液を添加してからの各反応時間(初期時間を含む)について行われる。
最終的に、希釈液、PL・Ca溶液、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液、アンチトロンビン、及び、S-2238溶液には、第一の測定方法と同じものを用いた。ヘパラン硫酸には、ブタ小腸粘膜抽出物を成分とするシェリング・プラウ株式会社製造販売の血液凝固阻止剤オルガラン(登録商標)注を用いた。AT・ヘパラン硫酸溶液は、75μg/mlのアンチトロンビン溶液にヘパラン硫酸を10抗第Xa因子活性単位加えて調製した。従って、血漿1ml当たりのアンチトロンビンの量は1.5mg、血漿1ml当たりのヘパラン硫酸の量は200抗第Xa因子活性単位、となる。その他の各種試薬における使用量等の好ましい条件は、上述した通りであった。
回収リコンビナント異常プロトロンビン、及び、回収リコンビナント正常プロトロンビンをそれぞれ被検試料として使用量を健常人プール血漿5μlに相当するトロンビン活性となる量に調整し、図10で示した第三の測定方法に従ってトロンビン不活化動態を測定した。ここで、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液添加後のインキュベート時間を2分とし、凝固阻止因子の反応時間を30秒、1分、2分、3分、4分、5分とし、初期時間を15秒とし、AT・ヘパラン硫酸溶液の代わりに生理的食塩水を加えたときの各時間の基準化用トロンビン活性も測定した。トロンビン不活化動態の測定結果を図11に示す。ここで、横軸はAT・ヘパラン硫酸溶液を添加してからの反応時間、縦軸は残存トロンビン活性を表す吸光度変化率ΔAbs/min、Mut(変異型の意)はリコンビナント異常プロトロンビンを含む上清を用いた場合のトロンビン不活化動態、WT(野生型の意)はリコンビナント正常プロトロンビンを含む上清を用いた場合のトロンビン不活化動態、ATHSはAT・ヘパラン硫酸を加えた第三の測定方法によるトロンビン不活化動態、-はAT・ヘパラン硫酸の代わりに生理的食塩水を加えたときのトロンビン不活化動態、を示している。WTで表される残存トロンビン活性ΔAbsrWt/minは、Mutで表される残存トロンビン活性ΔAbsrMut/minと比較される正常値の一例となる。
図10に示した第三の測定方法は、図4に示した第一の測定方法よりも時間がかかるものの、凝固因子として作用する一方で凝固阻止因子の不活化作用を受け難い異常トロンビンを検出することができた。
例えば、反応時間5分における正常上限値THΔAbs-5minを健常人の残存トロンビン活性の2倍に設定すると、患者の場合における反応時間5分の残存トロンビン活性はTHΔAbs-5minよりも大きくなると予想される。従って、凝固因子として作用する異常トロンビンが患者の被検試料に含まれ、この異常トロンビンによる血栓症に患者がかかり易いと予測することができる。むろん、反応時間5分における残存トロンビン活性がTHΔAbs-5min以下であれば、凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれず、この異常トロンビンによる血栓症にかかり易くないと予測することができる。
また、反応時間1,3,5分のそれぞれに正常上限値THΔAbs-1min,THΔAbs-3min,THΔAbs-5minを設定する等、複数段階の反応時間のそれぞれに正常上限値を設定すると、予測の精度が向上する可能性がある。
回収リコンビナント異常プロトロンビンとプロトロンビン除去血漿の組合せ(図13のMut)、及び、回収リコンビナント正常プロトロンビンとプロトロンビン除去血漿の組合せ(図13のWT)をそれぞれ被検試料として、図10で示した測定方法に従ってトロンビン不活化動態を測定した。ここで、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液添加後のインキュベート時間を30秒とし、凝固阻止因子の反応時間を1分、2分、3分、4分、5分とし、初期時間を15秒とし、AT・ヘパラン硫酸溶液の代わりに生理的食塩水を加えたときの各時間の基準化用トロンビン活性も測定した。トロンビン不活化動態の測定結果を図13に示す。
さらに、図14は、初期時間及び各反応時間の残存トロンビン活性をそれぞれの時間の基準化用トロンビン活性で基準化した結果を示している。
本試験例5の場合も、WTの場合にトロンビンが不活化されている一方、Mutの場合は5分経ってもトロンビンがほとんど不活化されないと考えられる。従って、残存トロンビン活性を正常上限値など正常値と比較することにより、凝固因子として作用する異常トロンビンが被検試料に含まれているか否か、この異常トロンビンによる血栓症にかかり易いか否かを判断することができる。
なお、本発明は、種々の変形例が考えられる。例えば、上述した第一から第三の測定方法において、Ox由来プロトロンビンアクチベータ溶液を添加した後にPL・Ca溶液を添加することが考えられる。
また、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる発明も、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりして本発明を実施することも可能であり、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりして本発明を実施することも可能である。従って、本発明は、上述した実施形態や変形例に限られず、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成等も含まれる。
Claims (6)
- 凝固因子として作用する異常トロンビンを検出するためのトロンビン不活化動態の測定方法であって、
被検者の血漿に由来する成分を少なくとも含む試料にプロトロンビン活性化剤を加えてプロトロンビンをトロンビンに変換し、次に、正常トロンビンを不活化する凝固阻止因子を前記試料に加え、所定の反応時間後における前記試料の残存トロンビン活性を正常値と比較して測定することを特徴とする、測定方法。 - 凝固因子として作用する異常トロンビンを検出するためのトロンビン不活化動態の測定方法であって、
被検者の血漿に由来する成分を少なくとも含む試料にプロトロンビン活性化剤を加えてプロトロンビンをトロンビンに変換し、次に、正常トロンビンを不活化する凝固阻止因子を前記試料に加えたときの残存トロンビン活性を基準化するための前記試料の基準化用トロンビン活性を測定し、
別途、試料に前記プロトロンビン活性化剤を加えてプロトロンビンをトロンビンに変換し、次に、前記凝固阻止因子を前記試料に加え、所定の反応時間後における前記試料の前記基準化用トロンビン活性に対する相対的な残存トロンビン活性を正常値と比較して測定することを特徴とする、測定方法。 - 前記凝固阻止因子に、アンチトロンビン、アンチトロンビンとヘパリンの組合せ、アンチトロンビンとヘパラン硫酸の組合せ、又は、トロンボモジュリンを用いることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の測定方法。
- 前記プロトロンビン活性化剤に、蛇毒に由来するプロトロンビン活性化剤(該プロトロンビン活性化剤を生成する遺伝子を導入した生物(人を除く)から生成されるプロトロンビン活性化剤を含む)を用いることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の測定方法。
- トロンビンに対して感受性を有する合成基質、又は、フィブリノゲンを前記反応時間後に加えて前記試料の残存トロンビン活性を正常値と比較して測定することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の測定方法。
- 凝固因子として作用する異常トロンビンを検出するためのトロンビン不活化動態の測定キットであって、
被検者の血漿に由来する成分を少なくとも含む試料に加えてプロトロンビンをトロンビンに変換するためのプロトロンビン活性化剤と、
正常トロンビンを不活化する凝固阻止因子であって前記プロトロンビン活性化剤を加えた後に前記試料に加えるための凝固阻止因子と、
所定の反応時間後における前記試料の残存トロンビン活性を測定するための活性測定用試薬と、を含む、測定キット。
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