JP5817114B2 - 高強度電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
加えて、高速回転モータでは、高周波磁束により渦電流が発生し、モータ効率が低下すると共に、発熱が生じる。この発熱量が多くなると、ロータ内に埋め込まれた磁石が減磁されることから、高周波域での鉄損が低いことも求められる。
従って、ロータ用素材として、磁気特性に優れ、かつ疲労特性にも優れた高強度の電磁鋼板が要望されている。
このような状況下にあって、高張力を有する電磁鋼板について幾つかの提案がなされている。
また、特許文献2には、上記強化法に加え、仕上焼鈍条件を工夫することにより結晶粒径を0.01〜5.0 mmとして磁気特性を改善する方法が提案されている。
しかしながら、これらの方法を工場生産に適用した場合、熱延後の連続焼鈍工程や、その後の圧延工程などで板破断などのトラブルが生じやすく、歩留り低下やライン停止が余儀なくされるなどの問題があった。
この点、冷間圧延を、板温が数百℃の温間圧延とすれば、板破断は軽減されるものの、温間圧延のための設備対応が必要となるだけでなく、生産上の制約が大きくなるなど、工程管理上の問題も大きい。
しかしながら、これらの手法では、Niなどの高価な元素を多量に添加することや、ヘゲなどの欠陥増加による歩留りの低下で高コストになるという問題があった。また、これらの開示技術で得られた材料の疲労特性については十分な検討がなされていないのが実情である。
しかしながら、この方法では、疲労限の到達レベル自体が低く、昨今の要求レベル、例えば疲労限強度:500 MPa以上を満足するものではなかった。
しかしながら、発明者らが、このように未再結晶組織を残留させた材料について、機械的特性の安定性について評価したところ、ばらつきが大きい傾向にあることが判明した。すなわち、平均的には高い機械的特性を示すものの、ばらつきが大きいため、比較的小さい応力でも短時間で破断する場合があることが判明した。
しかしながら、仕上焼鈍を低温化して未再結晶組織を増加させた場合、鉄損が増加するという問題があった。
すなわち、機械的特性のばらつきが大きくなると、鉄損の増加を余儀なくされる。
従って、機械的特性のばらつき自体を小さくすることは、鉄損の低減にも有効となる。
その結果、結晶粒の成長を阻害する析出物、特に熱延板焼鈍後および仕上焼鈍後の組織が機械的特性のばらつきに大きな影響を及ぼしていることを見出した。さらに、製造性を良好なものにするためには、Caの添加が有効であることを見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:3.5%超 5.0%以下、
Mn:0.10%以下、
Al:0.0010%以下、
P:0.030%以下、
N:0.0040%以下、
S:0.0005%以上0.0030%以下、
Ca:0.0015%以上0.01%以下および
SnおよびSbのうちから選んだ1種または2種合計:0.01%以上 0.1%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成からなるスラブを、スラブ加熱後、熱間圧延し、ついで熱延板焼鈍を施し、酸洗後、1回の冷間圧延によって最終板厚としたのち、仕上焼鈍を施す一連の工程によって高強度電磁鋼板を製造するに際し、
上記熱延板焼鈍工程において、焼鈍温度:850℃以上1000℃以下、焼鈍時間:10秒以上10分以下の条件下で、熱延板焼鈍後の鋼板圧延方向断面における再結晶粒の面積率が100%で、かつ再結晶粒径が80μm以上300μm以下となる焼鈍条件を選定すると共に、
上記冷間圧延工程において、圧下率を79.4%以上とし、
上記仕上焼鈍工程において、焼鈍温度:670℃以上 800℃以下、焼鈍時間:2秒以上1分以内の条件下で、仕上焼鈍後の鋼板圧延方向断面における再結晶粒の面積率が30%以上95%以下および該再結晶粒の平均結晶粒径が15μm 以上で、かつ連結した未再結晶粒群の圧延方向の長さが2.5mm以下となる焼鈍条件を選定する
ことを特徴とする高強度電磁鋼板の製造方法。
さて、本発明者らはまず、特性のばらつきの根本的な原因について検討を加えた。特性がばらつくとは、製品内において板幅方向または長さ方向で特性が変動すること、または同様な製造条件で製造した2つの製品の特性が異なることを意味する。製造条件として、例えば仕上焼鈍温度などは厳密には一定の温度ではなく、板幅方向または長さ方向で変動し、また異なるコイルでは厳密に同じ温度とはならない。また、スラブ内の成分も同様に変動する。
発明者らは、製品の特性のばらつきを小さくする製造方法とは、製造条件が上述のように変動しても製品の特性がばらつかないような方法であると考えた。
析出物は、熱延板焼鈍や仕上焼鈍での結晶粒の成長に影響を与える。すなわち、製品板の結晶組織に影響を与える。従って、未再結晶回復組織を活用した高強度電磁鋼板では、再結晶率を制御することが極めて重要であることから、析出物の状態の変動を小さくすることが製品の特性のばらつきを小さくすることと考えられる。
ここで、発明者らは、析出物がほとんどない状態にすることを選択した。というのは、析出物がほとんどない方が鉄損に有利なだけでなく、製品板の粒成長性が良いのでセミプロセス材への流用が可能であると考えたからである。
具体的な組成は、3.65%Si−0.03%Mn−0.0005%Al−0.02%P−0.0019%S−0.0018%C−0.0019%N−0.04%Snである。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
かような破断防止のためには、Sを低減すればよいが、製造上Sを下げるには限界があり、脱硫によるコストが増加する。一方、Mnを増加してSをMnSとして固定することが考えられるが、析出したMnSは、方向性電磁鋼板でインヒビターとして用いられているように、結晶粒成長の抑制力が強い析出物である。
3.71%Si−0.03%Mn−0.0005%Al−0.02%P−0.0020%S−0.0019%C−0.0018%N−0.04%Sn−0.0032%Caからなる鋼スラブを、1100℃で加熱した後、2.0mm厚まで熱延した熱延板に、表1に示す種々の温度で熱延板焼鈍を施し、ついで、酸洗後、板厚:0.35mmに冷間圧延したのち、表1に示す温度で仕上焼鈍した。なお、この実験の過程で熱延板の外観を調査したが、割れの発生は認められなかった。
その結果を図1に示す。なお、ばらつきは標準偏差σで評価し、図1中には±2σの範囲を示した。
同図に示したとおり、いずれの条件とも引張強さは平均値で650MPa以上と、通常の電磁鋼板と比較して非常に高い強度を示したが、熱延板焼鈍温度によってばらつきの程度は大きく異なっており、熱延板焼鈍温度が低い条件1および熱延板焼鈍温度が高い条件4ではばらつきが大きくなった。
その結果、いずれも再結晶率:60〜80%で、残部は未再結晶組織との混合組織であった。未再結晶部は、正確な判別は困難であるが、元々の熱延板焼鈍後の結晶粒が冷間圧延により展伸した組織がいくつか連なって展伸組織群を形成しているものと思われる。
条件1,4の鋼板は、この未再結晶粒群の圧延方向長さが他の製造条件の鋼板より長い傾向にあることが判明したので、この組織形態の違いが特性ばらつきを大きくする要因ではないかと推察した。
従って、熱延板焼鈍後に再結晶率を100%とし、かつ再結晶粒を微細に留めるように熱延板焼鈍後組織を作り込むことが、特性ばらつきを抑制する重要な要件であると考えた。
また、この熱延板焼鈍後組織の制御に加えて、冷間圧延条件も適正に制御することも、本発明で目標とする冷延板焼鈍時における組織制御に重要であることも併せて見出し、かかる知見に基づいて、磁気特性、機械的特性および疲労特性に優れ、しかもかような特性ばらつきの抑制効果が高い未再結晶回復組織を含む高強度電磁鋼板の開発に成功し、本発明を発展、完成させるに至ったのである。
C:0.0050%以下
Cは、炭化物の析出により強度を高める効果を有するが、磁気特性および製品の機械的特性のばらつきには有害となる。本発明の高強度化は主としてSiの置換型元素の固溶強化と未再結晶回復組織を利用することによって達成するので、Cは0.0050%以下に限定する。
Siは、鋼の脱酸剤として一般的に用いられる他、電気抵抗を高めて鉄損を低減する効果を有するため、電磁鋼板を構成する主要元素である。本発明では、Mn,Al,Niなど他の固溶強化元素を用いないため、Siを固溶強化の主体となる元素として、3.5%を超えて積極的に添加する。しかしながら、Si量が5.0%を超えると冷間圧延中に亀裂を生じるほど製造性が低下するため、その上限を5.0%とした。望ましくは4.5%以下である。
Mnは、MnSとして析出すると磁壁移動の妨げになるだけでなく、結晶粒成長を阻害することで磁気特性を劣化させる有害元素であり、製品の磁気特性のばらつきを小さくするために、0.10%以下に制限する。
Alは、Siと同様、鋼の脱酸剤として一般的に用いられており、電気抵抗を増加して鉄損を低減する効果が大きいため、無方向性電磁鋼板の主要構成元素の一つである。しかしながら、本発明では製品の機械的特性のばらつきを小さくするため窒化物量を極めて少なくする必要があることから、0.0050%以下に制限する。
Pは、比較的少量の添加でも大幅な固溶強化能が得られるため、高強度化に極めて有効であるが、過剰な添加は偏析による脆化で粒界割れや圧延性の低下をもたらすので、P量は0.030%以下に制限する。
Nは、前述したCと同様、磁気特性劣化および製品の機械的特性のばらつきを大きくするので、0.0040%以下に制限する。
本発明では製品の機械的特性のばらつきを小さくするため、硫化物量を極めて少なくする必要があり、0.0030%以下に制限する。無方向性電磁鋼板においてSは、一般的に、MnSなどの硫化物を形成し磁壁移動の妨げになるだけでなく、結晶粒成長を阻害することで磁気特性を劣化する有害元素であるので、極力低減することは磁気特性の向上に寄与する。とはいえ、脱硫によるコスト増を押さえるため、0.0005%以上とした。
Sn,Sbはいずれも、集合組織を改善し磁気特性を高める効果を有するが、その効果を得るには、Sb,Snを単独添加または複合添加するいずれの場合にも0.01%以上添加する必要がある。一方、過剰に添加すると鋼が脆化し、鋼板製造中の板破断やヘゲが増加するため、Sn,Sbは単独添加または複合添加いずれの場合も0.1%以下とする。
本発明では、Mnが通常の無方向性電磁鋼板に比較して低いため、Caは鋼中でSを固定することで液相のFeSの生成を防止し、熱延時の製造性を良好にする。その効果を得るには、0.0015%以上添加する必要がある。しかしながら、あまりに多量の添加はコストが増加するため、上限は0.01%程度とすることが好ましい。
なお、本発明では、その他の元素は製品の機械的特性のばらつきを大きくするため、製造上問題のないレベルで低減することが望ましい。
本発明の高強度電磁鋼板は、再結晶粒と未再結晶粒の混合組織で構成されるが、この組織を適正に制御し、未再結晶粒群を適度に分散させることが重要である。
まず、再結晶粒の面積率を、鋼板圧延方向断面(板幅方向に垂直な断面)組織において30%以上95%以下の範囲に制御する必要がある。再結晶面積率が30%未満では、鉄損が増加し、一方再結晶率が95%を超えると、従来の無方向性電磁鋼板と比較して十分に優位な強度が得られなくなる。より好ましい再結晶率は65〜85%である。
すなわち、この未再結晶粒群は、板厚方向に圧縮、圧延方向と圧延直角方向に展伸した形状であるが、本発明ではこの未再結晶粒群が再結晶粒と混在している。未再結晶粒群と再結晶粒は機械的特性が大幅に異なるため、引張応力により亀裂が発生した場合、この未再結晶粒群と再結晶粒の境界に沿って亀裂が伝播し、破壊に至るものと考えられる。本発明では析出物がほとんど存在しないため、通常の析出物が存在する未再結晶回復組織を活用した高強度電磁鋼板よりも、未再結晶粒群と再結晶粒の境界に沿っての亀裂は発生しにくくなっていると考えられる。しかしながら、本発明においても未再結晶粒群が粗大であると、未再結晶粒群の先端への応力集中が大きくなり、機械的特性のばらつきを大きくする。
この点、連結した未再結晶粒群の圧延方向長さが上記の範囲であれば、必要とする強度レベルに応じて再結晶比率は30〜95%の範囲で適宜調整することができる。すなわち、必要な強度レベルが高ければ再結晶率を低くし、一方磁気特性が重視される場合には、再結晶率を高めるように調整することができる。強度レベルは主として未再結晶組織の比率に依存する。したがって、磁気特性を改善するには再結晶粒の平均結晶粒径を大きくすることが有効であり、平均結晶粒径は15μm以上とすることが好ましい。なお、平均結晶粒径の上限値は100μm 程度とすることが好ましい。平均結晶粒径のより好ましい範囲は20〜50μmである。
本発明の高強度電磁鋼板の製造工程は、一般の無方向性電磁鋼板に適用されている工程および設備を用いて実施することができる。
例えば、転炉あるいは電気炉などで所定の成分組成に溶製された鋼を、脱ガス設備で二次精錬し、連続鋳造または造塊後の分塊圧延により鋼スラブとしたのち、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍および絶縁被膜塗布焼き付けといった工程である。
ここで、所望の鋼組織を得るためには、製造条件を以下に述べるように制御することが重要である。
上記の鋼組織とするには、熱延板焼鈍の温度を850℃以上、1000℃以下とする必要がある。
というのは、焼鈍温度が850℃未満では、熱延板焼鈍後に再結晶率を安定して100%とすることが難しく、一方焼鈍温度が1000℃超になると、熱延板焼鈍後の平均再結晶粒径が300μm を超える場合が生じるようになるからである。また、本発明のように析出物量が少ない鋼では、焼鈍温度が1000℃を超えると析出物が固溶し冷却時に粒界に再析出するため、結晶粒の成長性に悪影響を及ぼすことが考えられる。
また、再結晶率を安定的に100%とする観点からは、焼鈍時間は10秒以上とすることが、一方平均再結晶粒径を300μm以下とする観点からは、焼鈍時間は10分以内とする必要がある。
ここで、熱延板焼鈍後の組織を再結晶率:100%とするのは、加工組織が残存する条件では、加工組織状態のばらつきが、製品板の機械的特性のばらつきを大きくするからである。
これらの焼鈍後組織と圧下率の条件を共に満たすことにより、引き続く仕上焼鈍での未再結晶組織の分散状態を適正に制御することが可能となる。これは、中間組織を微細化し、圧延加工で十分な歪みを導入することにより、仕上焼鈍における再結晶核が分散、増加するためであると推定される。
また、再結晶率を30%以上とする観点からは、焼鈍時間は2秒以上とすることが、一方、再結晶率を95%以下とする観点からは、焼鈍時間は1分以内とする必要がある。
さらに、得られた製品板の磁気特性および機械的特性を調査した。磁気特性は圧延方向(L)および圧延直角方向(C)にエプスタイン試験片を切り出し測定し、L+C特性のW10/400(磁束密度:1.0T、周波数:400Hzで励磁したときの鉄損) で評価した。機械的特性は、圧延方向(L)に5枚ずつ、圧延直角方向(C)に5枚ずつJIS 5号引張試験片を切り出し、引張試験を行って引張強度(TS)の平均値とばらつきを調査した。
得られた結果を表4に示す。
これに対し、仕上焼鈍板の未再結晶粒連結群の長さが2.5mm以下と本発明の範囲内のNo.4,5,7,8ではTSのばらつきが2σで40MPa以内と極めて小さい。
また、鋼種Cを用いたNo.9〜12は、主として仕上焼鈍温度を変化させたものであるが、No.9では仕上焼鈍温度が660℃と低く、仕上焼鈍板の再結晶率が28%、仕上焼鈍板の再結晶粒径が13μmと本発明の範囲外であり、鉄損が高い。また、No.12では仕上焼鈍温度が820℃と高く、仕上焼鈍板の再結晶率が98%と本発明の範囲外であり、TSの平均値が低い。
これに対し、本発明の範囲内であるNo.10,11では、鉄損、TSの平均値、TSのばらつきいずれもが良好である。
その他の電磁鋼板について、磁気特性(L+C特性)と引張強度(TS)の平均値およびそのばらつきについて調査した。なお、評価は実施例1と同様の方法で行った。また、熱延板焼鈍後および仕上焼鈍後の試料についての焼鈍後の再結晶率および再結晶粒の平均粒径の測定、ならびに仕上焼鈍後の未再結晶群の圧延方向長さの測定は、実施例1と同様の方法で行った。
得られた結果を表7に示す。
Claims (1)
- 質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:3.5%超 5.0%以下、
Mn:0.10%以下、
Al:0.0010%以下、
P:0.030%以下、
N:0.0040%以下、
S:0.0005%以上0.0030%以下、
Ca:0.0015%以上0.01%以下および
SnおよびSbのうちから選んだ1種または2種合計:0.01%以上 0.1%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成からなるスラブを、スラブ加熱後、熱間圧延し、ついで熱延板焼鈍を施し、酸洗後、1回の冷間圧延によって最終板厚としたのち、仕上焼鈍を施す一連の工程によって高強度電磁鋼板を製造するに際し、
上記熱延板焼鈍工程において、焼鈍温度:850℃以上1000℃以下、焼鈍時間:10秒以上10分以下の条件下で、熱延板焼鈍後の鋼板圧延方向断面における再結晶粒の面積率が100%で、かつ再結晶粒径が80μm以上300μm以下となる焼鈍条件を選定すると共に、
上記冷間圧延工程において、圧下率を79.4%以上とし、
上記仕上焼鈍工程において、焼鈍温度:670℃以上 800℃以下、焼鈍時間:2秒以上1分以内の条件下で、仕上焼鈍後の鋼板圧延方向断面における再結晶粒の面積率が30%以上95%以下および該再結晶粒の平均結晶粒径が15μm 以上で、かつ連結した未再結晶粒群の圧延方向の長さが2.5mm以下となる焼鈍条件を選定する
ことを特徴とする高強度電磁鋼板の製造方法。
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