1.第1実施形態
本発明の第1実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
1.1.増幅回路用トランスの基本回路
図1は本実施形態の電力増幅器が含む増幅回路用トランス10の基本回路を示している。増幅回路用トランス10は、コアーに巻かれた1次巻線21と2次巻線22とを含む。増幅回路用トランス10は、電磁誘導を利用して1次巻線21の側(1次側)の交流電力を2次巻線22の側(2次側)に伝える。1次巻線21は、増幅回路(図外)からの第1の増幅信号102と、第1の増幅信号102の位相を反転させた第2の増幅信号104と、を受け取る。
1次巻線21は、第1のコイル23と第2のコイル24の2つで構成される。第1のコイル23は、一方の端子で第1の増幅信号102を受け取り、他方の端子を第1の電位に固定する。第2のコイル24は、一方の端子で第2の増幅信号104を受け取り、他方の端子を第2の電位に固定する。本実施形態では、第1の電位は固定電位V0であり、第2の電位は接地電位である。固定電位V0は、接続される増幅回路の増幅素子によって定まる電位であってもよい。
2次巻線22には、電磁誘導により伝わった電力に応じた電流が流れる。そして、流れた電流は出力部40から取り出される。本実施形態では、出力部40から出力された電流が例えば負荷であるスピーカー(図外)に供給されるものとする。
なお、第1の電位は第2の電位よりも高いものとする。また、図1における“+”および“−”の記号は、第1のコイル23、第2のコイル24における直流電流に対する電位勾配を表しているが、詳細については後述する。
1.2.電力増幅器の構成
図2は増幅素子を真空管(三極管)とする本実施形態の電力増幅器1を示す図である。前記の増幅回路用トランス10と増幅回路30とが接続された構成となっている。図2では電力増幅器1の少なくとも一部が示されており、他の要素が含まれていてもよい。ここで、本実施形態の電力増幅器1は、特にオーディオ電力増幅器として用いられるが、用途はオーディオに限らない。なお、図1と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
本実施形態の増幅回路30は、増幅素子として真空管34を用いる。増幅回路30は、真空管34の他に、例えば入力抵抗32を含んで構成されてもよいし、バイアス電圧を与えるためのカソード抵抗(図外)を含んでいてもよい。
入力信号100は交流信号であって、入力抵抗32を介して、真空管34のグリッド電圧を与える。第1のコイル23が受け取る第1の増幅信号102は、真空管34のプレート側から出力される。一方、第2のコイル24が受け取る第2の増幅信号104は、真空管34のカソード側から出力される。
このとき、真空管においてプレート電極とカソード電極との信号位相差は常に180度である。すなわち、第1の増幅信号102と第2の増幅信号104とは、互いに逆の位相をもった信号となる。
1.3.本実施形態の動作
1.3.1.直流成分について
ここで、図2の回路における直流電流について説明する。本実施形態では、B電源から真空管34のプレート供給電圧である第1の電位(V0)が供給される。直流電流は、第1電位であるB電源から第1のコイル23を経由して、真空管34のプレートからカソードへ、そして、接地された第2のコイル24へと流れる。
ここで、図3(A)を用いて、直流電流とその磁気極性について説明する。図3(A)は、第1のコイル23と第2のコイル24の物理的な位置関係を表す。例えば、第1のコイル23と第2のコイル24とをバイファイラー巻きすることにより、このような物理的な位置関係を実現できる。
図3(A)の第1のコイル23と第2のコイル24は図2と同じであり、+と−の符号も図2と同じである。直流電流の流れ込む端子側が+であって、流れ出る側が−となる。
第1のコイル23にはプレート電流Idcpが+側の端子から−側の端子へと流れる。一方、第2のコイル24にはカソード電流Idckが+側の端子から−側の端子へと流れる。真空管34(図2参照)において、プレートに流れ込んだ電流はカソードから流れ出るので、IdcpとIdckとは同じ値である。
同じ大きさの直流電流が正反対の方向に流れるので、第1のコイル23と第2のコイル24に生じる磁界の磁気的極性は正反対(逆位相)になる。そのため、互いに磁界を打ち消しあうため、コアーに直流磁化が発生することはない。
よって、本実施形態電力増幅器が含む増幅回路用トランス10(図2参照)のコアーは、従来シングルアンプに使用される場合に必要であったエアーギャップを設ける必要がない。エアーギャップは、磁気抵抗を増加させて磁束を通りにくくさせていた。それを補うため、従来の増幅回路用トランスはコアーを大きくする必要があった。そして、エアーギャップ部分では大きな磁気歪を発生させて出力信号に歪を発生させていた。本実施形態の増幅回路用トランスのコアーでは、エアーギャップがないため、サイズを小型化することが可能になり、エアーギャップ由来の歪を皆無にした出力信号を得られる。
さらに、例えばB電源(図2のV0)に多少のリップルがあるような場合にも、第1のコイル23と第2のコイル24との磁気的極性が正反対であるため、電源由来の交流成分(リップル、ハム、ノイズなど)をキャンセルすることができる。そのため、これらのノイズ成分の影響を2次側に与えずに済む。
その結果、図2の回路を含むアンプの信号対雑音比(S/N比)を向上させることが可能である。例えば、出力部40に接続されたスピーカーからハム音等が発生することを抑制できる。
ここで、正確に直流磁化を打ち消すためには、第1のコイル23と第2のコイル24のインダクタンスに差が生じないようにする必要がある。そこで、1次巻線を構成する第1のコイル23と第2のコイル24とを、バイファイラー巻きで生成することが好ましい。バイファイラー巻きを行うことで、両コイルのインダクタンスを等しくし、両コイルが磁気的に密結合することで、1次巻線内で正確に直流磁化を打ち消すことを可能にする。
しかし、 バイファイラー巻きは製造段階や出荷後においてレイヤーショート(層間短絡)が生じ得ることが問題として指摘されていた。特にオーディオ用の真空管アンプに適用した場合に、製品寿命があまり長くないという問題があった。
従来のトランスの線材は、絶縁被服が薄く機械的に傷が付きやすく、また耐圧が低い特性を有していた。本発明では、実験において増幅回路用トランスに用いる線材として、古河電工製のTEX−E製品、および類似品を使用して良好な結果を得た。この製品は、電源機器、及びデジタル機器用に開発された線材であり、UL安全規格にも合致し十分に高い線間耐圧を有した安全性と信頼性の高い線材である。
当該線材の絶縁被覆は、ポリエステルフィルムの二重層絶縁に加えて、三層目はポリイミド被覆でコーティングされている。そのため、絶縁耐力が高く、且つ機械的な強度は強いために従来のようにレイヤーショートが発生することは無い。更に、この線材を使用してバイファイラー巻き、または多層重ね巻きに使用した場合には、これらの絶縁材が線間で誘電体損の少ない優れたコンデンサーを形成する。そのため、オーディオ用途では高域再生限界が伸び、歪などの特性の改善に寄与する(特性改善の実験報告は後述する)。
1.3.2.交流成分について
ここで、図2および図3(B)を参照して、交流成分について説明する。本実施形態では、1つの入力信号100に基づいて、位相が互いに逆である第1の増幅信号102、第2の増幅信号104が生成される。そして、第1の増幅信号102、第2の増幅信号104はそれぞれ第1のコイル23、第2のコイル24に供給される。
図2の真空管34においてカソード側の出力信号である第2の増幅信号104の交流成分は、グリッドへの入力信号100と同相の信号である。一方、プレート側には第1の増幅信号102が流れ込むが、入力信号100に対して180度の位相差がある。
よって、図3(B)に示すように、第2の増幅信号104の交流成分である出力電流Iackは、図3(A)のカソード電流Idckの流れる方向を+とすると、+Iackで表すことができる。一方、第1の増幅信号102の交流成分である出力電流Iacpは、図3(A)のプレート電流Idcpの流れる方向を+とすると、−Iacpで表すことができる。
つまり、1次巻線内において、第1のコイル23と第2のコイル24とで、交流磁気的に同相合成が行われる。図3(B)では、第1のコイル23と第2のコイル24の交流信号に対する磁気極性の方向を「●」によって示している。このとき、同相合成によって、交流成分について2倍の合成磁束が発生する。このことは、同一プレート電流でありながら1つの真空管34から2倍の出力を取り出せることを意味する。
例えば、従来のA1シングルアンプの出力効率(陽極効率、入力電力に対する出力電力の比)は25%程度といわれている。本発明では、実験によると、プレートへの入力電力(Pin)23Wに対し出力(Po)9.5Wを得ており、約40〜45%の高い電力効率を得ることが可能である。また、同相合成されることと、カソード出力とカソード側巻き線(24)により大きな電流帰還がかかり、特性改善効果が期待でき、電力増幅回路全体の出力インピーダンスを下げる働きにより高いダンピングファクター(DF)を得ることが可能になる、同様に歪率を改善する効果もある(特性改善の総合性能の詳細は後述)。
1.4.真空管の種類について
ここで、図2では真空管34として三極管を用いているが、本実施形態の電力増幅器に用いる真空管34の種類は三極管に限定されるものではない。例えば、図2の増幅回路30に代えて、図4の増幅回路30Aを適用してもよい。なお、図4において、図1〜図2と同じ要素については同じ番号を付しており説明を省略する。
増幅回路30Aは、増幅素子34Aとして五極管を用いている。五極管を用いる場合、第2グリッド(スクリーングリッド)にプラスの電位(図4ではV1)を与える必要があるため、図2の回路の場合とは異なる電源が必要になる。また、増幅素子にはビーム4極管を用いても良い。
しかし、真空管のカソード側に生じる電流帰還量は使用する真空管の電圧増幅度(μ)に依存する。電圧増幅度(μ)の値が大きいほど電流帰還量は大きくなる。電流帰還量が大きくなるとそれに反比例して出力インピーダンスが下がる。さらに、歪の改善、および周波数特性の改善などの改善効果が生じる。そして、その改善度は概ね1/μ(電圧増幅度の逆数)で表される。
真空管の電圧増幅度(μ)は三極管よりも多極管(例えば、五極管、ビーム四極管など)の方が高いために、多極管を利用することで前記のダンピングファクター、歪等の改善をより大きく行うことが可能になる。なお、後述の真空管を用いた回路図の例においても、三極管に代えて多極管を用いることが可能である。多極管でも内部抵抗(rp)の大きな真空管を使用するとより大きなダンピングファクターが得られる。一方、従来の真空管アンプでは内部抵抗の低い三極管を使用する事でダンピングファクターを大きくすることが出来るので三極管が好んで使用されて来た(その値は3〜8程度である)。よって、本提案の技術と従来のそれとは真逆の関係になる。
1.5.その他の特長について
1.5.1.ダンピングファクターについて
本実施形態の電力増幅器は、電圧増幅度(ゲイン)が1(ユニティゲイン)である。これは、真空管の負荷のインダクタンス(インピーダンス)がプレート側とカソード側とで同じためである。例えば、プレート(P)側とカソード(K)側にインピーダンスを持たせた回路では、それぞれの側のインピーダンスZ(P)、Z(K)を用いて、電圧増幅度Gを簡便的に下記の式(1)で計算できる。
例えば、PK分割位相反転回路(図9(A)参照)においては、P側とK側とに同じ抵抗値(Z(P)=Z(K))を挿入して電圧増幅度Gを1とし、振幅を変えることなく位相を反転させる。
本実施形態の電力増幅器は、電圧増幅度(G)が1である為に従来行われてきた電圧変化で出力を取り出していた方法とは異なり、電力増幅を行うには電流増幅器として動作させる必要がある。電流増幅器として動作させるためには、ある一定の電磁エネルギーをトランスに注入する必要がある。よって、大きな電流を真空管から予めトランスの1次巻線に流す必要がある。しかし、真空管は電流増幅素子ではないため、本実施形態の電力増幅器では出力トランス(OPT)の一次巻線において同相磁気合成を行うことで電圧出力に代わって電流出力を取り出している。
ここで、本実施形態の電力増幅器は前記の増幅回路用トランスを含む。そして、トランスの1次巻線は、バイファイラー巻きで生成された第1のコイルと第2のコイルを含んでいるとする。このとき、第1のコイルと第2のコイルとは、電磁的・静電的に密に結合される。そして、カソード(K)側からの出力信号(第2の増幅信号)はK側の巻線(第2のコイル)に対して多量の電流帰還をかけることが出来るので、歪を低減し、出力インピーダンスを大幅に低下させることができる。さらに、両コイルが電磁的・静電的結合が密であるために第1のコイル内の信号電流(プレート電流ip)もK側電流(カソード電流ik)と等価になり、総合的に出力インピーダンスの低減作用と歪の改善が行われる。
なお、前記のように、電流帰還量は使用している真空管の電圧増幅度(μ)に依存し、その値が大きいほど電流帰還量は大きくなる。電流帰還は主として出力インピーダンスを下げ、さらに、歪および周波数特性の改善が行われる。その改善度は増幅度の逆数(1/μ)で表される。そのため、本実施形態では、従来は三極管が音質面で有利とされていたが、それに代えて電圧増幅度(μ)の高い多極管を用いて、歪や周波数特性をさらに改善させることが可能になる。
ここで、本実施形態の電力増幅器は、大きな電流帰還量によって出力インピーダンス(ZO)が大幅に低くなりダンピングファクター(DF)を向上させることができる。例えばオーディオ用途においては、ダンピングファクターが大きい程、スピーカーの駆動と制動性に優れるために原音に近い再生が可能となり音質と聴感が向上する。
ダンピングファクターDFは、負荷インピーダンス(Zl)を電力増幅器の出力インピーダンス(ZO)で割って得られる。負荷インピーダンス(Zl)は、例えば、使用するスピーカーのインピーダンス(一般に8Ω)である。ダンピングファクターDFは、下記の式(2)で計算できる。
本実施形態の電力増幅器は、その動作点からA1アンプである。但し、更に大電流を流せる位置へ動作点をシフトしても良い。そして真空管の陽極特性図で多極管のプレート電流が急激に変化しなくなる位置、一般にニー(Knee、膝)と呼ばれる位置に動作点を設定しても良い。そして、入力信号の両半波毎に比例してプレート電流は増減し、動作点の上下で均等な電流変化が現れて来る。つまり、常に入力信号と出力信号は比例的に電流変化として100%の状態で現れてくることになる。動作点をニーに置く方法は基本回路、及び2つのプッシュプル回路共に同じである。このことは、プッシュプル回路においては従来のAB1−プッシュプルアンプではカットオフ寸前までの深いバイアスを与えて動作させて入力信号の半波ごとにしか真空管が導通させていない動作方法と大きな違いがある。
動作点をニーに置くことは、P側とK側が常に信号電流を流し続けることでトランスの1次巻線内で磁気的に高効率な結合を可能にしている。更に、真空管が常時オン状態であるが故に、出力回路内で電流帰還がほぼ完全な形で掛かり、大きな電流帰還による出力インピーダンスの顕著な低下が生じる。そのため、ダンピングファクターを向上させることができる。ある実験においては、本実施形態の電力増幅器では50以上のダンピングファクターを容易に得ることができた。
ここで、従来のA1アンプのトランスは直流磁化防止策としてエアーギャップが必須であるが、その悪影響を受けて出力信号は歪を多く含んでいた。一方、本発明の電力増幅器のトランスは、カットコアーやEIコアーなどのコアー材の他にトロイダルコアーを使用しエアーギャップを不要としたエアーギャップ由来の磁気歪の発生源を持たないトランスを使用しても良い。トロイダルコアーは磁気回路での歪は無視できるほど小さいものである。よって、歪の少ない出力信号が得られる。
1.5.2.インピーダンスマッチングについて
本実施形態の電力増幅器は真空管アンプであり、そのトランスの役割として増幅された電力信号を効率的に2次側へ伝達しなければならない。そのため、真空管の内部抵抗に見合ったトランスの1次インピーダンス(至適負荷)の接続が求められる。至適条件をはずすと出力の低下や歪の増加などの不都合さが増えることになる。なお、インピーダンスマッチングは1次・2次巻線比で調整される。
そして、電力増幅器のトランスではエネルギーの授受が行われるが、情報を正確に伝達するためには十分な量のエネルギーを注入することが必要である。このエネルギーは、巻かれているインダクタンス(L)に流す電流(I)の2乗に比例すると言われている。具体的には、エネルギーEは、式(3)のように表すことができる。
そのため、本実施形態の電力増幅器では小さいインダクタンスに大きなアイドリング電流を流すことで、情報量を多く含み、立ち上がり特性も優れている電力信号伝達を可能にしている。具体的には、一般的なA1シングルアンプが負荷インダクタンス10H程度に50mA〜80mAほどを流しているのに対して、例えば本実施形態では300mHといった小さい値の1次インダクタンスを用いる。アイドリング電流は、例えば400mAといった大きな値にする。インダクタンスが小さくても良い事はコイルの直流抵抗(Rdc)を小さく出来るので発熱を減らし損失を小さく出来ることと、併せて出力インピーダンスが低減する。故に、高いダンピングファクター(DF)を得ることが可能となる。
大きな電流を流すことは入力信号変化に対し大きな出力電流変化が得られ、磁性体であるトランスのコアーの正規磁気曲線(B−H曲線)における直線性の良い領域での使用を意味する。このため、出力信号における歪を低減することが可能になる。
例えば、オーディオ用途において、従来のA1アンプ等で音量を絞って小出力で聴く場合には、B−H曲線の原点付近の湾曲部分を使用することになる。そのため、歪が顕著に現れ、音質が劣化するという問題が生じていた。本実施形態の電力増幅器では、このような従来のオーディオA1アンプにおける問題も解決することができる。
なお、本実施形態の電力増幅器ではアイドリング時に最も多くプレート電流が流れる。そして、入力信号が入るに従い電流は減少する方向に働き、従来のA1シングルアンプとはプレート電流の挙動が正反対である。このことは初期状態の電源電力容量を確保すればよいことになり、出力増加に従い出力管のプレート電流が減少するので電源設計・製作が楽になるとのメリットがある。
1.5.3.ダンピングファクターの理論式について
いくつかの実験によると、本実施形態の電力増幅器を用いることで、容易に50以上のダンピングファクター(DF)を実現できる。DFは、式(2)で求められるため、出力インピーダンスZOが低いほど高くなる。
ここで、真空管の内部抵抗rpは式(4)で表される。
ここで、rpは真空管の内部抵抗、epはアクティブ動作状態のプレート電圧、ipはアクティブ動作状態のプレート電流である。なお、rpは固定抵抗などの集中定数ではなく、アクティブ状態の抵抗値である。
ここで、本実施形態の電力増幅器は、電流駆動型の電力増幅器であり電圧増幅度(ゲイン)は常に1である。すると、式(4)でepは電圧の関数であるために出力には変化分としては現れてこない。代わってrp情報を真空管外へ取り出せるのはプレート電流ip(=カソード電流ik)に依存していることが理解できる。
そして、rpの情報はip(ik)に乗って、OPT(出力トランス)の一次インダクタンスへ伝えられるが、後述する式(6)および式(7)により、OPT内の両インダクタンスの磁気極性の打ち消し作用が働いているので、見掛け上でrpは二次側(負荷側)からはゼロとなる。
ここで、OPTの一次インピーダンスZpは下記の式(5)で表現される。
ここで、Rdcpは一次インダクタンス(第1のコイル)の直流抵抗、及び第二コイルの直流電流である。なお、両者はバイファイラーで巻いてあるために正確に同じ値を示すのでRdcpとRdckは同じ値である。ωLpはある周波数における角速度(ω=2πf)と一次インダクタンス(Lp)、(Lk)で決まるリアクタンスである。
アクティブなプレート電流ipとカソード電流ikは交流信号をOPTの一次インダクタンスへ伝えるエネルギー源であるが両電流の挙動も一次巻線の磁気極性の打ち消し作用が働くので、先ず始めに、インダクタンス両端には電流変化分の逆極性の電圧が生じるので下記式(6)、式(7)で示すことが出来る。
ここで、eはインダクタンス両端に発生する交流起電力、Lは巻線のインダクタンス、iは信号電流(交流電流)、tは信号電流の時間変化を表す。ipとikが第1のコイルと第2のコイルとに流れていることから両巻線両端に現れる電圧は次式で表される。
ここで、eoはインダクタンス両端に発生する交流起電力、Lpは第1のコイルのインダクタンス、Lkは第2のコイルのインダクタンス、−ipはプレート電流、ikはカソード電流、tは信号電流の時間変化を表す。
式(7)において、第1項と第2項の値は同じであるが、第1項の電流値に負号が付されているので両者は差し引きゼロとなることが理解できる、つまり一次インピーダンスのうちリアクタンス成分は二次側から見えないことになる。
同様に、rp情報も(−ip)と(ik)により第1のコイル、第2のコイルに運ばれるために、式(6)に電流を当て嵌めるならば、同様に打ち消しあって二次側への出力電圧中にはrp情報は現れないのである。
式(7)に含まれるインダクタンス成分は式(6)のインダクタンスに発生する逆起電力で打消しが生じる。一方、式(5)のZp、Zk内に含まれる周波数関数に無関係なインダクタンス内に存在する直流抵抗Rdcはそのまま残ることになる。
よって、二次側から見える一次インピーダンスは純抵抗であるコイル内の直流抵抗値だけということになる(配線線材の僅かの抵抗値は無視する)。つまり、Rdcの値だけがOPTを通して二次側に一次インピーダンスとして伝えられることになる。そして、この値が出力インピーダンスとなりDF値に関係してくる。
本実施形態の電力増幅器の出力インピーダンスZO(ここでは、ZO1とする)は式(8)のようになる。
ここで、Rdcp、RdckはそれぞれOPTのプレート側、カソード側の一次巻線の直流抵抗値で両者は同一値であるのでRdcとして表わす、Rmはカソード巻線に直列挿入してある電流モニター用抵抗(一般に0.1Ω)である。μは真空管の電圧増幅度、NはOPTの一次・二次巻線の巻線比、βは電流帰還係数である。本実施形態の電力増幅器ではLpとLkの負荷が真空管に直列に繋がっているが、両者はバイファイラー巻であるためにインダクタンスは正確に同じ値である。よって、電流帰還はカソード側のみに掛かるので、β=0.5となる。
また、本実施形態の電力増幅器では、RdcpとRdckとは、バイファイラー巻きすることで同じ抵抗値(Rdc)であるとする。すると式(8)は下記の式(9)のように書き直せる(ここでは、ZO0とする)。
なお、多極管(例えば5極管やビーム4極管)は一般に電圧増幅度μ(特に、多極管のμをμpと表す)が開示されていないことが多い。代わって開示されているμg1g2(g1−g2間で形成される三極管の電圧増幅度でμtとも表わす)から実測したプレート電流Ipと第2グリッドの電流Ig2から下記の式(10)で近似的に算出することが出来る。
次に、応用回路であるプッシュプル回路を含む電力増幅器のDFの計算式を示す。応用回路は真空管が2本、1次巻線側のコイルが4本、電流モニター抵抗(Rm)が2個組み込まれている。なお、応用回路の動作概説は後述する。
下記の式(11)は、応用回路(例えば図5参照)の出力インピーダンスZOの計算式である。なお、多極管を使用した場合には、μに代えてμpが用いられてもよい。
ここで、式(8)〜式(9)に含まれる変数に加えて、真空管数Tが追加される。後述する応用回路では、電流帰還係数βは0.5であり、真空管数Tは2であるから、下記の式(12)のように分母を単純化できる。
1.5.4.水平偏向出力管の使用について
本実施形態の電力増幅器が含む真空管の種類は特に限定されるものではないが、水平偏向出力管を用いてもよい。
前記のように、本実施形態の電力増幅器では電流駆動で電力増幅を行う。そのため、真空管は例えば大きな電流を流すことが可能な水平偏向出力管(Sweep管)、又は送信管であってもよい。水平偏向出力管は、例えば、TVのブラウン管などで小電流から大電流までスィープする用途に用いられ、過負荷に対する耐性の強さを備えている。
そのため、本実施形態の電力増幅器で例えば水平偏向出力管、又は送信管を用いた場合には、長期信頼性を確保することが可能になる。
1.5.5.実験結果
真空管EL509としてビーム4極管(Philips社製)を用いて実験検証を行った。当該真空管は、カラーテレビの水平偏向出力管である。電圧増幅度(μp)は製造元から開示されていないので式(10)のμg1g2をプレート損失30Wクラスの管球の平均値3.5として計算した。
式(10)で実測値のプレート電流Ip=360[mA]、Ig2=18[mA]から、μp=70.0を得られた。また、プレート電圧84.6[V]であるから、内部抵抗rpは235[Ω](84.6[V]/360[mA])が得られた。
さらに、1次インダクタンスの実測直流抵抗値はRdcp=7.1[Ω]であった。巻線比Nは一次インピーダンス(この場合は純抵抗7.1Ω)を二次インピーダンス(この場合は負荷のスピーカーのインピーダンスで8Ω)で割った値を平方根で開くことで求めることが出来る。トランスの製作時に正確な巻き数を知っておけば、その値を使用できる。ここでは巻線比Nは5.4を得たので式(9)から出力インピーダンスZO=0.0801[Ω]を得た。よって、理論値のDFは、式(2)によりZl/ZO=8/0.0801=99.9となる。
この実験においては、実測値として108といった値が得られており、上記の式(1)〜式(10)から計算した値に近似していることから理論式が正しいと判断できる。
なお、理論式に当て嵌めてDFを算出する場合は、今日のデジタル測定器などを使用することで電圧、電流、及び抵抗値などはある一定の精度で測定が可能である。よって、DFを正確に求めることが本方式では容易に可能である。加えて、トランスの巻線比が不明な倍は交流信号電圧(例えば1kHzの正弦波)を一次巻線に与えて二次巻線両端の電圧を測ることで電圧比が巻線比を相当するので容易にNを得ることが可能である。
なお、ダンピングファクターの実測には抵抗挿入法(On−Off法)を採用し8Ωのダミーロードに1kHzで1Wの出力信号を与えた。なお、ここで得られたDF値はアンプ全体のオーバーオールの負帰還を掛けない、いわゆる、オープンループ回路での値である。一般的なA1シングルアンプで負帰還を掛けたアンプのダンピングファクター値の平均値は2.5〜8.0程度であることから、本実施形態で得られる高いダンピングファクター値は評価に値する。
この実験で使用した電力増幅素子(真空管)はたった1本であるが、このような高いDFを持った電力増幅器を容易に構築できた。加えて、OPTの巻線比(N)、一次巻線の直流抵抗(Rdc)、及び真空管の電流増幅率(μ)などの各数値(パラメータ)を事前に知ることは容易であり、従来のアンプでは難しいとされて来た設計段階から任意のDF値を持ったアンプの設計・製作が可能となった。
2.第2実施形態
本発明の第2実施形態について図5〜図9(B)を参照して説明する。第2実施形態の電力増幅器は、第1実施形態における増幅回路用トランスの基本回路を2つ組み合わせるプッシュプル回路を含む。第2実施形態では、第1実施形態における特性に加えてプッシュプル動作による歪打消し作用がより強く作用し、且つ一次インダクタンス間でミューチュアル(総合コンダクタンス、M)が強く働き周波数特性を著しく良くする等といった改善効果がある。
2.1.第1応用回路
図5は、前記の増幅回路用トランスに2組の負荷巻線を備えたプッシュプル回路を含む電力増幅器の回路の一例(第1応用回路)を表す図である。第1応用回路は、2つの真空管34−1、34−2に互いに逆相の信号(信号100A、100B)を入力してプッシュプル動作をさせる。
第1応用回路は、入力信号100に基づいて逆相の信号を生成するため、位相反転回路50を含む。位相反転回路50の具体的構成については後述する。
第1応用回路を含む電力増幅器1Aは、2次巻線22を共用する2つの1次巻線にバイファイラー巻線を備えた増幅回路用トランス10−1、10−2と、2つの増幅回路30−1、30−2を組み合わせて構成される。増幅回路用トランス10−1、10−2は図1の増幅回路用トランス10に対応し、増幅回路30−1、30−2も図2の増幅回路30に対応する。なお、増幅回路30−1、30−2は入力抵抗を含んでいてもよい。2次側については、図1の増幅回路用トランス10と同一の構成であり説明を省略する。2組のバイファイラーの代わりに1組のクワッドファイラー巻きを備えても良い。
増幅回路用トランス10−1は、増幅回路30−1の真空管34−1のプレート側からの出力を第1の増幅信号102−1とし、増幅回路30−2の真空管34−2のカソード側からの出力を第2の増幅信号104−2とする。増幅回路用トランス10−2は、増幅回路30−2の真空管34−2のプレート側からの出力を第1の増幅信号102−2とし、増幅回路30−1の真空管のカソード側からの出力を第2の増幅信号104−1とする。真空管34−2に入力される信号100Bの位相は、真空管34−1に入力される信号100Aの逆相になっている。
このとき、図5の上側の第1のコイル23−1、第2のコイル24−1は、第1実施形態の説明の通り、直流電流について磁気的極性が逆であり、直流磁気を起こさない様になっている。しかし、電力増幅器1Aでは、真空管34−2のカソード側からの出力である第2の増幅信号104−2は逆極性で印加される、つまり、磁気的に結合していることになる。図5の下側の第1のコイル23−2、第2のコイル24−2についても同様である。
そして、カソード側のコイルである第2のコイル24−1、第2のコイル24−2については、これらの磁気的極性は逆であって互いに位相が逆の信号を受け取るから、交流成分として同相の信号が流れることになる。つまり、強い磁気結合(総合コンダクタンス)が生じ、両者のインダクタンスは接続されたことと同じになる。
このように4つある巻線の全ての間で強く磁気結合が生じ、結果として4つが全て直列接続されたことと等価になる。例えば、本実施形態では1つのコイルが350mHを持っているので、インダクタンスは巻数の二乗に比例することが知られているので、4つが直列接続された総合インダクタンスは4の二乗で16倍となり、その値は5.6Hとなる。この値は、一般的なAB1プッシュプルアンプの出力トランスの一次インダクタンス100Hと比べて約1/20と小さい。
そのため、1つのコイルのインダクタンスが小さくても、電力増幅器1Aでは従来のAB1プッシュプルアンプ(AB1−PP)のプレート電流約20mA程度と比較してはるかに大きな300mA〜500mAと大きな電流を流している。平均値400mAとした場合に前出の式(3)より0.896のエネルギー量を得るが、従来のAB1−PPのプレート電流20mAを100Hに流した場合のエネルギーは0.04となり両者の相対比は22.4倍と大きな開きができ、大きなエネルギー比となる。この大きなエネルギー量0.896がミューチュアル磁気結合による直列接続された5.6Hのトランスの1次巻線に注入されていることになる。よって、十分なエネルギーを磁気回路に注入でき、超低域まで優れた周波数特性を示し、且つ可聴周波数以上の周波数帯域でも忠実な信号伝達を可能にしている。インダクタンスを小さくしても低域特性を確保できることは、インダクタンス中の直流抵抗(Rdc)を小さくできることに繋がるメリットがあり、結果として大きなDFを得られる作用につながる。
図6(A)〜図6(D)は、第1応用回路の故障耐性を示す図である。電力増幅器1Aは、2つの真空管を用いるが、そのうち一方が故障しても電力増幅器としての機能を継続できる。なお、図6のコイル23−1、23−2、24−1、24−2およびその端子を識別する+/−の符号は、図5と同じであって、同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
図6(A)は直流電流Idcp1、Idck1、Idcp2、Idck2とコイル23−1、23−2、24−1、24−2の磁気極性について説明する図である。図6(A)はコイル23−1、23−2、24−1、24−2の物理的な位置関係(方向)を表している。ここで、直流電流Idcp1、Idck1はそれぞれ真空管34−1のプレート電流、カソード電流である。また、直流電流Idcp2、Idck2はそれぞれ真空管34−2のプレート電流、カソード電流である。なお、その他については図3(A)と同じである。
図6(B)は、電力増幅器1Aの正常時におけるコイル23−1、23−2、24−1、24−2の交流信号に対する磁気極性の方向を示す図である。なお、表記している記号等については図3(B)と同じであり、説明を省略する。通常動作時には、増幅回路用トランス10−1、10−2のそれぞれで交流信号の同相合成が行われる。
図6(C)は、真空管34−2が故障を起こし、動作しなくなった状態を示す。このとき、増幅回路用トランス10−2の第1のコイル23−2、増幅回路用トランス10−1の第2のコイル24−1には、直流電流が流れなくなる。
図6(D)は、その後の電力増幅器1Aの動作を表す。コイル23−2、コイル24−1は磁気エネルギーを自分から発することが出来なくなり、磁気的に密結合している隣りあったコイル24−2、コイル23−1からそれぞれ磁気エネルギーを貰うことになる。
そして、その瞬間にエネルギーを与えたコイルの磁気極性とは逆の磁気極性が発生する。これは、インダクタンスの基本特性であり、入射エネルギーに対し逆起電力を発するからである。図6(D)では、逆起電力が生じてコイル23−2、コイル24−1の磁気極性が復活する様子を「○」によって示している。このとき、擬似的に正常動作が行われるので、音楽ソースなどの出力が途切れることはない。
よって、電力増幅器1Aにおいて真空管34−2が故障した場合であっても、電力や音質の若干の低下はあるものの電力増幅器としての機能を継続できる。これは、例えば野外のコンサートなどで使用されて、真空管の故障があっても演奏を継続したい場合などに有効である。
2.2.第2応用回路
図7は、前記の増幅回路用トランスを2つ組み合わせたプッシュプル回路を含む電力増幅器の回路の別の例(第2応用回路)を表す図である。第2応用回路は、第1応用回路とは異なり、2つの真空管34−1、34−2に同相の信号(入力信号100)を入力し、出力側のインダクタンスの磁気極性を反転させてプッシュプル動作をさせている。なお、図5と同じ要素には同じ符号を付しており、第1応用回路と重複する説明は省略する。
電力増幅器1Bでは、同相同士の磁気極性のために、増幅回路用トランス10−1と増幅回路用トランス10−2との間では磁気結合を生じない。一方、それぞれの増幅回路用トランスの1次巻線内では、第1のコイルと第2のコイルとが磁気結合している。
電力増幅器1Bは、第1のコイルと第2のコイルとの間、及び増幅回路用トランスの1次巻線間の静電容量による結合が顕著に作用するため、周波数特性は相対的に高い方に移る。そのため、高域で優れた周波数特性を示す。
図8(A)〜図8(D)は、第2応用回路の故障耐性を示す図である。電力増幅器1Bは、2つの真空管を用いるが、そのうち一方が故障しても電力増幅器としての機能を継続できる。なお、図8のコイル23−1、23−2、24−1、24−2およびその端子を識別する+/−の符号は、図7と同じである。また、図6(A)〜図6(D)と同じ要素には同じ記号を付しており説明を省略する。
図8(A)は第2応用回路の直流電流とコイルの磁気極性について説明する図であり、物理的な位置関係(方向)を表している。増幅回路用トランス10−1、10−2のそれぞれで直流磁化は生じない。
図8(B)は、電力増幅器1Bの正常時におけるコイル23−1、23−2、24−1、24−2の交流信号に対する磁気極性の方向を示す図である。
図8(C)は、真空管34−2が故障を起こし、動作しなくなった状態を示す。このとき、増幅回路用トランス10−2の第1のコイル23−2、増幅回路用トランス10−1の第2のコイル24−1には、直流電流が流れなくなる。
図8(D)は、その後の電力増幅器1Bの動作を表す。コイル23−2、コイル24−1は磁気エネルギーを自分から発することが出来なくなり、磁気的に密結合している隣りあったコイル24−2、コイル23−1からそれぞれ磁気エネルギーを貰うことになる。
そして、その瞬間にエネルギーを与えたコイルの磁気極性とは逆の磁気極性が発生する。これは、第1応用回路と同じであり、インダクタンスの基本特性であり、入射エネルギーに対し逆起電力を発するからである。図8(D)では、逆起電力が生じてコイル23−2、コイル24−1の磁気極性が復活する様子を「○」によって示している。このとき、擬似的に正常動作が行われるので、音楽ソースなどの出力が途切れることはない。
2.3.実測と考察
本実施形態の電力増幅器(位相反転入力型プッシュプル電力増幅器)を使用してダンピングファクターを実測した。実測値は理論計算式から得られた値に対し大きく乖離している事から、理論計算式で求めたDF値以外にもDFを与える何らかのエネルギーが作用していると考えるに至り、以下の通り考察を加えた。
ダンピングファクターの算出方法については前記の通り式(9)、又は式(12)で求めた出力インピーダンスを基にして求めることが出来る。しかしながら、ダンピングファクターはここで述べた一次インダクタンス内に存在する直流抵抗に依存して与えられる物だけではないと考えられる。本実施形態で、新たに三回目に試作したトロイダルコアー出力トランス(以下、OPT−3)による実験結果から新たなダンピングファクターの存在を知ったのでその仮説をここで述べる。
前述の直流抵抗ベースのダンピングファクター(DF)は受動的なDFであるといえる。使用したOPT−3のコアー容量は約10W相当で、それを用いて小出力トランスを製作した。使用した回路は第1応用回路を適用し、OPT−3を実装して得た実験結果はダンピングファクター285であった。直流抵抗ベースのダンピングファクター(以下、受動的ダンピングファクター、またはパッシブダンピングファクター(DFps)と呼ぶ)は理論計算式から152を得た。これは、実測値の285とは大きく乖離し、両者間には133の差がある。よって、ここに、何か他のエネルギーが介在して133もの大きな値の差を生じさせていると解釈できる。
OPT−3の一次巻線と二次巻線の巻線比は5.17であり、使用した電力増幅素子は真空管EL509である。巻線比5.17はOPT−3の一次・二次間のインピーダンスマッチングを取るために必要な巻線比である。OPT−3の一次インダクタンスは350mHでクワッドファイラー巻きした。一次コイルの直流抵抗Rdcは実測値5.3Ωであった。EL509にはプレート電圧を95V印加し、プレート電流(Ip)450mAを流した。第二グリッド電流(Ig2)は20mAであった。そして、電流モニター抵抗は0.1Ωを使用した。この条件で実測したオーディオ無歪最大出力は1kHz・8Ωで6.5Wであった。
実測したダンピングファクター285と理論計算式で得られた値の152を比較してみる。計算式は式(12)を用い、μg1g2は3.5を使用して、上記パラメータから出力インピーダンスを算出すると0.0526Ωを得た。スピーカーの負荷インピーダンス(8Ω)を出力インピーダンスで割るとダンピングファクター152を得た。
この値152は実測値の285と比較して有意に小さいと言える。この差の133のDF値を生成するには別のエネルギーが必要であることから、次のような考え方をした。まず、真空管に入力されている電力(Pin)は95V×0.45A×2本で85.5Wである。プレート効率を45%とすると85.5W×0.45=38.5Wとなり。この理論出力値38.5WがOPT−3から出力される筈である。しかしながら、OPT−3のコアー容量はそれより小さく10Wであり、前述の通り実測出力は6.5Wであった。故に、理論出力値38.5Wから実測出力6.5Wを差し引いた32.0Wがオーディオ信号出力としてスピーカー端子から出力されなかったことを意味している。そして、この電力はOPT−3のコアーと出力回路内部に残留していると見られるが、OPT−3など出力回路が発熱していないことから、何らかの経路を通してエネルギー消費していると考えられる。この残留エネルギー32Wは、オーディオ信号としてボイスコイル内に流れるのではなく、スピーカーを急峻に駆動したり、制動を掛けたりする新たな運動エネルギーとして使われていると考えられる。そして、この運動エネルギーにより生成されるダンピングファクターを能動的ダンピングファクターと仮称(アクティブ・ダンピングファクター(DFac))する。
実測ダンピングファクターは285で、能動的ダンピングファクターが152であることから、その差133がアクティブ・ダンピングファクター(DFac)に変わったと解釈した。そして、残留エネルギー(パワー)32Wから1W当たり生成されるダンピングファクターは133/32=4.2であった。
アクティブ・ダンピングファクター(DFacが生成されるメカニズムは、出力トランスの出力容量に依存している。本実験では出力容量10Wを使用したが、OPTに十分に大きな容量のコアーを使うことで、真空管で作られるオーディオ出力を全てスピーカーへ出力することが出来る。しかしながら、この場合に得られるDFはパッシブ・ダンピングファクター(DFps)のみとなり、一次インダクタンス内の直流抵抗から得られるダンピングファクターのみで、例えば152といった値に留まる。上に述べた作用を積極的に活用するならば、もし大きなDF値を得たい場合には、真空管から得られる理論出力値より小さな目の出力容量を持つOPTを使用することで積極的にアクティブ・ダンピングファクター(DFac)を生成させることが意図的に可能となる。それにより、直流抵抗依存型DFps以上に高いDFを作り出すことが可能である。これは、本実施形態が電流駆動型電力増幅器であることから作り出すことが出来るアクティブ・ダンピングファクターであって、新しいダンピングファクター理論(仮説)と言える。従来型の真空管アンプ、及び半導体アンプには存在しなかった現象である。
本実施形態における総合性能につき報告する。使用した終段の出力回路は第1応用回路(位相反転入力型プッシュプル回路)である。前置増幅器は二段構成で、初段は真空管6DJ8によるシャントレギュレーテッドプッシュプル(SRPP)、二段目は6FQ7による同様のSRPPを使用した。位相反転回路は最も一般的な、後述する抵抗によるPK分割位相反転回路を用いた。電源は前置増幅部にブリッジダイオード整流と抵抗と電解コンデンサーによるパイ(π)型リップルフィルターを通してDC+330Vを供給している。電力増幅管のプレート電圧用電源はブリッジダイオードで整流後に2200μFの電解コンデンサーを接続したのみで、チョークコイルなどのリップルフィルターは使わない、単純な電源からDC+95Vを電力増幅管EL−509に供給している。なお、アンプ全体でオーバーオールの負帰還は掛けていない。
ダンピングファクターはオーディオアンプの総合性能を評価する項目の一つで、前述の通り285を得た。さらに、聴感上でアンプの良し悪しを決める重要な評価項目の一つに歪率がある。これには、一般に擬似負荷である8Ωに1kHz・1W出力で測定し、全高調波歪率(THD%)の少なさで評価される。本実施形態・第1回路図で実測のTHD%は左チャンネルが0.045%、右が0.055%であった。左右で歪率の差が生じたのは、使用したシャーシーがラックス社製A3500アンプキットで部品配置が左右非対称である事から生じたものと考えられる。オーバーオールの負帰還を掛けていないパワーアンプの歪率としては十分に評価できる値である。
歪率同様にオーディオアンプの性能を評価する重要な測定項目に周波数特性がある。人の可聴周波数範囲は20Hzから20kHzといわれている。しかしながら、音楽ニュアンスを伝えるには50kHzから60kHz付近まで必要と言われて久しい。事実として、英国のある大手スピーカーメーカーではツイーターの高域周波数特性を60kHz付近まで伸ばしたら聴感が良くなったと言われている。しかしながら、最近のオーディオアンプでは、更に上の150kHzまでのレスポンスが必要であるとも言われるようになってきた。
そこで、本実施形態でもアンプの高域再生帯域に注目して測定を行い、次に様な特性を得た。測定結果は、低域の20Hzでは両チャンネルとも−0.15dB以内であった。150kHzでは左チャンネルが−2.1dBで、右が−1.8dBであった。OPTを使用した真空管アンプの一般的な周波数特性は30Hz付近から高域は50kHz〜60kHz付近までであることから、本実施形態の周波数特性は十分な評価に値する。低域で20Hzまでほぼフラットな特性が得られた理由はOPT一次巻線をクワッドファイラーで巻き密結合を可能にして大きなミューチュアル結合(総合コンダクタンス)を得ていることにある。
高域特性は一般的真空管アンプでは50kHz〜60kHz程度であると説明したが、それは一般的に使用されているOPTのコアー材に使用されている珪素鋼板の透磁率(μ)は20kHz辺りより下降し始めて50kHz〜60kHz付近ではほぼゼロに成りトランスとして働かなくなる。コアーの板厚により差異はあるが厚さが薄いほど高域特性が伸びるといわれている。それでもほとんどのコアー材において50kHz〜60kHz付近ではμがほぼゼロになる。このような、本質的な問題がありながら、本実施形態では高域周波数特性が150kHzまで延びている。60kHz〜150kHzの高域では透磁率(μ)を利用したアクテブデバイスとしてのインダクタンスは最早働かなくなる領域である。この帯域でのオーディオ信号エネルギーの伝達は他のアクテブデバイスが介在しない限り150kHzまでの再生は出来ない筈である。それに代わるアクテブデバイスはコンデンサーである。トランスの一次巻線として巻いた線材の絶縁被覆が誘電体の作用をしているためで、本実施形態で使用した線材の絶縁被覆が誘電体損の少ない優秀なコンデンサーを巻線間に形成している証拠である。コンデンサーもアクテブデバイスの一つであって、コンデンサー(C)の誘電体内に電荷(Q)を貯める作用を有し、電荷移動でエネルギー伝達を行っている。そして、コンデンサー内には次に示す式によりエネルギーを蓄え、伝達する機能を持っている。
ここで、Qは電荷量、Cはコンデンサーの容量、Vは電圧(コンデンサー両端に印加される電圧)を表す。
つまり、磁気結合に代わって容量結合によりエネルギー伝達が行われたことを意味している。本実施形態では既に述べたようにOPT巻線線材の絶縁被覆材にポリエステルとポリイミドをコーティングした線を使用している。それらの素材が優秀な誘電体として働き、結果として一次コイル線間に高域特性に優れた、また音響的にも優れたコンデンサーが生成されたことになり、コンデンサーが持つ電荷伝送機能によりエネルギー伝送が行われたことを表している。珪素鋼板の透磁率依存性だけでは不可能とされていた50kHz〜60kHz以上150kHzまでの信号伝達を可能ならしめ、従来の概念で、出力トランス(OPT)を用いた真空管アンプでは不可能とされてきた60kHz以上の高域周波数の再生をオーバーオールの負帰還(NFB)を使うことなく実現したものである。
信号対雑音比(S/N)を測定した。左チャンネルは 93.8dB、右は88.2dBであった。左右で測定値が異なるのは、前述したとおりシャーシー上の部品配置が非対称であることに起因している。しかしながら、測定結果のS/Nがある一定の評価できる値以上であるが、アンプは簡便な電源を使用したにもかかわらず十分に大きな値と成っている。これは、本実施形態で出力トランス内での直流バランス機能が働き、ノイズ打消し作用が正しく働いた結果と言える。
本実施形態の総合性能は上に述べたとおりであるが、全ての項目において従来型の真空管アンプでは得られなかった優れた特性を示している。そして、最後に総合試験としてヒアリングテストを行った。その結果は、素晴らしく柔らかな澄みわたる美しい音を聴くことが出来た。感覚的な問題ではあるが、一般的な真空管アンプで比喩されている鉄の音という聴感は皆無であった。
真空管アンプは、音は良いが鉄の音と言われているが、その発生由来は、コアーの磁気素材内で生じる物理現象のバルクハウゼン効果(現象)によるものと言われている。アンプからコアー内に電力(この場合は電圧)が注入されていくと、コアー内の低いエネルギーの場から徐々にエネルギーが高まり、コアー内の磁束が増加していく。このときに、磁気回路内に存在する磁気障壁を次々に破りながらエネルギーが階段的に上昇していくと言われている。障壁を破るときに微細な階段状の電圧変化(仮称バルクハウゼン・ノイズ)が出力に現れてくるためである。そして、従来型のアンプは電圧増幅型アンプであるために、コアー内の磁気・物理的な現象から生じる階段状微細信号を拾い上げて、そのまま出力されてしまう。一方、前記の全ての実施形態は電流駆動型アンプであるためにバルクハウゼン・ノイズを拾うことは無く、また仮に拾ってもそれは電圧の関数であるために打ち消し合って、出力に鉄の音(トランスの音)は現れることは無い。
3.第3実施形態
例えば、第1応用回路の電力増幅器1Aは、位相だけが反転した信号を生成する位相反転回路50を必要とする。図9(A)〜図9(B)は、位相反転回路50を具現化する第3実施形態を示す図である。なお、図5と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
まず、図9(A)のように、位相反転回路50は真空管アンプでは普遍的に使われている抵抗負荷によるPK分割位相反転回路で構成されてもよい。真空管52のカソード側の負荷抵抗53と、プレート側の負荷抵抗54の値を同じにすることで、位相が逆で同じ大きさの信号100A、100Bを得ることができる。カソード側出力である信号100Aには電流帰還作用により特性改善が行われ、出力インピーダンスが下がり、信号100Aは周波数特性が良くなり、さらに、歪が入力信号100より減少する。一方、プレート側出力である信号100Bは出力インピーダンスが上昇し、周波数特性は100Aよりは悪くなり、そして出力信号の歪は入力信号100に比べて増加する。ある実験では、入力信号100の歪率(THD)が0.33%の時に信号100Bは0.25%で、100Aは0.45%であった。故に、信号100Aと信号100Bでは電圧の絶対値が同じで逆極性の信号が出るが、両者の信号間には歪率に差が生じる、所謂。信号の品質に不都合さを持っている。加えて、プレート電源をプレート負荷抵抗とカソード負荷抵抗で分圧して利用することから大きな出力信号を取り出せない不都合さが内在している。
位相反転回路にはいくつかの回路があり、PK位相反転回路同様に普遍的に使用されてきた。しかしながら、上に述べたPK位相反転回路以外は電圧増幅度が1以上であり、この特徴が故に最近の真空管回路においてはPK位相反転回路より、その他の回路が多く使われる様に成ってきた。その他の回路とは、自己平衡型、PG反転型(古典型)、カソード共通型(別名マラード型)、及びそれらの変形型などが存在する。前述の通り、これらは電圧増幅度が1以上であるが、信号の通過経路長において正極性側回路と反転回路側では真空管による増幅回路が一段余分に追加されている。それが故に歪の増加を抑えることは難しく、併せて周波数特性もPK位相反転回路を越える回路は存在しない。歪の発生は主に、正・逆極性信号間の電圧差で電圧歪を生じる。更に、信号経路が一段増加することから、結合回路に挿入されるコンデンサー・抵抗による時定数による位相回転による位相歪などが含まれる。一方、PK位相反転回路においては、信号経路は両極性出力信号間で同一であり歪特性、および周波数特性共には位相反転回路中では最も優れている。只一つ異なるのは、カソード側とプレート側の出力インピーダンスに差が生じることが知られている。使用する真空管により多少の差はあるが、一般的な三極管ではカソード側が1〜2kΩ程度、プレート側は10kΩ〜20kΩ程度である。この値程度の差であれば実装技術上で長く配線を引き回さない限り実質的な不具合は発生しないと考えられている。故に、現状ではPK位相反転回路が物理特性(オーディオ特性)上で優れていると言える。
前記の全ての実施形態における電力増幅回路の歪率特性、及び周波数特性はPK分割回路を含めた従来型の位相反転回路を遥かに凌駕していることは既に述べた通りである。このことは、終段の出力回路よりも前段部で特性の劣る信号を電力増幅器に送り込んでしまってはアンプの総合特性を劣化させる不合理さを生む原因となってしまう。本提案はそれらの不合理さに鑑みてなされたものである。
ここで、カソード側の信号100Bは入力信号100と同相であり、プレート側の信号100Aは入力信号100と逆相になる。
ここで、図9(A)の負荷抵抗53、54をそれぞれ第1のコイル57、第2のコイル58に置き換えた図9(B)の位相反転回路50を用いてもよい。両コイルには同一のコアーにバイファイラー巻きされているので電磁的に密結合されている。この回路は、前記の基本回路の出力トランスの一次巻線をバイファイラー巻きしたのと同じ構造である。
図9(B)の位相反転回路50は、真空管52のカソード側は電流帰還が多量にかかることからいくつかの特性改善が行われ、信号100Bの歪は特性改善が行われて入力信号100の歪以下に抑えられる。このとき、プレート側の信号100Aについても、両コイルの磁気結合が密でありカソード側の歪の少ない信号100Bが反映されるため、全体として歪が小さく、歪率が同じ信号100A、及び100Bを生成できる。加えて、特性改善効果により周波数特性が改善される。本実施形態での実験の結果、入力信号の歪率(THD)が0.33%のときに位相反転回路の出力である信号100Aと信号100BのTHDは共に0.20%と改善されていて、同じ品質の出力信号を電力出力回路へ送り出せることを可能にしている。
PK位相反転回路ではカソード側とプレート側の出力インピーダンスが異なると述べた、それが故に両ノードからの出力信号の周波数特性、歪率に差異を生じていた。本実施形態では、両ノードの負荷はバイファイラー巻きした同じ値のインダクタンスを持ち電磁的に密結合されている、所謂、ミューチュアル(M)が強く働いている。このことは、信号100A、100B側から真空管側を見るとMという一つの架空インダクタンス(コイル)が存在すると看做され、両出力はMを共有して出力を取り出していると考えられる。それが故に、出力インピーダンスは両ノードで同一でカソード側の低インピーダンスになっていると考えられる。そして、出力電圧の位相は逆極性であるが正確に同一電圧で、歪率は改善されて小さくなり全く同じ歪率の信号を出している。周波数特性も然りで高域周波数特性は低インピーダンス故に150kHz以上の透過帯域を持っている。加えて、インダクタンスを用いることでプレートとカソードの電圧降下が減少するので、プレート電源の利用効率が上がり、大きな出力信号を取り出せる改善効果もある。
このような優れた位相反転特性を持った回路は従来には存在していなかった、そしてこの性能を担保している技術がカソード、プレート両ノードにバイファイラー巻きしたインダクタンスにある。このインダクタンスは二次側に磁気結合で出力を取り出していないので単にチョークコイルとして働いている。よって、本回路をチョーク型位相反転回路と呼ぶことが相応しい。
本回路はチョークコイルを利用した回路であるが、二次側に電圧を取り出せる二次コイルをコアーに巻いて、中間トランス(インターステージトランス、IST)としても良い。その二次巻線に中間タップを設けることで両端子間に位相が180度異なる信号を取り出せることからプッシュプル電力増幅器のドライバーとして使用しても良い。
本実施形態の位相反転回路を用いて、第1応用回路である位相半転入力型プッシュプル回路を構成しても良い。その場合は、二次側にはハイインピーダンス結合用にコイルを多く巻き、電力増幅管とインピーダンスマッチングをとっても良い。二次側には中間タップつきのインダクタンスを巻くことでトランスドライブ型位相反転回路を構築でき、ドライバー段と電力増幅段で二段シリーズの位相反転入力型プッシュプル回路を構築できるので両者の相乗効果でより一層低歪率の電力増幅器を構築することができる。
4.第4実施形態
本発明の第4実施形態について図10を参照して説明する。第4実施形態の電力増幅器1Cは、第1実施形態の電力増幅器(図2参照)の増幅回路において、真空管を電力増幅用のトランジスター(パワートランジスター)に置き換えたものである。なお、図1〜図9(B)と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
図10では、増幅回路30Bの増幅素子としてパワートランジスタ36を用いている。半導体デバイスの中で、電流増幅素子であるトランジスターは、その動作原理から真空管に代えて使用することが可能である。特に、トランジスターは電流増幅率(hfe)が大きく(例えば100前後)、高性能な電力増幅器を構築することが可能である。電流増幅素子のトランジスター(バイポーラ)に代えて電力型電界効果トランジスター(パワーMOS−FET)を使用しても良い。MOS−FETは電圧増幅素子であるが前述の真空管型の電力増幅器と同じ動作原理で電流駆動型電力増幅器として作動させても良い。
また、真空管に代えてパワートランジスタを用いることで、小型化が可能であり、非常に小さなアンプの構築が可能となり、ダンピングファクターの高い電力増幅器を提供することができる。なお、トランジスターで構築する電力増幅器は、前記の第1応用回路、第2応用回路、第3実施形態の位相反転回路にも適用できる。
5.その他
これらの例示に限らず、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。