JP5816503B2 - 活性汚泥生成抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明は、有機性の汚水(下水、廃水など)を処理する活性汚泥法に使用するのに好適な活性汚泥生成抑制剤、及びそれを用いた汚水の処理方法に関する。
一般的に、下水、各種工場又は各家庭から排出される汚水を処理する方法として活性汚泥法が使われている。この方法は、細菌類及び微小生物などの混合微生物群から構成される活性汚泥を曝気槽にて曝気、攪拌し、流入させた有機性廃水を該混合微生物群により好気的に分解、処理し、その後、沈殿池にて、あるいは、微細膜を介して固液分離して清澄な処理水を得る方法である。
現状では、前記処理により汚水が処理される場合、活性汚泥が投入量及び汚濁量に比例して余剰に発生する。そして、その処理又は処分に多額の費用を要している。かかる問題を解決するため、活性汚泥の減量方法として以下の方法:
(1)処理系統内における活性汚泥の滞留時間を長くして、有機物の分解及び微生物の自己酸化を促進させ、活性汚泥の生成量を少なくする全酸化活性汚泥法;
(2)返送汚泥の一部をオゾンにて分解させ、活性汚泥を減量する活性汚泥減量法;
(3)返送汚泥の一部を破砕機により破砕し、これを活性汚泥により分解させ、活性汚泥を減量する活性汚泥減量法;
(4)活性汚泥法の前段に嫌気槽を設け、汚水をそこで嫌気性細菌により分解させた後、好気性曝気槽でさらに分解させて活性汚泥の生成量を少なくする嫌気・好気活性汚泥法;
などが知られている。
前記方法により生成した余剰の活性汚泥は、濃縮後、嫌気性醗酵によりガス化されるかあるいは、脱水された後、焼却されることにより、さらに減量される。
また、本願発明者が以前報告した、カキ殻を利用した活性汚泥の減量方法としては、カキ殻の破砕物を焼成後、粉状のまま、あるいは塊状に成形したものを曝気槽内に直接導入する、又は該焼成後の粉状物を成形したものに接触させた水道水を曝気槽内に導入する方法がある(特許文献1参照)。この方法は汚泥減量化の効果が大きく、かつ設備費が低廉という特徴を有する。
特許4390804号公報
しかしながら、前記の活性汚泥の減量方法のうち、(1)については、活性汚泥の減量効果は約20〜40%であり、十分な減量効果は得られていない。(2)又は(3)については、減量効果は約80〜100%と十分な減量効果が得られているものの、設備費及び運転管理費に多額の費用を要し、ライフサイクルコストを考慮すると、経済的なメリットはほとんどない。(4)については、設備費がかかる上に、活性汚泥の減量効果は約50%と十分なものではなく、さらには、悪臭が発生して、その対策も必要になり、利便性に劣るものである。
一方、本願発明者が以前報告した、カキ殻を利用した活性汚泥の減量方法については、カキ殻の焼成物をそのまま粉末状で、又は塊状にして使用することが可能であり、製造設備費が安価に抑えられるメリットがある。しかしながら、粉末状のものを用いる場合には、近年多く用いられている膜分離型の活性汚泥方法において、該粉末が微細化されていたとしても膜の目詰まりを起こし、固液分離機能を低下させる。さらには、粉末が曝気槽内で十分に溶解(イオン化)せずに処理水中に含まれてそのまま排出されるため、結果的に、必要量以上の投入が必要となる。また、塊状のものを用いる場合には、有効成分の十分な溶出量を確保するために初期に大量の活性汚泥生成抑制剤を準備することが必要となり、初期投資金額が高価になる。よって、カキ殻を粉末状又は塊状にして用いる方法においても問題があることが判明した。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、カキ殻成分を用いて活性汚泥の生成を抑制させるという点においては共通していながらも、適用時の初期コストが小さく、さらには、固液分離膜に詰まるという欠点もなく、活性汚泥の生成をより速効的に抑制できる液状の活性汚泥生成抑制剤、及びそれを用いた汚水の処理方法を提供することにある。
本発明は、
〔1〕 貝殻又はその破砕物を酸で溶解して得られる、液状の活性汚泥生成抑制剤、
〔2〕 貝殻又はその破砕物を焼成してできたものを酸で溶解して得られる、液状の活性汚泥生成抑制剤、及び
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の活性汚泥生成抑制剤を汚水処理系統内に導入する工程を含む、汚水の処理方法
に関する。
本発明の活性汚泥生成抑制剤は、固液分離膜に詰まるということもなく、適用時の初期コストを抑制し、活性汚泥の生成をより速効的に抑制できるという優れた効果を奏する。
図1は、本発明の試験例1のフローシートを示す。
本発明の活性汚泥生成抑制剤は、貝殻又はその破砕物を酸に溶解して得られる液剤であることに一つの特徴を有する。活性汚泥の生成抑制に有効な成分が貝殻成分の中の何であるかは不明なるも、本発明により、酸により溶解した中に含まれているものと推定される。なお、本明細書において、「貝殻又はその破砕物」をまとめて貝殻成分と記載することもある。
本発明は前記特徴を有していることにより、本発明の活性汚泥生成抑制剤の存在下、優れた処理効率を維持しつつ、活性汚泥の生成が有意的に抑制されるという効果を奏する。
本発明に使用される貝殻は、海水、淡水、又は汽水に生息する貝のいずれの貝殻でもよく、例えば、ハマグリ、アサリ、ホッキガイ、カキ、イガイ、アワビ、バイ、サザエ、ホタテガイ、トリガイ、アカガイなどの貝殻が挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。中でも、大量かつ容易に入手できる観点から、カキの貝殻が好ましい。
貝殻の破砕物は、前記貝殻を粉砕ローラー、ロールプレスなどを用いて破砕処理することにより調製される。
貝殻の破砕物は、貝殻がその原形を実質的にとどめていない状態であれば特に限定はないが、酸に溶解させる観点から、粉末状であることが好ましい。最大直径としては特に限定はないが、溶解性を向上させる観点から、1〜30mm程度が好ましい。なお、最大直径とは、破砕物の径のうち、最も長いものを意味する。
また、本発明における貝殻又はその破砕物としては、酸に溶解する前に焼成したものであってもよい。焼成により、貝殻又はその破砕物は小粒径化して粉状物になる。得られる粉状物の最大直径は、焼成前より小さくなっていれば特に限定はなく、例えば、0.1〜5mm程度が好ましい。
焼成方法としては、公知の方法であれば特に限定はないが、焼成物(貝殻又はその破砕物の粉状物)を回収しやすい観点から、ロータリーキルンを用いて焼成する方法が好ましい。
なお、焼成により、貝殻成分の粉末化が行なわれるが、併せて、貝殻又はその破砕物から有機物の除去を行なうこともできる。本明細書において「有機物」とは、前記貝殻に通常含まれる有機物をいい、例えば、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、フィブロインなどが挙げられる。
本発明で用いられる貝殻又はその破砕物は、前記のように調製してもよいが、カキ殻の焼成粉状物である「セルカ」(卜部産業社製)などの市販品を用いてもよい。
本発明の活性汚泥生成抑制剤における貝殻成分の濃度としては、貝殻成分の溶解性が維持されるのであれば特に限定はないが、運搬に要する費用を低減できれば好ましいことから、例えば、5〜35重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、5〜20重量%がさらに好ましく、10〜20重量%が特に好ましい。
本発明で用いられる酸としては、貝殻成分が容易に溶解する観点から、強酸が好ましい。強酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が例示され、なかでも、排水中に硫黄及び窒素が混入しない観点から、塩酸が好ましい。また、酸の規格としては特に限定はなく、試薬用、工業用などを用いることができる。具体的には、工業用濃塩酸(35%液)等を用いることができる。
貝殻成分を酸で溶解する方法としては、特に限定はなく、貝殻成分が目視で確認されない状態になるまで、公知の方法に従って溶解すればよい。
以下に、例えば、カキ殻成分の10重量%溶液(1L分)を濃塩酸を用いて調製する場合について説明する。先ず、容器に100gのカキ殻成分を投入後、濃塩酸はそのまま用いると発泡現象が強いので濃塩酸を3〜5倍に希釈したものを、徐々に添加しながら攪拌する(希釈された塩酸の添加総量約500〜800mL)。その後、溶液が澄明になった段階で、最終溶液量が1Lとなるように水を加える。なお、得られた溶液は、公知の方法に従って、濾過、pH調整を行なうことができる。
溶液のpHは、取扱い性の観点から、4.0〜7.0が好ましい。
また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、前記貝殻成分を溶解した溶液に、適宜、各種の目的に応じて添加剤をさらに配合することができる。
本発明はまた、かくして得られた本発明の液状の活性汚泥生成抑制剤を使用して、汚水を処理する方法を提供する。なお、処理する汚水としては、特に限定されないが、下水、各家庭からの廃水、各種飲食料品系工場及び有機性廃水を排出する工場からの廃水などが好ましい。
汚水を処理する方法において、活性汚泥生成抑制剤の使用量は、処理するべき汚水の量及び濃度、ならびに曝気槽の活性汚泥濃度などにより適宜設定されるが、活性汚泥法が実施されている汚水系統の曝気槽の容量に対し、貝殻成分が1日あたり、好ましくは4〜10g/m3となるように使用量(溶液量)を調整する。
また、本発明の活性汚泥生成抑制剤は、投入された曝気槽中の活性汚泥に作用して汚泥生成抑制効果を奏することから、槽内の活性汚泥量(MLSS濃度)に応じて使用量を調整するのが好ましい。例えば、MLSS濃度が4000〜8000mg/Lの場合、貝殻成分が1日あたり好ましくは4〜6g/m3となるように、MLSS濃度が8000〜15000mg/Lの場合、貝殻成分が1日あたり好ましくは6〜10g/m3となるように、使用量(溶液量)を調整する。
液状の活性汚泥生成抑制剤は、前記濃度範囲内となるように溶液量を調整して、曝気槽内へ、あるいは処理系統の流路に、一度に又は分割して供給することができる。なお、汚水を連続処理する場合には、1日の必要量を処理期間中毎日供給することが好ましい。
液状の活性汚泥生成抑制剤は、粉末状又は塊状の活性汚泥生成抑制剤が溶解して効果を発揮するのに時間を要するのに対して、既に溶解していることから、有効成分の効果出現が早いという効果が期待される。例えば、粉末状の場合は約1ヶ月後に、塊状の場合は約20日後に、それぞれ汚泥生成抑制効果が出現するが、液状の場合は約10日後に、活性汚泥中の細菌の種類(生物相)が変化するため、汚泥生成抑制効果が出現する。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
実施例1 液状の活性汚泥生成抑制剤
カキ殻成分からなる粉末「セルカ」(卜部産業社製、20kg袋入り)及び工業用濃塩酸(35%液)を水で5倍に薄めたものを用意した。次に、100Lの容器の中に、セルカ10kgを入れ、そこに約5倍希釈した濃塩酸を少しずつ入れ、攪拌しながらセルカを溶解させた(希釈した濃塩酸の添加量70L)。目視によりセルカが溶解していることを確認後、最終容量が100Lになるまで水を加え、カキ殻成分10重量%の液状活性汚泥生成抑制剤を調製した(最終溶液pH4.0)。
比較例1 粉末状の活性汚泥生成抑制剤
実施例1で用いた粉末「セルカ」をそのまま用いた。
比較例2 塊状の活性汚泥生成抑制剤
実施例1で用いた粉末「セルカ」10kgに、水ガラス0.48kg及び水0.2kgを配合して混練した。得られた混練物を直径45mmの球状の型に入れて乾燥させ、直径45mm、重さ55g/個の球状の活性汚泥生成抑制剤を調製して用いた。
参考例1
汚泥生成抑制剤を全く使用しなかった。
試験例1 汚水処理1
製パン工場の廃水処理設備に、実施例1の液状活性汚泥生成抑制剤を持ち込み、曝気槽に付属の薬液注入タンクに充填し、そこから曝気槽に所定量が導入されるように設定した。また、比較例1の活性汚泥生成抑制剤は必要量を曝気槽内に直接投入した。比較例2の活性汚泥生成抑制剤は5m3容のタンクに約3トン充填し、該タンク下部から水道水を約30L/日ずつ上向流で流し、その水を曝気槽へ導入した。この廃水処理設備は、図1に示すフローの活性汚泥法(固液分離に膜分離装置を採用)による処理設備である。また、その規模、運転条件は以下の通りである。
<廃水処理設備の規模>
排水量:120〜150m3/日
BOD濃度:500〜1000mg/L
曝気槽容量:200m3
MLSS濃度:6000〜8000mg/L
曝気槽の容量に対してカキ殻成分が1日あたり6g/m3となるように、実施例1の液状活性汚泥生成抑制剤(10重量%濃度)を12L/日ずつ投入した。比較例1の粉末状活性汚泥生成抑制剤を用いた場合は、曝気槽の容量に対してカキ殻成分が1日あたり6g/m3となるように、1.2kg/日ずつ投入した。比較例2の塊状活性汚泥生成抑制剤を用いた場合は、カキ殻成分の溶出量が6g/m3となるようにタンクに充填した。それぞれ3ヶ月間連続して、0.4〜0.8kgBOD/m3・日のBOD負荷で汚水処理を行った。なお、参考例1のみ汚水処理は2年間(24ヶ月)行った。
汚水処理後の処理水の水質評価(透視度、BOD、COD、浮遊物)を以下の方法に従って行った。また、設備より発生する汚泥の脱水ケーキ(含水率約85%)の平均発生量(トン/月)を測定した。併せて、固液分離膜の目詰まり度合いとして、分離膜の洗浄頻度を確認した。さらに、処理水の透視度及びCODの水質評価結果、脱水ケーキの発生量、生物相の変化(顕微鏡を用いて観察)などから総合的に判断して、活性汚泥生成抑制効果の発現時期を確認した。結果を表1に示す。
<透視度>
日本下水道協会著、「下水試験方法」に記載する方法で測定した。
<BOD>
JISK0102 21に記載する方法で測定した。
<COD>
JISK0102 17に記載する方法で測定した。
<浮遊物>
JISK0102 14−1に記載する方法で測定した。
Figure 0005816503
表1より、本発明の液状の汚泥生成抑制剤を使用することにより、良好な廃水処理効果を維持しながら、汚泥の生成が従来に比べて1/8〜1/4に抑制されることが分かる。また、固液分離膜の目詰まりも殆ど認められず、維持管理コストの軽減が図れることが示唆される。
また、実施例1と比較例1の対比より、汚水処理の処理性能に殆ど有意差は認められなかったが、比較例1は分離膜の目詰まりが問題であり、運転管理面において粉末状より液状の汚泥生成抑制剤の方がはるかに好ましいことが分かる。実施例1と比較例2の対比より、汚水処理の処理性能や、目詰まりがない等装置の維持管理においては殆ど有意差が認められないが、比較例2の場合、単位重量当たりの有効成分溶出量が少ないので、初期に多量の塊状物を用意する必要がある。一方、実施例1は液状のため投入量がそのまま有効性を発揮するため必要量だけ投入すればよく、少ない初期投資金額で効果の実現が可能である。
またさらに、活性汚泥の生成抑制効果の発現は、実施例1が最も早いことも分かる。従って、液状の汚泥生成抑制剤は、速効性に優れ、かつ、固液分離膜などの装置への負荷が少なく優れていることが明らかである。
本発明の活性汚泥生成抑制剤は、廃棄物を使用して、汚水処理産業に有効に利用することができ、汚水処理に伴って発生する廃棄物の減量のために利用することができる。

Claims (5)

  1. 貝殻又はその破砕物による溶解液である、液状の活性汚泥生成抑制剤。
  2. 貝殻又はその破砕物焼成体のによる溶解液である、液状の活性汚泥生成抑制剤。
  3. 貝殻がカキ殻である、請求項1又は2記載の活性汚泥生成抑制剤。
  4. 膜分離型の活性汚泥方法に使用されるための、請求項1〜3いずれか記載の活性汚泥生成抑制剤。
  5. 請求項1〜いずれか記載の活性汚泥生成抑制剤を汚水処理系統内に導入する工程を含む、汚水の処理方法。
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