<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、第1の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータの概要を示すブロック図である。また、図2,図3は、第1の実施形態のインキュベータの正面図および平面図である。
第1の実施形態のインキュベータ11は、上部ケーシング12と下部ケーシング13とを有している。インキュベータ11の組立状態において、上部ケーシング12は下部ケーシング13の上に載置される。なお、上部ケーシング12と下部ケーシング13との内部空間は、ベースプレート14によって上下に仕切られている。
まず、上部ケーシング12の構成の概要を説明する。上部ケーシング12の内部には、細胞の培養を行う恒温室15が形成されている。この恒温室15は温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bを有しており、恒温室15内は細胞の培養に適した環境(例えば温度37℃、湿度90%の雰囲気)に維持されている(なお、図2,図3での温度調整装置15a、湿度調整装置15bの図示は省略する)。
恒温室15の前面には、大扉16、中扉17、小扉18が配置されている。大扉16は、上部ケーシング12および下部ケーシング13の前面を覆っている。中扉17は、上部ケーシング12の前面を覆っており、大扉16の開放時に恒温室15と外部との環境を隔離する。小扉18は、細胞を培養する培養容器19を搬出入するための扉であって、中扉17に取り付けられている。この小扉18から培養容器19を搬出入することで、恒温室15の環境変化を抑制することが可能となる。なお、大扉16、中扉17、小扉18は、パッキンP1,P2,P3によりそれぞれ気密性が維持されている。
また、恒温室15には、ストッカー21、観察ユニット22、容器搬送装置23、搬送台24が配置されている。ここで、搬送台24は、小扉18の手前に配置されており、培養容器19を小扉18から搬出入する。
ストッカー21は、上部ケーシング12の前面(図3の下側)からみて恒温室15の左側に配置される。ストッカー21は複数の棚を有しており、ストッカー21の各々の棚には培養容器19を複数収納することができる。なお、各々の培養容器19には、培養の対象となる細胞が培地とともに収容されている。
観察ユニット22は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の右側に配置される。この観察ユニット22は、培養容器19内の細胞のタイムラプス観察を実行することができる。
ここで、観察ユニット22は、上部ケーシング12のベースプレート14の開口部に嵌め込まれて配置される。観察ユニット22は、試料台31と、試料台31の上方に張り出したスタンドアーム32と、位相差観察用の顕微光学系および撮像装置(34)を内蔵した本体部分33とを有している。そして、試料台31およびスタンドアーム32は恒温室15に配置される一方で、本体部分33は下部ケーシング13内に収納される。
試料台31は透光性の材質で構成されており、その上に培養容器19を載置することができる。この試料台31は水平方向に移動可能に構成されており、上面に載置した培養容器19の位置を調整できる。また、スタンドアーム32にはLED光源35が内蔵されている。そして、撮像装置34は、スタンドアーム32によって試料台31の上側から透過照明された培養容器19の細胞を、顕微光学系を介して撮像することで細胞の顕微鏡画像を取得できる。
容器搬送装置23は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の中央に配置される。この容器搬送装置23は、ストッカー21、観察ユニット22の試料台31および搬送台24との間で培養容器19の受け渡しを行う。
図3に示すように、容器搬送装置23は、多関節アームを有する垂直ロボット34と、回転ステージ35と、ミニステージ36と、アーム部37とを有している。回転ステージ35は、垂直ロボット34の先端部に回転軸35aを介して水平方向に180°回転可能に取り付けられている。そのため、回転ステージ35は、ストッカー21、試料台31および搬送台24に対して、アーム部37をそれぞれ対向させることができる。
また、ミニステージ36は、回転ステージ35に対して水平方向に摺動可能に取り付けられている。ミニステージ36には培養容器19を把持するアーム部37が取り付けられている。
次に、下部ケーシング13の構成の概要を説明する。下部ケーシング13の内部には、観察ユニット22の本体部分33や、インキュベータ11の制御装置41が収納されている。
制御装置41は、温度調整装置15a、湿度調整装置15b、観察ユニット22および容器搬送装置23とそれぞれ接続されている。この制御装置41は、所定のプログラムに従ってインキュベータ11の各部を統括的に制御する。
一例として、制御装置41は、温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bをそれぞれ制御して恒温室15内を所定の環境条件に維持する。また、制御装置41は、所定の観察スケジュールに基づいて、観察ユニット22および容器搬送装置23を制御して、培養容器19の観察シーケンスを自動的に実行する。さらに、制御装置41は、観察シーケンスで取得した画像に基づいて、細胞の培養状態の評価を行う培養状態評価処理を実行する。
次に、制御装置41の構成について説明する。この制御装置41は、CPU42および記憶部43を有している。
記憶部43は、ハードディスクや、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体などで構成される。この記憶部43には、ストッカー21に収納されている各培養容器19に関する管理データと、撮像装置で撮像された顕微鏡画像のデータとが記憶されている。さらに、記憶部43には、CPU42によって実行されるプログラムが記憶されている。
なお、上記の管理データには、(a)個々の培養容器19を示すインデックスデータ、(b)ストッカー21での培養容器19の収納位置、(c)培養容器19の種類および形状(ウェルプレート、ディッシュ、フラスコなど)、(d)培養容器19で培養されている細胞の種類、(e)培養容器19の観察スケジュール、(f)タイムラプス観察時の撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点等)、などが含まれている。また、ウェルプレートのように複数の小容器で同時に細胞を培養できる培養容器19については、各々の小容器ごとにそれぞれ管理データが生成される。
CPU42は、特徴量演算部44と、特徴量判定部45と、連続性判定部46と、計算モデル構築部47と、推定部48とを備えている。このCPU42は、たとえば、制御装置41の各種の演算処理を実行するプロセッサである。なお、CPU42は、プログラムの実行によって、特徴量演算部44と、特徴量判定部45と、連続性判定部46と、計算モデル構築部47と、推定部48としてそれぞれ機能してもよい。また、CPU42は、画像読込部50と画像入力部51とを備えている。
画像読込部50は、培養容器内で培養される複数の細胞が時系列に撮像されている複数の画像を記憶部43から読み込む。また、この画像読込部50は、記憶部43から画像を読込む場合、この画像に撮像されている細胞についての情報も読込む(または、入力される)。この細胞についての情報とは、学習する対象となる情報のことであり、たとえば、各画像に対応するMSC細胞が骨となったか否かを示す情報のことである。
特徴量演算部44は、画像に含まれる各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量を画像からそれぞれ求める。
特徴量判定部45は、細胞について評価する対象となる特性を、特徴量により評価することが適しているか否かを、各々の複数の画像に対応する特徴量のそれぞれについて、判定する。すなわち、特徴量判定部45は、後述する計算モデルを構築する場合に、特徴量を用いることが適切であるか否かを、特徴量毎に判定する。ここでいう特徴量とは、たとえば、時系列において連続して測定された測定値のうち、1回分の測定値のことである。
連続性判定部46は、特徴量に対しての特徴量判定部45による判定結果が、時系列において連続しているか否かを、特徴量のそれぞれについて判定する。すなわち、特徴量判定部45は、特徴量判定部45後述する計算モデルを構築する場合に、特徴量を用いることが適切であると判定されたことが、時系列において連続しているか否かを、特徴量毎に判定する。
計算モデル構築部47は、特徴量演算部44により求められた特徴量と連続性判定部46による判定結果とを組み合わせて、細胞における特性を評価するための計算モデルを構築する。計算モデル構築部47は、たとえば、教師付き学習により計算モデルを求める。なお、この計算モデルは、細胞における特性を評価した結果を、評価情報として出力する。
また、計算モデル構築部47は、たとえば、計算モデルを構築する場合に、連続性判定部46による判定結果に基づいて、特徴量の中から計算モデルを構築する特徴量を抽出し、当該抽出した特徴量に基づいて、計算モデルを構築する。
また、この計算モデル構築部47は、たとえば、計算モデルを構築する場合に、連続性判定部46による判定結果に基づいて、特徴量に重み付けをして計算モデルを構築する。
画像入力部51には、評価対象となる細胞の画像であって、培養容器内で培養される複数の細胞が時系列に撮像されている画像が入力される。たとえば、評価対象となる細胞の画像が予め記憶部43に記憶されており、この画像入力部51は、評価対象となる細胞の画像を記憶部43から読み出す。
推定部48は、画像入力部51に入力された画像を、計算モデル構築部47により構築された計算モデルに入力して、評価情報を算出し、算出した評価情報を出力する。これにより、推定部48は、評価対象となる細胞に対しての特性を推測する。
なお、推定部48から出力される評価情報は、たとえば、評価対象となる細胞を培養した場合、「骨になるか否か」という定性的な情報であってもよいし、「骨になる確率が何%である」という定量的な情報であってもよい。これら評価情報の違いは、計算モデル構築部47により構築される計算モデルに依存する。
本実施形態による細胞評価装置は、上述した特徴量演算部44と、特徴量判定部45と、連続性判定部46と、計算モデル構築部47と、推定部48と、画像読込部50と、画像入力部51とを含めて構成されている。
<第1の実施形態における観察動作の例>
次に、図4の流れ図を参照しつつ、第1の実施形態におけるインキュベータ11での観察動作の一例を説明する。この図4は、恒温室15内に搬入された培養容器19を、登録された観察スケジュールに従ってタイムラプス観察する動作例を示している。
ステップS101:CPU42は、記憶部43の管理データの観察スケジュールと現在日時とを比較して、培養容器19の観察開始時間が到来したか否かを判定する。観察開始時間となった場合(YES側)、CPU42はS102に処理を移行させる。一方、培養容器19の観察時間ではない場合(NO側)には、CPU42は次の観察スケジュールの時刻まで待機する。
ステップS102:CPU42は、観察スケジュールに対応する培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19をストッカー21から搬出して観察ユニット22の試料台31に載置する。なお、培養容器19が試料台31に載置された段階で、スタンドアーム32に内蔵されたバードビューカメラ(不図示)によって培養容器19の全体観察画像が撮像される。
ステップS103:CPU42は、観察ユニット22に対して細胞の顕微鏡画像の撮像を指示する。観察ユニット22は、LED光源35を点灯させて培養容器19を照明するとともに、撮像装置34を駆動させて培養容器19内の細胞の顕微鏡画像を撮像する。
このとき、撮像装置34は、記憶部43に記憶されている管理データに基づいて、ユーザーの指定した撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点)に基づいて顕微鏡画像を撮像する。例えば、培養容器19内の複数のポイントを観察する場合、観察ユニット22は、試料台31の駆動によって培養容器19の位置を逐次調整し、各々のポイントでそれぞれ顕微鏡画像を撮像する。なお、S103で取得された顕微鏡画像のデータは、制御装置41に読み込まれるとともに、CPU42の制御によって記憶部43に記録される。
ステップS104:CPU42は、観察スケジュールの終了後に培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19を観察ユニット22の試料台31からストッカー21の所定の収納位置に搬送する。その後、CPU42は、観察シーケンスを終了してS101に処理を戻す。
この図4の流れ図を用いた説明により、インキュベータ11により観察された時系列の画像データが、記憶部43に記憶される。
<第1の実施形態における培養状態評価処理>
次に図5を用いて、上述した図4の処理により記憶部43に記憶された画像データを用いて、制御装置41が、細胞を評価する計算モデルを構築する一例について説明する。ここでは、一例として、培養容器19をタイムラプス観察して取得した複数の顕微鏡画像を用いて、培養容器19の培養細胞において、葉系幹細胞(以下、MSC細胞とする)が分化して、骨となるか否かを、制御装置41が推定する場合について説明する。
また、ここでは、図4の処理において、培養容器19のタイムラプス観察は、培養開始から0.33日目(8時間)経過後を初回として、0.33日おきに13.67日目まで行われているものとして説明する。また、ここでは、複数の培養容器19がそれぞれタイムラプス観察されており、上記のサンプルの顕微鏡画像が記憶部43に記憶されているものとして説明する。なお、制御装置41は、同じ培養容器19の複数ポイント(例えば5点観察または培養容器19の全体)を同じ観察時間帯で撮影した複数の顕微鏡画像を、タイムラプス観察の1回分の画像として扱うようにしてもよい。
また、当該タイムラプス観察されたMSC細胞については、骨となるか否かが既知となっているものとする。これは、たとえば、培養容器19でタイムラプス観察されたMSC細胞が、任意の実験により、骨となるか否かを調べられていてもよい。この任意の実験は、本実施形態によるタイムラプス観察が終了した後に行われる実験であってもよい。
そして、制御装置41には、培養容器19毎のMSC細胞の画像と、当該培養容器19で培養されたMSC細胞が骨となったか否かを示す情報とが、培養容器19毎に入力されるものとする。なお、MSC細胞が骨となったか否かを示す情報は、インキュベータ11により観察された時系列の画像データと関連付けられて、記憶部43に記憶されていてもよい。
ステップS201:CPU42は、予め用意されたサンプルの顕微鏡画像のデータを記憶部43から読み込む。なお、ステップS201でのCPU42は、各画像に対応するMSC細胞が骨となったか否かを示す情報もこの時点で取得するものとする。
ステップS202:CPU42は、上記のサンプルの顕微鏡画像(ステップS201)のうちから、処理対象となる画像を指定する。ここで、ステップS202でのCPU42は、予め用意されているサンプルの顕微鏡画像のすべてを処理対象として順次指定してゆくものとする。
ステップS203:CPU42の特徴量演算部44は、処理対象の顕微鏡画像(ステップS202)について、画像内に含まれる細胞を抽出する。例えば、位相差顕微鏡で細胞を撮像すると、細胞壁のように位相差の変化の大きな部位の周辺にはハロが現れる。そのため、特徴量演算部44は、細胞壁に対応するハロを公知のエッジ抽出手法で抽出するとともに、輪郭追跡処理によってエッジで囲まれた閉空間を細胞と推定する。これにより上記の顕微鏡画像から個々の細胞を抽出することができる。
ステップS204:CPU42の特徴量演算部44は、ステップS203で画像から抽出した各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量を画像からそれぞれ求める。このステップS204において、CPU42の特徴量演算部44は、上述した複数の異る特徴量として、16種類の特徴量を、ステップS203で画像から抽出した各々の細胞について求めるものとする。
ステップS205:CPU42の特徴量演算部44は、処理対象の顕微鏡画像(ステップS202)について、各細胞の16種類の特徴量(ステップS204)をそれぞれ記憶部43に記録する。
ステップS206:CPU42は、全ての顕微鏡画像が処理済み(全てのサンプルの顕微鏡画像で各細胞の特徴量が取得済みの状態)であるか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、CPU42はステップS209に処理を移行させる。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、CPU42はステップS202に戻って、未処理の他の顕微鏡画像を処理対象として上記動作を繰り返す。
ステップS209:CPU42の特徴量判定部45は、細胞について評価する対象となる特性を、特徴量により評価することが適しているか否かを、各々の複数の画像に対応する特徴量のそれぞれについて、判定する。
ステップS210:CPU42の連続性判定部46は、特徴量に対しての特徴量判定部45による判定結果が、時系列において連続しているか否かを、特徴量のそれぞれについて判定する。
ステップS211:CPU42の計算モデル構築部47は、特徴量演算部44により求められた特徴量と連続性判定部46による判定結果とを組み合わせて、細胞における特性を評価するための計算モデルを構築する。
ステップS212:CPU42の計算モデル構築部47は、ステップS211で構築して求めた計算モデルの情報(計算式に用いる各指標を示す情報、計算式で各々の指標に対応する係数値の情報など)を記憶部43に記録する。以上で、図5の説明を終了する。
<図5のステップS204:CPU42の特徴量演算部44による処理の詳細>
次に、図6を用いて、図5のステップS204におけるCPU42の特徴量演算部44による処理について詳細に説明する。この特徴量演算部44は、各細胞について以下の16種類の特徴量をそれぞれ求める。
・Total area(図6の(a)参照)「Total area」は、注目する細胞の面積を示す値である。例えば、特徴量演算部44は、注目する細胞の領域の画素数に基づいて「Total area」の値を求めることができる。
・Hole area(図6の(b)参照)「Hole area」は、注目する細胞内のHoleの面積を示す値である。ここで、Holeは、コントラストによって、細胞内における画像の明るさが閾値以上となる部分(位相差観察では白に近い状態となる箇所)を指す。例えば、細胞内小器官の染色されたリソソームなどがHoleとして検出される。また、画像によっては、細胞核や、他の細胞小器官がHoleとして検出されうる。なお、特徴量演算部44は、細胞内における輝度値が閾値以上となる画素のまとまりをHoleとして検出し、このHoleの画素数に基づいて「Hole area」の値を求めればよい。
・relative hole area(図6の(c)参照)「relative hole area」は、「Hole area」の値を「Total area」の値で除した値である(relative hole area=Hole area/Total area)。この「relative hole area」は、細胞の大きさにおける細胞内小器官の割合を示すパラメータであって、例えば細胞内小器官の肥大化や核の形の悪化などに応じてその値が変動する。
・Perimeter(図6の(d)参照)「Perimeter」は、注目する細胞の外周の長さを示す値である。例えば、特徴量演算部44は、細胞を抽出するときの輪郭追跡処理により「Perimeter」の値を取得することができる。
・Width(図6の(e)参照)「Width」は、注目する細胞の画像横方向(X方向)での長さを示す値である。
・Height(図6の(f)参照)「Height」は、注目する細胞の画像縦方向(Y方向)での長さを示す値である。
・Length(図6の(g)参照)「Length」は、注目する細胞を横切る線のうちの最大値(細胞の全長)を示す値である。
・Breadth(図6の(h)参照)「Breadth」は、「Length」に直交する線のうちの最大値(細胞の横幅)を示す値である。
・Fiber Length(図6の(i)参照)「Fiber Length」は、注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の長さを示す値である。特徴量演算部44は、下式(1)により「Fiber Length」の値を求める。
但し、本明細書の式において「P」はPerimeterの値を示す。同様に「A」はTotal Areaの値を示す。
・Fiber Breadth(図6の(j)参照)「Fiber Breadth」は、注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の幅(Fiber Lengthと直交する方向の長さ)を示す値である。特徴量演算部44は、下式(2)により「Fiber Breadth」の値を求める。
・Shape Factor(図6の(k)参照)「Shape Factor」は、注目する細胞の円形度(細胞の丸さ)を示す値である。特徴量演算部44は、下式(3)により「Shape Factor」の値を求める。
・Elliptical form Factor(図6の(l)参照)「Elliptical form Factor」は、「Length」の値を「Breadth」の値で除した値(Elliptical form Factor=Length/Breadth)であって、注目する細胞の細長さの度合いを示すパラメータとなる。
・Inner radius(図6の(m)参照)「Inner radius」は、注目する細胞の内接円の半径を示す値である。
・Outer radius(図6の(n)参照)「Outer radius」は、注目する細胞の外接円の半径を示す値である。
・Mean radius(図6の(o)参照)「Mean radius」は、注目する細胞の輪郭を構成する全点とその重心点との平均距離を示す値である。
・Equivalent radius(図6の(p)参照)「Equivalent radius」は、注目する細胞と同面積の円の半径を示す値である。この「Equivalent radius」のパラメータは、注目する細胞を仮想的に円に近似した場合の大きさを示している。
ここで、CPU42の特徴量演算部44は、細胞に対応する画素数に誤差分を加味して上記の各特徴量を求めてもよい。このとき、特徴量演算部44は、顕微鏡画像の撮影条件(撮影倍率や顕微光学系の収差など)を考慮して特徴量を求めるようにしてもよい。なお、「Inner radius」、「Outer radius」、「Mean radius」、「Equivalent radius」を求めるときには、特徴量演算部44は、公知の重心演算の手法に基づいて各細胞の重心点を求め、この重心点を基準にして各パラメータを求めればよい。
<図5のステップS209とS210:CPU42の特徴量判定部45と連続性判定部46とによる処理の詳細>
次に、図7と図8とを用いて、図5のステップS209とS210とにおけるCPU42の特徴量判定部45と連続性判定部46とによる処理について詳細に説明する。
特徴量判定部45は、細胞について評価する対象となる特性を、特徴量により評価することが適しているか否かを、各々の複数の画像に対応する特徴量のそれぞれについて、判定する場合、たとえば、統計的検定により判定する。この統計的検定とは、たとえば、t検定などであり、2組の標本についての平均に有意差があるか否かを検定する場合に用いられる。
特徴量判定部45は、このような統計的検定を、図7(a)に示されるような「骨にならなかった細胞」と、図7(b)に示されるような「骨になった細胞」という、培養した結果が既知である2組の標本についての平均に有意差があるか否かを、特徴量毎に、かつ、時系列毎に検定する。なお、図7(a)と図7(b)とにおいて、それぞれの右側と左側との図は、白色と黒色とを互いに反転させた図であり、実質的に同じ図である。
図8には、特徴量判定部45により、このようにして特徴量毎かつ時系列毎に検定された結果の一例が示されている。この図8の表においては、特徴量(形態の指標)が列とされ、時系列(各観察時間)が行とされている。ここでは特徴量として、上述した16種類のうちから選択された11種類が示されている。そして、各特徴量と各時系列とに対応して、この時系列の時刻における特徴量が、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適しているか否かを示す値が示されている。すなわち、各特徴量と各時系列とに対応して、この時系列の時刻における特徴量に対しての、統計的検定値が示されている。
ここでは、統計的検定値が5%(=0.05)以下となり、統計的に有意差があると判定された特徴量およびその時系列の時刻に対して、ハッチ(斜線)が付けられている。なお、本実施形態においては、たとえば、統計的検定値が5%以下となる特徴量(その時刻における特徴量)は、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定され、統計的検定値が5%未満となる特徴量(その時刻における特徴量)は、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していないと判定されるものとする。なお、この閾値となる5%という値は、1%であってもよいし、任意に設定されてもよい。
この図8に示されているように、ある特徴量は、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定され、かつ、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定された結果が、時系列において連続している。
たとえば、「Elliptical form Factor」という特徴量は、経過日数が3.00日目から13.67日目において、連続して、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定されている。また、「Fiber Breadth」という特徴量は、経過日数が2.00日目から3.00日目、および、3.67日目から6.67日目において、連続して、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定されている。
連続性判定部46は、特徴量に対しての特徴量判定部45による判定結果が、時系列において連続しているか否かを、特徴量のそれぞれについて判定し、たとえば、「Elliptical form Factor」という特徴量は、経過日数が3.00日目から13.67日目において連続している、と判定する。
なお、特徴量判定部45により、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定されていると判定される特徴量は、他の特徴量に対比して、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定されていることなる。そして、連続性判定部46により、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると、連続して判定されていると判定される特徴量は、他の特徴量に対比して、更に、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定されていることなる。
<図5のステップS211:CPU42の計算モデル構築部47による処理の詳細>
次に、図9から図11を用いて、図5のステップS211におけるCPU42の計算モデル構築部47による処理について詳細に説明する。
なお、本実施形態においては、たとえば、図8に示した時系列における特徴量において、全ての時系列における特徴量を計算モデルに用いることも可能であるし、時系列における一部の時刻の特徴量を計算モデルに用いることも可能である。この「時系列における一部の時刻の特徴量」とは、たとえば、「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が3.00日目の値、「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が3.33日目の値、・・・「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が13.67日目の値と、それぞれの値のことである。ここでは、「時系列における一部の時刻の特徴量」を、「指標」として説明する。図8の場合には、測定された経過日数ごとの特徴量それぞれの値が、指標となる。
ここでは、計算モデル構築部47が、ファジーニューラルネットワーク(Fuzzy Neural Network:FNN)解析によって上記の計算モデルを求める場合について説明する。
また、ここでは、計算モデル構築部47が、特徴量に基づいて、各々の顕微鏡画像のセットにおいて、がん細胞の数(予測値)を求める場合の計算モデルを求める場合について説明する。なお、ここでは、計算モデル構築部47が、がん細胞の数(予測値)を求める場合の計算モデルを構築する場合について説明しているが、骨となるか否かを評価する場合の計算モデルを構築する場合でも、計算モデルの構築方法は同様である。
FNNとは、人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN)とファジィ推論とを組み合わせた方法である。このFNNでは、ファジイ推論の欠点であるメンバーシップ関数の決定を人間に頼るという部分を回避すべく、ANNをファジィ推論に組み込んでその自動決定を行う。
学習機械のひとつであるANN(図9参照)は、生体の脳における神経回路網を数学的にモデル化したものであり、以下の特徴を持つ。ANNにおける学習は、目的の出力値(教師値)をもつ学習用のデータ(入力値:X)を用いて、バックプロパゲーション(Back propagation:BP)法により教師値と出力値(Y)との誤差が小さくなるように、ノード(図9において丸で示す)間をつなぐ回路における結合荷重を変え、その出力値が教師値に近づくようにモデルを構築する過程である。このBP法を用いれば、ANNは学習により自動的に知識を獲得することができる。そして、最終的に学習に用いていないデータを入力することにより、そのモデルの汎用性を評価できる。
従来、メンバーシップ関数の決定は、人間の感覚に頼っていたが、上で述べたようなANNをファジイ推論に組み込むことで自動的なメンバーシップ関数の同定が可能になる。これがFNNである。FNNでは、ANNと同様に、BP法を用いることによりネットワークに与えられた入出力関係を、結合荷重を変化させることで自動的に同定しモデル化できる。FNNは、学習後のモデルを解析することでファジィ推論のように人間に理解しやすい言語的なルール(一例として図10の右下の吹き出しを参照)として知識を獲得できるという特徴をもっている。つまり、FNNは、その構造、特徴から、細胞の形態的特徴を表した数値のような変数の組み合わせにおける最適なファジィ推論の組み合わせを自動決定し、予測目標に関する推定と、予測に有効な特徴量(指標)の組み合わせを示すルールの生成を同時に行うことができる。
FNNの構造は、「入力層」、シグモイド関数に含まれるパラメータWc、Wgを決定する「メンバーシップ関数部分(前件部)」、Wfを決定するとともに入力および出力の関係をルールとして取り出すことが可能な「ファジィルール部分(後件部)」、「出力層」の4層から成り立っている(図10参照)。FNNのモデル構造を決定する結合荷重にはWc、Wg、Wfがある。結合荷重Wcは、メンバーシップ関数に用いられるシグモイド関数の中心位置、Wgは中心位置での傾きを決定する(図11参照)。モデル内では、入力値がファジィ関数により、人間の感覚的に近い柔軟性を持って表現される(一例として図10の左下の吹き出しを参照)。結合荷重Wfは各ファジイ領域の推定結果に対する寄与を表しており、Wfよりファジィルールを導くことができる。即ち、モデル内の構造はあとから解読でき、ルールとして書き起こすことができる(一例として図10中右下の吹き出しを参照)。
FNN解析におけるファジィルールの作成には結合荷重のひとつであるWf値が用いられる。Wf値が正の値で大きいと、そのユニットは「予測に有効である」と判定されることに対する寄与が大きく、そのルールに当てはまった指標は「有効である」と判断される。Wf値が負の値で小さいと、そのユニットは「予測に有効でない」と判定されることに対する寄与が大きく、そのルールに当てはまった指標は「有効でない」と判断される。
より具体的な例として、ステップS209での計算モデル構築部47は、以下の(A)から(H)の処理により、上記の計算モデルを求める。
(A)計算モデル構築部47は、複数の指標のうちから1つの指標を選択する。
(B)計算モデル構築部47は、(A)で選択された指標を変数とした計算式により、各々の顕微鏡画像のセットでのがん細胞の数(予測値)を求める。
仮に、1つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1」(但し、「Y」はがん細胞の計算値(例えばがん細胞の増加数を示す値)、「X1」は上記の選択された指標の値、「α」はX1に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。このとき、計算モデル構築部47は、αに任意の値を代入するとともに、X1に各セットにおける値をそれぞれ代入する。これにより、各セットでのがん細胞の計算値(Y)が求められる。
(C)計算モデル構築部47は、各々の顕微鏡画像のセットについて、(B)で求めた計算値Yと、実際のがん細胞の数(教師値)との誤差をそれぞれ求める。なお、上記の教師値は、ステップS201で読み込んだがん細胞の数の情報に基づいて、計算モデル構築部47が求めるものとする。
そして、計算モデル構築部47は、各顕微鏡画像のセットでの計算値の誤差がより小さくなるように、教師付き学習により上記の計算式の係数αを修正する。
(D)計算モデル構築部47は、上記の(B)および(C)の処理を繰り返し、上記(A)の指標について、計算値の平均誤差が最も小さくなる計算式のモデルを取得する。
(E)計算モデル構築部47は、複数の指標の各指標について、上記(A)から(D)の各処理を繰り返す。そして、計算モデル構築部47は、各指標における計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなる指標を、評価情報の生成に用いる(評価情報を計算する計算モデルを構築するために用いる)1番目の指標とする。
(F)計算モデル構築部47は、上記(E)で求めた1番目の指標と組み合わせる2番目の指標を求める。このとき、計算モデル構築部47は、上記の1番目の指標と残りの127の指標とを1つずつペアにしてゆく。次に、計算モデル構築部47は、各々のペアにおいて、計算式でがん細胞の予測誤差を求める。
仮に、2つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1+βX2」(但し、「Y」はがん細胞の計算値、「X1」は1番目の指標の値、「α」はX1に対応する係数値、「X2」は、選択された指標の値、「β」はX2に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。そして、計算モデル構築部47は、上記の(B)および(C)と同様の処理により、計算値の平均誤差が最も小さくなるように、上記の係数α、βの値を求める。
その後、計算モデル構築部47は、各々のペアで求めた計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなるペアを求める。そして、計算モデル構築部47は、平均誤差が最も低くなるペアの指標を、評価情報の生成に用いる1番目および2番目の指標とする。
(G)計算モデル構築部47は、所定の終了条件を満たした段階で演算処理を終了する。例えば、計算モデル構築部47は、指標を増やす前後の各計算式による平均誤差を比較する。そして、計算モデル構築部47は、指標を増やした後の計算式による平均誤差が、指標を増やす前の計算式による平均誤差より高い場合(または両者の差が許容範囲に収まる場合)には、ステップS209の演算処理を終了する。
(H)一方、上記(G)で終了条件を満たさない場合、計算モデル構築部47は、さらに指標の数を1つ増やして、上記(F)および(G)と同様の処理を繰り返す。これにより、上記の計算モデルを求めるときに、ステップワイズな変数選択によって指標の絞り込みが行われることとなる。
このようにして、計算モデル構築部47は、一例としては、FNN解析によって計算モデルを求めるが、この計算モデルを求める場合に、計算モデル構築部47は、連続性判定部46による判定結果に基づいて、特徴量の中から計算モデルを構築する特徴量を抽出し、当該抽出した特徴量に基づいて、計算モデルを構築する。
たとえば上述したように、計算モデル構築部47は、特徴量判定部45および連続性判定部46により、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると、連続して判定されていると判定される特徴量に基づいて、計算モデルを構築する。
ここで、連続性判定部46により、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると、連続して判定されていると判定される特徴量は、偶然に、または、一過的に、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適していると判定された特徴量に対比して、より、安定して、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適している。
そのため、上述したようにして構築された計算モデルは、細胞を評価する場合の安定性が高くなる。すなわち、計算モデルの頑強性(ロバストネス)が向上する。
また、たとえば、計算モデル構築部47は、上述した(A)から(E)の処理により、いずれかの指標を評価情報の生成に用いる1番目の指標とする。このとき、計算モデル構築部47は、連続性判定部46による判定結果に基づいて、特徴量の中から計算モデルを構築する特徴量を抽出し、当該抽出した特徴量を、この1番目の指標としてもよい。たとえば、計算モデル構築部47は、図8を用いて説明した「Elliptical form Factor」という特徴量の8.00日目の値を、1番目の指標として、計算モデルを構築してもよい。次に、計算モデル構築部47は、図8を用いて説明した「Fiber Breadth」という特徴量の4.67日目の値を、2番目の指標として、計算モデルを構築してもよい。
この場合も、細胞について評価する対象となる特性を評価することが適している指標を用いて順に計算モデルが構築されるため、連続性判定部46は、細胞を評価する場合の安定性が高い計算モデルを構築することができる。
また、この場合、計算モデル構築部47による(A)から(E)の処理時間(処理の負荷やステップ数)に対比して、特徴量判定部45と連続性判定部46とによる上述した処理の処理時間が短い場合には、計算モデルを構築する処理時間を短縮することもできる。
なお、ここでは、計算モデル構築部47が、FNN解析によって上記の計算モデルを求める場合について説明したが、計算モデルを求める方法はFNN解析に限られるものではない。たとえば、計算モデル構築部47は、上述した複数の特徴量を説明変量として、細胞の特性を評価する任意の形式の多変量解析により計算モデルを構築してもよい。この多変量解析とは、重回帰分析、判別分析、ロジスティック回帰分析、または、主成分分析などであってもよい。この場合、計算モデル構築部47は、計算モデルを構築する場合に、連続性判定部46による判定結果に基づいて、特徴量に重み付けをして計算モデルを構築してもよい。
なお、計算モデル構築部47は、連続性判定部46による判定結果に基づいて、特徴量の中から計算モデルを構築する特徴量(指標)を抽出し、当該抽出した特徴量に基づいて、計算モデルを構築する場合に、次のようにして特徴量(指標)を抽出してもよい。
たとえば、連続性判定部46は、細胞について評価する対象となる特性を特徴量により評価することが適していると特徴量判定部45により判定されている回数、または、当該判定結果が連続している回数を、特徴量毎に算出する。そして、計算モデル構築部47は、判定されている回数、または、当該判定結果が連続している回数が多い特徴量(または指標)を、優先して選択してもよい。また、計算モデル構築部47、このような特徴量(または指標)に対して、より、重みを重くするようにしてもよい。
また、たとえば、連続性判定部46は、細胞について評価する対象となる特性を特徴量により評価することが、より適していると特徴量判定部45により判定されている特徴量(または指標)を、優先して選択してもよい。また、計算モデル構築部47、このような特徴量(または指標)に対して、より、重みを重くするようにしてもよい。なお、ここでいう「より適している」とは、たとえば図8においては、「検定値がより小さい値であること」である。
このようにすることにより、計算モデル構築部47は、特徴量判定部45による判定結果と連続性判定部46による判定結果とに基づいて、計算モデルを構築することにより、より安定した計算モデルを構築することができる。
(細胞を価処する場合の処理の例)
次に、図12の流れ図を用いて、第1の実施形態による細胞評価装置が、評価対象となる細胞に対して評価する場合の処理について説明する。ここでは、評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータが、記憶部43に記憶されているものとして説明する。なお、評価対象の顕微鏡画像は、細胞群を培養した培養容器19をインキュベータ11によって同一視野を同一の撮影条件でタイムラプス観察して取得されたものとする。また、この場合のタイムラプス観察は、図5の例と条件を揃えるために、培養開始から0.33日目(8時間目)経過後を初回として0.33日(8時間)おきに13.67日目まで行われているものとする。
ステップS301:CPU42は、評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータを、画像入力部51を介して記憶部43から読み込む。次に、CPU42の特徴量演算部44は、読み込んだ評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータに対して、図5のステップS203、ステップS204、および、ステップS205の場合と同様に、複数の特徴量を抽出する。
ステップS302:CPU42の推定部48は、記憶部43から計算モデルの情報(図5のステップS212で記録されたもの)を読み込む。
ステップS304:CPU42の推定部48は、ステップS301で求めた複数の特徴量を、ステップS302で読み出した計算モデルに代入して演算を行う。そして、CPU42の推定部48は、上記の演算結果に基づいて、評価対象の顕微鏡画像に対しての評価を示す評価情報を生成する。その後、CPU42の推定部48は、この評価情報を不図示のモニタ等に表示させる。以上で、図12の説明を終了する。
このようにして、本実施形態による細胞評価装置は、MSC細胞の分化状態を判定するめにアルカリフォスファターゼ染色を行う場合に対比して、細胞の画像のみにより、細胞の分化状態を判定することができる。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、比較的簡易な手法で細胞を評価することができる。
また、図12を用いて説明したように、CPU42の推定部48は、図5から図11を用いて説明したような、細胞を評価する場合の安定性が高く、頑強性(ロバストネス)が向上されている計算モデルに基づいて、評価情報を算出する。そのため、本実施形態による細胞評価装置から出力される評価情報は、安定性が高く、頑強性(ロバストネス)が向上されていることになる。たとえば、本実施形態による細胞評価装置は、MSC細胞が骨となったか否かを、より安定して評価することができる。
また、本実施形態によれば、制御装置41は、タイムラプス観察で取得した顕微鏡画像を用いて、特徴量に基づいて細胞を精度よく評価することができる。また、本実施形態の制御装置41は、ありのままの細胞を評価対象にできるので、例えば医薬品のスクリーニングや再生医療の用途で培養される細胞を評価するときに極めて有用である。
なお、本実施形態では、顕微鏡画像から細胞を評価する例を説明したが、例えば、制御装置41を、顕微鏡画像からがん細胞の混在率を評価することに用いることや、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)の分化誘導の度合いの評価に用いることも可能である。また、本実施形態で求めた評価情報は、評価対象の培養細胞群における分化・脱分化・腫瘍化・活性劣化・細胞のコンタミネーション等の異常検出手段や、評価対象の培養細胞群の品質を工学的に管理するときの手段として用いることができる。
また、本実施形態による細胞評価装置は、画像に基づいて細胞を評価する。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、細胞に対して非侵襲に、細胞を評価することができる。よって、細胞を培養しながら、その細胞そのものを撮像した画像に基づいて、細胞を評価することができる。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、細胞の培養において、好適である。
<第2の実施形態>
次に、図13を用いて、この発明の第2の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータの構成について説明する。同図において図1の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。なお、ここでは、がん細胞の数(予測値)を求める場合について説明するが、第1の実施形態のように、骨となるか否かについて評価する場合も、同様である。
図13に示されている第2の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータは、図1に示された第1の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータに対して、更に、度数分布演算部49を備えている。
この度数分布演算部49は、特徴量演算部44により抽出された特徴量について、各々の画像に対応する特徴量の度数分布を、複数の特徴量の種類ごとに生成する。そして、度数分布演算部49は、特徴量の度数分布を、特徴量として計算モデル構築部47に出力する。たとえば、度数分布演算部49は、特徴量の度数分布を、指標として計算モデル構築部47に出力する。なお、この度数分布演算部49は、各々の度数分布における度数の区分を、特徴量の種類ごとの標準偏差を用いてそれぞれ正規化してもよい。
そして、計算モデル構築部47は、第1の実施形態において説明した特徴量演算部44により求められた特徴量と、度数分布演算部49により求められた度数分布とを、それぞれ指標として、計算モデルを構築する。すなわち、計算モデル構築部47は、第1の実施形態において説明した特徴量演算部44により求められた特徴量という指標と、度数分布演算部49により求められた度数分布という指標とを、任意に組み合わせて、計算モデルを構築する。
なお、計算モデル構築部47は、画像間での度数分布の変化に基づいて、計算モデルを構築してもよい。また、計算モデル構築部47は、画像間での度数分布の差分を用いて、計算モデルを構築してもよい。また、計算モデル構築部47は、複数の特徴量の種類毎に生成された度数分布の変化の情報に基づいて、計算モデルを構築してもよい。
また、計算モデル構築部47は、画像の撮影時間および特徴量の種類がそれぞれ異なる複数の度数分布の組み合わせのうちから、計算モデルの構築に用いる度数分布の組み合わせを抽出し、計算モデルを構築してもよい。
次に、図14を用いて、第2の実施形態による細胞評価装置の動作について説明する。なお、同図において、図5を用いて説明した第1の実施形態による細胞評価装置の動作と同一のステップについては同一のステップ番号を付し、その説明を省略し、相違点のみについて説明する。
この図14に示されている第2の実施形態による細胞評価装置の動作は、図5に示されている第1の実施形態による細胞評価装置の動作に対比して、ステップS206とS209との間に、ステップS207とS208とが更に追加されている。
ここでは、培養容器19のタイムラプス観察は、培養開始から8時間経過後を初回として、8時間おきに72時間目まで行われている場合について説明する。そのため、細胞評価装置は、培養容器19および観察ポイントが共通するサンプルの顕微鏡画像について、9枚分(8h,16h,24h,32h,40h,48h,56h,64h,72h)を1セットとして取得することになる。なお、ここでは、複数の培養容器19がそれぞれタイムラプス観察されており、上記のサンプルの顕微鏡画像が複数セット分、記憶部43に予め記憶されているものとして説明する。
この図14の場合、ステップS206において、CPU42は、全ての顕微鏡画像が処理済み(全てのサンプルの顕微鏡画像で各細胞の特徴量が取得済みの状態)であるか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、CPU42はステップS207に処理を移行させる。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、CPU42はステップS202に戻って、未処理の他の顕微鏡画像を処理対象として上記動作を繰り返す。
ステップS207:度数分布演算部49は、各々の顕微鏡画像について特徴量の種類ごとにそれぞれ特徴量の度数分布を求める。したがって、ステップS207での度数分布演算部49は、1回の観察で取得される顕微鏡画像に対して16種類の特徴量の度数分布を求めることとなる。
ステップS208:計算モデル構築部47は、特徴量の種類ごとにそれぞれ上記の度数分布の経時的変化を求める。
ステップS208での計算モデル構築部47は、1セット分の顕微鏡画像から取得した度数分布(9×16)のうち、特徴量の種類が同じで撮影時間の異なる2つの度数分布を組み合わせる。一例として、計算モデル構築部47は、特徴量の種類が同じで撮影時間の異なる9つの度数分布について、8時間目および16時間目の度数分布と、8時間目および24時間目の度数分布と、8時間目および32時間目の度数分布と、8時間目および40時間目の度数分布と、8時間目および48時間目の度数分布と、8時間目および56時間目の度数分布と、8時間目および64時間目の度数分布と、8時間目および72時間目の度数分布とをそれぞれ組み合わせる。つまり、1セット分における1種類の特徴量に注目したとき、その特徴量の度数分布につき、計8通りの組み合わせが発生する。
そして、計算モデル構築部47は、上記8通りの組み合わせについて、以下の式(4)により度数分布の変化量(画像間での度数分布の差分の絶対値を積分したもの)をそれぞれ求める。
但し、式(4)において、「Control」は初期状態の度数分布(8時間目)における1区間分の度数(細胞数)を示す。また、「Sample」は、比較対象の度数分布における1区間分の度数を示す。また、「i」は、度数分布の区間を示す変数である。
計算モデル構築部47は、特徴量の種類ごとに上記演算を行うことで、すべての特徴量についてそれぞれ8通りの度数分布の変化量を取得できる。すなわち、1セット分の顕微鏡画像について、16種類×8通りで128の度数分布の組み合わせをとることができる。ここでは、上記の度数分布の組み合わせの1つを単に「指標」と表記する。なお、ステップS208での計算モデル構築部47は、複数の顕微鏡画像のセットにおいて、各指標に対応する128の度数分布の変化量をそれぞれ求めることはいうまでもない。
ステップS211:計算モデル構築部47は、128の指標のうちから、細胞の培養状態をよく反映する指標を多変量解析により1以上指定する。この指標の組合せの選択は、後述するファジーニューラルネットワークと同等の非線形モデル以外にも、細胞とその形態の複雑性に応じて線形モデルの利用も有効である。このような指標の組合せの選択と共に、計算モデル構築部47は、上記の指定された1以上の指標を用いて、顕微鏡画像からがん細胞の数を導出する計算モデルを求める。
<ステップS207の一例>
次に、ステップS207の一例について詳細に説明する。
ステップS207において、度数分布演算部49は、上述したように、各々の顕微鏡画像について特徴量の種類ごとにそれぞれ特徴量の度数分布を求める。したがって、ステップS207での度数分布演算部49は、1回の観察で取得される顕微鏡画像に対して16種類の特徴量の度数分布を求めることとなる。
ここで、度数分布演算部49は、各々の度数分布において、特徴量の各区分に対応する細胞の数を頻度(%)として求めるものとする。また、ステップS207での度数分布演算部49は、上記の度数分布における度数の区分を、特徴量の種類ごとの標準偏差を用いて正規化する。
ここでは一例として、「Shape Factor」の度数分布での区分を決定する場合を説明する。
まず、度数分布演算部49は、各々の顕微鏡画像から求めた全ての「Shape Factor」の値の標準偏差を算出する。次に、度数分布演算部49は、上記の標準偏差の値をFisherの式に代入して、「Shape Factor」の度数分布における度数の区分の基準値を求める。このとき、度数分布演算部49は、全ての「Shape Factor」の値の標準偏差(S)を4で除するとともに、小数点以下3桁目を四捨五入して上記の基準値とする。なお、本実施形態での度数分布演算部49は、度数分布をヒストグラムとして図示する場合、20級数分の区間をモニタ等に描画させるものとする。
一例として、「Shape Factor」の標準偏差Sが259のとき、259/4=64.750から「64.75」が上記の基準値となる。そして、注目する画像の「Shape Factor」の度数分布を求めるとき、度数分布演算部49は、「Shape Factor」の値に応じて0値から64.75刻みで設定された各クラスに細胞を分類し、各クラスでの細胞の個数をカウントすればよい。
このように、度数分布演算部49が、特徴量の種類毎に標準偏差で度数分布の区分を正規化するため、異なる特徴量の間でも度数分布の傾向を大局的に近似させることができる。よって、本実施形態では、異なる特徴量間で細胞の培養状態と度数分布の変化との相関を求めることが比較的容易となる。
ここで、図15(a)は、がん細胞の初期混在率が0%のときの「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。図15(b)は、がん細胞の初期混在率が6.7%のときの「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。図15(c)は、がん細胞の初期混在率が25%のときの「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。
また、図15(d)は、がん細胞の初期の混在率が0%のときの「Fiber Length」の経時的変化を示すヒストグラムである。ただし、この図では理解しやすさのため、ヒストグラムをFiber Length=323までで省略してある。図15(e)は、がん細胞の初期の混在率が6.7%のときの「Fiber Length」の経時的変化を示すヒストグラムである。図15(f)は、がん細胞の初期の混在率が25%のときの「Fiber Length」の経時的変化を示すヒストグラムである。
ここで、本実施形態において度数分布の経時的変化に注目する理由を説明する。図16は、正常な細胞群(がん細胞の初期混在率0%)をインキュベータ11で培養してタイムラプス観察したときの顕微鏡画像をそれぞれ示す。なお、図16の各顕微鏡画像から求めた「Shape Factor」の度数分布を示すヒストグラムは、図15(a)で示している。
この場合、図16の各画像では時間の経過に伴って細胞の数は増加するものの、図15(a)に示す「Shape Factor」のヒストグラムでは、各画像に対応する度数分布はいずれもほぼ同じ形状を保っている。
一方、図17は、正常な細胞群に予めがん細胞を25%混在させたものをインキュベータ11で培養してタイムラプス観察したときの顕微鏡画像をそれぞれ示す。なお、図17の各顕微鏡画像から求めた「Shape Factor」の度数分布を示すヒストグラムは、図15(c)で示している。
この場合、図17の各画像では時間の経過に伴って、正常細胞と形状の異なるがん細胞(丸みを帯びた細胞)の比率が増加する。これにより、図15(c)に示す「ShapeFactor」のヒストグラムでは、時間の経過に応じて各画像に対応する度数分布の形状に大きな変化が現れる。よって、度数分布の経時的変化が、がん細胞の混在と強い相関を有することが分かる。本発明者らは、上記知見に基づいて、度数分布の経時的変化の情報から培養細胞の状態を評価するものである。
<ステップS211の一例>
ここで、第2の実施形態におけるステップS211で実行される処理の一例について説明する。この場合、ステップS209での計算モデル構築部47は、以下の(A)から(H)の処理により、上記の計算モデルを求める。ここでは、指標として、上述した度数分布の経時的変化の情報を用いた場合について説明する。すなわち、128の指標を用いる場合について説明する。
(A)計算モデル構築部47は、128の指標のうちから1つの指標を選択する。
(B)計算モデル構築部47は、(A)で選択された指標による度数分布の変化量を変数とした計算式により、各々の顕微鏡画像のセットでのがん細胞の数(予測値)を求める。
仮に、1つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1」(但し、「Y」はがん細胞の計算値(例えばがん細胞の増加数を示す値)、「X1」は上記の選択された指標に対応する度数分布の変化量(ステップS208で求めたもの)、「α」はX1に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。このとき、計算モデル構築部47は、αに任意の値を代入するとともに、X1に各セットにおける度数分布の変化量をそれぞれ代入する。これにより、各セットでのがん細胞の計算値(Y)が求められる。
(C)計算モデル構築部47は、各々の顕微鏡画像のセットについて、(B)で求めた計算値Yと、実際のがん細胞の数(教師値)との誤差をそれぞれ求める。なお、上記の教師値は、ステップS201で読み込んだがん細胞の数の情報に基づいて、計算モデル構築部47が求めるものとする。
そして、計算モデル構築部47は、各顕微鏡画像のセットでの計算値の誤差がより小さくなるように、教師付き学習により上記の計算式の係数αを修正する。
(D)計算モデル構築部47は、上記の(B)および(C)の処理を繰り返し、上記(A)の指標について、計算値の平均誤差が最も小さくなる計算式のモデルを取得する。
(E)計算モデル構築部47は、128の各指標について、上記(A)から(D)の各処理を繰り返す。そして、計算モデル構築部47は、128の各指標における計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなる指標を、評価情報の生成に用いる1番目の指標とする。
(F)計算モデル構築部47は、上記(E)で求めた1番目の指標と組み合わせる2番目の指標を求める。このとき、計算モデル構築部47は、上記の1番目の指標と残りの127の指標とを1つずつペアにしてゆく。次に、計算モデル構築部47は、各々のペアにおいて、計算式でがん細胞の予測誤差を求める。
仮に、2つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1+βX2」(但し、「Y」はがん細胞の計算値、「X1」は1番目の指標に対応する度数分布の変化量、「α」はX1に対応する係数値、「X2」は、選択された指標に対応する度数分布の変化量、「β」はX2に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。そして、計算モデル構築部47は、上記の(B)および(C)と同様の処理により、計算値の平均誤差が最も小さくなるように、上記の係数α、βの値を求める。
その後、計算モデル構築部47は、各々のペアで求めた計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなるペアを求める。そして、計算モデル構築部47は、平均誤差が最も低くなるペアの指標を、評価情報の生成に用いる1番目および2番目の指標とする。
(G)計算モデル構築部47は、所定の終了条件を満たした段階で演算処理を終了する。例えば、計算モデル構築部47は、指標を増やす前後の各計算式による平均誤差を比較する。そして、計算モデル構築部47は、指標を増やした後の計算式による平均誤差が、指標を増やす前の計算式による平均誤差より高い場合(または両者の差が許容範囲に収まる場合)には、ステップS209の演算処理を終了する。
(H)一方、上記(G)で終了条件を満たさない場合、計算モデル構築部47は、さらに指標の数を1つ増やして、上記(F)および(G)と同様の処理を繰り返す。これにより、上記の計算モデルを求めるときに、ステップワイズな変数選択によって指標の絞り込みが行われることとなる。
これにより、第1の実施形態の場合と同様に、指標に対応する度数分布の変化量を用いて、第2の実施形態でも計算モデルを構築することができる。なお、第2の実施形態のいては、指標に対応する度数分布の変化量を用いて計算モデルが構築されている。そのため、第2の実施形態による計算モデルは、第1の実施形態による計算モデルに対比して、より精度を高くすることができる。
このようにして、第2の実施形態により、上記の計算モデルの指標として、『「Shape Factor」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Perimeter」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Length」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』との3つを用いた場合、がん細胞の予測精度が93.2%となる計算モデルを得ることができた。
また、上記の計算モデルの指標として、『「Shape Factor」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Fiber Breadth」の8時間目、56時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「relative hole area」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Shape Factor」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、64時間目の度数分布の組み合わせ』との6つを用いた場合、がん細胞の予測精度が95.5%となる計算モデルを得ることができた。
なお、上記に説明した図14のステップS207の処理においては、度数分布演算部49は、8時間目を基準として、1種類の特徴値に対して8通りの指標を求め、16種類の特徴値に対して合計128(16種類×8通り)の指標を求めた。しかし、指標としてはこれに限られるものではなく、評価情報生成部46は、8時間目、16時間目、24時間目、32時間目、40時間目、48時間目、56時間目、64時間目、および、72時間目の各々を基準として、1種類の特徴値に対して36(=9×8÷2)通りの指標をそれぞれ求め、16種類の特徴値に対して合計576(16種類×36通り)の指標を求めてもよい。
このような基準となる時刻が異なる指標を用いることにより、計算モデル構築部47は、より予測精度が高い計算モデルを構築することができる。
なお、指標としては、第2の実施形態において説明した度数分布の経時的変化の情報と、第1の実施形態において説明した各時刻ごとの特徴量の値とを、任意に組み合わせてもよい。これにより、計算モデル構築部47は、より予測精度が高い計算モデルを構築することができる。
次に、図18の流れ図を用いて、第2の実施形態による細胞評価装置が、評価対象となる細胞に対して評価する場合の処理について説明する。ここでは、図12を用いて説明した第1の実施形態による細胞評価装置が、評価対象となる細胞に対して評価する場合の処理との相違点のみについて説明する。
この図18の流れ図においては、図12の流れ図に対して、ステップS302とステップS304との間に、ステップS303が追加されている。このステップS303において、計算モデル構築部47は、特徴量の種類ごとにそれぞれ上記の度数分布の経時的変化を求める。これは、上記に図14のステップS208において説明した処理と同様の処理である。ただし、ステップS303とステップS208とでは、対象とする画像が異なる。
その後、図18のステップS304において、CPU42の推定部48は、ステップS301で求めた複数の特徴量と、ステップS303で求めた度数分布の経時的変化とを、ステップS302で読み出した計算モデルに代入して演算を行う。これにより、第2の実施形態によるCPU42の推定部48は、複数の特徴量と、度数分布の経時的変化とを指標として、細胞を評価することができる。
なお、図13の説明においては、度数分布演算部49は、CPU42に備えられているものとして説明した。しかし、この度数分布演算部49は、特徴量演算部44に備えられていてもよい。また、度数分布演算部49と特徴量演算部44とは、一体として構成されていてもよい。また、この度数分布演算部49は、推定部48に、備えられていてもよい。
<実施例>
以下、上記に説明した第1または第2の実施形態の1実施例として、筋芽細胞の分化予測の例を説明する。この筋芽細胞の分化予測は、例えば、心臓病治療の一つとして行われる筋芽細胞シート移植での品質管理や、筋組織の再生治療での品質管理などで応用が期待されている。
筋芽細胞の培養時に血清濃度の低下により培地の成分を変化させると、筋芽細胞から筋管細胞への分化が起こり、筋肉組織を作ることができる。図19(a)は筋芽細胞の培養状態の一例を示し、図19(b)は筋芽細胞を分化させた状態の例を示している。
また、図20、図21は、筋芽細胞の培養時における「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。図20は、筋芽細胞に分化が認められた場合(血清4%)における0時間目および112時間目の「Shape Factor」の度数分布をそれぞれ示している。図21は、筋芽細胞に分化が認められない場合(高血清状態)における0時間目および112時間目の「Shape Factor」の度数分布をそれぞれ示している。なお、図20、図21では、0時間目の度数分布をそれぞれ破線で示し、112時間目の度数分布をそれぞれ実線で示す。
図20の2つのヒストグラムを比較すると、両者の形状は大きな変化を示す。一方、図21の2つのヒストグラムを比較すると、両者の形状にはさほど大きな変化はみられない。そのため、筋芽細胞の分化度(分化する筋芽細胞の混在率)の変化に応じて、ヒストグラムにも変化が生じることが分かる。
ここで、実施例では、第1または第2の実施形態のインキュベータによって、筋芽細胞の72個のサンプルについてそれぞれ8時間間隔で5日目までタイムラプス観察を行った。そして、制御装置(細胞評価装置)は、以下の2段階の処理によって筋芽細胞の分化予測を行った。
第1段階では、上記の計算モデルの生成処理に準拠して、筋芽細胞の分化の有無を二者択一的に判別する2群判別モデルを制御装置に生成させた。具体的には、制御装置は、観察開始後8時間目から32時間目までの顕微鏡画像から得られる全指標のうちから指標を選択し、筋芽細胞の分化度を求める第1判定モデルと、第1判定モデルで求めた分化度から閾値で分化の有無を判別する第2判定モデルとを構築した。そして、制御装置は、上記の第1判定モデルおよび第2判定モデルによる判別分析で、72個のサンプルをそれぞれ分化の有無に応じて2つのグループに分別した。その結果、制御装置は、72個のサンプルで分化の有無をいずれも正しく判別できた。
第2段階では、上記の計算モデルの生成処理に準拠して、筋芽細胞の5日目(120時間目)の分化度を予測する予測モデルを制御装置に生成させた。実施例では、72個のサンプルのうち、第1段階の処理で「分化する」と判別された42個のサンプルのみを用いて、制御装置により2種類の予測モデル(第1の予測モデル、第2の予測モデル)を構築した。
第1の予測モデルは、『「Breadth」の8時間目、48時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、32時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Inner radius」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Length」の8時間目、104時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Hole area」の8時間目、96時間目の度数分布の組み合わせ』との5つの指標を用いた予測モデルである。
図22は、実施例における第1の予測モデルでの各サンプルの予測結果を示すグラフである。図22の縦軸は、第1の予測モデルが予測した5日目のサンプルの分化度を示している。図22の横軸は、5日目の時点でサンプルの分化度を熟練者が評価した値(見かけの分化度)を示している。そして、図22では、1つのサンプル毎に1つの点がグラフ上にプロットされる。なお、図22において、グラフの右上から左下に延びる直線の近くに点がプロットされるほど、予測の精度が高いこととなる。この第1の予測モデルでは、分化の予測精度(正答率)が90.5%(誤差±5%)となった。
また、第2の予測モデルは、『「Breadth」の8時間目、48時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、32時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Inner radius」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Orientation(細胞配向性)」の8時間目、16時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Modified Orientation(細胞の向きのバラツキ度)」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』との5つの指標を用いた予測モデルである。
なお、上記の「Orientation」は、各細胞の長軸と画像の水平方向(X軸)とがなす角度を示す特徴量である。この「Orientation」の値が同じであれば、細胞は同じ方向に配向していることとなる。また、上記の「Modified Orientation」は、フィルタリングにより画像内の細胞をデフォルメした状態で各細胞の角度を数値化し、そのバラツキを算出した特徴量である。この「ModifiedOrientation」の値は、細胞の角度が多様であるほど大きな値を示す特性をもつ。
図23は、実施例における第2の予測モデルでの各サンプルの予測結果を示すグラフである。この図23の見方については、図22と同様であるので重複説明は省略する。この第2の予測モデルでは、2日目(48時間目)までの観察結果に基づいて分化の予測を行い、その予測精度が85.7%(誤差±5%)となった。したがって、本実施例での第2の予測モデルによれば、通常では非常に困難な筋細胞の分化予測を、2日目までの観察結果によって高い精度で定量予測できた。
図24は、本実施形態の細胞評価装置を用いた細胞の培養方法を説明するためのフローチャートである。本フローチャートでは、増殖させたい所望の細胞が培養されている培養容器19が、インキュベータ11のストッカー21が有する複数の棚のうちのいずれかに、収納されているものとして説明する。
まず、ステップS1201において、CPU42は、予め決められた培養条件(例えば所定の温度、湿度等)で細胞を培養するよう温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを制御する。所定期間経過後、ステップS1202において、CPU42は、記憶部43から読み出した本発明の実施形態の細胞評価プログラムを実行し、細胞を評価する。ここで、CPU42は、細胞における特性を評価してもよい。
次に、ステップS1203において、CPU42は、細胞の評価結果に基づき、培養を中止するか、培養条件を変更するか、または現在の培養条件で培養を続行するか判定する。
次に、ステップS1204において、CPU42が培養を中止すると判定した場合(ステップS1204 YES)、CPU42は培養の中止を示す情報を不図示のモニタ等に表示させ、処理を終了する。
一方、CPU42は培養を中止すると判定しなかった場合(ステップS1204 NO)、CPU42はステップS1205の処理に進む。
次に、ステップS1205において、CPU42が培養条件を変更すると判定した場合(ステップS1205 YES)、CPU42は、細胞の状態の評価結果と関係付けられた培養条件(例えば所定の温度、湿度等)に変更するよう温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを制御する(ステップS1206)。その後、CPU42は、ステップS1202に処理を戻す。
一方、CPU42が現在の培養条件で培養を続行すると判定した場合(ステップS1205 NO)、CPU42はステップS1207に処理を進める。
次に、ステップS1207において、CPU42は、予め決められた時間の経過毎に、撮像装置34により撮像された画像から、細胞が撮像されている画像の領域を細胞ごとに抽出し、この抽出した細胞が撮像されている画像の領域の数すなわち細胞数を計数する。
次に、ステップS1208において、計数された細胞数が所定の細胞数に到達していない場合(ステップS1208 NO)、計数された細胞数に応じた時間が経過した後、CPU42はステップS1202に処理を戻す。
一方、計数された細胞数が所定の細胞数に到達した場合(ステップS1208 YES)、CPU42はその細胞の培養が完了した旨を示す情報を、不図示のモニタ等に表示させる。以上で、本フローチャートは、終了する。
以上により、本発明の細胞の培養方法を用いれば、細胞の評価に基づいて動的に培養条件を変更することができるので、所望の細胞を容易に増殖させることができる。
なお、図24の処理において、CPU42は、判定した結果を表示部などに表示してもよい。そして、ユーザは、この表示部に表示された結果に応じて、培養条件などを変更する情報を、入力部を介してCPU42に入力する。このようにして、CPU42は、ユーザにより入力された情報に基づいて、培養条件などを変更してもよい。
<実施形態の補足事項>
(1)上記の第1または第2の実施形態では、インキュベータ11の制御装置41に細胞評価装置を組み込んだ例を説明したが、本発明の細胞評価装置は、インキュベータ11から顕微鏡画像を取得して解析を行う外部の独立したコンピュータで構成されていてもよい(この場合の図示は省略する)。
(2)上記の第1または第2の実施形態では、評価情報の計算モデルとその指標を制御装置41がFNNによって求める例を説明した。しかし、本発明の細胞評価装置は、例えば、重回帰分析などの他の多変量解析によって、評価情報の計算モデルとその指標を求めるものでもよい。
さらに、本発明の細胞評価装置は、複数の計算モデルを組み合わせて、これらの計算モデルによる演算結果の多数決(あるいは重み付け平均)によって、最終的な評価情報を生成するようにしてもよい。この場合には、例えば、混在率の低いデータではMRAが強く、混在率の高いデータにはFNNが強いというように、一方の計算モデルでは精度の低い状況を他のモデルによってカバーすることができ、評価情報の精度をより高めることができる。
(3)また、細胞評価装置は、評価情報の計算モデルを求めるときに、最初に複数の指標を組み合わせでの計算結果を演算し、変数増減法により指標を増減させるようにしてもよい。また、データの精度が高ければ指標を全て用いても良い。
(4)上記の第1または第2の実施形態では、2つの度数分布の差分の絶対値和を用いて、度数分布の変化量を求める例を説明したが、2つの度数分布の差分の二乗和から度数分布の変化量を求めてもよい。また、上記の第1または第2の実施形態で示した計算式はあくまで一例に過ぎず、例えば2次以上のn次方程式などであってもよい。
(5)上記の実施形態や実施例に示した特徴量はあくまで一例にすぎず、評価対象の細胞の種類などに応じて他の特徴量のパラメータを採用することも勿論可能である。
なお、図1または図13における制御装置41が備える各構成は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
なお、この図1または図13の制御装置41が備える各構成は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、この制御装置41が備える各構成はメモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、制御装置41が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
また、図1または図13における制御装置41が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより制御装置41が備える各構成による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。