本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
<実施形態1>
図1には、本発明の電動工具の実施形態1を示してある。この電動工具は、図1に示すように、駆動源となる正逆転自在のモータ1(メインモータ)と、変速装置2と、出力部3とを備え、モータ1の回転動力は変速装置2を介して出力部3に伝達される。そして、本電動工具は、図1に示すように、トリガスイッチ101と、回転方向切替部102と、電源部70とを更に備える。トリガスイッチ101は電動工具のハウジング(図示せず)に対して引き込み自在に設けてあり、この引込量に応じてモータ1の出力回転数(回転数)が可変となっている。回転方向切替部102は、上記ハウジングに露出して設けてあり、モータ1の回転方向を、正転と、正転と反対向きの逆転とに切り替えるための操作部となっている。電源部70は外部電源に接続される電源コードやハウジングに着脱自在の電池パック等で主体が構成される。
また、変速装置2は、図2,3に示すように、モータ1の回転動力を減速したうえで出力部3に伝達する減速機構部4と、減速機構部4の減速比を切り替える切替機構部8とを有する。そして、モータ1、減速機構部4、出力部3は、モータ1の軸方向に沿って配置され、モータ1の回転動力はモータ1から減速機構部4を介して出力部3に伝達される。以下、モータ1の軸方向を、単に軸方向Axと記載し、方向の一基準とする。
切替機構部8は、図2,3に示すように、変速用アクチュエータ6と、変速カムプレート42とを有し、この変速用アクチュエータ6は、専用のモータ50(サブモータ)を駆動源とした回転式のアクチュエータとなっている。そして、変速用アクチュエータ6は、減速機構部4が有する切替部材7を、変速カムプレート42を介して軸方向Axにスライド移動させ、減速比の切替を行う。この点について詳しくは後述する。
また、減速機構部4は、図2,3に示すように、ギアケース9内に三段の遊星減速機構を収容してある。そして、減速機構部4は、一つの遊星減速機構の減速状態と非減速状態を切り替えることによって、減速機構部4全体の減速比を切り替える。以下においては、モータ1に近い側から順に1、2、3段目の遊星減速機構として説明を行う。
1段目の遊星減速機構は、モータ1からの回転動力によって軸中心に回転駆動される太陽ギア10と、該太陽ギア10と噛み合う複数の遊星ギア11と、各遊星ギア11に噛み合うリングギア12とを備える。遊星ギア11は太陽ギア10を囲むように位置し、リングギア12はこれら複数の遊星ギア11を囲むように位置する。1段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア11と回動自在に連結されるキャリア14と、遊星ギア11とキャリア14を連結させるキャリアピン13とをさらに備える。
2段目の遊星減速機構は、1段目のキャリア14に結合される2段目の太陽ギア20と、該太陽ギア20と噛み合う複数の遊星ギア21と、各遊星ギア21に噛み合うリングギア22とを備える。遊星ギア21は太陽ギア20を囲むように位置し、リングギア22はこれら複数の遊星ギア21を囲むように位置する。2段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア21と回動自在に連結されるキャリア24と、遊星ギア21とキャリア24を連結するキャリアピン23とをさらに備える。
リングギア22はギアケース9に対して軸方向Axにスライド自在に且つ回転自在に配される。リングギア22は、モータ1側のスライド位置にあるときに、1段目のキャリア14の外周縁部14aに噛み合い、キャリア14と一体に回転自在となる。そして、リングギア22は、出力部3側のスライド位置にあるときに、ギアケース9に形成された係合歯部40に噛み合い、ギアケース9に回転不能で保持される。更に、リングギア22はいずれのスライド位置にあっても、遊星ギア21に噛み合う。以下の本文中において、軸方向Axを基準に、モータ1側を単に「入力側」といい、出力部3側を単に「出力側」という。
3段目の遊星減速機構は、2段目のキャリア24に結合される3段目の太陽ギア30と、該太陽ギア30と噛み合う複数の遊星ギア31と、これら複数の遊星ギア31と噛み合うリングギア32とを備える。遊星ギア31は太陽ギア30を囲むように位置し、リングギア32はこれら複数の遊星ギア31を囲むように位置する。3段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア31と回動自在に連結されるキャリア(図示せず)と、このキャリアと遊星ギア31を連結させるキャリアピン(図示せず)とをさらに備える。
これら3段の遊星減速機構は、軸方向Axに連結される。つまり、1〜3段目の太陽ギア10,20,30が軸方向Axの一直線上に並設され、これらを囲むように位置する三つのリングギア12,22,32もまた軸方向Axの一直線上に並設される。
リングギア22は独立して軸方向Axにスライド自在であり、そのスライド位置に対応して減速比を切り替え、出力部3の回転出力を1速、2速に変更する。このように、本実施形態では、リングギア22が、軸方向Axにスライド自在な切替部材7をなす。
図2には1速の状態、図3には2速の状態を示している。図2の1速にある減速機構部4では、切替部材7をなすリングギア22が入力側の位置にあり、2段目の遊星減速機構が非減速状態となる。図3の2速にある減速機構部4では、切替部材7をなすリングギア22が出力側の位置にあり、2段目の遊星減速機構が減速状態となる。そのため、2速の場合は1速の場合に比べて減速比が大きく、出力部3での回転速度は小さくなる。そして、2速の場合は1速の場合に比べて出力部3での出力トルクが大きい(高い)状態となる。すなわち、ここでの1速は高速低トルク状態となっており、2速は低速高トルク状態となっている。以下、高速低トルク状態を高速状態、低速高トルク状態を低速状態と記載する。
また、切替部材7をなすリングギア22のスライド位置は、変速カムプレート42の回転位置に応じて決定される。変速カムプレート42は、筒状をなすギアケース9の外周面に沿う断面円弧状のプレートであり、ギアケース9の中心軸まわりに回転自在となるように装着される。変速カムプレート42にはカム溝41が設けてあり、カム溝41は、リングギア22のスライド移動に対応した折れ線形状を有する貫通溝となっており、カム溝41には変速ピン45が挿通されている。変速ピン45は先端部が、ギアケース9に貫通形成したガイド溝(図示せず)を通じてギアケース9内に挿入され、リングギア22の外周面の凹溝(図示せず)に係合する。ガイド溝は、減速機構部4の軸方向Axと平行に形成してある。
この変速カムプレート42は、その周方向端部にギア部47を有し、ギア部47は回転式の変速用アクチュエータ6と噛み合う。変速用アクチュエータ6は、専用のモータ50と、モータ50の回転動力を減速して伝達する伝達部51と、伝達部51を通じて伝達される回転動力により回転駆動される出力部52とを有する。つまり、変速用アクチュエータ6はモータ50が駆動することで、変速カムプレート42を介して切替部材7を軸方向Axにスライドさせる。
このように、減速機構部4は、軸方向Axにスライド自在な切替部材7と、これら切替部材7の軸方向Axのスライド位置に応じて該切替部材7との係合状態と非係合状態が切り替わるギア部材5と、を用いて形成してある。そして、ギア部材5は、1段目のキャリア14と係合歯部40となっており、切替部材7がいずれのギア部材5に係合するかに応じて、減速機構部4全体の減速比が切り替わる。
また、本電動工具は、制御部60と、モータ駆動部61と、駆動状態検知部62とをさらに備え、制御部60とモータ駆動部61には電源部70から電力が供給される。モータ駆動部61は、モータ1を駆動させるとともにモータ1の回転動力を変更させる(調整させる)ものとなっており、モータ1の回転動力を調整する駆動調整部を兼ねている。
駆動状態検知部62は、モータ1の回転方向と、モータ1の駆動状態とを検知し、その検知結果を制御部60に入力する。そして、この駆動状態の検知結果としては、例えば、モータ1にかかる負荷トルク、または上記負荷トルクの指標となる、モータ1に流れる電流値や、モータ1の回転数や、出力部3の回転数等となっている。そして、本電動工具は、駆動状態検知部62として、モータ1に流れる電流値を検知する電流検知部64と、モータ1の回転数を検知する回転数検知部63とを備える。
制御部60は、モータ駆動部61を介してモータ1を制御するモータ制御部の機能と、変速装置2を制御して変速装置2(切替機構部8)に減速比を切り替えさせる変速制御部の機能とを兼ねている。そして、制御部60は、駆動状態検知部62により検知されるモータ1の回転方向及びモータ1の駆動状態に応じて、変速装置2に変速用アクチュエータ6を起動させ、切替部材7をスライド移動させることにより減速機構部4の減速比を変更する。
更に、制御部60は、所定条件を満たした場合に、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させて、自動変速させる制御を行う。
具体的には、1速から2速への減速比の切り替えの場合、制御部60は、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させ、変速カムプレート42を回転移動させる。この回転移動に伴い、変速ピン45は、ギアケース9のガイド溝にガイドされながら、カム溝41内を入力側から出力側へとスライド駆動され、切替部材7であるリングギア22を図2に示す位置から出力側へとスライド移動させる。
スライド移動したリングギア22は、まず1段目のキャリア14との係合が解除され、切替途中の状態となる。このとき、リングギア22は、2段目の遊星ギア21に係合し、且つ、ギアケース9には回転固定されない状態にある。この切替途中の状態において、リングギア22は、1速にてキャリア14に係合していたときの回転慣性で回転を続けるが、これと同時に、モータ1により駆動される2段目の遊星ギア21からの反力によって、上記回転慣性とは反対方向の回転力を受ける。一方、リングギア22が次に係合するギア部材5である係合歯部40は、ギアケース9に対して固定されている。
制御部60は、この回転慣性と反対方向の回転力を積極的に利用して、リングギア22と係合歯部40との相対回転速度を低減させ(好ましくはゼロとする)、係合歯部40と係合する際にはリングギア22の回転速度が極力ゼロに近づくように調整する。これにより、図3のようにリングギア22が係合歯部40と係合する際の衝撃を抑制し、スムーズ且つ安定的な自動変速を実現するとともに、衝突によるギアの磨耗や破損も抑制することができる。そして、前述の通りリングギア22が係合歯部40と係合することで、減速機構部4は1速の状態から2速の状態へ自動変速され、自動変速が完了となる。
次に、2速から1速へ自動変速させる場合、制御部60は、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させ、変速カムプレート42を回転移動させる。この回転移動に伴い、変速ピン45は、ギアケース9のガイド溝にガイドされながら、カム溝41内を出力側から入力側へとスライド駆動され、切替部材7であるリングギア22を図3に示す位置から入力側へとスライド移動させる。
スライド移動したリングギア22は、まず係合歯部40との係合が解除され、切替途中の状態となる。そして、リングギア22は、切替途中の状態から更にスライド移動することで、図2に示すように、1段目のキャリア14と係合して、減速機構部4は2速の状態から1速の状態へ自動変速され、自動変速が完了となる。
加えて、制御部60は、減速比の切替動作時(自動変速時)に、変速装置2の情報検知部(図示せず)から検知した切替部材7(リングギア22)の位置に対応するかたちで、変速用アクチュエータ6の駆動を調整するように制御する。
具体的には、情報検知部は、変速用アクチュエータ6が駆動されるときに、入出力情報として、電源部70から変速用アクチュエータ6に印加された供給電圧の値を随時検知し、検知結果を制御部60に出力する。制御部60は、入力された検知結果に応じて、切替部材7が所定の目標位置に至るまでの時間あたりのスライド量を一定にさせるように変速用アクチュエータ6を制御する。つまり、制御部60は、情報検知部の検知結果に応じてモータ50の回転動力を随時変更させて、所定の時間経過時に切替部材7が所定の目標位置に至るように、変速用アクチュエータ6を駆動調整する。
これにより、電池パック(電源部70)の消耗による供給電圧の低下等に伴う切替部材7のスライド量または速度の低下に対応して、切替部材7のスライドを調整することができる。そのため、切替部材7の移動速度のばらつきに伴うスライド量不足を抑制し、切替部材7を所定の時間に所定の目標位置に到達させることができ、スムーズかつ安定な自動変速を実現する。なお、上記所定の時間とは、自動変速に要する切替時間であり、変速用アクチュエータ6の駆動時間と略同じ時間となっている。
また、変速用アクチュエータ6を起動させる所定条件(自動変速させる条件)は、駆動状態検知部62(回転数検知部63)にてモータ1の駆動状態が所定水準を越えたと検知された場合となっている。制御部60は、駆動状態検知部62にて検知されたモータ1の回転数が回転数側の閾値に達することで、駆動状態が所定水準を越えた(負荷トルクがトルク側の閾値に達した)として、変速用アクチュエータ6を起動させる。以下、特に規定しない限り、トルク側の閾値を、単に閾値と記載する。
図4は、電動工具におけるモータ1の回転数N−トルクT特性の一例を示した説明図となっており、直線L1が高速状態におけるN−T特性を示した線となっており、直線L2が低速状態におけるN−T特性を示した線となっている。そして、直線L1と直線L2は所定のトルクTで且つ所定の回転数Nの位置に交点を有し、N−T特性を基準とした場合において、自動変速させる駆動状態の最良な所定条件は、直線L1と直線L2の上記交点となっている。以下、この交点を基準点P0と記載し、基準点P0におけるトルクTの値を基準値T0と記載する。
ところで、従来の電動工具の場合、図11(a)に示すように、基準点P0が自動変速させる変速点(従来変速点P21)となっており、変速点はこの従来変速点P21の一つのみとなっている。そして、変速点が従来変速点P21一つとなっているため、高速状態から低速状態へ自動変速させる場合と、低速状態から高速状態へ自動変速させる場合とで、所定条件における負荷トルク(トルクT)の閾値T21が同じ値(基準値T0)となっている。そのため、従来変速点P21において、減速比の切替直後(自動変速直後)に、切替前の減速比に切り替える所定条件を満たしてしまい、切替直後に切替前の状態に戻る所謂キックバックを起こす恐れがある。そして、自動変速直後に、検知される負荷トルク(トルクT)や回転数Nが閾値T21,N20を介して振動する(増減する)と、自動変速を繰り返す所謂チャタリングを起こす恐れがある。以下、高速状態から低速状態へ自動変速させる場合を、高速状態から切り替える場合とし、低速状態から高速状態へ自動変速させる場合を、低速状態から切り替える場合とする。
対して、本実施形態の電動工具は、モータ1を正転で駆動した時と逆転で駆動した時の各々において、高速状態の場合と、低速状態の場合とで所定条件における負荷トルクの閾値が異なっており、各回転方向において変速点を二つ有した構成となっている。なお、以下、正転で駆動させたときを正転時、逆転で駆動させたときを逆転時とする。
本実施形態における正転時の自動変速を、図5に示すモータ1の回転数N−トルクT特性の説明図を用いて、具体的に説明する。
まず、作業進行に伴い負荷トルク(トルクT)が大きくなる(増加する)作業を、高速状態で開始し、作業終了までトリガスイッチ101の引込量を一定とした場合を例にとり、正転時における高速状態から低速状態への自動変速を説明する。なお、この作業の場合、本電動工具は、図5中の矢印Ar1に示すように、負荷トルク(トルクT)の増加に伴って検知されるモータ1の回転数N(検知結果)が低下する。以下、上記作業の場合を、Ar1の場合と記載する。
Ar1の場合において、高速状態で動作中に、負荷トルク(トルクT)の増加に伴い回転数Nが低下して、第1変速点P1に至るとき、駆動状態検知部62にて検知される回転数Nが回転数N1となる。この第1変速点P1に至ると、制御部60は、検知結果から負荷トルク(トルクT)が第1閾値T1に達して駆動状態が所定水準を越えて正転時の所定条件を満たしたとして、変速用アクチュエータ6を起動させて、低速状態に切り替えさせる(自動変速させる)。
次に、作業進行に伴い負荷トルク(トルクT)が小さくなる(低下する)作業を、低速状態で開始し、作業終了までトリガスイッチ101の引込量を一定とした場合を例にとり、正転時における低速状態から高速状態への自動変速を説明する。なお、この作業の場合、本電動工具は、図5中の矢印Ar2に示すように、負荷トルク(トルクT)の低下に伴って検知されるモータ1の回転数N(検知結果)が増加する。以下、上記作業の場合を、Ar2の場合と記載する。
Ar2の場合において、低速状態で動作中に、負荷トルク(トルクT)の低下に伴い回転数Nが増加して、第2変速点P2に至るとき、駆動状態検知部62にて検知される回転数Nが回転数N2となる。そして、第2変速点P2に至ると、制御部60は、検知結果から負荷トルク(トルクT)が第2閾値T2に達して駆動状態が所定水準を越えて正転時の所定条件を満たしたとして、変速用アクチュエータ6を起動させて、高速状態に切り替えさせる。
すなわち、回転数N1が、正転時に高速状態から切り替えさせる場合における回転数Nの閾値(回転数側の第1閾値)となっており、回転数N2が、正転時に低速状態から切り替えさせる場合における回転数Nの閾値(回転数側の第2閾値)となっている。そして、回転数N1は回転数N2に比べて、小さい値となっている。更に、第1閾値T1は基準値T0と略同じ値となっており、第2閾値T2は第1閾値T1(基準値T0)に比べて小さい値となっている。更に、所定条件は、Ar1の場合、高速状態で動作中に負荷トルク(トルクT)が第1閾値T1に達することとなっており、Ar2の場合、低速状態で動作中に負荷トルク(トルクT)が第2閾値T2に達することとなっている。そのため、Ar1の場合では、第2変速点P2における所定条件を満たすことがなく、Ar2の場合では、第1変速点P1における所定条件を満たすことがない構成となっている。
また、図6に示すように、低速状態で作業を開始し、変速点で低速状態から切り替えさせる場合において、逆転時の挙動は、図中の矢印Ar3に示すように、負荷トルク(トルクT)の低下に伴って検知されるモータ1の回転数N(検知結果)が増加する。そして、検知される回転数Nが回転数N3となる第3変速点P3に至ると、制御部60は、負荷トルク(トルクT)が第3閾値T3に達して逆転時の所定条件を満たしたとして、高速状態へ自動変速させる。
そして、第3変速点P3における回転数N3は、第2変速点P2における回転数N2に比べて小さい値となっており、第3閾値T3は基準値T0と略同じ値で、正転時の第2閾値T2に比べて大きい値となっている。
次に、図7に示すように、高速状態で作業を開始し、高速状態から切り替える場合において、逆転時の挙動は、図中の矢印Ar4に示すように、負荷トルク(トルクT)の増加に伴って検知されるモータ1の回転数N(検知結果)が低下する。そして、検知される回転数Nが回転数N4となる第4変速点P4に至ると、制御部60は、負荷トルク(トルクT)が第4閾値T4に達して逆転時の所定条件を満たしたとして、低速状態へ自動変速させる。
そして、第4変速点P4における回転数N4は、第1変速点P1における回転数N1に比べて大きい値となっており、第4閾値T4は、第1閾値T1(基準値T0)に比べて小さい値となっている。更に、第4変速点P4における回転数N4は、第3変速点P3における回転数N3に比べて大きい値となっており、第4閾値T4は、第3閾値T3に比べて小さい値となっている。
以上のように、本実施形態の電動工具は、第1変速点P1と第3変速点P3とが基準点P0に位置し、第2変速点P2と第4変速点P4とが基準点P0以外に位置した構成となっている。すなわち、本電動工具は、高速状態から切り替える場合の変速点及び低速状態から切り替える場合の変速点において、モータ1の回転方向によって所定条件(トルク側の閾値)が異なっている。
そのため、正転時に行うことが多いねじ締め作業等の作業進行に伴い負荷が増加する作業と、逆転時に行うことが多いねじ緩め作業等の作業進行に伴い負荷が低下する作業とを行う際に、最良の変速点となる基準点P0で自動変速させることができる。そのため、ねじ締め作業やねじ緩め作業等を行い易くなり、異なる回転方向でモータを駆動させる作業時の自動変速による作業効率(作業性)への影響を軽減し易くすることができる。そして、基準点P0で自動変速させたことで、切替前後での回転数の差等に起因する切替時のモータ1や切替部材7やギア部材5等の構成部材への負荷を軽減し易くなる。
更に、正転時と逆転時の各々において、高速状態から切り替える場合と低速状態から切り替える場合とでトルク側の閾値等の所定条件(変速点)が異なるため、上記作業での自動変速直後にキックバックやチャタリングを起こし難くすることができる。そのため、正転時と逆転時の両方の場合において、キックバックやチャタリングに起因する不要な自動変速による、作業効率の低下や構成部材の消耗や騒音の増大等を抑制し易くすることができる。
そして、回転数N3を回転数N2に比べて小さくしたことで、正転時に比べて早期に、低速状態に比べて回転数の大きい高速状態へ切り替わり易くすることができ、正転時に比べて早いタイミングで出力部3での回転数を上げることができる。そのため、負荷トルクが小さい場合に好ましい高速状態に早期に切り替わり易くなり、ねじ緩め作業時の負荷トルクが低下してからの作業等において、作業効率を向上させ易くすることができる。
更に、回転数N4を回転数N1に比べて大きくしたことで、作業開始時の負荷トルクが大きい場合が多い逆転時において、高速状態に比べて出力トルクの高い低速状態へ、正転時に比べて早いタイミングで切り替えることができる。そのため、負荷トルクが大きい場合に好ましい低速状態によって、正転時に比べて早期に出力部3での出力トルクを高めることができ、作業開始時の負荷トルクが大きいねじ緩め作業時等の作業効率を向上させ易くすることができる。
次に、電動工具の他の実施形態について順に述べる。なお、上述の実施形態1と同様の構成については詳しい説明を省略し、実施形態1とは相違する特徴的な構成について、主に詳述する。
<実施形態2>
本実施形態の電動工具においても、高速状態から切り替える場合の変速点及び低速状態から切り替える場合の変速点における所定条件(トルク側の閾値)が、モータ1の回転方向によって異なっている。しかし、本実施形態においては、変速用アクチュエータ6を起動させるための所定条件等が実施形態1の場合と相違する。
本実施形態の電動工具は、制御部60は、電流検知部64にて検知されたモータ1の電流値が電流値側の閾値に達することで、駆動状態が所定水準を越えた(負荷トルクが閾値に達した)として、変速用アクチュエータ6を起動させる。
図8は、電動工具におけるモータの電流値I−トルクT特性の説明図となっており、直線L3が高速状態におけるI−T特性を示した線となっており、直線L4が低速状態におけるI−T特性を示した線となっている。
そして、図8では、矢印Ar5が、作業進行に伴い負荷トルク(トルクT)が大きくなる作業を行った場合の正転時の挙動となっており、矢印Ar6が、作業進行に伴い負荷トルク(トルクT)が小さくなる作業を行った場合の正転時の挙動となっている。以下、負荷トルクが大きくなる作業の場合を、Ar5の場合と記載し、負荷トルクが小さくなる作業の場合を、Ar6の場合と記載する。
Ar5の場合において、高速状態で動作中に、負荷トルク(トルクT)の増加に伴い電流値Iが増加して、第5変速点P5に至るとき、駆動状態検知部62にて検知される電流値Iが電流値I1となる。そして、第5変速点P5に至ると、制御部60は、検知結果から負荷トルクTが第5閾値T5に達して駆動状態が所定水準を越えて所定条件を満たしたとして、変速用アクチュエータ6を起動させて、低速状態に切り替える。
次に、Ar6の場合において、低速状態で動作中に、負荷トルク(トルクT)の低下に伴い電流値Iが低下して、第6変速点P6に至るとき、駆動状態検知部62にて検知される電流値Iが電流値I2となる。そして、第6変速点P6に至ると、制御部60は、検知結果から負荷トルク(トルクT)が第6閾値T6に達して駆動状態が所定水準を越えて所定条件を満たしたとして、変速用アクチュエータ6を起動させて、高速状態に切り替える。
すなわち、電流値I1が、高速状態から切り替える場合における電流値Iの閾値(電流値側の第5閾値)となっており、電流値I2が、低速状態から切り替える場合における電流値Iの閾値(電流値側の第6閾値)となっている。そして、第5閾値T5は、基準値T0と略同じ値で、第6閾値T6に比べて大きい値となっており、電流値I1は電流値I2に比べて大きい値となっている。更に、第5変速点P5において低速状態へ切り替えたときの電流値Iとなる直線L4上の第5閾値T5に対応した電流値I1が、電流値I2に比べて大きい値となっている。
そのため、所定条件は、Ar5の場合、高速状態で動作中に負荷トルク(トルクT)が第5閾値T5に達することとなっており、Ar6の場合、低速状態で動作中に負荷トルク(トルクT)が第6閾値T6に達することとなっている。そして、Ar5の場合では、第6変速点P6における所定条件を満たすことがなく(第6変速点P6を通ることがなく)、Ar6の場合では、第5変速点P5における所定条件を満たすことがない(第5変速点P5を通ることがない)構成となっている。
また、図9に示すように、低速状態で作業を開始し、低速状態から切り替える場合において、逆転時の挙動は、図中の矢印Ar7に示すように、負荷トルク(トルクT)の低下に伴って検知されるモータ1の電流値I(検知結果)が低下する。そして、検知される電流値Iが電流値I3となる第7変速点P7に至ると、負荷トルク(トルクT)が第7閾値T7に達して所定条件を満たしたとして、自動変速される。
そして、第7変速点P7における電流値I3は、電流値I2に比べて大きい値となっており、第7閾値T7は、基準値T0と略同じで、第6閾値T6に比べて大きい値となっている。そのため、第7変速点P7において高速状態に切り替えたときの直線L3上の電流値Iは、略同じ負荷トルクの第5変速点P5における電流値I1と略同じ値となっており、電流値I3は電流値I1に比べて小さい値となっている。そして、電流値I1に対応した第5変速点P5は、電流値I3に対応した第7変速点P7とモータ1の回転方向が異なるため、第7変速点P7で切替後に、第5変速点P5でのキックバックを起こす恐れが無い構成となっている。
次に、図10に示すように、高速状態で作業を開始し、高速状態から切り替える場合において、逆転時の挙動は、図中の矢印Ar8に示すように、負荷トルク(トルクT)の増加に伴って検知されるモータ1の電流値I(検知結果)が増加する。そして、検知される電流値Iが電流値I4となる第8変速点P8に至ると、負荷トルク(トルクT)が第8閾値T8に達して所定条件を満たしたとして、自動変速される。
そして、電流値I4は、電流値I1に比べて小さい値となっており、第8閾値T8は第5閾値T5に比べて小さい値となっている。更に、第8変速点P8において高速状態に切り替えたときの直線L3上の電流値Iは、略同じ負荷トルクの第7変速点P7における電流値I3に比べて小さい値となっている。
以上のように、本実施形態の電動工具は、高速状態から切り替える場合の変速点及び低速状態から切り替える場合の変速点において、モータ1の回転方向によって所定条件(トルク側の閾値)が異なっている。
そのため、正転時に行うことが多いねじ締め作業等の負荷が増加する作業と、逆転時に行うことが多いねじ緩め作業等の負荷が低下する作業とを行う際に、最良の変速点となる基準点P0(基準値T0)で自動変速させることができる。そして、基準点P0で自動変速させたことで、ねじ締め作業やねじ緩め作業の作業効率の低下を抑制し易くなると共に、切替前後での回転数の差等に起因する切替時のモータ1や切替部材7やギア部材5等の構成部材への負荷を軽減し易くなる。
更に、正転時と逆転時の各々において、高速状態から切り替える場合と低速状態から切り替える場合とで変速点(トルク側の閾値)が異なるため、上記作業での自動変速直後にキックバックやチャタリングを起こし難くすることができる。そのため、正転時と逆転時の両方の場合において、キックバックやチャタリングに起因する不要な自動変速による、作業効率の低下や構成部材の消耗や騒音の増大等を抑制し易くすることができる。
そして、電流値I3を電流値I2に比べて大きくしたことで、正転時に比べて早期に、低速状態に比べて回転数の大きい高速状態へ切り替わり易くすることができ、正転時に比べて早いタイミングで出力部3での回転数を上げることができる。そのため、負荷トルクが小さい場合に好ましい高速状態に早期に切り替わり易くなり、ねじ緩め作業時の負荷トルクが低下してからの作業等において、作業効率を向上させ易くすることができる。
更に、電流値I4を電流値I1に比べて小さくしたことで、作業開始時の負荷トルクが大きい場合が多い逆転時において、高速状態に比べて出力トルクの高い低速状態へ、正転時に比べて早いタイミングで切り替えることができる。そのため、負荷トルクが大きい場合に好ましい低速状態によって、正転時に比べて早期に出力部3での出力トルクを高めることができ、作業開始時の負荷トルクが大きいねじ緩め作業時等の作業効率を向上させ易くすることができる。
<実施形態3>
本実施形態の電動工具においても、高速状態から切り替える場合の変速点及び低速状態から切り替える場合の変速点における所定条件(トルク側の閾値)が、モータ1の回転方向によって異なっている。しかし、本実施形態においては、変速用アクチュエータ6を起動させるための所定条件として、モータ1の回転数Nとモータ1の電流値Iの両方を用いる点で、実施形態1,2の場合と相違する。
本実施形態の電動工具は、駆動状態検知部62にて検知された回転数が回転数側の閾値に達し且つ検知された電流値が電流側の閾値に達することで、負荷トルクが閾値に達して駆動状態が所定水準を越えたとして、変速用アクチュエータ6を起動させる。そして、高速状態から切り替える場合の変速点及び低速状態から切り替える場合の変速点において、モータ1の回転方向によって所定条件(トルク側の閾値)が異なっている。
そのため、回転数と電流値の両方の閾値を満たすことで、動作中の状態に対応した変速点で自動変速させることができると共に、一方のみの閾値が検知される負荷トルクが閾値に達していない場合における自動変速の発生を抑制することができる。すなわち、回転数と電流値の両方の検知結果から、負荷トルクの閾値を検知したことで、変速点の検知精度を向上させることができ、不要な切替動作を抑制し易くすることができる。そのため、キックバックやチャタリングに起因する不要な切替動作に伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗や騒音の増大等を抑制し易くすることができる。
<実施形態4>
本実施形態の電動工具においても、高速状態から切り替える場合の変速点及び低速状態から切り替える場合の変速点における所定条件(トルク側の閾値)が、モータ1の回転方向によって異なっている。しかし、本実施形態においては、正転時又は逆転時の作業における変速点を複数有する点で、他の実施形態の場合と相違する。
本電動工具は、変速点を複数有すると共に、この変速点が各々負荷トルクの閾値が異なり、作業進行に伴い負荷トルクが小さくなる作業に用いた場合において、負荷トルクの変動に伴い複数回自動変速可能となっている。そして、制御部60は、各変速点において、回転数が回転数側の閾値に達することで、駆動状態が所定水準に達して所定条件を満たしたとして自動変速させる。
更に、高速状態で開始されたときの、高速状態から切り替える場合における最初の変速点において、逆転時における回転数(回転数側の閾値)が、正転時における回転数(回転数側の閾値)に比べて、大きい値となっている。
そのため、作業開始時の負荷トルクが大きい場合が多い逆転時において、高速状態に比べて出力トルクの高い低速状態へ、正転時に比べて早いタイミングで切り替えることができる。そのため、負荷トルクが大きい場合に好ましい低速状態によって、正転時に比べて早期に出力部3での出力トルクを高めることができ、作業開始時の負荷トルクが大きいねじ緩め作業時等の作業効率を向上させ易くすることができる。
<実施形態5>
本実施形態の電動工具においても、変速点を複数有すると共に、この変速点が各々負荷トルクの閾値が異なり、作業進行に伴い負荷トルクが小さくなる作業に用いた場合において、負荷トルクの変動に伴い複数回自動変速可能となっている。しかし、本実施形態においては、電流値を負荷トルクの指標に用いた点で、実施形態4の場合と相違する。
本電動工具は、変速点を複数有すると共に、この変速点が各々負荷トルクの閾値が異なり、作業進行に伴い負荷トルクが小さくなる作業に用いた場合において、負荷トルクの変動に伴い複数回自動変速可能となっている。そして、制御部60は、各変速点において、電流値が電流値側の閾値に達することで、駆動状態が所定水準に達して所定条件を満たしたとして自動変速させる。
更に、高速状態で開始されたときの、高速状態から切り替える場合における最初の変速点において、逆転時における電流値(電流値側の閾値)が、正転時における電流値(電流値側の閾値)に比べて、小さい値となっている。
そのため、作業開始時の負荷トルクが大きい場合が多い逆転時において、高速状態に比べて出力トルクの高い低速状態へ、正転時に比べて早いタイミングで切り替えることができる。そのため、負荷トルクが大きい場合に好ましい低速状態によって、正転時に比べて早期に出力部3での出力トルクを高めることができ、作業開始時の負荷トルクが大きいねじ緩め作業時等の作業効率を向上させ易くすることができる。
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、各実施形態において適宜の設計変更を行うことや、各実施形態の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。例えば、減速機構部4は遊星減速段に限らない。また、変速用アクチュエータ6は、回転駆動式に限らず、ソレノイド等を用いたスライド駆動式のものであってもよい。また、駆動状態検知部62はトルクセンサ等を用いて負荷トルクを直接検知し、検知した負荷トルクを検知結果として制御部60に入力するものであってもよい。また、負荷トルクの指標に回転数を用いたものにおいて、回転数検知部63は、モータ1の回転数を検知するものに限らず、出力部3の回転数を検知するものであってもよい。更に、変速点において、高速状態から切り替える場合と低速状態から切り替える場合の一方が基準点P0に位置する構成に限らず、両変速点がいずれも基準点P0に位置しない構成であってもよい。なお、制御部60による切替動作(自動変速)の制御は、減速機構部4の代わりに、モータ1の回転動力を増速したうえで出力部3に伝達する増速機構部を具備したものにも適用可能である。