JP5808098B2 - 植生制御緑化工法 - Google Patents

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Description

本発明は、法面等の施工面において、施工後初期に出現する草本植生を制御する緑化工法に関する。
道路やダム等の造成工事で発生する法面では、これまで、土壌の流亡(エロージョン)防止と急速緑化を目的として導入されたトールフェスク等の外来草本の種子を吹付ける工法が実施されてきた。しかし、トールフェスクが外来生物法において要注意外来生物に指定される等、近年になって外来生物による生態系への影響が問題化され始め、自然環境への配慮、生物多様性の保全及び景観保全の観点から、緑化工法においても外来植物種の使用を制限し、施工地周辺の在来植物種を用いて復元することに重点を置いた緑化が望まれている。
しかし、在来植物種の生産・供給には限界がある。そこで、施工地内より剥ぎ取った表土を巻出し、その表土に含まれる埋土種子(シードバンク)によって緑化させる方法が試みられている。しかし、シードバンクには施工地周辺の在来種に由来する種子だけではなく、帰化植物やメヒシバのような高茎性イネ科植物に代表される広域分布種、いわゆる雑草の種子が含まれており、表土を巻出すと、初期生育に優れた雑草が早期に施工面を優占してしまい、目的とする在来植物の生育が抑圧されてしまう問題があった。
一方、前記外来草本に代えて日本在来種である日本芝の種子を吹付ける方法もあるが、日本芝の種子は、発芽率が悪いことから急速緑化ができない。そこで、日本芝の芝生産地から盤状に切り出された芝(切り芝)を裁断して苗状(裁断苗)に加工し、植生基盤材に混合して巻出す、又は吹付ける方法も試みられている。しかし、この方法でも、切り芝に付着した芝生産地の土壌を介して該産地周辺における雑草の種子が植生基盤材に混入してしまうという問題がある。
特許文献1では、黒土及び赤土に有機質堆肥を混入して構成される植生基盤材に切り芝を解体した苗芝を混合して吹付ける緑化工法が開示されている。しかし、この工法では上述のように芝生産地の土壌が植生基盤材に混入してしまい、施工面への吹付け後、芝生産地の周囲に生えていた雑草が繁茂してしまうため、造成地の在来植物を復元することは困難である。
特許文献2では、法面にマット状成型材を固定し、その上に埋土種子を含む表土シードバンク又は在来植物の種子を含む植生基盤材を吹付け、自然景観や自然生態系を復元する工法が開示されている。しかし、この発明で用いる表土シードバンクには、在来植物だけではなく雑草の種子も多数混在しているため、表土シードバンクをそのまま吹付けると、初期生育速度の早い雑草が法面を早期に優占してしまうため、造成地の在来植物を復元することは困難である。
特許文献3では、施工地の表土より採取した埋土種子の発芽にはバラツキがあり、早期緑化が図れないことから、埋土種子と日本芝の種を別々の吹付ホースで交互に2列にして吹付け、地域自然生態系の保全を図る工法が開示されている。しかし、上記のように日本芝の種子は発芽率が低く、また日本芝自体が被覆力に劣るため、施工後初期の埋土種子の発芽の不安定さを補うことはできない。
特許文献4で、本発明者は、日本芝の苗芝吹付け工における施工後初期の雑草防除を図るために、購入客土を混合した植生基盤材に除草剤を添加する緑化工法を開示した。しかし、この工法を表土シードバンクによる緑化に適用すると除草剤によって、施工地の表土に含まれる埋土種子の発芽までも抑制されてしまうという問題があった。
上記のように、従来の緑化工法、特に法面における吹付け緑化工法では、植生基盤材に混入した初期生育速度の早い雑草が早期に繁茂してしまい、施工地周辺の在来植物からなる植生を復元することが困難であった。
特開2002-142554 特開2009-62758 特許4325892 特開2008-043221
本発明は、施工後初期における雑草の発芽を、除草剤を用いることなく抑制し、かつ施工面を施工地に自生する在来植物によって優占させる緑化工法の提供を課題とする。また、その工法によって施工地の生物多様性を保全することを目的とする。
メヒシバ等の夏雑草と呼ばれるイネ科の種子は、一般に5℃程度の低温湿潤条件下に晒すと種子休眠が打破されて覚醒し、発芽することが知られている(雑草研究,Vol.9,pp.36-40,1969)。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために当該知見に基づき研究を重ねた結果、施工地周辺で採取した表土を保存する際に、地温と土壌の湿潤度を制御することにより、表土に含まれる雑草種子の発芽を、除草剤を用いることなく、抑制できることを見出した。本発明は、当該新たな知見に基づくものであって、以下を提供する。
(1)施工地及び/又はその周辺の表土を採取する工程、採取した表土を巻出しまでの期間、非低温下及び非加水下で保存する工程、前記表土を植栽土として植生基盤材を作製する工程、植生基盤材を施工面に巻出す工程を含む施工面における施工後初期の草本植生を制御する緑化工法。
(2)植生基盤材に日本芝の苗芝を混合する工程をさらに含む、(1)に記載の緑化工法。
(3)前記苗芝を混合する工程の前に、苗芝に付着した苗芝栽培地の植栽土を除去する工程をさらに含む、(2)に記載の緑化工法。
本発明の緑化工法によれば、雑草の発芽を抑制して、施工面の草本植生を施工地域周辺の在来植物が優占するように制御することができる。
本発明の緑化工法によれば、施工地における生物多様性を保全することができる。
実施例1の各試験区において観察された草本の出現株数を示す。棒グラフにおける網掛け部分は双子葉植物を、白色部分はイネ科植物を、それぞれ示す。 実施例1の各試験区における双子葉植物の出現株数の時間的推移を示す。 実施例1の各試験区におけるイネ科植物の出現株数の時間的推移を示す。 日本芝、雑草及び地域性種苗の3群が各試験区において占める被覆率を示す。
1.発明の概要と定義
本発明の緑化工法は、施工面における施工後初期の草本植生を制御する工法である。本発明は、造成地周辺で採取した表土をシートで覆う等して、巻出しまでの期間、採取した表土を非低温下及び非加水下で保存することによって、表土に混在する雑草の種子を休眠状態に維持することで、その発芽を制御し、施工面を施工地周辺の在来植物を主体とする植物種で緑化することを特徴とする。
本発明において「施工面」とは、緑化工法の施工対象となる表面をいう。例えば、造成地で発生する法面や公園等の公共緑地、若しくは河川敷のような地表面、又は屋上緑化の対象となる屋上面、若しくは屋根面等が該当する。本発明は、特に法面への適用が好ましい。
本発明において「施工後初期」とは、本発明の工法の施工後から1年以内、好ましくは9ヶ月以内、より好ましくは6ヶ月以内、さらに好ましくは3ヶ月以内をいう。
本発明において「施工面における施工後初期の草本植生を制御する」とは、施工後初期に施工面に発生する草本を所望の植物種が優占できるように制御することをいう。例えば、通常、施工後の施工面を早期に優占する雑草の発芽を抑制し、施工地周辺の在来植物種を主体とする植物種が施工面を優占できるようにすることをいう。
「巻出し」とは、一般に、土砂を一定の厚さで層状に敷き広げることをいうが、本発明においては、表土を含む後述する植生基盤材を施工面に敷き広げる全ての作業を含む。したがって、ブルドーザー等を用いて河川敷のような平地施工面に土砂を層状に敷き広げる作業のみならず、吹付ホース等を用いて法面のような斜面に植生基盤材を吹付ける作業も包含する。
「雑草」とは、人間の管理する区域内に意図に反して侵入して、強い繁殖力によって急速に地表面を優占し、所望する植物種の侵入又は生育を抑圧する植物をいう。本発明においては、初期生育速度に優れ、かつ日本国内に広く分布する高茎性イネ科植物種やキク科植物が該当する。日本在来種又は帰化植物種は、問わない。具体的には、例えば、ミヒシバ、アキメヒシバ、イヌビエ、スズメノヒエ、ニワホコリ、スズメノテッポウ、スズメノカタビラ、エノコログサ、キンエノコロ、ヌカキビ、カモガヤ、セイタカアワダチソウ等が挙げられる。
本発明において「在来植物」は、施工地において、元来自生していた植物、特に双子葉植物をいう。原則として日本在来の植物ではあるが、在来植物であっても上記雑草に該当するイネ科やキク科の広域分布種は包含しない。以下、本明細書においては、在来植物を、前記雑種に属する広域分布性の在来植物と区別するために、「地域性種苗」という。地域性種苗は、施工地又はその周辺に固有の植物種が好ましいが、それに限られず、ある程度国内の広い範囲に分布していても構わない。
2.発明の構成
本発明の緑化工法は、(1)表土採取工程、(2)保存工程、(3)植生基盤材作製工程及び(4)巻出し工程を含む。各工程は、通常、上記順番に行われるが、(4)巻出し工程を最後に行うことを除けば、他の工程は、必ずしも上記順序でなくてもよい。例えば、(1)表土採取工程の前に(2)保存工程を行うこともできる。これらの詳細については、後述する。さらに、必要に応じて、(5)苗芝混合工程、(6)苗芝植栽土除去工程を含むこともできる。以下、それぞれの工程について具体的に説明をする。
(1)表土採取工程
「表土採取工程」とは、施工地及び/又はその周辺の表土を採取する工程である。
本発明において、「施工地」とは、施工を行う場所をいう。例えば、造成地、道路、線路、河岸、河川区域、海岸、ダム等が該当する。「その周辺」とは、施工地近辺の区域をいう。本発明の目的を鑑みれば、施工地と同様の植生を有する地域であれば、施工地からの距離は特に制限しない。
「表土」とは、地盤表層を構成する土砂をいう。表層の厚さは特に限定はしないが、本発明の目的から地域性種苗の埋土種子を包含する必要性を鑑みれば、通常は、地表より50cm以内、好ましくは30cm以内又は20cm以内の土砂が該当する。
表土の採取に際しては、予め施工地の地上部に繁茂している植物を地際で刈り取っておくことが望ましい。表土の採取方法は、施工地内の表土を採取できる方法であれば特に限定はしない。通常は、ブルドーザーや油圧ショベル等の建設機械を用いて表層の土壌を剥ぎ取るか掘削して回収する。次の保存工程を行う前に、採取した表土中に残存する根株等の植物体を、10cm程度のメッシュでふるい分けすることによって、できる限り除去しておくことが望ましい。
表土の採取時期は、特に限定はしないが、地上部に繁茂している植物を刈り取る作業等の手間を考慮すれば、ほとんどの植物体が冬枯れしてしまう秋から冬にかけて実施することが好ましい。また、次の保存工程で、採取した表土をより非加水な状態で保存するためには、表土の採取は雨天直後のように表土が過剰に含水している時期は避けた方がよい。
(2)保存工程
「保存工程」とは、前記表土採取工程で採取した表土を巻出しまでの期間、非低温下及び非加水下で保存する工程をいう。本工程は、雑草種子の休眠覚醒に必要な低温暴露と発芽時に必要な水分の供給を断つことによって雑草の発芽を抑制する工程である。
本発明において「非低温」とは、雑草の種子が休眠から覚醒するのに必要な低温を超える温度である。夏雑草の種子の発芽には越冬させる必要がある。つまり、休眠から覚醒するのに必要な低温とは、雑草の種子に冬季の到来を感知させる温度をいう。通常は、10℃以下、好ましくは7℃以下、より好ましくは5℃以下の温度、一層好ましくは2℃以下又は0℃以下が該当する。したがって、本発明でいう「非低温」とは、10℃を超える温度、好ましくは7℃を超える温度、より好ましくは5℃を超える温度、一層好ましくは2℃又は0℃を超える温度が該当する。このような非低温下で保存された雑草種子は、野外で実際に越冬しても、冬季到来前の秋季状態で維持されたままであることから休眠覚醒できない。
本発明において「非加水」とは、保存期間中に採取した表土に、主として降雨等による新たな加水が行われないようにすることをいう。完全防水が好ましいが、土壌が雑草の発芽に必要な程度に十分に湿潤の状態にならなければ、数時間、僅かな降雨に晒される等の加水はあってもよい。また、採取時の表土に含まれる水分は、本工程における加水として考慮しない。
採取した表土の保存方法については、非低温下及び非加水下で保存することができれば、特に限定はしないが、簡易かつ安価に保存するためには、施工地又はその周辺で保存する方法が好ましい。
一例として、採取した表土を一ヶ所に集積して盛土する方法が挙げられる。盛土によって内部の土壌が冷えにくくなり、非低温状態をある程度維持できるため、施工地又はその周辺で簡易かつ安価に非低温下で保存する上で便利である。盛土の厚さは、特に限定はしないが、盛土内部を保温するためにはある程度以上の厚さがあることが好ましい。通常は、50cm以上、好ましくは80cm以上、より好ましくは1m以上の厚さがあればよい。
また、保存する表土の表面を防水シート等で被覆して養生する方法もある。この方法によって、表土温度が低温になることと、降雨等によって土壌が加水されることを同時に防ぐことができる。前記盛土と組み合わせて、盛土をシートで被覆して養生する方法は、簡易かつ安価で、かつ高い効果が得られるため、より好ましい方法である。使用するシートは、少なくとも防水性であれば特に問わない。例えば、農業用の被覆資材として使用される非浸透性ポリエチレン製シート(いわゆるブルーシート)が挙げられる。また、アルミニウムを蒸着した断熱シートは、防水に加えて保温効果も高められることから、より好ましい。
表土を採取してから保存する期間は、本発明の原理を鑑みれば、少なくとも冬季をまたぐ期間が好ましい。例えば、夏季〜春季、又は秋季〜春季にわたる期間である。晩秋、例えば、10月中下旬から春、例えば3月中下旬の期間が特に好ましい。
なお、本工程は、通常は前記表土採取工程後に行われるが、上述のように本工程を先に行うこともできる。例えば、表土採取工程前に、採取する地表面を予めシートで覆うことによって、該地表を非低温下及び非加水下で保存し、越冬後にシートを外して表土を採取する場合が挙げられる。その場合には、シート掛けした周囲に排水溝等を設けて採取予定の表土に水が浸透しないようにする等の工夫をすることが望ましい。
(3)植生基盤材作製工程
「植生基盤材作製工程」とは、前記表土を植栽土として植生基盤材を作製する工程をいう。「植生基盤材」とは、施工面に巻出す緑化用土砂をいう。具体的には、植栽土に緑化用植物の種子及び/又は苗、肥料を混合したものであり、必要に応じてルナゾール(登録商標)(日本合成化学工業)のような接合材、ルナゾールパウダ(日本合成化学工業)のような養生材、吸水促進剤のような浸透材、及び/又はスカイジェル(登録商標)(メビオール)のような保水材等の各資材を配合することができる。本発明では、主たる植栽土として、前記施工地及び/又はその周辺で採取した表土を用いる。この表土には、原則として地域性種苗の埋土種子が含まれている。保存工程後、植生基盤材作製前の表土の表面に植物が繁茂していた場合には、ふるい目約2cmのメッシュでふるい分けて植物体を除去して使用することが望ましい。
植生基盤材の組成は、緑化用植物、すなわち地域性種苗の種類、後述する日本芝の苗芝の混合の有無、施工地の土地の肥沃度等の諸条件によって変化するため、施工条件に応じて適宜勘案すればよいが、通常は、日本芝の苗芝吹付け工で使用する植生基盤材の組成を参考に作製することができる。例えば、施工法面100m2あたり、地域性種苗の埋土種子を含む施工地表土500kg、バーク堆肥1000L、接合材10kg、養生材0.5kg、浸透材0.1kg、保水材1kg及び化成肥料1.5kgからなる植生基盤材が挙げられる。植生基盤材の作製は、前記各資材を十分に混合できる方法であれば特に限定はしない。例えば、通常の客土吹付け工に使用する吹付け機のタンクにて混合してもよい。
本工程は、前記保存工程を経た表土を植栽土として用いることから、原則として保存工程後、巻出し工程前に行われる。しかし、例えば、施工地及び/又はその周辺以外で採取した表土を混合する場合には、その他の表土の産地に自生する雑草の埋土種子が混入している可能性がある。このような他産地表土は、後述する苗芝混合工程で、苗芝に付着した苗芝産地の植栽土が混入する場合のように、施工者の意図に反して混入される可能性がある。このように他産地表土が混入する場合には、保存工程の前に、本工程における他産地表土の混合を先に行うこともできる。施工地等で採取した表土と共に他産地表土を保存工程で処理することによって、他産地に自生する雑草の埋土種子の発芽も同時に抑制することができるからである。ただし、本工程で使用する他の資材、例えば、肥料、及び必要に応じて添加する接合材、養生材、浸透材及び/又は保水材等については、原則通り保存工程後に混合する。これは、植生基盤材に含まれる肥料等の資材が保存工程中に埋土種子の発芽性に何らかの影響を及ぼすことが危惧されるためである。
(4)巻出し工程
「巻出し工程」とは、植生基盤材を客土として施工面に巻出す工程をいう。上記のように本発明での巻出しは、植生基盤材を施工面に敷き広げる全ての作業を含む。したがって、河川敷のような施工面が平地の場合には、作製した植生基盤材をブルドーザー等の建設機械によって敷き広げればよい。この場合の、客土厚は、3cm以上、5cm以上、又は10cm以上あればよい。なお、平地に施工する場合には、植生基盤材に接合材や養生材、浸透材などの資材を混合しなくてもよい。また、法面のように施工面が斜面の場合には、作製した植生基盤材を客土吹付け工に使用する吹付け機で吹付ければよい。この場合、客土厚は2cm以上、又は3cm以上あればよい。後述する苗芝混合工程を本発明の工法に追加する場合、客土厚が2cm以上あれば、日本芝の裁断苗が客土表面に露出してしまうことはなく、施工初期における日本芝の苗芝を効率的に活着させることができる。
巻出しの期間は、発明の原理を鑑みれば、巻出し後に雑種の埋土種子が休眠覚醒する低温下に暴露されない時期、すなわち、春季〜秋季に行うことが好ましい。より好ましくは、春先〜初夏、すなわち、通常は3月〜6月の期間である。
(5)苗芝混合工程
「苗芝混合工程」とは、植生基盤材に日本芝の苗芝を混合する工程をいう。日本芝は、日本在来の芝であり、施工地の生物多様性に与える影響も小さく、また低茎で生育速度も遅いことから地域性種苗の生育を抑圧しにくい。さらに、植生基盤材に配合することで、施工面の早期緑化や表土に混在する地域性種苗の埋土種子の流出を防止することができるため、法面等の緑化に古くから利用されてきた。本発明においても植生基盤材に日本芝を混合することは好ましい。しかしながら、日本芝の種子発芽率は低いことから、早期緑化を図ることはできない。そこで、本工程では、日本芝の苗芝を前記植生基盤材の資材として混合して、日本芝の利点を享受することを目的とする。なお、本工程は、本発明の任意の工程であって、必要に応じて選択すればよい。
苗芝は、例えば、芝生産地より切り出されてきた切り芝を匍匐茎の長さが5〜10cmになるよう調整された機械を用いて機械的に裁断して、いわゆる裁断苗にするか、又はほぐすことによって作製することができる。
植生基盤材に混合する苗芝の量は、適用する場所等の諸条件によって適宜定めればよい。通常は、施工法面100m2あたり、施工地表土500kg、バーク堆肥1000L、接合材10kg、養生材0.5kg、浸透材0.1kg、保水材1kg及び化成肥料1.5kgを混合した植生基盤材に対して、10〜20m2分の苗芝を混合すればよい。
苗芝を植生基盤材に混合する時期は、植生基盤材作製工程中又は工程後に行えばよい。植生基盤材作製工程後に行う場合には、苗芝が植生基盤材中に行き渡るように再度十分に混合することが好ましい。
(6)苗芝植栽土除去工程
「苗芝植栽土除去工程」とは、前記苗芝混合工程前に、植生基盤材に混合する苗芝に付着した苗芝栽培地の植栽土を除去する工程をいう。上記で説明したように、日本芝の苗芝を植生基盤材に混合することは、早期緑化や埋土種子の流出を防止の点からも好ましいが、同時に苗芝に付着した苗芝産地の植栽土を植生基盤材に混入させる可能性がある。この場合、苗芝産地が施工地周辺でなければ、施工地及び/又はその周辺表土以外の土に含まれる地域性種苗の埋土種子を持ち込むことにもなり得る。そこで、本工程は、苗芝混合工程において苗芝を植生基盤材に混合する前に、苗芝に付着した苗芝産地の植栽土を可能な限り除去し、それによって当該植栽土に混入した雑草又はその産地の地域性種苗の埋土種子を除くことを目的とする。本工程も任意の工程であって、前記苗芝混合工程を行う場合に、必要に応じて選択すればよい。
除去方法は、特に限定はしない。例えば、裁断した苗芝と土壌の混合物をふるい目2cm程度のメッシュでふるいに掛ける等して除けばよい。苗芝に付着した植栽土を完全に除去することが好ましいが、実際には困難であることから、本工程後に多少の植栽土が残っていても構わない。
[実施例1]表土の保存方法が出現する草本植生に及ぼす影響
施工地の表土を植栽土(客土)として吹付ける際、表土に含まれる埋土種子の判別を行い、表土の保存方法が巻出し後に出現する植生に及ぼす影響について検証した。
1.材料及び方法
1−1.表土の採取及び保存
2008年12月に、試験施工を実施した富士山南陵工業団地造成工事内で地域固有の草本類が優占していた鉄塔下の草地表土を約30cmの深さでブルドーザーによって剥ぎ取り、表土A及びBの2群に分けて1m程度の高さで盛土した。表土Aは単に盛土しただけで、表土Bはブルーシートで覆って、2009年3月まで保存した。表土Bは、保存期間中、シート養生によって低温に晒されず、また降雨による加水もされていない点が表土Aと異なる。4月に入って、土壌Bを覆っていたブルーシートを外し、表土A及びB共に盛土していた表土を薄く敷き均し、試験施工を実施した6月末まで保存した。
1−2.表土を用いた吹付け試験施工
表土の保存方法、及び植生基盤材に日本芝の苗芝の混合が、吹付け後に出現する植生に及ぼす影響について検証した。まず、表土A及びBを網目10mmのメッシュでふるい分けし、それぞれ植生基盤材の植栽土とした。植生基盤材の配合は、表土500kg、バーク堆肥1000L、接合材10kg、養生材0.5kg、浸透材0.1kg、保水材1kg、化成肥料1.5kgとした。さらに、表土A及びBのそれぞれについて、日本芝の裁断苗を苗芝としてそれぞれ混合したものを作製した。その結果、盛土して保存しただけの表土を含む植生基盤材(A1群)、盛土して保存しただけの表土に、さらに苗芝を混合した植生基盤材(A2群)、盛土した上に養生シートで覆って保存した表土を含む植生基盤材(B1群)、盛土した上に養生シートで覆って保存した表土に、さらに苗芝を混合した植生基盤材(B2群)の4群が作製された。
上記4群を富士山南陵工業団地内にある調整池の東側斜面に設けた100m2の4つの試験区に各々吹付けた。A1群、A2群、B1群及びB2群を吹付けた試験区をそれぞれ試験区A1、試験区A2、試験区B1及び試験区B2とした。各試験区の構成を表1に示す。
Figure 0005808098
1−3.吹付け後出現する草本植生の調査
吹付けは、各試験区にてt=20mmで行った。吹付けは、2009年6月29日に開始し、8月5日(吹付け1ヶ月後)、9月29日(3ヶ月後)、12月15日(6ヶ月後)、2010年3月30日(9ヶ月後)に、各試験区にて植生調査を実施した。調査方法は、各試験区の上端、中間、下端にて任意に1m2のコドラートを設置し、そこに出現している植物種を可能な限り分類し、その出現数を計量した。なお、3月30日調査時には、有資格者(生物分類技能検定2級)の立会いのもと、出現している植物種の詳細な分類を行った。
2.結果
結果を図1、図2Aおよび図2Bに示す。
吹付け1ヶ月後に各試験区にて出現株数を計量したところ、試験区間で双子葉植物とイネ科植物の株数に有意な差が認められた(図1)。表土Aを植栽土に用いた試験区A1及びA2における双子葉植物の出現株数は、表土Bを用いた試験区B1及びB2に比べて有意に高かった。また、イネ科植物については試験区A1に出現した株数が他の試験区に比べて有意に高かった。なお、試験区A1にて確認されたイネ科植物のほとんどは、ヌカキビ等の高茎性雑草種であった。
また、吹付け後、各試験区にて観察される株数を継続して計量したところ、イネ科植物の多くは一年草であったため、秋以降、いずれの試験区においても株数が低下し、9ヶ月後には試験区間でイネ科植物の出現株数に差は見られなくなった(図2B)。一方、双子葉植物は、秋から冬にかけて、いずれの試験区においても出現株数が増加した(図2A)。これは、秋から冬にかけて発芽する植物の種子が表土に含まれていたためと考えられる。その中で、シート養生して保管した表土Bに日本芝裁断苗を混合して吹付けた試験区B2における双子葉植物の出現株数が他の試験区に比べて有意に多かった。表土Aを吹付けた試験区では、双子葉植物の出現株数に日本芝の苗芝の有無による差異は認められなかった。それに対して、表土Bのみ吹付けた試験区B1では双子葉植物の出現株数が他の試験区に比べて低いまま推移した。シート養生した表土Bではイネ科植物だけでなく双子葉植物の種子の発芽も抑制されており、吹付け初期に発芽できない種子は流出してしまうのではないかと考えられた。なお、試験区B2にて秋以降、双子葉植物の出現株数が増加したのは、日本芝裁断苗の混合によって早期緑化が図られ、埋土種子の流出が抑えられたためと考えられた。
表2に、吹付け9ヶ月後の3月30日調査時に各試験区にて観察された植物種の一覧を示す。各試験区にて確認された双子葉植物のほとんどは、施工着手前に現場内で実施した植生調査時に確認されたものであった。試験区間で比較すると試験区B1において観察された草種数が最も多かった。試験区B2では出現株数が多く、緑被率も高かったが、草種数は少なかった。
Figure 0005808098
[実施例2]室内試験における表土の保存方法による効果の検証
表土を保存中に低温に晒さないことの効果を室内にて検証した。
1.材料及び方法
1−1.表土の採取及び保存
実施例1で採取後、野外で保存する前の表土A及びBより各々6L×6袋分の表土を採取した。技術センターに持ち帰った表土のうち、3袋は温室(22〜30℃)(温室区)で、残り3袋は4℃に設定した低温庫(低温区)で、それぞれ保存した。各試験区の構成を表3に示す。
Figure 0005808098
1−2.保存後に出現する草本植生の調査
2ヶ月後、各表土を取り出し、6Lの土壌に対して肥料入り人工軽量土壌(商品名:メトロミックス)を2L混合した後、育苗トレー(25×40cm)に3〜4cm厚で敷き均した。これにより、2(土壌数)×2(保存区)×3(反復数;袋)の計12トレーで構成された試験を実施した。2ヶ月間、散水しながら温室内で養生し、各育苗トレーに出現した植物を可能な限り分類し,その出現株数を計量した。
2.結果
結果を表4に示す。
Figure 0005808098
吹付け試験に客土として用いたときと同じ状態になるよう温室にて保管した保温区の表土より出現してきた個体数を比較すると、試験施工初期と同様に、表土Aより出現した個体数及び種数が表土Bに比べて双子葉植物(表土A:4.2;表土B:0.7)、イネ科植物(表土A:2.5;表土B:0.3)とも有意に高かった。一方、低温庫で保管した低温区の表土A及びBより出現した個体数、種数は、双子葉植物(表土A:6.8;表土B:5.5)、イネ科植物(表土A:3.7;表土B:3.0)で、ともにほとんど差が見られなかった。したがって、表土A及びBに含まれる埋土種子のポテンシャルに差はなかったが、実施例1で出現個体数に差が見られたのは、シート養生によって表土Bに含まれる種子の多くが休眠覚醒していなかったためと考えられた。
[実施例3]日本芝の苗芝の効果
植生基盤材への日本芝の苗芝の混合の効果を検証した。
1.材料及び方法
1−1.表土の採取及び保存
実施例1の実験を引き続き行ったものであり、実施例1と同一である。
1−2.植生調査方法
吹付け後1年3ヶ月が経過した2010年10月1日に、各試験区の植生調査を行った。各試験区で確認された植物のうち、吹付けに添加した日本芝と、帰化種及び高茎性のイネ科植物からなる雑草、並びにそれら以外の植物からなる地域性種苗の3群にグループ分けし、各々が1m2のコドラート内で占める面積の割合を被覆率として記録した。
2.結果
結果を図3に示す。当然ながら、日本芝の苗芝を混合した試験区A2及びB2における植物全体の被覆率は、試験区A1及びB1に比べて高く、苗芝を混合して吹付けた試験区A2及びB2では、試験区B2における被覆率がA2に比べて高かった。また、試験区B2では雑草に比べて地域性種苗が占める割合が高かった。試験区A1及びB1においても、シート養生して保管した表土を吹付けた試験区B1における地域性種苗の割合が試験区A1に比べて若干高かった。
以上より、施工地内ではぎ取った表土に含まれる埋土種子を用いて、地域固有の植物種による法面緑化を進める際に、日本芝の苗芝を添加することで早期緑化し、埋土種子の流出防止を図ること、日本芝の苗芝に付着している芝生産地の土壌を除去することと、はぎ取った表土を低温湿潤状態にならないようシートで覆って保管することによって、吹付け初期の雑草種子の発芽を抑制することが最も有効であることが判明した。
実施例1〜3の結果から、(1)施工地で採取した表土を吹付けることによって、その地域に自生していた双子葉植物等の地域性種苗を再生すること、(2)採取した表土をシート養生して低温に晒さないように保存することによって、施工後初期に発生する高茎性のイネ科植物に代表される雑草の発芽を抑制できること、(3)日本芝の裁断苗と表土を混合して吹付けることによって、日本芝と地域性種苗を主体として早期緑化を図ることができることが明らかとなった。

Claims (3)

  1. 施工地及び/又はその周辺の表土を採取する工程、
    採取した表土を巻出しまでの期間、10℃を超える温度下にて、新たな加水が行われない条件下で保存する工程、
    前記表土を植栽土として植生基盤材を作製する工程、
    植生基盤材を施工面に巻出す工程
    を含む、施工面における施工後初期の草本植生を制御する緑化工法。
  2. 植生基盤材に日本芝の苗芝を混合する工程をさらに含む、請求項1に記載の緑化工法。
  3. 前記苗芝を混合する工程の前に、苗芝に付着した苗芝栽培地の植栽土を除去する工程をさらに含む、請求項2に記載の緑化工法。
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