前述のように、本発明は、複数の制御モードを使用するモータ駆動制御システムにおいて、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に電流偏差が大きい場合においても、過剰な電流フィードバック制御が働いて電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる虞を効果的に軽減することができるモータ駆動制御装置を提供することを1つの目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、複数の制御モードの間で制御モードを切り替えてモータの駆動制御を行うモータ駆動制御システムにおいて、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に制限を設けることにより、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に電流偏差が大きい場合においても、過剰な電流フィードバック制御が働いて電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる虞を効果的に軽減することができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
即ち、本発明の第1の実施態様は、
少なくとも、トルクフィードバックが行われる矩形波電圧位相制御モードと電流フィードバックが行われる過変調電流制御モードとを含む複数の制御モードの間で制御モードを切り替えてモータの駆動制御を行うモータ駆動制御システムであって、
前記矩形波電圧位相制御モードから前記過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に制限を設ける、
モータ駆動制御システムである。
上記のように、本実施態様に係るモータ駆動制御システムは、少なくとも、トルクフィードバックが行われる矩形波電圧位相制御モードと電流フィードバックが行われる過変調電流制御モードとを含む複数の制御モードの間で制御モードを切り替えてモータの駆動制御を行うモータ駆動制御システムである。即ち、本実施態様に係るモータ駆動制御装置は、矩形波電圧位相制御モード及び過変調電流制御モードに加えて、これら以外の第3の制御モードをも使用するものであってもよい。かかる第3の制御モードとしては、例えば、正弦波電流制御モードを挙げることができるが、特定の制御モードに限定されるものではない。また、本実施態様に係るモータ駆動制御システムが適用されるモータが搭載される設備は、特に限定されるものではない。例えば、本実施態様に係るモータ駆動制御システムは、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)等の電動車両において動力源として搭載されるモータに適用することができる。因みに、かかる電動車両に搭載されるモータとしては、三相の永久磁石型同期モータが一般的に用いられている。
前述のように、モータの駆動制御においては、正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードとを使い分けることが一般的に行われている。正弦波電流制御モード及び過変調電流制御モードは、電流フィードバック制御であり、電圧指令と搬送波(キャリア)とを比較することでパルス幅変調(PWM)パターンをモータに出力する制御である。一方、矩形波電圧位相制御モードは、電気角に応じて1パルススイッチング波形を回転電機に出力する制御であり、電圧振幅は最大値に固定され、位相を制御することでトルクをフィードバック制御している。
正弦波電流制御モードから過変調電流制御モードへの切り替え、及び過変調電流制御モードから矩形波電圧位相制御モードへの切り替えは、変調率、又は変調率に相当する電圧指令振幅によって行われるが、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えは、矩形波電圧位相制御モードにおいて電圧指令振幅が一定であるので、電流指令に対する実電流の位相に基づいて切り替えのタイミングを判定することによって行われる。
前述のように、これらの制御モード間での制御モードの切り替えの際に電流偏差が大きい場合、フィードバック制御が強く働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる虞がある。具体的には、トルクフィードバックが行われている矩形波電圧位相制御モードから、電流フィードバックが行われる過変調電流制御モードへの切り替えのタイミングは、上記のように電流位相を監視して行われる。従って、制御モードの切り替えの際に電流指令と実電流値との間に幾分かの電流偏差が生じていることとなる。特に、制御対象や制御方法が異なる制御モード間での制御モードの切り替えの際に、例えば、制御モード間でのチャタリングの防止等を目的として、制御モードの切り替えの際にヒステリシスを用いる場合は、制御モードの切り替えの際に電流指令と実電流値との間に電流偏差が必然的に生ずることとなる。
上記のように電流偏差が生じている状態において矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えが行われると、電流フィードバックの作用により、当該電流偏差を0(ゼロ)にするように制御が働く。このため、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に電流偏差が大きい場合においては、フィードバック制御が強く働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる虞がある。
本発明は、前述のように、上記問題を効果的に抑制することを1つの目的とする。即ち、本発明は、少なくとも、トルクフィードバックが行われる矩形波電圧位相制御モードと電流フィードバックが行われる過変調電流制御モードとを含む複数の制御モードの間で制御モードを切り替えてモータの駆動制御を行うモータ駆動制御システムにおいて、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に電流偏差が大きい場合において、上記のようにフィードバック制御が強く働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる虞を効果的に軽減することを1つの目的とする。
本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいては、上述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率(レート)に制限(リミット)を設ける。これにより、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流偏差を小さくするために電圧指令が大幅に変動して、例えば、電流のビート現象が発生することを抑制することができる。結果として、本実施態様に係るモータ駆動制御システムによれば、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、例えば、電流のビート現象に起因するモータのトルク変動や、モータを搭載する設備(例えば、電動車両等)の振動等の問題が生ずることを回避することができる。
尚、本実施態様に係るモータ駆動制御装置において、電圧指令の変動率とは、制御サイクル辺りの電圧指令の最大許容変化量を指すものとする。また、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいて、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合に電流フィードバックに基づく電圧指令にレートリミットを設ける具体的な方法は、特に限定されるものではない。例えば、電圧指令に対するレートリミットは、1回の制御における電圧指令の上限値を予め定めることによって設けてもよい。あるいは、電圧指令に対するレートリミットは、電流フィードバックに基づく電圧指令に所定の係数を乗ずることによって、電圧指令を小さくすることによって設けてもよい。この場合、上記所定の係数は、予め定められた固定値であってもよく、あるいは、例えば、電流フィードバックに基づく電圧指令の大きさや、その他のパラメータに基づいて求められる可変値であってもよい。また、これらの上限値や係数は、例えば、モータが搭載される設備(例えば、電動車両等)の設計仕様及び用途、並びにモータの特性、設計仕様、及び用途等に基づいて、適宜設定することができる。あるいは、これらの上限値や係数は、例えば、実電流値が電流指令に追従するのに要することが許容される期間の長さに応じて、適宜設定することができる。
更に、上記予め定められた閾値は、例えば、モータが搭載される設備(例えば、電動車両等)の設計仕様及び用途、並びにモータの特性、設計仕様、及び用途等に基づいて、適宜設定することができる。更に、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいて実行される各制御モードにおけるモータ駆動制御は、例えば、モータに電力を供給する電力供給手段としてのインバータを制御する制御手段によって実行することができる。加えて、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいて電圧指令のレートリミットもまた、例えば、モータに電力を供給する電力供給手段としてのインバータを制御する制御手段によって実行することができる。尚、例えば、モータに電力を供給する電力供給手段としてのインバータを制御する制御手段の詳細については、当該技術分野において周知であるので、本明細書における詳細な説明は省略する。
ここで、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に生ずる電流偏差について、図1を参照しながら詳しく説明する。図1は、前述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に生ずる電流偏差を説明する模式図である。より詳細には、図1は、矩形波電圧位相制御モード及び過変調電流制御モードにおける電流値の変化を、モータの回転子の磁極が形成する磁束の方向であるd軸及びd軸に直交する軸であるq軸によって規定されるdq座標平面上に描いたものである。
図1において、曲線L1は、矩形波電圧位相制御モードにおける電流指令に対する実電流の位相の変化を表す。一方、曲線L2は、過変調電流制御モードにおける最大効率特性線(電流指令ライン)を表す。従って、制御モードの切り替えにおいてヒステリシスを用いない場合は、曲線L1と曲線L2との交点Aにおいて矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えが行われるので、制御モードの切り替え時に電流偏差は生じない。しかしながら、前述のように、一般的な制御モードの切り替えにおいては、例えば、制御モード間でのチャタリングの防止等を目的として、ヒステリシスが用いられる。図1に示す例においては、矩形波電圧位相制御モードに対応する特性線である曲線L1が、交点Aを通過し、交点Aよりも遅角側にある交点Bにおいて、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えが行われる。
上記ヒステリシスにより、制御モード間でのチャタリングは防止されるものの、この時点における過変調電流制御モードにおける本来の電流指令値は交点B′に対応する電流値となるべきところ、実際の電流値は交点Bに対応する電流値となっているため、図1に示すΔIq及びΔIdによって表される電流偏差が生ずる。その結果、従来技術に係るモータ駆動制御システムにおいては、図2に示すように、上記電流偏差(ΔIq及びΔId)に基づく電流フィードバックにより、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替え直後に、電圧指令の急峻な変動が起こり、例えば、電流のビート現象に起因するモータのトルク変動や、モータを搭載する設備(例えば、電動車両等)の振動等の問題が生ずる虞がある。
尚、図2は、前述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に生ずる電圧指令の変動を説明する模式図である。より詳細には、図2は、矩形波電圧位相制御モード及び過変調電流制御モードにおける電圧指令の変化を、モータの回転子の磁極が形成する磁束の方向であるd軸及びd軸に直交する軸であるq軸によって規定されるdq座標平面上に描いたものである。
しかしながら、本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、前述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設ける。これにより、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流偏差を小さくするために電圧指令が大幅に変動して、例えば、電流のビート現象が発生することを抑制することができる。結果として、本実施態様に係るモータ駆動制御システムによれば、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、例えば、電流のビート現象に起因するモータのトルク変動や、モータを搭載する設備(例えば、電動車両等)の振動等の問題が生ずることを回避することができる。
ここで、本実施態様に係るモータ駆動制御装置による、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え時における電流指令の大幅な変動を抑制する効果につき、図3を参照しながら詳しく説明する。図3は、前述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際に生ずる電流の変動の様子を表す模式図である。
図3において、点線によって示される曲線は、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設けない、従来技術に係るモータ駆動制御装置における電流指令の変動を表す。一方、実線によって示される曲線は、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設ける、本実施態様に係るモータ駆動制御装置における電流指令の変動を表す。
また、図3において、d軸の右側に示した破線の両矢印は従来技術に係るモータ駆動制御装置におけるトルク電流成分(Iq)の変動幅を表し、実線の両矢印は本実施態様に係るモータ駆動制御装置におけるIqの変動幅を表す。図3からも明らかであるように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合に電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設けることにより、本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に生ずるIqの変動を効果的に抑制することができる。その結果、本実施態様に係るモータ駆動制御システムによれば、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、モータのトルク変動や、モータを搭載する設備(例えば、電動車両等)の振動等の問題が生ずることを効果的に抑制することができる。
ここで、本実施態様に係るモータ駆動制御装置による、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合において、電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設ける制御と、かかるレートリミットを設けない制御とにおける電圧指令の変動の違いにつき、図4を参照しながら詳しく説明する。図4は、前述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの切り替えの際の電圧指令の変動の様子を表す模式図である。
図4において、破線によって示される曲線は、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設けない、従来技術に係るモータ駆動制御装置における電圧指令の変動を表す。一方、実線によって示される曲線は、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令に対してレートリミットを設ける、本実施態様に係るモータ駆動制御装置における電圧指令の変動を表す。
図4からも明らかであるように、トルク電圧成分(Vq)及び励磁電圧成分(Vd)の何れにおいても、従来技術に係るモータ駆動制御装置(破線)においては、電圧指令に対してレートリミットを設けないことから、図3に示したような電流変動を抑制しようとして、電圧指令が大幅に変動する。一方、本実施態様に係るモータ駆動制御装置(実線)においては、電圧指令に対してレートリミットを設けることから、従来技術に係るモータ駆動制御装置(破線)のような電圧指令の大幅な変動は起こらず、電圧指令が早期に安定することが判る。
以上のように、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいては、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令にレートリミットを設ける。これにより、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流偏差を小さくするために電圧指令が大幅に変動して、例えば、電流のビート現象が発生することを抑制することができる。結果として、本実施態様に係るモータ駆動制御システムによれば、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、例えば、電流のビート現象に起因するモータのトルク変動や、モータを搭載する設備(例えば、電動車両等)の振動等の問題が生ずることを回避することができる。
ところで、上記のように電圧指令にレートリミットを設けることにより、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えの際に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた閾値よりも大きい場合にも、例えば、電流のビート現象に起因するモータのトルク変動や、モータを搭載する設備(例えば、電動車両等)の振動等の問題が生ずることを回避することができる。しかしながら、過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、実電流値が電流指令に追従するようになった後も電圧指令にレートリミットを設けたままにすると、過変調電流制御モードにおける電流フィードバック制御の応答性が低下する等の好ましくない影響が生ずる虞がある。従って、過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、実電流値が電流指令に追従するようになり、モータの駆動制御が安定した際には、電圧指令に対するレートリミットを解除することが望ましい。
従って、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係るモータ駆動制御装置であって、
前記矩形波電圧位相制御モードから前記過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限を解除する、
モータ駆動制御システムである。
上記のように、本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限を解除する。これにより、本実施態様に係るモータ駆動制御装置によれば、過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後の実電流値が電流指令に追従するようになり、モータの駆動制御が安定した後には、過変調電流制御モードにおける電流フィードバック制御の良好な応答性を維持することができる。
尚、上記第2の閾値は、例えば、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に制限を設ける際の閾値(第1の閾値)と同じ値であってもよく、あるいは第1の閾値よりも小さい値であってもよい。また、上記第2の閾値は、第1の閾値と同様に、例えば、モータが搭載される設備(例えば、電動車両等)の設計仕様及び用途、並びにモータの特性、設計仕様、及び用途等に基づいて、適宜設定することができる。
ここで、本実施態様に係るモータ駆動制御装置において、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さい場合に、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限を解除する処理の流れにつき、図5を参照しながら詳しく説明する。図5は、前述のように、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後にモータの駆動制御が安定した際に、電圧指令に対するレートリミットを解除する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップS01において、モータ駆動制御のモードが矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替えられたか否かが判断される。ステップS01においてモータ駆動制御のモードが矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替えられたと判断された場合は(ステップS01:Yes)、ステップS02において、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に制限を設ける「電圧指令レートリミット実施フラグ」がONに設定される。一方、ステップS01においてモータ駆動制御のモードが矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替えられたと判断されなかった場合は(ステップS01:No)、ステップS02は実行されない(スキップされる)。
次に、ステップS03において、「電圧指令レートリミット実施フラグ」がONであり且つ「制御安定フラグ」がOFFであるという条件が満たされるか否かが判断される。尚、「制御安定フラグ」は、例えば、上述のように、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さいか否か、即ち、モータの駆動制御が安定しているか否かを判断する手段(例えば、モータに電力を供給する電力供給手段としてのインバータを制御する制御手段等)によって、モータの駆動制御が安定していると判断された場合にはONに、モータの駆動制御が安定していると判断されない場合にはOFFに、それぞれ設定されるようにしてもよい。また、「制御安定フラグ」を設定する処理は、図5に示すフローチャートとは別のルーチンにおいて実行することができる。
次いで、ステップS03において、「電圧指令レートリミット実施フラグ」がONであり且つ「制御安定フラグ」がOFFであるという条件が満たされると判断された場合は(ステップS03:Yes)、ステップS04において、電圧指令レートリミット処理が実施又は継続される。一方、ステップS03において、「電圧指令レートリミット実施フラグ」がONであり且つ「制御安定フラグ」がOFFであるという条件が満たされないと判断された場合は(ステップS03:No)、ステップS05において、電圧指令レートリミット処理を伴わない通常の電流フィードバックによる過変調電流制御モードが実施されると共に、「電圧指令レートリミット実施フラグ」がOFFに設定される。
以上のようにして、本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さい場合には、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限を解除する。これにより、本実施態様に係るモータ駆動制御装置によれば、過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後の実電流値が電流指令に追従するようになり、モータの駆動制御が安定した後には、過変調電流制御モードにおける電流フィードバック制御の良好な応答性が保たれる。
尚、矩形波電圧位相制御モードから前記過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さい状態が突発的に発生しただけで、モータの駆動制御が未だ安定していない場合には、その後再び、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも大きい状態に戻る可能性も想定される。従って、本実施態様のより好ましい変形例に係るモータ駆動制御装置においては、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さい状態が、予め定められた回数の制御サイクルにおいて連続して検出された場合にのみ、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限を解除するようにしてもよい。
ところで、上記のように、本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後に、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも大きい期間においては、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限が維持される。また、制御モードの切り替え時の電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さくなっていても、上記期間の間に、例えばトルク指令の変更等により電流指令が変動し、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも大きくなった場合も、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限が維持される。電圧指令の変動率の制限(レートリミット)が設けられる期間においては、レートリミットが設けられない通常の過変調電流制御モードと比較して、電圧指令の変動率がより小さく抑えられるため、実電流値が電流指令に、より緩やかに近付いてゆく。
一方、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替え後は、電流フィードバックによる過変調電流制御が実行される。過変調電流制御モードにおいて、電流偏差についての比例積分制御を行って電流偏差に対応する制御偏差を求め、当該制御偏差に応じた電圧指令を算出する電流フィードバックを行う場合は、制御サイクル毎に電流指令と実電流値との間の電流偏差に対応する積分項が算出され、累積される。レートリミットが設けられない通常の過変調電流制御モードにおいては、一般的に、実電流値が電流指令よりも大きい値と小さい値の間で変動しながら電流指令に近付いてゆくため、電流指令と実電流値との間の電流偏差に対応する積分項は、制御サイクルが繰り返されるのに従って、徐々に相殺されながら小さくなる傾向がある。
しかしながら、レートリミットが設けられる期間においては、上記のように、レートリミットが設けられない通常の過変調電流制御モードと比較して、実電流値が電流指令に、より緩やかに近付いてゆく。即ち、レートリミットが設けられる期間においては、レートリミットが設けられない通常の過変調電流制御モードにおけるように、実電流値が電流指令よりも大きい値と小さい値の間で変動しながら電流指令に近付いてゆくのではなく、実電流値が電流指令よりも大きい値又は電流指令よりも小さい値から徐々に電流指令に近付いてゆく。その結果、レートリミットが設けられる期間においては、電流指令と実電流値との間の電流偏差に対応する積分項が制御サイクルが繰り返されるのに従って徐々に相殺されるのではなく、制御サイクルが繰り返されるのに従って、電流指令よりも大きい又は小さい実電流値に起因する正又は負の電流偏差に対応する積分項が過剰に累積される傾向がある。
以上のように電流偏差に対応する積分項が過剰に累積された状態において、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さくなり、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限が解除されると、過剰に累積された積分項に基づき、過剰なフィードバック制御が働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる虞がある。ここで、過剰に累積された積分項に基づき、過剰なフィードバック制御が働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる仕組みにつき、図6を参照しながら詳しく説明する。
図6は、前述のように、過変調電流制御モードにおいて、電流偏差についての比例積分制御を行って電流偏差に対応する制御偏差を求め、当該制御偏差に応じた電圧指令を算出する電流フィードバックを行う場合において、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に設けた制限が解除された際に過剰に累積された積分項に基づく過剰なフィードバック制御が働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずる仕組みを説明する模式図である。図6においては、時刻t1において、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードへの制御モードの切り替えが起こり、時刻t2において電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さくなった(モータの駆動制御が安定した)とする。
図6に示すように、時刻t1とt2との間の期間中、電圧指令のレートリミットが設けられない、従来技術に係るモータ駆動制御装置においては、点線で示すように、励磁電流成分(Id)が大幅に変動しながらId電流指令値に収束する。従って、当該期間における電流指令と実電流値との間の電流偏差に対応する積分項は、Id電流指令値より大きい実電流値とId電流指令値より小さい実電流値とによって相殺され、過剰には累積されない。これに対し、電圧指令のレートリミットが設けられる、本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、太い実線で示すように、励磁電流成分(Id)が大幅に変動すること無く、Id電流指令値に緩やかに収束する。従って、当該期間においては、実電流値が常にId電流指令値より小さいために、電流指令と実電流値との間の電流偏差に対応する積分項は、斜線を施した領域Pに示すように、大きな負の値として過剰に累積される。
上記の結果、時刻t2において電圧指令のレートリミットが解除されると、点線で示す従来技術に係るモータ駆動制御装置においては、通常の電流フィードバックが実行され、励磁電流成分(Id)がId電流指令値に徐々に収束する。これに対し、太い実線で示す本実施態様に係るモータ駆動制御装置においては、斜線を施した領域Pに対応する過剰に累積された積分項に基づく過剰なフィードバック制御が働いて、電流値の意図しないオーバーシュート(斜線を施した領域Q)が発生する虞がある。尚、上記説明においては、励磁電流成分(Id)について説明したが、同様の現象がトルク電流成分(Iq)にも当てはまる。
従って、過変調電流制御モードにおいて、電流偏差についての比例積分制御を行って電流偏差に対応する制御偏差を求め、当該制御偏差に応じた電圧指令を算出する電流フィードバックを行う場合、レートリミットが設けられる期間中は、過剰に累積された積分項から過剰分を差し引いて、適正な値に補正することが望ましい。当該過剰分は、電圧指令値のレートリミットが設けられる期間における電圧指令の変動幅のレートリミットによる減少分(即ち、電圧指令と実電圧値との差分)に相当する。従って、比例積分制御を行う過変調電流制御モードにおいて、電圧指令のレートリミットが設けられる期間中は、比例積分制御における積分項を電圧指令と実電圧値との差分に基づいて補正することにより、電流指令と実電流値との間の電流偏差に対応する積分項が過剰に累積されることを抑制することができる。
即ち、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1又は前記第2の実施態様の何れか1つに係るモータ駆動制御システムであって、
前記過変調電流制御モードにおいて、前記電流偏差についての比例積分制御を行って前記電流偏差に対応する制御偏差を求め、当該制御偏差に応じた電圧指令を算出する電流フィードバックを行い、
電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に制限を設ける期間中は、前記比例積分制御における積分項を、電圧指令と実電圧値との差分に基づいて補正する、
モータ駆動制御システムである。
上記のように、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいては、過変調電流制御モードにおいて、電流偏差についての比例積分制御を行って電流偏差に対応する制御偏差を求め、当該制御偏差に応じた電圧指令を算出する電流フィードバックを行う。従って、電圧指令のレートリミットが設けられる期間中は、上述のように比例積分制御における積分項が過剰に蓄積される虞があるため、過剰に累積された積分項から過剰分を差し引いて適正な値に補正する必要がある。そこで、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいては、上記のように、電流フィードバックに基づく電圧指令の変動率に制限を設ける期間中は、前記比例積分制御における積分項を、電圧指令と実電圧値との差分に基づいて補正する。これにより、本実施態様に係るモータ駆動制御システムによれば、電圧指令のレートリミットが設けられる期間における電圧指令の変動幅のレートリミットによる減少分(即ち、電圧指令と実電圧値との差分)に相当する積分項の過剰分を適正に補正することができる。
上記の結果、本実施態様に係るモータ駆動制御システムにおいては、過変調電流制御モードにおいて、電流偏差についての比例積分制御を行って電流偏差に対応する制御偏差を求め、当該制御偏差に応じた電圧指令を算出する電流フィードバックを行う場合であっても、電圧指令のレートリミットが設けられる期間中に電流偏差に対応する積分項が過剰に累積されることが防止されるので、その後、電流指令と実電流値との間の電流偏差が予め定められた第2の閾値よりも小さくなり、電圧指令のレートリミットが解除された際に、過剰に累積された積分項に基づき、過剰なフィードバック制御が働いて、電流値の意図しないオーバーシュートが生ずることを抑制することができる。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。