JP5784296B2 - 神経細胞の製造方法及び神経細胞分化促進剤 - Google Patents
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本発明は、薬剤を用いて多能性幹細胞を神経細胞へと迅速に分化させることを含む、安全性に優れた神経細胞を製造する方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、多能性幹細胞を安全性に優れた神経細胞へと迅速に分化誘導しうる薬剤を提供することを課題とする。
[1]胚様体と塩素酸塩とを接触させ、該胚様体中における糖鎖の硫酸化を抑制して該胚様体の神経細胞への分化を促進することを含む神経細胞の製造方法であって、
さらに胚様体とレチノイン酸とを接触させる工程を含む、製造方法。
[2]塩素酸塩を含有する培地で胚様体を培養することにより胚様体と塩素酸塩とを接触させる、[1]に記載の製造方法。
[3]胚様体が哺乳類のES細胞又は哺乳類の人工多能性幹細胞に由来する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]塩素酸塩及びレチノイン酸を有効成分として含有する神経細胞分化促進剤。
[本発明の製造方法]
本発明に用いる胚様体とは、多能性幹細胞を浮遊培養したときに形成されうる初期胚に似た構造をもつ球状の細胞塊である。本発明に用いる胚様体を形成する多能性幹細胞の種類に特に制限はないが、ES細胞又はiPS細胞であることが好ましい。前記多能性幹細胞は三胚葉性動物に由来する限り特に制限はない。例えば、哺乳類、鳥類等に由来する多能性幹細胞を用いることができるが、哺乳類に由来する多能性幹細胞を好適に用いることができる。前記哺乳類としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。
上記多能性幹細胞は、通常の方法で調製することができる。また、寄託機関等に寄託されているセルライン等の分譲により得ることもできる。
胚様体を形成させるための温度、CO2濃度等は通常の条件を採用することができ、例えば、37℃、5%CO2の条件下で多能性幹細胞から胚様体を形成させることができる。
本発明に用いる胚様体の調製方法に特に制限はなく、胚様体を形成しうる方法であればいずれの方法で調製したものを用いてもよい。
本発明に用いる硫酸化阻害物質は、細胞内において糖鎖の硫酸化を阻害する作用を有すれば特に制限はないが、塩素酸塩を好適に用いることができる。塩素酸塩の種類に特に制限はなく、例えば、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸リチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸カルシウム等が挙げられる。本発明に用いる硫酸化阻害物質は、通常の方法で合成して得ることもできるし、市販品を用いてもよい。
胚様体と硫酸化阻害物質との接触の開始時期は、迅速に分化誘導を促進する観点から、胚様体の形成後0〜5日後であることが好ましく、0〜4日後であることがより好ましく、0〜3日後であることがさらに好ましく、1〜2日後であることがさらに好ましく、2日後であることが特に好ましい。
胚様体と硫酸化阻害物質との接触時間に特に制限はないが、硫酸化阻害物質が細胞内に取り込まれて生理作用を発揮するために、少なくとも1日間接触させることが好ましく、1〜5日間接触させることがより好ましく、1〜4日間接触させることがさらに好ましく、1〜3日間接触させることがさらに好ましく、2〜3日間接触させることが特に好ましい。
胚様体に接触させる硫酸化阻害物質の量に特に制限はないが、硫酸化阻害物質を含む培地で胚様体を培養する場合には、培地中の硫酸化阻害物質の濃度が0.1〜500mMであることが好ましく、1〜500mMであることがより好ましく、1〜300mMであることがさらに好ましく、1〜200mMであることがさらに好ましく、10〜100mMであることが特に好ましい。
胚様体とレチノイン酸との接触時間に特に制限はないが、レチノイン酸が細胞内に取り込まれて生理作用を発揮するために、少なくとも5時間接触させることが好ましく、5〜72時間接触させることがより好ましく、12〜48時間接触させることがさらに好ましく、20〜30時間接触させることが特に好ましい。
胚様体に接触させるレチノイン酸の量に特に制限はないが、レチノイン酸を含む培地で胚様体を培養する場合には、培地中のレチノイン酸の濃度が0.1〜10μMであることが好ましく、0.5〜5μMであることがより好ましく、0.5〜2μMであることがさらに好ましい。
レチノイン酸は、生理機能を発揮させるために通常はトランス体(all−trans)が用いられる。
胚様体と硫酸化阻害物質及び/又は胚様体とレチノイン酸との接触を終了するには、胚様体の培養環境中から硫酸化阻害物質やレチノイン酸を取り除けばよい。例えば、胚様体を硫酸化阻害物質やレチノイン酸を含まない培地に移して培養することで、胚様体と硫酸化阻害物質及び/又は胚様体とレチノイン酸との接触を終了させることができる。
胚様体は、硫酸化阻害物質やレチノイン酸との接触を終了させた後も、適当な培養条件で培養することで神経細胞へと分化が進む。当該培養に使用する培地に特に制限はないが、例えば、N2サプリメントを含むDMEM−F12等が挙げられる。また、培地は定期的に交換することが好ましい。
本発明に用いる硫酸化阻害物質は、細胞内で糖鎖の硫酸化を阻害する作用を有する。したがって、ヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸等の細胞膜及び/又は細胞内に存在する硫酸化グリカンの硫酸基の数を減少させ、これによりWnt及びBMPのシグナル伝達を阻害し、胚葉体の神経細胞への分化を促進すると考えられる。
これまで、糖鎖の硫酸化に関与する特定の遺伝子の働きを抑制することで、胚様体の神経細胞への分化を誘導したことの報告はあるが(Plos ONE December 2009 Vol.4 Issue 12 e8262参照)、胚葉体と硫酸化阻害物質とを接触させるだけで、胚様体の神経細胞への分化誘導に成功した例は知られていない。
本発明により、これまでにない簡便な手法で、しかも迅速に胚様体を神経細胞へと迅速に分化させて神経細胞を得ることが可能になる。また、本発明に用いる硫酸化阻害物質は、培地から該硫酸化阻害物質を除去することで分化した神経細胞から該硫酸化阻害物質を取り除くことができる。したがって、本発明の方法に分化誘導された神経細胞は安全性に優れ、細胞移植療法等への実用化が期待される。
なお、本発明において「神経細胞」には神経細胞及び神経細胞の前駆細胞の双方が含まれる。
本発明の神経細胞分化促進剤は、胚様体の神経細胞への分化を促進するための薬剤であり、有効成分として上記の硫酸化阻害物質を含有する。本発明の神経細胞分化促進剤は、上述の本発明の製造方法における硫酸化阻害物質の供給源として用いることができる。すなわち、本発明の神経細胞分化促進剤と、多能性幹細胞を浮遊培養して得られうる上記胚様体とを接触させることで、該胚様体細胞を神経細胞へと迅速に分化させることができる。
マウスES細胞(mESC)として、R1セルライン(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)8424−8428に記載、自然科学研究機構 生理学研究所 分子神経生理研究部門 より供与)及びE14TG2aセルライン(Dev.Biol.121(1987)1−9に記載、東京大学大学院理学系研究科より供与)を使用した。各々の細胞を、1000U/mLの濃度でLIF(ケミコン社製)を加えたESC培地(15質量%のFBS(Hyclone社製)、1質量%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Gibco社製)及び0.1mMの非必須アミノ酸(Gibco社製)を添加したDMEM)中において、10μg/mLのマイトマイシン C(シグマ社製)で不活化したマウス線維芽細胞(MEFs)上で維持した。
上記mESC及びhiPSCをLow Cell Binding 60mm dishes(Nunc社製)に移し、mESCについてはLIFを含まない上記のESC培地で、hiPSCについてはbFGFを含まないiPSellonでそれぞれ浮遊培養することで胚様体(EB)を形成させた。なお、hiPSCは、EB形成前にゼラチンコートされたディッシュに移してフィーダー細胞を除去した。
本発明においては、上記の浮遊培養の開始した時点をEB形成時とする。したがって、例えば、「EB形成から1日後」とは、多能性幹細胞について上記の浮遊培養を開始してから1日後を意味する。
EB形成から2日後に、培地中の最終濃度が50mMとなるように、硫酸化阻害物質としての塩素酸ナトリウム(シグマ社製)を添加した。さらにその2日後(EB形成から4日後)、培地中の最終濃度が1μMとなるようにオールトランス−レチノイン酸(以下、RAと呼ぶことがある。シグマ社製)を添加した。RAを添加してから1日経過後(EB形成から5日後)、EBをPDL/laminin−coated 60mm dishes(ベクトンディッキンソン社製)に移し、N2サプリメント(Gibco社製)を含むDMEM−F12中で培養した。この操作により培養液中から硫酸化阻害物質とRAが除かれた。
mESCであるR1セルライン由来のEBにおいて、硫酸化阻害物質の添加によるグリカンの硫酸化度合の変化を調べるために、抗HS抗体又は抗CS抗体(いずれもマウス由来IgM)をプライマリー抗体として用いたFACS分析を行った。上記抗HS抗体としては10E4又はHepSS−1(いずれも商品名、生化学工業社製)を用い、上記抗CS抗体としては2H6(商品名、生化学工業社製)を用いた。また、上記抗体にかえてマウスIgMアイソタイプ(ケミコン社製)を用いたケースをコントロールとした。具体的な実験方法は以下のとおりである。
硫酸化阻害物質との接触から1日経過後(EB形成から3日後)の細胞塊をEDTAで処理した後、この細胞懸濁液をFACS緩衝液(0.5質量%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.1質量%アジ化ナトリウムを含むPBS溶液)で希釈した上記プライマリー抗体溶液中でインキュベートした。洗浄後、細胞懸濁液を上記FACS緩衝液で希釈したFITC標識した抗マウスIgM抗体(シグマ社製)溶液中でインキュベートした。洗浄後、FACSAria Cell Sorter(ベクトンディッキンソン社製)を用いてFACS分析を行った。
結果を図1に示す。
mESCであるR1セルライン由来のEBにおいて、硫酸化阻害物質がEBの外胚様(神経細胞)への分化を誘導することを、特定の遺伝子のmRNAの発現レベルを指標にして調べた。具体的には、中胚葉分化のマーカーであるT及びGoosecoid、並びに外胚葉分化のマーカーであるMash1及びPax6の各遺伝子について、それらのmRNAの発現量をABI PRISM(登録商標)7700 sequence detection systemを用いたリアルタイムPCRにより定量した。J.Biol.Chem.283(2008)の第3597頁右欄第3行目〜15行目に記載の方法に基づき、下記の塩基配列のプライマーセットとプローブとを用いて定量を行った。
プライマーセット プローブ
T : 配列番号1及び配列番号2 配列番号31
Goosecoid : 配列番号3及び配列番号4 配列番号32
Mash1 : 配列番号5及び配列番号6 配列番号33
Pax6 : 配列番号7及び配列番号8 配列番号34
βアクチン :配列番号19及び配列番号20 配列番号40
なお、プローブは5’末端をレポーター色素の3FAM、3’末端をクエンチャー色素のTAMRAで標識されたものをアプライドバイオシステム社から購入した。
結果を図2に示す。
プライマーセット プローブ
Nestin : 配列番号9及び配列番号10 配列番号35
Musashi−1:配列番号11及び配列番号12 配列番号36
Mash1 : 配列番号5及び配列番号6 配列番号33
Math1 :配列番号13及び配列番号14 配列番号37
NeuroD1 :配列番号15及び配列番号16 配列番号38
NeuroD2 :配列番号17及び配列番号18 配列番号39
なお、プローブは5’末端をレポーター色素の3FAM、3’末端をクエンチャー色素のTAMRAで標識されたものをアプライドバイオシステム社から購入した。
結果を図3に示す。
プライマーセット
Nestin : 配列番号21及び配列番号22
Musashi−1 : 配列番号23及び配列番号24
Sox1 : 配列番号25及び配列番号26
NCAM1 : 配列番号27及び配列番号28
Oct3/4 : 配列番号29及び配列番号30
結果を図4に示す。
上述のように硫酸化阻害物質と接触させたEBについて、硫酸化阻害物質との接触から3日後(EB形成から5日後)に、PLL/ラミニンコートしたガラスチャンバースライド(Iwaki社製)上に移して培養し、その2日後の細胞について神経細胞への分化を免疫染色により分析した。具体的には、上記ガラスチャンバースライド上の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定化し、0.1%サポニンで透過性とした。これを洗浄後ブロッキング処理を行い、抗βIII−チューブリン抗体(マウスIgG、ケミコン社製)を反応させた。さらにこれを洗浄後、FITC標識抗マウスIgG抗体(ケミコン社製)を反応させ、続いてプロピジウムヨウ化物(PI)で対比染色を行った。LSM5Pascal confocal laser scanning microscope(Carl Zeiss社製)を用いて免疫蛍光画像を得た。mESC細胞(R1セルライン)由来のEBから分化した細胞の結果を図5に、hiPSC(Fetch及びTic)から分化した細胞の結果を図6に示す。
なお、Plos ONE December 2009 Vol.4 Issue 12 e8262には、硫酸化に関与する遺伝子をノックアウトして胚様体を神経細胞へと分化させたことが記載されている。それによれば、EB形成から14日後の細胞でも、上記図5及び図6に示される量と同程度かそれ以下の量のβIII−チューブリンの発現が確認できるに過ぎない。
上記免疫染色分析で確認したβIII−チューブリンの発現量の増加をより定量的に測定するために、免疫ブロットを実施した。上記のようにPLL/ラミニンコートしたガラスチャンバースライド(Iwaki社製)上に移して2日経過した細胞を溶解緩衝液(150mM NaCl、1%TritonX−100、1mMN3VO4、10mM NaF、プロテアーゼインヒビター(シグマ社製)を含む50mM Tris−HCl pH7.4)で溶解した。この細胞溶解液を10%SDS−PAGEにかけた後、PVDFメンブレン(ミリポア社製)にトランスファーした。このメンブレンをブロッキング後、プライマリー抗体として上記の抗βIII−チューブリン抗体(マウスIgG、ケミコン社製)を、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(Cell signaling社製)をそれぞれ反応させた。洗浄後、メンブレン上のペルオキシダーゼをECL Plus試薬(GEヘルスケア社製)を用いて発色させた。なお、抗βアクチン抗体(シグマ社製)をβIII−チューブリンの発現量の変化を分析するためのコントロール抗体として用いた。結果を図7及び図8に示す。
硫酸化阻害物質との接触から1日経過後(EB形成から3日後)及び3日経過後(EB形成から5日後)のR1由来細胞を上記溶解緩衝液で溶解して細胞溶解液を調製した。また、J.Biol.Chem.283(2008)の第3596頁右欄第3行目〜18行目に記載の方法に沿って核抽出液を調製した。上記細胞溶解液はBMPシグナル伝達経路の下流で働くリン酸化Smad1(p−Smad1)の発現量の分析に用い、上記核抽出液はWintシグナル伝達経路において、核内で標的遺伝子の発現を促進する役割を果たすβ−カテニンの発現量の分析に用いた。
細胞溶解液又は核抽出液を10%SDS−PAGE後にPVDFメンブレン(ミリポア社製)にトランスファーし、このメンブレンをブロッキング処理後、プライマリー抗体である抗p−Smad1抗体(Ser463/465、ウサギIgG、セルシグナリングテクノロジー社製)又は抗βカテニン抗体(ウサギIgG、セルシグナリングテクノロジー社製)を反応させ、続いて2次抗体であるペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(Cell signaling社製)と反応させた。なお、細胞溶解液については抗βアクチン抗体(マウスIgG、シグマ社製)を、核抽出液については抗ラミンB1抗体(マウスIgG、Zymed社製)を、それぞれp−Smad1及びβカテニンの発現量の変化を分析するためのコントロール抗体として用いた(この場合、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を用いた)。洗浄後、メンブレン上のペルオキシダーゼをECL Plus試薬(GEヘルスケア社製)を用いて発色させた。結果を図9に示す。
Claims (4)
- 胚様体と塩素酸塩とを接触させ、該胚様体中における糖鎖の硫酸化を抑制して該胚様体の神経細胞への分化を促進することを含む神経細胞の製造方法であって、
さらに胚様体とレチノイン酸とを接触させる工程を含む、製造方法。 - 塩素酸塩を含有する培地で胚様体を培養することにより胚様体と塩素酸塩とを接触させる、請求項1に記載の製造方法。
- 胚様体が哺乳類のES細胞又は哺乳類の人工多能性幹細胞に由来する、請求項1又は2に記載の製造方法。
- 塩素酸塩及びレチノイン酸を有効成分として含有する神経細胞分化促進剤。
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