本発明の一実施形態を以下に説明する。まず、本実施形態の歩行補助装置の機構的な構成を図1〜図4を参照して説明する。
図1〜図3はそれぞれ、本実施形態の歩行補助装置の外観を示す斜視図、側面図、正面図であり、図4は該歩行補助装置の大腿フレームの切断側面図である。
図示のように、本実施形態の歩行補助装置Aは、利用者Pが着座する着座部材1と、利用者Pの各脚の足平に装着される左右一対の足平装着部2L,2Rと、各足平装着部2L,2Rを着座部材1にそれぞれ連結する左右一対の脚リンク3L,3Rとを備えている。左右の足平装着部2L,2Rは互いに左右対称の同一構造である。左右の脚リンク3L,3Rも互いに左右対称の同一構造である。
以下、左右の脚リンク3L,3Rのうちの利用者Pの前方に向かって左側の脚リンクを左脚リンク3Lといい、左右の脚リンク3L,3Rのうちの利用者Pの前方に向かって右側の脚リンクを右脚リンク3Rという。また、左右の足平装着部2L,2Rのうちの利用者Pの前方に向かって左側の足平装着部を左足平装着部2Lといい、左右の足平装着部2L,2Rのうちの利用者Pの前方に向かって右側の足平装着部を右足平装着部2Rという。以降の説明では、歩行補助装置Aの左脚リンク3L及び左足平装着部2Lについて主に説明する。
また、以降の説明では、左右を区別するために、参照符号の末尾に符号「L」、「R」を付加することがある。各参照符号の末尾の符号「L」、「R」は、それぞれ、左脚リンク3L、右脚リンク3Rに関連するものという意味で使用する。
脚リンク3L,3Rのそれぞれは、第1関節4と、大腿フレーム5と、第2関節6と、下腿フレーム7と、第3関節8とから構成されている。大腿フレーム5は、着座部材1から第1関節4を介して下側に延設されている。下腿フレーム7は、足平装着部2L,2Rのそれぞれから第2関節6を介して上側に延設されている。第3関節8は、大腿フレーム5と下腿フレーム7とを、第1関節4と第2関節6との中間で屈伸自在に連結している。
更に、歩行補助装置Aは、脚リンク3L,3R毎に、駆動手段としての回転アクチュエータ9と、動力伝達機構10とを備えている。回転アクチュエータ9は、第3関節8を駆動するための駆動力を発生する。動力伝達機構10は、回転アクチュエータ9の駆動力を第3関節8に伝達して、当該第3関節8にその関節軸周りの駆動トルクを付与する。
着座部材1は、利用者Pが跨ぐようにして(利用者Pの両脚の付け根の間に配置するようにして)着座するサドル状のシート部1aと、シート部1aの下面に装着された支持フレーム1bと、支持フレーム1bの後端部(シート部1aの後側で上方に立ち上がる立ち上がり部分)に取り付けた腰当て部1cとから構成されている。また、腰当て部1cには、利用者P又は補助者が把持可能なアーチ状の把持部1dが取り付けられている。
脚リンク3L,3Rのそれぞれの第1関節4は、前後方向及び左右方向の2つの関節軸周りの回転自由度(2自由度)を有する関節である。更に詳細には、各第1関節4は、着座部材1に連結された円弧状のガイドレール11を備えている。そして、このガイドレール11に、脚リンク3L,3Rのそれぞれの大腿フレーム5の上端部に固定されたスライダ12が、該スライダ12に軸着した複数のローラ13を介して移動自在に係合されている。このため、脚リンク3L,3Rのそれぞれは、ガイドレール11の曲率中心4a(図2参照)を通り、且つガイドレール11の円弧を含む平面に垂直となる左右方向の軸を第1関節4の第1の関節軸として、該第1の関節軸のまわりに前後方向の揺動運動(前後の振り出し運動)を行うことが可能となっている。
また、ガイドレール11は、着座部材1の支持フレーム1bの後端部(立ち上がり部分)に、軸心を前後方向に向けた支軸4bを介して軸支され、該支軸4bの軸心まわりに揺動可能とされている。これにより、各脚リンク3L,3Rは、支軸4bの軸心を第1関節4の第2の関節軸として、該第2の関節軸のまわりに左右方向の揺動運動、すなわち、内転・外転運動を行うことが可能となっている。なお、本実施形態では、第1関節4の第2の関節軸は、左脚リンク3Lの第1関節4と右脚リンク3Rの第1関節4とで共通の関節軸となっている。
上記のように第1関節4は、各脚リンク3L,3Rが、前後方向及び左右方向の2つの関節軸周りの揺動運動を行うことが可能となるように構成されている。
なお、第1関節の回転自由度は2つに限られるものではない。例えば3つの関節軸周りの回転自由度(3自由度)を有するように第1関節を構成してもよい。あるいは、例えば左右方向の1つの関節軸周りの回転自由度(1自由度)だけを有するように第1関節を構成してもよい。
左足平装着部2Lは、利用者Pの各足平に履かせる靴2aと、靴2a内から上方に突出する連結部材2bとを備え、利用者Pの各脚が立脚(支持脚)となる状態で、靴2aを介して接地する。そして、連結部材2bには、各脚リンク3L,3Rの下腿フレーム7の下端部が第2関節6を介して連結されている。この場合、連結部材2bは、図2に示されるように、靴2a内の中敷2cの下側(靴2aの底部と中敷2cとの間)に配置される平板状部分2bxを一体に備えている。
そして、連結部材2bは、左足平装着部2Lを接地させた時に、該左足平装着部2Lに床から作用する床反力の一部(少なくとも歩行補助装置Aと利用者Pの体重の一部とを合わせた重量を支えるのに充分な程度の大きさの並進力)を連結部材2b及び第2関節6を介して脚リンク3L,3Rに作用させることができるように、平板状部分2bxを含めて比較的高剛性の部材により形成されている。
なお、左足平装着部2Lは、靴2aの代わりに、例えばスリッパ状のものを備えるようにしてもよい。
第2関節6は、本実施形態では、ボールジョイント等のフリージョイントにより構成され、3軸周りの回転自由度を有する関節となっている。但し、第2関節は、例えば前後及び左右方向の2軸まわり、あるいは、上下及び左右方向の2軸周りの回転自由度を有する関節であってもよい。
第3関節8は、左右方向の1軸周りの回転自由度を有する関節であり、大腿フレーム5の下端部に下腿フレーム7の上端部を軸支する支軸8aを有する。該支軸8aの軸心は、第1関節4の第1の関節軸とほぼ平行である。そして、この支軸8aの軸心が第3関節8の関節軸となっており、その関節軸のまわりに、下腿フレーム7が大腿フレーム5に対して相対回転可能とされている。これにより、該第3関節8での脚リンク3L,3Rの屈伸運動が可能となっている。
脚リンク3L,3R毎の回転アクチュエータ9は、減速機14付の電動モータ15により構成された回転アクチュエータである。この回転アクチュエータ9は、その出力軸9aの軸心が第3関節8の関節軸(支軸8aの軸心)と平行になるように、大腿フレーム5の上端部(第1関節4寄りの部分)の外面に搭載され、該回転アクチュエータ9のハウジング(電動モータ15のステータに固定されている部分)が大腿フレーム5に固設されている。
各動力伝達機構10は、本実施形態では、駆動クランクアーム16と、従動クランクアーム17と、連結ロッド18とから構成されている。
駆動クランクアーム16は、回転アクチュエータ9の出力軸9aに同心に固定されている。従動クランクアーム17は、第3関節8の関節軸と同心に下腿フレーム7に固定されている。連結ロッド18は、一端を駆動クランクアーム16に、他端を従動クランクアーム17に枢着されている。連結ロッド18は、駆動クランクアーム16に対する枢着部18aと、従動クランクアーム17に対する枢着部18bとの間で直線状に延在している。
このように構成された動力伝達機構10では、電動モータ15の運転によって回転アクチュエータ9の出力軸9aから出力される駆動力(出力トルク)は、該出力軸9aから駆動クランクアーム16を介して連結ロッド18の長手方向の並進力に変換され、その並進力(ロッド伝達力)が連結ロッド18をその長手方向に伝達する。更に、該並進力が連結ロッド18から従動クランクアーム17を介して駆動トルクに変換され、その駆動トルクが、第3関節8の関節軸まわりに各脚リンク3L,3Rを屈伸させる駆動力として該第3関節8に付与される。
ここで、本実施形態では、各脚リンク3L,3Rの大腿フレーム5及び下腿フレーム7のそれぞれの長さの総和は、利用者Pの脚を直線状に伸展させた状態での該脚の長さよりも長いものとなっている。このため、各脚リンク3L,3Rは、第3関節8で常時、屈曲する。その屈曲角度θ1(図2参照)は、利用者Pの平地での通常歩行時には、例えば約40°〜70°の範囲の角度となる。なお、ここでの屈曲角度θ1は、図2に示されるように、各脚リンク3L,3Rを第3関節8の関節軸方向で見たときに、第3関節8の関節軸とガイドレール11の曲率中心4aとを結ぶ直線と、第3関節8の関節軸と第2関節6とを結ぶ直線との成す角度(鋭角側の角度)を意味する。
そして、本実施形態では、各脚リンク3L,3Rの屈曲角度θ1が、利用者Pの平地での通常歩行時の角度範囲を含む、ある角度範囲(例えば約20°〜70°の範囲)に存する状態で、第3関節8に付与される駆動トルクが、回転アクチュエータ9の出力トルクよりも大きくなるように、連結ロッド18の枢着部18a,18bと、第3関節8の関節軸と、回転アクチュエータ9の出力軸9aとの相対的な位置関係が設定されている。この場合、本実施形態では、各脚リンク3L,3Rを第3関節8の関節軸方向で見たときに、図4に示されるように、回転アクチュエータ9の出力軸9aと第3関節8の関節軸とを結ぶ直線と、連結ロッド18の枢着部18aと枢着部18bとを結ぶ直線とが斜交している。
更に、本実施形態では、各脚リンク3L,3Rの屈曲角度θ1が、利用者Pの平地での通常歩行時の角度範囲を含む、ある角度範囲(例えば約20°〜70°の範囲)に存する状態で、回転アクチュエータ9から連結ロッド18に、その長手方向の引張り力を作用させた場合に、第3関節8に付与される駆動トルクが、脚リンク3L,3Rを伸展方向に付勢するトルクとなるように連結ロッド18の枢着部18bの位置が設定されている。この場合、本実施形態では、各脚リンク3L,3Rを第3関節8の関節軸方向で見たときに、連結ロッド18の枢着部18bが、回転アクチュエータ9の出力軸9aと第3関節8の関節軸とを結ぶ直線よりもガイドレール11側に設けられている。
また、図4に示されるように、大腿フレーム5には、バッテリ19と、カバー20とが取り付けられている。バッテリ19は、連結ロッド18とガイドレール11との間に配置されている。カバー20は、バッテリ19を覆うように形成され、大腿フレーム5に取り付けられている。このように、本実施形態では、脚リンク3L,3R毎にバッテリ19を備えている。
バッテリ19は、充放電が可能な二次電池であり、各電動モータ15等の電装品の電源として機能する。これらのバッテリ19は、図示しない電気配線によって回転アクチュエータ9に電気的に接続されている。
詳細には、左脚リンク3Lの大腿フレーム5に配置されたバッテリ19は、左脚リンク3Lの第3関節8を駆動するための駆動力を発生する回転アクチュエータ9に電気エネルギーを供給する電源として構成されている。同様に、右脚リンク3Rの大腿フレーム5に配置されたバッテリ19は、右脚リンク3Rの第3関節8を駆動するための駆動力を発生する回転アクチュエータ9に電気エネルギーを供給する電源として構成されている。
このように、脚リンク3L,3Rのそれぞれに配置されたバッテリ19は、当該バッテリ19が配置された脚リンク(3L又は3R)に応じた回転アクチュエータ9に電気エネルギーを供給する。
なお、二次電池としては、歩行補助装置Aの作動時間として、充分な長さを確保できる程度に電気エネルギー量を蓄え得るものであれば、電気二重層コンデンサ等のコンデンサ(複数のコンデンサ素子を組み合わせたものを含む)であってもよい。また、二次電池が、バッテリとコンデンサとを組み合わせて構成されていてもよい。
以上が、本実施形態の歩行補助装置Aの機構的な主要構成である。このように構成された歩行補助装置Aでは、足平装着部2L,2Rを接地させた状態で、脚リンク3L,3Rの第3関節8に回転アクチュエータ9から動力伝達機構10を介して伸展方向の駆動力(駆動トルク)を付与することによって、着座部材1が上向きに付勢される。これにより、着座部材1から利用者Pに上向きの持上げ力が作用することとなる。本実施形態の歩行補助装置Aは、この持上げ力によって、利用者Pの体重の一部(利用者Pに作用する重力の一部)を支持し、利用者Pの歩行時等における脚の負担を軽減する。
この場合、歩行補助装置Aと利用者Pとの全体を床に支える支持力(歩行補助装置Aの接地面に床から作用するトータルの並進力。以下、「全支持力」という)のうち、歩行補助装置A自身と利用者Pの体重の一部とを床に支える支持力を歩行補助装置Aが負担し、残りの支持力を利用者Pが負担することとなる。以降、上記全支持力のうち、歩行補助装置Aが負担する支持力を補助装置負担支持力、利用者Pが負担する支持力を利用者負担支持力という。
補助装置負担支持力は、利用者Pの両脚が立脚となる状態では、左右の脚リンク3L,3Rの両方に分配的に作用し、片脚だけが立脚となる状態では、両脚リンク3L,3Rのうちの片脚側の脚リンクだけに作用する。これは、利用者負担支持力についても同様である。
なお、本実施形態では、各脚リンク3L,3Rの第3関節8、あるいは、大腿フレーム5と下腿フレーム7との間には、回転アクチュエータ9の負荷を軽減する(必要な最大出力トルクを低減する)ために、該脚リンク3L,3Rを伸展方向に付勢するバネ(図示省略)が装着されている。但し、このバネは省略してもよい。
次に、本実施形態の歩行補助装置Aの作動を制御するための構成を説明する。本実施形態の歩行補助装置Aでは、各回転アクチュエータ9の動作制御を行う制御手段としての制御装置21が図2に示されるように着座部材1の支持フレーム1bに収納されている。
制御装置21は、演算処理を実行する中央演算処理装置(図示省略)と、情報を記憶する記憶装置であるメモリ(図示省略)とからなるマイクロコンピュータにより構成される。メモリは、中央演算処理装置による演算処理を実行するプログラム、当該プログラムが参照するデータ(例えば、閾値やテーブル等)、及び演算結果等を記憶保持する。制御装置21は、更に、演算に必要な情報を外部から入力する入力インターフェイス(図示省略)と、演算結果に基づき指令信号を外部に出力する出力インターフェイス(図示省略)とを備える。
また、歩行補助装置Aには、以下に示すような装着検知センサ1ax、トルクセンサ15a、及び回転速度センサ15b、一対の踏力計測用力センサ22a,22b、ひずみゲージ式力センサ23、及び角度センサ24が備えられている。
装着検知センサ1axは、利用者Pの股部が着座部材1に当接した(利用者Pが着座した)ことを検出する圧力センサが、着座部材1のシート部1aに設けられている。装着検知センサ1axは、利用者Pが着座部材1に着座したときと、着座していないときとで出力信号が変化する。制御装置21は、この出力信号の変化によって、利用者Pが着座したか否かを判定する。
また、電動モータ15の出力軸9aには、電動モータ15の出力トルクを検知するトルクセンサ15aと、電動モータ15の出力軸9aの回転速度(すなわち、電動モータ15の回転速度)を検知する回転速度センサ15bとが設けられている。制御装置21は、トルクセンサ15aの出力信号によって、電動モータ15が実際に出力したトルク(以下、「トルク実測値」という)Tactを得る。また、制御装置21は、回転速度センサ15bの出力信号によって、電動モータ15が実際に出力した回転速度(以下、「回転速度実測値」という)Vactを得る。
ここで、装着検知センサ1axが本発明における装着検知手段に相当する。トルクセンサ15aが本発明における出力検知手段に相当する。回転速度センサ15bが本発明における出力速度検知手段に相当する。
また、一対の踏力計測用力センサ22a,22bは、図2に示されるように、利用者Pの各脚の踏力(各脚の足平を床面側に押し付ける上下方向の並進力)を計測するために、足平装着部2L,2Rの各靴2a内に設けられている。各脚の踏力は、別の言い方をすれば、前記利用者負担支持力のうちの各脚に作用する力(各脚の負担分)に釣り合う並進力であり、両脚のそれぞれの踏力の総和の大きさは、利用者負担支持力の大きさに等しい。
本実施形態では、踏力計測用力センサ22a,22bは、利用者Pの足平の中趾節関節(MP関節)の直下箇所と踵の直下箇所との前後2箇所で利用者Pの足平の底面に対向するように靴2a内の中敷2cの下面に取付けられている。これらの踏力計測用力センサ22a,22bは、それぞれ1軸力センサにより構成され、靴2aの底面に垂直な方向の並進力に応じた出力信号を発生する。
また、図4に示されるように、各動力伝達機構10の連結ロッド18の第3関節8寄りの箇所に、ロッド伝達力計測用力センサとしてのひずみゲージ式力センサ23が取り付けられている。このひずみゲージ式力センサ23は、連結ロッド18の外周面に固着された複数のひずみゲージ(図示省略)によって構成される公知のセンサであり、連結ロッド18にその長手方向で作用する並進力に応じた出力を発生する。なお、ひずみゲージ式力センサ23は、連結ロッド18の長手方向の並進力に対しては、高い感度を有するが、連結ロッド18のせん断方向(横断方向)の力に対する感度は十分に微小なものとなる。
また、各脚リンク3L,3Rの第3関節8の変位角度(下腿フレーム7の大腿フレーム5に対する基準位置からの相対回転角度)を表すものとしての各脚リンク3L,3Rの屈曲角度を計測するために、各回転アクチュエータ9の出力軸9aの回転角度(基準位置からの回転角度)に応じた出力を発生するロータリエンコーダ等の角度センサ24(図3参照)が、回転アクチュエータ9と一体に大腿フレーム5に搭載されている。本実施形態では、各脚リンク3L,3Rの第3関節8での屈曲角度は、各回転アクチュエータ9の出力軸9aの回転角度に応じて一義的に定まる。従って、角度センサ24の出力は、各脚リンク3L,3Rの屈曲角度に応じた出力を発生する。なお、各脚リンク3L,3Rの第3関節8は、膝関節に相当するものであるので、以降の説明では、第3関節8での各脚リンク3L,3Rの屈曲角度を膝角度という。
補足すると、各脚リンク3L,3Rの第3関節8にロータリエンコーダ等の角度センサを搭載し、その角度センサにより直接的に各脚リンク3L,3Rの膝角度を計測し得るようにしてもよい。
図5は、制御装置21が実行する「電流指令値を決定」する処理部(以下、「電流指令値決定部」という)のブロック図を示す。なお、電流指令値決定部は左右の脚リンク3L,3Rのそれぞれに対して図5のような処理を実行する。以降の説明では、左右の脚リンク3L,3Rの区別をせずに説明する。電流指令値決定部は、電動モータ15の出力トルクの目標値(以下、「トルク目標値」という)Tcmdが入力され、電動モータ15に対する電流指令値Icmdを出力する。また、電流指令値決定部には、トルク実測値Tactと回転速度実測値Vactとがフィードバック信号として入力される。
以下、電流指令値決定部の詳細について説明する。電流指令値決定部は、トルク偏差算出手段F1と、回転速度目標値決定手段F2と、回転速度偏差算出手段F3と、電流指令値算出手段F4と、第1切替手段SW1と、第2切替手段SW2とを備える。
第1切替手段SW1及び第2切替手段SW2は、利用者Pが歩行補助装置Aを装着完了したか否かで処理を切り替え、内部の動作が切り替わるように設計されている。第1切替手段SW1及び第2切替手段SW2は、利用者Pが歩行補助装置Aを装着完了したか否かを、前述の装着検知センサ1axの出力信号によって検知している。
なお、装着したか否かの判定はこれに限らず、例えば、足平装着部2L,2Rにも圧力センサを設け、装着検知センサ1axとこれらの圧力センサとの全てのセンサが圧力を検知したときに、装着したと判定してもよい。また、装着したか否かの判定は、歩行補助装置Aが自動的に行う必要はなく、ボタン操作等により、利用者Pから明示的に指定されるものであってもよい。
以下、利用者Pが歩行補助装置Aを装着完了前のことを単に「装着完了前」といい、利用者Pが歩行補助装置Aを装着完了後のことを単に「装着完了後」という。
なお、本実施形態の歩行補助装置Aは、利用者Pが当該歩行補助装置Aを装着するとき(すなわち装着完了前のとき)、膝角度θ1が大きい状態において、利用者Pの左右の足平に足平装着部2L,2Rが装着され、その後、回転アクチュエータ9の駆動力により徐々に膝角度θ1が小さくなっていく。すなわち、着座部材1が利用者Pの股部に向かって徐々に近づいていく。
まず、トルク偏差算出手段F1は、トルク目標値Tcmdとトルク実測値Tactとの偏差(以下、「トルク偏差」という)Terr1を算出する。回転速度目標値決定手段F2は、トルク偏差算出手段F1によって得られたトルク偏差Terr1に、所定のゲインKpを掛けて仮の回転速度目標値Vcmd1を算出(決定)する。所定のゲインKpは、予め実験等によって決定され、図示しないメモリに記憶保持される。ここで、回転速度目標値決定手段F2によって算出される回転速度目標値Vcmd1が、本発明における「前記電動機の出力の目標値と前記出力検知手段により検知された出力との偏差から得られる前記電動機の出力速度の目標値」に相当する。
第1切替手段SW1は、回転速度目標値決定手段F2によって算出された仮の回転速度目標値Vcmd1に基づいて、回転速度目標値Vcmd1を出力する。
第1切替手段SW1は、装着完了前の場合には、リミット処理を行う。リミット処理は、第1切替手段SW1に入力された仮の回転速度目標値Vcmd1が、上限値を超えている場合には上限値を回転速度目標値Vcmd1として出力し、上限値以下の場合には入力された仮の回転速度目標値Vcmd1をそのまま回転速度目標値Vcmd1として出力する処理である。
このリミット処理によって、歩行補助装置Aの着座部材1が、当該歩行補助装置Aを装着しようとしている利用者Pの股部に近付くときに、当該着座部材1の移動速度が、安全を確保可能な速度を超えないようにでき、利用者Pは当該歩行補助装置Aをより安全に利用できる。上限値は、この安全を確保可能な速度以下の値に設定され、予め図示しないメモリに記憶保持される。
また、第1切替手段SW1は、装着完了後には、入力された仮の回転速度目標値Vcmd1をそのまま回転速度目標値Vcmd1として出力する。
この第1切替手段SW1による処理が、本発明において「制御手段は、装着検知手段が装着していないと判定しているときは、電動機の出力速度の目標値を所定の値以下に制限する」ことに相当する。
また、第2切替手段SW2は、フィードバック信号として入力された回転速度実測値Vactを以下のように処理する。第2切替手段SW2は、高域を通過して、低域を低下させる(又は0にする)ハイパスフィルタ(高域通過フィルタ)HPFを備える。
本発明者は、本実施形態のハイパスフィルタHPFのカットオフ周波数(遮断周波数)fcを実験によって決定した。本発明者は、本実験で、利用者Pの歩行時の、足平と股部との間の距離(以下、「足平股部間距離」という)の時間変化を計測した。足平股部間距離は、角度センサ24の出力に基づいて膝角度θ1を計測し、この膝角度θ1から着座部材1と足平装着部2L,2Rの間の距離を求めている。図6は、この計測結果をフーリエ変換により時間領域から周波数領域に変換した結果を示す(横軸は周波数、縦軸はスペクトルパワー)。
図6の縦軸の値が大きくなっている周波数は、利用者Pが歩行時の足平股部間距離の時間変化において、その周波数成分がより強く含まれていることを示す。利用者Pの歩行時に行われる膝の曲げ伸ばしは、基本的には足を前後方向に動かすことで行われる。但し、利用者Pが歩行のために前後方向に脚を動作させる以外にも、様々な外的要因等により膝が動くこともある。
このような外的要因による膝の動きは、定常的なものではなくノイズのように突発的な動きであるので、当該前後方向の動作に比べ、顕著な周期性は認められないのが通常である。すなわち、前後方向に動かすときの周波数成分は、スペクトルパワーが大きくなり、上記のような外的要因による動き(すなわち、利用者Pが歩行のための動き以外の動き)の周波数成分は、スペクトルパワーが小さくなる。すなわち、値が大きくなっている周波数は、利用者Pが脚を動かすときの変動周波数(以下、「脚周波数」という)に近いと考えられる。
このため、脚周波数未満の周波数帯域、すなわち、利用者Pが粘性感を感じやすい低域では、速度フィードバックの値(回転速度実測値Vact)を0(又は0に近い値)にし、トルク目標値Tcmdが0のときに、トルク実測値Tactが0(又は0に近い値)になるようにする。
また、速度フィードバック制御により目標値への収斂性を高めているので、脚周波数以上の周波数帯域、すなわち、利用者Pが粘性感を感じにくい高域では、速度フィードバックの値(回転速度実測値Vact)を0にせず、実際に電動モータ15が回転した速度にする。
このため、本実施形態では、ハイパスフィルタHPFのカットオフ周波数fcを、脚周波数に所定の値だけ高い周波数に設定している。なお、本実施形態においてカットオフ周波数fcを余裕を持って脚周波数に所定の値を加えた周波数にしているが、カットオフ周波数fcは脚周波数以上の値であればよい(例えば、所定の値が0であってもよい)。このとき、カットオフ周波数fcとして脚周波数より高すぎる値を設定すると、速度フィードバック制御により安定性を向上する効果が薄れるため、予め実験等により適切な周波数を求め、図示しないメモリに記憶保持しておくとよい。本実施形態のカットオフ周波数fcが、本発明における「所定の周波数」に相当する。なお、所定の周波数は、利用者Pが感じる粘性感を無くすことが(又は低減)できる周波数であればよい。例えば、所定の周波数を脚周波数(利用者Pの動作の変動周波数)としてもよい。
なお、脚周波数は利用者や使用用途によっても異なる。このため、ハイパスフィルタを、ハイパスフィルタHPFのカットオフ周波数fcを変更可能に構成している場合(例えば、ソフトウェア等による処理)においては、カットオフ周波数fcを利用者毎に学習するようにしてもよい。例えば、粘性感を感じるときにボタンを押圧することで通知してもらうことで学習したり、トルク目標値Tcmdが0のとき(遊脚と判定できるとき)の膝角度θ1を所定間隔でサンプリングしたデータを周波数解析して図6に示されるようなデータにし、カットオフ周波数fcを自動的に決定してもよい。
カットオフ周波数fcを学習しない場合には、予め複数の被験者で実験してカットオフ周波数fcを決定するとよい。また、利用者が複数のカットオフ周波数fcを選択できるような操作ボタン等を設けてもよい。この場合のユーザーインターフェイスとしては、カットオフ周波数fcの値をユーザーに提示するものよりは、例えば、「歩行」,「走行」や「弱」,「強」等のようなものであると利用者Pは簡単に選択できる。
図5の説明に戻る。第2切替手段SW2は、装着完了後の場合、入力された回転速度実測値Vactを、ハイパスフィルタHPFに通過させて新たな回転速度実測値Vactとして出力する。このため、回転速度実測値Vactの変動周波数の低域成分(利用者Pの脚周波数未満の成分)は、ハイパスフィルタHPFにより低下(減衰)するので、0に近くなる(又は0になる)。
また、回転速度実測値Vactの変動周波数の高域成分(利用者Pの脚周波数以上の成分)は、低下(減衰)せずにハイパスフィルタHPFを通過する。また、第2切替手段SW2は、装着完了前の場合、ハイパスフィルタHPFは通さずに、入力された回転速度実測値Vactをそのまま出力する。
回転速度偏差算出手段F3は、第1切替手段SW1から出力された回転速度目標値Vcmd1と、第2切替手段SW2から出力される回転速度実測値Vactとの偏差(以下、「回転速度偏差」という)Verrを算出する。
電流指令値算出手段F4は、回転速度偏差算出手段F3によって算出された回転速度偏差Verrに、所定のゲインKvを掛けて電流指令値Icmdを算出する。所定のゲインKvは、予め実験等によって決定され、図示しないメモリに記憶保持される。
このように、電流指令値決定部は、装着完了後において、ハイパスフィルタHPFを介した回転速度実測値Vactによって、回転速度偏差Verrを算出している。これにより、回転速度実測値Vactの変動周波数の高域成分(利用者Pの脚周波数以上の成分)は回転速度実測値Vactがそのままフィードバックされ、電流指令値Icmdが高周波数で発振することを防止でき、歩行補助装置Aの作動の安定性が高まる。
また、回転速度実測値Vactの変動周波数の低域成分(利用者Pの脚周波数未満の成分)は0の近くまで低下(減衰)され(又は0にされ)、実質的に回転速度実測値Vactがフィードバックされず、利用者Pが感じる粘性感を低減する(又は無くす)ことができる。
このようにして、回転速度実測値Vactをフィードバック(速度フィードバック)する際に、所定のカットオフ周波数fc(利用者Pの脚周波数に基づいた周波数)のハイパスフィルタHPFを介することにより、本実施形態の歩行補助装置Aは、利用者の脚の動作の変化に対する追従性及び安定性を両立可能となっている。
また、電流指令値決定部は、装着完了前において、利用者Pに粘性感を感じないようにする必要がないので、ハイパスフィルタHPFを介さずに、回転速度実測値Vactをフィードバックしている。これにより、電流指令値決定部は、装置を装着しようとしているとき等、利用者Pの股部に向かって着座部材1が徐々に近づくときに、より良い制御の安定性を得ることができる。
このように、「制御装置21が、第2切替手段SW2により、回転速度実測値Vactの変動周波数の高域成分が通過し、トルク偏差算出手段F1、回転速度目標値決定手段F2、回転速度偏差算出手段F3及び電流指令値算出手段F4により電流指令値Icmdが決定されて電動機を制御する」ことが、本発明において「所定の周波数以上の周波数帯域では、前記電動機の出力の目標値と前記出力検知手段により検知された出力との偏差から得られる前記電動機の出力速度の目標値と前記検知された出力速度との偏差に基づいて前記電動機を制御する」ことに相当すると共に、「高域制御処理」に相当する。
また、「制御装置21が、第2切替手段SW2により、回転速度実測値Vactの変動周波数の低域成分が0の近くまで低下(減衰)し(又は0になり)、実質的に速度フィードバックせずに、トルク偏差算出手段F1、回転速度目標値決定手段F2、回転速度偏差算出手段F3及び電流指令値算出手段F4によって電流指令値Icmdが決定されて電動機を制御する」ことが、本発明において「前記所定の周波数未満の周波数帯域では、前記検知された出力速度を0又は0の近くまで低下させたときの前記出力速度の目標値と当該検知された出力速度との偏差に基づいて前記電動機を制御する」ことに相当すると共に、「低域制御処理」に相当する。
また、「制御装置21が、第2切替手段SW2、回転速度偏差算出手段F3及び電流指令値算出手段F4によって電流指令値Icmdが決定されて電動機を制御する」ことが、本発明において「前記電動機の出力速度の目標値と前記検知された出力速度が前記ハイパスフィルタを介した出力速度との偏差に基づいて電動機を制御すること」に相当する。
次に、図7を参照して、制御装置21の図示しないメモリに記憶保持されたプログラムに従って、制御装置21の図示しないCPU(中央演算処理装置)が実行する処理手順について説明する。
最初のステップST1で、利用者Pが歩行補助装置Aを装着したか否かの判定を上述のように行う。ステップST1で装着したと判定されたとき(ステップST1の判定結果がYESのとき)は、ステップST2に進み、第1切替手段SW1をリミット処理をしないように設定し、第2切替手段SW2をハイパスフィルタHPFを使うように設定する。
ステップST1で装着していないと判定されたとき(ステップST1の判定結果がNOのとき)は、ステップST3に進み、第1切替手段SW1をリミット処理をするように設定し、第2切替手段SW2をハイパスフィルタHPFを使わないように設定する。
ステップST1〜ST3の処理が、本発明において「制御手段は、装着検知手段が装着したと判定しているときに、周波数帯域に応じて電動機の制御を変える」ことに相当すると共に、「制御手段は、装着検知手段が装着していないと判定しているときは、電動機の出力速度の目標値を所定の値以下に制限する」ことに相当する。
ステップST2又はST3の処理が終了するとステップST4に進み、制御装置21は、トルク目標値Tcmdを、一対の踏力計測用力センサ22a,22bが計測した左右の踏力の値に基づいて、各脚リンク3L,3Rの回転アクチュエータ9が出力する駆動力を決定している。このような制御装置21によるトルク目標値Tcmdの決定の詳細については、例えば、既に公知である特開2007−54616号公報等に記載された方法を用いてもよいし、他の方法を使用してもよい。
次に、ステップST5で、トルク目標値Tcmdとトルク実測値Tactの偏差(トルク偏差Terr1)を算出する(図5のトルク偏差算出手段F1に相当)。次に、ステップST6で、ステップST5で得られたトルク偏差Terr1に所定のゲインKpを掛けて回転速度目標値Vcmd1を決定する。このとき、ステップST3の処理が実行されていた場合には、リミット処理される。ステップST6の処理が図5の回転速度目標値決定手段F2及び第1切替手段SW1に相当する。
ステップST6の処理が終了すると、ステップST7に進み、回転速度目標値Vcmd1と回転速度実測値Vactの偏差(回転速度偏差Verr)を算出する。このとき、ステップST2の処理が実行されていた場合(装着完了後)には、回転速度目標値Vcmd1とハイパスフィルタHPFを介した回転速度実測値Vactとの偏差を算出する。また、ステップST3の処理が実行されていた場合(装着完了前)には、回転速度目標値Vcmd1と回転速度実測値Vactとの差を算出する。ステップST7の処理が図5の回転速度偏差算出手段F3及び第2切替手段SW2に相当する。
次に、ステップST8に進み、ステップST7で得られた回転速度偏差Verrに所定のゲインKvを掛けて電流指令値Icmdを算出する(図5の電流指令値算出手段F4に相当)。
ステップST8の処理が終了すると、制御装置21は、電動モータ15を駆動するドライバ回路(図示省略)に、ステップST8で算出された電流指令値Icmdを出力する。このとき、ドライバ回路は、与えられた電流指令値Icmdに従って各電動モータ15に通電する。これにより、脚リンク3L,3Rの各回転アクチュエータ9が駆動し、歩行補助装置Aが利用者Pの体幹部に上向きの並進力を補助力として付与する。
上記のような制御装置21の速度フィードバックによる電動機の制御に、ハイパスフィルタHPFを入れた際の効果について実験を行った。本実験では、歩行補助装置Aの着座部材1を所定の位置に固定し、脚リンク3L,3Rのうち片方、例えば、左脚リンク3Lを遊脚として、左足平装着部2Lの先を所定の周波数(例えば、1[Hz])で振動させるようにして行った。このとき、遊脚であるため、トルク目標値Tcmdは常に0[Nm]となるように設定している。これにより、利用者Pが遊脚を、地面に着けずに前後方向に動かしている状態をシミュレーションしている。なお、本実施形態では、ハイパスフィルタHPFのカットオフ周波数fcを6[Hz]としている。
図8に、この実験の結果を示す。図8は、横軸が時間、縦軸が左脚リンク3Lの電動モータ15のトルク実測値Tactである。図8において、実線は本実施形態のように速度フィードバックにハイパスフィルタHPFを入れたときの結果であり、破線はハイパスフィルタHPFを入れていないときの結果である。
本実験では、上述のとおり、遊脚の状態をシミュレーションしているので、トルク目標値Tcmdは常に0である。このため、利用者Pはトルク実測値Tactが0に近いほど粘性感を感じない。図8に示されるように、速度フィードバックだけでハイパスフィルタHPFを入れていないとき(破線)には、左足平装着部2Lの先の振動に追従して、トルク実測値Tactが0より大きな値で振動しているのに対し、速度フィードバックにハイパスフィルタHPFを入れたとき(実線)には、トルク実測値Tactが、僅少の振動はあるがほぼ0の値となっている。
以上のように、本実施形態の歩行補助装置Aは、速度フィードバックにハイパスフィルタHPFを入れることで、脚周波数未満の周波数帯域、すなわち、利用者Pが粘性感を感じやすい低域では、速度フィードバックが0(又は0に近い値)となるので、利用者Pが感じる粘性感がなくなる(若しくは低減される)と共に、追従性が向上している。脚周波数以上の周波数帯域、すなわち、利用者Pが粘性感を感じにくい高域では、速度フィードバックの効果により高周波数での発振を防止するような収斂性を持っている(安定性の確保)。従って、本実施形態の歩行補助装置Aでは、利用者Pの動作の変化に対する追従性及び安定性を両立できる。
また、本実施形態の歩行補助装置Aは、電流指令値決定部を図5に示されるように構成している。これにより、電動モータ15の回転速度の変動周波数の周波数帯域に拘らず(低域及び高域のいずれであっても)、すなわち、速度フィードバックの有無に拘らず、所定のゲインKp及び所定のゲインKvが掛けられた値によって制御される。すなわち、電流指令値決定部内の最終的なゲインが低下しない。従って、歩行補助装置Aを素早く動作させることが可能になり、利用者Pの利便性を向上できる。
なお、本実施形態の歩行補助装置Aは、電流指令値決定部を図5に示されるように構成したが、これに限らない。例えば、電流指令値決定部を図9に示されるように構成してもよい。図9に示される制御装置21の電流指令値決定部は、トルク偏差算出手段F11、上乗せトルク算出手段F12と、トルク算出手段F13と、回転速度目標値決定手段F14、回転速度偏差算出手段F15と、電流指令値算出手段F16と、第1切替手段SW11と、第2切替手段SW12とを備える。
トルク偏差算出手段F11は、図5のトルク偏差算出手段F1と同様に、トルク目標値Tcmdとトルク実測値Tactとの偏差から仮のトルク偏差Terr2を算出する。
また、第2切替手段SW12は、回転速度実測値Vactが入力され、装着完了前は値を出力せず(0が出力されているのと同等)、装着完了後は入力された値をローパスフィルタLPFを介して出力する。このときのローパスフィルタLPFのカットオフ周波数fcは、利用者Pの脚周波数以下の値に設定する。
上乗せトルク算出手段F12は、第2切替手段SW12から出力された値が入力され、所定のゲイン「1/Kp」を掛けて、回転速度実測値Vactに応じたトルク「Vact/Kp」を算出して出力している。トルク算出手段F13は、トルク偏差算出手段F11の出力に上乗せトルク算出手段F12の出力を上乗せすることで、新たなトルク偏差Terr2を算出する。回転速度目標値決定手段F14は、入力されたトルク算出手段F13の出力に所定のゲインKpを掛けて仮の回転速度目標値Vcmd2を決定して出力する。所定のゲインKpは、予め実験等によって決定され図示しないメモリに記憶保持される。
第1切替手段SW11は、図5の第1切替手段SW1と同様に、装着完了前のとき、リミット処理により、入力された回転速度目標値決定手段F14の出力の値が、所定の上限値を超えている場合には上限値を回転速度目標値Vcmd2として出力し、所定の上限値を超えていない場合には入力された値をそのまま出力する。所定の上限値は、予め実験等によって決定され図示しないメモリに記憶保持される。このリミット処理による効果は電流指令値決定部を図5のように構成した場合と同様である。また、第1切替手段SW11は、装着完了後のとき、入力された値をそのまま回転速度目標値Vcmd2として出力する。
回転速度偏差算出手段F15は、第1切替手段SW11の出力と回転速度実測値Vactとが入力され、これらの偏差を回転速度偏差Verrとして出力する。電流指令値算出手段F16は、図5の電流指令値算出手段F4と同様に、回転速度偏差算出手段F15から入力された回転速度偏差Verrに所定のゲインKvを掛けて電流指令値Icmdを算出する。所定のゲインKvは、予め実験等によって決定され図示しないメモリに記憶保持される。
以上のように、電流指令値決定部を図9の示されるように構成した場合、装着完了後において、回転速度目標値Vcmd2は、実際のトルク偏差(Tcmd-Tact)に、回転速度実測値Vactに応じたトルク「Vact/Kp」を上乗せしたトルク(Terr2)に基づいて決定されている。このように、予め回転速度実測値Vactが上乗せされた回転速度目標値Vcmd2と回転速度実測値Vactとの偏差により回転速度偏差Verrを算出している。
このとき、回転速度実測値Vactの変動周波数の低域成分(利用者Pの脚周波数未満の成分)は、低下(減衰)せずにローパスフィルタLPFを通過するので、回転速度目標値Vcmd2は、回転速度実測値Vactが上乗せされている。従って、回転速度偏差算出手段F15で、回転速度実測値Vactが上乗せされた回転速度目標値Vcmd2と回転速度実測値Vactとの偏差(回転速度偏差Verr)は、回転速度実測値Vactが打ち消し合い、実際のトルク偏差(Tcmd-Tact)に所定のゲインKpを乗じて得られる回転速度目標値と実質的に同等となる。すなわち、速度フィードバックがされていないことと実質的に同等となる。
これは、電流指令値決定部を図5に示されるように構成した場合において、回転速度実測値Vactの変動周波数の低域成分(利用者Pの脚周波数未満の成分)が、ハイパスフィルタHPFにより低下(減衰)され、回転速度偏差Verrが回転速度目標値Vcmd1になるのと実質的に同等である(すなわち、粘性感を低減でき、追従性が向上する)。
このように、「ローパスフィルタLPFにより回転速度実測値Vactの変動周波数の低域成分が通過し、トルク偏差算出手段F11、上乗せトルク算出手段F12、トルク算出手段F13、回転速度目標値決定手段F14、回転速度偏差算出手段F15及び電流指令値算出手段F16により電流指令値Icmdが決定されて電動機を制御する」ことが、本発明において「所定の周波数以上の周波数帯域では、前記電動機の出力の目標値と前記出力検知手段により検知された出力との偏差から得られる前記電動機の出力速度の目標値と前記検知された出力速度との偏差に基づいて前記電動機を制御する」ことに相当すると共に、「高域制御処理」に相当する。
また、図9に示される電流指令値決定部において、回転速度実測値Vactの変動周波数の高域成分(利用者Pの脚周波数以上の成分)は、ローパスフィルタLPFにより低下(減衰)するので0に近くなる(又は0になる)。これにより、トルク偏差Terr2は、トルク目標値Tcmdとトルク実測値Tactとの偏差と同等になる。このトルク偏差Terr2から得られる回転速度目標値Vcmd2と回転速度実測値Vactとの偏差を得ることは、電流指令値決定部を図5のように構成した場合において、回転速度実測値Vactの変動周波数の高域成分(利用者Pの脚周波数以上の成分)が、低下(減衰)せずにハイパスフィルタHPFを通過して、回転速度実測値Vactをフィードバックしていること(速度フィードバックしていること)と実質的に同等である(すなわち、安定性を確保できる)。
このように、「ローパスフィルタLPFにより回転速度実測値Vactの変動周波数の高域成分が0に近くまで低下(減衰)し(又は0になり)、トルク偏差算出手段F11、上乗せトルク算出手段F12、トルク算出手段F13、回転速度目標値決定手段F14、回転速度偏差算出手段F15及び電流指令値算出手段F16により電流指令値Icmdが決定されて電動機を制御する」ことが、本発明において「前記所定の周波数未満の周波数帯域では、前記検知された出力速度を0又は0の近くまで低下させたときの前記出力速度の目標値と当該検知された出力速度との偏差に基づいて前記電動機を制御する」ことに相当する。
また、装着完了前において、第2切替手段SW12は、値を出力していない(0が出力されているのと同等である)。これにより、Vact/Kpが0となるので、回転速度目標値Vcmd2には回転速度実測値Vactが含まれていない(考慮されていない)。このような回転速度目標値Vcmd2と回転速度実測値Vactとの偏差により回転速度偏差Verrを得るので、装着完了前においては、常に回転速度実測値Vactをフィードバックしていることと同等になる。このため、装着完了前において、歩行補助装置Aは、より良い制御の安定性を得ることができる。
以上のように、電流指令値決定部を図9のように構成した場合であっても、利用者Pの脚周波数が粘性感を感じやすい周波数帯域(低域)においては、実質的に速度フィードバックがされない状態にすることで、粘性感を低減して追従性を向上し、それ以外の周波数帯域(高域)においては、ローパスフィルタLPFの効果により速度フィードバックの効果により安定性を確保できる。従って、図9に示されるような電流指令値決定部においても追従性と安定性を両立できる歩行補助装置Aを提供できる。
また、回転速度偏差算出手段F15と電流指令値算出手段F16とが埋め込まれた速度フィードバック器、例えば、入力を回転速度目標値のみとし、回転速度実測値Vactのフィードバックを内部で自動的に行うように構成された速度フィードバック器を使用する場合においては、図5に示されるようにハイパスフィルタHPFを入れるような構成にするには、モジュール化された速度フィードバック器の中の構成を変更する必要がある。このような場合には、電流指令値決定部を図9に示されるように構成すれば、既にある速度フィードバック器を有効に活用でき、歩行補助装置Aを安価に構成することが可能となる。
図9の電流指令値決定部により電動機を制御することが、本発明における「制御手段は、検知された出力速度がローパスフィルタを介した出力速度に基づいて電動機の出力を決定し、2つの出力の偏差に対して該決定された出力を加味した値に基づいて電動機の出力速度の目標値を決定し、当該決定された出力速度の目標値と、検知された出力速度との偏差に基づいて電動機を制御すること」に相当する。
なお、図9において、第2切替手段SW12と上乗せトルク算出手段F12とが入れ替わっていてもよい。この場合には、上乗せトルク算出手段F12に回転速度実測値Vactが入力されて回転速度実測値Vactに応じたトルク「Vact/Kp」を算出し、第2切替手段SW12を介して、この算出されたトルク「Vact/Kp」をトルク算出手段F13に入力してもよい。これによっても本発明の追従性と安定性を両立できる効果を得ることができる。
この入れ替えたときの電流指令値決定部により電動機を制御することが、本発明における「検知された出力速度に基づいて電動機の出力を決定し、2つの出力の偏差に対して該決定された出力にローパスフィルタを介した出力速度を加味した値に基づいて電動機の出力速度の目標値を決定し、当該決定された出力速度の目標値と、検知された出力速度との偏差に基づいて電動機を制御すること」に相当する。
また、図5又は図9において、所定のゲインKp,Kvの代わりに伝達関数を用いてもよい。
また、本実施形態では、利用者Pの体幹部に上向きの並進力を補助力として付与するようにした歩行補助装置Aを例にとって説明したが、本発明の力付与装置は、これに限定されるものではなく、電動機の出力トルクの作用により、利用者の動作を補助するように当該利用者に力を付与する力付与制御方法であればよい。
例えば、利用者Pの腕にその運動を補助する補助力を当該利用者Pに付与するような装置についても本発明を適用できる。
また、本実施形態では、電動機を回転軸を中心に回転する電動モータとして構成しているが、直線運動を行うリニアモータで電動機を構成してもよい。この場合には、電動機の出力は、トルク([N・m])ではなく、直線的な力(例えば、[N])となり、電動機の出力速度は、回転速度([rad/s])ではなく、直線的な速度(例えば、[m/s])となる。