JP5776078B2 - 心血管疾患のための予知および診断マーカーとしての分泌性ホスホリパーゼa2(spla2) - Google Patents

心血管疾患のための予知および診断マーカーとしての分泌性ホスホリパーゼa2(spla2) Download PDF

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Description

本発明は、心血管障害の予知および診断に使用しやすい新しいマーカーに関する。
心血管障害は、先進国における罹患率および死亡率の主要な原因の一つであり、その疾患の予防は公衆衛生の主要な関心事である。その障害の予防のための措置の1つが、危険性のある個人の検出である。したがって、HDLコレステロールレベルなどのいくつかの生化学的危険マーカーが、心血管疾患の危険性がある患者の検出のために現在使用されている。しかし現在の時点では、多数の心血管障害が、それらのマーカーとの関連においては危険性があると考えられない個人に生じる場合がある。したがって、心血管イベントをより正確に予測する新しい生化学的マーカーの必要性が存在する。sPLA2の血漿レベルは、現在研究中の将来性ある危険マーカーの1つである。
ホスホリパーゼA2(PLA2)酵素は、リン脂質をsn−2の位置で加水分解して、リゾリン脂質および脂肪酸を生成する(Dennis, J Biol Chem. (1994) 269:13057-13060)。最も広範囲に研究されているPLA2の1つは、正常な動脈およびアテロームプラーク中で発現されることが示されている(Elinder et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. (1997) 17: 2257-63)低分子量(14kDa)のIIa群分泌性PLA2(sPLA2)である。いくつかのデータが、アテローム性動脈硬化症の進行および合併症の両方におけるsPLA2の潜在的に重要な役割を示唆している。sPLA2によるアラキドン酸の放出は、プロスタグランジン、トロンボキサンおよびロイコトリエンを含む酸化誘導体の生成における律速イベント(rate limiting event)である。sPLA2は、リポキシゲナーゼによる低密度リポタンパク質(LDL)の酸化修飾(Mangin et al. Circ Res. (1993) 72:161-6)、ならびにLDLおよびHDL粒子の両方からの生物学的活性のある酸化されたリン脂質の放出(Leitinger et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. (1999) 19:1291-8)に関係しており、これはアテローム発生における直接の役割を示唆している。
このように、いくつかの臨床的研究が、いくつかの心血管障害に対応するsPLA2の血漿レベルの予測値を決定することを目指してきた。その結果、sPLA2の血漿レベルは、冠動脈疾患の患者において上昇し、安定した患者の冠動脈イベントを予測すると考えられている(Kugiyama et al. Circulation. (1999) 100:1280-4)。更に、経皮的冠動脈形成術を行っている安定した患者におけるsPLA2の血漿レベルの増大は、また、他の標準的な生物学的および臨床的変数を超える独立した予知情報を提供する(Liu et al. Eur Heart J. (2003) 24:1824-32)。その上、急性冠動脈症候群(ACS)の患者のsPLA2の予後値を評価する研究が(それは不安定狭心症の患者に関する小さな研究に限られたものであるが)、sPLA2の血漿レベルの増大が、再発性冠動脈イベント(主として血管再生術)を、他の危険因子とは独立に、予測することを示した(Kugiyama et al. Am J Cardiol. (2000) 86:718-22)。
しかし、それらの研究は、統計的に有意であると考えるには、あまりにも少数の患者についてしか行なわれていないで、多くの議論の的となっている。実際、多数の患者について行なわれた最近の研究は、sPLA2血漿レベルと、死亡または心血管イベントの予測との間には、有意な相関が存在しないことを示している。
したがって、本発明の目的の1つは、先行技術のものより信頼性の高い、心血管疾患の新しい予知および/または診断方法を提供することである。
本発明の別の目的は、一見健康な人々にとって意味がある、心血管疾患の新しい予知および/または診断方法を提供することである。
本発明の更なる別の目標は、心血管イベントを予防および/または治療するために、効率的な治療手段のスクリーニングを可能にすることである。
したがって本発明は、患者における、死亡あるいは心および/または血管イベントの増大した危険度を測定する方法であって:
− 上記患者のsPLA2活性を測定すること、
− 上記活性を所定値と比較すること
を含み、上記所定値と比較して上記患者のより高いsPLA2活性は、死亡あるいは心および/または血管イベントの増大した危険度を示す、方法に関する。
「増大した危険度」とは、sPLA2活性が所定値より高い患者は、死亡するかあるいは心および/または血管イベントに罹患する可能性が、sPLA2活性が上記所定値より低い個人よりも高いことを意味する。
本発明によれば、心および/または血管イベントとして、特に、心筋梗塞(MI)、血管脳卒中、心および/または血管疾患による入院ならびに血管再生術が考えられる。
sPLA2活性の測定は、Pernasら(Pernas et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. (1991) 178:1298-1305) によって改良されたRadvanyi et al.(1989) Anal Biochem.177:103-9による蛍光アッセイにより、行うことができる。特に次のアッセイを用いる。1−ヘキサデカノイル−2−(1−ピレンデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホメタノールナトリウム塩(Interchim, Montlucon, France)をsPLA2の基質として用いる。sPLA2によるこの基質の加水分解が1−ピレンデカン酸をもたらし、それは397nmの蛍光を発する。小分けにされた血漿0.03ml量(E)を、基質5nmolと、トリス-HCl(pH8.7)10mM、アルブミン0.1%、CaCl2 10mMの存在下、全量2.5mlで混合し、1分後に蛍光(F)を397nmで測定する。0.1Uのハチ毒PLA2(Sigma Chemical Co., France)により1分間に基質が100%加水分解され、したがって1分間の反応の終わりの蛍光値(Fmax)が、2nmol/minの活性(Vmax)に対応する。試料の活性(A)(nmol/min/mlで表す)は、下式により与えられる:
Figure 0005776078
基質の加水分解が50%を超す場合は、試料を希釈する。血漿が存在しない状態での基質の加水分解をネガティブコントロールとして用いて、PLA2活性から導出する。すべての試料を2回繰り返して試験する。最小検出活性および検出限界は0.10nmol/min/mlであり、またアッセイ内およびアッセイ間の変動係数は10%未満である。
本明細書に示した血漿sPLA2活性についてのすべての数値は、上に定めたアッセイにより測定されている。
「所定値」という表現は、血漿sPLA2活性がそれより上であると、患者が現在または将来に、心および/または血管関連イベントもしくは病理に罹患することを意味すると考えられる、閾値を指す。
「より高いsPLA2活性」という表現は、増大した危険度を示すためには、患者のsPLA2活性値が所定値より大きくなければならないことを意味する。
先に規定した方法の具体的な実施態様によれば、患者は、実質的に健康であると、特にアテローム性動脈硬化症、心および/または血管関連疾患に関して診断された。
「実質的に健康である」とは、患者が疾患に、特に、アテローム性動脈硬化症、心および/または血管関連疾患に、罹患した徴候を示さないことを意味する。そのような疾患には、特に、冠動脈疾患(CAD)、頸動脈アテローム性動脈硬化症、大動脈アテローム性動脈硬化症、腸骨もしくは大腿骨アテローム性動脈硬化症、血管動脈瘤、血管石灰化、高血圧症、心不全および糖尿病、が含まれる。
先に規定した方法の別の具体的な実施態様によれば、患者は、次の冠動脈障害の一つの症状を呈すると診断された:
− 無症候性虚血がある、または虚血がない無症候性冠動脈疾患、
− 安定または労作狭心症などの、心筋壊死を伴わない慢性虚血性障害、
− 不安定狭心症などの、心筋壊死のない急性虚血障害、
− ST上昇心筋梗塞または非ST上昇心筋梗塞などの、心筋壊死を伴う虚血障害。
組織虚血はしばしば相対的関係で定義され、酸素の必要量が組織への酸素の送達を超える場合に生じる。組織(例えば心筋)の酸素要求量と供給との間に不均衡が存在する。この酸素欠乏状態には、潅流の低下の結果として起こる代謝産物の不十分な除去が伴うことがある。心筋虚血を、臨床的に(例えば胸痛)、生物学的に(例えばミエロペルオキシダーゼ活性の増加)、代謝的に(シンチグラフィを用いて)、局所壁運動障害の解析により、または心電図の使用(ST部分の典型的な変形、ST部分の上方または下方変位、T波反転または急勾配の対称的もしくは高振幅の陽性T波などのT波の典型的な変形)により、診断することができる。無症候性虚血は、通常はシンチグラフィまたは24時間心電図記録を用いて、診断する。
安定および労作狭心症は、普通、運動中に胸痛が起こり、休息するとゆっくりと回復することにより顕在化する。それは通常、運動中の組織虚血を反映している。
不安定狭心症は、安定狭心症の頻度および/もしくは重症度の足元の増加、狭心症または安静時狭心症の最初のエピソードのうちのいずれかである。
心筋壊死は、通常は循環血液中の心筋酵素(例えば、トロポニンI、トロポニンT、CPK)の増加により診断する。
先に規定した方法のより具体的な実施態様によれば、患者は、医学的に次の冠動脈障害の疑いがある:
− 無症候性虚血のある、または虚血のない無症候性冠動脈疾患、
− 安定または労作狭心症などの、心筋壊死を伴わない慢性虚血障害、
− 不安定狭心症などの、心筋壊死を伴わない急性虚血障害、
− ST上昇心筋梗塞または非ST上昇心筋梗塞などの、心筋壊死を伴う虚血障害。
先に規定した方法の別の具体的な実施態様によれば、患者で虚血症状の発症は診断されなかった。
心筋虚血は、局所壁運動障害の分析により、または心電図の使用(ST部分の典型的な変形、ST部分の上方または下方変位、T波反転または急勾配の対称的もしくは高振幅の陽性T波などのT波の典型的な変形)により、臨床的(例えば胸痛)、生物学的(例えばミエロペルオキシダーゼ活性の増加)、代謝的(シンチグラフィを用いて)に診断することができる。
先に規定した方法の更に別の具体的な実施態様によれば、患者の虚血症状の発症が診断された。
先に規定した方法の好ましい実施態様では、所定値は、実質的に健康な個人のsPLA2活性範囲で最も高い2つの3分位に、特により高い半分に、とりわけ上記範囲の最も高い3分位に含まれている、sPLA2活性に対応している。
先に規定した方法の別の好ましい実施態様では、所定値は、所与の実質的に健康な個人集団を構成するすべての個人に比べて、最も高いsPLA2活性を有している個人の3分の2の、特に半分の、とりわけ3分の1の範囲のsPLA2活性範囲に含まれる、sPLA2活性に対応している。
先に意図したように、所与の実質的に健康な個人の集団を3つの部分(即ち3分位)に分割する。すなわち、その各々は同数の個人を含み、1つの3分位は所与の集団のsPLA2活性が最も高い部分に対応し、2番目の3分位は所与の集団の最低のsPLA2活性を有する部分に対応し、そして3番目の3分位は集団の残りに対応する。
先に規定した方法の特に好ましい実施態様では、患者のsPLA2活性は、約1.8nmol/ml/minより高く、特に約2nmol/ml/minより高く、とりわけ約2.5nmol/ml/minより高く、好ましくは約2.9nmol/ml/minより高く、そしてより好ましくは3.3より高い。
先に規定した方法の好ましい実施態様では、患者のsPLA2活性は約7nmol/ml/minより低い。
先に規定した方法の別の好ましい実施態様では、患者のsPLA2活性は、約1.8nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満であり、特に約2nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満であり、とりわけ約2.5nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満であり、好ましくは約2.9nmol/ml/minより高く7未満であり、そしてより好ましくは3.3nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満である。
上に規定された方法の更なる好ましい実施態様では、患者のsPLA2活性は、約3.3nmol/ml/minより高く、7nmol/ml/min未満である。
sPLA2活性は、先に述べたアッセイ法により測定されるが、特に、用いる基質は1−ヘキサデカノイル−2−(1−ピレンデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホメタノールのナトリウム塩であり、また標準化用PLA2はハチ毒PLA2である。
先に規定した方法の別の特に好ましい実施態様では、sPLA2活性は、生体試料、特に血清または血漿試料中で、そしてとりわけヘパリン処理された血漿試料中で測定される。
ヘパリン処理された血漿試料とは、血漿を集める試験管を、血漿を加える前にヘパリンで、特に分画されていないヘパリンで処理したことを意味する。
本発明はまた、患者の心および/または血管疾患の診断のためのインビトロまたはエクスビボの方法であって:
− 上記患者のsPLA2活性を測定すること、
− 前記活性を所定値と比較すること、
を含む方法に関し、上記所定値と比較して上記患者のより高いsPLA2活性は、心および/または血管疾患を示唆する。
心および/または血管疾患とは、冠動脈疾患(CAD)、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、腸骨または大腿骨アテローム性動脈硬化症、血管動脈瘤、血管石灰化、高血圧症、心不全、および糖尿病、などの疾患を意味する。
先に規定したインビトロまたはエクスビボの方法の具体的な実施態様では、所定値と比較してより高い患者のsPLA2活性は、上記患者が心および/または血管疾患に、上記患者のsPLA2活性測定をした時点で罹患していることを示し、あるいは上記患者の心および/または血管疾患への将来の罹患を、特に上記患者のsPLA2活性測定をした時点から72時間を超える時間後には罹患していることを示している。
「将来の罹患」とは、上記患者のsPLA2活性測定時点の後に発症が起こる罹患を意味する。
先に規定したインビトロまたはエクスビボの方法の別の具体的な実施態様では、患者のsPLA2活性が、約1.8nmol/ml/minより高く、特に約2nmol/ml/minより高く、とりわけ約2.5nmol/ml/minより高く、好ましくは約2.9nmol/ml/minより高く、そしてより好ましくは約3.3nmol/ml/minより高い。
先に規定したインビトロまたはエクスビボの方法の好ましい実施態様では、患者のsPLA2活性が約7nmol/ml/minより低い。
先に規定したインビトロまたはエクスビボの方法の別の好ましい実施態様では、患者のsPLA2活性は、約1.8nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満であり、特に約2nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満であり、とりわけ約2.5nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満であり、好ましくは約2.9nmol/ml/minより高く7未満であり、そしてより好ましくは3.3nmol/ml/minより高く7nmol/ml/min未満である。
先に規定したインビトロまたはエクスビボの方法の別の具体的な実施態様では、sPLA2活性は、生体試料中で、特に血清または血漿試料中で、そしてとりわけヘパリン処理された血漿試料中で測定される。
本発明はまた、死亡あるいは心および/または血管イベントの増大した危険度の測定を目的とするキットの製造のための、sPLA2活性を測定する手段の使用に関する。
本発明はまた、心および/または血管疾患の診断を目的とするキットの製造のための、sPLA2活性を測定する手段の使用に関する。
先に規定した使用の好ましい実施態様によれば、sPLA2活性を測定する手段は、sPLA2によって加水分解されやすい化合物を含み、その加水分解生成物は、直接または間接的に定量することができる。
sPLA2により加水分解されやすい化合物は、酵素の天然または非天然基質である。加水分解生成物それ自身が定量できない場合、この生成物と反応して定量可能な化合物を生ずる化合物を用いることができ、そのような方法が間接的な定量化である。
より詳細には、上に規定した使用において、sPLA2により加水分解されやすい化合物は、蛍光発光性部分または発色性部分を含むリン脂質もしくはリン脂質類似物質である。
好ましい実施態様では、リン脂質は、蛍光性アシルにより2位で置換されているグリセロリン脂質であり、そのようなグリセロリン脂質は、例えば1−ヘキサデカノイル−2−(1−ピレンデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホメタノールであり、蛍光性アシルの1−ピレンデカノイルであることができる。
本発明に従って用いることができる他のリン脂質は、sPLA2により加水分解されやすいリン脂質を含み、そのようなリン脂質は当業者に周知である。
本発明において使用しやすい蛍光性のアシルは、例えばピレンまたはフルオレセインなどの当業者に周知の蛍光性の基により置換されているアシルを特に含む。
あるいは、2位で放射性アシルにより置換されているグリセロリン脂質または放射性ホスファチジルエタノールアミンなどの放射性グリセロリン脂質を、先に規定した方法において用いることができる。
本発明はまた:
− sPLA2アッセイ用緩衝剤、
− 1−ピレンデカノイルなどの、sPLA2により加水分解されやすく、その加水分解生成物が直接的または間接的に定量可能である化合物、
− 対照sPLA2試料であって、その活性が死亡あるいは心および/または血管イベントの増大した可能性を測定するための所定値に対応している試料、
を含む、死亡あるいは心および/または血管イベントの増大した危険度の測定を目的とするキットに関する。
本発明はまた:
− sPLA2アッセイ用緩衝剤、
− 1−ピレンデカノイルなどの、sPLA2により加水分解されやすく、その加水分解生成物が直接的または間接的に定量可能である化合物、
− 対照sPLA2試料であって、その活性が心および/または血管疾患を診断するための所定値に対応している試料、
を含む、心および/または血管疾患の診断を目的とするキットに関する
本発明は、更に、心および/または血管の病理の予防もしくは治療を目的とする医薬の製造のために使用しやすい薬剤をスクリーニングするための方法であって:
− 第一の工程で、同じ種の実質的に健康な動物と比較してより高いsPLA2活性を構成的に示し、スクリーニングするべき薬剤が投与されている、試験動物のsPLA2活性をインビトロで測定し、
− 第2の工程で、測定された活性を、スクリーニングするべき上記薬剤投与前の上記試験動物のsPLA2活性と比較し、
− 第3の工程で、測定された活性が、スクリーニングするべき上記薬剤投与前の試験動物のsPLA2活性より低い場合は、そのスクリーニングに付した薬剤を選択する、
ことを特徴とする方法に関する。
先に規定したスクリーニング方法の好ましい実施態様では、試験動物は、マウスまたはラットなどの非ヒト遺伝子組換え動物である。
先に規定したスクリーニング方法の別の好ましい実施態様では、sPLA2活性を試験動物の血漿試料から測定する。
先に規定したスクリーニング方法の更に別の好ましい実施態様では、sPLA2活性を測定した後に動物を殺す。
実施例
実施例1
方法
研究対象集団
GRACE方法論の全詳細は、公表されている(Steg et al. (2004) Circulation 109:494-9)。このサブ研究(2000年9月28日〜2002年10月24日)に参加する患者を、フランスの3つのセンターおよびスコットランドの1つのセンターで募集した。本研究に参加するための基準は、年齢が18歳以上であること、前もってACS(急性冠動脈症候群)であると診断されていること、および次の基準:ACSと一致する動的なECGの変化、血清中の心臓壊死の生化学的マーカーの経時的増加、および/または冠動脈疾患の証拠記録、の少なくとも1つであった。除外する基準は、血清中の心臓壊死の生化学的マーカーの持続的上昇を伴う足元の心筋梗塞、Killip分類IV、外傷、手術、明らかな併発病態、6か月未満の平均余命、癌の診断、HIV陽性、夜間の発作性血尿、溶血尿毒症症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、自己免疫性血小板減少症、ヘパリン起因性血小板減少症、抗リン脂質症候群、全身性エリテマトーデス、およびクローン病、であった。退院6か月後に、電話、病院訪問、あるいは掛かりつけの医者への電話で患者を追跡調査した。
すべての患者に関する変数および臨床診断ならびに病院内合併症および転帰の標準化された定義を用いた。すべての症例を次のカテゴリー:STEMI(ST上昇心筋梗塞)、NSTEMI(非ST上昇心筋梗塞)、または不安定狭心症、の1つに割り当てた。これらの定義は、臨床症状、ECG所見および血清の生化学的壊死マーカーの結果、を考慮に入れている。不安定狭心症を、正常な生化学的壊死マーカー(特にトロポニンI)を有するACSとして定義した。患者を入院時に、心不全の徴候に対するKillipおよびKimball分類により分類した。
採血および生化学的分析
血液試料を、登録時(入院後最初の平日の朝)にヘパリンチューブに収集し、直ちに4℃で10分間3,000rpmで遠心分離した。得られた血漿を小分けして冷凍し、ドライアイスにのせてXavier Bichat-Claude Bernard病院(Paris, France)へ輸送し、そこでそれらを分析まで−70℃で保持した。
C反応性タンパク質(CRP)を、Behring BNIIアナライザー(Behring Diagnostics)で行う高感度テストにより測定し、心臓トロポニンI(cTnl)レベルを、自動化システム(RXL HM analyzer, Dade Behring)の使用により定量した。
高感度インターロイキン−18(IL−18)を、ヒトELISAキット(MBL Co,Japan)を用いて、12.5pg/mlの検出限界で測定した。
血漿中の免疫反応性sPLA2レベルを、二重抗体「サンドイッチ」技術に基づく免疫定量アッセイにより、IIA型分泌性PLA2に対して特異的なモノクローナル抗体(Cayman Chemical Company, USA)を用いて、測定した。この抗体は、I、IV型、またはV型のsPLA2と交差反応しない(Cayman Chemical Company, USA)。最小検出濃度は15.6pg/mlであり、またアッセイ内およびアッセイ間変動係数(CV)は<10%であった。
血漿sPLA2活性を、Pernas et al.(1991) Biochem. Biophys. Res. Commun. 178: 1298-1305によって改良されたRadvanyi et al (1989) Anal.Biochem.177:103-9の選択的蛍光定量アッセイにより測定した。簡潔に言えば、1−ヘキサデカノイル−2−(1−ピレンデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホメタノールナトリウム塩(Molecular Probe)をsPLA2の基質として用いた。sPLA2によるこの基質の加水分解が1−ピレンデカン酸をもたらし、それが397nmの蛍光を発する。小分けされた血漿0.03ml量(E)を、基質5nmolと、トリス−HCl(pH8.7)10mM、アルブミン0.1%、CaCl2 10mMの存在下、全量2.5mlで混合して、1分後に蛍光(F)を397nmで測定した。0.1Uのハチ毒PLA2(Sigma Chemical Co., France)で1分間に基質の100%加水分解が得られ、よって、1分間の反応の終りの蛍光値(Fmax)が、2nmoles/minの活性(Vmax)に対応する。試料の活性(A)(nmol/min/mlで表す)は、下式で与えられる:
Figure 0005776078
基質の加水分解が50%を超える場合は、試料を希釈した。血漿が存在しない状態での基質の加水分解を、ネガティブコントロールとして用いて、PLA2活性から導出した。すべての試料を2回に繰り返して試験した。最小検出可能活性および検出限界は0.10nmole/min/mlで、またアッセイ内およびアッセイ間CVは<10%であった。
統計解析
血漿sPLA2活性と臨床パラメーターの間の潜在的関連性を、一変量解析で、カテゴリー変数についてはStudentのt検定またはANOVAを用いて、そして年齢についてはPearsonの相関を用いて、検定した。p≦0.05である一変量予測因子は、多変量逐次線形回帰解析に含めた。
血漿sPLA2活性と生物学的変数の間の相関を、Pearsonの相関係数により評価した。sPLA2活性の3分位による患者群間の比較を、連続変数についてはANOVA、およびカテゴリー変数については、χ2乗検定またはFisherの正確確率検定によって行なった。生存曲線をKaplan−Meier推定値から導出した。全生存期間を、入院の日付とすべての原因による死亡日の間の時間間隔として定義した。最後の経過観察における生存患者は観察打ち切りとした。MI(心筋梗塞)のない生存期間を、入院の日付と心筋梗塞再発の日付の間の時間間隔として定義した。死者および最後の経過観察におけるMIの再発なしの生存患者を、観察打ち切りとした。組合せエンドポイントのためには、生存期間を、入院の日付と第1のイベントの日付の間の時間間隔として定義した。最後の経過観察におけるMIの再発なしの生存患者を観察打ち切りとした。生存期間分布の比較を、ログランク検定により行った。
死亡、MI、ならびに死亡またはMI、の独立予測因子を、Coxの比例ハザード回帰モデルを用いて特定した。モデルに含まれる変数は、p<0.05の一変量予測因子であった。すべての解析をSASソフトウェア8.2版(SAS Institute, Cary, NC)で行った。
結果
研究対象集団は、ACSの458人の患者からなり、38.5%がSTEMI、52.5%がNSTEMI、および49%が不安定狭心症であった。入院後の経過観察の中央値は6.5ヶ月(第25百分位数:6か月、第75百分位数:7.5ヶ月)であった。臨床症状の発症から血液採取までの平均時間(±SD)は、30.05±21.3時間であった。この時間間隔は、sPLA2の血漿レベルと関連していなかった(P=0.45)。血漿sPLA2活性は、≦0.1〜16.9nmol/min/mlの範囲であり、平均は2.63±1.69nmol/min/mlであった。死亡またはMIの1年間の累積発生率:9.63%(S.E.:0.02)。
血漿sPLA2活性と、ベースラインの臨床および生物学的変数との関連性
一変量解析においては、より高いsPLA2活性に関連した臨床変数は、スコットランドでの患者募集(フランスでの募集に対して)、男性、年齢、糖尿病罹患歴、高血圧症、ならびにSTEMIの臨床症状またはKillip分類>1の臨床症状、であった。最初の24時間以内の未分画ヘパリンによる治療も、より高いsPLA2活性に関連していた。狭心症、心筋梗塞、冠動脈造影法、または冠動脈血管形成術の病歴、高脂血症の病歴、またはLMW(低分子量)ヘパリンによる治療歴が、より低いsPLA2レベルに関連していた。多変量解析においては、募集センター、年齢、入院時のSTEMIの診断、Killip分類で>1を示すこと、および未分画ヘパリンによる治療が、高いsPLA2活性の有意な予測因子であった(表1)。高脂血症の病歴はより低いsPLA2活性に有意に関連していた(表1)。
sPLA2活性の3分位によって患者集団を研究した場合(表2)は、高齢、心不全の病歴、入院時のKillip分類>1、ならびにTnIおよびCRPのより高い値が、より頻繁により高いsPLA2活性に関連していたが、一方で、冠動脈血管形成術歴、高脂血症、または入院後最初の24時間の間に測定されたより高いコレステロールレベルは、sPLA2のより低い3分位において頻度がより高かった(表2)。
血漿sPLA2活性は、CRPレベルに中適度に関連していた(r=0.47、P<0.0001)。統計的に有意ではあるが、sPLA2活性と、TnIレベル(r=0.12、P=0.01)、総コレステロールレベル(r=−0.17、P=0.009)、およびLDLコレステロール(r=−0.18、P=0.007)との間の関連性は弱かった。sPLA2活性とIL−18レベルとの間には相関がなかった(r=0.02、P=0.74)。その上、sPLA2血漿活性とsPLA2血漿抗原レベルの間の相関は、予想外に低く(r=0.66、P<0.0001);その結果、sPLA2活性について得られた結果を、sPLA2血漿レベルから推定することはできない。この予想外の発見は、相当量の不活性な、またはわずかに活性があるsPLA2酵素の血漿中における存在によって、説明することができよう。
ベースライン血漿sPLA2活性と臨床転帰との関連性
平均ベースラインsPLA2活性は、6ヶ月の経過観察で、死亡したかまたは、新規もしくは再発性のMIがあった患者において、6ヶ月の経過観察で生きていてMIがなかった患者の活性よりも、高かった(3.31±1.22対2.57±1.72、それぞれP=0.02)。臨床転帰とCRPまたはIL−18レベルとの間のどちらにも関連性は見られなかった。
死亡率および新規または再発性MI発生率は、sPLA2活性の3分位が増すにつれて増大した。sPLA2の最も高い3分位の患者は、死亡およびMIに対して4.30の相対危険度(95パーセント信頼区間、2.1〜8.7)を有していた(P<0.0001)(図1)。この関連性は、STEMIの患者(RR=6.9;1.5〜31.8)、NSTEMIまたは不安定狭心症の患者(RR=3.8;1.7〜8.7)、Killip分類<1の患者(RR=3.8;1.4〜10.4)、Killip分類>1の患者(RR=2.8;1.0〜7.7)、CRP<10mg/L(4.7;1.8〜12.1)の患者およびCRPレベル>10mg/Lの患者(4.0;1.3〜12.2)、のサブグループにおいても依然として有意であった。
年齢ならびに、高血圧症、糖尿病、心筋梗塞、心不全、冠動脈造影法または血管形成術、Killip分類、ST部分偏位、冠動脈血管再生(血管形成術または冠動脈の動脈バイパス手術)、およびクレアチニン、の病歴を含む、コックス回帰モデルの潜在的交絡因子について調整しても、sPLA2活性の高いベースラインレベルと経過観察における重大な冠動脈イベントの増大した危険度との間の強い関連性は変化しなかった(表3)。
sPLA2の第3の3分位における、死亡、致命的ではないMI、または死亡とMIの組合せエンドポイントに対する調整された相対危険度は、それぞれ2.61(95%信頼区間、1.01〜6.39)(P=0.036)、6.1(95%信頼区間、1.91〜19.21)(P=0.002)、および3.3(95%信頼区間、1.56〜6.85)(P=0.002)であった。
更に1.8を超える血漿sPLA2活性に対する、死亡とMIの組合せエンドポイントに対する調整された相対危険度は2.44(95%信頼区間、0.70〜8.48)、2を超える血漿sPLA2活性に対しては2.19(95%信頼区間、0.73〜6.58)、2.5を超える血漿sPLA2活性に対しては2.4(95%信頼区間、1.02〜5.65)、2.9を超えるsPLA2血漿活性に対しては3.08(95%信頼区間、1.37〜6.91)、および3.3を超える血漿sPLA2活性に対しては2.26(95%信頼区間、1.11〜4.66)であった(注意:sPLA2血漿活性はnmol/min/mlで表す)。
有意な関連性は、sPLA2抗原レベルと、死亡またはMIの合成エンドポイントとの間では見出されなかった(相対危険度、1.44、P=0.3)。最後に、以前、高度にイベント再発を予測することが示されたGRACEスコア(Eagle et al.(2004) Jama. 291:2727-33)が、本研究において有害転帰を有意に予測したことを確認した(スコアの各1ポイントの増大に対する相対危険度、1.03;95%信頼区間、1.02〜1.04、P<0.0001)。興味深いことに、GRACEスコアを含むCox回帰モデルでは、sPLA2活性の第3の3分位における死亡またはMIの組合せエンドポイントに対する調整された相対危険度は、2.78(95%信頼区間、1.30〜5.93)(P=0.006)であった。sPLA2抗原レベルは、GRACEスコアに有意な予知情報を加えなかった(P=0.3)。
他のマーカーとの比較
炎症性および血栓性のプロセスが、急性冠動脈症候群(ACS)および急死をもたらすアテロームプラーク合併症の主な決定要因である。ヒトにおけるプラーク炎症とプラーク破裂との間の重要な関連性を示す病理学的研究、ならびにプラークの発生および組成の両方における免疫−炎症反応の決定的な役割を示す実験データに加えて、最近の十年間に、全身性炎症マーカーの役割、およびそれのアテローム性動脈硬化症の重症な臨床的合併症との関係に関する研究への関心の増大が見られた。CRP、IL−6、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、血管細胞接着分子(VCAM)−1、および、より最近のミエロペルオキシダーゼを含む、いくつかの循環している炎症性マーカーが、ACSの患者において上昇し、経過観察での有害な臨床転帰に関連していることが示された。本研究で、本発明者らはCRPまたはIL−18と対照的に、血漿sPLA2活性が、ACSの患者の、死亡および新規もしくは再発性MIの主な独立予測因子であることを示した。
CRP
Liuzzoらによる画期的な研究(Liuzzo et al. (1994) N Engl J Med.; 331:417-24)以来、多数の研究が、ACSの患者におけるCRPの予後値に取り組んだ。高いCRPレベルが、TIMI IIa(Morrow et al. (1998) J Am Coll Cardiol; 31:1460-5)、CAPTURE(Heeschen et al. (2000) J Am Coll Cardiol; 35:1535-42)、FRISC(Lindahl et al.(2000) N Engl J Med.; 343:1139-47)およびGUSTO−IV(James et al. (2003) Circulation.; 108:275-81)を含む、不安定狭心症またはNSTEMIの患者の、いくつかのランダム化試験の経過観察において、増大した危険度に関連していた。早期侵襲性血管再生術を処置したACS患者中のCRPレベルもまた、有害転帰を予測する(Mueller et al. (2002) Circulation.; 105:1412-5)。しかし、ランダム化臨床試験以外で募集したSTEMIの患者またはACSの患者における独立のCRPの予測値については、議論の余地がある(Zairis et al. (2002) Am Heart J.; 144:782-9; Bennermo et al. (2003) J Intern Med.; 254:244-50; Benamer et al. (1998) Am J Cardiol; 82:845-50)。GRACEからの本観察サブ研究では、ACS(ほとんどSTEMIおよびNSTEMI)のために入院した数時間後に測定されたCRPは、有害転帰に関連しておらず、毎日の医療では、ACSのために入院した患者におけるCRPの単独の初期の測定は、臨床変数に有意な予測情報を加えないかもしれないことを示唆していた。
IL−18
本発明者らおよび他者による、内因性IL−18の強力なアテローム発生促進の役割を示す以前の実験データに基づいて(Mallat et al. (2001) Circ Res.; 89:E41-5; Whitman et al. (2002) Circ Res.; 90: E34-8)、血漿IL−18レベルを、冠動脈疾患の病歴のある患者および健康な中年の男性で測定すると、それが冠動脈イベントの独立の予測因子であることが判明した(Blankenberg et al. (2002) Circulation; 106:24-30; Blankenberg et al. (2003) Circulation.; 108:2453-9)。本研究において、ACS患者の入院時に測定したIL−18レベルと経過観察での有害転帰との間には、関連性は見出されなかった。これらの結果を総合すると、IL−18測定の予後値は、サンプリング時の疾患の活動性により変化することが示唆された。これは、試験していない交絡変数、種々の臨床設定におけるIL−18の差異のある役割を含む複数の因子、またはIL−18結合タンパク質、即ちIL−18の内在的な阻害因子、の産生の差に関係している可能性があろう。これらの考察を、ACSの患者におけるIL−18の予後を評価する将来の研究において考慮に入れるべきである。
sPLA2血漿抗原レベル
この最新の研究で、最も重要でかつ最も新規な発見は、虚血症状の発症後2日の間に、平均30時間で、得られたsPLA2活性の単独の測定が、ACSの患者の強力な予後情報を提供することを実証したことである。sPLA2活性と死亡および心筋梗塞の危険度との間の関連性は、入院時の心筋梗塞の病歴の存在または不存在ならびに心不全の臨床症状の存在または不存在を含む、ACS患者における主要な有害転帰の他の既知の予測因子とは独立であった(Steg et al. (2004) Circulation.; 109:494-9)。興味深いことに、このsPLA2活性の強力な予測値の発見は、研究対象集団が、臨床症状、病態生理、ならびに各型の急性冠動脈症候群および現在の日常処置と一致して高い病院内血管再生実施率に関連した危険度、に関して不均一であったにもかかわらず得られたのである。これは、sPLA2の活性化が、急性冠動脈症候群後の、死亡および心筋梗塞の危険性がある患者間の、重大でかつ共通の機序であることを示唆している。
以前の小さな研究が、不安定狭心症の患者では、2年間の経過観察期間において、sPLA2のより高い血漿レベルが、臨床的冠動脈イベント(主として冠動脈血管再生および再入院)の発生のより高い可能性に関連していることを実証した(Kugiyama et al. (2000) Am J Cardiol.; 86:718-22)。この以前の研究は、限られた数の均質の患者に的をしぼり、壊死の生化学的マーカーの増大を有さない不安定狭心症のわずか52人の患者しか含んでいなかった。更に、sPLA2活性の直接測定は行なわれなかった。
それに比べて、本研究は、sPLA2抗原レベルと、MI単独(相対危険度0.5、P=0.7)との間だけではなく、死亡およびMIの組合せエンドポイントとの間には有意な関連性が見出されなかった(相対危険度、1.44、P=0.3)ことを示した(図2)。その上本研究は、重症のACS患者に拡張され、sPLA2活性が、STEMI患者およびNSTEMI患者における死亡および心筋梗塞の強力なまた独立した予測因子であることを示した。
危険マーカーとしてsPLA2活性を用いる利点
急性冠動脈症候群における、他の以前に試験された炎症性マーカーと比較したsPLA2活性評価の重要性は、数桁異なる。
ACS患者の有害転帰を予測するために用いられる従来の心臓バイオマーカーと異なり、sPLA2活性は、脂質酸化から、血管細胞および炎症細胞の活性化およびアポトーシスのモジュレーションまでの、アテローム形成に含まれる複数の極めて重要な経路に作用することが示されている。sPLA2は、様々な組織で発現され、急性期反応物質の1つである可能性がある(Pruzanski and Vadas (1991) Immunol Today.; 12:143-6; Murakami et al.(1995) J Lipid Mediat Cell Signal.; 12:119-30)。興味深いことに、sPLA2は、既に正常な動脈壁中で発現されており(Hurt-Camejo et al. (1997) Arterioscler Thromb Vasc Biol.; 17:300-9; Elinder et al. (1997) Arterioscler Thromb Vasc Biol; 17:2257-63)、またその発現は、容易に炎症性の刺激により上方制御され(Pruzanski and Vadas (1991) Immunol Today.; 12:143-6; Murakami et al. (1995) J Lipid Mediat Cell Signal; 12:119-30; Nakano and Arita (1990) FEBS Lett.; 273:23-6, Murakami et al. (1993) J Biol Chem.; 268:839-44, Kuwata et al. (1998) J Biol Chem.; 273:1733-40)、これは損傷に対する血管の応答の初期に開始される、sPLA2の潜在的役割を示唆する。多くの他の炎症性マーカーとは対照的に、sPLA2は、アテローム性動脈硬化症の動物モデルで、強力なアテローム形成促進酵素であることが示されており、コレステロールレベルの上昇がない状態でさえ、脂肪線条の形成を引き起こすことができ(Ivandic et al. (1999) Arterioscler Thromb Vasc Biol; 19:1284-90)、これはsPLA2に媒介される経路のアテローム性動脈硬化症への直接の関与を示唆する。
sPLA2は、天然のLDLの酸化を刺激し(Mangin et al. (1993) Circ Res.; 72:161-6)、多価不飽和脂肪酸の放出に関係して、1−パルミトイル−2−アラキドノイル−sn−グリセロ−3ホスホリルコリン(PAPC)に由来する生物学的活性を有するリン脂質の産生をもたらす(Leitinger et al. (1999) Arterioscler Thromb Vasc Biol; 19:1291-8)。この酸化生成物は、血小板、単球および内皮の活性化に、ならびに単球−内皮間の相互作用に、アテローム形成の重大な段階であると知られているすべての過程に重要な役割を果たす。プロスタグランジン、トロンボキサンおよびロイコトリエンを含む、sPLA2により生成される脂質メディエイターは、有意の炎症促進性、血栓形成促進性、およびアテローム形成促進性の効果を示した。sPLA2活性化に続いて微小胞の形で血小板および他の細胞の細胞膜から放出される、リゾホスファチジルコリンおよびリゾホスファチジン酸を含むリゾリン脂質(Fourcade et al. (1995) Cell; 80:919-927)は、細胞の機能に影響を及ぼすことができ(Swarthout and Walling (2000) Cell MoI Life Sci.; 57:1978-85; Kume et al. (1992) J Clin Invest.; 90:1138-44)、PAF(強力な細胞活性化因子であり、潜在的アテローム発生促進因子)の産生をもたらす。
sPLA2は、Tリンパ球の活性化を非常に強化して増強された増殖をもたらし、これは、アテロームプラークを含む炎症性部位へ分泌されるホスホリパーゼA2(Menschikowski et al. (1995) Atherosclerosis.; 118:173-81; Hurt-Camejo et al. (1997) Arterioscler Thromb Vasc Biol.; 17:300-9; Elinder et al (1997) Arterioscler Thromb Vasc Biol.; 17:2257-63)が、細胞応答の伝播においてある役割を果たすことを示唆している。非常に重要なのは、sPLA2が、完全な細胞からのリン脂質には事実上不活性であることであり、またいくつかの研究が、リン脂質の横断的な分布が乱されている膜のみが、酵素と相互作用することができる都合の良い表面を提供することを示唆している(Fourcade et al (1998) Adv Enzyme Regul; 38:99-107)。
本発明者らは以前に、急性冠動脈症候群の患者では、安定した非冠動脈患者に比較して、プラーク内および循環している脱落膜微粒子レベルの増大により、膜の外葉でのホスファチジルセリンの露出により、リン脂質分布が変化していることを示した(Mallat et al. (1999) Circulation.; 99:348-353; Mallat et al (2000) Circulation.; 101:841-3)。この微粒子は、プラーク併発部位および循環血液中の両方で、sPLA2の重要な基質を構成する可能性がある。総合して、これらのデータは、sPLA2活性が、動脈壁および循環血液中で急性冠動脈症候群をもたらす炎症経路において重大な役割を果たしており、ACS患者中での新規または再発性心筋梗塞の6倍の増加の少なくとも一部分を説明できることを、示唆している。
sPLA2活性がACS患者の臨床評価に役立つためには、それが臨床医の治療上の意思決定の助けにならなければならない。低いレベルのsPLA2活性を有する患者は、経過観察において、主要な有害イベントの危険度が特に低いように見え、それはこの患者では攻撃的なまたは侵襲性の治療戦略を回避することができ、不必要な治療のコストおよび危険度の減少につながることを示唆している。他方で、sPLA2活性のレベルが高い患者は、MIと死亡の危険度が増大しており、より攻撃的な医療および/または血管再生治療から利益を得ることができる。これらの問題は、将来の研究において詳細に扱うこととする。
結論として、虚血症状の発症の数時間後に、急性冠動脈症候群の患者において測定されたsPLA2活性のレベルが、6ヶ月の経過観察における死亡およびMIの強い予測因子である。重要なことは、高いsPLA2活性に関連した危険度は、増大した危険度に関連している他の臨床的および生物学的マーカーとは、統計的に独立であることである。これらの発見の更なる長所は、それらを、「現実世界」の設定中で行なわれた観察に基づく最新の研究で得たということである。したがって、sPLA2活性の測定は、将来、危険度の階層化に用いるための価値ある追加情報を提供するであろう。
実施例2
実施例1で概説した方法論に従い、極めて類似した研究標本について研究を行なった。得られた結果は、実施例1の結論と同じであった。
研究標本は、446人のACS患者からなり、そのうち38.5%がSTEMI、52.5%がNSTEMI、および9%が不安定狭心症であった。入院後の経過観察の中央値は、6.5ヶ月であった(第25百分位数:6ヶ月;第75百分位数:7.5ヶ月)。病院内での血管再生術(PCIまたはCABG)の比率は高く、48.3%であった。1年間の死亡またはMIの累積発生率は、9.63%(S.E:0.02)であった。血漿sPLA2活性は≦0.1〜16.9nmol/min/mlの範囲であり、平均値は2.63±1.69nmol/min/mlであった。臨床症状の発症から血液採取までの時間間隔は、sPLA2活性の血漿レベルとは関連していなかった(P=0.45)。
血漿sPLA2活性とベースラインの臨床および生物学的変数との関連性
標本特性を表4に示し、sPLA2活性に関連する臨床変数を表5に示す。多変量解析では、高いsPLA2活性の有意な予測因子は、募集センター、年齢、入院時のSTEMIの診断、Killip分類>1の所見、および未分画ヘパリンによる治療であった(表5)。高脂血症の病歴が、低いsPLA2活性に有意に関連していた(表5)。血漿sPLA2活性は、CRPと中程度の関連性を示した(r=0.35、P<0.0001)。統計的には有意であるが、sPLA2活性とTnI(r=0.23、P<0.0001)、総コレステロール(r=−0.24、P<0.0001)およびLDLコレステロール(r=−0.24、P=0.0003)との間の関連性は、弱かった。sPLA2活性とIL−18レベルとの間には関連性は無かった(r=0.03、P=0.53)。sPLA2活性は、sPLA2抗原レベルと中程度の関連性を示した(r=0.37、P<0.0001)。sPLA2活性は、様々なsPLA2サブタイプの活性であり、sPLA2抗原レベルは、IIA型sPLA2のレベルのみを反映するので、これは予期されないわけではなかった。
ベースライン血漿sPLA2活性と臨床転帰との関連性
35の主要な有害イベント(20の死亡および15のMI)があった。臨床転帰と、CRPまたはIL−18レベルのいずれの間にも、有意な関連性は見られなかった(表6)。死亡率および新規または再発性MIの発生率が、sPLA2活性の3分位が増すにつれて増加した。sPLA2活性の最も高い3分位中の患者は、死亡またはMIに対して4.30(95%信頼区間、2.1〜8.7)のハザード比(他の2つの3分位と比較して)を有していた(P<0.0001)(表6)。逐次Cox回帰モデルにおける、年齢ならびに高血圧症、心筋梗塞、心不全、冠動脈疾患、冠状動脈バイパス術、Killip分類>1およびクレアチニンレベル>1.1、の病歴を含む、潜在的交絡因子に対して調整を行っても、sPLA2活性の高いベースラインレベルと経過観察における重大な冠動脈イベントの増大した危険度との間の強い関連性は変化しなかった(表6)。sPLA2活性の第3の3分位中の死亡またはMIの組合せエンドポイントの、第1と第2の3分位と比較した調整されたハザード比は、3.08(95%信頼区間、1.37〜6.91)であった(P=0.006)(表7)。
sPLA2抗原レベルと死亡またはMIの合成エンドポイントとの間では、有意な関連性が見出されなかった(調整されたハザード比、1.44、P=0.3)。最後に、以前にイベント再発をよく予測することが示されたGRACEスコアが、本研究において有害転帰(MI/死亡)を有意に予測した(スコアの各1ポイント増加に対するハザード比、1.03;95%信頼区間、1.02〜1.04、P<0.0001)ことが確かめられた。興味深いことに、sPLA2活性は、Cox回帰モデルにおいて再発イベントに対するGRACEスコアについて調整した後にも、再発イベントに対する独立予測因子でありつづけた。sPLA2活性の第3の3分位における死亡またはMIの組合せエンドポイントに対する調整されたハザード比は、2.78(95%信頼区間、1.30〜5.93)(P=0.006)であった。
sPLA2活性は、フランスで募集された患者よりも、スコットランドで募集された患者で高かった(表5)。これは、少なくとも一部分は、スコットランドで募集された患者の年齢の方が高かったこと(フランスと比較して、P<0.0001)、および入院時におけるスコットランドの患者のKillip分類>1である割合が高かったこと(34.52%対フランスの患者標本のわずか12.02%)(P<0.0001)と関連している可能性がある。
実施例3
別の集団で行なわれた研究の予備的な結果により、心および血管イベントの危険マーカーとしてのsPLA2活性の使用についての、実施例1で得られた結果が確認された。
1105人の個人が、本研究に含まれている。これらの個人は、2003年11月までに冠動脈疾患(致死性、または致死性でない)を発症していたので選定された(平均6年の経過観察期間)。性別、年齢、および研究対象に選定した日が適合する2209人の対照も、研究の一部であった。
個人を、EPIC−Norfolk研究の参加者から選定した。後者は、研究参入の時(1993〜1997年)に、45〜79歳で、Norfolk(英国)に居住していて、アンケートに答え、臨床診断を受けた、25,663人の男性および女性を含む集団についての期待される研究である(Day N, et al. EPIC- Norfolk: study design and characteristics of the cohort. European Prospective Investigation of Cancer. Br J Cancer 1999;80 Suppl 1:95-103)。例として、EPIC−Norfolk研究に含まれる1400人の対照の個人および700人の患者の特徴を表8に示す。各個人を、英国全国統計局で死亡診断書を調べて当人と確認することができ、また、コホート全体に対して生存状態が正確にわかった。入院した患者は、東Norfolk健康局データベースに関連した、独自の国民健康保険番号によって当人と確認された。患者を、経過観察期間に、彼らが冠動脈疾患と診断されて入院し、および/または冠動脈疾患の結果死亡した場合には、冠動脈疾患に罹患したものとして認定した。冠動脈疾患は、国際疾患分類第9版のコード410〜414に従って定義された。これらのコードは、安定狭心症から梗塞までの冠動脈疾患全体の臨床パネルを含んでいる。
静脈血試料を、参入時に、クエン酸塩を加えた乾燥試験管に採取した。血液試料(血漿および血清)は、−80℃で、英国ケンブリッジ大学臨床生化学教室で保管した。
1105人の患者個人および2209人の対照者の試料を、ドライアイス中で輸送し、パリのBichat病院のBiochimie B部門で、−80℃で保管した。
sPLA2活性を、実施例1に記述した方法に従って測定した。
sPLA2活性の4分位による心血管危険因子分布を求めて、sPLA2活性と危険因子の関係を解析した。4分位を、対照におけるsPLA2活性の分布により規定した。
sPLA2活性(連続変数としての)と心血管危険度の他の連続変数との関係を、Pearsonの相関係数ならびに対応する確率値を計算して、解析した。
冠動脈疾患発生の相対危険度、およびそれの対応する信頼区間(95%)を、年齢および性別マッチングを考慮に入れた条件付ロジスティック回帰分析を用いて、計算した。
より低いsPLA2活性の4分位を対照(RR=I)と見なした。
相対危険度を、心血管危険因子について調整した。冠動脈疾患の危険度に関連する他の生物学的変数についての追加の調整を行った。
統計解析をSAS8.2版ソフトウェア(SAS Institute, Cary, NC)で行った。
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図1は、sPLA2血漿中活性が、1.7nmol/ml/minより低い、1.8〜2.8nmol/ml/minの、および2.9nmol/ml/minより上の患者の、入院後の日数(横軸)に対する、死亡および心筋梗塞(MI)の累積発生率(縦軸、%)を表わす。 図2は、患者の入院後の日数(横軸)に対する、死亡せずまた心筋梗塞(MI)に罹患もしない患者の割合(縦軸)を表わしており、患者はそれぞれ、これらの患者のsPLA2血漿レベルの全体配分の第1の3分位、第2の3分位、または第3の3分位における血漿レベルを有していた。

Claims (10)

  1. 冠動脈障害を有するが心筋梗塞に罹患していない患者の、死亡あるいは心筋梗塞への将来の罹患の増大した危険度を測定する方法であって:
    − 前記患者の分泌性PLA2活性を測定すること、
    − 前記活性を所定値と比較すること、
    を含み、ここで該所定値は、冠動脈障害を有するが心筋梗塞に罹患していない所与の個人集団を構成するすべての個人に比べて、最も高い分泌性PLA2活性を有している個人の3分の2の分泌性PLA2活性範囲に含まれる分泌性PLA2活性に対応し、前記所定値と比較して前記患者のより高い分泌性PLA2活性は、死亡あるいは心筋梗塞への将来の罹患の増大した危険度を示し、
    ここで将来の罹患とは前記患者の分泌性PLA2活性測定をした時点から72時間を超える時間後に発症が起こることを意味する、方法。
  2. 次の冠動脈障害:
    − 無症候性虚血がある、または虚血がない無症候性冠動脈疾患、
    − 心筋壊死を伴わない慢性虚血障害、
    − 心筋壊死を伴わない急性虚血障害、
    − 心筋壊死を伴う虚血障害、
    の1つの症状が見られると診断された患者のための、請求項1記載の方法。
  3. 虚血症状の発症を診断されなかった患者のための、請求項1記載の方法。
  4. 虚血症状の発症を診断された患者のための、請求項1記載の方法。
  5. 患者の分泌性PLA2活性が、約1.8nmol/ml/minより高い、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 分泌性PLA2活性を生体試料中で測定する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
  7. 冠動脈障害を有するが心筋梗塞に罹患していない患者の、死亡あるいは心筋梗塞への将来の罹患の増大した危険度の測定を目的とするキットの製造のための、分泌性PLA2活性測定手段の使用であって、ここで将来の罹患とは患者の分泌性PLA2活性測定をした時点から72時間を超える時間後に発症が起こることを意味する、使用。
  8. 分泌性PLA2活性測定手段が分泌性PLA2の基質を含み、その加水分解生成物が直接または間接的に定量することができる、請求項7記載の使用。
  9. 分泌性PLA2の基質が、蛍光性部分または発色性部分を含むリン脂質もしくはリン脂質類縁体である、請求項8記載の使用。
  10. 冠動脈障害を有するが心筋梗塞に罹患していない患者の、死亡あるいは心筋梗塞への将来の罹患の増大した危険度の測定を目的とするキットであって:
    − 分泌性PLA2アッセイ用緩衝剤、
    − 加水分解生成物が直接または間接的に定量可能である分泌性PLA2の基質、
    − 活性が、死亡あるいは心筋梗塞への将来の罹患の増大した可能性を測定するための所定値に対応している、対照の分泌性PLA2試料、
    を含み、
    ここで将来の罹患とは患者の分泌性PLA2活性測定をした時点から72時間を超える時間後に発症が起こることを意味する、キット。
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